化学分析装置
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は試料中の微量分析を行う装置に関する。
【0002】
【従来の技術】試料中の興味ある被検物質を検出する方法のうち、被検物質と特異的に結合できる複数個の磁性微粒子を用いる検出方法がある。この方法は、例えば、免疫測定など、試料中の被検物質の含有量が特に微量でその物質を選択的に検定する必要がある場合に、磁性微粒子に被検物質を結合させ、それらを磁力を用いて選り集めることが可能である。
【0003】一方、自動化に適した化学測定システムとしてフロースルー方式がある。この方法は、クリーニング・コンディショニングする初期段階と、測定段階との間の迅速な交代が可能である。この方式におけるクリーニング・コンディショニングは、流体力学的クリーニングが利用される。流体力学的クリーニングは、検出器(フローセル)に緩衝液を流通させることによりフローセル内部をクリーニングする方法で、検出器が常時液中にあり空気にさらされないため測定に際し外部因子の混入を防ぐことができる。また、装置を分解することなしに複数の異なる試料を測定することが可能となり、検定のスループット向上が期待できる。
【0004】以上の技術を応用した化学分析装置がある。図7および図8は、この装置の測定手順の一例の説明図である。
【0005】まず、試料の調製について説明する。図7(a)で示している試料71の中に、興味ある被検物質72とそれ以外の物質73および74が含まれている。この試料71に、被検物質72と特異的に結合できる基751を有する磁性微粒子75を混合し反応させると、被検物質72は磁性微粒子75と結合し、図7(b)の結合物76を含む試料77が得られる。
【0006】次に、化学分析装置における化学分析の手順を説明する。結合物76を含む試料77を、図8(a)で示される化学分析装置の試料受け81に注入する。試料受け81の試料は、輸液管82の矢印821で示す道筋で、フローセル83に送られる。ここで、図8(b)で示す様に、フローセル83の外部に磁石84を近づけると、結合物76は磁力により磁石の近傍に選択的に集められる(保持される)。この状態で、図8(c)の様に、緩衝液85を輸液管82の矢印822で示す道筋でフローセル83に流すと、不要な物質73および74は輸液管86の矢印861で示す道筋で排出されるので、結合物76つまり被検物質72を濃縮した状態で分析することが可能となる。分析後は、図8(d)で示す様に、磁石を取り除いた状態で緩衝液85を流すことにより、フローセル83を初期の状態にクリーニング・コンディショニングすることができる。
【0007】従来技術の一例として、特公平7−6912 号公報に開示されているエレクトロケミルミネセンス測定装置がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】フロースルー方式化学分析装置の場合、クリーニングの精度が非常に重要である。クリーニングが充分でない場合、次の測定において過去の測定の履歴が影響をおよぼし、検定精度を低下させる。特に、異なる試料の測定を連続して行う必要のある自動分析装置では、異なる試料の間の検体混入が起き、正確な測定ができない。
【0009】クリーニングの精度は、フローセル内に流す緩衝液の流量と流れ方に大きく依存する。フローセル内に緩衝液を流通させた場合、緩衝液の流速は一様でなく、ある分布を持つ。これは、緩衝液の粘性によるものである。例えば、図9の内径R(図中91)の円管に、緩衝液を円管の中心軸92に沿って矢印93の方向に流す場合を考える。この時の緩衝液の中心軸92に垂直な面94における流速分布は、円管の半径Rが小さく緩衝液が粘性流体として扱えること、および緩衝液の流速が充分小さく乱流とならないことを仮定すると、極めて簡単な近似のハーゲン−ポアズイユ流れで取り扱うことができる。この場合、流速分布は中心軸からの距離rできまる軸対象な分布となり、図10のグラフで表される。図中の縦軸の値のUmは、管内の流速の平均値である。図10より、管壁面(中心からの距離がRとなるところ)の近傍の流速は、中心部に比べ著しく減少することがわかる。領域100は、流速が平均流速Umの1/2以下となる領域を示している。
【0010】また、図11で示す長方形の断面を持つ管について同様の考察を行う。管の中心軸111をz軸とし、管の壁面に平行にx軸およびy軸をとり、それぞれの軸方向の管の太さをLxおよびLyとする。緩衝液は、z軸の正方向(即ち、矢印112の方向)に流れている。この時の緩衝液の中心軸111に垂直な面113における流速分布は、図12で示される流速値についての等高線グラフとなる。図中のUmは、管内の流速の平均値である。また、直線121および122は、この管のそれぞれx軸およびy軸に平行な壁面に相当し、ここでの流速値はゼロである。斜線123は、流速が平均流速Umの1/2以下となる領域である。これより、長方形の断面を持つ管では、管の壁面の角付近の流速が特に減少することがわかる。さらに、図11の示す長方形の断面を持つ管で、Lx/Lyの値が大きい場合、即ち、管の断面の長方形の一辺が他の一辺に比べ大きい場合、面113における流速分布は、図13で示される流速値についての等高線グラフとなる。この場合、流速が平均流速Umの1/2以下となる領域131は、x軸方向に広がることがわかる。
【0011】以上の考察より、フローセル内部に緩衝液を流した場合、図10の領域100や図12の領域123や図13の領域131などのセルの壁面近傍において、緩衝液の流れが滞り易いことがわかる。特に、セル壁面のうちの角となる部分における緩衝液の流れが滞り易い。その結果、フローセルをクリーニングするために緩衝液を流す場合、セルの壁面やその角となる部分の近傍でクリーニングの効果が低下してしまうことがわかる。
【0012】磁性微粒子を外部磁力で選り集める場合、微粒子はフローセルの壁面近傍に保持される。即ち、磁性微粒子は緩衝液のクリーニング効果が低下する領域に保持される。そのため、従来技術で紹介した磁性微粒子応用検出方法を用いたフロースルー方式化学分析装置では、クリーニング時に磁性微粒子が充分取り除かれずにフローセル内に残留したり、クリーニングに必要となる時間および緩衝液の総量が著しく増加することが課題となる。
【0013】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するため、本発明はフロースルー型化学分析装置の検出器部分に、音波を発生する電気音響変換器を設け、同装置が検体の化学分析を終了した際に緩衝液をフローセル内に流すことにより行うセルのクリーニング時に、緩衝液を流す前または流す際に、音波を利用して検体或いは試薬或いは磁性微粒子をクリーニングしやすい位置または状態に変化させる機能を有する。特に、フローセルの形状や、磁性微粒子の保持位置や、センサの位置や、装置の測定原理や用途に応じ、供給する音波の周波数と、電気音響変換器の空間的配置および個数を、最適に決定した。
【0014】
【発明の実施の形態】
(第一の実施例)図1は本発明の実施例の説明図である。本発明は、試料供給口101と緩衝液供給口102と廃液排出口103を有するフローセル部1と、磁性微粒子を保持するための磁場を形成する磁石2と、フローセル内部に音波を供給する電気音響変換器3と、電気音響変換器に電力を供給する交流電源4で構成される。
【0015】フローセル部の試料供給口101や緩衝液供給口102や廃液排出口103は、それらのうちの幾つかが同一の管口で兼用される場合もある。磁石2は、電流のオン/オフによりフローセル部の磁場を制御する電磁石である場合や、永久磁石の空間的配置を電動アーム等により変更することによってフローセル部の磁場を制御する場合などがある。
【0016】電気音響変換器3は、例えばPZT圧電材料に電極を設けたものを利用する。この場合、利用する音波の振動数に応じて、最適な圧電材料の厚さ等を決定する。なお、電気音響変換器がフローセル内部の試料および緩衝液に接触する場合は、試料および緩衝液の化学的性質を考慮し、何らかの皮膜で保護することが必要な場合もある。交流電源4は、任意の周波数の交流電流を電気音響変換器に供給する能力を有する場合や、ある特定の周波数の交流電流のみを供給する様に単純化する場合などがある。なお、自動分析装置の場合は、磁石2を用いた磁場制御や、電気音響変換器3と交流電源4を用いた音波供給は、分析手順に同期することが有効である。
【0017】ここで、以降の説明のために三次元座標軸を次のように定義する。フローセル内の溶液の流れの方向をz軸とし、磁性微粒子を磁力により保持するフローセル内壁面の中央部のある一点を原点oとし、原点oを含みz軸に垂直な面(以後、x−y面)で、磁性微粒子を保持するフローセル内壁面と平行にx軸,x軸と垂直にy軸をとる。なお、x−y面とフローセルの壁面との交差する部分を補助線6で示した。
【0018】図2は、このx−y面におけるフローセルの断面図である。電気音響変換器21は、その振動面22がx軸と平行となるように設けられている。磁性微粒子は、磁石2により振動面22の面上の領域23に保持される。分析評価を終了した後、電気音響変換器21は、矢印24で示される様に座標軸yと平行な方向に振動し、フローセル内部に粗密波(縦波)の音波を供給する。供給する音波の振動周波数は任意の値で良い。しかし、特に、振動周波数FをF=((2n−1)V)/(4D)と設定する場合がある。ここで、Dはフローセル内部のy方向の大きさ25、Vはフローセル内部の溶液中の音速、nは任意の自然数である。この場合、音波はフローセル内部で定在波を形成し、振動面22の位置(即ち、x−z面)が振幅の腹となる。破線26は、n=2の場合の定在波を、横波の表示法で表したものである。この定在波は、y=Dで示されるフローセルの流路の壁面27(即ち、電気音響変換器21と向かい合った面)が振動の節となる他、フローセル内の流路空間に(n−1)個の節となる面を有する。図2では、点Pを含むx−z面に平行な面28が節である。なお、壁面27に音波の反射の良い素材(例えば白金などの金属)を利用する場合もある。この場合、壁面27における音波の反射の際のエネルギの減衰が軽減できる。特に、定在波を利用する場合には、定在波の形成の効率が上昇するため有効である。
【0019】本発明では、クリーニング時に電気音響変換器21を振動させることにより、領域23に吸着して離れにくくなっている磁性微粒子を離れやすくすることができる。
【0020】また、磁性微粒子は、フローセル内部の溶液の分子と比較し質量が充分大きいため、溶液の分子より大きな慣性力が働く。その結果、溶液が振動運動を行うと、溶液中の磁性微粒子は運動の極小点に集まる性質がある。本実施例の場合、領域23は振動の腹(即ち、振動運動の極大点)であるため、磁性微粒子はこの領域から移動する。つまり、音波を供給することにより、領域23に保持した磁性微粒子をy軸の正方向に移動させることが可能となる。特に、音波が定在波となっている場合は、磁性微粒子は運動の極小点である振動の節(図2R>2では、面28の節)に集まる。
【0021】以上の状態で緩衝液をフローセル内部に流すことにより、従来の様に緩衝液を流すだけではセル外部に排出されにくかった磁性微粒子を、容易に排出することが可能となる。即ち、フローセルのクリーニングが容易となり、その精度も向上する。
【0022】(第二の実施例)本発明の第二の実施例として、図3のx−y面の断面図で示される様に、電気音響変換器31および32をフローセルの両端に、y軸方向に対となるように、平行に配置する場合を説明する。なお、図中の領域23は、図2と同様に、磁石2により磁性微粒子が保持される領域を示す。本実施例では、音波の振動力が倍増し、磁性微粒子を移動させやすくなる。また、供給する音波の振動周波数Fを、特にF=(nV)/(2D)と設定することにより、音波はフローセル内部で定在波を形成する。ここで、Dはフローセル内部のy方向の大きさ33、Vはフローセル内部の溶液中の音速、nは任意の自然数である。この定在波は、フローセルの二つの電気音響変換器の振動面34および35の位置が振動の腹となり、フローセル内部にn個の節を有する。図中の破線36は、n=1の場合の定在波を、横波の表示法で表したものであり、破線37を含む二つの振動面に平行な面が振動の節となる。
【0023】(第三の実施例)本発明の第三の実施例として、図4のx−y面の断面図で示される様に、電気音響変換器41の振動面42をy軸と平行に配置する場合を説明する。図4は、電気化学発光を利用する化学分析装置に、電気音響変換器を設けた場合の一例を示す図である。電気化学発光を利用する化学分析装置は、磁性微粒子に結合した金属錯体などが、酸化還元作用により発光する原理を利用するものである。発光は、金属錯体と結合した磁性微粒子が作用電極43の電極表面上44に密着した状態で、上部電極45と作用電極43の間に電圧を印加することにより起こる。そのため本装置では、磁性微粒子を作用電極43の電極表面上44に保持する必要があり、第一および第二の実施例の様に、磁性微粒子の保持される領域が電気音響変換器の振動面と同一となる構造は不可能である。本実施例は、以上の様な、電気音響変換器の振動面42を磁性微粒子を保持する領域44と区別する必要がある場合に適用できる。なお、本実施例では、第一の実施例と同様に、フローセル壁面46に、音波の反射の良い素材を利用することも有効である。
【0024】(第四の実施例)また、本発明の第四の実施例として、図5のx−y面の断面図で示される様に、電気音響変換器51および52をフローセルの両端に、x軸方向に対となるように互いに平行に配置する場合を説明する。電気化学発光を利用する化学分析装置では、測定感度の向上のために、作用電極の表面積をできるだけ大きくすることが有効である。一方、装置で利用する直流電圧値をなるべく低くおさえるため、上部電極と作用電極の距離はできるだけ小さくする必要がある。そのためフローセルの流路の断面は、図5の様にx軸方向の長さLx(図5の53)とy軸方向の長さLy(図5の54)に対し、Lx/Lyが大きな値となるような構造を有する場合がある。この場合、従来技術の課題で述べたように、図5のxの絶対値の大きい領域55および56では、緩衝液を流して行うクリーニングの際に緩衝液の流れが滞り易く、磁力により保持した磁性微粒子が残留しやすくなる。
【0025】本実施例は、電気音響変換器51および52をフローセルの両端に配置することにより、領域55および56に保持された磁性微粒子を振動させ、保持部分から離れ易くする。特に、音波の振動の周波数FをF=(nV)/(2(Lx))と設定することにより、音波はフローセル内部で定在波を形成する。ここで、Vはフローセル内部の溶液中の音速、nは任意の自然数である。この定在波は、フローセルの二つの電気音響変換器の振動面511および521の位置が振動の腹となり、フローセル内部にn個の節を有する。図中の破線57は、n=1の場合の定在波を、横波の表示法で表したものであり、y軸を含む二つの振動面に平行な面が振動の節となる。
【0026】本実施例では、領域55および56に保持された磁性微粒子を、形成された定在波により振動の節に集めることが可能となる。即ち、緩衝液を流して行うクリーニングの際に、緩衝液の流れが滞ることにより残留してしまう領域55および56の磁性微粒子を、緩衝液の流速が高い流路中央部58に移動させることにより、磁性微粒子の残留を起きにくくすることが可能となる。
【0027】第三および第四の実施例では、定在波を形成するように振動周波数を設定した場合、節にあたる部分はフローセル内部の溶液の振動が起きない。そのため、節にあたるフローセル壁面に磁性微粒子が吸着している場合、この磁性微粒子を振動させることができず、クリーニングの際に吸着したまま残留してしまうことも考えられる。その場合、振動周波数を時間的に変化させ、節の位置を変化させることが有効である。また、第四の実施例では、二つの電気音響変換器51と52の振動周波数をそれぞれ異なる値に設定すると、合成波の節の位置を時間的に変化させることができる。
【0028】(第五の実施例)本発明の第五の実施例として、磁性微粒子を電極等に保持する場合、その電極自身に振動波を伝達させることも可能である。図6は、本実施例を説明するx−y面の断面図である。電気音響変換器61を、作用電極62と接する様にフローセルの流路の外部に設けている。電気音響変換器61が矢印63の方向に振動すると、その振動波は作用電極62に伝達する。磁性微粒子は、この振動のエネルギにより保持位置64から離れ易くなったり、y軸の正方向に移動する。
【0029】(第六の実施例)第一から第五の実施例は、特に効果の大きい磁性微粒子利用分析装置への電気音響変換器の応用について述べたものであるが、本発明はイオン電極型センサおよびフローインジェクション分析などのフロースルー型化学分析装置に応用する場合もある。同装置の場合、クリーニングの際に、センサまたは検出器の表面に付着したイオンや試薬などを効率よく除去する必要がある。フローセル内部に電気音響変換器を設け、セルのクリーニング時にセンサ面または検出器面に音波を集中するように照射することにより、センサ面または検出器面に付着したイオンや試薬などが効率よく除去される。その結果、従来と比較し、セルのクリーニングの効率が向上する。
【0030】(本実施例の具体例)以上の実施例の具体例を示す。図14は、第四の実施例で説明した電気化学発光を利用するフロースルー型化学分析装置のフローセルの具体例である。図14(a)はフローセルにおける溶液の流れの方向に平行な面(図1のy−z面に相当)におけるセルの断面図、(b)は溶液の流れる方向に垂直な面(図1のx−y面に相当)におけるセルの断面図、(c)はそれらの面に垂直な面(図1のx−z面に相当)におけるセルの断面図である。フローセルは、試料と緩衝液を供給する供給口142と廃液を排出する廃液排出口143と作用電極147を設けた基盤141と、上部電極146と二つの電気音響変換器3(3−1および3−2)を設けた光透過性アクリル材144により、流路145が形成されている。電気音響変換器は、図14(c)の示すように、流路を挟んでそれぞれが向かい合うように配置されている。電気音響変換器は、PZT(周波数定数2000cycle・m)を利用した。図14R>4(b)の149で示す流路断面の長さは約5mmであり、電気音響変換器の振動の周波数を約150kHzとすると、流路内に節が一つの定在波が形成される。この場合、電気音響変換器が最も効率よく振動するように、振動方向の厚さ150を約13mmとした。
【0031】本装置の測定原理を説明する。表面に電気化学発光反応を起こす金属錯体を固定した磁性微粒子と電気化学発光反応の触媒を含む試料をフローセルに供給し、磁石2により作用電極147上に固定する。上部電極146と作用電極147の間に電圧を印加すると、金属錯体が電気化学発光反応により発光し、その発光量をフォトマル148で観測する。
【0032】本装置のクリーニングの精度は、以下の評価により検討できる。磁性微粒子は、表面を高分子膜で被覆しその上に電気化学発光反応を起こす複数のRu錯体を固定した直径約2μmのFe微粒子を用いた。この磁性微粒子と電気化学発光反応の触媒であるトリプロピルアミン(TPA)をある規定濃度で含む標準試料と、磁性微粒子を含まない参照試料を準備した。
【0033】まず、参照試料について測定し、その発光量をBGとした。次に、セルを充分にクリーニングした後、標準試料の測定,従来方法のセルクリーニング,参照試料の測定を連続して行った。各測定の発光量を、それぞれS1およびL1とする。従来装置のクリーニングの精度を示す無次元量COを、CO=(L1−BG)/(S1−BG)で定義する。この場合、CO値が小さいほどクリーニングの精度が良いことになる。
【0034】次に、本発明の場合のクリーニングの精度を評価した。セルを充分にクリーニングした後、標準試料の測定,電気音響変換器による音波の照射,従来方法のセルクリーニング,参照試料の測定を連続して行った。各測定の発光量を、それぞれS2およびL2とする。ただし、実験誤差の範囲内でS1=S2である。本発明のクリーニングの精度を示す無次元量COAを、COA=(L2−BG)/(S2−BG)で定義する。
【0035】本発明の効果は、COとCOAの比較で得られる。実験の結果、本発明のCOAは、従来装置のCOの約10分の1となることが確認できた。
【0036】
【発明の効果】本発明によれば、磁性微粒子応用検出方法を用いたフロースルー方式化学分析装置のクリーニングの精度が向上するため、装置の分析能力が向上する。また、同装置のクリーニングに必要となる時間および緩衝液の総量を減少させることが可能となり、評価のスループットの向上や、評価の低コスト化が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一の実施例の説明図。
【図2】本発明の第一の実施例の説明図。
【図3】本発明の第二の実施例の説明図。
【図4】本発明の第三の実施例の説明図。
【図5】本発明の第四の実施例の説明図。
【図6】本発明の第五の実施例の説明図。
【図7】従来技術である磁性微粒子を利用した化学分析方法の説明図。
【図8】従来技術である磁性微粒子を利用した化学分析方法の説明図。
【図9】粘性流体の流れの説明図。
【図10】図9の円管におけるハーゲン−ポアズイユ流れの流速分布の特性図。
【図11】粘性流体の流れの第二の具体例の説明図。
【図12】図11の長方形の断面を持つ管における粘性流体の流速分布の特性図。
【図13】図11の長方形の断面を持つ管で、断面の長方形の長辺と短辺の比が特に大きい場合の粘性流体の流速分布の特性図。
【図14】本発明の第四の実施例を具体的に装置化した例の説明図。
【符号の説明】
1…フロースルー方式化学分析装置のフローセル部、2…磁性微粒子固定用磁石、3…電気音響変換器、4…交流電源。
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は試料中の微量分析を行う装置に関する。
【0002】
【従来の技術】試料中の興味ある被検物質を検出する方法のうち、被検物質と特異的に結合できる複数個の磁性微粒子を用いる検出方法がある。この方法は、例えば、免疫測定など、試料中の被検物質の含有量が特に微量でその物質を選択的に検定する必要がある場合に、磁性微粒子に被検物質を結合させ、それらを磁力を用いて選り集めることが可能である。
【0003】一方、自動化に適した化学測定システムとしてフロースルー方式がある。この方法は、クリーニング・コンディショニングする初期段階と、測定段階との間の迅速な交代が可能である。この方式におけるクリーニング・コンディショニングは、流体力学的クリーニングが利用される。流体力学的クリーニングは、検出器(フローセル)に緩衝液を流通させることによりフローセル内部をクリーニングする方法で、検出器が常時液中にあり空気にさらされないため測定に際し外部因子の混入を防ぐことができる。また、装置を分解することなしに複数の異なる試料を測定することが可能となり、検定のスループット向上が期待できる。
【0004】以上の技術を応用した化学分析装置がある。図7および図8は、この装置の測定手順の一例の説明図である。
【0005】まず、試料の調製について説明する。図7(a)で示している試料71の中に、興味ある被検物質72とそれ以外の物質73および74が含まれている。この試料71に、被検物質72と特異的に結合できる基751を有する磁性微粒子75を混合し反応させると、被検物質72は磁性微粒子75と結合し、図7(b)の結合物76を含む試料77が得られる。
【0006】次に、化学分析装置における化学分析の手順を説明する。結合物76を含む試料77を、図8(a)で示される化学分析装置の試料受け81に注入する。試料受け81の試料は、輸液管82の矢印821で示す道筋で、フローセル83に送られる。ここで、図8(b)で示す様に、フローセル83の外部に磁石84を近づけると、結合物76は磁力により磁石の近傍に選択的に集められる(保持される)。この状態で、図8(c)の様に、緩衝液85を輸液管82の矢印822で示す道筋でフローセル83に流すと、不要な物質73および74は輸液管86の矢印861で示す道筋で排出されるので、結合物76つまり被検物質72を濃縮した状態で分析することが可能となる。分析後は、図8(d)で示す様に、磁石を取り除いた状態で緩衝液85を流すことにより、フローセル83を初期の状態にクリーニング・コンディショニングすることができる。
【0007】従来技術の一例として、特公平7−6912 号公報に開示されているエレクトロケミルミネセンス測定装置がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】フロースルー方式化学分析装置の場合、クリーニングの精度が非常に重要である。クリーニングが充分でない場合、次の測定において過去の測定の履歴が影響をおよぼし、検定精度を低下させる。特に、異なる試料の測定を連続して行う必要のある自動分析装置では、異なる試料の間の検体混入が起き、正確な測定ができない。
【0009】クリーニングの精度は、フローセル内に流す緩衝液の流量と流れ方に大きく依存する。フローセル内に緩衝液を流通させた場合、緩衝液の流速は一様でなく、ある分布を持つ。これは、緩衝液の粘性によるものである。例えば、図9の内径R(図中91)の円管に、緩衝液を円管の中心軸92に沿って矢印93の方向に流す場合を考える。この時の緩衝液の中心軸92に垂直な面94における流速分布は、円管の半径Rが小さく緩衝液が粘性流体として扱えること、および緩衝液の流速が充分小さく乱流とならないことを仮定すると、極めて簡単な近似のハーゲン−ポアズイユ流れで取り扱うことができる。この場合、流速分布は中心軸からの距離rできまる軸対象な分布となり、図10のグラフで表される。図中の縦軸の値のUmは、管内の流速の平均値である。図10より、管壁面(中心からの距離がRとなるところ)の近傍の流速は、中心部に比べ著しく減少することがわかる。領域100は、流速が平均流速Umの1/2以下となる領域を示している。
【0010】また、図11で示す長方形の断面を持つ管について同様の考察を行う。管の中心軸111をz軸とし、管の壁面に平行にx軸およびy軸をとり、それぞれの軸方向の管の太さをLxおよびLyとする。緩衝液は、z軸の正方向(即ち、矢印112の方向)に流れている。この時の緩衝液の中心軸111に垂直な面113における流速分布は、図12で示される流速値についての等高線グラフとなる。図中のUmは、管内の流速の平均値である。また、直線121および122は、この管のそれぞれx軸およびy軸に平行な壁面に相当し、ここでの流速値はゼロである。斜線123は、流速が平均流速Umの1/2以下となる領域である。これより、長方形の断面を持つ管では、管の壁面の角付近の流速が特に減少することがわかる。さらに、図11の示す長方形の断面を持つ管で、Lx/Lyの値が大きい場合、即ち、管の断面の長方形の一辺が他の一辺に比べ大きい場合、面113における流速分布は、図13で示される流速値についての等高線グラフとなる。この場合、流速が平均流速Umの1/2以下となる領域131は、x軸方向に広がることがわかる。
【0011】以上の考察より、フローセル内部に緩衝液を流した場合、図10の領域100や図12の領域123や図13の領域131などのセルの壁面近傍において、緩衝液の流れが滞り易いことがわかる。特に、セル壁面のうちの角となる部分における緩衝液の流れが滞り易い。その結果、フローセルをクリーニングするために緩衝液を流す場合、セルの壁面やその角となる部分の近傍でクリーニングの効果が低下してしまうことがわかる。
【0012】磁性微粒子を外部磁力で選り集める場合、微粒子はフローセルの壁面近傍に保持される。即ち、磁性微粒子は緩衝液のクリーニング効果が低下する領域に保持される。そのため、従来技術で紹介した磁性微粒子応用検出方法を用いたフロースルー方式化学分析装置では、クリーニング時に磁性微粒子が充分取り除かれずにフローセル内に残留したり、クリーニングに必要となる時間および緩衝液の総量が著しく増加することが課題となる。
【0013】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するため、本発明はフロースルー型化学分析装置の検出器部分に、音波を発生する電気音響変換器を設け、同装置が検体の化学分析を終了した際に緩衝液をフローセル内に流すことにより行うセルのクリーニング時に、緩衝液を流す前または流す際に、音波を利用して検体或いは試薬或いは磁性微粒子をクリーニングしやすい位置または状態に変化させる機能を有する。特に、フローセルの形状や、磁性微粒子の保持位置や、センサの位置や、装置の測定原理や用途に応じ、供給する音波の周波数と、電気音響変換器の空間的配置および個数を、最適に決定した。
【0014】
【発明の実施の形態】
(第一の実施例)図1は本発明の実施例の説明図である。本発明は、試料供給口101と緩衝液供給口102と廃液排出口103を有するフローセル部1と、磁性微粒子を保持するための磁場を形成する磁石2と、フローセル内部に音波を供給する電気音響変換器3と、電気音響変換器に電力を供給する交流電源4で構成される。
【0015】フローセル部の試料供給口101や緩衝液供給口102や廃液排出口103は、それらのうちの幾つかが同一の管口で兼用される場合もある。磁石2は、電流のオン/オフによりフローセル部の磁場を制御する電磁石である場合や、永久磁石の空間的配置を電動アーム等により変更することによってフローセル部の磁場を制御する場合などがある。
【0016】電気音響変換器3は、例えばPZT圧電材料に電極を設けたものを利用する。この場合、利用する音波の振動数に応じて、最適な圧電材料の厚さ等を決定する。なお、電気音響変換器がフローセル内部の試料および緩衝液に接触する場合は、試料および緩衝液の化学的性質を考慮し、何らかの皮膜で保護することが必要な場合もある。交流電源4は、任意の周波数の交流電流を電気音響変換器に供給する能力を有する場合や、ある特定の周波数の交流電流のみを供給する様に単純化する場合などがある。なお、自動分析装置の場合は、磁石2を用いた磁場制御や、電気音響変換器3と交流電源4を用いた音波供給は、分析手順に同期することが有効である。
【0017】ここで、以降の説明のために三次元座標軸を次のように定義する。フローセル内の溶液の流れの方向をz軸とし、磁性微粒子を磁力により保持するフローセル内壁面の中央部のある一点を原点oとし、原点oを含みz軸に垂直な面(以後、x−y面)で、磁性微粒子を保持するフローセル内壁面と平行にx軸,x軸と垂直にy軸をとる。なお、x−y面とフローセルの壁面との交差する部分を補助線6で示した。
【0018】図2は、このx−y面におけるフローセルの断面図である。電気音響変換器21は、その振動面22がx軸と平行となるように設けられている。磁性微粒子は、磁石2により振動面22の面上の領域23に保持される。分析評価を終了した後、電気音響変換器21は、矢印24で示される様に座標軸yと平行な方向に振動し、フローセル内部に粗密波(縦波)の音波を供給する。供給する音波の振動周波数は任意の値で良い。しかし、特に、振動周波数FをF=((2n−1)V)/(4D)と設定する場合がある。ここで、Dはフローセル内部のy方向の大きさ25、Vはフローセル内部の溶液中の音速、nは任意の自然数である。この場合、音波はフローセル内部で定在波を形成し、振動面22の位置(即ち、x−z面)が振幅の腹となる。破線26は、n=2の場合の定在波を、横波の表示法で表したものである。この定在波は、y=Dで示されるフローセルの流路の壁面27(即ち、電気音響変換器21と向かい合った面)が振動の節となる他、フローセル内の流路空間に(n−1)個の節となる面を有する。図2では、点Pを含むx−z面に平行な面28が節である。なお、壁面27に音波の反射の良い素材(例えば白金などの金属)を利用する場合もある。この場合、壁面27における音波の反射の際のエネルギの減衰が軽減できる。特に、定在波を利用する場合には、定在波の形成の効率が上昇するため有効である。
【0019】本発明では、クリーニング時に電気音響変換器21を振動させることにより、領域23に吸着して離れにくくなっている磁性微粒子を離れやすくすることができる。
【0020】また、磁性微粒子は、フローセル内部の溶液の分子と比較し質量が充分大きいため、溶液の分子より大きな慣性力が働く。その結果、溶液が振動運動を行うと、溶液中の磁性微粒子は運動の極小点に集まる性質がある。本実施例の場合、領域23は振動の腹(即ち、振動運動の極大点)であるため、磁性微粒子はこの領域から移動する。つまり、音波を供給することにより、領域23に保持した磁性微粒子をy軸の正方向に移動させることが可能となる。特に、音波が定在波となっている場合は、磁性微粒子は運動の極小点である振動の節(図2R>2では、面28の節)に集まる。
【0021】以上の状態で緩衝液をフローセル内部に流すことにより、従来の様に緩衝液を流すだけではセル外部に排出されにくかった磁性微粒子を、容易に排出することが可能となる。即ち、フローセルのクリーニングが容易となり、その精度も向上する。
【0022】(第二の実施例)本発明の第二の実施例として、図3のx−y面の断面図で示される様に、電気音響変換器31および32をフローセルの両端に、y軸方向に対となるように、平行に配置する場合を説明する。なお、図中の領域23は、図2と同様に、磁石2により磁性微粒子が保持される領域を示す。本実施例では、音波の振動力が倍増し、磁性微粒子を移動させやすくなる。また、供給する音波の振動周波数Fを、特にF=(nV)/(2D)と設定することにより、音波はフローセル内部で定在波を形成する。ここで、Dはフローセル内部のy方向の大きさ33、Vはフローセル内部の溶液中の音速、nは任意の自然数である。この定在波は、フローセルの二つの電気音響変換器の振動面34および35の位置が振動の腹となり、フローセル内部にn個の節を有する。図中の破線36は、n=1の場合の定在波を、横波の表示法で表したものであり、破線37を含む二つの振動面に平行な面が振動の節となる。
【0023】(第三の実施例)本発明の第三の実施例として、図4のx−y面の断面図で示される様に、電気音響変換器41の振動面42をy軸と平行に配置する場合を説明する。図4は、電気化学発光を利用する化学分析装置に、電気音響変換器を設けた場合の一例を示す図である。電気化学発光を利用する化学分析装置は、磁性微粒子に結合した金属錯体などが、酸化還元作用により発光する原理を利用するものである。発光は、金属錯体と結合した磁性微粒子が作用電極43の電極表面上44に密着した状態で、上部電極45と作用電極43の間に電圧を印加することにより起こる。そのため本装置では、磁性微粒子を作用電極43の電極表面上44に保持する必要があり、第一および第二の実施例の様に、磁性微粒子の保持される領域が電気音響変換器の振動面と同一となる構造は不可能である。本実施例は、以上の様な、電気音響変換器の振動面42を磁性微粒子を保持する領域44と区別する必要がある場合に適用できる。なお、本実施例では、第一の実施例と同様に、フローセル壁面46に、音波の反射の良い素材を利用することも有効である。
【0024】(第四の実施例)また、本発明の第四の実施例として、図5のx−y面の断面図で示される様に、電気音響変換器51および52をフローセルの両端に、x軸方向に対となるように互いに平行に配置する場合を説明する。電気化学発光を利用する化学分析装置では、測定感度の向上のために、作用電極の表面積をできるだけ大きくすることが有効である。一方、装置で利用する直流電圧値をなるべく低くおさえるため、上部電極と作用電極の距離はできるだけ小さくする必要がある。そのためフローセルの流路の断面は、図5の様にx軸方向の長さLx(図5の53)とy軸方向の長さLy(図5の54)に対し、Lx/Lyが大きな値となるような構造を有する場合がある。この場合、従来技術の課題で述べたように、図5のxの絶対値の大きい領域55および56では、緩衝液を流して行うクリーニングの際に緩衝液の流れが滞り易く、磁力により保持した磁性微粒子が残留しやすくなる。
【0025】本実施例は、電気音響変換器51および52をフローセルの両端に配置することにより、領域55および56に保持された磁性微粒子を振動させ、保持部分から離れ易くする。特に、音波の振動の周波数FをF=(nV)/(2(Lx))と設定することにより、音波はフローセル内部で定在波を形成する。ここで、Vはフローセル内部の溶液中の音速、nは任意の自然数である。この定在波は、フローセルの二つの電気音響変換器の振動面511および521の位置が振動の腹となり、フローセル内部にn個の節を有する。図中の破線57は、n=1の場合の定在波を、横波の表示法で表したものであり、y軸を含む二つの振動面に平行な面が振動の節となる。
【0026】本実施例では、領域55および56に保持された磁性微粒子を、形成された定在波により振動の節に集めることが可能となる。即ち、緩衝液を流して行うクリーニングの際に、緩衝液の流れが滞ることにより残留してしまう領域55および56の磁性微粒子を、緩衝液の流速が高い流路中央部58に移動させることにより、磁性微粒子の残留を起きにくくすることが可能となる。
【0027】第三および第四の実施例では、定在波を形成するように振動周波数を設定した場合、節にあたる部分はフローセル内部の溶液の振動が起きない。そのため、節にあたるフローセル壁面に磁性微粒子が吸着している場合、この磁性微粒子を振動させることができず、クリーニングの際に吸着したまま残留してしまうことも考えられる。その場合、振動周波数を時間的に変化させ、節の位置を変化させることが有効である。また、第四の実施例では、二つの電気音響変換器51と52の振動周波数をそれぞれ異なる値に設定すると、合成波の節の位置を時間的に変化させることができる。
【0028】(第五の実施例)本発明の第五の実施例として、磁性微粒子を電極等に保持する場合、その電極自身に振動波を伝達させることも可能である。図6は、本実施例を説明するx−y面の断面図である。電気音響変換器61を、作用電極62と接する様にフローセルの流路の外部に設けている。電気音響変換器61が矢印63の方向に振動すると、その振動波は作用電極62に伝達する。磁性微粒子は、この振動のエネルギにより保持位置64から離れ易くなったり、y軸の正方向に移動する。
【0029】(第六の実施例)第一から第五の実施例は、特に効果の大きい磁性微粒子利用分析装置への電気音響変換器の応用について述べたものであるが、本発明はイオン電極型センサおよびフローインジェクション分析などのフロースルー型化学分析装置に応用する場合もある。同装置の場合、クリーニングの際に、センサまたは検出器の表面に付着したイオンや試薬などを効率よく除去する必要がある。フローセル内部に電気音響変換器を設け、セルのクリーニング時にセンサ面または検出器面に音波を集中するように照射することにより、センサ面または検出器面に付着したイオンや試薬などが効率よく除去される。その結果、従来と比較し、セルのクリーニングの効率が向上する。
【0030】(本実施例の具体例)以上の実施例の具体例を示す。図14は、第四の実施例で説明した電気化学発光を利用するフロースルー型化学分析装置のフローセルの具体例である。図14(a)はフローセルにおける溶液の流れの方向に平行な面(図1のy−z面に相当)におけるセルの断面図、(b)は溶液の流れる方向に垂直な面(図1のx−y面に相当)におけるセルの断面図、(c)はそれらの面に垂直な面(図1のx−z面に相当)におけるセルの断面図である。フローセルは、試料と緩衝液を供給する供給口142と廃液を排出する廃液排出口143と作用電極147を設けた基盤141と、上部電極146と二つの電気音響変換器3(3−1および3−2)を設けた光透過性アクリル材144により、流路145が形成されている。電気音響変換器は、図14(c)の示すように、流路を挟んでそれぞれが向かい合うように配置されている。電気音響変換器は、PZT(周波数定数2000cycle・m)を利用した。図14R>4(b)の149で示す流路断面の長さは約5mmであり、電気音響変換器の振動の周波数を約150kHzとすると、流路内に節が一つの定在波が形成される。この場合、電気音響変換器が最も効率よく振動するように、振動方向の厚さ150を約13mmとした。
【0031】本装置の測定原理を説明する。表面に電気化学発光反応を起こす金属錯体を固定した磁性微粒子と電気化学発光反応の触媒を含む試料をフローセルに供給し、磁石2により作用電極147上に固定する。上部電極146と作用電極147の間に電圧を印加すると、金属錯体が電気化学発光反応により発光し、その発光量をフォトマル148で観測する。
【0032】本装置のクリーニングの精度は、以下の評価により検討できる。磁性微粒子は、表面を高分子膜で被覆しその上に電気化学発光反応を起こす複数のRu錯体を固定した直径約2μmのFe微粒子を用いた。この磁性微粒子と電気化学発光反応の触媒であるトリプロピルアミン(TPA)をある規定濃度で含む標準試料と、磁性微粒子を含まない参照試料を準備した。
【0033】まず、参照試料について測定し、その発光量をBGとした。次に、セルを充分にクリーニングした後、標準試料の測定,従来方法のセルクリーニング,参照試料の測定を連続して行った。各測定の発光量を、それぞれS1およびL1とする。従来装置のクリーニングの精度を示す無次元量COを、CO=(L1−BG)/(S1−BG)で定義する。この場合、CO値が小さいほどクリーニングの精度が良いことになる。
【0034】次に、本発明の場合のクリーニングの精度を評価した。セルを充分にクリーニングした後、標準試料の測定,電気音響変換器による音波の照射,従来方法のセルクリーニング,参照試料の測定を連続して行った。各測定の発光量を、それぞれS2およびL2とする。ただし、実験誤差の範囲内でS1=S2である。本発明のクリーニングの精度を示す無次元量COAを、COA=(L2−BG)/(S2−BG)で定義する。
【0035】本発明の効果は、COとCOAの比較で得られる。実験の結果、本発明のCOAは、従来装置のCOの約10分の1となることが確認できた。
【0036】
【発明の効果】本発明によれば、磁性微粒子応用検出方法を用いたフロースルー方式化学分析装置のクリーニングの精度が向上するため、装置の分析能力が向上する。また、同装置のクリーニングに必要となる時間および緩衝液の総量を減少させることが可能となり、評価のスループットの向上や、評価の低コスト化が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一の実施例の説明図。
【図2】本発明の第一の実施例の説明図。
【図3】本発明の第二の実施例の説明図。
【図4】本発明の第三の実施例の説明図。
【図5】本発明の第四の実施例の説明図。
【図6】本発明の第五の実施例の説明図。
【図7】従来技術である磁性微粒子を利用した化学分析方法の説明図。
【図8】従来技術である磁性微粒子を利用した化学分析方法の説明図。
【図9】粘性流体の流れの説明図。
【図10】図9の円管におけるハーゲン−ポアズイユ流れの流速分布の特性図。
【図11】粘性流体の流れの第二の具体例の説明図。
【図12】図11の長方形の断面を持つ管における粘性流体の流速分布の特性図。
【図13】図11の長方形の断面を持つ管で、断面の長方形の長辺と短辺の比が特に大きい場合の粘性流体の流速分布の特性図。
【図14】本発明の第四の実施例を具体的に装置化した例の説明図。
【符号の説明】
1…フロースルー方式化学分析装置のフローセル部、2…磁性微粒子固定用磁石、3…電気音響変換器、4…交流電源。
【特許請求の範囲】
【請求項1】緩衝液の供給口と緩衝液の排出口とを具備するフローセルと,前記緩衝液の流れの方向をはさみ対をなす前記フローセルの各面にそれぞれ配置される電気音響変換器とを有し,前記電気音響変換器の振動周波数をそれぞれ異なる値に設定して,合成波の節の位置を時間的に変化させることを特徴とする化学分析装置。
【請求項2】緩衝液の供給口と緩衝液の排出口とを具備するフローセルと,前記緩衝液の流れの方向をはさみ対をなす前記フローセルの各面にそれぞれ配置される電気音響変換器とを有し,前記電気音響変換器の振動周波数を時間的に変化させて定在波の節の位置を時間的に変化させることを特徴とする化学分析装置。
【請求項1】緩衝液の供給口と緩衝液の排出口とを具備するフローセルと,前記緩衝液の流れの方向をはさみ対をなす前記フローセルの各面にそれぞれ配置される電気音響変換器とを有し,前記電気音響変換器の振動周波数をそれぞれ異なる値に設定して,合成波の節の位置を時間的に変化させることを特徴とする化学分析装置。
【請求項2】緩衝液の供給口と緩衝液の排出口とを具備するフローセルと,前記緩衝液の流れの方向をはさみ対をなす前記フローセルの各面にそれぞれ配置される電気音響変換器とを有し,前記電気音響変換器の振動周波数を時間的に変化させて定在波の節の位置を時間的に変化させることを特徴とする化学分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図7】
【図13】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図7】
【図13】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【特許番号】特許第3427606号(P3427606)
【登録日】平成15年5月16日(2003.5.16)
【発行日】平成15年7月22日(2003.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−16398
【出願日】平成8年2月1日(1996.2.1)
【公開番号】特開平9−210999
【公開日】平成9年8月15日(1997.8.15)
【審査請求日】平成13年3月8日(2001.3.8)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【登録日】平成15年5月16日(2003.5.16)
【発行日】平成15年7月22日(2003.7.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成8年2月1日(1996.2.1)
【公開番号】特開平9−210999
【公開日】平成9年8月15日(1997.8.15)
【審査請求日】平成13年3月8日(2001.3.8)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
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