説明

化学蓄熱熱輸送装置及び熱交換型反応器

【課題】熱輸送性に優れ、アンモニアの固定化及び脱離の反応性に優れ、繰り返し使用時における蓄熱材成形体の割れや微粉化が抑制された化学蓄熱熱輸送装置を提供する。
【解決手段】化学蓄熱熱輸送装置100は、金属塩化物を含む2枚の蓄熱材成形体及び支持体を有する積層体30、並びに、該積層体30が収納され、内壁が前記蓄熱材成形体との接触部分を有し、前記金属塩化物の充填量が前記蓄熱材成形体をアンモニア飽和状態で充填したときの金属塩化物の充填量に対し1.0倍以上1.1倍以下である反応室24を有する第1の第1の熱交換型反応器20を含む2つ以上の反応器と、前記2つ以上の反応器を接続し前記2つ以上の反応器間でアンモニアを流通させるアンモニア配管10と、を備え、前記2つ以上の反応器間に生じたアンモニア圧の差を利用してアンモニアを一方から他方に輸送することにより熱を輸送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学蓄熱熱輸送装置及び熱交換型反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素の排出削減が強く求められており、省エネルギー化や排熱利用を進める必要がある。そのためには高効率な蓄熱技術の開発が必要であり、有望な候補として単位体積又は単位質量あたりの蓄熱量が大きく長期間の蓄熱が可能な化学蓄熱技術が挙げられる。
【0003】
化学蓄熱技術の一つとして、金属塩へのアンモニアの固定化(アンミン錯体生成反応/配位反応)が挙げられる。例えば、アルカリ土類金属や遷移金属の塩化物がアンモニアを吸蔵・放出し、その際に発熱・吸熱することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、加熱源の供給により内部に装入された金属塩化物のアンミン錯体から放出されるアンモニアガス圧力を保持する固相反応器と、該固相反応器に接続されアンモニアガスを冷却水の供給により凝縮する凝縮器を備えたケミカル蓄熱装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
更に、CaCl・8NHやSrCl・8NHに対し、8〜20wt%のアルミニウム粉末やカーボンファイバーを混入後、成形して得られるアンモニア貯蔵体が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Bull.Chem.Soc.Jpn.77(2004)123
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−109388号公報
【特許文献2】国際公開第2010/025948号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、アンモニアの固定化(吸蔵)及び脱離の反応を利用した蓄熱材として、粉末の金属塩化物を用いた場合には、アンモニアの固定化(吸蔵)及び脱離の反応性が低下するという問題がある。このため、金属塩化物を含む蓄熱材の構造化、即ち、金属塩化物を含む蓄熱材を成形体(蓄熱材成形体)として用いることが重要である。
しかしながら、金属塩化物を含む蓄熱材成形体はアンモニアの固定化(吸蔵)・放出に伴う体積の膨張収縮の幅が大きい。このため、金属塩化物を含む蓄熱材成形体を繰り返し使用すると、体積の膨張収縮を繰り返すことによって割れ(クラックを含む。以下同じ。)や微粉化が起こりやすくなり、その結果、アンモニアの固定化(吸蔵)及び脱離の反応性が低下しやすいことが明らかとなった。
特許文献1及び2には、アンモニアの熱輸送性に関する記載、金属塩化物におけるアンモニアの固定化(吸蔵)及び脱離の反応性に関する記載、及び、繰り返し使用時に割れや微粉化が起こりやすいという問題に関する記載はない。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の目的は、熱輸送性に優れ、アンモニアの固定化及び脱離の反応性に優れ、繰り返し使用時における蓄熱材成形体の割れや微粉化が抑制された化学蓄熱熱輸送装置を提供することである。
また、本発明の目的は、アンモニアの固定化及び脱離の反応性に優れ、繰り返し使用時における蓄熱材成形体の割れや微粉化が抑制された熱交換型反応器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明に係る化学蓄熱熱輸送装置は、アンモニアが脱離するときに蓄熱しアンモニアが配位反応によって固定化されるときに放熱する金属塩化物を含む2枚の蓄熱材成形体及び前記2枚の蓄熱材成形体間に挟持された支持体を有する積層体、並びに、該積層体が収納され、内壁が前記蓄熱材成形体との接触部分を有し、前記金属塩化物の充填量が前記蓄熱材成形体をアンモニア飽和状態で充填したときの金属塩化物の充填量に対し1.0倍以上1.1倍以下である反応室を有する第1の熱交換型反応器を含む2つ以上の反応器と、前記2つ以上の反応器を接続し前記2つ以上の反応器間でアンモニアを流通させるアンモニア配管と、を備え、前記2つ以上の反応器間に生じたアンモニア圧の差を利用してアンモニアを一方から他方に輸送することにより熱を輸送する。
【0010】
請求項1に記載の化学蓄熱熱輸送装置では、2つ以上の反応器間で、蒸気圧が高いアンモニア蒸気の輸送に伴い熱を輸送するので、アンモニア蒸気の配管内流動に伴う圧力損失が抑制され、その結果、熱輸送性が向上する。
【0011】
また、本化学蓄熱熱輸送装置において、前記第1の熱交換型反応器は、アンモニアが脱離するときに蓄熱しアンモニアが配位反応によって固定化されるときに放熱する金属塩化物を含む蓄熱材成形体を備えている。このため、金属塩化物を含む粉末の蓄熱材を用いた場合と比較して、アンモニアの固定化及び脱離の反応性に(反応速度及び反応量ともに)優れる。
【0012】
更に、前記第1の熱交換型反応器の反応室は、内壁が前記蓄熱材成形体との接触部分を有している。更に、前記第1の熱交換型反応器の反応室においては、前記金属塩化物の充填量が前記蓄熱材成形体をアンモニア飽和状態で充填したときの金属塩化物の充填量に対し1.0倍以上となっている。これらの構成により、蓄熱材成形体の表面と、支持体の表面及び反応室の内壁と、の接触が維持され、アンモニアの固定化及び脱離の際の蓄熱材成形体の体積膨張収縮が抑制されるので、繰り返し使用時における蓄熱材成形体の割れや微粉化が抑制される。
即ち、蓄熱材成形体の表面と、支持体の表面及び反応室の内壁と、の接触が維持された状態では、前記接触が保たれたまま蓄熱材成形体に対しアンモニアの固定化及び脱離が行われるので、アンモニアの固定化及び脱離の際の蓄熱材成形体の体積膨張収縮が抑制される。
【0013】
更に、前記第1の熱交換型反応器の反応室においては、前記金属塩化物の充填量が前記蓄熱材成形体をアンモニア飽和状態で充填したときの金属塩化物の充填量に対し1.1倍以下となっている。
これにより、前記金属塩化物の充填量が多すぎる場合に生じる、アンモニアの固定化及び脱離の反応性の低下が抑制される。
即ち、前記金属塩化物の充填量が多すぎる場合には、アンモニアを固定化することにより蓄熱材成形体が体積膨張しようとしても、反応室の内壁及び支持体によって該体積膨張が物理的に妨げられるので、ひいてはアンモニアの固定化が妨げられる。アンモニアの固定化が妨げられ固定化できるアンモニアの量が減少すれば、脱離できるアンモニアの量も減少する。従って、前記金属塩化物の充填量が多すぎる場合には、固定化及び脱離できるアンモニアの量が減少するので、アンモニアの固定化及び脱離の反応性が低下する。
そこで、前記金属塩化物の充填量を、前記蓄熱材成形体をアンモニア飽和状態で充填したときの金属塩化物の充填量に対し1.1倍以下とすることで、かかる反応性の低下を抑制できる。
【0014】
このように、請求項1に記載の化学蓄熱熱輸送装置によれば、熱輸送性が向上し、アンモニアの固定化及び脱離の反応性が向上し、繰り返し使用時における蓄熱材成形体の割れや微粉化が抑制される。
【0015】
