説明

動力工具

【課題】トラクションドライブを内装した電動工具では、トラクションオイルの洩れを防止するために高いシール機能を持たせる必要があり、この点でコスト高の原因になる。本発明では、シール構造の簡略化を図って当該電動工具の低コスト化を図ることを目的とする。
【解決手段】トラクションドライブの潤滑剤として、高いトラクション係数を有するトラクショングリスを用いる。変速ケース41内にはグリス溜まり60を設けたり、フェルト材63,64を圧接部位に摺接させる等して少ないトラクショングリスで効率のよい潤滑がなされるよう工夫されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば電動モータを駆動源として内装するグラインダ、ねじ締め工具、切断工具、あるいはエンジン(内燃機関)を駆動源として内装するチェーンソー等の動力工具に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の動力工具では、駆動源の回転動力を減速(変速)するための減速歯車列や出力方向を変換するための歯車列を備えている。減速歯車列としては、平歯車列や遊星歯車機構が用いられ、出力方向を変換するためにはかさ歯車列(ベベルギヤ)が用いられる。また、例えば下記の特許文献4に開示されているようにねじ締め工具等の回転工具では減速歯車列の動力伝達経路を切り換えて、出力状態をビット(先端工具)に付加される負荷トルクに応じて高速低トルク出力モードと低速高トルク出力モードに段階的に切り換える技術が提供されている。
動力工具に限らず、回転出力の変速機構としては、上記のような歯車列の動力伝達経路を切り換えることにより低速、高速の段階的な切り換えを行う構成とするものの他に、減速比を無段階で変化させる無段変速機(CVT:Continuously Variable Trans-mission)が公知になっている。従来、この無段変速機として、いわゆるトラクションドライブ機構を利用したものが公知になっている。このトラクションドライブ式の無段変速機に関する技術が例えば下記の特許文献1〜3に開示されている。
このトラクションドライブ式の無段変速機は、複数の円錐形の遊星ローラに、入力側の太陽ローラと、出力側の推力ローラを推力機構を用いて大きな力で圧接し、これにより得られる転がり接触を利用して動力を伝達するとともに、遊星ローラの円錐面に変速ローラを圧接し、この圧接位置を小径側と大径側との間で変位させて接触径を変化させることにより出力回転数を無段階で変速する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-190740号公報
【特許文献2】特開2002-59370号公報
【特許文献3】特公平3-73411号公報
【特許文献4】特許第3289958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
係る無段変速機では、従来より一般的に潤滑剤としていわゆるトラクションオイルが用いられている。このため、この種の無段変速機においてもトラクションオイルの洩れを防ぐためのシール構造を施す必要があり、この点でその低コスト化あるいは構成の簡略化を図ることが困難であった。
本発明は、従来のトラクションオイルを用いた場合のシール構造を省略することにより、この種の無段変速機の低コスト化及び構成の簡略化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため、本発明は、特許請求の範囲の各請求項に記載した構成の動力工具とした。
請求項1記載の動力工具によれば、無段変速機の潤滑剤として、常態で半固体状をなす潤滑剤を用いる構成であるので、そのシール構造を簡略化することができ、これにより当該無段変速機ひいては動力工具の低コスト化及び構成の簡略化を図ることができる。
この潤滑剤は、一般にトラクショングリスと呼ばれるもので、高いトラクション係数(転がり方向の接線力を法線力で割った無次元量)と適度なちょう度を有する動力伝達用潤滑剤で、ベースオイルに増ちょう剤と適切な添加剤を添加したものが用いられる。このトラクショングリスは、他に、酸化安定性、防錆性、摩耗防止性等の性能に優れたものが用いられる。
請求項2記載の動力工具によれば、潤滑剤は、ベースオイルとしてのトラクションオイルに増ちょう剤を添加したもので、オイルのような流動性を有しない高粘度の半固体(ペースト状)として取り扱うことができ、これにより無段変速機の変速機ケースについて高度なシール構造を必要とすることなく、その洩れを防止し、また効率のよい潤滑を行うことができる。
請求項3記載の動力工具によれば、潤滑剤は、ベースオイル(トラクションオイル)に増ちょう剤を10〜30パーセント添加して得られる。
請求項4記載の動力工具によれば、ちょう度が265〜475の範囲内の潤滑剤はその粘度が半流動状若しくはこれよりも流動性が低いので、無段変速機の変速機ケースについて高度なシール構造を省略しつつその洩れを防止することができ、この点でその取り扱い性及びメンテナンス性を高めることができる。
請求項5記載の動力工具によれば、半固体状で洩れの少ない潤滑剤が用いられているので、流動性の高いトラクションオイルを潤滑剤として用いた場合に温度上昇に伴う圧力上昇を回避するために必要となる容積可変構造を省略することができる。当該無段変速機及び変速機ケース内の温度上昇に伴う圧力上昇によるオイル洩れを防ぐため、潤滑剤としてトラクションオイルを用いる場合にはケース内の圧力上昇を抑制するために、一時的に空き容積を増大させるための手段(容積可変構造)が必要になる場合がある。これに対して、流動性の小さな半固体の潤滑剤を用いる場合には、そもそもオイルのような高度なシール構造を必要としないことから、ケース内の温度上昇に伴う圧力上昇によって当該潤滑剤がケース外へ洩れるおそれを考慮する必要がないので、上記の容積可変構造を省略して、当該変速機ケースの空き容量を常時固定しておくことができる。
