加速試験における有為差判断の必要寿命差見積もり方法および装置
【課題】 加速試験で得られた2つのロット間で有為差有りと判断するために必要な寿命差を、簡単かつ迅速に試算することができ、かつ信頼性の高いものとでき、熟練者でなくても必要な寿命差を試算することのできる方法を提供する。
【解決手段】 あるワイブル分布から水準1のロットの試験個数分の乱数を発生させる(L21)。同じワイブル分布から水準2のロットの試験個数分の乱数を発生させる(L22)。その発生させた乱数から求まる寿命を演算して1組の寿命比を算出する(L23)。この処理を設定回数繰り返して設定回数の組数の寿命比を求め、この寿命比の確率分布と累積確率分布を作成する(L24)。上記累積確率分布から設定信頼幅内の最大および最小の寿命比を読み取り(L25)、必要寿命差として出力する(L26)。
【解決手段】 あるワイブル分布から水準1のロットの試験個数分の乱数を発生させる(L21)。同じワイブル分布から水準2のロットの試験個数分の乱数を発生させる(L22)。その発生させた乱数から求まる寿命を演算して1組の寿命比を算出する(L23)。この処理を設定回数繰り返して設定回数の組数の寿命比を求め、この寿命比の確率分布と累積確率分布を作成する(L24)。上記累積確率分布から設定信頼幅内の最大および最小の寿命比を読み取り(L25)、必要寿命差として出力する(L26)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受等の機械部品または試験片からなる試験対象品を使用環境よりも厳しい所定の環境条件におき、破損が発生した時間から寿命を算出する加速試験において、試験対象品の2つのロット間で有為差有りと判断するために必要な寿命差を、乱数シミュレーションで見積もる方法、装置、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
寿命試験は、軸受等の機械部品の性能を評価するために欠かせない試験の1つである。寿命試験には、大きく分けて(1) 実機の使用環境に近い条件で試験を行う実機試験と、(2) 比較的過酷な条件で寿命試験を行う加速試験がある。前者は、製品が有限時間内に破損するケースが極めて少ないため、ある目標時間まで破損することなく試験が継続すれば、寿命は問題ないと判断する試験である(以下、このような試験を「打切り試験」と呼ぶ)。一方、後者は、比較的短時間で破損が発生するので、ワイブルプロットで寿命が算出でき(例えば非特許文献1)、その算出寿命から性能の優劣を判定する試験である(以下、このような試験を「加速試験」と呼ぶ)。
【0003】
従来より、寿命試験は経験を積んだ熟練者が行っており、試験条件や試験個数を決める寿命試験の設計と寿命試験結果の解釈に対して経験的に確からしい判断ができたと考えられる。
図13に、従来から行われてきた寿命試験の設計と寿命試験結果の解釈の手順を、打切り試験と加速試験ごとに示す。
また、現在、寿命試験において経験的に判断されているものの詳細を、表1に示す。
【0004】
【表1】
【0005】
なお、ワイブル分布を機械部品の寿命判断に用いるものは、種々の特許文献,非特許文献に提案されている。
【特許文献1】特開2006−040203号公報
【特許文献2】特開2002−277382号公報
【特許文献3】特開2005−226829号公報
【非特許文献1】真壁肇著、信頼性工学入門79、1991年発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
加速試験は、上記のように破損時間から寿命を算出し、その算出寿命から性能の優劣を判定する試験であるが、2ロットの寿命試験結果から求めた算出寿命の間に、本当に有為差があるかどうかを確かめたい状況が多くある。
従来より、算出寿命の有為差判定は信頼幅という概念を使って行われてきた。しかし、この判定方法には、次のようにいくつかの問題がある。
【0007】
まず、信頼幅は、2水準間での寿命の有意差を判断できないという問題がある。その理由は、どの程度信頼幅が重なっていたら寿命に優位差があるのかということを定量的に判断できないためである。信頼幅を使って2水準間での寿命の有意差を判定する場合、次のような手順が必要になる。以下、その手順を図14を使って説明する。
1) L10寿命におけるメディアンランクの信頼水準の分布(図中Aの分布)を求める。ここで、この分布はF値表とファイサー(Fisher)の近似式を用いて求める。
2) L10寿命におけるメディアンランクの信頼水準の分布とワイブルスロープからL10のばらつき頻度の分布(図中Bの分布)を求める。
3) このばらつき分布f(x)を使って、図中の式の積分を取り、寿命倍率nが同じ寿命分布から発生する頻度を調べる。これは寿命比のばらつき分布である。
4) 3)の分布の累積確率分布を作成し、そのグラフから90%以上の確率で有意差有と判定できる寿命倍率を計算する。
【0008】
上のような手順で、従来の信頼幅を使って寿命の有意差検定や設計が可能になる。しかし、このような手順は複雑であり、実用化が難しい。このため、信頼幅を使った寿命の有意差検定が今まで行われてこなかったのは当然であるといえる。
【0009】
レオナード・ジー・ジョンソン(LEONARD G. JOHNSON)は、ワイブルスロープごと、試験個数ごとに、2水準間の平均寿命とL10 寿命の有意差を判定する方法を提案している)。しかし、その方法も、実際には使われていないのが現状である。これは、手軽な形で優位差検定を行うツールを残していないことに原因がある。
【0010】
この発明の目的は、2つのロット間で有為差有りと判断するために必要な寿命差を、簡単かつ迅速に試算することができ、かつ定量的に求められて信頼性の高いものとでき、熟練者でなくても必要な寿命差を試算することのできる方法、装置、およびその方法の実施のためのコンピュータプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の加速試験における有為差判断の必要寿命差見積もり方法は、軸受等の機械部品または試験片からなる試験対象品を使用環境よりも厳しい所定の環境条件におき、破損が発生した時間から寿命を算出する加速試験において、試験対象品の2つのロット間で有為差有りと判断するために必要な寿命差を、倍率で示される値で見積もる方法であって、 コンピュータに対し、入力情報として、試験対象品の持つワイブル分布のワイブルスロープの値、並びに比較する水準1および水準2の2つのロットの各試験個数を入力する過程(K1)と、
上記コンピュータに、上記必要な寿命差を演算させ演算結果を表示装置の画面に表示させるコンピュータ演算処理過程(K2)とを含む。
上記寿命は、例えばL10寿命(90%の信頼度の寿命)や、L50寿命(50%の信頼度の寿命)等の所定信頼度の寿命ある。
【0012】
上記コンピュータ演算処理過程(K2)として、
試験対象品の上記入力情報のワイブルスロープの値および仮に定めた寿命から定まるワイブル分布に従った乱数を水準1のロットの試験個数分発生させる第1乱数発生手順(L21)と、
第1乱数発生手順(L21)と同じワイブル分布に従った乱数を水準2のロットの試験個数分発生させる第2乱数発生手順(L22)と、
第1乱数発生手順(L21)で発生させた設定個数の乱数から所定の寿命計算方法で求まる寿命と第2乱数発生手順(L22)で発生させた設定個数の乱数から上記所定の寿命計算方法で求まる寿命とから、1組の(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)となる寿命比を算出する寿命比算出手順(L23)と、
これら第1乱数発生手順(L21),第2乱数発生手順(L22),および寿命比算出手順(L23)を設定回数繰り返し、上記設定回数の組数の寿命比を求め、この寿命比の確率分布と累積確率分布を作成する累積確率分布作成手順(L24)と、
上記累積確率分布から設定信頼幅内の最大および最小の寿命比を読み取り、最小の寿命比は逆数で表して、それぞれ、
(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
(第1水準の寿命)/(第2水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
として定める必要寿命差読み取り手順(L25)と、
この読み取った必要寿命差を表示装置に出力させる必要寿命差出力手順(L26)と、を含む。
【0013】
上記第1,第2乱数発生手順(L21,L22)において、乱数発生に用いるワイブル分布を特定するための寿命は、適宜想定した寿命または実績値を設定すれば良い。
また、寿命比算出手順(L23)において、乱数発生手順(L21,L22)で発生させた試験個数の乱数から寿命を求める所定の寿命計算方法は、加速試験において従来から用いられている中の適宜の寿命計算方法を用いれば良い。加速試験においては、破損の発生した時間からワイブルプロットで寿命を求めることが行われており、このような破損時間から寿命を求める計算方法を、上記寿命比算出手順(L23)における寿命計算方法として用いる。
ワイブル分布は、次式、
【0014】
【数1】
【0015】
ただし、m:ワイブルスロープ、α:尺度因子、γ:最小寿命、
によって特定される。
【0016】
軸受等の機械部品の寿命は、ワイブル分布に従うとされている。ワイブル分布は、ワイブルスロープm、尺度因子α、最小寿命γの3つのパラメータを持っており、ワイブルスロープmによって指数分布、対数正規分布、正規分布を表現できる万能分布として知られている。量産される軸受等では、ワイブルスロープは実績値が既知である場合が多く、この発明方法において、ワイブルスロープには、試験対象品の実績値を用いることが好ましい。実績値がない場合は、適宜の方法で見積もったワイブルスロープを用いてもよい。最小寿命γは、種々の規格、例えばISO等によって計算方法が定められており、そのように定められたいずれかの計算方法を用いることが好ましい。尺度因子αは、ワイブルスロープの値、要求寿命の信頼度、要求寿命の値、および上記最小寿命γから一義的に決定される演算式があり、その演算式を用いて特定しても良い。
【0017】
この方法において、累積分布作成手順(L24)で行う処理は、同じ寿命分布を持つロットから験個数分の試験対象品を2組抜きとり、寿命試験を行った結果、どの程度の寿命差が出るのかを設定回数確認することに対応している。同じ寿命分布を持つロットから試験対象品を抜きとった試験においても、寿命はばらついてる。その寿命比のばらつきを累積確率分布の適宜の信頼区間、例えば5%と95%の区間(90%信頼区間)として定義すると、その寿命ばらつきは、上記累積確率分布から算出できる。この結果は、同じ寿命分布を持つロットから試験個数の試験対象品を2組抜きとって寿命比較を行っても、90%のものは、累積確率分布に示された信頼区間の範囲で寿命比がばらついてしまうことを示している。
逆にいうと上記信頼区間の最大の寿命差があれば、そのロット間の寿命分布が異なっている可能性が高いということになるので、2ロットの比較試験で有為差を判断できる寿命差は、上記信頼区間の最大の寿命差であるといえる。これは、水準1のロットを基準とした場合、つまり(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)の場合の必要な寿命差である。水準2を基準とした寿命差、すなわち(第1水準の寿命)/(第2水準の寿命)についての必要な寿命差は、上記累積確率分布に示された信頼区間の最小の寿命差の逆数が、有為差を判断できる寿命差となる。
