説明

医療容器栓体用複合エラストマー組成物

【課題】 耐熱性、耐液漏れ性および針保持性が優れる成形体を与える組成物を提供する。
【解決手段】 スチレン単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックXを2個以上、およびブタジエン単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックYを1個以上有するブロック共重合体Zの水素添加物であり、重量平均分子量が16〜40万であり、スチレン単位の含有割合が20〜70重量%であるブロック重合体Wを100重量部、40℃における動粘度が50〜500cStである軟化剤Bを100〜300重量部、曲げ弾性率が1000〜3000MPaであるプロピレン重合体Cを1〜50重量部、および反応性基を有するイソブチレン重合体Qの架橋物Rを5〜80重量部含有する医療容器栓体用エラストマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸液バッグ等の医療容器が備える栓体の製造に使用されるエラストマー組成物に関するものである。本発明の組成物は、特定のブロック重合体、プロピレン重合体、軟化剤およびイソブチレン重合体を特定の割合で含有する。本発明の組成物を使用して得られる成形体は、医療容器栓体として優れた特性を有する。
【背景技術】
【0002】
本発明と類似のエラストマー組成物はいくつか知られている(特許文献1〜5)。また、特許文献1、4および5には、組成物を使用して得られる成形体は医療容器栓体の用途に使用できることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−105341号公報
【特許文献2】特開2004−161816号公報
【特許文献3】特開2004−204129号公報
【特許文献4】特開2008−031315号公報
【特許文献5】特開昭61−037242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献等に開示されている組成物を使用して得られる成形体は、医療容器が備える栓体に要求される性能である、耐熱性(加熱滅菌による変形がないこと)、耐液漏れ性(種々の針着脱条件において着脱部位から液の漏れ、にじみがないこと)および針保持性(荷重のかかった針が抜け落ちにくいこと)のすべてを十分に満足するものではなく、使用条件が制限されるものであった。
本発明は、上記耐熱性、耐液漏れ性および針保持性が優れる成形体を与える組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明の医療容器栓体用エラストマー組成物は、
下記ブロック重合体Wを100重量部、
40℃における動粘度が50〜500cStである軟化剤Bを100〜300重量部、
曲げ弾性率が1000〜3000MPaであるプロピレン重合体Cを1〜50重量部、および
反応性基を有するイソブチレン重合体Qの架橋物Rを5〜80重量部含有する組成物である。
ブロック重合体Wは、
スチレン単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックXを2個以上、および
ブタジエン単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックYを1個以上有する
ブロック共重合体Zの水素添加物であり、
重量平均分子量が16〜40万であり、スチレン単位の含有割合が20〜70重量%であるブロック重合体である。
【0006】
請求項2に記載の発明の医療容器栓体用エラストマー組成物は、
下記ブロック重合体Wを100重量部、
40℃における動粘度が50〜500cStである軟化剤Bを100〜300重量部、
曲げ弾性率が1000〜3000MPaであるプロピレン重合体Cを1〜50重量部、および
下記イソブチレンTPV組成物Dを10〜100重量部含有する組成物である。
ブロック重合体Wは、
スチレン単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックXを2個以上、および
ブタジエン単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックYを1個以上有する
ブロック共重合体Zの水素添加物であり、
重量平均分子量が16〜40万であり、スチレン単位の含有割合が20〜70重量%であるブロック重合体である。
イソブチレンTPV組成物Dは、
反応性基を有するイソブチレン重合体Q 55〜80重量%、
オレフィン重合体S 3〜20重量%、
軟化剤T 10〜40重量%、および
その他の成分U 0.01〜5重量%
からなる組成物が動的架橋された組成物である。
【0007】
請求項3に記載の発明の医療容器栓体用エラストマー組成物は、請求項1または2のいずれかに記載の組成物において、
ブロック重合体Wは、実質的に下記ブロック重合体Aからなることを特徴とする。
ブロック重合体A:
ブタジエン単位を主要構成単位として含有し該ブタジエン単位における1,2−結合の割合が10〜50%である重合体ブロックY1を1個有し、
重合体ブロックY1の両末端に各1個合計2個のスチレン単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックX1を有する
ブロック共重合体Z1の水素添加物であり、
重量平均分子量が16〜40万であり、スチレン単位の含有割合が20〜50重量%であるブロック重合体である。
【0008】
請求項4に記載の発明の医療容器栓体用エラストマー組成物は、請求項1または2のいずれかに記載の組成物において、
ブロック重合体Wは、
50〜95重量%の下記ブロック重合体Aおよび5〜50重量%の下記ブロック重合体Pからなることを特徴とする。
ブロック重合体A:
ブタジエン単位を主要構成単位として含有し該ブタジエン単位における1,2−結合の割合が10〜50%である重合体ブロックY1を1個有し、
重合体ブロックY1の両末端に各1個合計2個のスチレン単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックX1を有する
ブロック共重合体Z1の水素添加物であり、
重量平均分子量が16〜40万であり、スチレン単位の含有割合が20〜50重量%であるブロック重合体である。
ブロック重合体P:
ブタジエン−スチレン制御分布共重合体ブロックY2を1個有し、
共重合体ブロックY2の両末端に各1個合計2個のポリスチレンブロックX2を有する
ブロック共重合体Z2の水素添加物であり、
重量平均分子量が16〜40万であり、スチレン単位の含有割合が40〜70重量%であるブロック重合体であり、
ブタジエン−スチレン制御分布共重合体ブロックY2は、
ブタジエン単位を主要構成単位として含有する領域YB2を2個以上有し、
スチレン単位を主要構成単位として含有する領域YS2を1個以上有し、
両末端は領域YB2であるブタジエン−スチレン共重合体ブロックである。
【0009】
