説明

加速度用記録計

【課題】地震などによる振動や衝撃を受けたことによって構造物などに生じた最大加速度又はそれに相当する加速度のみを求めることが可能な加速度用記録計を提供する。
【解決手段】振動又は衝撃を受けたことによって生じる最大加速度を記録させるための加速度計1である。そして、加速度の作用によって直線移動する質量部2と、質量部に一端が接続され他端は質量部に対して不動点とされる弦巻ばね3と、質量部に取り付けられるラチェット爪4と、ラチェット爪に噛み合わされて弦巻ばねが収縮する力による移動を阻止するラチェット歯部5とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震や衝撃などによって地面や構造物が振動した際の加速度を記録させるための加速度用記録計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地震によって建物が被害を受けたときに、地震時に建物に発生した最大加速度の大きさからその建物の損傷度を判定する方法が知られている(特許文献1など参照)。
【0003】
この特許文献1には、建物に設置される加速度センサを備えた建物損傷度判定装置が開示されており、この装置によって建物損傷度を判定するに際しては、加速度センサで計測された最大加速度データを使用している。
【0004】
このような加速度センサは、通常、電力会社などの商用電源から供給される電力によって常時作動させるため、加速度センサを設置する場所まで配線をおこなう必要がある。
【0005】
一方、特許文献2,3には、計測に電力を必要としない機械式のひずみ計や変位計が開示されている。すなわち、特許文献2,3では、計測をおこなうために常に電力を必要とする特許文献1に開示されているような計測装置のコストなどの課題を挙げ、安価な機械式のひずみ計などを使って地震により構造物に発生した最大ひずみや最大変形を記録させることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−20056号公報
【特許文献2】特開2008−215961号公報
【特許文献3】特開2002−188968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2,3に開示されている機械式の計測装置は、構造物などに発生した最大のひずみや変位を記録させるためのひずみ計又は変位計であって、構造物などが過去に受けた最大加速度又はそれに相当する加速度を求めることができるものではない。
【0008】
構造物などが受けた加速度を計測し、その最大値を記録するためには、一般には加速度計とデータ収録機器とを用いたモニタリングがおこなわれるが、それは加速度の時刻歴波形まで含めて精密に計測するものであって、大掛りで高価にならざるを得ない。また、このモニタリングは電源を必要とする構成であるため、地震のようにいつ発生するか予測できない事象に備えるためには、常時稼働させておかなければならず、高いランニングコストと頻度の多い維持管理を要する。
【0009】
そこで、本発明は、地震などによる振動や衝撃を受けたことによって構造物などに生じた最大加速度又はそれに相当する加速度のみを、無電源又はわずかな電力で計測して記録することが可能な加速度用記録計を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の加速度用記録計は、振動又は衝撃を受けたことによって生じる最大加速度又はそれに相当する加速度を記録させるための加速度用記録計であって、加速度の作用によって直線移動する質量部と、前記質量部に一端が接続され他端は前記質量部に対して不動点とされるばね部と、前記質量部に取り付けられるラチェット爪と、前記ラチェット爪に噛み合わされて前記ばね部が収縮する力による移動を阻止するラチェット歯部とを備えたことを特徴とする。
【0011】
ここで、前記質量部の移動量又はその移動量から換算される加速度の読み取りを可能とする目盛部を備えた構成とすることができる。また、前記質量部の移動量を電気的に計測する変位計を備えた構成としてもよい。
【0012】
さらに、前記ラチェット歯部は、前記質量部の移動方向に向けて直線状に延設される構成とすることができる。また、前記ラチェット歯部は前記質量部に取り付けられる歯車であって、その歯車と同軸で回転する歯車型ピニオンと、その歯車型ピニオンに噛み合わされる前記質量部の移動方向に向けて直線状に延設されるラックとを備えた構成であってもよい。
