説明

包接化合物のゲスト分子とホスト分子とを成分として含む塊状物を製造する方法

【課題】包接化合物のゲスト分子やそのホスト分子を成分として含むゲル状塊状物を得ることができる方法を提供することを課題とする。併せて、そのゲル状塊状物に気体を捕集させるのに好適な方法を提供することを課題とする。
【解決手段】包接化合物のゲスト分子とそのホスト分子とを成分として含む塊状物を製造する方法であって、包接化合物のゲスト分子を溶質とし、そのホスト分子を溶媒とする溶液を外部環境の中に放出させた後又は放出させる過程で冷却することにより、ゲル状塊状物を得る工程を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包接化合物をその成分を含む塊状物にすることにより、包接化合物をその原料以外の形態で取り扱うことを可能にする技術に関する。
【0002】
なお、本発明における次に掲げる用語の意味又は解釈は、以下のとおりとする。この用語の意味又は解釈は、本発明の技術的範囲が均等の範囲にまで及ぶことを妨げるものではない。
【0003】
(1)「包接化合物」とは、複数種の分子が適当な条件下で組み合わさって結晶ができるとき、一方の分子(ホスト分子)が籠状、トンネル形、層状または網状構造をつくり、その隙間に他の分子(ゲスト分子)が入りこんだ構造の化合物の意味であり、包接水和物を除くこととする狭義の包接化合物(特許文献1参照)のみならず、包接水和物(特許文献2、3参照)を含む、広義の包接化合物も「包接化合物」に該当する。言うまでもなく、水が凝固してできる氷はこれに該当しない。ゲスト分子又はホスト分子が異なる複数種の包接化合物が含まれている場合であっても、特に区別して記載する場合を除き、それらを纏めて「包接化合物」という。ホスト分子が構成する籠状、トンネル形、層状または網状構造が不完全であっても、その隙間に他の分子(ゲスト分子)が入りこんだ構造の化合物であれば「包接化合物」(ホスト分子が水分子の場合には「包接水和物」)に含まれる。
【0004】
(2)「包接化合物生成温度」とは、包接化合物のゲスト分子を溶質とし、そのホスト分子を溶媒とする溶液を冷却したとき、包接化合物が生成する平衡温度をいう。当該溶液のゲスト化合物の濃度などにより包接化合物が生成する温度が変動する場合であっても、これを「包接化合物生成温度」という。簡便のため、「包接化合物生成温度」を「凝固点」という場合がある。なお、ゲスト分子又はホスト分子が異なる複数種の包接化合物が含まれている場合には、特に区別して記載する場合を除き、「包接化合物生成温度」は当該複数種の包接化合物の個々の上記平衡温度をいう。包接化合物が包接水和物である場合には、「包接化合物生成温度」を「水和物生成温度」という場合がある。
【0005】
(3)包接化合物のゲスト分子を溶質とし、そのホスト分子を溶媒とする溶液を包接化合物生成温度以下に冷却すると当該包接化合物が生成するという意味で、当該溶液を「原料溶液」という場合がある。
【0006】
(4)「塊状物」とは、一つの集合体としての外形を有する物体をいい、周囲のものと視覚的に区別できる外形であれば、その形状に限定はなく、特に明記する場合を除き、内部の構造、強度、硬度、粘性、密度、組成等は問わない。
【0007】
(5)「ゲル状」とは、ゼリー、寒天、ゼラチン、流動パラフィン又は蒟蒻(こんにゃく)のようにある程度固化した状態をいう。外表面のみがゲル状であって、内部は液状又は流動状態にある物体の状態又はそのような物体が集合して全体として一体化した外観を有する状態も「ゲル状」に含まれる。
【0008】
(6)「スラリー」とは、液体中に固体粒子が分散又は懸濁した状態又はその状態にある物質をいい、そのような状態にある物質である限り、固体粒子の濃度、添加物の有無、分散や懸濁の程度や均質性は問わず「スラリー」という。包接水和物の「スラリー」は、ある程度固化した外観を有していない、又は、一つの集合体としての外形を有する物体でもないので、包接水和物のゲル状の塊状物とは異なる。
【0009】
(7)「外部環境」とは、包接化合物のゲスト分子を溶質とし、原料溶液が存在する領域、空間又は環境以外にある気相の領域、空間又は環境をそれぞれいう。例えば原料溶液が容器に収容されている場合には、その容器外をいう。「外部環境」は主として気相を意味しているが、本発明の奏効性を無にしない限り、液相であってもよい。また、「外部環境」が気相である場合、その気相を構成する気体には特に制限はなく、酸素、窒素、二酸化炭素、アルゴン、メタン等々、或いは、これらのいずれか少なくとも二つが混合してなる気体であってよい。
