動電型放音体
【課題】簡単な構造でありながら、薄型軽量で耐水性等の耐環境特性に優れ、車両搭載用放音体として適切な周波数特性を有する動電型放音体を提供することを目的とする。
【解決手段】アウターヨーク(1)を覆うケース(4)を備え、このケースと振動板(8)とアウターヨークの側壁外面とにより音響空間(22)を形成し、ケース外周部と振動板外周部との間を隙間なく連結する第二弾性部材(10)を備え、この第二弾性部材は発泡により空洞部を有しかつ第一弾性部材(9)よりも弾性率が小さい材料で形成されており、第二弾性部材のケース内部側となる裏面と、この裏面の反対面である表面との間を連通する空洞部が無いようにした。
【解決手段】アウターヨーク(1)を覆うケース(4)を備え、このケースと振動板(8)とアウターヨークの側壁外面とにより音響空間(22)を形成し、ケース外周部と振動板外周部との間を隙間なく連結する第二弾性部材(10)を備え、この第二弾性部材は発泡により空洞部を有しかつ第一弾性部材(9)よりも弾性率が小さい材料で形成されており、第二弾性部材のケース内部側となる裏面と、この裏面の反対面である表面との間を連通する空洞部が無いようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動移動体周辺の歩行者等に自車両の接近もしくはその存在を報知するための報知音発生装置に用いる放音体に関し、特に動電型エキサイタを利用して音を発生する動電型放音体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電動自転車、電動カート等の開発実用化に続き、電動バイクや電動自動車等、各種移動体としての乗り物が急速に電動化され始めている。具体的には、内燃機関を動力源とする自動車に代わって、ガソリンエンジンと電動モータとを動力源とするハイブリッド自動車や、家庭電源もしくはガソリンスタンドや電力供給スタンドなどに設置された充電器により充電された車両搭載電池によって作動する電動モータを動力源とする電気自動車、あるいは、水素ガスなどを燃料とする燃料電池で発電しながら走行する燃料電池自動車などが順次開発されている。電動バイク、ハイブリッド自動車及び、電気自動車などは既に実用化され国内市場でも急速に普及し始めている。
【0003】
従来の内燃機関を動力源とするガソリン車やディーゼル車やバイクなどは、動力源自身が放出するエンジン音や排気音、更には走行中のロードノイズ等が発生するため、街中を歩行する歩行者や自転車に乗っている人などは自動車のエンジン音や排気音などにより、車両の接近を認識することができる。しかし、ハイブリッド自動車の場合、低速走行時には、エンジンによる走行ではなく電動モータによる走行モードが主体となるため、エンジン音や排気音等が発生せず、また、電気自動車や燃料電池自動車等に至っては全運転領域において電動モータによって走行することから、非常に静粛性の高い電動移動体となっている。しかしながら、このような静粛性の高い電動移動体の周辺に存在する歩行者や自転車運転者等は、音の発生が少なく静粛性の高い電動モータにより走行するハイブリッド自動車や電気自動車や燃料電池自動車などの電動移動体の接近を音によって認識することができないことから、静粛性の高い電動移動体と歩行者等との接触事故などが発生する原因となり得る。
【0004】
このため、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車、電気自動車などが備える利点であるべき静粛性が時に弊害となる上記のような問題を解決すべく、従来の自動車などに備えられ運転者の意思で警報を発するクラクション以外の、運転者の意思とは関係なく動作する自車両存在報知のためのシステムが種々提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、自車両の走行状態を検出して出力する走行状態検出手段と、検出された走行状態に基づいて車外に音を発生する警告音発生手段と、警告音発生手段の駆動を制御する制御手段とを備え、自車両周辺の歩行者に対して自動車の接近を知らせるために、警告音、エンジン音などを放音することのできる電気自動車が開示されており、警告音発生器としてクラクションやスピーカを利用することが開示されている。
【0006】
また、特許文献2では、自車両が電動機によって発生する動力により走行しているときに、オーディオ信号に関わる音を放射することにより、歩行者に聴取させて自動車の接近を認識させることが開示されている。音を放射する放音体としては、一般的なコーンスピーカ(ムービングコイル型)によるスピーカアレイを利用することが開示されている。
【0007】
また、スピーカ装置としては、特許文献3に、圧電スピーカが開示されている。この圧電スピーカは、圧電体(ピエゾ素子)の両面に電極を形成し圧電体に音声信号電圧を印加するハイインピーダンスの圧電スピーカであり、取り付けフランジ部を有するフレーム、
弾性振動板、圧電振動板、盤状ダンパ、を基本の構成要素とするものである。このスピーカ装置によって、フラットな周波数特性が得られるとともに、機械振動系の構成によって低域限界及び音圧周波数特性の改善がなされ、性能面でも良好なスピーカ装置を得られることなどが開示されている。
【0008】
一方、特許文献4では、ペイジャー(ポケベル)用や携帯電話等の移動体通信機器に搭載されると共に、振動を発生させる機能を有する振動アクチュエータが開示されている。この振動アクチュエータは、ダンパとの間に空隙を有して中心軸に装着される永久磁石を含む磁気回路中の空隙にコイルが配設されている。特許文献4では、磁気回路をコイルに対して同心円状に配置して可動に支持してなり、且つ中心軸は軸方向に対して垂直に延在してダンパに当接される抜け止め部を有し、この抜け止め部は段差をなしてダンパに当接することや、段差の断面形状が円弧状を成していることなどが開示されている。
【0009】
また、特許文献5には、携帯電話のパネルを振動させてスピーカとするパネル型スピーカの取り付け構造が示されている。特許文献5では、エキサイタをパネルに取り付け、パネルと筐体との間を、PETなどの薄膜フィルムとアクリル系等の粘着材とで連続発泡体を挟んだサスペンションによって支持していることが記載されている。この構造により、パネルと筐体との隙間が防水性のフィルムで封止されるため、隙間からの水分の進入が防止できることが開示されている。また、連続発泡体を弾性材料として用いているため、スピーカとしての音圧が小さくなることがないことも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−27810号公報
【特許文献2】特開2010−228564号公報
【特許文献3】特開2003−333692号公報
【特許文献4】特開2000−4569号公報
