説明

動作磁歪が小さなFe基非晶質合金薄帯及びそれを用いて製造した鉄心

【課題】 本発明は、薄帯の励磁電力VAおよび磁束密度B1を所定の範囲に制御することにより、薄帯の動作磁歪を低いレベルまで低減させ、その結果、電力トランス、高周波トランス、チョークコイル、リアクトルの低騒音化を可能にするFe基非晶質合金薄帯を提供することを目的とする。
【解決手段】 励磁電力VAが1.5W/Kg以下であって、かつ、80A/mの磁場を印加したときの磁束密度B1が1.3T以上、動作磁歪λp-pが5.89×10−6以下であることを特徴とする動作磁歪が小さなFe基非晶質合金薄帯。さらには原子%で1%以上19%以下のSi、5%超19%以下のB、0.02%以上4%以下のC、0.01%以上12%以下のP、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。さらに前記薄帯をトロイダルに巻回して巻鉄心とするか、所定形状に打ち抜き積層して積鉄心とする

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力トランス、高周波トランス、チョークコイル、リアクトルなどの鉄心にいられる非晶質合金薄帯に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合金を溶融状態から急冷することによって、連続的に薄帯や線を製造する方法として、遠心急冷法、単ロール法、双ロール法などが知られている。
これらの方法は、高速回転する金属製ドラムの内周面または外周面に溶融金属をオリフィスなどから噴出させることによって、急速に溶融金属を凝固させて薄帯や線を製造するものである。
例えばFe基非晶質合金に、従来は好ましくないとされたPを積極的に添加し、薄板における非晶質母相の特性をより向上させる技術が開示されている(国際公開第03/085150号公報)。
さらに、合金組成を適正に選ぶことによって、液体金属に類似した非晶質合金を得ることができ、磁気的性質あるいは機械的性質に優れた材料を製造することができる。
この非晶質合金は、その優れた特性から多くの用途において、工業材料として有望視されている。その中でも、電力トランスや高周波トランスなどの鉄心材料の用途としては、鉄損が低く、かつ、飽和磁束密度や透磁率が高いことなどの理由からFe系非晶質合金薄帯、例えば、Fe−Si−B系が採用されている。
【0003】
しかし、Fe−Si−B系非晶質合金薄帯をコア材に用いたトランスは珪素鋼板をコア材に用いたトランスと比較して、鉄損を低くできるためエネルギー損失は低減できるものの、騒音が大きくなるということが指摘されている。
このような指摘があるにもかかわらず、非晶質合金薄帯をコア材に使用したトランス、あるいはチョークコイルなどの騒音低減に関する技術は、例えば、特許文献1に記載されているチョークコイルコアのギャップからの漏洩磁束による騒音を低減するために薄帯内に結晶層を有した薄帯を用いてギャップレス化することによって騒音を低減する方法が開示されている程度で、ほとんど無いのが現状である。
【0004】
Fe−Si−B系非晶質合金薄帯の励磁電力に関しては、約0.3W/Kgを越えない鉄損および約1VA/Kgを越えない励磁電力を兼ね備えた薄帯が開示されている(特許文献2)。
また、合金組成を特定範囲に規定することによって、飽和磁化、キュリー温度、および結晶化温度が実用的にバランスされた約0.35W/Kg以下の鉄損と約1VA/Kg以下の励磁電力を有している優れた薄帯が開示されている(特許文献3)。
特許文献4には、板厚変動を10%以下にすることによって励磁電力が0.4〜0.5W/Kg程度であって、800A/mの磁場を印加したときの磁束密度が1.5〜1.6T程度の特性を有する薄帯が開示されている。
騒音は薄帯の磁歪に大きく依存するが、特許文献2、特許文献3、および特許文献4には、騒音あるいは磁歪に関する記載は一切無い。
また、特許文献4には、励磁電力と磁束密度が記載されているが、記載されている磁束密度は800A/mの磁場印加ときの磁束密度であって、非晶質合金薄帯の場合には、飽和磁束密度にほぼ等しいものである。
【特許文献1】特開平4−320014号公報
【特許文献2】特表平5−503962号公報
【特許文献3】特表平8−505188号公報
