説明

包装体

【課題】ガス透過性プラスチック容器に充填した炭酸水素塩含有薬液のPH値を一定に保つようにする。
【解決手段】炭酸水素塩含有薬液1が密封されたガス透過性プラスチック容器2が収納されるガス非透過性包装体3であって、前記プラスチック容器周囲の前記包装体内の空間部分6に、炭酸ガス吸収型脱酸素剤5が配置され、かつガス充填装置にて炭酸ガスを追加することにより、前記空間部分は実質的に炭酸ガスと窒素ガスとのみが存在するガス雰囲気に設定されることを特徴とする包装体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に医療医薬品を長期間保存するための包装体に関し、特に炭酸ガスが発生することで品質が損なわれる内容物を含有する場合に好適に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
炭酸水素塩含有薬液は通常ガラス容器に密封されるが、開封時にガラスフレークが薬液中に混入する恐れから、プラスチック容器への代替が進んでいる。しかしながら、プラスチック容器はガスバリア性が低く、炭酸水素塩含有薬液を充填して大気下に放置すると、薬液から炭酸ガスが発生して水溶液のpHが上昇する問題がある。そうした問題に対し、炭酸ガス発生型脱酸素剤を包装体と容器との間の空間部分に配置することで、包装体内を炭酸ガス置換し、内容物からの炭酸ガスの発生を抑制することで安定化させる技術が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このような技術を用いた場合は、炭酸ガスの発生量は空間部分の酸素量に依存するため、ガスの発生量を任意に設定できず、薬液のpH低下および炭酸水素塩含有量が増加することがある。
【0004】
またガス非透過性包装体を用いても、包装体にピンホール等が空いて包装体の密封性が維持できなくなった場合、プラスチック容器から炭酸ガスが発生し、薬液のpHが上昇する。しかしながら、このような変化は外部から視覚的に確認することは困難である。
【特許文献1】特許第2505329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は斯かる背景技術に鑑みてなされたもので、以下の(A)又は(B)の少なくとも1つを実現することを課題とする。
【0006】
(A)ガス透過性プラスチック容器に充填した炭酸水素塩含有薬液のPH値を一定に保つ。
【0007】
(B)ガス透過性プラスチック容器に充填した炭酸水素塩含有薬液のPH値の上昇を視認できるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明において上記課題を達成するために、まず請求項1の発明では、炭酸水素塩含有薬液が密封されたガス透過性プラスチック容器が収納されるガス非透過性包装体であって、前記プラスチック容器周囲の前記包装体内の空間部分に、炭酸ガス吸収型脱酸素剤が配置され、かつガス充填装置にて炭酸ガスを追加することにより、前記空間部分は実質的に炭酸ガスと窒素ガスとのみが存在するガス雰囲気に設定されることを特徴とする包装体としたものである。
【0009】
また請求項2の発明では、前記包装体には酸素インジケータが配置されていることを特徴とする請求項1に記載の包装体としたものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明では、ガス充填装置によりプラスチック容器周囲の包装体内の空間部分
に充填する炭酸ガス分量と、炭酸ガス吸収型脱酸素剤による炭酸ガス吸収量とのバランスにより、炭酸水素塩含有薬液のPH値に応じて包装体内を適切な炭酸ガス濃度とし、炭酸水素塩含有薬液のPH値上昇を抑えて一定に保つことができるという効果がある。
【0011】
請求項2の発明では、請求項1の効果に加えて、前記炭酸ガス吸収型脱酸素剤により、その空間部分の酸素濃度を実質的に0%にできるので、包装体の内部が外部と開通後、経時で炭酸水素塩含有薬液のPH値が上昇すると、その上昇に応じて、包装体に配置された酸素インジケータの色調が変化し、この変化により、包装体のガスバリア性の低下だけでなく、その上昇も視認でき、PH値の上昇した薬液を使用するのを未然に防ぐことができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の最良の一実施形態を説明する。