【特許文献5】特開2007−27923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上の特許文献1や特許文献2では、自車両周辺の歩行者に対して自動車の接近を知らせるために、警告音、エンジン音などを放音することのできる電動移動体が開示されているが、その放音体としては、従来のクラクションやスピーカを使用することが開示されているだけである。
【0012】
また、特許文献3には、室内で用いるスピーカ装置として、圧電体を用いたときの周波数特性を改善する構造について記載されているだけであり、特許文献3に記載されたスピーカ装置は、電動移動体の報知音発生用としての耐環境性を考慮した構造にはなっていない。
【0013】
さらに、特許文献4や特許文献5では、携帯電話などの携帯機器用のスピーカ装置が記載されているだけで、電動移動体の報知音発生用としての耐環境性を高めながら、報知音発生用として適した周波数特性が得られる構造の開示はない。
【0014】
本発明は、上記のような従来のスピーカ装置の課題を解決するためになされたものであり、簡単な構造でありながら、薄型軽量で耐水性等の耐環境特性に優れ、車両搭載用放音体として適切な周波数特性を有する動電型放音体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は、底部及び側壁部を有する形状のアウターヨークと、アウターヨークに囲まれて配置されたマグネットとインナーヨークとを含む磁気回路部と、磁気回路部に形成された磁気ギャップ内に配設されたコイルと、コイルが固定された振動板と、振動板とアウターヨークの側壁部とを弾性的に連結する第一弾性部材と、を備えた動電型放音体であって、アウターヨークを覆うケースを備え、このケースと振動板とアウターヨークの側壁外面とにより音響空間を形成し、ケース外周部と振動板外周部との間を隙間なく連結する第二弾性部材を備え、この第二弾性部材は発泡により空洞部を有しかつ第一弾性部材よりも弾性率が小さい発泡ゴム材で形成されており、第二弾性部材のケース内部側となる裏面と、この裏面の反対面である表面との間を連通する空洞部が無いようにしたものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、簡単な構造でありながら、薄型軽量で耐水性等の耐環境特性に優れ、車両搭載用放音体として適切な周波数特性を有する動電型放音体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の実施の形態1による動電型放音体の構成を示す模式的な断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1による動電型放音体の外観図である。
【図3】この発明の実施の形態1による動電型放音体の第二弾性部材の内部構造を示す模式的な断面図である。
【図4】この発明の実施の形態1による動電型放音体の第二弾性部材の別の内部構成を示す模式的な断面図である。
【図5】この発明の実施の形態1による動電型放音体の振動板ASSYのアッセンブリ構成を示す模式図である。
【図6】この発明の実施の形態1による動電型放音体の特性を、比較例の特性と比較して示す特性比較図である。
【図7】この発明の実施の形態2による動電型放音体の構成を示す模式的な断面図である。
【図8】この発明の実施の形態2による動電型放音体の振動板ASSYのアッセンブリ構成を示す模式図である。
【図9】この発明の実施の形態3による動電型放音体の構成を示す模式的な断面図である。
【図10】この発明の実施の形態3による動電型放音体の主要部の構成を示す模式的な拡大断面図である。
【図11】この発明の実施の形態3による動電型放音体の主要部の他の構成を示す模式的な拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による動電型放音体の構成を示す模式的な断面図である。また、図2は、図1の動電型放音体の外観図であり、図2(A)が正面図、図2(B)が下面図である。図2に示すように、この動電型放音体の全体形状は円形状である。図1において、底と円筒状の側壁とを有する形状に形成され磁性材料からなるアウターヨーク1の内底部に、円柱形状のマグネット2の片端磁極側がアウターヨーク1と同軸状に接着されている。また、磁性材料からなる円柱状のインナーヨーク3が、マグネット2の他端磁極側に、アウターヨーク1やマグネット2と同軸状に接着されている。これらアウターヨーク1、マグネット2、及びインナーヨーク3、によって磁気回路部100が構成されている。以下、図1に一点鎖線で示す、円筒状や円柱状の部品で構成された磁気回路部100の中心軸20の方向を軸方向と呼ぶ。
【0019】
磁気回路部100中のアウターヨーク1の内壁面とインナーヨーク3の外周面との間に形成された磁束密度の高い磁気ギャップ5内に、ボビン6に巻回されたコイル7が挿入されている。ボビン6は、振動板8に接着、もしくは振動板8と同一材料で一体形成されて、振動板8に固定されており、振動板8は、第一弾性部材9によりアウターヨーク1に弾性支持されている。アウターヨーク1を内包するようにケース4が設けられ、振動板8とケース4との間に第二弾性部材10が介在している。アウターヨーク1はボルト13によってケース4に固定されており、ケース4とアウターヨーク1の側壁外面および振動板8により音響空間22が形成されている。ここでは、アウターヨーク1を内包するケース4は、アウターヨーク1の底部でネジ゛止め固定されているが、ケース4とアウターヨーク1との固定方法はねじ止め以外であってもよいのは言うまでもない。また、ケース4には、外部からコイル7に所定の電気信号を通電するためのハーネス部12が接続されている。
【0020】
図2の外観図に示すように、フロントカバー11が振動板8の前面を覆うことで、例えば道路上の小さい石や砂などの固形物など外部からの異物の飛散等から振動板8を保護している。また、フロントカバー11には振動板8からの放出音を遮らない程度の開口面積を有する開口部11bが設けられている。なお、図2では、開口部11bの形状はスリット状のものを示しているが、異物の飛散から振動板8を保護でき、振動板8からの放出音を遮らない程度の開口面積を有していれば、開口部11bの形状はどのようなものであっても構わない。
【0021】
第二弾性部材10は、発泡処理により多数の空洞を持たせた柔軟な発泡ゴム材または柔軟な発泡樹脂材からなり、外力に対して容易に変形可能な弾性部材である。すなわち、第二弾性部材10は第一弾性部材9よりも弾性率が小さい材料で形成されている。また、第二弾性部材10は円環状に成形され、その内周部は振動板8の外周縁全周に一体的に接触保持され、第二弾性部材10の外周部はケース4とフロントカバー11の嵌合わせ部11aによって挟み込み支持されている。
【0022】
