説明

化粧壁面

【課題】複数の板状壁材によって構成された既存壁面に対し、化粧被膜を設けて美観性を高めるとともに、その被膜に十分な密着性を付与し、被膜の剥れ、膨れ等の不具合発生を抑制する。
【解決手段】本発明の化粧壁面は、経年劣化した既存壁面に対し、化粧被膜が設けられた化粧壁面であって、当該既存壁面は、凹凸模様及び/または2種以上の着色領域を有する複数の板状壁材によって構成されたものであり、当該既存壁面の表面には、アクリルポリマーマトリクス中にアミノシランが混在する化粧被膜(A)が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物における化粧壁面に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の壁面には、各種の板状壁材が用いられている。このような板状壁材としては、その表面に凹凸模様を設けて立体感を付与したもの、あるいはその表面を2色以上に塗り分けて色彩を付与したもの等が多く使用されている(例えば、特開平7−275789号公報、特開2001−227130号公報等)。
【0003】
このような板状壁材で構成された壁面は、長期間屋外に曝される。そのため、板状壁材の表面では、太陽光、降雨、粉塵等の影響によって劣化が進行し、板状壁材の当初の美観性は経年により低下してしまう。
【0004】
但し、板状壁材が凹凸模様を有する場合、凹凸模様を構成する凹部乃至凸部において、それぞれ太陽光の当り方、降雨の流れ具体等が異なるため、劣化の状態に差異が生じやすくなる。また、板状壁材が2色以上に着色されていると、それぞれの着色領域において、劣化の状態に差異が生じる場合がある。このような既存壁面に対し、改装のために化粧被膜を設けても、部分的に密着性が不十分となり、被膜の剥れ、膨れ等が生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−275789号公報
【特許文献2】特開2001−227130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述のような問題点に鑑みなされたものであり、凹凸模様及び/または2種以上の着色領域を有する複数の板状壁材によって構成された既存壁面に対し、化粧被膜を設けて美観性を高めるとともに、その被膜に十分な密着性を付与し、被膜の剥れ、膨れ等の不具合発生を抑制することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、上述のような既存壁面に対し、特定の成分が混在した化粧被膜を設けることに想到し、本発明を完成させるに到った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.経年劣化した既存壁面に対し、化粧被膜が設けられた化粧壁面であって、
当該既存壁面は、凹凸模様及び/または2種以上の着色領域を有する複数の板状壁材によって構成されたものであり、
当該既存壁面の表面には、アクリルポリマーマトリクス中にアミノシランが混在する化粧被膜(A)が設けられたことを特徴とする化粧壁面。
2.上記既存壁面において、上記板状壁材どうしの連結部には、シーリング材が充填されている1.記載の化粧壁面。
3.上記化粧被膜(A)は、アクリルポリマーマトリクス中にアミノシラン及びジメチルシロキサンが混在するものである1.または2.記載の化粧壁面。
4.上記化粧被膜(A)上の一部の領域に対し、上記化粧被膜(A)とは異色の化粧被膜(B)が設けられた1.〜3.のいずれかに記載の化粧壁面。
【発明の効果】
【0009】
上記1.に係る発明では、凹凸模様及び/または2種以上の着色領域を有する複数の板状壁材によって構成された既存壁面に対し、上記特定の化粧被膜(A)を設ける。これにより、壁面の美観性が高まる。さらにその化粧被膜(A)は、各領域において十分な密着性を発揮するため、被膜の剥れ、膨れ等の不具合発生が抑制される。
【0010】
上記2.に係る発明では、既存壁面として、上記板状壁材どうしの連結部にシーリング材が充填されているものを対象とする。板状壁材どうしの連結部における防水性等を高めるために、連結部にシーリング材が設けられている場合、板状壁材と連結部の表面状態は大きく異なるものとなる。上記2.に係る発明では、このような既存壁面に、上記化粧被膜(A)を設けることにより、美観性が高まり、さらに各部位において十分な密着性が確保され、被膜の剥れ、膨れ等の不具合発生が抑制される。
【0011】
