説明

動力伝達装置

【課題】騒音が発生することを抑制することができる動力伝達装置を提供することを目的とする。
【解決手段】内部に粘性流体が充填されるベーン室95が形成されるハウジング部92と、ベーン室95内を回転方向に対して一対の流体室96、97に区画すると共に第1回転部材と第2回転部材との相対回転に伴ってベーン室95内を回転方向に移動可能であるベーン部93とを有し、ハウジング部92とベーン部93とが粘性流体を介してあるいは回転方向に当接して相互に動力を伝達可能である流体伝達部90を備え、流体伝達部90は、電動機の動力を出力軸に伝達する際に第1回転部材と第2回転部材との相対回転に伴って容積が相対的に小さくなる一方側の流体室97の粘性流体による流体抵抗を他方側の流体室96の粘性流体による流体抵抗より大きくする流体抵抗調節部94を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両などに搭載される従来の動力伝達装置として、例えば、特許文献1に開示されたようなギアの騒音低減装置などを備えたものが知られている。このギアの騒音低減装置は、被駆動装置の入力軸に係着された従動ギアに駆動ギアを噛合させこの駆動ギア及び従動ギアを介して駆動源の回転を被駆動装置に伝達するギア構造において、被駆動装置の入力軸と従動ギアとの何れか一方に設けられたシリンダ室と、被駆動装置の入力軸と従動ギアとの他方に設けられてシリンダ室内を一対の油室に区画すると共に入力軸と従動ギアとの相対回転に伴ってシリンダ室内を移動するベーン部材と、シリンダ室内に作動油を供給する作動油供給手段と、シリンダ室内での上記ベーン部材の移動に伴って上記両油室間で作動油を流通させるオリフィス通路とを備える。そして、このギアの騒音低減装置は、シリンダ室とベーン部材との間の作動油による緩衝作用及びベーン部材の移動に伴って作動油がオリフィス通路を経て両油室間で流通しベーン部材の移動を適度に妨げることによる減衰作用を利用して、被駆動装置の駆動トルクが変動したときの歯面の衝突を緩和し、噛合い音や歯打ち音を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−349672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような特許文献1に記載されているギアの騒音低減装置は、例えば、内燃機関と電動機との双方を走行用動力源として備えたハイブリッド車両などに搭載される動力伝達装置に適用された場合であっても、より適正に騒音を抑制することが望まれていた。
【0005】
そこで本発明は、騒音が発生することを抑制することができる動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る動力伝達装置は、電動機が発生させた動力が伝達される第1回転部材又は内燃機関が発生させた動力が伝達される出力軸に動力伝達可能に係合する第2回転部材の一方に設けられ内部に粘性流体が充填されるベーン室が形成されるハウジング部と、前記第1回転部材又は前記第2回転部材の他方に設けられ前記ベーン室内を回転方向に対して一対の流体室に区画すると共に前記第1回転部材と前記第2回転部材との相対回転に伴って前記ベーン室内を前記回転方向に移動可能であるベーン部とを有し、前記ハウジング部と前記ベーン部とが前記粘性流体を介してあるいは前記回転方向に当接して相互に前記動力を伝達可能である流体伝達部を備え、前記流体伝達部は、前記電動機の動力を前記出力軸に伝達する際に前記第1回転部材と前記第2回転部材との相対回転に伴って容積が相対的に小さくなる一方側の前記流体室の前記粘性流体による流体抵抗を他方側の前記流体室の前記粘性流体による流体抵抗より大きくする流体抵抗調節部を有することを特徴とする。
【0007】
また、上記動力伝達装置では、前記流体抵抗調節部は、前記ベーン部に設けられ前記一方側の流体室と前記他方側の流体室とを連通する連通路又は前記回転方向に対して一対の前記ベーン室を区画する壁体に設けられ一方の前記ベーン室の前記一方側の流体室と他方の前記ベーン室の前記他方側の流体室とを連通する連通路を含んで構成され、前記連通路は、前記一方側の流体室に開口する第1開口の開口面積が前記他方側の流体室に開口する第2開口の開口面積より小さいものとすることができる。
【0008】
また、上記動力伝達装置では、前記流体伝達部は、前記ベーン室内に設けられ前記ハウジング部と前記ベーン部との前記回転方向に沿った相対変位に応じて前記連通路の通路面積を調節する凸部を有してもよい。
【0009】
また、上記動力伝達装置では、前記流体伝達部は、前記ハウジング部と前記ベーン部との前記回転方向の当接部に介在する吸振部材を有してもよい。
【0010】
また、上記動力伝達装置では、前記流体伝達部は、前記ハウジング部が前記第1回転部材に設けられ、前記ベーン部が前記第2回転部材に設けられることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る動力伝達装置によれば、粘性流体を介して動力を伝達する流体伝達部を備え、流体抵抗調節部が一対の流体室の粘性流体による流体抵抗を適正に調節することから、例えば、内燃機関からの動力の変動成分によって騒音が発生することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施形態1に係る動力伝達装置の流体伝達部周辺の概略構成を示す部分断面図である。
【図2】図2は、図1に示す動力伝達装置のA−Aの断面図である。
【図3】図3は、実施形態1に係る車両の概略構成を示す模式図である。
【図4】図4は、実施形態1に係る内燃機関が発生させる動力を説明する線図である。
【図5】図5は、実施形態1に係るモータが発生させる動力を説明する線図である。
【図6】図6は、変形例に係る動力伝達装置の流体伝達部周辺の径方向に沿った断面図である。
【図7】図7は、実施形態2に係る動力伝達装置の流体伝達部周辺の径方向に沿った断面図である。