【0018】
この発明方法は、このようにワイブル分布に基づく乱数シミュレーションにより必要寿命差を求めるため、必要寿命差を、簡単かつ迅速に試算することができ、かつ定量的に求められて信頼性の高いものとでき、熟練者でなくても必要寿命差を試算することができる。また、この乱数シミュレーションに用いるプログラムは、条件入力を行えば勝手に優位差検定を行ってくれる手軽なツールであることが優れた点である。
【0019】
この発明の加速試験における有為差判断の必要寿命差見積もり装置は、軸受等の機械部品または試験片からなる試験対象品を使用環境よりも厳しい所定の環境条件におき、破損が発生した時間から寿命を算出する加速試験において、試験対象品の2つのロット間で有為差有りと判断するために必要な寿命差を、倍率で示される値で見積もる装置であって、 演算処理装置(1)と、この演算処理装置(1)の出力を画面に表示する表示装置(2)と、上記演算処理装置(1)に入力を行う入力手段(3)とを備える。
【0020】
上記演算処理装置(1)は、
上記表示装置(2)の画面に、入力情報として、試験対象品の持つワイブル分布のワイブルスロープの値、並びに比較する水準1および水準2の2つのロットの各試験個数の入力を促す表示を行わせる促し画面出力手段(7K)と、
実行命令に応答して必要な寿命差を演算しその演算結果を上記表示装置(2)の画面に出力する必要寿命差演算手段(42)とを備える。
【0021】
この必要寿命差演算手段(42)は、次の構成の第1乱数発生手段(43)、第2乱数発生手段(44)、寿命比算出手段(45)、累積確率分布作成手段(46)、必要寿命差読み取り手段(47)、および必要寿命差出力手段(48)を備える。
【0022】
第1乱数発生手段(42)は、試験対象品の上記入力情報のワイブルスロープの値および仮に定めた寿命から定まるワイブル分布に従った乱数を水準1のロットの試験個数分発生させる手段である。
第2乱数発生手段(44)は、第1乱数発生手段(43)と同じワイブル分布に従った乱数を水準2のロットの試験個数分発生させる手段である。
寿命比算出手段(45)は、第1乱数発生手段(43)で発生させた設定個数の乱数から所定の寿命計算方法で求まる寿命と第2乱数発生手段(44)で発生させた設定個数の乱数から上記所定の寿命計算方法で求まる寿命とから、1組の(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)となる寿命比を算出する手段である。
【0023】
累積確率分布作成手段(46)は、これら第1乱数発生手段(43),第2乱数発生手段(44),および寿命比算出手段(45)の処理を設定回数繰り返し、上記設定回数の組数の寿命比を求め、この寿命比の確率分布と累積確率分布を作成する手段である。
【0024】
必要寿命差読み取り手段(47)は、上記累積確率分布から設定信頼幅内の最大および最小の寿命比を読み取り、最小の寿命比は逆数で表して、それぞれ、
(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
(第1水準の寿命)/(第2水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
として定める手段である。
必要寿命差出力手段(48)は、この読み取った必要寿命差を表示装置(2)に出力させる手段である。
【0025】
この構成の必要寿命差見積もり装置によると、この発明の必要寿命差見積もり方法を実施して、必要寿命差を、簡単、迅速求めることができ、かつ定量的に求められて信頼性の高いものとでき、熟練者でなくても有為差判断に必要な寿命差を適切に求めることができる。
【0026】
この発明の加速試験における有為差判断の必要寿命差見積もりプログラム(41)は、コンピュータで実行可能なプログラムであって、
上記表示装置の画面に、入力情報として、試験対象品の持つワイブル分布のワイブルスロープの値、並びに比較する水準1および水準2の2つのロットの各試験個数の入力を促す表示を行わせる促し画面出力手順(L1)と、
実行命令に応答して必要な寿命差を演算し上記表示装置の画面に表示させる必要寿命差演算手順(L2)とを含む。
【0027】
上記必要寿命差演算手順(L2)は、
試験対象品の上記入力情報のワイブルスロープの値および仮に定めた寿命から定まるワイブル分布に従った乱数を水準1のロットの試験個数分発生させる第1乱数発生手順(L21)と、
第1乱数発生手順と同じワイブル分布に従った乱数を水準2のロットの試験個数分発生させる第2乱数発生手順(L22)と、
第1乱数発生手順(L21)で発生させた設定個数の乱数から所定の寿命計算方法で求まる寿命と第2乱数発生手順(L22)で発生させた設定個数の乱数から上記所定の寿命計算方法で求まる寿命とから、1組の(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)となる寿命比を算出する寿命比算出手順(L23)と、
これら第1乱数発生手順(L21),第2乱数発生手順(L22),および寿命比算出手順(L23)を設定回数繰り返し、上記設定回数の組数の寿命比を求め、この寿命比の確率分布と累積確率分布を作成する累積確率分布作成手順(L24)と、
上記累積確率分布から設定信頼幅内の最大および最小の寿命比を読み取り、最小の寿命比は逆数で表して、それぞれ、
(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
(第1水準の寿命)/(第2水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
として定める必要寿命差読み取り手順(L25) と、
この読み取った必要寿命差を表示装置に出力させる必要寿命差出力手順(L26)と、を含む。
【0028】
この構成の加速試験における有為差判断の必要寿命差見積もりプログラムは、この発明の必要寿命差見積もり方法の実施に使用され、必要寿命差を、簡単、迅速求めることができ、かつ定量的に求められて信頼性の高いものとでき、熟練者でなくても有為差判断に必要な寿命差を適切に求めることができる。
【発明の効果】
【0029】
この発明の加速試験における必要試験個数見積もり方法、装置、およびプログラムによると、コンピュータシミュレーションにより、試験対象品のワイブル分布から乱数を発生させ、同じワイブル分布から乱数を発生させ、その発生させた乱数から求まる寿命を演算して1組の寿命比を算出し、この処理を設定回数繰り返して設定回数の組数の寿命比を求め、この寿命比の確率分布と累積確率分布を作成し、上記累積確率分布から設定信頼幅内の最大および最小の寿命比を読み取り、必要寿命差として出力するため、有為差判断に必要な寿命差を、簡単かつ迅速に求めることができ、かつ定量的に求められて信頼性の高いものとでき、熟練者でなくても必要寿命差を求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
この発明の実施形態を説明する。この加速試験における有為差判断の必要寿命差見積もり方法は、軸受等の機械部品または試験片からなる試験対象品を使用環境よりも厳しい所定の環境条件におき、破損が発生した時間から寿命を算出する加速試験において、試験対象品の2つのロット間で有為差有りと判断するために必要な寿命差を、倍率で示される値で見積もる方法である。
【0031】
以下、この実施形態を図面と共に説明する。この有為差判断の必要寿命差見積もり方法は、図1に示すコンピュータ1に、乱数シミュレーションプログラムである有為差判断の必要寿命差見積もりプログラム41を実行させることで行う。コンピュータ1はパーソナルコンピュータ等からなり、中央処理装置4およびメモリ5を有し、所定のオペレーションシステムによって動作するものである。コンピュータ1には、液晶表示装置等の画面によって表示可能な表示装置2と、キーボードやマウス等の入力装置3が接続され、あるいは付属して設けられている。コンピュータ1、表示装置2、入力装置3、および必要寿命差見積もりプログラム41により、図2に各機能達成手段をブロックで示した必要試験個数見積もり装置が構成される。同図の必要試験個数見積もり装置の構成については、後に説明する。
必要寿命差見積もりプログラム41は、図4および図5に流れ図で示す手順を備えるものである。同図の内容は、後に説明する。
【0032】
この必要寿命差見積もり方法は、図2に示すように、コンピュータ1に対して所定の情報を入力する入力過程K1と、コンピュータ1で演算処理を行って演算結果を出力するコンピュータ演算処理過程K2とからなる。
【0033】
入力過程K1では、図6に示すように所定の入力情報の入力を促す入力画面2aが、コンピュータ1の出力によって表示装置2に表示される。この画面では、入力情報として、試験対象品の持つワイブル分布のワイブルスロープの値、並びに比較する水準1および水準2の2つのロットの各試験個数n1,n2の入力を促す表示を行われ、これらの情報を入力する。ワイブルスロープの値には、試験の実績値を入力することが好ましい。実績値は10個以上の試験で得た結果を用いることが望ましく、より好ましくは20個以上の試験結果である。また、試験個数は試験対象品の数や試験機の台数で制限される場合が多いが、より多くの試験対象品を用意することが望ましく、実際に行う試験個数を入力する。以上の点に注意して、所定の条件を入力し、入力画面2aのOKボタンを押すと計算が開始される。
【0034】
図3のコンピュータ演算処理過程L2では、入力されたワイブルスロープの値、および2つのロットの各試験個数n1,n2から、有為差有りと判断するために必要となる寿命差を演算し、演算が終了すると、図7のように2水準間に必要な寿命差を表示する。
【0035】
図1の必要寿命差見積もりプログラム41は、コンピュータ1で実行可能なプログラムであって、図4,図5に流れ図で示す手順を備える。図4に示すように、必要寿命差見積もりプログラム41は、促し画面出力手順L1と必要寿命差演算手順L2とでなり、促し画面出力手順L1では、図6と共に前述した入力画面2aを出力する。この入力画面2aに対して、上記各入力情報が入力手段3から入力され、かつ入力画面2aのOKキーのクリック等によって実行命令が入力手段3から入力されると、必要寿命差演算手順L2が実行される。同図の入力画面2aに対して入力する過程が、図3の入力過程K1であり、同図のコンピュータ演算処理過程K2は図4の必要寿命差演算手順K2を実行する過程である。
【0036】
必要寿命差演算手順L2は、図5に流れ図で示す各手順で構成される。この流れ図には各手順L21〜L26毎の具体的な処理例を注釈として併記してある。
理解の容易のため、具体的数値を上げ、同図の具体的処理例を参照して、各手順L21〜L26を説明する。
【0037】
今、あるL10寿命を持つワイブル分布(図8(A)で、ワイブルスロープは4としている)である加速試験で、2ロットの試験を行うとする。1ロット目(水準1)の試験個数n1が3個で、2ロット目(水準2)の試験個数n2も3個であるとする。
まず、そのワイブル分布に従って1ロット目の試験個数n1である3個の乱数を発生させ、その3個のデータからL10寿命とL50寿命を算出する(L21)。算出方法は、従来の加速試験の結果からの寿命算出に用いられている適宜の方法を使用する。なお、L10寿命だけ、またはL50寿命だけを演算しても良いが、この実施形態では、L10寿命とL50寿命のそれぞれについて必要寿命差を計算するために、L10寿命とL50寿命の両方を算出している。
次に、同じL10寿命を持つワイブル分布から、第2ロット目の試験個数n2である3個の乱数を3個発生させ、その3個のデータからL10寿命とL50寿命を上記と同じ方法で算出する(L22)。
【0038】
次に、得られた1組のL10寿命とL50寿命の寿命比をそれぞれ算出する。すなわちL10寿命同士の寿命比、およびL50寿命同士の寿命比を算出する(L23)。
【0039】
次に、これらの作業を設定回数(例えば1000回)繰り返し、設定回数組(1000組)のL10およびL50寿命の寿命比の確率分布(図8(B)と累積確率分布(図8(C)を作成する(L24)。
これらは、同じ寿命分布を持つロットから3個の試験片を2組抜きとり、寿命試験を行った結果、どの程度の寿命差が出るのかを設定回数(1000回)確認することに対応している。
【0040】
度数分布の図(図8(B))から、同じ寿命分布を持つロットから試験片を抜きとって試験を行ったにもかかわらず、寿命はばらついていることが分かる。その寿命比のばらつきを、所定信頼度区間、例えば累積確率分布の5%と95%の区間(90%信頼区間)として定義すると、その寿命ばらつきは、図8(C)に示したように0.39〜2.57倍であると算出できる。
この結果は、同じ寿命分布を持つロットから3個の試験片を2組抜きとって寿命比較を行っても、90%のものは0.39〜2.57倍の間で寿命比がばらついてしまうことを示している。逆にいうと、ばらつき内の最大値である2.57倍以上の寿命差があれば、そのロット間の寿命分布が異なっている可能性が高いということになるので、2ロットの比較試験で試験個数がそれぞれ3個の場合、有為差を判断できる寿命差は2.57倍以上であるといえる。
【0041】
そこで、上記累積確率分布から設定信頼幅内の最大および最小の寿命比を読み取り、最小の寿命比は逆数で表して、それぞれ、
(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
(第1水準の寿命)/(第2水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
として定める(L25)。
上記の具体例では、(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)の場合の必要寿命差は、2.57倍である。(第1水準の寿命)/(第2水準の寿命)の場合の必要寿命差は、2.57倍(1/0.39=2.57)である。
【0042】
この結果から考え、実際の試験として、ワイブルスロープ4である加速試験で、2ロットの試験を行い、1ロット目が試験個数3個でL10寿命が100時間、2ロット目も試験個数3個でL10寿命が150時間という結果が得られた状況を想定する。この場合の寿命比は、150/100=1.5である。この状況では、上記シミュレーションの結果である必要寿命差2.57倍を満たしておらず、有為差があるとは言えない。
【0043】
図4,図5に示した必要寿命差見積もりプログラム41についての上記の説明は、具体的に数値を例にとって説明したが、この必要寿命差見積もりプログラム41は、整理すると、次の手順により構成される。
【0044】
この実施形態の加速試験における有為差判断の必要寿命差見積もりプログラム41は、コンピュータで実行可能なプログラムであって、
上記表示装置の画面に、入力情報として、試験対象品の持つワイブル分布のワイブルスロープの値、並びに比較する水準1および水準2の2つのロットの各試験個数の入力を促す表示を行わせる促し画面出力手順(L1)と、
実行命令に応答して必要な寿命差を演算し上記表示装置の画面に表示させる必要寿命差演算手順(L2)とを含む。
【0045】
上記必要寿命差演算手順(L2)は、
試験対象品の上記入力情報のワイブルスロープの値および仮に定めた寿命から定まるワイブル分布に従った乱数を水準1のロットの試験個数分発生させる第1乱数発生手順(L21)と、
第1乱数発生手順と同じワイブル分布に従った乱数を水準2のロットの試験個数分発生させる第2乱数発生手順(L22)と、
第1乱数発生手順(L21)で発生させた設定個数の乱数から所定の寿命計算方法で求まる寿命と第2乱数発生手順(L22)で発生させた設定個数の乱数から上記所定の寿命計算方法で求まる寿命とから、1組の(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)となる寿命比を算出する寿命比算出手順(L23)と、
これら第1乱数発生手順(L21),第2乱数発生手順(L22),および寿命比算出手順(L23)を設定回数繰り返し、上記設定回数の組数の寿命比を求め、この寿命比の確率分布と累積確率分布を作成する累積確率分布作成手順(L24)と、
上記累積確率分布から設定信頼幅内の最大および最小の寿命比を読み取り、最小の寿命比は逆数で表して、それぞれ、
(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
(第1水準の寿命)/(第2水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
として定める必要寿命差読み取り手順(L25) と、
この読み取った必要寿命差を表示装置に出力させる必要寿命差出力手順(L26)と、を含む。
【0046】
累積確率分布作成手順(L24)は、手順L21〜L23を設定回数繰り返させる手順L241と、その繰り返し過程で得て記憶したおいた寿命比から確率分布および累積確率分布を演算する手順L242とでなる。
【0047】
各乱数発生手順(L21,L22)の詳細について説明する。これらの手順L21,L22は、ワイブル分布を特定し、その特定したワイブル分布に従ってワイブル乱数を発生させる。
一般に軸受の寿命分布は次式1)のワイブル分布に従うと言われている。
【0048】
【数2】
【0049】
ただし、m:ワイブルスロープ、α:尺度因子、γ:最小寿命、
ワイブル分布は、3つのパラメータを持っており、ワイブルスロープmによって指数分布、対数正規分布、正規分布を表現できる万能分布として知られている。参考として、図9に各種パラメータを変化させた時のワイブル分布の変化を示す。ワイブルスロープmは、分布の形状を支配するパラメータであり、この値が小さいほどばらつきの大きい分布ということができる。尺度因子αは、横軸(寿命)のスケールを変化させるもので、この値が大きいほど寿命は相対的に長くなる。最小寿命γは、寿命分布の横軸(寿命)を単にシフトさせるものである。
【0050】
この実施形態では、ワイブル乱数を発生させるが、この乱数を発生させるためにはワイブル分布の3つのパラメータを決定する必要がある。決め方の手順は、例えば以下のようになる。
1) ワイブルスロープmを実績から決定する。
2) 乱数を発生させたい分布の信頼度(例えばL10寿命であるか、あるいはL50寿 命であるか)を決定する。
3) 信頼度から求めたワイブルスロープmから、最小寿命γを所定の数式を使って決定 する。例えば、L10寿命またはL50寿命から求めた尺度因子αから、
最小寿命γを、例えば、以下の2)式を使って決定する。
この式は、1990年制定のISOの最小寿命であり、実験値からの回帰式である。
【0051】
【数3】
【0052】
これは、R≦10の値で、R=0(L10寿命でのa1)のとき、この式は1になるという式である。過去のISOの最少寿命考慮の式では、L10寿命以下の寿命は、この式にL10寿命を書けた値ということで定義されている。Rは信頼度に対応する値(100−Rが信頼度となる値)である。
なお、最小寿命の定め方については、各種の規格(例えばISO)において、時代と共に変更される場合があるが、規格の変更に伴い、実施時の規格に応じた定め方を採用すれば良い。また、最小寿命は、材料試験条件によっても変化するのでより一般的な式で記述するほうが良いとの主張もあり、適宜の値を用いれば良い。
【0053】
ワイブル乱数の発生につき説明する。乱数とは、定性的にはでたらめな数列であって、発生頻度が均一(等確率)で、その発生に規則性がない(無規則性)というものであるが、完全な乱数を発生させることは不可能である。そこで、コンピュータで発生させることのできる疑似乱数を使う。簡易な乱数発生アルゴリズムでは、例えば10進法で20桁ぐらいの周期性が見られるが、周期性が6千桁以上の周期性となるものもあり、このような周期性の少ない乱数発生アルゴリズムを用いることが好ましい。
【0054】
この実施形態では、一様な乱数ではなく、ワイブル分布に従った乱数であるワイブル乱数を発生させる。このため発生方法には工夫が必要になる。確率密度関数が複雑な場合、その分布に従う乱数を発生するには棄却法と呼ばれる方法を用いればよく、この実施形態においても、棄却法を用いる。
確率密度関数f(x)の変域が図10のように、0からX0 の範囲にあるとみなされるものとし、その変域内でのf(x)の最大値をMとする。RNを区間〔0,1 〕での一様擬似乱数とするとX0 ・RNにより、区間〔0,x0〕での一様擬似乱数xiを発生することができる。同様にして、M・RNにより、区間〔0,M 〕での一様擬似乱数yiを発生することができる。そこで、このようにして発生させた乱数xi,yiがf(xi)> yi となる条件を満足する場合には、乱数xiは与えられた確率密度分布に従うものとして採用し、満足しなければ、その乱数xiを不採用とする。この作業を繰り返し、確率密度分布に従う確率で乱数xiを採用し、確率密度分布に従う乱数の数列を作っていく方法を棄却法という。この方法は、条件に合わない乱数を捨てることになるので乱数発生法としては効率がよくないが、よい一様乱数さえ得られれば原理的に正しい数列が得られる方法である。
【0055】
図5の乱数発生手順L21,L22において、ワイブル分布の特定のための寿命(L10寿命)は、適宜想定した値を、これらの手順L21,L22の計算式等に設定しておいても良く、また入力手段3からの入力によって可変としても良い。
また、寿命比較算出手順L23において、発生したワイブル乱数からのL10寿命を求める演算は、加速試験において従来から用いられている中の適宜の寿命計算方法を用いれば良い。加速試験においては、破損の発生した時間からワイブルプロットで寿命を求めることが行われており、このような破損時間から寿命を求める計算方法を、上記寿命比算出手順における寿命計算方法として用いる。
【0056】
この寿命計算には、例えば次の方法が採用できる。
(1) 寿命試験を実施する。
(2) 得られたデータ(破損した時間あるいは破損した負荷回数)を昇順に並び替える。
(3) これらデータを図12のグラフ(ワイブル確率紙)にプロットする(縦軸:累積破損確率、横軸:寿命)。
(4) 図12の紙にプロットしたデータの最適直線を最小二乗法で引く。このとき、L10 寿命以下の位置に最小寿命があるということになるので、L10 寿命の値を10分割し(何分割でも良いがフィッティングでの計算時間が妥当な時間になるように設定する)、累積確率0 %の位置にプロットを加える。10通りの最適曲線で最もデータがフィットする最適直線を採用する。
