説明

化学物質のアレルギー誘発能の簡便・迅速定量方法

【課題】被検化学物質のアレルギー誘発能を定量的に簡便にかつ迅速に検出することができる方法を提供する。
【解決手段】化学物質のアレルギー誘発能の定量方法は、化学物質のアレルギー誘発能に関する定量的検出方法であって、(a)被検化学物質と血清蛋白質とを接触させる工程または(a')被検化学物質に曝露された可能性のあるヒトを含む哺乳類動物の血液を採取する工程及び(b)被検化学物質との反応による血清蛋白質の変化を蛍光測定する工程から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、化学物質のアレルギー誘発能の簡便でかつ迅速な定量方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、わが国の産業界で使用されている化学物質は、主なものだけでも約55,000種類を数えるといわれており、需要の多様化に伴い、毎年、新たに500種類以上の化学物質が社会に導入されている。これらの化学物質の中には、アレルギー誘発能の高い化学物質が当然含まれていると考えられており、そのようなアレルギー誘発能の高い化学物質をかかる数多くの化学物質の中から検出するのは非常に困難であるが、極めて重要である。
【0003】
従来、ある化学物質がアレルギー誘発能を有しているか否かは動物を用いた実験により確認されている。例えば、I型アレルギー誘発能試験としては、モルモットやラットを用いた全身性の能動アナフィラキシー試験(ASA試験)や、局所性の受身アナフィラキシー試験(PCA試験)などがある。ASA試験は、被検化学物質を一定間隔で反復投与し、アナフィラキシーショック症状の誘発の有無を調べる試験であり、PCA試験は、正常動物に被検化学物質感作血清を皮内投与した後被検化学物質を静注し、皮内注射部位にアナフィラキシー反応により生じる炎症の大きさから測定する試験である。また、IV型アレルギー誘発能試験としては、被検化学物質をモルモットやマウスに投与し、その物質を再投与あるいは塗布した皮膚部位の炎症の大きさから遅延型過敏症の誘発能を測定する方法が採用されており、物質の投与方法によりDraize試験、Buehler試験、maximization試験などがある。また、炎症の代わりに物質が再曝露された耳介のリンパ節でのリンパ球増殖反応を測定する局所リンパ節反応試験(local
lymph node assay, LLNA)が代替試験法として用いられる。さらにLLNA法の応用として、リンパ節細胞が産生するサイトカインプロフィールを解析する方法もある。
【0004】
しかしながら、これらの方法は、いずれも多くの実験動物と比較的長期の試験期間が必要であり、費用と時間の観点から大きな問題を有しており、さらに動物とヒトの種差などからヒトの化学物質によるアレルギーを予知する手段としては必ずしも適切ではないという問題もある。従って、短時間に、かつ簡便にアレルギー誘発物質を検出する方法の開発が切望されていた。
【0005】
そこで、本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行なった結果、アレルギー誘発物質が血清アルブミンなどの血清蛋白質と反応してその三次構造を変化させること、及びそのように三次構造が変化した血清蛋白質は電気泳動により無反応の血清蛋白質と分離可能であることを見出した。また、被検化学物質と血清蛋白質とを共存させた系において、被検化学物質と血清蛋白質との反応により三次構造が変化した血清蛋白質の存在を上記のように電気泳動により証明することによって、当該被検化学物質がアレルギー誘発物質であると判定できることを見出した(特許文献1)。
【0006】
このアレルギー誘発物質の検出方法は、(a)被検化学物質と血清蛋白質とを接触させる工程または(a')被検化学物質に曝露された可能性のあるヒトを含む哺乳類動物の血液を採取する工程及び(b)被検化学物質と血清蛋白質との反応により三次構造が変化した血清蛋白質が存在するか否かを電気泳動により確認する工程を含む方法からなつている。
【0007】
しかしながら、この方法は、電気泳動法を用いるため、アレルギー誘発能の有無を定性的に判定することは可能となったが、その作用の強さを定量的に判定することは不可能であった。従って、短時間に、かつ簡便にアレルギー誘発物質を検出することができる上に、アレルギー誘発物質を定量できる方法の開発が切望されていた。
【特許文献1】特開号2006−220518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明者は、アレルギー誘発能を定量的に判定する方法について鋭意研究をした結果、被検化学物質と血清蛋白質とを接触させ、被検化学物質との反応による血清蛋白質の変化を蛍光測定することによって、アレルギー誘発能を定量的に判定することができることを見出して、この発明を完成させた。