【0013】
さらに、前記ラチェット歯部は直線状に延設されて、前記質量部は前記ラチェット歯部を中心に対称形状に成形されるとともに、前記ばね部も前記ラチェット歯部を中心に対称となるように前記質量部に複数、接続される構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0014】
このように構成された本発明の加速度用記録計は、加速度の作用によって移動する質量部の移動量を機械的に記録させる。そして、一旦記録された移動量は、それより小さくなることがなく、その移動量を発生させた加速度よりも大きな加速度が作用したときに限り更新される。
【0015】
このため、商用電源やバッテリーなどの動力源がなくても、構造物が過去に受けた最大加速度又はそれに相当する加速度を求めることができる。また、電力供給のための配線が不要のため、設置場所の自由度が高いうえに、単純な機械式の構成であるため屋外や温度差が激しい厳しい環境においても安定して作動させることができる。
また、質量部の移動量又は移動量から換算される加速度の読み取りを可能とする目盛部を備えていれば、目視によって簡単に最大加速度を把握することができる。さらに、移動量を電気的に計測する変位計を備えていれば、最大移動量を更新毎に記録させることができるうえに、遠隔での記録の収集も可能になる。
【0016】
また、質量部が移動する移動方向に直線状に延設されたラチェット歯部と組み合わせることによって、計測された加速度の方向を正確に把握することができる。
【0017】
さらに、歯車状のラチェット歯部を介在させ、その直径(周長)と歯の間隔を調整することで、記録される加速度の増加ステップ(分解能)を細かく設定することができる。
【0018】
また、ラチェット歯部を中心として対称形に質量部及びばね部を構成することで、質量部の移動に偏りが起き難く、加速度を正確に記録させることができる。特に、ラチェット歯部を鉛直に立てた場合は、上下方向の加速度を正確に記録させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態の加速度用記録計の構成を示した説明図である。
【図2】(a)は加速度用記録計の初期状態を示した図、(b)は振動発生時の加速度用記録計の状態を示した図である。
【図3】入力値となる加速度の波形と加速度用記録計によって記録される最大加速度との関係を説明する図である。
【図4】2方向の最大加速度を記録させるための構成を示した説明図である。
【図5】実施例1の加速度用記録計の構成を示した説明図である。
【図6】実施例2の加速度用記録計の構成を示した説明図である。
【図7】実施例3の加速度用記録計の構成を示すために一部を破断させた斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態で説明する加速度用記録計としての加速度計1の構成を説明する側面図である。
【0021】
この加速度計1は、例えば、ビルや住宅などの建物、橋梁やダムやトンネルなどの土木構造物などの任意の場所に設置され、地震や衝撃などによってそれらの構造物が受けた最大加速度又はそれに相当する加速度を記録するために利用される。
【0022】
ここで、「最大加速度又はそれに相当する加速度」とするのは、本実施の形態の加速度計1によって記録される加速度は段階的な数値指標で表され、必ずしも精密な最大加速度が記録されるわけではなく概略の加速度であるため、前記表現を使用する。なお、本明細書では、「最大加速度又はそれに相当する加速度」を単に「最大加速度」と呼び、加速度計1によって計測される値を「加速度」と呼ぶ場合がある。
【0023】
本実施の形態の加速度計1は、図1に示すように、加速度の作用によって直線移動する質量部2と、質量部2に一端が接続され他端は質量部2に対して不動点とされるばね部としての弦巻ばね3と、質量部2に取り付けられるラチェット爪4と、ラチェット爪4に噛み合わされて弦巻ばね3が収縮する力による移動を阻止するラチェット歯部5と、これらを収容する収容ケース11とを主に備えている。
【0024】
この収容ケース11は、例えば直方体状の中空の箱であり、側面は後述する目盛部6が視認可能なようにガラス板や透明なアクリル板によって塞がれている。この収容ケース11の長手方向が質量部2を直線移動させる移動方向となる。
【0025】
