説明

加飾成形品の製法およびこれにより得られる加飾成形品

【課題】ぬれ張力が38ダイン未満の成形品の表面に、簡単に美麗な加飾ができ、しかも、トップコート層を設けなくても、その表面の保護が充分に図られる加飾成形品の製法およびこれにより得られる加飾成形品を提供する。
【解決手段】ベース7の上に、アンダーコート層8、着色層5、表面のぬれ張力が38ダイン未満のコート層9をこの順で設けた蓋枠3を準備し、模様Qの形成予定部分に対してCO2レーザを照射し、ベース7が露出したレーザ除去跡Q"に模様付与層6を設け、模様Qを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低コストで、しかも美麗な外観を長期間保つことのできる加飾成形品の製法およびこれにより得られる加飾成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂やガラス等の成形品において、外観デザイン性を向上させるために、成形品に箔押しや印刷等を行って、その表面を加飾することが一般的に行われている。しかし、このような、箔押しや印刷等を行う場合、成形品の表面をJIS K6768によるぬれ張力(以下「ぬれ張力」という)を38ダイン以上にする必要がある。すなわち、成形品表面のぬれ張力が38ダイン未満であると、成形品表面と箔やインキとのなじみ性が小さいため、箔やインキを保持することができず、これらを上手く付着固定させることができないからである。
【0003】
したがって、箔押しや印刷等を行って成形品の表面を加飾する場合は、成形品表面のぬれ張力を意図的に38ダイン以上に上げて加飾を行っている。しかし、このような成形品の表面は、硬度が比較的低く、通常の使用で容易に傷や汚れが発生するという問題がある。すなわち、表面に箔押しや印刷等で加飾を行い、美麗な外観の成形品を製造しても、この美麗な外観を長期間保つことができないという問題がある。
【0004】
そこで、ぬれ張力が38ダイン以上の成形品の表面に、箔押しや印刷等の加飾を行った後、その上に、透明の、いわゆるハードコート層と呼ばれる硬度の高いトップコート層を設け、成形品の表面の保護を図ることが一般的に行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−130954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、箔押しや印刷等で加飾を行った成形品の表面に、さらに、硬度の高いトップコート層を設けることは、製造コストの上昇を招くため、本来は好ましくない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、成形品の表面のぬれ張力を38ダイン未満に形成し、表面の硬度が高くても、その表面に美麗な加飾が簡単にでき、しかも、トップコート層を設けなくても、その表面の保護が充分に図られる加飾成形品の製法およびこれにより得られる加飾成形品の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の加飾成形品の製法は、表面にぬれ張力が38ダイン未満のコート層が形成された成形品を準備する工程と、上記成形品のコート層表面に対してレーザ照射を行い、その照射によって上記コート層を部分的に除去する工程と、上記コート層が除去された部分の上にのみ、模様付与層を形成することにより、上記コート層除去部と同一形状の模様を得る工程とを備えたことを第1の要旨とする。
【0009】
また、上記第1の要旨の製法によって得られる加飾成形品であって、表面にぬれ張力が38ダイン未満のコート層が形成され、かつ、そのコート層がレーザ照射によって部分的に除去され、その除去部の上にのみ模様付与層が形成されて、上記コート層除去部と同一形状の模様になっている加飾成形品を第2の要旨とする。
【0010】