【0009】
この発明は、アレルギー誘発能を迅速にかつ簡便に定量的に判定する方法を提供することを目的としている。
【0010】
この発明は、1つの形態として、化学物質のアレルギー誘発能に関する定量的検出方法であって、(a)被検化学物質と血清蛋白質とを接触させる工程及び(b)被検化学物質との反応による血清蛋白質の変化を蛍光測定する工程を含むことからなる化学物質のアレルギー誘発能の定量方法を提供することを目的としている。
【0011】
また、この発明は、別の形態として、化学物質のアレルギー誘発能に関する定量的検出方法であって、(a')被検化学物質に曝露された可能性のあるヒトを含む哺乳類動物の血液を採取する工程及び(b)被検化学物質との反応による血清蛋白質の変化を蛍光測定する工程を含むことからなる化学物質のアレルギー誘発能の定量方法を提供することを目的としている。
【0012】
この発明は、好ましい態様として、既存のアレルギー誘発能陰性物質、アレルギー誘発能強陽性物質およびアレルギー誘発能弱陽性物質のアレルギー誘発能をそれぞれ測定して各アレルギー誘発能値を算出するとともに、被験化学物質のアレルギー誘発能を測定して、この測定値を上記算出アレルギー誘発能値に基づいてアレルギー誘発能の定量をすることからなる化学物質のアレルギー誘発能の定量的検出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、この発明は、化学物質のアレルギー誘発能に関する定量的検出方法であって、(a)被検化学物質と血清蛋白質とを接触させる工程または(a')被検化学物質に曝露された可能性のあるヒトを含む哺乳類動物の血液を採取する工程及び(b)被検化学物質との反応による血清蛋白質の変化を蛍光測定する工程を含むことからなる化学物質のアレルギー誘発能の定量方法を提供する。
【0014】
この発明は、好ましい態様として、上記化学物質のアレルギー誘発能の定量的検出方法において、上記被検化学物質が上記血清蛋白質を含む水性媒体に添加されることからなる化学物質のアレルギー誘発能の定量的検出方法を提供する。
【0015】
この発明は、好ましい態様として、上記被検化学物質が低分子有機化合物類、高分子有機化合物類、蛋白質類、糖化合物類、脂質類または核酸類であることからなる化学物質のアレルギー誘発能の定量的検出方法を提供する。
【0016】
この発明は、好ましい態様として、上記血清蛋白質がアルブミンまたはグロビンであることからなる化学物質のアレルギー誘発能の定量的検出方法を提供する。
【0017】
この発明は、好ましい態様として、2,5−ヘキサンジオンおよび/またはフタル酸などの既存のアレルギー誘発能陰性物質、グルタルアルデヒド、無水フタル酸、トルエン2,4−ジイソシアネートおよび/またはビスフェノールA
ジグリシジルエーテル(BADGE)などのアレルギー誘発能強陽性物質およびビスフェノールA および/または4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどのアレルギー誘発能弱陽性物質のアレルギー誘発能をそれぞれ測定して各アレルギー誘発能値を算出するとともに、被験化学物質のアレルギー誘発能を測定して、この測定値を上記算出アレルギー誘発能値に基づいてアレルギー誘発能の定量をすることからなる化学物質のアレルギー誘発能の定量的検出方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
この発明に係る化学物質のアレルギー誘発能の定量的検出方法は、被験化学物質のアレルギー誘発能を定量的に簡便にかつ迅速に検出することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明に係る化学物質のアレルギー誘発能の定量的検出方法は、(a)被検化学物質と血清蛋白質とを接触させる工程または(a')被検化学物質に曝露された可能性のあるヒトを含む哺乳類動物の血液を採取する工程及び(b)被検化学物質との反応による血清蛋白質の変化を蛍光測定する工程を含むことからなっている。
【0020】
工程(a)において用いられる血清蛋白質の種類も特に限定されないが、例えば、アルブミンやグロビンなどを挙げることができる。なかでもアルブミンが好ましい。アルブミンとしては、ヒト血清から分離調製したもののほか、乾燥アルブミンとして提供されている市販品など、いかなる形態又は由来のものを用いてもよい。
【0021】
この発明の工程(a)および工程(a')において用いられる被検化学物質の種類は特に限定されない。例えば、低分子有機化合物類、高分子有機化合物類、蛋白質類、糖化合物類、脂質類、核酸類など、いかなるものを検出対象として用いてもよい。これらのうち、低分子有機化合物を好ましい被検化学物質として挙げることができる。
【0022】
これらの被験化学物質のうち、低分子有機化合物の化学構造は特に限定されず、任意の官能基を1個又は2個以上を有していてもよく、任意のヘテロ原子(例えば酸素原子、窒素原子、又はイオウ原子など)を含んでいてもよい。直鎖若しくは分枝鎖、飽和、部分飽和、若しくは芳香族の環構造(環構造は単環若しくは多環のいずれの構造であってもよい)、あるいはそれらの組み合わせからなる任意の構造を含んでいてもよい。
【0023】
低分子有機化合物類としては、骨格を構成する炭素の数は制限されるものではなく、またその骨格に窒素、酸素などの炭素以外の元素が含まれていてもよい。かかる低分子有機化合物類としては、例えば、鎖式炭化水素化合物類や環式炭化水素化合物類などが挙げられる。鎖式炭化水素化合物類としては、飽和もしくは不飽和炭化水素化合物類などが挙げられ、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、イソプロパン等のアルカン類、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、メチルペンテン等のアルケン類、アセチレン、プロチン、ブチン、ペンチン等のアルキン類などが例示される。
【0024】
鎖式炭化水素化合物類としては、例えば、脂環式炭化水素化合物類、芳香族炭化水素化合物類、複素乾式炭化水素化合物類などが挙げられる。脂環式炭化水素化合物類としては、例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロヘキサン等のシクロアルカン類、シクロヘキセン等のシクロアルケン類、シクロブタジエン等のシクロアルカジエン類などが挙げられる。
【0025】
芳香族炭化水素化合物類としては、例えば、ベンゼン等の単環芳香族炭化水素化合物類や、ペンタレン、ナフタレン、アントラセン、クリセン、フルオラセン、ピレン、ベンゾアントラセン、ベンゾフルオラセン等の多環炭化水素化合物類などが挙げられる。
【0026】
複素環式化合物は、例えば、三員環から十員環からなる環式炭化水素化合物であって、環を構成する炭素原子の他に、窒素原子、水素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を1個もしくは複数個含む環式炭化水素化合物であり、代表的な複素環式炭化水素化合物としては、例えば、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール等の五員複素環式化合物、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、ピラン等の六員複素環式化合物などが例示される。
【0027】
上記の低分子有機化合物類は、いずれもその任意の位置に窒素、酸素、硫黄、リンまたはハロゲンからなるもしくはこれらのいずれかを含む官能基の1個もしくは複数個で置換されていてもよい。かかる官能基としては、例えば、水酸基、アルデヒド基、炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基など)、アミド基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基、ハロゲン原子、イミノ基、ニトリル基、ニトロ基、スルホン基、スルフィド基、チオール基などが例示される。
【0028】
高分子有機化合物類は、例えば、合成高分子化合物、天然高分子化合物などに分けることができる。合成高分子化合物は、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などに分けられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂などが挙げられる。
【0029】
また、高分子有機化合物類としては、例えば、ナイロン等のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、アクリルなどの合成繊維も挙げられる。
【0030】
さらに、天然高分子化合物としては、例えば、タンパク質、核酸、脂質、多糖類等が挙げられる。タンパク質は、例えば、アミノ酸のみからなる単純タンパク質と、脂質、糖類、金属等を含んでいる複合タンパク質とに別けられる。かかるタンパク質としては、例えば、ケラチン、コラーゲン、フィブロイン、フィブリノーゲン、ムチン、ヘモグロビン、グロブリン、アルブミン、ミオグロビン、キモトリプシン、ペプシン、カゼインなどが挙げられる。核酸はデオキシリボ核酸とリボ核酸とがある。
【0031】