また、質量部2は、所定の質量mに成形された例えば直方体であり、車輪21,21によって滑らかに直線移動できるように構成されている。そして、収容ケース11に収容された質量部2は、収容ケース11の長手方向に往復運動することができる。
【0026】
一方、収容ケース11の底面には、直線状のラチェット歯部5がモノレールのように敷設される。このラチェット歯部5には、上方に突出する直角三角形状の歯形が連続して複数、設けられている。すなわち、ラチェット歯部5の上部には、傾斜面5aと段差面5bとが交互に形成されて歯形になっている。
【0027】
また、両側の車輪21,21に支持された質量部2は、ラチェット歯部5を跨ぐように配置され、ラチェット歯部5に干渉されることなく、ラチェット歯部5の延伸方向に移動することができる。
【0028】
さらに、質量部2には、ラチェット歯部5に噛み合わせることが可能なラチェット爪4が取り付けられる。このラチェット爪4は、例えばラチェット歯部5の傾斜面5aに合うような傾斜面4aと、その傾斜面4aに交差する直立面4bとを有する台形状に成形される。
【0029】
また、ラチェット爪4は、軸41を中心に揺動可能に質量部2に取り付けられる。このラチェット爪4の下を向いた傾斜面4aがラチェット歯部5の上を向いた傾斜面5aに押し当てられる方向に質量部2が移動する場合は、ラチェット爪4が傾斜面5aを迫り上がって上方に傾いて段差面5bを乗り越えていくので、この方向の質量部2の移動が妨げられることはない。
【0030】
これに対してラチェット爪4の直立面4bがラチェット歯部5の段差面5bに押し当てられる方向に質量部2が移動する場合は、ラチェット爪4の直立面4bが段差面5bに当たって押し戻されるので、この方向の質量部2の移動が阻止される。このため、質量部2は一方向(図1では左方向)にしか移動することができない。
【0031】
そして、この質量部2の後端、すなわち移動が阻止される方向の端部と収容ケース11の長手方向の内側端面とが弦巻ばね3で結ばれる。この収容ケース11の内側端面に固定された弦巻ばね3の端部は、移動可能な質量部2に対して不動点となる。
【0032】
また、質量部2の後端に一端が接続された弦巻ばね3は、質量部2の移動によって伸びることはできるが、収縮しようとすると、ラチェット爪4とラチェット歯部5とが噛み合って収縮が阻止される。
【0033】
この質量部2の移動量を目視によって確認できるようにするために、例えばラチェット爪4から上方に向けて指示針61を突出させる。一方、指示針61によって指示可能な収容ケース11の上部には、質量部2の移動範囲に合わせて目盛部6を設ける。
【0034】
この目盛部6は、移動量そのものを示す目盛りであっても、移動量から換算された加速度を示す目盛りであってもよい。また、目盛りの間隔は、ラチェット歯部5の歯の間隔(段差面5b,5b間隔)に一致させる。
【0035】
次に、加速度計1を使った最大加速度の記録方法について、図2を参照しながら説明する。
【0036】
まず、最大加速度を記録したい建物の床などに収容ケース11を固定して、床と収容ケース11とが一体に振動するようにする。そして、図2(a)に示すように、質量部2を弦巻ばね3側に移動させ、指示針61が目盛部6の「0」を指す位置にセットする。この位置での弦巻ばね3は、伸縮のいずれも発生しない安定状態であって、質量部2に弦巻ばね3から作用する力はない。
【0037】
この状態で地震が発生して図2(b)に示すように加速度計1に右向きの加速度aが作用すると、質量部2は加速度aによって生じる左向きの慣性力Fにより車輪21,21を回転させながら左方向に移動する。
【0038】
この質量部2の左方向の移動は、弦巻ばね3の伸びδによる反力に抵抗しながらおこなわれるが、ラチェット歯部5が左方向の移動の支障になることはない。
【0039】
ここで、質量mの質量部2の移動量δ(=弦巻ばねの伸び)と加速度aとの関係は、静的な加速度aであれば、弦巻ばね3のばね定数kを使った力の釣り合い式m×a=k×δから、a=kδ/mと求めることができる。なお、車輪21,21の摩擦抵抗は無視できるほど小さいものとする。
【0040】
しかしながら、地震時に発生する加速度のように動的に加速度が作用する場合は、次の運動方程式が適用されることになる。
【式1】
【0041】

【0042】
この式1に示されるように、左辺の第1項と第2項の影響があるため、静的な加速度が作用する場合のようにa=kδ/mでは正確な値が得られないようにもみえる。しかしながら、予め実験をおこなって質量部2の質量mと弦巻ばね3のばね定数kとを適切に選定することにより、a=kδ/mとしても概略の加速度aを求めることができるようになる。
