説明

動物飼育用消臭抗菌敷料およびそれに用いる消臭抗菌液剤

【課題】敷料自体に消臭、抗菌作用を持たせた動物飼育用の敷料を提供すること。
【解決手段】敷料基材に、敷料基材100g当たり、2g以上のキトサンと、銀として0.02g以上の抗菌性銀を含浸させてなることを特徴とする動物飼育用消臭抗菌敷料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物飼育用消臭抗菌敷料およびそれに用いる消臭抗菌液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
動物を飼育する場合、犬猫以外では一般的に木屑等を敷料(敷床、床敷ともいわれる)として使用する。敷料は、動物の寝床となるばかりでなく、尿等を吸収して飼育環境を衛生的に保持することを目的としている。敷料に求められるものは、動物への安楽性の提供(湿気、臭気など)、動物の感染症の予防、「ヒトの健康」に及ぼす衛生学的脅威の排除等である。
ところが、家畜等ではこれらの敷料が感染源となって、乳房炎、下痢症等の種々の病気が発生、伝搬する場合が多い。この問題を解決するためにこれまで石灰窒素(カルシウムシアナミド:CaCN)の散布が実施されてきた。しかし、カルシウムシアナミドは水と反応して石灰とシアナミドに分解され、シアナミドが皮膚炎を惹起することが最近判明した。そのため、敷料を衛生的に維持する有効な手段が見当たらないのが現状である。また、畜産物の残留薬物の規制が激しくなり、容易に抗生剤を使用できない状況にある。
また、実験動物であるマウス、ラットではこの敷料を週に数回交換する必要がある。これらの動物を大量飼育している大学や製薬会社等の実験動物施設では、この作業は多大な労力を必要とする。そのため、より消臭、抗菌が持続する敷料は人件費のコストダウンや、動物福祉に貢献が期待できる。
キトサンには抗菌性が認められ動物に対する安全性が高いことから、特開平3−30619号には、木粉に結合剤として4%程度のキトサンを加え、加圧成形してなる実験動物用床敷が提案されている。しかし、この程度のキトサンでは抗菌性がほとんど期待できないとされている。そこで、特開平5−68443号では、キトサンおよび植物繊維をキトサン:植物繊維の重量比10/1〜1/10の嵩高い多孔質の構造体に成形し、これを50%以上使用した実験動物用床敷が提案されている。
また、銀イオンが消臭、殺菌作用を有することが公知であり、これを利用したペット用品が提案されており、特開平7−111841号には、銀含有の消臭殺菌効果を有するペット用トイレ砂が開示されているが、敷料については示唆がない。
特開2003−116390号には、敷料基材にパイナップル酵素を配合して、消臭や、乾燥状態を長期に保ち、交換に伴う労力を軽減し、かつ堆肥化を促進する敷料が開示されている。さらに、特開2006−238820号には、キトサンとケイ酸水溶液を混入させた家畜用敷料が開示されているが、この敷料は、畜糞の分解発酵物を用いるもので、キトサンは分解促進剤として使用されるものである。
【特許文献1】特開平3−30619号公報
【特許文献2】特開平7−111841号公報
【特許文献3】特開2003−116390号公報
【特許文献4】特開2006−238820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記のような敷料における問題を解消した、敷料自体に消臭、抗菌作用を持たせた動物飼育用の敷料を提供することを、主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、キチン・キトサンの抗菌活性を含む生物活性の応用研究の一環として、キトサンと、環境に優しい光触媒である二酸化チタン、銀イオンを用いた消臭、抗菌剤の開発について検討してきた。この度、敷料にこれらの物質を付与することにより、しかも、これらの物質を特定の割合で付与することにより敷料中の細菌数を減少させることができ、さらには消臭効果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、
(1)敷料基材に、敷料基材100g当たり、2g以上のキトサンと、銀として0.02g以上の抗菌性銀を含浸させてなることを特徴とする動物飼育用消臭抗菌敷料、
(2)さらに、敷料基材100g当たり、5g以上の二酸化チタンを含浸させた上記(1)記載の敷料、
(3)ウシ飼育用の敷料である上記(1)記載の敷料、
(4)実験動物飼育用の敷料である上記(1)記載の敷料、
(5)学校飼育動物飼育用の敷料である上記(1)記載の敷料、
(6)展示動物飼育用の敷料である上記(1)記載の敷料、
(7)家庭内飼育動物飼育用の敷料である上記(1)記載の敷料、