上記3.に係る発明では、上記化粧被膜(A)として、アクリルポリマーマトリクス中にアミノシラン及びジメチルシロキサンが混在するものを使用する。上記3.に係る発明では、このような化粧被膜(A)を採用することで、化粧被膜におけるひび割れ発生が十分に抑制され、各部位への密着性も一層高められる。特に、板状壁材どうしの連結部にシーリング材が充填されている場合は、板状壁材とシーリング材の双方に対する密着性が十分に確保され、さらにシーリング材の変位に追従しつつ、その変位を緩和する性能も付与される。
【0012】
上記4.に係る発明では、上記化粧被膜(A)上の一部の領域に対し、上記化粧被膜(A)とは異色の化粧被膜(B)を設ける。上記4.に係る発明では、このような被膜の積層によって、2色以上の着色領域を有する所望の外観仕上げが得られ、既存壁面の意匠性を再現することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明化粧壁面の一例を示す断面図である。
【図2】本発明化粧壁面の別の一例を示す断面図である。
【図3】本発明化粧壁面の別の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明化粧壁面の一例を示す断面図である。
【0015】
本発明の既存壁面1は、複数の板状壁材2で構成される。板状壁材2としては、例えば、セメントボード、押出成形板、スレート板、PC板、ALC板、繊維強化セメント板、金属系サイディングボード、窯業系サイディングボード、セラミック板、珪酸カルシウム板、石膏ボード、プラスチックボード、硬質木片セメント板、塩ビ押出サイディングボード、合板等が挙げられる。
【0016】
本発明では、板状壁材2として、凹凸模様を有するものを対象にすることができる。
板状壁材2における凹凸模様としては、種々のものが挙げられ、例えばタイル調模様、レンガ調模様、幾何学的模様、縞模様、格子模様、水玉模様等の他、動植物等をデザイン化した図形模様等が挙げられる。具体的に、凹凸模様を正面から見たときの凸部の形状としては、例えば正方形、長方形、円形、楕円形、三角形、菱形、多角形、不定形等の形状が挙げられる。また、凹凸模様における凸部の断面形状としては、例えば台形、正方形、長方形、半円形、波形、階段形、三角形、山形等が挙げられる。凹凸模様における凹部は、通常は平坦であり、目地を形成するものが好ましい。凹部と凸部との高低差は、各々の凸部で一定であっても相違していてもよいが、好ましくは20mm以下、より好ましくは1〜15mm程度である。板状壁材2の表面には、通常、既存被膜3が設けられている。
【0017】
本発明では、板状壁材2として、2種以上の着色領域を有するものを対象とすることもできる。このような板状壁材2は、その表面に、2色以上の異色の既存被膜3を有するものである。各着色領域の色は特に限定されるものではないが、本発明は、明度、彩度、色相等が大きく異なる着色領域が混在する場合に、特に有利な効果が得られる。このような板状壁材2としては、具体的には、色差(△E)が5以上(さらには10以上)となる着色領域が混在するものが挙げられる。
図1では、それぞれ異なる色の着色領域31と着色領域32が混在している。本発明では、板状壁材2が、凹凸模様を有し、かつ2色以上の着色領域を有する場合に、有利な効果が得られやすい。凹部と凸部がそれぞれ異なる色で着色された板状壁材2を対象とする場合は、特に有利である。
【0018】
本発明は、上述のような板状壁材2によって構成された既存壁面1が経年劣化した際の改装仕様として適用できる。経年劣化の程度は、特に限定されるものではないが、壁面として概ね5年以上(さらには8年以上)使用されたものは、本発明の対象とすることができる。
【0019】
本発明では、既存壁面1として、板状壁材2どうしの連結部にシーリング材または乾式目地材が充填されたものを対象とすることができる。この場合、複数の板状壁材2は、連結部を介して併設され、板状壁材2どうしの間には、連結部が設けられる。連結部の幅は、好ましくは3〜20mm(より好ましくは5〜15mm)程度である。この連結部に、シーリング材または乾式目地材が充填される。
本発明は、既存壁面1が、板状壁材2どうしの連結部にシーリング材4が充填されたもの(図2)である場合に、有利な効果が得られる。
シーリング材4は、板状壁材2と同様に経年劣化したものでもよいし、化粧被膜(A)の形成前に、新たに打設されたものであってもよい。本発明では、シーリング材4が新たに打設された場合に、特に優れた効果が発揮できる。
【0020】
シーリング材4としては一般的なものが使用可能であり、例えば、シリコーン系シーリング材、変性シリコーン系シーリング材、ポリサルファイド系シーリング材、変性ポリサルファイド系シーリング材、アクリルウレタン系シーリング材、ポリウレタン系シーリング材、SBR系シーリング材、ブチルゴム系シーリング材等が挙げられる。
シーリング材4の充填方法としては、特に限定されず、例えば、ガンやへら等による公知の方法を採用することができる。
【0021】