【0043】
一方、最大加速度の作用によって質量部2が移動した位置が、図2(b)に示すようにラチェット爪4の直立面4bとラチェット歯部5の段差面5bとが離隔した位置であれば、直立面4bと段差面5bとが接触する位置まで弦巻ばね3の復元力によって質量部2は引き戻される。
【0044】
このように加速度計1によって記録される加速度aは、ラチェット歯部5の段差面5bの間隔に合わせた段階的な値になる。図3は、式1の運動方程式を数値解析することによって、本実施の形態の加速度計1の動作をシミュレーションした結果を示した図である。
【0045】
この解析は、質量部2の質量m=40 g(グラム)、弦巻ばね3のばね定数k=20000 dyn/cm、質量部2の振動における減衰定数h=0.05、ラチェット歯部5の段差面5bの間隔を0.2 cm(作用加速度100 Galの分解能に相当)とし、作用加速度a(t)として周期0.4秒の正弦波20波が振幅550 Galまで漸増した後に減衰する波形を入力値にしておこなった。
【0046】
この図3に示すように、作用加速度が増加すると、加速度計1で記録される加速度も段階的に上がっていくことがわかる。例えば、500 Galまでの加速度をラチェット歯部5の段差面5bの間隔によって5段階に区切った場合は、作用加速度の増加に伴って順次、記録される段階が上がっていき、最大加速度550 Galは500 Galに相当する5段目に記録される。
【0047】
そして、一旦、加速度計1に記録されると、記録された段階の上の段階以上に到達する移動量を生じさせる加速度が作用しない限り、質量部2は移動することがない。例えば、図3に示すように、作用加速度は550 Galに到達した後に減衰していくが、ラチェット歯部5の5段目の記録は下がることはない。
【0048】
このため、加速度計1を回収したときに指示針61が指している目盛りが、加速度計1が設置された場所に過去に起きた最大加速度を示していることになる。
【0049】
また、加速度計1を回収して最大加速度を確認した後に、ラチェット爪4をラチェット歯部5から外すことで、再び加速度計1として使用することができる。
【0050】
以上で説明した一個の加速度計1を使用した場合は、一方向(図2(b)では右方向)に作用する最大加速度しか記録することができない。そこで、正負の両方向の最大加速度を記録する場合には、図4に示すように、加速度計1とは反対向きにした加速度計1Aを配置すればよい。
【0051】
例えば、R1方向の最大加速度を記録するために加速度計1を配置し、その加速度計1と直線上に並ぶように反対に向けた加速度計1Aを配置することで、R1方向と正反対のL1方向の最大加速度を記録することができる。
【0052】
また、図示していないが、R1方向に平面上で直交する方向、鉛直方向などの最大加速度を記録する場合は、それらの方向に向けた加速度計1,・・・をそれぞれ設置すればよい。
【0053】
次に、本実施の形態の加速度計1の作用について説明する。
【0054】
このように構成された本実施の形態の加速度計1は、加速度の作用によって移動する質量部2の移動量をラチェット爪4とラチェット歯部5との噛み合わせにより機械的に記録させる。そして、一旦記録された移動量は、それより小さくなることがなく、その移動量を発生させた加速度よりも大きな加速度が作用したときに限り更新される。
【0055】
このため、商用電源に接続させるための配線をしなくても、加速度計1が設置された建物や橋梁などの構造物が過去に受けた最大加速度、又はそれに相当する加速度を求めることができる。
【0056】
例えば、大地震が起きた場合に、建物や橋梁などに設置されていた加速度計1から最大加速度を読み取り、記録された最大加速度を分析することによって、建物に立ち入っても良いかや橋梁が通行可能か否かなどの判断を、迅速におこなうことができる。さらに、地震後の復旧計画を立てるに際しても、記録された最大加速度のデータに基づいて的確な復旧計画を立案することができる。
【0057】
そして、このような分析などをするにあたって、実際に建物が揺すられた加速度を定量的に知ることができれば、気象庁や公的機関が設置している最寄りの地点の地震計から得られたデータを利用するよりも、はるかに正確な分析が可能となる。
【0058】
