説明

化学分析装置およびこれを用いる化学分析方法

【課題】 従来のチューブポンプのかかる欠点を克服し、溶液を正確に定量供給することができ、溶液中に気泡が混入あるいは発生する場合においてもその精度を保証することのできる分析装置の提供。
【解決手段】 回転量を電気的信号に変換する回転量検出手段を備えたチューブポンプ、溶液の物理化学的特性を電気的信号で読み取ることの可能なセンサを備えた分析槽、前記チューブポンプの吸入側に設置され、試料槽、試薬容器もしくは水容器と連通し、試料、試薬もしくは水を選択送液するための複数の弁を有する吸入ラインおよび前記チューブポンプの排出側と前記分析槽とを連通し、液体に混入する気体を検知し、これを電気信号に変換する気体混入検出手段を備えた排出ラインとを有する化学分析装置であって、更に、前記回転量検出手段および気体混入検出手段からの電気的信号を論理積演算する演算手段と、前記演算手段の結果とセンサーからの電気的信号と関係づけ、試料の成分濃度を算出する分析手段とを有してなる化学分析装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学分析装置に関し、更に詳細には、チューブポンプを用いた溶液を正確に供給することのできる溶液定量供給装置を用い、試料等を正確に定量採取し、分析することのできる化学分析装置およびこれを用いる化学分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の化学分析装置では、高精度に化学分析や測定を行う場合、微量の試薬溶液を正確に注入するために、チューブポンプが用いられていた。しかし、チューブポンプは、チューブをローラー等で押圧し、液体を吐出させるものであるため、長期間の使用によって、チューブが伸長し、単位時間当たりの吐出量が変化することがあり、このような、経時的な吐出量の変化は、定量化学分析における液添加機構に使用した場合、誤差の原因となるので、その用途が限られていた。
【0003】
また、試料液や試薬が圧力変化、接触摩擦、温度変化等で、その内部に気泡が発生しやすい場合、ローラー等の押圧によって配管内部に気泡を発生し、吐出量の精度を低下させる原因ともなっていた。
【0004】
したがって、液体の正確な定量が必要とされる高精度な化学分析や測定では、シリンダー方式のポンプなど、構造が複雑で高価な液添加機構に頼ったり、液体の容量ではなく、精密な天秤でその質量を正確に量り取り、分析系に添加する必要があった。
【0005】
近年、このような従来のチューブポンプの問題、とくに、チューブの経時変化による輸送量の変化の問題を解決するため、定容積秤量手段によりチューブポンプからの送液量を貯留必要時間に変換し、これによって分注時間を決定することにより、所定の分注量を精度よく確保できる装置が開発されている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、この装置は所定の分注量を分注時間により管理するものであるので、試料液や試薬に気泡が発生した場合などの分注量の精度までも担保するものではなかた。
【0007】
【特許文献1】特開平5−80060号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記実情に鑑み、従来のチューブポンプのかかる欠点を克服し、溶液を正確に定量供給することができ、溶液中に気泡が混入あるいは発生する場合においてもその精度を保証することのできる分析装置の開発が望まれており、このような分析装置を提供することが、本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、 回転量を電気的信号に変換する回転量検出手段を備えたチューブポンプ、溶液の物理化学的特性を電気的信号で読み取ることの可能なセンサを備えた分析槽、前記チューブポンプの吸入側に設置され、試料槽、試薬容器もしくは水容器と連通し、試料、試薬もしくは水を選択送液するための複数の弁を有する吸入ラインおよび前記チューブポンプの排出側と前記分析槽とを連通し、液体に混入する気体を検知し、これを電気信号に変換する気体混入検出手段を備えた排出ラインとを有する化学分析装置であって、更に、前記回転量検出手段および気体混入検出手段からの電気的信号を論理積演算する演算手段と、前記演算手段の結果とセンサーからの電気的信号と関係づけ、試料の成分濃度を算出する分析手段とを有してなる化学分析装置である。
【0010】
