説明

化成皮膜、化成皮膜処理液、化成皮膜形成方法、化成皮膜形成方法に用いられる希土類元素含有溶液および化成皮膜を備える部材

【課題】3価クロム化成皮膜の他の性能を低下させることなく6価クロムを用いた有色クロメートに見られる強い色彩、具体的には黄色、橙、赤、緑などの色彩がほとんど無い化成皮膜、化成皮膜処理液、化成皮膜形成方法、化成皮膜形成方法に用いられる希土類元素含有溶液および化成皮膜を備える部材を提供する。
【解決手段】金属表面を有する部材上に形成される化成皮膜であって、3価クロムと、0.0010g/m2以上の希土類元素とを含み、50〜1000nmの厚さを有し、6価クロムを含まない無彩色系化成皮膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化成皮膜、化成皮膜処理液、化成皮膜形成方法、化成皮膜形成方法に用いられる希土類元素含有溶液および化成皮膜を備える部材に関する。
【背景技術】
【0002】
金属表面を有する部材に対し、耐食性を向上させる目的で、6価クロムや3価クロムを含有する化成処理液と接触させて防錆皮膜を形成させる処理を施すことがある。しかしながら、6価クロムは人体や環境に対して有害性が高い為に、その使用が大きく制限されているため、現在では3価クロムを用いる防錆方法が広く用いられている。
【0003】
しかしながら、3価クロム化成皮膜は、膜厚が概ね100nmを越える程度に厚い場合は耐食性が高いものの濃厚な色合いとなり、6価クロムを用いた有色クロメート皮膜の如き外観を呈する。特に、黄色、赤、橙(橙は黄色と赤の混合色)系統の色は、6価クロム固有の色とされ、有毒な6価クロムが連想されるため外観的に好ましくないとされるが、従来の3価クロム化成皮膜処理を施した鋼板や部材は色彩が強いため、需要者に6価クロメートを使用していると誤解を受けることがあった。仮に、6価クロメート処理品が混在しても判別が難しいなど、工業上、例えば材料受け入れ時の混乱や環境事故防止に掛ける手間(選別など)多大な不便があった。
【0004】
一方、有毒な6価クロムを連想される濃厚な色彩に比べて無彩色系の色調は、清潔感や高級感を与えやすいという外観上の利点もある。3価クロム化成皮膜は、膜厚60nm程度の場合には外観上は無色〜青色となり、有色クロメートと誤解されるような外観を示すことは無い場合もあるが、その耐食性はJIS Z2371の塩水噴霧試験72時間程度で白錆発生する程度しか有さない。このことは特表2000−509434号にも示されている。
【0005】
また、上記の問題にもかかわらず、これまでは3価クロムの耐食性改善がより喫緊の課題として存在していたため、例えば特開平10−183364号、特開平11−335865号などのように、耐食性を有する3価クロム化成皮膜を提供する発明が多数公開されてきていた。しかしながら、3価クロム化成皮膜そのものの色調制御に係る発明は殆ど開示がなく、上記の欠点は残されたままであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2000−509434号公報
【特許文献2】特開平10−183364号公報
【特許文献3】特開平11−335865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、3価クロム化成皮膜の他の性能を低下させることなく6価クロムを用いた有色クロメートに見られる強い色彩、具体的には黄色、橙、赤、緑などの色彩がほとんど無い無彩色系の化成皮膜、化成皮膜処理液、化成皮膜形成方法および化成皮膜を備える部材を提供する。より具体的には、本発明は、厚さ50nm以上、より好ましくは100nm以上の3価クロム化成皮膜でありながら、当業者が白、銀白色、無色、金属色、薄い干渉色、ユニクロ、クリヤーなどと呼称される無彩色系の化成皮膜処理液、化成皮膜形成方法および化成皮膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明者が鋭意研究した結果、3価クロム化成皮膜処理液に対して希土類元素を一定量以上添加することにより、厚さ100nm以上であっても、他の性能を低下させることなく、有色クロメートと誤解されるような外観を呈さない無彩色系の皮膜が得られることがわかった。また、従来は厚さ50〜100nm程度の化成皮膜においてもやや青色を呈する場合があったが、希土類元素の添加により厚さ50〜100nm程度を有する場合でも無彩色系の皮膜が得られることがわかった。そして、得られた皮膜の特性を調べたところ、本発明に係る化成皮膜処理を行った皮膜中には、一定以上の希土類元素が皮膜全体に分散して存在していることが分かった。
