説明

動物咬害防止剤及びその成形品

【課題】 毒性がなく安全で、学習効果のある動物咬害防止剤であって、優れた咬害防止を有する動物咬害防止剤を提供すること。
【解決手段】 ワサビの成分であるアリルカラシ油を動物咬害防止剤の有効成分として、被咬害防止製品の内部或いは表面に存在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動物の咬害を防止する樹脂組成物及びそれに用いられるマイクロカプセル製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のペットブームに伴い、室内で飼われているペット特に子犬や子猫などによる建具、家具などを齧られる被害やコンピュータ、AV機器、ゲームなどに用いられる配線を切断される被害など、動物による咬害が問題になっている。さらに、電源ケーブルを齧ることによる感電事故にも問題となっている。また、屋外ではネズミによる電線、電話線、信号・通信ケーブル、ガス管などの切断や犬、猫、鳥による、ごみ袋噛みやぶりによるごみ撒き散らしなど、動物による咬害が問題になっている。
【0003】
それら動物咬害を防止するためにシクロヘキシミド(特公平3−22418号公報)、カプサイシン類(特開平5−139910号公報)、ノニリックアシドバニリルアミド(特開平5−239262号公報)やワニリルアルキルエーテル類(特開2003−160409号公報)を含有する動物咬害防止用樹脂組成物が報告されている。
【0004】
ここで、抗生物質シクロヘキシミド(特公平3−22418号公報)はネズミ類に優れた咬害防止効果を有する為、広範に利用されているが、抗生物質であるため価格が高く、また、比較的毒性が強い上に人に対する味覚がほとんどないため、家庭用の電気コード等に処理されたものを幼児等が嘗めた場合に危険性がある。
【0005】
このため、毒性の低いカプサイシン類(特開平5−139910号公報)やノニリックアシドバニリルアミド(特開平5−239262号公報)が提案されているが、該薬剤は常温では粉末状であるから、該薬剤を咬害防止させる材料内に均一に分散させるためにはいったん加熱又は溶剤に溶かすという工程が必要である。その際、粉末状のため空中に舞いやすいなどの操作性に問題があり、また微量でも人体に非常に強い刺激がある等の問題点が指摘されていた。したがって、製造現場での作業者の安全の高く、扱いやすい咬害防止剤が求められていた。
【0006】
そこで、動物咬害防止能が極めて優れており、人に対する刺激が弱く、安価で、取り扱いしやすく、しかも加工しやすい動物咬害防止剤として、ワニリルアルキルエーテル類、特にとくにワニリルブチルエーテルが提案されている。
この技術は特開2003−160409号公報に開示されている。
【特許文献1】特開2003−160409号公報(化1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
動物咬害防止剤として尤も好ましい効果としては、対象物質を齧った後に咬害防止剤の刺激的な味覚により咬害を中止させるのではなく、齧る前に齧ろうとする意欲を失せることである。即ち、対象物質を一度齧ることにより、咬害防止剤の刺激的な味覚と嗅覚を記憶し、以後、動物が当該物質に顔を近づけた際にその香りにより、嗅覚の記憶と味覚の記憶を結び付けさせて、当該物質を齧らないように学習させることである。
【0008】
ペットに対しては危険な電源ケーブルを齧って電気ショックにより気絶或いは死亡する前に齧ることを避けさせることが好ましい。乳幼児に対しては舐めたり齧ってその味覚により不快な思いをさせる前に、嗅覚により不快と思い、舐めたり齧ったりすることを止めさせることが好ましい。さらに、無害であることは必須であり、人間が長年食材として摂取してきた物質が好ましい。
【0009】
しかしながら、これまでの動物咬害防止剤として提案されているワニリルアルキルエーテル類は嗅覚で防止する効果を付加するために香料と一緒に用いる必要がある。香料を添加する場合、添加する香料はメーカーの品揃えや他社との差別化及び消費者の好みで多種多様な組み合わせができる。このため、嗅覚と味覚との整合が困難なことと、香料であるが故に当該香料は多種多様に使用されているため嗅覚の記憶と味覚の記憶とを整合させることが困難であるため、齧る前に中止させることは困難である。