【特許文献4】特開平7−113151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、Fe基非晶質合金薄帯をコアに用いたトランスの騒音を低減する技術は無いのも同然であった。
そこで、本発明は、薄帯の励磁電力VAおよび磁束密度B1を所定の範囲に制御することによって、薄帯の動作磁歪を6×10−6以下の低いレベルまで低減させ、その結果、電力トランス、高周波トランス、チョークコイル、リアクトルの低騒音化を可能にするFe基非晶質合金薄帯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、Fe基非晶質合金薄帯を使用したトランスの騒音を低減するために、その騒音の主要因と考えられる薄帯の動作磁歪を測定し、さらに、得られたデ−タを詳細に解析した結果、見出されたものである。
本発明の要旨は、以下の通りである。
【0007】
(1)周波数50Hz、最大磁束密度1.3Tにおいて測定した励磁電力VAが1.5W/Kg以下であって、かつ、周波数50Hz、80A/mの磁場を印加したときの磁束密度B1が1.3T以上、動作磁歪λp-pが5.89×10−6以下であることを特徴とする動作磁歪が小さなFe基非晶質合金薄帯。
【0008】
(2)原子%で1%以上19%以下のSi、5%超19%以下のB、0.02%以上4%以下のC、0.01%以上12%以下のP、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1記載の動作磁歪が小さなFe基非晶質合金薄帯。
【0009】
(3)(1)または(2)記載のFe基非晶質合金薄帯をトロイダルに巻回したことを特徴とする交流における動作磁歪が小さな巻鉄心。
【0010】
(4)(1)または(2)記載のFe基非晶質合金薄帯を所定形状に打ち抜き、積層したことを特徴とする交流における動作磁歪が小さな積鉄心。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、励磁電力VAを1.5W/Kg以下、かつ、80A/mの磁場を印加したときの磁束密度B1を1.3T以上の範囲に制御することによって、1.3Tの最大磁束密度で交流励磁したときの磁歪が5.89×10−6以下である動作磁歪が小さなFe基非晶質合金薄帯を得ることができる。
さらに、励磁電力VAを1.0W/Kg以下、かつ、磁束密度B1を1.4T以上に制御することによって、1.3Tの最大磁束密度で交流励磁したときの磁歪が5×10−6以下である動作磁歪が小さなFe基非晶質合金薄帯を得ることができる。
さらに、励磁電力VAを0.5W/Kg以下、かつ、磁束密度B1を1.5T以上に制御することによって、1.3Tの最大磁束密度で交流励磁したときの磁歪が3×10−6以下である動作磁歪が小さなFe基非晶質合金薄帯を得ることができる。
これらの動作磁歪を低減させたFe基非晶質合金薄帯を電力トランス、高周波トランス、チョークコイル、リアクトルなどの鉄心として用いる場合、騒音の主要因となっている薄帯の磁歪振動が低減するため、トランスなどに組み上げた際の騒音自体が低減するばかりでなく、騒音対策として用いられていた部品を減らすことが可能になるため、トランスなどの小型化、低コスト化が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の特徴は、Fe基非晶質合金薄帯を所定の交流周波数、および、所定の動作磁束密度で励磁させた場合、そのときの励磁電力VAおよび80A/mの磁場を印加したときの磁束密度B1を特定範囲に制御することによって、薄帯自体に生じる磁歪(動作磁歪)を低減できたことにある。
ここで言う動作磁歪とは、薄帯に所定の交流周波数で、所定の磁束密度になる磁場を印加したときに薄帯の面内の所定の方向に生じる歪量(歪の最大振幅値)のことである。薄帯の長手方向における歪の最大振幅値で定義するのが好ましい。
【0013】
励磁電力VAまたは磁束密度B1がそれぞれ単独で本発明範囲内に入っても、本発明の低い磁歪は得られない。励磁電力VAおよび磁束密度B1が同時に本発明範囲内に入ることによって初めて低い磁歪が得られる。
励磁電力VAおよび磁束密度B1は、薄帯の組成、薄帯のアニール条件によって制御することができる。