【0009】
上記知見を基礎として完成した本発明は一側面において、金属表面を有する部材上に形成される化成皮膜であって、3価クロムと、0.0010g/m2以上の希土類元素とを含み、50〜1000nmの厚さを有し、6価クロムを含まない無彩色系化成皮膜である。
【0010】
本発明に係る無彩色系化成皮膜は一実施形態において、希土類元素が、Sc、Y、Ce、Nd、Smよりなる群から選択される少なくとも1種である。
【0011】
本発明に係る無彩色系化成皮膜は別の一実施形態において、Mo、W、Ti、Zr、Mn、Tc、Fe、Ru、Co、アルカリ土類金属、Ni、Pd、Pt、V、Nb、Ta、Cu、Ag、Auよりなる群から選択される1種以上の金属を更に含有する。
【0012】
本発明は別の一側面において、3価クロムと、0.01g/L以上の希土類元素と、無機酸又は有機酸と、を含み、6価クロムを含まない無彩色系化成皮膜処理液である。
【0013】
本発明に係る無彩色系化成皮膜処理液は別の一実施形態において、希土類元素が、Sc、Y、Ce、Nd、Smよりなる群から選択される少なくとも1種である。
【0014】
本発明に係る無彩色系化成皮膜処理液は更に別の一実施形態において、Mo、W、Ti、Zr、Mn、Tc、Fe、Ru、Co、アルカリ土類金属、Ni、Pd、Pt、V、Nb、Ta、Cu、Ag、Auよりなる群から選択される1種以上の金属を更に含有する。
【0015】
本発明に係る無彩色系化成皮膜処理液は更に別の一実施形態において、無機酸又は有機酸が、塩酸、フッ素、硫酸、硝酸、ホウ酸、過酸化水素、リン酸又はカルボン酸のいずれか1種を含む。
【0016】
本発明は更に別の一側面において、上記の化成皮膜処理液に、金属表面を有する部材を接触させた後、乾燥させることにより、部材上に無彩色系化成皮膜を形成させることを特徴とする化成皮膜形成方法である。
【0017】
本発明に係る化成皮膜形成方法は一実施形態において、上記化成皮膜処理液に部材を接触させる前に、部材に対して希土類元素を含まない3価クロム化成皮膜処理を行うことを更に含む。
【0018】
本発明に係る化成皮膜形成方法は別の一実施形態において、乾燥の前または後に、ケイ素化合物、樹脂、無機コロイド、シランカップリング剤、有機カルボン酸、スルホン酸、チアゾール、トリアゾール、アミン化合物、苛性アルカリ、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、アンモニア、リンの酸素酸、PVA、非イオン性高分子、ポリオール、セルロース、ポリアクリル酸、酸アミド化合物、脂肪酸エステル、チオール化合物、タンニン酸及びメルカプト群よりなる群から選択される少なくとも1種を含む溶液に部材を接触させる工程を更に含む。
【0019】
本発明は更に別の一側面において、金属表面を有する部材に対して希土類元素を含まない3価クロム化成皮膜処理を行う工程と、ケイ素化合物、樹脂、無機コロイド、シランカップリング剤、有機カルボン酸、スルホン酸、チアゾール、トリアゾール、アミン化合物、苛性アルカリ、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、蛍光染料、アンモニア、リンの酸素酸、PVA、非イオン性高分子、ポリオール、セルロース、ポリアクリル酸、酸アミド化合物、脂肪酸エステル、チオール化合物、タンニン酸及びメルカプト群よりなる群から選択される少なくとも1種と0.01g/L以上の希土類元素とを含む溶液に部材を接触させる工程とを含む化成皮膜形成方法である。
【0020】
本発明は更に別の一側面において、上記化成皮膜形成方法に用いられる希土類元素含有溶液、上記化成皮膜を備える部材、或いは上記方法で得られる化成皮膜を備える部材である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明に係る化成皮膜形成方法と化成皮膜処理液、化成皮膜及び化成皮膜を有する部材に関して詳細に説明する。本発明の表面処理対象となる部材は、3価クロム化成皮膜処理を施すことが出来る金属表面を有する部材であれば特に限定されない。例えば亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、銅、ニッケル、クロム、鉄、錫及びこれらの合金が挙げられる。部材上には、上記金属によるめっき処理が施されていてもよい。
【0022】
本発明の化成皮膜処理液は一実施態様において、3価クロムと希土類元素を含有し、6価クロムを含有しない表面処理液である。3価クロムの供給源は硝酸クロム、硫酸クロム、塩化クロムなどがあげられるがこれに限定されない。希土類元素の供給源は、単体での供給の他、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、フッ化物、その他無機物並びに有機物との塩の形での供給が挙げられるがこれに限定されない。以下の記載は濃度の限定を意図するものではないが、3価クロムの濃度は0.001〜150g/Lが好適であり、より望ましくは0.1〜50g/Lである。
【0023】
希土類元素は耐食性を変化させずに3価クロム化成皮膜自体の色調のみを淡色化させる効果がある。希土類元素の中でも特に、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)が好適である。希土類元素の添加により淡色化効果が得られ、50nm以上、或いは100nm以上の厚膜でも、6価クロメート皮膜のような濃厚色の皮膜形成を防ぐことが出来る。しかしながら、処理液中における希土類元素の濃度は低すぎると淡色化(無彩色化)の効果が得られない場合があり、逆に濃度が高すぎても効果は頭打ちであり経済性を損なう。本発明らによる検討によれば、処理液中の希土類元素の濃度は、0.01g/L以上、より好ましくは0.01〜100g/Lであり、更に好ましくは0.1〜50g/L、更に好ましくは0.4〜30g/Lである。
【0024】
その他の化成皮膜処理条件についても特に限定はされないが、pHはpH0.1〜6.5が好適であり、より好ましくはpH0.5〜6.0、更に好ましくはpH1.0〜3.0である。処理液の温度は10〜80℃が好適であり、より望ましくは20〜40℃である。処理時間は5〜300秒が好適であり、より望ましくは10〜120秒である。
【0025】
また、本発明に係る化成皮膜処理液には、耐食性の向上などを目的としてMo、W、Ti、Zr、Mn、Tc、Fe、Ru、Co、アルカリ土類金属、Ni、Pd、Pt、V、Nb、Ta、Cu、Ag、Auよりなる群から選択される1種以上を添加することが出来る。特に限定を意図しないが、これらの金属濃度は0.001〜200g/Lが好適であり、0.01〜50g/Lがより好ましい。金属の供給源は無機塩若しくは有機酸塩、オキソ酸やオキソ酸塩などが考えられるが特に限定されない。また、0.001〜200g/Lの、より好ましくは0.1〜100g/Lの塩素、フッ素、硫酸イオン、硝酸イオン、ホウ酸イオン、有機カルボン酸イオン、過酸化水素、0.0001〜300g/Lの、より好ましくは0.001〜150g/Lのリンの酸素酸、酸素酸塩、無水物、リン化合物からなる群から選択される1種以上を含有することが出来る。更に、0.001〜300g/Lの、好ましくは0.01〜100g/LのSi、Al、顔料、染料、インク、カーボンの1種以上を含有することができる。これらについても供給方法については特に限定されない。
【0026】
3価クロム化成皮膜処理した後、水洗を行うか又は行わずに、乾燥させる前か後に、ケイ素化合物、樹脂、無機コロイド、シランカップリング剤、有機カルボン酸、スルホン酸、チアゾール、トリアゾール、アミン化合物、苛性アルカリ、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、アンモニア、リンの酸素酸、非イオン性高分子、ポリオール、セルロース、ポリアクリル酸、タンニン酸及びメルカプト群からなる群から選択される少なくとも1種を有する溶液に接触させる保護皮膜形成方法を行うことが出来る。この保護皮膜形成条件は当業者が適宜決定することができ、処理条件は特に限定されない。
【0027】