(8)キトサン0.5〜2重量%および銀として0.005〜2重量%の抗菌性銀を含有するpH4.0以下の水性液剤であることを特徴とする動物飼育用敷料含浸用消臭抗菌液剤などを提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、キトサンと抗菌性銀を特定の割合で敷料基材に付与することにより、キトサンと銀イオンの抗菌、消臭作用が相乗して、優れた抗菌、消臭活性が得られ、また、光触媒活性を有する二酸化チタンを担持させることにより、日光暴露等による敷料の乾燥時に作用して消臭、殺菌作用を発揮させることができる。
特定のメカニズムに限定するものではなく、また、メカニズムは十分に解明されていないが、本発明に従って、キトサン、抗菌性銀、要すれば二酸化チタンを敷料基材に含浸させることにより、敷料基材の多孔質構造中にこれらが取り込まれて脱離しがたくなると考えられ、持続的な消臭、殺菌効果を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の敷料における敷料基材は、通常、動物飼育用に使用されるものであればいずれでもよく、例えば、木屑や木粉(チップ)、ワラ、オガクズ等が挙げられる。
【0008】
用いるキトサンは、キチンの脱アセチル化物で、特に限定するものではないが、溶解度、抗菌活性の観点から、重合度100以上、脱アセチル化度70%以上のものが好ましい。
【0009】
抗菌性銀としては、銀イオンを生ずる金属銀、銀化合物等が使用でき、例えば、ナノ銀粒子(例、粒径1〜10nm)、1〜50%程度の銀を担持する銀担持セラミック(例、特開2006−69935号参照)等が挙げられる。
二酸化チタンは、光触媒として使用できるものであれば、いずれでもよい。
また、本出願人の特願2007−064943号に開示されている銀、二酸化チタンをセラミックスに担持させた抗菌剤を、公知の方法で微粉砕して、抗菌性銀および二酸化チタンとして使用することもできる。
【0010】
本発明においては、敷料基材100g当たりにキトサンを2g以上含浸させる。含浸量が少なすぎれば、抗菌活性が期待できず、上限は特に限定するものではないが、キトサンの溶解性や、敷料としての物性の観点から、通常、多くて4g程度までが好ましい。
抗菌性銀は、キトサンに対して、銀として、0.02g以上、好ましくは、1g以上の抗菌性銀を含浸させる。含浸量が少なすぎれば、抗菌活性が期待できず、また、上限は特に限定するものではないが、通常、多くて2〜4g程度であり、それ以上に抗菌性銀を添加しても、さらなる抗菌活性の向上はみられない。
二酸化チタンは、適宜の光触媒活性を得る観点から、5g以上含浸させる。
【0011】
本発明の敷料は、乾燥させた敷料基材と、所定量の抗菌性銀、二酸化チタン粉末を乾燥状態で、よく混合した後、キトサンの水溶液また懸濁液を添加し、よく混合し、混合後に減圧下、脱気することにより、または、加圧することにより、これらの物質を含浸させ、要すれば、乾燥させることにより製造できる。減圧、脱気や加圧は、適宜の手段により行うことができるが、例えば、木材等の防腐処理等に使用される公知の手段が利用できる。
別法として、乾燥させた敷料基材に、キトサン、抗菌性銀、所望により二酸化チタンを含有する動物飼育用敷料消臭抗菌液剤またはその希釈液を適用し、これらの物質を含浸させてもよい。
敷料基材の乾燥、含浸後の乾燥は公知の方法によって行えばよく、通常は自然または天日乾燥が採用されるが、その他、熱風乾燥、冷風乾燥、真空乾燥を採用してもよい。
【0012】
本発明においては、かかる敷料製造に使用する動物飼育用敷料消臭抗菌液剤も提供する。抗菌液剤は、キトサンおよび抗菌性銀を所定の濃度、pHで水に分散、溶解または懸濁させることにより製造できる。二酸化チタンを担持させる場合は、この抗菌液剤に分散、溶解または懸濁させる。
要すれば、分散、溶解または懸濁の促進のために、適宜の界面活性剤や可溶化剤を添加してもよい。
得られる抗菌液剤は、そのまま敷料基材に適用できる濃度としても、また、水や、要すれば、適宜の溶媒で希釈できるタイプのものとしてもよい。
抗菌液剤中のキトサンの濃度は、抗菌活性や、分散性、液剤としての安定性の観点から、キトサン0.5〜2重量%とし、キトサン溶解のため、pHは、例えば、クエン酸等で4.0以下、好ましくは3.0以下とする。
抗菌性銀の濃度は、銀として0.005〜2重量%とする。
二酸化チタンを添加する場合は、1〜4重量%とする。
【0013】
かくして、本発明の動物飼育用消臭抗菌敷料は、例えば、ウシ、ウマ等の家畜、ニワトリ等の家禽、マウス、ラット等の実験動物、ウサギ、モルモット等の学校飼育動物、ハムスター、モルモット等の家庭内飼育動物、ライオン、シマウマ等の展示動物の飼育において、従来の敷料と同様にして使用することができる。
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
自然乾燥したウッドチップ(鳥取県産)50gと、銀換算0.1gの10重量%の銀を含有する銀担持セラミックス粉末を乾燥状態でよく混合し、この混合物に1%キトサン水溶液100ml(クエン酸にてpH3.0以下としたもの)を少量ずつ滴下して均等に馴染ませた後、真空脱気装置で0.08Mpaまで減圧し、30分間保持し、ついで天日乾燥して、所望の敷料を得た(試料1)。
