説明

動脈瘤候補の検出支援装置および検出方法

【課題】動脈瘤の形状特徴を利用することなく、多様な形状の動脈瘤を検出することができる脳動脈瘤検出支援装置および方法を提供する。
【解決手段】脳血管の輝度分布から計算した方向ベクトル情報を用い、動脈瘤が血管から瘤状に突出した終端を持つという構造的特徴を用いた脳動脈瘤の検出方法を構築した。具体的には、血管の走行方向の輝度変化は小さく、断面方向の輝度変化は大きいという特徴に基づいて、血管の走行方向ベクトルを算出する(ステップS4)。そして、算出した走行方向ベクトルefをもとに、脳動脈瘤候補の探索を行い(ステップS6)、候補点の絞り込み(ステップS7)および偽陽性の除去(ステップS8)により、脳動脈瘤候補を決定する(ステップS9)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、MR血管画像から動脈瘤候補を検出するための検出支援装置および検出方法に関し、特に、頭部MR血管画像からの脳動脈瘤候補の検出を行う支援装置および検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳動脈瘤は血管の一部が膨れて出来た瘤状のものをいい、破裂してくも膜下出血を呈するまで無症状に経過することが多く、最近までの外科治療の対象は、くも膜下出血を生じた破裂脳動脈瘤または巨大化し周囲脳を圧迫するようになった巨大脳動脈瘤であった。しかし、くも膜下出血は、病院に収容され治療が開始される前に死亡するいわゆる突然死や重症に至る症例が多く、その50%近くは医療技術が進んだ現在でも不良の転帰をとっている。このため、未破裂の脳動脈瘤の早期発見は、非常に重要な課題とされている。
【0003】
従来の動脈瘤検出支援に関する研究や提案では、動脈瘤を球状の領域とモデル化し、形状特徴を利用するものがほとんどであった。
たとえば、特許文献1には、球状フィルタを用い、2値化処理により抽出された対象領域と球状フィルタとを重ね合わせ、球状フィルタの中心点の領域を出力して、その出力された領域の特徴量を算出することにより、動脈瘤候補か否かを判別する画像処理方法および装置が提案されている。
【0004】
また、特許文献2、3には、球状構造を強調する濃度勾配フィルタを用い、MRA画像の濃度変化の勾配に着目して、濃度の勾配ベクトルの向きが動脈瘤では瘤の中心に集中することに着目し、集中度の高い領域を動脈瘤の候補とする検出手法、およびその手法を利用した医用画像処理装置が提案されている。
さらに、非特許文献1、2には、ドット強調フィルタにより強調された領域を動脈瘤の初期候補とし、候補領域の特徴により候補を分類した後、各グループで画像特徴による偽陽性除去を行い、最後に線形判別法による更なる偽陽性除去を行う動脈瘤候補の検出手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−48247号公報
【特許文献2】特許第3928978号公報
【特許文献3】特許第4139869号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H. Arimura, Q. Li, Y. Korogi, T. Hirai, H. Abe, Y. Yamashita, S. Katsuragawa, R. Ikeda and K. Doi: "Automated Computerized Scheme for Detection of Unruptured Intracranial Aneurysms in Three-Dimensional Magnetic Resonance Angiography", Academic Radiology, Vol. 11, No. 10, pp. 1093-1104 (204).
【非特許文献2】H. Arimura, Q. Li, Y. Korogi, T. Hirai, S. Katsuragawa, Y. Yamashita, K. Tsuchiya and K. Doi: "Computerized detection of intracranial aneurysms for three-dimensional MR angiography: Feature extraction of small protrusions based on a shape-based difference image technique", Medical Physics, Vol. 33, No. 2, pp. 394-401 (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MR血管画像から動脈瘤候補を検出するに際し、動脈瘤は球状という形状特徴を有するとは限らず、実際には様々な形状のものが存在する。そのため、様々な形状の動脈瘤も検出できる手法が必要である。つまり、従来の動脈瘤検出の手法は、動脈瘤の形状特徴を利用して動脈瘤を検出するという手法がほとんどであったが、動脈瘤、特に脳動脈瘤の形状には様々なものが見られるため、形状特徴とは異なる別の観点から動脈瘤を正確に検出する検出支援装置や検出方法が望まれていた。
【0008】
この発明は、このような背景のもとになされたもので、MR血管画像の輝度分布に着目し、輝度分布から求められる方向ベクトル情報を用いて動脈瘤候補をより正確に検出する検出支援装置および検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記課題を解決し、上記目的を達成するために、次の構成を具備している。
請求項1記載の発明は、MR血管画像における動脈瘤候補の検出を支援する装置であって、MR血管画像から血管領域を抽出する抽出手段と、前記抽出手段によって抽出された血管領域を構成する各ボクセル毎に、輝度分布に基づく血液の流れ方向を表わす走行方向ベクトルを算出し、方向ベクトル情報として出力する方向ベクトル情報出力手段と、出力される方向ベクトル情報から、走行方向に終端を有する領域を探索する探索手段と、探索された終端を有する領域を、動脈瘤の候補とするか否かを選別する選別手段と、を含むことを特徴とする、動脈瘤候補の検出支援装置である。