請求項5に記載の発明の医療容器栓体用エラストマー組成物は、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物において、プロピレン重合体Cはポリプロピレンであることを特徴とする。
請求項6に記載の発明の医療容器栓体用エラストマー組成物は、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物において、反応性基を有するイソブチレン重合体Qは、末端にアルケニル基を有するイソブチレン重合体であることを特徴とする。
請求項7に記載の発明の医療容器栓体用エラストマー組成物は、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物において、反応性基を有するイソブチレン重合体Qの架橋に使用される架橋剤は、ヒドロシリル基を有する化合物であることを特徴とする。
請求項8に記載の発明の医療容器栓体用エラストマー組成物は、請求項1〜7のいずれかに記載の組成物において、JIS K6253に準じて測定された測定時間1秒のA硬さが30〜50であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の組成物は、射出成形、押出成形、プレス成形など公知の方法で成形可能である。本発明の組成物を使用して得られた成形体は、医療容器栓体に要求される重要特性である耐熱性、耐液漏れ性および針保持性が優れたものであった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、数値範囲が「下限数値〜上限数値」で示される場合、下限数値以上上限数値以下であることを意味する。
分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(以下、GPCともいう。)により測定されたポリスチレン換算のものである。重量平均分子量のことをMwともいい、数平均分子量のことをMnともいう。
まず、本発明の組成物について、主要成分であるブロック重合体W、ブロック重合体A、ブロック重合体P、軟化剤B、プロピレン重合体C、イソブチレン重合体Q、イソブチレンTPV組成物Dなどの順に説明する。次いで、組成物の製造、成形体の製造、評価などについて説明する。
【0012】
○ブロック重合体W
ブロック重合体Wは、組成物から得られる成形体の耐熱性、耐液漏れ性および針保持性を良好とするために重要な成分である。
ブロック重合体Wは、下記のブロック共重合体Zが水素添加されたものであり、重量平均分子量が16〜40万であり、スチレン単位の含有割合が20〜70重量%であるブロック重合体である。
ブロック共重合体Zは、スチレン単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックXを2個以上、およびブタジエン単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックYを1個以上有するブロック共重合体である。
【0013】
重合体ブロックXは、スチレン単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックである。
重合体ブロックXは、本発明の組成物が性能を損なわない範囲でスチレン単位以外のビニル単量体単位を含有してもよい。重合体ブロックXを構成する全単量体単位のうち、スチレン単位の割合は80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、95重量%以上がさらに好ましい。スチレン単位の割合が不足すると、得られる成形体は耐熱性が悪いものとなる。
【0014】
重合体ブロックYは、ブタジエン単位を主要構成単位として含有する。
主要構成単位がイソプレンまたはイソプレンとブタジエンの併用である場合は、得られる成形体は耐液漏れ性が悪いものとなる。また、主要構成単位がイソブチレンである場合は、得られる成形体は耐熱性が悪いものとなる。
【0015】
重合体ブロックYは、本発明の組成物が性能を損なわない範囲で共役ブタジエン単位以外のビニル単量体単位を含有してもよい。重合体ブロックYを構成する全単量体単位のうち、ブタジエン単位の割合は70重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。ブタジエン単位の割合が不足すると、組成物のゴム弾性が不足し、得られる成形体は耐液漏れ性が悪いものとなる。
【0016】
重合体ブロックYは、ブタジエン単位における1,2−結合の割合が10〜80重量%のものが好ましく、15〜75重量%のものがより好ましい。1,2−結合の割合が多すぎると、得られる成形体はゴム弾性が不足しやすく、耐液漏れ性が悪いものとなる。1,2−結合の割合が少なすぎると、得られる成形体はプロピレン重合体Cとの相溶性が悪くなり、耐液漏れ性が悪いものとなる。
【0017】
ブロック重合体Zは、上記重合体ブロックXを2個以上、上記重合体ブロックYを1個以上有するものである。複数存在する重合体ブロックXは同一のものでも異なるものでもよい。重合体ブロックXを1個だけ有するブロック重合体は、得られる成形体の耐熱性を不十分なものとする。
ブロック重合体Zは、構成重合体ブロックとして重合体ブロックXを10〜80重量%有するものが好ましく、20〜70重量%有するものがより好ましい。重合体ブロックXの割合が少なすぎると得られる成形体が耐熱性の不十分なものとなる場合があり、重合体ブロックXの割合が多すぎると組成物のゴム弾性が不足し、得られる成形体は耐液漏れ性が悪いものとなる場合がある。
【0018】
ブロック重合体Wは、上記ブロック重合体Zが公知の方法により水素添加され、重合体ブロックYの有する(ブタジエンに由来する)不飽和結合が飽和結合に転化されたものである。水素添加された割合は80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。水素添加がされていないか不十分であると得られる組成物が耐熱性の不十分なものとなる場合がある。ブロック重合体Zへの水素添加は、スチレン単位への水素添加が実質的に起こらない条件でなされる。
【0019】
ブロック重合体Wは、一般にSEBSという略称で呼ばれることも多い。SEBSという略称において、Sはスチレン単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックXを意味し、EBはブタジエン単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックYが水素添加されて生成するエチレン単位(E)およびブチレン単位(B)を主要構成単位として含有する重合体ブロックを意味する。すなわちSEBSという略称は、EBブロック(エチレン単位およびブチレン単位を主要構成単位とするブロック)の両端にSブロック(スチレン単位を主要構成単位とするブロック)を有するというブロック重合体のモデル的構造「S−EB−S」に由来している。Sブロック3個およびEBブロック2個を有するSEBSのモデル的構造は「S−EB−S−EB−S」と表される。