【0006】
請求項6記載の動力工具によれば、変速機ケース内の空き容量が極力小さくなることにより、少ない潤滑剤で効率のよい潤滑を行うことができる。例えば、変速機ケースを製作が容易な矩形箱体とし、これに無段変速機を収容して発生する空きスペースについて、これを小さくするためのブロック体形状等の部材を当該変速機ケース内の内壁面に沿って取り付けることにより、その内部容積を極力小さくした変速機ケースを低コストで得ることができる。
請求項7記載の動力工具によれば、無段変速機の潤滑剤として流動性の小さな潤滑剤を用いる構成であるので、一般に機器の動作により掻き揚げて必要部位に降りかけて潤滑を行う必要があるトラクションオイルよりも少ない容量の潤滑剤で同等の潤滑を行うことができる。このため、潤滑剤は変速機ケースの空き容量に対して最大でも1/2程度の容量を封入しておけば足りる。
請求項8記載の動力工具によれば、遊星ローラに対する太陽ローラと推力ローラと変速ローラの3点圧接部位に潤滑剤の薄膜を挟み込むことにより必要な動力の伝達がなされる。変速ケースの全容積のうちこの3点圧接部位を含むスペースとこれ以外のスペースに区画して前者について潤滑剤を封入することにより、少ない量の潤滑剤で効率のよい潤滑を行うことができ、ひいては確実な動力伝達を行うことができる。
請求項9記載の動力工具によれば、フェルト材を素材とする壁部によって3点圧接部位を含むスペースとそれ以外のスペースが区画される。トラクションオイルと異なって半固体状の潤滑剤は、フェルト材を素材とする壁部への浸み込みはほとんどないので他のスペースへの洩れを防ぐことができ、これにより3点圧接部位を含むスペース内での潤滑剤の適切な封入量を長期間にわたって維持することができる。
請求項10記載の動力工具によれば、その変速機ケース内が上記フェルト材を素材とする壁部あるいは当該ケース内面に一体に設けたリブ形壁部によって当該変速機ケース内を2室に区画してその1室に3点圧接部位が収容され、この1室が潤滑剤溜まり(潤滑剤を充填状態に保持することを目的として設けた狭小な空間部)として機能することにより、潤滑剤の洩れを防止しつつ各圧接部位の潤滑を効率よく行うことができるとともに、その封入量を少なくしてそのメンテナンス性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】無段変速機を備えた携帯マルノコの概略の構成を示す図である。
【図2】無段変速機を備えたディスクグラインダの概略の構成を示す図である。
【図3】3点圧接式のトラクションドライブの側面図である。
【図4】無段変速機を備えたディスクグラインダの全体斜視図である。
【図5】無段変速機を備えたディスクグラインダの内部構造を示す縦断面図である。
【図6】エンジンチェーンソーの左側面図である。
【図7】図6中(VII)-(VII)線断面矢視図である。本図は、エンジンチェーンソーの内部構造を下側から見た図である。
【図8】無段変速機とクラッチを備えたねじ締め工具の内部構造を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明の実施形態を図1〜図8に基づいて説明する。以下説明する実施形態は、多様な動力工具についてトラクションドライブ式の無段変速機を備えることを特徴とするもので、当該トラクションドライブ式の無段変速機そのものについては従来公知であることから詳細な説明を省略する。
図1及び図2には、手持ち式の電動工具であって、トラクションドライブ式の無段変速機1を備える電動工具の概略の構成が示されている。図1は携帯マルノコ10を示し、図2はディスクグラインダ20を示している。
図1に示すようにこの携帯マルノコ10は、駆動源としての電動モータ11を備えている。この電動モータ11の出力軸に無段変速機1が接続されている。電動モータ11の出力はこの無段変速機1によって減速される。無段変速機1の出力軸1aには、駆動側の平歯車13aが取り付けられている。この平歯車13aに従動側の平歯車13bが噛み合わされている。この平歯車13bはスピンドル12に取り付けられている。この平歯車13a,13bによって減速比が一定に固定された減速歯車列13が構成されている。従って、無段変速機1により減速された回転動力は、この減速歯車列13によってさらに減速されてスピンドル12に出力される。スピンドル12には、円形の切断刃(鋸刃)15が取り付けられている。減速歯車列13によってスピンドル12の回転軸線J1は、無段変速機1の出力軸1aの回転軸線J0に対して一定の軸間距離をおいて平行に配置されている。無段変速機1の出力軸1aは、電動モータ11の出力軸と同軸に配置されている。
図2に示すようにディスクグラインダ20は、駆動源としての電動モータ21を備えている。この電動モータ21の出力軸に無段変速機1が接続されている。電動モータ21の出力はこの無段変速機1によって減速される。無段変速機1の出力軸1aには、駆動側のかさ歯車22aが取り付けられている。このかさ歯車22aには、従動側のかさ歯車22bが噛み合わされている。このかさ歯車22bはスピンドル23に取り付けられている。このかさ歯車22a,22bによって減速比が一定に固定された減速歯車列22が構成されている。従って、無段変速機1により減速された回転動力は、この減速歯車列22によってさらに減速されてスピンドル23に出力される。スピンドル23には、円形の砥石24が取り付けられている。減速歯車列22によってスピンドル23の回転軸線J2は、無段変速機1の出力軸1aの回転軸線J0に対して直交(90°で交差)する状態に配置されている。無段変速機1の出力軸1aは、電動モータ21の出力軸と同軸に配置されている。