【0010】
請求項2記載の発明は、前記抽出手段は、ノイズを除去するため、MR血管画像をガウシアンフィルタにより平滑化処理する手段と、ノイズが除去されたMR血管画像から、領域拡張法を用いて血管領域を抽出する手段と、を含むことを特徴とする、請求項1記載の動脈瘤候補の検出支援装置である。
請求項3記載の発明は、前記方向ベクトル情報出力手段は、血管領域およびその周辺の組織を構成する各ボクセルの値から、ヘッセ行列を用いた各ボクセルの固有値を求める手段と、求めた固有値をもとに、血管の走行方向の輝度変化は小さく、断面方向の輝度変化は大きいという特徴に基づいて、血管の走行方向ベクトルを算出する手段と、を含むことを特徴とする、請求項1または2記載の動脈瘤候補の検出支援装置である。
【0011】
請求項4記載の発明は、前記方向ベクトル情報出力手段は、多重スケールにおける走行方向ベクトルを算出することを特徴とする、請求項3記載の動脈瘤候補の検出支援装置である。
請求項5記載の発明は、前記探索手段は、各ボクセルの走行方向ベクトルに基づいて、輝度分布の変化点を抽出する手段と、抽出された輝度分布の変化点に基づき、各ボクセルについて、同一走行方向ベクトルのみを含む領域を球単位で求め、領域の大きさを球の半径で表わす手段と、隣接する同一走行方向ベクトルのみを含む球単位領域の隣接配列状況から、動脈瘤の候補となる球単位領域を特定する手段と、を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の動脈瘤候補の検出支援装置である。
【0012】
請求項6記載の発明は、前記選別手段は、少なくとも孤立点とはなっていない終端領域、球単位領域における所定の固有値の平均が予め定める閾値以上、予め定める位置条件を満たす領域、および血管領域の境界と輝度分布の変化点の間の領域にないもの、を満たす場合に、動脈瘤候補であるとすることを特徴とする、請求項5記載の動脈瘤候補の検出支援装置である。
【0013】
請求項7記載の発明は、前記選別手段は、線形選別法により動脈瘤候補を絞り込むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の動脈瘤候補の検出支援装置である。
請求項8記載の発明は、MR血管画像を処理し、その画像中の動脈瘤候補を検出するための検出方法であって、MR血管画像から血管領域を抽出するステップと、前記抽出された血管領域を構成する各ボクセル毎に、輝度分布に基づく血液の流れ方向を表わす走行方向ベクトルを算出し、方向ベクトル情報として出力するステップと、出力される方向ベクトル情報から、走行方向に終端を有する領域を探索するステップと、探索された終端を有する領域を、動脈瘤の候補とするか否かを選別するステップと、を含むことを特徴とする、画像中の動脈瘤候補の検出方法である。
【0014】
請求項9記載の発明は、前記血管領域を抽出するステップは、ノイズを除去するため、MR血管画像をガウシアンフィルタにより平滑化処理するステップと、ノイズが除去されたMR血管画像から、領域拡張法を用いて血管領域を抽出するステップと、を含むことを特徴とする、請求項8記載の画像中の動脈瘤候補の検出方法である。
請求項10記載の発明は、前記方向ベクトル情報を出力するステップは、血管領域およびその周辺の組織を構成する各ボクセルの値から、ヘッセ行列を用いた各ボクセルの固有値を求め、かつ、血管の走行方向の輝度変化は小さく、断面方向の輝度変化は大きいという特徴に基づいて、血管の走行方向ベクトルを算出するステップ、を含むことを特徴とする、請求項8または9記載の画像中の動脈瘤候補の検出方法である。
【0015】
請求項11記載の発明は、前記方向ベクトル情報を出力するステップは、多重スケールにおける走行方向ベクトルを算出することを特徴とする、請求項10記載の画像中の動脈瘤候補の検出方法である。
請求項12記載の発明は、前記走行方向に終端を有する領域を特定するステップは、各ボクセルの走行方向ベクトルに基づいて、輝度分布の変化点を抽出するステップと、抽出された輝度分布の変化点に基づき、各ボクセルについて、同一走行方向ベクトルのみを含む領域を球単位で求め、領域の大きさを球の半径で表わすステップと、隣接する同一走行方向ベクトルのみを含む球単位領域の隣接配列状況から、動脈瘤の候補となる球単位領域を特定するステップと、を含むことを特徴とする、請求項8〜11のいずれかに記載の画像中の動脈瘤候補の検出方法である。
【0016】
請求項13記載の発明は、前記動脈瘤の候補か否かを選別するステップは、少なくとも孤立点とはなっていない終端領域、球単位領域における所定の固有値の平均が予め定める閾値以上、予め定める位置条件を満たす領域、および血管領域の境界と輝度分布の変化点の間の領域にないもの、を満たす場合に、動脈瘤候補であるとすることを特徴とする、請求項12記載の画像中の動脈瘤候補の検出方法である。
【0017】
請求項14記載の発明は、前記選別ステップは、線形選別法により動脈瘤候補を絞り込むことを特徴とする、請求項8〜13のいずれかに記載の画像中の動脈瘤候補の検出方法である。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、MR血管画像の輝度分布から求められる方向ベクトル情報を用い、その方向ベクトル情報に基づいて動脈瘤を検出することにより、従来の装置では検出が困難であった歪んだ形状(球状でない形状)の動脈瘤を含め、対象画像中の動脈瘤をより正確に検出することのできる検出支援装置および検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の一実施形態に係る動脈瘤検出支援装置の基本的なハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
