説明

加飾成形品の製造方法及び加飾成形品

【課題】外観上の見映えに優れた加飾成形品を製造することが可能な加飾成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】成形された第1の基材20の表面に直接印刷することにより加飾を施した加飾成形品の製造方法は、第1の基材20を成形する際に、使用状態の第1の基材20において第2の加飾部50に隠蔽される部分Lに凹部21bを形成する形成ステップと、凹部21bを基準として第1の基材20の表面に直接印刷を行って木目柄の第1の加飾部30を形成する印刷ステップと、第1の基材20の一部及び第2の基材40を本革により隠蔽することにより第2の加飾部50を形成する隠蔽ステップと、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形された基材の表面に木目柄等の模様を直接印刷することにより加飾を施した加飾成形品の製造方法及び加飾成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリングホイール等の自動車内装部品では、木目柄が印刷された加飾フィルムを使った水圧転写(流体印刷)やフィルムインサート成形(一体成形加飾)、インモールド成形(型内転写)等の手法を用いて、合成樹脂材料等から成る基材の表面に木目柄が加飾されている。しかしながら、このような加飾方法は、加飾フィルム自体が比較的高価であり、また、加飾時の歩留まりが良くなくコストが高くなる傾向がある。
【0003】
これに対し、加飾フィルムを用いずにコスト低減を図った加飾方法として、例えば軟質パッドを用いたオフセット印刷等の手法により、木目柄を基材の表面に直接印刷を行う方法が従来から知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、ステアリングホイールのように360度全周に亘って基材を加飾する場合には、例えば表裏側の2工程に印刷工程を分割する必要がある。そのため、基材がズレて成形されていると、別工程でそれぞれ印刷された木目柄の間に不連続なズレが生じ、製品としての外観上の見映えを損なう場合があった。
【特許文献1】特開平10−129104号公報
【発明の開示】
【0005】
本発明は、外観上の見映えに優れた加飾成形品を製造することが可能な加飾成形品の製造方法及び該製造方法により製造された加飾成形品を提供することを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明によれば、成形された基材の表面に所定の模様を直接印刷することにより加飾を施した加飾成形品の製造方法であって、前記基材を成形する際に、使用状態の前記基材において隠蔽される部分に位置決め部を形成する形成ステップと、前記位置決め部を基準として前記基材の表面に前記所定の模様を直接印刷する印刷ステップと、を備えた加飾成形品の製造方法が提供される。
【0007】
また、上記目的を達成するために、本発明によれば、成形された基材の表面に所定の模様を直接印刷することにより加飾を施した加飾成形品であって、前記基材を成形する際に、使用状態の前記基材において隠蔽される部分に位置決め部を形成する形成ステップと、前記位置決め部を基準として前記基材の表面に前記所定の模様を直接印刷する印刷ステップと、を備えた製造方法により製造された加飾成形品が提供される。
【0008】
本発明では、基材の成形時に、使用状態の当該基材において隠蔽される部分に位置決め部を形成し、その位置決め部を直接印刷の際に基準として用いる。この位置決め部は基材自体に形成されているため、基材の表面に所定の模様を直接印刷する際に、成形時に生じた基材のズレを吸収することが出来る。その結果として、別工程でそれぞれ印刷された印刷面を連続的にすることが出来、製品としての外観上の見映えに優れた加飾成形品を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係るステアリングホイールの全体構成を示す平面図、図2は図1のII部の拡大平面図、図3は図2のIII-III線に沿った断面図である。
【0010】