【0013】
本実施形態は、図1に示すように、炭酸水素塩含有薬液1が密封されたガス透過性プラスチック容器2が収納されるガス非透過性包装体3であって、前記包装体3には酸素インジケータ4が印刷されており、前記プラスチック容器2周囲の前記包装体3内の空間部分6には炭酸ガス吸収型脱酸素剤5が配置されて、尚且つガス充填装置にて前記空間部分6に炭酸ガスを追加することにより、前記空間部分6は実質的に炭酸ガスと窒素ガスとのみが存在するガス雰囲気に設定されるものである。
【0014】
炭酸水素塩含有薬液は、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸水素塩単体の水溶液やこれらの混合物が該当する。これらを含有する薬液の化合物濃度は、用途により適宜設定され、他の電解質等を含んでもよい。
【0015】
炭酸水素塩含有薬液を密封するためのプラスチック容器の材質としては、直接薬液が接触するものであるから安全性が高く、かつ液体を通さないガス透過性容器であればよく、好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン等が好適に使用可能である。
【0016】
プラスチック容器を収納するガス非透過性包装体は、ガスバリア性を有し、かつ液体をを通さないものであればよく、バリア基材とシーラント層の構成が基本となる。シーラント層としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等、酸素透過性、水蒸気透過性のあるものを適宜選択可能である。バリア基材としては、金属酸化物蒸着フィルム、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール等をバリア基材として用いる構成が考えられる。酸素インジケータの色調を確認するために、透明性を有することが望ましい。
【0017】
炭酸ガス吸収型脱酸素剤としては、脱酸素剤の主成分が炭酸ガスを吸収するもの、例えば鉄系脱酸素剤等が好適に使用可能である。ここで、プラスチック容器とガス非透過性包装体の空間部分に該脱酸素剤を配置するだけだと、プラスチック容器に密封されている薬液から炭酸ガスを吸収してしまい、薬液のpHが上昇するが、炭酸ガスを充填することでこれを防ぐことができ、尚且つ、充填する炭酸ガス濃度および充填量により、薬液のpHを適切な値に維持することが可能となる。
【0018】
酸素インジケータの構成成分である酸化還元指示薬としては、メチレンブルー、ニューメチレンブルー、ニュートラルレッド、インジゴカルミン、アシッドレッド、サフラニンT、フェノサフラニン、カプリブルー、ナイルブルー、ジフェニルアミン、キシレンシアノール、ニトロジフェニルアミン、フェロイン、N−フェニルアントラニル酸等が使用できる。
【0019】
また、酸素インジケータの構成成分である還元剤としては、アスコルビン酸、アスコル
ビン酸塩、エリソルビン酸、エリソルビン酸塩や、D−アラビノース、D−エリスロース、D−ガラクトース、D−キシロース、D−グルコース、D−マンノース、D−フラクトース、D−ラクトース等の還元糖、第一錫塩、第一鉄塩等の金属塩等が使用可能である。
【0020】
酸素インジケータを印刷する基材としては、酸素インジケータと反応せず、しかも試薬の呈色を阻害しないものがよい。そのような基材として、合成樹脂フィルム、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、セロハン、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、及びこれらのシリカ、アルミナなどの透明蒸着フィルム等を目的、使用形態に合わせて用いることができる。酸素インジケータを前述のバリア基材に印刷するか、もしくは基材に印刷してバリア基材とシーラント層の間に積層させることができる。
【0021】
酸素インジケータ層を保護し、外観不良、剥離、及び破断を防止する目的で、アンカーコート層、オーバーコート層を設けることが出来る。このアンカーコート層としては、非水溶性であり、基材とその上に形成される酸素インジケータ層との密着性が良好な材料を、オーバーコート層としては、酸素透過性があり、酸素インジケータ層との密着性、及び任意に酸素インジケータ層上に更に設けられ得る接着剤層または他の樹脂層との良好な密着性を有する材料を好ましく使用することが出来る。アンカーコート層、及び/またはオーバーコート層は必要に応じて2層以上設けることも出来る。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
<実施例1>
炭酸水素ナトリウム2.2gを蒸留水500mLに溶解させた後、クエン酸カリウムを適当量添加することにより溶液のpHを7.1に調整し、ポリエチレン容器に充填した。該容器を炭酸ガス吸収型脱酸素剤とともにガス非透過性包装体に収納し、容器と包装体の空間部分に混合ガス(炭酸ガス:窒素ガス=50:50)150mLを充填し、ヒートシールで密封することにより炭酸水素塩含有薬液入りプラスチック容器を収納した実施例1の包装体を作製した。
【0023】
炭酸ガス吸収型脱酸素剤は、鮮度保持剤(凸版印刷社製Fタイプ)ヘッドスペース150mL用を使用した。
【0024】
包装体の層構成は、「OPP30/ONy15/アルミナ蒸着PET12/酸素インジケータ層/LLDPE60」である。ここで、OPP30は、2軸延伸ポリプロピレンの厚さ30μmのフィルムである。また、ONy15は、延伸ナイロンの厚さ15μmのフィルムである。また、アルミナ蒸着PET12は、アルミナ蒸着した2軸延伸ポリエステルの厚さ12μmのフィルムである。また、LLDPE60は、直鎖低密度ポリエチレンの60μmのフィルムである。
【0025】
酸素インジケータ層は、アルミナ蒸着PETフィルムのLLDPE側に、以下の処方にて予め印刷したものである。
酸素インジケータ層組成:
メチレンブルー3重量部、L−アスコルビン酸7.5重量部、バインダ樹脂10重量部、グリセリン7.5重量部、合成シリカ0.6重量部。
アンカーコート層、オーバーコート層組成:
ウレタン樹脂15重量部。
【0026】
<実施例2>
pHを6.8に調整し、混合ガスを炭酸ガス:窒素ガス=95:5とした以外は実施例
1と同様にして包装体を作製した。
酸素インジケータ層組成:実施例1と同様。
アンカーコート層、オーバーコート層組成:実施例1と同様。
【0027】
<実施例3>
pHを6.8に調整し、鮮度保持剤を充填せずに混合ガスを炭酸ガス:窒素ガス=95:5とした以外は実施例1と同様にして包装体を作製した。
酸素インジケータ層組成:実施例1と同様。
アンカーコート層、オーバーコート層組成:実施例1と同様。
【0028】
<実施例4>
pHを8に調整し、混合ガスを炭酸ガス:窒素ガス=10:90とした以外は実施例1と同様にして包装体を作製した。
酸素インジケータ層組成:実施例1と同様。
アンカーコート層、オーバーコート層組成:実施例1と同様。
【0029】
<実施例5>
混合ガスを充填せずに、脱気包装を行った以外は実施例1と同様にして包装体を作製した。
酸素インジケータ層組成:実施例1と同様。
アンカーコート層、オーバーコート層組成:実施例1と同様。
【0030】
<実施例6>
混合ガスを充填せずに、空間部分を150mLの空気とした以外は実施例1と同様にして包装体を作製した。
酸素インジケータ層組成:実施例1と同様。
アンカーコート層、オーバーコート層組成:実施例1と同様。
【0031】
<実施例7>
混合ガスを充填せずに、空間部分を150mLの窒素とした以外は実施例1と同様にして包装体を作製した。
酸素インジケータ層組成:実施例1と同様。
アンカーコート層、オーバーコート層組成:実施例1と同様。
【0032】
<実施例8>
外装体に収納せず、大気下に放置した。
【0033】
<実施例9>
混合ガスを使用せずに、空間部分を150mLの空気とし、炭酸ガス非発生型脱酸素剤ヘッドスペース150mL用を用いた以外は実施例1と同様にして包装体を作製した。
酸素インジケータ層組成:実施例1と同様。
アンカーコート層、オーバーコート層組成:実施例1と同様。
【0034】
<実施例10>
混合ガスを使用せずに、空間部分を150mLの空気とし、炭酸ガス発生型脱酸素剤(凸版印刷社製Cタイプ)ヘッドスペース150mL用を用いた以外は実施例1と同様にして包装体を作製した。
酸素インジケータ層組成:実施例1と同様。
アンカーコート層、オーバーコート層組成:実施例1と同様。
【0035】
[実験1]
上記作製サンプルにつき60℃75%RH×2週間評価にて、薬剤pH、酸素インジケータ色調、空間部分の炭酸ガス濃度、酸素濃度を確認した。