【図2】図1に示す動脈瘤検出支援装置の処理動作の概要を示すフローチャートである。
【図3】頭部MRA画像の一例を示す図である。
【図4】図2に示す頭部MRA画像から抽出した血管領域を示す画像である。
【図5】血管における固有ベクトルを表わす図である。
【図6A】正常部のefのベクトル場を説明するための図であり、血管の本幹部において、(1)はMIP画像を示し、(2)はスライス画像とベクトル場との重ね合わせを示す。
【図6B】正常部のefのベクトル場を説明するための図であり、血管の分岐部において、(1)はMIP画像を示し、(2)はスライス画像とベクトル場との重ね合わせを示す。
【図6C】正常部のefのベクトル場を説明するための図であり、血管の彎曲部において、(1)はMIP画像を示し、(2)はスライス画像とベクトル場との重ね合わせを示す。
【図7】動脈瘤のefのベクトル場を表わす図であり、(1)はMIP画像であり、(2)はスライス画像とベクトル場との重ね合わせを示す。
【図8】(1)は正常部における同一方向ベクトル領域の図解図であり、(2)は動脈瘤部における同一方向ベクトル領域の図解図である。
【図9】絞り込みの対象とする部位の例を示す図であり、細い血管における(1)は抽出された血管領域、(2)はスライス画像とベクトル場を示す図である。
【図10】絞り込みの対象とする部位の例であり、分岐部における(1)はMIP画像、(2)は(1)の枠内部分のスライス画像とベクトル場を表わす図である。
【図11A】終端判定を行うための関心領域を説明する図である。
【図11B】終端判定の仕方を説明する図であり、(1)は真陽性の場合、(2)は偽陽性の場合を表わす図である。
【図12A】突出の判定を行う場合の関心領域を説明する図解図である。
【図12B】突出の判定において、図12Aに示す関心領域の判定方法を説明するための図であり、(1)は真陽性と判定される例、(2)は偽陽性と判定される例を説明する図である。
【図13A】実施例における検出結果を説明するための図であり、原画像(MIP画像)を示し、図内の○印が動脈瘤を表わす図である。
【図13B】方向ベクトル情報を用いた動脈瘤候補の検出結果を表わす血管領域で候補が5つ示された画像である。
【図13C】最終結果の図であり、真陽性数が1、偽陽性数が1となった画像である。
【図14】この実施形態において検出できなかった動脈瘤を説明するための図であり、(1)はMIP画像、(2)はそのスライス画像を示す。
【図15】この実施例において偽陽性として除去されなかった検出部位の例であり、(1)は細い血管の場合、(2)は彎曲部の場合、(3)は過剰抽出領域の場合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下には、図面を参照して、この発明の実施形態について詳細に説明をする。
<動脈瘤検出支援装置の構成>
この発明の一実施形態に係る動脈瘤検出装置は、コンピュータを用いた支援診断装置として構成することができる。このコンピュータ支援診断装置、すなわち動脈瘤検出支援装置のハードウェア構成の一例は、図1に示すブロック図で表わされる。
【0021】
動脈瘤検出支援装置は、コンピュータ本体10と、このコンピュータ本体10に接続された入力装置11としてのキーボード11Aおよびマウス11Bと、コンピュータ本体10に接続されたディスプレイ13と、コンピュータ本体10に接続されたプリンタ14とを備えている。
コンピュータ本体10は、演算処理部としてのCPU15と、主記憶装置としてのROM16およびRAM17と、補助記憶装置としてのハードディスクドライブ(HDD)18およびCD−ROMドライブ19と、入力制御部20と、ディスプレイインタフェース21と、プリンタインタフェース22とを備えており、これらはバス23によって互いに接続されている。入力制御部20は、入力装置11からの入力信号を処理してCPU15に入力する。ディスプレイインタフェース21は、画像データの入力を受けて、その画像データに対応する画像をディスプレイ13に表示させる働きを担う。プリンタインタフェース22は、プリンタ14との接続のためのものである。
【0022】
CD−ROMドライブ19には、コンピュータプログラムを記録した記録媒体としてのCD−ROM(ディスク)25を装填することができる。画像処理プログラムを記録したCD−ROM25をCD−ROMドライブ19に装填し、必要なインストール操作を行った上で、当該画像処理プログラムをコンピュータ本体10によって実行させることにより、このコンピュータ本体10は画像処理装置として機能し、当該コンピュータ装置は動脈瘤検出支援装置として機能することができる。
【0023】
無論、コンピュータプログラムは、記録媒体に記録された形態で提供される必要はなく、ネットワークを介して提供されてもよい。すなわち、コンピュータ本体10にネットワークインタフェースを備え、このネットワークインタフェースを介してコンピュータプログラムをプログラム本体10にダウンロードすることによっても、コンピュータ本体10を画像処理装置として機能させることができる。
【0024】
一方、処理対象の頭部MR血管画像データは、たとえば、ハードディスクドライブ18に格納される。この頭部MR血管画像データも、CD−ROMドライブ19を経由してハードディスクドライブ18に格納されてもよいし、ネットワークを介して取得してハードディスクドライブ18に格納するようにしてもよい。
<動脈瘤検出支援装置の動作>
図1に示す動脈瘤検出支援装置の動作、すなわちコンピュータ本体10により実行される演算制御動作の概要を、図2に示す。
【0025】
図2に示すように、コンピュータ本体10では、MR血管画像が入力されると(ステップS1)、そのMR血管画像から血管領域の抽出を行う(ステップS2)。
血管領域の抽出では、後述するように、ガウシアンフィルタが使用され、また、領域拡張法により血管領域の抽出が行われる。