本発明の第1実施形態に係るステアリングホイール1は、グリップ2に木目調の模様が付されていると共に本革が巻き付けられた所謂コンビネーションタイプのステアリングホイールである。このステアリングホイール1は、図1及び図2に示すように、芯金10と、芯金10を被覆するように成形された第1の基材20と、第1の基材20の表面に木目柄を直接印刷した第1の加飾部30と、芯金10を被覆するように形成された第2の基材40と、第1の基材20の端部及び第2の基材40を本革により隠蔽した第2の加飾部50と、から構成されている。
【0011】
芯金10は、鋼管等で形成されたリング部11と、アルミニウム合金やマグネシウム合金、スチール等をダイカスト鍛造することにより構成されたボス部12及びスポーク部13と、から構成されており、スポーク部13によりリング部11とボス部12とが連結されている。
【0012】
第1の基材20は、例えば、ABS樹脂等の比較的硬質な合成樹脂材料を射出成形することにより構成されており、図1中における芯金10のリング部11の上下部及びスポーク部13の下部を被覆するように形成されている。この第1の基材20の端部において第1の加飾部30と第2の加飾部50との境界となる部分には、図2に示すように、第2の加飾部50を構成する本革の端部を係止させるための環状の溝部21aが形成されている。
【0013】
第1の加飾部30は、第1の基材20において一端側に形成された溝部21aから他端側に形成された溝部21aの間の表面に、360度全周(ステアリングホイール1の回転軸に沿ったグリップ2の断面における全外周)に亘って、木目柄の模様が直接印刷されて構成されている。この直接印刷の手法については後述する。なお、本発明において第1の基材の表面に直接印刷される模様は木目柄のみに限定されず、例えばアルミ調やステンレス調の模様等であっても良い。また、直接印刷の利点を活かして文字等を直接印刷しても良く、本発明における所定の模様には文字や記号等も含む。
【0014】
図2に示すように、本実施形態における第1の基材20の表面には、溝部21aまで第1の加飾部30が形成され、溝部21aより端部側には第1の加飾部30の代わりに第2の加飾部50が形成されている。即ち、第1の基材20が第2の加飾部50まで入り込んでいる。
【0015】
さらに、本実施形態では、図2及び図3に示すように、第1の基材20において第2の加飾部50に入り込んだ部分Lに、第1の加飾部30の直接印刷の際に基準となる凹部21bが形成されている。この凹部21bは、後述するパッド移動装置104に設けられた位置決め治具105の先端形状と嵌合可能な形状を有している。なお、本実施形態においては、この凹部21bは第1の基材20の両端部に設けられているが、本発明においては特にこれに限定されず、第1の基材20の一方の端部に複数の凹部21bを形成しても良い。また、凹部21aの開口形状を例えば矩形等の非円形形状とし、第1の基材20の一方の端部に一つの凹部21bのみを形成しても良い。
【0016】
図4は本発明の第2実施形態に係るステアリングホイールにおいて溝部に沿った断面図、図5は本発明の第3実施形態に係るステアリングホイールにおいて溝部に沿った断面図である。
【0017】
本発明の第2実施形態では、図4に示すように、第1の加飾部30の直接印刷の際に基準となる凹部21bが溝部21aに形成されている。また、本発明の第3実施形態では、図5に示すように、第1の加飾部30の直接印刷の際に基準となる位置決め部として、第2の加飾部50を構成する本革の端部を係止させるための溝部21a自体の形状を利用する。このように、第1の加飾部30の直接印刷の際に基準となる位置決め部を、溝部21aに形成したり、当該溝部21a自体を位置決め部として利用することにより、第2の加飾部50における革巻きの触感が良好となる。
【0018】
図1〜図3に戻り、本発明の第1実施形態における第2の基材40は、例えば、ポリウレタン樹脂等の比較的軟質な合成樹脂材料をRIM成形することにより構成されており、図1中における芯金10のリング部11及びスポーク部13の左右部を被覆するように形成されている。
【0019】
第2の加飾部50は、第1の加飾部30に隣接しており、第2の基材40の全体と、第1の基材20の端部Lと、を本革により隠蔽している。従って、第1の基材20に形成された凹部21bは、ステアリングホイール1が製品となった状態においては第2の加飾部50により隠蔽されて、外部から視認することは出来ない。なお、本発明における隠蔽物としては、本革に限定されず、例えば、合成皮革や、ビロード等の布を用いても良い。