また、加速度計1は、電力供給のための配線が不要のため、設置場所の自由度が高いうえに、単純な機械式の構成であるため屋外や温度差が激しい厳しい環境においても安定して作動させることができる。さらに、本実施の形態の加速度計1は、単純な構成であるため製造コストを抑えることができる。
【0059】
また、質量部2の移動量又は移動量から換算される加速度の読み取りを可能とする目盛部6を備えていれば、目視によって簡単に最大加速度を把握することができる。
【0060】
さらに、質量部2の質量mと弦巻ばね3のばね定数kを組み合わせて質量部2の移動感度を調整したうえで、ラチェット歯部5の歯の間隔及び目盛部6の目盛りの間隔を調整することで、記録される加速度の分解能を規定することができる。例えば、0g(gは重力加速度)から2gまでの範囲を10段階に分割する間隔にした場合は、0.2gの分解能になる。また、ラチェット歯部5の長さを調整することで、記録可能な加速度の範囲を調整することができる。
【0061】
さらに、質量部2が移動する移動方向に直線状に延設されたラチェット歯部5と組み合わせることによって、質量部2の移動方向を容易に確定することができ、記録された加速度を正確な方向で入力して上述したような分析をおこなうことができる。
【実施例1】
【0062】
以下、この実施例1では、前記した実施の形態とは別の実施の形態について図5を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0063】
前記実施の形態では、目視可能な目盛部6を備えた加速度計1,1Aについて説明したが、実施例1では電気的に移動量を計測する変位計7を備えた加速度用記録計としての加速度計1Bについて説明する。
【0064】
この加速度計1Bは、移動量を計測する変位計7に関わる構成以外は、前記実施の形態で説明した加速度計1と同様の構成となっている。そして、変位計7は、スライド式の端子73と、固定式の端子72とに接続されている。
【0065】
これらの端子72,73は、収容ケース11の上部に質量部2の移動方向に向けて直線状に延設された可変抵抗器71に接続されている。また、スライド式の端子73は、質量部2に固定されており、質量部2の移動に伴ってスライドする。
【0066】
そして、変位計7は、端子72,73間の電気抵抗の変化を変位量(移動量)として計測する。すなわち、加速度計1Bに加速度が作用して質量部2が移動すると、それに伴って端子73がスライドし、端子72,73間の距離が変化することによって端子72,73間の電気抵抗が変化する。この電気抵抗の変化を変位計7が移動量に換算する。
【0067】
また、この変位計7には、図示していないが計測された移動量を記録させる記憶部を備えている。この記憶部には、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)、ハードディスク、光ディスクなどの記憶媒体が使用できる。
【0068】
また、変位計7は、インターネットなどの通信ネットワーク74に接続されており、記憶部に記録された移動量のデータを、逐次、遠隔地に設置された集計装置75に送信させることができる。
【0069】
このように、質量部2の移動量を電気的に計測する変位計7を備えていれば、最大移動量の更新記録をその都度、記録させることができるうえに、遠隔での記録の収集も可能になる。
【0070】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるので説明を省略する。
【実施例2】
【0071】
以下、この実施例2では、前記した実施の形態及び実施例1とは別の実施の形態について図6を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は実施例1で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一用語を使用することで詳細な説明は省略する。
【0072】
実施例2の加速度用記録計としての加速度計81は、加速度の作用によって直線移動する質量部82と、質量部82に一端が接続され他端は質量部82に対して不動点とされるばね部としての弦巻ばね83と、質量部82の側面に取り付けられるラチェット爪84と、ラチェット爪84に噛み合わされるラチェット歯部としてのラチェット歯車85と、これらを収容する直方体箱型の収容ケース811とを主に備えている。
【0073】
