説明

化学変性スチレン系重合体及びその製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は新規な結晶性化学変性スチレン系重合体及びその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、結晶性のシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体を用途に応じて最適にかつ簡便に化学変性して結晶性化学変性スチレン系重合体を効率よく製造する方法、及び相溶化能,接着性,印刷性,帯電防止性などが付与され、複合材料などの素材として有用な結晶性化学変性スチレン系重合体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来からラジカル重合法などにより製造されるスチレン系重合体は、種々の成形法によって様々な形状のものに成形され、家庭電気器具,事務機器,家庭用品,包装容器,玩具,家具,合成紙その他産業資材などとして幅広く用いられているが、その立体構造がアタクチック構造を有しており、耐熱性,耐薬品性に劣るという欠点があった。本発明者らの研究グループは、このようなアタクチック構造のスチレン系重合体の欠点を解消したものとして、これまでに高度のシンジオタクチック構造であるスチレン系重合体の開発に成功し、さらにこのスチレン系モノマーと他のモノマーが共重合したスチレン系共重合体をも開発した。例えば、スチレンと置換スチレンとのシンジオタクチック共重合体(特開昭63−241009号公報)、スチレンと極性モノマーとのシンジオタクチック共重合体(特開平2−258810号公報,同2−258805号公報)などの開発に成功した。しかしながら、このような共重合によるシンジオタクチック共重合体の製造においては、次のような問題がある。
(1) 非晶質の溶媒可溶な副生物が生成したり、シンジオタクチックスチレン樹脂本来の特徴である結晶性が損なわれる場合がある。
(2) 共重合コモノマー種が限定され、シンジオタクチックスチレン樹脂の高性能化を目的とする多種の官能基や置換基の導入が限定されるのを免れない。
(3) 共重合性の異なるモノマーを用いるため、それぞれ最適重合条件を設定する必要があり操作が煩雑である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような事情の下で、高性能化のための多種の官能基や置換基が導入された、非晶質の副生重合体の少ないシンジオタクチック構造のスチレン系重合体を、結晶性を損なうことなく、簡便に、かつ効率よく製造する方法を開発することを目的としてなされたものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、シンジオタクチック構造を有する特定のスチレン系重合体又は共重合体を、特定の化学変性剤を用いて、所定の割合で変性することにより、その目的を達成しうることを見出した。本発明はかかる知見に基いて完成したものである。すなわち、本発明は、(A)一般式(I)
【0005】
【化9】


【0006】〔式中、R1 は水素原子,アルキル基,アルコキシ基,アリール基又はケイ素含有基を示し、mは1〜5の整数であり、mが複数の場合、m個のR1 は同一でも異なるものであってもよい。〕で表わされる繰り返し単位からなるシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体、又は前記(A)繰り返し単位と(B)一般式(II)
【0007】
【化10】


【0008】〔式中、R2 は炭素数1〜20の炭化水素基、R3 及びR4 は、それぞれ水素原子,ハロゲン原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、nは1〜4の整数であり、nが複数の場合、n個のR4 は同一でも異なるものであってもよい。〕で表わされる繰り返し単位及び/又は(C)一般式(III)
【0009】
【化11】


【0010】〔式中、R5 及びR6 は、それぞれ水素原子,ハロゲン原子あるいは炭素数1〜8の炭化水素基を示し、pは1〜4の整数であり、pが複数の場合、p個のR6は同一でも異なるものであってもよい。〕で表わされる繰り返し単位とを含むシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体に、ニトロ化試剤,アシル化試剤,スルホン化試剤,メタル化試剤又はクロロスルホン化試剤であるベンゼン環への置換反応試剤,ラジカル反応試剤又はメタル化試剤であるα位水素置換反応試剤及びヒドロキシル化試剤,ラジカル付加試剤,メタル化試剤,ホウ水素化剤,硫酸水素アルキル化剤又はハロゲン化剤である側鎖炭素−炭素二重結合への付加反応試剤の中から選ばれた少なくとも一種を作用させて、変性量が10-4〜15モル%となるように化学変性することを特徴とする結晶性化学変性スチレン系重合体の製造方法を提供するものである。また、本発明は、(A)一般式(I)
【0011】
【化12】


【0012】〔式中、R1 及びmは前記と同じである〕で表わされるシンジオタクチック構造の繰り返し単位と、(D)(a)一般式(IV)
【0013】
【化13】


【0014】〔式中、Xは−NO2 ,−SO3 H,−SOCl2 ,−COR7 (但し、R7 は炭素数1〜8の炭化水素基)又は一価の金属原子を示し、R1 及びmは前記と同じである。〕で表わされる繰り返し単位、(b)一般式(V)
【0015】
【化14】


【0016】〔式中、Yは一価の金属原子,ハロゲン原子,−OOH基又は無水マレイン酸残基を示し、R1 及びmは前記と同じである。〕で表わされる繰り返し単位、(c)一般式(VI)
【0017】
【化15】


【0018】〔式中、Z1 及びV1 はそれぞれハロゲン原子,一価の金属原子又は炭素原子,酸素原子,窒素原子,硫黄原子,ケイ素原子及びスズ原子のいずれか一種以上を含む置換基を示し、それらは互いに同一でも異なるものであってもよく、R2 ,R3 ,R4 及びnは前記と同じである。〕で表わされる繰り返し単位及び(d)一般式(VII)
【0019】
【化16】