請求項2に記載の発明に係る化学蓄熱熱輸送装置は、請求項1に記載の化学蓄熱熱輸送装置において、前記アンモニア配管に弁が設けられ、該弁の開閉によりアンモニア圧の差を調節する。これにより、アンモニア圧の差をより効果的に保持できるので、熱輸送性をより向上させることができる。即ち、弁を閉じることによりアンモニア圧の差を長時間保持することができ、弁を開けることによりアンモニアを輸送し、蓄熱した熱を効率よく利用することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明に係る化学蓄熱熱輸送装置は、請求項1又は請求項2に記載の化学蓄熱熱輸送装置において、前記第1の熱交換型反応器が、更に、前記蓄熱材成形体との間で熱交換する熱媒体が流通する熱媒体流路を有する。これにより、熱媒体と蓄熱材との間で効率よく熱交換を行うことができるので、反応室内壁と蓄熱材成形体との接触面(伝熱面)における接触熱抵抗が改善される。
【0017】
請求項4に記載の発明に係る化学蓄熱熱輸送装置は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の化学蓄熱熱輸送装置において、前記第1の熱交換型反応器は、前記反応室を2つ以上有し、少なくとも前記反応室間に配置され、前記蓄熱材成形体との間で熱交換する熱媒体が流通する熱媒体流路を有する。これにより、熱媒体と蓄熱材との間で効率よく熱交換を行うことができるので、反応室内壁と蓄熱材成形体との接触面(伝熱面)における接触熱抵抗が改善される。
【0018】
請求項5に記載の発明に係る化学蓄熱熱輸送装置は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の化学蓄熱熱輸送装置において、前記2つ以上の反応器のうち1つの反応器が固定化できる最大量のアンモニアの25℃1気圧における体積に対し、死容積が1%以下である。これにより、化学蓄熱熱輸送装置内を流通するアンモニアの量をより多く確保することができるので、熱輸送性をより向上させることができる。特に、初期作動時における、アンモニア及び熱の輸送の遅れをより効果的に抑制できる。
【0019】
請求項6に記載の発明に係る化学蓄熱熱輸送装置は、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の化学蓄熱熱輸送装置において、更に、アンモニアが脱離するときに蓄熱しアンモニアが固定化されるときに放熱する金属塩化物又は物理吸着材を含む蓄熱材、及び、該蓄熱材が収納された反応室を有する第2の熱交換型反応器を備える。これにより、熱交換及び熱輸送の効率をより向上させることができる。
【0020】
請求項7に記載の発明に係る化学蓄熱熱輸送装置は、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の化学蓄熱熱輸送装置において、前記金属塩化物が、アルカリ金属の塩化物、アルカリ土類金属の塩化物、及び遷移金属の塩化物からなる群から選択される少なくとも1種である。これにより、第1の熱交換型反応器における蓄熱密度をより向上させることができるので、化学蓄熱熱輸送装置全体における蓄熱密度をより向上させることができる。
【0021】
請求項8に記載の発明に係る化学蓄熱熱輸送装置は、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の化学蓄熱熱輸送装置において、前記金属塩化物が、LiCl、MgCl、CaCl、SrCl、BaCl、MnCl、CoCl、及びNiClからなる群から選択される少なくとも1種である。これにより、第1の熱交換型反応器における蓄熱密度をより向上させることができるので、化学蓄熱熱輸送装置全体における蓄熱密度をより向上させることができる。
【0022】
請求項9に記載の発明に係る化学蓄熱熱輸送装置は、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の化学蓄熱熱輸送装置において、前記支持体が、波型プレート又は多孔体プレートである。これにより、2枚の蓄熱材成形体間にアンモニア蒸気の流路を確保することができるので、第1の熱交換型反応器におけるアンモニアの固定化及び脱離の反応性がより向上する。
前記波型プレートとしては、例えば、波型金属プレート(波型金属フィン)を用いることができる。また、前記多孔体シートとしては、多孔体セラミックス、発泡金属、金属メッシュ、パンチングメタルシートを用いることができる。
【0023】
請求項10に記載の発明に係る熱交換型反応器は、アンモニアが脱離するときに蓄熱しアンモニアが配位反応によって固定化されるときに放熱する金属塩化物を含む2枚の蓄熱材成形体及び前記2枚の蓄熱材成形体間に挟持された支持体を有する積層体、並びに、該積層体が収納され、内壁が前記蓄熱材成形体との接触部分を有し、前記金属塩化物の充填量が前記蓄熱材成形体をアンモニア飽和状態で充填したときの金属塩化物の充填量に対し1.0倍以上1.1倍以下である反応室を有する。
請求項10に記載の発明に係る熱交換型反応器によれば、アンモニアの固定化及び脱離の反応性が向上し、繰り返し使用時における蓄熱材成形体の割れや微粉化が抑制される。
請求項10に記載の発明に係る熱交換型反応器は、請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の化学蓄熱熱輸送装置における第1の熱交換型反応器として特に好適である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、熱輸送性に優れ、アンモニアの固定化及び脱離の反応性に優れ、繰り返し使用時における蓄熱材成形体の割れや微粉化が抑制された化学蓄熱熱輸送装置を提供することができる。
また、本発明によれば、アンモニアの固定化及び脱離の反応性に優れ、繰り返し使用時における蓄熱材成形体の割れや微粉化が抑制された熱交換型反応器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る化学蓄熱熱輸送装置を模式的に示した図である。
【図2】本発明の実施形態に係る熱交換型反応器を模式的に示した図である。
【図3】本発明の別の実施形態に係る熱交換型反応器を模式的に示した図である。
【図4】アンモニア(NH)及び水(HO)の飽和蒸気圧曲線である。
【図5】各金属塩化物について、蓄熱温度(℃)と蓄熱密度(kJ/kg)との関係を示したグラフである。
【図6】本発明の実施形態において、CaClの充填量(相対値)と蓄熱量との関係を示したグラフである。
【図7】実施例及び比較例における反応時間と反応率との関係を示したグラフである。
【図8】比較例に係る非拘束型熱交換反応器を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係る化学蓄熱熱輸送装置(以下、単に「熱輸送装置」と略称することがある)及び熱交換型反応器について、図面を参照しながら説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る化学蓄熱熱輸送装置100を模式的に示した図である。
図1に示すように、化学蓄熱熱輸送装置100は、第1の熱交換型反応器20と、第2の熱交換型反応器120と、第1の熱交換型反応器20と第2の熱交換型反応器120とを接続するアンモニア配管10と、を備えて構成されている。
【0028】
図2は、図1における第1の熱交換型反応器20を模式的に示した図である。
図2に示すように、第1の熱交換型反応器20は、筐体22と、筐体22に設けられた複数の熱媒体流路26と、筐体22に設けられた複数の反応室24と、各反応室24内に収納された積層体30と、を有して構成されている。
筐体22内では、反応室24と熱媒体流路26とが交互に配置されている。反応室24と熱媒体流路26とは隔壁を隔てて互いに分離されている。これらの構成により、外部から供給される熱媒体M1と反応室24内の蓄熱材成形体との間で熱交換を行えるようになっている。この実施形態では、反応室24、熱媒体流路26は、それぞれ扁平矩形状の開口端を有する角柱状空間とされている。この実施形態では、第1の熱交換型反応器20は、反応室24の開口方向(アンモニアの流れ方向)と熱媒体流路26の開口方向(熱媒体の流れ方向)とが側面視で直交する、直行流型の熱交換型反応器として構成されている。
【0029】
本発明における第1の熱交換型反応器は、第1の熱交換型反応器20の例のように、前記蓄熱材が収納された反応室を2つ以上有し、前記熱媒体流路が少なくとも前記反応室間に配置された構成であることが好ましく、2つ以上の反応室と2つ以上の熱媒体流路とを有し、反応室と熱媒体流路とが交互に配置された構成であることがより好ましい。
第1の熱交換型反応器20における反応室24や熱媒体流路26の個数には特に限定はなく、第1の熱交換型反応器20に対し入出力する熱量と、蓄熱材成形体の伝熱面の面積(反応室内壁との接触面積)と、の関係を考慮して適宜設定できる。
また、筐体22の材質としては、金属(例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、等)等の熱伝導性の高く、アンモニア耐食性のある材質が好適である。
【0030】
図2に示すように、積層体30は、2枚の蓄熱材成形体(蓄熱材成形体32A及び蓄熱材成形体32B;以下、これらをまとめて「蓄熱材成形体32A及び32B」ともいう)と、蓄熱材成形体32A及び32Bに挟持された支持体34と、から構成されている。図2では、積層体30の構成を見やすくするために、蓄熱材成形体32Aと、支持体34と、蓄熱材成形体32Bと、を分離して図示している。
但し、本発明における積層体の構成としては、このような蓄熱材成形体/支持体/蓄熱材成形体の3層構成を少なくとも有する構成であればよく、3層構成以外にも、例えば、蓄熱材成形体と支持体とが交互に配置され、かつ、最外層が蓄熱材成形体であるその他の構成(例えば、蓄熱材成形体/支持体/蓄熱材成形体/支持体/蓄熱材成形体の5層構成、等)であってもよい。
【0031】
蓄熱材成形体32A及び32Bは、それぞれ、吸熱反応によりアンモニアが脱離するときに蓄熱し、発熱反応である配位反応(化学反応)によってアンモニアが固定化されるときに放熱する金属塩化物を含む。
金属塩化物を含む蓄熱材成形体は、物理吸着材と比較して蓄熱密度が高いという利点を有する。
金属塩化物の好ましい形態については後述する。
【0032】
支持体34としては、支持体34の面に沿った方向(例えば、図2中の白抜き矢印の方向)にアンモニアガスを流通させることができる支持体を用いることが好ましい。これにより、2枚の蓄熱材成形体間にアンモニア蒸気の流路を確保することができるので、アンモニア配管10から供給されたアンモニアガス(NH)を、蓄熱材成形体32A及び32Bの広い範囲に供給できる。更に、蓄熱材成形体32A及び32Bの広い範囲に吸着したアンモニアを支持体34を介してアンモニア配管10に向けて放出することができる。
このような支持体34として、具体的には、波型プレート又は多孔体プレートを用いることが好ましい。
支持体34として多孔体プレートを用いた場合には、多孔体プレート内をアンモニアが通過する。
支持体34として波型プレートを用いた場合には、波型プレートとの蓄熱材成形体との間に生じる隙間をアンモニアガスが通過する。
図3は、特に、支持体として波型プレート36を用いた場合における第1の熱交換型反応器20及び第1の熱交換型反応器20内に収納される積層体40を概念的に示した図である。支持体である波型プレート36以外の構成は図2と同様である。
支持体として波型プレート36を用いた場合は、積層体40における波型プレート36と蓄熱材成形体32A及び32Bとの間に生じる隙間をアンモニアが通過する(図3中の白抜き矢印の方向)。
【0033】
また、図1に示すように、化学蓄熱熱輸送装置100において、第1の熱交換型反応器20とアンモニア配管10とは、第1の熱交換型反応器20中の複数の反応室24とアンモニア配管10とを気密状態で連通するヘッダ部材28(例えば、マニホールド等)を介して接続されている。これにより、複数の反応室24とアンモニア配管10との間で気密状態でアンモニアを流通できるようになっている。
なお、図1では、第1の熱交換型反応器20及び第2の熱交換型反応器120の構成を見やすくするために、前記ヘッダ部材28、下記ヘッダ部材29A、下記ヘッダ部材29B、下記ヘッダ部材128、下記ヘッダ部材129A、下記ヘッダ部材129B、下記熱媒体配管27A、下記熱媒体配管27B、下記熱媒体配管127A、及び下記熱媒体配管127Bを、二点鎖線で表している。
【0034】
また、図1に示すように、第1の熱交換型反応器20は、ヘッダ部材29A(例えば、マニホールド等)を介して熱媒体配管27Aに接続されるとともに、ヘッダ部材29B(例えば、マニホールド等)を介して熱媒体配管27Bに接続されている。第1の熱交換型反応器20内の複数の熱媒体流路26は、該ヘッダ部材29Aにより気密状態で熱媒体配管27Aに連通されるとともに、該ヘッダ部材29Bにより気密状態で熱媒体配管27Bに連通されている。これにより、熱媒体配管27A及び熱媒体配管27Bを通じ、第1の熱交換型反応器20内の熱媒体流路26と化学蓄熱熱輸送装置100の外部(以下、単に「外部」や「系外」ともいう)との間で熱媒体M1を流通できるようになっている。
熱媒体M1としては、エタノール等のアルコール、水、油類、これらの混合物等、熱媒体として通常用いられる流体を用いることができる。
【0035】
図1に示すように、アンモニア配管10にはバルブV1(弁)が設けられており、バルブV1の開閉によりアンモニア圧の差を調節できるようになっている。これにより、第1の熱交換型反応器20側のアンモニア圧と第2の熱交換型反応器120側のアンモニア圧との差をより効果的に保持できる。即ち、バルブV1を閉じた状態を維持することによりアンモニア圧の差を長時間保持することができ、その後バルブV1を開くことにより一方の熱交換型反応器側から他方の熱交換型反応器側にアンモニアを輸送できる。このようにして、一方の熱交換型反応器側に蓄熱された熱を、他方の熱交換型反応器側で効率よく利用することができる。
【0036】
図1に示すように、化学蓄熱熱輸送装置100において、第2の熱交換型反応器120も第1の熱交換型反応器20と同様に、筐体122に、複数の反応室124と、各反応室124内に収納された積層体130と、複数の熱媒体流路126と、が設けられた熱交換型反応器となっている。積層体130の構成及び第2の熱交換型反応器120内の構成については、それぞれ、積層体30の構成及び第1の熱交換型反応器20内の構成と同様である。また、第2の熱交換型反応器120に接続する、ヘッダ部材128、129A、及び129B、並びに、熱媒体配管127A及び127Bの構成については、それぞれ、第1の熱交換型反応器20に接続する、ヘッダ部材28、29A、及び29B、並びに、熱媒体配管27A及び27Bの構成と同様である。第2の熱交換型反応器120内に供給される熱媒体M2としては、エタノール等のアルコール、水、油類、これらの混合物等、熱媒体として通常用いられる流体を用いることができる。
また、図示しないが、化学蓄熱熱輸送装置100の外部において、熱媒体M1の流通経路と熱媒体M2の流通経路とは、互いに独立している。
但し、第2の熱交換型反応器120については、アンモニアの固定化及び脱離により、第1の熱交換型反応器20との間でアンモニア及び熱を受け渡しできる反応器であれば図1に示す形態に制限されることはない。
特に、第2の熱交換型反応器120に含まれる蓄熱材としては、アンモニアの固定化及び脱離の反応性(反応速度及び反応量)の観点から、蓄熱材成形体であることが好ましい。中でも、金属塩化物を含む蓄熱材成形体、または物理吸着材(例えば、活性炭、メソポーラスシリカ、ゼオライト、シリカゲル、粘土鉱物、等)を含む蓄熱材成形体が好ましい。
【0037】
また、化学蓄熱熱輸送装置100には、装置内にアンモニアを供給するためのアンモニア供給手段(不図示)や、装置内を排気するための排気手段(不図示)、装置内のアンモニア圧を測定するための圧力測定手段(不図示)等が接続されていてもよい。
【0038】
次に、化学蓄熱熱輸送装置100によって行われる熱輸送の例について説明する。
【0039】
(放熱)
まず、第2の熱交換型反応器120に供給された熱を第1の熱交換型反応器20に輸送し、輸送された熱を第1の熱交換型反応器20から外部に放熱する熱利用の一例について説明する。この一例では、第2の熱交換型反応器120を熱入力側の反応器とし、第1の熱交換型反応器20を熱出力側の反応器としている。
【0040】