【0010】
さらに、ワニリルアルキルエーテル類と同様な味覚であるカプサイシンを含有した米菓(商品名「柿の種」)について実験を行なった。米菓を犬に与えたところ、喜んで食べており、さらには催促をしていた。即ち、咬害防止に有効でないという結果が得られた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このため、本発明においては、下記のいずれかに示す動物咬害防止を提供することにより、前記課題を解決しようとするものである。
【0012】
請求項1に記載の発明は、ワサビに含まれる芥子油類を含有したことを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の芥子油類または芥子油類を含有する溶液を芯物質としたことを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の発明は、ワサビに含まれる成分の内、辛味の素であるシニグリンと分解酵素のミロシナーゼを分離して別々のマイクロカプセルに封入したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、ワサビに含まれる芥子油類は揮発性のため、対象物質を一度齧るとその刺激的な辛味と香りを味覚及び嗅覚で記憶され、以後、動物が当該物質に顔を近づけた際にその香りにより、嗅覚の記憶と味覚の記憶が蘇り、当該物質を齧ることを止めさせることができる。また、辛味と香りが同じ成分によるものなので、香料を添加する場合と比べて、嗅覚の記憶と味覚の記憶を一致させることが容易である。さらに、芥子油類の効能により、抗菌、消臭、防カビ、防虫忌避にも効果がある。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、芥子油類をマイクロカプセルに封入することにより、動物咬害防止製品を形成する際に目的成分である芥子油類の揮発を防ぐことができるので、動物咬害防止の効果を長続きさせることができる。さらに、該マイクロカプセルを熱可塑性樹脂等に予め形成しておくことにより、樹脂成形品を製造する際のペレットの混合によるカプセルの崩壊を著しく低減することができるので、動物咬害防止効果を十分発揮することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、ワサビの辛みの素となるシニグリンとシニグリンを分解する酵素ミロシナーゼとを別々のマイクロカプセルに入れておくため、芥子油類の揮発を更に抑えてその効能を持続させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
第1の発明を実施するための最良の形態として、以下に具体例を挙げて説明する。
本ワサビまたはワサビ大根などのように芥子油類を含有する植物を擂り卸し、これをフリーズドライ製法によって芥子油類の成分を分解または揮発させることなく粉末状とする。
【0020】
得られた芥子油類の成分を含有する粉末3を図1に示すように、粗い表面のガス配管1の凹凸部に表面に塗す。このままでは塗した粉末3が剥がれ落ち易いので、ガス配管1の表面をビニールチューブ4で覆い、加熱及び圧迫する。この際、特開2003-171208に記載の揮散ガスの透過を規制するガス透過規制材料を用いるとその効果はより長期間保持される。ここで、ビニールチューブ4の代わりに熱収縮チューブを用いて覆うことにより容易に、製造することができる。このように、電線、ケーブル、ホースまたはパイプのような長尺のものについてはチューブ状のもので覆うと良い。
【0021】
テープ、シート、またはプレートなどの平面状のものについては動物咬害防止製品の表面に芥子油類の成分を含有する粉末を塗す、塗布または塗りこむ。その後、ビニールシートで覆い、加熱及び圧迫する。長尺のものの場合と同様に、揮散ガスの透過を規制するガス透過規制材料を用いるとその効果はより長期間保持される。
【0022】