励磁電力VAは所定の磁束密度まで励磁する時に必要な電力であって、磁束密度B1とは、両者の単位からして異なることから全く別な次元のパラメータである。本発明者は、これらの別次元のパラメータを組み合わせることによって、動作磁歪を低く制御した薄帯を得ることに成功した。
【0014】
励磁電力VAを1.5W/Kg以下、かつ、磁束密度B1を1.3T以上に制御することによって、動作磁歪を5.89×10−6以下の低い値にすることが可能となる。
さらに、励磁電力VAを1.0W/Kg以下、かつ、磁束密度B1を1.4T以上に制御することによって、動作磁歪を5×10−6以下のさらに低い値にすることができる。
騒音がより厳しい環境で使用する場合には、励磁電力VAを0.5W/Kg以下、磁束密度B1を1.5T以上に制御することによって、3×10−6以下のさらに低い動作磁歪を得ることが可能になる。
すなわち、動作磁歪を5×10−6以下を得るために好ましくは励磁電力VAを1.0W/Kg以下、かつ、磁束密度B1を1.4T以上にすることが望ましく、さらに、3×10−6以下のさらに低い動作磁歪を得るために、好ましくは励磁電力VAを0.5W/Kg以下、磁束密度B1を1.5T以上とすることが望ましい。
ここで、規定した励磁電力VAは、周波数50Hz、最大磁束密度1.3Tにおいて測定した励磁電力であり、磁束密度B1は、周波数50Hz、最大磁場80A/mで励磁したときの最大磁束密度である。ただし、磁束密度B1は、飽和磁束密度とは全く異なるものであるが、その飽和磁束密度より大きくなることはない。
【0015】
本発明の低磁歪の薄帯は、Fe、Si、B、C、Pの主要元素および不可避的不純物から成る元素で構成させることができる。
Feは78原子%以上、86原子%以下の範囲が好ましい。なぜならば、Feが78原子%未満の場合には十分な磁束密度が得られなくなり、86原子%超の場合には非晶質形成が困難になって良好な磁気特性が得られなくなるからである。より好ましくは、Feを80原子%超、82原子%以下にすれば、十分な磁束密度を維持した状態で安定した非晶質化が可能となる。
【0016】
Siは1原子%以上、19原子%以下の範囲が好ましい。Siが1原子%未満の場合には、非晶質が安定して形成され難くなり、Siが19原子%超では磁束密度が低下するからである。2原子%以上、5原子%未満のSiの範囲では非晶質化が安定し、磁束密度の低下も抑制されるためより好ましい。
【0017】
Bは5原子%超、19原子%以下の範囲が好ましい。Bが5原子%以下では非晶質が安定して形成され難くなり、19原子%超としても更なる非晶質形成能の向上は認められなくなるばかりか磁束密度も低下してしまう。
5原子%超、16原子%以下のBでは非晶質化が安定し、磁束密度の低下も抑制されるためより好ましい。14原子%以上、16原子%以下のBの範囲にすることによって、非晶質をさらに安定化させることができる。
【0018】
Cは薄帯の鋳造性に効果がある元素である。Cを含有させることによって、溶湯と冷却基板の濡性が向上して良好な薄帯を形成させることができる。
Cが0.02原子%未満の場合はこの効果が得られない。また、Cを4原子%超含有させてもこの効果の更なる向上は認められない。したがって、0.02原子%以上4原子%以下の範囲が好ましい。
【0019】
本発明者は、既に、特許文献5において、0.008質量%以上、0.1質量%(0.16原子%)以下のPは、MnとSの許容含有量を増加させて安価な鉄源の使用を可能にする効果があることを見出している。
さらに、特許文献6において、0.2原子%以上12原子%以下のPが磁束密度のばらつきを低減させる効果があることを見出している。
本発明では、Pを0.01原子%以上、12原子%以下の範囲で含有させることによって、前記Pの効果を得ることができる。
さらに、所定範囲のPを含有させることによって、励磁電力VA、および、磁束密度B1の制御が容易になる効果がある。
Pの範囲が、0.05原子%以上、12原子%以下であればより好ましい。Pの効果をより際立たせるためには、1原子%以上6原子%程度の範囲にすれば良い。
【特許文献5】特開平9−202946号公報
【特許文献6】特開2002−220646号公報
【0020】