同様に、ウッドチップ50gに、銀イオン換算で0.1gの銀ナノ粒子(韓国製の、粒径1〜10nmの銀ナノ粒子を1000ppm含有する水分散液20mlを200mlの水で希釈したもの)を少量ずつ滴下して均等に馴染ませ、減圧し、30分間保持し、乾燥して敷料を得た(試料2)。
また、ウッドチップ50gに1%キトサン水溶液100mlを少量ずつ滴下して均等に馴染ませ、減圧し、30分間保持し、乾燥して敷料を得た(試料3)。
これらの試料1〜3を使用して臭気試験、殺菌効果試験を行った。対照(コントロール)として、ウッドチップのみを用いた。
【0015】
臭気試験
ddYマウス(5週令、雄)16匹を、1群2匹ずつに分け、試料1〜3または対照の敷料を敷いた、27cm×21cmのゲージ(各敷料につき2ゲージずつ)で同じ条件下に飼育した。飼育開始日を0日とし、1、2、3、4および5日目に6名の観察者が各ゲージの臭気を観察し、以下の評点に従って臭気の程度を判定した。
3:ゲージ上端から10cm離れた高さで臭わない。
2:ゲージ上端から10cm離れた高さで臭う。
1:ゲージ上端から20cm離れた高さで臭う。
0:ゲージ上端から30cm離れた高さで臭う。
なお、臭気リセットのため、各観察者には、各ゲージの判定前に未使用の敷料の臭気を臭わせた。
結果を図1に示す。
図1の結果は、各敷料につき、6名の観察者の2ゲージの評点の平均であらわし、たもので、抗菌性銀とキトサンを担持させた敷料の消臭効果が優れていることを示している。
【0016】
殺菌効果試験
試験5日目の臭気試験終了後、各ゲージの敷料を篩にかけて糞を除いた。この敷料5gを滅菌生理食塩水100mlに浸漬し、30分間攪拌し、滅菌濾紙で濾過して試料液を得た。試料液の大腸菌数を、以下のようにして、クロモカルト培地[培地組成(培地1リットル当り重量):ペプトン3g、塩化ナトリウム5g、燐酸二水素ナトリウム2.2g、燐酸二水素ジナトリウム2.7g、ピルビン酸ナトリウム1g、トリプトファン1g、寒天10g、ソルビトール1g、テルジトール(登録商標 Tergitol 7) 0.15g、クロモゲン混合物(Chromogenic mixture)0.4g、pH:6.8]で測定した。
ペトリ皿に培地15mlを入れ固化させた後、これに試料液0.02mlまたは2mlを滴下し、さらにその上に培地溶液15mlを滴下し、静かに混和し、固化させた。これを44℃で24時間培養し、青〜緑色コロニーの数を計測して大腸菌数とした。
結果を図2に示す。
図2の結果は、各敷料についての試料液の大腸菌数(cfu/g)の貴下平均および標準偏差であり、抗菌性銀とキトサンを担持させた敷料の殺菌効果が優れていることを示している。
【実施例2】
【0017】
実施例1と同様にして、表1に示す種々の敷料を調製し、殺菌効果を試験した。
結果を表1に示す。
【表1】


*:銀換算
**:テイカ(株)AMT−600
***:実施例1に示す銀ナノ粒子水溶液
****:JME社製、sakura pv3

表1に示すごとく、所定の割合でキトサンと抗菌性銀を担持する敷料は優れた抗菌効果を示す。
【産業上の利用可能性】
【0018】
以上記載したごとく、本発明によれば、優れた消臭、抗菌効果を発揮する敷料が提供でき、動物飼育における敷料に由来する病気の発生や伝搬、敷料交換の手間等の問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1における臭気試験の結果を示すグラフである。
【図2】実施例1における殺菌効果試験の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
敷料基材に、敷料基材100g当たり、2g以上のキトサンと、銀として0.02g以上の抗菌性銀を含浸させてなることを特徴とする動物飼育用消臭抗菌敷料。
【請求項2】
さらに、敷料基材100g当たり、5g以上の二酸化チタンを含浸させた請求項1記載の敷料。
【請求項3】
ウシ飼育用の敷料である請求項1記載の敷料。
【請求項4】
実験動物飼育用の敷料である請求項1記載の敷料。
【請求項5】
学校飼育動物飼育用の敷料である請求項1記載の敷料。
【請求項6】
展示動物飼育用の敷料である請求項1記載の敷料。
【請求項7】
家庭内飼育動物飼育用の敷料である請求項1記載の敷料。
【請求項8】
キトサン0.1〜2重量%および銀として0.001〜2重量%の抗菌性銀を含有するpH4.0以下の水性液剤であることを特徴とする動物飼育用敷料含浸用消臭抗菌液剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−124952(P2009−124952A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300627(P2007−300627)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【出願人】(305036436)有限会社グローブ (1)
【Fターム(参考)】