また本発明は、チューブポンプ、前記チューブポンプの吸入側に設置され、試料容器、試薬容器もしくは水容器と連通し、試料、試薬もしくは水を選択送液するための複数の弁を有する吸入ラインおよび前記チューブポンプの排出ラインの末端に設置され、溶液の物理化学的特性を電気的信号で読み取ることの可能なセンサを備えた分析槽を有する化学分析装置を用いる化学分析方法であって、前記複数の弁を開閉しつつ試料ないし試薬を分析槽中に送液し、分析槽中の溶液の物理化学的特性変化を電気的信号で読み取るとともに、前記チューブポンプの回転量と排出ラインの途中に設けられた気体混入検出手段の電気信号から送液量を算出し、この送液量と分析槽中の溶液の物理化学的特性変化とを関係づけることにより試料の濃度を分析することを特徴とする化学分析方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、チューブポンプにより試料等を採取する際に発生する気泡の量を、液体採取量に反映させることができるため、試料または試薬を正確に分析槽中に送り込むことが可能である。
【0012】
また、本発明装置では、試料または試薬を同一のチューブポンプで送液するため、仮にチューブの経時変化による輸送量が変化したとしても、問題とならず、正確に分析が行えるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施態様を示す図面を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれに何ら制約されるものではない。
【0014】
図1は、本発明化学分析装置の構成の一態様を模式的に示したす図面である。図中、1は化学分析装置、2はチューブポンプ、3は回転量検出手段、4は吸入ライン、5は排出ライン、6は気体混入検出手段、7は分析槽、8はセンサ、9は弁をそれぞれ示す。また、10は試料容器、11は試薬容器、12は純水容器、13はコンピュータ、13aは演算手段、13bは成分算出手段、14は排出口、15は排液ポンプを示す。
【0015】
図1に示すように、本発明の化学分析装置は、チューブポンプ2の吸入側に吸入ライン4が、排出側に排出ライン5がそれぞれ設けられている。このうち吸入ライン4には、弁9a、9bおよび9cを介して試料槽10、試薬容器11および純水容器12が連通されており、各弁をそれぞれ開けることにより、必要な試料ないし試薬を後記分析槽7中に送液することができ、更に純水により分析槽7を洗浄することが可能となる。なお、図1での試薬容器11は一つであるが、分析対象試薬に合わせ、これを複数として良いことはいうまでもない。
【0016】
上記排出ライン5の途中には、気体混入検出手段6が、その末端には、センサ8を備えた分析槽7が設けられている。この気体混入検出手段6としては、気泡センサー等が利用され、ここでの気泡有無の情報は、電気信号に変換され、演算手段13aに送られる。
【0017】
チューブポンプ2のローターを回転駆動させるモーターとしては、サーボーモーター、エンコーダー付きDCモータ、ブラシレスDCモーター等の、チューブポンプのローターの回転角が正確に把握できる機構を設けることができるものであれば良く、これ以外でもモーターの回転軸の回転角が正確に判定できるものであれば利用することができる。
【0018】
また、チューブポンプ2には、その回転量を測定するための回転量検出手段3が設けられている。この回転量検出手段3としては、チューブポンプ2のローターの駆動軸に直結したロータリーエンコーダ等が用いられ、ローターの回転量の情報は、電気信号、例えばローターの回転角を示す電気パルスに変換され、演算手段13aに送られる。この演算手段13aでは、気体混入検出手段からの電気信号と論理積演算されて、実際の送液量を示す電気信号とされる。例えば、図2に示すように、回転量検出手段3からの回転量の電気信号Aと、気体混入検出手段6からの電気信号Bが送られた場合には、実際に液が送られた部分に対応する回転量の電気信号のみを有効とし、電気信号Cを実送液量とすることになる。
【0019】
一方、試料ないし試薬が送液された分析槽7では、これらの送液の結果による溶液の物理化学的特性変化をセンサ8で読み取り、これを電気的信号に変換する。この物理化学的特性変化としては、pH、色、透明度、酸化還元電位、伝導度、イオン濃度、温度等の変化を利用することができ、センサ8として、pHセンサー、酸化還元電位センサー、温度センサー、吸光度センサー、ならびに色センサーなどを1つあるいは2つ以上を組み合わせることができる。例えば、分析すべき試料溶液がアルカリ性であれば、試薬として酸性溶液を加え、その混合溶液の変化をpHで読み取れば良く、また、分析すべき試料が還元性溶液であれば、試薬として酸化性溶液を加え、その混合溶液の変化を酸化還元電位で読み取ればよい。