本明細書においては当業者の慣行に基づき、1,2−結合のブタジエン単位に由来する構成単位「−CH−CH(C)−」をブチレン単位といい、1,4−結合のブタジエン単位に由来する構成単位「−CH−CH−CH−CH−」をエチレン単位(エチレン単位2個に見立てる)という。
【0020】
ブロック重合体Wと類似のブロック重合体としてSEPSおよびSEEPSなどの略称で呼ばれるものがあるが、これらのブロック重合体は本発明のブロック重合体Wとしては不適切なものである。ブロック重合体Wにおける重合体ブロックYの主要構成単位はブタジエンであるのに対して、SEPSにおける対応するブロックの主要構成単位はイソプレンであり、SEEPSにおける対応するブロックの主要構成単位はイソプレンおよびブタジエンである。段落0014で述べたとおり、ブロック重合体Wに替えてSEPSまたはSEEPSを使用すると得られる成形体は耐液漏れ性が悪いものとなるが、その理由について以下に考察する。
【0021】
ブロック重合体W(SEBS)は、2個のSブロックに挟まれたブロックがEBブロックであるのに対して、SEPSは、2個のSブロックに挟まれたブロックがEPブロックであり、SEEPSは、2個のSブロックに挟まれたブロックがEEPブロックである(SEEPSにおけるブタジエンは1,4−結合が主体であるため、実質的にエチレン単位のみを構成し、ブチレン単位を構成しない。EEPの1文字目のEはブタジエンに由来するエチレン単位を意味し、EPはイソプレンに由来するエチレン単位およびプロピレン単位を意味する。)。
2個のSブロックに挟まれたブロックはEBブロックであることが、組成物を使用して得られる成形体の耐液漏れ性を優れたものとするために、極めて重要な作用をしていることが推察される。すなわち、スチレン単位を主要構成単位として含有する2個のSブロックに挟まれたブロックは、1,2−結合のブタジエン単位に由来する構成単位「−CH−CH(C)−」および1,4−結合のブタジエン単位に由来する構成単位「−CH−CH−CH−CH−」を主要構成単位として含有するものであることが重要である。
【0022】
ブロック重合体Wは、全構成単量体単位を基準としてスチレン単位を20〜70重量%有するものである。スチレン単位の割合が少なすぎると得られる成形体は耐熱性が不十分なものとなる。耐熱性が不十分であると滅菌などの加熱処理時に成形体が変形する場合がある。スチレン単位の割合が多すぎると組成物のゴム弾性が不足し、得られる成形体は耐液漏れ性が悪いものとなる。
ブロック重合体WのMwは16〜40万であり、20〜35万であることが好ましい。Mwが小さすぎると得られる成形体は耐熱性が不十分なものとなる。Mwが大きすぎると得られる成形体は耐液漏れ性(後述する金属針を使用する混注想定試験)が不十分なものとなるため、使用が制限される。
ブロック重合体Wは2種類以上が併用されてもよい。
【0023】
ブロック重合体Wの好適な例として、
(1)ブロック重合体A
(2)ブロック重合体Aおよびブロック重合体Pの併用
が挙げられる。
以下、いずれもブロック重合体Wの下位概念であるブロック重合体Aおよびブロック重合体Pについて説明する。
【0024】
○ブロック重合体A
ブロック重合体Aは、組成物から得られる成形体の耐熱性、耐液漏れ性および針保持性を良好とするために重要な成分である。
ブロック重合体Aは、下記のブロック共重合体Z1が水素添加されたものであり、重量平均分子量が16〜40万であり、スチレン単位の含有割合が20〜50重量%であるブロック重合体である。
ブロック共重合体Z1は、ブタジエン単位を主要構成単位として含有し該ブタジエン単位における1,2−結合の割合が10〜50%である重合体ブロックY1を1個有し、重合体ブロックY1の両末端に各1個合計2個のスチレン単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックX1を有するブロック共重合体である。
【0025】
重合体ブロックX1は、スチレン単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックである。
重合体ブロックX1は、本発明の組成物が性能を損なわない範囲でスチレン単位以外のビニル単量体単位を含有してもよい。重合体ブロックX1を構成する全単量体単位のうち、スチレン単位の割合は80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、95重量%以上がさらに好ましい。スチレン単位の割合が不足すると、得られる成形体は耐熱性が悪いものとなる。
【0026】
重合体ブロックY1は、ブタジエン単位を主要構成単位として含有する。
主要構成単位がイソプレンまたはイソプレンとブタジエンの併用である場合は、得られる成形体は耐液漏れ性が悪いものとなる。また、主要構成単位がイソブチレンである場合は、得られる成形体は耐熱性が悪いものとなる。
【0027】
重合体ブロックY1は、本発明の組成物が性能を損なわない範囲で共役ブタジエン単位以外のビニル単量体単位を含有してもよい。重合体ブロックY1を構成する全単量体単位のうち、ブタジエン単位の割合は70重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。ブタジエン単位の割合が不足すると、組成物のゴム弾性が不足し、得られる成形体は耐液漏れ性が悪いものとなる。
【0028】
重合体ブロックY1は、ブタジエン単位における1,2−結合の割合が10〜50重量%であり、15〜45重量%のものが好ましく、20〜40重量%のものがより好ましい。1,2−結合の割合が多すぎると、得られる成形体はゴム弾性が不足しやすく、耐液漏れ性が悪いものとなる。1,2−結合の割合が少なすぎると、得られる成形体はプロピレン重合体Cとの相溶性が悪くなり、耐液漏れ性が悪いものとなる。
【0029】
ブロック重合体Z1は、上記重合体ブロックX1を2個、上記重合体ブロックY1を1個有するものである。重合体ブロックY1の両末端に各1個合計2個の重合体ブロックX1を備える。2個の重合体ブロックX1は同一のものでも異なるものでもよい。重合体ブロックX1を1個だけ有するブロック重合体は、得られる成形体の耐熱性を不十分なものとする。
ブロック重合体Z1は、構成重合体ブロックとして重合体ブロックX1を10〜60重量%有するものが好ましく、20〜50重量%有するものがより好ましい。重合体ブロックX1の割合が少なすぎると得られる成形体が耐熱性の不十分なものとなる場合があり、重合体ブロックX1の割合が多すぎると組成物のゴム弾性が不足し、得られる成形体は耐液漏れ性が悪いものとなる場合がある。
【0030】
ブロック重合体Aは、上記ブロック重合体Z1が公知の方法により水素添加され、重合体ブロックY1の有する(ブタジエンに由来する)不飽和結合が飽和結合に転化されたものである。水素添加された割合は80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。水素添加がされていないか不十分であると得られる組成物が耐熱性の不十分なものとなる場合がある。ブロック重合体Z1への水素添加は、スチレン単位への水素添加が実質的に起こらない条件でなされる。