【背景技術】
【0010】
包接化合物、例えば包接化合物生成温度が0℃以上30℃未満の温度範囲にある包接化合物については、これを蓄熱材(熱輸送媒体を含む)、気体捕集材等に適用すべく研究開発が行われている(特許文献4乃至7)。
【0011】
包接化合物の用途に拘らず、これを準備するためには原料溶液が必要になる。原料溶液を準備する際には、そのホスト分子とゲスト分子のそれぞれに対応する薬剤や原料物質を調達し、調合することによりこれを行うのが通常である。なお、高濃度の原料溶液を、使用現場に搬送し、その場で希釈することにより、目的とする濃度の原料溶液を調合する場合もある(特許文献8)。
【特許文献1】特開2005−41908号公報
【特許文献2】特公昭57−35224号公報
【特許文献3】特開2000−111283号公報
【特許文献4】特許3641362号公報
【特許文献5】特許3826176号公報
【特許文献6】特開2006−117485号公報
【特許文献7】特許3671214号公報
【特許文献8】特開2003−126676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、原料溶液の元になる薬剤や原料物質(特許文献7における高濃度の原料溶液を含む)は、室温レベルにおいて液状又は固体(粉体)状を呈している場合が多い。それ故、原料溶液の準備の際には、これらの薬剤や原料物質が液状又は固体(粉体)状の物質として取扱われるのが通常であり、その他の状態、特にゲル状の物質として取扱われる例は、少なくとも実用レベルでは知られていない。
【0013】
また、気体と原料溶液を混在させ、混合・攪拌しながら包接化合物生成温度以下に冷却することにより包接化合物を生成させ、その際当該包接化合物に当該気体を捕集させるという手法は知られているが(特許文献5,6参照)、その他の手法により気体を捕集させる例は知られていない。
【0014】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、包接化合物のゲスト分子やそのホスト分子を成分として含むゲル状塊状物を得ることができる方法を提供することを課題とする。併せて、そのゲル状塊状物に気体を捕集させるのに好適な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するための、本発明の第1の形態に係る包接化合物のゲスト分子とそのホスト分子とを成分として含む塊状物を製造する方法は、包接化合物のゲスト分子を溶質とし、そのホスト分子を溶媒とする溶液を外部環境の中に放出させた後又は放出させる過程で冷却することにより、ゲル状塊状物を得る工程を有することを特徴とするものである。
【0016】
本発明の第2の形態は、包接化合物のゲスト分子とそのホスト分子とを成分として含む塊状物を製造する方法であって、包接化合物のゲスト分子を溶質とし、そのホスト分子を溶媒とする溶液を物体に衝突させた後冷却し、ゲル状塊状物を得る工程を有することを特徴とするものである。
【0017】
本発明の第3の形態に係る包接化合物のゲスト分子とそのホスト分子とを成分として含む塊状物を製造する方法は、包接化合物のゲスト分子を溶質とし、そのホスト分子を溶媒とする溶液を、上記包接化合物が生成する温度以下の外部環境の中に放出させることにより冷却し、放出された溶液の外表面から固化又は凝固させることによりゲル状塊状物を得る工程を有することを特徴とするものである。
【0018】
本発明の第4の形態に係る包接化合物のゲスト分子とそのホスト分子とを成分として含む塊状物を製造する方法は、包接化合物のゲスト分子を溶質とし、そのホスト分子を溶媒とする溶液を、上記包接化合物が生成する温度以下に設定された物体に衝突させることにより冷却し、その物体から落下させることにより、ゲル状塊状物を得る工程を有することを特徴とするものである。
【0019】
本発明の第5の形態に係る包接化合物のゲスト分子とそのホスト分子とを成分として含む塊状物を製造する方法は、包接化合物のゲスト分子を溶質とし、そのホスト分子を溶媒とする溶液を気体とともに断熱膨張させることにより冷却し、ゲル状塊状物を得る工程を有することを特徴とするものである。
