化学強化ガラスの強度測定方法、化学強化ガラスの割れ再現方法及び化学強化ガラスの製造方法
【課題】現実の落下破壊の状況をより適切に反映し、化学強化ガラスにスロークラック割れを再現させることが可能な化学強化ガラスの強度測定方法、化学強化ガラスの割れ再現方法及び化学強化ガラスの製造方法を提供する。
【解決手段】先端部16aの最小断面角度θminが120°未満の尖形形状に形成された圧子16に荷重を加え、先端部16aが化学強化ガラス10の表面10aに対して垂直となるように静的荷重条件下で押し込み、化学強化ガラスが割れるときの荷重を測定する。
【解決手段】先端部16aの最小断面角度θminが120°未満の尖形形状に形成された圧子16に荷重を加え、先端部16aが化学強化ガラス10の表面10aに対して垂直となるように静的荷重条件下で押し込み、化学強化ガラスが割れるときの荷重を測定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学強化により圧縮応力層が形成された化学強化ガラスの強度測定方法、化学強化ガラスの割れ再現方法、及び化学強化ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、携帯情報端末(PDA)等のフラットパネルディスプレイ装置において、ディスプレイの保護ならびに美観を高めるために、画像表示部分よりも広い領域となるように薄い板状のカバーガラスをディスプレイの前面に配置することが行なわれている。このようなフラットパネルディスプレイ装置に対しては、軽量・薄型化が要求されており、そのため、ディスプレイ保護用に使用されるカバーガラスも薄くすることが要求されている。しかし、カバーガラスの厚さを薄くしていくと、強度が低下し、使用中または携帯中の落下などによりカバーガラス自身が割れてしまうことがあり、ディスプレイ装置を保護するという本来の役割を果たすことができなくなるという問題があった。
【0003】
このため従来のカバーガラスは、ガラス板を化学強化することで表面に圧縮応力層を形成しカバーガラスの強度を高めていた(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−105598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フラットパネルディスプレイ装置は持ち運びをするため、カバーガラスが破壊する場合は落下によりガラス面に石などが当たり、その圧入により入るクラックを起点に破壊することが多いと考えられる。すなわち、カバーガラスの強度といっても、曲げ強度よりも圧入に対する高い耐性が求められる。
従来、このようなカバーガラスの強度を評価するためには、カバーガラスの表面にビッカース圧子やヌープ圧子等の先端角度が比較的大きい圧子を押し込み、その周囲から発生するクラックの発生し易さを比較することで、カバーガラスの優劣を評価してきた。しかしながら、上記方法によって評価されたカバーガラスの優劣が、実際の落下破壊におけるカバーガラスの優劣と必ずしも相関しない場合があり、現実の落下破壊の状況をより適切に反映したガラス強度測定方法が望まれていた。また、上記方法におけるガラスの破壊パターンが現実に落下破壊したものと必ずしも一致しない問題があった。
【0006】
実際に、ユーザーがフラットパネルディスプレイ装置を誤って落下させた場合などカバーガラスに衝撃を与えた際に、化学強化したカバーガラスであっても、圧縮応力層を突き抜ける傷を起点にガラスが比較的遅い速度で割れるスロークラックが生じることがある。(以下、このようなガラスの割れ方をスロークラック割れと呼ぶ。)
スロークラック割れはいわゆるエッジ割れや後述するスパイダー割れなどと比較してより低荷重あるいはより低所からの落下で発生し、この点で従来問題とされてきたものとは顕著に異なる。
【0007】
これまで、上記のようなスロークラック割れに対する研究及びスロークラック割れに強いカバーガラスの開発に当たり、スロークラック割れを再現することは非常に難しく、例えば、ビッカース圧子等の先端角度が比較的大きい圧子を押し込むことによっては、スロークラック割れを生じさせることは困難であった。そのため、組み立てられたフラットパネルディスプレイ装置を、相当数地面などに落下させて破壊し、それら割れたガラスから偶然的にスロークラック割れを起こしたガラスを抽出し評価する必要があった。・
【0008】
しかしながら、実際の製品であるフラットパネルディスプレイ装置を地面に落下させてスロークラック割れを再現することは、効率が悪いばかりかフラットパネルディスプレイ装置自体を無駄にしてしまうこととなる。従って、フラットパネルディスプレイ装置が製品となる前の段階で、化学強化ガラスにスロークラック割れを再現させることが望まれていた。
【0009】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、現実の落下破壊の状況をより適切に反映し、化学強化ガラスにスロークラック割れを再現させることが可能な化学強化ガラスの強度測定方法、化学強化ガラスの割れ再現方法及び化学強化ガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の態様を提供するものである。
(1) 表面に圧縮応力層が形成された化学強化ガラスの強度測定方法であって、
先端部の最小断面角度が120°未満の尖形形状に形成された圧子に荷重を加え、前記先端部が化学強化ガラスの表面に対して垂直となるように静的荷重条件下で押し込み、化学強化ガラスが割れるときの前記荷重を測定することを特徴とする化学強化ガラスの強度測定方法。
(2) 前記先端部の最小断面角度は、30°以上であることを特徴とする(1)に記載の化学強化ガラスの強度測定方法。
(3) 表面に圧縮応力層が形成された化学強化ガラスの割れ再現方法であって、
化学強化ガラスに、静的荷重を与えて前記圧縮応力層より深い傷をつけることを特徴とする化学強化ガラスの割れ再現方法。
(4) 先端部の最小断面角度が120°未満の尖形形状に形成された圧子に荷重を加え、前記先端部が化学強化ガラスの表面に対して垂直となるように静的荷重条件下で押し込むことを特徴とする(3)に記載の化学強化ガラスの割れ再現方法。
(5) 前記先端部の最小断面角度は、30°以上であることを特徴とする(4)に記載の化学強化ガラスの割れ再現方法。
(6) 表面に圧縮応力層が形成された化学強化ガラスの製造方法であって、
前記圧子による荷重を変えながら、(1)又は(2)に記載の化学強化ガラスの強度測定方法により閾値を決定し、
該閾値を基準に前記化学強化ガラスの品質を判定する抜き取り検査を行うことを特徴とする化学強化ガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
上記(1)に記載の化学強化ガラスの強度測定方法によれば、先端部の最小断面角度が120°未満の尖形形状に形成された圧子に荷重を加え、先端部が化学強化ガラスの表面に対して垂直となるように静的荷重条件下で押し込み、化学強化ガラスが割れるときの荷重を測定することにより、ガラスが現実に落下した際における地面等への衝突と近似した状況で強度測定することができるので、現実の落下破壊の状況をより適切に反映させることが可能となる。
【0012】
上記(2)に記載の化学強化ガラスの強度測定方法によれば、圧子の先端部の最小断面角度が30°以上であるので、現実の落下破壊の状況をより適切に反映させることが可能となる。
【0013】
上記(3)に記載の化学強化ガラスの割れ再現方法によれば、フラットパネルディスプレイ装置で発生するスロークラック割れを再現することができ、フラットパネルディスプレイ装置自体を実際に落下させなくても、化学強化ガラスのみでスロークラック割れを発生させることができ、新たな硝材の開発などに利用することができる。
【0014】
上記(4)及び(5)に記載の化学強化ガラスの割れ再現方法によれば、フラットパネルディスプレイ装置が地面に落下した状態に近い状態を作り出すことができ、スロークラック割れの再現性を向上させることができる。
【0015】
上記(6)に記載の化学強化ガラスの製造方法によれば、フラットパネルディスプレイ装置が現実に落下した際における状況をより適切に反映させながら、化学強化ガラスの割れ性能をより正確に管理することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1はフラットパネルディスプレイ装置が落下した際にカバーガラスにスロークラック割れが発生する状況を示す模式図である。
【図2】スロークラック割れが発生するメカニズムを模式的に示す図であり、(a)は破壊起点を示す図であり、(b)はクラックを示す図である。