本発明では、特に、シーリング材4として変性シリコーン系シーリング材を使用した場合に、優れた効果を得ることができる。
変性シリコーン系シーリング材は、変性シリコーン樹脂を含むシーリング材である。この変性シリコーン樹脂は、有機樹脂を主鎖とし、その末端または側鎖に少なくとも一つの反応性シリル基を有するものである。変性シリコーン樹脂の主鎖を構成する有機樹脂としては、例えば、ポリエーテル重合体、ポリエステル重合体、エーテル・エステルブロック共重合体、エチレン性不飽和化合物重合体、ジエン化合物重合体等が挙げられる。反応性シリル基としては、例えば、アルコキシシリル基、シラノール基等が挙げられる。
【0022】
変性シリコーン樹脂におけるポリエーテル重合体は、アルキレンオキシドの繰返し単位を有するものである。アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等が挙げられる。
ポリエステル重合体は、カルボキシル基含有化合物のエステルを繰返し単位として有するものである。カルボキシル基含有化合物としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、フタル酸、クエン酸、ピルビン酸、乳酸等が挙げられる。
エーテル・エステルブロック共重合体は、上記ポリエーテル重合体の繰返し単位と、上記ポリエステル重合体の繰返し単位を併有するものである。
エチレン性不飽和化合物重合体は、エチレン性不飽和化合物を単量体成分とするものである。エチレン性不飽和化合物としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブテン、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。エチレン性不飽和化合物重合体の具体例としては、例えば、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリイソブチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等が挙げられる。
ジエン化合物重合体は、ジエン化合物を単量体成分とするものである。ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、クロロプレン、イソプレン等が挙げられる。ジエン化合物重合体の具体例としては、例えば、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、エチレン−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、スチレン−イソプレン共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体、ポリクロロプレン、スチレン−クロロプレン共重合体、アクリロニトリル−クロロプレン共重合体等が挙げられる。
【0023】
また、本発明では、シーリング材4としてノンブリードタイプのものを使用した場合においても、優れた効果を得ることができる。ここに言うノンブリードタイプのシーリング材は、シーリング材中の可塑剤含有量が5重量%以下であるもの(好ましくは可塑剤を含まないもの)である。可塑剤としては、例えば、ジブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジ(2−エチルヘキシル)フタレート等のフタル酸エステル類、アジピン酸ジオクチル、セバシン酸ジオクチル等の脂肪族二塩基酸エステル類、トリクレジルホスフェート、トリブチルホスフェート等のリン酸エステル類、塩素化パラフィン等のハロゲン化脂肪族化合物等が挙げられる。これら可塑剤の分子量は、通常500未満である。
ノンブリードタイプのシーリング材としては、例えば、上記条件を満たすアクリルウレタン系シーリング材、ポリウレタン系シーリング材、変成シリコーン系シーリング材等が挙げられる。本発明では、ノンブリードタイプの変成シリコーン系シーリング材を使用した場合において、特に優れた効果が得られる。
【0024】
シーリング材4の充填前には、予めバックアップ材充填やプライマー塗付等の処理を行っておいてもよい。バックアップ材としては、例えば、発泡ポリエチレン系バックアップ材等を使用することができる。プライマーとしては、例えば、合成ゴム系プライマー、アクリル系プライマー、ウレタン系プライマー、エポキシ系プライマー、シリコーンレジン系プライマー、シラン系プライマー等を使用することができる
【0025】