次いで、ヘッセ行列を用いた固有値・固有ベクトルの計算がされる(ステップS3)。
【0026】
さらに、多重スケールにおける走行方向ベクトルefの算出がなされる(ステップS4)。
そして、ベクトル場における脳血管と脳動脈瘤の表示がなされる(ステップS5)。この表示については、後述する図6A、図6B、図6C、図7参照。
そして、脳動脈瘤候補の探索を行う(ステップS6)。この探索では、
・輝度分布の変化点の抽出
・同一方向ベクトル領域の計算
・非極大点の抑制を用いた血管中心位置の決定
・終端の探索
等の処理を行う。
【0027】
そして、脳組織情報を用いた候補点の絞り込みをし(ステップS7)、画像特徴を用いた偽陽性の除去を行い(ステップS8)、最終的に、脳動脈瘤候補を決定する(ステップS9)。
かかる処理が、コンピュータ本体10を含む動脈瘤検出支援装置により実行される。
<本発明の動脈瘤検出手法の概要>
この発明の実施形態では、MRAにより得られた頭部MR血管画像から脳動脈瘤候補を検出する。MRA(Magnetic Resonance Angiography:磁気共鳴血管撮影)は、MRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像)の1つの方法であり、「流れている血液」を最も見易くして画像化する撮影方法である。このため、MRAにより、脳血管の血流部分を高信号に描出し、血流部分が強調された画像、すなわち頭部MR血管画像が得られる。
【0028】
ところで、脳動脈瘤も血管の一部であるため、内部の血流の乱れによって信号強度が弱くなることはあるものの、ある程度の信号強度は得られる。得られた画像において、脳血管は断面方向の輝度変化は大きく、走行方向(血流方向)の輝度変化は小さいという特徴があり、脳動脈瘤内部においてもほぼ同様のことが言える。また、脳血管は走行方向について連続した領域であるのに対し、脳動脈瘤は血管の一部が膨れたものであるため、走行(突出)方向について終端がある不連続な領域である。このことから、脳動脈瘤を含む脳血管の走行方向と構造特徴の関係は、脳動脈瘤検出に利用できると考えられる。この実施形態(この発明)における脳動脈瘤候補の検出手法は、脳動脈瘤においては血流の走行方向について終端がある不連続な領域であることに着目して、脳血管を輝度が一定な球単位領域に区分し、その球単位領域が終端を有するか否かにより、脳動脈瘤候補を検出しようとするものである。
<具体的検出手法1:血管領域の抽出>
患者の頭部MR血管画像、たとえば図2に示すようなMRA画像が、コンピュータ本体10に与えられる。コンピュータ本体10では、与えられたMRA画像(図3)から血管領域を抽出して、図4に示す血管領域画像を出力する。
【0029】
この実施例では、コンピュータ本体10において、ノイズ除去のためにガウシアンフィルタによる平滑化処理を適用する。ガウシアンフィルタにより平滑化処理されたMRA画像データから領域拡張法により血管領域を抽出する。このとき、検出対象とする2mm以上の動脈瘤が持つ輝度分布が平滑化の影響で潰れてしまわないように、ガウシアンフィルタの標準偏差σのパラメータを1ボクセルに設定する。なお、この実施形態では、対象画像データのボクセルサイズは、0.31mmの等方ボクセルである。
【0030】
画像データの中で最もボクセル値が高いボクセルを種として領域拡張法を適用する。具体的には、画像中央部分の体積1/4の領域に対する輝度ヒストグラムを輝度値が高い方から見たとき、接線の傾きがある閾値tより小さくなるときのボクセル値以上のボクセルがなくなるまで、領域拡張法を繰り返し適用し、得られた領域を血管領域とする。これにより、図3に示す血管領域の画像が得られる。
<具体的検出手法2:ヘッセ行列を用いた固有値、固有ベクトルの計算>
得られた血管領域とその外側10mmの脳組織を計算領域として、各ボクセル値を関数I(x,y,z)とみなしたとき、ヘッセ行列は各方向の2次偏導関数を要素として持つ次式で表わされる。
【0031】
【数1】

【0032】
ここで、
【0033】
【数2】

【0034】
とし、これら偏導関数は、画像データと3次元ガウス関数の偏導関数との畳み込みによって計算する。ガウス関数の標準偏差を表わすパラメータσHは、脳血管の太さと対象とする脳動脈瘤の大きさに応じて適切な値を設定する必要がある。
この実施形態では、原画像(図4)に対して、σH=1.0,2.0,…,5.0の5段階に設定し、この設定値に基づいてコンピュータ本体10が計算を行った。
【0035】
ヘッセ行列からは3つの固有値λ1,λ2,λ3が得られる。
ここで|λ3|≦|λ2|≦|λ1|とすると、固有値に対応する固有ベクトルe1,e2,e3は互いに直交し、その方向は各固有値から得られる曲率に対応する輝度変化の方向と一致する。脳血管は、走行方向の輝度変化は小さく、断面方向の輝度変化は大きいため、血管内部での固有ベクトルは、図5に示す方向となる。このため、この実施形態では、最小曲率に対応する|λ3|の固有ベクトルe3を血管の走行方向と考える。
【0036】
また、脳血管は位置によって太さが異なるため、固有値の正規化に基づく多重スケールの概念を導入し、最適なスケールでの固有ベクトルを選択する。
この実施形態では、N2(σH)=σH2|λ2(σH)|で正規化された第2固有値N2(σH)がσH=1.0,2.0,…,5.0において最大値をとるときのσHで計算されたe3を多重スケールにおける走行方向efとする。
<具体的検出手法3:方向ベクトル情報を用いた動脈瘤候補の検出>
(1)ベクトル場における脳血管と脳動脈瘤
正常部でのefのベクトル場を図6A、図6B、図6Cに示す。このとき、図6A〜図6Cそれぞれについて、画像(1)のMIP画像の白枠内で最も血管が太く描出されているスライス画像にベクトル場を重ねた画像が画像(2)である。
【0037】