【0031】
ブロック重合体Aはブロック重合体Wの下位概念であり、一般にSEBSという略称で呼ばれることも多い。
2個のSブロック(重合体ブロックX1)および1個のEBブロック(重合体ブロックY1が水素添加されたもの)からなるブロック重合体Aを本明細書においてはトリブロックSEBSともいう。
【0032】
ブロック重合体Aは、全構成単量体単位を基準としてスチレン単位を20〜50重量%有するものである。スチレン単位の割合が少なすぎると得られる成形体は耐熱性が不十分なものとなる。耐熱性が不十分であると滅菌などの加熱処理時に成形体が変形する場合がある。スチレン単位の割合が多すぎると組成物のゴム弾性が不足し、得られる成形体は耐液漏れ性が悪いものとなる。
ブロック重合体AのMwは16〜40万であり、20〜35万であることが好ましい。Mwが小さすぎると得られる成形体は耐熱性が不十分なものとなる。Mwが大きすぎると得られる成形体は耐液漏れ性(後述する金属針を使用する混注想定試験)が不十分なものとなるため、使用が制限される。
ブロック重合体Aは2種類以上が併用されてもよい。
【0033】
実質的にブロック重合体Aからなるブロック重合体Wは、耐熱性、耐液漏れ性および針保持性が特に優れる成形体を与えるために好ましいものである。実質的にブロック重合体Aからなるとは、ブロック重合体Wのうちブロック重合体Aの割合が95重量%を超えることを意味する。
【0034】
○ブロック重合体P
ブロック重合体Pは、組成物から得られる成形体の耐液漏れ性および針保持性を良好とするために重要な成分である。特にブロック重合体Aと併用される場合は針保持性を向上させる効果を発揮しやすいために好ましい。
ブロック重合体Pは、下記のブロック共重合体Z2が水素添加されたものであり、重量平均分子量が16〜40万であり、スチレン単位の含有割合が40〜70重量%であるブロック重合体である。
ブロック共重合体Z2は、ブタジエン−スチレン制御分布共重合体ブロックY2を1個有し、共重合体ブロックY2の両末端に各1個合計2個のポリスチレンブロックX2を有するブロック共重合体である。
制御分布共重合体ブロックは、該共重合体ブロックを構成する複数の単量体単位の割合が異なる領域を有する共重合体ブロックを意味する。
【0035】
ポリスチレンブロックX2は、実質的にスチレン単位からなる重合体ブロックである。
ポリスチレンブロックX2は、該ブロックを構成する全単量体単位のうち、スチレン単位の割合90重量%以上が好ましく、95重量%以上がより好ましい。
【0036】
ブロック共重合体Z2の構成成分であるブタジエン−スチレン制御分布共重合体ブロックY2は、
ブタジエン単位を主要構成単位として含有する領域YB2を2個以上有し、
スチレン単位を主要構成単位として含有する領域YS2を1個以上有し、
両末端は領域YB2であるブタジエン−スチレン共重合体ブロックである。
【0037】
領域YB2は、ブタジエン単位を主要構成単位として含有する。
主要構成単位がイソプレンまたはイソプレンとブタジエンの併用である場合は、得られる成形体は耐液漏れ性が悪いものとなる。また、主要構成単位がイソブチレンである場合は、得られる成形体は耐熱性が悪いものとなる。
領域YB2は、本発明の組成物が性能を損なわない範囲でブタジエン単位以外のビニル単量体単位を含有してもよい。領域YB2を構成する全単量体単位のうち、ブタジエン単位の割合は50重量%を超える必要があり、60重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましく、80重量%以上がさらに好ましい。ブタジエン単位の割合が不足すると、組成物のゴム弾性が不足し、得られる成形体は耐液漏れ性が悪いものとなる。ブタジエン単位以外のビニル単量体単位は実質的にスチレン単位であることが好ましい。
【0038】
領域YS2は、スチレン単位を主要構成単位として含有する。
領域YS2は、本発明の組成物が性能を損なわない範囲でスチレン単位以外のビニル単量体単位を含有してもよい。領域YS2を構成する全単量体単位のうち、スチレン単位の割合は50重量%を超える必要があり、60重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましく、80重量%以上がさらに好ましい。スチレン単位の割合が不足すると、得られる成形体は耐熱性が悪いものとなる。スチレン単位以外のビニル単量体単位は実質的にブタジエン単位であることが好ましい。
【0039】
領域YB2は、該領域がブロックと見立てることができるものであってもよい。領域YS2も、該領域がブロックと見立てることができるものであってもよい。領域YB2および領域YS2の両者について、それぞれの領域がブロックと見立てることができるものである場合、ブタジエン−スチレン制御分布共重合体ブロックY2は、それ自身がブロック重合体として扱われることも可能である。
【0040】
ブロック重合体Pは、上記ブロック重合体Z2が公知の方法により水素添加され、共重合体ブロックY2の有するブタジエンに由来する不飽和結合が飽和結合に転化されたものである。水素添加された割合は80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。水素添加がされていないか不十分であると得られる組成物が耐熱性の不十分なものとなる場合がある。ブロック重合体Z2への水素添加は、スチレン単位への水素添加が実質的に起こらない条件でなされる。
ブロック重合体Aのモデル的構造「S−EB−S」に対して、ブロック重合体Pはモデル的構造の一例として「S−EB−S−EB−S」で表されるような重合体を包含する。
【0041】
ブロック重合体PもSEBSの概念に含まれるものであるが、本明細書においては識別のため、ブロック重合体AのトリブロックSEBSに対して、ブロック重合体Pを便宜上マルチブロックSEBSという。
【0042】
ブロック重合体Pは、全構成単量体単位を基準としてスチレン単位を40〜70重量%有するものである。スチレン単位の割合が少なすぎると得られる成形体は針保持性が不十分なものとなるほか、耐熱性が不足しやすい。
スチレン単位の割合が多すぎると組成物のゴム弾性が不足し、得られる成形体は耐液漏れ性が悪いものとなる。
ブロック重合体PのMwは16〜40万であり、20〜35万であることが好ましい。Mwが小さすぎると得られる成形体は耐熱性が不十分なものとなる。耐熱性が不十分であると滅菌などの加熱処理時に成形体が変形する場合がある。
Mwが大きすぎると得られる成形体は耐液漏れ性(後述する金属針を使用する混注想定試験)が不十分なものとなるため、使用が制限される。
ブロック重合体Pは2種類以上が併用されてもよい。
【0043】
本発明の組成物において、ブロック重合体Aおよびブロック重合体Pが併用される場合は、それぞれ50〜95重量部および5〜50重量部の範囲で、両者の合計が100重量部となる割合で使用されることが好ましい。より好ましいブロック重合体Aおよびブロック重合体Pの割合は、それぞれ60〜93重量部および7〜40重量部である。
