説明

動物を安楽死させる方法及び動物用安楽死装置

【課題】 動物に麻酔をかけた後に窒息死処分するという安楽死の方法において、麻酔薬を効率的に、且つそれぞれの対象動物に適した容量を使用することで、動物が意識を消失するまでの苦痛及び殺処分時の苦しみを最小限に抑えた安楽死の方法及び安楽死装置を提供する。
【解決手段】 動物を所定容積の処理室内に収容し、該処理室内に麻酔液気化器により所定の速度で気化された麻酔ガスを供給して、動物に麻酔ガスを吸入させることによって麻酔をかけた後、該処理室内を酸欠状態にして動物を安楽死させる動物用安楽死装置によって、殺処分される動物の死に至るまでの苦痛を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物を安楽死させる方法及び動物用安楽死装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飼い主から捨てられて捕獲された放浪動物は、動物管理センターや保険所の施設等に収容され、一定期間以内に新しい飼い主が見つからなければ、処理室内に入れられ殺処分される。殺処分の方法として、炭酸ガスによる窒息死処分や麻酔を用いた安楽死等が挙げられる。
【特許文献1】特開2003−38090号公報
【特許文献2】特表2001−512305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の殺処分方法の1つである窒息死処分では、動物が無意識の状態を生じて死亡するまでには長い時間が掛かり、意識を消失する前に呼吸数が増加したり、泣き声や喘ぎ、震え等の症状を見せたりする動物も多く、殺処分時に動物に過剰な苦痛を与えている。
【0004】
一方、動物に麻酔をかけた後に窒息死処分するという安楽死の方法がある。この方法において、動物は麻酔によって意識を消失し、続いて心肺機能の停止及び最終的な脳機能の停止を生ずるため、意識を消失するまでに感じる苦痛を抑えることができる。しかし、動物の意識を消失させ得る麻酔の使用量は対象動物によって異なるため、麻酔薬の的確な使用には注意が必要となる。
【0005】
そこで、動物に麻酔をかけた後に窒息死処分するという安楽死の方法において、麻酔薬を効率的に、且つそれぞれの対象動物に適した容量を使用することで、動物が意識を消失するまでの苦痛及び殺処分時の苦しみを最小限に抑えた安楽死の方法及び安楽死装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、動物の安楽死の方法及び安楽死装置について、前述の課題を解決すべく検討した。具体的には、適量の麻酔薬を素早く効率的に動物に作用させれば、動物の意識を消失させる時間を短くすることができ、動物の死に至るまでの苦痛を和らげることができると考えた。また、適量を使用することで、高価な麻酔薬の使用を節約することも可能であると考えて検討を進めた。
【0007】
動物に麻酔をかける方法として、注射方法、マウス吸入方法等があるが、これらの方法は動物に直接触れる必要があり、また凶暴な動物では処分実施者に過剰な負担がかかる。そこで、麻酔薬を気化して、動物に麻酔ガスを吸わせる方法を用いることにした。
【0008】
次に、動物に麻酔ガスを素早く作用させるためには、麻酔液を急速に気化させる必要がある。発明者は所定量の麻酔液にバブリングノズルを浸し、酸素と麻酔液を直接作用させて泡を発生させ、麻酔ガスをつくる方法を検討した。しかし、麻酔液が気化する際の気化熱で麻酔液の温度が下がるため、麻酔液の気化速度が遅くなり、動物が麻酔にかかるまでの時間が長くなってしまう。
【0009】
そこで、麻酔液が貯蔵されているタンクにヒーターを設けることで気化速度の低下を防ぐことに着目し、検討を進めたところ、ヒーターを用いてタンク内部の温度を調整することで、麻酔液の気化速度を調整することができ、定量的に麻酔ガスを供給できることを知見して、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、この発明は動物を所定容積の処理室内に収容し、該処理室内に麻酔液気化器により所定の速度で気化された麻酔ガスを供給して、動物に麻酔ガスを吸入させることによって麻酔をかけた後、該処理室内を酸欠状態にして動物を安楽死させる方法である。急速に麻酔液を気化できる麻酔液気化器より麻酔ガスを処理室内に供給することで、素早く動物に麻酔をかけることができる。また、処理室の通気性を有した床板の下部に攪拌器を備えることで、麻酔ガスを拡散させて効果的に動物に麻酔をかけることができる。