図6A〜図6Cにより、脳血管の基本構造である本幹部、分岐部、彎曲部では、彎曲部の凸部の一部で走行方向とは異なる方向を向いている部分が見られるものの、基本的にはそれぞれ血管の走行方向に沿った幅を持つ同一方向のベクトル分布が確認できる。また、血管周辺の脳組織部分のefが走行方向に沿う方向となっている。これは、ヘッセ行列を計算する際の計算範囲内に血管領域が含まれると、血管に向かう方向の曲率が大きくなるために、e1が血管に向かう方向となり、この方向に直交する方向がe3となるためである。
【0038】
次に、図7に、脳動脈瘤部での血管部位と、そのスライス画像にefのベクトル場を重ねた画像を示す。図7において、(1)はMIP画像であり、(2)はスライス画像にベクトル場を重ねた画像である。
図7(2)によれば、脳動脈瘤内部では、突出方向に沿った幅を持つ同一方向の分布が確認できる。これは、脳動脈瘤内部では、乱流の影響により正常部よりも信号強度が低下するが、正常部と同様に走行(突出)方向の輝度変化が少なく、断面方向の輝度変化が大きくなっているからである。しかし、脳動脈瘤は、突出方向において終端があるため、突出方向に沿った分布が瘤の先端で途切れている。脳血管は、走行方向について途中で途切れることなく続いている連続領域と考えることができるため、このように走行方向について終端がある不連続な領域は、病変した異常部分であると考えることができる。
【0039】
また、脳動脈瘤周辺の脳組織部分のefの分布は、正常部の血管周辺の脳組織部分の分布と同様の理由により、脳動脈瘤の形状に沿う方向となっていることが確認できる。
(2)血管領域内における動脈瘤候補点の探索
上記(1)で述べた特徴に基づいて構築した脳動脈瘤候補点の探索処理手順を、以下に示す。
【0040】
ステップ1:輝度分布の変化点の抽出
血管領域とその外側10mmの計算範囲内の全ボクセルについて、各ボクセルの方向ベクトルefとその終点にあるボクセルのef(隣接ベクトル)との角度αを計算し、αが閾値以上であればそのボクセルを輝度分布の変化点とする。
ステップ2:同一方向ベクトル領域の計算
求めた変化点を用いて、図8に示すように、血管領域の各ボクセルについて輝度分布の変化点を含まない領域を球単位で求める。これらの各ボクセルとそのボクセル毎に求められる球領域内に含まれるボクセルの方向ベクトルは同一方向とみなす。そして、この球単位領域を同一方向ベクトル領域と呼び、領域の大きさを球の半径rで表わす。この時点で、血管領域の各ボクセルは、この半径rも保持している。
【0041】
ステップ3:非極大点の抑制を用いた血管中心位置の決定
求めた半径rの分布に対して、非極大点の抑制を行う。非極大点の抑制とは、値が分布している空間において、注目ボクセルに対する抑制範囲内で、注目ボクセル自身が極大点でなければ、その値を0に抑制する処理である。ここでの抑制範囲は、注目ボクセルのefを放線ベクトルとする直径2mmの円とする。この処理により、efに対して、半径rが極大となる同一方向ベクトル領域の中心ボクセルが残る。このボクセルは、血管領域におけるef方向の最大球の中心(血管中心位置)に相当する。
【0042】
ステップ4:終端の探索による動脈瘤の候補点検出
上記ステップ3で求めた全ての極大点について、そのボクセルにおける同一方向ベクトル領域を考える。そして、領域内部のefから計算した平均ベクトルの方向に、領域の半径rだけ領域を移動させたとき、移動後の領域と他の同一方向ベクトル領域が重ならなければ、その極大点を含む領域は終端である、と判断して脳動脈瘤の候補点とする。
【0043】
すなわち、ステップ1−4において、各ボクセルの走行方向ベクトルに基づいて、輝度分布の変化点を抽出し(ステップ1)と、抽出された輝度分布の変化点に基づき、各ボクセルについて、同一走行方向ベクトルのみを含む領域を球単位で求め(ステップ2)、領域の大きさを球の半径で表わし(ステップ3)、隣接する同一走行方向ベクトルのみを含む球単位領域の隣接配列状況から、動脈瘤の候補となる球単位領域を特定する(ステップ4)。
【0044】
ステップ5:加重要件の付加
また、この実施形態では、以下の条件を全て満たす候補点のみを脳動脈瘤候補と考え、検出対象とする。
a.片側が血管を表わす他の同一方向ベクトル領域と連結しており、孤立点でない候補
b.同一方向ベクトル領域内において
3(σH)=σ2H|λ3(σH)|で正規化された第3固有値N3(σH)が、σH=1.0,2.0,…5.0において最大値をとるときのσHで計算された多重スケールにおける固有値M3(x)の平均が閾値以上の候補
c.同一平行ベクトル領域の大きさが2mm以上の部分の周辺3.5mmに存在する候補
d.血管領域の境界と輝度分布の変化点の間の領域にない候補
(3)脳組織部分の情報を利用した候補点の絞り込み
上記(2)で述べた候補点探索の処理は、血管領域のみを探索しているため、図9(1)に示すように、領域拡張法による血管領域の抽出が途切れた血管や細い血管が脳動脈瘤候補として検出される。これらの部分は、図9(2)に示すように、ベクトル場で確認すると走行方向に終端とはなっていない。このことから、脳組織部分の情報を用いた走行方向における終端判定処理を行う。
【0045】
また一方で、図10(1)(2)に示すような、分岐部から分岐した血管では、分岐点が輝度分布の変化点として抽出される。そのため、脳組織部分の情報を用いた終端判定を行っても、終端であると判断されてしまう。ところで、図10(2)に示すように、分岐部の血管では基本的には本幹部のように脳組織のefは走行方向となる。しかし、脳動脈瘤のような突出部での脳組織のベクトルは、形状に沿う方向となるため、走行方向とはならない。このことから、脳組織部分の情報を用いた走行方向の法線方向における突出判定処理を行う。
【0046】
具体的には、図11Aに示すように、候補点のe1,e2,e3の方向に2r×2r×4rの直方体を底面の中心が候補点になるように配置した領域を関心領域とし、この関心領域内で、候補点を種(注目ボクセル)とする領域拡張法を行う。
