説明

動物忌避ネット

【課題】 化学物質である忌避剤を用いずに、動物に物理的な痛みを与えて、動物を忌避しうる合成繊維製ネットよりなる動物忌避ネットを提供する。
【解決手段】 この動物忌避ネットは、合成繊維製ラッセル編ネットよりなる。このネットの脚1及び結節2は、二本の鎖編糸A,Bと挿入糸Cとで編成されている。鎖編糸Aは、所定のコースでループパイル4aを形成するように編成される。そして、編成直後に、ループパイル4aの頂上付近が、編成針に設けられたカット刃で切断される。この結果、ループパイル4aはカットパイル4となる。鎖編糸Aは、高剛性のモノフィラメントで形成されている。したがって、カットパイル4は、この高剛性のために、ほぼ直立した状態となり、カットパイル4の先端が外方を向くことになる。カットパイル4の先端に動物が接触すると、動物に痛み等の刺激が与えられ、動物がこのネットに近づかなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物等を耕作する耕作地や、農作物等を保管しておく倉庫に、猪、鹿、鼠等の動物が進入して、農作物等を食い荒らすという被害を防止するための動物忌避ネットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、農作物を耕作する耕作地に、猪や鹿等の動物が進入し、農作物を食い荒らしてしまうという農作物被害が増大している。また、農作物等を保管しておく倉庫にも、鼠や兎が進入し、農作物を食い荒らしてしまうという農作物被害も増大している。この理由は、最近の土地開発により、森林が少なくなり、鳥獣類の食料が少なくなってきていることによる。
【0003】
農作物被害を防止するため、耕作地の周囲に合成繊維製又は金属製ネットを張設したり、倉庫内の農作物保管箇所に合成繊維製又は金属製ネットを張設することが行われている。しかしながら、金属製ネットは重量が重く、張設したり取り外したりするのに手間取るということがあった。一方、合成繊維製ネットは重量が軽いため、このようなことは少ないが、鹿等の動物によって簡単に食いちぎられ、その進入を十分防止することができないということがあった。
【0004】
このため、合成繊維製ネットの構成繊維中又は構成繊維間に、カプサイシン類、天然わさび、芥子油、トウガラシ、クレゾール、コールタール等の忌避剤を、含浸又は保持させておくことが行われている(特許文献1及び2)。このような忌避剤は、その臭いによって動物が近づかないようにするもの、動物が食べたり舐めたりするときの刺激によって動物が近づかないようにするものである。
【0005】
しかしながら、合成樹脂製ネットに、このような化学物質である忌避剤を含浸保持させることは、合成樹脂製ネットの製造作業者や設置作業者にとっては、作業環境上、好ましくないものである。なぜなら、臭いによる忌避剤を用いる場合、作業者は異臭の中で作業をしなければならず、その環境は極めて劣悪となる。また、食べたとき等の刺激による忌避剤を用いる場合、その忌避剤が作業者の皮膚に付着すると、アレルギー、湿疹、かぶれ等によるかゆみを引き起こすことがあり、その環境も極めて劣悪である。さらには、このような化学物質を多量に吸引すると、作業者の健康を害するということもある。
【0006】
【特許文献1】特開平6−237680号公報(第2頁、特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2004−217623公報(第2頁、特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、作業環境上好ましくない化学物質である忌避剤を用いずに、動物に物理的な痛み等を与えて、動物を忌避しうる合成繊維製ネットを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、脚と結節とを持つ合成繊維製ラッセル編ネットであって、該脚と該結節とは、二本の鎖編糸A,Bと挿入糸Cとで編成されており、そのうちの一本の鎖編糸Aは、所定のコースでループパイルを形成するように編成されると共に、該ループパイルの頂上付近が切断されてカットパイルを形成しており、該鎖編糸Aは高剛性のモノフィラメントで形成されていることを特徴とする動物忌避ネットに関するものである。
【0009】