ブロック重合体Aの割合が少なすぎる(ブロック重合体Pの割合が多すぎる)と、得られる成形体は耐液漏れ性が不十分なものとなる。ブロック重合体Aの割合が多すぎる(ブロック重合体Pの割合が少なすぎる)と、得られる成形体の針保持性向上効果が十分に発揮されにくい。
【0044】
○軟化剤B
軟化剤Bは、得られる成形体の耐液漏れ性および針保持性のバランスを良好にする成分であり、また、加熱溶融された組成物に流動性を付与して成形性を良好にする成分である。
【0045】
軟化剤Bとしては、通常熱可塑性エラストマー組成物に添加されるオイル状の化合物が使用できる。軟化剤Bとしては、パラフィンオイル、ナフテンオイル、芳香族オイル等の鉱物油が挙げられるほか、常温(20℃)で液体である低重合度のビニル重合体(オレフィン重合体、ジエン化合物重合体、アクリル重合体等)も使用できる。パラフィンオイルは軟化剤Bとして好ましいものである。
【0046】
軟化剤Bは、40℃における動粘度が50〜500cStの範囲のものであり、55〜300cStであるものが好ましい。動粘度が小さすぎると得られる成形体が耐液漏れ性の不十分なものとなるほか、軟化剤が成形体の表面にブリードしやすくなる。動粘度が大きすぎると組成物が成形性の不十分なものとなりやすいほか、得られる成形体が耐液漏れ性の不十分なものとなる。軟化剤Bは2種類以上が併用されてもよい。
【0047】
○プロピレン重合体C
プロピレン重合体Cは、得られる成形体の耐液漏れ性および針保持性のバランスを良好にする成分であり、また、組成物の成形性を良好にする成分である。
プロピレン重合体Cは、プロピレン単位を主要構成単位として含有する重合体であり、プロピレンの単独重合体であってもよいし、成形体の性能を損なわない範囲の割合でプロピレン以外のラジカル重合性単量体が共重合された重合体であってもよい。共重合体の場合、プロピレン単位の割合は70重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。実質的にプロピレンの単独重合体であることが最も好ましい。プロピレン単位の割合が不足すると、得られる成形体は耐液漏れ性および針保持性が悪いものとなる。プロピレン重合体Cは2種類以上が併用されてもよい。
【0048】
プロピレン重合体Cは、曲げ弾性率が1000〜3000MPaの範囲のものであり、1100〜2500MPaのものが好ましく、1200〜2000MPaのものがより好ましい。曲げ弾性率が小さすぎると得られる成形体は耐液漏れ性および針保持性が悪いものとなる。曲げ弾性率が大きすぎると得られる成形体は耐液漏れ性が悪いものとなる。
【0049】
○イソブチレン重合体Qおよびその架橋物R
イソブチレン重合体Qの架橋物Rは、特に得られる成形体の針保持性を良好にし、液漏れ性とのバランスも優れたものにする成分である。
イソブチレン重合体Qは、イソブチレン単位を主要構成単位として含有し、反応性基を有する重合体である。
【0050】
イソブチレン重合体Qは、イソブチレン単位以外のカチオン重合性単量体単位を含むものであってよいが、イソブチレン単位の割合が50重量%超の重合体であり、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上の重合体である。共重合成分となりうるカチオン重合性単量体としては、芳香族ビニル化合物、脂肪族オレフィン化合物、イソプレン、ブタジエンなどが挙げられる。
【0051】
イソブチレン重合体Qは反応性基を有し、該反応性基が反応することにより、架橋物Rが生成する。
反応性基としては、炭素−炭素二重結合を有する基すなわちアルケニル基が好ましいものであり、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基などが挙げられる。イソブチレン重合体Qは、1分子あたり0.2個以上の反応性基を有するものが好ましい。反応性基の割合が少なすぎると架橋の効果が不十分となる場合がある。
末端にアルケニル基を有する重合体がイソブチレン重合体Qとして好ましいものである。
【0052】
架橋物Rの製造(イソブチレン重合体Qの架橋)にあたっては、架橋剤が使用されてもよい。反応性基がアルケニル基である場合、ヒドロシリル基含有化合物を架橋剤として使用することが好ましい。アルケニル基を基準とするヒドロシリル基のモル比は、0.2〜5であることが好ましく、0.25〜4であることがより好ましい。アルケニル基とヒドロシリル基の反応は、加熱により進行するが、速やかに反応させるために公知のヒドロシリル化反応触媒が使用されてもよい。
【0053】
イソブチレン重合体Qの架橋は、イソブチレン重合体Q単独で(必要に応じて架橋剤、架橋反応触媒を使用して)なされてもよく、イソブチレン重合体Qおよび他の成分からなる組成物の状態でなされてもよい。最終的に得られる組成物の分散性を良好なものとするため、後者の方法が好ましい架橋方法である。
【0054】
好ましい架橋方法の1つの例は、ブロック重合体W(ブロック重合体Aおよび/またはブロック重合体P)、軟化剤B、プロピレン重合体Cの1種以上およびイソブチレン重合体Qを含有する(必要に応じて架橋剤、架橋反応触媒を含有する)組成物を、溶融混練時に動的に架橋する方法である。
【0055】
○イソブチレンTPV組成物D
好ましい架橋方法の他の例は、イソブチレン重合体Q、オレフィン重合体S、軟化剤Tおよびその他の成分Uからなる組成物を、溶融混練時に動的に架橋する方法である。
イソブチレンTPV組成物Dは、イソブチレン重合体Q 55〜80重量%、オレフィン重合体S 3〜20重量%、軟化剤T 10〜40重量%およびその他の成分U 0.01〜5重量%からなる組成物が、溶融混練時に動的に架橋された組成物である。
【0056】
オレフィン重合体Sは、炭素数2〜20のα−オレフィン化合物の単独重合体または共重合体である。オレフィン重合体Sとしては、エチレン単位またはプロピレン単位を主要構成単位として含有する重合体が好ましいものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体が挙げられる。
【0057】
軟化剤Tとしては、パラフィンオイル、ナフテンオイル、芳香族オイルなどの鉱物油が挙げられる。軟化剤Tとして、ポリブテンなどの合成軟化剤も使用可能である。
【0058】
その他の成分Uとしては、通常エラストマーに添加される成分が適宜選択される。その他の成分Uとしては、充填剤、滑剤、ブロッキング防止剤、難燃剤等、および酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤等に代表される主成分の変質、分解等を抑制するための添加剤等が挙げられる。
【0059】
○本発明のエラストマー組成物(組成物(1)および組成物(2))
本発明のエラストマー組成物(1)は、上記ブロック重合体Wを100重量部、軟化剤Bを100〜300重量部、プロピレン重合体Cを1〜50重量部、およびイソブチレン重合体Qの架橋物Rを5〜80重量部含有するものである。