【図3】(a)はスロークラック割れが発生したフラットパネルディスプレイ装置の写真を示す図であり、(b)は破壊起点を上方から見た拡大写真を示す図、(c)は破壊起点を側方から見た写真を示す図である。
【図4】図3(c)の破断面を模式的に示す図である。
【図5】非スロークラック割れが発生したカバーガラスの破壊起点を側方から見た写真を示す図である。
【図6】図5の破断面を模式的に示す図である。
【図7】(a)はアスファルト・コンクリートの拡大写真を示す図であり、(b)は砂の先端の角度分布を示すグラフである。
【図8】本発明の一実施形態のスロークラック割れの再現方法の模式図である。
【図9】(a)及び(b)は圧子の斜視図である。
【図10】図8のスロークラック割れの再現方法における化学強化ガラスの割れが発生するメカニズムを模式的に示す図であり、(a)は破壊起点を示す図であり、(b)はクラックを示す図である。
【図11】実施例1における化学強化ガラスの写真を示す図である。
【図12】(a)は最小断面角度が小さな圧子を押し込んだ化学強化ガラスの状態を説明するための図であり、(b)は最小断面角度が大きな圧子を押し込んだ化学強化ガラスの状態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の化学強化ガラスの強度測定方法、割れ再現方法について説明するが、先ず、フラットパネルディスプレイ装置を落下させたときに発生するスロークラック割れのメカニズムについて説明する。
図1はフラットパネルディスプレイ装置1が落下した際にカバーガラス2にスロークラック割れが発生する状況を示す模式図であり、図2はスロークラック割れが発生するメカニズムを模式的に示す図であり、図3(a)はスロークラック割れが発生したフラットパネルディスプレイ装置の写真を示す図であり、(b)は破壊起点を上方から見た拡大写真を示す図、(c)は破壊起点を側方から見た写真を示す図である。
【0018】
フラットパネルディスプレイ装置は、画像表示部を囲うように略矩形状のフレームが設けられ、カバーガラスがフレーム上に支持されている。図1に示すように、フラットパネルディスプレイ装置1が地面(アスファルト・コンクリート)に落下して、カバーガラス2が下に向いた状態でアスファルト・コンクリート3中の小石4上の砂5等に接触すると、破壊起点Oに圧縮応力が作用しその周りに引張応力が作用する(図2(a))。続いて、破壊起点Oには引張応力が作用しクラックCが伸びて、カバーガラス2が割れる(図2(b))。なお、破壊起点は、カバーガラスの中央部に発生することもあるが、フレームによりカバーガラスの撓みが拘束されるため、フレームに支持された領域の一部に発生することが多い。
【0019】
このときのカバーガラス2の割れは、図3(c)の破断面から明らかなように、圧縮応力層の深さより深い傷が破壊起点となっている。図3(a)及び(b)では、破壊起点から一本のクラックが延びてカバーガラスが2つに割れている。この図3(c)に示す破断面をさらに観察すると、圧縮応力層の深さより深い破壊起点の回りには、鏡のように滑らかなミラー半径の長い鏡面が見られる。
【0020】
図4は、図3(c)の破断面を模式的に示す図である。破断面には、破壊の過程、すなわち、破壊起点、破壊の進行方向、破壊が緩やかに進んだか、急速に進んだかなどの要因が反映される。このスロークラック割れの破断面解析によれば、ミラー半径の長い鏡面は小さな応力により破壊が進行したことを意味しており、このような滑らかな破断面は、クラックが音速に比べてずっと遅い速度で成長したことを意味している。従って、図3(c)の破断面によれば、カバーガラスには、圧縮応力層の深さより深い起点が形成された後、クラックがゆっくり成長し、小さな応力で破壊が進行したことが分かる。このようなスロークラック割れにより割れたカバーガラスは、割れ破片が数ピース〜(場合によっては)数十ピースになる。典型的には、2ピースから20ピースであり、図3(a)及び(b)に示す破壊起点から一本のクラックが延びてカバーガラスが2つに割れた例は、スロークラック割れの象徴的な例である。
【0021】
スロークラック割れであるか否かは、よりミクロには次のようにして判別される。まず、破壊起点がわかるようなものでなければスロークラック割れとはいえない。また、その破壊起点付近を観察して圧縮応力層を突き抜けるような傷すなわち圧縮応力層深さ(いわゆるDOL)よりも深い傷が破壊起点であることが確認された場合はスロークラック割れである。また、鏡面半径が長く、破面断面が鏡面でありミストやハックルが認められない場合はスロークラック割れである。
【0022】
上述したように、スロークラック割れを再現することは非常に難しく、カバーガラスのみを地面に落下させても、偶然にスロークラック割れが発生することがあるとしても再現性が得られない。即ち、スロークラック割れではない割れ方(以下、非スロークラック割れとも呼ぶ。)をする場合が多く発生し、カバーガラスが無駄になってしまう。
【0023】
スロークラック割れと対比する、非スロークラック割れとして、ヌープ圧子をガラス表面に押し込んで生じたカバーガラスの割れについて説明する。図5は、非スロークラック割れによるカバーガラスの破壊起点を側方から見た写真を示す図であり、図6は図5の破断面を模式的に示す図である。
【0024】
この非スロークラック割れの破断面を観察すると、圧縮応力層内に破壊起点が形成され、回りに鏡のように滑らかなミラー半径の短い鏡面が見られ、さらに鏡面の回りには、ミスト面が存在する。この非スロークラック割れの破断面解析によれば、ミラー半径の短い鏡面は大きな応力により破壊が進行したことを意味し、ミスト面は、クラックが急速に成長したことを意味している。従って、図5の破断面によれば、カバーガラスには、圧縮応力層の深さより浅い破壊起点が形成された後、大きな応力で破壊が進行しクラックが急速に成長したことが分かる。非スロークラック割れが生じると、蜘蛛の巣状に延びた複数のクラックにより複数(20枚以上)のガラス片となる(以下、このような割れ方をスパイダー割れとも呼ぶ。)。このように、スロークラック割れと非スロークラック割れとは、全く異なるモードで破壊が生じていることが分かる。
【0025】
非スロークラック割れについては、破壊起点が圧縮応力層内に発生するため、これを防ぐためには表面圧縮応力を大きくすることや圧縮応力層を深くすることが効果的である。しかし、スロークラック割れについては、破壊起点が圧縮応力層を超えた領域に発生するため(傷の深さは典型的には数十〜数百マイクロメートルで、化学強化による圧縮応力層が数〜数十マイクロメートル)、スロークラック割れに強い機械特性を有するカバーガラスを開発する必要がある。そのため、カバーガラスとして使用される化学強化ガラスにスロークラック割れを再現することが今後の研究開発を進めるために非常に重要である。
【0026】
しかしながら、上述のように、ビッカース圧子やヌープ圧子をガラス表面に押し込んだ場合には、カバーガラスに非スロークラック割れが発生し(図5参照)、スロークラック割れを再現することができない。ここで、図7(a)には、アスファルト・コンクリート(横浜にて採取)に含まれる砂や小石の拡大写真を示し、図7(b)には、アスファルト・コンクリートを149箇所観測し、砂や小石の先端角度を横軸に、頻度を縦軸にしたグラフを示す。図7(b)に示すように、アスファルト・コンクリートに含まれる砂や小石は、30°以上120°未満に多く分布しており、ビッカース圧子の先端部の角度(136°)やヌープ圧子の先端部の角度(172.3°及び130°)が含まれる範囲にはあまり分布していない。
【0027】
このようなことから、本発明者らは、ビッカース圧子やヌープ圧子を用いた場合にスロークラック割れが再現できない原因は、従来の圧子の先端部の角度がアスファルト・コンクリートに含まれる砂などに比べて大きいためと仮説を立て、圧子の先端部の角度を実際の砂等の角度分布に近づけることによって、スロークラック割れを再現するための方法を見出した。
【0028】
なお、スロークラック割れとは、上述したように、圧縮応力層の深さより深い破壊起点が形成されて割れが発生したものであり、典型的には、割れ破片が2ピースから20ピースである。逆に言うと、圧縮応力層内の起点から発生した非スロークラック割れは、粉々なガラス片となるので全く異なるモードである。
【0029】
(実施形態)
図8に示すように、本発明の一実施形態の化学強化ガラスの割れ再現方法は、従来のビッカース硬さ試験機11を用いるものであるが、これに限らない。試験機11は、化学強化ガラス10を載置可能な載置台12と、載置台12の上方に配置され圧子16を移動可能に保持する圧子機構(不図示)と、を有している。なお、試験機11は、従来のビッカース硬さ試験機と同様に、不図示のくぼみ測定用レンズや、試料表面形状検出機構などを備えており、これらは化学強化ガラス10の表面を評価するために適宜用いられる。