図3は、本発明の実施の形態1による第二弾性部材10の断面構造を説明するための模式的な断面図である。図3に示すように、発泡処理によって第二弾性部材10の内部に空洞部10bが多数存在しており、発泡基材となる例えばゴム材の薄肉部10aにより囲まれている。なお、空洞部10b壁面の一部は、隣接する空洞部10bの壁面と部分的に連通状態にあるものの、第二弾性部材10の表面から裏面までを連通するような連続的な空洞部は無く、通気性の無い状態が確保されている。なお、発泡基材となる材料としては、ゴムや樹脂があるが、発泡処理によって、第二弾性部材10として外力に対して容易に変形可能な弾性を有する材料である必要がある。上記のように、第二弾性部材10の弾性率は、第一弾性部材9の弾性率よりも小さくなければならない。これは、振動板8の振動特性が主として第一弾性部材9によって決定されるようにするためである。第二弾性部材10の振動特性に及ぼす影響が、少なくとも第一弾性部材9の半分以下となることが好ましい。振動特性は弾性部材の軸方向の弾性率の1/2乗で効くため、第二弾性部材10の弾性率は第一弾性部材9の弾性率の1/4以下であることが好ましい。
【0023】
図4は、本発明の実施の形態1による第二弾性部材10の内部構造の他の例を説明するための模式的な断面図である。この第二弾性部材10においては、少なくとも片側の表面に薄層状で通気性の無いスキン層10cが設けられている。この第二弾性部材10は、空洞部10b壁面の一部は隣接する空洞部10bの壁面と部分的に連通状態にあるが、スキン層10cにより表面までの連通が遮断されているため、第二弾性部材10の表面から裏面までを連通するような連続的な空洞部は無く通気性の無い状態が確保されている。したがって、外部からの水の進入を防ぐことができ、防水性の良い、耐環境性のある動電型放音体を得ることができる。
【0024】
図5は、本発明の実施の形態1による、振動板ASSY50のアッセンブリ構造を説明するための模式図であり、振動板ASSY50を中央で切断して示す図である。振動板ASSY50は、コイル7が回巻されたボビン6が振動板8に接着等により一体的に接合されている部品である。図5に示すように、振動板8の外周縁裏側(ボビンが接着されている側)に円環状の第二弾性部材10の内側縁部が貼り付けられている。図4に示した薄層状のスキン層10cを有する第二弾性部材10を使用する場合は、振動板8との接着面はスキン層10c側とすることが好ましい。なお、振動板8に第二弾性部材10を接合する方法は接着でも溶着でもよく、隙間なく接合できる方法であればその方法を限定するものではない。
【0025】
図6は、本発明の実施の形態1に基づく発泡ゴム材による具体的な音響効果を説明するための特性比較図であり、図中横軸は周波数、縦軸は音圧レベルを示す。ここで、太実線Aは、本発明の実施の形態1に基づく第二弾性部材10を、通気性のない発泡ゴム材とした状態での音響特性を示したものである。比較例として、第二弾性部材10を装着せず振動板8の外周とケース4との間に隙間が生じている状態での音響特性を点線Bで、また、振動板8の外周とケース4との間を、第二弾性部材10の代わりに薄膜のナイロンシートで隙間の無い状態で覆った場合の音響特性を細実線Cで示している。
【0026】
図6に示されるとおり、太実線Aの音響特性と、点線Bおよび細実線Cの音響特性との間には、500Hz近辺の低周波数帯と、1600Hz近辺の高周波数帯と、において顕著な差異を見ることができる。つまり、振動板8の外周に隙間が生じている点線Bの周波数特性では、500Hz帯の低周波成分は非常に小さく、また、振動板の自励共振と見られる1600Hz付近に非常に音圧が高く狭い周波数領域が存在している。このように低周波成分が少なく高周波成分の多い周波数特性を有するような放音体の音を自車両周辺の歩行者などが聞いた場合、非常に甲高い音質のため煩く感じてしまうことから、このような特性の放音体は電気自動車などの車両接近報知装置用として相応しくない。
【0027】
また、ナイロンシートを張った状態での細実線Cの周波数特性では、1600Hzの自励共振と見られるピークが若干弱まると共に、300Hzから600Hzの低周波数領域では、隙間がある状態での点線Bに比べて若干増加しているものの、それ程大きな改善効果は見られず、音質的には電気自動車などの車両接近報知装置用としては余り相応しくない。
【0028】
これらに対して、本発明の実施の形態1に基づく通気性の無い発泡ゴム材を使用した状態の太実線Aで示す特性においては、500Hz近傍の低周波数帯の音圧レベルが大きく上昇している。つまり、低周波領域である300Hzから1000Hzの広い周波数帯において、比較例に比べて音圧レベルが大幅に向上しており、最大20dBもの改善効果があった周波数域も見られる。また、自励共振と見られる1600Hz近傍の音圧レベルは大きく減衰し、狭いピークを有する周波数特性とはなっていない。このように、低周波領域の音圧レベルが大幅に上昇すると共に、高周波領域でピークのある周波数特性が解消されたことにより、500Hzから3000Hzまでの音圧がほぼフラットな周波数特性を有する放音体を得ることができた。
【0029】
低周波から高周波まで一定の音圧レベルを発生することができる、フラットな周波数特性を有する放音体は、音質が非常に柔らかくなり、比較的遠くの歩行者にまで音が届き易くなる。このことから、本発明によれば、音質を改善できるだけでなく、歩行者による認知性も改善できることから、静粛性の高い電気自動車などの車両接近報知装置用の放音体としてより好ましい周波数特性を得ることができる。
【0030】
本実施の形態1の動電型放音体によれば、振動板8とケース4との間には隙間が生じることが無くなり、振動板8の背面の音響空間22が略密閉状態に保たれることになる。従って、隙間が存在する場合に比べ、振動板8の背面の空間を音響空間としてより効果的に作用させることができる。これにより音響空間22の音響的容積に応じた音響周波数帯域の放射音圧の向上を図ることができ、より効率の良い動電型放音体を提供することができる。
【0031】
さらに、第二弾性部材10の数多く点在する空洞部分の一部は、隣接する空洞部分と連通しているため、空洞部分に存在する空気は他の空洞部若しくは第二弾性部材10の背面側と連通する。従って、第二弾性部材10は振動板8によって押圧されると非常に小さな押圧力によって圧縮変形するため、第一弾性部材9に対して第二弾性部材10の弾性率を非常に小さくすることができる。これにより振動板8の振動特性は第二弾性部材10の影響を受けること無く第一弾性部材9によって振動板8の振動特性が決定されるように設定でき、第二弾性部材10が振動板8の振動振幅に与える影響を極小化できる。また、第二弾性部材10の隣接する空洞は柔らかく変形し易い薄肉状の壁面で構成されるため、空洞内に伝達した空気振動エネルギの一部は薄肉状壁面を振動させるためのエネルギとして消費されることから吸音効果を発揮する。しかも、第二弾性部材10の表裏間は通気性が無いことから、振動板8の背面とケース4によって構成される空間は音響空間22として音響的に作用し、放音体としての低周波特性を向上させることができる。加えて、第二弾性部材10の表面から裏面までを連通するような連続的な空洞部は無く通気性の無い状態が確保されているため、防水性の良い、耐環境性のある動電型放音体を得ることができる。
【0032】
実施の形態2.
