説明

加飾シート及び加飾成形体

【課題】大略平行に並ぶ複数の線が途切れたり濃淡があったりするように見え、微細パターンの深みのある不均一なヘアラインを安定した品位で、簡単に得ることができる加飾シートと、その加飾シートを備える加飾成形体の提供。
【解決手段】加飾印刷層12の裏面側で積層する加飾印刷層13の縞状パターンが、加飾印刷層12の縞状パターンを通して見え隠れし、線が途切れたり、太さが変わったりして見えるとともに、濃淡の差を視認することができる。よって微細パターンで不均一に見える深みのあるヘアライン加飾を実現できる。また加飾印刷層12,13は印刷形成されたものであるため、エアー巻き込みによる品位の低下を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘアライン模様を有する加飾シート及び加飾成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の外装部品には、デザイン価値を高めるために様々な加飾が施してあり、その加飾の一つにヘアライン模様やスクラッチ模様と呼ばれる模様(以下「ヘアライン」ともいう。)がある。ヘアラインはアルミニウムなどの金属表面に多数の微細な線を彫り込んで形成される。このヘアラインを金属加工より低コストで実現するために、樹脂成形体にヘアライン加工を施した加飾成形体の技術が知られている。
【0003】
その加工方法は、例えば特開2003−109450号公報(特許文献1)に記載される技術を利用するものである。即ち、樹脂成形体の表面に予め凹凸パターンを形成しておき、凹凸が形成された樹脂成形体にホットスタンプ箔を転写することで、凹凸で形取られたデザインを形成し、ヘアーライン加飾を行うものである。
【特許文献1】特開2003−109450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、樹脂成形体に凹凸パターンを形成しホットスタンプ箔を転写する方法は、転写の対象が凹凸面であるため、樹脂成形体とホットスタンプ箔の界面にエアーを巻き込んで品位が損なわれるおそれがあった。また、こうした凹凸パターンは、樹脂成形金型のキャビティー面に凹凸パターンを施して樹脂を形成したり、凹凸パターンを施した治具を刻印したりして形成されるため、樹脂成形体の表面に微細な凹凸パターンを形成することが困難であった。
【0005】
また、従来のヘアラインは、平行な複数の直線が等間隔に並んだ均一な模様でなり、デザインとしては面白みに欠けるものであった。
【0006】
以上のような従来技術を背景になされたのが本発明である。すなわち本発明の目的は、平行な複数の直線が等間隔に並んだような均一なヘアラインではなく、大略平行に並ぶ複数の線ではあるが、線が途切れたり濃淡があったりするように見え、微細パターンの深みのある不均一なヘアラインを安定した品位で、簡単に得ることができる加飾シートと、その加飾シートを備える加飾成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく本発明は以下のように構成される。すなわち本発明は、基材シートに、縞状パターンで構成される2以上の加飾印刷層を備えており、一の加飾印刷層を構成する縞状パターンが、他の加飾印刷層を構成する縞状パターンと平面視で交差して積層している加飾シートを提供する。
【0008】
本発明では、加飾印刷層どうしの縞状パターンが平面視で交差するように、これら加飾印刷層を積層してある。このため裏面側で積層する加飾印刷層の縞状パターンが、表面側で積層する加飾印刷層の縞状パターンを通して見え隠れし、深みのあるヘアラインを有する加飾シートとすることができる。ここで、「縞状パターン」は複数の直線又は曲線が互いに交わらずに描かれているものである。
【0009】
加飾印刷層は印刷形成されたものであるため、従来技術のような凹凸パターン面にホットスタンプ箔を転写したものと異なり、エアー巻き込みによる品位の低下を防止することができる。また、基材シートに凹凸を付するものではないので、加工が容易である。
【0010】
また印刷形成による加飾印刷層はミクロンオーダーの縞状パターンを構成するため、従来技術のような樹脂成形体に形成する凹凸パターンより微細なパターンを実現できる。
【0011】