同様に、図12Aに示すような画像データでは、候補点のe1,e2,e3の方向に8r×2r×2rの直方体を重心が候補点となるように配置した領域を関心領域とし、その関心領域内で、候補点を種(注目ボクセル)とする領域拡張法を行う。
【0047】
ここで行う領域拡張法は、
1)注目ボクセルが関心領域内かつ輝度分布の変化点ではないとき、そのボクセルを候補点から滑らかに変化している領域としてマークし、そのボクセルの隣接26近傍のいずれの点にも変化点がなければ、隣接する26近傍全てを次の注目ボクセルとしてマークする。
【0048】
2)注目ボクセルが変化点であれば、そのボクセルは領域外としてマークする。
というものである。そして抽出された領域が、終端判定では候補点からの距離が3rの面上のボクセルに存在する場合、および、突出判定では候補点からの距離が3rの面上のボクセル数の10%以上に存在する場合(図11Bおよび図12B参照)は、偽陽性として候補点から除去する。
<具体的検出手法4:画像特徴を用いた偽陽性の除去>
この実施形態では、以上のように、脳血管の輝度分布から計算した走行方向ベクトルに基づき、脳動脈瘤の構造特徴を把握して、脳動脈瘤候補の検出を行う。さらに加えて、画像特徴を用いた線形判別法による偽陽性除去を追加することで、症例当たりの偽陽性数を削減し、性能向上を図ることができる。
【0049】
偽陽性除去に有効な特徴量を選択するために、候補点から脳動脈瘤候補領域を抽出する。この領域は、候補点を中心とする半径3rの球領域と、血管領域の共通領域Aと、候補点と候補点を−ref,−2ref移動した3点のそれぞれを中心とする半径2rの球の和集合Bの共通部分(A∩B)として求められるものとする。
この領域を対象に、29種類の特徴量を計算する。それらは、候補領域の特徴量として、体積、表面積、球形度、円錐度の4種類、領域の内部領域と周囲2mmの外部領域の輝度ヒストグラムに関する特徴量として、ピーク度数、ピーク輝度値、半値幅、輝度平均、輝度標準偏差、輝度の相対標準偏差、最大輝度値、最小輝度値(8種類×2)に内部領域の最小輝度値とピーク輝度値の差を加えた17種類、内部領域と外部領域の輝度平均の差、輝度標準偏差の差、最大輝度値の差、最小輝度値の差の2つの差に基づくもの4種類、同一方向ベクトル領域の半径rに関する特徴として平均、標準偏差、相対標準偏差、最大値の4種類からなる。
【0050】
これらの特徴量から、ラウンドロビンテスト(Leave-One-Out Method)を用いて、偽陽性除去に有効な組み合わせを探索し、得られた特徴量の組み合わせを用いて偽陽性除去を行い、性能を評価する。
この発明の一実施形態は、以上の処理をコンピュータを用いて実行することにより、MR血管画像から脳動脈瘤候補を、正確性を担保して検出することができる。しかし、この発明は、脳動脈瘤に限らず、動脈瘤一般の検出にも適用できるものである。
【0051】
以下、この発明を用いて実際に確認を行った脳動脈瘤候補の検出について、実施例として説明をする。
【実施例】
【0052】
(1)対象画像
対象画像として、2.0mmから13.2mmの脳動脈瘤を含む臨床画像24症例(脳動脈瘤の個数は32個)と、脳動脈瘤が存在しない26症例の合計50症例について、この発明に係る検出支援装置により脳動脈瘤の検出を行った。
対象画像における脳動脈瘤のほとんどは、手術で確認されており、手術で確認されていない脳動脈瘤と、脳動脈瘤が存在しない症例は、2名の放射線科医師の合議で決定されたものを用いた。
【0053】
対象画像は、1.5TのMRI装置において、3D TOF法(TR:33〜43msec、TE:3.4か6.8msec)で撮影された画像であり、マトリクスサイズ、ボクセルサイズ、スライス数、輝度範囲といった撮影パラメータは、症例毎に異なっている。このため、実施例では、対象画像データを、線形補完法を用いて、最もスライスのピクセルサイズが細かい0.31mm×0.31mmに合わせて等方ボクセル化処理を行った。このとき、輝度範囲も、0から10000に正規化した。対象画像中の動脈瘤は、嚢状動脈瘤が31例で、紡錘状動脈瘤が1例である。
(2)方向ベクトル情報を用いた動脈瘤候補の検出
まず、対象画像から血管領域を抽出した。このときの閾値tは、脳動脈瘤が血管領域内に含まれるように、経験的にt=−5000とした。続いて、抽出した血管領域画像に対し、方向ベクトル情報を用いた脳動脈瘤候補の検出を行った。検出は、前述した「ステップ1:輝度分布の変化点の抽出」におけるαに加えて、同一方向ベクトル領域(半径r)のうち、小領域として除去するための閾値と、点形状としてある程度の強度をもつものを選択するための多重スケールにおける第3固有値M3(x)の平均である閾値の2つのパラメータを用いた。
【0054】
この実施例では、αの閾値を実験的に0.25πとし、残りの2パラメータは、全て対象画像を用いて感度が100%となるように決定した(小領域として削除する閾値をr2=5、M3(x)の平均値である閾値を計算領域全体のM3(x)を0−1024で正規化した時の100とした)。
処理の結果の一例を、図13A、図13Bに示す。この例では、検出された脳動脈瘤の候補数は5個であった。
(3)画像特徴を用いた偽陽性の除去
検出された脳動脈瘤の候補領域から、29種類の特徴量を計算した。このとき、各特徴量は、平均0、分散1に標準化し、1特徴量から6特徴量までラウンドロビンテストを用いて全ての組み合わせを評価した。
【0055】
特徴量数毎に整理すると、1特徴量のときは偽陰性数6個、2特徴量のときは偽陰性数3個、3特徴量〜6特徴量のときは偽陰性数1個、となる組み合わせが存在したが、偽陰性数が0個となる組み合わせは、この実施例では存在しなかった。
そこで、偽陰性が1個となった3特徴量から6特徴量の組み合わせにおいて、対象画像全体の偽陽性数を確認したところ、73個か74個であった。偽陽性数が少ない方の73個で判別に用いる特徴量数が最も少なかった3特徴量(球形度、領域内部の輝度ヒストグラムのピーク輝度値、内部領域と外部領域の輝度平均の差)を用いたものを、最終結果とする。図13Bを処理した結果を、図13Cに示す。
