説明

化学的試料および生体試料の高感度検出用スペクトル領域光コヒーレンス反射計測を実行可能な装置、システム、および方法

【課題】分子認識のためのシステム、装置および方法を提供する。
【解決手段】例えば、時間とともに変化する波長、および/または10nmよりも大きいスペクトル幅を有する特定の放射を生成する。例えば、少なくとも1つの試料に少なくとも1つの第1の電磁放射を、参照体に少なくとも1つの第2の電磁放射を照射する。第1の放射と第2の放射はこの特定の放射の一部である。さらに、(第1の電磁放射に関連付けられた)第3の電磁放射と(第2の電磁放射に関連付けられた)第4の電磁放射との間の干渉を検出する。この干渉に基づいて、試料の少なくとも一部の厚さの変化が決定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分子認識のための方法と装置に関する。より詳細には、本発明は、検知面上の分子結合および流路中の分子の存在の検出装置、システム、および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2005年5月13日出願の米国特許出願第60/680,947号に基づき優先権を主張するものであり、この全ての開示内容を本明細書の一部として援用する。
【0003】
(連邦政府による資金提供を受けた研究開発に関する声明)
本発明は、契約RO1EY014975およびRO1RR019768に基づく国立衛生研究所からの給付と、契約F49620−021−1−0014に基づく国防総省からの給付による米国政府の援助により行われた。従って、米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0004】
分子(例えば農薬、ウィルス、および有機毒素)の微小な痕跡を実時間で検知することは、医療診断、環境監視、および国家の安全保障等のさまざまな用途において重要である。例えば、ウィルスを極めて高感度に検出する方法、ならびに是正措置を開始できるように化学物質および病原体(爆発物や炭疽菌)を早期に検出する工程が求められる。このような方法は、例えば、医療、環境の用途および生物学的防衛など、広範囲において重要となろう。
【0005】
このような検出の代表的なものとして、蛍光によるもの(D.W.Pierceらによる「Imaging individual green fluorescent proteins」Nature,1997,Vol.388,pp338以下参照)、および一定の放射線手段を用いるものがあげられる。これらのラベルを用いる技術は潜在的に1分子レベルの検出を達成しうるが、そのためには追加的な試料の分離を実施することが必要で、この分離は時間がかかり、目的とする分子に影響を与える可能性がある。
【0006】
表面プラズモン共鳴(SPR)センサ(J.Homolaらの「Surface plasmon resonance sensors:review」Sensors and Actuators B,1999,Vol.54,pp.3−15参照)、水晶結晶マイクロバランス(QCM)装置(G.Kleefischらの「Quartz microbalance sensor for the detection of Acrylamide」Sensors,2004,Vol.4,pp.136−146参照)等のラベルを用いない技術はセンサ面上の分子の物理的な吸収の示度を与える。SPRセンサは、一般に、タンパク質吸収が起こると金属・誘電体界面で屈折率が変化することによるSPR角度の変化を利用する。しかし、このセンサは、感度を落とさないとセンサの横方向の分解能を減少させることができないために、多量の分子を観察する可能性がある(C.Bergerらの「Resolution in surface plasmon microscopy」REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS,1994,Vol.65,pp.2829−2836参照)。QCM技術もまた、タンパク質結合時に生じる有効質量増加による共振周波数の偏移を利用している。