【図8】図8は、実施形態3に係る動力伝達装置の流体伝達部の径方向に沿った部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る動力伝達装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0014】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る動力伝達装置の流体伝達部周辺の概略構成を示す部分断面図、図2は、図1に示す動力伝達装置のA−Aの断面図、図3は、実施形態1に係る車両の概略構成を示す模式図、図4は、実施形態1に係る内燃機関が発生させる動力を説明する線図、図5は、実施形態1に係るモータが発生させる動力を説明する線図、図6は、変形例に係る動力伝達装置の流体伝達部周辺の径方向に沿った断面図である。
【0015】
図1、図2に示す本実施形態の動力伝達装置20は、走行用動力源が発生させる動力を伝達するものであり図3に示す車両1に搭載される。ここではまず、図3を参照して車両1の概略構成について説明する。車両1は、駆動輪30を回転駆動して推進するために、走行用動力源(原動機)として内燃機関10と、発電可能な電動機としてのモータジェネレータ(以下、特に断りのない限り「モータ」と略記する)MG1、MG2とを搭載したいわゆる「ハイブリッド車両」である。この車両1は、内燃機関10と、内燃機関10と結合される動力伝達装置20と、動力伝達装置20を介して伝達される動力により回転駆動する駆動輪30と、CPU、ROM、RAM及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体として構成される電子制御装置であるECU40とを備える。車両1は、このECU40によって制御されることで内燃機関10とモータMG1、MG2を原動機として併用又は選択使用することが可能に構成される。
【0016】
内燃機関10は、燃料の燃焼に伴ってクランク軸11に機械的な動力(エンジントルク)を発生させ、この機械的動力をクランク軸11から駆動輪30に向けて出力可能である。動力伝達装置20は、交流同期電動機等により構成される上記モータMG1、MG2、内燃機関10が出力した動力をモータMG1側と駆動輪30側とに分割可能な遊星歯車機構50、遊星歯車機構50から伝達される動力とモータMG2の回転軸22から伝達される動力とを統合し減速してトルクを増大させる減速機構60、減速機構60から伝達された動力を左右の駆動軸71に分配して出力する差動機構70などを有する。駆動輪30は、この左右の駆動軸71にそれぞれ結合されており、駆動軸71と共に一体に回転する。
【0017】
モータMG1、MG2は、電動機としての機能と発電機としての機能とを兼ね備えた回転電機、いわゆるモータジェネレータである。モータMG1は、主に内燃機関10の出力を受けて発電する発電機として用いられ、モータMG2は、主に交流電力の供給を受けてロータに走行用の機械的な動力(モータトルク)を発生させる電動機として用いられる。モータMG1は、ロータに回転軸線C1を中心に回転可能な回転軸21が結合され、モータMG2は、ロータに回転軸線C1と平行な回転軸線C2を中心に回転可能な回転軸22が結合される。
【0018】
遊星歯車機構50は、同一の回転軸線C1を中心に回転可能な回転要素として、回転軸21が結合されるサンギア50sと、クランク軸11が結合されるキャリア50cと、第1ドライブギア23が結合されるリングギア50rとを有する。減速機構60は、回転軸線C1、C2と平行な回転軸線C3を中心に回転可能な回転軸であるカウンタシャフト61と、カウンタシャフト61に結合され第1ドライブギア23と噛み合っているドリブンギア62と、カウンタシャフト61に結合される最終ドライブギア63とを有する。差動機構70は、最終ドライブギア63と噛み合っているリングギア72などを有する。
【0019】
上述したモータMG2は、回転軸22に第2ドライブギア24が結合されている。ドリブンギア62は、第1ドライブギア23と共にこの第2ドライブギア24にも噛み合っている。モータMG2が出力する機械的動力は、回転軸22、第2ドライブギア24を介してドリブンギア62に伝達される。
【0020】
ところで、このような車両1に適用される内燃機関10からの動力とモータMG2からの動力とは、一般に図4、図5に例示するような傾向がある。図4、図5に示す模式図では、横軸を時間軸とし、縦軸をトルクT、速度差(速度変動)ΔN、速度差によって生じる回転方向の変位θとしている。図4中「Ti」は内燃機関10からカウンタシャフト61に入力されるトルク、「To」はカウンタシャフト61の平均トルク(一定と仮定)、「I」は慣性質量、「Ni」は内燃機関10からカウンタシャフト61に入力される動力の回転速度、「No」はカウンタシャフト61の平均回転速度(一定と仮定)を表す。
【0021】
すなわち、内燃機関10からの動力は、図4に示すように燃料の燃焼(爆発)に起因する相対的に大きな変動成分を含む傾向にあるのに対して、モータMG2からの動力は、図5に示すように同一回転数状態において変動成分が相対的に小さい傾向にある。このため、上記のような動力伝達装置20では、例えば、内燃機関10からの動力にモータMG2からの動力を加える部分、すなわち、ドリブンギア62と第2ドライブギア24とが噛み合う部分にて、この内燃機関10の動力の変動成分に起因して、モータMG2側の第2ドライブギア24の歯面に対する内燃機関10側のドリブンギア62の歯面の回転方向への相対的な振れ幅(例えば、図4の変位θの振幅に相当)が所定より大きくなるとドリブンギア62の歯面と第2ドライブギア24の歯面との衝突が発生するおそれがある。そして、この動力伝達装置20では、内燃機関10の動力の変動に伴って、ドリブンギア62の歯面と第2ドライブギア24の歯面とが噛み合い部のバックラッシの範囲内で回転方向に相対変位して歯打ちが生じると、いわゆる歯打ち音などのガラ音が発生するおそれがあり、これにより、騒音が大きくなり車両1の乗員に不快感を与えるおそれがある。