薬剤pH試験前 後 酸素インジケータ色調 炭酸ガス濃度 酸素濃度
実施例1 7.2 7.2 ピンク 20% 0%
実施例2 6.8 6.9 ピンク 70% 0%
実施例3 6.8 6.8 青 90% 5%
実施例4 8.0 8.0 ピンク 7% 0%
実施例5 7.2 7.5 ピンク 5% 0%
実施例6 7.2 7.8 ピンク 2% 0%
実施例7 7.2 7.8 ピンク 2% 0%
実施例8 7.2 8.9 青 − −
実施例9 7.2 7.5 ピンク 5% 0%
実施例10 7.2 7.0 ピンク 25% 0%

上記結果より、炭酸ガス吸収型脱酸素剤を用いる場合は、炭酸ガスと窒素ガスの混合ガスを用いた場合のみ、pH上昇を抑えることが可能である。また、pHの初期値により、適切な炭酸ガス濃度の混合ガスを用いることで、pH上昇を抑えることができる。
【0036】
炭酸ガス非発生型脱酸素剤を用いた場合は、PHの上昇は、脱気した場合と同じような結果となってしまった。
【0037】
また、炭酸発生型脱酸素剤を用いた場合は、若干のPH低下が認められた。
【0038】
以上から、炭酸ガス置換と炭酸ガス吸収型脱酸素剤との組み合わせにより、より正確に薬剤PHを設定可能であることが示された。
【0039】
また、ガス置換装置により炭酸ガスと窒素ガスとの混合ガスを、プラスチック容器周囲の包装体内の空間部分に充填する場合、その空間部分に炭酸ガス吸収型脱酸素剤も充填しないと、その空間部分の酸素濃度は実質的に0%にならず、酸素インジケータの色調は酸化色の青のままになる。
【0040】
一方、酸素インジケータの色調は、脱酸素状態である限りピンク色を呈している。これにより、酸素インジケータが長期にわたって安定して機能発現することが示された。
【0041】
[実験2]
実施例1のサンプルに関し、酸素インジケータがピンク色になったことを確認してから包装体を開封し、経時で薬剤pH、酸素インジケータ色調、炭酸ガス濃度、酸素濃度を調査した。

薬剤pH 酸素インジケータ色調 炭酸ガス濃度 酸素濃度
直後 7.1 ピンク 22% 0%
12時間後 7.2 紫 0% 21%
24時間後 7.4 青 0% 21%
48時間後 7.6 濃青 0% 21%
96時間後 7.8 濃青 − −

上記結果より、包装体の内部が大気と開通した状態になってからは、pHが徐々に上昇した。それに伴い、酸素インジケータの色調が変化し、pHの上昇を色調で確認すること
ができた。他方、薬液の外観からはpHの上昇を観察できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本実施形態の包装体の正面図。
【符号の説明】
【0043】
1…炭酸水素塩含有薬液
2…プラスチック容器
3…包装体
4…酸素インジケータ
5…炭酸ガス吸収型脱酸素剤
6…空間部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸水素塩含有薬液が密封されたガス透過性プラスチック容器が収納されるガス非透過性包装体であって、前記プラスチック容器周囲の前記包装体内の空間部分に、炭酸ガス吸収型脱酸素剤が配置され、かつガス充填装置にて炭酸ガスを追加することにより、前記空間部分は実質的に炭酸ガスと窒素ガスとのみが存在するガス雰囲気に設定されることを特徴とする包装体。
【請求項2】
前記包装体には酸素インジケータが配置されていることを特徴とする請求項1に記載の包装体。

【図1】
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【公開番号】特開2008−68900(P2008−68900A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249143(P2006−249143)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】