また、金属表面を有する部材に対して本発明の実施形態に係る化成皮膜処理を行う前に、希土類元素を含まない公知の3価クロム化成皮膜処理を行ってもよい。希土類元素を含まない公知の3価クロム化成皮膜処理を行った後のトップコート処理において、トップコート剤に希土類元素を行うことによっても本発明に係る化成皮膜処理の効果を発揮し得る。更に、複数回化成皮膜処理を行う場合は、そのうち1回以上が希土類元素を含有した化成皮膜処理液であれば本発明に係る化成皮膜処理の効果を発揮しうる。
【0028】
本発明の実施形態に係る化成皮膜処理により得られる化成皮膜は、膜厚50nm以上、より好ましくは100〜1000nmの膜厚を有し、これにより得られる皮膜は無彩色系の化成皮膜である。なお、本発明、本明細書等において「無彩色系化成皮膜」とは、マンセル表色系で目視にて通常彩度4以下、より好ましくは彩度2以下であるが、同じ彩度でも明度が上がると無彩色に見えるため、明度7を越える場合は彩度6以下、より好ましくは彩度4以下の被膜を意味する。
【0029】
また、本発明の実施の形態に係る皮膜処理によって得られる化成皮膜は、皮膜表面において0.0010g/m2以上、好ましくは0.0012〜0.010g/m2、更に好ましくは0.0015〜0.0050g/m2の希土類元素を含む。なお、本発明において、希土類元素の含有量は皮膜表面をグロー放電発光分析(GDS)により測定した場合の結果を表す。
【実施例】
【0030】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は、本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。なお、以下において化成皮膜処理は特に記載のない限り全て処理液の温度30℃、pH2.4、60秒浸漬とする。
【0031】
(比較例1)
塩化クロム六水和物を25g/L、硝酸コバルトを1.5g/L、硝酸ナトリウムを50g/L、マロン酸を15.6g/L含む処理液に、表面に亜鉛めっき(膜厚約15μm)が施された鉄部材を浸漬させ、リンス及び乾燥後の部材を試験片(皮膜の膜厚150nm)とした。
(比較例2)
アルミニウム合金(A1050)板(50×100×1mm)に適切な前処理を施した後に、硝酸クロム27g/L、75%リン酸30g/L、67.5%硝酸25g/Lを含む水溶液を水酸化ナトリウムでpH1.8に調整した処理液に90秒間浸漬した。皮膜形成後水洗し、乾燥して試験片(皮膜の膜厚120nm)を作製した。
【0032】
(実施例1〜4)
比較例1で用いた処理液に対して更に硝酸セリウムをセリウム濃度に換算して0.4g/L(実施例1)、3g/L(実施例2)、10g/L(実施例3)、30g/L(実施例4)を用いた以外は、比較例1と同様の条件において化成皮膜処理、リンス及び乾燥を行い、試験片(皮膜の膜厚100〜200nm)を得た。
【0033】
(実施例5〜8)
実施例2の処理液に対して更に、モリブデンを2g/L(実施例5)、タングステンを2g/L(実施例6)、チタンを0.5g/L(実施例7)、バナジウムを1.5g/L(実施例8)をそれぞれ含む処理液を用いて、表面に亜鉛めっきが施された鉄部材の化成皮膜処理を行い、リンス及び乾燥後、試験片(皮膜の膜厚100〜200nm)を得た。
【0034】
(実施例9〜10)
表面に亜鉛−鉄合金めっき(膜厚約15μm)が施された部材に対して、比較例1の処理液に硝酸セリウムをセリウム濃度に換算して1.0g/L(実施例9)、5g/L(実施例10)を更に添加した処理液を用いて化成皮膜処理を行って、リンス及び乾燥後、試験片(皮膜の膜厚100〜150nm)を得た。
【0035】
(実施例11〜15)
硝酸クロム六水和物を25g/L、硝酸コバルトを1.5g/L、硝酸ナトリウムを30g/L、コロイダルシリカ(日産化学(株)製スノーテックス)50g/L含む処理液に硝酸セリウムをセリウム濃度に換算して0.8g/L(実施例11)、2g/L(実施例12)、4g/L(実施例13)、8g/L(実施例14)加えた処理液を用いて、表面に亜鉛めっきが施された鉄部材の化成皮膜処理を行い、リンス及び乾燥後、試験片(皮膜の膜厚100〜200nm)を得た。また、実施例12の処理液に対して更にバナジウムを2g/L(実施例15)含む溶液を用いて表面に亜鉛めっきが施された鉄部材の化成皮膜処理を行い、リンス及び乾燥後、試験片(皮膜の膜厚120nm)を得た。