本発明者らは、まず、表面のぬれ張力が38ダイン未満のコート層を有する成形品に、箔押しや印刷等の加飾を行うことができれば、その上にさらにトップコート層を設けなくても、成形品の表面の保護が充分に図れるのではないかと想起した。これは、通常、ぬれ張力が38ダイン未満であると、その硬度も充分高くなるためである。したがって、ぬれ張力が38ダイン未満のコート層に箔押しや印刷等の加飾を行うことについて、検討を重ねた。その結果、表面のぬれ張力が38ダイン未満のコート層を設けた成形品を準備し、このコート層の、模様付与を予定する部分のみを、レーザ照射を用いて除去し、その上に、箔押しや印刷等を行うようにすると、模様の付与を予定する部分にのみ、箔やインキを付着固定させることができ、しかも、成形品全体としては、その表面の保護が図れることを突き止め、本発明に至った。すなわち、本発明は、従来、成形品の表面のぬれ張力が38ダイン未満である場合には、そのコート層に、箔押しや印刷等の加飾を行うことができない、という常識を打破してなされたものである。
【発明の効果】
【0011】
このように、本発明の加飾成形品の製法は、従来の常識に反して、表面に、ぬれ張力が38ダイン未満であるコート層を有する成形品に対し、箔押しや印刷を行い、その表面を加飾するものである。このため、成形品として、表面がぬれ張力38ダイン未満であるコート層で被覆されている汎用品を用いることが可能であり、わざわざぬれ張力を下げた特殊な成形品を別途製造する必要がなく、余分な製造コストおよび工程が発生しない。また、成形品表面のコート層の除去をレーザ照射によって行うため、所望の模様付与予定部分のコート層を精度よく除去でき、微細な模様の付与が可能になる。そして、所望の模様付与予定部分以外の成形品表面は、ぬれ張力が38ダイン未満のコート層で被覆され、箔やインキ等が付着してもこれらを保持する力がないため、箔押しや印刷工程において、別途マスキング工程を設ける必要がない。さらに、上記ぬれ張力が38ダイン未満のコート層は高い硬度を兼ね備えているため、所望の模様付与予定部分以外の成形品表面は、充分に硬いコート層で被覆されていることになり、保護のためのトップコート層をさらに設ける工程が不要となり、工程およびコストの削減を実現できる。
【0012】
また、本発明のなかでも、上記成形品として、コート層が透明で、そのコート層の下に、直接または他の透明な層を介して着色層が形成された成形品を用いるようにしたものは、模様付与層と着色層とのコントラストによって、より興趣に富む外観デザインの加飾成形品を低コストで迅速に製造できる。
【0013】
そして、本発明のなかでも、上記レーザ照射によるコート層の除去の際、その除去部の形状が、直径5mm以下の略点形状および幅5mm以下の略線形状の少なくとも一方となるようにしたものは、美麗な外観デザインの加飾成形品をより迅速に製造できる。
【0014】
さらに、本発明のなかでも、第1の要旨の加飾成形品の製法によって得られる加飾成形品であって、表面にぬれ張力が38ダイン未満のコート層が形成され、かつ、そのコート層がレーザ照射によって部分的に除去され、その除去部の上にのみ模様付与層が形成されて、上記コート層除去部と同一形状の模様になっているものは、所望の模様が美麗な状態で付与されており、しかも、成形品の表面はぬれ張力が38ダイン未満の硬度の高いコート層で被覆されているため、その模様が長期間に渡って美麗な状態が維持される。また、トップコート層の形成が不用であるため、加飾成形品全体の重量が従来品に比べて軽量化することができる。
【0015】
また、本発明のなかでも、上記コート層が透明で、そのコート層の下に、直接または他の透明な層を介して着色層が形成されているものは、模様付与層と着色層とのコントラストによって、より興趣に富む外観デザインを実現できる。
【0016】
さらに、上記模様付与層による模様が、直径5mm以下の略点形状および幅5mm以下の略線形状の少なくとも一方で構成されているものは、微細な模様の付与を得意とするレーザの特徴を充分に活かした美麗な加飾を実現でき、しかも、成形品表面全体に対して模様部分の占める面積比率が低いため、成形品表面の保護がより図られる。
【0017】
なお、本発明において、「透明」とは、光の透過率が高く、反対側が透けて見えることをいい、反対側が透けて見える限りいわゆる「半透明」をも含むことを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例の斜視図である。
【図2】上記実施例の開蓋状態の斜視図である。
【図3】上記実施例における蓋体の説明図である。
【図4】上記実施例における蓋体の部分的な断面図である。
【図5】上記実施例における蓋体の製法の説明図である。
【図6】上記実施例における蓋体の製法の説明図である。
【図7】上記実施例における蓋体の製法の説明図である。
【図8】上記実施例における蓋体の製法の説明図である。