この加飾シートは、加飾印刷層が透明層を介して間接積層したものとすることができる。このため加飾印刷層どうしの縞状パターンが混じり合ことを防止でき、加飾印刷層の縞状パターンを潰れ難くすることができる。よって縞状パターンを明確に視認でき、見映えの良いヘアラインを形成することができる。また、2以上の加飾印刷層が透明層を介していれば、立体的に交差する縞状パターンを視認することができる。よって奥行き方向に凹凸観のあるヘアラインを実現することができる。そして、基材シート自体を透明層とすることができる。換言すれば、基材シートの表裏面に加飾印刷層を備えることができ、別途透明層を設けるための製造工程やコストの削減ができる。
【0012】
2以上の加飾印刷層は基材シートや透明層上に印刷形成するため、平坦面に加飾印刷層を印刷することができ、安定した品位の加飾印刷層を設けることができる。そのため、従来技術のような凹凸パターン面にホットスタンプ箔を転写したものと異なり、エアー巻き込みによる品位の低下を防止することができる。
【0013】
本発明は、2以上の加飾印刷層が隣接して積層している加飾シートとすることができる。すなわち、2以上の加飾印刷層が他の層を介さずに直接積層しているものとすることができる。2以上の加飾印刷層が隣接して積層している加飾シートとすれば、2以上の加飾印刷層を隔てる余分な層を設ける必要がなく、印刷工程数の削減、低コスト化を実現できる。2以上の加飾印刷層の隣接積層には、縞状パターンの滲みを排除するため、チキソ性の高いインキを用いることが好ましい。例えば、シリカなどの粉末やワックスをインキに添加してチキソ性を高めることが可能である。
【0014】
加飾シートを構成する2以上の加飾印刷層については、同一の縞状パターンを有するものとすることができる。2以上の加飾印刷層について同一の縞状パターンでなるものとしたため、一の縞状パターンを作成するだけで足り、縞状パターンの作成が簡単かつ容易である。そして、一の縞状パターンであっても該縞状パターンを交差して積層したため、深みのあるヘアラインを形成することができる。
【0015】
また、2以上の加飾印刷層が異なる縞状パターンでなるものとすることもできる。異なる縞状パターンとすれば、よりランダムな模様とすることができ、不均一なヘアラインを視認することができる。
【0016】
縞状パターンは、所定の線幅から任意に選択された線幅を有する複数の線が、所定の線間隔から任意に選択された間隔をあけて形成しているものとすることができる。所定の線幅から任意に選択された線幅を有する複数の線が、所定の線間隔から任意に選択された間隔をあけて形成しているため、単調で均一なヘアラインでなく、大略平行に並ぶ複数の線でなるヘアラインであるが、不均一で変化があり、面白みのあるヘアラインとなる。
【0017】
ここでいう所定の線幅とは、30μm〜100μmの範囲内の線幅であり、所定の線間隔とは、40μm〜180μmの範囲内の線間隔である。こうした線幅、線間隔の範囲内で複数の線を配列することでヘアラインを形成するからである。
【0018】
2以上の加飾印刷層を構成する2以上の縞状パターンは、所定の角度をもって交差して積層しており、その交差角度が、0.1°〜3.0°である。この範囲であれば、平行な複数の直線の繰り返しでなる単調なヘアラインでなく、また、モアレが生じない程度の深みのあるヘアラインを形成するからである。すなわち、交差角度が0.1°より小さいと重なる縞状パターンが略平行となって2以上の加飾印刷層が見え隠れする重なり効果が生ぜず、3.0°を超えると縞状パターンが網目状に見えモアレを生じてしまう。より好ましい交差角度は0.6°〜2.3°である。
【0019】
加飾印刷層は透光性を有するものとすることができる。透光性とすれば、表面側に積層する加飾印刷層を通して裏面側に積層する加飾印刷層を視認できる。このため2以上の縞状パターンの交差による縞状パターンの濃淡の発生を明確に視認でき、ヘアラインの凹凸観を高めることができる。着色されていても透光性を有する加飾印刷層とすることができる。
【0020】
加飾印刷層は光沢を有するものとすることができる。加飾印刷層が光沢を有するものであると、2以上の縞状パターンの交差する部分としない部分との濃淡がより強調され、凹凸感に優れたヘアラインを有する加飾シートとすることができる。
【0021】