このように、携帯マルノコ10及びディスクグラインダ20等の動力工具において、先端工具としての鋸刃15を取り付けたスピンドル12の回転軸線J1が無段変速機1の出力軸1aの回転軸線J0に対して同軸ではなく一定の軸間距離をおいた平行である場合、あるいは砥石24を取り付けたスピンドル23の回転軸線J2が無段変速機1の出力軸1aの回転軸線J0に対して同軸ではなく直交する場合についてもそれぞれトラクションドライブ式の無段変速機1を備えることにより、その切断負荷や研削負荷(加工状況)に応じて適切な動力(回転数及び出力トルク)を出力可能となり、ひいては従来よりも広範な動力工具についてその機能及び付加価値を高めることができる。
【0009】
図3には、上記無段変速機1の具体的な内部構造が示されている。以下、概略の構成について説明する。この無段変速機1は、3点圧接式の無段変速機で、駆動源側に接続される入力軸3と、入力軸3に取り付けた太陽ローラ4と、円錐形を有する複数の遊星ローラ5〜5と、各遊星ローラ5に圧接された推力ローラ6と、推力ローラ6に推力を発生させるための推力カム機構7と、出力軸8と、遊星ローラ5〜5を内接させた状態でその円錐面に圧接される変速ローラ9を備えている。
複数の遊星ローラ5〜5は、支持するキャリア5aの周囲に等間隔に配置され、それぞれ回転自在に支持されている。各遊星ローラ5は、その回転軸線を直立位置から図示右側に一定角度傾斜させた向きに支持されている。
太陽ローラ4は、各遊星ローラ5の圧接溝部5bに圧接されている。出力軸8は、推力ローラ6の中に後方(出力側)に延びる状態で一体に設けられている。この出力軸8上に推力カム機構7が支持されている。
推力カム機構7は、推力ローラ6の背面側に当接された基台部7aと、この基台部7aに対して相対回転可能かつ平行に接近離間可能に支持された押圧部7bと、基台部7aと押圧部7b間に挟み込まれた複数の鋼球7c〜7cを備えている。押圧部7bは圧縮ばね7dによって基台部7a側に接近する方向(図3において右側)に付勢されている。この圧縮ばね7dの付勢力で基台部7aが推力ローラ6に押し付けられ、これにより各遊星ローラ5に太陽ローラ4と推力ローラ6と変速ローラ9が同じ圧接力で圧接される。この圧接状態で各遊星ローラ5がその軸回りに回転すると変速ローラ9との圧接状態を介してキャリア5aが出力軸8の回転軸線J0回りに回転し、従って遊星ローラ5〜5が軸線J0回りに公転することにより、出力軸8が回転する。
図3は無負荷状態を示している。この無負荷状態では、各鋼球7cが基台部7aの係合凹部7eと押圧部7bの係合凹部7fとの間に挟み込まれている。この無負荷状態から、出力軸8に回転負荷が発生すると、押圧部7bが基台部7aに対して回転方向に変位して各鋼球7cが係合凹部7e,7f内で変位するため基台部7aと押圧部7bとの間隔が大きくなって、推力ローラ6の各遊星ローラ5に対する圧接力が増大し、従って各遊星ローラ5に対する太陽ローラ4、推力ローラ6及び変速ローラ9の3点圧接状態を経て出力軸8に回転動力が伝達される。
この動力発生状態において、変速ローラ9が遊星ローラ5の小径側に位置する状態では、高速低トルクが出力される。変速ローラ9が遊星ローラ5の大径側に変位すると、出力軸8から低速高トルクが出力される。変速ローラ9の移動は、使用者が手動操作により行う構成とする他、出力軸8の負荷あるいは電動モータの負荷を検知し、これに基づいて変速ローラ9をアクチュエータを用いて低速側あるいは高速側に変位させる構成(トルク感応型自動変速機構)とすることができる。
出力軸8の負荷が一定値以上に増大して鋼球7c〜7cが係合凹部7e,7fから完全に離脱すると、動力の伝達が遮断される。負荷が一定値以下に戻されると、各鋼球7cが係合凹部7e,7f間に挟まれて再び動力伝達状態に復帰する。
このように、推力カム機構7は、無段変速機1に圧接力を発生させる機能に加えて、出力軸8の負荷に基づいて作動するクラッチとしての機能をも有している。
【0010】
図4及び図5には、上記の3点圧接式の無段変速機1を内装したディスクグラインダ30が示されている。図4では、図2に比してディスクグラインダ30の構成がより具体的に示されている。このディスクグラインダ30は、使用者が把持するグリップ部31と、減速部40と、ギヤヘッド部33を備えている。グリップ部31には、駆動源としての電動モータ34が内装されている。グリップ部31の前部に減速部40が結合されている。この減速部40に無段変速機1が内装されている。減速部40の前部にギヤヘッド部33が結合されている。このギヤヘッド部33に、補助減速機構として減速比が固定されたかさ歯車列35が内装されている。ギヤヘッド部33からスピンドル36が下方へ突き出す状態に設けられている。スピンドル36の下部に円形の砥石37が装着されている。グリップ部31の後部には、充電式のバッテリパック38が装填されている。グリップ部31の前側部にはスライドスイッチ32が設けられている。このスライドスイッチ32を前側へスライドさせると電源回路がオンして電動モータ34がバッテリパック38を電源として起動する。電動モータ34の回転動力は、減速部40の無段変速機1及びギヤヘッド部33のかさ歯車列35を経てスピンドル36に伝達される。このため、図2に示す実施形態と同様、スピンドル36の回転軸線J2は、無段変速機1の出力軸8の回転軸線J0に対して直交している。