図7は、本発明の実施の形態2による動電型放音体の構成を示す模式的な断面図であり、図中図1と同一符号は同一または相当する部分を示す。本実施の形態2においては、振動板8の外周縁部に、例えば折り曲げなどにより、軸方向に延在するフランジ部8aを設けた。このフランジ部8aの外周面と円環状の第二弾性部材10の内周面とを接着部10dとして、両者を接着固定している。また、第二弾性部材10の外周部はケース4とフロントカバー11の嵌合わせ部11aによって挟み込み支持されている。
【0033】
なお、第二弾性部材10は、実施の形態1と同様、発泡処理により多数の空洞を持たせた柔軟な発泡ゴム材または柔軟な発泡樹脂材からなり、外力に対して容易に変形可能な弾性部材であり、表面から裏面までを連通するような連続的な空洞部は無い部材である。
【0034】
図8は、本発明の実施の形態2による動電型放音体の振動板ASSY50のアッセンブリ構造を説明するための模式図である。振動板ASSY50は、コイル7が回巻されたボビン6が振動板8に接着等により一体的に接合されたもので、振動板8の外周縁には軸方向に延在するフランジ部8aを有している。円環状の第二弾性部材10の内壁側は、振動板8のフランジ部8aの外周面に接着固定されている。
【0035】
なお、図8に示す振動板ASSY50では、振動板8の外周部に設けたフランジ部8aは軸方向片側のみに延在させているが、軸方向両側に渡って延在させてもよいことは言うまでもない。また、振動板8に第二弾性部材10を接合する方法は接着でも溶着でもよく、隙間なく接合できる方法であればその方法を特に限定するものではない。さらに、第二弾性部材10の外周部10eとケース4の内周部を接着あるいは溶着しても良い。
【0036】
本実施の形態2の動電型放音体によれば、振動板8の外周縁の軸方向に延在したフランジ部8aの外壁と円環状の第二弾性部材10の内壁とは隙間無く接触する。加えて、第二弾性部材10の外周部はケース4とフロントカバー11によって圧縮保持されるため、振動板8背面の音響空間22と大気間との空気の流通を容易に遮断できる。また、放音体を
組み立てる際は、振動板8に第二弾性部材10を接着保持した振動板ASSY50の状態でケース4に組み込み、その後にフロントカバー11を装着することで、振動板ASSY50の外周に設けられた第二弾性部材10を容易に且つ確実に押圧保持することができる。従って、第二弾性部材10の組み付けが非常に容易となるため放音体の生産性を大幅に向上させることができる。
【0037】
実施の形態3.
図9及び図10は、本発明の実施の形態3による動電型放音体の構成を示す模式的な断面図であり、図中、図1および図7と同一符号は同一または相当する部分を示す。振動板8の外周縁部に軸方向に延在するフランジ部8aの外周面と円環状の第二弾性部材10の内周面とを接着部10dとして、両者が接着固定されており、また、第二弾性部材10の外周部はケース4とフロントカバー11の嵌合わせ部11aによって挟み込み支持されている。
【0038】
なお、第二弾性部材10は、実施の形態1や実施の形態2と同様、発泡処理により無数の空洞を持たせた柔軟な発泡ゴム材若しくは柔軟な発泡樹脂材からなり、外力に対して容易に変形可能な弾性部材である。
【0039】
図10は、図9の破線で囲んだ部分を拡大した拡大模式図であり、振動板8のフランジ部8aが第二弾性部材10の厚さより短く設定されており、振動板周縁の軸方向に延在したフランジ部8aの外径寸法がケース4の内径寸法より大きくなるように設定されている。
【0040】
ボビン6に回巻されたコイル7は、図示していないがアウターヨーク1、若しくは第一弾性部材9などに固定支持された状態で貫通し、ケース4を経由してハーネス部12若しくは図示しないコネクタなどにて外部の制御装置に接続される場合が多い。しかも、コイル7の線径は0.5ミリ前後の細線が使用される場合が多いことから、振動板8の振幅が所定値以上に大きくなると、コイル7の接続部や固定部などで断線故障し易くなる。
【0041】
従って、何らかの原因により振動板8が所定量以上の軸方向変位を起こした場合、フランジ部8aの軸方向端面をケース4に当接するようにして、所定値以上の変位量の発生を規制できる構造にする必要がある。具体的には、例えば、フロントカバー11側から車両の走行風が直接振動板8に印加された場合、振動板8を弾性支持する第一弾性部材9の耐力を超える押力が発生すると振動板8は全体的に軸方向に変位し、走行風による押圧力が更に高まり振動板8が図中に示したLだけ軸方向に変位するとケース4に当接することになる。
【0042】
よって、何らかの原因によりフロントカバー11側から振動板8に必要以上の押圧力が加わると最大でLだけ変位した後ケースとの当接によりそれ以上変位することを防止できる。その結果、ボビン6に回巻されたコイル7に対しては断線に繋がるほどの変位は発生しなくなるため、コイル7の断線による故障を防止することができる。
【0043】
なお、振動板周縁の軸方向に延在したフランジ部の外径寸法がケースの内径寸法より大きくなるように設定される部分は、全周に亘っている必要は無く、一部がこのような寸法関係になっていれば良い。フランジ部8aの一部がケース4に当接することにより、振動板8はそれ以上変位しないため、振動板8の変位量を規制できるからである。
【0044】
但し、図10で説明した構造においては、振動板8に所定値以上の押力が作用した場合、振動板8のフランジ部8aの端面がケース4に直接衝突することになるため衝突振動による破損や異常音などの不具合が発生する場合も想定される。
【0045】
図11は、本発明の実施形態3による動電型放音体の別の構造の例を説明するための図であり図9の破線で囲んだ部分に相当する部分の拡大模式図である。ここで、振動板8の外周縁に設けられたフランジ部8aの外周面に円環状の第二弾性部材10の内周面が接着若しくは接合されている。また、振動板8のフランジ部8aは第二弾性部材10の厚さより短く設定されており、第二弾性部材10の一部がフランジ8aの軸方向端部を覆うことが可能な形状に設定されている。なお、振動板8周縁の軸方向に延在したフランジ部8aの外径寸法の一部もしくは全部は、ケース4の内径寸法より大きくなるように設定されている。
【0046】
図11の構造の動電型放音体では、風圧等の外力により振動板8が所定値を超える変位量になった場合でも、フランジ部8aの端面がケース4に直接当接するのではなく第二弾性部材10を介して当接することになるため、衝突音の発生を大幅に抑制できる。
【符号の説明】
【0047】
1:アウターヨーク 2:マグネット
3:インナーヨーク 4:ケース
5:磁気ギャップ 6:ボビン
7:コイル 8:振動板
9:第一弾性部材 10:第二弾性部材
10b:空洞部 10c:スキン層
11:フロントカバー 11a:フロントカバーの嵌合わせ部
11b:開口部 12:ハーネス部
22:音響空間 100:磁気回路部