脂質は、一般的には、単純脂質、複合脂質および誘導脂質に分類される。単純脂質としては、例えば、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド等のグリセリド、セラミドなどが挙げられる。複合脂質としては、例えば、グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質等のリン脂質、グリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質等の糖脂質、リポタンパク質などが挙げられる。誘導脂質としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の脂肪酸、アンドロスタン類、エストラン類、プレグナン類等のステロイド、カロテン類、キサントフィル類等のカロテノイド、モノテルペン類、ヘミテルペン類、せすきてルペン類等のテルペノイドなどが挙げられる。
【0032】
多糖類としては、例えば、アミロース、アミロペクチン等のデンプン、グリコーゲン、キチン、アガロース、セルロース、キシログルカンなどが挙げられる。
【0033】
血清蛋白質と被検化学物質とを接触させる工程(a)は、例えば、血清蛋白質を含む水性媒体に被検化学物質を添加することにより行われるが、この操作は特に限定されず、水性媒体中で血清蛋白質と被検化学物質とが接触可能な状態であればいかなる操作を選択してもよい。水性媒体としては、水、リン酸バッファーなどの緩衝液、生理食塩水などを用いることができ、必要に応じて、グリセリンやエチレングリコール、ジメチルスルホキシドなどの水混和性有機溶媒を必要量添加してもよい。上記の接触を行なう温度及び時間は特に限定されないが、一般的には、血清蛋白質が変性しない温度範囲(例えば0〜40℃程度、好ましくは20〜37℃程度)で、数分から数日間、好ましくは1〜48時間程度の処理を行なえばよい。上記の接触は、好ましくは生理的環境と同等の中性付近、例えばpH7.0〜7.5程度の範囲で行なうことが望ましい。この接触工程は上記のようにイン・ビトロで行なってもよいが、被検化学物質をヒトを含む哺乳類動物に投与して、血液を採取する方法によりイン・ビボで行なうこともできる。また、被検化学物質に曝露された可能性のあるヒトを含む哺乳類動物の血液を採取する工程(a')は、上記工程(a)に代えることも可能である。
【0034】
工程(b)では、被検化学物質と接触させた血清蛋白質溶液を280nmの光で励起し、340nmの蛍光強度を測定するものである。この蛍光は主として蛋白質中のトリプトファンによってもたらされ、被検化学物質がトリプトファンの環状構造を破壊することにより、その蛍光強度が弱まるものと考えられる。この蛍光強度の減弱がアレルギー誘発能と強い関係があることがこの発明のもっとも重要なところである。
【0035】
具体的には、8種類の低分子化学物質(0.5μM〜5.0mM)と血清アルブミンを接触させた直後、24時間後、1週間後の血清アルブミンの変化を調べた。被検化学物質のアレルギー誘発能の強さについての評価は、国際的にも公式のものはない。そこで、被験8物質の公式機関における感作性有無の評価(表1)を参考に、いずれの機関でも感作性物質の指定がなされていないもの(2,5−ヘキサンジオン(HD)およびフタル酸(Facid))をアレルギー誘発能「陰性物質」、すべての公式機関において感作性物質と指定されている物質(グルタルアルデヒド(Glu)、無水フタル酸(Fanhydride)、トルエン2,4−ジイソシアネート(TDI)およびビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)をアレルギー誘発能「強陽性物質」、公式機関により指定が一致していない物質(ビスフェノールA(BisA)および4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DADPE))をアレルギー誘発能「弱陽性物質」の3群に分けた。結果は図1に示すとおり、血清アルブミンの蛍光強度は、強陽性物質>弱陽性物質>陰性物質の順で減弱した。したがって、アレルギー誘発が未知な物質をこの方法により蛍光強度を調べれば、当該物質のアレルギー誘発能を定量的に評価することが可能である。
【0036】
【表1】

【0037】
次に、この発明を実施例により更に具体的に説明するが、この発明は下記実施例によって一切制限されるものではなく、下記実施例はこの発明を具体的に説明するために例示的に記載されているものである。
【実施例1】
【0038】
2,5−ヘキサンジオン(HD)、フタル酸(Facid)、グルタルアルデヒド(Glu)、無水フタル酸(Fanhydride)、トルエン2,4−ジイソシアネート(TDI)、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)、ビスフェノールA(BisA)および4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DADPE)をそれぞれ50μM〜500mMの濃度になるようにジメチルスルホキシドで溶解し、この溶液と血清アルブミン(0.33mg/ml:0.2Mリン酸バッファー(pH7.5)に溶解)溶液を、1:99の容積比で混和し、混和直後、24時間後および1週間後の血清アルブミンの変化を調べた。血清アルブミンの変化は、励起波長280nm(340nm)での蛍光強度を測定した。その結果、図1(血清アルブミン添加直後)、図2(血清アルブミン添加24時間後)および図3(血清アルブミン添加168時間後)にそれぞれ示す。