本発明のエラストマー組成物(2)は、上記ブロック重合体Wを100重量部、軟化剤Bを100〜300重量部、プロピレン重合体Cを1〜50重量部、およびイソブチレンTPV組成物Dを10〜100重量部含有するものである。
エラストマー組成物(1)および組成物(2)は、それぞれ請求項1および2に対応する発明に係るものであり、いずれも独立請求項の形式で記載されているが、実質的には請求項2記載の発明は請求項1記載の発明の下位概念の発明とも言えるものである。
【0060】
エラストマー組成物(1)および組成物(2)は、上記ブロック重合体Wを100重量部、軟化剤Bを100〜300重量部(好ましくは120〜280重量部、より好ましくは140〜250重量部、さらに好ましくは150〜230重量部)、プロピレン重合体Cを1〜50重量部(好ましくは5〜40重量部、より好ましくは10〜30重量部)、含有する組成物である。
【0061】
軟化剤Bの割合が少なすぎると組成物が成形性の不十分なものとなるほか、得られる成形体は耐液漏れ性が不十分なものとなる。軟化剤Bの割合が多すぎると成形体が針保持性の悪いものとなるほか、耐液漏れ性も不十分となりやすい。
【0062】
プロピレン重合体Cの割合が少なすぎると組成物が成形性の不十分なものとなり、多すぎると得られる成形体が耐液漏れ性の不十分なものとなる。
【0063】
イソブチレン重合体Qの架橋物RまたはイソブチレンTPV組成物Dの割合が少なすぎると成形体が針保持性の悪いものとなり、多すぎると得られる成形体が耐液漏れ性の不十分なものとなる。
【0064】
本発明の組成物は、上記必須成分の他に、性能を損なわない範囲でその他の任意成分が配合されたものであってもよい。任意成分としては、ブロック重合体W、ブロック重合体A、ブロック重合体Pおよびプロピレン重合体C以外の熱可塑性樹脂(以下、その他の熱可塑性樹脂という。)、充填剤、滑剤、ブロッキング防止剤、難燃剤等、および酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤等に代表される主成分の変質、分解等を抑制するための添加剤等が挙げられる。
任意成分が配合される場合の配合割合は、組成物および成形体の性能を損なわない範囲で適宜決められる。
【0065】
その他の熱可塑性樹脂としては、上記ブロック重合体W、ブロック重合体Aおよびブロック重合体P以外のブロック重合体、上記プロピレン重合体C以外のプロピレン重合体、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−αオレフィン共重合体、アクリル重合体、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエーテル等が挙げられる。その他の熱可塑性樹脂が配合される場合の配合割合は、ブロック重合体W 100重量部を基準として、100重量部以下が好ましく、70重量部以下がより好ましく、40重量部以下がさらに好ましく、20重量部以下が特に好ましく、10重量部以下が最も好ましい。その他の熱可塑性樹脂の割合が多すぎると得られる成形体は、耐熱性、耐液漏れ性および針保持性のいずれかが不十分なものとなる場合がある。
【0066】
本発明の組成物は、所定割合の上記成分を公知の手段により混合および/または混練させて得られる。
混合には、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー等を使用することができる。
混練には、押出機、ミキシングロール、ニーダー、バンバリーミキサー、ブラベンダープラストグラフ等を使用することができる。
例えば、粉末状又はペレット状の固体主原料(成分A、P、Cなど)を混合機で攪拌、混合(ドライブレンド)し、次いで液状主原料(成分B)を添加して攪拌、混合し(成分A、P、Cなどに成分Bを含浸させ)、必要に応じてその他の原料を添加して攪拌、混合することによって配合粉を得る。得られた配合粉を押出機で混練してペレット化するという方法は好ましい組成物の調製方法である。
上記手順において、「その他の原料」も固体主原料(成分A、P、Cなど)と合わせて最初から添加する方法が採用されてもよい。
エラストマー組成物(1)の場合、イソブチレン重合体Qが上記混練工程において動的架橋されるのは、合理的な方法である。
【0067】
次に、組成物の利用について説明する。
本発明の組成物の成形は、射出成形機、押出成形機、プレス成形機等の公知の成形機を使用して行うことができる。
本発明の組成物を成形して得られる成形体は、医療容器用の栓体に要求される重要特性である耐熱性、耐液漏れ性および針保持性が優れたものであった。従って、本発明の組成物を成形して得られる成形体は、医療容器用の栓体として好適に使用することができる。
【0068】
本発明の組成物は、JIS K6253に準じて測定された測定時間1秒のA硬さが30〜50であるものが好ましく、30〜45であるものがより好ましく、30〜40であるものがさらに好ましい。A硬さが小さすぎると得られる成形体は針保持性が不十分なものとなる。A硬さが大きすぎると得られる成形体は耐液漏れ性が不十分なものとなる。本明細書におけるA硬さの測定条件の詳細は後述する。
【実施例】
【0069】
(原料)
使用された原料は以下のとおりである。
1.ブロック重合体Aおよび比較用ブロック重合体A’
・ブロック重合体A1:G1651(クレイトン製水添ブロック共重合体SEBS、スチレン単位含有割合:33%、Mw:29万、Mn:26万、ブタジエン単位における1,2−結合の割合:37%)
・比較用ブロック重合体A’1:G1650(クレイトン製水添ブロック共重合体SEBS、スチレン単位含有割合:29%、Mw:11万、Mn:10万、ブタジエン単位における1,2−結合の割合:37%)
・比較用ブロック重合体A’2:G1633(クレイトン製水添ブロック共重合体SEBS、スチレン単位含有割合:30%、Mw:45万、Mn:40万、ブタジエン単位における1,2−結合の割合:37%)
・比較用ブロック重合体A’3:セプトン4055(株式会社クラレ製水添ブロック共重合体SEEPS、スチレン単位含有割合:30%、Mw:30万、Mn:28万、ブタジエン単位における1,2−結合の割合:約37%)
・比較用ブロック重合体A’4:セプトン2006(株式会社クラレ製水添ブロック共重合体SEPS、スチレン単位含有割合:35%、Mw:32万、Mn:29万、ブタジエン単位における1,2−結合の割合:約37%)
・比較用ブロック重合体A’5:G1641(クレイトン製ハイビニル水添ブロック共重合体SEBS、スチレン単位含有割合:32%、Mw:24万、Mn:22万、ブタジエン単位における1,2−結合の割合:67%)
【0070】
2.ブロック重合体P
・ブロック重合体P1:RP6935(クレイトン製水添ブロック共重合体マルチブロックSEBS、スチレン単位含有割合:58%、Mw:27万、Mn:25万)
【0071】
GPCによる分子量の測定条件は以下のとおりである。
・ポンプ:JASCO(日本分光株式会社)製PU−980
・カラムオーブン:昭和電工株式会社製AO−50
・検出器:日立製RI(示差屈折計)検出器L−3300