【0022】
動力伝達装置20では、モータMG2が駆動している場合においてはモータMG2の出力トルクによってドリブンギア62の歯面と第2ドライブギア24の歯面とを押さえる力が発生していることから、上記のような歯打ち音が発生しにくい。一方、モータMG2からの動力が0の場合、すなわち、モータMG2の無負荷時(停止時)においては、第2ドライブギア24がドリブンギア62の回転に対してつれまわっているだけの状態となり、第2ドライブギア24の歯面を抑える力が不足することから、内燃機関10からの動力の変動成分によって、上記のような歯打ち音が発生しやすい傾向にある。
【0023】
そこで、動力伝達装置20は、図1、図2に示すように、内燃機関10が発生させた動力が伝達される出力軸としてのカウンタシャフト61に電動機としてのモータMG2が発生させた動力を第1回転部材としてのモータ側回転軸26及び第2回転部材としての中間回転軸27を介して伝達可能な伝達機構80に、流体抵抗調節部94を有する流体伝達部90を設けることで、上記歯打ち音を抑制し、騒音を抑制している。
【0024】
伝達機構80は、上述した回転軸22と、第2ドライブギア24と、ドリブンギア62とを含んで構成される。回転軸22は、モータMG2のロータに結合され、軸受25によりハウジング(不図示)に対して回転軸線C2を中心に回転可能に支持されている。
【0025】
ここで、この回転軸22は、回転軸線C2に沿った方向(以下、特に断りのない限り「回転軸線C2の軸方向」という)に対して、モータ側回転軸26と中間回転軸27とに分割されている。モータ側回転軸26は、モータMG2が発生させた動力が伝達される回転部材であり、中間回転軸27のモータMG2側に配置される。中間回転軸27は、カウンタシャフト61に動力伝達可能に係合する回転部材である。ここでは、中間回転軸27は、上記第2ドライブギア24が一体的に結合され一体回転可能であり、この第2ドライブギア24の歯24aとドリブンギア62の歯62aとが噛み合うことで噛合部81を構成し、これにより、カウンタシャフト61に回転方向に係合する。そして、伝達機構80は、このモータ側回転軸26と中間回転軸27との間で相互に動力を伝達する流体伝達部90を含んで構成される。
【0026】
具体的には、モータ側回転軸26と中間回転軸27とは、嵌合凹部82aと嵌合凸部82bとを含んで構成される嵌合部82を介して接続される。ここでは、嵌合部82は、嵌合凹部82aがモータ側回転軸26側、嵌合凸部82bが中間回転軸27側に設けられるが逆であってもよい。モータ側回転軸26と中間回転軸27とは、嵌合部82にて嵌合凸部82bが嵌合凹部82aに嵌合することで回転軸線C2を回転中心として相対回転可能に接続される。
【0027】
そして、流体伝達部90は、モータ側フランジ部91、ハウジング部としてのハウジング部材92、ベーン部としてのベーン部材93、流体抵抗調節部94などを含んで構成される。流体伝達部90は、ハウジング部材92とベーン部材93とがベーン室95に充填される粘性流体を介してあるいは回転方向に当接して相互に動力を伝達可能なものである。
【0028】
モータ側フランジ部91は、回転軸線C2と同軸の円環板形状に形成され、モータ側回転軸26の中間回転軸27側の端部にこのモータ側回転軸26と一体的に設けられる。
【0029】
ハウジング部材92は、モータ側回転軸26又は中間回転軸27の一方、ここではモータ側回転軸26に設けられ、内部に粘性流体(例えば、ギアオイル等)が充填されるベーン室95が形成される。ハウジング部材92は、円筒部92aと、円環板状部92bと、壁体92cとを含んで構成される。円筒部92a、円環板状部92bは、それぞれ回転軸線C2と同軸の円筒形状、円環板形状に形成される。円環板状部92bは、円筒部92aの一方側の端面にこの円筒部92aと一体的に設けられる。壁体92cは、円筒部92aの内周面にこの円筒部92aと一体的に設けられる。壁体92cは、回転軸線C2の軸方向に直交する方向(以下、特に断りのない限り「回転軸線C2の径方向」という)に沿って板状に形成される。壁体92cは、円筒部92aの内周面から回転軸線C2側に向かって延在するように設けられる。壁体92cは、円筒部92aの内周面に周方向に沿って等間隔で複数個(ここでは8つ)設けられる。ハウジング部材92は、円筒部92aの内周側の空間部がこの壁体92cによって回転方向(回転軸線C2の軸周り周方向に相当)に対して複数のベーン室95(ここでは8つ)に区画される。
【0030】
ハウジング部材92は、円筒部92aの開口側の端面がモータ側フランジ部91に位置するようにして配置され、ボルトなどによってモータ側フランジ部91に固定される。これにより、ハウジング部材92、モータ側回転軸26は、回転軸線C2を中心に一体回転可な構成となり、ハウジング部材92とモータ側回転軸26とは、相互に動力を伝達可能な構成となる。
【0031】
ベーン部材93は、モータ側回転軸26又は中間回転軸27の他方、ここでは中間回転軸27に設けられベーン室95内を回転方向に対して一対の流体室96、97に区画すると共に、モータ側回転軸26と中間回転軸27との相対回転に伴ってベーン室95内を回転方向に移動可能である。ベーン部材93は、円筒軸部98を介して中間回転軸27と一体回転可能に設けられる。円筒軸部98は、ベーン部材93の基部となるものであり、回転軸線C2と同軸の円筒形状に形成される。ベーン部材93は、回転軸線C2の径方向に沿って板状に形成される。ベーン部材93は、径方向内側端部が円筒軸部98の外周面に形成された凹部に嵌合し、回転軸線C2の径方向外側に向かって延在するように設けられる。ベーン部材93は、円筒軸部98の外周面に周方向に沿って等間隔で複数個(ここでは8つ)設けられる。また、円筒軸部98は、内周面が中間回転軸27の外周面に例えばスプライン嵌合部を介して支持されている。これにより、ベーン部材93、円筒軸部98、中間回転軸27は、回転軸線C2を中心に一体回転可な構成となり、ベーン部材93、円筒軸部98と中間回転軸27は、相互に動力を伝達可能な構成となる。