他の具体例として、細かく擂り卸した当該植物を直接減圧または加熱して蒸留するか、或いは、一度、当該植物をエタノール、水蒸気または水などの溶媒によって、芥子油類の成分を溶解させて、蒸留して、芥子油類の成分を抽出する。
【0023】
抽出した芥子油類の成分を図2に示すように、被覆6を施され撚り合わされた複数の芯線5とさらに外側の外部被覆7から成る信号ケーブルにおいて外周部に動物咬害防止剤を浸透させた層8を設ける。分散させる方法は公知の方法を採用すればよい。例えば塗料内に予め動物咬害防止剤が均一に分散されている塗料を用いる方法、動物咬害防止剤入りスプレーを用いる方法、動物咬害防止剤を含有する溶液内に咬害防止されることが望まれる材料を浸漬し、動物咬害防止剤を該材料内に分散させる方法あるいは動物咬害防止剤を練りこむ方法などがある。
【0024】
さらに他の具体例として図3を例に示すと、絶縁体12で被覆された複数の導体11をさらに外部被覆13により覆われた電線において、さらにその外側に多孔質層14を設ける。図4に示すように、該多孔質層14にはその名の通り、多数の空孔17が設けられており、該空孔17には芥子油類の成分18が含浸または担持されている。その多孔性物質群としては、例えば、ゼオライト、多孔質シリカ、セルロース、温熱処理デンプン、ポリウレタン発泡体、発泡ポリスチレン等を用いることができる。
【0025】
このように、ワサビの成分である揮発性の芥子油類によって、対象物質を一度齧るとその刺激的な辛味と香りを味覚及び嗅覚で記憶され、以後、動物が当該物質に顔を近づけた際にその香りにより、嗅覚の記憶と味覚の記憶を結び付けて、当該物質を齧ることを止めさせることができる。また、辛味と香りが同じ成分によるものなので、香料を添加する場合と比べて、嗅覚の記憶と味覚の記憶が一致させることが容易である。このため、該芥子油類を電線、ケーブル、ホース、パイプ、テープ、シート、またはプレートなどの動物咬害防止用樹脂成形品、動物咬害防止布帛、動物咬害防止用塗料及び動物咬害防止用接着剤へ動物咬害防止用樹脂組成物に含有させることにより、通信障害、電力供給障害などの機能障害を防止することや、建具や家具などの美観及び価値(値打ち)の低下を防止だけでなく、火災、爆発、ガス中毒或いは感電などの事故を防止することができる。
【0026】
また、ワサビは人々に長年食材として摂取されており、有害性は認められていないため、
当該動物咬害防止製品を乳幼児が舐めたり齧っても健康への影響はないが、揮発性の芥子油類の刺激的な匂いによって、乳幼児が舐めたり齧ってその味覚により不快な思いをせずに、嗅覚により不快と思い、舐めたり齧ったりすることを止める。また、ペットに対しても電気ケーブルを齧って電気ショックにより気絶或いは死亡することも防ぐことができる。さらに、芥子油類の効能により、抗菌、消臭、防カビ、防虫忌避の効果も得られる。
【0027】
特にテーブルタップ、室内電話線、室内LANケーブルやガスストーブ用ガス管などの室内用途ではその効能を十分に発揮し、さらに、上記記載の対象物質を咬むと不快な記憶に結びつくため、建具や家具などに乳幼児やペットの咬害防止教育用としても十分に目的を達成する。
【0028】
第2の発明を実施するための最良の形態として、揮発性の芥子油類または芥子油類を含有する粉末または溶液を芯物質としてマイクロカプセルに封入する。本発明に使用できるマイクロカプセル化技術は特に限定はされず、一般的に知られている方法によればよい。例えばカプセル化される側の芥子油類を含む芯物質に膜材を溶解してこれを不溶の分散媒中に分散させ、撹拌しながら分散媒に可溶の反応材を添加して分散粒子の表面で両者を反応させて芯物質を内包した高分子のカプセル膜を形成せしめる界面重合法、或いは分散粒子か分散媒のどちらか一方のみから膜材が供給され分散粒子の表面でカプセル膜が形成されるIn situ 重合法、コアセルベーション、気中カプセル化法等の何れの方法でマイクロカプセル化してもよい。
【0029】
図5に示すように、被覆22を施され撚り合わされた複数の芯線21を覆う外部被覆23内に得られた芥子油類を含有したマイクロカプセル24を分散させる。分散させる方法は公知の方法を採用すればよい。
【0030】