【0030】
化学強化ガラス10は、表面10a及び下面10bに圧縮応力層が形成されており、表面10aが上方を向くように載置台12上に載置される。また、化学強化ガラス10は、下面10bの全面が載置台12に当接しており、自重による撓みや圧子16の荷重による撓みが載置台12により拘束されるように構成されている。
【0031】
また、圧子16は、正四角錐形状のダイアモンド圧子であり、その先端部(頭頂点)16aを化学強化ガラス10の表面10aに対して垂直となるように配置される。
【0032】
圧子16の先端部16aは、その最小断面角度θminが120°未満、より好ましくは30°以上120°未満となるように形成されている。ここで、図9も参照し、先端部16aの断面角度θとは、化学強化ガラス10の表面10aに垂直(本実施形態の場合、圧子16の底面16bにも垂直)となるように先端部16aを通る圧子16の任意の断面をAとしたとき、当該断面Aの先端部16aにおける角度を意味する。また、先端部16aの最小断面角度θminとは、複数の断面Aの先端部16aにおける断面角度θのうち、最も小さい角度を意味する。例えば、図9において圧子16の先端部16aの最小断面角度θminは、底面16bの対向する二辺のそれぞれの中点と先端部16aとを通り、且つ化学強化ガラス10の表面10aに垂直である断面A´における先端部16aの断面角度θである。
【0033】
このように、化学強化ガラス10の表面10aに対向配置された圧子16は、静的荷重条件下で化学強化ガラス10の表面で押し込まれる。なお、静的荷重条件とは、化学強化ガラス10の表面10aに荷重を印加して1〜200μm/秒で圧子16を押し込み、事前に設定した荷重(0.01〜kgf以上)に達した状態で、1秒以上保持することをいう。前記事前に設定した荷重は通常は200kgf以下であり、典型的には50kgf以下である。なお、周知の通り1kgf=9.8Nである。
【0034】
このように圧子16が押し込まれ、圧縮応力層より深い傷がつけられた化学強化ガラス10には、表面10aの圧縮応力層より深いところに破壊起点Oが発生する。このとき、破壊起点Oに圧縮応力が作用しその周りに引張応力が作用する(図10(a))。続いて、破壊起点Oには引張応力が作用しクラックCが伸びて、カバーガラスが割れる(図10(b))。即ち、破壊起点の面が上面と下面の違いはあるが、図2(a)及び(b)で説明したスロークラック割れと同じメカニズムで割れが発生する。
【0035】
図11に示すように、先端部16aの最小断面角度θminが110°の圧子16を、化学強化ガラス10(後述のガラスA)に3kgfの荷重を負荷した場合、図3(b)と同様に、破壊起点から一本のクラックが延びてカバーガラスが2つに割れており、スロークラック割れと同じメカニズムで割れが発生していることがわかる。
【0036】
このように、圧子16を押し込んだ化学強化ガラス10を観察し、クラックが発生しているか、割れていないか等を、圧子16の先端部16aの最小断面角度θmin、圧子16による荷重、化学強化ガラス10の種類等を変化させて評価する。
【0037】
なお、本発明の化学強化ガラス10は、435℃の硝酸カリウム(KNO3)溶融塩に4hr浸漬させることで化学強化を行った際の圧縮応力層の深さが、15μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましい。また、化学強化ガラスの圧縮応力は、600MPa以上が好ましく、700MPa以上がより好ましい。
【0038】
また、化学強化ガラス10は、板厚が1.5mm以下、より好ましくは、0.3〜1.1mmである。また、例えば以下の組成のガラスが使用される。
(i)モル%で表示した組成で、SiO2を50〜80%、Al2O3を2〜25%、Li2Oを0〜10%、Na2Oを0〜18%、K2Oを0〜10%、MgOを0〜15%、CaOを0〜5%およびZrO2を0〜5%を含むガラス
(ii)モル%で表示した組成が、SiO2を50〜74%、Al2O3を1〜10%、Na2Oを6〜14%、K2Oを3〜11%、MgOを2〜15%、CaOを0〜6%およびZrO2を0〜5%含有し、SiO2およびAl2O3の含有量の合計が75%以下、Na2OおよびK2Oの含有量の合計が12〜25%、MgOおよびCaOの含有量の合計が7〜15%であるガラス
(iii)モル%で表示した組成が、SiO2を68〜80%、Al2O3を4〜10%、Na2Oを5〜15%、K2Oを0〜1%、MgOを4〜15%およびZrO2を0〜1%含有するガラス
(iv)モル%で表示した組成が、SiO2を67〜75%、Al2O3を0〜4%、Na2Oを7〜15%、K2Oを1〜9%、MgOを6〜14%およびZrO2を0〜1.5%含有し、SiO2およびAl2O3の含有量の合計が71〜75%、Na2OおよびK2Oの含有量の合計が12〜20%であり、CaOを含有する場合その含有量が1%未満であるガラス
【0039】
(実施例1)
以下、本発明の実施例について説明する。
先ず、フロート法で製造した化学強化用ガラスをサイズ:50mm×50mmに切り分けたあと、♯1000の砥石を用いて300μm以上研削して厚みが1mmの板状ガラスとし、その後酸化セリウムを用いて研磨して表面を鏡面とした。425℃の硝酸カリウム(KNO3)溶融塩に10hr浸漬させることで化学強化を行った。化学強化後の表面圧縮応力は約700MPaであり、圧縮応力層の深さは約45μmであった。
【0040】
この化学強化ガラス10(以下、ガラスAとも呼ぶ。)は、モル%で表示した組成で、SiO2を72.5%、Al2O3を6.2%、Na2Oを12.8%およびMgOを8.5%含む。
【0041】
この化学強化ガラス10を、上述の実施形態の方法で、具体的には、圧子16を、その先端部16aが化学強化ガラス10の表面10aに対して垂直となるように静的荷重条件下で押し込んで、強度測定を行った。
【0042】
圧子16が取り付けられるビッカース硬さ試験機11は、フューチュアテック社製FLS−ARS9000を用いた。圧子16は、先端部16aの最小断面角度θminが136°(比較例:ビッカース圧子)、110°、60°のものを用い、化学強化ガラス10の表面10aに60μm/秒の速度で圧子に0.05〜3kgfの荷重がかかるまで押し込み、当該荷重に達した状態で15秒間保持し、その後圧子16を除荷し60秒後のカバーガラスを観察評価した。
【0043】
図11に示すように、先端部16aの最小断面角度θminが136°であるビッカース圧子では、何れの荷重においても、カバーガラスに圧痕が残るのみで、スロークラック割れを再現することはできなかった。図11には図示していないが、荷重が40kgfかかるまで押し込んだところスパイダー割れが観察できた。一方で、先端部16aの最小断面角度θminを110°とした本発明の圧子16では、荷重が0.5kgfのときカバーガラス表面にクラックが発生し始め、荷重が3kgfのときスロークラック割れが観察できた。さらに、先端部16aの最小断面角度θminが60°である圧子16では、荷重が0.05kgfのときカバーガラス表面にクラックが発生し始め、設定荷重が0.5kgfのときスロークラック割れが観察できた。
【0044】
このように、本発明の圧子16を用いた場合、スロークラック割れを再現できることが確認され、フラットパネルディスプレイ装置自体を実際に落下させなくても、化学強化ガラス10のみでスロークラック割れを発生させることができた。これにより、スロークラック割れに強い新たな硝材の開発などに利用することができる。また、圧子16を静的荷重条件下で化学強化ガラス10の表面10aに押し込むので、また圧子16の形状がコントロールされた状態で試験ができるので、フラットパネルディスプレイ装置を路上などに実際に落下させる場合に比べて、スロークラック割れの再現性を向上させることが可能となる。
【0045】
また、圧子16の先端部16aの最小断面角度θminが小さくなる程、クラック及びスロークラック割れが発生する加重が小さくなることがわかるが、これは以下のような理由によると考えられる。
【0046】
図12(a)に示すように、圧子16が押し込まれた化学強化ガラス10には、圧子16の下方において、圧子16の荷重により構造が変化して密度が上昇する高密度化(densification)領域Dと、圧子16の周囲において、化学強化ガラス10の一部が流動した塑性流動(plastic flow)領域Pと、が形成される。ここで、本発明の圧子16は、最小断面角度θminが120°未満とされているので、化学強化ガラス10に負荷される荷重は幅方向への分力が大きくなる。したがって、高密度化領域Dは狭くなり、塑性流動領域Pは広くなると共に、圧子16の先端部16a付近の破壊起点Oに、強い引張応力が作用してクラックCが伸びて、カバーガラスが割れ易い。