【図9】上記実施例における蓋体の製法の説明図である。
【図10】上記実施例における蓋体の製法の説明図である。
【図11】(a),(b),(c)はいずれも、本発明の他の実施例の説明図である。
【図12】(a),(b),(c)はいずれも、本発明の他の実施例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0020】
図1は、本発明を実施するための形態であるコンパクト容器の斜視図であり、1は容器本体、2は蓋体である。上記容器本体1は、平面視が縦6cm×横10cmの略長方形の形状で、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」という)製である。蓋体2は、容器本体1の上面全体を蓋する形状で、図3に示すように、模様Qを有するPET製の蓋枠3に、宝石様の凹凸Q’を有する透明表面板4が、模様Qと凹凸Q’が重なるように嵌め込まれ、一体化されている。
【0021】
より詳しく説明すると、上記蓋枠3は、その部分的な断面図である図4に示すように、無色透明な樹脂成形品であるベース7の上に同じく無色透明のアンダーコート層8とコート層9と模様付与層6からなる模様Qとが設けられている。そして、この蓋枠3に、透明表面板4が嵌め込まれて一体化されることによって蓋体2が構成されており、上記透明表面板4に部分的に設けられた宝石様の凹凸Q’が、ベース7上に設けられた模様付与層6からなる模様Qに、その裏面側から重ね合わされている。
【0022】
したがって、蓋体2の表面は、地の部分(模様Qが形成されていない部分)が、透明表面板4を透かして蓋枠3の着色層5の金属光沢色として見えており、また、透明表面板4に部分的に形成されている宝石様の凹凸Q’部分からは、ホログラム調の色彩を有する模様付与層6が透けて見えている。よって、この蓋体2の表面は、金属光沢色の板の上に、複数の宝石が部分的に散りばめられているように見える。
【0023】
なお、上記蓋体2の後端部には、下向きにヒンジ部(図示せず)が突設されており、このヒンジ部が容器本体1の後端の溝部(図示せず)と係合することにより、蓋体2が上方に開くようになっている。図2は、開蓋時のコンパクト容器の斜視図である。そして、図1および図2において、各部分は模式的であり、実際の大きさとは異なっている(以下の図においても同じ)。
【0024】
このような蓋体2は、例えばつぎのようにして得ることができる。すなわち、まず、表面の一部に凹凸Q’が形成された樹脂成形品である無色の透明表面板4を射出成形機等を用いて成形する。
【0025】
一方、図5に示すように、無色透明のベース7の上に、無色透明のアンダーコート層8を介して金属光沢色の着色層5を設け、さらに着色層5の上に無色透明のコート層9を設けた蓋枠3を準備する。なお、蓋枠3の最外層であるコート層9は、硬化後の表面のぬれ張力が38ダイン未満でなければならない。
【0026】
つぎに、図6に示すように、上記蓋枠3のコート層9が形成された側から、模様Qの形成予定部分に、CO2レーザを照射し、模様Qの形成予定部分のアンダーコート層8、着色層5およびコート層9を除去し、ベース7が露出したレーザ除去跡Q”を形成する。
【0027】
そして、図7に示すように、剥離層10の上に模様付与層6が積層されているホログラム箔11を準備し、模様付与層6が形成されている面を、上記ベース7側のレーザ除去跡Q”に強く押し当て、レーザ除去跡Q”にのみ模様付与層6を転写する(図8)。このとき、ホログラム箔11の模様付与層6がレーザ除去跡Q”周囲のコート層9に当接しても、コート層9のぬれ張力が38ダイン未満であるため、付着固定しない。したがって、仮に模様付与層6がレーザ除去跡Q”の周囲に付着しても、これをすぐに除去できるため、レーザ除去跡Q”部分にのみ、模様付与層6に由来する模様Qが精巧に形成される。
【0028】
このようにして形成した蓋枠3を、図10に示すように、上下を反対にして、蓋枠3のベース7面と、透明表面板4の凹凸Q’を形成していない面とを、模様Qと凹凸Q’とが一致するように、両者を重ね合わせ、一体化することにより、これらQ,Q’の重なりによって宝石調に見える立体的な模様ができる。したがって、着色層5に由来する金属光沢色の地色の上に、色彩の異なる複数の宝石が散りばめられているように見える上記蓋体2を得ることができる。
【0029】
この方法によれば、従来、箔押しや印刷によって表面を直接加飾することが困難であった、表面のぬれ張力が38ダイン未満あるコート層で被覆されている成形品に対し、簡単に、箔押しや印刷を行うことができる。また、特殊な成形品を別途製造する必要がないため、余分な製造工程およびコストが不要となる。そして、コート層の除去をレーザ照射によって行うため、精度よく所望の模様Qの付与を行うことができる。さらに、蓋枠3の表面において、レーザ除去跡Q”以外の部分は、箔やインキを弾くため、レーザ除去跡Q”に模様付与層6を設ける際に、別途マスキングする必要がなく、工程の簡略化、コストの低減を実現できる。また、別途トップコート層を設ける必要がないため、工程の簡略化と低コスト化を実現できる。そして、透明表面板4の凹凸Q’と、レーザ除去跡Q”を形成する際の模様データを共通化すると、凹凸Q’と模様Qとも全く同一形状に作製し、両者の位置合わせをより正確に行うことができるため、簡単に、美麗な外観デザインを実現できる。
【0030】
また、この方法により得られた加飾成形品である蓋体2は、斜め方向から表面を見ると、透明表面板4の凹凸Q’が、金属光沢を有する着色層5に映るため、奥行き感のある複雑な陰影をつくり出し、より興趣に富む外観となっている。また、蓋体2の表面側に、透明表面板4が嵌め込まれ、蓋体2の外観の保護が図られている。そして、蓋体2の裏面側は、模様Q形成部分以外の表面が、ぬれ張力38ダイン未満のコート層で被覆されているため、傷や汚れがつきにくくなっている。また、この側には、通常、鏡が嵌め込まれるため、その場合には、より傷や汚れがつかず長期に渡って美麗な外観デザインが維持される。さらに、透明表面板4の凹凸Q’と、レーザ除去跡Q”を形成する際の模様データを共通化すると、凹凸Q’と模様Qとが全く同一形状となり、両者の位置合わせがより正確に行われるため、美麗な外観デザインの加飾成形品を製造できる。
【0031】
上記の例において、樹脂成形品であるベース7はPETからなるが、その他の合成樹脂等を用いることもできる。なかでも、合成樹脂として、PET,メタクリル樹脂(PMMA),アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS),アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS),ポリプロピレン(PP)を用いると、成形性,耐久性,軽量性の点で好ましい。なお、模様Qを、ベース7の裏面側(図4の上方、着色層5等が形成されていない側)から見せる場合には、ベース7は無色透明,有色透明であることが必要である。
【0032】
また、上記のアンダーコート層8は、アクリル系樹脂を主成分とする無色透明のアンダーコート用樹脂組成物によって形成されている。そして、その厚みは、通常、20μm以下であることが好適である。すなわち、厚すぎると、ベース7と着色層5との接着性が逆に低下する傾向がみられ、また、アンダーコート層8の重量が意味なく増加することになり、その結果、容器全体の軽量化を阻害する傾向がみられるためである。そして、アンダーコート層8は、アクリル系樹脂を主成分とするものに限らず、これに代えて、樹脂成形品と着色層との密着性を高めるために用いられる、シリコーン系などの一般的なアンダーコート用樹脂組成物を用いることができる。また、このアンダーコート用樹脂組成物に、各種の着色剤を含有させて、着色することもできる。
【0033】
上記の着色層5は、アルミニウム蒸着による金属薄膜からなる。この例では、着色層5の厚みは0.04μmである。ここで、蒸着とは、通常、真空中(一般的には10-2Pa以下)で蒸着材料を加熱蒸発させ、この蒸発粒子を成形品に析出させる薄膜形成法をいう。また、上記の例において、着色層5は、アルミニウム蒸着による金属薄膜からなるが、このほかにも、塗装や印刷等の各種の着色法を用いて、合成樹脂塗料膜、印刷インキ膜からなるようにしてもよい。
【0034】
さらに、上記のコート層9は、無色透明のアクリル系塗料を塗布することによって形成されており、その厚みは、10〜20μmにすることが好適である。すなわち、薄すぎると、その下の着色層5等の保護が充分に図れない傾向がみられ、また、厚すぎると、保護の効果は充分であるものの、容器全体の重量が増加して、軽量化を阻害する傾向がみられるためである。
【0035】