【0020】
本発明の第6の形態に係る包接化合物のゲスト分子とそのホスト分子とを成分として含む塊状物を製造する方法は、第1乃至第5のいずれかの形態に係る方法により得た複数のゲル状塊状物を集めてこれに圧力をかけることにより、より大きなゲル状塊状物にする工程を有することを特徴とするものである。
【0021】
なお、「圧力をかける」こととは、複数のゲル状塊状物が一体化する程度の圧力をかけることである。圧力をかけることにより「より多くのゲル状塊状物にする」ことは、圧力をかけることにより、複数のゲル状塊状物を一体化又は塊状化することである。圧力のかけ方としては、例えば(1)掌内で握る、(2)遠心力をかける、(3)自重により搾る、(4)織布に包んで又は細孔のある袋に詰めて軽く圧搾又は成形する、を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。複数のゲル状塊状物の集め方としては、例えば(ア)漏斗に入れることにより一箇所に集める、(イ)布の上に載せて、その中央付近に移動させることにより集める、(ウ)ゲル状塊状物よりも細かな目の部材を通す(ろ過する又は漉す)、を挙げることができる。
【発明の効果】
【0022】
包接化合物のゲスト分子を溶質とし、そのホスト分子を溶媒とする溶液(原料溶液)の噴霧、滴、飛沫その他の小さな集合体(以下「液滴」又は「原料溶液の液滴」という)という)がその外表面から短時間で冷却されると、包接化合物生成温度以下にまで冷却された段階で当該外表面及びその近傍の原料溶液内に包接化合物が生成し、その結果外表面側から粘性が増加して又は固化若しくは凝固して、軟質ゴムのような弾力性を呈する柔らかな液滴の外形が保たれるようになる。十分に冷却が進めば液滴を構成する原料溶液の内部にまで包接化合物の生成が起こり、全体として粘性がかなり増加する又は固化するが、十分に冷却が進まなければ液滴を構成する原料溶液の内部にまで包接化合物の生成が起こらず、粘性もそれほど高くない部分が残存することになる。いずれにせよ、液滴は、それに触れた者が印象として受ける弾力感には違いはあるものの、全体としてゲル状の塊状物となる。
【0023】
原料溶液の液滴がその外表面から冷却される前から又はその冷却の過程で気体と接触していれば、その冷却により生成する包接化合物に当該気体が捕集され、形成されるゲル状塊状物は当該気体を捕集した塊状物となる。
【0024】
このようにして形成されるゲル状塊状物は、ホスト分子の溶媒に富むので、寄せ集めて圧力を加えると(例えば掌内で握ると)一体化してより大きな塊状物になり易い。
【0025】
よって、本発明によれば、包接化合物のゲスト分子やそのホスト分子を成分として含むゲル状塊状物を得ることができる。また、本発明によれば、気体を捕集したゲル状塊状物を得ることができる。そして、本発明によれば、かかるゲル状塊状物であってより大きなものを得ることができる。
【0026】
本発明の各形態が奏する個別的な作用効果は、以下のとおりである。
【0027】
本発明の第1の形態によれば、原料溶液を外部環境に放出させた後又は放出させる過程で冷却するだけなので、放出という単純な操作を行うことにより、包接化合物のゲスト分子とそのホスト分子とを成分として含むゲル状塊状物を得ることができる。
【0028】
本発明の第2の形態によれば、原料溶液を物体に衝突させた後冷却するので、原料溶液はこの衝突でより小さな液滴になり冷却効果を高め、包接化合物のゲスト分子とそのホスト分子とを成分として含むゲル状塊状物であってより細かなものを得ることができる。
【0029】
本発明の第3の形態によれば、原料溶液を包接化合物生成温度以下の外部環境の中に放出させることによりその原料溶液を外表面から冷却し、固化又は凝固させることができるので、包接化合物のゲスト分子とそのホスト分子とを成分として含むゲル状塊状物を得ることができる。
【0030】
本発明の第4の形態によれば、原料溶液を包接化合物生成温度以下に設定された物体に衝突させることにより冷却し、その物体から落下させるので、原料溶液がこの衝突で、より小さな液滴になり冷却効果を高め、包接化合物のゲスト分子とそのホスト分子とを成分として含むゲル状塊状物であってより細かなものを得ることができる。
【0031】