【0036】
(実施例16及び17)
塩化クロム六水和物を10g/L、硝酸ナトリウムを15g/L、燐酸10g/L含む液にセリウムを1.5g/L含む処理液を用いて、表面に亜鉛−鉄合金めっき(膜厚約15μm)が施された部材の化成皮膜処理を行った。その後、実施例16では、コロイダルシリカ(日産化学(株)製スノーテックス)20g/Lを含む溶液に25℃、15秒更に浸漬させた。同様に、実施例17では、アクリル系樹脂((株)日本触媒製アクリセット)30g/Lを含む溶液に20℃、20秒更に浸漬させた。浸漬後の部材をリンス及び乾燥後、試験片(皮膜の膜厚120〜150nm)を得た。
【0037】
(実施例18〜20)
塩化クロム六水和物を50g/L、硝酸コバルトを3g/L、硝酸ナトリウムを100g/L、マロン酸を31.2g/L含む処理液に、pH3.4、処理液温度60℃、処理時間60秒の条件で、亜鉛ニッケル合金めっき(ハイNiジンク、日本表面化学(株)製)の、希土類元素を含まない3価クロム化成皮膜処理を行った(実施例18〜20)。その後更に、クロム5g/L、リン酸20g/L、クエン酸30g/L、硝酸セリウムをセリウム濃度に換算して10g/Lの溶液に45℃30秒浸漬させた(実施例18)。実施例18にさらにPVAを1.0g/L添加した溶液に45℃30秒浸漬させた(実施例19)。上記希土類元素を含まない3価クロム化成皮膜処理を行った後に、アクリル系樹脂((株)日本触媒製アクリセット)40g/Lとコロイダルシリカ(日産化学(株)製スノーテックス)15g/Lとセリウムを1.5g/L含む溶液(実施例20)に25℃15秒浸漬してトップコート処理を行って、試験片(皮膜の膜厚100〜150nm)を得た(実施例20)。
【0038】
(実施例21)
比較例2の水溶液にセリウムを2g/L添加して、比較例2と同様の試験を行い、試験片(皮膜の膜厚100nm)を得た。
【0039】
(実施例22及び比較例3)
実施例2、比較例1を処理時間半分にして行い、それぞれ実施例22、比較例3とした。得られた試験片は膜厚50〜60nmであった。
【0040】
(実施例23〜26)
実施例2で硝酸セリウムを希土類元素として同量の硝酸スカンジウム、硝酸イットリウム、硝酸ネオジム、硝酸サマリウムに置き換えて同様の実験を行い試験片(皮膜の膜厚100〜200nm)を得た。
【0041】
(評価結果)
比較例1では皮膜表面が鮮やかな緑色を呈しており、無彩色系皮膜は得られなかった。また、比較例2では6価クロメートのような鮮やかな色彩の皮膜が得られ、無彩色系皮膜より明らかに彩度が強かった。比較例3では青色の皮膜が得られたが、無彩色系皮膜と比べて彩度が明らかに強かった。一方、実施例1は、やや比較例の色彩が残っていたが、従来のものとは見分けが付く程度に緑色が無色化されており、本発明の実施形態に係る無彩色系化成皮膜といえるものであった。実施例2〜21、23〜26の試験片のいずれも明らかに比較例や従来の六価クロムを用いた有色クロメートとは異なる無彩色系化成皮膜が得られた。実施例22も比較例3と比べて青色が薄い無彩色系化成皮膜が得られた。
【0042】
皮膜中に6価クロムを含まないことを確認するため、EN15205準拠のジフェニルカルバジド発色法による6価クロム溶出量試験を行ったところ、実施例1〜26の何れの試験片も6価クロムフリー皮膜であった。
【0043】
皮膜中の希土類元素の存在を確認するため実施例1〜4に対して、グロー放電発光分光分析装置(GDS)により皮膜表面の希土類元素の含有量を測定した。GDS分析は、測定範囲4mmψ、ノーマルモードでアルゴンスパッタリングした。実施例1では0.0013g/m2、実施例2では0.0021g/m2、実施例3では0.0030g/m2、実施例4では0.0041g/m2であり、何れの試験片も皮膜表面に0.0010g/m2以上のセリウムを含んでいた。
【0044】
耐食性を確認するため、実施例2、3、8、12、15、17、20の試験片をJIS Z−2371に従い120時間の中性塩水噴霧試験を行った。何れの試験片も白錆の発生が認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面を有する部材上に形成される化成皮膜であって、