【0047】
これに対して、図12(b)に示すように、最小断面角度θminが120°以上である圧子16、典型的にはビッカース圧子を用いた場合は、化学強化ガラス10に負荷される荷重は鉛直方向への分力が大きくなり、幅方向の分力が小さくなる。一方で鉛直方向への押し込みの力が強くなるため、圧子16周囲の押し込まれているガラスに高密度化領域Dが広くなる。高密度化領域Dは高密度化しなかった周囲のガラスから引っ張り応力を受けるため、高密度化領域D内からクラックを発生する事があるが、それは水平方向へのびるものが多いため、ガラスの破壊へは寄与しにくい。また、塑性流動領域Pは圧子16の角度が大きくなると小さくなるが塑性流動が起こることにより押し込みの力を緩和するので、クラックCは生じ難くなる。
【0048】
このように、圧子16の先端部16aの最小断面角度θminによって、カバーガラスの破壊し易さが異なっていること、特に最小断面角度θminが小さくなるほど低荷重で破壊することを鑑みるに、これまでビッカース圧子やヌープ圧子などの最小断面角度θminが大きな圧子を用いて強度測定を行い十分な耐割れ性能を有すると思われたカバーガラスが、最小断面角度θminが小さな砂などを有するアスファルト・コンクリート(図7参照)に落下した際に十分な耐スロークラック割れ性能を有さない可能性がある。
【0049】
(実施例2)
発明者らはこのような知見に基づき、様々な特性を有する化学強化ガラスA〜Dについて、実施例1と同様の方法で強度測定を行い、破壊確率を測定した。ガラスA〜Dは、それぞれ以下のような組成を有する。
ガラスA:モル%で表示した組成で、SiO2を72.5%、Al2O3を6.2%、Na2Oを12.8%およびMgOを8.5%含む
ガラスB:モル%で表示した組成で、SiO2を64.8%、Al2O3を14.3%、B2O3を7.0%、Na2Oを13.4%およびK2Oを0.5%含む
ガラスC:モル%で表示した組成で、SiO2を68.2%、Al2O3を8.8%、Na2Oを14.2%、K2Oを1.3%、MgOを7.0%およびCaOを0.5%含む
ガラスD:モル%で表示した組成で、SiO2を64.5%、Al2O3を6.0%、Na2Oを12.0%、K2Oを4.0%およびMgOを11.0%含む
なお、本実施例のガラスAは、実施例1のガラスA(図11参照)と同様の化学強化ガラスである。
【0050】
表1には、化学強化ガラスA〜Dのインデンテーションによりガラスが分断破壊しなかった確率(生存率)が示されており、同条件の10サンプル中、いくつのサンプルが破壊されなかったか百分率で記載している。生存率はインデンテーションにより発生したクラックが内部の引っ張り応力層に到達し、クラックが自走する事によりガラスが分断されなかった確率である。本実施例においては、圧子16による荷重を0.2〜50kgfの範囲で変化させるようにしている。
【0051】
【表1】
【0052】
何れのガラスA〜Dにおいても、圧子16の先端部16aの最小断面角度θminが小さくなるにしたがって、低荷重で破壊していることがわかる。これは、実施例1で述べた理由と同様であり、最小断面角度θminが小さくなる程、化学強化ガラス10に負荷される荷重のうち幅方向への分力が大きくなるためだと考えられる。
【0053】
また、従来と同様にビッカース圧子を用いた場合、ガラスAは30kgfの荷重が負荷された際に20%のサンプルが破壊され、50kgfの荷重においては100%のサンプルが破壊されている。ガラスBは何れの荷重を与えても破壊されず、ガラスCは20kgfの荷重で90%のサンプルが破壊され、ガラスDは10kgfの荷重で100%のサンプルが破壊された。このように、ビッカース圧子を用いた場合は、ガラスB,A,C,Dの順で破壊され難いことがわかる。
【0054】
次に、最小断面角度θminが110°の圧子16を用いた場合、ガラスA,B,C,Dの順で破壊され難くなっており、ビッカース圧子を用いた場合と比べてガラスA,Bの生存率が逆転している。
【0055】
さらに、最小断面角度θminが60°の圧子16を用いた場合、ガラスD,A,C,Bの順で破壊され難くなり、ビッカース圧子を用いた場合に最も破壊され難かったガラスBが、最も破壊され易くなっている。また、ビッカース圧子を用いた場合及び最小断面角度θminが110°の圧子16を用いた場合に最も破壊され易かったガラスDが、最小断面角度が60°の圧子を用いた場合には最も破壊され難くなっている。
【0056】
この結果は、ガラスBが他のガラスA,C,Dに比べて構造が粗であり、高密度化を許容する特性を有しており、また、ガラスDが他のガラスA,B,Cに比べて構造が密であり、破壊靱性値が高く、割れが生じ難い特性を有することに起因すると考えられる。
【0057】
以上の結果から、圧子16の先端部16aの最小断面角度θminによって化学強化ガラス10の優劣が変化(逆転)すること、及び最小断面角度θminが小さくなるほど低荷重でスロークラック割れが発生することが明らかとなった。すなわち、フラットディスプレイ装置の実際の落下破壊は、アスファルト・コンクリートに含まれる先端角度が小さい砂などによる破壊に支配されている可能性があることがわかった。したがって、本発明のように、圧子16の先端部16aの最小断面角度θminを、実際のアスファルト・コンクリートに含まれる小石・砂などの先端角度のうち、より頻度が高い先端角度が小さい範囲(120°未満、好ましくは30°以上120°未満。図7(b)参照。)内とすることによって、現実に落下した際と近似した状況で強度測定することができるので、現実の落下破壊の状況をより適切に反映させることが可能となる。
【0058】
さらに、化学強化ガラスの製造方法として、製造ライン中に、上記強度測定方法を取り入れて、圧子による荷重を変えながら上述の強度測定方法により閾値を決定し、当該閾値を基準に化学強化ガラスの品質、特に耐スロークラック割れ性能を判定する抜き取り検査を行うことで、フラットパネルディスプレイ装置が現実に落下した際における状況をより適切に反映させながら、化学強化ガラスの割れ性能をより正確に管理することが可能となる。先に挙げた実施例においては、化学強化ガラスの生存率が任意に設定された値以上、例えば50%以上であることが求められ、この場合先ず圧子による荷重を変えながら上述の強度測定方法により、化学強化ガラスの生存率が50%となる荷重を閾値として決定する。そして、実際の製造ラインにおいて、例えば1000枚の化学強化ガラスのうち10枚を抜き取り検査して、閾値に相当する荷重を負荷して5枚以上の化学強化ガラスが破壊されなかった場合、化学強化ガラスの品質が保証される。
【0059】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施し得るものである。
例えば、本発明に用いられる圧子の形状は、必ずしも正四角錐形状に限定されず、円錐形状、楕円錐形状、多角錐形状など、尖形形状であれば任意の形状が適用される。
【符号の説明】
【0060】
1 フラットパネルディスプレイ装置
2 カバーガラス
3 アスファルト・コンクリート
4 小石
5 砂
10 化学強化ガラス
10a 表面
10b 下面
11 ビッカース硬さ試験機
12 載置台
16 圧子
16a 先端部
16b 底面
O 破壊起点
θ 断面角度
θmin 最小断面角度
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学強化により圧縮応力層が形成された化学強化ガラスの強度測定方法、化学強化ガラスの割れ再現方法、及び化学強化ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、携帯情報端末(PDA)等のフラットパネルディスプレイ装置において、ディスプレイの保護ならびに美観を高めるために、画像表示部分よりも広い領域となるように薄い板状のカバーガラスをディスプレイの前面に配置することが行なわれている。このようなフラットパネルディスプレイ装置に対しては、軽量・薄型化が要求されており、そのため、ディスプレイ保護用に使用されるカバーガラスも薄くすることが要求されている。しかし、カバーガラスの厚さを薄くしていくと、強度が低下し、使用中または携帯中の落下などによりカバーガラス自身が割れてしまうことがあり、ディスプレイ装置を保護するという本来の役割を果たすことができなくなるという問題があった。
【0003】
このため従来のカバーガラスは、ガラス板を化学強化することで表面に圧縮応力層を形成しカバーガラスの強度を高めていた(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−105598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フラットパネルディスプレイ装置は持ち運びをするため、カバーガラスが破壊する場合は落下によりガラス面に石などが当たり、その圧入により入るクラックを起点に破壊することが多いと考えられる。すなわち、カバーガラスの強度といっても、曲げ強度よりも圧入に対する高い耐性が求められる。