この一例では、まず初期状態として、化学蓄熱熱輸送装置100内(以下、「系内」ともいう)のアンモニアを第2の熱交換型反応器120側に集め、第2の熱交換型反応器120における蓄熱材にアンモニアが固定化された状態にし、その後バルブV1を閉じておく。化学蓄熱熱輸送装置100を初期状態とする具体的な方法の例は、後述する「再生」の方法と同様である。
第2の熱交換型反応器120には、所定の温度(例えば−30℃〜10℃)に維持された熱媒体M2を流通させることにより、熱を供給する。上記所定の温度の熱媒体M2の流通は、放熱及び再生を通じて維持しておくことが好ましい。
第1の熱交換型反応器20には、外部の熱利用対象に向けて熱を放出するための熱媒体M1を流通させる。
この状態では、第2の熱交換型反応器120側のアンモニア圧が第1の熱交換型反応器120側のアンモニア圧よりも高くなっている。バルブV1を閉じた状態を維持することで、第1の熱交換型反応器20側と第2の熱交換型反応器120側とのアンモニア圧の差を長時間保持することができる。
【0041】
次に、バルブV1を開くと、アンモニア圧が高い第2の熱交換型反応器120から、相対的にアンモニア圧が低い第1の熱交換型反応器20に向けてアンモニアの輸送が行われる。このとき、第2の熱交換型反応器120では、吸熱反応によって第2の熱交換型反応器120中の蓄熱材成形体からアンモニアが脱離する。この吸熱反応の維持は、第2の熱交換型反応器120への上記所定の温度(例えば−30℃〜10℃)の熱媒体M2の流通を維持することにより(即ち、第2の熱交換型反応器120への熱の供給を維持することにより)行われる。
【0042】
上記アンモニアの輸送により第1の熱交換型反応器20に到達したアンモニアは、第1の熱交換型反応器20に収納された金属塩化物を含む蓄熱材成形体に、発熱反応により固定化される。この発熱反応により熱媒体M1が加熱され、加熱された熱媒体M1が外部の加熱対象に向けて放熱される。
【0043】
以上のようにして、第2の熱交換型反応器120から第1の熱交換型反応器20へのアンモニアの輸送に伴い、第2の熱交換型反応器120に供給された熱が、第1の熱交換型反応器20側に輸送され、第1の熱交換型反応器20から放熱される。
【0044】
(再生)
上記の放熱が継続されて第2の熱交換型反応器120内のアンモニアが減少した場合には、系内のアンモニアを再び第2の熱交換型反応器120側に集め、第2の熱交換型反応器120における蓄熱材成形体にアンモニアを固定化させることにより、化学蓄熱熱輸送装置100を初期状態に再生させる。
再生の具体的な方法の例としては、バルブV1を開いた状態で、第2の熱交換型反応器120への上記所定の温度(例えば−30℃〜10℃)の熱媒体M2の流通を維持したまま、第1の熱交換型反応器20における熱媒体流路26に高温(例えば、60℃〜100℃)に維持された熱媒体M1を流通させる方法が好適である。
これにより、吸熱反応によって第1の熱交換型反応器20からアンモニアが脱離するとともに、第1の熱交換型反応器20側から第2の熱交換型反応器120側にアンモニアが輸送される。
第2の熱交換型反応器120に到達したアンモニアは、第2の熱交換型反応器120における反応室124内の蓄熱材成形体に発熱反応により固定化される。
この発熱反応の維持は、例えば、第2の熱交換型反応器120への上記所定の温度(例えば−30℃〜10℃)の熱媒体M2の流通を維持すること(即ち、第2の熱交換型反応器120への熱の供給を維持すること)により行われる。
【0045】
化学蓄熱熱輸送装置100では、上記の放熱及び再生を繰り返し行うことができる。
なお、上記の放熱及び再生の例では、反応器への熱の供給を熱媒体の流通により行っているが、反応器への熱の供給は、不図示の温度調節機構によって行ってもよい。
【0046】
以上で説明したように、本実施形態の化学蓄熱熱輸送装置は、2つ以上の反応器間で、アンモニア圧の差によるアンモニアの輸送に伴い熱を輸送する装置である。
図4は、アンモニア(NH)及び水(HO)の飽和蒸気圧曲線である。
図4に示すように、アンモニアは、水と比較して比較的低温においても高い飽和蒸気圧を示す。例えば、−30℃〜0℃の範囲においても大気圧レベルのアンモニア蒸気圧を確保できる。このため、本実施形態の化学蓄熱熱輸送装置によれば比較的低温(例えば、−30℃〜+30℃)の条件下においても、アンモニア蒸気の配管内流動に伴う圧力損失を抑えることができるので、熱輸送性に優れる。例えば、本実施形態の化学蓄熱熱輸送装置によれば、長い距離(例えば1000mm〜5000mm、更には2000mm〜5000mm)の熱輸送を行うことができる。
【0047】
また、本実施形態の化学蓄熱熱輸送装置100は、アンモニアが脱離するときに蓄熱しアンモニアが固定化されるときに放熱する蓄熱材が収納された2つ以上の反応器間で、アンモニアを流通させることにより熱を輸送する装置である。
このため、アンモニアガスを凝縮する凝縮器を必須の構成要素として備えたケミカル蓄熱装置(例えば、特開平6−109388号公報に記載のケミカル蓄熱装置)と比較して、以下の利点を有する。
即ち、本実施形態の化学蓄熱熱輸送装置100では、凝縮器を必須の構成要素とせず、気/液の相変化を制御する機構も必須ではないため、装置の構成を、2つ以上の反応器をアンモニア配管でつないだ簡易な構成とすることができる。
また、アンモニアガスを凝縮する凝縮器を必須の構成要素として備えたケミカル蓄熱装置では、凝縮器におけるアンモニアガスの圧力及び冷却温度の条件を、蒸気圧が高いアンモニアガスを凝縮(液化)させるのに十分な条件に調整する必要があり、動作条件が制約され易い(動作条件の選択の幅が狭くなり易い)。
これに対し、本実施形態の化学蓄熱熱輸送装置100では、凝縮器を必須の構成要素とせず、2つ以上の反応器をアンモニア配管でつないだ構成であるため、動作条件が制約されにくい。
【0048】
(蓄熱材)
次に、本実施形態の化学蓄熱熱輸送装置100における反応器に収納される蓄熱材について説明する。
第1の熱交換型反応器に収納される蓄熱材成形体は、前述のとおり、金属塩化物を含む蓄熱材成形体である。
第2の熱交換型反応器に収納される蓄熱材(好ましくは蓄熱材成形体)は、前述のとおり、金属塩化物を含む蓄熱材成形体又は物理吸着材を含む蓄熱材成形体であることが好ましい。
本発明では、少なくとも第1の熱交換型反応器において金属塩化物を含む蓄熱材成形体を用いているので、少なくとも第1の熱交換型反応器における蓄熱密度をより高くすることができ、ひいては化学蓄熱熱輸送装置全体としての蓄熱密度をより高くすることができる。また、金属塩化物は物理吸着材と比較して種類による蓄熱温度の差が大きいことから(後述の図5参照)、金属塩化物を含む蓄熱材が収納された反応器を用いることで、金属塩化物の種類の選定により化学蓄熱熱輸送装置の作動温度や作動アンモニア圧等の動作条件の選択の幅を広げることができる。従って、熱利用の対象に合わせ、作動アンモニア圧や作動温度を広い範囲から選定できる。
【0049】
一方、第2の熱交換型反応器において物理吸着材を含む蓄熱材成形体を用いた場合には、第2の熱交換型反応器において、アンモニアの固定化及び脱離に要する熱量をより小さくすることができるので、化学蓄熱熱輸送装置全体としての熱輸送の制御性がより向上する。
【0050】
特に、本発明において、第1の熱交換型反応器において金属塩化物を含む蓄熱材成形体を用い、第2の熱交換型反応器において物理吸着材を含む蓄熱材成形体を用いる組み合わせとした場合には、以下の利点を有している。
この組み合わせでは、物理吸着材と比較してアンモニアの固定化及び脱離に要する熱量が大きい性質を有する金属塩化物と、金属塩化物と比較してアンモニアの固定化及び脱離に要する熱量が小さい性質を有する物理吸着材と、を用いる。このため、反応器間での反応熱量の差を利用して、物理吸着材を含む反応器側に小さい熱量の熱を供給する場合においても、金属塩化物を含む反応器側でより大きな熱量を得ることができる。
例えば、アンモニア1molの固定化及び脱離に要する熱量は、金属塩化物(例えば、LiCl、MgCl、CaCl、SrCl、BaCl、MnCl、CoCl、NiCl、等)では40kJ/mol〜60kJ/molであるのに対し、物理吸着材(例えば、活性炭、メソポーラスシリカ、ゼオライト、シリカゲル、粘土鉱物、等)では、20kJ/mol〜30kJ/molである。
【0051】
例えば、前述の「放熱」では、第1の熱交換型反応器20に収納される蓄熱材成形体として金属塩化物を含む蓄熱材成形体を用い、かつ、第2の熱交換型反応器120に収納される蓄熱材として物理吸着材を含む蓄熱材成形体を用いることで、第1の熱交換型反応器20において、第2の熱交換型反応器120に供給される熱の温度よりも30℃程度高い温度の熱を放熱できる。
【0052】
−金属塩化物−
次に、少なくとも第1の熱交換型反応器20における蓄熱材成形体32A及び32Bに含まれる金属塩化物について説明する。
なお、金属塩化物は、必要に応じ第2の熱交換型反応器120に含まれていてもよい。
【0053】
前記金属塩化物としては、反応器における蓄熱密度をより高くする観点から、アルカリ金属の塩化物、アルカリ土類金属の塩化物、又は遷移金属の塩化物が好ましく、LiCl、MgCl、CaCl、SrCl、BaCl、MnCl、CoCl、又はNiClがより好ましい。
【0054】
図5は、LiCl、MgCl、CaCl、SrCl、BaCl、MnCl、CoCl、及びNiClの各金属塩化物について、蓄熱温度(℃)と蓄熱密度(kJ/kg)との関係を表した図である。
蓄熱温度(℃)は、各金属塩化物について、アンモニアを脱離できる温度の一例を示している。蓄熱密度(kJ/kg)は、各金属塩化物1kg当たりがアンモニアの脱離により蓄熱できる熱量(kJ)を示している。
【0055】
図5に示すように、LiCl、MgCl、CaCl、SrCl、BaCl、MnCl、CoCl、及びNiClは、約800kJ/kg〜1400kJ/kgという高い蓄熱密度を示す。また、蓄熱温度は金属塩化物の種類によって異なり、約30℃〜220℃の範囲である。
本実施形態においては、作動アンモニア圧や作動温度に合わせて金属塩化物の種類を適宜選定することができる。従って、熱利用の対象に合わせ作動アンモニア圧や作動温度を選定できる幅が広がる。
例えば、化学蓄熱熱輸送装置の作動温度を低くする場合には、BaCl、CaCl、SrClを選択することができ、化学蓄熱熱輸送装置の作動温度を高くする場合には、NiClを選択することができる。
【0056】
金属塩化物は、本実施形態における蓄熱材成形体中に、一種含まれていてもよいし二種以上含まれていてもよい。
また、本実施形態における蓄熱材成形体は、前記金属塩化物以外のその他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、アルミナ、シリカ等のバインダー成分、カーボンファイバー等の熱伝導補助材等が挙げられる。
但し、アンモニアの固定化及び脱離の反応性をより向上させる観点からは、蓄熱材成形体中における前記金属塩化物の含有量は、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0057】
また、本実施形態における蓄熱材成形体を作製する方法については特に限定はなく、金属塩化物を含む粉体やそのスラリーを、加圧成形、押し出し成形等の公知の成形手段により成形する方法が挙げられる。
前記成形においては、蓄熱材成形体の密度が、真密度となるまで加圧することが好ましい。金属塩化物を含む粉体は、加圧により比較的容易に真密度を示すまで圧縮される。
前記成形の圧力としては、例えば、20MPa〜100MPaが挙げられ、20MPa〜40MPaが好ましい。
【0058】
次に、本実施形態における反応室、及び該反応室における金属塩化物の充填量について説明する。
本実施形態における反応室24は、内壁が前記蓄熱材成形体32A及び32Bとの接触部分を有している。更に、本実施形態における反応室24においては、金属塩化物の充填量(モル数)が、蓄熱材成形体をアンモニア飽和状態で充填したときの金属塩化物の充填量(モル数)に対し1.0倍以上となっている。
これらの構成により、蓄熱材成形体32A及び32Bが、それぞれ、反応室24の内壁及び支持体34の表面との接触を保った状態となっている。
これらの構成により、繰り返し使用時における蓄熱材成形体の割れや微粉化を抑制できる。
前記接触が保たれていないと、繰り返し使用時において蓄熱材成形体が膨張収縮を繰り返すので、蓄熱材成形体に割れ(クラックを含む)や微粉化が生じ、アンモニアの固定化及び脱離の反応性が低下する(例えば、後述の比較例参照)。
繰り返し使用時における割れや微粉化をより効果的に抑制する観点からは、反応室における金属塩化物の充填量(モル数)は、蓄熱材成形体をアンモニア飽和状態で充填したときの金属塩化物の充填量(モル数)に対し1.0倍を超えていることが好ましい。
また、反応室内壁の伝熱面と蓄熱材成形体との接触熱抵抗を低減するという観点より、反応室の内壁は、蓄熱材成形体の一方の主面の全体と接触していることが好ましい。即ち、蓄熱材成形体が、反応室の内壁と、支持体表面と、によって挟持されていることが好ましい。
【0059】
更に、本実施形態における反応室24においては、金属塩化物の充填量が、蓄熱材成形体をアンモニア飽和状態で充填したときの金属塩化物の充填量に対し1.1倍以下となっている。
これにより、金属塩化物の充填量が多すぎる場合に生じる、アンモニアの固定化及び脱離の反応性の低下が抑制される(例えば、後述の図6参照)。
【0060】
反応室24内に、蓄熱材成形体32A及び32Bを含む積層体30を収納する方法には特に限定はないが、例えば、下記工程1〜工程3を含む方法が好適である。
(工程1)まず、アンモニアが固定化されていない蓄熱材成形体を2枚準備する。
蓄熱材成形体を作製する際の圧力は、蓄熱材成形体中における金属塩化物の密度が真密度となる圧力とする。
ここで、1枚の蓄熱材成形体に含まれる金属塩化物の量(モル数)は、(反応室の内壁及び支持体の表面によって)外形寸法を拘束されない状態において蓄熱材成形体をアンモニア飽和状態としたときの該蓄熱材成形体の体積が、反応室の内壁及び支持体の表面によって確定される空間(蓄熱材成形体が充填されるべき空間)の体積に対し、1.0倍〜1.1倍となる量に調整する。
工程1における蓄熱材成形体にはまだアンモニアが固定化されていないため、蓄熱材成形体の体積は、反応室の内壁及び支持体の表面によって確定される空間(蓄熱材成形体が充填されるべき空間)の体積よりも小さい。
(工程2)次に、工程1で準備した2枚の蓄熱材成形体によって支持体を挟んだ構成の積層体を準備し、該積層体を反応室に収納する。
(工程3)次に、反応室に収納された2枚の蓄熱材成形体に対してアンモニアを固定化させることにより、2枚の蓄熱材成形体を体積膨張させて、2枚の蓄熱材成形体の表面を、反応室の内壁及び支持体の表面に接触(又は密着)させる。
【0061】
以上の工程1〜工程3を含む方法によれば、反応室24内における金属塩化物の充填量(モル数)が蓄熱材成形体をアンモニア飽和状態で充填したときの金属塩化物の充填量(モル数)に対し1.0倍以上1.1倍以下となるように、積層体30を反応室24内に容易に収納することができる。
ここで、一旦、蓄熱材成形体32A及び32Bの表面と反応室24の内壁とが接触又は密着すれば、その後、蓄熱材成形体32A及び32Bからアンモニアが脱離する場合においても体積収縮は抑制される。この場合、前記接触又は密着の状態が保たれたまま、蓄熱材成形体32A及び32Bの内部からアンモニアが脱離する。
【0062】
図6は、第1の熱交換型反応器20における蓄熱材成形体32A及び32BとしてCaClの成形体(以下、「CaCl成形体」ともいう)を用いた場合において、反応室におけるCaClの充填量(相対値)と、利用可能な蓄熱量と、の関係を示すグラフである。
ここで、反応室におけるCaClの充填量(相対値)は、反応室にCaCl成形体をアンモニア飽和状態(CaClの8アンモニア和物(CaCl−8NH)成形体の状態)で充填したときのCaClの充填量を1.0としたときの相対値である。なお、充填量はモル数である。
【0063】
以下、図6に示すグラフの前提条件について説明する。
上記工程1〜工程3を含む方法に従って、第1の熱交換型反応器20内の各反応室24に、積層体30をそれぞれ収納した。
具体的には、粉末状のCaClを、圧力40MPaにて加圧成形してCaCl成形体を作製した。
上記で得られたCaCl成形体の密度は真密度となっていた。
【0064】
ここで、粉末状のCaClの量は、反応室にCaCl成形体をアンモニア飽和状態(CaClの8アンモニア和物(CaCl−8NH)の状態)で充填した場合におけるCaClの充填量に対し、1.0倍以上1.5倍以下となる範囲で種々変化させた。
即ち、粉末状のCaClの量は、CaCl成形体を外形寸法が拘束されない状態でアンモニア飽和状態(CaClの8アンモニア和物(CaCl−8NH)の状態)としたときの体積が、反応室24の内壁及び支持体34の表面によって確定される空間の体積に対して1.0倍以上1.5倍以下となる範囲で種々変化させた。
【0065】
次に、得られたCaCl成形体2枚によって支持体を挟んだ構造の積層体を作製し、得られた積層体を反応室24内に収納した。
支持体としては、15mm×15mm×厚み0.5mmのステンレス多孔体シートを用いた。
その後、反応室24内のCaCl成形体に対し、アンモニアを固定化させることにより、成形体と、反応室24の内壁及び支持体34の表面と、を接触させた。
更に、反応室24内のCaCl成形体に対し、アンモニアの固定化及び脱離を繰り返すことにより、上記接触の状態やアンモニアとの親和性を安定化させて、反応室24内のCaCl成形体を蓄熱材成形体32A及び32Bとした。
【0066】
ここで、反応室24内における蓄熱材成形体32A及び32Bのサイズ(反応室24の内壁及び支持体34の表面によって確定される空間のサイズに等しい)は、15mm×15mm×厚み3mmとした。
また、反応室24内における支持体のサイズは、15mm×15mm×厚み0.5mmであり、反応室24への収納前と同サイズであった。
第1の熱交換型反応器20の筐体22の材質はSUS304とし、第1の熱交換型反応器20における反応室24の数は、30室とした。
熱媒体M1としては、水を用いた。
【0067】
第1の熱交換型反応器20の条件は、作動温度5℃、NH圧力4atm、反応容積4mLである。
前記作動温度は、第1の熱交換型反応器20における熱媒体M1の温度である。
前記NH圧力は、バルブV1を閉じ、前記作動温度としたときの第1の熱交換型反応器20側のアンモニア圧である。
【0068】
図6中の横軸は、反応室におけるCaClの充填量(相対値)である。
ここで、反応室におけるCaClの充填量(相対値)は、反応室にCaClの成形体をアンモニア飽和状態(CaClの8アンモニア和物(CaCl−8NH)の状態)で充填した場合のCaClの充填量を1.0としたときの相対値である。なお、充填量はモル数である。
例えば、前記充填量(相対値)が1.0の状態は、反応室24に、CaCl−8NHを隙間無く充填した状態を表す。
また、前記充填量(相対値)が1.5の状態は、反応室24に、CaClの2アンモニア和物(CaCl−2NH)を隙間無く充填した状態を表す。
【0069】
図6中の縦軸は、利用可能な蓄熱量を表す。
利用可能な蓄熱量は、CaCl−8NH及びCaCl−2NHの真密度に基づいて算出した。
【0070】
図6に示すように、CaClの充填量(相対値)が1.0を超える領域では、該CaClの充填量(相対値)が増加するに従い、利用可能な蓄熱量が減少する。
この現象は以下のように説明できる。
即ち、CaClの充填量(相対値)が1.0を超える場合においては、アンモニアを固定化することによりCaCl成形体が体積膨張しようとしても、反応室の内壁や支持体によって体積膨張が物理的に妨げられ、ひいてはCaCl成形体が固定化できるアンモニアの量が減少する。CaCl成形体が固定化できるアンモニアの量が減少することにより、CaCl成形体においてアンモニアの固定化及び脱離の反応性が低下し、その結果として、利用可能な蓄熱量が低下する。さらに、CaClの充填量(相対値)が増加するにつれ、CaCl成形体の体積膨張が物理的に妨げられる程度が大きくなり、前記反応性がより低下し、利用可能な蓄熱量がより低下する。
【0071】
しかしながら、CaClの充填量(相対値)が1.1以下の領域では、CaCl成形体の体積膨張が物理的に妨げられる程度が小さいので、前記反応性の低下及び前記蓄熱量の低下を、CaClの充填量(相対値)が1.0である場合の蓄熱量に対し、実用上の許容範囲内である10%未満の減少に抑えることができる。
一方、CaClの充填量(相対値)を1.0以上とすることは、CaCl成形体と、反応室の内壁及び支持体の表面と、の接触を良好に保ち、繰り返し使用時におけるCaCl成形体の割れや微粉化を抑制する上で重要である。更に、前記接触を良好に保つことは、CaCl成形体における熱交換の効率を高める上でも重要である。
以上のように、反応室におけるCaClの充填量(相対値)を、1.0以上1.1以下とすることにより、繰り返し使用時におけるCaCl成形体の割れや微粉化の抑制と、アンモニアの固定化及び脱離の反応性向上と、を両立できる。
【0072】
−物理吸着材−
第2の熱交換型反応器120に収納される蓄熱材(好ましくは蓄熱材成形体)は、物理吸着材を含むことが好ましい。第2の熱交換型反応器120に収納される蓄熱材には、物理吸着材が1種単独で含まれていてもよいし2種以上含まれていてもよい。
前記物理吸着材としては、多孔体を用いることができる。
前記多孔体としては、物理吸着によるアンモニアの固定化及び脱離の反応性をより向上される観点からは、10nm以下の細孔を持つ多孔体が好ましい。
前記細孔のサイズの下限としては、製造適性等の観点から、0.5nmが好ましい。
前記多孔体としては、同様の観点より、平均1次粒子径50μm以下の1次粒子が凝集して得られた1次粒子凝集体である多孔体が好ましい。
前記平均1次粒子径の下限としては、製造適性等の観点から、1μmが好ましい。
【0073】
前記多孔体の具体例としては、活性炭、メソポーラスシリカ、ゼオライト、シリカゲル、粘土鉱物等が挙げられる。
前記活性炭としては、BET法による比表面積が800m/g以上2500m/g以下(より好ましくは1800m/g以上2500m/g以下)である活性炭が好ましい。
前記粘土鉱物としては、非架橋の粘土鉱物であっても、架橋された粘土鉱物(架橋粘土鉱物)であってもよい。前記粘土鉱物としてはセピオライト等が挙げられる。
【0074】
本発明における蓄熱材が物理吸着材(好ましくは前記多孔体)を含む場合、該蓄熱材は、前記物理吸着材(好ましくは前記多孔体)を一種単独で含んでいてもよいし二種以上を含んでいてもよい。
本発明においては、作動アンモニア圧や作動温度に合わせて、物理吸着材(好ましくは前記多孔体)の種類を適宜選定することができる。
アンモニアの固定化及び脱離に要する熱量をより低減させる観点からは、本発明における蓄熱材は活性炭を少なくとも含むことが好ましい。
【0075】
本発明における蓄熱材が物理吸着材を含む場合において、前記蓄熱材中における物理吸着材の含有量は、アンモニアの固定化及び脱離の反応性をより高く維持する観点より、80体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましい。
【0076】
また、本発明における物理吸着材を含む蓄熱材を成形体(蓄熱材成形体)として用いる場合、該蓄熱材は、前記物理吸着材に加えてバインダーを含むことが好ましい。前記蓄熱材がバインダーを含むことにより、前記蓄熱材成形体の形状がより効果的に維持されるので、物理吸着によるアンモニアの固定化及び脱離の反応性がより向上する。
【0077】
前記バインダーとしては、水溶性バインダーの少なくとも1種であることが好ましい。
前記水溶性バインダーとしては、ポリビニルアルコール、トリメチルセルロース、等が挙げられる。中でも、トリメチルセルロースが好ましい。
【0078】
本発明における蓄熱材が物理吸着材及びバインダーを含む場合、該蓄熱材中におけるバインダーの含有量は、前記蓄熱材成形体の形状をより効果的に維持する観点より、5体積%以上であることが好ましく、10体積%以上であることがより好ましい。
【0079】
本発明における蓄熱材が物理吸着材及びバインダーを含む場合、必要に応じ、前記物理吸着材及び前記バインダー以外のその他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、カーボンファイバー等の熱伝導補助材、等が挙げられる。
【0080】
また、物理吸着材を含む蓄熱材を蓄熱材成形体に成形する場合、その成形方法については特に限定はなく、例えば、物理吸着材(及び必要に応じバインダー等のその他の成分)を含む蓄熱材(又は該蓄熱材を含むスラリー)を、加圧成形、押し出し成形等の公知の成形手段により成形する方法が挙げられる。