そして、上記のレーザ除去跡Q”は、CO2レーザ照射を行い、模様Q付与予定部分のアンダーコート層8,着色層5,コート層9が断続的に溶融除去され、直径5mm以下の略点形状に形成されている。なお、このとき、CO2レーザの照射条件は、予め入力したプログラムに従って制御されるようになっている。
【0036】
さらに、上記のコート層9は、アクリル系塗料を塗布することによって形成されているが、このほかにも、他のコート用塗料を用いることができる。なお、必要に応じて、このコート層9を形成する各種の塗料に着色剤を含有させ、着色することもできる。この場合、着色層5の色と重ね合わせることにより、デザインの幅がより広がるようになる。また、コート層9は、着色層5の磨耗防止等の保護機能を有し、加飾成形品の耐久性向上を実現する役目も担っているが、さらに紫外光劣化を防止するために、UVカット剤等を上記各種コート用塗料に添加してもよい。
【0037】
なお、本発明において、レーザ除去跡Q”は、CO2レーザ照射によって形成する以外に、YAGレーザ,ルビーレーザ,YVO4レーザ,半導体レーザ等、各種のレーザ装置を用いて形成することができる。なかでも、制御がし易く、仕上がりが美麗な点において、CO2レーザを用いることが好適である。
【0038】
また、本発明においては、上記の例に限らず、例えば、図11(a)に示すように、アンダーコート層8および着色層5を設けず、ベース7の上に直接コート層9を設けた成形品を用いて、模様Qを形成することや、図11(b)に示すように、アンダーコート層8を設けず、ベース7の上に着色層5、コート層9をこの順で設けられた成形品を用いて、模様Qを形成してもよい。また、図11(c)に示すように、アンダーコート層8をレーザ照射の際に残すようにしてもよい。この場合、模様付与層6の付着性の向上が期待できるだけでなく、アンダーコート層8に着色があれば、アンダーコート層8の色と模様付与層6の色とが重なり、模様Qにより複雑な色調を与えることができる。
【0039】
また、本発明においては、上記蓋枠3だけで充分に外観デザインが完成されるため、透明表面板4は必ずしも用いなくてもよい。しかし、透明表面板4を組み合わせると、外観デザインの幅をより広げることができる。
【0040】
なお、本発明の加飾成形品は、上記の例において、模様Qを、図9に示すコート層9等が形成された側(図の上方)を表面として用いてもよいし、その反対側(図の下方)を表面として、ベース7を透かして模様Qを見るように用いてもよい。反対側(図の下方)を表面として用いる場合には、ベース7を透明に形成しなければならないが、表面に凹凸が一切形成されていないため、より耐久性のある長寿命の加飾成形品となる。
【実施例】
【0041】
つぎに、本発明の実施例について、比較例と合わせて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0042】
まず、実施例および比較例の説明に先立ち、下記に示す成形品を準備した。
〔成形品〕
図12(a)に示すように、無色透明の樹脂成形品からなるベース7〔PET板(5×5×0.3cm)〕上に、白色パールの着色剤を含有するシリコーン系塗料を塗布してコート層9を設けた成形品Aと、上記シリコーン系塗料のシリコーン含量を増減する等の調製を行い、表面のぬれ張力を増減した成形品B〜Eを準備した。なお、上記成形品A〜Eの表面のぬれ張力をJIS K6768に従って測定したところ、成形品Aは36ダイン、成形品Bは34ダイン、成形品Cは32ダイン、成形品Dは38ダイン、成形品Eは40ダインであった。
【0043】
〔実施例1〜3〕
成形品A〜Cのコート層9をCO2レーザ照射により部分的に除去し、図12(b)に示すように、幅2mm×長さ5mmの略線形状が1cm間隔で3本設けられたレーザ除去跡P”をそれぞれ形成した。このレーザ除去跡P”に対し、汎用されているホログラム箔の模様付与層6を転写し、図12(c)に示すように、表面に模様Pが形成された加飾成形品を製造した。
【0044】
〔比較例1,2〕
成形品A〜Cに代えて成形品D,Eを用いたほかは、実施例1〜3と同様にして、表面に模様Pが形成された加飾成形品を製造した。
【0045】
〔比較例3〕
CO2レーザ照射を行わず(レーザ除去跡P”を形成せず)に、ホログラム箔を転写したほかは、実施例1と同様にして、表面に模様Pが形成された加飾成形品を製造した。
【0046】