・カラム種類:昭和電工株式会社製「K−805L(8.0×300mm)」および「K−804L(8.0×300mm)」各1本を直列使用
・カラム温度:40℃
・ガードカラム:K−G(4.6×10mm)
・溶離液:クロロホルム
・溶離液流量:1.0ml/分
・試料濃度:約1mg/ml
・試料溶液ろ過:ポリテトラフルオロエチレン製0.45μm孔径ディスポーザブルフィルタ
・検量線用標準試料:昭和電工株式会社製ポリスチレン
【0072】
3.軟化剤Bおよび比較用軟化剤B’
・軟化剤B1:ケイドール(Sonneborn製オイル、40℃における動粘度:64〜70cSt)
・軟化剤B’1:マーコールN172(エクソンモービル製オイル、40℃における動粘度:33cSt)
【0073】
4.プロピレン重合体Cおよび比較用オレフィン重合体C’
・プロピレン重合体C1:PM600A(サンアロマー株式会社製ポリプロピレン、曲げ弾性率:1600MPa、MFR(メルトフローレート):7.5g/10分)
・比較用オレフィン重合体C’1:PH943B(サンアロマー株式会社製プロピレン重合体、曲げ弾性率:550MPa、MFR(メルトフローレート):21g/10分)
・比較用オレフィン重合体C’2:J5900(株式会社プライムポリマー製ポリプロピレン、曲げ弾性率:420MPa、MFR(メルトフローレート):8g/10分)
・比較用オレフィン重合体C’3:ニポロンハード1000(東ソー製HDPE(高密度ポリエチレン)、曲げ弾性率:1160MPa、MFR(メルトフローレート):20g/10分、密度:964kg/m
【0074】
5.イソブチレンTPV組成物D
・イソブチレンTPV組成物D1:P1140B(株式会社カネカ製、動的架橋イソブチレン樹脂混合物。ポリプロピレン、ポリブテンオイル含有、イソブチレン重合体成分55〜70重量%含有)
・イソブチレンTPV組成物D2:E1140B(株式会社カネカ製、動的架橋イソブチレン樹脂混合物。ポリエチレン、ポリブテンオイル含有、イソブチレン重合体成分55〜70重量%含有)
・イソブチレンTPV組成物D3:E1140(株式会社カネカ製、動的架橋イソブチレン樹脂混合物。ポリエチレン、パラフィンオイル含有、イソブチレン重合体成分55〜70重量%含有)
【0075】
(組成物の製造)
上記原料を使用して、本発明の組成物および比較用組成物を製造した。配合割合(重量部)は表1(実施例)および表2〜3(比較例)のとおりである。
固体状原料(軟化剤Bおよび比較用軟化剤B’以外の成分)を混合(ドライブレンド)して固体原料混合物を調製し、該混合物に液状原料(軟化剤Bまたは比較用軟化剤B’)を添加して混合、含浸させて原料混合物を調製した。該原料混合物を下記の条件で押出機で溶融混練して、組成物のペレットを製造した。
・押出機:株式会社テクノベル製 KZW32TW−60MG−NH
・シリンダー温度:250〜300℃(この範囲で組成物毎に適切な温度を選択)
・スクリュー回転数:300rpm
【0076】
(成形体の製造)
組成物のペレットを下記の条件で射出成形して、長さ125mm、幅125mm、厚さ2mmのプレート状成形体および長さ125mm、幅25mm、厚さ6mmのバー状成形体を製造した。バー状成形体からの打ち抜きにより直径20mm(厚さ6mm)の円柱状成形体を製造し、栓体としての評価はこれを使用した。
・射出成形機:三菱重工業株式会社製 100MSIII−10E
・成形温度:170℃
・射出圧力:成形機の最大能力の30%(実際の圧力は約600kgf/cm
・射出時間:10秒
・金型温度:40℃
【0077】
(評価)
上記の成形体について以下の評価を行った。
評価結果を表1(実施例)および表2〜3(比較例)に示した。
【0078】
(A硬さ)
厚さ2mmの成形体を3枚重ね(合計6mm)としたものについて、JIS K6253に準拠した測定時間1秒のA硬さ(試験開始から1秒後の値)を測定した。測定は温度23℃、湿度50%の室内で1日状態調節の後実施した。好ましいA硬さは30〜50である。
【0079】
(耐熱性(加熱滅菌試験))
円柱状成形体を110℃のオーブン中に30分間静置して加熱滅菌の処理を行った。変形の有無を目視にて評価した。
○:変形は認められなかった。
×:変形が認められた。
【0080】
(耐液漏れ性1(プラスチック針挿入試験))
液貯槽および液貯槽の底部に栓体取付部位を備える液漏れ試験機に栓体(円柱状成形体)をセットし、液貯槽に水500mlを注ぎ、栓体の平面に0.01MPaの水圧がかかるようにした。評価は温度23℃、湿度50%の室内で行った。
上記栓体の中心に栓体の下方から栓体平面と垂直に、医療用プラスチック針(テルモ株式会社製TC−00503K)を挿入し、2時間静置した。プラスチック針自身の貫通孔は、該貫通孔からの液漏れが起きないように封止されたものを使用した。2時間後にプラスチック針を栓体から抜き、栓体に生じた針穴からの液漏れ(水漏れ)状態を1時間後に目視にて評価した。評価は20個の栓体について行った。
○:にじみ、液漏れともに認められなかった。
△:にじみは認められたが、液漏れは認められなかった。
×:液漏れが認められた。
【0081】
(耐液漏れ性2(混注想定試験))
液貯槽および液貯槽の底部に栓体取付部位を備える液漏れ試験機に栓体(円柱状成形体)をセットし、液貯槽に水500mlを注ぎ、栓体の平面に0.01MPaの水圧がかかるようにした。評価は温度23℃、湿度50%の室内で行った。
上記栓体の中心に栓体の下方から栓体平面と垂直に、注射器に取付られた医療用金属針(テルモ株式会社製18G)を挿入し、注射器および金属針を約30度傾け、15秒後に傾けたまま金属針を栓体から抜いた。
上記と同じ金属針の栓体への挿入操作および栓体から抜く操作をもう一度繰り返し行った。2回目も1回目と同一の注射器および金属針を使用し、2回目の挿入も1回目の挿入と同じ箇所に行った。2回目の金属針を抜く操作終了後、栓体に生じた針穴からの液漏れ(水漏れ)状態を1時間後に目視にて評価した。評価は20個の栓体について行った。
○:にじみ、液漏れともに認められなかった。
△:にじみは認められたが、液漏れは認められなかった。
×:液漏れが認められた。
【0082】
(針保持性(荷重吊り下げ試験))
試験用架台に栓体(円柱状成形体)の平面が水平面と平行になるように栓体をセットした。評価は温度23℃、湿度50%の室内で行った。
上記栓体の中心に栓体の下方から栓体平面と垂直に、500gのおもりが取付られた医療用金属針(テルモ株式会社製TC−00501K)を挿入し、金属針を挿入してから抜け落ちるまでの時間(針保持時間、単位は秒)を測定した。針保持時間は100秒以上が好ましく、120秒以上がより好ましい。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
【表3】

【0086】
比較例1は、ブロック重合体Aに替えてMwが小さい比較用ブロック重合体A’が配合された組成物に関するものであり、耐熱性が悪いものであった。
比較例2は、ブロック重合体Aに替えてMwが大きい比較用ブロック重合体A’が配合された組成物に関するものであり、針保持性および耐液漏れ性が悪いものであった。