本発明に係る動物忌避ネットは、合成繊維製ラッセル編ネットよりなる。すなわち、合成繊維糸条を用いてラッセル編組織で編成されてなる網状物である。合成繊維製ラッセル編ネットは、図1に示すように、脚1と結節2とからなる。脚1と結節2で形成される網目3の形状は従来周知のものが用いられ、たとえば、角目、菱目又は亀甲目等が採用される。網目3の大きさは、忌避する動物によって異なり、猪や鹿等の大型又は中型の動物の場合には100mm2程度が好ましく、鼠や兎等の小型の動物の場合には25mm2程度が好ましい。
【0010】
本発明で用いる合成繊維製ラッセル編ネットの脚1は、いずれも、鎖編糸A,Bと挿入糸Cとで編成されている。したがって、結節2も、鎖編糸A,Bと挿入糸Cとで編成されている。鎖編糸Aは、鎖編みされているだけではなく、カットパイル4を形成するためのものである。
【0011】
鎖編糸Aは、高剛性のモノフィラメントよりなる糸条を用いる。高剛性のモノフィラメントを用いる理由は、これがカットパイル4となるためである。すなわち、高剛性のカットパイル4によって、その先端で動物を刺して刺激を与え、忌避するのに好適だからである。また、鎖編糸Aを構成している糸条は、一本又は二本以上のモノフィラメントで形成されている。二本以上のモノフィラメントからなる糸条を用いると、カットパイル4を構成する高剛性のモノフィラメントの数が多くなり、動物を忌避するのに、より好適である。
【0012】
鎖編糸Aを構成している糸条が、二本以上のモノフィラメントで形成されている場合、この二本以上のモノフィラメントには、撚りが施されているのが、好ましい。この理由は、編成時に糸条がばらけにくく、取り扱いやすいからである。また、撚りが施されている場合、撚り回数は、ループパイルの長さにおいて1回以上であるのが、好ましい。この理由は、ループパイルを切断した場合、カットパイルが左右方向にばらけやすくなり、カットパイルの方向性が少なくなるからである。
【0013】
鎖編糸Aに用いられる高剛性のモノフィラメントとしては、従来公知の任意のものが採用される。一般的には、繊度が500〜1000デニール程度のポリエステルモノフィラメント又は繊度が500〜1000デニール程度のポリエチレンモノフィラメントを用いるのが、好ましい。もちろん、これよりも細い繊度のものや太い繊度のものを用いても、差し支えない。
【0014】
鎖編糸Bとしては、マルチフィラメント糸条やモノフィラメント糸条等の従来公知のものを採用すればよい。本発明においては、特に、高剛性のモノフィラメントよりなる糸条を用いるのが好ましい。鎖編糸Aと鎖編糸Bとを、バランスよく編成しうるからである。鎖編糸Aだけではなく、鎖編糸Bを併用する理由は、鎖編糸Aは、所定のコースで切断されカットパイル4が形成されるからである。すなわち、鎖編糸Aだけで編成すると、ネットの強度が低下する恐れがあるからである。鎖編糸Bの剛性は、鎖編糸Aの剛性と同等程度であってもよいし、前者の剛性の方が高くてもよいし、また前者の剛性の方が低くてもよい。また、鎖編糸Bを構成している糸条も、一本又は二本以上のモノフィラメントで形成されているのが好ましい。
【0015】
鎖編糸Bに用いられる高剛性のモノフィラメントとしても、従来公知の任意のものが採用される。一般的には、繊度が1000〜1500デニール程度のポリエチレンモノフィラメント又は繊度が1000〜1500デニール程度のポリエステルモノフィラメントを用いるのが、好ましい。もちろん、これよりも細い繊度のものや太い繊度のものを用いても、差し支えない。
【0016】
挿入糸Cとしては、従来公知の糸が用いられ、モノフィラメント、マルチフィラメント、紡績糸等が用いられる。一般的には、繊度が1〜2デニール程度のフィラメントを集束してなる、繊度が1000〜1800デニール程度のマルチフィラメントが用いられる。具体的には、超高強力ポリエチレンフィラメントを1000〜1600本集束してなる、繊度が1000〜1800デニール程度のマルチフィラメントを用いるのが好ましい。マルチフィラメントを用いる理由は、ネットに柔軟性を付与するためである。
【0017】
上記した鎖編糸A,B及び挿入糸Cを用いて、本発明に係る動物忌避ネットを編成するには、ダブルラッセル編機を用い、鎖編糸Aを編成する針にカット刃を設けておけばよい。カット刃は、編成針の根元(編成針の引っ掛け部と反対側の箇所)に設ける。そして、所定のコースで編成されたループパイル4aに、カット刃を当てることにより、ループパイル4aの頂上付近が切断され、カットパイル4が形成されるのである。このループパイル4aの編成及びループパイル4aの切断以外は、従来公知のダブルラッセル編機による編成で、合成繊維製ラッセル編ネットが得られるのである。
【0018】