このような本発明のFe基非晶質合金薄帯を電力トランス、高周波トランス、チョークコイル、リアクトルなどの鉄心の素材として用いることによって、騒音を低減させることが可能になる。
【0021】
本発明の薄帯は、所定の合金成分を溶解し、溶湯を移動している冷却基板上にスロットノズルを通して噴出させて、該合金を急冷凝固させる方法、例えば、単ロール法、双ロール法によって製造することができる。
単ロール装置にはドラムの内壁を使う遠心急冷装置、エンドレスタイプのベルトを使う装置、およびこれらの改良型である補助ロールを付属させたもの、減圧下あるいは真空中、または不活性ガス中での鋳造装置も含まれる。
【0022】
本発明では、薄帯の板厚、板幅、などの寸法は特に規定されないが、薄帯の板厚は、例えば、10μm以上100μm以下が好ましい。板幅は20mm以上が好ましい。
本発明の原料として、例えば、鉄鉱石を原料とした製鉄プロセスで生産される一部の鋼種を鉄源に使用することが可能である。
合金組成としては、例えば、Fe79Si15、 Fe81Si2.5150.5、 Fe82Si2.2150.50.3、 Fe84Si2.7100.3、 Fe84.8Si2.50.7、 Fe81Si150.960.04 等である。
【0023】
励磁電力VA、磁束密度B1は、薄帯の組成、あるいは、薄帯の磁場中熱処理における磁場の大きさ、熱処理温度、時間によって制御することができる。
薄帯組成は前記した範囲であり、磁場中熱処理における磁場強度は100A/m〜10000A/mの範囲、熱処理温度は250℃〜結晶化温度以下の範囲、時間は0.1〜20時間であれば制御可能である。
励磁電力VAを低くしたい場合には、熱処理温度を高く、また、時間を長く設定すれば良い。磁束密度B1を大きくしたい場合には、Fe含有量を高めたり、磁場強度を大きくしたり、熱処理温度を高めたりすれば良い。
【0024】
上記本発明薄帯をトロイダルに巻回した巻鉄心、あるいは、本発明薄帯を所定形状に打ち抜き、積層した積鉄心に前記した磁場中熱処理を施すことによって、交流における動作磁歪が小さな鉄心を得ることができる。
【0025】
ところで、電力トランス、高周波トランス、チョークコイル、リアクトルでは、磁歪だけでなく鉄損も低いことが好ましい。特に、高周波領域においては、鉄損が大きい場合には発熱が問題となる場合がある。
周波数50Hz、最大磁束密度1.3Tでの単板測定による鉄損が0.15W/Kg以下であれば好ましい。さらに好ましくは、0.12W/Kgの鉄損であればエネルギー損失の優れたトランスなどを製造することが可能になる。
【実施例1】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
原子%でFebalSi2.6150.1および0.2原子%のMn、S等の不純物を含む組成の母合金を製造した。
この母合金を石英ルツボ中で高周波溶解し、ルツボ先端に取り付けた開口形状が0.4mm×25mmの矩形状スロットノズルを通じてCu合金製冷却ロールの上に溶湯を噴出した。冷却ロールの直径は580mm、回転数は800rpmである。この鋳造によって、厚さ約27μm、幅25mmの非晶質薄帯が得られた。
薄帯の励磁電力VA、および磁束密度B1を種々の値に制御するために、薄帯を120mm長さに切断し、磁場中アニールを施した。
すなわち、本発明例ではアニールの温度を300〜380℃、時間を0.5〜3時間、磁場の強さは400〜4000A/mとした。
一方、比較例ではアニールの温度を250℃未満、時間を0.1時間以下、または磁場の強さを100A/m未満の少なくとも一条件を選び、それ以外は本発明例と同じ条件とする。磁場方向はいずれも薄帯長手方向とした。
これらの温度、時間、磁場強度によって、励磁電力VA、および磁束密度B1を制御した。
磁場中アニール後の試料をSST(単板磁気測定器)を用いて、周波数50Hz、最大磁束密度1.3Tで励磁したときの励磁電力VA、および、周波数50Hz、最大磁場80A/mで励磁したときの最大磁束密度B1、さらに、励磁電力VAと同一測定条件で鉄損を測定した。
動作磁歪λp-pは120mm長さの薄帯の片側を固定し、反対側に反射板を付けて、周波数は50Hz、最大磁束密度1.3Tで薄帯長手方向に交流励磁した状態において、レーザードップラー法を用いて測定した。