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動移動体周辺の歩行者等に自車両の接近もしくはその存在を報知するための報知音発生装置に用いる放音体に関し、特に動電型エキサイタを利用して音を発生する動電型放音体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電動自転車、電動カート等の開発実用化に続き、電動バイクや電動自動車等、各種移動体としての乗り物が急速に電動化され始めている。具体的には、内燃機関を動力源とする自動車に代わって、ガソリンエンジンと電動モータとを動力源とするハイブリッド自動車や、家庭電源もしくはガソリンスタンドや電力供給スタンドなどに設置された充電器により充電された車両搭載電池によって作動する電動モータを動力源とする電気自動車、あるいは、水素ガスなどを燃料とする燃料電池で発電しながら走行する燃料電池自動車などが順次開発されている。電動バイク、ハイブリッド自動車及び、電気自動車などは既に実用化され国内市場でも急速に普及し始めている。
【0003】
従来の内燃機関を動力源とするガソリン車やディーゼル車やバイクなどは、動力源自身が放出するエンジン音や排気音、更には走行中のロードノイズ等が発生するため、街中を歩行する歩行者や自転車に乗っている人などは自動車のエンジン音や排気音などにより、車両の接近を認識することができる。しかし、ハイブリッド自動車の場合、低速走行時には、エンジンによる走行ではなく電動モータによる走行モードが主体となるため、エンジン音や排気音等が発生せず、また、電気自動車や燃料電池自動車等に至っては全運転領域において電動モータによって走行することから、非常に静粛性の高い電動移動体となっている。しかしながら、このような静粛性の高い電動移動体の周辺に存在する歩行者や自転車運転者等は、音の発生が少なく静粛性の高い電動モータにより走行するハイブリッド自動車や電気自動車や燃料電池自動車などの電動移動体の接近を音によって認識することができないことから、静粛性の高い電動移動体と歩行者等との接触事故などが発生する原因となり得る。
【0004】
このため、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車、電気自動車などが備える利点であるべき静粛性が時に弊害となる上記のような問題を解決すべく、従来の自動車などに備えられ運転者の意思で警報を発するクラクション以外の、運転者の意思とは関係なく動作する自車両存在報知のためのシステムが種々提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、自車両の走行状態を検出して出力する走行状態検出手段と、検出された走行状態に基づいて車外に音を発生する警告音発生手段と、警告音発生手段の駆動を制御する制御手段とを備え、自車両周辺の歩行者に対して自動車の接近を知らせるために、警告音、エンジン音などを放音することのできる電気自動車が開示されており、警告音発生器としてクラクションやスピーカを利用することが開示されている。
【0006】
また、特許文献2では、自車両が電動機によって発生する動力により走行しているときに、オーディオ信号に関わる音を放射することにより、歩行者に聴取させて自動車の接近を認識させることが開示されている。音を放射する放音体としては、一般的なコーンスピーカ(ムービングコイル型)によるスピーカアレイを利用することが開示されている。
【0007】
また、スピーカ装置としては、特許文献3に、圧電スピーカが開示されている。この圧電スピーカは、圧電体(ピエゾ素子)の両面に電極を形成し圧電体に音声信号電圧を印加するハイインピーダンスの圧電スピーカであり、取り付けフランジ部を有するフレーム、
弾性振動板、圧電振動板、盤状ダンパ、を基本の構成要素とするものである。このスピーカ装置によって、フラットな周波数特性が得られるとともに、機械振動系の構成によって低域限界及び音圧周波数特性の改善がなされ、性能面でも良好なスピーカ装置を得られることなどが開示されている。
【0008】
一方、特許文献4では、ペイジャー(ポケベル)用や携帯電話等の移動体通信機器に搭載されると共に、振動を発生させる機能を有する振動アクチュエータが開示されている。この振動アクチュエータは、ダンパとの間に空隙を有して中心軸に装着される永久磁石を含む磁気回路中の空隙にコイルが配設されている。特許文献4では、磁気回路をコイルに対して同心円状に配置して可動に支持してなり、且つ中心軸は軸方向に対して垂直に延在してダンパに当接される抜け止め部を有し、この抜け止め部は段差をなしてダンパに当接することや、段差の断面形状が円弧状を成していることなどが開示されている。
【0009】
また、特許文献5には、携帯電話のパネルを振動させてスピーカとするパネル型スピーカの取り付け構造が示されている。特許文献5では、エキサイタをパネルに取り付け、パネルと筐体との間を、PETなどの薄膜フィルムとアクリル系等の粘着材とで連続発泡体を挟んだサスペンションによって支持していることが記載されている。この構造により、パネルと筐体との隙間が防水性のフィルムで封止されるため、隙間からの水分の進入が防止できることが開示されている。また、連続発泡体を弾性材料として用いているため、スピーカとしての音圧が小さくなることがないことも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−27810号公報
【特許文献2】特開2010−228564号公報
【特許文献3】特開2003−333692号公報
【特許文献4】特開2000−4569号公報
【特許文献5】特開2007−27923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上の特許文献1や特許文献2では、自車両周辺の歩行者に対して自動車の接近を知らせるために、警告音、エンジン音などを放音することのできる電動移動体が開示されているが、その放音体としては、従来のクラクションやスピーカを使用することが開示されているだけである。
【0012】
また、特許文献3には、室内で用いるスピーカ装置として、圧電体を用いたときの周波数特性を改善する構造について記載されているだけであり、特許文献3に記載されたスピーカ装置は、電動移動体の報知音発生用としての耐環境性を考慮した構造にはなっていない。
【0013】
さらに、特許文献4や特許文献5では、携帯電話などの携帯機器用のスピーカ装置が記載されているだけで、電動移動体の報知音発生用としての耐環境性を高めながら、報知音発生用として適した周波数特性が得られる構造の開示はない。
【0014】
本発明は、上記のような従来のスピーカ装置の課題を解決するためになされたものであり、簡単な構造でありながら、薄型軽量で耐水性等の耐環境特性に優れ、車両搭載用放音体として適切な周波数特性を有する動電型放音体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は、底部及び側壁部を有する形状のアウターヨークと、アウターヨークに囲まれて配置されたマグネットとインナーヨークとを含む磁気回路部と、磁気回路部に形成された磁気ギャップ内に配設されたコイルと、コイルが固定された振動板と、振動板とアウターヨークの側壁部とを弾性的に連結する第一弾性部材と、を備えた動電型放音体であって、アウターヨークを覆うケースを備え、このケースと振動板とアウターヨークの側壁外面とにより音響空間を形成し、ケース外周部と振動板外周部との間を隙間なく連結する第二弾性部材を備え、この第二弾性部材は発泡により空洞部を有しかつ第一弾性部材よりも弾性率が小さい発泡ゴム材で形成されており、第二弾性部材のケース内部側となる裏面と、この裏面の反対面である表面との間を連通する空洞部が無いようにしたものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、簡単な構造でありながら、薄型軽量で耐水性等の耐環境特性に優れ、車両搭載用放音体として適切な周波数特性を有する動電型放音体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の実施の形態1による動電型放音体の構成を示す模式的な断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1による動電型放音体の外観図である。