本発明では、上記既存壁面1の表面に化粧被膜(A)が設けられる。この化粧被膜(A)は、アクリルポリマーマトリクス中にアミノシランが混在するものである。このような成分を含む化粧被膜(A)は、各々の凹凸領域や着色領域に対する密着性に優れる。既存壁面1がシーリング材4を有する場合は、シーリング材4との密着性にも優れる。本発明では、このような化粧被膜(A)の作用によって、化粧被膜の剥れ、膨れ等を十分に抑制することが可能となる。
【0026】
アクリルポリマーマトリクスは、アクリルポリマーによって形成される樹脂母体である。このアクリルポリマーは、少なくとも1種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むモノマー混合物の重合体である。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0027】
モノマー混合物における(メタ)アクリル酸アルキルエステルの構成比率は、好ましくは30重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上である。上限は特に限定されないが、好ましくは99.8重量%以下、より好ましくは99.5重量%以下、さらに好ましくは99重量%以下である。
【0028】
アクリルポリマーにおいては、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能なモノマーを共重合することができる。このようなモノマーとしては、例えば、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、エポキシ基、カルボニル基、水酸基等の官能基を有するモノマーの他、酢酸ビニル、塩化ビニル、スチレン等が挙げられる。
【0029】
アクリルポリマーのガラス転移温度は、好ましくは−20〜80℃、より好ましくは−10〜60℃である。なお、ガラス転移温度は、Foxの計算式によって求められる値である。
【0030】
アミノシランは、アミノ基及び反応性シリル基を有する化合物である。反応性シリル基としては、例えば、アルコキシシリル基、シラノール基等が挙げられる。
アミノシランとしては、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、γ−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(6−アミノヘキシル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(6−アミノヘキシル)アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノイソブチルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノイソブチルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルジイソプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルジイソプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルビス(トリメチルシロキシ)シラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−ベンジル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(m−アミノフェノキシ)プロピルトリメトキシシラン、3−(m−アミノフェノキシ)プロピルトリエトキシシラン、m−アミノフェニルトリメトキシシラン、m−アミノフェニルトリエトキシシラン、p−アミノフェニルトリメトキシシラン、p−アミノフェニルトリエトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、アミノフェニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリス(メトキシエトキシエトキシ)シラン、γ−アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、2−アミノエチルアミノメチルベンジロキシジメチルシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、N−ビニルベンジル−γ−アミノロピルトリエトキシシラン等から選ばれる1種以上が挙げられる。この中でも、1分子中にアミノ基を2つ以上(好ましくは2つ)有するアミノシランが好適である。
アミノシランの重量比率は、固形分換算で、アクリルポリマーマトリクス100重量部に対し、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは0.5〜10重量部である。
【0031】