【0020】〔式中、Z2 及びV2 はそれぞれハロゲン原子,一価の金属原子あるいは炭素原子,酸素原子,窒素原子,硫黄原子,ケイ素原子及びスズ原子のいずれか一種以上を含む置換基を示し、それらは互いに同一でも異なるものであってもよく、R5 ,R6 及びpは前記と同じである〕で表わされる繰り返し単位の中から選ばれた少なくとも一種からなる化学変性単位とを含有し、かつ該(D)化学変性単位の含有量が10-4〜15モル%、1,2,4−トリクロロベンゼン中、135℃の温度で測定した0.05g/デシリットルの濃度での還元粘度が0.01〜20デシリットル/g及び結晶融解温度が230〜350℃の範囲にあることを特徴とする結晶性化学変性スチレン系重合体をも提供するものである。
【0021】本発明の方法においては、原料として、前記一般式(I)で表わされる(A)繰り返し単位からなるシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体、又は上記(A)繰り返し単位と、前記一般式(II)で表わされる(B)繰り返し単位及び/又は前記一般式(III)で表わされる(C)繰り返し単位とからなるシンジオタクチック構造を有するスチレン系共重合体が用いられる。前記一般式(I)において、R1 は水素原子,アルキル基,アルコキシ基,アリール基又はケイ素含有基を表わすが、ここでアルキル基としては、メチル基,エチル基,イソプロピル基,ターシャリーブチル基などの炭素数1〜20のアルキル基があり、アルコキシ基としては、メトキシ基,エトキシ基,イソプロポキシ基などの炭素数1〜10のアルコキシ基がある。また、アリール基としては、ベンゼン環,ナフタレン環,フェナントレン環,アントラセン環,ピレン環,クリセン環,ビフェニル環,ターフェニル環,フルオレン環,ペンタレン環,インデン環,アズレン環,ヘプタレン環,ビフェニレン環,as−インダセン環,s−インダセン環,アセナフチレン環,フェナレン環,フルオランテン環,アセフェナントレン環,アセアントリレン環,トリフェニレン環,ナフタセン環,プレイアデン環,ピセン環,ペリレン環,ペンタフェン環,ペンタセン環,ルビセン環,コロセン環,ピラントレン環,オバレン環を含む置換基を示す。さらに、ケイ素含有基としては、ケイ素−炭素結合,ケイ素−ケイ素結合あるいはケイ素−酸素結合を有する基があり、具体的にはトリメチルシリル基などのアルキルシリル基、フェニルシリル基などのアリールシリル基、トリメトキシシリル基などのアルコキシシリル基、さらにはシロキシシリル基などが挙げられる。
【0022】前記一般式(I)で表わされる繰り返し単位を形成するスチレン系モノマーのうち、R1 がアルキル基であるアルキルスチレンモノマーの具体例としては、p−メチルスチレン;m−メチルスチレン;o−メチルスチレン;2,4−ジメチルスチレン;2,5−ジメチルスチレン;3,4−ジメチルスチレン;3,5−ジメチルスチレン;p−エチルスチレン;m−エチルスチレン;p−tert−ブチルスチレン;p−フェニルスチレンなどのアルキルスチレンをあげることができる。また、R1 がアルコキシ基であるアルコキシスチレンモノマーの具体例としては、p−メトキシスチレン,m−メトキシスチレン,p−エトキシスチレン,p−n−プロポキシスチレン,p−n−ブトキシスチレンをあげることができる。更に、R1 がアリール基であるアリールスチレンモノマーの具体例としては、4−ビニルビフェニル,3−ビニルビフェニル,2−ビニルビフェニルなどのビニルフェニル類;1−(4−ビニルフェニル)ナフタレン,2−(4−ビニルフェニル)ナフタレン,1−(3−ビニルフェニル)ナフタレン,2−(3−ビニルフェニル)ナフタレン,1−(2−ビニルフェニル)ナフタレン,2−(2−ビニルフェニル)ナフタレンなどのビニルフェニルナフタレン類;1−(4−ビニルフェニル)アントラセン,2−(4−ビニルフェニル)アントラセン,9−(4−ビニルフェニル)アントラセン,1−(3−ビニルフェニル)アントラセン,2−(3−ビニルフェニル)アントラセン,9−(3−ビニルフェニル)アントラセン,1−(2−ビニルフェニル)アントラセン,2−(2−ビニルフェニル)アントラセン,9−(2−ビニルフェニル)アントラセンなどのビニルフェニルアントラセン類;1−(4−ビニルフェニル)フェナントレン,2−(4−ビニルフェニル)フェナントレン,3−(4−ビニルフェニル)フェナントレン,4−(4−ビニルフェニル)フェナントレン,9−(4−ビニルフェニル)フェナントレン,1−(3−ビニルフェニル)フェナントレン,2−(3−ビニルフェニル)フェナントレン,3−(3−ビニルフェニル)フェナントレン,4−(3−ビニルフェニル)フェナントレン,9−(3−ビニルフェニル)フェナントレン,1−(2−ビニルフェニル)フェナントレン,2−(2−ビニルフェニル)フェナントレン,3−(2−ビニルフェニル)フェナントレン,4−(2−ビニルフェニル)フェナントレン,9−(2−ビニルフェニル)フェナントレンなどのビニルフェニルフェナントレン類;1−(4−ビニルフェニル)ピレン,2−(4−ビニルフェニル)ピレン,1−(3−ビニルフェニル)ピレンなどのビニルフェニルピレン類;4−ビニル−4’−ブロモビフェニル,4−ビニル−3’−ブロモビフェニル,4−ビニル−2’−ブロモビフェニル,4−ビニル−2−ブロモビフェニル,4−ビニル−3−ブロモビフェニルなどのハロゲン化ビニルビフェニル類;4−ビニル−4’−メトキシビフェニル,4−ビニル−3’−メトキシビフェニル,4−ビニル−2’−メトキシビフェニル,4−ビニル−2−メトキシビフェニル,4−ビニル−3−メトキシビフェニル,4−ビニル−4’−エトキシビフェニル,4−ビニル−3’−エトキシビフェニル,4−ビニル−2’−エトキシビフェニル,4−ビニル−2−エトキシビフェニル,4−ビニル−3−エトキシビフェニルなどのアルコキシビニルフェニル類;4−ビニル−4’−メトキシカルボニルビフェニル,4−ビニル−4’−エトキシカルボニルビフェニルなどのアルコキシカルボニルビニルビフェニル類;4−ビニル−4’−メトキシメチルビフェニルなどのアルコキシアルキルビニルビフェニル類;4−ビニル−4’−トリメチルシリルビフェニル等のトリアルキルシリルビニルビフェニル類;4−ビニル−4’−トリメチルスタンニルビフェニル,4−ビニル−4’−トリブチルスタンニルビフェニル等のトリアルキルスタンニルビニルビフェニル類;4−ビニル−4’−トリメチルシリルメチルビフェニル等のトリアルキルシリルメチルビニルビフェニル類;2−(3−ビニルフェニル)ピレン,1−(2−ビニルフェニル)ピレン,2−(2−ビニルフェニル)ピレンなどのビニルフェニルピレン類;4−ビニル−p−ターフェニル,4−ビニル−m−ターフェニル,4−ビニル−o−ターフェニル,3−ビニル−p−ターフェニル,3−ビニル−m−ターフェニル,3−ビニル−o−ターフェニル,2−ビニル−p−ターフェニル,2−ビニル−m−ターフェニル,2−ビニル−o−ターフェニルなどのビニルターフェニル類;4−(4−ビニルフェニル)−p−ターフェニルなどのビニルフェニルターフェニル類;4−ビニル−4’−メチルビフェニル,4−ビニル−3’−メチルビフェニル,4−ビニル−2’−メチルビフェニル,2−メチル−4−ビニルフェニル,3−メチル−4−ビニルフェニル等のビニルアルキルビフェニル類;4−ビニル−4’−フルオロビフェニル,4−ビニル−3’−フルオロビフェニル,4−ビニル−2’−フルオロビフェニル,4−ビニル−2−フルオロビフェニル,4−ビニル−3−フルオロビフェニル,4−ビニル−4’−クロロビフェニル,4−ビニル−3’−クロロビフェニル,4−ビニル−2’−クロロビフェニル,4−ビニル−2−クロロビフェニル,4−ビニル−3−クロロビフェニル等のハロゲン化ビニルビフェニル類;4−ビニル−4’−トリメチルスタンニルメチルビフェニル,4−ビニル−4’−トリブチルスタンニルメチルビフェニルなどのトリアルキルスタンニルメチルビニルビフェニル類などが挙げられる。また、R1 がケイ素含有基であるケイ素含有スチレンモノマーの具体例としては、p−トリメチルシリルスチレン,m−トリメチルシリルスチレン,o−トリメチルシリルスチレン,p−トリエチルシリルスチレン,m−トリエチルシリルスチレン,o−トリエチルシリルスチレン,p−ジメチルターシャリーブチルシリルスチレン等のアルキルシリルスチレン類、p−ジメチルフェニルシリルスチレン,p−メチルジフェニルシリルスチレン,p−トリフェニルシリルスチレン等のフェニル基含有シリルスチレン類、p−ジメチルヒドロシリルスチレン,p−メチルジヒドロシリルスチレン,p−トリヒドロシリルスチレン等のヒドロ基含有シリルスチレン類、p−ジメチルクロロシリルスチレン,p−メチルジクロロシリルスチレン,p−トリクロロシリルスチレン,p−ジメチルブロモシリルスチレン,p−ジメチルヨードシリルスチレン等のハロゲン含有シリルスチレン類、p−ジメチルメトキシシリルスチレン,p−メチルジメトキシシリルスチレン,p−トリメトキシシリルスチレン等のアルコキシ基含有シリルスチレン類、p−(p−トリメチルシリル)ジメチルシリルスチレン等のシリル基含有シリルスチレン類、p−ビス(トリメチルシリル)メチルスチレン,p−トリメチルシリルメチルスチレン等のシリル基含有メチルスチレン類、p−(2−トリメチルシリルエチル)スチレン,p−(3−トリメチルシリルプロピル)スチレン,p−(4−トリメチルシリルブチル)スチレン,p−(8−トリメチルシリルオクチル)スチレン等の(ω−シリル置換アルキル)スチレン類、p−トリメチルシロキシジメチルシリルスチレン等のシロキシシリルスチレン類等が挙げられる。これら一般式(I)で表わされる繰り返し単位を形成するスチレン系モノマーは一種用いてもよいし、二種以上を組合わせて用いてもよい。
【0023】次に、前記一般式(II)で表わされる(B)繰り返し単位において、R2 は炭素数1〜20の二価の炭化水素基、例えば炭素数1〜20のアルキレン基,炭素数6〜20のアリーレン基,炭素数7〜20のアルキルアリーレン基又はアリールアルキレン基などを示す。具体的には、メチレン基,エチレン基,プロピレン基,ブチレン基,ペンテニレン基,ヘキシレン基,フェニレン基あるいはトリレン基などが挙げられる。また、R3 及びR4 はそれぞれ水素原子,ハロゲン原子(例えば、塩素,臭素,フッ素,ヨウ素)又は炭素数1〜8の一価の炭化水素基(例えば、メチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基,ペンチル基などのアルキル基に代表される飽和炭化水素基あるいはビニル基などの不飽和炭化水素基)であり、nは1〜4の整数である。nが複数の場合はn個のR4 は同一でも異なっていてもよい。