なお、以上の説明では、鎖編糸A,B及び挿入糸Cを用いて動物忌避ネットを編成したが、鎖編糸を更にもう一本又は二本以上追加して用いてもよいし、また、挿入糸Cも更にもう一本又は二本以上追加して用いてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る動物忌避ネットは、合成繊維製ラッセル編ネットであって、ネットを形成している脚又は結節には、カットパイルが形成されている。そして、カットパイルは、高剛性のモノフィラメントよりなるものであるから、カット端がほぼ直立した状態となって外方を向いている。したがって、動物が近づくと、カット端が動物に触れ、動物に痛み等の刺激が与えられる。この刺激は、動物にとって不快なものであるため、動物は、このネットに近づかなくなり、動物を忌避しうる。
【0020】
よって、このような動物忌避ネットを、農作物等を耕作する耕作地の周囲や、倉庫の農作物等の保管箇所に張設しておくと、猪、鹿、鼠、兎等の動物が、耕作地に進入したり、倉庫の農作物の保管箇所に進入するのを防止でき、農作物等が動物に食い荒らされるのを防止しうるという効果を奏する。
【0021】
また、本発明に係る動物忌避ネットの場合、化学物質である忌避剤を含有させなくてもよいので、忌避剤の異臭や付着によって、製造作業者や設置作業者の労働環境が悪化しないという効果をも奏する。
【実施例】
【0022】
以下の糸条を準備した。
[鎖編糸A]
繊度600デニールのポリエステルモノフィラメントを2本、撚り合わせてなる糸条を鎖編糸Aとした。
[鎖編糸B]
繊度1200デニールのポリエチレンモノフィラメントを4本、撚り合わせてなる糸条を鎖編糸Bとした。
[挿入糸C]
繊度約1デニールの高強力ポリエチレンフィラメントを1170本、集束してなる繊度1200デニールのマルチフィラメント糸条を挿入糸Cとした。
【0023】
上記の鎖編糸A,B及び挿入糸Cを使用して、図2に示す編組織にて、ダブルラッセル編機でネットを編成した。この編組織は、3コース毎にループパイル4aが設けられ、この頂上付近が編成直後に切断されてカットパイル4となる。また、結節は3コースに亙って、挿入糸Cを隣り合う鎖編糸に振ることによって設けられている。その他については、図2に示したとおりである。
【0024】
このネットは、図1に示す如く、ループパイル4aの頂上付近が切断されたカットパイル4を多数具備するものであった。カットパイル4の先端は、ほぼ直立して外方を向いており、動物がこれに接触すると痛み等の刺激を感じるものである。したがって、これを動物忌避ネットとして用いれば、動物が近づくのを有効に防止しうるものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一例に係る動物忌避ネットを模式的に現した平面図である。
【図2】本発明に係る動物忌避ネットを編成する際の編組織の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0026】
1 脚
2 結節
3 網目
4 カットパイル
4a ループパイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脚と結節とを持つ合成繊維製ラッセル編ネットであって、該脚と該結節とは、二本の鎖編糸A,Bと挿入糸Cとで編成されており、そのうちの一本の鎖編糸Aは、所定のコースでループパイルを形成するように編成されると共に、該ループパイルの頂上付近が切断されてカットパイルを形成しており、該鎖編糸Aは高剛性のモノフィラメントで形成されていることを特徴とする動物忌避ネット。
【請求項2】
鎖編糸Aは、少なくとも二本以上のモノフィラメントで構成されている請求項1記載の動物忌避ネット。
【請求項3】
鎖編糸Aは、少なくとも二本以上のモノフィラメントに撚りを施して形成されたものであり、その撚り回数は、ループパイルの長さにおいて少なくとも一回以上である請求項1記載の動物忌避ネット。
【請求項4】
ループパイルは、3〜5コース毎に設けられる請求項1記載の動物忌避ネット。
【請求項5】
鎖編糸A,Bは、各々、少なくとも二本以上のモノフィラメントで構成されており、鎖編糸A中のモノフィラメントの繊度は500〜1000デニールであり、鎖編糸B中のモノフィラメントの繊度は1000〜1500デニールである請求項1記載の動物忌避ネット。

【図1】
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【図2】
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