加飾シートは、積層する加飾印刷層の裏面側に反射層を備えるものとすることができる。反射層を備えれば、積層する2以上の加飾印刷層を裏面側から明るく照らし出すことができ、金属調の外観を表出することができる。よって金属調のヘアラインを実現できる。
【0022】
加飾シートを構成する基材シートは、艶消し調とすることができる。基材シートを艶消し調とすれば、基材シートの表面で光を乱反射させることができ、加飾シートの質感を高めることができる。
【0023】
さらに本発明は、上記何れかの加飾シートを成形体の外形面に備える加飾成形体を提供する。上記何れかの加飾シートを成形体の外形面に備えるため、高品位で微細な縞状パターンを有し、面白みのあるヘアライン加飾を有する加飾成形体を実現できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の加飾シート及び加飾成形体によれば、大略平行に並ぶ複数の線でなるいわゆるヘアライン模様ではあるが、線が途切れたり濃淡があったり傾いたりするように見え、不均一な深みのあるヘアライン模様を有するデザインが具現化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各実施形態で共通する部材、材質、構成、製造方法、作用効果については重複説明を省略する。
【0026】
第1実施形態〔図1〜図6〕: 第1実施形態の加飾シート11の一例を図1及び図2に示す。図1は加飾シート11の平面図と底面図、図2は加飾シート11の断面図を示す。第1実施形態の加飾シート11は、透明な樹脂フィルムでなる基材シート1の裏面に第1加飾印刷層12、透明層15、第2加飾印刷層13がこの順に積層している。すなわち本実施形態では、第1加飾印刷層12と第2加飾印刷層13との間に透明層15を挟んでおり、第1加飾印刷層12と第2加飾印刷層13とは間接的に積層している。
【0027】
第1加飾印刷層12は、互いに略平行な複数の線で構成される縞状パターンである。略平行とは模様を構成する範囲内で隣接する線が交わらない範囲にあることをいう。この縞状パターンを構成する複数の線の線幅は同一であっても良い。また異なっていても良い。隣接する線間の線間隔は同一であっても良い。また異なっていても良い。一の線においてその線幅は均一であっても良い。また均一でなくても良い。さらに、一の線は断点のある鎖線状であっても良い。また断点が無くても良い。好ましくは異なる複数の線幅や線間隔が組み合わされてなるものが良い。但し、線幅、線間隔、線ピッチは所定の範囲内にあることが必要である。ここで「線幅」とは一の線の太さをいう。「線間隔」とは一の線の外縁から隣接する他の線の外縁までの長さ、即ち線自体の太さを含まない線と線との間の間隔である。「線ピッチ」とは一の線の中心から隣接する他の線の中心までの長さ、即ち隣接する直線の中心間の距離である。
【0028】
縞状パターンを構成する各線の線幅は30μm〜100μmであることが好ましく、隣接する線間の間隔は40μm〜180μmであることが好ましい。線幅が30μmより小さいと線を視認し難くなるためヘアラインと認めにくくなる。線幅が100μmを超えると縞状にならずに、ヘアラインと認めにくくなる。また、線間隔が40μmより短いと上下に重なる縞状パターンの重なりが見えにくくなり、深みのあるヘアラインが得られない。線間隔が180μmを超えるとヘアラインを視認しにくくなる。よって、線ピッチは70μm〜280μmが好ましく、110μm〜230μmがより好ましい。
【0029】
第2加飾印刷層13も縞状パターンでなるが、その縞状パターンは、第1加飾印刷層12と同一であっても良い。また異なっていても良い。しかし、同一パターンにすれば縞状パターンを1通り作成するだけで手数が少なく、不均一なヘアラインを得られるため好ましい。図3では、第1加飾印刷層12と第2加飾印刷層13との交差した状態を模式的に示すが、第1加飾印刷層12を構成する縞状パターンと第2加飾印刷層13を構成する縞状パターンが所定の角度θ1で交差している。
【0030】