(5) そうすると、ワイブルスロープがこの線の傾き、最小寿命は、L10 寿命の値を10分割のいずれかの値、L10 寿命(ワイブルスロープが累積確率10%交わる寿命)と尺度因子αの関係からαを決定できる。
【0057】
図11に、この実施形態の乱数シミュレーションプログラムである必要寿命差見積もりプログラム41で求めた寿命比の確率分布と、発明が解決しようとする課題の欄で説明した上記従来の信頼幅を使う方法における手順3)で求めた分布とを比較した結果を示す。2つの結果は概ね一致していることが分かる。しかし、この実施形態は、従来の方法に比べて簡素に有為差が判定できるという利点がある。
【0058】
図2と共に加速試験における有為差判断の必要寿命差見積もり装置につきする。この必要寿命差見積もり装置は、演算処理装置1と、この演算処理装置1の出力を画面に表示する表示装置2と、上記演算処理装置1に入力を行う入力手段3とを備える。
【0059】
上記演算処理装置1は、上記表示装置2の画面に、入力情報として、試験対象品の持つワイブル分布のワイブルスロープの値、並びに比較する水準1および水準2の2つのロットの各試験個数の入力を促す表示を行わせる促し画面出力手段7Kと、実行命令に応答して必要な寿命差を演算しその演算結果を上記表示装置2の画面に出力する必要寿命差演算手段42とを備える。
【0060】
この必要寿命差演算手段42は、次の構成の第1乱数発生手段43、第2乱数発生手段44、寿命比算出手段45、累積確率分布作成手段46、必要寿命差読み取り手段47、および必要寿命差出力手段48を備える。
【0061】
第1乱数発生手段42は、試験対象品の上記入力情報のワイブルスロープの値および仮に定めた寿命から定まるワイブル分布に従った乱数を水準1のロットの試験個数分発生させる手段であり、図5の手順L21で説明した処理を行う。
第2乱数発生手段44は、第1乱数発生手段43と同じワイブル分布に従った乱数を水準2のロットの試験個数分発生させる手段であり、手順L22で説明した処理を行う。
寿命比算出手段45は、第1乱数発生手段43で発生させた設定個数の乱数から所定の寿命計算方法で求まる寿命と、第2乱数発生手段44で発生させた設定個数の乱数から上記所定の寿命計算方法で求まる寿命とから、1組の(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)となる寿命比を算出する手段であり、手順L23で説明した処理を行う。
【0062】
累積確率分布作成手段46は、これら第1乱数発生手段43,第2乱数発生手段44,および寿命比算出手段45の処理を設定回数繰り返し、上記設定回数の組数の寿命比を求め、この寿命比の確率分布と累積確率分布を作成する手段であり、手順L24で説明した処理を行う。
【0063】
必要寿命差読み取り手段47は、上記累積確率分布から設定信頼幅内の最大および最小の寿命比を読み取り、最小の寿命比は逆数で表して、それぞれ、
(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
(第1水準の寿命)/(第2水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
として定める手段であり、手順L25で説明した処理を行う。
必要寿命差出力手段48は、この読み取った必要寿命差を表示装置2に出力させる手段であり、手順L26で説明した処理を行う。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】この発明の一実施形態に係る必要寿命差見積もり装置の概略ブロック図である。
【図2】同必要寿命差見積もり装置の概念構成を示すブロック図である。
【図3】同必要寿命差見積もり装置を用いた必要寿命差見積もり方法の概略流れ図である。
【図4】同必要寿命差見積もり方法を実施する必要寿命差見積もりプログラムの概略の流れ図である。
【図5】同プログラムにおける必要寿命差演算手順の詳細を示す流れ図である。
【図6】図1の必要寿命差見積もり装置における入力画面例の説明図である。
【図7】図1の必要寿命差見積もり装置における出力画面例の説明図である。
【図8】(A)はワイブル分布の例のグラフ、(B)は頻度と寿命比の関係例を示す確率分布のグラフ、(C)は累積確率と寿命比の関係例を示すグラフである。
【図9】ワイブル分布の各パラメータの影響例を示すグラフである。
【図10】ワイブル分布の定め方を示すグラフである。
【図11】実施形態の方法と従来の信頼幅を使った方法の寿命ばらつきの分布比較図である。
【図12】ワイブル確率紙の説明図である。
【図13】従来の打切りおよび加速試験の手順を示す流れ図である。
【図14】従来の信頼幅を使った寿命の有為差判定方法の説明図である。
【符号の説明】
【0065】
1…コンピュータ(演算処理手段)
2…表示装置
3…入力装置
7K…促し画面出力手段
41…必要寿命差見積もり演算プログラム
42…必要寿命差演算手段
43…第1乱数発生手段
44…第2乱数発生手段
45…寿命比算出手段
46…累積分布作成手段
47…必要試験個数読み取り手段
48…読取結果出力手段
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受等の機械部品または試験片からなる試験対象品を使用環境よりも厳しい所定の環境条件におき、破損が発生した時間から寿命を算出する加速試験において、試験対象品の2つのロット間で有為差有りと判断するために必要な寿命差を、乱数シミュレーションで見積もる方法、装置、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
寿命試験は、軸受等の機械部品の性能を評価するために欠かせない試験の1つである。寿命試験には、大きく分けて(1) 実機の使用環境に近い条件で試験を行う実機試験と、(2) 比較的過酷な条件で寿命試験を行う加速試験がある。前者は、製品が有限時間内に破損するケースが極めて少ないため、ある目標時間まで破損することなく試験が継続すれば、寿命は問題ないと判断する試験である(以下、このような試験を「打切り試験」と呼ぶ)。一方、後者は、比較的短時間で破損が発生するので、ワイブルプロットで寿命が算出でき(例えば非特許文献1)、その算出寿命から性能の優劣を判定する試験である(以下、このような試験を「加速試験」と呼ぶ)。
【0003】
従来より、寿命試験は経験を積んだ熟練者が行っており、試験条件や試験個数を決める寿命試験の設計と寿命試験結果の解釈に対して経験的に確からしい判断ができたと考えられる。
図13に、従来から行われてきた寿命試験の設計と寿命試験結果の解釈の手順を、打切り試験と加速試験ごとに示す。
また、現在、寿命試験において経験的に判断されているものの詳細を、表1に示す。
【0004】
【表1】
【0005】
なお、ワイブル分布を機械部品の寿命判断に用いるものは、種々の特許文献,非特許文献に提案されている。
【特許文献1】特開2006−040203号公報
【特許文献2】特開2002−277382号公報
【特許文献3】特開2005−226829号公報
【非特許文献1】真壁肇著、信頼性工学入門79、1991年発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
加速試験は、上記のように破損時間から寿命を算出し、その算出寿命から性能の優劣を判定する試験であるが、2ロットの寿命試験結果から求めた算出寿命の間に、本当に有為差があるかどうかを確かめたい状況が多くある。
従来より、算出寿命の有為差判定は信頼幅という概念を使って行われてきた。しかし、この判定方法には、次のようにいくつかの問題がある。
【0007】
まず、信頼幅は、2水準間での寿命の有意差を判断できないという問題がある。その理由は、どの程度信頼幅が重なっていたら寿命に優位差があるのかということを定量的に判断できないためである。信頼幅を使って2水準間での寿命の有意差を判定する場合、次のような手順が必要になる。以下、その手順を図14を使って説明する。
1) L10寿命におけるメディアンランクの信頼水準の分布(図中Aの分布)を求める。ここで、この分布はF値表とファイサー(Fisher)の近似式を用いて求める。
2) L10寿命におけるメディアンランクの信頼水準の分布とワイブルスロープからL10のばらつき頻度の分布(図中Bの分布)を求める。
3) このばらつき分布f(x)を使って、図中の式の積分を取り、寿命倍率nが同じ寿命分布から発生する頻度を調べる。これは寿命比のばらつき分布である。
4) 3)の分布の累積確率分布を作成し、そのグラフから90%以上の確率で有意差有と判定できる寿命倍率を計算する。
【0008】
上のような手順で、従来の信頼幅を使って寿命の有意差検定や設計が可能になる。しかし、このような手順は複雑であり、実用化が難しい。このため、信頼幅を使った寿命の有意差検定が今まで行われてこなかったのは当然であるといえる。
【0009】
レオナード・ジー・ジョンソン(LEONARD G. JOHNSON)は、ワイブルスロープごと、試験個数ごとに、2水準間の平均寿命とL10 寿命の有意差を判定する方法を提案している)。しかし、その方法も、実際には使われていないのが現状である。これは、手軽な形で優位差検定を行うツールを残していないことに原因がある。
【0010】
この発明の目的は、2つのロット間で有為差有りと判断するために必要な寿命差を、簡単かつ迅速に試算することができ、かつ定量的に求められて信頼性の高いものとでき、熟練者でなくても必要な寿命差を試算することのできる方法、装置、およびその方法の実施のためのコンピュータプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の加速試験における有為差判断の必要寿命差見積もり方法は、軸受等の機械部品または試験片からなる試験対象品を使用環境よりも厳しい所定の環境条件におき、破損が発生した時間から寿命を算出する加速試験において、試験対象品の2つのロット間で有為差有りと判断するために必要な寿命差を、倍率で示される値で見積もる方法であって、 コンピュータに対し、入力情報として、試験対象品の持つワイブル分布のワイブルスロープの値、並びに比較する水準1および水準2の2つのロットの各試験個数を入力する過程(K1)と、
上記コンピュータに、上記必要な寿命差を演算させ演算結果を表示装置の画面に表示させるコンピュータ演算処理過程(K2)とを含む。
上記寿命は、例えばL10寿命(90%の信頼度の寿命)や、L50寿命(50%の信頼度の寿命)等の所定信頼度の寿命ある。
【0012】
上記コンピュータ演算処理過程(K2)として、
試験対象品の上記入力情報のワイブルスロープの値および仮に定めた寿命から定まるワイブル分布に従った乱数を水準1のロットの試験個数分発生させる第1乱数発生手順(L21)と、
第1乱数発生手順(L21)と同じワイブル分布に従った乱数を水準2のロットの試験個数分発生させる第2乱数発生手順(L22)と、
第1乱数発生手順(L21)で発生させた設定個数の乱数から所定の寿命計算方法で求まる寿命と第2乱数発生手順(L22)で発生させた設定個数の乱数から上記所定の寿命計算方法で求まる寿命とから、1組の(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)となる寿命比を算出する寿命比算出手順(L23)と、
これら第1乱数発生手順(L21),第2乱数発生手順(L22),および寿命比算出手順(L23)を設定回数繰り返し、上記設定回数の組数の寿命比を求め、この寿命比の確率分布と累積確率分布を作成する累積確率分布作成手順(L24)と、
上記累積確率分布から設定信頼幅内の最大および最小の寿命比を読み取り、最小の寿命比は逆数で表して、それぞれ、
(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
(第1水準の寿命)/(第2水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
として定める必要寿命差読み取り手順(L25)と、
この読み取った必要寿命差を表示装置に出力させる必要寿命差出力手順(L26)と、を含む。
【0013】
上記第1,第2乱数発生手順(L21,L22)において、乱数発生に用いるワイブル分布を特定するための寿命は、適宜想定した寿命または実績値を設定すれば良い。
また、寿命比算出手順(L23)において、乱数発生手順(L21,L22)で発生させた試験個数の乱数から寿命を求める所定の寿命計算方法は、加速試験において従来から用いられている中の適宜の寿命計算方法を用いれば良い。加速試験においては、破損の発生した時間からワイブルプロットで寿命を求めることが行われており、このような破損時間から寿命を求める計算方法を、上記寿命比算出手順(L23)における寿命計算方法として用いる。
ワイブル分布は、次式、
【0014】
【数1】
【0015】
ただし、m:ワイブルスロープ、α:尺度因子、γ:最小寿命、
によって特定される。
【0016】
軸受等の機械部品の寿命は、ワイブル分布に従うとされている。ワイブル分布は、ワイブルスロープm、尺度因子α、最小寿命γの3つのパラメータを持っており、ワイブルスロープmによって指数分布、対数正規分布、正規分布を表現できる万能分布として知られている。量産される軸受等では、ワイブルスロープは実績値が既知である場合が多く、この発明方法において、ワイブルスロープには、試験対象品の実績値を用いることが好ましい。実績値がない場合は、適宜の方法で見積もったワイブルスロープを用いてもよい。最小寿命γは、種々の規格、例えばISO等によって計算方法が定められており、そのように定められたいずれかの計算方法を用いることが好ましい。尺度因子αは、ワイブルスロープの値、要求寿命の信頼度、要求寿命の値、および上記最小寿命γから一義的に決定される演算式があり、その演算式を用いて特定しても良い。
【0017】
この方法において、累積分布作成手順(L24)で行う処理は、同じ寿命分布を持つロットから験個数分の試験対象品を2組抜きとり、寿命試験を行った結果、どの程度の寿命差が出るのかを設定回数確認することに対応している。同じ寿命分布を持つロットから試験対象品を抜きとった試験においても、寿命はばらついてる。その寿命比のばらつきを累積確率分布の適宜の信頼区間、例えば5%と95%の区間(90%信頼区間)として定義すると、その寿命ばらつきは、上記累積確率分布から算出できる。この結果は、同じ寿命分布を持つロットから試験個数の試験対象品を2組抜きとって寿命比較を行っても、90%のものは、累積確率分布に示された信頼区間の範囲で寿命比がばらついてしまうことを示している。
逆にいうと上記信頼区間の最大の寿命差があれば、そのロット間の寿命分布が異なっている可能性が高いということになるので、2ロットの比較試験で有為差を判断できる寿命差は、上記信頼区間の最大の寿命差であるといえる。これは、水準1のロットを基準とした場合、つまり(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)の場合の必要な寿命差である。水準2を基準とした寿命差、すなわち(第1水準の寿命)/(第2水準の寿命)についての必要な寿命差は、上記累積確率分布に示された信頼区間の最小の寿命差の逆数が、有為差を判断できる寿命差となる。
【0018】
この発明方法は、このようにワイブル分布に基づく乱数シミュレーションにより必要寿命差を求めるため、必要寿命差を、簡単かつ迅速に試算することができ、かつ定量的に求められて信頼性の高いものとでき、熟練者でなくても必要寿命差を試算することができる。また、この乱数シミュレーションに用いるプログラムは、条件入力を行えば勝手に優位差検定を行ってくれる手軽なツールであることが優れた点である。
【0019】
この発明の加速試験における有為差判断の必要寿命差見積もり装置は、軸受等の機械部品または試験片からなる試験対象品を使用環境よりも厳しい所定の環境条件におき、破損が発生した時間から寿命を算出する加速試験において、試験対象品の2つのロット間で有為差有りと判断するために必要な寿命差を、倍率で示される値で見積もる装置であって、 演算処理装置(1)と、この演算処理装置(1)の出力を画面に表示する表示装置(2)と、上記演算処理装置(1)に入力を行う入力手段(3)とを備える。
【0020】
上記演算処理装置(1)は、
上記表示装置(2)の画面に、入力情報として、試験対象品の持つワイブル分布のワイブルスロープの値、並びに比較する水準1および水準2の2つのロットの各試験個数の入力を促す表示を行わせる促し画面出力手段(7K)と、
実行命令に応答して必要な寿命差を演算しその演算結果を上記表示装置(2)の画面に出力する必要寿命差演算手段(42)とを備える。
【0021】
この必要寿命差演算手段(42)は、次の構成の第1乱数発生手段(43)、第2乱数発生手段(44)、寿命比算出手段(45)、累積確率分布作成手段(46)、必要寿命差読み取り手段(47)、および必要寿命差出力手段(48)を備える。
【0022】
第1乱数発生手段(42)は、試験対象品の上記入力情報のワイブルスロープの値および仮に定めた寿命から定まるワイブル分布に従った乱数を水準1のロットの試験個数分発生させる手段である。
第2乱数発生手段(44)は、第1乱数発生手段(43)と同じワイブル分布に従った乱数を水準2のロットの試験個数分発生させる手段である。
寿命比算出手段(45)は、第1乱数発生手段(43)で発生させた設定個数の乱数から所定の寿命計算方法で求まる寿命と第2乱数発生手段(44)で発生させた設定個数の乱数から上記所定の寿命計算方法で求まる寿命とから、1組の(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)となる寿命比を算出する手段である。
【0023】
累積確率分布作成手段(46)は、これら第1乱数発生手段(43),第2乱数発生手段(44),および寿命比算出手段(45)の処理を設定回数繰り返し、上記設定回数の組数の寿命比を求め、この寿命比の確率分布と累積確率分布を作成する手段である。
【0024】
必要寿命差読み取り手段(47)は、上記累積確率分布から設定信頼幅内の最大および最小の寿命比を読み取り、最小の寿命比は逆数で表して、それぞれ、
(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
(第1水準の寿命)/(第2水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
として定める手段である。
必要寿命差出力手段(48)は、この読み取った必要寿命差を表示装置(2)に出力させる手段である。
【0025】
この構成の必要寿命差見積もり装置によると、この発明の必要寿命差見積もり方法を実施して、必要寿命差を、簡単、迅速求めることができ、かつ定量的に求められて信頼性の高いものとでき、熟練者でなくても有為差判断に必要な寿命差を適切に求めることができる。
【0026】
この発明の加速試験における有為差判断の必要寿命差見積もりプログラム(41)は、コンピュータで実行可能なプログラムであって、
上記表示装置の画面に、入力情報として、試験対象品の持つワイブル分布のワイブルスロープの値、並びに比較する水準1および水準2の2つのロットの各試験個数の入力を促す表示を行わせる促し画面出力手順(L1)と、
実行命令に応答して必要な寿命差を演算し上記表示装置の画面に表示させる必要寿命差演算手順(L2)とを含む。
【0027】
上記必要寿命差演算手順(L2)は、
試験対象品の上記入力情報のワイブルスロープの値および仮に定めた寿命から定まるワイブル分布に従った乱数を水準1のロットの試験個数分発生させる第1乱数発生手順(L21)と、
第1乱数発生手順と同じワイブル分布に従った乱数を水準2のロットの試験個数分発生させる第2乱数発生手順(L22)と、
第1乱数発生手順(L21)で発生させた設定個数の乱数から所定の寿命計算方法で求まる寿命と第2乱数発生手順(L22)で発生させた設定個数の乱数から上記所定の寿命計算方法で求まる寿命とから、1組の(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)となる寿命比を算出する寿命比算出手順(L23)と、
これら第1乱数発生手順(L21),第2乱数発生手順(L22),および寿命比算出手順(L23)を設定回数繰り返し、上記設定回数の組数の寿命比を求め、この寿命比の確率分布と累積確率分布を作成する累積確率分布作成手順(L24)と、
上記累積確率分布から設定信頼幅内の最大および最小の寿命比を読み取り、最小の寿命比は逆数で表して、それぞれ、
(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
(第1水準の寿命)/(第2水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
として定める必要寿命差読み取り手順(L25) と、
この読み取った必要寿命差を表示装置に出力させる必要寿命差出力手順(L26)と、を含む。
【0028】
この構成の加速試験における有為差判断の必要寿命差見積もりプログラムは、この発明の必要寿命差見積もり方法の実施に使用され、必要寿命差を、簡単、迅速求めることができ、かつ定量的に求められて信頼性の高いものとでき、熟練者でなくても有為差判断に必要な寿命差を適切に求めることができる。
【発明の効果】
【0029】
この発明の加速試験における必要試験個数見積もり方法、装置、およびプログラムによると、コンピュータシミュレーションにより、試験対象品のワイブル分布から乱数を発生させ、同じワイブル分布から乱数を発生させ、その発生させた乱数から求まる寿命を演算して1組の寿命比を算出し、この処理を設定回数繰り返して設定回数の組数の寿命比を求め、この寿命比の確率分布と累積確率分布を作成し、上記累積確率分布から設定信頼幅内の最大および最小の寿命比を読み取り、必要寿命差として出力するため、有為差判断に必要な寿命差を、簡単かつ迅速に求めることができ、かつ定量的に求められて信頼性の高いものとでき、熟練者でなくても必要寿命差を求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
この発明の実施形態を説明する。この加速試験における有為差判断の必要寿命差見積もり方法は、軸受等の機械部品または試験片からなる試験対象品を使用環境よりも厳しい所定の環境条件におき、破損が発生した時間から寿命を算出する加速試験において、試験対象品の2つのロット間で有為差有りと判断するために必要な寿命差を、倍率で示される値で見積もる方法である。