本発明の第5の形態によれば、原料溶液を気体とともに断熱膨張させることにより冷却することにより、包接化合物のゲスト分子とそのホスト分子とを成分として含むゲル状塊状物を得ることができる。また、該ゲル状塊状物であって当該気体を捕集したものを得ることができる。
【0032】
本発明の第6の形態によれば、第1乃至第4のいずれかの形態により得たゲル状塊状物を集めて圧力をかけることにより、より大きなゲル状塊状物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、実施形態により本発明を詳細に説明する。その際、必要に応じて図面を参照しつつ説明するが、各図において同じ部分又は相当する若しくは共通する部分にはこれと同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
【0034】
なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、本発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲まで及ぶものである。
【0035】
<実施形態1>
図1は、本発明の原理説明図であり、本発明の実施形態1に係る塊状物を製造する方法の説明図を兼ねる。図中、符号1,2,3,4及び5は、それぞれ、原料溶液、放出手段、外部環境、原料溶液の液滴及びゲル状塊状物である。原料溶液1は、例えば、臭化テトラnブチルアンモニウムの35〜40重量%程度の水溶液であり、その水和物生成温度は11〜12℃程度である。外部環境の温度は0℃より高い、例えば5〜8℃である。臭化テトラnブチルアンモニウムは、液体包接水和物のゲスト分子の典型例である。
【0036】
まず、図1を参照して本発明の原理を説明する。
【0037】
原料溶液1を加圧して適当な放出手段2を通じて液滴4として、水和物生成温度以下の外部環境3に放出させると、液滴4は外部環境3に接触し、水和物生成温度以下の温度に晒される。すると、液滴4の外表面から冷却が進み、外表面又はその近傍から粘性が増加して又は固化若しくは凝固してゆく。このとき、液滴4の内部にまで冷却が進めば、液滴4を構成する原料溶液の内部にまで包接化合物の生成が起こり、全体として粘性が比較的高い又は固化若しくは凝固が進んだ塊状物となる。しかし、液滴4の内部にまで十分に冷却が進まなければ、液滴4を構成する原料溶液の内部にまで包接化合物の生成が起こらず、粘性がそれほど高くない部分が残存し、外表面は固いが全体として軟質ゴムのような弾力性を呈する塊状物となる。いずれにせよ、またそれに触れた者が印象として受ける弾力感には違いはあるものの、液滴4は、全体としてゲル状塊状物5となる。
【0038】
本発明における液滴4の冷却は、外部環境3への放出後であれば足り、放出後外部環境3中を移動する過程のみならず、その移動が終了後であってもよい。例えば、外部環境3内を移動する過程で十分冷却されなかった液滴4や、冷却はされたが内部まで十分冷却されなかったゲル状塊状物5は、外部環境3と接触している限り、その移動終了後であっても外部環境3から冷却を受けるので、冷却不十分な液滴4はゲル状塊状物5に、ゲル状塊状物5は固化又は凝固が進行したゲル状塊状物になる(放出された液滴4が、外部環境内に配置している容器に収容され又は床上に落下して液溜りとなり、それでも外部環境3と接触している結果冷却されるためにゲル状塊状物になる、というのが典型例である)。このような冷却も、本発明が意図している範囲内のものである。
【0039】
上記の冷却原理を利用すれば、本発明に係る塊状物の得る方法又は塊状物の製造方法を実現することができる。即ち、まず、原料溶液1を加圧して、放出手段2を通じて外部環境3へ放出させることにより、液滴4として外部環境3内を移動させる。この移動の過程で又は移動の後、液滴4は水和物生成温度以下に冷却され、ゲル状塊状物5となる。しかして、上記の工程により、ゲル状塊状物を製造することができる。
【0040】
なお、外部環境3内を移動する過程で十分冷却されなかった液滴4や、冷却はされたものの内部まで十分冷却されなかったゲル状塊状物は、外部環境3と接触している限り、その移動終了後も外部環境3から冷却を受けるので、冷却不十分な液滴4はゲル状塊状物5に、ゲル状塊状物5は固化又は凝固が進行したゲル状塊状物になる。それ故、この場合には、より多くの又はよりゲル化が進んだ若しくはより内部まで固化が進んだゲル状塊状物を製造することができる。