従来、このようなカバーガラスの強度を評価するためには、カバーガラスの表面にビッカース圧子やヌープ圧子等の先端角度が比較的大きい圧子を押し込み、その周囲から発生するクラックの発生し易さを比較することで、カバーガラスの優劣を評価してきた。しかしながら、上記方法によって評価されたカバーガラスの優劣が、実際の落下破壊におけるカバーガラスの優劣と必ずしも相関しない場合があり、現実の落下破壊の状況をより適切に反映したガラス強度測定方法が望まれていた。また、上記方法におけるガラスの破壊パターンが現実に落下破壊したものと必ずしも一致しない問題があった。
【0006】
実際に、ユーザーがフラットパネルディスプレイ装置を誤って落下させた場合などカバーガラスに衝撃を与えた際に、化学強化したカバーガラスであっても、圧縮応力層を突き抜ける傷を起点にガラスが比較的遅い速度で割れるスロークラックが生じることがある。(以下、このようなガラスの割れ方をスロークラック割れと呼ぶ。)
スロークラック割れはいわゆるエッジ割れや後述するスパイダー割れなどと比較してより低荷重あるいはより低所からの落下で発生し、この点で従来問題とされてきたものとは顕著に異なる。
【0007】
これまで、上記のようなスロークラック割れに対する研究及びスロークラック割れに強いカバーガラスの開発に当たり、スロークラック割れを再現することは非常に難しく、例えば、ビッカース圧子等の先端角度が比較的大きい圧子を押し込むことによっては、スロークラック割れを生じさせることは困難であった。そのため、組み立てられたフラットパネルディスプレイ装置を、相当数地面などに落下させて破壊し、それら割れたガラスから偶然的にスロークラック割れを起こしたガラスを抽出し評価する必要があった。・
【0008】
しかしながら、実際の製品であるフラットパネルディスプレイ装置を地面に落下させてスロークラック割れを再現することは、効率が悪いばかりかフラットパネルディスプレイ装置自体を無駄にしてしまうこととなる。従って、フラットパネルディスプレイ装置が製品となる前の段階で、化学強化ガラスにスロークラック割れを再現させることが望まれていた。
【0009】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、現実の落下破壊の状況をより適切に反映し、化学強化ガラスにスロークラック割れを再現させることが可能な化学強化ガラスの強度測定方法、化学強化ガラスの割れ再現方法及び化学強化ガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の態様を提供するものである。
(1) 表面に圧縮応力層が形成された化学強化ガラスの強度測定方法であって、
先端部の最小断面角度が120°未満の尖形形状に形成された圧子に荷重を加え、前記先端部が化学強化ガラスの表面に対して垂直となるように静的荷重条件下で押し込み、化学強化ガラスが割れるときの前記荷重を測定することを特徴とする化学強化ガラスの強度測定方法。
(2) 前記先端部の最小断面角度は、30°以上であることを特徴とする(1)に記載の化学強化ガラスの強度測定方法。
(3) 表面に圧縮応力層が形成された化学強化ガラスの割れ再現方法であって、
化学強化ガラスに、静的荷重を与えて前記圧縮応力層より深い傷をつけることを特徴とする化学強化ガラスの割れ再現方法。
(4) 先端部の最小断面角度が120°未満の尖形形状に形成された圧子に荷重を加え、前記先端部が化学強化ガラスの表面に対して垂直となるように静的荷重条件下で押し込むことを特徴とする(3)に記載の化学強化ガラスの割れ再現方法。
(5) 前記先端部の最小断面角度は、30°以上であることを特徴とする(4)に記載の化学強化ガラスの割れ再現方法。
(6) 表面に圧縮応力層が形成された化学強化ガラスの製造方法であって、
前記圧子による荷重を変えながら、(1)又は(2)に記載の化学強化ガラスの強度測定方法により閾値を決定し、
該閾値を基準に前記化学強化ガラスの品質を判定する抜き取り検査を行うことを特徴とする化学強化ガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
上記(1)に記載の化学強化ガラスの強度測定方法によれば、先端部の最小断面角度が120°未満の尖形形状に形成された圧子に荷重を加え、先端部が化学強化ガラスの表面に対して垂直となるように静的荷重条件下で押し込み、化学強化ガラスが割れるときの荷重を測定することにより、ガラスが現実に落下した際における地面等への衝突と近似した状況で強度測定することができるので、現実の落下破壊の状況をより適切に反映させることが可能となる。
【0012】
上記(2)に記載の化学強化ガラスの強度測定方法によれば、圧子の先端部の最小断面角度が30°以上であるので、現実の落下破壊の状況をより適切に反映させることが可能となる。
【0013】
上記(3)に記載の化学強化ガラスの割れ再現方法によれば、フラットパネルディスプレイ装置で発生するスロークラック割れを再現することができ、フラットパネルディスプレイ装置自体を実際に落下させなくても、化学強化ガラスのみでスロークラック割れを発生させることができ、新たな硝材の開発などに利用することができる。
【0014】
上記(4)及び(5)に記載の化学強化ガラスの割れ再現方法によれば、フラットパネルディスプレイ装置が地面に落下した状態に近い状態を作り出すことができ、スロークラック割れの再現性を向上させることができる。
【0015】
上記(6)に記載の化学強化ガラスの製造方法によれば、フラットパネルディスプレイ装置が現実に落下した際における状況をより適切に反映させながら、化学強化ガラスの割れ性能をより正確に管理することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1はフラットパネルディスプレイ装置が落下した際にカバーガラスにスロークラック割れが発生する状況を示す模式図である。
【図2】スロークラック割れが発生するメカニズムを模式的に示す図であり、(a)は破壊起点を示す図であり、(b)はクラックを示す図である。
【図3】(a)はスロークラック割れが発生したフラットパネルディスプレイ装置の写真を示す図であり、(b)は破壊起点を上方から見た拡大写真を示す図、(c)は破壊起点を側方から見た写真を示す図である。
【図4】図3(c)の破断面を模式的に示す図である。
【図5】非スロークラック割れが発生したカバーガラスの破壊起点を側方から見た写真を示す図である。
【図6】図5の破断面を模式的に示す図である。
【図7】(a)はアスファルト・コンクリートの拡大写真を示す図であり、(b)は砂の先端の角度分布を示すグラフである。
【図8】本発明の一実施形態のスロークラック割れの再現方法の模式図である。
【図9】(a)及び(b)は圧子の斜視図である。
【図10】図8のスロークラック割れの再現方法における化学強化ガラスの割れが発生するメカニズムを模式的に示す図であり、(a)は破壊起点を示す図であり、(b)はクラックを示す図である。
【図11】実施例1における化学強化ガラスの写真を示す図である。
【図12】(a)は最小断面角度が小さな圧子を押し込んだ化学強化ガラスの状態を説明するための図であり、(b)は最小断面角度が大きな圧子を押し込んだ化学強化ガラスの状態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の化学強化ガラスの強度測定方法、割れ再現方法について説明するが、先ず、フラットパネルディスプレイ装置を落下させたときに発生するスロークラック割れのメカニズムについて説明する。
図1はフラットパネルディスプレイ装置1が落下した際にカバーガラス2にスロークラック割れが発生する状況を示す模式図であり、図2はスロークラック割れが発生するメカニズムを模式的に示す図であり、図3(a)はスロークラック割れが発生したフラットパネルディスプレイ装置の写真を示す図であり、(b)は破壊起点を上方から見た拡大写真を示す図、(c)は破壊起点を側方から見た写真を示す図である。
【0018】
フラットパネルディスプレイ装置は、画像表示部を囲うように略矩形状のフレームが設けられ、カバーガラスがフレーム上に支持されている。図1に示すように、フラットパネルディスプレイ装置1が地面(アスファルト・コンクリート)に落下して、カバーガラス2が下に向いた状態でアスファルト・コンクリート3中の小石4上の砂5等に接触すると、破壊起点Oに圧縮応力が作用しその周りに引張応力が作用する(図2(a))。続いて、破壊起点Oには引張応力が作用しクラックCが伸びて、カバーガラス2が割れる(図2(b))。なお、破壊起点は、カバーガラスの中央部に発生することもあるが、フレームによりカバーガラスの撓みが拘束されるため、フレームに支持された領域の一部に発生することが多い。