【0031】
以下、この実施形態を図面と共に説明する。この有為差判断の必要寿命差見積もり方法は、図1に示すコンピュータ1に、乱数シミュレーションプログラムである有為差判断の必要寿命差見積もりプログラム41を実行させることで行う。コンピュータ1はパーソナルコンピュータ等からなり、中央処理装置4およびメモリ5を有し、所定のオペレーションシステムによって動作するものである。コンピュータ1には、液晶表示装置等の画面によって表示可能な表示装置2と、キーボードやマウス等の入力装置3が接続され、あるいは付属して設けられている。コンピュータ1、表示装置2、入力装置3、および必要寿命差見積もりプログラム41により、図2に各機能達成手段をブロックで示した必要試験個数見積もり装置が構成される。同図の必要試験個数見積もり装置の構成については、後に説明する。
必要寿命差見積もりプログラム41は、図4および図5に流れ図で示す手順を備えるものである。同図の内容は、後に説明する。
【0032】
この必要寿命差見積もり方法は、図2に示すように、コンピュータ1に対して所定の情報を入力する入力過程K1と、コンピュータ1で演算処理を行って演算結果を出力するコンピュータ演算処理過程K2とからなる。
【0033】
入力過程K1では、図6に示すように所定の入力情報の入力を促す入力画面2aが、コンピュータ1の出力によって表示装置2に表示される。この画面では、入力情報として、試験対象品の持つワイブル分布のワイブルスロープの値、並びに比較する水準1および水準2の2つのロットの各試験個数n1,n2の入力を促す表示を行われ、これらの情報を入力する。ワイブルスロープの値には、試験の実績値を入力することが好ましい。実績値は10個以上の試験で得た結果を用いることが望ましく、より好ましくは20個以上の試験結果である。また、試験個数は試験対象品の数や試験機の台数で制限される場合が多いが、より多くの試験対象品を用意することが望ましく、実際に行う試験個数を入力する。以上の点に注意して、所定の条件を入力し、入力画面2aのOKボタンを押すと計算が開始される。
【0034】
図3のコンピュータ演算処理過程L2では、入力されたワイブルスロープの値、および2つのロットの各試験個数n1,n2から、有為差有りと判断するために必要となる寿命差を演算し、演算が終了すると、図7のように2水準間に必要な寿命差を表示する。
【0035】
図1の必要寿命差見積もりプログラム41は、コンピュータ1で実行可能なプログラムであって、図4,図5に流れ図で示す手順を備える。図4に示すように、必要寿命差見積もりプログラム41は、促し画面出力手順L1と必要寿命差演算手順L2とでなり、促し画面出力手順L1では、図6と共に前述した入力画面2aを出力する。この入力画面2aに対して、上記各入力情報が入力手段3から入力され、かつ入力画面2aのOKキーのクリック等によって実行命令が入力手段3から入力されると、必要寿命差演算手順L2が実行される。同図の入力画面2aに対して入力する過程が、図3の入力過程K1であり、同図のコンピュータ演算処理過程K2は図4の必要寿命差演算手順K2を実行する過程である。
【0036】
必要寿命差演算手順L2は、図5に流れ図で示す各手順で構成される。この流れ図には各手順L21〜L26毎の具体的な処理例を注釈として併記してある。
理解の容易のため、具体的数値を上げ、同図の具体的処理例を参照して、各手順L21〜L26を説明する。
【0037】
今、あるL10寿命を持つワイブル分布(図8(A)で、ワイブルスロープは4としている)である加速試験で、2ロットの試験を行うとする。1ロット目(水準1)の試験個数n1が3個で、2ロット目(水準2)の試験個数n2も3個であるとする。
まず、そのワイブル分布に従って1ロット目の試験個数n1である3個の乱数を発生させ、その3個のデータからL10寿命とL50寿命を算出する(L21)。算出方法は、従来の加速試験の結果からの寿命算出に用いられている適宜の方法を使用する。なお、L10寿命だけ、またはL50寿命だけを演算しても良いが、この実施形態では、L10寿命とL50寿命のそれぞれについて必要寿命差を計算するために、L10寿命とL50寿命の両方を算出している。
次に、同じL10寿命を持つワイブル分布から、第2ロット目の試験個数n2である3個の乱数を3個発生させ、その3個のデータからL10寿命とL50寿命を上記と同じ方法で算出する(L22)。
【0038】
次に、得られた1組のL10寿命とL50寿命の寿命比をそれぞれ算出する。すなわちL10寿命同士の寿命比、およびL50寿命同士の寿命比を算出する(L23)。
【0039】
次に、これらの作業を設定回数(例えば1000回)繰り返し、設定回数組(1000組)のL10およびL50寿命の寿命比の確率分布(図8(B)と累積確率分布(図8(C)を作成する(L24)。
これらは、同じ寿命分布を持つロットから3個の試験片を2組抜きとり、寿命試験を行った結果、どの程度の寿命差が出るのかを設定回数(1000回)確認することに対応している。
【0040】
度数分布の図(図8(B))から、同じ寿命分布を持つロットから試験片を抜きとって試験を行ったにもかかわらず、寿命はばらついていることが分かる。その寿命比のばらつきを、所定信頼度区間、例えば累積確率分布の5%と95%の区間(90%信頼区間)として定義すると、その寿命ばらつきは、図8(C)に示したように0.39〜2.57倍であると算出できる。
この結果は、同じ寿命分布を持つロットから3個の試験片を2組抜きとって寿命比較を行っても、90%のものは0.39〜2.57倍の間で寿命比がばらついてしまうことを示している。逆にいうと、ばらつき内の最大値である2.57倍以上の寿命差があれば、そのロット間の寿命分布が異なっている可能性が高いということになるので、2ロットの比較試験で試験個数がそれぞれ3個の場合、有為差を判断できる寿命差は2.57倍以上であるといえる。
【0041】
そこで、上記累積確率分布から設定信頼幅内の最大および最小の寿命比を読み取り、最小の寿命比は逆数で表して、それぞれ、
(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
(第1水準の寿命)/(第2水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
として定める(L25)。
上記の具体例では、(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)の場合の必要寿命差は、2.57倍である。(第1水準の寿命)/(第2水準の寿命)の場合の必要寿命差は、2.57倍(1/0.39=2.57)である。
【0042】
この結果から考え、実際の試験として、ワイブルスロープ4である加速試験で、2ロットの試験を行い、1ロット目が試験個数3個でL10寿命が100時間、2ロット目も試験個数3個でL10寿命が150時間という結果が得られた状況を想定する。この場合の寿命比は、150/100=1.5である。この状況では、上記シミュレーションの結果である必要寿命差2.57倍を満たしておらず、有為差があるとは言えない。
【0043】
図4,図5に示した必要寿命差見積もりプログラム41についての上記の説明は、具体的に数値を例にとって説明したが、この必要寿命差見積もりプログラム41は、整理すると、次の手順により構成される。
【0044】
この実施形態の加速試験における有為差判断の必要寿命差見積もりプログラム41は、コンピュータで実行可能なプログラムであって、
上記表示装置の画面に、入力情報として、試験対象品の持つワイブル分布のワイブルスロープの値、並びに比較する水準1および水準2の2つのロットの各試験個数の入力を促す表示を行わせる促し画面出力手順(L1)と、
実行命令に応答して必要な寿命差を演算し上記表示装置の画面に表示させる必要寿命差演算手順(L2)とを含む。
【0045】
上記必要寿命差演算手順(L2)は、
試験対象品の上記入力情報のワイブルスロープの値および仮に定めた寿命から定まるワイブル分布に従った乱数を水準1のロットの試験個数分発生させる第1乱数発生手順(L21)と、
第1乱数発生手順と同じワイブル分布に従った乱数を水準2のロットの試験個数分発生させる第2乱数発生手順(L22)と、
第1乱数発生手順(L21)で発生させた設定個数の乱数から所定の寿命計算方法で求まる寿命と第2乱数発生手順(L22)で発生させた設定個数の乱数から上記所定の寿命計算方法で求まる寿命とから、1組の(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)となる寿命比を算出する寿命比算出手順(L23)と、
これら第1乱数発生手順(L21),第2乱数発生手順(L22),および寿命比算出手順(L23)を設定回数繰り返し、上記設定回数の組数の寿命比を求め、この寿命比の確率分布と累積確率分布を作成する累積確率分布作成手順(L24)と、
上記累積確率分布から設定信頼幅内の最大および最小の寿命比を読み取り、最小の寿命比は逆数で表して、それぞれ、
(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
(第1水準の寿命)/(第2水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
として定める必要寿命差読み取り手順(L25) と、
この読み取った必要寿命差を表示装置に出力させる必要寿命差出力手順(L26)と、を含む。
【0046】
累積確率分布作成手順(L24)は、手順L21〜L23を設定回数繰り返させる手順L241と、その繰り返し過程で得て記憶したおいた寿命比から確率分布および累積確率分布を演算する手順L242とでなる。
【0047】
各乱数発生手順(L21,L22)の詳細について説明する。これらの手順L21,L22は、ワイブル分布を特定し、その特定したワイブル分布に従ってワイブル乱数を発生させる。
一般に軸受の寿命分布は次式1)のワイブル分布に従うと言われている。
【0048】
【数2】
【0049】
ただし、m:ワイブルスロープ、α:尺度因子、γ:最小寿命、
ワイブル分布は、3つのパラメータを持っており、ワイブルスロープmによって指数分布、対数正規分布、正規分布を表現できる万能分布として知られている。参考として、図9に各種パラメータを変化させた時のワイブル分布の変化を示す。ワイブルスロープmは、分布の形状を支配するパラメータであり、この値が小さいほどばらつきの大きい分布ということができる。尺度因子αは、横軸(寿命)のスケールを変化させるもので、この値が大きいほど寿命は相対的に長くなる。最小寿命γは、寿命分布の横軸(寿命)を単にシフトさせるものである。
【0050】
この実施形態では、ワイブル乱数を発生させるが、この乱数を発生させるためにはワイブル分布の3つのパラメータを決定する必要がある。決め方の手順は、例えば以下のようになる。
1) ワイブルスロープmを実績から決定する。
2) 乱数を発生させたい分布の信頼度(例えばL10寿命であるか、あるいはL50寿 命であるか)を決定する。
3) 信頼度から求めたワイブルスロープmから、最小寿命γを所定の数式を使って決定 する。例えば、L10寿命またはL50寿命から求めた尺度因子αから、
最小寿命γを、例えば、以下の2)式を使って決定する。
この式は、1990年制定のISOの最小寿命であり、実験値からの回帰式である。
【0051】
【数3】
【0052】
これは、R≦10の値で、R=0(L10寿命でのa1)のとき、この式は1になるという式である。過去のISOの最少寿命考慮の式では、L10寿命以下の寿命は、この式にL10寿命を書けた値ということで定義されている。Rは信頼度に対応する値(100−Rが信頼度となる値)である。
なお、最小寿命の定め方については、各種の規格(例えばISO)において、時代と共に変更される場合があるが、規格の変更に伴い、実施時の規格に応じた定め方を採用すれば良い。また、最小寿命は、材料試験条件によっても変化するのでより一般的な式で記述するほうが良いとの主張もあり、適宜の値を用いれば良い。
【0053】
ワイブル乱数の発生につき説明する。乱数とは、定性的にはでたらめな数列であって、発生頻度が均一(等確率)で、その発生に規則性がない(無規則性)というものであるが、完全な乱数を発生させることは不可能である。そこで、コンピュータで発生させることのできる疑似乱数を使う。簡易な乱数発生アルゴリズムでは、例えば10進法で20桁ぐらいの周期性が見られるが、周期性が6千桁以上の周期性となるものもあり、このような周期性の少ない乱数発生アルゴリズムを用いることが好ましい。
【0054】
この実施形態では、一様な乱数ではなく、ワイブル分布に従った乱数であるワイブル乱数を発生させる。このため発生方法には工夫が必要になる。確率密度関数が複雑な場合、その分布に従う乱数を発生するには棄却法と呼ばれる方法を用いればよく、この実施形態においても、棄却法を用いる。
確率密度関数f(x)の変域が図10のように、0からX0 の範囲にあるとみなされるものとし、その変域内でのf(x)の最大値をMとする。RNを区間〔0,1 〕での一様擬似乱数とするとX0 ・RNにより、区間〔0,x0〕での一様擬似乱数xiを発生することができる。同様にして、M・RNにより、区間〔0,M 〕での一様擬似乱数yiを発生することができる。そこで、このようにして発生させた乱数xi,yiがf(xi)> yi となる条件を満足する場合には、乱数xiは与えられた確率密度分布に従うものとして採用し、満足しなければ、その乱数xiを不採用とする。この作業を繰り返し、確率密度分布に従う確率で乱数xiを採用し、確率密度分布に従う乱数の数列を作っていく方法を棄却法という。この方法は、条件に合わない乱数を捨てることになるので乱数発生法としては効率がよくないが、よい一様乱数さえ得られれば原理的に正しい数列が得られる方法である。
【0055】
図5の乱数発生手順L21,L22において、ワイブル分布の特定のための寿命(L10寿命)は、適宜想定した値を、これらの手順L21,L22の計算式等に設定しておいても良く、また入力手段3からの入力によって可変としても良い。
また、寿命比較算出手順L23において、発生したワイブル乱数からのL10寿命を求める演算は、加速試験において従来から用いられている中の適宜の寿命計算方法を用いれば良い。加速試験においては、破損の発生した時間からワイブルプロットで寿命を求めることが行われており、このような破損時間から寿命を求める計算方法を、上記寿命比算出手順における寿命計算方法として用いる。
【0056】
この寿命計算には、例えば次の方法が採用できる。
(1) 寿命試験を実施する。
(2) 得られたデータ(破損した時間あるいは破損した負荷回数)を昇順に並び替える。
(3) これらデータを図12のグラフ(ワイブル確率紙)にプロットする(縦軸:累積破損確率、横軸:寿命)。
(4) 図12の紙にプロットしたデータの最適直線を最小二乗法で引く。このとき、L10 寿命以下の位置に最小寿命があるということになるので、L10 寿命の値を10分割し(何分割でも良いがフィッティングでの計算時間が妥当な時間になるように設定する)、累積確率0 %の位置にプロットを加える。10通りの最適曲線で最もデータがフィットする最適直線を採用する。
(5) そうすると、ワイブルスロープがこの線の傾き、最小寿命は、L10 寿命の値を10分割のいずれかの値、L10 寿命(ワイブルスロープが累積確率10%交わる寿命)と尺度因子αの関係からαを決定できる。
【0057】
図11に、この実施形態の乱数シミュレーションプログラムである必要寿命差見積もりプログラム41で求めた寿命比の確率分布と、発明が解決しようとする課題の欄で説明した上記従来の信頼幅を使う方法における手順3)で求めた分布とを比較した結果を示す。2つの結果は概ね一致していることが分かる。しかし、この実施形態は、従来の方法に比べて簡素に有為差が判定できるという利点がある。
【0058】
図2と共に加速試験における有為差判断の必要寿命差見積もり装置につきする。この必要寿命差見積もり装置は、演算処理装置1と、この演算処理装置1の出力を画面に表示する表示装置2と、上記演算処理装置1に入力を行う入力手段3とを備える。
【0059】
上記演算処理装置1は、上記表示装置2の画面に、入力情報として、試験対象品の持つワイブル分布のワイブルスロープの値、並びに比較する水準1および水準2の2つのロットの各試験個数の入力を促す表示を行わせる促し画面出力手段7Kと、実行命令に応答して必要な寿命差を演算しその演算結果を上記表示装置2の画面に出力する必要寿命差演算手段42とを備える。
【0060】
この必要寿命差演算手段42は、次の構成の第1乱数発生手段43、第2乱数発生手段44、寿命比算出手段45、累積確率分布作成手段46、必要寿命差読み取り手段47、および必要寿命差出力手段48を備える。
【0061】
第1乱数発生手段42は、試験対象品の上記入力情報のワイブルスロープの値および仮に定めた寿命から定まるワイブル分布に従った乱数を水準1のロットの試験個数分発生させる手段であり、図5の手順L21で説明した処理を行う。
第2乱数発生手段44は、第1乱数発生手段43と同じワイブル分布に従った乱数を水準2のロットの試験個数分発生させる手段であり、手順L22で説明した処理を行う。
寿命比算出手段45は、第1乱数発生手段43で発生させた設定個数の乱数から所定の寿命計算方法で求まる寿命と、第2乱数発生手段44で発生させた設定個数の乱数から上記所定の寿命計算方法で求まる寿命とから、1組の(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)となる寿命比を算出する手段であり、手順L23で説明した処理を行う。
【0062】
累積確率分布作成手段46は、これら第1乱数発生手段43,第2乱数発生手段44,および寿命比算出手段45の処理を設定回数繰り返し、上記設定回数の組数の寿命比を求め、この寿命比の確率分布と累積確率分布を作成する手段であり、手順L24で説明した処理を行う。
【0063】
必要寿命差読み取り手段47は、上記累積確率分布から設定信頼幅内の最大および最小の寿命比を読み取り、最小の寿命比は逆数で表して、それぞれ、
(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
(第1水準の寿命)/(第2水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
として定める手段であり、手順L25で説明した処理を行う。
必要寿命差出力手段48は、この読み取った必要寿命差を表示装置2に出力させる手段であり、手順L26で説明した処理を行う。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】この発明の一実施形態に係る必要寿命差見積もり装置の概略ブロック図である。
【図2】同必要寿命差見積もり装置の概念構成を示すブロック図である。
【図3】同必要寿命差見積もり装置を用いた必要寿命差見積もり方法の概略流れ図である。
【図4】同必要寿命差見積もり方法を実施する必要寿命差見積もりプログラムの概略の流れ図である。
【図5】同プログラムにおける必要寿命差演算手順の詳細を示す流れ図である。
【図6】図1の必要寿命差見積もり装置における入力画面例の説明図である。
【図7】図1の必要寿命差見積もり装置における出力画面例の説明図である。
【図8】(A)はワイブル分布の例のグラフ、(B)は頻度と寿命比の関係例を示す確率分布のグラフ、(C)は累積確率と寿命比の関係例を示すグラフである。
【図9】ワイブル分布の各パラメータの影響例を示すグラフである。
【図10】ワイブル分布の定め方を示すグラフである。
【図11】実施形態の方法と従来の信頼幅を使った方法の寿命ばらつきの分布比較図である。
【図12】ワイブル確率紙の説明図である。
【図13】従来の打切りおよび加速試験の手順を示す流れ図である。
【図14】従来の信頼幅を使った寿命の有為差判定方法の説明図である。
【符号の説明】
【0065】
1…コンピュータ(演算処理手段)
2…表示装置
3…入力装置
7K…促し画面出力手段
41…必要寿命差見積もり演算プログラム
42…必要寿命差演算手段
43…第1乱数発生手段
44…第2乱数発生手段
45…寿命比算出手段
46…累積分布作成手段
47…必要試験個数読み取り手段
48…読取結果出力手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受等の機械部品または試験片からなる試験対象品を使用環境よりも厳しい所定の環境条件におき、破損が発生した時間から寿命を算出する加速試験において、試験対象品の2つのロット間で有為差有りと判断するために必要な寿命差を、倍率で示される値で見積もる方法であって、
コンピュータに対し、入力情報として、試験対象品の持つワイブル分布のワイブルスロープの値、並びに比較する水準1および水準2の2つのロットの各試験個数を入力する過程と、
上記コンピュータに、上記必要な寿命差を演算させ演算結果を表示装置の画面に表示させるコンピュータ演算処理過程とを含み、
上記コンピュータ演算処理過程として、
試験対象品の上記入力情報のワイブルスロープの値および仮に定めた寿命から定まるワイブル分布に従った乱数を水準1のロットの試験個数分発生させる第1乱数発生手順と、 第1乱数発生手順と同じワイブル分布に従った乱数を水準2のロットの試験個数分発生させる第2乱数発生手順と、
第1乱数発生手順で発生させた設定個数の乱数から所定の寿命計算方法で求まる寿命と第2乱数発生手順で発生させた設定個数の乱数から上記所定の寿命計算方法で求まる寿命とから、1組の(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)となる寿命比を算出する寿命比算出手順と、
これら第1乱数発生手順,第2乱数発生手順,および寿命比算出手順を設定回数繰り返し、上記設定回数の組数の寿命比を求め、この寿命比の確率分布と累積確率分布を作成する累積確率分布作成手順と、
上記累積確率分布から設定信頼幅内の最大および最小の寿命比を読み取り、最小の寿命比は逆数で表して、それぞれ、
(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
(第1水準の寿命)/(第2水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
として定める必要寿命差読み取り手順と、
