説明

医療用カセッテ

【課題】重量の増加を抑えながら撮影時等における変形防止が可能な医療用カセッテを提供する。また、医療用カセッテの構成材料に炭素繊維を用いた場合、炭素繊維のささくれの影響を排除し使用時に患者に不快感を与えない医療用カセッテを提供する。
【解決手段】このカセッテは、フロント部材10とフロント部材と対向するバック部材20とから構成され内部に画像記録媒体28を収容する医療用カセッテであって、フロント部材は、多数本の炭素繊維フィラメントが一方向に配列され並べられた層を少なくとも2層以上重ねて熱硬化性樹脂に含浸させてなる積層体から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輝尽性蛍光体や感光フィルム等の画像記録媒体を内部に収容する医療用カセッテに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のスクリーン・フィルム系の医療用撮影システムに対し、輝尽性蛍光体等を利用した画像記録媒体を用いて、放射線画像撮影を行い、撮影後の輝尽性蛍光体から放射線画像を読み取る医療用画像記録読取システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このために、輝尽性蛍光体等からなる画像記録媒体を内部に収容した医療用カセッテが用いられている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
従来、上述のような医療用カセッテでは強度確保のために、フロント板を全てカーボン樹脂で構成し、その縁部分を肉厚としたもの、フロント板(カーボン樹脂やアルミニウム)の縁にアルミニウムのフレームを設けたもの、バック板側をアルミニウムダイキャストで構成したもの等が提案されている。これらの内でアルミニウムのフレームを設けたものは軽量化や加工性・他部品との組立のため中空で構成されていることが多い。
【0004】
医療用カセッテは、撮影後の読み取りのため、画像記録媒体をカセッテから取り出す必要があり、この中には、例えば画像記録媒体とカセッテのバック板とを一体化させたカセッテで画像読み取り等の処理を行うシステムがある。このようなシステムではカセッテに多様な機構を盛り込む必要がある。一方、カセッテサイズに対する画像領域は従来並が必要とされているため、フレームの一部に穴や切り欠きを追加したり、別部材を取り付けたりといった加工を行っている。
【特許文献1】特開平11−288050号公報
【特許文献2】特開2002−156717公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
医療用カセッテを用いた撮影態様は多様であり、ベット上の患者の下にカセッテを入れて撮影するといった、患者の全体重がカセッテにかかるような撮影態様が多くある。このために医療用カセッテには所定の強度が必要となる。また、一患者に対して多数枚の撮影を行う場合があり、軽量化も重要なポイントとなっている。現在、医療用カセッテに対し軽量及び高剛性を両立する素材としてアルミニウムやカーボンといった素材が提案されている。
【0006】
しかし、近年の画像読み取り等の機構の複雑化に伴い非常に限られたスペースにかかる機構を配置しているため構造体部分が減少する方向にあり、撮影条件によっては医療用カセッテが変形するおそれが生じる場合もある。また、医療用カセッテの患者に接する部分は使用時に患者に不快感を与えないようにする必要がある。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題に鑑み、重量の増加を抑えながら撮影時等における変形防止が可能な医療用カセッテを提供することを目的とする。また、医療用カセッテの構成材料に炭素繊維を用いた場合、炭素繊維のささくれの影響を排除し使用時に患者に不快感を与えない医療用カセッテを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本実施形態の第1の医療用カセッテは、フロント部材と前記フロント部材と対向するバック部材とから構成され内部に画像記録媒体を収容する医療用カセッテであって、前記フロント部材は、多数本の炭素繊維フィラメントが一方向に配列され並べられた層を少なくとも2層以上重ねて熱硬化性樹脂に含浸させてなる積層体から構成されたことを特徴とする。
【0009】
この医療用カセッテによれば、フロント部材を、多数本の炭素繊維フィラメントが一方向に配列され並べられた層を少なくとも2層以上重ねて熱硬化性樹脂に含浸させてなる積層体から構成することで、高強度部材としてアルミニウムなどの金属や複合材を利用することなく軽量で高強度構造を実現でき、重量の増加を抑えながら撮影時等における変形防止が可能となる。
【0010】
上記医療用カセッテにおいて前記積層体は前記炭素繊維フィラメントが略直交するように順次積層したものであることで、より高強度を得ることができる。
【0011】
また、前記フロント部材は、その外周にフレーム部材を有し、前記フレーム部材を含んで加熱および加圧により一体に成形されることが好ましい。これにより、フロント部材をフレーム部材を含めて炭素繊維フィラメントにより強化して一体に形成できるので、フロント部材とフレーム部材との間の接着部・接合部をなくすことができ、より簡単な構造にできるとともに、より簡単に製造することができる。
【0012】