【0019】
このときのカバーガラス2の割れは、図3(c)の破断面から明らかなように、圧縮応力層の深さより深い傷が破壊起点となっている。図3(a)及び(b)では、破壊起点から一本のクラックが延びてカバーガラスが2つに割れている。この図3(c)に示す破断面をさらに観察すると、圧縮応力層の深さより深い破壊起点の回りには、鏡のように滑らかなミラー半径の長い鏡面が見られる。
【0020】
図4は、図3(c)の破断面を模式的に示す図である。破断面には、破壊の過程、すなわち、破壊起点、破壊の進行方向、破壊が緩やかに進んだか、急速に進んだかなどの要因が反映される。このスロークラック割れの破断面解析によれば、ミラー半径の長い鏡面は小さな応力により破壊が進行したことを意味しており、このような滑らかな破断面は、クラックが音速に比べてずっと遅い速度で成長したことを意味している。従って、図3(c)の破断面によれば、カバーガラスには、圧縮応力層の深さより深い起点が形成された後、クラックがゆっくり成長し、小さな応力で破壊が進行したことが分かる。このようなスロークラック割れにより割れたカバーガラスは、割れ破片が数ピース〜(場合によっては)数十ピースになる。典型的には、2ピースから20ピースであり、図3(a)及び(b)に示す破壊起点から一本のクラックが延びてカバーガラスが2つに割れた例は、スロークラック割れの象徴的な例である。
【0021】
スロークラック割れであるか否かは、よりミクロには次のようにして判別される。まず、破壊起点がわかるようなものでなければスロークラック割れとはいえない。また、その破壊起点付近を観察して圧縮応力層を突き抜けるような傷すなわち圧縮応力層深さ(いわゆるDOL)よりも深い傷が破壊起点であることが確認された場合はスロークラック割れである。また、鏡面半径が長く、破面断面が鏡面でありミストやハックルが認められない場合はスロークラック割れである。
【0022】
上述したように、スロークラック割れを再現することは非常に難しく、カバーガラスのみを地面に落下させても、偶然にスロークラック割れが発生することがあるとしても再現性が得られない。即ち、スロークラック割れではない割れ方(以下、非スロークラック割れとも呼ぶ。)をする場合が多く発生し、カバーガラスが無駄になってしまう。
【0023】
スロークラック割れと対比する、非スロークラック割れとして、ヌープ圧子をガラス表面に押し込んで生じたカバーガラスの割れについて説明する。図5は、非スロークラック割れによるカバーガラスの破壊起点を側方から見た写真を示す図であり、図6は図5の破断面を模式的に示す図である。
【0024】
この非スロークラック割れの破断面を観察すると、圧縮応力層内に破壊起点が形成され、回りに鏡のように滑らかなミラー半径の短い鏡面が見られ、さらに鏡面の回りには、ミスト面が存在する。この非スロークラック割れの破断面解析によれば、ミラー半径の短い鏡面は大きな応力により破壊が進行したことを意味し、ミスト面は、クラックが急速に成長したことを意味している。従って、図5の破断面によれば、カバーガラスには、圧縮応力層の深さより浅い破壊起点が形成された後、大きな応力で破壊が進行しクラックが急速に成長したことが分かる。非スロークラック割れが生じると、蜘蛛の巣状に延びた複数のクラックにより複数(20枚以上)のガラス片となる(以下、このような割れ方をスパイダー割れとも呼ぶ。)。このように、スロークラック割れと非スロークラック割れとは、全く異なるモードで破壊が生じていることが分かる。
【0025】
非スロークラック割れについては、破壊起点が圧縮応力層内に発生するため、これを防ぐためには表面圧縮応力を大きくすることや圧縮応力層を深くすることが効果的である。しかし、スロークラック割れについては、破壊起点が圧縮応力層を超えた領域に発生するため(傷の深さは典型的には数十〜数百マイクロメートルで、化学強化による圧縮応力層が数〜数十マイクロメートル)、スロークラック割れに強い機械特性を有するカバーガラスを開発する必要がある。そのため、カバーガラスとして使用される化学強化ガラスにスロークラック割れを再現することが今後の研究開発を進めるために非常に重要である。
【0026】
しかしながら、上述のように、ビッカース圧子やヌープ圧子をガラス表面に押し込んだ場合には、カバーガラスに非スロークラック割れが発生し(図5参照)、スロークラック割れを再現することができない。ここで、図7(a)には、アスファルト・コンクリート(横浜にて採取)に含まれる砂や小石の拡大写真を示し、図7(b)には、アスファルト・コンクリートを149箇所観測し、砂や小石の先端角度を横軸に、頻度を縦軸にしたグラフを示す。図7(b)に示すように、アスファルト・コンクリートに含まれる砂や小石は、30°以上120°未満に多く分布しており、ビッカース圧子の先端部の角度(136°)やヌープ圧子の先端部の角度(172.3°及び130°)が含まれる範囲にはあまり分布していない。
【0027】
このようなことから、本発明者らは、ビッカース圧子やヌープ圧子を用いた場合にスロークラック割れが再現できない原因は、従来の圧子の先端部の角度がアスファルト・コンクリートに含まれる砂などに比べて大きいためと仮説を立て、圧子の先端部の角度を実際の砂等の角度分布に近づけることによって、スロークラック割れを再現するための方法を見出した。
【0028】
なお、スロークラック割れとは、上述したように、圧縮応力層の深さより深い破壊起点が形成されて割れが発生したものであり、典型的には、割れ破片が2ピースから20ピースである。逆に言うと、圧縮応力層内の起点から発生した非スロークラック割れは、粉々なガラス片となるので全く異なるモードである。
【0029】
(実施形態)
図8に示すように、本発明の一実施形態の化学強化ガラスの割れ再現方法は、従来のビッカース硬さ試験機11を用いるものであるが、これに限らない。試験機11は、化学強化ガラス10を載置可能な載置台12と、載置台12の上方に配置され圧子16を移動可能に保持する圧子機構(不図示)と、を有している。なお、試験機11は、従来のビッカース硬さ試験機と同様に、不図示のくぼみ測定用レンズや、試料表面形状検出機構などを備えており、これらは化学強化ガラス10の表面を評価するために適宜用いられる。
【0030】
化学強化ガラス10は、表面10a及び下面10bに圧縮応力層が形成されており、表面10aが上方を向くように載置台12上に載置される。また、化学強化ガラス10は、下面10bの全面が載置台12に当接しており、自重による撓みや圧子16の荷重による撓みが載置台12により拘束されるように構成されている。
【0031】
また、圧子16は、正四角錐形状のダイアモンド圧子であり、その先端部(頭頂点)16aを化学強化ガラス10の表面10aに対して垂直となるように配置される。
【0032】
圧子16の先端部16aは、その最小断面角度θminが120°未満、より好ましくは30°以上120°未満となるように形成されている。ここで、図9も参照し、先端部16aの断面角度θとは、化学強化ガラス10の表面10aに垂直(本実施形態の場合、圧子16の底面16bにも垂直)となるように先端部16aを通る圧子16の任意の断面をAとしたとき、当該断面Aの先端部16aにおける角度を意味する。また、先端部16aの最小断面角度θminとは、複数の断面Aの先端部16aにおける断面角度θのうち、最も小さい角度を意味する。例えば、図9において圧子16の先端部16aの最小断面角度θminは、底面16bの対向する二辺のそれぞれの中点と先端部16aとを通り、且つ化学強化ガラス10の表面10aに垂直である断面A´における先端部16aの断面角度θである。
【0033】
このように、化学強化ガラス10の表面10aに対向配置された圧子16は、静的荷重条件下で化学強化ガラス10の表面で押し込まれる。なお、静的荷重条件とは、化学強化ガラス10の表面10aに荷重を印加して1〜200μm/秒で圧子16を押し込み、事前に設定した荷重(0.01〜kgf以上)に達した状態で、1秒以上保持することをいう。前記事前に設定した荷重は通常は200kgf以下であり、典型的には50kgf以下である。なお、周知の通り1kgf=9.8Nである。
【0034】
このように圧子16が押し込まれ、圧縮応力層より深い傷がつけられた化学強化ガラス10には、表面10aの圧縮応力層より深いところに破壊起点Oが発生する。このとき、破壊起点Oに圧縮応力が作用しその周りに引張応力が作用する(図10(a))。続いて、破壊起点Oには引張応力が作用しクラックCが伸びて、カバーガラスが割れる(図10(b))。即ち、破壊起点の面が上面と下面の違いはあるが、図2(a)及び(b)で説明したスロークラック割れと同じメカニズムで割れが発生する。