【図3】この発明の実施の形態1による動電型放音体の第二弾性部材の内部構造を示す模式的な断面図である。
【図4】この発明の実施の形態1による動電型放音体の第二弾性部材の別の内部構成を示す模式的な断面図である。
【図5】この発明の実施の形態1による動電型放音体の振動板ASSYのアッセンブリ構成を示す模式図である。
【図6】この発明の実施の形態1による動電型放音体の特性を、比較例の特性と比較して示す特性比較図である。
【図7】この発明の実施の形態2による動電型放音体の構成を示す模式的な断面図である。
【図8】この発明の実施の形態2による動電型放音体の振動板ASSYのアッセンブリ構成を示す模式図である。
【図9】この発明の実施の形態3による動電型放音体の構成を示す模式的な断面図である。
【図10】この発明の実施の形態3による動電型放音体の主要部の構成を示す模式的な拡大断面図である。
【図11】この発明の実施の形態3による動電型放音体の主要部の他の構成を示す模式的な拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による動電型放音体の構成を示す模式的な断面図である。また、図2は、図1の動電型放音体の外観図であり、図2(A)が正面図、図2(B)が下面図である。図2に示すように、この動電型放音体の全体形状は円形状である。図1において、底と円筒状の側壁とを有する形状に形成され磁性材料からなるアウターヨーク1の内底部に、円柱形状のマグネット2の片端磁極側がアウターヨーク1と同軸状に接着されている。また、磁性材料からなる円柱状のインナーヨーク3が、マグネット2の他端磁極側に、アウターヨーク1やマグネット2と同軸状に接着されている。これらアウターヨーク1、マグネット2、及びインナーヨーク3、によって磁気回路部100が構成されている。以下、図1に一点鎖線で示す、円筒状や円柱状の部品で構成された磁気回路部100の中心軸20の方向を軸方向と呼ぶ。
【0019】
磁気回路部100中のアウターヨーク1の内壁面とインナーヨーク3の外周面との間に形成された磁束密度の高い磁気ギャップ5内に、ボビン6に巻回されたコイル7が挿入されている。ボビン6は、振動板8に接着、もしくは振動板8と同一材料で一体形成されて、振動板8に固定されており、振動板8は、第一弾性部材9によりアウターヨーク1に弾性支持されている。アウターヨーク1を内包するようにケース4が設けられ、振動板8とケース4との間に第二弾性部材10が介在している。アウターヨーク1はボルト13によってケース4に固定されており、ケース4とアウターヨーク1の側壁外面および振動板8により音響空間22が形成されている。ここでは、アウターヨーク1を内包するケース4は、アウターヨーク1の底部でネジ゛止め固定されているが、ケース4とアウターヨーク1との固定方法はねじ止め以外であってもよいのは言うまでもない。また、ケース4には、外部からコイル7に所定の電気信号を通電するためのハーネス部12が接続されている。
【0020】
図2の外観図に示すように、フロントカバー11が振動板8の前面を覆うことで、例えば道路上の小さい石や砂などの固形物など外部からの異物の飛散等から振動板8を保護している。また、フロントカバー11には振動板8からの放出音を遮らない程度の開口面積を有する開口部11bが設けられている。なお、図2では、開口部11bの形状はスリット状のものを示しているが、異物の飛散から振動板8を保護でき、振動板8からの放出音を遮らない程度の開口面積を有していれば、開口部11bの形状はどのようなものであっても構わない。
【0021】
第二弾性部材10は、発泡処理により多数の空洞を持たせた柔軟な発泡ゴム材または柔軟な発泡樹脂材からなり、外力に対して容易に変形可能な弾性部材である。すなわち、第二弾性部材10は第一弾性部材9よりも弾性率が小さい材料で形成されている。また、第二弾性部材10は円環状に成形され、その内周部は振動板8の外周縁全周に一体的に接触保持され、第二弾性部材10の外周部はケース4とフロントカバー11の嵌合わせ部11aによって挟み込み支持されている。
【0022】
図3は、本発明の実施の形態1による第二弾性部材10の断面構造を説明するための模式的な断面図である。図3に示すように、発泡処理によって第二弾性部材10の内部に空洞部10bが多数存在しており、発泡基材となる例えばゴム材の薄肉部10aにより囲まれている。なお、空洞部10b壁面の一部は、隣接する空洞部10bの壁面と部分的に連通状態にあるものの、第二弾性部材10の表面から裏面までを連通するような連続的な空洞部は無く、通気性の無い状態が確保されている。なお、発泡基材となる材料としては、ゴムや樹脂があるが、発泡処理によって、第二弾性部材10として外力に対して容易に変形可能な弾性を有する材料である必要がある。上記のように、第二弾性部材10の弾性率は、第一弾性部材9の弾性率よりも小さくなければならない。これは、振動板8の振動特性が主として第一弾性部材9によって決定されるようにするためである。第二弾性部材10の振動特性に及ぼす影響が、少なくとも第一弾性部材9の半分以下となることが好ましい。振動特性は弾性部材の軸方向の弾性率の1/2乗で効くため、第二弾性部材10の弾性率は第一弾性部材9の弾性率の1/4以下であることが好ましい。
【0023】
図4は、本発明の実施の形態1による第二弾性部材10の内部構造の他の例を説明するための模式的な断面図である。この第二弾性部材10においては、少なくとも片側の表面に薄層状で通気性の無いスキン層10cが設けられている。この第二弾性部材10は、空洞部10b壁面の一部は隣接する空洞部10bの壁面と部分的に連通状態にあるが、スキン層10cにより表面までの連通が遮断されているため、第二弾性部材10の表面から裏面までを連通するような連続的な空洞部は無く通気性の無い状態が確保されている。したがって、外部からの水の進入を防ぐことができ、防水性の良い、耐環境性のある動電型放音体を得ることができる。
【0024】
図5は、本発明の実施の形態1による、振動板ASSY50のアッセンブリ構造を説明するための模式図であり、振動板ASSY50を中央で切断して示す図である。振動板ASSY50は、コイル7が回巻されたボビン6が振動板8に接着等により一体的に接合されている部品である。図5に示すように、振動板8の外周縁裏側(ボビンが接着されている側)に円環状の第二弾性部材10の内側縁部が貼り付けられている。図4に示した薄層状のスキン層10cを有する第二弾性部材10を使用する場合は、振動板8との接着面はスキン層10c側とすることが好ましい。なお、振動板8に第二弾性部材10を接合する方法は接着でも溶着でもよく、隙間なく接合できる方法であればその方法を限定するものではない。