第1加飾印刷層12の縞状パターンと第2加飾印刷層13の縞状パターンの交差角度は0.1°〜3.0°であることが好ましい。縞状パターンが重なることで、単調な平行線の連続でなるヘアラインではなく、大略一方向に向かう複数の直線ではあるが、線が途切れたり濃淡があったり傾いたりするように見え、不均一で深みのあるヘアラインが得られるからである。交差角度が0.1°よりも小さいと単調な平行線の連続であるヘアラインに見えてしまい、3.0°を超えるとモアレが生じたり、およそヘアラインとは呼べないような格子模様が生じてしまう。
【0031】
図1及び図2で示した加飾シート11は、第1加飾印刷層12の縞状パターンと第2加飾印刷層13の縞状パターンが、共に同じ太さで等間隔に並んだ直線で構成される同一縞状パターンからなり、両縞状パターンが角度3.0°で交差している例である。
【0032】
図1で示す加飾シート11の変形例を図4と図5に示す。図1に示す加飾シート11は、その縞状パターンが同一の線幅の直線が同一の線間隔で並んでなるものであったが、図4に示す加飾シート21は、3種の線幅と1種の線間隔によって構成される縞状パターンでなる第1加飾印刷層22と、1種の線幅と1種の線間隔によって構成される縞状パターンでなる第2加飾印刷層23とが2.0°の角度で交差してなる例である。また、図5に示す加飾シート31は、3種の線幅と3種の線間隔によって構成される縞状パターンでなる第1加飾印刷層32と、この縞状パターンとは異なる3種の線幅と3種の線間隔によって構成される縞状パターンでなる第2加飾印刷層33とが2.0°の角度で交差してなる例である。このようにすれば、縞状パターンの交差形態を不均一とすることができ、縞状パターンの交差によって構成されるヘアラインもより不均一で深みのあるヘアラインとすることができる。
【0033】
また、図1や図4、図5で示す縞状パターンは、複数の直線が略平行に並んで構成されたものであるが、線は直線でなくとも良く、隣接線が交わらなければ波状線や環状線であってもよい。
【0034】
図1や図4、図5に示す加飾シート11,21,31は、加飾印刷層を第1加飾印刷層12,22,32と第2加飾印刷層13,23,33の2層で構成していたが、さらに別の加飾印刷層を積層することができ、2層〜5層の加飾印刷層の積層、即ち縞状パターンの2層〜5層の積層は好ましい実施態様である。5層を超えると最も下側に形成した加飾印刷層が視認し難くなる不都合がある。2層〜3層の積層が深みのあるヘアラインを形成できる点で最も好ましい。
【0035】
次に第1実施形態の加飾シート11を備える「加飾成形体」としての加飾ケース19を説明する。図6で示すように、加飾ケース19は、「成形体」としての筐体2に加飾シート11を設けたものである。加飾シート11の基材シート1が最表面となるように、筐体2の外形面形状に沿って加飾シート11が固着されている。
【0036】
ここで加飾シート11や加飾ケース19の各構成部材の材質について説明する。なお、以下の説明は後述の各実施形態についても共通である。
【0037】
基材シート1を形成する樹脂フィルムの材質は、複数の加飾印刷層を積層できれば足り、該基材シートを通じて各種加飾印刷層を視認させる場合は透光性を有する樹脂が用いられ、透明な樹脂であることが好ましい。例えば、ポリカーボネート樹脂の他、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ポリエチレン樹脂などが挙げられる。基材シート1の表面には艶消し調に視認させるために、シボ加工が施され凹凸を有するものであってもよい。
【0038】
第1加飾印刷層12や第2加飾印刷層13は、スクリーン印刷やグラビア印刷などの印刷手法により形成されるため、こうした印刷用インキが固化した層でなり、その材質はこれらの印刷に適した材料が用いられる。印刷時のインキかすれや印刷後のインキにじみ等を防ぐため、シリカなどの粉末やワックスを添加した印刷インキを用いることもできる。また、透光性、光沢などの性質を有しているものがよく、さらに着色されていても良い。こうした印刷インキは、金属調の色調を表すためには、パールインキや金属粉含有の金属調インキを用いることが好ましい。また、積層した縞状パターンを視認させるため、黒色や白色、その他の顔料を含み透明性のあるインキを用いることが好ましい。高級感があって重みのあるヘアラインとするためには、黒色系の透明インキを用いることが好ましい。第1加飾印刷層12用インキと第2加飾印刷層13用インキは同じであっても異なっていても良く、その色調も同じであっても異なっていても良い。