【産業上の利用可能性】
【0039】
この発明によれば、動物を用いた長期間の煩雑なアレルギー誘発試験を行うことなく被検化学物質がアレルギー誘発物質であるか否かを迅速かつ簡便に確認できることに加えて、被検化学物質のアレルギー誘発能を定量的に評価ができる。
【0040】
この発明に係る化学物質のアレルギー誘発能の簡便・迅速定量方法によれば、産業現場において取り扱う化学物質のアレルギー誘発能を簡便にかつ迅速に定量的に測定することができるので、かかる化学物質の強さに応じた労働衛生対策および消費者が可能となり、危険度に応じた曝露防止対策の実施と不必要な対策の排除が可能となり、より効果的な労働者および消費者保護を図る事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】8種類の低分子化学物質(0.5μM〜5.0mM)と血清アルブミンを接触させた直後の血清アルブミンの変化を示す図。
【図2】8種類の低分子化学物質(0.5μM〜5.0mM)と血清アルブミンを接触させた24時間後の血清アルブミンの変化を示す図。
【図3】8種類の低分子化学物質(0.5μM〜5.0mM)と血清アルブミンを接触させた168時間後の血清アルブミンの変化を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)被検化学物質と血清蛋白質とを接触させる工程及び(b)被検化学物質との反応による血清蛋白質の変化を蛍光測定する工程を含むことを特徴とする化学物質のアレルギー誘発能の定量的検出方法。
【請求項2】
(a')被検化学物質に曝露された可能性のあるヒトを含む哺乳類動物の血液を採取する工程及び(b)被検化学物質との反応による血清蛋白質の変化を蛍光測定する工程を含むことを特徴とする化学物質のアレルギー誘発能の定量的検出方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化学物質のアレルギー誘発能の定量的検出方法において、前記被検化学物質が前記血清蛋白質を含む水性媒体に添加されることを特徴とする化学物質のアレルギー誘発能の定量的検出方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の化学物質のアレルギー誘発能の定量的検出方法において、前記被検化学物質が低分子有機化合物類、高分子有機化合物類、蛋白質類、糖化合物類、脂質類または核酸類であることを特徴とする化学物質のアレルギー誘発能の定量的検出方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の化学物質のアレルギー誘発能の定量的検出方法において、前記血清蛋白質がアルブミンまたはグロビンであることを特徴とする化学物質のアレルギー誘発能の定量的検出方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の化学物質のアレルギー誘発能の定量的検出方法において、既存のアレルギー誘発能陰性物質、アレルギー誘発能強陽性物質およびアレルギー誘発能弱陽性物質のアレルギー誘発能をそれぞれ測定して各アレルギー誘発能値を算出するとともに、被験化学物質のアレルギー誘発能を測定して、この測定値を上記算出アレルギー誘発能値に基づいてアレルギー誘発能の定量をすることを特徴とする化学物質のアレルギー誘発能の定量的検出方法。
【請求項7】
請求項6に記載の化学物質のアレルギー誘発能の定量的検出方法において、前記アレルギー誘発能陰性物質が2,5−ヘキサンジオンおよび/またはフタル酸であること、前記アレルギー誘発能強陽性物質がグルタルアルデヒド、無水フタル酸、トルエン2,4−ジイソシアネートおよび/またはビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)であること、および前記アレルギー誘発能弱陽性物質がビスフェノールAおよび/または4,4’−ジアミノジフェニルエーテルであることを特徴とする化学物質のアレルギー誘発能の定量的検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−270872(P2009−270872A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120130(P2008−120130)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(506087705)学校法人産業医科大学 (24)
【Fターム(参考)】