減速部40は、変速機ケース41を備えている。この変速機ケース41の後部にグリップ部31が取り付けられ、前部にギヤヘッド部33が取り付けられている。この変速機ケース41に無段変速機1が内装されている。無段変速機1の入力軸3に電動モータ34の出力軸34aが結合されている。電動モータ34の出力軸34aは、回転について入力軸3に固定されている。入力軸3は、軸受け42によって軸線J0回りに回転自在に支持されている。
無段変速機1の出力軸8の後部側は、太陽ローラ4の前面に取り付けた軸受け43により回転支持されている。出力軸8の前部は、変速機ケース41に取り付けた軸受け44により回転支持されている。この出力軸8上に、キャリア5aと推力ローラ6と推力カム機構7が支持されている。出力軸8に対して、キャリア5a及び推力ローラ6は回転自在に支持されている。また、推力カム機構7の押圧部7bは出力軸8に回転について係合されている。推力カム機構7の基台部7aは推力ローラ6に対して回転について係合されている。
【0011】
変速ローラ9の周方向の一部には、ホルダ50が取り付けられている。このホルダ50は、相互に平行な2つの壁部50a,50aを備えており、この両壁部50a,50a間に変速ローラ9がその軸線J0回りの回転を許容する状態で挿入されている。
ホルダ50は、変速機ケース41に支持したスライドバー52によって前後に一定の範囲で平行移動可能に支持されている。このスライドバー52の周囲であって変速機ケース41とホルダ50の前面間には圧縮ばね53が介装されている。この圧縮ばね53によってホルダ50は、後ろ側へスライドする方向に付勢されている。ホルダ50が後ろ側にスライドすると、変速ローラ9が各遊星ローラ5の小径側へ変位するため、当該無段変速機1が高速側(初期位置)に変速する。ホルダ50が圧縮ばね53に抗して前側へスライドすると、変速ローラ9が各遊星ローラ5の大径側へ変位するため、当該無段変速機1が低速側へ変速する。このようにホルダ50の平行移動に伴って変速ローラ9が各遊星ローラ5の小径側と大径側との間で平行移動することにより、当該無段変速機1が高速低トルク出力状態と低速高トルク出力状態との間で無段階に変速される。
ホルダ50は、変速モータ51を駆動源として移動する。変速モータ51の出力軸にはねじ軸54が取り付けられている。このねじ軸54には、ナット55が噛み合わされている。ナット55の前端はホルダ50の後面に突き当てられている。変速モータ51が低速側へ起動するとねじ軸54が回転してナット55が前側へ変位する。ナット55が前側へ変位することにより、ホルダ50が圧縮ばね53に抗して前側へ押されて変速ローラ9が低速側へ変位する。変速モータ51が高速側に起動するとねじ軸54が逆転してナット55が後ろ側へ戻される。ナット55が後ろ側へ戻されると、ホルダ50が圧縮ばね53で後ろ側へ押されて変速ローラ9が高速側へ戻される。変速モータ51の低速側若しくは高速側への起動、停止のタイミングは、砥石37に負荷される研削抵抗であって電動モータ34の負荷に基づいてなされる。電動モータ34の負荷が増大すると変速モータ51が低速側に起動して当該無段変速機1が低速高トルク出力状態に変速され、電動モータ34の負荷が減少すると変速モータ51が高速側に起動して当該無段変速機1が高速低トルク出力状態に戻される。このように、砥石37の研削抵抗により増減する電動モータ34の負荷に基づいて当該無段変速機1が自動的かつ無段階で変速される(負荷感応型自動変速機能)。
出力軸8の前部(本実施形態ではかさ歯車35a)と、推力カム機構7の押圧部7bとの間に圧縮ばね7dが介装されている。この圧縮ばね7dの付勢力及び各鋼球7cの係合凹部7e,7fに対する係合状態により各遊星ローラ5に対する太陽ローラ4、推力ローラ6及び変速ローラ9の圧接力が発生する。
出力軸8には、減速部33の駆動側のかさ歯車35aが結合されている。この駆動側のかさ歯車35aは出力軸8と一体で回転する。この駆動側のかさ歯車35aには従動側のかさ歯車35bが噛み合わされている。この従動側のかさ歯車35bは、スピンドル36の上部に固定されている。スピンドル36は、軸受け36a,36bを介して軸線J2回りに回転自在に支持されている。砥石37は、固定フランジ37aと固定ナット37bに挟まれた状態でスピンドル36の下部に強固に固定されている。砥石37の後ろ側ほぼ半周の範囲は、砥石カバー39で覆われている。
以上説明したように例示したディスクグラインダ30では、無段変速機1と、減速比が固定された補助減速機構(かさ歯車列35)との間に、クラッチとしても機能する推力カム機構7が直列に配置された構成となっている。
【0012】
次に、トラクションドライブ式の無段変速機1では、遊星ローラ5〜5に対する太陽ローラ4、推力ローラ6及び変速ローラ9の圧接部に油膜を形成するための潤滑剤が変速機ケース41内に充填されている。通常、この潤滑剤としてトラクションオイル(液体)が用いられるが、本実施形態ではこのトラクションオイルに代えて、これよりも流動性が低くペースト状(半固体)を有するトラクショングリスが潤滑剤として用いられている。
このトラクショングリスは、合成油若しくは鉱物油等のベースオイル(基油)に、金属石けん系若しくは非石けん系の増ちょう剤と、酸化防止剤や固体潤滑剤や防錆剤等の添加剤を添加したもので、ベースオイルが70〜90パーセントを占め、増ちょう剤が10〜20パーセントを占め、高いトラクション係数を有するものが用いられる。
また、本実施形態では、ちょう度(稠度)が265〜475(1/10mm)の範囲内であって、NLGI(国際グリース協会、National Luburicatiing Grease Institute)のちょう度番号が2号〜000号の範囲内のトラクショングリスが用いられている。