この読み取った必要寿命差を表示装置に出力させる必要寿命差出力手順と、
を含む、加速試験における有為差判断の必要寿命差見積もり方法。
【請求項2】
軸受等の機械部品または試験片からなる試験対象品を使用環境よりも厳しい所定の環境条件におき、破損が発生した時間から寿命を算出する加速試験において、試験対象品の2つのロット間で有為差有りと判断するために必要な寿命差を、倍率で示される値で見積もる装置であって、
演算処理装置と、この演算処理装置の出力を画面に表示する表示装置と、上記演算処理装置に入力を行う入力手段とを備え、
上記演算処理装置は、
上記表示装置の画面に、入力情報として、試験対象品の持つワイブル分布のワイブルスロープの値、並びに比較する水準1および水準2の2つのロットの各試験個数の入力を促す表示を行わせる促し画面出力手段と、
実行命令に応答して必要な寿命差を演算しその演算結果を上記表示装置の画面に出力する必要寿命差演算手段とを備え、
この必要寿命差演算手段は、
試験対象品の上記入力情報のワイブルスロープの値および仮に定めた寿命から定まるワイブル分布に従った乱数を水準1のロットの試験個数分発生させる第1乱数発生手段と、 第1乱数発生手段と同じワイブル分布に従った乱数を水準2のロットの試験個数分発生させる第2乱数発生手段と、
第1乱数発生手段で発生させた設定個数の乱数から所定の寿命計算方法で求まる寿命と第2乱数発生手段で発生させた設定個数の乱数から上記所定の寿命計算方法で求まる寿命とから、1組の(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)となる寿命比を算出する寿命比算出手段と、
これら第1乱数発生手段,第2乱数発生手段,および寿命比算出手段の処理を設定回数繰り返し、上記設定回数の組数の寿命比を求め、この寿命比の確率分布と累積確率分布を作成する累積確率分布作成手段と、
上記累積確率分布から設定信頼幅内の最大および最小の寿命比を読み取り、最小の寿命比は逆数で表して、それぞれ、
(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
(第1水準の寿命)/(第2水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
として定める必要寿命差読み取り手段と、
この読み取った必要寿命差を表示装置に出力させる必要寿命差出力手段と、
を含む、加速試験における有為差判断の必要寿命差見積もり装置。
【請求項3】
コンピュータで実行可能なプログラムであって、
上記表示装置の画面に、入力情報として、試験対象品の持つワイブル分布のワイブルスロープの値、並びに比較する水準1および水準2の2つのロットの各試験個数の入力を促す表示を行わせる促し画面出力手順と、
実行命令に応答して必要な寿命差を演算し上記表示装置の画面に表示させる必要寿命差演算手順とを含み、
上記必要寿命差演算手順は、
試験対象品の上記入力情報のワイブルスロープの値および仮に定めた寿命から定まるワイブル分布に従った乱数を水準1のロットの試験個数分発生させる第1乱数発生手順と、 第1乱数発生手順と同じワイブル分布に従った乱数を水準2のロットの試験個数分発生させる第2乱数発生手順と、
第1乱数発生手順で発生させた設定個数の乱数から所定の寿命計算方法で求まる寿命と第2乱数発生手順で発生させた設定個数の乱数から上記所定の寿命計算方法で求まる寿命とから、1組の(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)となる寿命比を算出する寿命比算出手順と、
これら第1乱数発生手順,第2乱数発生手順,および寿命比算出手順を設定回数繰り返し、上記設定回数の組数の寿命比を求め、この寿命比の確率分布と累積確率分布を作成する累積確率分布作成手順と、
上記累積確率分布から設定信頼幅内の最大および最小の寿命比を読み取り、最小の寿命比は逆数で表して、それぞれ、
(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
(第1水準の寿命)/(第2水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
として定める必要寿命差読み取り手順と、
この読み取った必要寿命差を表示装置に出力させる必要寿命差出力手順と、
を含む、加速試験における有為差判断の必要寿命差見積もりプログラム。
【請求項1】
軸受等の機械部品または試験片からなる試験対象品を使用環境よりも厳しい所定の環境条件におき、破損が発生した時間から寿命を算出する加速試験において、試験対象品の2つのロット間で有為差有りと判断するために必要な寿命差を、倍率で示される値で見積もる方法であって、
コンピュータに対し、入力情報として、試験対象品の持つワイブル分布のワイブルスロープの値、並びに比較する水準1および水準2の2つのロットの各試験個数を入力する過程と、
上記コンピュータに、上記必要な寿命差を演算させ演算結果を表示装置の画面に表示させるコンピュータ演算処理過程とを含み、
上記コンピュータ演算処理過程として、
試験対象品の上記入力情報のワイブルスロープの値および仮に定めた寿命から定まるワイブル分布に従った乱数を水準1のロットの試験個数分発生させる第1乱数発生手順と、 第1乱数発生手順と同じワイブル分布に従った乱数を水準2のロットの試験個数分発生させる第2乱数発生手順と、
第1乱数発生手順で発生させた設定個数の乱数から所定の寿命計算方法で求まる寿命と第2乱数発生手順で発生させた設定個数の乱数から上記所定の寿命計算方法で求まる寿命とから、1組の(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)となる寿命比を算出する寿命比算出手順と、
これら第1乱数発生手順,第2乱数発生手順,および寿命比算出手順を設定回数繰り返し、上記設定回数の組数の寿命比を求め、この寿命比の確率分布と累積確率分布を作成する累積確率分布作成手順と、
上記累積確率分布から設定信頼幅内の最大および最小の寿命比を読み取り、最小の寿命比は逆数で表して、それぞれ、
(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
(第1水準の寿命)/(第2水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
として定める必要寿命差読み取り手順と、
この読み取った必要寿命差を表示装置に出力させる必要寿命差出力手順と、
を含む、加速試験における有為差判断の必要寿命差見積もり方法。
【請求項2】
軸受等の機械部品または試験片からなる試験対象品を使用環境よりも厳しい所定の環境条件におき、破損が発生した時間から寿命を算出する加速試験において、試験対象品の2つのロット間で有為差有りと判断するために必要な寿命差を、倍率で示される値で見積もる装置であって、
演算処理装置と、この演算処理装置の出力を画面に表示する表示装置と、上記演算処理装置に入力を行う入力手段とを備え、
上記演算処理装置は、
上記表示装置の画面に、入力情報として、試験対象品の持つワイブル分布のワイブルスロープの値、並びに比較する水準1および水準2の2つのロットの各試験個数の入力を促す表示を行わせる促し画面出力手段と、
実行命令に応答して必要な寿命差を演算しその演算結果を上記表示装置の画面に出力する必要寿命差演算手段とを備え、
この必要寿命差演算手段は、
試験対象品の上記入力情報のワイブルスロープの値および仮に定めた寿命から定まるワイブル分布に従った乱数を水準1のロットの試験個数分発生させる第1乱数発生手段と、 第1乱数発生手段と同じワイブル分布に従った乱数を水準2のロットの試験個数分発生させる第2乱数発生手段と、
第1乱数発生手段で発生させた設定個数の乱数から所定の寿命計算方法で求まる寿命と第2乱数発生手段で発生させた設定個数の乱数から上記所定の寿命計算方法で求まる寿命とから、1組の(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)となる寿命比を算出する寿命比算出手段と、
これら第1乱数発生手段,第2乱数発生手段,および寿命比算出手段の処理を設定回数繰り返し、上記設定回数の組数の寿命比を求め、この寿命比の確率分布と累積確率分布を作成する累積確率分布作成手段と、
上記累積確率分布から設定信頼幅内の最大および最小の寿命比を読み取り、最小の寿命比は逆数で表して、それぞれ、
(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
(第1水準の寿命)/(第2水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
として定める必要寿命差読み取り手段と、
この読み取った必要寿命差を表示装置に出力させる必要寿命差出力手段と、
を含む、加速試験における有為差判断の必要寿命差見積もり装置。
【請求項3】
コンピュータで実行可能なプログラムであって、
上記表示装置の画面に、入力情報として、試験対象品の持つワイブル分布のワイブルスロープの値、並びに比較する水準1および水準2の2つのロットの各試験個数の入力を促す表示を行わせる促し画面出力手順と、
実行命令に応答して必要な寿命差を演算し上記表示装置の画面に表示させる必要寿命差演算手順とを含み、
上記必要寿命差演算手順は、
試験対象品の上記入力情報のワイブルスロープの値および仮に定めた寿命から定まるワイブル分布に従った乱数を水準1のロットの試験個数分発生させる第1乱数発生手順と、 第1乱数発生手順と同じワイブル分布に従った乱数を水準2のロットの試験個数分発生させる第2乱数発生手順と、
第1乱数発生手順で発生させた設定個数の乱数から所定の寿命計算方法で求まる寿命と第2乱数発生手順で発生させた設定個数の乱数から上記所定の寿命計算方法で求まる寿命とから、1組の(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)となる寿命比を算出する寿命比算出手順と、
これら第1乱数発生手順,第2乱数発生手順,および寿命比算出手順を設定回数繰り返し、上記設定回数の組数の寿命比を求め、この寿命比の確率分布と累積確率分布を作成する累積確率分布作成手順と、
上記累積確率分布から設定信頼幅内の最大および最小の寿命比を読み取り、最小の寿命比は逆数で表して、それぞれ、
(第2水準の寿命)/(第1水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
(第1水準の寿命)/(第2水準の寿命)の場合の必要な寿命差、
として定める必要寿命差読み取り手順と、
この読み取った必要寿命差を表示装置に出力させる必要寿命差出力手順と、
を含む、加速試験における有為差判断の必要寿命差見積もりプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−128697(P2008−128697A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311137(P2006−311137)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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