【0039】
透明層15もまたスクリーン印刷やグラビア印刷などで形成されるため、第1加飾印刷層12等と同様な印刷用インキが用いられる。但し、第1加飾印刷層12や第2加飾印刷層13は、細い線幅のヘアラインを実現するためダレが起きにくいインキが用いられるのに対し、透明層15は、第1加飾印刷層13によって生じた空隙を埋め、平坦な平面を生じさせるものであることから、それに適したインキが用いられる。また、透明層15は、第1加飾印刷層3と第2加飾印刷層4よりも透明性の高いインキが用いられる。
【0040】
成形体としての筐体2は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、ゴム、熱可塑性エラストマー、金属などその用途によって適宜選択される。
【0041】
次に、加飾シート11及び加飾ケース19の製造方法の一例を説明する。基材シート1の片面に、スクリーン印刷にて加飾印刷層12を形成する。この加飾印刷層12を覆うようにスクリーン印刷にて透明層15を形成する。その後加飾印刷層12を印刷したスクリーン版に対し0.1°〜3.0°の範囲内の所定角度で交差する別のスクリーン版を用いて加飾印刷層13を印刷形成し、加飾シート11を得ることができる。次にこの加飾シート11を基材シート1がキャビティー面に接するようにして筐体2の射出成形金型にインサートし、筐体2を射出成形する。このようにして加飾シート11と筐体2とを一体成形し、加飾ケース19を得ることができる。なお、本実施形態では加飾シート11と筐体2とをインサート成形にて一体化しているが、インモールド成形、圧着などの製法を用いることもできる。さらに加飾シート11と筐体2との界面に接着剤を介在させて両者の固着力を高めることもできる。
【0042】
本実施形態の加飾シート11及び加飾ケース19の作用効果について説明する。
【0043】
加飾シート11及び加飾ケース19によれば、加飾印刷層12の裏面側で積層する加飾印刷層13の縞状パターンが、加飾印刷層12の縞状パターンを通して見え隠れし、線が途切れたり、太さが変わったりして見えるとともに、濃淡の差を視認することができる。よって、単調な複数の平行線でなるヘアラインではなく、大略一方向へ向かう直線でなるが、線が途切れたり濃淡があったりするような微細パターンでなり不均一に見える深みのあるヘアライン加飾を実現できる。
【0044】
また、従来技術のような凹凸パターン面にホットスタンプ箔を転写したものと異なり、エアー巻き込みによる品位の低下の無いヘアライン加飾を有することができる。
【0045】
立体的に交差する縞状パターンを視認することができ、奥行き方向に凹凸外観のあるヘアラインを実現することができる。
【0046】
第2実施形態〔図7〕: 第2実施形態の加飾シート41の一例を図7に示す。図7は図2相当の断面図である。第2実施形態の加飾シート41が、第1実施形態の加飾シート11と異なるのは、透明層15を無くし、基材シート1の表裏面に分けて第1加飾印刷層42と第2加飾印刷層43を設け、さらに保護層45と反射層46を備えた構成としたことである。
【0047】
本実施形態では、基材シート1の表面に第1加飾印刷層42を、裏面に第2加飾印刷層43を設けてある。さらに基材シート1の表面には第1加飾印刷層42を覆う透明な保護層45が形成され、裏面には第2加飾印刷層43を覆う反射層46が形成されている。
【0048】
第1加飾印刷層42や第2加飾印刷層43の材質、形成方法は第1実施形態で示した第1加飾印刷層12や第2加飾印刷層13の材質、形成方法と同じである。保護層45は、第1加飾印刷層42を保護するための層であり、印刷やスプレー塗装による塗膜形成など各種塗装によって形成でき、透明性が高い材料が用いられる。
【0049】
反射層46は、第1加飾印刷層42や第2加飾印刷層43に因らずに金属類似の外観を表出させる層であり、金色、銀色などのパール調の塗膜でなる他、メタリック調の塗膜、アルミニウムなどの金属薄膜でなる。
【0050】