【0024】前記一般式(II)で表わされる繰り返し単位を形成するスチレン系モノマーとしては、一般式(II)のR2 がアルキレン基である場合、例えばp−(2−プロペニル)スチレン,m−(2−プロペニル)スチレン,p−(3−ブテニル)スチレン,m−(3−ブテニル)スチレン,o−(3−ブテニル)スチレン,p−(4−ペンテニル)スチレン,m−(4−ペンテニル)スチレン,o−(4−ペンテニル)スチレン,p−(7−オクテニル)スチレン,p−(1−メチル−3−ブテニル)スチレン,p−(2−メチル−3−ブテニル)スチレン,m−(2−メチル−3−ブテニル)スチレン,o−(2−メチル−3−ブテニル)スチレン,p−(3−メチル−3−ブテニル)スチレン,p−(2−エチル−3−ブテニル)スチレン,p−(2−エチル−4−ペンテニル)スチレン,p−(3−ブテニル)−α−メチルスチレン,m−(3−ブテニル)−α−メチルスチレン,o−(3−ブテニル)−α−メチルスチレンなどを挙げることができる。 また、一般式(II)中のR2 がアリーレン基である場合、例えば4−ビニル−4’−(3−ブテニル)ビフェニル,4−ビニル−3’−(3−ブテニル)ビフェニル,4−ビニル−4’−(ペンテニル)ビフェニル,4−ビニル−2’−(4−ペンテニル)ビフェニル,4−ビニル−4’−(2−メチル−3−ブテニル)ビフェニルなどを挙げることができる。
【0025】また、前記一般式(III)で表わされる(C)繰り返し単位におけるR5 及びR6 は、一般式(II)におけるR3 及びR4 と同じであり、また、pは1〜4の整数である。そして、pが複数の場合、p個のR6 は同一でも異なっていてもよい。この一般式(III)で表わされる繰り返し単位を形成するスチレン系モノマーとしては、例えばp−ジビニルベンゼン,m−ジビニルベンゼン,トリビニルベンゼン,p−イソプロペニルスチレンなどが挙げられる。本発明においては、前記一般式(II)及び(III)で表わされる繰り返し単位を形成するモノマーは、一種でも二種以上用いてもよい。
【0026】本発明の方法において、原料として用いられるスチレン系重合体は前記(A)繰り返し単位からなるスチレン系重合体であってもよいし、(A)繰り返し単位と、(B)繰り返し単位及び/又は(C)繰り返し単位とを含むスチレン系共重合体であってもよい。後者のスチレン系共重合体を用いる場合は、該共重合体中の(A)繰り返し単位の含有量が85モル%以上のものが好ましい。また、(B)繰り返し単位の含有量は10-4〜15モル%、好ましくは10-4〜10モル%の範囲のものがよく、一方(C)繰り返し単位の含有量は10-4〜5モル%、好ましくは10-4〜2モル%の範囲にあるものがよい。さらに、共重合様式については、ランダム共重合体又はブロック共重合体のいずれであってもよい。また、本発明の方法において、原料として用いられる前記スチレン系重合体は、その主鎖の立体規則性がシンジオタクチック構造、特に好ましくは高度のシンジオタクチック構造を有する重合体である。
【0027】ここでいうシンジオタクチック構造とは、その立体化学構造が、シンジオタクチック構造を有するものを得ることができる。ここでシンジオタクチック構造とは、立体化学構造がシンジオタクチック構造、即ち炭素−炭素結合から形成される主鎖に対して側鎖であるフェニル基や置換フェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を有するものであり、そのタクティシティーは同位体炭素による核磁気共鳴法(13C−NMR法)により定量される。13C−NMR法により測定されるタクティシティーは、連続する複数個の構成単位の存在割合、例えば2個の場合はダイアッド,3個の場合はトリアッド,5個の場合はペンタッドによって示すことができる。本発明に言う高度のシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体とは、スチレン系繰返し単位の連鎖において、好ましくはラセミダイアッドで75%以上、より好ましくは85%以上、若しくはラセミペンタッドで好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上のシンジオタクティシティーを有するものを示す。しかしながら、置換基の種類などによってシンジオタクティシティーの度合いは若干変動する。また、上記スチレン系重合体の分子量は、重合条件などによって、様々なものが得られるが、一般にGPC〔1,2,4−トリクロロベンゼン,135℃,ポリスチレン換算〕測定における重量平均分子量で1000〜30万、好ましくは5000〜25万である。また、1,2,4−トリクロロベンゼン中、135℃の温度で測定した0.05g/デシリットルの濃度での還元粘度が0.01〜20デシリットル/gのものが好ましい。
【0028】このシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体は、前記(A)単位を形成するスチレン系モノマー、又はこのスチレン系モノマーと(B)単位を形成するスチレン系モノマー及び/又は(C)単位を形成するスチレン系モノマーとを、(イ)遷移金属化合物及び(ロ)有機アルミニウム化合物と縮合剤との接触生成物を主成分とする触媒、又は(イ)遷移金属化合物及び(ハ)該遷移金属化合物と反応してイオン性の錯体を形成しうる化合物を主成分とする触媒の存在下に重合させることにより製造することができる。上記(イ)成分の遷移金属化合物としては様々なものがあるが、好ましくは一般式(VIII)M1 8 ・・・・・Rk ・・・(VIII)〔式中、M1 はTi,Zr,Cr,V,Nb,Ta又はHfを示し、R8 〜Rkは、それぞれ水素原子,酸素原子,ハロゲン原子,炭素数1〜20のアルキル基;炭素数1〜20のアルコキシ基;炭素数6〜20のアリール基,アルキルアリール基若しくはアリールアルキル基;炭素数1〜20のアシルオキシ基,アリル基,置換アリル基,アセチルアセトナート基,置換アセチルアセトナート基,ケイ素原子を含む置換基、あるいはカルボニル,酸素分子,窒素分子,ルイス塩基,鎖状不飽和炭化水素又は環状不飽和炭化水素などの配位子,シクロペンタジエニル基,置換シクロペンタジエニル基,インデニル基,置換インデニル基,テトラヒドロインデニル基,置換テトラヒドロインデニル基,フルオレニル基又は置換フルオレニル基を示す。また、kは金属の原子価を示し、通常2〜5の整数を示す)で表わされる化合物を挙げることができる。
【0029】ここで、置換シクロペンタジエニル基としては、例えば、メチルシクロペンタジエニル基,エチルシクロペンタジエニル基,イソプロピルシクロペンタジエニル基,1,2−ジメチルシクロペンタジエニル基,テトラメチルシクロペンタジエニル基,1,3−ジメチルシクロペンタジエニル基,1,2,3−トリメチルシクロペンタジエニル基,1,2,4−トリメチルシクロペンタジエニル基,ペンタメチルシクロペンタジエニル基,トリメチルシリルシクロペンタジエニル基などが挙げられる。また、R8 〜Rk の配位子は、配位子間で共有結合によって架橋体を形成してもよい。
【0030】ハロゲン原子の具体例としては、フッ素原子,塩素原子,臭素原子,ヨウ素原子;炭素数1〜20のアルキル基としては、メチル基,エチル基,n−プロピル基,iso−プロピル基,n−ブチル基,オクチル基,2−エチルヘキシル基など、炭素数1〜20のアルコキシ基としては、メトキシ基,エトキシ基,プロポキシ基,ブトキシ基,フェノキシ基など、炭素数6〜20のアリール基,アルキルアリール基若しくはアリールアルキル基としては、フェニル基,トリル基,キシリル基,ベンジル基など、炭素数1〜20のアシルオキシ基としては、ヘプタデシルカルボニルオキシ基など、ケイ素原子を含む置換基としては、トリメチルシリル基,(トリメチルシリル)メチル基など、ルイス塩基としては、ジメチルエーテル,ジエチルエーテル,テトラヒドロフランなどのエーテル類、テトラヒドロチオフェンなどのチオエーテル類、エチルベンゾエートなどのエステル類、ベンゾニトリルなどのニトリル類、トリメチルアミン,トリエチルアミン,トリブチルアミン;N,N−ジメチルアニリン,ピリジン;2,2’−ビピリジン,フェナントロリンなどのアミン類、トリエチルホスフィン,トリフェニルホスフィンなどのホスフィン類など、鎖状不飽和炭化水素としては、エチレン,ブタジエン,1−ペンテン,イソプレン,ペンタジエン,1−ヘキセン及びこれらの誘導体など、環状不飽和炭化水素としては、ベンゼン,トルエン,キシレン,シクロヘプタトリエン,シクロオクタジエン,シクロオクタトリエン,シクロオクタテトラエン及びこれらの誘導体などが挙げられる。共有結合による架橋としては、例えば、メチレン架橋,ジメチルメチレン架橋,エチレン架橋,ジメチルシリレン架橋,ジメチルスタニレン架橋などが挙げられる。