この質量部82には、前記実施の形態で説明した質量部2の車輪21,21に代えて、側面に歯車型ピニオン821,822が回転自在に取り付けられている。
【0074】
この歯車型ピニオン821,822は、収容ケース811の長手方向に向けて直線状のレールのように架け渡されたラック823の歯824に噛み合わされる。このため、質量部82は、歯車型ピニオン821が逆回転しない限り、弦巻ばね3の復元力によって引き戻されることがない。
【0075】
そして、前方の歯車型ピニオン821と同じ軸851に、ラチェット歯車85が取り付けられる。すなわち、歯車型ピニオン821が一回転すると、同軸のラチェット歯車85も一回転する。
【0076】
このラチェット歯車85が図6のS方向に回転する際には、軸841によって揺動可能に質量部82の側面に取り付けられたラチェット爪84が持ち上げられて、自由に回転することができる。
【0077】
これに対して、S方向と逆方向にラチェット歯車85が回転しようとすると、ラチェット爪84によって回転が阻止される。すなわち、弦巻ばね83が伸びる方向に質量部82が移動する場合はラチェット歯車85がS方向の回転となるため移動が制限されず、弦巻ばね83が収縮する方向に質量部82が移動する場合はラチェット歯車85がS方向とは逆方向の回転になるため質量部82の移動が阻止される。
【0078】
また、この質量部82の移動量が目視によって確認できるようにするために、例えば質量部82の後端から上方に向けて指示針861を突出させる。一方、指示針861によって指示可能な収容ケース811の上部には、質量部82の移動範囲に合わせて目盛部86を設ける。
【0079】
この目盛部86は、移動量そのものを示す目盛りであっても、移動量から換算された加速度を示す目盛りであってもよい。また、目盛りの間隔は、ラチェット歯車85の歯の間隔に合わせて設定される。
【0080】
このように構成された加速度計81は、ラチェット歯車85を介在させ、その直径(周長)と歯の間隔を調整することで、記録される加速度の増加ステップ(分解能)を細かく設定することができる。
【0081】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は実施例1と略同様であるので説明を省略する。
【実施例3】
【0082】
以下、この実施例3では、前記した実施の形態及び実施例1,2とは別の実施の形態について図7を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は実施例1,2で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一用語を使用することで詳細な説明は省略する。
【0083】
図7は、実施例3の加速度用記録計としての加速度計91の上部を切断して斜め上から見た斜視図である。この加速度計91は、直方体状の箱型の収容ケース911に収容される。
【0084】
また、収容ケース911の略中央には、両側面に歯形951,951が形成された四角柱状のラチェット歯部95が鉛直に立てられる。そして、このラチェット歯部95を囲繞する形状に質量部92が成形される。
【0085】
この質量部92は、ラチェット歯部95を中心に対称形状に成形される。さらに詳細に説明すると、質量部92は、外形が直方体に成形されるとともに、略中央に直方体状の貫通孔921が穿孔される。この貫通孔921は、平面視でラチェット歯部95の断面より僅かに大きな四角形に形成されている。すなわち、質量部92は、ラチェット歯部95の長手方向(この実施例3では上下方向)の加速度の作用によってラチェット歯部95に沿って直線移動することができる。
【0086】
また、質量部92には、ラチェット歯部95の両側の歯形951,951にそれぞれ噛み合わされるラチェット爪94,94がそれぞれ取り付けられている。
【0087】
そして、ラチェット爪94,94が設けられた側の質量部92の外側面には、ラチェット歯部95の長手方向(質量部92の移動方向)と略直交する方向に延設されたばね部としての板ばね93,93の一端が接続される。この一対の板ばね93,93は、ラチェット歯部95を中心に対称となる位置にそれぞれ接続される。
【0088】
また、板ばね93,93の他端は、収容ケース911の内側面に固定されて不動点となっている。すなわち、質量部92は、それを挟んだ両側に取り付けられた板ばね93,93によって中空に支持されている。
【0089】