本発明では、化粧被膜(A)として、アクリルポリマーマトリクス中にアミノシラン及びジメチルシロキサンが混在するもの(以下「化粧被膜(A1)」という)を使用することができる。本発明では、このような成分を含む化粧被膜(A1)を用いることにより、既存壁面1の各部位、とりわけシーリング材4との密着性を高めることが可能となる。さらに、シーリング材4の変位に追従しつつ、その変位を緩和する性能を付与することも可能となる。
このような作用により、化粧被膜(A1)では、被膜の剥れ、ひび割れ等を十分に抑制することができる。とりわけ、シーリング材4として変性シリコーン系シーリング材を使用した場合に、優れた効果を得ることができる。このような効果は、ジメチルシロキサンとアミノシランの相乗的作用によって奏されるものと推察される。
アクリルポリマー、アミノシランとしては、上述と同様のものが使用できる。
【0032】
化粧被膜(A1)におけるジメチルシロキサンは、ジメチルジアルコキシシラン、ジメチルシロキサンオリゴマー等を原料として合成されたものである。ジメチルジアルコキシシランとしては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等が挙げられる。ジメチルシロキサンオリゴマーとしては、例えば、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、テトラデカメチルシクロヘプタシロキサン等が挙げられる。ジメチルシロキサンの平均分子量は、好ましくは10000以上、より好ましくは50000以上である。
ジメチルシロキサンの重量比率は、固形分換算で、アクリルポリマーマトリクス100重量部に対し、好ましくは1〜200重量部、より好ましくは5〜100重量部である。
【0033】
化粧被膜(A)は、上記成分を含む被覆材を塗付・乾燥させることにより形成できる。この被覆材は、本発明の効果が著しく損われない範囲内であれば、上記成分以外の各種成分を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、着色材、増粘剤、造膜助剤、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、吸着剤、繊維、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、触媒等が挙げられる。
【0034】
本発明では、上記被覆材に着色材が含まれる場合、化粧被膜(A)を所望の色に着色することができ、化粧被膜(A)によって下地を隠蔽することもできる。着色材としては、公知の着色顔料等が使用できる。着色顔料としては、例えば酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、黒色酸化鉄、コバルトブラック、銅マンガン鉄ブラック、べんがら、モリブデートオレンジ、パーマネントレッド、パーマネントカーミン、アントラキノンレッド、ペリレンレッド、キナクリドンレッド、黄色酸化鉄、チタンイエロー、ファーストイエロー、ベンツイミダゾロンイエロー、クロムグリーン、コバルトグリーン、フタロシアニングリーン、群青、紺青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、キナクリドンバイオレット、ジオキサジンバイオレット等が挙げられる。
着色材の重量比率は、固形分換算で、アクリルポリマーマトリクス100重量部に対し、好ましくは1〜100重量部、より好ましくは2〜80重量部である。
【0035】
既存壁面1に上記被覆材を塗付する際には、例えば、刷毛、ローラー、スプレー等の公知の塗装器具を用いることができる。既存壁面1において、新たにシーリング材4を打設した場合は、シーリング材4の打設後、概ね2〜10日後に上記被覆材を塗付すればよい。
本発明では、少なくとも、既存壁面1における凹部と凸部を跨ぐか、あるいは2色以上の着色領域を跨いで、上記被覆材を塗付することにより、化粧被膜(A)を形成することができる。上記被覆材は、板状壁材2の全面に塗付することが望ましく、既存壁面1の全面に塗付することがより望ましい。被覆材の塗付け量は、固形分換算で、好ましくは10〜300g/m程度である。
【0036】
本発明では、上記化粧被膜(A)上の一部の領域に対し、上記化粧被膜(A)とは異色の化粧被膜(B)を設けることができる。このような化粧被膜の積層によって、2色以上の着色領域を有する所望の外観仕上げを得ることができる。また、既存壁面1の意匠性を再現することも可能となる。本発明では、上記化粧被膜(A)の作用により、化粧被膜(B)を化粧被膜(A)に強く密着させることもできる。
【0037】