次に、加飾シート41及びこの加飾シート41を備えた加飾ケース49の製造方法の一例を説明する。基材シート1の一方面に、スクリーン印刷にて第1加飾印刷層42を形成し、この第1加飾印刷層42を覆うようにスクリーン印刷にて保護層45を形成する。その後基材シート1の他方面に、第1加飾印刷層42を印刷したスクリーン版に対し0.1°〜3.0°の範囲内の所定角度で交差する別のスクリーン版を用いて第2加飾印刷層43を印刷形成し、この第2加飾印刷層43を覆うようにスクリーン印刷にて反射層46を形成する。このようにして加飾シート41を得ることができる。またこの加飾シート41を保護層45がキャビティー面に接するようにして筐体2の射出成形金型にインサートし、筐体2を射出成形すれば、加飾シート41と筐体2とを一体成形した加飾ケース49を得ることができる。
【0051】
第2加飾印刷層43の裏面側に反射層46を備えるため、第1加飾印刷層42と第2加飾印刷層43を裏面側から明るく照らし出すことができ、金属調の外観を表現することができる。よって金属調のヘアラインを実現できる。そしてさらに、第1加飾印刷層42や第2加飾印刷層43に光沢を有するインキを用いると、反射層46と相俟って光を反射するため、縞状パターンの交差によって生じるヘアラインを凹凸感がありさらに深みのあるものとすることができる。
【0052】
第3実施形態〔図8〕: 第3実施形態の加飾シート51の一例を図8に示す。図8は図2相当の断面図である。第3実施形態の加飾シート51が、第1実施形態の加飾シート11と異なるのは、加飾シート11における透明層15を設けない構成とし、2以上の加飾印刷層を離さずに隣接して設けたことにある。即ち、本実施形態では、第2加飾印刷層53を第1加飾印刷層52に対し直接積層している。
【0053】
次に、第3実施形態の加飾シート51及びこの加飾シート51を備えた加飾ケース59の製造方法の一例を説明する。一方面にシボ目が形成されている基材シート1の他方面に、スクリーン印刷にて第1加飾印刷層52を印刷形成する。その後、第1加飾印刷層52を印刷したスクリーン版を所定角度回転して第2加飾印刷層53を印刷形成して加飾シート51を得る。またこの加飾シート51を基材シート1がキャビティー面に接するようにして筐体2の射出成形金型にインサートし、筐体2を射出成形すれば、加飾シート51と筐体2とを一体成形した加飾ケース59を得ることができる。
【0054】
加飾シート51では、基材シート1にシボ目を有し艶消し調であるので、基材シート1表面における光の反射を防ぎ、質感に優れた高級感のある加飾シート51及び加飾ケース59が、印刷工程数が少なく低コストで実現できる。
【0055】
第4実施形態〔図9、図10〕: 第4実施形態の加飾シート61の一例を図9で示す。図9は図2相当の断面図である。第4実施形態の加飾シート61が、第3実施形態の加飾シート51と異なるのは、加飾印刷層がさらに1層増えて第3加飾印刷層64を有し、この第3加飾印刷層64を、第1加飾印刷層62、第2加飾印刷層63の上にさらに重ねて設けたことと、その第3加飾印刷層64にさらに重ねて反射層66を設けた構成としたことである。
【0056】
図10は、第1加飾印刷層62から第3加飾印刷層64の積層状態を模式的に示した図である。第1加飾印刷層62の縞状パターンと第2加飾印刷層63の縞状パターンの交差角度をθ2、第1加飾印刷層62の縞状パターンと第3加飾印刷層64の縞状パターンの交差角度をθ3、第2加飾印刷層63の縞状パターンと第3加飾印刷層64の縞状パターンの交差角度をθ4とすると、θ2、θ3、θ4ともに0.5°〜3.0°の範囲内にある。
【0057】
次に、第4実施形態の加飾シート61及びこの加飾シート61を備える加飾ケース69の製造方法の一例を説明する。一方面にシボ目が形成されている基材シート1の他方面に、スクリーン印刷にて第1加飾印刷層62を形成する。次に第1加飾印刷層62を印刷したスクリーン版に対し0.1°〜3.0°の範囲内の所定角度で交差する別のスクリーン版を用いて第2加飾印刷層63を形成する。その後、第1加飾印刷層62を印刷したスクリーン版に対し0.1°〜3.0°の範囲内の所定角度で交差するさらに別のスクリーン版を用いて第3加飾印刷層64を形成する。なおここで、第2加飾印刷層62を印刷するスクリーン版と第3加飾印刷層64を印刷するスクリーン版との交差角度も0.1°〜3.0°の範囲内にあるものとする。最後にこれら第1加飾印刷層62〜第3加飾印刷層64を覆うようにスクリーン印刷にて反射層66を形成する。このようにして加飾シート61を得る。また、基材シート1がキャビティー面に接するようにしてこの加飾シート61を筐体2の射出成形金型にインサートし、筐体2を射出成形すれば、加飾シート61と筐体2とを一体成形した加飾ケース69を得ることができる。得られた加飾シート61、及びそれを備えた加飾ケース69では、3種の加飾印刷層が積層した複雑で細かなヘアラインを有する。