【0032】
そして、流体伝達部90は、モータ側回転軸26と中間回転軸27とが嵌合部82にて嵌合した状態で、中間回転軸27、円筒軸部98がベーン部材93と共にハウジング部材92の円筒部92a、円環板状部92bの内周側に挿入されるような位置関係で組み付けられる。流体伝達部90は、モータ側回転軸26と中間回転軸27とが結合された状態で、円筒軸部98がハウジング部材92の壁体92cの径方向内側に位置し、壁体92cの径方向内側の先端部が円筒軸部98の外周面近傍に位置し、ベーン部材93の径方向外側の先端部が円筒部92aの内周面近傍に位置する。流体伝達部90は、各ベーン室95にそれぞれ1つずつベーン部材93が収容され、各ベーン室95は、このベーン部材93によってそれぞれ回転方向に対して一対の流体室96、97に区画される。また、各ベーン室95は、径方向内側が円筒軸部98の外周面よって区画される。さらに、流体伝達部90は、円筒部92aとモータ側フランジ部91との間、円環板状部92bと中間回転軸27との間、嵌合部82におけるモータ側回転軸26と中間回転軸27との間に各ベーン室95に充填される粘性流体の外部への漏洩を防ぐためのシール部材Sが設けられる。
【0033】
また、この流体伝達部90は、ハウジング角度θaに応じて壁体92cとベーン部材93との間に回転方向に沿って形成される回転方向隙間が噛合部81のバックラッシより大きくなるように構成される。流体伝達部90におけるハウジング角度θaは、流体伝達部90において各ベーン室95内で各ベーン部材93が移動可能な範囲であり、各ベーン室95を区画する一対の壁体92cの対向壁面がなす角度である。流体伝達部90は、このハウジング角度θaが噛合部81のバックラッシ角より大きくなるように構成される。この壁体92cとベーン部材93との回転方向隙間は、伝達機構80の伝達系内に存在する回転方向の遊び、いわゆるガタとして作用する。
【0034】
なお、動力伝達装置20は、ハウジング角度θaに応じた上記回転方向隙間や噛合部81のバックラッシを含む伝達機構80の伝達系内に存在する回転方向の遊びの合計が内燃機関10とモータMG2との回転変動位相差が最大のときのドリブンギア62とモータ側回転軸26との最大相対変位量Δθmax(例えば、図4の相対変位量Δθに相当)より大きくなっているとよい。内燃機関10とモータMG2との回転変動位相差が最大のときの最大相対変位量Δθmaxは、内燃機関10の動力の変動成分に起因したモータ側回転軸26に対するドリブンギア62の回転方向への最大の相対的な振れ幅に相当する。
【0035】
そして、流体抵抗調節部94は、モータMG2の動力をカウンタシャフト61に伝達する際に、一対の流体室96、97のうち、モータ側回転軸26と中間回転軸27との相対回転に伴って容積が相対的に小さくなる一方側の流体室96、97の粘性流体による流体抵抗(言い換えれば粘性トルク)を他方側の流体室96、97の粘性流体による流体抵抗より大きくするものである。言い換えれば、流体抵抗調節部94は、モータMG2の動力をカウンタシャフト61に伝達する際に当該動力を伝達しない場合と比較して流体伝達部90における流体抵抗を大きくするものである。本実施形態の流体抵抗調節部94は、各ベーン部材93に設けられ流体室96と流体室97とに連通しこの流体室96と流体室97との間で粘性流体を流通させる連通路94aを含んで構成される。各連通路94aは、各ベーン部材93を回転方向に貫通して設けられる。なお、モータMG2の動力をカウンタシャフト61に伝達する際とは、車両1をモータMG2の動力によって駆動させる際であり、典型的にはモータMG2の正転駆動時である。
【0036】
流体抵抗調節部94は、この連通路94aの流体室96側の開口94bの開口面積と流体室97側の開口94cの開口面積とが異なる面積に設定されることで流路抵抗が調節され、一対の流体室96、97の粘性流体による流体抵抗を調節することができる。例えば、モータMG2の動力をカウンタシャフト61に伝達する際に、ハウジング部材92が図2において反時計回りの矢印L1方向に回転する場合、連通路94aは、一対の流体室96、97のうち、モータ側回転軸26と中間回転軸27との相対回転に伴って(言い換えれば、ハウジング部材92とベーン部材93との相対回転に伴って)容積が相対的に小さくなる一方側の流体室97に開口する第1開口としての開口94cの開口面積が他方側の流体室96に開口する第2開口としての開口94bの開口面積より小さくなるように形成される。これにより、流体抵抗調節部94は、一対の流体室96、97のうち、前記相対回転に伴って容積が相対的に小さくなる一方側の流体室97の粘性流体による流体抵抗を他方側の流体室96の粘性流体による流体抵抗より大きくすることができる。
【0037】
上記のように構成される動力伝達装置20は、車両1をモータMG2の動力によらずに駆動させる際、すなわち、モータMG2の無負荷時に内燃機関10の動力の変動成分が第2ドライブギア24に作用した場合やモータMG2が動力を出力する場合、あるいは、回生時などにモータMG2に動力が入力される場合には、ハウジング部材92、ベーン部材93、円筒軸部98及び各ベーン室95内の粘性流体などを介してモータ側回転軸26と中間回転軸27との間で相互に動力が伝達される(粘性伝達)。動力伝達装置20は、流体伝達部90を介して伝達されるトルクが小さくモータ側回転軸26と中間回転軸27との回転方向の相対変位角が比較的に小さい段階、すなわち、ベーン室95内においてベーン部材93がハウジング角度θaの範囲内を移動する段階では、ハウジング部材92とベーン部材93との相対回転に伴って、粘性流体がハウジング部材92とベーン部材93との隙間や連通路94aを流通して流体室96と流体室97との間を移動することで、この粘性流体による流体抵抗に応じた抵抗力によりハウジング部材92とベーン部材93と間で動力伝達がなされる。
【0038】
動力伝達装置20は、モータMG2が出力する動力や回生時などにモータMG2に入力される動力が所定より大きくなった場合には、ハウジング部材92、ベーン部材93、円筒軸部98などを介し各ベーン室95内の粘性流体を介さずにモータ側回転軸26と中間回転軸27との間で相互に動力が伝達される(機械伝達)。動力伝達装置20は、流体伝達部90を介して伝達されるトルクが大きくなりモータ側回転軸26と中間回転軸27との相対変位角が相対的に大きくなると、壁体92cとベーン部材93と間の回転方向隙間がつめられて、壁体92cとベーン部材93とが回転方向に当接し、ハウジング部材92とベーン部材93との相対回転が規制され、この当接部分を介してハウジング部材92とベーン部材93との間で動力伝達がなされる。
【0039】
そして例えば、噛合部81で歯打ち音などのガラ音が発生しやすいモータMG2の無負荷時などでは、動力伝達装置20は、流体伝達部90のベーン室95内の粘性流体を介して動力伝達が行われるため、この粘性流体自体の粘性減衰と、ベーン室95内でのベーン部材93の回転方向への移動に伴って連通路94aを介して流通する粘性流体の流体抵抗とによって内燃機関10の動力の変動成分に起因したベーン部材93の移動が適度に妨げられる。このため、動力伝達装置20は、ドリブンギア62の歯面と第2ドライブギア24の歯面との衝突やガタ打ちが発生した際の衝撃を抑制することができる。
【0040】
また、動力伝達装置20は、ベーン室95内の粘性流体の粘性減衰と流体抵抗とによって、例えば、モータMG2の駆動の状態が非駆動状態(無負荷状態)から駆動状態になり壁体92cとベーン部材93との間の回転方向隙間がつめられる時のショック(衝撃力)も抑制することもでき、初期動作時に流体伝達部90にてガタ打ち音が発生することを抑制することができる。
【0041】
そして、この動力伝達装置20は、流体抵抗調節部94によりモータMG2の動力をカウンタシャフト61に伝達する際に容積が相対的に小さくなる一方側の流体室97の粘性流体による流体抵抗が他方側の流体室96の粘性流体による流体抵抗より大きくなっていることから、例えば、モータMG2の無負荷時などにおいて、ベーン部材93をベーン室95内の回転方向中央部近傍に位置決めすることができる。
【0042】
すなわち、動力伝達装置20は、モータMG2の無負荷時においては、ドリブンギア62がモータ側回転軸26をつれまわす状態、言い換えれば、ハウジング部材92及びモータ側回転軸26がベーン部材93及び中間回転軸27の回転に対してつれまわっている状態となっている。このとき、動力伝達装置20は、ベーン部材93にはハウジング部材92、モータ側回転軸26がベーン部材93、中間回転軸27の回転に対してつれまわっている状態での引き摺りトルクに応じたトルクが作用するため、この引き摺りトルクに応じた分だけベーン部材93が中央位置から偏った側に移動しようとする。しかしながら、この動力伝達装置20は、モータMG2の無負荷時に上記トルクがベーン部材93に作用しても、流体抵抗調節部94により調節された流体室96と流体室97との流体抵抗の差分に応じた粘性トルクがベーン部材93に作用することで、ベーン部材93をベーン室95内の回転方向中央部近傍に位置決めすることができる。
【0043】
この結果、動力伝達装置20は、流体抵抗調節部94によりベーン部材93をベーン室95内の回転方向中央部近傍に位置決めすることができることから、例えば、モータMG2の無負荷時に内燃機関10の動力の変動成分に起因して壁体92cとベーン部材93とが衝突することを確実に抑制することができ、ドリブンギア62の歯面と第2ドライブギア24の歯面との衝突やガタ打ちが発生した際の衝撃をより確実に抑制することができる。この結果、動力伝達装置20は、内燃機関10からの動力にモータMG2からの動力を加える噛合部81などにて、内燃機関10からの動力の変動成分によって騒音が発生することを確実に抑制することができる。
【0044】
また、この動力伝達装置20は、流体抵抗調節部94によりベーン部材93をベーン室95内の回転方向中央部近傍に位置決めすることができることから、ベーン部材93がベーン室95内の偏った位置に移動してしまう場合と比較して、ハウジング角度θaを適正な大きさで確保した上でベーン室95を小型化することができるので、ハウジング部材92により多くのベーン室95を設けることができ、これに応じてベーン部材93をより多く設けることができ、これにより、各ベーン部材93の外形を相対的に小さくすることができる。よって、動力伝達装置20は、中間回転軸27に設けられる各ベーン部材93の慣性質量を相対的に低減することができ、ベーン部材93が設けられ内燃機関10の動力の変動に応じてドリブンギア62と衝突しうる中間回転軸27の慣性質量を相対的に小さくすることができ、内燃機関10の動力の変動成分を大きな慣性質量の部材で直接的に受けないようにすることができる。この結果、動力伝達装置20は、ドリブンギア62の歯面と第2ドライブギア24の歯面とが衝突した場合であっても、第2ドライブギア24の歯面が逃げてドリブンギア62の歯面が空振りしたような状態になるので、衝撃力を小さくすることができ、噛合部81にて大きな音が発生することを抑制することができる。
【0045】
また、動力伝達装置20は、流体伝達部90を構成する構成部材のなかで相対的に慣性質量が大きくなる傾向にあるハウジング部材92がモータ側回転軸26に設けられ、相対的に慣性質量が小さくなる傾向にある各ベーン部材93が中間回転軸27に設けられることから、この点でも中間回転軸27の慣性質量を相対的に小さくすることができ、噛合部81にて大きな音が発生することを抑制することができる。
【0046】
さらに、動力伝達装置20は、流体抵抗調節部94によりベーン部材93をベーン室95内の回転方向中央部近傍に位置決めすることができることから、例えば、モータMG2の駆動の状態が非駆動状態(無負荷状態)から駆動状態になる際にベーン部材93が回転方向に移動できる距離を十分に確保することができるので、ベーン室95内の粘性流体の粘性減衰と流体抵抗とによって、壁体92cとベーン部材93とが当接する際のショック(衝撃力)を確実に抑制することができる。この結果、動力伝達装置20は、例えば、モータMG2の非駆動状態から駆動状態への過渡を滑らかにつなぐことができ、モータ駆動による加速時などにおいても快適な走行フィーリングを確保することができる。