【0041】
<実施形態2>
図2は、本発明の実施形態2に係る塊状物を製造する方法の説明図である。図中、符号6は液滴4が衝突する物体(以下「被衝突板」と称する)である。
【0042】
被衝突板6は、作業現場の床や壁でもよく、作業現場に設置された機器の外郭表面であってもよい。
【0043】
本発明においては、被衝突板6を外部環境3の一部と考えることができる。外部環境3の温度が水和物生成温度以下であるときは、被衝突板6の温度は、水和物生成温度未満であっても、それ以上であってもよい。しかし、被衝突板6の温度が水和物生成温度より高いときは、その他の外部環境3の温度は水和物生成温度以下でなければならない。
【0044】
まず、原料溶液1を加圧して、放出手段2を通じて外部環境3へ放出させることにより、液滴4として外部環境3内を移動させ、その移動の過程で被衝突板6に衝突させる。被衝突板6に衝突した液滴4はそこから飛散し、通常より細かな液滴4となる。被衝突板6に衝突してより細かな液滴4となることにより、冷却されやすくなる。この放出から飛散の過程で又は飛散の後、液滴4は水和物生成温度以下に冷却され、ゲル状塊状物5になる。しかして、上記の工程により、ゲル状塊状物を製造することができる。
【0045】
なお、実施形態1の場合と同様、冷却はされたものの内部まで十分冷却されなかったゲル状塊状物は、外部環境3と接触している限り、その移動終了後も外部環境3から冷却を受けるので、冷却不十分な液滴4はゲル状塊状物5に、ゲル状塊状物5は固化又は凝固が進行したゲル状塊状物になる。それ故、この場合には、より多くの又はよりゲル化が進んだ若しくはより内部まで固化が進んだゲル状塊状物を製造することができる。
【0046】
<実施形態3>
図3は、本発明の実施形態3に係る塊状物を製造する方法の説明図である。図中、符号7は、被衝突板6を水和物生成温度以下に冷却するための冷却手段である。図中の冷却手段7では、冷媒を流通させることにより被衝突板6を冷却させる手法が採用されているが、これに特に限定されず、種々の冷却手法を採用が選択され得る。
【0047】
外部環境3の温度は、水和物生成温度以下に設定されている。
【0048】
ゲル状塊状物の製造方法は実施形態2と同様である。即ち、まず、原料溶液1を加圧して、放出手段2を通じて外部環境3へ放出させることにより、液滴4として外部環境3内を移動させ、その移動の過程で被衝突板6に衝突させる。被衝突板6に衝突した液滴4は、先ず被衝突板6により冷却され、さらにそこから飛散し、通常より細かな液滴4となる。被衝突板6に衝突してより細かな液滴4となることにより、冷却されやすくなる。ここの放出から衝突を経て飛散までの過程で又は飛散の後、液滴4は水和物生成温度以下に冷却され、ゲル状塊状物5になる。しかして、上記の工程により、ゲル状塊状物を製造することができる。
【0049】
なお、実施形態1の場合同様、冷却はされたものの内部まで十分冷却されなかったゲル状塊状物は、外部環境3と接触している限り、その移動終了後も外部環境3から冷却を受けるので、冷却不十分な液滴4はゲル状塊状物5に、ゲル状塊状物5は固化又は凝固が進行したゲル状塊状物になる。それ故、この場合には、より多くの又はよりゲル化が進んだ若しくはより内部まで固化が進んだゲル状塊状物を製造することができる。
【0050】
<実施形態4>
図4は、放出手段2の具体例である簡易放出手段10の説明図である。放出手段10は、実施形態1乃至3のいずれにおいても放出手段2として使用することができるものである。図中、符号11は可撓性配管であり、該可撓性配管11の一端には噴射ノズル12が止金13によって取り付けられている。噴射ノズル12の噴射口の断面積は、可撓性配管11のそれよりも小さく設定されている。
【0051】
本実施形態において、可撓性配管11の他端から原料溶液1をポンプ(図示せず)により圧送させ、噴射ノズル12を通じて外部環境3に液滴4として噴射させる。
【0052】
なお、噴射ノズル12や止金13を用いずに、可撓性配管11の一端を作業者が指で強く押さえつけて断面積を小さくさせ、その小さな断面積の流路から原料溶液1を外部環境3に液滴4として放出させてもよく、この方がむしろ簡易であり、好ましい場合がある。
【0053】
<実施形態5>