そして、上方向の加速度aの作用によって質量部92が水平状態のまま下方向に移動すると、板ばね93,93が撓んで上方向の復元力が作用することになる。しかしながら、ラチェット爪94,94が歯形951,951に噛み合うことで、質量部92の上方向への移動は阻止される。
【0090】
このように構成された実施例3の加速度計91は、質量部92及び板ばね93,93がラチェット歯部95を中心として対称形になっているので、質量部92の移動の際に偏りが起き難く水平状態を維持したまま移動させることができるため、加速度が正確に記録される。
【0091】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【0092】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態又は実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0093】
例えば、前記実施の形態又は実施例1では、直方体に成形された質量部2を使って説明したが、これに限定されるものではなく、例えばラチェット歯部5を跨ぐような断面視門形形状の質量部であってもよい。
【0094】
また、前記実施例2では、ラチェット歯車85及び歯車型ピニオン821,822を質量部82の側面に取り付けたが、これに限定されるものではなく、質量部82の下面に溝を形成してその中に収容させることもできる。
【符号の説明】
【0095】
1,1A 加速度計(加速度用記録計)
2 質量部
3 弦巻ばね(ばね部)
4 ラチェット爪
5 ラチェット歯部
6 目盛部
1B 加速度計(加速度用記録計)
7 変位計
71 可変抵抗器
81 加速度計(加速度用記録計)
82 質量部
821 歯車型ピニオン
823 ラック
83 弦巻ばね(ばね部)
84 ラチェット爪
85 ラチェット歯車
851 軸
86 目盛部
91 加速度計(加速度用記録計)
92 質量部
921 貫通孔
93 板ばね(ばね部)
94 ラチェット爪
95 ラチェット歯部
951 歯形
a 加速度
δ 移動量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動又は衝撃を受けたことによって生じる最大加速度又はそれに相当する加速度を記録させるための加速度用記録計であって、
加速度の作用によって直線移動する質量部と、
前記質量部に一端が接続され他端は前記質量部に対して不動点とされるばね部と、
前記質量部に取り付けられるラチェット爪と、
前記ラチェット爪に噛み合わされて前記ばね部が収縮する力による移動を阻止するラチェット歯部とを備えたことを特徴とする加速度用記録計。
【請求項2】
前記質量部の移動量又はその移動量から換算される加速度の読み取りを可能とする目盛部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の加速度用記録計。
【請求項3】
前記質量部の移動量を電気的に計測する変位計を備えていることを特徴とする請求項1に記載の加速度用記録計。
【請求項4】
前記ラチェット歯部は、前記質量部の移動方向に向けて直線状に延設されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の加速度用記録計。
【請求項5】
前記ラチェット歯部は前記質量部に取り付けられる歯車であって、その歯車と同軸で回転する歯車型ピニオンと、その歯車型ピニオンに噛み合わされる前記質量部の移動方向に向けて直線状に延設されるラックとを備えたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の加速度用記録計。
【請求項6】
前記ラチェット歯部は直線状に延設されて、前記質量部は前記ラチェット歯部を中心に対称形状に成形されるとともに、前記ばね部も前記ラチェット歯部を中心に対称となるように前記質量部に複数、接続されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の加速度用記録計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−198056(P2012−198056A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61072(P2011−61072)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)