QCM検出法は、多量の分子を必要とすることに加え、水を含んだ環境中での減衰は感度を劣化させる可能性があるため、乾燥した環境中、好ましくは真空中で動作する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の課題に対処するために、いくつかの微細加工技術を用いた方法が試みられてきた(P.Burgらの「Suspended micro流路 resonators for biomolecular detection」Applied Physics Letters,2003,Vol.83(13),pp.2698−2700、およびW.U.Wangらの「Label−free detection of small−Molecule−protein interactions by using nanowire nanosensors」PROCEEDINGS OF THE NATIONAL ACADEMY OF SCIENCES OF THE UNITED STATES OF AMERICA,2005.102:p.3208−3212参照)。このような方法は、ラベルのない種に対して潜在的に感度の良い検出を達成しうるが、加工技術(例えば、Eビームリソグラフィー法、電子ビーム蒸着法、および化学蒸着法)は複雑で高価であり、このような技術を使用する検知装置は微小流体素子に直接接続される可能性があるため、これらのさまざまな診断用途の使用を制限する。
【0008】
スペクトル領域光コヒーレンス反射計測(SD−OCR)技術は、ナノメートル以下の厚さ感度をもって深さ分解位相情報の測定が可能な光学測距手法である。例えば、厚さの変化は光学的厚さの変化、屈折率の変化、および/または物理的厚さの変化となりえる。SD−OCRの詳細な説明およびナノメートル以下の感度の実証が、国際特許出願第PCT/US03/02349号、C.Jooらの「スペクトル領域 光コヒーレンス phase microscopy for quantitative phase−contrast imaging」Optics Letters,2005,Vol.Vol.30,pp.2131−2133、およびB.C.Nassifらの「In vivo human retinal imaging by ultrahigh−speed spectral domain Optical Coherence tomography」Optics Letters,2004,Vol.29,pp.480−482に提示されている。
【0009】
本発明は、(上述のものを含む)従来技術の欠点および課題を解決することを一つの目的として、以下に詳細に説明する代表的なSD−OCR技術を実施する。本発明の一つの目的は、SD−OCR技術(例えば、SD−OCR装置、システムおよび方法)を用いた装置、システムおよび方法を実施することによって、達成できる。本発明はさらにシステム、装置および方法を用いて、SD−OCR技術を応用して、ラベルのない化学種または生物学的種を極めて高感度に検出することをもう一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
例えば、本発明の代表的な実施形態のシステム、装置および方法は、ラベルのない化学種または生物学的種のために提供できる。代表的な実施形態は、低コヒーレンス干渉法のコヒーレンスゲーティングを用いて、目的とする干渉信号を識別し、表面の分子吸収/分離または流路内の濃度測定に関連する信号の位相変化を測定できる。検知面の分子結合については、これらの代表的な実施形態は、分子間相互作用をミクロンのレベルの領域で試験できるため、使い捨てアレーの二次元面上で多数の活性化部位を平行してモニターでき、活性化した結合部位をマイクロアレーに含めることによって、新しい化学種または生物学的種の検出にも適合させることができる。
【0011】
このようにして、分子認識(例えば、検知面における分子結合および流路における分子の存在)用のシステム、装置および方法を提供する。例えば、時間とともに変化する波長、および/または10nmよりも大きいスペクトル幅を有する特定の放射を生成する。例えば、少なくとも1つの試料に少なくとも1つの第1の電磁放射を、参照体に少なくとも1つの第2の電磁放射を照射してもよい。ここで、第1の放射と第2の放射はこの特定の放射の一部である。さらに、(第1の電磁放射に関連付けられた)第3の電磁放射と(第2の電磁放射に関連付けられた)第4の電磁放射との間の干渉を検出する。この干渉に基づいて、試料の少なくとも一部の厚さの変化が決定できる。
【0012】
本発明の他の代表的な実施形態によると、第1の放射および第2の放射は共通の経路を共有してもよい。この試料は複数の試料を含み、複数の試料のそれぞれの少なくとも一部の厚さの変化を同時に決定してもよい。少なくとも1つの試料の少なくとも一部の厚さの変化は、第1の電磁放射の光束経路に沿った異なる位置、または第1の電磁放射の光束経路に直交する異なる位置の少なくとも一方において、同時に決定されてもよい。この厚さの変化は、第1の電磁放射の光束経路に沿った異なる位置に沿って、同時に決定されてもよい。第1の電磁放射は、試料の表面上をその複数の位置において走査してもよい。