ここで、樹脂と混合、混練し、樹脂成形品を製造する工程において、マイクロカプセルの崩壊による刺激の低減、あるいは動物咬害防止効果の低減の可能性がある。そこで、カプセルの崩壊を防止する方法として、特開平6−80850に提案されているマイクロカプセルとポリ塩化ビニル樹脂および可塑剤を適当な比率で配合したマスターバッチを作製すれば良い。
【0031】
第3の発明を実施するための最良の形態として、ワサビに含まれる芥子油の内、辛み成分であるアリルカラシ油の素となるシニグリン及びこれを分解する酵素であるミロシナーゼを別々のカプセルに封入する。ここで、本発明に使用できるマイクロカプセル化技術は第2の発明と同様に特に限定はされず、一般的に知られている方法によればよい。
【0032】
図6に示すように、被覆32を施され撚り合わされた複数の芯線31を覆う外部被覆33内に得られたシニグリンを含有したマイクロカプセル34とミロシナーゼを含有したマイクロカプセル35を分散させる。分散させる方法は公知の方法を採用すればよい。このことにより、動物が咬んだ際にこれらのカプセルが破壊され、口の中でワサビの主成分であるニグリンがワサビ中に含まれるミロシナーゼ酵素により辛み成分であるアリルカラシ油へと分解される。図7に示すように、辛味の強さ41及び香りの強さ42の経時変化は擂り卸してから数分後が最も強くなり、その後徐々に減衰していく。このため、生成されたばかりのアリルカラシ油類は卸したてのワサビのように刺激性が強く、咬害防止効果が高い。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施例を示す断面図
【図2】本発明の第1の他の実施例を示す断面図
【図3】本発明の第1の他の実施例を示す断面図
【図4】本発明の第1の他の実施例である図3のA部の拡大図
【図5】本発明の第2の実施例を示す断面図
【図6】本発明の第3の実施例を示す断面図
【図7】本発明の第3の効果の経時変化を示す図
【符号の説明】
【0034】
1 ガスホース、2 ガスホースの内側、3 ワサビ粉末、4 被覆チューブ、5 芯線、6 被覆、7 外部被覆、8 動物咬害防止剤を浸透させた層、11 導体、12 絶縁体、13 外側被覆、14 多孔質層、15 説明拡大部、16 多孔質材料、17 空孔、18 空孔に吸着したアリルカラシ油類、21 芯線、22 被覆、23 外部被覆、24 芥子油類を含有したマイクロカプセル、31 芯線、32 被覆、33 外部被覆、34 シニグリンを含有したマイクロカプセル、35 ミロシナーゼ酵素を含有したマイクロカプセル、41 擂り卸し後のワサビの辛味の強さの経時変化曲線、42 擂り卸し後のワサビの香りの強さの経時変化曲線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワサビに含まれる芥子油類を含有したことを特徴とする動物咬害防止剤及びこれを含有した動物咬害防止製品。
【請求項2】
請求項1に記載の芥子油類または芥子油類を含有する溶液を芯物質としたことを特徴とする動物咬害防止用マイクロカプセル製剤及び該マイクロカプセルを含有した動物咬害防止用樹脂、さらに、該マイクロカプセル製剤または該動物咬害防止用樹脂を含有した動物咬害防止製品。
【請求項3】
請求項2に記載のマイクロカプセル製剤及び該マイクロカプセル製剤を含有する樹脂において、ワサビに含まれる成分の内、辛味の素であるシニグリンと分解酵素のミロシナーゼを分離して別々のマイクロカプセルに封入したことを特徴とする動物咬害防止用マイクロカプセル製剤及び該マイクロカプセルを含有した動物咬害防止用樹脂、さらに、該マイクロカプセル製剤または該動物咬害防止用樹脂を含有した動物咬害防止製品。

【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−254416(P2007−254416A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83093(P2006−83093)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(303052186)
【Fターム(参考)】