【0031】チタニウム化合物の具体例としては、テトラメトキシチタン,テトラエトキシチタン,テトラ−n−ブトキシチタン,テトライソプロポキシチタン,四塩化チタン,三塩化チタン,二塩化チタン,水素化チタン,シクロペンタジエニルトリメチルチタン,シクロペンタジエニルトリエチルチタン,シクロペンタジエニルトリプロピルチタン,シクロペンタジエニルトリブチルチタン,メチルシクロペンタジエニルトリメチルチタン,1,2−ジメチルシクロペンタジエニルトリメチルチタン,ペンタメチルシクロペンタジエニルトリメチルチタン,ペンタメチルシクロペンタジエニルトリエチルチタン,ペンタメチルシクロペンタジエニルトリプロピルチタン,ペンタメチルシクロペンタジエニルトリブチルチタン,シクロペンタジエニルメチルチタンジクロリド,シクロペンタジエニルエチルチタンジクロリド,ペンタメチルシクロペンタジエニルメチルチタンジクロリド,ペンタメチルクシクロペンタジエニルエチルチタンジクロリド,シクロペンタジエニルジメチルチタンモノクロリド;シクロペンタジエニルジエチルチタンモノクロリド,シクロペンタジエニルチタントリメトキシド,シクロペンタジエニルチタントリエトキシド,シクロペンタジエニルチタントリプロポキシド,シクロペンタジエニルチタントリフェノキシド,ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリメトキシド,ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリエトキシド,ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリプロポキシド,ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリブトキシド,ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリフェノキシド,シクロペンタジエニルチタントリクロリド,ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリクロリド,シクロペンタジエニルメトキシチタンジクロリド,シクロペンタジエニルジメトキシチタンクロリド,ペンタメチルシクロペンタジエニルメトキシチタンジクロリド,シクロペンタジエニルトリベンジルチタン,ペンタメチルシクロペンタジエニルメチルジエトキシチタン,インデニルチタントリクロリド,インデニルチタントリメトキシド,インデニルチタントリエトキシド,インデニルトリメチルチタン,インデニルトリベンジルチタンなどが挙げられる。
【0032】また、一般式(VIII)で表わされる遷移金属化合物のうち、M1 がジルコニウムであるジルコニウム化合物の具体例としては、ジシクロペンタジエニルジルコニウムジクロリド,テトラブトキシジルコニウム,四塩化ジルコニウム,テトラフェニルジルコニウム,シクロペンタジエニルジルコニウムトリメトキシド,ペンタメチルシクロペンタジエニルジルコニウムトリメトキシド,シクロペンタジエニルトリベンジルジルコニウム,ペンタメチルシクロペンタジエニルトリベンジルジルコニウム,ビスインデニルジルコニウムジクロリド,ジルコニウムジベンジルジクロリド,ジルコニウムテトラベンジル,トリブトキシジルコニウムクロリド,トリイソプロポキシジルコニウムクロリド,(ペンタメチルシクロペンタジエニル)トリメチルジルコニウム,(ペンタメチルシクロペンタジエニル)トリフェニルジルコニウム,(ペンタメチルシクロペンタジエニル)トリクロロルジルコニウム,(シクロペンタジエニル)トリメチルジルコニウム,(シクロペンタジエニル)トリフェニルジルコニウム,(シクロペンタジエニル)トリクロロルジルコニウム,(シクロペンタジエニル)ジメチル(メトキシ)ジルコニウム,(メチルシクロペンタジエニル)トリメチルジルコニウム,(メチルシクロペンタジエニル)トリフェニルジルコニウム,(メチルシクロペンタジエニル)トリベンジルジルコニウム,(メチルシクロペンタジエニル)トリクロロジルコニウム,(メチルシクロペンタジエニル)ジメチル(メトキシ)ジルコニウム,(ジメチルシクロペンタジエニル)トリクロロジルコニウム,(トリメチルシクロペンタジエニル)トリクロロジルコニウム,(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)トリメチルジルコニウム,(テトラメチルシクロペンタジエニル)トリクロロジルコニウム,ビス(シクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム,ビス(シクロペンタジエニル)ジフェニルジルコニウム,ビス(シクロペンタジエニル)ジエチルジルコニウム,ビス(シクロペンタジエニル)ジベンジルジルコニウム,ビス(シクロペンタジエニル)ジメトキシジルコニウム,ビス(シクロペンタジエニル)ジクロロジルコニウム,ビス(シクロペンタジエニル)ジヒドリドジルコニウム,ビス(シクロペンタジエニル)モノクロロモノヒドリドジルコニウム,ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム,ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジクロロジルコニウム,ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジベンジルジルコニウム,ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム,ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジクロロジルコニウム,ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジベンジルジルコニウム,ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)クロロメチルジルコニウム,ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ヒドリドメチルジルコニウム,(シクロペンタジエニル)(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジクロロジルコニウム,エチレンビス(インデニル)ジメチルジルコニウム,エチレンビス(テトラヒドロインデニル)ジメチルジルコニウム,エチレンビス(テトラヒドロインデニル)ジクロロジルコニウム,ジメチルシリレンビス(シクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム,ジメチルシリレンビス(シクロペンタジエニル)ジクロロジルコニウム,イソプロピル(シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジメチルジルコニウム,イソプロピル(シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジクロロジルコニウム,〔フェニル(メチル)メチレン〕(9−フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム,ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジメチルジルコニウム,エチリデン(9−フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム,シクロヘキシル(9−フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム,シクロペンシル(9−フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム,シクロブチル(9−フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム,ジメチルシリレン(9−フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム,ジメチルシリレンビス(2,3,5−トリメチルシクロペンタジエニル)ジクロロジルコニウム,ジメチルシリレンビス(2,3,5−トリメチルシクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウムなどが挙げられる。
【0033】ハフニウム化合物の具体例としては、シクロペンタジエニルハフニウムトリメトキシド,ペンタメチルシクロペンタジエニルハフニウムトリメトキシド,シクロペンタジエニルトリベンジルハフニウム,ペンタメチルシクロペンタジエニルトリベンジルハフニウム,ビスインデニルハフニウムジクロリド,ハフニウムジベンジルジクロリド,ハフニウムテトラベンジル,トリブトキシハフニウムクロリド,トリイソプロポキシハフニウムクロリド,四塩化ハフニウム,ジシクロペンタジエニルハフニウムジクロリド,テトラエトキシハフニウムなどが挙げられる。バナジウム化合物の具体例としては、バナジウムトリクロリド,バナジルトリクロリド,バナジウムトリアセチルアセトナート,バナジウムテトラクロリド,バナジウムトリブトキシド,バナジルジクロリド,バナジルビスアセチルアセトナート,バナジルトリアセチルアセトナート,ジベンゼンバナジウム,ジシクロペンタジエニルバナジウム,ジシクロペンタジエニルバナジウムジクロリド,シクロペンタジエニルバナジウムジクロリド,ジシクロペンタジエニルメチルバナジウムなどが挙げられる。
【0034】ニオブ化合物の具体例としては、五塩化ニオブ,テトラクロロメチルニオブ,ジクロロトリメチルニオブ,ジシクロペンタジエニルニオブジクロリド,ジシクロペンタジエニルニオブトリヒドリド,ペンタブトキシニオブなどが挙げられる。タンタル化合物の具体例としては、五塩化タンタル,ジクロルトリメチルタンタル,ジシクロペンタジエニルタンタルトリヒドリド,ペンタブトキシニオブなどが、クロム化合物の具体例としては、三塩化クロム,テトラブトキシクロム,テトラメチルクロム,ジシクロペンタジエニルクロム,ジベンゼンクロムなどが挙げられる。さらに、その他の遷移金属化合物として、上記遷移金属化合物をマグネシウム化合物やケイ素化合物などの担体に担持したものを用いることができるし、上記遷移化合物を電子供与性化合物で変性したものも用いることができる。これらの遷移金属化合物の中でも特に好ましいものは、チタニウム化合物及びジルコニウム化合物である。また、(ロ)接触成分として用いられる有機アルミニウム化合物と縮合剤との接触生成物は、各種の有機アルミニウム化合物と縮合剤とを接触させて得られるものである。ここで、有機アルミニウム化合物としては、通常一般式(IX)
AlR93 ・・・(IX)
〔式中、R9 は炭素数1〜8のアルキル基を示す。〕で表わされる有機アルミニウム化合物が挙げられる。上記、有機アルミニウム化合物としては、例えばトリメチルアルミニウム,トリエチルアルミニウム,トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウムなどが挙げられるが、これらの中でトリメチルアルミニウムが好適である。また、縮合剤としては、典型的なものとして水が挙げられるが、この他にトリアルキルアルミニウムが縮合反応する任意のもの、例えば硫酸銅5水塩,無機物や有機物への吸着水など、各種のものが挙げられる。該有機アルミニウム化合物と縮合剤との接触生成物の具体例としては、一般式(X)
【0035】
【化17】