【0013】
本発明のさらに他の代表的な実施形態によると、試料の一部は、さらなる分子と結合する、または解離するように設計された特定の分子で被覆されてもよい。厚さの変化は、特定の分子の結合または解離に関連づけられてもよい。特定の分子は、特定の分子と異なるさらなる分子と結合する親和性を有してもよい。この一部は複数の部分を含んでもよい。例えば、特定の分子の第1の組が複数の部分の第1の部分に結合する親和性を有し、特定の分子の第2の組が複数の部分の第2の部分に結合する親和性を有してもよい。第1と第2の組が互いに異なってもよい。
【0014】
本発明のさらなる代表的な実施形態によると、試料は、その中に複数の層を有する、および/または、使い捨てであってもよい。試料は微小流体の配列であってもよい。試料の一部の厚さの変化は、光学的厚さ変化、および/または、物理的厚さ変化、および/または、屈折率変化であってもよい。厚さの変化を、試料の一部の境界部、および/または、内部の分子の濃度に関連づけてもよい。厚さの変化を波長の関数として、試料の一部の境界部、および/または、内部の分子の種類に関連づけてもよい。第1の電磁放射が、試料の一部の境界部、または内部に光束の断面を有し、断面が少なくとも回折限界の大きさ(例えば、10μm)を有してもよい。厚さは、(i)干渉を複素数形式の第1のデータに変換し、(ii)第1のデータに関連づけられた絶対値を決定して第2のデータを生成し、(iii)一部の特定の位置を第2のデータの関数として識別し、(iv)第1のデータに関連づけられた位相を決定して第3のデータを生成し、(v)厚さの変化を第3のデータに関連づけることによってしてもよい。さらに、干渉をフーリエ変換して第1のデータを生成してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のさらなる目的、特徴および利点は、本発明の例示的な実施形態を図示する添附の図面とあわせ、以下の詳細な説明から明らかであろう。
【0016】
特に説明のない限り、図面を通して同様の参照番号および文字は、例示された実施形態の同様の機能、要素、部品または部分を意味する。これらの図面を参照して、例示的な実施形態の説明をしながら、本発明について詳細に説明する。
【0017】
本発明によるファイバを用いた代表的な実施形態のSD−OCRシステムを図1に示す。例えば、図1に示すように、このシステムは、2×2ファイバカプラ等の干渉計(1010)を照射するように構成された広帯域光源(1000)を含み、この光束は回折限界のスポットの大きさで検知面上に焦点を結ぶことができる。検知面は、タンパク/DNAチップまたは微小流体素子の一部でよい。検知面1060(およびガラス1050)の界面から反射された光束は干渉計に再び結合して検出部にて干渉信号を生成させることができる。分光計(1070)のおける干渉に関する信号は次式で表すことができる。
【数1】

ここで、kは波数、zは幾何学的距離、RとR(z)は、それぞれ、深さzにおける参照反射率と測定反射率を表す。S(k)は光源のパワースペクトル密度で、Δpは参照光束と測定光束との間の光学的経路長の差である。2kに対して式1の離散フーリエ変換によって複素数値の深さ情報F(z)が得られるため、深さzの強度と位相は次式に得ることができる。
【数2】

【数3】

ここで、λは光源の中心波長である。数式2の深さ分解強度情報を用いて目的とする個別の干渉信号を特定し、その信号における位相(すなわち厚さ)変化が実時間でモニターされ分子認識がなされる。実際に、分光計(1070)は、参照体(ガラス1050の底面)と分子が結合した検知面すなわちスライド(1060)との間の干渉のパワースペクトルを測定できる。このシステムはまた、コリメータ(C1:1020、C2:1030)、集束レンズ(L:1040)および分光計(1070)を含むことができる。
【0018】