【0025】
図6は、本発明の実施の形態1に基づく発泡ゴム材による具体的な音響効果を説明するための特性比較図であり、図中横軸は周波数、縦軸は音圧レベルを示す。ここで、太実線Aは、本発明の実施の形態1に基づく第二弾性部材10を、通気性のない発泡ゴム材とした状態での音響特性を示したものである。比較例として、第二弾性部材10を装着せず振動板8の外周とケース4との間に隙間が生じている状態での音響特性を点線Bで、また、振動板8の外周とケース4との間を、第二弾性部材10の代わりに薄膜のナイロンシートで隙間の無い状態で覆った場合の音響特性を細実線Cで示している。
【0026】
図6に示されるとおり、太実線Aの音響特性と、点線Bおよび細実線Cの音響特性との間には、500Hz近辺の低周波数帯と、1600Hz近辺の高周波数帯と、において顕著な差異を見ることができる。つまり、振動板8の外周に隙間が生じている点線Bの周波数特性では、500Hz帯の低周波成分は非常に小さく、また、振動板の自励共振と見られる1600Hz付近に非常に音圧が高く狭い周波数領域が存在している。このように低周波成分が少なく高周波成分の多い周波数特性を有するような放音体の音を自車両周辺の歩行者などが聞いた場合、非常に甲高い音質のため煩く感じてしまうことから、このような特性の放音体は電気自動車などの車両接近報知装置用として相応しくない。
【0027】
また、ナイロンシートを張った状態での細実線Cの周波数特性では、1600Hzの自励共振と見られるピークが若干弱まると共に、300Hzから600Hzの低周波数領域では、隙間がある状態での点線Bに比べて若干増加しているものの、それ程大きな改善効果は見られず、音質的には電気自動車などの車両接近報知装置用としては余り相応しくない。
【0028】
これらに対して、本発明の実施の形態1に基づく通気性の無い発泡ゴム材を使用した状態の太実線Aで示す特性においては、500Hz近傍の低周波数帯の音圧レベルが大きく上昇している。つまり、低周波領域である300Hzから1000Hzの広い周波数帯において、比較例に比べて音圧レベルが大幅に向上しており、最大20dBもの改善効果があった周波数域も見られる。また、自励共振と見られる1600Hz近傍の音圧レベルは大きく減衰し、狭いピークを有する周波数特性とはなっていない。このように、低周波領域の音圧レベルが大幅に上昇すると共に、高周波領域でピークのある周波数特性が解消されたことにより、500Hzから3000Hzまでの音圧がほぼフラットな周波数特性を有する放音体を得ることができた。
【0029】
低周波から高周波まで一定の音圧レベルを発生することができる、フラットな周波数特性を有する放音体は、音質が非常に柔らかくなり、比較的遠くの歩行者にまで音が届き易くなる。このことから、本発明によれば、音質を改善できるだけでなく、歩行者による認知性も改善できることから、静粛性の高い電気自動車などの車両接近報知装置用の放音体としてより好ましい周波数特性を得ることができる。
【0030】
本実施の形態1の動電型放音体によれば、振動板8とケース4との間には隙間が生じることが無くなり、振動板8の背面の音響空間22が略密閉状態に保たれることになる。従って、隙間が存在する場合に比べ、振動板8の背面の空間を音響空間としてより効果的に作用させることができる。これにより音響空間22の音響的容積に応じた音響周波数帯域の放射音圧の向上を図ることができ、より効率の良い動電型放音体を提供することができる。
【0031】
さらに、第二弾性部材10の数多く点在する空洞部分の一部は、隣接する空洞部分と連通しているため、空洞部分に存在する空気は他の空洞部若しくは第二弾性部材10の背面側と連通する。従って、第二弾性部材10は振動板8によって押圧されると非常に小さな押圧力によって圧縮変形するため、第一弾性部材9に対して第二弾性部材10の弾性率を非常に小さくすることができる。これにより振動板8の振動特性は第二弾性部材10の影響を受けること無く第一弾性部材9によって振動板8の振動特性が決定されるように設定でき、第二弾性部材10が振動板8の振動振幅に与える影響を極小化できる。また、第二弾性部材10の隣接する空洞は柔らかく変形し易い薄肉状の壁面で構成されるため、空洞内に伝達した空気振動エネルギの一部は薄肉状壁面を振動させるためのエネルギとして消費されることから吸音効果を発揮する。しかも、第二弾性部材10の表裏間は通気性が無いことから、振動板8の背面とケース4によって構成される空間は音響空間22として音響的に作用し、放音体としての低周波特性を向上させることができる。加えて、第二弾性部材10の表面から裏面までを連通するような連続的な空洞部は無く通気性の無い状態が確保されているため、防水性の良い、耐環境性のある動電型放音体を得ることができる。
【0032】
実施の形態2.
図7は、本発明の実施の形態2による動電型放音体の構成を示す模式的な断面図であり、図中図1と同一符号は同一または相当する部分を示す。本実施の形態2においては、振動板8の外周縁部に、例えば折り曲げなどにより、軸方向に延在するフランジ部8aを設けた。このフランジ部8aの外周面と円環状の第二弾性部材10の内周面とを接着部10dとして、両者を接着固定している。また、第二弾性部材10の外周部はケース4とフロントカバー11の嵌合わせ部11aによって挟み込み支持されている。
【0033】
なお、第二弾性部材10は、実施の形態1と同様、発泡処理により多数の空洞を持たせた柔軟な発泡ゴム材または柔軟な発泡樹脂材からなり、外力に対して容易に変形可能な弾性部材であり、表面から裏面までを連通するような連続的な空洞部は無い部材である。
【0034】
図8は、本発明の実施の形態2による動電型放音体の振動板ASSY50のアッセンブリ構造を説明するための模式図である。振動板ASSY50は、コイル7が回巻されたボビン6が振動板8に接着等により一体的に接合されたもので、振動板8の外周縁には軸方向に延在するフランジ部8aを有している。円環状の第二弾性部材10の内壁側は、振動板8のフランジ部8aの外周面に接着固定されている。
【0035】
なお、図8に示す振動板ASSY50では、振動板8の外周部に設けたフランジ部8aは軸方向片側のみに延在させているが、軸方向両側に渡って延在させてもよいことは言うまでもない。また、振動板8に第二弾性部材10を接合する方法は接着でも溶着でもよく、隙間なく接合できる方法であればその方法を特に限定するものではない。さらに、第二弾性部材10の外周部10eとケース4の内周部を接着あるいは溶着しても良い。
【0036】
本実施の形態2の動電型放音体によれば、振動板8の外周縁の軸方向に延在したフランジ部8aの外壁と円環状の第二弾性部材10の内壁とは隙間無く接触する。加えて、第二弾性部材10の外周部はケース4とフロントカバー11によって圧縮保持されるため、振動板8背面の音響空間22と大気間との空気の流通を容易に遮断できる。また、放音体を
組み立てる際は、振動板8に第二弾性部材10を接着保持した振動板ASSY50の状態でケース4に組み込み、その後にフロントカバー11を装着することで、振動板ASSY50の外周に設けられた第二弾性部材10を容易に且つ確実に押圧保持することができる。従って、第二弾性部材10の組み付けが非常に容易となるため放音体の生産性を大幅に向上させることができる。
【0037】
実施の形態3.