3価クロムと、0.0010g/m2以上の希土類元素とを含み、50〜1000nmの厚さを有し、6価クロムを含まないことを特徴とする無彩色系化成皮膜。
【請求項2】
前記希土類元素が、Sc、Y、Ce、Nd、Smよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1記載の無彩色系化成皮膜。
【請求項3】
Mo、W、Ti、Zr、Mn、Tc、Fe、Ru、Co、アルカリ土類金属、Ni、Pd、Pt、V、Nb、Ta、Cu、Ag、Auよりなる群から選択される1種以上の金属を更に含有する請求項1又は2に記載の無彩色系化成皮膜。
【請求項4】
3価クロムと、0.01g/L以上の希土類元素と、無機酸又は有機酸と、を含み、6価クロムを含まないことを特徴とする無彩色系化成皮膜処理液。
【請求項5】
前記希土類元素が、Sc、Y、Ce、Nd、Smよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項4記載の無彩色系化成皮膜処理液。
【請求項6】
Mo、W、Ti、Zr、Mn、Tc、Fe、Ru、Co、アルカリ土類金属、Ni、Pd、Pt、V、Nb、Ta、Cu、Ag、Auよりなる群から選択される1種以上の金属を更に含有する請求項4又は5に記載の無彩色系化成皮膜処理液。
【請求項7】
前記無機酸又は有機酸が、塩酸、フッ素、硫酸、硝酸、ホウ酸、過酸化水素、リン酸又はカルボン酸のいずれか1種を含む請求項4〜6のいずれか1項に記載の無彩色系化成皮膜処理液。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の化成皮膜処理液に、金属表面を有する部材を接触させた後、乾燥させることにより、前記部材上に無彩色系化成皮膜を形成させることを特徴とする化成皮膜形成方法。
【請求項9】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の化成皮膜処理液に前記部材を接触させる前に、前記部材に対して希土類元素を含まない3価クロム化成皮膜処理を行うことを更に含む請求項8に記載の化成皮膜形成方法。
【請求項10】
前記乾燥の前または後に、ケイ素化合物、樹脂、無機コロイド、シランカップリング剤、有機カルボン酸、スルホン酸、チアゾール、トリアゾール、アミン化合物、苛性アルカリ、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、蛍光染料、アンモニア、リンの酸素酸、PVA、非イオン性高分子、ポリオール、セルロース、ポリアクリル酸、酸アミド化合物、脂肪酸エステル、チオール化合物、タンニン酸及びメルカプト群よりなる群から選択される少なくとも1種を含む溶液に前記部材を接触させる工程を更に含む請求項8又は9に記載の化成皮膜形成方法。
【請求項11】
金属表面を有する部材に対して希土類元素を含まない3価クロム化成皮膜処理を行う工程と、
ケイ素化合物、樹脂、無機コロイド、シランカップリング剤、有機カルボン酸、スルホン酸、チアゾール、トリアゾール、アミン化合物、苛性アルカリ、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、アンモニア、リンの酸素酸、PVA、非イオン性高分子、ポリオール、セルロース、ポリアクリル酸、酸アミド化合物、脂肪酸エステル、チオール化合物、タンニン酸及びメルカプト群よりなる群から選択される少なくとも1種と0.01g/L以上の希土類元素とを含む溶液に前記部材を接触させる工程とを含む化成皮膜形成方法。
【請求項12】
請求項11に記載の化成皮膜形成方法に用いられる希土類元素含有溶液。
【請求項13】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の化成皮膜を備える部材。
【請求項14】
請求項8〜11のいずれか1項に記載の方法で得られる化成皮膜を備える部材。

【公開番号】特開2012−122121(P2012−122121A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276058(P2010−276058)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000232656)日本表面化学株式会社 (29)
【Fターム(参考)】