【0020】
次に、本発明の実施形態に係るステアリングホイールの製造方法について説明する。
【0021】
図6は本発明の第1実施形態に係るステアリングホイールの製造方法を示すフローチャート、図7A〜図7Dは本発明の第1実施形態におけるオフセット印刷の第1〜第4工程を示す概略図、図8は本発明の第1実施形態においてパッド移動装置により軟質パッドを第1の基材に接触させた状態を示す概略図である。
【0022】
本実施形態に係るステアリングホイール1の製造方法では、先ず、図6のステップS10において、芯金10をダイカスト鍛造により成形する。
【0023】
次いで、ステップS20において、芯金10のリング部11の上下部及びスポーク部13の下部を射出成形用金型内にインサートし、当該キャビティ内に溶融したABS樹脂等を射出することにより第1の基材20を成形する。この射出成形用金型には、溝部21aの形状に実質的に相対する形状(反対形状)を持つ環状突起部と、凹部21bの形状に実質的に相対する形状を持つ凸部と、が彫り込まれている。そのため、ステップS20の射出成形により第1の基材20が成形されると同時に、当該第1の基材20に溝部21a及び凹部21bが形成される。
【0024】
次いで、ステップS30において、芯金10のリング部11及びスポーク部13の左右部をRIM成形用金型内にインサートし、当該キャビティ内に混合したイソシアネートとポリオールを射出して金型内でこれらを重合反応させると同時に発泡させることにより、第2の基材40を成形する。
【0025】
次いで、ステップS40において、軟質パッド103を用いたオフセット印刷により第1の基材20の表面に木目柄を直接印刷する。具体的には、先ず、図7Aに示すように、インクジェットヘッド101によりインク102を平板原板100上に塗布する。次に、図7Bに示すように、第1の基材20の表側曲面に対して実質的に相対する曲面を持つ軟質パッド103を平板原板100に押し付け、平板原板100に塗布されているインキ102を軟質パッド103の曲面に転写する。次に、図7Cに示すように、軟質パッド103を移動させ、印刷対象である第1の基材20の表側曲面に接触させて、軟質パッド103の曲面上のインキ102を第1の基材20の表側曲面に転写する。同様の作業を第1の基材20の裏側曲面にも行って、第1の基材20への木目柄の直接印刷が完了する。
【0026】
本実施形態では、表裏面側の何れの曲面の印刷においても、軟質パッド103を第1の基材20に接触させる際に、第1の基材20に対して軟質パッド103を相対的に位置決めする。具体的には、図8に示すように、軟質パッド103を第1の基材20に対して移動させるパッド移動装置104に設けられた位置決め用治具105の先端を、第1の基材20の両端部に形成された凹部21bにそれぞれ挿入する。この際、位置決め用治具105の先端は、凹部21bに嵌合可能な形状を有しているため、第1の基材20に対して軟質パッド103が相対的に位置決めされる。これにより、第1の基材20の表面に木目柄を直接印刷する際に、射出成形時に生じた第1の基材のズレを吸収することが出来、別工程でそれぞれ印刷された表裏面を連続的にすることが出来るので、外観上の見映えに優れたステアリングホイール1が製造される。
【0027】
なお、本発明の第3実施形態では、位置決め用治具105の先端に、第1の基材20に形成された溝部21aの形状に相対する略半環状の突起部が形成されている。また、本発明の第2実施形態では、第1実施形態と同様に、位置決め用治具105の先端が凹部21bに嵌合可能な形状を有しても良い。或いは、凹部21bに嵌合可能な形状に加えて、第3実施形態のように溝部21aの形状に相対する突起部を有しても良い。
【0028】
次いで、ステップS50において、第2の基材40に本革を巻き付けることにより第2の加飾部50を形成する。具体的には、予め所定形状に切り取られ、周囲にステッチ孔が穿設された本革を、第2の基材40の表面に貼り付け、所定のステッチパターンで縫合し、当該本皮の端部を溝部21aに押し込む。
【0029】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0030】
例えば、上述の実施形態では、ステアリングホイール1を製造する方法について説明したが、本発明においては特にこれに限定されず、ATセレクトレバーやパーキングブレーキレバー等のように、基材の全周をオフセット印刷することにより加飾が施されると共に、その基材の一部が使用状態において隠蔽される加飾成形品に適用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係るステアリングホイールの全体構成を示す平面図である。
【図2】図2は、図1のII部の拡大断面図である。
【図3】図3は、図2のIII-III線に沿った断面図である。
【図4】図4は、本発明の第2実施形態に係るステアリングホイールにおいて溝部に沿った断面図である。
【図5】図5は、本発明の第3実施形態に係るステアリングホイールにおいて溝部に沿った断面図である。
【図6】図6は、本発明の第1実施形態に係るステアリングホイールの製造方法を示すフローチャートである。
【図7A】図7Aは、本発明の第1実施形態におけるオフセット印刷の第1工程を示す概略図である。
【図7B】図7Bは、本発明の第1実施形態におけるオフセット印刷の第2工程を示す概略図である。
【図7C】図7Cは、本発明の第1実施形態におけるオフセット印刷の第3工程を示す概略図である。
【図7D】図7Dは、本発明の第1実施形態におけるオフセット印刷の第4工程を示す概略図である。
【図8】図8は、本発明の第1実施形態においてパッド移動装置により軟質パッドを第1の基材に接触させた状態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0032】
1…ステアリングホイール
2…グリップ
10…芯金
11…リング部
12…ボス部
13…スポーク部
20…第1の基材
21a…溝部
21b…凹部
30…第1の加飾部
40…第2の基材
50…第2の加飾部
100…平板原板
101…インクジェットヘッド
102…インキ
103…軟質パッド
104…パッド移動装置
105…位置決め治具


【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形された基材の表面に所定の模様を直接印刷することにより加飾を施した加飾成形品の製造方法であって、
前記基材を成形する際に、使用状態の前記基材において隠蔽される部分に位置決め部を形成する形成ステップと、
前記位置決め部を基準として前記基材の表面に前記所定の模様を直接印刷する印刷ステップと、を備えた加飾成形品の製造方法。
【請求項2】
前記基材を隠蔽物で隠蔽する隠蔽ステップをさらに備えた請求項1記載の加飾成形品の製造方法。
【請求項3】
前記加飾成形品が有する前記基材は第1の基材と第2の基材とを含み、
前記形成ステップにおいて、前記第1の基材の端部に前記位置決め部を形成し
前記印刷ステップにおいて、前記第1の基材の表面に前記所定の模様を直接印刷し、
前記隠蔽ステップにおいて、前記第1の基材の端部及び前記第2の基材を前記隠蔽物で隠蔽する請求項2記載の加飾成形品の製造方法。
【請求項4】
前記位置決め部は、使用状態の前記基材において隠蔽される部分に形成されている凹部を含む請求項1〜3の何れかに記載の加飾成形品の製造方法。
【請求項5】
前記隠蔽ステップにおいて、前記基材に形成された溝部に前記隠蔽物の端部を係止させており、
前記形成ステップにて前記基材に形成される位置決め部は前記溝部を含む請求項2〜4の何れかに記載の加飾成形品の製造方法。
【請求項6】
前記印刷ステップにおいて、前記基材の表面の全周に前記所定の模様を直接印刷する請求項1〜5の何れかに記載の加飾成形品の製造方法。
【請求項7】
成形された基材の表面に所定の模様を直接印刷することにより加飾を施した加飾成形品であって、
請求項1〜6の何れかに記載の製造方法により製造された加飾成形品。
【請求項8】
前記加飾成形品がステアリングホイールである請求項7記載の加飾成形品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8】
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