前記成形の圧力としては、例えば、20MPa〜100MPaが挙げられ、20MPa〜40MPaが好ましい。
物理吸着材を含む蓄熱材成形体を反応室に収納する方法については、前述した金属塩化物を含む蓄熱材成形体を反応室に収納する方法と同様の方法を用いることができる。
【0081】
(化学蓄熱熱輸送装置の好ましい形態)
次に、本発明の効果をより効果的に奏する観点からみた、化学蓄熱熱輸送装置の好ましい形態について説明する。
【0082】
本発明の化学蓄熱熱輸送装置では、熱輸送性の向上や初期作動時におけるアンモニアの輸送遅れ低減などの観点より、2つ以上の反応器のうち1つの反応器が貯蔵できるアンモニアの最大量に対し、化学蓄熱熱輸送装置の死容積を極力小さくすることが好ましい。
ここで、化学蓄熱熱輸送装置の死容積とは、化学蓄熱熱輸送装置内においてアンモニアが流通できる範囲の実効的な容積を表す。
本発明の化学蓄熱熱輸送装置では、死容積の大部分はアンモニア配管の容積であるため、アンモニア配管における圧力損失を許容できる範囲でアンモニア配管の容積を極力小さくし、化学蓄熱熱輸送装置の死容積を極力小さくすることが望ましい。
【0083】
具体的には、本発明の化学蓄熱熱輸送装置では、前記2つ以上の反応器のうち1つの反応器が固定化できる最大量のアンモニアの25℃1気圧における体積に対し、死容積が1%以下であることがより好ましい。
死容積が上記範囲であると、化学蓄熱熱輸送装置内を流通するアンモニアの量をより多く確保できるので、アンモニアの輸送性及び熱の輸送性がより向上する。更に、死容積を上記の範囲とすることで、初期作動時における、アンモニアの輸送及び熱の輸送の遅れをより効果的に抑制できる。
ここで、「1つの反応器が貯蔵できるアンモニアの最大量」とは、2つ以上の反応器のうちアンモニアを固定化できる量が最も多い反応器が固定化できるアンモニアの最大量を表す。また、「1つの反応器が貯蔵できるアンモニアの最大量」は、化学蓄熱熱輸送装置に貯蔵されるアンモニアの全量と等しい量とすることが好適である。
例えば、本発明の化学蓄熱熱輸送装置の一例として、2つ以上の反応器のうちアンモニアを固定化できる量が最も多い反応器において、当該反応器が固定化できる最大量のアンモニアの25℃1気圧における体積が当該反応器に収納されている蓄熱材の体積に対し100倍であり、かつ、当該反応器に当該最大量のアンモニアが貯蔵されている例では、化学蓄熱熱輸送装置の死容積を当該最大量のアンモニアの25℃1気圧における体積に対し1%以下とすることにより、2つ以上の反応器を直結させた場合の熱輸送能力に対して90%以上の熱輸送能力を得ることが可能である。
【0084】
また、本発明の化学蓄熱熱輸送装置の死容積には特に限定はなく、例えば10mL〜10Lとすることができる。該死容積は、100mL〜10Lが好ましく、500mL〜10Lがより好ましく、1L〜10Lが特に好ましい。
【0085】
また、本発明におけるアンモニア配管の長さには特に限定はなく、例えば10mm〜5000mmとすることができる。
本発明の化学蓄熱熱輸送装置では蒸気圧が高いアンモニアの輸送に伴い熱を輸送するので、アンモニア配管の長さを、1000mm〜5000mm、更には2000mm〜5000mmとすることもできる。
アンモニア配管の好ましい内径については後述する。
【0086】
また、本発明の化学蓄熱熱輸送装置の作動温度としては、−30℃〜250℃とすることができる。
本発明の化学蓄熱熱輸送装置内のアンモニア圧(作動アンモニア圧)は、例えば、0.1atm〜10atmとすることができる。
【0087】
本発明におけるアンモニア配管の内径は、1mm〜100mmであることが好ましく、5mm〜100mmであることがより好ましく、7mm〜100mmであることが更に好ましく、10mm〜100mmであることが特に好ましい。アンモニア配管の内径が1mm以上(より好ましくは10mm以上)であると、アンモニアの圧力損失をより抑制でき、熱出力をより向上させることができる。
アンモニア配管の内径が100mm以下であると、装置の大型化をより抑制できる。
装置の大型化をより抑制する観点からは、アンモニア配管の内径の上限を50mmとすることがより好ましく、アンモニア配管の内径の上限を30mmとすることが特に好ましい。
【0088】
次に、蓄熱材成形体とアンモニアとの反応率に関する実験結果(実施例及び比較例)について、図7及び図8を参照しながら説明する。
【0089】
〔実施例〕
実施例として、本実施形態の化学蓄熱熱輸送装置100の構成の化学蓄熱熱輸送装置を準備した。
第1の熱交換型反応器20の構成は、CaClの充填量(相対値)を1.0に固定したこと以外は前述の「図6に示すグラフの前提条件」で説明したとおりである。
【0090】
本実施例において、第2の熱交換型反応器120の構成は、蓄熱材成形体として活性炭成形体を用いたこと以外は第1の熱交換型反応器20の構成と同じ構成とした。ここで、活性炭成形体は、粉末状の活性炭(平均一次粒子径5μm、BET法による比表面積2000m/g)100質量部と、トリメチルセルロース5質量部と、水100質量部と、を混合して得られたスラリーを、40MPaの圧力で加圧成形することにより作製した。
【0091】
まず、上記実施例に係る化学蓄熱熱輸送装置100においてバルブV1を開放し、第1の熱交換型反応器20の熱媒体流路26に対し、高温(70℃)の熱媒体M1(水)を流通させ、蓄熱材成形体32A及び32Bからアンモニアを脱離させる操作を行った。この操作を蓄熱材成形体32A及び32BがCaCl−2NHとなるまで行い、その後バルブV1を閉じた。CaCl−2NHとなった状態の蓄熱材成形体を、初期状態の蓄熱材成形体とした。
次に、第1の熱交換型反応器20の熱媒体流路26に対し、低温(5℃)の熱媒体M1(水)を流通させ、バルブV1を開放することにより、初期状態の蓄熱材成形体に対しアンモニアを固定化する操作を行った。
バルブV1を開放したときからの経過時間を反応時間とし、各反応時間毎に蓄熱材成形体とアンモニアとの反応率(相対値)を求めた。
ここで、反応率(相対値)は、アンモニア飽和状態であるCaCl−8NHの状態を1.0とし、初期状態であるCaCl−2NHの状態を0.0としたときの相対値として求めた。
400秒間の反応時間の後、再び熱媒体流路26内を高温(70℃)の熱媒体M1(水)で置換し、初期状態に戻した。
以上の操作を1サイクルとした。
本実施例では、10サイクルの操作を行った。
【0092】
図7に、実施例における1サイクル目及び10サイクル目について、反応時間と反応率との関係を示す(図7中の実線)。
図7に示すように、実施例では、1サイクル目及び10サイクル目について同じ反応率の挙動を示しており、繰り返し使用時においても良好な反応性を維持することが確認された。
【0093】
〔比較例〕
次に、比較例として、本実施形態の化学蓄熱熱輸送装置100の第1の熱交換型反応器20を、非拘束型熱交換反応器220に置き換えた化学蓄熱熱輸送装置を準備した。
図8は、比較例に係る非拘束型熱交換反応器220を概念的に示す図である。
図8に示すように、非拘束型熱交換反応器220は、蓄熱材成形体232と、蓄熱材成形体232が一つ収納される一室の反応室224と、熱媒体M11が流通される熱媒体流路226と、を備えている。
蓄熱材成形体232としては、CaCl粉末を実施例と同様の条件でφ10mm×厚み3mmの円盤状に成形して得られた成形体を用いた。
反応室224の容積は、蓄熱材成形体232の体積に対し十分に大きいものとし、蓄熱材成形体232の外形寸法が反応室224の内壁によって物理的に制限(拘束)されないようにした。これにより、アンモニアの固定化及び脱離により、蓄熱材成形体232が体積膨張及び体積収縮を行えるようにした。
反応室224と熱媒体流路226とは隔壁250を隔てて互いに分離されるように構成した。この構成により、熱媒体M11と反応室224内の蓄熱材成形体232との間で熱交換を行えるようにした。
上記のような非拘束型熱交換反応器220を、反応室224とアンモニア配管との間で気密状態でアンモニアを流通させることができるように、アンモニア配管に接続した。
【0094】
比較例に係る化学蓄熱熱輸送装置を用い、実施例と同様の操作を10サイクル行った。