【0035】
図11に示すように、先端部16aの最小断面角度θminが110°の圧子16を、化学強化ガラス10(後述のガラスA)に3kgfの荷重を負荷した場合、図3(b)と同様に、破壊起点から一本のクラックが延びてカバーガラスが2つに割れており、スロークラック割れと同じメカニズムで割れが発生していることがわかる。
【0036】
このように、圧子16を押し込んだ化学強化ガラス10を観察し、クラックが発生しているか、割れていないか等を、圧子16の先端部16aの最小断面角度θmin、圧子16による荷重、化学強化ガラス10の種類等を変化させて評価する。
【0037】
なお、本発明の化学強化ガラス10は、435℃の硝酸カリウム(KNO3)溶融塩に4hr浸漬させることで化学強化を行った際の圧縮応力層の深さが、15μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましい。また、化学強化ガラスの圧縮応力は、600MPa以上が好ましく、700MPa以上がより好ましい。
【0038】
また、化学強化ガラス10は、板厚が1.5mm以下、より好ましくは、0.3〜1.1mmである。また、例えば以下の組成のガラスが使用される。
(i)モル%で表示した組成で、SiO2を50〜80%、Al2O3を2〜25%、Li2Oを0〜10%、Na2Oを0〜18%、K2Oを0〜10%、MgOを0〜15%、CaOを0〜5%およびZrO2を0〜5%を含むガラス
(ii)モル%で表示した組成が、SiO2を50〜74%、Al2O3を1〜10%、Na2Oを6〜14%、K2Oを3〜11%、MgOを2〜15%、CaOを0〜6%およびZrO2を0〜5%含有し、SiO2およびAl2O3の含有量の合計が75%以下、Na2OおよびK2Oの含有量の合計が12〜25%、MgOおよびCaOの含有量の合計が7〜15%であるガラス
(iii)モル%で表示した組成が、SiO2を68〜80%、Al2O3を4〜10%、Na2Oを5〜15%、K2Oを0〜1%、MgOを4〜15%およびZrO2を0〜1%含有するガラス
(iv)モル%で表示した組成が、SiO2を67〜75%、Al2O3を0〜4%、Na2Oを7〜15%、K2Oを1〜9%、MgOを6〜14%およびZrO2を0〜1.5%含有し、SiO2およびAl2O3の含有量の合計が71〜75%、Na2OおよびK2Oの含有量の合計が12〜20%であり、CaOを含有する場合その含有量が1%未満であるガラス
【0039】
(実施例1)
以下、本発明の実施例について説明する。
先ず、フロート法で製造した化学強化用ガラスをサイズ:50mm×50mmに切り分けたあと、♯1000の砥石を用いて300μm以上研削して厚みが1mmの板状ガラスとし、その後酸化セリウムを用いて研磨して表面を鏡面とした。425℃の硝酸カリウム(KNO3)溶融塩に10hr浸漬させることで化学強化を行った。化学強化後の表面圧縮応力は約700MPaであり、圧縮応力層の深さは約45μmであった。
【0040】
この化学強化ガラス10(以下、ガラスAとも呼ぶ。)は、モル%で表示した組成で、SiO2を72.5%、Al2O3を6.2%、Na2Oを12.8%およびMgOを8.5%含む。
【0041】
この化学強化ガラス10を、上述の実施形態の方法で、具体的には、圧子16を、その先端部16aが化学強化ガラス10の表面10aに対して垂直となるように静的荷重条件下で押し込んで、強度測定を行った。
【0042】
圧子16が取り付けられるビッカース硬さ試験機11は、フューチュアテック社製FLS−ARS9000を用いた。圧子16は、先端部16aの最小断面角度θminが136°(比較例:ビッカース圧子)、110°、60°のものを用い、化学強化ガラス10の表面10aに60μm/秒の速度で圧子に0.05〜3kgfの荷重がかかるまで押し込み、当該荷重に達した状態で15秒間保持し、その後圧子16を除荷し60秒後のカバーガラスを観察評価した。
【0043】
図11に示すように、先端部16aの最小断面角度θminが136°であるビッカース圧子では、何れの荷重においても、カバーガラスに圧痕が残るのみで、スロークラック割れを再現することはできなかった。図11には図示していないが、荷重が40kgfかかるまで押し込んだところスパイダー割れが観察できた。一方で、先端部16aの最小断面角度θminを110°とした本発明の圧子16では、荷重が0.5kgfのときカバーガラス表面にクラックが発生し始め、荷重が3kgfのときスロークラック割れが観察できた。さらに、先端部16aの最小断面角度θminが60°である圧子16では、荷重が0.05kgfのときカバーガラス表面にクラックが発生し始め、設定荷重が0.5kgfのときスロークラック割れが観察できた。
【0044】
このように、本発明の圧子16を用いた場合、スロークラック割れを再現できることが確認され、フラットパネルディスプレイ装置自体を実際に落下させなくても、化学強化ガラス10のみでスロークラック割れを発生させることができた。これにより、スロークラック割れに強い新たな硝材の開発などに利用することができる。また、圧子16を静的荷重条件下で化学強化ガラス10の表面10aに押し込むので、また圧子16の形状がコントロールされた状態で試験ができるので、フラットパネルディスプレイ装置を路上などに実際に落下させる場合に比べて、スロークラック割れの再現性を向上させることが可能となる。
【0045】
また、圧子16の先端部16aの最小断面角度θminが小さくなる程、クラック及びスロークラック割れが発生する加重が小さくなることがわかるが、これは以下のような理由によると考えられる。
【0046】
図12(a)に示すように、圧子16が押し込まれた化学強化ガラス10には、圧子16の下方において、圧子16の荷重により構造が変化して密度が上昇する高密度化(densification)領域Dと、圧子16の周囲において、化学強化ガラス10の一部が流動した塑性流動(plastic flow)領域Pと、が形成される。ここで、本発明の圧子16は、最小断面角度θminが120°未満とされているので、化学強化ガラス10に負荷される荷重は幅方向への分力が大きくなる。したがって、高密度化領域Dは狭くなり、塑性流動領域Pは広くなると共に、圧子16の先端部16a付近の破壊起点Oに、強い引張応力が作用してクラックCが伸びて、カバーガラスが割れ易い。
【0047】
これに対して、図12(b)に示すように、最小断面角度θminが120°以上である圧子16、典型的にはビッカース圧子を用いた場合は、化学強化ガラス10に負荷される荷重は鉛直方向への分力が大きくなり、幅方向の分力が小さくなる。一方で鉛直方向への押し込みの力が強くなるため、圧子16周囲の押し込まれているガラスに高密度化領域Dが広くなる。高密度化領域Dは高密度化しなかった周囲のガラスから引っ張り応力を受けるため、高密度化領域D内からクラックを発生する事があるが、それは水平方向へのびるものが多いため、ガラスの破壊へは寄与しにくい。また、塑性流動領域Pは圧子16の角度が大きくなると小さくなるが塑性流動が起こることにより押し込みの力を緩和するので、クラックCは生じ難くなる。
【0048】
このように、圧子16の先端部16aの最小断面角度θminによって、カバーガラスの破壊し易さが異なっていること、特に最小断面角度θminが小さくなるほど低荷重で破壊することを鑑みるに、これまでビッカース圧子やヌープ圧子などの最小断面角度θminが大きな圧子を用いて強度測定を行い十分な耐割れ性能を有すると思われたカバーガラスが、最小断面角度θminが小さな砂などを有するアスファルト・コンクリート(図7参照)に落下した際に十分な耐スロークラック割れ性能を有さない可能性がある。
【0049】
(実施例2)
発明者らはこのような知見に基づき、様々な特性を有する化学強化ガラスA〜Dについて、実施例1と同様の方法で強度測定を行い、破壊確率を測定した。ガラスA〜Dは、それぞれ以下のような組成を有する。
ガラスA:モル%で表示した組成で、SiO2を72.5%、Al2O3を6.2%、Na2Oを12.8%およびMgOを8.5%含む
ガラスB:モル%で表示した組成で、SiO2を64.8%、Al2O3を14.3%、B2O3を7.0%、Na2Oを13.4%およびK2Oを0.5%含む
ガラスC:モル%で表示した組成で、SiO2を68.2%、Al2O3を8.8%、Na2Oを14.2%、K2Oを1.3%、MgOを7.0%およびCaOを0.5%含む
ガラスD:モル%で表示した組成で、SiO2を64.5%、Al2O3を6.0%、Na2Oを12.0%、K2Oを4.0%およびMgOを11.0%含む
なお、本実施例のガラスAは、実施例1のガラスA(図11参照)と同様の化学強化ガラスである。
【0050】