これらの実施例品および比較例品について、その表面の「ホログラム箔の付着固定性」、コート層9の「耐磨耗性」および「鉛筆硬度」の評価を行った。それらの評価は、以下の基準により行い、結果を後記の「表1」に合わせて示す。
【0047】
<ホログラム箔の付着固定性>
各実施例品および比較例品の表面に形成された模様Pを、手指を10往復させて強く擦り、擦った後の模様Pを目視にて観察した。そして、模様Pが表面に充分に付着固定しており、変化がなかったものを○、模様Pの付着固定が不充分であり、欠けや剥がれが見られたものを×として、評価した。
【0048】
<耐磨耗性>
テーバー磨耗試験機(MODEL5130、東洋精機社製)に磨耗輪CS10Fを取り付け、荷重250gで各実施例品および比較例品のコート層9が形成されている面で50回転させ、外観の変化を観察した。観察によって、外観の良好なものを○、コート層9に傷が入り白色パール色調が失われたり、欠けや剥がれが見られたものを×として、評価した。
【0049】
<鉛筆硬度試験>
JIS K 5600準拠の鉛筆硬度試験機(No.553、安田精機社製)に三菱鉛筆社製の鉛筆硬度試験用鉛筆を装着し、荷重750g、引っかき角度45°、引っかき速度0.5mm/分にて、各実施例品および比較例品のコート層9表面(模様Pが形成されていない部分)の鉛筆硬度を測定した。
【0050】
【表1】

【0051】
上記の結果から、実施例1〜3品のすべてにおいて、ホログラム箔の付着固定性がよく、模様Pを正確に形成することができた。しかも、耐摩耗に優れ、鉛筆硬度も硬いことより、得られた加飾成形品が長寿命であることが示された。これに対し、比較例1,2品では、ホログラム箔の付着固定性はよいものの、耐摩耗性が劣り、鉛筆硬度も柔らかいことより、得られた加飾成形品が傷および汚れがつきやすいものであることが示された。比較例3品では、ホログラム箔が付着固定せず、表面に模様Pを形成すること自体ができなかった。このため、比較例3品の耐磨耗性および鉛筆硬度は測定していない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の製法は、化粧料容器や携帯電話等の、装飾性が要求される加飾成形品の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
3 蓋枠
5 着色層
6 模様付与層
7 ベース
8 アンダーコート層
9 コート層
Q 模様
Q” レーザ除去跡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にJIS K6768によるぬれ張力が38ダイン未満のコート層が形成された成形品を準備する工程と、上記成形品のコート層表面に対してレーザ照射を行い、その照射によって上記コート層を部分的に除去する工程と、上記コート層が除去された部分の上にのみ、模様付与層を形成することにより、上記コート層除去部と同一形状の模様を得る工程とを備えたことを特徴とする加飾成形品の製法。
【請求項2】
上記成形品として、コート層が透明で、そのコート層の下に、直接または他の透明な層を介して着色層が形成された成形品を用いるようにした請求項1記載の加飾成形品の製法。
【請求項3】
上記レーザ照射によるコート層の除去の際、その除去部の形状が、直径5mm以下の略点形状および幅5mm以下の略線形状の少なくとも一方となるようにした請求項1または2記載の加飾成形品の製法。
【請求項4】
請求項1記載の加飾成形品の製法によって得られる加飾成形品であって、表面にJIS K6768によるぬれ張力が38ダイン未満のコート層が形成され、かつ、そのコート層がレーザ照射によって部分的に除去され、その除去部の上にのみ模様付与層が形成されて、上記コート層除去部と同一形状の模様になっていることを特徴とする加飾成形品。
【請求項5】
上記コート層が透明で、そのコート層の下に、直接または他の透明な層を介して着色層が形成されている請求項4記載の加飾成形品。
【請求項6】
上記模様付与層による模様が、直径5mm以下の略点形状および幅5mm以下の略線形状の少なくとも一方で構成されている請求項4または5記載の加飾成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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