当該無段変速機1の組み立て工程において、太陽ローラ4の周囲、各遊星ローラ5の円周面全周及びその下面と圧接溝部5bの全周、推力ローラ6の全周、及び変速ローラ9の内周側全周についてこのトラクショングリスがそれぞれ適量ずつ塗布されている。また、変速機ケース41の内部には、各遊星ローラ5に対する太陽ローラ4、推力ローラ6及び変速ローラ9の圧接部に対して当該トラクショングリスを補給するための潤滑剤溜まり(グリス溜まり60)が設けられている。変速機ケース41内の、前部には前ブロック体61が取り付けられ、後部には後ろブロック体62が取り付けられている。前ブロック体61と後ろブロック体62の間の空間部がグリス溜まり60とされている。このグリス溜まり60内に十分な量のトラクショングリスが充填されている。図示するように前ブロック体61と後ろブロック体62との間の空間部に、各遊星ローラ5に対する太陽ローラ4、推力ローラ6及び変速ローラ9の圧接部が位置して、これら圧接部に対するトラクショングリスの補給が確実になされるようになっている。
前後のブロック体61,62は、金属部品あるいは合成樹脂の成型品とする他、フェルト材で製作してもよい。
また、前ブロック体61と後ろブロック体62によってグリス溜まり60が区画されることにより、当該トラクショングリスの前ブロック体61の前側への流出、及び変速機ケース41の外側への流出が防止されている。さらに、トラクショングリスはトラクションオイルとは異なって流動性が低いため、当該ディスクグラインダ30の向き(姿勢)には関係なく常時グリス溜まり60に充填された状態に保持される。
また、トラクションドライブ用潤滑剤として流動性(拡散性)の低いペースト状のトラクショングリスを用いる構成であるので、液状のトラクションオイルを封入した場合のように、変速機ケース41に対して高度なシール機能を施す必要がない。このため、変速機ケース41にオイルシールあるいはオーリング等のシール部材を装着する必要がないので、潤滑剤シール構造の簡略化を図ることができ、ひいては当該無段変速機1の構成の簡略化を図ることができる。また、液体であるトラクションオイルに比して洩れが少ないことからそのメンテナンス期間を長くすることができ、ひいては当該無段変速機1のメンテナンス性を高めることができる。
上記の構成にはさらに改良を加えることができる。例えば、図5において二点鎖線で示すように変速ローラ9の後部に沿って同じく円環形状を有するフェルト材63を取り付け、このフェルト材63を推力ローラ6の周縁部及び遊星ローラ5との圧接部に摺接させる構成とすることができる。また、これに加えて変速ローラ9の前側にも同じ円環形状を有するフェルト材64を取り付けて、これを各遊星ローラ5の円錐面に摺接させる構成としてもよい。この構成によれば、フェルト材63,64には適度にトラクショングリスが浸み込むため、これが各遊星ローラ5の円錐面、あるいは各遊星ローラ5と推力ローラ6の圧接部位等に直接接触されることにより、これらの潤滑がより確実になされる。
各遊星ローラ5の円錐面あるいは推力ローラ6の周縁部であって、トラクション力を発生させる圧接部は鏡面仕上げ加工がなされているため、これらにフェルト材63,64を摺接させてもその摩耗は実質的に発生しない。
また、後ろ側のフェルト材63を用いることにより、このフェルト材63と前ブロック体61との間にグリス溜まり60が形成されることから後ろブロック体61を省略することもできる。
【0013】
次に、図6には、動力工具の一例としてエンジンチェーンソー70が示されている。このエンジンチェーンソー70も無段変速機1を内装している。このエンジンチェーンソー70は、出力の変速手段としてトラクションドライブ式の無段変速機1と、1方向にのみ回転動力を伝達するクラッチ80を備える点に大きな特徴を有するものであり、チェーンソーとしての基本的な構成については従来公知の構成で足りることからその詳細な説明は省略する。なお、このチェーンソー70の説明では、部材等の左右方向については使用者を基準とする。
このエンジンチェーンソー70は、駆動源としての2ストロークエンジン(内燃機関)75を内装した本体部71と、本体部71の上部に設けたメインハンドル72と、本体部71の左側部に設けたサブハンドル73を備えている。図7には本体部71の詳細な内部構造が示されているが、主な部材についてのみ説明する。図7中、符号75eはシリンダブロックを示している。このシリンダブロック75eのボアにはピストン75aが前後に往復動可能に収容されている。このピストン75aにコネクティングロッド75bの一端側が回転可能に連結されている。コネクティングロッド75bの他端側は、クランク軸75dに回転可能に連結されている。ピストン75aの燃焼室側には点火プラグ75cが取り付けられている。図示省略した燃料供給経路を経て燃焼室内に供給された混合気に点火プラグ75cのスパークが引火してピストン75aが往復動する。ピストン75aが2ストロークする過程で給排気、燃焼等の内燃機関としての工程が繰り返されることによりクランク軸75dから回転動力が出力される。クランク軸75dの回転動力は、クラッチ80と無段変速機1を経てスピンドル76に伝達される。スピンドル76には、チェーンスプロケット77が取り付けられている。このチェーンスプロケット77とガイドバー78との間にチェーン刃(図示省略)が掛け渡されている。
ガイドバー78は、長尺平板形状をなすもので、その一端側は本体部71の右側部に設けたケース部74に支持されている。このガイドバー78は、ケース部74から前方へ長く延びている。
【0014】
クラッチ80は、入力側のクランク軸75dの回転数が一定以上である場合にその出力軸81に回転動力を伝達し、クランク軸75dの回転数が小さいアイドル回転状態では出力軸81への回転動力の伝達を遮断する遠心クラッチ機構を有するもので、これには従来公知のものが用いられている。クランク軸75dの回転数は、別途設けられている調整機構(スロットルレバー)を使用者が操作することにより任意に調整することができる。
このクラッチ80の出力軸81に、無段変速機1の入力軸3及び太陽ローラ4が結合されている。無段変速機1には、図3及び図5に示す3点圧接形のトラクションドライブが用いられている。この無段変速機1は、上記太陽ローラ4の他、遊星ローラ5〜5、推力ローラ6、推力カム機構7及び変速ローラ9等の各部材を備えている。これらについては、図中同位の符号を用いてその説明を省略する。なお、出力軸8と推力カム機構7の押圧部7bとの間に介装された圧縮ばね7dの図示が図7では省略されている。出力軸8の右端部に上記チェーンスプロケット77が取り付けられている。当該エンジンチェーンソー70では、出力軸8がスピンドル76として機能する。チェーン刃は、チェーンスプロケット77とガイドバー78との間に掛け渡されている。チェーンスプロケット77が回転すると、チェーン刃がガイドバー78の周囲に沿って回転する。ガイドバー78に沿って回転するチェーン刃を樹木等の被切断材に押し当てることにより切断加工を行うことができる。
スロットルレバーの調整によりエンジン75の出力回転数が一定以上であり、従ってクラッチ80の動力伝達状態において、チェーン刃に負荷される切断抵抗が一定以上に達すると、これが別途設けた検知手段により検知され、これに基づいて変速ローラ9がアクチュエータの起動により自動的に低速側へ変位し、これによりスピンドル76に高トルクが出力される。切断抵抗に基づいて無段変速機1が自動的に高トルク側に変速されることにより、使用者はそのまま切断加工を続行することができる。なお、変速ローラ9の移動については、手動操作により行う構成としてもよい。
切断加工が完了してチェーン刃の切断抵抗が小さくなると、これが上記検知手段で検知されて変速ローラ9が自動的に高速側(初期位置)に変位する。スロットルレバーの調整によりエンジン75の出力回転数が小さくなったアイドリング状態では、クラッチ80が動力遮断側に切り換わるためスピンドル76への回転動力の伝達が遮断され、従ってチェーン刃の回転が停止したアイドリング状態となる。スロットルレバーを操作してエンジン75の出力回転数を高めると、クラッチ80が回転動力接続状態に切り換わってチェーン刃が再びガイドバー78の周囲に沿って高速回転し始める。
【0015】
次に、図8には、同じく3点圧接式の無段変速機1を内装したねじ締め工具90が示されている。このねじ締め工具90は、駆動源としての電動モータ92を内装した本体部91と、本体部91の側部から側方に延びるハンドル部93を備えている。ハンドル部93の先端には、電源としてのバッテリパック95が装着されている。このバッテリパック95を電源として電動モータ92が起動する。ハンドル部93の基部には、トリガ形式のスイッチレバー96が配置されている。このスイッチレバー96を指先で引き操作すると電動モータ92がバッテリパック95から供給される電力により起動する。電動モータ92が起動すると、本体部91の前部に装着したねじ締め用のビット(図ではビットを装着するためのビットソケット110のみが示されている。)がねじ締め方向に回転する。
電動モータ92は、本体部91の本体ハウジング91aの後部側に内装されている。電動モータ92の出力軸92aには、無段変速機1の入力軸3が結合されている。入力軸3は、出力軸92aと一体で回転する。無段変速機1には、図3、図5及び図7に示す構成と同じく3点圧接式のトラクションドライブが用いられている。無段変速機1の各構成部材については同位の符号を用いてその説明を省略する。
但し、図8に示す無段変速機1では、変速ローラ9の移動(変速)を手動操作で行うための変速レバー9aが設けられている。締め付けるねじ径が太い場合には、予め低速側に変速しておき、締め付けるねじ径が細い場合には、予め高速側に変速してねじ締め作業を行うことにより、太いねじを大きな締め付けトルクで確実に締め付けることができ、細いねじは高速回転により迅速にねじ締め作業を行うことができる。また、図7と同じく図8においても、推力カム機構7の圧縮ばね7dの図示が省略されている。
無段変速機1の出力軸8は、電動モータ92の出力軸92aと同軸(回転軸線J0)上に配置されている。また、無段変速機1の出力軸8に対して同軸(回転軸線J0)でスピンドル100が配置されている。無段変速機1の出力軸8と、スピンドル100との間には、ねじの締め付けトルクを設定するための締め付けトルク設定機構94が介装されている。
【0016】
無段変速機1の出力軸8には、伝達フランジ97が取り付けられている。この伝達フランジ97は軸受け98を介して本体ハウジング91aに回転自在に支持されている。この伝達フランジ97と同軸(回転軸線J0)上にスピンドル100が相対的に回転自在かつ軸線方向には相互に一体化された状態で配置されている。伝達フランジ97の前面には、複数の鋼球99〜99を挟み込んだ状態でクラッチ板101が当接されている。このクラッチ板101と、スピンドル100の前部に設けたトルク設定フランジ103との間には圧縮ばね102が介装されている。この圧縮ばね102によって、クラッチ板101は、伝達フランジ97の前面に押し付けられる方向に付勢されている。
圧縮ばね102の付勢力によりクラッチ板101が鋼球99〜99を間に挟み込んで伝達フランジ97に押し付けられることにより、伝達フランジ97の回転動力がスピンドル100に伝達される。
クラッチ板101の溝部101aとスピンドル100の溝部100aとの間にも、一つの鋼球104が挟み込まれている。両溝部101a,100aはそれぞれ軸線J0に沿って形成されている。このため、クラッチ板101はスピンドル100に対して一体回転しつつ軸線J0方向に相対変位する。スピンドル100に大きな回転抵抗(ねじ締め抵抗)が負荷されると、クラッチ板101が相対回転しつつ圧縮ばね102に抗し前側へ変位する。クラッチ板101が前側へ変位すると、鋼球99〜99の係合状態が外れて伝達プレート97に対する動力伝達状態が遮断される。
スピンドル100の前部に、ビット装着用のソケット110が取り付けられている。ソケット110は、本体ケース91aの前部に軸受け106,106を介して回転自在に支持されている。本体ケース91aの前部には、作動設定トルク調整用の窓部91bが設けられている。この窓部91bは、トルク設定フランジ103の側方に配置されている。このトルク設定フランジ103はスピンドル100にねじ結合されている。このため、このトルク設定フランジ103は軸線J0回りに回転させると軸線J0方向の位置を調整することができる。トルク設定フランジ103の軸線J0方向の位置を調整することにより、圧縮ばね102の付勢力を変化させて、作動設定トルク(スピンドル100に対するトルク伝達が遮断されるトルク値)を調整することができる。トルク設定フランジ103は、上記窓部91bを経て専用工具を用いることにより回転させることができる。
この締め付けトルク設定機構94の作動設定トルクを適切に設定することにより、ねじが作動設定トルクで締め付けられると、伝達フランジ97とクラッチ板101間において鋼球99〜99が外れることにより動力の伝達が遮断される。
なお、上記締め付けトルクの設定が過大である場合には、無段変速機1の推力カム機構7において、鋼球7c〜7cが外れることにより基台部7aが空回りして、この場合も動力の伝達が遮断されることにより当該無段変速機1あるいは電動モータ92等の駆動系に損傷を及ぼすことが防止される。このように、無段変速機1の推力カム機構7は、各遊星ローラ5に対する太陽ローラ4、推力ローラ6及び変速ローラ9の圧接力を発生させる機能に加えて、駆動系の過負荷防止機能をも兼ね備えている。
【0017】
以上説明した本実施形態の動力工具1によれば、無段変速機1の潤滑剤として半固体のトラクショングリスが用いられている。このため、液体であるトラクションオイルを用いた場合に比して、高いシール性能を有する軸受けやオイルシールを必要としない等の点で当該無段変速機1のシール構造の簡略化を図ることができ、これにより動力工具の低コスト化及び構成の簡略化を図ることができる。このトラクショングリスは、オイルのような流動性を有しない高粘度の半固体(ペースト状)として取り扱うことができることから、無段変速機1の変速機ケース41について高度なシール構造を設けることなくその洩れを防止して効率のよい潤滑を行うことができる。
また、トラクショングリスは、トラクションオイルに比して、変速機ケース41からの洩れのおそれが少ないので、当該無段変速機1の組み付け工程での取り扱い性を高めることができるとともに、そのメンテナンス性を高めることができる。
さらに、洩れのおそれが少ないトラクショングリスが用いられているので、トラクションオイルを潤滑剤として用いた場合に必要となる容積可変構造を省略することができる。従来、潤滑剤としてトラクションオイルを用いた場合には、温度上昇に伴う圧力上昇によってトラクションオイルがシール部等から洩れ出すことを回避するために、変速機ケースに併設した別の空洞部を開放して当該変速機ケースの容積を一時的に増大させることによってその圧力上昇を抑制する容積可変構造が用いられていたが、例示したように潤滑剤としてトラクショングリスを用いることにより同等程度の圧力上昇が発生した場合であっても洩れが発生しないことから、係る容積可変構造を省略して当該変速機ケースの容積を常時固定しておくことができ、この点でも当該無段変速機1の構成の簡略化を図ることができる。トラクショングリスの場合には、そもそも高度なシール構造を要しないので、変速機ケース41の圧力上昇自体を大幅に抑制することができる。
【0018】
また、例示した無段変速機1では、変速機ケース41内の空きスペースが前後のブロック体61,62によって小さくなっている。このため、トラクショングリスの充填量を極力少なくして効率のよい潤滑を行うことができる。例示した変速機ケース41の場合、これを製作の容易な矩形箱体に形成し、その内部に前後ブロック体61,62を取り付けてその空き容積を小さくすることができる。これに対して、無段変速機1の各構成部品の外形に合わせて複雑な形状の内面を有する変速機ケースを成形等により製作する場合にはコスト高となるが、例示した変速機ケース41によれば低コストで空き容量の狭小化を図ることができる。
さらに、潤滑剤として流動性の小さなトラクショングリスを用いる構成であるので、一般に機器の動作により掻き揚げて必要部位に降りかけて潤滑を行う必要があるトラクションオイルよりも少ない容量のトラクショングリスで同等の潤滑を行うことができる。例えば、トラクショングリスはグリス溜まり60の空き容積に対して最大で1/2程度の容量を封入しておけば十分な潤滑を実現できる。
また、例示した変速機ケース41内が、前後のブロック体61,62によってほぼ2室に区画され、一方(図5では後ろ側)の室に無段変速機1が収容されてその空き容積がグリス溜まり60とされており、この点でも変速機ケース41の全空き容積について、トラクショングリスを充填するための空き容積の狭小化が図られており、これにより少ないトラクショングリスで効率のよい潤滑が実現される。特に、例示したように、一方の室に、無段変速機1の主として3点圧接部位を収容してその空き容積をグリス溜まり60とすることにより少ないトラクショングリスで一層効率のよい潤滑を行うことができ、ひいては確実な動力伝達を行うことができる。
さらに、変速ローラ9に沿って円環形状のフェルト材63,64を取り付け、これにトラクショングリスを浸み込ませて無段変速機1の3点圧接部位に摺接させることにより、当該部位の潤滑をより一層確実に行うことができる。このフェルト材63,64を、変速ケース41内を2室に区画する壁部として機能させることができる。このフェルト材63,64によってトラクショングリスの洩れを防止しつつグリス溜まり60を形成するとともに、3点圧接部位に摺接させて当該3点圧接部位を集中的に潤滑することができる。
【0019】
以上説明した実施形態には種々変更を加えることができる。例えば、フェルト材63,64は省略してもよい。また、フェルト材63,64を用いて前後のブロック体61,62を省略してもよい。
トラクショングリスは、当該無段変速機1の使用状況等の要因によって、その増ちょう剤の添加量、ちょう度及びトラクション係数等の必要な性状が適切に設定される。
また、無段変速機1として3点圧接式のトラクションドライブを例示したが、遊星ローラを出力側に備える2点圧接式のトラクションドライブを用いる構成としてもよい。
遊星ローラ5に対する太陽ローラ4、推力ローラ6及び変速ローラ9の圧接力を発生させるための手段として推力カム機構7を例示したが、例えばねじ軸機構等の別形態の圧接力発生手段に置き換えることができる。
さらに、動力工具として、手持ち式の携帯マルノコ10、ディスクグラインダ20,30、エンジンチェーンソー70及びねじ締め工具90を例示したが、本発明はその他に、据え置き型のテーブルソー等の動力工具についても適用でき、また電動モータではなくエアモータを駆動源とする動力工具について広く適用することができる。
【符号の説明】
【0020】
1…無段変速機(3点圧接式トラクションドライブ)
3…入力軸
4…太陽ローラ
5…遊星ローラ、5a…キャリア
6…推力ローラ
7…推力カム機構
8…出力軸
9…変速ローラ
30…ディスクグラインダ
34…電動モータ、34a…出力軸
36…スピンドル、37…砥石
40…減速部
41…変速機ケース
50…ホルダ
51…変速モータ
54…ねじ軸
60…グリス溜まり
61…前ブロック体
62…後ろブロック体
63,64…フェルト材
70…エンジンチェーンソー
75…2ストロークエンジン(内燃機関)
78…ガイドバー
80…クラッチ(遠心クラッチ)
81…出力軸
90…ねじ締め工具
94…締め付けトルク設定機構
97…伝達フランジ
99…鋼球
100…スピンドル、100a…溝部
101…クラッチ板、101a…溝部
102…圧縮ばね
103…固定フランジ
104…鋼球
110…ビットソケット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラクションドライブ式の無段変速機を備えた動力工具であって、前記無段変速機の潤滑剤として、常態において半固体状の潤滑剤を用いた動力工具。
【請求項2】
請求項1記載の動力工具であって、前記潤滑剤は、ベースオイルに増ちょう剤を含有したトラクション係数の高いグリスである動力工具。
【請求項3】
請求項2記載の動力工具であって、前記潤滑剤は、増ちょう剤を10〜30パーセント含有する動力工具。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載した動力工具であって、前記潤滑剤のちょう度が、265〜475の範囲内に設定された動力工具。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載した動力工具であって、前記無段変速機を収容する変速機ケースの空き容積が固定された動力工具。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載した動力工具であって、前記無段変速機を収容する変速機ケースは、その空き容積を小さくするための部材を備えた動力工具。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載した動力工具であって、前記無段変速機を収容する変速機ケース内に封入した前記潤滑剤の量を、最大で該変速機ケースの空き容積の1/2とした動力工具。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載した動力工具であって、前記無段変速機は変速機ケースに収容されており、前記無段変速機は、円錐形の遊星ローラに太陽ローラと推力ローラと変速ローラを圧接させた3点圧接式のトラクションドライブであり、前記変速機ケース内が2室に区画され、一方の室内に前記各ローラ間の圧接部位を収容した動力工具。
【請求項9】
請求項8記載の動力工具であって、前記変速機ケースがフェルト材を素材とする壁部によって区画された動力工具。
【請求項10】
請求項8又は9記載の動力工具であって、前記一方の室が前記潤滑剤を封入した潤滑剤溜まりとして機能する動力工具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−45977(P2011−45977A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197765(P2009−197765)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000137292)株式会社マキタ (1,210)
【Fターム(参考)】