説明

化学的酸素要求量測定用溶液の添加量確認方法

【課題】検査水へ過マンガン酸カリウム溶液および硫酸溶液のそれぞれ所定量を添加することで検査水に含まれる被酸化性物質を過マンガン酸カリウムにより酸化し、この際に消費される過マンガン酸カリウムの量に基づいて検査水の化学的酸素要求量を測定するに当り、化学的酸素要求量の測定結果に影響を与えずに、検査水へ添加する過マンガン酸カリウム溶液および硫酸溶液の添加量を個別に正確に確認できるようにする。
【解決手段】検査水へ過マンガン酸カリウム溶液を添加した後、検査水の525nmの吸光度Aを測定し、この吸光度Aに基づいて添加された過マンガン酸カリウム溶液が所定量であるか否かを確認する。続いて検査水へ濃度10容量%以下の硫酸溶液を添加した後、検査水の525nmの吸光度Bを測定し、吸光度Aから吸光度Bへの変動量に基づいて添加された硫酸溶液の量が所定量であるか否かを確認する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的酸素要求量測定用溶液の添加量確認方法、特に、検査水へ過マンガン酸カリウム溶液および硫酸溶液のそれぞれ所定量を添加することで検査水に含まれる被酸化性物質を過マンガン酸カリウムにより酸化し、この際に消費される過マンガン酸カリウムの量に基づいて検査水の化学的酸素要求量を測定するに当り、検査水へ添加する過マンガン酸カリウム溶液および硫酸溶液の添加量を確認するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場排水、生活排水、湖沼水およびボイラ関連水等の水質の指標である化学的酸素要求量の測定方法として、非特許文献1に記載の「100℃における過マンガン酸カリウムによる酸素消費量(CODMn)」が知られている。この測定方法(以下、JIS法という)では、先ず、硫酸溶液を添加することで検査水(試料)を酸性に設定し、この検査水へ過マンガン酸カリウム溶液を添加して加熱する。そして、検査水に含まれる被酸化性物質の酸化のために消費された過マンガン酸カリウムの量を求め、この消費量に基づいて検査水の化学的酸素要求量を判定する。JIS法において、過マンガン酸カリウム溶液を添加する検査水を予め酸性に設定するのは、過マンガン酸カリウムによる被酸化性物質の酸化が酸性環境下において進行するためである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】2003年発行の日本工業規格 JIS K 0102 「工場排水試験方法」 377−379頁
【0004】
JIS法は、結果の信頼性を高めるために、硫酸溶液および過マンガン酸カリウム溶液の濃度や検査水への添加量を細かく規定している。ここで、検査水への溶液の添加は、手作業による場合は作業者が添加量を随時確認しながら作業することで、添加量を規定通りに設定することができる。しかし、JIS法の自動化を想定した場合、検査水への溶液の添加はポンプを用いることになる。ポンプは、いかに高精度のものといえども、動作時に僅かな脈動が生じる等の不具合を解消するのが困難であるため、溶液の添加量において誤差が生じやすい。そこで、JIS法を自動化するに当っては、測定結果の信頼性を確保するために、検査水に対する溶液の添加量を確認する必要性がある。
【0005】
JIS法の自動化では、検査水へ添加する硫酸溶液および過マンガン酸カリウム溶液のそれぞれについて個別に添加量の確認が必要である。過マンガン酸カリウム溶液については、検査水へ添加することで検査水を着色することになるため、その添加の前後における所定波長の吸光度を測定し、その吸光度差に基づいて添加量を判定することが考えられる。しかし、JIS法は、硫酸溶液の添加によって検査水を酸性環境に設定してから、すなわち、過マンガン酸カリウムが検査水中で酸化剤として機能する環境に設定してから、検査水に対して過マンガン酸カリウム溶液を添加していることから、吸光度の測定過程において過マンガン酸カリウムの消費が同時進行することになり、過マンガン酸カリウム溶液の添加量を正確に判定するのが困難である。一方、硫酸溶液については、検査水へ添加しても検査水を着色することにならないことから上述のような吸光度差を利用した添加量の判定ができないため、濃度測定用のトレーサーを添加することで検査水におけるその濃度の変化に基づいて添加量を判定する必要がある。しかし、トレーサーは、化学的酸素要求量の測定結果に影響を与える。