【0056】
方向ベクトル情報を用いた脳動脈瘤候補の検出処理と、画像特徴を用いた偽陽性の除去処理とを段階的に適用したときの、感度、症例当たりの平均偽陽性数をまとめると、表1に示す結果となった。
【0057】
【表1】

【0058】
(4)考察
この実施例では、図14に示す画像が、検出できなかった脳動脈瘤である。
この脳動脈瘤は、母血管から瘤先端までの長さは2mm以上あるものの、その形状が細く、瘤の断面方向の幅は5ボクセル(1.6mm)程度しかないことを確認している。このため、候補領域としては瘤全体を抽出できてはいるが、他の瘤に比べて領域が小さくなってしまうため、十分な画像特徴量が得られず、他の脳動脈瘤と画像特徴が大きく異なるといった理由から、偽陽性として除去されてしまったものと考えられる。
【0059】
次に、偽陽性として検出された脳動脈瘤候補(偽陽性候補)について考察する。
偽陽性候補を確認したところ、大きく3つのタイプに分類できることがわかった。1つめは、図15(1)に示すような、主要な太い血管から分岐する細い血管である。このような細い血管部分のef、多重スケールの概念を導入しても、局所的にベクトルの方向が乱れてしまうため、輝度分布の変化点を求めると、脳動脈瘤のように終端を表わす分布となってしまうからである。これは、2次偏導関数を要素に持つヘッセ行列から方向ベクトルを求めているため、ガウス関数による平滑化を適用しても、雑音の影響が残ってしまい、細い構造物は安定した情報が得られないことに起因する。
【0060】
2つめの図15(2)に示す彎曲部では、彎曲の凸部のefが脳組織に向かう方向となるため、この発明の手法では、脳動脈瘤と同様に終端とみなされてしまう。また、画像特徴も脳動脈瘤と似てしまうため、偽陽性候補として残っている。
3つめの図15(3)に示す領域は、血管領域抽出の際に過剰抽出された領域である。過剰抽出領域は、周囲の脳組織よりも輝度値が高いために、終端の分布となって偽陽性候補として残っている。この発明に係る手法では、領域拡張法により単一の閾値で抽出した血管領域内を探索しているため、過剰抽出されてしまう脳組織部分に偽陽性候補が存在する場合がある。しかし、血管領域抽出法を改良することで、このような過剰抽出領域の偽陽性候補は削減できると考えられる。
【0061】
さらに、対象画像中に一例含まれていて、この発明の手法で検出できている紡錘状の脳動脈瘤についての考察を述べる。
従来例で説明した球形特徴に基づく脳動脈瘤の検出手法では、紡錘状の脳動脈瘤はスケルトンとして残りにくいため、検出が困難な対象であると考えられる。これに対し、この発明の手法では、紡錘状であっても、膨れている部分に同一方向ベクトル領域が存在するので、この場合でも終点として検出できている。
【0062】
ただし、特に紡錘状において、検出対象とする2mm以上であっても、紡錘状部分の膨らみが小さいために検出できなくなる可能性はあるため、閾値の設定については、慎重に検討して定める必要があると考えられる。
本実施例における1症例当たりの処理時間は、次の通りである。
本発明における処理を、Linux PC(CentOS5.3, CPU: Intel Core2Duo 2.66GHz,メモリ:2GB)上で実行すると、画像入力から候補検出まで、約110分の時間を要したが、このうち多重スケールで固有値、固有ベクトルを計算する部分が93分(約85%)と大部分を占めている。
【0063】
この実施例によれば、従来の手法では検出が困難であった球状から歪んだ脳動脈瘤を含めた対象画像中の全動脈瘤を検出したときの、症例当たりの平均偽陽性数が4.5個となることがわかった。これは、脳動脈瘤が血管の終端であるという構造特徴を用いるこの発明の考え方が有効であることを示している。さらに、画像特徴を用いた線形判別分析では、約68%の偽陽性を除去することができ、最終結果としては、脳動脈瘤の検出感度97%のとき、平均偽陽性数は1.5個となり、この発明は検出能からみても、従来手法と同等以上の効果を奏することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
この発明は、医用画像処理の分野において利用することが可能であり、医療用の撮影装置、特にMRA撮像機器により得られたMR血管画像から動脈瘤候補を検出するための医用画像処理装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
10 コンピュータ本体
11 入力装置
11A キーボード
11B マウス
13 ディスプレイ
14 プリンタ
15 CPU
16 ROM
17 RAM
18 ハードディスクドライブ(HDD)
19 CD−ROMドライブ
20 入力制御装置
21 ディスプレイインタフェース
22 プリンタインタフェース
23 バス
25 CD−ROM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MR血管画像における動脈瘤候補の検出を支援する装置であって、
MR血管画像から血管領域を抽出する抽出手段と、
前記抽出手段によって抽出された血管領域を構成する各ボクセル毎に、輝度分布に基づく血液の流れ方向を表わす走行方向ベクトルを算出し、方向ベクトル情報として出力する方向ベクトル情報出力手段と、
出力される方向ベクトル情報から、走行方向に終端を有する領域を探索する探索手段と、
探索された終端を有する領域を、動脈瘤の候補とするか否かを選別する選別手段と、
を含むことを特徴とする、動脈瘤候補の検出支援装置。
【請求項2】
前記抽出手段は、ノイズを除去するため、MR血管画像をガウシアンフィルタにより平滑化処理する手段と、
ノイズが除去されたMR血管画像から、領域拡張法を用いて血管領域を抽出する手段と、