【0036】〔式中、qは0〜50の整数、好ましくは5〜30の整数を示し、R9 は前記と同じである。〕で表される鎖状アルキルアルミノキサン、あるいは一般式(XI)
【0037】
【化18】


【0038】〔式中、rは2〜50の整数、好ましくは5〜30の整数を示し、R9 は前記と同じである。〕で表される環状アルキルアルミノキサンなどが挙げられる。
【0039】一般に、トリアルキルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物と水との接触生成物は、上述の鎖状アルキルアルミノキサンや環状アルキルアルミノキサンとともに、未反応のトリアルキルアルミニウム,各種の縮合生成物の混合物、さらには、これらが複雑に会合した分子であり、これらはトリアルキルアルミニウムと縮合剤である水との接触条件によって様々な生成物となる。この際のアルキルアルミニウム化合物と水との接触方法には特に限定はなく、公知の手法に準じて反応させればよい。例えば、■有機アルミニウム化合物を有機溶剤に溶解しておき、これを水と接触させる方法、■重合時に当初有機アルミニウム化合物を加えておき、後に水を添加する方法、さらには■金属塩などに含有されている結晶水,無機物や有機物への吸着水を有機アルミニウム化合物と反応させる方法などがある。なお、上記の水にはアンモニア,エチルアミンなどのアミン、硫化水素などの硫黄化合物,亜燐酸エステルなどの燐化合物などが20%程度まで含有されていてもよい。また、この反応は無溶媒下でも進行するが、溶媒中で行なうことが好ましく、好適な溶媒としては、ヘキサン,ヘプタン,デカン等の脂肪族炭化水素あるいはベンゼン,トルエン,キシレンなどの芳香族炭化水素を挙げることができる。
【0040】この接触生成物(例えばアルキルアルミノキサン)は、上記の接触反応後、含水化合物などを使用した場合には、固体残渣を濾別し、濾液を常圧下あるいは減圧下で30〜200℃の温度、好ましくは40〜150℃の温度で、20分〜8時間、好ましくは30分〜5時間の範囲で溶媒を留去しつつ熱処理したものが好ましい。この熱処理にあたっては、温度は各種の状況によって適宜定めればよいが、通常は、上記範囲で行う。一般に、30℃未満の温度では、効果が発現せず、また200℃を超えるとアルキルアルミノキサン自体の熱分解が起こり、いずれも好ましくない。そして、熱処理の処理条件により反応生成物は、無色の固体又は溶液状態で得られる。このようにして得られた生成物を、必要に応じて炭化水素溶媒で溶解あるいは希釈して触媒溶液として使用することができる。
【0041】このような(ロ)触媒成分として用いる有機アルミニウム化合物と縮合剤との接触生成物、特にアルキルアルミノキサンの好適な例は、プロトン核磁気共鳴スペクトルで観測されるアルミニウム−メチル基(Al−CH3 ) 結合に基づくメチルプロトンシグナル領域における高磁場成分が50%以下のものである。つまり、上記の接触生成物を室温下、トルエン溶媒中でそのプロトン核磁気共鳴( 1H−NMR)スペクトルを観測すると、「Al−CH3 」に基づくメチルプロトンシグナルはテトラメチルシラン(TMS)基準において1.0〜−0.5ppmの範囲に見られる。TMSのプロトンシグナル(0ppm)が「Al−CH3 」に基づくメチルプロトン観測領域にあるため、この「Al−CH3 」に基づくメチルプロトンシグナルを、TMS基準におけるトルエンのメチルプロトンシグナル2.35ppmを基準に測定し高磁場成分(即ち、−0.1〜−0.5ppm)と他の磁場成分(即ち、1.0〜−0.1ppm)とに分けたときに、該高磁場成分が全体の50%以下、好ましくは45〜5%のものが触媒成分として好適に使用できる。
【0042】次に、(ハ)接触成分として用いられる遷移金属化合物と反応してイオン性の錯体を形成しうる化合物については特に制限はないが、カチオンと複数の基が元素に結合したアニオンとからなる化合物、特にカチオンと複数の基が元素に結合したアニオンとからなる配位錯化合物を好適に用いることができる。このようなカチオンと複数の基が元素に結合したアニオンとからなる化合物としては、周期律表のIIIB族,IVB 族,VB族,VIB 族,VIIB族,VIII族,IA族,IB族,IIA 族,IIB 族,IVA 族及びVIIA族から選ばれる元素を含むカチオンと複数の基が周期律表のVB族,VIB 族,VIIB族,VIII族,IB族,IIB 族,IIIA族,IVA 族及びVA族から選ばれる元素に結合したアニオンとからなる化合物、例えば一般式(XII)又は(XIII)(〔L1 −R10u+V (M2 1 2 ・・・Ze (e-f)-W ・・・(XII)又は(〔L2 u+V (M3 1 2 ・・・Ze (e-f)-W ・・・(XIII) (但し、L2 はM4 ,R11125 ,R133 C又はR145 である)〔式中、L1 はルイス塩基、M2 及びM3 はそれぞれ周期律表のVB 族,VIB 族,VIIB族,VIII族,IB 族,IIB 族,IIIA族,IVA 族及びV族から選ばれる元素、M4 及びM5 はそれぞれ周期律表のIIIB族,IV族,V族,VIB 族,VIIB族,VIII族,I族,IB 族,IIA 族,IIB 族及びVIIA族から選ばれる元素、Z1 〜Zeはそれぞれ水素原子,ジアルキルアミノ基,アルコキシ基,炭素数1〜20のアルコキシ基,炭素数6〜20のアリールオキシ基,炭素数1〜20のアルキル基,炭素数6〜20のアリール基,アルキルアリール基,アリールアルキル基,炭素数1〜20のハロゲン置換炭化水素基,炭素数1〜20のアシルオキシ基,有機メタロイド基又はハロゲン原子を示し、Z1 〜Ze ははその2以上が互いに結合して環を形成していてもよい。R10は水素原子,炭素数1〜20のアルキル基,炭素数6〜20のアリール基,アルキルアリール基又はアリールアルキル基を示し、R11及びR12はそれぞれシクロペンタジエニル基,置換シクロペンタジエニル基,インデニル基又はフルオレニル基、R13は炭素数1〜20のアルキル基,アリール基,アルキルアリール基又はアリールアルキル基を示す。R14はテトラフェニルポルフィリン,フタロシアニンなどの大環状配位子を示す。fはM2,M3 の原子価で1〜7の整数、eは2〜8の整数、uは〔L1 −R10〕,〔L2 〕のイオン価数で1〜7の整数、vは1以上の整数、w=(v×u)/(e−f)である。〕で表わされる化合物である。
【0043】ここで、上記L1 で示されるルイス塩基の具体例としては、アンモニア,メチルアミン,アニリン,ジメチルアミン,ジエチルアミン,N−メチルアニリン,ジフェニルアミン,トリメチルアミン,トリエチルアミン,トリ−n−ブチルアミン,N,N−ジメチルアニリン,メチルジフェニルアミン,ピリジン;2,2’−ビピリジン,p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン,p−ニトロ−N,N−ジメチルアニリン,フェナントロリンなどのアミン類、トリエチルフォスフィン,トリフェニルフォスフィン,ジフェニルフォスフィンなどのフォスフィン類、ジメチルエーテル,ジエチルエーテル,テトラヒドロフランジオキサンなどのエーテル類、ジエチルチオエーテル,テトラヒドロチオフェンなどのチオエーテル類、エチルベンゾエートなどのエステル類、アセトニトリル,ベンゾニトリルなどのニトリル類などが挙げられる。
【0044】また、M2 及びM3 の具体例としては、B,Al,Si,P,As,Sbなど、M4 の具体例としては、Li,Na,Ag,Cu,Br,I,I3 など、M5の具体例としては、Mn,Fe,Co,Ni,Znなどが挙げられる。Z1 〜Ze の具体例としては、例えば、ジアルキルアミノ基としてジメチルアミノ基,ジエチルアミノ基;炭素数1〜20のアルコキシ基としてメトキシ基,エトキシ基,n−ブトキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基としてフェノキシ基,2,6−ジメチルフェノキシ基,ナフチルオキシ基、炭素数1〜20のアルキル基としてメチル基,エチル基,n−プロピル基,iso−プロピル基,n−ブチル基,n−オクチル基,2−エチルヘキシル基、炭素数6〜20のアリール基,アルキルアリール基若しくはアリールアルキル基としてフェニル基,p−トリル基,ベンジル基,ペンタフルオロフェニル基,3,5−ジ(トリフルオロメチル)フェニル基,4−ターシャリーブチルフェニル基,2,6−ジメチルフェニル基,3,5−ジメチルフェニル基,2,4−ジメチルフェニル基,2,3−ジメチルフェニル基,1,2−ジメチルフェニル基、炭素数1〜20のハロゲン置換炭化水素基としてp−フルオロフェニル基,3,5−ジフルオロフェニル基,ペンタクロロフェニル基,3,4,5−トリフルオロフェニル基,ペンタフルオロフェニル基,3,5−ジ(トリフルオロメチル)フェニル基、ハロゲン原子としてF,Cl,Br,I;有機メタロイド基として五メチルアンチモン基,トリメチルシリル基,トリメチルゲルミル基,ジフェニルアルシン基,ジシクロヘキシルアンチモン基,ジフェニル硼素基が挙げられる。R10,R13の具体例としては先に挙げたものと同様なものが挙げられる。R11及びR12の置換シクロペンタジエニル基の具体例としては、メチルシクロペンタジエニル基,ブチルシクロペンタジエニル基,ペンタメチルシクロペンタジエニル基などのアルキル基で置換されたものが挙げられる。ここで、アルキル基は通常炭素数が1〜6であり、置換されたアルキル基の数は1〜4の整数で選ぶことができる。
【0045】上記一般式(XII),(XIII)の化合物の中では、M2 ,M3 が硼素であるものが好ましい。一般式(XII),(XIII)の化合物の中で、具体的には、下記のものを特に好適に使用できる。例えば、一般式(XII)の化合物としては、テトラフェニル硼酸トリエチルアンモニウム,テトラフェニル硼酸トリ(n−ブチル)アンモニウム,テトラフェニル硼酸トリメチルアンモニウム,テトラフェニル硼酸テトラエチルアンモニウム,テトラフェニル硼酸メチルトリ(n−ブチル)アンモニウム,テトラフェニル硼酸ベンジルトリ(n−ブチル)アンモニウム,テトラフェニル硼酸ジメチルジフェニルアンモニウム,テトラフェニル硼酸メチルトリフェニルアンモニウム,テトラフェニル硼酸トリメチルアニリニウム,テトラフェニル硼酸メチルピリジニウム,テトラフェニル硼酸ベンジルピリジニウム,テトラフェニル硼酸メチル(2−シアノピリジニウム),テトラフェニル硼酸トリメチルスルホニウム,テトラフェニル硼酸ベンジルメチルスルホニウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリエチルアンモニウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリ(n−ブチル)アンモニウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリフェニルアンモニウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸テトラブチルアンモニウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸テトラエチルアンモニウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸〔メチルトリ(n−ブチル)アンモニウム〕,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸〔ベンジルトリ(n−ブチル)アンモニウム〕,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸メチルジフェニルアンモニウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸メチルトリフェニルアンモニウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸ジメチルジフェニルアンモニウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸アニリニウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸メチルアニリニウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸ジメチルアニリニウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリメチルアニリニウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸ジメチル(m−ニトロアニリニウム),テトラ(ペンタフルオロフェニルメチル)硼酸ジメチル(p−ブロモアニリニウム),テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸ピリジニウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸(p−シアノピリジニウム),テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸(N−メチルピリジニウム),テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸(N−ベンジルピリジニウム),テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸(O−シアノ−N−メチルピリジニウム),テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸(p−シアノ−N−メチルピリジニウム),テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸(p−シアノ−N−ベンジルピリジニウム),テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリメチルスルホニウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸ベンジルジメチルスルホニウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸テトラフェルホスホニウム,テトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)硼酸ジメチルアニリニウム,ヘキサフルオロ砒素酸トリエチルアンモニウムトウなどが挙げられる。
【0046】一方、一般式(XIII)の化合物としては、テトラフェニル硼酸フェロセニウム,テトラフェニル硼酸銀,テトラフェニル硼酸トリチル,テトラフェニル硼酸(テトラフェニルポルフィリンマンガン),テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸フェロセニウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸デカメチルフェロセニウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸アセチルフェロセニウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸ホルミルフェロセニウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸シアノフェロセニウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸銀,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸トリチル,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸リチウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸ナトリウム,テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸(テトラフェニルポルフィリンマンガン),テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸(テトラフェニルポルフィリン鉄クロライド),テトラ(ペンタフルオロフェニル)硼酸(テトラフェニルポルフィリン亜鉛),テトラフルオロ硼酸銀,ヘキサフルオロ砒素酸銀,ヘキサフルオロアンチモン酸銀などが挙げられる。そして、一般式(XII) ,(XIII)以外の化合物としては、例えば、トリ(ペンタフルオロフェニル)硼酸,トリ〔3,5−ジ(トリフルオロメチル)フェニル〕硼酸,トリフェニル硼酸なども使用することができる。
【0047】本発明においては、上記(イ)触媒成分及び(ロ)触媒成分、又は(イ)触媒成分及び(ハ)触媒成分とともに、所望により(ニ)成分として有機金属化合物を併用することができる。この所望により併用される(ニ)有機金属化合物としては、一般式(XIV)M6(R15S ・・・(XIV)で表わされる化合物が用いられる。この一般式(XIV)において、R15は、炭素数1〜20のアルキル基,炭素数2〜20のアルケニル基,炭素数3〜20のシクロアルキル基,炭素数6〜20のアリール基あるいは炭素数7〜20のアラルキル基を示す。具体的には、例えば、メチル基,エチル基,n−プロピル基,i−プロピル基,n−ブチル基,i−ブチル基,ヘキシル基,2−エチルヘキシル基,フェニル基などが挙げられる。そして、M6 はリチウム,ナトリウム,カリウム,マグネシウム,亜鉛,カドミウム,アルミニウム,ホウ素,ガリウム,ケイ素あるいはスズを示す。また、sはM6 の原子価を表わす。一般式(XIV)で表わされる化合物としては、様々なものがある。具体的には、メチルリチウム,エチルリチウム,プロピルリチウム,ブチルリチウムなどのアルキルリチウム化合物、ジエチルマグネシウム,エチルブチルマグネシウム,ジノルマルブチルマグネシウムなどのアルキルマグネシウム化合物、ジメチル亜鉛,ジエチル亜鉛,ジプロピル亜鉛,ジブチル亜鉛などのジアルキル亜鉛化合物、トリメチルガリウム,トリエチルガリウム,トリプロピルガリウムなどのアルキルガリウム化合物,トリエチルホウ素,トリプロピルホウ素,トリブチルホウ素などのアルキルホウ素化合物、テトラエチルスズ,テトラプロピルスズ,テトラフェニルスズなどのアルキルスズ化合物などが挙げられる。また、M6 が、アルミニウムである場合の化合物としては、様々なものがある。具体的には、トリメチルアルミニウム,トリエチルアルミニウム,トリイソプロピルアルミニウム,トリイソブチルアルミニウム,トリn−ヘキシルアルミニウム,トリオクチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム化合物などが挙げられる。
【0048】本発明の方法において用いられる触媒における各成分の使用割合は、触媒として(イ)成分と(ロ)成分とを用いる場合には、(イ)成分中の遷移金属(例えばチタン)に対する(ロ)成分中のアルミニウムのモル比が1〜106 、好ましくは10〜104 の範囲にあるような割合で両成分を用いるのが望ましい。一方、(イ)成分と(ハ)成分とを用いる場合には、(イ)成分に対する(ハ)成分のモル比が0.01〜100、好ましくは1〜10の範囲にあるような割合で両成分を用いるのが望ましい。この場合、(イ)成分と(ハ)成分は予め接触させ、接触処理物を分離,線上して用いてもよいし、重合系内で接触させてもよい。また、所望に応じて用いられる(ニ)成分の使用量は、該(イ)成分1モルに対して、通常0〜100モルの範囲で選ばれる。この(ニ)成分を用いることにより、重合活性の向上を図ることができるが、あまり多く用いても添加量に相当する効果は発現しない。なお、この(ニ)成分は、(イ)成分,(ハ)成分あるいは(イ)成分と(ハ)成分との接触処理物と接触させて用いてもよい。この接触は、予め接触させてもよいし、重合系内へ順次添加して接触させてもよい。
【0049】また、スチレン系モノマーと触媒との使用割合については特に制限はないが、通常スチレン系モノマー/遷移金属化合物のモル比が10〜1012、好ましくは102 〜108 の範囲にあるように選ばれる。本発明における重合反応においては、一般的には重合温度は0〜120℃、好ましくは10〜80℃の範囲で、重合時間は1秒〜10時間の範囲で選定すればよい。重合方法としては塊状,溶液,懸濁重合のいずれも可能である。また、溶液重合にあっては、使用できる溶媒としてはペンタン,ヘキサン,ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素、ベンゼン,トルエン,キシレンなどの芳香族炭化水素などがある。これらの中でも脂肪族炭化水素,芳香族炭化水素が好ましい。この場合、モノマー/溶媒(体積比)は任意に選択することができる。
【0050】本発明においては、このようにして得られた該(A)繰り返し単位からなるシンジオタクチンク構造を有するスチレン系重合体、又は該(A)繰り返し単位と、(B)繰り返し単位及び/又は(C)繰り返し単位とを含むシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体に、化学変性剤を作用させて化学変性させる。該化学変性剤としては、ベンゼン環への置換反応試剤,α位水素置換反応試剤及び側鎖炭素−炭素二重結合への付加反応試剤の中から選ばれた少なくとも一種が用いられる。ここで、スチレン系重合体としては、該(A)繰り返し単位からなる重合体を用いる場合には、化学変性剤としては、ベンゼン環への置換反応試剤,α位水素置換反応試剤のいずれも用いることができるし、(A)繰り返し単位と(B)繰り返し単位及び/又は(C)繰り返し単位とを含有する共重合体を用いる場合、化学変性剤としては、ベンゼン環への置換反応剤,α位水素置換反応試剤,側鎖炭素−炭素二重結合への付加反応試剤のいずれも用いることができる。
【0051】ベンゼン環への置換反応試剤としては、ニトロ化試剤,アシル化試剤,スルホン化試剤,メタル化試剤又はクロロスルホン化試剤が用いられる。ニトロ化試剤を用いてニトロ基を導入した場合には、所望によりアミノ基へ変換することができる。また、メタル化試剤を用いてメタル化、例えば、リチウム化した場合には、所望によりアルデヒド、カルボン酸,チオール,アルコール,ケトンなどに変換することができる。また、α位水素置換反応試剤としては、ラジカル反応試剤又はメタル化試剤が用られる。ラジカル反応試剤よる反応としては、例えば、N−ブロモコハク酸イミドによるブロモ化反応、無水マレイン酸との反応、その他ラジカル反応などが挙げられる。また、メタル化試剤を用いてメタル化した場合には、前記と同様に所望によりアルデヒド,カルボン酸,チオール,アルコール,ケトンなどに変換することができる。さらに、側鎖炭素−炭素二重結合への付加反応試剤としては、ヒドロキシル化試剤(例えば、過マンガン酸カリウムなど),ラジカル付加試剤,メタル化試剤(例えば、アルキルリチウムなど)、ホウ水素化剤,硫酸水素アルキル化剤又はハロゲン化剤(例えば、ハロゲン元素,ハロゲン化水素)が用いられる。また、アルキルリチウム付加反応などによりメタル化した場合には、前記と同様に所望により、アルデヒド,カルボン酸,チオール,アルコール,ケトンなどに変換することができる。
【0052】これらの化学変性剤による化学変性処理においては、原料のシンジオタクチックスチレン系重合体は、平均粒径が150μm以下のパウダー状のものが好ましく、また反応系としては、均一系,不均一系,膨潤系のいずれも用いることができる。均一系で反応させる際には、重合体を溶解させる溶媒として、通常、トリクロロベンゼン,デカリン,ピリジンなどが用いられるが、比較的低分子量体の場合は、クロロホルム,塩化メチルなども用いることができる。また、不均一系で反応させる際には、重合体を懸濁させる溶媒として、水,アルコール,その他極性溶媒などが用いられる。一方、膨潤系で反応させる際には、重合体を膨潤させる溶媒として、通常、二硫化炭素が用いられるが、比較的高分子単量体の場合は、クロロホルム,塩化メチレンなども用いることができる。これらの中で、不均一系及び膨潤系が好ましい。
【0053】この化学変性処理における温度,時間,反応試剤の使用量などについては、特に制限はく、それぞれの反応は、アタクチックポリスチレンにおいて一般に行われている条件に従って実施することができる。このようにして、結晶性化学変性スチレン系重合体が得られるが、その変性量は10-4〜15モル%の範囲にあることが必要である。変性量が10-4モル%未満では、本発明の目的が十分に達せられず、また15モル%を超えると、結晶性が損なわれる。次に、本発明の結晶性化学変性スチレン系重合体は、(A)一般式(I)
【0054】
【化19】


【0055】〔式中、R1 及びmは前記と同じである。〕で表わされるシンジオタクチック構造の繰り返し単位と、(D)(a)一般式(IV)
【0056】
【化20】


【0057】〔式中、Xは−NO2 ,−SO3 H,−SOCl2 ,−COR7 (但し、R7 は炭素数1〜8の炭化水素基)又は一価の金属原子を示し、R1 及びmは前記と同じである。〕で表わされる繰り返し単位、(b)一般式(V)
【0058】
【化21】


【0059】〔式中、Yは一価の金属原子,ハロゲン原子,−OOH基又は無水マレイン酸残基を示し、R1 及びmは前記と同じである。〕で表わされる繰り返し単位、(c)一般式(VI)
【0060】
【化22】


【0061】〔式中、Z1 及びV1 は、それぞれハロゲン原子、一価の金属原子又は炭素原子,酸素原子,窒素原子,硫黄原子,ケイ素原子及びスズ原子のいずれか一種以上を含む置換基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよく、R2 ,R3,R4 及びnは前記と同じである。〕で表わされる繰り返し単位及び(d)一般式(VII)
【0062】
【化23】


【0063】〔式中、Z2 及びV2 は、それぞれハロゲン原子、一価の金属原子又は炭素原子,酸素原子,窒素原子,硫黄原子,ケイ素原子及びスズ原子のいずれか一種以上を含む置換基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよく、R5 ,R6及びpは前記と同じである。〕で表わされる繰り返し単位の中から選ばれた少なくとも一種からなる化学変性単位とを含有するものである。
【0064】この結晶性化学変性スチレン系重合体においては、前記(D)化学変性単位の含有量(化学変性量)は10-4〜15モル%の範囲にあることが必要である。この含有量が10-4モル%未満では、本発明の目的が十分に達せられず,また15モル%を超えると、結晶性が損なわれる。また、1,2,4−トリクロロベンゼン中、135℃の温度で測定した0.05g/デシリットルの濃度での還元粘度が、0.01〜20デシリットル/gの範囲にあることが必要である。この還元粘度が0.01デシリットル/g未満では、物性が不十分であり、一方20デシリットル/gを超えると加工性が低下する。さらに、該重合体は、主鎖がシンジオタクチック構造で結晶性を有し、その結晶融解温度が230〜350℃の範囲にある。ここで、結晶融解温度とは、示差走査熱量計により、一度窒素雰囲気下で融解したのち、常温に戻し、次いで昇温する過程で認められる融解温度のことをいう。この結晶性化学変性スチレン系重合体は、前記の本発明の製造方法に従い、原料のシンジオタクチックスチレン系重合体及び化学変性剤を適宜選び化学変性することにより、容易に製造することができる。
【0065】
【実施例】次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
実施例1(シンジオタクチックポリスチレンのアシル化変性物の製造)
公知の方法に従って製造した重量平均分子量430,000のシンジオタクチックポリスチレン(149μm以下の粒径)1.0gを、塩化アルミニウム1.84ミリモル、アセチルクロリド1.84ミリモルを含む二硫化炭素5ミリリットルのスラリー溶液に添加し、攪拌しながら、20℃で15分間反応させた。反応終了後、多量のメタノールへ投入して反応を停止し、十分洗浄した後、乾燥した。収量は1.053gであった。1H−NMRより、2.36ppm付近にアセチルクロリド由来のメチル基が認められ、これより求めたアシル化率は13.0モル%であった。このものの融点を示差走査熱量計(DSC)より、下記の条件で測定〔(4)で観察される融点(Tm)を求める。〕したところ、236.7℃であった。
示差走査熱量計の測定条件(1)30〜305℃ 20℃/分(昇温)
(2)305℃ 5分保持(3)305〜30℃ 7℃/分(降温)
(4)30〜300℃ 20℃/分(昇温)
また、メチルエチルケトン(MEK)不溶部は97重量%であり、化学変性前のシンジオタクチックポリスチレンの98重量%とほぼ同一であった。さらに、1,2,4−トリクロロベンゼン中、135℃で測定した濃度0.05g/デシリットルの還元粘度は2.02デシリットル/gであった。
【0066】実施例2(シンジオタクチックポリスチレンのニトロ化変性物の製造)
実施例1で示したシンジオタクチックポリスチレン2.0gを、98重量%濃硫酸20ミリリットルと67重量%硝酸20ミリリットルとの混合液に分散し、80℃で10分間反応させた。反応終了後、重合体パウダーを回収し、十分な水で洗浄した後、メタノールで置換し乾燥した。その結果、化学変性ポリスチレン2.02gを得た。元素分析の結果、ニトロ化率は2.1モル%であり、融点は267.9℃,MEK不溶部は98重量%であった。また、還元粘度は1.93デシリットル/gであった。
【0067】実施例3(不飽和基を用いた化学変性シンジオタクチックポリスチレンの製造)
(1)(不飽和基を有するシンジオタクチックポリスチレン共重合体の製造)
内容積0.5リットルの攪拌機付き反応容器を窒素で置換したのち、70℃に加熱し、これに十分乾燥したトルエン300ミリリントルとスチレン200ミリリントルとp−(3−ブテニル)スチレン30ミリモルとの混合物を加え、アルミノキサン12ミリモルとTIBA12ミリモルを加え、30分攪拌を行った。次いで、ペンタメチルシクロペンタジエニルチタニウムトリメトキシドを15マイクロモル加え、2時間反応を行った。反応終了後、多量のメタノールに投入し、洗浄,乾燥して共重合体10.5gを得た。得られ共重合体を、メチルエチルケトンを抽出溶媒としてソックスレー抽出を行ったところ98重量%が不溶部であった。また、不溶部を1,2,4−トリクロロベンゼン溶液中、135℃で測定した濃度0.05g/デシリットルにおける還元粘度は2.0デシリットル/gであった。また、示差走査熱量計〔セイコー電子(株)製,DSC−200〕を用いて、上記共重合体のサンプル5.7mgを、50〜310℃に20℃/分の速度で昇温後、310〜30℃に20℃/分の速度で降温した。さらに、再度30〜315℃に20℃/分の速度で昇温した際の吸熱パターンを観測した。その結果、上記共重合体は、245℃に融解温度を有することを確認した。また、13C−NMRの測定により、シンジオタクティシティーはラセミペンタッドで92%以上であった。IRには、1630cm-1にスチレン単位に基因する炭素−炭素二重結合の伸縮振動が認められ、スチレンとの共重合反応は主にp−(3−ブテニル)スチレンのオレフィン単位で進行していることが判明した。また、p−(3−ブテニル)スチレン単位の含有量は、3.0モル%であった。
【0068】(2)化学変性物の製造(1)で製造したスチレン系共重合体(149μm以下の粒径)2.0gを、ヘキサン50ミリリットルに分散し、窒素バブリングにより系内の水分を除去した。これに、n−ブチルリチウム5ミリモルを添加し、70℃で30分間反応させた。このようにして得られたメタル化物の一部を、第1表に示しす反応試剤に投じ、さらに反応を行った。反応終了後、メタノールを投入し、重合体を回収した。その結果を第1表に示す。
【0069】
【表1】


【0070】なお、表中(注):トルエン20ミリリットル,温度70℃,時間30分3−(2)−1及び3−(2)−2の赤外吸収スペクトルには、3−(1)で認められた1630cm-1の吸収は消失し、新たに第1表に示す吸収が現われた。
【0071】比較例1実施例1において、二硫化炭素30ミリリットル,塩化アルミニウム37.5ミリモル及びアセチルクロリド37.5ミリモルを用いた以外は、実施例1と同様にアシル化を実施した。その結果、アシル化物1.14gが得られた。このもののアシル化率は37.5モル%であり、融点を示さず、MEK不溶部は20重量%であった。
【0072】比較例2実施例2において、反応時間を30分とした以外は、実施例2と同様にニトロ化を実施した。その結果、ニトロ化物2.23gを得た。このもののニトロ化率は31.0モル%であり、融点は示さず、MEK不溶部は62重量%であった。
【0073】
【発明の効果】以上、本発明によると、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体又は側鎖に二重結合を有するスチレン系共重合体を化学変性剤で化学変性することにより、高性能化のための多種の官能基や置換基が導入された、非晶質の副生重合体の少ないシンジオタクチック構造のスチレン系重合体を、結晶性を損なうことなく、簡便に、かつ効率よく製造することができる。このようにして得られた結晶性化学変性スチレン系重合体は、相溶化能,接着性,印刷性,帯電防止性などが付与され、複合材料などの素材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)一般式
【化1】


〔式中、R1 は水素原子,アルキル基,アルコキシ基,アリール基又はケイ素含有基を示し、mは1〜5の整数であり、mが複数の場合、m個のR1 は同一でも異なるものであってもよい。〕で表わされる繰り返し単位からなるシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体、又は前記(A)繰り返し単位と(B)一般式
【化2】


〔式中、R2 は炭素数1〜20の炭化水素基、R3 及びR4 は、それぞれ水素原子,ハロゲン原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、nは1〜4の整数であり、nが複数の場合、n個のR4 は同一でも異なるものであってもよい。〕で表わされる繰り返し単位及び/又は(C)一般式
【化3】


〔式中、R5 及びR6 は、それぞれ水素原子,ハロゲン原子あるいは炭素数1〜8の炭化水素基を示し、pは1〜4の整数であり、pが複数の場合、p個のR6は同一でも異なるものであってもよい。〕で表わされる繰り返し単位とを含むシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体に、ニトロ化試剤,アシル化試剤,スルホン化試剤,メタル化試剤又はクロロスルホン化試剤であるベンゼン環への置換反応試剤,ラジカル反応試剤又はメタル化試剤であるα位水素置換反応試剤及びヒドロキシル化試剤,ラジカル付加試剤,メタル化試剤,ホウ水素化剤,硫酸水素アルキル化剤又はハロゲン化剤である側鎖炭素−炭素二重結合への付加反応試剤の中から選ばれた少なくとも一種を作用させて、変性量が10-4〜15モル%となるように化学変性することを特徴とする結晶性化学変性スチレン系重合体の製造方法。
【請求項2】 (A)一般式
【化4】


〔式中、R1 は水素原子,アルキル基,アルコキシ基,アリール基又はケイ素含有基を示し、mは1〜5の整数であり、mが複数の場合、m個のR1 は同一でも異なるものであってもよい。〕で表わされるシンジオタクチック構造の繰り返し単位と、(D)(a)一般式
【化5】


〔式中、Xは−NO2 ,−SO3 H,−SOCl2 ,−COR7 (但し、R7 は炭素数1〜8の炭化水素基)又は一価の金属原子を示し、R1 及びmは前記と同じである。〕で表わされる繰り返し単位、(b)一般式
【化6】


〔式中、Yは一価の金属原子,ハロゲン原子,−OOH基又は無水マレイン酸残基を示し、R1 及びmは前記と同じである。〕で表わされる繰り返し単位、(c)一般式
【化7】


〔式中、Z1 及びV1 はそれぞれハロゲン原子,一価の金属原子又は炭素原子,酸素原子,窒素原子,硫黄原子,ケイ素原子及びスズ原子のいずれか一種以上を含む置換基を示し、それらは互いに同一でも異なるものであってもよく、R2 は炭素数1〜20の炭化水素基、R3 及びR4 は、それぞれ水素原子,ハロゲン原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、nは1〜4の整数であり、nが複数の場合、n個のR4 は同一でも異なるものであってもよい。〕で表わされる繰り返し単位及び(d)一般式
【化8】


〔式中、Z2 及びV2 はそれぞれハロゲン原子,一価の金属原子あるいは炭素原子,酸素原子,窒素原子,硫黄原子,ケイ素原子及びスズ原子のいずれか一種以上を含む置換基を示し、それらは互いに同一でも異なるものであってもよく、R5 及びR6 は、それぞれ水素原子,ハロゲン原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、pは1〜4の整数であり、pが複数の場合、p個のR6 は同一でも異なるものであってもよい。また、R2 は前記と同じである。〕で表わされる繰り返し単位の中から選ばれた少なくとも一種からなる化学変性単位とを含有し、かつ該(D)化学変性単位の含有量が10-4〜15モル%、1,2,4−トリクロロベンゼン中、135℃の温度で測定した0.05g/デシリットルの濃度での還元粘度が0.01〜20デシリットル/g及び結晶融解温度が230〜350℃の範囲にあることを特徴とする結晶性化学変性スチレン系重合体。

【特許番号】特許第3115944号(P3115944)
【登録日】平成12年9月29日(2000.9.29)
【発行日】平成12年12月11日(2000.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−130346
【出願日】平成4年5月22日(1992.5.22)
【公開番号】特開平5−320250
【公開日】平成5年12月3日(1993.12.3)
【審査請求日】平成10年6月25日(1998.6.25)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【参考文献】
【文献】特開 平1−146912(JP,A)
【文献】特開 昭62−104818(JP,A)
【文献】特開 平1−95113(JP,A)
【文献】特開 平4−88004(JP,A)