すなわち、トレーサーが有機物の場合は、それが被酸化性物質になり得ることから検査水の化学的酸素要求量を増加させ、測定結果にプラスの誤差を生じさせる。また、トレーサーが無機物の場合は、それが過マンガン酸カリウムによる被酸化性物質の酸化反応を抑制したり、当該酸化反応を過剰に促進することで過マンガン酸カリウムの消費量を増加させたりする可能性があるため、測定結果にマイナスまたはプラスの誤差を生じさせる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、検査水へ過マンガン酸カリウム溶液および硫酸溶液のそれぞれ所定量を添加することで検査水に含まれる被酸化性物質を過マンガン酸カリウムにより酸化し、この際に消費される過マンガン酸カリウムの量に基づいて検査水の化学的酸素要求量を測定するに当り、化学的酸素要求量の測定結果に影響を与えずに、検査水へ添加する過マンガン酸カリウム溶液および硫酸溶液の添加量を個別に正確に確認できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る化学的酸素要求量測定用溶液の添加量確認方法は、検査水へ過マンガン酸カリウム溶液および硫酸溶液のそれぞれ所定量を添加することで検査水に含まれる被酸化性物質を過マンガン酸カリウムにより酸化し、この際に消費される過マンガン酸カリウムの量に基づいて検査水の化学的酸素要求量を測定するに当り、検査水へ添加する過マンガン酸カリウム溶液および硫酸溶液の添加量を確認するための方法に関するものである。この確認方法は、検査水へ過マンガン酸カリウム溶液を添加した後、検査水の所定波長における吸光度Aを測定し、この吸光度Aに基づいて検査水へ添加した過マンガン酸カリウム溶液の量が所定量であるか否かを確認する工程1と、工程1に続いて検査水へ硫酸溶液を添加した後、検査水の上記所定波長における吸光度Bを測定し、吸光度Aから吸光度Bへの変動量に基づいて検査水へ添加した硫酸溶液の量が所定量であるか否かを確認する工程2とを含んでいる。
【0008】
この確認方法において吸光度AおよびBを測定する所定波長は、通常、510〜560nmの範囲の波長である。また、この確認方法において用いられる硫酸溶液は、通常、硫酸濃度が10容量%以下のものである。
【0009】
本発明に係る化学的酸素要求量の測定方法は、検査水の化学的酸素要求量を測定するための方法に関するものであり、検査水へ所定量の過マンガン酸カリウム溶液を添加する工程Aと、工程Aの後に検査水へ所定量の硫酸溶液を添加する工程Bと、工程Bの後に検査水を加熱処理する工程Cと、工程Cでの過マンガン酸カリウムの消費量を測定する工程Dと、過マンガン酸カリウムの消費量に基づいて検査水の化学的酸素要求量を判定する工程Eとを含みんでいる。工程Aは、検査水の所定波長における吸光度Aを測定し、この吸光度Aに基づいて検査水へ添加した過マンガン酸カリウム溶液の量が所定量であるか否かを確認する工程を含み、かつ、工程Bは、検査水の所定波長における吸光度Bを測定し、吸光度Aから吸光度Bへの変動量に基づいて検査水へ添加した硫酸溶液の量が所定量であるか否かを確認する工程を含む。
【0010】
この測定方法において、工程Dは、通常、吸光度Aと、工程Cの後の検査水の上記所定波長における吸光度Cとの差に基づいて過マンガン酸カリウムの消費量を測定する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る化学的酸素要求量測定用溶液の添加量確認方法は、上述の工程1と工程2とを含むため、化学的酸素要求量の測定結果に影響を与えずに、検査水へ添加する過マンガン酸カリウム溶液および硫酸溶液のそれぞれの添加量を個別に確認することができる。
【0012】
本発明に係る化学的酸素要求量の測定方法は、上述の工程Aから工程Eを含み、しかも工程Aおよび工程Bがそれぞれ過マンガン酸カリウム溶液の添加量および硫酸溶液の添加量を確認する工程を含むため、検査水の化学的酸素要求量の測定精度を高めることができるとともに、自動化に適している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る測定方法は、検査水の化学的酸素要求量(以下、「COD」という場合がある)を測定するための方法である。この測定方法では、先ず、CODの測定対象となる水から試料となる検査水を採取する。CODの測定対象となる水は特に限定されるものではなく、例えば、工場排水、生活排水、河川水、湖沼水、地下水、浄水、上水、下水およびボイラ関連水(ボイラ給水、ボイラ水および復水等)などである。この水は、主として有機物である被酸化性物質を含む場合において、その酸化分解のために必要な酸素量、すなわちCODが観測される。
【0014】
次に、採取した検査水の適量へ所定量の過マンガン酸カリウム溶液を添加する(工程A)。ここで用いられる過マンガン酸カリウム溶液は、過マンガン酸カリウムを水に溶解したものであり、過マンガン酸カリウム濃度が所定濃度に調整されたものである。
【0015】
工程Aでは、検査水へ過マンガン酸カリウム溶液を添加した後、過マンガン酸カリウム溶液の添加量が上記所定量であるか否かを確認する(確認工程1)。ここでは、水に含まれる過マンガン酸カリウム濃度と当該水の所定波長における吸光度との関係を予め調べておく。そして、過マンガン酸カリウム溶液が添加された検査水の上記所定波長における吸光度Aを測定し、この吸光度Aから過マンガン酸カリウム溶液の実際の添加量を求めて上記所定量と一致するか否かを確認する。
【0016】
ここで、吸光度Aを測定する上記所定波長は、過マンガン酸カリウム溶液を添加することで検査水が着色することになるため、この着色の変動を捉え易い波長、具体的には510〜560nmの範囲での波長、特に最大吸光度の波長が好ましい。510〜560nmの範囲での最大の吸光度は、通常、525nmにおいて観測されるため、525nmを上記所定波長と見なすこともできる。また、この所定波長の吸光度Aは、通常、検査水の濁りによる誤差を排除するために、600〜1,000nmの範囲の任意の波長、特に、660nm付近の波長での吸光度を差し引くことで補正するのが好ましい。
【0017】
本発明の測定方法では、検査水に対して硫酸溶液を先に添加するJIS法と異なり、検査水に対して過マンガン酸カリウム溶液を先に添加しているため、検査水に添加された過マンガン酸カリウムは検査水中の被酸化性物質の酸化のために実質的に消費されることがなく、安定に検査水中に存在する。このため、確認工程1においては、検査水への過マンガン酸カリウム溶液の添加量を正確に求めることができる。
【0018】
確認工程1で過マンガン酸カリウム溶液の添加量が所定量と一致しないものと確認された場合、工程Aにおいて必要な操作をする。具体的には、過マンガン酸カリウム溶液の添加量が所定量よりも多いと確認されたときは、通常、測定操作を中止する。一方、過マンガン酸カリウム溶液の添加量が所定量よりも僅かに少ないと確認されたときは、過マンガン酸カリウム溶液の添加量が所定量に到達したものと確認されるまで、検査水に対して過マンガン酸カリウム溶液を追加するが、過マンガン酸カリウム溶液の添加量が所定量よりも大幅に少ない(通常は所定量よりも10%以上少ない)と確認されたときは、測定操作を中止する。
【0019】
工程Aにおいて、検査水の量、過マンガン酸カリウム溶液の濃度および検査水へ添加する過マンガン酸カリウム溶液の所定量等は、例えばJIS法の規定に基づいて設定することができる。
【0020】
工程Aの終了後、検査水へ所定量の硫酸溶液を添加する(工程B)。ここで用いられる硫酸溶液は、検査水に含まれる過マンガン酸カリウムが酸化剤として機能するよう検査水を酸性環境に設定するためのものであり、通常は硫酸の水溶液である。この硫酸溶液としては、例えば、JIS法に規定の硫酸(1+2)を用いることができる。但し、この硫酸溶液は、JIS法で規定されているものよりも、硫酸濃度の低いものが好ましい。この点については、さらに後記する。
【0021】
硫酸溶液の添加量、すなわち上記所定量は、JIS法の規定を参照して設定することができる。例えば、JIS法で規定されているものよりも低濃度の硫酸溶液を用いる場合、その添加量(所定量)は、JIS法を参考にして、後記する工程Cでの加熱反応時の硫酸の最終濃度と同じになるように設定することができる。
【0022】
硫酸溶液は、りん酸および硝酸イオンを含むものであってもよい。検査水が高濃度の有機物やベンゼン環を含む化合物を被酸化性物質として含む場合、工程Bにおいて検査水が黄色く濁ることがあり、この濁りが後記する確認工程2および工程Dでの吸光度の測定に影響する可能性があるが、りん酸および硝酸イオンを含む硫酸溶液を用いた場合は、検査水の上記のような濁りを抑制して吸光度の測定精度を高めることができる。この場合、硫酸溶液におけるりん酸の濃度は、検査水へ所定量の硫酸溶液を添加したときのりん酸濃度が0.6〜1.0mol/リットルになるよう設定するのが好ましい。また、硫酸溶液における硝酸イオンの濃度は、検査水へ所定量の硫酸溶液を添加したときの硝酸イオン濃度が少なくとも10g/リットル、好ましくは少なくとも15g/リットル、より好ましくは少なくとも20g/リットルになるよう設定するのが好ましい。また、硫酸溶液における硝酸イオン濃度の上限は、特に制限されるものではないが、通常は、検査水へ所定量の硫酸溶液を添加したときの硝酸イオン濃度が50g/リットルまでになるよう制御するのが好ましい。硝酸イオンは、硫酸溶液に対して硝酸塩を添加することで硫酸溶液に含めさせることができる。硝酸塩としては、通常、硝酸塩のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩、より具体的には硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、硝酸カリウムおよび硝酸マグネシウム等を用いることができ、これらは二種類以上のものを併用することもできる。
【0023】
工程Bでは、検査水へ硫酸溶液を添加した後、硫酸溶液の添加量が上記所定量であるか否かを確認する(確認工程2)。ここでは、好ましくは、過マンガン酸カリウムにより着色した水に対して硫酸溶液を添加した場合における、その添加量と当該水の所定波長(確認工程1において採用した所定波長)における吸光度の変化との関係を予め調べておく。過マンガン酸カリウムにより着色した水は、硫酸溶液の添加により希釈されることで着色が薄まることになるため、硫酸溶液の添加量が増えるに従って上記所定波長の吸光度が小さくなる傾向にある。そこで、硫酸溶液が添加された検査水の上記所定波長における吸光度Bを測定し、確認工程1において測定した吸光度Aから吸光度Bへの変動量(吸光度の低下量)に基づいて、検査水へ添加した実際の硫酸溶液の量が上記所定量と一致するか否かを判定する。
【0024】
ここで、吸光度Bは、検査水の濁りによる誤差を除くために、吸光度Aと同様の補正をするのが好ましい。
【0025】
確認工程2で硫酸溶液の添加量が所定量と一致しないものと確認された場合、工程Bにおいて必要な操作をする。具体的には、硫酸溶液の添加量が所定量よりも多いと確認されたときは、通常、測定操作を中止する。一方、硫酸溶液の添加量が所定量よりも僅かに少ないと確認されたときは、硫酸溶液の添加量が所定量に到達したものと確認されるまで、検査水に対して硫酸溶液を追加するが、硫酸溶液の添加量が所定量よりも大幅に少ない(通常は所定量よりも10%以上少ない)と確認されたときは、測定操作を中止する。
【0026】
工程Bは、検査水中の過マンガン酸カリウムが被酸化性物質の酸化のために消費されることで減少し、それが吸光度Bに影響するのをより低減するため、検査水を4〜10℃程度に冷却しながら、或いは、検査水を常温(10〜30℃)に維持しながら実行するのが好ましい。
【0027】
工程Bで用いる硫酸溶液は、既述のように、硫酸濃度が低いもの、例えば10容量%以下のもの(通常は4〜8容量%のもの)が好ましい。このような低濃度の硫酸溶液を用いると、検査水に対する硫酸溶液の添加量(すなわち上記所定量)を増加させる必要があるため、工程Aで着色した検査水の退色量が大きくなる。また、硫酸溶液の添加時において、検査水中の硫酸濃度が局所的に高まるのが抑制されることから、検査水中の過マンガン酸カリウムの一部が被酸化性物質の酸化のために瞬時に消費されるのを抑制することもできる。これらの結果、確認工程2において、吸光度Aから吸光度Bへの変動量を正確に判定しやすくなり、硫酸溶液の添加量をより正確に確認することができる。
【0028】
工程Bの後、検査水を加熱する(工程C)。これにより、検査水に含まれる被酸化性物質が過マンガン酸カリウムにより酸化され、それに従って過マンガン酸カリウムが消費される。この工程での検査水の加熱温度は、通常、80〜100℃に設定するのが好ましい。また、加熱時間は、通常、5〜60分に設定するのが好ましい。
【0029】
次に、工程Cでの過マンガン酸カリウムの消費量を測定する(工程D)。この消費量は、例えば、工程Cの終了後の検査水の吸光度を測定することで求めることができる。この場合、工程Cの終了後の検査水について、確認工程1において吸光度Aを測定した波長の吸光度Cを測定し、吸光度Aと吸光度Cとの差に基づいて過マンガン酸カリウムの消費量を求める。より具体的には、確認工程1において予め調べた関係に基づいて、吸光度Cから検査水に残留している過マンガン酸カリウム量を求め、これを吸光度Aから求められる過マンガン酸カリウム量(すなわち、工程Aにおいて検査水へ添加した過マンガン酸カリウム量)から差し引くことで過マンガン酸カリウムの消費量を求める。
【0030】
吸光度Cは、過マンガン酸カリウムの消費量を正確に測定するために、吸光度Aと同様の補正をするのが好ましい。
【0031】
なお、過マンガン酸カリウムの消費量は、吸光度の測定以外の方法により測定することも可能である。例えば、電位差滴定法や電量滴定法等の各種の方法を採用することもできる。
【0032】
次に、工程Dで測定された過マンガン酸カリウムの消費量に基づいて検査水のCODを判定する(工程E)。ここでは、通常、過マンガン酸カリウムの消費量とCODとの関係に関わる検量線を設定しておき、この検量線に基づいて工程Dで測定した過マンガン酸カリウムの消費量からCODを算出する。
【0033】
本発明に係るCODの測定方法は、工程Aおよび工程Bにおいてそれぞれ過マンガン酸カリウム溶液の添加量および硫酸溶液の添加量を確認していることから、検査水においてCODを測定するための環境を適切に設定することができ、測定結果の精度を高めることができる。また、工程Aおよび工程Bでの添加量の確認は、自動化が容易な吸光度の測定によるものであることから、本発明の測定方法は、検査水のCOD測定を機器により自動化する場合に特に有効である。
【0034】
[実験例]
以下の実験例において用いた試薬は次のとおりである。
過マンガン酸カリウム溶液
和光純薬工業株式会社製の容量分析用過マンガン酸カリウム溶液(コード:161-08225/濃度:0.005mol/リットル)。
硫酸
和光純薬工業株式会社製の特級試薬(コード:192-04696)。
りん酸
和光純薬工業株式会社製の特級試薬(コード:167-02166)。
硝酸ナトリウム
和光純薬工業株式会社製の特級試薬(コード:195-02545)。
D(+)−グルコース
和光純薬工業株式会社製の特級試薬(コード:041-00595)
フミン酸
和光純薬工業株式会社製の化学用(コード:082-04625)
【0035】
実験例1
試料5ミリリットルに過マンガン酸カリウム溶液を1ミリリットル添加してよくかき混ぜた。そして、過マンガン酸カリウム溶液を添加した瞬間から30秒後、60秒後、90秒後、120秒後、150秒後および180秒後に、試料のおおよそ525nmの吸光度を分光光度計(株式会社島津製作所のUV−1600PC)を用いて測定した。ここでは、過マンガン酸カリウム溶液を添加した瞬間から30秒後、60秒後、90秒後、120秒後、150秒後および180秒後に上記吸光度が測定されるよう分光光度計を操作した。また、測定した吸光度は、濁度の影響を排除するために、660nmの吸光度を差し引くことで補正した。
【0036】
ここで用いた試料は次の三種類である。
試料1:
ブランク測定用の蒸留水。
試料2:
グルコース水溶液。これは、蒸留水にD(+)−グルコースを溶解し、グルコース濃度が33.52ミリグラム/リットル(CODが20mg/リットルO相当)になるよう調整したものである。
試料3:
フミン酸水溶液。これは、次のように調製したものである。蒸留水100ミリリットルにフミン酸1gを添加し、超音波洗浄器(ヤマト科学株式会社の「BRANSON yamato 2510」)を用いて30分間処理した。次に、得られたフミン酸水溶液をろ紙(アドバンテック株式会社の「No.5C」)でろ過し、さらにポアサイズが0.20μmのフイルター(アドバンテック株式会社の「ディスポーサブルフイルター DISMIC13HP020AN」)でろ過した。ろ過後の水溶液のCODをJIS法により測定し、このCODが20mg/リットルO相当になるよう蒸留水で希釈した。
【0037】
試料2および3について、過マンガン酸カリウム溶液を添加した瞬間から上記時間が経過後の過マンガン酸カリウムの残存率(KMnO残存率)を調べた。ここでは、試料1についての各経過時間後の過マンガン酸カリウムの残存率を100%とし、試料2および3について、試料1での吸光度に対する吸光度の割合から過マンガン酸カリウムの残存率を算出した。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1によると、試料2および3における過マンガン酸カリウムの残存率は略100%である。この結果は、被酸化性物質を含みかつ酸性環境に設定されていない試料においては、時間が経過しても過マンガン酸カリウムが被酸化性物質の酸化のために実質的に消費されることがなく安定に存在していることを示している。この結果によると、工程Aの確認工程1では、検査水に対する過マンガン酸カリウム溶液の添加量を正確に確認できることがわかる。
【0040】
実験例2
実験例1で用いたものと同じ試料1、2および3のそれぞれについて、その5ミリリットルに過マンガン酸カリウム溶液を1ミリリットル添加した後、硫酸溶液(蒸留水に10容量%の硫酸、40容量%のりん酸および160g/リットルの硝酸ナトリウムを含むもの)をさらに添加してよくかき混ぜた。そして、硫酸溶液を添加した瞬間から30秒後、60秒後、90秒後、120秒後、150秒後および180秒後に、試料のおおよそ525nmの吸光度を分光光度計(株式会社島津製作所のUV−1600PC)を用いて測定した。ここでは、硫酸溶液を添加した瞬間から30秒後、60秒後、90秒後、120秒後、150秒後および180秒後に上記吸光度が測定されるよう分光光度計を操作した。また、測定した吸光度は、濁度の影響を排除するために、660nmの吸光度を差し引くことで補正した。本実験例での一連の操作中、過マンガン酸カリウムが酸化剤として機能するのを抑えるために、試料の温度を常温(25℃)に維持した。
【0041】
試料2および3について、実験例1と同様の手法により、硫酸溶液を添加した瞬間から上記時間が経過後の過マンガン酸カリウムの残存率を調べた。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2によると、試料2および3における過マンガン酸カリウムの残存率は91%以上である。この結果は、被酸化性物質を含みかつ酸性環境に設定された試料においても、過マンガン酸カリウムが被酸化性物質の酸化のために殆ど消費されることなく安定に残存していることを示している。この結果によると、工程Bの確認工程2では、検査水に対する硫酸溶液の添加量を正確に確認できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査水へ過マンガン酸カリウム溶液および硫酸溶液のそれぞれ所定量を添加することで前記検査水に含まれる被酸化性物質を過マンガン酸カリウムにより酸化し、この際に消費される過マンガン酸カリウムの量に基づいて前記検査水の化学的酸素要求量を測定するに当り、前記検査水へ添加する前記過マンガン酸カリウム溶液および前記硫酸溶液の添加量を確認するための方法であって、
前記検査水へ前記過マンガン酸カリウム溶液を添加した後、前記検査水の所定波長における吸光度Aを測定し、この吸光度Aに基づいて前記検査水へ添加した前記過マンガン酸カリウム溶液の量が所定量であるか否かを確認する工程1と、
工程1に続いて前記検査水へ前記硫酸溶液を添加した後、前記検査水の前記所定波長における吸光度Bを測定し、吸光度Aから吸光度Bへの変動量に基づいて前記検査水へ添加した前記硫酸溶液の量が所定量であるか否かを確認する工程2と、
を含む化学的酸素要求量測定用溶液の添加量確認方法。
【請求項2】
前記所定波長が510〜560nmの範囲の波長である、請求項1に記載の化学的酸素要求量測定用溶液の添加量確認方法。
【請求項3】
前記硫酸溶液は硫酸濃度が10容量%以下のものである、請求項1または2に記載の化学的酸素要求量測定用溶液の添加量確認方法。
【請求項4】
検査水の化学的酸素要求量を測定するための方法であって、
前記検査水へ所定量の過マンガン酸カリウム溶液を添加する工程Aと、
工程Aの後に前記検査水へ所定量の硫酸溶液を添加する工程Bと、
工程Bの後に前記検査水を加熱する工程Cと、
工程Cでの過マンガン酸カリウムの消費量を測定する工程Dと、
前記消費量に基づいて前記検査水の化学的酸素要求量を判定する工程Eとを含み、
工程Aは、前記検査水の所定波長における吸光度Aを測定し、この吸光度Aに基づいて前記検査水へ添加した前記過マンガン酸カリウム溶液の量が所定量であるか否かを確認する工程を含み、かつ
工程Bは、前記検査水の前記所定波長における吸光度Bを測定し、吸光度Aから吸光度Bへの変動量に基づいて前記検査水へ添加した前記硫酸溶液の量が所定量であるか否かを確認する工程を含む、
化学的酸素要求量の測定方法。
【請求項5】
工程Dは、吸光度Aと、工程Cの後の前記検査水の前記所定波長における吸光度Cとの差に基づいて前記消費量を測定する、請求項4に記載の化学的酸素要求量の測定方法。