図5は、放出手段2の別の具体例である液滴形成手段20の説明図である。放出手段10は、古典的なアトマイザ(噴霧化手段)を放出手段2に転用したものといってよく、実施形態1乃至3のいずれにおいても放出手段2として使用することができるものである。図中、符号Cは搬送気体(キャリアガス)であり、該搬送気体Cは搬送気体供給用配管21により搬送される。この搬送気体供給用配管21の一端には噴射ノズル21が設けられており、該噴射ノズル22の先端部(特に噴射口)近くに、噴射ノズル22の中に向けて一端が開口するように配置された原料溶液供給用配管24が接続されている。噴射ノズル22と原料溶液供給用配管24との接続箇所には隙間は形成されておらず、封止されている。噴射ノズル22の噴射口の断面積は、搬送気体供給用配管21のそれよりも小さく設定されている。
【0054】
搬送気体供給用配管21の他端から搬送気体Cをポンプ(図示せず)により圧送させ、噴射ノズル22から外部環境3に向けて噴射させると、そのときの搬送気体Cに引きずられて、原料溶液供給用配管24中の原料溶液1が噴射ノズル22の中に引き込まれる。噴射ノズル22の中に引き込まれた原料溶液1は、搬送気体Cとともに又はこれに混合した状態で、外部環境3に液滴4として放出される。噴射ノズル22の中に引き込まれた分だけ原料溶液1が原料溶液供給用配管24の他端に供給されるので、搬送気体Cの外部環境3への噴射に伴い、連続的に液滴4が外部環境3に放出される。
【0055】
<実施形態6>
図6は、放出手段2の更に別の具体例である液滴形成手段30の説明図である。液滴形成手段20の場合と同様、古典的なアトマイザ(噴霧化手段)を放出手段2に転用したものといってよく、実施形態1乃至3のいずれにおいても放出手段2として使用することができるものである。図中、符号31は搬送気体供給用配管であり、該搬送気体供給用配管31の一端に噴射ノズル32設けられている。噴射ノズル32の先端部(特に噴射口)に近接した、外部環境3側の位置には、一端が開口するように配置された原料溶液供給用配管34が接続されている。噴射ノズル22の噴射口の断面積は、搬送気体供給用配管21のそれよりも小さく設定されている。
【0056】
搬送気体供給用配管31の他端から搬送気体Cをポンプ(図示せず)により圧送させ、噴射ノズル32から外部環境3に向けて噴射させると、原料溶液供給用配管34中の原料溶液1が噴射ノズル22の噴射口から噴射された搬送気体Cに引きずられて、搬送気体Cに向かって引き込まれる。搬送気体Cに向かって引き込まれ原料溶液1は、搬送気体Cとともに又はこれに混合した状態で、外部環境3に液滴4として放出される。搬送気体Cに向かって引き込まれ分だけ原料溶液1が原料溶液供給用配管24の他端に供給されるので、搬送気体Cの外部環境3への噴射に伴い、連続的に液滴4が外部環境3に放出される。
【0057】
<実施形態7>
図7は、放出手段2の更に別の具体例である断熱膨張型放出手段40の説明図である。搬送気体により搬送される物質をノズルから放出させることで断熱膨張させ、併せて冷却する手法としては古典的なものといえる(例えば、特開昭63−133584号公報参照)。実施形態1乃至3のいずれにおいても放出手段2として使用することができるものの、放出直後に冷却が起こり、ゲル状塊状物が生成するので、被衝突板6や冷却手段7は必須ではない。断熱膨張が過剰であると、液滴4も小さくなることも手伝って、必要以上に冷却されて固化が進みすぎたものが製造されてしまうので、必要な性状のゲル状塊状物になるような製造条件が適宜選択される。
【0058】
図中、符号41は搬送気体供給用配管であり、該搬送気体供給用配管41の一端に噴射ノズル42が設けられている。噴射ノズル42は、縮径テーパ42a、スロート42b及び拡径テーパで42cを有している。縮径テーパ42aの上流(搬送気体Cの流通方向とは逆側)の位置には、一端が開口するように配置された原料溶液供給用配管44が接続されている。この位置において搬送期待供給用配管41の中に送出された原料溶液1は、搬送気体Cと混合された後、縮径テーパ42a、スロート42bを通過し、拡径テーパ42cに至った段階で断熱膨張を受け、冷却される。これにより、水和物生成温度以下に冷却され、速やかに又は他の放出手段10〜30に比べて短時間でゲル状塊状物5となる。また、ゲル状塊状物であって搬送気体Cを捕集したものを得ることができる。