【0047】
以上で説明した本発明の実施形態に係る動力伝達装置20によれば、モータMG2が発生させた動力が伝達されるモータ側回転軸26又は内燃機関10が発生させた動力が伝達されるカウンタシャフト61に動力伝達可能に係合する中間回転軸27の一方に設けられ内部に粘性流体が充填されるベーン室95が形成されるハウジング部材92と、モータ側回転軸26又は中間回転軸27の他方に設けられベーン室95内を回転方向に対して一対の流体室96、97に区画すると共にモータ側回転軸26と中間回転軸27との相対回転に伴ってベーン室95内を回転方向に移動可能であるベーン部材93とを有し、ハウジング部材92とベーン部材93とが粘性流体を介してあるいは回転方向に当接して相互に動力を伝達可能である流体伝達部90を備え、流体伝達部90は、モータMG2の動力をカウンタシャフト61に伝達する際にモータ側回転軸26と中間回転軸27との相対回転に伴って容積が相対的に小さくなる一方側の流体室97の粘性流体による流体抵抗を他方側の流体室96の粘性流体による流体抵抗より大きくする流体抵抗調節部94を有する。
【0048】
したがって、動力伝達装置20は、粘性流体を介して動力を伝達する流体伝達部90を備え、流体抵抗調節部94が一対の流体室96、97の粘性流体による流体抵抗を適正に調節することから、ベーン室95内におけるベーン部材93の位置を適正な位置に位置決めすることができるので、内燃機関10からの動力の変動成分によって騒音が発生することを抑制することができる。これにより、動力伝達装置20は、車両1の乗員に不快感を与えることを抑制することができ、快適な走行フィーリングを確保することができると共に、この車両1では騒音防止のために内燃機関10の効率の悪い運転領域でこの内燃機関10を運転することを回避することができ、比較的に効率のよい運転領域で内燃機関10を運転することができるので、燃費を向上することができる。
【0049】
なお、以上の説明では、流体抵抗調節部94が有する連通路94aは、各ベーン部材93に設けられるものとして説明したが、各壁体92cに設けられていてもよいし、各壁体92cと各ベーン部材93の両方に設けられていてもよい。
【0050】
図6に示す変形例に係る動力伝達装置20Aの流体伝達部90Aは、流体抵抗調節部94Aを有する。そして、この流体抵抗調節部94Aは、連通路94Aaを含んで構成される。連通路94Aaは、回転方向に対して一対のベーン室95を区画する各壁体92cに設けられ、一方のベーン室95に上記相対回転に伴って容積が相対的に小さくなる一方側の流体室97と、隣接する他方のベーン室95において上記相対回転に伴って容積が相対的に大きくなる他方側の流体室96とを連通する。そして、連通路94Aaは、流体室97に開口する第1開口としての開口94Acの開口面積が流体室96に開口する第2開口としての開口94Abの開口面積より小さくなるように形成される。これにより、流体抵抗調節部94Aは、一対の流体室96、97のうち、上記一方側の流体室97の粘性流体による流体抵抗を他方側の流体室96の粘性流体による流体抵抗より大きくすることができる。
【0051】
また、以上で説明した動力伝達装置20は、ハウジング部材92がモータ側回転軸26に設けられ、ベーン部材93が中間回転軸27に設けられるものとして説明したが、これに限らず、ハウジング部材92が中間回転軸27に設けられ、ベーン部材93がモータ側回転軸26に設けられていてもよい。この場合、例えば、モータMG2の動力をカウンタシャフト61に伝達する際に、ベーン部材93が図2において反時計回りの矢印L1方向に回転すると仮定すると、一対の流体室96、97のうちモータ側回転軸26と中間回転軸27との相対回転に伴って容積が相対的に小さくなる一方側の流体室は流体室96に相当し、容積が相対的に大きくなる他方側の流体室は流体室97に相当することとなる。この場合、流体抵抗調節部94、94Aは、これに応じてベーン部材93に設けられる連通路94a、あるいは、壁体92cに設けられる連通路94Aaの開口面積が適宜設定されればよい。
【0052】
また、以上で説明したベーン室95に充填される粘性流体は、例えば、シリコンオイルなどの比較的高粘度の流体が好ましい。これにより、動力伝達装置20は、この粘性流体自体の粘性減衰などを向上することができ、例えば、ハウジング角度θaをさらに抑制しベーン室95を小型化することができ、結果的に上記と同様に、中間回転軸27に設けられる各ベーン部材93の慣性質量を相対的に低減することができ、噛合部81にて大きな音が発生することをより確実に抑制することができる。
【0053】
[実施形態2]
図7は、実施形態2に係る動力伝達装置の流体伝達部周辺の径方向に沿った断面図である。実施形態2に係る動力伝達装置は、吸振部材を備える点で実施形態1に係る動力伝達装置とは異なる。その他、上述した実施形態と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す(以下の実施形態でも同様である)。
【0054】
本実施形態の動力伝達装置220は、流体伝達部290を備え、この流体伝達部290は、吸振部材299を有する。吸振部材299は、ハウジング部材92とベーン部材93との回転方向の当接部に介在するものであり、例えば、ゴム部材などの弾性率が比較的小さな部材により形成される。吸振部材299は、壁体92cのベーン室95に面する壁面に設けられている。動力伝達装置220は、モータMG2が出力する動力や回生時などにモータMG2に入力される動力が所定より大きくなった場合には、壁体92cとベーン部材93とがこの吸振部材299を介して当接し、この当接部分の吸振部材299を介してハウジング部材92とベーン部材93との間で動力伝達がなされる。