【実施例】
【0058】
次に実施例及び比較例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
実施例1: (加飾シートの製造)第3実施形態に示す加飾シート(51)を製造した。一方面にシボ目が形成されている厚さ100μmの透明なポリカーボネート樹脂製の基材シート(1)の他方面に、黒色光沢インキをスクリーン印刷して厚さ5μm〜7μmの第1加飾印刷層(52)を形成した。この第1加飾印刷層(52)は、1本の直線の線幅が30μm〜100μmの範囲内で、隣接する直線の間隔が40μm〜180μmの範囲内にあるように複数の直線が略平行に並び縞状パターンを構成するものである。その後、第1加飾印刷層(52)を印刷したスクリーン版に対し0.1°の角度で交差する別のスクリーン版を用いて、第1加飾印刷層(52)と同一のインキにて厚さ5μm〜7μmの第2加飾印刷層(53)を、第1加飾印刷層(52)上に直接形成した。こうして、第1加飾印刷層(52)と第2加飾印刷層(53)の互いの縞状パターンが交差角度θ1=0.1°で交わる試料1の加飾シート(51)を得た。
【0060】
(加飾シートの外観評価) 試料1の加飾シート(51)の表面を目視で評価した。大略平行に並ぶ複数の直線状であるが、各直線は途切れたり濃淡があったりするように見え、不均一なヘアラインが認められる場合を「○」、○の状態に加えてより凹凸感があり金属調で深みのあるヘアラインが認められる場合を「◎」、複数の平行線でなる単調で均一なヘアラインが認められたり、大略平行に並ぶ線の集合には見えずヘアラインとは認められない場合を「×」とした。結果を表1に示す。
【0061】
実施例2〜実施例5: 交差角度θ1を、各々表1で示す角度となるように、第1加飾印刷層(52)と第2加飾印刷層(53)を設けた以外は実施例1と同様にして試料2〜試料5の加飾シート(51)を製造するとともに、実施例1と同じ方法にて、得られた加飾シート(51)を評価した。結果を表1に示す。
【0062】
比較例1: 第1加飾印刷層の印刷形成後、スクリーン版を1cm平行移動して、第2加飾印刷層を印刷形成した以外は実施例1と同様にして試料6の加飾シートを製造した。また、実施例1と同じ方法にて、得られた加飾シートを評価した。結果を表1に示す。
【0063】
比較例2: 第1加飾印刷層の印刷形成後、スクリーン版を3.5°回転し交差角度θ1=3.5°として第2加飾印刷層を印刷形成した以外は実施例1と同様にして試料7の加飾シートを製造した。また、実施例1と同じ方法にて、得られた加飾シートを評価した。結果を表1に示す。
【0064】
実施例6〜実施例10: 第1加飾印刷層(52)の縞状パターンを構成する直線の線幅、線間隔をそれぞれ表2に示すようにして第1加飾印刷層(52)を形成し、第1加飾印刷層(52)と同じ縞状パターンからなる第2加飾印刷層(53)を、第1加飾印刷層(52)と第2加飾印刷層(53)との交差角度θ1を2.0°として交差させて第1加飾印刷層(52)と第2加飾印刷層(53)とを設けた以外は実施例1と同様にして試料8〜試料12の加飾シート(51)を製造するとともに、実施例1と同じ方法にて、得られた加飾シート(51)を評価した。結果を表2に示す。
【0065】
比較例3〜比較例6: 第1加飾印刷層の縞状パターンを構成する直線の線幅、線間隔をそれぞれ表3に示すようにして第1加飾印刷層を形成し、第1加飾印刷層と同じ縞状パターンからなる第2加飾印刷層を、第1加飾印刷層と第2加飾印刷層ととの交差角度θ1を2.0°として交差させて第1加飾印刷層と第2加飾印刷層とを設けた以外は実施例1と同様にして試料13〜試料16の加飾シートを製造するとともに、実施例1と同じ方法にて、得られた加飾シートを評価した。結果を表3に示す。
【0066】