【0011】
さらに、処理する動物の個体数が少ない場合には、個体数が多い場合に比べて、処理室内の余剰容積が増加することで、処理室内での麻酔ガスの濃度が低くなる。この場合に、処理室に仕切りをつけたり、処理室に特定の体積の箱等をいれたりして、麻酔ガスを満たす容積を小さくすることで、麻酔ガスの使用量を少なくすることができる。また、処理室の内容量が小さくなるため、麻酔ガスの拡散も速くなる。
【0012】
また、前述の安楽死方法において、麻酔液気化器内部を温度調節用ヒーターで温度調整しながら、麻酔液中にバブリングノズルを介して酸素を導入し、所定量の麻酔ガスを発生させ、発生した麻酔ガスを該処理室内に供給することで定量的な麻酔ガスの供給が可能となる。
【0013】
また、本発明は、動物が収容されている処理室と処理室内の気体を排気する排気ファンと、麻酔液気化器で気化された麻酔ガスを処理室内に導入する麻酔ガス供給路と、処理室内に窒息ガスを導入する窒息ガス供給路とを備えている動物安楽死装置である。麻酔液を気化できる麻酔液気化器より麻酔ガスを処理室内に供給することで、素早く動物に麻酔をかけることができる。また、通気性のある床材の下部に攪拌器を備えることで麻酔ガスを拡散させて効果的に動物に麻酔をかけることができる。
【0014】
尚、麻酔液気化器には、麻酔液導入部と、バブリングノズルと、温度調節用ヒーターが備えられている。バブリングノズルからわずかな空気を麻酔液内に吹き込んで、麻酔ガスを発生させる際に、気化熱として麻酔液から熱が奪われることで、気化速度が低下するが、温度調節用ヒーターを用いることで目的の気化率を維持でき、定量的に麻酔液を気化することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、麻酔液を効果的に気化することができ、動物の死にいたるまでの苦痛を和らげる安楽死の方法、及び安楽死装置を完成した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の具体的な実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態である安楽死装置を例示する概要図である。処理室1は密閉出来る構造が好ましく、上部に外部と通気出来るシャッター付排気ファン3及び酸素濃度を検出する酸素濃度センサ4を設けてあり、床材には通気性のあるパンチングメタル9を用いて、底部を二重構造にした。処理室1は麻酔液気化器2と麻酔ガス供給路5によって繋がっており、炭酸ガスボンベは供給路7によって処理室1と繋がっており、供給路7の経路中には炭酸ガス量を制御する電磁弁8が設けてあり、設定された酸素濃度となるようにコントロールされている。また、パンチングメタル9の下部に攪拌機6を設置した。以下図1に従い、動物の安楽死の方法を説明する。
【0018】
処理室1内に動物を収容する。電磁弁8を開けて、酸素ガス10を麻酔液気化器2に供給する。麻酔液気化器で生成された麻酔ガスを、麻酔ガス供給路5より処理室内1に供給する。
【0019】
本実施例において、対象動物として体重5キログラムのアライグマを用い、340Lの内容積の処理室を用い、麻酔液にはイソフルラン46.7mlを用いた。また、3分でイソフルラン46.7mlを気化できるように麻酔液気化器を調整することで、処理室内のイソフルランの濃度が2.5%になるように調整した。
【0020】
生成した麻酔ガスを処理室内に供給するときに、攪拌機6を作動させることで、より効果的に麻酔ガスを拡散することができる。対象動物が麻酔にかかった後、処理室を窒息状態にするために、炭酸ガス11を処理室底部より供給する。炭酸ガス11は底部から充満していき、パンチングメタル9を通過して、少なくとも、その上に横たわっている動物の上まで充満させて、動物を窒息死させる。
【0021】
麻酔ガスとして、本実施例においてイソフルランを用いたが、亜酸化窒素、ハロタン、メトキシフルレン、エンフルレン等を用いることもできる。また、窒息ガスとして炭酸ガスを用いたが、窒素等を用いることもできる。また、床材として、パンチングメタルを用いたが、動物が底部に落ちることなく、攪拌機による気体の対流を妨げないものであれば、いわゆるスノコ状等の床材を用いることができる。
【0022】