を含むことを特徴とする、請求項1記載の動脈瘤候補の検出支援装置。
【請求項3】
前記方向ベクトル情報出力手段は、
血管領域およびその周辺の組織を構成する各ボクセルの値から、ヘッセ行列を用いた各ボクセルの固有値を求める手段と、
求めた固有値をもとに、血管の走行方向の輝度変化は小さく、断面方向の輝度変化は大きいという特徴に基づいて、血管の走行方向ベクトルを算出する手段と、
を含むことを特徴とする、請求項1または2記載の動脈瘤候補の検出支援装置。
【請求項4】
前記方向ベクトル情報出力手段は、多重スケールにおける走行方向ベクトルを算出することを特徴とする、請求項3記載の動脈瘤候補の検出支援装置。
【請求項5】
前記探索手段は、
各ボクセルの走行方向ベクトルに基づいて、輝度分布の変化点を抽出する手段と、
抽出された輝度分布の変化点に基づき、各ボクセルについて、同一走行方向ベクトルのみを含む領域を球単位で求め、領域の大きさを球の半径で表わす手段と、
隣接する同一走行方向ベクトルのみを含む球単位領域の隣接配列状況から、動脈瘤の候補となる球単位領域を特定する手段と、
を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の動脈瘤候補の検出支援装置。
【請求項6】
前記選別手段は、少なくとも
孤立点とはなっていない終端領域、
球単位領域における所定の固有値の平均が予め定める閾値以上、
予め定める位置条件を満たす領域、および
血管領域の境界と輝度分布の変化点の間の領域にないもの、
を満たす場合に、動脈瘤候補であるとすることを特徴とする、請求項5記載の動脈瘤候補の検出支援装置。
【請求項7】
前記選別手段は、線形選別法により動脈瘤候補を絞り込むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の動脈瘤候補の検出支援装置。
【請求項8】
MR血管画像を処理し、その画像中の動脈瘤候補を検出するための検出方法であって、
MR血管画像から血管領域を抽出するステップと、
前記抽出された血管領域を構成する各ボクセル毎に、輝度分布に基づく血液の流れ方向を表わす走行方向ベクトルを算出し、方向ベクトル情報として出力するステップと、
出力される方向ベクトル情報から、走行方向に終端を有する領域を探索するステップと、
探索された終端を有する領域を、動脈瘤の候補とするか否かを選別するステップと、
を含むことを特徴とする、画像中の動脈瘤候補の検出方法。
【請求項9】
前記血管領域を抽出するステップは、ノイズを除去するため、MR血管画像をガウシアンフィルタにより平滑化処理するステップと、
ノイズが除去されたMR血管画像から、領域拡張法を用いて血管領域を抽出するステップと、
を含むことを特徴とする、請求項8記載の画像中の動脈瘤候補の検出方法。
【請求項10】
前記方向ベクトル情報を出力するステップは、
血管領域およびその周辺の組織を構成する各ボクセルの値から、ヘッセ行列を用いた各ボクセルの固有値を求め、かつ、血管の走行方向の輝度変化は小さく、断面方向の輝度変化は大きいという特徴に基づいて、血管の走行方向ベクトルを算出するステップ、
を含むことを特徴とする、請求項8または9記載の画像中の動脈瘤候補の検出方法。
【請求項11】
前記方向ベクトル情報を出力するステップは、多重スケールにおける走行方向ベクトルを算出することを特徴とする、請求項10記載の画像中の動脈瘤候補の検出方法。
【請求項12】
前記走行方向に終端を有する領域を特定するステップは、
各ボクセルの走行方向ベクトルに基づいて、輝度分布の変化点を抽出するステップと、
抽出された輝度分布の変化点に基づき、各ボクセルについて、同一走行方向ベクトルのみを含む領域を球単位で求め、領域の大きさを球の半径で表わすステップと、
隣接する同一走行方向ベクトルのみを含む球単位領域の隣接配列状況から、動脈瘤の候補となる球単位領域を特定するステップと、
を含むことを特徴とする、請求項8〜11のいずれかに記載の画像中の動脈瘤候補の検出方法。
【請求項13】
前記動脈瘤の候補か否かを選別するステップは、少なくとも
孤立点とはなっていない終端領域、
球単位領域における所定の固有値の平均が予め定める閾値以上、
予め定める位置条件を満たす領域、および
血管領域の境界と輝度分布の変化点の間の領域にないもの、
を満たす場合に、動脈瘤候補であるとすることを特徴とする、請求項12記載の画像中の動脈瘤候補の検出方法。
【請求項14】
前記選別ステップは、線形選別法により動脈瘤候補を絞り込むことを特徴とする、請求項8〜13のいずれかに記載の画像中の動脈瘤候補の検出方法。

【図2】
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【図5】
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【図8】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−104206(P2011−104206A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264047(P2009−264047)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年5月21日 社団法人 電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術報告 信学技報Vol.109 No.65」に発表
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Linux
【出願人】(510108951)公立大学法人広島市立大学 (11)
【出願人】(501389729)社会福祉法人 恩賜財団済生会熊本病院 (2)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
【Fターム(参考)】