【0055】
ここでは、流体伝達部290は、吸振部材299として、一対の流体室96、97のうちモータ側回転軸26と中間回転軸27との相対回転に伴って容積が相対的に小さくなる一方側の流体室97内に設けられる第1吸振部材299aと、容積が相対的に大きくなる他方側の流体室96内に設けられる第2吸振部材299bとを含んで構成される。第1吸振部材299aは、モータMG2の駆動時(モータMG2が駆動しハウジング部材92が矢印L1方向に回転する場合)に壁体92cとベーン部材93との間に介在し、第2吸振部材299bは、モータMG2の被駆動時(ハウジング部材92がベーン部材93の回転に対して矢印L1方向につれまわされる場合)に壁体92cとベーン部材93との間に介在する。この流体伝達部290は、第1吸振部材299aが第2吸振部材299bより回転方向に対して厚くなっており、すなわち、バネ定数が小さくなっている。
【0056】
上記のように構成される動力伝達装置220は、例えば、モータMG2の駆動の状態が非駆動状態(無負荷状態)から駆動状態になり壁体92cとベーン部材93とが当接する際のショックを吸振部材299により吸収することができるので、壁体92cとベーン部材93との間の回転方向隙間がつめられる時のショックを確実に抑制することができ、初期動作時に流体伝達部290にてガタ打ち音が発生することを確実に抑制することができる。
【0057】
また、動力伝達装置220は、例えば、モータMG2の無負荷時に内燃機関10の動力の変動成分に起因して壁体92cとベーン部材93とが衝突した場合であっても吸振部材299が衝撃を吸収することができ、衝撃をより確実に抑制することができる。これにより、動力伝達装置220は、例えば、ハウジング角度θaを抑制しベーン室95を小型化することができ、結果的に上記と同様に、中間回転軸27に設けられる各ベーン部材93の慣性質量を相対的に低減することができる。また、この動力伝達装置220は、相対的に大きな動力が伝達されうる駆動側の第1吸振部材299aを厚くし相対的に小さな動力しか伝達されない被駆動側の第2吸振部材299bを薄くすることによってもハウジング角度θaを抑制しベーン室95を小型化することができる。
【0058】
以上で説明した本発明の実施形態に係る動力伝達装置220によれば、流体伝達部290は、ハウジング部材92とベーン部材93との回転方向の当接部に介在する吸振部材299を有する。したがって、動力伝達装置220は、壁体92cとベーン部材93とが当接する際のショックを吸振部材299が吸収することで、モータMG2の非駆動状態から駆動状態への過渡をより滑らかにつなぐことができ、モータ駆動による加速時などにおいても快適な走行フィーリングを確実に確保することができる。
【0059】
[実施形態3]
図8は、実施形態3に係る動力伝達装置の流体伝達部の径方向に沿った部分断面図である。実施形態3に係る動力伝達装置は、連通路の通路面積を調節する凸部を備える点で実施形態1に係る動力伝達装置とは異なる。
【0060】
本実施形態の動力伝達装置320は、流体伝達部390を備え、この流体伝達部390は、流体抵抗調節部394の連通路394aの通路面積を調節する凸部399を有する。ここで、連通路394aは、モータ側回転軸26と中間回転軸27との相対回転に伴って容積が相対的に小さくなる一方側の流体室97に開口する第1開口としての開口394cの開口面積が他方側の流体室96に開口する第2開口としての開口394bの開口面積より小さくなるように形成される。
【0061】
凸部399は、ベーン室95内に設けられハウジング部材92とベーン部材93との回転方向に沿った相対変位に応じてこの連通路394aの通路面積を調節するものであり、例えばエラストマなどのゴム状の弾力性を有する部材により形成される。凸部399は、壁体92cのベーン室95に面する壁面に設けられている。凸部399は、円錐形状をなし、頂点が連通路394aの開口394b、394c側を向くようにして底面が壁体92cに設置される。凸部399と開口394b、394cとは、径方向に対する中心位置がほぼ同等の位置に設けられている。
【0062】
ここでは、流体伝達部390は、凸部399として、一方側の流体室97内に設けられる凸部399cと、他方側の流体室96内に設けられる凸部399bとを含んで構成される。凸部399cは、開口394cに対応する凸部399であり、凸部399bは、開口394bに対応する凸部399である。つまりここでは、凸部399cは、凸部399bより小さい。そして、開口394b、394cは、それぞれ凸部399b、399cに対応した凹部形状となっている。なお、この凸部399bと凸部399cとは、壁体92cを貫通する軸部を介して一体化されていてもよい。
【0063】
上記のように構成される動力伝達装置320は、モータ側回転軸26と中間回転軸27との相対回転に伴って、すなわち、ハウジング部材92とベーン部材93との回転方向に沿った相対変位に応じて凸部399bが開口394bに、あるいは、凸部399cが開口394cに挿入されていくことで、連通路394aの通路面積が調節される。動力伝達装置320は、例えば、モータMG2の駆動時にはハウジング部材92が矢印L1方向に回転し、壁体92cがベーン部材93に近づくにつれて凸部399cが開口394cに挿入されていくことで、開口394cの開口面積(言い換えれば通路面積)が徐々に減少する。これに伴って、動力伝達装置320は、流体室97内の粘性流体による流体抵抗が増加し、この結果、例えば、モータMG2の駆動の状態が非駆動状態(無負荷状態)から駆動状態になり壁体92cとベーン部材93とが当接する際のショックを抑制することができ、初期動作時に流体伝達部390にてガタ打ち音が発生することを確実に抑制することができる。なお、動力伝達装置320は、モータMG2の被駆動時には壁体92cがベーン部材93に近づくにつれて凸部399bが開口394bに挿入されていくことで、開口394bの開口面積が徐々に減少することとなる。
【0064】
また、動力伝達装置320は、上記相対回転に伴って壁体92cとベーン部材93とが接近するにしたがって凸部399が連通路394aの通路面積を減少させ、流体室96、あるいは、流体室97内の粘性流体による流体抵抗を増加させるので、例えば、モータMG2の無負荷時などにおいて、より確実にベーン部材93をベーン室95内の回転方向中央部近傍に位置決めすることができる。この結果、動力伝達装置320は、噛合部81などにて内燃機関10からの動力の変動成分によって騒音が発生することをより確実に抑制することができると共に、ハウジング角度θaを抑制しベーン室95を小型化することができ、結果的に上記と同様に、中間回転軸27に設けられる各ベーン部材93の慣性質量を相対的に低減することができる。
【0065】
以上で説明した本発明の実施形態に係る動力伝達装置320によれば、流体伝達部390は、ベーン室95内に設けられハウジング部材92とベーン部材93との回転方向に沿った相対変位に応じて連通路394aの通路面積を調節する凸部399を有する。したがって、動力伝達装置320は、壁体92cとベーン部材93とが当接する前に凸部399が連通路394aの通路面積を相対的に小さくしベーン室95内の粘性流体による流体抵抗を増加させることで、壁体92cとベーン部材93とが当接する際のショックを抑制することができるので、モータMG2の非駆動状態から駆動状態への過渡をより滑らかにつなぐことができ、モータ駆動による加速時などにおいても快適な走行フィーリングを確実に確保することができる。
【0066】
なお、上述した本発明の実施形態に係る動力伝達装置は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。本発明の実施形態に係る動力伝達装置は、以上で説明した実施形態を複数組み合わせることで構成してもよい。
【0067】
以上で説明した流体抵抗調節部は、連通路の開口面積を異ならせることで一対の流体室の粘性流体による流体抵抗を調節するものとして説明したが、一対の流体室の粘性流体の圧力を調節することで前記流体抵抗を調節するものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上のように本発明に係る動力伝達装置は、内燃機関と電動機との双方を走行用動力源として備えたハイブリッド車両などに適用される種々の動力伝達装置に適用して好適である。
【符号の説明】
【0069】
1 車両
10 内燃機関
20、20A、220、320 動力伝達装置
26 モータ側回転軸(第1回転部材)
27 中間回転軸(第2回転部材)
61 カウンタシャフト(出力軸)
80 伝達機構
90、90A、290、390 流体伝達部
91 モータ側フランジ部
92 ハウジング部材(ハウジング部)
92c 壁体
93 ベーン部材(ベーン部)
94b、94c、94Ac、94Ab、394b、394c 開口
94、94A、394 流体抵抗調節部
94a、94Aa、394a 連通路
95 ベーン室
96、97 流体室
98 円筒軸部
299 吸振部材
299a 第1吸振部材
299b 第2吸振部材
399、399b、399c 凸部
MG1 モータ
MG2 モータ(電動機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機が発生させた動力が伝達される第1回転部材又は内燃機関が発生させた動力が伝達される出力軸に動力伝達可能に係合する第2回転部材の一方に設けられ内部に粘性流体が充填されるベーン室が形成されるハウジング部と、前記第1回転部材又は前記第2回転部材の他方に設けられ前記ベーン室内を回転方向に対して一対の流体室に区画すると共に前記第1回転部材と前記第2回転部材との相対回転に伴って前記ベーン室内を前記回転方向に移動可能であるベーン部とを有し、前記ハウジング部と前記ベーン部とが前記粘性流体を介してあるいは前記回転方向に当接して相互に前記動力を伝達可能である流体伝達部を備え、
前記流体伝達部は、前記電動機の動力を前記出力軸に伝達する際に前記第1回転部材と前記第2回転部材との相対回転に伴って容積が相対的に小さくなる一方側の前記流体室の前記粘性流体による流体抵抗を他方側の前記流体室の前記粘性流体による流体抵抗より大きくする流体抵抗調節部を有することを特徴とする、
動力伝達装置。
【請求項2】
前記流体抵抗調節部は、前記ベーン部に設けられ前記一方側の流体室と前記他方側の流体室とを連通する連通路又は前記回転方向に対して一対の前記ベーン室を区画する壁体に設けられ一方の前記ベーン室の前記一方側の流体室と他方の前記ベーン室の前記他方側の流体室とを連通する連通路を含んで構成され、前記連通路は、前記一方側の流体室に開口する第1開口の開口面積が前記他方側の流体室に開口する第2開口の開口面積より小さい、
請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記流体伝達部は、前記ベーン室内に設けられ前記ハウジング部と前記ベーン部との前記回転方向に沿った相対変位に応じて前記連通路の通路面積を調節する凸部を有する、
請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記流体伝達部は、前記ハウジング部と前記ベーン部との前記回転方向の当接部に介在する吸振部材を有する、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記流体伝達部は、前記ハウジング部が前記第1回転部材に設けられ、前記ベーン部が前記第2回転部材に設けられる、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−127697(P2011−127697A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286959(P2009−286959)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)