結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
励磁電力VAが1.5W/Kg以下、および磁束密度B1が1.3T以上の本発明範囲であるNo.1〜No.18では、動作磁歪λp-pの値は全て5.89×10−6以下の低い値となっている。
特に、No.1〜No.13の励磁電力VAが1.0W/Kg以下、磁束密度B1が1.4T以上の場合にはλp-pは4.87×10−6以下とさらに低下している。
No.1〜No.7の励磁電力VAが0.5W/Kg以下、磁束密度B1が1.5T以上とさらに励磁電力VAが低下し、磁束密度B1が大きくなると、λp-pは2.72×10−6以下のさらに低い値となることがわかる。
鉄損は、No.1〜No.18の全てにおいて1.50W/Kg以下の低いものであった。
【0029】
比較例のNo.19、No.20の励磁電力VAは1.5W/Kg以下と本発明範囲にあるが、磁束密度B1が1.3Tより低く本発明範囲外となっている。
また、No.21、No.22の磁束密度B1は1.3T以上と本発明範囲内に入っているが、励磁電力VAが1.5W/Kgより大きく本発明範囲外となっている。
このようにNo.19〜No.22では、励磁電力VAと磁束密度B1の片方が本発明範囲外となっており、このような場合のλp-pは6.29×10−6以上の大きな値となってしまう。
No.23〜No.29では、励磁電力VA、磁束密度B1ともに本発明範囲外であって、このような場合のλp-pは、6.47×10−6以上の大きな値となることがわかる。
【実施例2】
【0030】
原子%でFebalSi2.710.20.95.3および0.2原子%のMn、S等の不純物を含む組成の母合金を製造し、実施例1と同様な方法で非晶質薄帯に鋳造した。得られた薄帯の板厚は26μm、幅は25mmであった。
実施例1と同様に種々の磁場中アニール条件で熱処理して励磁電力VA、および磁束密度B1を制御した薄帯を得るとともに、SSTおよびレーザードップラー法で、励磁電力VA、磁束密度B1、λp-p、鉄損を評価した。
結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
励磁電力VAが1.5W/Kg以下、および磁束密度B1が1.3T以上の本発明範囲であるNo.30〜No.45では、動作磁歪λp-pの値は全て5.68×10−6以下の低い値となっている。
特に、No.30〜No.36の励磁電力VAが1.0W/Kg以下、磁束密度B1が1.4T以上の場合にはλp-pは4.28×10−6以下とさらに低下している。
No.30のように励磁電力VAが0.5W/Kg以下、磁束密度B1が1.5T以上とさらに励磁電力VAが低下し、磁束密度B1が大きくなると、λp-pは2.12×10−6のさらに低い値となることがわかる。
鉄損は、No.30〜No.45の全てにおいて1.50W/Kg以下の低いものであった。
比較例のNo.46〜No.48の励磁電力VAは1.5W/Kg以下と本発明範囲にあるが、磁束密度B1が1.3Tより低く本発明範囲外となっている。
また、No.49〜No.51の磁束密度B1は1.3T以上と本発明範囲内に入っているが、励磁電力VAが1.5W/Kgより大きく本発明範囲外となっている。
このようにNo.46〜No.51では、励磁電力VAと磁束密度B1の片方が本発明範囲外となっており、このような場合のλp-pは6.12×10−6以上の大きな値となることがわかる。
【実施例3】
【0033】
原子%でFebalSi2.4130.80.9および0.2原子%のMn、S等の不純物を含む組成の母合金を製造し、実施例1と同様な方法で非晶質薄帯に鋳造した。得られた薄帯の板厚は27μm、幅は25mmであった。
実施例1と同様に種々の磁場中アニール条件で熱処理して励磁電力VA、および磁束密度B1を制御した薄帯を得るとともに、SSTおよびレーザードップラー法で、励磁電力VA、磁束密度B1、λp-p、鉄損を評価した。
結果を表3に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
励磁電力VAが1.5W/Kg以下、および磁束密度B1が1.3T以上の本発明範囲であるNo.52〜No.57では、動作磁歪λp-pの値は全て5.47×10−6以下の低い値となっている。