【0059】
<実施形態8>
搬送気体を使用しないで、より細かな液滴4を形成し、より細かな或いはより固化又は凝固が内部まで進行したゲル状塊状物の製造を可能にする放出手段2として、噴霧(ミスト)形成手段がある。図8は、その噴霧形成手段50の説明図である。
【0060】
図中、符号51は原料溶液供給用配管であり、その一端には噴霧ノズル52が取り付けられている。噴射ノズル52は、円筒状のハウジング52aを備える。ハウジング52aは、(ア)その中心軸に沿って、原料溶液供給用配管51を介して供給された加圧原料溶液を受ける断面が円形の第1空洞部52bと、(イ)第1空洞部52bの下流側に位置し、断面が第1空洞部52bの径より小さい円形通路52cと、(ウ)感圧逆止弁52dを収納し、断面が円形通路52cの径より大きい円形であり、下流側の端面の外縁部が中心方向に突き出されたリブ52eにより仕切られた弁収納空洞52fと、(エ)弁収納空洞52fの下流に位置し、断面が弁収納空洞52fの径より小さい円形通路52gと、(オ)側面に螺旋状の溝52h−1が掘られた駒状部材52hを収納し、リブ52eの下流側に位置し、断面が第1空洞部52bの径と等しい円筒形の空洞部52iと空洞部52iに連なる漏斗状の空洞部52jとを備える第2空洞部52kと、(カ)第2空洞52kの先端に連なるオリフィス52mと、を備えている。
【0061】
駒状部材52hは、第2空洞部52kの内側面に当接しつつ、空洞部52iの範囲内で摺動可能に設置されている。このため、溝52h−1と空洞部52iの内側面との間で加圧原料溶液の旋回流路が形成されることになる。
【0062】
弁収納空洞52fには、円形通路52cの下流側の開口52c−1を閉鎖/開放する感圧逆止弁52dが挿入されている。
【0063】
感圧逆止弁52dは、(キ)円形通路52cの下流側の開口52c−1に当接したとき、加圧原料溶液の流れを遮断する遮断球52nと、(ク)一端が遮断球52nに当接し、他端がリブ52eに固定され、遮断球52nに所定の弾性圧力が掛けられるように撓んでいるバネ部材52pと、を備える。
【0064】
第1空洞部52bの水圧が所定の弾性圧力を超えたとき、遮断球52nと開口52c−1とが離隔して、その隙間から弁収納空洞52fに加圧原料溶液が流れ込む。その加圧原料溶液は、円形通路52gを通じて第2空洞部52k側に流れ込むと、駒状部材52hを噴霧ノズル50の中心軸方向に沿ってオリフィス52m側に押出すとともに、螺旋状の溝52h−1を通過することにより旋回流となり、漏斗状の空洞部52jにより絞り込まれた後、オリフィス52mから外部環境3に霧となって噴出する。従って、より細かな原料溶液の液滴4が形成されるので、個々の液滴4において冷却が十分進み、固化又は凝固が進行したゲル状塊状物5を効率的に製造することができる。
【0065】
<実施形態9>
ゲル状塊状物5は、例えば、でき上がってあまり時間が経過していない場合、表面が液滴4で濡れている場合又は内部に未凝固の原料溶液1を残している状態にある場合、他のゲル状塊状物5と一緒に圧力をかけられると、当該他のゲル状塊状物にくっつき易く、従って全体としてより大きなゲル状塊状物になり易い。でき上がってあまり時間が経過していない場合や表面が液滴4で濡れている場合には、そのゲル状塊状物の表面が原料溶液1や包接水和物のスラリーにより濡れており、これがバインダーとして機能して他のゲル状塊状物の表面に付着し易くなることが原因かもしれないし、内部に未凝固の原料溶液1や包接水和物のスラリーを残している状態にある場合には、そのゲル状塊状体に圧力がかけられると、内部から原料溶液1や包接水和物のスラリーがしみ出して、これがバインダーとして機能して他のゲル状塊状物5の表面と付着し易くなることが原因かもしれない(原因ははっきりしていない)。
【0066】
水和物生成温度以下の作業環境において、以上の実施形態により製造されたゲル状塊状物5を一箇所に掻き集めて又は寄せ集めて、圧力をかけると、上記の原理により、より大きなゲル状塊状物にすることができる。例えば、掌内で握ることにより圧力をかけると団子状のゲル状塊状物にすることができる。また、網目の細かなナイロン製網袋の中に入れて、自重により又は遠心力をかけて搾れば、余分な原料溶液を除去したうえでより大きなゲル状塊状物にすることができる。圧力をかける手法として、その他のものも選択可能である。