【0020】
最後に、上記で得られた実送液量と、前記で得られた溶液の物理化学的特性変化を、成分算出手段13bで関係づけることにより、分析対象であった試料の溶液濃度を定めることができる。すなわち、本発明装置では、チューブポンプ2が用いられ、かつ、気泡の分を差し引くことが可能であるので、試料および試薬の送液量は正確に定めることができる。従って、使用試薬として濃度が正確に定められているものを利用すれば、試料の濃度を正確に求めることが可能となるのである。
【0021】
なお、本発明装置では、チューブポンプ2を使用しているが、試料も試薬も同じチューブを利用して送液しているため、長期間の使用によりチューブが経時変化したとしても、試料および試薬の量には変化がなく、測定には影響を与えることはない。すなわち、チューブポンプ2の回転角と化学量論的濃度の関係について説明すると次の通りである。
【0022】
まず、試料の採取に要した気泡を除くローターの回転角をmとする。チューブポンプ2が単位角度あたりに輸送する容積をVrとする。試薬を所定のpHになるまでチューブポンプのローターを駆動させた回転角の総和をΣpとする。さらに試薬の濃度N、そのファクターをf、求める化学種に対する当量係数をEとすると化学量論的濃度Cは下記の式で表せる。
【0023】
[式1]
C=(E×f×Vr×Σp)/(Vr×m)
C=(E×f×Σp)/m
【0024】
この式から明白なようにチューブポンプが単位角度あたりに輸送する容積Vrは相殺される。チューブポンプが長期間の稼動で徐々に変化する特性値はVrであるが、この式から明らかなように本発明ではVrの変化の影響を受けない。また試料や試薬の気泡を除いた真の液体の容積に比例する回転角を使用することで上記の式の再現性が向上することになる。
【0025】
次に、本発明の化学分析装置を用いて分析する方法の一態様を説明する。
【0026】
まず、試料液を定量採取するために電磁弁9aのみを開放し、チューブポンプ2を駆動する。この状態で送液された試料は、三方電磁弁9dで配管経路(吸入ライン4および排出ライン5)に残存していた液体と試料液が完全に置換するまで、排出口16を開け、流し出す。次いで、頃合をみはからって三方電磁弁9dを分析槽7側へ切り替えて定量採取を開始する。ここで気体混入検出手段6の信号Bとローター駆動軸の回転量信号Aから気泡を除く液体が通過した量に相当する信号Cを論理積演算により得る。
【0027】
分析槽7中の試料が少量であり、センサ8の感応部位まで達さない場合は、弁9aを閉じた後、弁9cを開け、純水を純水容器12からチューブポンプ2により採取する。この場合も、一定時間純水を排出口16より流し出してから分析槽7注入する。以上で試料の採取工程は完了する。
【0028】
次に試薬を一定量づつ試薬容器11から分析槽7に添加し、スターラー17により撹拌する。この場合も試料の採取と同様に電磁弁9bのみを開放し、チューブポンプ2より試薬の輸送を行う。この場合も、最初の一定時間は、試薬を排出口16より流し出すことは前記と同じである。
【0029】
この試薬を一定量づつ分析槽7に添加し、スターラー17で混合された後の液体の物理化学的変化をセンサ8で測定する。物理化学的変化が、一定の値に達するまで測定、試薬の添加を繰り返し続ける。所定の値に達するまでに要した試薬の量と採取した試料の量から試料の化学量論的濃度を得ることができる。濃度が得られた後、排液ポンプ16で分析槽7内の液を排水し一連の操作を終了する。
【0030】
なお、本発明装置の各機器類の制御や演算は、コンピュータ13で行っている。濃度表示や各機器類の単独操作のためにコンピュータ13にプリンターやディスプレー装置、キーボードを組み込んでも良い。
【実施例】
【0031】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0032】
実 施 例 1
近年、電子部品製造工程で使用される過水硫酸系エッチング液について本発明を使用して分析を行った。この過水硫酸系エッチング液は、その酸化剤に過酸化水素水溶液を使用ており、液の輸送に伴う圧力変化や接触刺激により液中に酸素の気泡を発生することがあった。また酸化性で酸度も高いために、チューブポンプに使用する樹脂チューブの減肉等の問題によりチューブポンプの性能変化も激しかった。
【0033】
本実施例では、図1に示す装置を用いた。また、発明の効果を確認するために、比較として故意に気泡検出器(気体混入検出手段)を取り外した装置も用いた。それぞれ連続運転で1ヶ月間の分析値の変化を使用技術において比較した。その結果を表1にしめす。なお本実施例で分析値とはエッチング液中の過酸化水素の容量パーセントを意味する。