特に、No.52〜No.54の励磁電力VAが1.0W/Kg以下、磁束密度B1が1.4T以上の場合にはλp-pは3.94×10−6以下とさらに低下しているのがわかる。
鉄損は、No.52〜No.57の全てにおいて1.50W/Kg以下の低いものであった。
比較例のNo.58、No.59では、磁束密度B1は1.3T以上と本発明範囲内に入っているが、励磁電力VAが1.5W/Kgより大きく本発明範囲外となっている。このようにNo.58、No.59では、励磁電力VAと磁束密度B1の片方が本発明範囲外となっており、このような場合のλp-pは6.18×10−6以上の大きな値となることがわかる。
【実施例4】
【0036】
実施例1の試料5(本発明例)と試料28(比較例)の薄帯をそれぞれ、3m長さに切断し、外径60mmの石英ボビンに巻回してトロイダル鉄心を作製した。
この鉄心に励磁用コイルを巻いた後、鉄心の周方向に4000A/mの磁場を印加した状態で、360℃の温度、保定時間は2.5時間の磁場中アニールを行った。
アニール後、鉄心の最外周に歪ゲージを貼り付けて、周波数50Hz、最大磁束密度1.3Tの条件で鉄心の動作磁歪を測定した。その結果、本発明例の鉄心の動作磁歪は3.85×10−6、比較例の鉄心では9.62×10−6であり、本発明例の薄帯を使用することによって、動作磁歪が小さな巻鉄心を製造することができる。
【実施例5】
【0037】
同じく、実施例1の試料5(本発明例)と試料28(比較例)の薄帯をそれぞれ切断した後、積層し、長辺が100mm、短辺が50mmの矩形状の積鉄心を作製した。
この鉄心に励磁用コイルを巻いた後、コアの周方向に4000A/mの磁場を印加した状態で、360℃の温度、保定時間は2.5時間の磁場中アニールを行った。
アニール後、鉄心の上端面に歪ゲージを貼り付けて、周波数50Hz、最大磁束密度1.3Tの条件で鉄心の動作磁歪を測定した。その結果、本発明例の鉄心の動作磁歪は2.92×10−6、比較例の鉄心では8.89×10−6であり、本発明例の薄帯を使用することによって、動作磁歪が小さな巻鉄心を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
これらの動作磁歪を低減させたFe基非晶質合金薄帯を電力トランス、高周波トランス、チョークコイル、リアクトルなどの鉄心として用いる場合、騒音の主要因となっている薄帯の磁歪振動が低減するため、トランスなどに組み上げた際の騒音自体が低減するばかりでなく、騒音対策として用いられていた部品を減らすことが可能になるため、トランスなどの小型化、低コスト化が可能になる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数50Hz、最大磁束密度1.3Tにおいて測定した励磁電力VAが1.5W/Kg以下であって、かつ、周波数50Hz、80A/mの磁場を印加したときの磁束密度B1が1.3T以上、動作磁歪λp-pが5.89×10−6以下であることを特徴とする動作磁歪が小さなFe基非晶質合金薄帯。
【請求項2】
原子%で1%以上19%以下のSi、5%超19%以下のB、0.02%以上4%以下のC、0.01%以上12%以下のP、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1記載の動作磁歪が小さなFe基非晶質合金薄帯。
【請求項3】
請求項1または2記載のFe基非晶質合金薄帯を、トロイダルに巻回したことを特徴とする交流における動作磁歪が小さな巻鉄心。
【請求項4】
請求項1または2記載のFe基非晶質合金薄帯を所定形状に打ち抜き、積層したことを特徴とする交流における動作磁歪が小さな積鉄心。



【公開番号】特開2011−49574(P2011−49574A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221029(P2010−221029)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【分割の表示】特願2004−70478(P2004−70478)の分割
【原出願日】平成16年3月12日(2004.3.12)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】