例えば、代表的な分子吸収検出を実施するために、検知面における代表的なプローブ分子を既知の手順(Biacore AB社の1998年「BIACORE Getting Started」参照)によって固定またはパターン化することができる。これを実施形態するための方法の一つとして、センサ面をプローブ分子の高濃度溶液に数時間の間浸漬し、次にそれを燐酸バッファ生理食塩水(PBS)で洗浄することがあげられる。プローブ分子アレーのパターン化については、タンパク質を含んだポリジメチルシロキサン(PDMS)スタンプが、この表面に接触させられ物理吸収を行わせる、微小接触印刷技術を採用することによってなしうる(A.Bernardらの「Microcontact printing of proteins」Advanced Materials,2000,Vol.12,pp.1067−1070参照)。センサ面がプローブ分子で活性化された後、これらの図では、図1の代表的なシステムを用いた分子間相互作用の代表的な測定を説明する図2a〜2cに示すように被検体を検知面に導入してもよい。例えば、プローブ分子(2020)は検知面(2010)に固定することができ、目的の分子(2030)を導入できる。被検体がプローブ分子と作用し結合すると、センサ面の厚さが変化し、結合した分子の層からの反射は、測定中の干渉信号内で位相変化を起こす。換言すると、これらの分子がプローブ分子と結合すると、実時間で位相変化を検出可能できる。この代表的な変化を使用して、被検体のプローブ分子に対する親和性、およびこの相互作用に関する運動性を研究する。
【0019】
本発明の代表的な実施形態のシステム、装置および方法は、分子間相互作用のSD−OCR深さ分解測定を実施可能なSD−OCR装置の他の代表的な実施形態を例示する、図3に示す分子間相互作用の深さ分解検出も実行可能である。図3に示すように、ミラー(M:3080)を参照経路に設置してよく、分光計(3090)が参照ミラー(M:3080)からの反射と、分子が結合したガラススライド(3050、3060)からの反射との間の干渉のパワースペクトルを測定可能である。特に、この代表的な図3の装置は、さらに、広帯域光源(S:3000)、2×2ファイバカプラ(FC:3010)、コリメータ(C1:3020、C2:3030、C3:3070)、集束レンズ(L:3040)、分子が結合したガラススライド(3050、3060)および分光計(3090)を含んでよい。例えば、固定ミラーからの反射光束と多層素子の界面からの光束との間の干渉が測定される。
【0020】
図4は、本発明の代表的な実施形態による代表的な運用測定と、これに関連しこの出力を例示するグラフであり、図1および/または図3のSD−OCR生物学的検知装置および/または国際特許出願第PCT/US03/02349号に記載された装置を用いて、深さ分解情報を、例えば、ほとんどまたは全ての界面にて同時に測定するものである。例えば、電磁放射または光が1つまたは複数のレンズL(4000)を介して投射され、この図に示す分子が結合したセンサ面(4010、4020)が異なる分子によって活性化されうる。これらの表面に基づく代表的な深さ分解測定(4010、4020)は、固定された分子A、Bに対する目的分子の親和性が異なることを示しうる。強度情報を用いて、図3に示すそれぞれのセンサ面(3050、3060)を特定し、それぞれのセンサ面の位相を実時間で観測して、例えば、図4に示すように、異なる(プローブ)分子に対して同じまたは同様な被検体の動態を解析することが可能である。
【0021】
図5の略図およびグラフに示すように、分子結合の高速多チャンネル検出の代表的な実施形態がプローブ分子のマイクロアレーを介して可能である。ガルバノメータ走査ミラー(GM:5000)、集束レンズ(L:5010)、および多分子が結合したガラススライド(5020)を例示する図5に示すように、スライド(5020)のセンサ面は、種々のプローブの小さな特徴(1〜10□m)でパターン化可能であり、その後に、空いている表面を不活性なタンパク質で飽和させる。目的の分子すなわち被検体が導入され、探査光束が検知面を渡って走査し、プローブ(すなわち活性化)部位のそれぞれにおける分子間相互作用を実時間で観測し測定する。非特異的なタンパク質・タンパク質結合(交差反応(cross reactivity))が、センサ面全体で一般的であるため、これは、センサ面全体を検査することにより、およびプローブ(すなわち活性化)領域における変化を非活性化領域のそれと比べることによって、解消可能である。
【0022】
検知面上の分子吸収の検出に加え、本発明によるシステム、装置および方法の代表的な実施形態は、流体流路中の自由な分子の量(すなわち濃度)の測定のためにも使用可能である。例えば、溶液中に自由な分子の存在は流路の有効屈折率を変化させる可能性があり、流路の上面および底面からの反射光束間の干渉における位相を変化させることがある。
図6aおよび6bは、このような概念の代表的な2つの図で運用例示を示しているが、少なくとも1つの集束レンズ(L:6000)、微小流体素子(6010)、およびガルバノメータ光束走査器(GM:6030)を含む。図6aでは、流体流路の上壁と底壁との間の干渉における位相が、1つまたは複数の特定の位置で時間の関数として測定または観測され、分子を流路に導入すると測定位相が増加する。適切な校正を通じて、本発明の代表的な実施形態を用いて溶液の濃度レベルを定量することが可能である。図6bは、どのように2つの異なる分子が流体流路中を拡散するかを表す運用の略図を示す。図示するように、探査光束は流体流路に渡って走査し、分子が拡散する際に空間位相分布を測定する。分子が流路中に、例えば、微小流体素子(6010)の表面と表面の間に流入する際に、位相変化が引き起こされることがあり、分子濃度の変化を示すことがある。拡散測定では、探査光束は流路に渡って走査し、これらの分子の拡散によって起こる空間位相分布を測定する。この測定は有用であり、与えられた環境でラベルのない種の拡散速度および結合親和性を定量することが可能である。
添附データ
【0023】
I.ビオチンとストレプトアビジンの相互作用の測定
本発明の代表的な実施形態の実施の予備的な実証として、図7のようにセンサ面におけるビオチンとストレプトアビジンとの間の相互作用を測定したが、この図に本発明による代表的なSD−OCR生物学的検知装置によって測定された代表的なサブシクエントbBSAストレプトアビジン結合のグラフ7010を示す。微小流体素子の内部流路はビオチン化したウシ血清アルブミン(bBSA)によって活性化され、サブシクエントbBSAストレプトアビジン結合を検出するいくつかの実験が行われた。当初は、PBS溶液の導入で検知面における厚さは変化しなかったが、ストレプトアビジン溶液(1μM)が代表的な素子の中に注入された後に、固定されたbBSA層へのストレプトアビジンの結合による顕著な変化が観察された。図7に示すように、この厚さは、bBSAの全ての結合部位がストレプトアビジンによって占有された後に一定を保った。続くPBS溶液の導入では、測定厚さは変化しなかった。しかし、bBSA溶液を再度流入させた際に(3μM)、厚さの一層の増加が観察されたが、これは、bBSAストレプトアビジンの多層形成によって例示されるように、ストレプトアビジンの注入が流路中でbBSAに結合する能力を再生させたためであろう。続くバッファ溶液の導入で信号は変化しなかったが、bBSA溶液に戻した際には、厚さの一層の増加が観察された。
【0024】
低濃度のストレプトアビジン溶液(250nM)を用いた管理用の実験も行われたが、これを図8aおよび8bに示す。例えば、図8aは、代表的な管理用のbBSAストレプトアビジン結合測定の代表的な結果を与えるグラフ8010を示し、bBSA官能化センサ面における厚さの増加を例示している。図8bは、代表的な管理用のbBSAストレプトアビジン結合測定の代表的な結果のグラフ8020を示し、非官能化表面における厚さの増加が観測されなかったことを例示している。これらの図に示すように、微小流体素子の流路はbBSAで官能化されており、ストレプトアビジンが流路中に導入された。先の測定と比べるとより遅い速度でのストレプトアビジンの結合による、厚さの増加が観察された。しかし、非官能化検知面の場合には、厚さは図8bに示すように変化せず、これはストレプトアビジンのビオチンに対する特異結合性質を示すものである。
【0025】
II.SiOエッチングの検出
図11に本発明による方法の代表的な実施形態の流れ図を示す。例えば、時間とともに変化する波長、および/または10nmより大きなスペクトル幅を有する特定の放射が光源装置によって提供する(ステップ110)。具体的には、ステップ120に示すように、第1の電磁放射を試料に提供し、第2の電磁放射が参照体に提供してもよい(両方とも特定の放射の一部である)。次にステップ130で、第3の電磁放射(第1の電磁放射に関連づけられる)と第4の電磁放射(第2の電磁放射に関連づけられる)との間の干渉を検出する。さらに、干渉に基づき試料の少なくとも一部の厚さの変化をステップ140で決定できる。
【0026】
本発明による方法の代表的な実施形態を用いて、希釈されたフッ酸(HF)溶液によってエッチングされた二酸化珪素分子(SiO、MW:約60Da)の数を測定が可能である(Handbook of Chemistry and Physics,86 ed.,2005:CRC Press,p.2544参照)。SiOは小分子の代表であり、その表面密度はよく知られている。この例では、カバースリップ底培養ディシュ(Mattek,Ashland,MA)が脱イオン水で満たされ、HF溶液がディッシュ中に注入され所望の濃度にされた。カバースリップ表面での探査光束は約5μmの直径を有し、有効厚さ変化が時間の関数として観測された。図9aは本発明による、容積にて約0.07%の特定のHF濃度におけるカバースリップ厚さの代表的な変化を例示するグラフを示す。図9aのこのグラフでは、測定されたエッチング速度は約51nm/minであった。カバースリップ底培養ディシュは脱イオン水で満たされ、HF溶液がディッシュ中に注入され所望の濃度(7x10−5〜0.7%)にされた。二酸化珪素分子のエッチング速度の変化も、図9bに示すようにHF濃度の変化として測定され、この図に、例えばHF濃度が0.05%より大きい場合に、本発明による種々のHF濃度でのエッチング速度の代表的な大きな変化のグラフを例示する。
【0027】
III.光合成タンパク質層の画像
ホウレンソウから抽出された光合成タンパク質は微細スタンプ接触印刷技術(A.Bernardらの「Microcontact printing of proteins」Advanced Materials,2000,Vol.12,pp.1067−1070参照)を用いてカバースリップ上にパターン化され、タンパク質のパターンが、カバースリップの上面および底面からの反射間の干渉における位相測定として、本発明の代表的なシステム、装置、および方法によって画像化された。図10に、本発明による装置および方法を用いて表面に生成された光合成タンパク質層の分布画像のグラフ10000を示す。カバースリップに渡り、カバースリップの上面および底面間の干渉における位相測定によって厚さの分布が得られた。光合成タンパク質層が微小スタンプ接触印刷技術によってパターン化された。この結果は、極めて薄い有機物層または薄膜の画像化に対して本発明の潜在能力を実証するものである。
【0028】
本発明によるシステム、装置、および方法の代表的な実施形態には、化学的および生物学的な種の検出の実施においていくかの態様がある。例えば、これらの代表的な実施形態は、次のものを提供する。
i.ラベルを用いない検出であり、例えば分子認識が、蛍光性および放射性のラベル等の試料分離を必要とせずに達成可能である。
ii.検知範囲は、おおよそ回折限界の大きさ(約1ミクロン)程に小さいことが可能で、著しく少量の分子で検出が達成可能である。
iii.検出範囲の大きさが小さいため、使い捨ての2次元アレー上の複数の活性化プローブ部位の観測が同時に可能である。
iv.代表的な測定システムおよび装置はマイクロアレーや微小流体素子から完全に切り離し可能であり、このため、どのような環境にも配備可能であり、センサ面の再生を使用しないでよい。
v.多層深さ分解分子検出が実施可能である。
vi.測定はマイクロ秒の時間分解で達成可能であり、代表的な実施形態は、DNAの変性等の速い動的な過程に応用可能である。
vii.代表的な実施形態は、また、微小流体素子中の自由な分子の濃度および拡散の測定に用いることが可能である。
【0029】
前述のものは、単に、本発明の原理を例示するものである。本明細書の教示を考慮して、説明した実施形態にさまざまな修正や変更を行うことは、当業者にとって自明であろう。実際に、本発明の代表的な実施形態による装置、システム、および方法は、どのようなOCTシステム、OFDIシステム、SD−OCTシステム、または他の画像化システム、例えば、2004年9月8日出願の国際特許出願第PCT/US2004/029148号、2005年11月2日出願の米国特許出願第11/266,779号、および2004年7月9日出願の米国特許出願第10/501,276号に記載されているものに対しても使用可能であり、これらの開示の全てを本明細書の一部として援用する。当業者には、本明細書に明確に図示または説明されていなくても、本発明の原理を具現化するシステム、装置、および方法を多数案出することが可能であり、従って、これらも本発明の趣旨と範囲内であることが理解されるであろう。さらに、上述の明細書に前記の先行技術の知識が明示的に援用されていない範囲においても、その全体を明示的に本明細書に援用する。本明細書で引用した上述の全ての文献は、その全体を本明細書の一部として援用する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の代表的な実施形態のSD−OCRバイオセンシング装置の図である。
【図2a】本発明による、特定の時点における分子間相互作用の測定する、図1の代表的な装置の代表的な使用方法を説明する図である。
【図2b】本発明による、続く時点における分子間相互作用の測定する、図1の代表的な装置の代表的な使用方法を説明する図である。
【図2c】本発明による、さらに続く時点における分子間相互作用の測定する、図1の代表的な装置の代表的な使用方法を説明する図である。
【図3】分子間相互作用のSD−OCR深さ分解測定を実施しているところを例示する、代表的な実施形態のSD−OCR装置の図である。
【図4】図1および/または図3のSD−OCR生物学的検知装置および/または国際特許出願第PCT/US03/02349号に記載された装置を用いて、深さ分解情報を、例えば全ての界面にて同時に測定する、本発明の代表的な実施形態による代表的な運用測定と、これに関連しこの出力を示すグラフである。
【図5】図1および/または図3のSD−OCR生物学的検知装置および/または国際特許出願第PCT/US03/02349号に記載された装置を用いて、分子間相互作用の多チャンネル検出を行う、本発明の代表的な実施形態による代表的な運用測定略図と、これに関連しこの出力を示すグラフである。
【図6a】図1および/または図3のSD−OCR生物学的検知装置および/または国際特許出願第PCT/US03/02349号に記載された装置を用いて、時間の関数として微小流体素子の上面および底面からの反射光束間の干渉における位相の観測をおこなう、本発明の代表的な実施形態による代表的な運用測定の図である。
【図6b】図1および/または図3のSD−OCR生物学的検知装置および/または国際特許出願第PCT/US03/02349号に記載された装置を用いて、ガルバノメータ光束走査器を用いて図6aの濃度観測手順を実施する、本発明の代表的な実施形態による代表的な運用測定の図である。
【図7】本発明による代表的なSD−OCR生物学的検知装置による代表的なサブシクエント(Subsequent)bBSAストレプトアビジン結合測定を例示するグラフである。
【図8a】bBSA官能化センサ面において厚さの増加を例示する、代表的な管理用のbBSAストレプトアビジン結合測定結果を示すグラフである。
【図8b】非官能化表面において厚さの増加がないことを例示する、代表的な管理用のbBSAストレプトアビジン結合測定結果を示すグラフである。
【図9a】本発明による、特定のHF濃度におけるカバースリップ厚さの代表的な変化を示すグラフである。
【図9b】本発明による、種々のHF濃度におけるエッチング速度の代表的な変化を示すグラフである。
【図10】本発明による装置および方法を用いて生成した光合成タンパク質層の画像の代表的なグラフである。
【図11】本発明による方法の代表的な実施形態の流れ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの試料に向けられた少なくとも1つの第1の電磁放射と、参照体に向けられた少なくとも1つの第2の電磁放射とを含む特定の放射を提供するように構成された、少なくとも1つの第1の装置と、
前記少なくとも1つの第1の電磁放射に関連づけられた少なくとも1つの第3の電磁放射と、前記少なくとも1つの第2の電磁放射に関連づけられた少なくとも1つの第4の電磁放射との間の干渉を検出するように構成された、少なくとも1つの第2の装置と、
前記干渉に基づいて前記少なくとも1つの試料の少なくとも一部の厚さの変化を決定するように構成された、少なくとも1つの第3の装置と、を含むシステムであって、
前記特定の放射が、
i.前記少なくとも1つの第1の装置によって提供された時間とともに変化する波長、または
ii.10nmよりも大きいスペクトル幅、の少なくとも一方を有することを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記第1の放射および前記第2の放射が共通の経路を共有する、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記少なくとも1つの試料が複数の試料を含み、前記複数の試料のそれぞれの前記少なくとも一部の前記厚さの前記変化が同時に決定される、請求項1記載のシステム。
【請求項4】
前記少なくとも1つの試料の前記少なくとも一部の前記厚さの前記変化が、前記少なくとも1つの第1の電磁放射の光束経路に沿った異なる位置、または前記少なくとも1つの第1の電磁放射の光束経路に直交する異なる位置の少なくとも一方において、同時に決定される、請求項1記載のシステム。
【請求項5】
前記少なくとも1つの試料の前記少なくとも一部の前記厚さの前記変化が、前記少なくとも1つの第1の電磁放射の光束経路に沿った異なる位置に沿って、同時に決定される、請求項1記載のシステム。
【請求項6】
前記少なくとも1つの第1の電磁放射は、前記少なくとも1つの試料の表面をその複数の位置において走査する、請求項1記載のシステム。
【請求項7】
前記少なくとも1つの試料の前記少なくとも一部が、さらなる分子と結合する、または解離するように設計された特定の分子で被覆されている、請求項1記載のシステム。
【請求項8】
前記厚さの前記変化が、前記特定の分子の結合または解離に関連づけられる、請求項7記載のシステム。
【請求項9】
前記特定の分子が、前記特定の分子と異なる前記さらなる分子と結合する親和性を有する、請求項7記載のシステム。
【請求項10】
前記少なくとも一部が複数の部分を含み、前記特定の分子の第1の組が前記複数の部分の第1の部分に結合する親和性を有し、前記特定の分子の第2の組が前記複数の部分の第2の部分に結合する親和性を有し、前記第1と第2の組が互いに異なる、請求項7記載のシステム。
【請求項11】
前記少なくとも1つの試料が、その中に複数の層を有する、請求項1記載のシステム。
【請求項12】
前記少なくとも1つの試料が使い捨てである、請求項1記載のシステム。
【請求項13】
前記少なくとも1つの試料が微小流体の配列である、請求項1記載のシステム。
【請求項14】
前記少なくとも1つの試料の前記少なくとも一部の前記厚さの前記変化が、光学的厚さ変化、物理的厚さ変化、または屈折率変化の少なくとも1つである、請求項1記載のシステム。
【請求項15】
前記厚さの変化が、前記少なくとも1つの試料の前記少なくとも一部の境界部、または内部の少なくとも一方における分子の濃度に関連づけられる、請求項14記載のシステム。
【請求項16】
前記厚さの変化が波長の関数として、前記少なくとも1つの試料の前記少なくとも一部の境界部、または内部の少なくとも一方における、分子の種類に関連づけられる、請求項14記載のシステム。
【請求項17】
前記少なくとも1つの第1の電磁放射が、前記少なくとも1つの試料の前記少なくとも一部の境界部、または内部に光束の断面を有し、前記断面が少なくとも回折限界の大きさを有する、請求項1記載のシステム。
【請求項18】
前記少なくとも1つの第3の装置が、
i.前記干渉を複素数形式の第1のデータに変換し、
ii.前記第1のデータに関連づけられた絶対値を決定して第2のデータを生成し、
iii.前記少なくとも一部の特定の位置を前記第2のデータの関数として識別し、
iv.前記第1のデータに関連づけられた位相を決定して第3のデータを生成し、
v.前記厚さの前記変化を前記第3のデータに関連づけることによって、厚さを決定する、請求項1記載のシステム。
【請求項19】
前記干渉をフーリエ変換して前記第1のデータを生成する、請求項1記載のシステム。
【請求項20】
少なくとも1つの試料に向けられた少なくとも1つの第1の電磁放射と、参照体に向けられた少なくとも1つの第2の電磁放射とを含む特定の放射を提供するステップと、
前記少なくとも1つの第1の電磁放射に関連づけられた少なくとも1つの第3の電磁放射と、前記少なくとも1つの第2の電磁放射に関連づけられた少なくとも1つの第4の電磁放射との間の干渉を検出するステップと、
前記干渉に基づいて前記少なくとも1つの試料の少なくとも一部の厚さの変化を決定するステップと、を含む方法であって、
前記特定の放射が、
i.時間とともに変化する波長、または
ii.10nmよりも大きいスペクトル幅、の少なくとも一方を有することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9a】
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【図9b】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2008−541096(P2008−541096A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511472(P2008−511472)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【国際出願番号】PCT/US2006/018865
【国際公開番号】WO2006/124860
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】