図2は、本発明の実施の形態である安楽死装置の麻酔液気化器を例示する概要図である。麻酔液気化器2は密閉容器であり外筒の強化ガラス19、内部の加熱筒20及びバブリングノズル17により構成されている。加熱筒は温度センサ15、ダイヤル16で温度設定ができ、ヒーター14を用いて温度制御を行う事が出来る構造となっている。麻酔液計量カップ18から所定量の麻酔液21を麻酔液気化器内部に加え、酸素をバブリングノズル17より噴出させる事により、麻酔液21に直接接触させて湿りガスを発生させる。湿りガスは周囲からの熱を得て蒸発し、処理室1に入る時には乾きガスとなる。尚、酸素流量の制御は流量センサ12及び電磁弁13で行う。
【0023】
対象動物によって必要な麻酔ガスの濃度が異なるが、本発明の麻酔気化器により気化速度を調整することで定量的に麻酔ガスを供給できるため、例えば個体数の異なる処理時においても設定した所定時間で動物の意識を消失させることができる。このため動物が意識を消失したことをその都度確認することなく、所定時間経過後に窒息ガスを供給することができ、処理実施者の負担を減らすことができる。
【0024】
また、複数固体の処理を想定した内容積の処理室において、動物個体数が少ないとき、または小動物を対象とするときには、処理室に仕切りを入れて、動物を収容する空間の容積を小さくすることが好ましい。麻酔ガスの供給量がすくなくすみ、また、麻酔ガスの拡散が早まるからである。尚、体積の大きい箱等を処理室に入れることによっても同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明による動物の安楽死方法及び安楽死装置は、動物管理センターや保健所などの、動物を殺処理する必要があるところで利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態の1つである動物の安楽死装置を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態の1つである麻酔液気化器を示す概略図である。
【符号の説明】
【0027】
1 処理室
2 麻酔液気化器
3 排気ファン
4 酸素濃度センサ
5 麻酔ガス供給路
6 攪拌機
7 窒息ガス供給路
8 電磁弁
9 パンチングメタル
10 酸素ガス
11 炭酸ガス
12 流量センサ
13 電磁弁
14 ヒーター
15 温度センサ
16 ダイヤル
17 バブリングノズル
18 麻酔液計量カップ
19 強化ガラス
20 加熱筒
21 麻酔液
100 動物安楽死装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物を処理室内に収容し、
前記処理室内に麻酔液気化器により気化された麻酔ガスを供給して、
動物に麻酔ガスを吸入させて麻酔をかけた後、
前記処理室内を酸欠状態にして動物を安楽死させる方法。
【請求項2】
通気性を有した床材の下部に攪拌器を備えることで処理室内の麻酔ガスを拡散させて動物に麻酔をかける
請求項1に記載の動物を安楽死させる方法。
【請求項3】
処理室内の容積を変化させることで麻酔ガスの処理室内の濃度を調整する
請求項1に記載の動物を安楽死させる方法。
【請求項4】
前記麻酔液気化器において、
温度調節用ヒーターで前記麻酔液気化器内部の温度を調節しながらバブリングノズルより麻酔液中に酸素を導入して麻酔ガスを生成して、
生成した麻酔ガスを前記処理室内に供給する
請求項1内至請求項3に記載の動物を安楽死させる方法。
【請求項5】
動物を収容可能な処理室と、
処理室内の気体を排気する排気ファンと、
麻酔液気化器で気化された麻酔ガスを処理室内に導入する麻酔ガス供給路と、
処理室内に窒息ガスを導入する窒息ガス供給路と、
を備えている動物用安楽死装置。
【請求項6】
動物を収容可能な処理室と、
処理室内の気体を排気する排気ファンと、
麻酔液気化器で気化された麻酔ガスを処理室内に導入する麻酔ガス供給路と、
処理室内に窒息ガスを導入する窒息ガス供給路と、
通気性を有した床材の下部に処理室内の気体を拡散する攪拌機と、
を備えている動物用安楽死装置。
【請求項7】
前記麻酔液気化器内部に
麻酔液導入部と、
バブリングノズルと、
温度調節用ヒーターを備え、
麻酔ガス供給路を介して処理室と接続した
請求項5内至請求項6に記載の動物用安楽死装置。

【図1】
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【図2】
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