化粧被膜(B)を形成する被覆材としては、例えば、JIS K5663「合成樹脂エマルションペイント」、JIS K5660「つや有り合成樹脂エマルションペイント」、JIS K5654「アクリル樹脂エナメル」、JIS K5656「建築用ポリウレタン樹脂エナメル」、JIS K5657「鋼構造物用ポリウレタン樹脂エナメル」、JASS18 M−207「非水分散形アクリル樹脂エナメル」、JASS18 M−404「アクリルシリコン樹脂塗料」、JIS K5658「建築用ふっ素樹脂エナメル」、JIS K5659「鋼構造物用ふっ素樹脂エナメル」、JIS K5667「多彩模様塗料」、JIS A6909「建築用仕上塗材」(例えば、薄付け仕上塗材、厚付け仕上塗材、複層仕上塗材主材等)、その他石材調仕上塗材、砂岩調仕上塗材等が挙げられる。また、本発明では、化粧被膜(B)を形成する被覆材として、化粧被膜(A)と同様の被覆材を使用することもできる。
【0038】
化粧被膜(B)は、上記被覆材を塗付・乾燥させることにより形成できる。塗装器具としては、例えば、刷毛、ローラー、スプレー、鏝等の公知のものが使用できる。
化粧被膜(B)を形成する被覆材は、化粧被膜(A)上の一部の領域に塗付すればよい。例えば、既存壁面1が凹凸模様を有する場合は、凸部、凹部のいずれか一方に被覆材を塗付することにより、化粧被膜(B)を形成することができる。化粧被膜(B)の色は、仕上り外観等を考慮して適宜設定することができる。また、塗付け量は、使用する材料に応じて適宜設定すればよい。
図3では、凹凸模様の凸部のみに化粧被膜(B)が形成されている。図3の態様において、化粧被膜(A)の色を着色領域31の色に合わせ、化粧被膜(B)の色を着色領域32の色に合わせると、既存壁面の意匠性を再現することができる。
化粧被膜(B)を形成する場合、被覆材は1種のみ使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。2種以上の被覆材を用いる場合、化粧被膜(B)は、2種以上の被覆材による被膜が積層及び/または併設された態様とすることができる。
【0039】
本発明では、化粧被膜の最表面に親水性透明被膜を設けることができる。このような親水性透明被膜を設けることにより、化粧被膜表面の汚染を抑制し、美観性をいっそう高めることができる。親水性透明被膜は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基等の親水性基を有する樹脂、ポリアルキレンオキサイド、ポリオキサゾリン、ポリアミド等の親水性セグメントを有する樹脂等を含む被覆材、あるいは、各種合成樹脂に親水性付与成分を配合した被覆材等によって形成することができる。
親水性付与成分としては、例えば、無機酸化物ゾル、アルコキシシラン化合物等が挙げられる。このうち、無機酸化物ゾルとしては、例えば、酸化アルミニウムゾル、酸化ケイ素ゾル、酸化ジルコニウムゾル、酸化アンチモンゾル等が挙げられる。アルコキシシラン化合物としては、テトラアルコキシシラン、テトラアルコキシシランの縮合物、及びこれらの変性物等が使用できる。
【0040】
親水性透明被膜は、上記被覆材を公知の方法で塗付して形成できる。例えば、スプレー、ローラー、刷毛等の塗装器具を用いることができる。親水性透明被膜を形成する際の被覆材の塗付け量は、使用する材料に応じて適宜設定すればよい。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0042】
<試験I>
(試験体作製)
板状壁材として、促進耐候性試験機に曝露された窯業系サイディングボートを用意した。この窯業系サイディングボードは、表面にタイル調の凹凸模様を有し、凹部には黒色のアクリル系被膜、凸部には淡褐色のアクリル系被膜を有するものであり、凹部よりも凸部の劣化が進行した状態であった。
この板状壁材2枚を併設し、ボード間の連結部(幅10mm)に変性シリコーン系シーリング材(樹脂成分:アルコキシシリル基含有ポリエーテル重合体、可塑剤含有量:1重量%未満)を充填したものを塗装対象の基材とした。
このようにして得られた基材の全面に対し、被覆材Aを塗付け量80g/m(固形分)でスプレー塗装し、7日間養生した。なお、塗装、養生はすべて標準状態(気温23℃、相対湿度50%)下で行った。
【0043】
被覆材Aとしては、それぞれ以下に示すものを使用した。
・被覆材A1:アクリルポリマー(メチルメタクリレート-n−ブチルアクリレート-2−エチルヘキシルアクリレート共重合樹脂、ガラス転移温度5℃):アミノシラン(N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン)=98:2(固形分重量比)、黒色。
・被覆材A2:アクリルポリマー(メチルメタクリレート-n−ブチルアクリレート-2−エチルヘキシルアクリレート共重合樹脂、ガラス転移温度5℃):アミノシラン(γ−アミノプロピルトリメトキシシラン)=98:2(固形分重量比)、黒色。