表1には、化学強化ガラスA〜Dのインデンテーションによりガラスが分断破壊しなかった確率(生存率)が示されており、同条件の10サンプル中、いくつのサンプルが破壊されなかったか百分率で記載している。生存率はインデンテーションにより発生したクラックが内部の引っ張り応力層に到達し、クラックが自走する事によりガラスが分断されなかった確率である。本実施例においては、圧子16による荷重を0.2〜50kgfの範囲で変化させるようにしている。
【0051】
【表1】
【0052】
何れのガラスA〜Dにおいても、圧子16の先端部16aの最小断面角度θminが小さくなるにしたがって、低荷重で破壊していることがわかる。これは、実施例1で述べた理由と同様であり、最小断面角度θminが小さくなる程、化学強化ガラス10に負荷される荷重のうち幅方向への分力が大きくなるためだと考えられる。
【0053】
また、従来と同様にビッカース圧子を用いた場合、ガラスAは30kgfの荷重が負荷された際に20%のサンプルが破壊され、50kgfの荷重においては100%のサンプルが破壊されている。ガラスBは何れの荷重を与えても破壊されず、ガラスCは20kgfの荷重で90%のサンプルが破壊され、ガラスDは10kgfの荷重で100%のサンプルが破壊された。このように、ビッカース圧子を用いた場合は、ガラスB,A,C,Dの順で破壊され難いことがわかる。
【0054】
次に、最小断面角度θminが110°の圧子16を用いた場合、ガラスA,B,C,Dの順で破壊され難くなっており、ビッカース圧子を用いた場合と比べてガラスA,Bの生存率が逆転している。
【0055】
さらに、最小断面角度θminが60°の圧子16を用いた場合、ガラスD,A,C,Bの順で破壊され難くなり、ビッカース圧子を用いた場合に最も破壊され難かったガラスBが、最も破壊され易くなっている。また、ビッカース圧子を用いた場合及び最小断面角度θminが110°の圧子16を用いた場合に最も破壊され易かったガラスDが、最小断面角度が60°の圧子を用いた場合には最も破壊され難くなっている。
【0056】
この結果は、ガラスBが他のガラスA,C,Dに比べて構造が粗であり、高密度化を許容する特性を有しており、また、ガラスDが他のガラスA,B,Cに比べて構造が密であり、破壊靱性値が高く、割れが生じ難い特性を有することに起因すると考えられる。
【0057】
以上の結果から、圧子16の先端部16aの最小断面角度θminによって化学強化ガラス10の優劣が変化(逆転)すること、及び最小断面角度θminが小さくなるほど低荷重でスロークラック割れが発生することが明らかとなった。すなわち、フラットディスプレイ装置の実際の落下破壊は、アスファルト・コンクリートに含まれる先端角度が小さい砂などによる破壊に支配されている可能性があることがわかった。したがって、本発明のように、圧子16の先端部16aの最小断面角度θminを、実際のアスファルト・コンクリートに含まれる小石・砂などの先端角度のうち、より頻度が高い先端角度が小さい範囲(120°未満、好ましくは30°以上120°未満。図7(b)参照。)内とすることによって、現実に落下した際と近似した状況で強度測定することができるので、現実の落下破壊の状況をより適切に反映させることが可能となる。
【0058】
さらに、化学強化ガラスの製造方法として、製造ライン中に、上記強度測定方法を取り入れて、圧子による荷重を変えながら上述の強度測定方法により閾値を決定し、当該閾値を基準に化学強化ガラスの品質、特に耐スロークラック割れ性能を判定する抜き取り検査を行うことで、フラットパネルディスプレイ装置が現実に落下した際における状況をより適切に反映させながら、化学強化ガラスの割れ性能をより正確に管理することが可能となる。先に挙げた実施例においては、化学強化ガラスの生存率が任意に設定された値以上、例えば50%以上であることが求められ、この場合先ず圧子による荷重を変えながら上述の強度測定方法により、化学強化ガラスの生存率が50%となる荷重を閾値として決定する。そして、実際の製造ラインにおいて、例えば1000枚の化学強化ガラスのうち10枚を抜き取り検査して、閾値に相当する荷重を負荷して5枚以上の化学強化ガラスが破壊されなかった場合、化学強化ガラスの品質が保証される。
【0059】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施し得るものである。
例えば、本発明に用いられる圧子の形状は、必ずしも正四角錐形状に限定されず、円錐形状、楕円錐形状、多角錐形状など、尖形形状であれば任意の形状が適用される。
【符号の説明】
【0060】
1 フラットパネルディスプレイ装置
2 カバーガラス
3 アスファルト・コンクリート
4 小石
5 砂
10 化学強化ガラス
10a 表面
10b 下面
11 ビッカース硬さ試験機
12 載置台
16 圧子
16a 先端部
16b 底面
O 破壊起点
θ 断面角度
θmin 最小断面角度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に圧縮応力層が形成された化学強化ガラスの強度測定方法であって、
先端部の最小断面角度が120°未満の尖形形状に形成された圧子に荷重を加え、前記先端部が化学強化ガラスの表面に対して垂直となるように静的荷重条件下で押し込み、化学強化ガラスが割れるときの前記荷重を測定することを特徴とする化学強化ガラスの強度測定方法。
【請求項2】
前記先端部の最小断面角度は、30°以上であることを特徴とする請求項1に記載の化学強化ガラスの強度測定方法。
【請求項3】
表面に圧縮応力層が形成された化学強化ガラスの割れ再現方法であって、
化学強化ガラスに、静的荷重を与えて前記圧縮応力層より深い傷をつけることを特徴とする化学強化ガラスの割れ再現方法。
【請求項4】
先端部の最小断面角度が120°未満の尖形形状に形成された圧子に荷重を加え、前記先端部が化学強化ガラスの表面に対して垂直となるように静的荷重条件下で押し込むことを特徴とする請求項3に記載の化学強化ガラスの割れ再現方法。
【請求項5】
前記先端部の最小断面角度は、30°以上であることを特徴とする請求項4に記載の化学強化ガラスの割れ再現方法。
【請求項6】
表面に圧縮応力層が形成された化学強化ガラスの製造方法であって、
前記圧子による荷重を変えながら、請求項1又は2に記載の化学強化ガラスの強度測定方法により閾値を決定し、
該閾値を基準に化学強化ガラスの品質を判定する抜き取り検査を行うことを特徴とする化学強化ガラスの製造方法。
【請求項1】
表面に圧縮応力層が形成された化学強化ガラスの強度測定方法であって、
先端部の最小断面角度が120°未満の尖形形状に形成された圧子に荷重を加え、前記先端部が化学強化ガラスの表面に対して垂直となるように静的荷重条件下で押し込み、化学強化ガラスが割れるときの前記荷重を測定することを特徴とする化学強化ガラスの強度測定方法。
【請求項2】
前記先端部の最小断面角度は、30°以上であることを特徴とする請求項1に記載の化学強化ガラスの強度測定方法。
【請求項3】
表面に圧縮応力層が形成された化学強化ガラスの割れ再現方法であって、
化学強化ガラスに、静的荷重を与えて前記圧縮応力層より深い傷をつけることを特徴とする化学強化ガラスの割れ再現方法。
【請求項4】
先端部の最小断面角度が120°未満の尖形形状に形成された圧子に荷重を加え、前記先端部が化学強化ガラスの表面に対して垂直となるように静的荷重条件下で押し込むことを特徴とする請求項3に記載の化学強化ガラスの割れ再現方法。
【請求項5】
前記先端部の最小断面角度は、30°以上であることを特徴とする請求項4に記載の化学強化ガラスの割れ再現方法。
【請求項6】
表面に圧縮応力層が形成された化学強化ガラスの製造方法であって、
前記圧子による荷重を変えながら、請求項1又は2に記載の化学強化ガラスの強度測定方法により閾値を決定し、
該閾値を基準に化学強化ガラスの品質を判定する抜き取り検査を行うことを特徴とする化学強化ガラスの製造方法。
【図1】
【図2】
【図4】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図3】
【図5】
【図7】
【図11】
【図2】
【図4】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図3】
【図5】
【図7】
【図11】
【公開番号】特開2013−60325(P2013−60325A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199555(P2011−199555)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】
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