比較例3は、ブロック重合体Aに替えてハイビニルSEBSが配合された組成物に関するものであり、耐液漏れ性および針保持性が悪いものであった。
比較例4および5は、ブロック重合体Aに替えてSEPSまたはSEEPSが配合された組成物に関するものであり、耐液漏れ性が悪いものであった。
比較例6は、軟化剤Bの使用割合が少なすぎる組成物に関するものであり、耐液漏れ性が極めて悪いものであった。
比較例7は、軟化剤Bの使用割合が多すぎる組成物に関するものであり、針保持性が極めて悪く、耐液漏れ性(混注想定試験)もやや悪いものであった。
比較例8は、軟化剤Bに替えて動粘度が低い比較用軟化剤が配合された組成物に関するものであり、耐液漏れ性および針保持性が悪いものであった。
比較例9は、プロピレン重合体Cの使用割合が多すぎる組成物に関するものであり、耐液漏れ性が極めて悪いものであった。
比較例10〜12は、プロピレン重合体Cに替えて比較用オレフィン重合体が配合された組成物に関するものであり、耐液漏れ性が悪いものであった。ポリエチレンが配合された比較例12は、針保持性も悪いものであった。
比較例13は、イソブチレンTPV組成物D(イソブチレン重合体Qの架橋物R)の使用割合が多すぎる組成物に関するものであり、耐液漏れ性が悪いものであった。
比較例14は、イソブチレンTPV組成物D(イソブチレン重合体Qの架橋物R)の使用割合が少なすぎる組成物に関するものであり、針保持性が悪いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の組成物は、射出成形、押出成形、プレス成形など公知の方法で成形可能である。本発明の組成物を使用して得られた成形体は、医療容器栓体に要求される重要特性である耐熱性、耐液漏れ性および針保持性が優れたものであり、輸液バッグ等の医療容器の栓体として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックXを2個以上、およびブタジエン単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックYを1個以上有するブロック共重合体Zの水素添加物であり、重量平均分子量が16〜40万であり、スチレン単位の含有割合が20〜70重量%であるブロック重合体Wを100重量部、
40℃における動粘度が50〜500cStである軟化剤Bを100〜300重量部、
曲げ弾性率が1000〜3000MPaであるプロピレン重合体Cを1〜50重量部、および
反応性基を有するイソブチレン重合体Qの架橋物Rを5〜80重量部含有する
医療容器栓体用エラストマー組成物。
【請求項2】
スチレン単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックXを2個以上、およびブタジエン単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックYを1個以上有するブロック共重合体Zの水素添加物であり、重量平均分子量が16〜40万であり、スチレン単位の含有割合が20〜70重量%であるブロック重合体Wを100重量部、
40℃における動粘度が50〜500cStである軟化剤Bを100〜300重量部、
曲げ弾性率が1000〜3000MPaであるプロピレン重合体Cを1〜50重量部、および
下記イソブチレンTPV組成物Dを10〜100重量部含有する
医療容器栓体用エラストマー組成物。
イソブチレンTPV組成物D:
反応性基を有するイソブチレン重合体Q 55〜80重量%、
オレフィン重合体S 3〜20重量%、
軟化剤T 10〜40重量%、および
その他の成分U 0.01〜5重量%
からなる組成物が動的架橋された組成物である。
【請求項3】
ブロック重合体Wは、
実質的に下記ブロック重合体Aからなるものである
請求項1または2に記載の医療容器栓体用エラストマー組成物。
ブロック重合体A:
ブタジエン単位を主要構成単位として含有し該ブタジエン単位における1,2−結合の割合が10〜50%である重合体ブロックY1を1個有し、
重合体ブロックY1の両末端に各1個合計2個のスチレン単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックX1を有する
ブロック共重合体Z1の水素添加物であり、
重量平均分子量が16〜40万であり、スチレン単位の含有割合が20〜50重量%であるブロック重合体である。
【請求項4】
ブロック重合体Wは、
50〜95重量%の下記ブロック重合体Aおよび5〜50重量%の下記ブロック重合体Pからなるものである
請求項1または2に記載の医療容器栓体用エラストマー組成物。
ブロック重合体A:
ブタジエン単位を主要構成単位として含有し該ブタジエン単位における1,2−結合の割合が10〜50%である重合体ブロックY1を1個有し、
重合体ブロックY1の両末端に各1個合計2個のスチレン単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックX1を有する
ブロック共重合体Z1の水素添加物であり、
重量平均分子量が16〜40万であり、スチレン単位の含有割合が20〜50重量%であるブロック重合体である。
ブロック重合体P:
ブタジエン−スチレン制御分布共重合体ブロックY2を1個有し、
共重合体ブロックY2の両末端に各1個合計2個のポリスチレンブロックX2を有する
ブロック共重合体Z2の水素添加物であり、
重量平均分子量が16〜40万であり、スチレン単位の含有割合が40〜70重量%であるブロック重合体であり、
ブタジエン−スチレン制御分布共重合体ブロックY2は、
ブタジエン単位を主要構成単位として含有する領域YB2を2個以上有し、
スチレン単位を主要構成単位として含有する領域YS2を1個以上有し、
両末端は領域YB2であるブタジエン−スチレン共重合体ブロックである。
【請求項5】
プロピレン重合体Cはポリプロピレンである
請求項1〜4のいずれかに記載の医療容器栓体用エラストマー組成物。
【請求項6】
反応性基を有するイソブチレン重合体Qは、
末端にアルケニル基を有するイソブチレン重合体である
請求項1〜5のいずれかに記載の医療容器栓体用エラストマー組成物。
【請求項7】
反応性基を有するイソブチレン重合体Qの架橋に使用される架橋剤は、
ヒドロシリル基を有する化合物である
請求項1〜6のいずれかに記載の医療容器栓体用エラストマー組成物。
【請求項8】
JIS K6253に準じて測定された測定時間1秒のA硬さが30〜50である
請求項1〜7のいずれかに記載の医療容器栓体用エラストマー組成物。

【公開番号】特開2010−227285(P2010−227285A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77966(P2009−77966)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000000505)アロン化成株式会社 (317)
【Fターム(参考)】