図7に、比較例における1サイクル目及び10サイクル目について、反応時間と反応率との関係を示す。図7では、1サイクル目の挙動を破線で、10サイクル目の挙動を一点鎖線で示した。
図7に示すように、10サイクル目では1サイクル目と比較して、反応率が大幅に低下した。更に、10サイクル目終了後の反応室224を観察すると、蓄熱材成形体232の割れ及び微粉化が生じていた。
比較例における繰り返し使用による反応率の低下の原因は、アンモニアの固定化及び脱離を繰り返すことにより蓄熱材成形体232が膨張収縮を繰り返し、成形体の割れ及び微粉化が起こったためである。
また、図7に示すように、比較例では、実施例と比較して1サイクル目の反応率が低かった。この理由は、蓄熱材成形体232の表面と反応室224の内壁との間に空間が存在していることにより、実施例と比較して、熱媒体と蓄熱材成形体との間の接触熱抵抗が悪化したためである。
【0095】
以上、本発明の実施形態に係る化学蓄熱熱輸送装置及び熱交換型反応器について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、上記実施形態に係る化学蓄熱熱輸送装置100では、2つの反応器のみ(第1の熱交換型反応器20及び第2の熱交換型反応器120)をアンモニア配管10で接続した構成となっているが、第1の熱交換型反応器20には、更に、第2の熱交換型反応器120以外のその他の反応器の少なくとも1つがアンモニア配管によって接続されていてもよい。この際、第1の熱交換型反応器20と2つ以上の反応器とが、分岐を有する1つのアンモニア配管によって接続されていてもよいし、第1の熱交換型反応器20と2つ以上の反応器とが、分岐を有しない2つ以上のアンモニア配管によってそれぞれ独立に接続されていてもよい。また、第1の熱交換型反応器20と3つ以上の反応器とが、分岐を有するアンモニア配管1つ以上と、分岐を有しないアンモニア配管1つ以上と、によって接続されていてもよい。
その他の反応器としては、例えば、第1の熱交換型反応器20及び第2の熱交換型反応器120と同様に、アンモニアが脱離するときに蓄熱しアンモニアが固定化されるときに放熱する蓄熱材が収納された反応器を用いることができる。
【0096】
また、上記実施形態に係る化学蓄熱熱輸送装置100では、各熱交換型反応器とアンモニア配管とがヘッダ部材を介して接続されているが、各熱交換型反応器とアンモニア配管とがヘッダ部材を介さずに気密状態で直接接続されていてもよい。また、ヘッダ部材と一体化された熱交換型反応器を用い、この熱交換型反応器とアンモニア配管とを気密状態で接続してもよい。
【0097】
また、上記実施形態に係る化学蓄熱熱輸送装置100では、アンモニア配管10にバルブV1(弁)が設けられているが、このバルブV1は省略されていてもよい。バルブV1が省略されている場合でも、第1の熱交換型反応器20及び第2の熱交換型反応器120の少なくとも一方に熱を供給して第1の熱交換型反応器20側と第2の熱交換型反応器120側とでアンモニア圧の差を生じさせることができ、このアンモニア圧の差によりアンモニア及び熱の輸送を行うことができる。
【0098】
また、上記実施形態に係る化学蓄熱熱輸送装置100では、第1の熱交換型反応器20が熱媒体流路を備えているが、第1の熱交換型反応器20としては、熱媒体流路に代えて(または熱媒体流路に加えて)、ヒーター等の温度調節手段を備えた反応器を用いてもよい。この温度調節手段により反応器全体に熱を供給できる。
また、上記実施形態に係る化学蓄熱熱輸送装置100では、前記アンモニア配管10の少なくとも1箇所に、更に圧力調整手段(不図示)が設けられていてもよい。圧力調整手段としては、外力により化学蓄熱熱輸送装置内におけるアンモニア圧の差を更に大きくする機能を有する手段を用いることができ、具体的には、圧送ポンプや圧縮機(コンプレッサー等)等、公知の手段を用いることができる。この圧力調整手段を作動させることにより、アンモニアの輸送(即ち、熱の輸送)をより効果的に行うことができる。
【符号の説明】
【0099】
10 アンモニア配管
20 第1の熱交換型反応器
120 第2の熱交換型反応器
24、124、224 反応室
26、126、226 熱媒体流路
30、40、130 積層体
32A、32B、232 蓄熱材成形体
34 支持体
36 波型プレート
100 化学蓄熱熱輸送装置
220 非拘束型熱交換反応器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアが脱離するときに蓄熱しアンモニアが配位反応によって固定化されるときに放熱する金属塩化物を含む2枚の蓄熱材成形体及び前記2枚の蓄熱材成形体間に挟持された支持体を有する積層体、並びに、該積層体が収納され、内壁が前記蓄熱材成形体との接触部分を有し、前記金属塩化物の充填量が前記蓄熱材成形体をアンモニア飽和状態で充填したときの金属塩化物の充填量に対し1.0倍以上1.1倍以下である反応室を有する第1の熱交換型反応器を含む2つ以上の反応器と、
前記2つ以上の反応器を接続し前記2つ以上の反応器間でアンモニアを流通させるアンモニア配管と、
を備え、
前記2つ以上の反応器間に生じたアンモニア圧の差を利用してアンモニアを一方から他方に輸送することにより熱を輸送する化学蓄熱熱輸送装置。
【請求項2】
前記アンモニア配管に弁が設けられ、該弁の開閉によりアンモニア圧の差を調節する請求項1に記載の化学蓄熱熱輸送装置。
【請求項3】
前記第1の熱交換型反応器は、更に、前記蓄熱材成形体との間で熱交換する熱媒体が流通する熱媒体流路を有する請求項1又は請求項2に記載の化学蓄熱熱輸送装置。
【請求項4】
前記第1の熱交換型反応器は、前記反応室を2つ以上有し、少なくとも前記反応室間に配置され、前記蓄熱材成形体との間で熱交換する熱媒体が流通する熱媒体流路を有する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の化学蓄熱熱輸送装置。
【請求項5】
前記2つ以上の反応器のうち1つの反応器が固定化できる最大量のアンモニアの25℃1気圧における体積に対し、死容積が1%以下である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の化学蓄熱熱輸送装置。
【請求項6】
更に、アンモニアが脱離するときに蓄熱しアンモニアが固定化されるときに放熱する金属塩化物又は物理吸着材を含む蓄熱材、及び、該蓄熱材が収納された反応室を有する第2の熱交換型反応器を備えた請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の化学蓄熱熱輸送装置。
【請求項7】
前記金属塩化物が、アルカリ金属の塩化物、アルカリ土類金属の塩化物、及び遷移金属の塩化物からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の化学蓄熱熱輸送装置。
【請求項8】
前記金属塩化物が、LiCl、MgCl、CaCl、SrCl、BaCl、MnCl、CoCl、及びNiClからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の化学蓄熱熱輸送装置。
【請求項9】
前記支持体が、波型プレート又は多孔体プレートである請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の化学蓄熱熱輸送装置。
【請求項10】
アンモニアが脱離するときに蓄熱しアンモニアが配位反応によって固定化されるときに放熱する金属塩化物を含む2枚の蓄熱材成形体及び前記2枚の蓄熱材成形体間に挟持された支持体を有する積層体、並びに、該積層体が収納され、内壁が前記蓄熱材成形体との接触部分を有し、前記金属塩化物の充填量が前記蓄熱材成形体をアンモニア飽和状態で充填したときの金属塩化物の充填量に対し1.0倍以上1.1倍以下である反応室を有する熱交換型反応器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−172901(P2012−172901A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35121(P2011−35121)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)