【0034】
【表1】

【0035】
この結果から明らかなように、気泡検出がない比較装置では、時たま標準より低い値が散見された。このとき試料に気泡が含まれた状態で分析槽に流れ込むことが目視でも確認された。
【0036】
実 施 例 2
高濃度のエッチング液を1日12回の割合で1ヶ月間分析をおこない、その変動幅および変動係数を調べた。本発明の分析装置を採用したものを条件A(本発明)、本発明の装置を使用せず別個のチューブポンプで試料と試薬を輸送する分析機構を採用したものを条件B(従来技術)として比較した。なお、1ヶ月稼動前後の確認試験には気泡の影響が少ない低濃度エッチング液を繰返分析の試料液とした。
【0037】
【表2】

【0038】
この結果から、本発明と従来技術を比較すると稼動前後において分析値の安定性には両者とも顕著な差はないが、従来技術では全体的に分析値が上昇する傾向にあることが見て取れた。一方、本発明を採用した分析装置では分析値の顕著な変動は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明装置によれば、気泡の発生しやすい試料であっても正確にその濃度を測定することが可能となる。従って、化学工業、例えば金属表面処理分野において利用される各種処理液を自動的に分析するための装置として広く利用しうるものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明化学分析装置の構成を示す図面である。
【図2】本発明化学分析装置において、実送液量の検出方法を示す図面である。図中、Aは回転量の信号、Bは気泡の存否の信号、Cは実送液量の信号を意味する。
【符号の説明】
【0041】
1 … … 化学分析装置
2 … … チューブポンプ
3 … … 回転量検出手段
4 … … 吸入ライン
5 … … 排出ライン
6 … … 気体混入検出手段
7 … … 分析槽
8 … … センサ
9 … … 弁
10 … … 試料容器
11 … … 試薬容器
12 … … 純水容器
13 … … コンピュータ
13a… … 演算手段
13b… … 成分算出手段
14 … … 排出口
15 … … 排液ポンプ
16 … … モーター
17 … … スターラー
以 上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転量を電気的信号に変換する回転量検出手段を備えたチューブポンプ、溶液の物理化学的特性を電気的信号で読み取ることの可能なセンサを備えた分析槽、前記チューブポンプの吸入側に設置され、試料槽、試薬容器若しくは水容器と連通し、試料、試薬もしくは水を選択送液するための複数の弁を有する吸入ラインおよび前記チューブポンプの排出側と前記分析槽とを連通し、液体に混入する気体を検知し、これを電気信号に変換する気体混入検出手段を備えた排出ラインとを有する化学分析装置であって、更に、前記回転量検出手段および気体混入検出手段からの電気的信号を論理積演算する演算手段と、前記演算手段の結果とセンサーからの電気的信号と関係づけ、試料の成分濃度を算出する分析手段とを有してなる化学分析装置。
【請求項2】
チューブポンプ、前記チューブポンプの吸入側に設置され、試料容器、試薬容器または水容器と連通し、試料、試薬若しくは水を選択送液するための複数の弁を有する吸入ラインおよび前記チューブポンプの排出ラインの末端に設置され、溶液の物理化学的特性を電気的信号で読み取ることの可能なセンサを備えた分析槽を有する化学分析装置を用いる化学分析方法であって、前記複数の弁を開閉しつつ試料もしくは試薬を分析槽中に送液し、分析槽中の溶液の物理化学的特性変化を電気的信号で読み取るとともに、前記チューブポンプの回転量と排出ラインの途中に設けられた気体混入検出手段の電気信号から送液量を算出し、この送液量と分析槽中の溶液の物理化学的特性変化とを関係づけることにより試料の濃度を分析することを特徴とする化学分析方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−333611(P2007−333611A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−166989(P2006−166989)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000120386)荏原ユージライト株式会社 (48)
【出願人】(506208610)デジタルウェア有限会社 (1)
【Fターム(参考)】