実施例11: (加飾シートの製造)第4実施形態に示す加飾シート(61)を製造した。実施例1の基材シート(1)のシボ目が形成されていない面に実施例1と同じ黒色光沢インキでスクリーン印刷により第1加飾印刷層(62)から第3加飾印刷層(64)を順次積層形成した。第1加飾印刷層(62)〜第3加飾印刷層(64)を構成する縞状パターンは同一である。その縞状パターンは、直線の数の割合が、線幅50μmの直線が15%、同80μmの直線が70%、同100μmの直線が15%とし、隣接する直線の線間隔は60μm〜180μmの範囲、線のピッチは110μm〜230μmの範囲となるようにした。第1加飾印刷層(62)と第2加飾印刷層(63)との交差角度θ2=0.6°、第1加飾印刷層(62)と第3加飾印刷層(64)との交差角度θ3=2.3°、第2加飾印刷層(63)と第3加飾印刷層(64)との交差角度θ4=2.9°とした。各加飾印刷層(62,63,64)の厚さは何れも5μm〜7μmである。次に、これらの加飾印刷層(62,63,64)を覆うように銀色パール調インキでスクリーン印刷して反射層(66)を形成して試料17の加飾シート(61)を製造した。
【0067】
(加飾シートの評価) 試料17の加飾シート(61)の表面を実施例1と同じ方法で評価した。結果を表3に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】第1実施形態の加飾シートであり、分図1(A)はその平面図、分図1(B)は底面図。
【図2】図1のSA−SA線断面図。
【図3】図1(B)の部分拡大図。
【図4】第1実施形態の変形例における加飾シートの図1(B)相当の底面図。
【図5】第1実施形態の別の変形例における加飾シートの図1(B)相当の底面図。
【図6】第1実施形態の加飾シートを備える加飾ケースの要部拡大断面図。
【図7】第2実施形態における加飾シートの図2相当の断面図。
【図8】第3実施形態における加飾シートの図2相当の断面図。
【図9】第4実施形態における加飾シートの図2相当の断面図。
【図10】第4実施形態における加飾シートの図3相当の部分拡大図。
【符号の説明】
【0072】
1 基材シート
2 筐体(成形体)

11 加飾シート(第1実施形態)
12 第1加飾印刷層
13 第2加飾印刷層
15 透明層
19 加飾ケース(加飾成形体)
21 加飾シート(第1実施形態の変更例)
22 第1加飾印刷層
23 第2加飾印刷層
31 加飾シート(第1実施形態の別の変更例)
32 第1加飾印刷層
33 第2加飾印刷層

41 加飾シート(第2実施形態)
42 第1加飾印刷層
43 第2加飾印刷層
45 保護層
46 反射層

51 加飾シート(第3実施形態)
52 第1加飾印刷層
53 第2加飾印刷層

61 加飾シート(第4実施形態)
62 第1加飾印刷層
63 第2加飾印刷層
64 第3加飾印刷層
66 反射層

θ1,θ2,θ3、θ4 交差角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートに、縞状パターンで構成される2以上の加飾印刷層を備えており、一の加飾印刷層を構成する縞状パターンが、他の加飾印刷層を構成する縞状パターンと平面視で交差して積層している加飾シート。
【請求項2】
2以上の加飾印刷層が隣接して積層している請求項1記載の加飾シート。
【請求項3】
2以上の加飾印刷層が、同一の縞状パターンでなる請求項1または請求項2記載の加飾シート。
【請求項4】
所定の線幅から任意に選択された線幅を有する複数の線が、所定の線間隔から任意に選択された間隔をあけて前記縞状パターンを形成している請求項1〜請求項3何れか1項記載の加飾シート。
【請求項5】
前記線幅が30μm〜100μmであり、前記線間隔が40μm〜180μmである請求項4記載の加飾シート。
【請求項6】
互いに交差する縞状パターンの交差角度が、0.1°〜3.0°である請求項1〜請求項5何れか1項記載のキーシート。
【請求項7】
加飾印刷層が透光性を有する請求項1〜請求項6何れか1項記載の加飾シート。
【請求項8】
積層する加飾印刷層の裏面側に反射層を備える請求項1〜請求項7何れか1項記載の加飾シート。
【請求項9】
請求項1〜請求項8何れか1項記載の加飾シートを成形体の外形面に備える加飾成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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