・被覆材A3:アクリルポリマー(メチルメタクリレート-n−ブチルアクリレート-2−エチルヘキシルアクリレート共重合樹脂、ガラス転移温度5℃):アミノシラン(N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン):ジメチルシロキサン(ジメチルシロキサンオリゴマーの合成物)=78:20:2(固形分重量比)、黒色。
・被覆材A4:アクリルポリマー(メチルメタクリレート-n−ブチルアクリレート-2−エチルヘキシルアクリレート共重合樹脂、ガラス転移温度5℃):ジメチルシロキサン(ジメチルシロキサンオリゴマーの合成物)=80:20(固形分重量比)、黒色。
・被覆材A5:アクリルポリマー(メチルメタクリレート-n−ブチルアクリレート-2−エチルヘキシルアクリレート共重合樹脂、ガラス転移温度5℃):シラン化合物(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)=98:2(固形分重量比)、黒色。
・被覆材A6:アクリルポリマー(メチルメタクリレート-n−ブチルアクリレート-2−エチルヘキシルアクリレート共重合樹脂、ガラス転移温度5℃):シラン化合物(ポリエーテル鎖含有トリメトキシシラン)=98:2(固形分重量比)、黒色。
・被覆材A7:アクリルポリマー(メチルメタクリレート-n−ブチルアクリレート-2−エチルヘキシルアクリレート共重合樹脂、ガラス転移温度5℃):シラン化合物(ビニルトリメトキシシラン)=98:2(固形分重量比)、黒色。
【0044】
(試験方法)
・密着性試験
上記方法で作製した試験体(300×150mm)を50℃の温水に72時間浸漬した後、各部位(連結部、凹部、凸部)の被膜にカッターナイフでクロスカットを入れ、このクロスカット部分にテープを貼り付けて剥ぐことにより密着性を評価した。評価は、異常が認められなかったものを「A」、剥れが認められたものを「C」とする3段階(A>B>C)で行った。
【0045】
・追従性試験
上記方法で作製した試験体(300×150mm)について、標準状態で引張り試験機にて水平方向に30%変位させたときの表面状態を観察し、追従性を評価した。評価は、異常が認められなかったものを「A」、割れ、剥れ等の異常が認められたものを「C」とする3段階(A>B>C)で行った。
【0046】
(試験結果)
上記試験で使用した被覆材と、その試験結果を表1に示す。試験例1〜3では、概ね良好な結果が得られた。
【0047】
【表1】

【0048】
<試験II>
(試験体作製)
塗装対象の基材として、前記<試験I>と同様のものを用意した。
この基材の全面に対し、被覆材Aを塗付け量80g/m(固形分)でスプレー塗装し、2時間養生した。次に、凸部のみに対し、被覆材Bを塗付け量80g/m(固形分)でローラー塗装し、7日間養生した。なお、塗装、養生はすべて標準状態下で行った。
【0049】
被覆材Bとしては、以下に示すものを使用した。
・被覆材B1:アクリルポリマー(メチルメタクリレート-n−ブチルアクリレート-2−エチルヘキシルアクリレート共重合樹脂、ガラス転移温度5℃):ジメチルシロキサン(ジメチルシロキサンオリゴマーの合成物)=80:20(固形分重量比)、淡褐色。
【0050】
(試験方法、試験結果)
前記<試験I>と同様の方法で、密着性試験、追従性試験を行った。試験で使用した被覆材と、その試験結果を表2に示す。試験例8では、良好な結果が得られた。
【0051】
【表2】

【符号の説明】
【0052】
1:既存壁面
2:板状壁材
3:既存被膜
31、32:着色領域
4:シーリング材
A:化粧被膜(A)
B:化粧被膜(B)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経年劣化した既存壁面に対し、化粧被膜が設けられた化粧壁面であって、
当該既存壁面は、凹凸模様及び/または2種以上の着色領域を有する複数の板状壁材によって構成されたものであり、
当該既存壁面の表面には、アクリルポリマーマトリクス中にアミノシランが混在する化粧被膜(A)が設けられたことを特徴とする化粧壁面。
【請求項2】
上記既存壁面において、上記板状壁材どうしの連結部には、シーリング材が充填されている請求項1記載の化粧壁面。
【請求項3】
上記化粧被膜(A)は、アクリルポリマーマトリクス中にアミノシラン及びジメチルシロキサンが混在するものである請求項1または2記載の化粧壁面。
【請求項4】
上記化粧被膜(A)上の一部の領域に対し、上記化粧被膜(A)とは異色の化粧被膜(B)が設けられた請求項1〜3のいずれかに記載の化粧壁面。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate