説明

劣化液晶の性質を回復する方法

【課題】本発明は捕捉水(trapped water)を除去する工程を含む液晶特性を復元する方法を提供する。
【解決手段】液晶に進入する捕捉水(trapped water)は液晶劣化を引き起こす主な原因であり、劣化液晶の性質は液晶の中から捕捉水を除去することによって復元し、この劣化液晶の中から捕捉水(trapped water)を除去する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶(LC)に関し、より詳しくは、劣化液晶の電気的特性を回復する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン性不純物が液晶表示装置の電圧保持率(voltage holding ratio)の低下、閾値電圧(threshold voltage)の高まり、グレースケール変換(gray−level shift)、映像フリッカー、映像残留、応答速度の低下等の問題を招いており、如何にしてイオン電荷効果やそれによって引き起こされる電界効果(field−screening effect)を抑制するかが業界の研発部門や学術界の関連分野でしきりに熱心に検討されてきた課題である。
【0003】
例えば、Perlmutter等の劣化液晶セル(LC cell)の性質の研究が挙げられる。実験方法は直流バイアス電圧を検査用の液晶セルに印加し、その光学的特性の時間に伴う変化と電気容量-電圧ヒステリシス曲線を分析している。実験結果で液晶の性質が劣化するのは移動可能なイオン性不純物総数が永続的に増加することによって起こることが分ったが、イオン性不純物が永続的に増加するのは液晶中に中性の遊離物質が存在して配向層(alignment layer)が同じ電気特性の電荷に選択的に吸着して引き起こされる[非特許文献1参照]。
Palomares等の研究は液晶中に溶解する不純物の液晶の性質に対する影響であり、その実験方法は矩形波電圧をネマチック(nematic)液晶に印加すると共にその特性を分析する。実験結果で異なるイオン性不純物濃度と電極にコーティングされた異なる特性の誘電体層が異なる液晶の光位相を引き起こすことが分かった。また、Palomares等はイオン性不純物の移動の法則を研究すると共に、拡散電流(diffusion current)がドリフト電流(drift current)ほど重要でないと考えた[非特許文献2参照]。
Tsevetkov等の研究は誘電異方性(dielectric anisotropy;Δε)を有するネマチック液晶が銅イオンを導入した後の電荷輸送及びその液晶の光電特性に対する影響である。実験結果は流体動力学の成分によって、イオンの存在が液晶の光電応答を強化する可能性があることを示しており、この研究はまたイオン移動度が測定可能な技術へと発展した[非特許文献3参照]。
Colpaert等はイオン源を決定しその特性を測定する技術を提示し、ツイスト(twisted)ネマチック(TN)液晶のイオンの汚染を一定に制限してアクティブマトリックス液晶の表示装置の良好な光電特性を確保すると考えた[非特許文献4参照]。
【0004】
イオン性不純物が引き起こす問題を解決するため、既存の方策は高インピーダンスの液晶を応用し、それが低イオン性不純物濃度を有することを要件とするか、或いは交流電圧で液晶を駆動して表面の偏極を防止することであり、さもなければ、電界効果を来たして液晶表示装置の光電特性を劣化させる。
また、近年の研究で低インピーダンスの液晶混合物に適量のカーボン・ナノチューブを混合すると液晶セル中の移動イオンを大幅に減らせる旨指摘すると共に、多くの実験で、電圧-光線透過率曲線、電圧-電気容量曲線、動的な光学応答(dynamically optical response)の測定、極性逆転電界における過渡電流(transient current)等の測定を含む実験結果で何れもその効果は検証済みである[非特許文献5から非特許文献14参照]。
【0005】
本技術分野において、メーカーや研究スタッフは多大な努力を傾注して液晶中のイオン性不純物の影響を除去しようと試みた。
例えば、解決手段の1つ目として液晶メーカーに高純度且つ高信頼度の液晶の生産を要求し、解決手段の2つ目として新しい液晶材料の開発、新しい液晶の合成方法又は一層適合する液晶を選択して部材としての使用であるが、例えば、薄膜トランジスタの液晶表示装置(TFTLCD)である。
しかし、たとえ製造工程能力(process capability)に厳格な要件を課し、或いは新しい液晶材料を開発したとしても、液晶中にイオン性不純物が溶解して、表示装置部材の特性に影響することは避けられない。
【0006】
また一方では、本技術分野における従来の液晶は一般の容器内に保存され更に多くのイオン性不純物を捕捉して次第にその光電の優位性が喪失する。カーボン・ナノチューブ又はナノ粘土のドーピングは液晶セル中の移動イオン総数を大幅に減少させることができるものの、液晶の特性はドーピング物にも影響されて、液晶表示装置の回路設計上の困難を来たす。
また、液晶表示装置を長期間操作すると、カーボン・ナノチューブをドーピングした液晶のコロイド安定性(COLLOIDAL STABILITY)が阻害され得る。さらに、液晶の駆動電圧波型の変更も液晶表示装置の映像残留、映像フリッカー及び類似の要件を含む厳格になる一方の規格を満たすことができなくなっている。
またその一方で、新しい液晶合成方法は一層高純度で更に優れた性能(例:高インピーダンス、好ましい耐光性、耐熱性及耐老化)の材料が製造されているものの、液晶の製造工程環境や保存環境は依然として液晶汚染による液晶材料の劣化を避けることができない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S. H. Perlmutter, D. Doroski, and G. Modder, “Degradation of liquid crystal device performance due to selective adsorption of ions,” Applied Physics Letters 69(9), 1182-1184 (1996).
【非特許文献2】L. O. Palomares, J. A. Reyes, and G. Barbero, “Influence of ions on the dynamical response of a nematic cell submitted to a periodic external field: Role of the ionic impurities,” Physics Letters A 333, 157-163 (2004)
【非特許文献3】V. A. Tsevetkov and O. V. Tevetkov, “Ions influence on electrooptical characteristics of NLC,” Molecular Crystals and Liquid Crystals 368, 625-632 (2001).
【非特許文献4】C. Colpaert, B. Maximus, and A. de Meyere, “Adequate measuring techniques for ions in liquid crystal layers,” Liquid Crystals 21(1), 133-142 (1996).
【非特許文献5】W. Lee, C.-Y. Wang, and Y.-C. Shih, “Effects of carbon nanosolids on the electro-optical properties of a twisted nematic liquid-crystal host,” Applied Physics Letters 85(4), 513-515 (2004)
【非特許文献6】H.-Y. Chen and W. Lee, “Electro-optical characteristics of a twisted nematic liquid-crystal cell doped with carbon nanotubes in a dc electric field,” Optical Review 12(3), 223-225 (2005)
【非特許文献7】W. Lee, J.-S. Gau, and H.-Y. Chen, “Electro-optical properties of planar nematic cells impregnated with carbon nanosolids,” Applied Physics B: Lasers and Optics 81(2/3), 171-175 (2005)
【非特許文献8】W. Lee and Y.-C. Shih, “Effects of carbon nanotube doping on the performance of a TN-LCD,” Journal of the Society for Information Display 13(9), 743-747 (2005)
【非特許文献9】H.-Y. Chen and W. Lee, “Suppression of field screening in nematic liquid crystals by carbon nanotubes,” Applied Physics Letters 88(22), 222105-1-3 (2006)
【非特許文献10】H.-Y. Chen, W. Lee, and N.A. Clark, “Faster electro-optical response characteristics of a carbon-nanotube-nematic suspension,” Applied Physics Letters 90(3), 033510-1-3 (2007)
【非特許文献11】W. Lee and H.-Y. Chen, “Observation of transient current in a nanotube-doped liquid-crystal cell induced by a polarity-reversed field,” Japanese Journal of Applied Physics 46(5A), 2962-2967 (2007)
【非特許文献12】K.-X. Yang and W. Lee, “Temperature-dependent electric characteristics in an E7/CNT colloid,” Molecular Crystals and Liquid Crystals 475(1), 201-208 (2007)
【非特許文献13】W. Lee, H.-Y. Chen, and Y.-C. Shih, “Reduced dc offset and faster dynamic response in a carbon-nanotube-impregnated liquid-crystal display,” Journal of the Society for Information Display 16(7), 733-741 (2008)
【非特許文献14】M. Rahman and W. Lee, “Scientific duo of carbon nanotubes and nematic liquid crystals,” Journal of Physics D: Applied Physics 42(6), 063001-1-12 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術はイオン性不純物の汚染源が何であるかを確認することができず、また劣化した液晶を処理する効果的な方法を提供することができなかった。
イオン性不純物が原因で劣化した液晶に対して、従来技術による唯一の処理方法はそれらを廃棄することで、液晶や液晶表示装置メーカーはコスト面で膨大な無駄を招いていた。
このため、本分野ではイオン性不純物の汚染源を確認すると共に、これによってコストを節減した処理方法を提示し、さらに好ましくは、劣化液晶の特性を回復する方法を提示することが急務である。
【0009】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものである。
上記課題解決のため、本発明は、劣化液晶中のイオン性不純物の主な汚染源を確認すると共にこれによって劣化液晶の特性を回復する方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、劣化液晶から捕捉水(trapped water)を除去する工程を含むことを特徴とする劣化液晶の性質を回復する方法が提供される。ここでは捕捉水(trapped water)を除去する工程は液晶が液晶セルを導入する前に実施する。
【0011】
前記捕捉水を除去する工程は3種類の方法を含む。
第1の方法は伝導、対流、放射又はその組合せによって熱を劣化液晶に提供して、捕捉水を前記劣化液晶中から蒸発させる。
第2の方法は真空乾燥である。また、ある状況では2種類の方法を合せて実施することができる。
第3の方法は劣化液晶を少なくとも1つの乾燥剤(例:乾燥剤と混合)に一定の時間暴露した後、液晶中から乾燥剤を除去する。乾燥剤は大別すると4種類あり、第1類は、シリカゲル(silica gels)とエアロゲル(aerogels)、ゼオライト(zeolite)分子篩(moleculear sieves)、アルミノリン酸塩(aluminophosphate)分子篩、チタノケイ酸塩(titanosilicate)分子篩及び類似した構成、粘土又はその他金属酸化物といった無機吸水物質、第2類は、活性炭、黒鉛、炭素分子篩、特殊な構造を有する炭素繊維、カーボン・ナノチューブ等といった炭素吸水物質、第3類は、吸水樹脂のような有機高分子、第4類は、Mg2(BTEC)のような配位重合体で、そのうちBTECは1,2,4,5-ベンゼテトラカルボン酸である。前記乾燥剤の選択条件では余計なイオン性不純物を液晶に進入させないよう特に注意する。
【0012】
本発明によれば、少なくとも1つの乾燥剤を提供する工程と、乾燥剤を事前に乾燥させる工程と、劣化液晶を乾燥剤に一定時間暴露して、劣化液晶中の捕捉水を除去することにより、劣化液晶の電気抵抗率を回復させる工程とを含むことを特徴とする劣化液晶の電気抵抗率を回復する方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、劣化液晶中のイオン性不純物の主な汚染源を確認すると共に、これによって劣化液晶の特性を回復する方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による実施形態における4種類の乾燥剤の吸水能力を示している。
【図2】本発明による実施形態における乾燥剤で処理済みの2種類の液晶と比較のための劣化液晶の電圧-電気容量曲線を示している。
【図3】本発明による実施形態における乾燥剤MS3とM2Bで処理後の異なる液晶で構成された液晶セルの導電率を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
本発明の実施形態に係る劣化液晶の性質を回復する方法は前記のとおりであり、従来技術では今もなおイオン性不純物の主な汚染源が何であるかはっきりしていない。
研究者やメーカーは製造工程の改善能力を利用し新しい液晶材料の発展に尽力してイオン性不純物の総数を減少させた。
こうした面で、本発明は異なる観点を提示する。本発明は実験を企画すると共に、実験結果で液晶の性質の主な劣化原因は空気中の水分が液晶材料に吸着又は結合して引き起こされたものであることを示した。
空気には一定の湿度があり、液晶中に進入する水分は水素(H+)とヒドロキシル基(OH-)イオンを生成し、このようにして、大量のイオン性不純物を生じて電界効果を激化する。
特に液晶中に進入した水分は液晶の電気抵抗率を低下させて、液晶の光電特性を劣化させる。
【0016】
従って、イオン性不純物の主な汚染源である水が確認されたことから、本発明は劣化液晶の特性を回復する方法を提供する。
本発明に係る実施形態における処理可能な液晶材料は、ネマチック液晶(nematic liquid crystal)、コスメチック液晶(smetic liquid crystal)、コレステリック液晶(cholesteric liquid crystal)、強誘電性液晶(anti-erroelectric liquid crystal)(ferroelectric liquid crystal)(反強誘電性液晶)を含む棒状液晶群(calamitic group)である。
本発明に係る実施形態が提供する処理方法は劣化した液晶中から捕捉水を除去する方法を含むが、捕捉水を除去する方法は周知の、既存の、発展中の、又は出現するであろう乾燥技術を含み、この乾燥技術は、余計なイオン性不純物を液晶に進入させないという唯一の条件を満たすことができる。
【0017】
前記の捕捉水を除去する方法は3つの方法を含む。
第1の方法は伝導、対流、放射又はその組合せで熱を劣化液晶に提供して、捕捉水を液晶中から蒸発させる。
第2の方法は真空乾燥である。某実施形態では、第1の方法と第2の方法を合せて実施する。例えば、本発明に係る実施形態は加熱気体(例:乾燥空気) 提供して対流させて直接液晶に接触させるが、この工程は真空チャンバー内で行って水分の拡散速度を速めることができる。
本発明に係る別の実施形態は間接的な方法でホットプレートのような媒質によって液晶を加熱する工程を含む。また同様に、この工程は真空チャンバー内で行って乾燥速度を速めることができる。注目すべきは、劣化液晶が設定温度まで加熱される際、この設定温度は液晶を損壊する可能性のある上限値より低く制御されるべきである。
【0018】
また、第3の方法は乾燥剤で劣化液晶中の捕捉水を除去する。この乾燥剤はシリカゲル(silica gels)、エアロゲル(aerogels)、金属酸化物、あらゆる形で存在する炭素、ゼオライト(zeolite)分子篩(moleculear sieves)、アルミノリン酸塩(aluminophosphate)分子篩、チタノケイ酸塩(titanosilicate)分子篩及び類似した構成並びに長鎖界面活性分子で合成されたようなメタ多孔性材料(mesoporous materials)、並びにモンモリロナイト(montmorillonite)やベントナイト(bentonite)のような粘土、並びに吸水樹脂(water−absorbent resins)のような有機高分子、並びにMg2(BTEC)や類似物質のような配位重合体(coordination polymers)を含む。
【0019】
このうち、吸水樹脂は生理用品、成人用の紙おむつ等といった衛生用品に幅広く応用され、人体から排泄される液体を吸収する。吸水樹脂は水分保持剤、土壌の改良物等といった農業や園芸のようなその他の分野にも応用される。吸水樹脂は主に(i)交差結合して(cross−linked)部分的に中和された(partially neutralized)ポリアクリル酸(polyacrylic acid)、(ii)水に溶解するデンプンであるデンプン・アクリル酸グラフト重合体(starch−acrylic acid graft polymer)、(iii)鹸化した酢酸ビニルである酢酸−ビニルアクリル酸エステルコポリマー(vinyl acetate−acrylic acid ester copolymer)、(iv)水に溶解した又は交差結合したアクリロニトリル(acrylonitrile)共重合体、(v)水に溶解した又は交差結合したアクリルアミド(acrylamide)共重合体、及び(vi)交差結合した陽イオン性モノマー(cationic monomer)又は類似した物質で製造される。
【0020】
本発明に係る某実施形態では、劣化液晶から捕捉水を除去する方法は劣化液晶を少なくとも1つの乾燥剤に暴露して、劣化液晶中の水分を排除する工程を含む。例えば、劣化液晶は少なくとも1つの乾燥剤と混合して一定時間置いた後、乾燥剤を液晶から分離する。本発明の別の実施形態では、劣化液晶と混合する前に、乾燥剤は事前乾燥の工程を実行して乾燥效率を高めることができる。
【0021】
前記乾燥剤の幾何学構造における設計ニーズは操作に便利なことを主に考慮している。マイナス面としての幾何学構造の設計は粉末状の乾燥剤であり、その欠点は乾燥工程が完了した後、液晶と分離し難いことである。本発明に係る実施形態における好ましい乾燥剤の幾何学構造は珠状、棒状、丸状、環状等の構成グループのうちの一つ又はその組合せを含む。某実施形態では、乾燥剤はキャリア上に固定又は固定床モジュール(fixed−bed module)内に設置し、液晶と混合又は接触させて液晶中の水分を除去する。
【0022】
また、使用済みの乾燥剤は、熱蒸発 (thermal vaporization)、真空乾燥等又はその組合せといった従来の固体乾燥工程によって、再生使用することができる。換言すると、本発明に係る実施形態では、乾燥剤は重複使用することができ、こうして一層経済的で、コストを節減した方法で劣化液晶を処理できる。
【0023】
モデル例
このモデル例では、1種類のシリカゲル、2種類のゼオライト分子篩、1種類の配位重合体を含む4種類の乾燥剤が使用されて劣化液晶材料内の捕捉水を除去する。図1は4種類の乾燥剤の吸水能力を示しており、そのうち、SiO2は微小孔隙シリカゲルを、MS3は孔隙サイズが3Åのゼオライト分子篩を、MS3は孔隙サイズが4Åのゼオライト分子篩を、M2Bは新型の配位重合体であるMg2(BTEC)を表示している。前記各種乾燥剤は商業用製品を調達又は実験室で合成し、このモデル例では、M2Bは中華民国台湾桃園県中▲れき▼市中原大学の固体化学実験室で合成された。
【0024】
本モデル例では、劣化液晶の性質回復する方法は前処理工程に始まる。即ち、その吸水能力を比較する前に、前記4種類の乾燥剤を150℃に加熱して5時間持続させる。その後、各種乾燥剤を各5 gそれぞれ取ってビーカー内に置き、ビーカーは蓋をせずに室温(25℃)で空気に接触させる。大気圧は特に調整することはせず、相対湿度は全体のモデル例では何れもおよそ50-60%の間を維持する。各種乾燥剤は空気中の水分を吸収して、乾燥剤自体の重量が次第に増加する。図1は各種乾燥剤が時間と共に増加する重量百分比を示しており、図では144時間後に、乾燥剤M2Bの増加した重量百分比が最多となり、効率がその他乾燥剤より高いことがはっきりとわかる。
【0025】
前記乾燥剤の吸湿効率は、さらにその電圧-電気容量曲線と時間-電気抵抗曲線で観察される。図2は乾燥剤で処理済みの2種類の液晶と、比較用の劣化液晶の電圧-電気容量曲線を示している。
本モデル例では、劣化と正常のネマチック液晶(製品番号5CB)を使用したが、それらはそれぞれ2005年3月と2009年2月にメルク光電科技社から購入し、コードoLCとnLCで表示している。そのうち、劣化液晶oLCはボトルに保存し、最初に開封したのは2005年9月で、使用後は蓋をして乾燥ボックスに保存し、相対湿度は現在まで約35%に制御されている。
実験で使用する乾燥剤MS3とM2Bは共にまず前処理を行う。つまり真空乾燥器に入れて200℃に加熱して5時間持続させ、その後自然に室温まで冷卻させる。各々25gの液晶oLCを2個ビーカー内に取り、それぞれ重量百分濃度がおよそ10wt%の乾燥剤MS3とM2Bを混合する。約96時間経過した後、乾燥剤MS3とM2Bが液晶oLC内の大部分の水分を吸収すると共に、それぞれ2つの液晶サンプルから分離し、こうして2つの復元したoLCサンプルを得ることができる。そして、2つの復元した液晶サンプルで2個の液晶セルを製造し、一方で比較用の劣化液晶は別の液晶セルを製造する。当業者であれば、液晶セルは2つの基板で液晶層を挟持して構成し、電圧は2つの基板間に印加して電界をこの液晶層に制御することができる。
図2では、曲線の「未処理、充電」は乾燥処理されていない劣化液晶oLCで構成された液晶セルの充電曲線を表わし、曲線の「未処理、放電」は前記劣化液晶oLCで構成された液晶セルの放電曲線を表わし、その他の曲線の定義もこのように類推する。また、液晶の正弦波は電圧の振幅が50mV、周波数が1kHz、実験温度が30℃、相対湿度が70%であると検知している。
【0026】
図2から、乾燥剤M2Bが殆ど劣化液晶oLCの充電特性を復元し、乾燥剤M2Bで処理済みの劣化液晶が製造した液晶セルが良好な電圧応答感度を表わし、電圧が3Vより高いと液晶を駆動することができることがわかる。比較すると、乾燥剤MS3で処理済みの劣化液晶が製造した液晶セルは、その電圧が7Vより高いと液晶を駆動し、何等吸水処理をしていない劣化液晶が構成する液晶セルは、電圧を10Vまで印加しても、依然として液晶を駆動することができない。その原因は液晶中の捕捉水のイオン電荷が内部電界を構成し、この電界方向と液晶セルを駆動する電界方向とが相反することにより引き起こされる。
【0027】
図3は乾燥剤MS3とM2Bによる処理後の異なる液晶で構成された液晶セルの導電率を示しており、導電率の数値は20Hzから100kHzの誘電スペクトルで算出され、曲線「oLCはMS3で処理」は乾燥燥剤MS3で処理後の劣化液晶oLCの導電率における乾燥処理時間に伴う変化曲線を示し、曲線「nLCはM2Bで処理」は乾燥燥剤M2Bで処理後の正常液晶nLCを示し、その導電率は乾燥処理時間に伴う変化曲線を示し、その他の曲線の定義もこのように類推する。
図に示すように、劣化液晶oLCの当初の電気抵抗率は相当低く(導電率と反比例)、乾燥剤M2Bで処理すると、乾燥時間に伴い増加し、144時間の乾燥処理の後では、殆ど当初の電気抵抗率まで回復し(即ち、正常液晶nLCの電気抵抗率)、乾燥剤M2Bが劣化液晶の性質を効果的に復元することができることを証明した。また、劣化液晶oLCは乾燥剤MS3でも処理後、当初の電気抵抗率とその他の性質を回復するものの、比較的長い処理時間を要する(図示せず)。
【0028】
以上のモデル例により、捕捉水が液晶劣化を引き起こす主な原因であると共に、劣化液晶の性質が液晶中の水分を除去することで復元できることの証明に成功した。本発明に係る実施形態が提供する方法により、劣化液晶を処理した後の電気抵抗率は正常(新)液晶の80%以上に復元することができる。本発明の実施形態では、前記劣化液晶性質を回復する方法は液晶セルが構成される前に実施する。本発明の実施形態では、一旦捕捉水が劣化液晶中から除去されると、直ちに前記性質を回復した液晶で液晶セルを構成する。
【0029】
また、本発明に係る実施形態により、乾燥剤が配位水(coordination water)を含み、分子式中の配位水の数量が多いほど、元の乾燥剤が水分を除去する能力が高くなる。例えば、配位重合体乾燥剤Mg2(BTEC)は吸水後Mg2(BTEC)(H2O)102O の構成となり、結晶水以外に、その分子式は10個の配位水分子を有し、Mg2(BTEC)の卓越した吸水能力を表わしている。
【0030】
性質を回復した液晶を直ちに液晶セルの製造に使用しない場合、本発明に係る実施形態はさらにその保存方法を提供し、その方法は性質を回復した液晶を気密(gastight)の容器内に保存する工程を含む。
本発明の別の実施形態では、前記保存方法は乾燥空気、窒素、又は不活性ガスを気密容器内に填充する工程をさらに含む。本発明に係る別の実施形態では、前記保存方法は気密容器を真空にし、性質を回復した液晶を真空状態で保存する工程をさらに含む。
【0031】
上述の実施例は本発明の技術思想及び特徴を説明するためのものにすぎず、当該技術分野を熟知する者に本発明の内容を理解させると共にこれをもって実施させることを目的とし、本発明の特許範囲を限定するものではない。従って、本発明の精神を逸脱せずに行う各種の同様の効果をもつ改良又は変更は、後述の請求項に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0032】
M2B 乾燥剤コード
SiO2 乾燥剤コード
MS3 乾燥剤コード
MS4 乾燥剤コード
nLC 正常液晶
oLC 劣化液晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
劣化液晶から捕捉水(trapped water)を除去する工程を含むことを特徴とする劣化液晶の性質を回復する方法。
【請求項2】
少なくとも1つの乾燥剤を提供する工程と、前記乾燥剤を事前に乾燥させる工程と、前記劣化液晶を前記乾燥剤に一定時間暴露して、前記劣化液晶中の捕捉水を除去することにより、前記劣化液晶の電気抵抗率を前記液晶の新品の電気抵抗率の80%以上まで回復させる工程とを含むことを特徴とする劣化液晶の電気抵抗率を回復する方法。
【請求項3】
前記捕捉水を除去する工程は少なくとも1つの乾燥剤を使用する工程を含み、前記乾燥剤は無機吸水物質、炭素含有吸水物質、吸水樹脂、配位重合体のグループのうちの一つ又はその自由な組合せから選択することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記乾燥剤は配位重合体Mg2(BTEC)で、そのうちBTECは1,2,4,5-ベンゼテトラカルボン酸であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記乾燥剤の選択条件は余計なイオン性不純物を前記劣化液晶に進入させないことを特徴とする請求項2に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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