【0067】
以上のようにして得られるゲル状塊状物は、言うまでもなく、包接水和物若しくはそのゲスト分子又は、気体を捕集している物質の塊でもある。それ故、本発明によれば、包接水和物若しくはそのゲスト分子、又は、気体を捕集している物質を、ゲル状塊状物の塊単位で取扱うことが可能になる。
【0068】
なお、実施形態1乃至8により液滴を気相の外部環境に向けて放出させると、包接水和物の生成に付随して、その包接水和物に気体を捕集させることも可能である。
【0069】
最後に、以上においては、包接水和物のゲスト分子の水溶液を原料溶液とする場合について説明してきた。しかし、言うまでもなく、包接化合物のゲスト分子を溶質とし、そのホスト分子を溶媒とする溶液(包接水和物のゲルト分子の水溶液を除く)にも本発明は適用可能であり、本発明の範囲から排除されない。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の原理説明図兼実施形態1に係る塊状物を製造する方法の説明図である。
【図2】本発明の実施形態2に係る塊状物を製造する方法の説明図である。
【図3】本発明の実施形態3に係る塊状物を製造する方法の説明図である。
【図4】放出手段の具体例である簡易放出手段の説明図である。
【図5】放出手段の別の具体例である液滴形成手段の説明図である。
【図6】放出手段の更に別の具体例である液滴形成手段の説明図である。
【図7】放出手段の更に別の具体例である断熱膨張型放出手段の説明図である。
【図8】放出手段の更に別の具体例である噴霧形成手段の説明図である。
【符号の説明】
【0071】
1 原料溶液
2 放出手段
3 外部環境
4 液滴
5 ゲル状塊状物
6 被衝突板
7 冷却手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
包接化合物のゲスト分子とそのホスト分子とを成分として含む塊状物を製造する方法であって、包接化合物のゲスト分子を溶質とし、そのホスト分子を溶媒とする溶液を外部環境の中に放出させた後又は放出させる過程で冷却することにより、ゲル状塊状物を得る工程を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
包接化合物のゲスト分子とそのホスト分子とを成分として含む塊状物を製造する方法であって、包接化合物のゲスト分子を溶質とし、そのホスト分子を溶媒とする溶液を物体に衝突させた後冷却し、ゲル状塊状物を得る工程を有することを特徴とする方法。
【請求項3】
包接化合物のゲスト分子とそのホスト分子とを成分として含む塊状物を製造する方法であって、包接化合物のゲスト分子を溶質とし、そのホスト分子を溶媒とする溶液を、上記包接化合物が生成する温度以下の外部環境の中に放出させることにより冷却し、放出された溶液の外表面から固化又は凝固させることによりゲル状塊状物を得る工程を有することを特徴とする方法。
【請求項4】
包接化合物のゲスト分子とそのホスト分子とを成分として含む塊状物を製造する方法であって、包接化合物のゲスト分子を溶質とし、そのホスト分子を溶媒とする溶液を、上記包接化合物が生成する温度以下に設定された物体に衝突させることにより冷却し、その物体から落下させることにより、ゲル状塊状物を得る工程を有することを特徴とする方法。
【請求項5】
包接化合物のゲスト分子とそのホスト分子とを成分として含む塊状物を製造する方法であって、包接化合物のゲスト分子を溶質とし、そのホスト分子を溶媒とする溶液を気体とともに断熱膨張させることにより冷却し、ゲル状塊状物を得る工程を有することを特徴とする方法。
【請求項6】
包接化合物のゲスト分子とそのホスト分子とを成分として含む塊状物を製造する方法であって、請求項1乃至5のいずれかの方法により得た複数のゲル状塊状物を集めてこれに圧力をかけることにより、より大きなゲル状塊状物にする工程を有することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−73737(P2009−73737A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233663(P2007−233663)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】