図9及び図10は、本発明の実施の形態3による動電型放音体の構成を示す模式的な断面図であり、図中、図1および図7と同一符号は同一または相当する部分を示す。振動板8の外周縁部に軸方向に延在するフランジ部8aの外周面と円環状の第二弾性部材10の内周面とを接着部10dとして、両者が接着固定されており、また、第二弾性部材10の外周部はケース4とフロントカバー11の嵌合わせ部11aによって挟み込み支持されている。
【0038】
なお、第二弾性部材10は、実施の形態1や実施の形態2と同様、発泡処理により無数の空洞を持たせた柔軟な発泡ゴム材若しくは柔軟な発泡樹脂材からなり、外力に対して容易に変形可能な弾性部材である。
【0039】
図10は、図9の破線で囲んだ部分を拡大した拡大模式図であり、振動板8のフランジ部8aが第二弾性部材10の厚さより短く設定されており、振動板周縁の軸方向に延在したフランジ部8aの外径寸法がケース4の内径寸法より大きくなるように設定されている。
【0040】
ボビン6に回巻されたコイル7は、図示していないがアウターヨーク1、若しくは第一弾性部材9などに固定支持された状態で貫通し、ケース4を経由してハーネス部12若しくは図示しないコネクタなどにて外部の制御装置に接続される場合が多い。しかも、コイル7の線径は0.5ミリ前後の細線が使用される場合が多いことから、振動板8の振幅が所定値以上に大きくなると、コイル7の接続部や固定部などで断線故障し易くなる。
【0041】
従って、何らかの原因により振動板8が所定量以上の軸方向変位を起こした場合、フランジ部8aの軸方向端面をケース4に当接するようにして、所定値以上の変位量の発生を規制できる構造にする必要がある。具体的には、例えば、フロントカバー11側から車両の走行風が直接振動板8に印加された場合、振動板8を弾性支持する第一弾性部材9の耐力を超える押力が発生すると振動板8は全体的に軸方向に変位し、走行風による押圧力が更に高まり振動板8が図中に示したLだけ軸方向に変位するとケース4に当接することになる。
【0042】
よって、何らかの原因によりフロントカバー11側から振動板8に必要以上の押圧力が加わると最大でLだけ変位した後ケースとの当接によりそれ以上変位することを防止できる。その結果、ボビン6に回巻されたコイル7に対しては断線に繋がるほどの変位は発生しなくなるため、コイル7の断線による故障を防止することができる。
【0043】
なお、振動板周縁の軸方向に延在したフランジ部の外径寸法がケースの内径寸法より大きくなるように設定される部分は、全周に亘っている必要は無く、一部がこのような寸法関係になっていれば良い。フランジ部8aの一部がケース4に当接することにより、振動板8はそれ以上変位しないため、振動板8の変位量を規制できるからである。
【0044】
但し、図10で説明した構造においては、振動板8に所定値以上の押力が作用した場合、振動板8のフランジ部8aの端面がケース4に直接衝突することになるため衝突振動による破損や異常音などの不具合が発生する場合も想定される。
【0045】
図11は、本発明の実施形態3による動電型放音体の別の構造の例を説明するための図であり図9の破線で囲んだ部分に相当する部分の拡大模式図である。ここで、振動板8の外周縁に設けられたフランジ部8aの外周面に円環状の第二弾性部材10の内周面が接着若しくは接合されている。また、振動板8のフランジ部8aは第二弾性部材10の厚さより短く設定されており、第二弾性部材10の一部がフランジ8aの軸方向端部を覆うことが可能な形状に設定されている。なお、振動板8周縁の軸方向に延在したフランジ部8aの外径寸法の一部もしくは全部は、ケース4の内径寸法より大きくなるように設定されている。
【0046】
図11の構造の動電型放音体では、風圧等の外力により振動板8が所定値を超える変位量になった場合でも、フランジ部8aの端面がケース4に直接当接するのではなく第二弾性部材10を介して当接することになるため、衝突音の発生を大幅に抑制できる。
【符号の説明】
【0047】
1:アウターヨーク 2:マグネット
3:インナーヨーク 4:ケース
5:磁気ギャップ 6:ボビン
7:コイル 8:振動板
9:第一弾性部材 10:第二弾性部材
10b:空洞部 10c:スキン層
11:フロントカバー 11a:フロントカバーの嵌合わせ部
11b:開口部 12:ハーネス部
22:音響空間 100:磁気回路部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部及び側壁部を有する形状のアウターヨークと、前記アウターヨークに囲まれて配置されたマグネットとインナーヨークとを含む磁気回路部と、
前記磁気回路部に形成された磁気ギャップ内に配設されたコイルと、
前記コイルが固定された振動板と、
前記振動板と前記アウターヨークの側壁部とを弾性的に連結する第一弾性部材と、を備えた動電型放音体であって、
前記アウターヨークを覆うケースを備え、このケースと前記振動板と前記アウターヨークの側壁外面とにより音響空間を形成し、前記ケース外周部と前記振動板外周部との間を隙間なく連結する第二弾性部材を備え、この第二弾性部材は発泡により空洞部を有しかつ前記第一弾性部材よりも弾性率が小さい発泡ゴム材で形成されており、前記第二弾性部材の前記ケース内部側となる裏面と、この裏面の反対面である表面との間を連通する前記空洞部が無いことを特徴とする動電型放音体。
【請求項1】
底部及び側壁部を有する形状のアウターヨークと、前記アウターヨークに囲まれて配置されたマグネットとインナーヨークとを含む磁気回路部と、
前記磁気回路部に形成された磁気ギャップ内に配設されたコイルと、
前記コイルが固定された振動板と、
前記振動板と前記アウターヨークの側壁部とを弾性的に連結する第一弾性部材と、を備えた動電型放音体であって、
前記アウターヨークを覆うケースを備え、このケースと前記振動板と前記アウターヨークの側壁外面とにより音響空間を形成し、前記ケース外周部と前記振動板外周部との間を隙間なく連結する第二弾性部材を備え、この第二弾性部材は発泡により空洞部を有しかつ前記第一弾性部材よりも弾性率が小さい発泡ゴム材で形成されており、前記第二弾性部材の前記ケース内部側となる裏面と、この裏面の反対面である表面との間を連通する前記空洞部が無いことを特徴とする動電型放音体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−38761(P2013−38761A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−274002(P2011−274002)
【出願日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【分割の表示】特願2011−543019(P2011−543019)の分割
【原出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【特許番号】特許第5124043号(P5124043)
【特許公報発行日】平成25年1月23日(2013.1.23)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【分割の表示】特願2011−543019(P2011−543019)の分割
【原出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【特許番号】特許第5124043号(P5124043)
【特許公報発行日】平成25年1月23日(2013.1.23)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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