また、前記積層体の最表層の前記炭素繊維フィラメントの配列方向とカセッテ長辺方向とが略同一であることで、カセッテ長辺方向への強度を高めることができる。
【0013】
また、前記積層体における層数が4層〜12層であることが好ましい。また、前記積層体の最表層表面が不織布で覆われていることで、炭素繊維のささくれの影響を排除し使用時に患者に不快感を与えない構成にできる。
【0014】
本実施形態の第2の医療用カセッテは、撮影時に被写体側に配置されるフロント部材と前記フロント部材と対向するバック部材とから構成され内部に画像記録媒体を収容する医療用カセッテであって、前記フロント部材は、多数本の炭素繊維フィラメントが一方向に配列され並べられた層を熱硬化性樹脂に含浸させてなる最表層を少なくとも有し、前記最表層表面が不織布で覆われていることを特徴とする。
【0015】
この医療用カセッテによれば、高強度構造の実現のため、フロント部材を、多数本の炭素繊維フィラメントが一方向に配列され並べられた層を熱硬化性樹脂に含浸させてなる最表層を少なくとも有するように構成した場合、最表層表面を不織布で覆うことで炭素繊維のささくれの影響を排除し使用時に患者に不快感を与えないようにできる。
【0016】
上記医療用カセッテにおいて、前記不織布がリントフリーの不織布であることが好ましい。前記不織布の交差比率が20%以上であることが好ましい。また、前記不織布は目付が5〜150g/m2の範囲内にあることが好ましい。
【0017】
また、前記不織布がマイクロファイバであることが好ましい。また、前記不織布がサーマルボンドであることが好ましい。
【0018】
上記第1,第2の医療用カセッテにおいて前記フロント部材と前記バック部材とが一体化されるようにしてもよい。すなわち、本実施形態の各医療用カセッテは、フロント部材とバック部材とが分離し合体する構造であっても、フロント部材とバック部材とが一体化された構造であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、重量の増加を抑えながら撮影時等における変形防止が可能な医療用カセッテを提供できる。また、医療用カセッテの構成材料に炭素繊維を用いた場合、炭素繊維のささくれの影響を排除し使用時に患者に不快感を与えない医療用カセッテを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態による医療用カセッテのフロント部材(A)及びバック部材(B)が分離した状態を示す斜視図である。図2は、図1のフロント部材の概略的な断面図(A)、輝尽性蛍光体プレート及びトレー部材の概略的な断面図(B)及びバック部材の概略的な断面図(C)である。図3は図1の医療用カセッテのロック機構を説明するためのバック部材の内面図(A)及び要部断面を示す側断面図(B)である。
【0021】
図1(A)、(B)に示すように、放射線画像撮影に用いられる医療用カセッテ(以下、単に「カセッテ」ともいう。)1は、フロント部材10と、フロント部材10に対向するように配置されるバック部材20と、から全体として薄形の矩方体状に構成され、バック部材20側の支持板27に固定された蓄積性蛍光体プレート28がその内部空間に収容可能に構成されている。フロント部材10とバック部材20とは脱着可能になっている。
【0022】
カセッテ1は、フロント部材10が被写体側に配置され、フロント部材10側から放射線を照射して放射線撮影が行われ、収容された蓄積性蛍光体プレート28に放射線画像を蓄積し記録することができる。すなわち、図2(B)のように、蓄積性蛍光体プレート28は、支持板27と、支持板27上に形成された例えば気相成長法により成長させた柱状結晶によるCsBrを母体とする蓄積性蛍光体からなる蓄積性蛍光体層28aと、を有し、トレー部材29に取り付け固定されている。
【0023】
図1(A)のように、フロント部材10は、短辺側のフレーム17と長辺側のフレーム18とを有する外形枠のフレーム部材11と、フレーム部材11の内側面に位置し放射線を透過する前面板13と、を備え、フレーム部材11と前面板13とが一体に構成されている。
【0024】
図2(A)、(B)に示すように、フロント部材10のフレーム部材11は、前面板13の端部から略直角に後面側へ屈曲して延びるフレーム側面部11aと、フレーム側面部11aの内側で同様に後面側に延びる突き出し部11bと、を有する。フロント部材10とバック部材20とが一体になったとき、突き出し部11bの内側に蓄積性蛍光体プレート28の端部が位置し、蓄積性蛍光体プレート28の蓄積性蛍光体層28aが突き出し部11bの内側空間で密閉されて遮光されるようになっている。
【0025】
図1(B)、図2(B)、(C)のように、バック部材20は、バック部材本体21内に蓄積性蛍光体プレート28とトレー部材29とを収容し、トレー部材29がバック部材本体21内の底面に貼り付けられている。
【0026】
図1(B)、図3(A)のように、カセッテ1の短辺方向の一端側のバック部材側面部22には、挿入孔34がフロント部材10側の切り欠き部14に対応して形成されている。また、短辺方向の両端には開口部31a、31b、31c、31dが形成され、長辺方向の略中央には開口部33a、33bが形成されている。
【0027】
また、バック部材本体21は、後述する放射線画像読み取り装置内で磁石の磁力により吸着、保持されるため、磁石に磁力で吸着可能なように、バック部材本体21自体を磁性部として、磁性体プラスチックなどで形成することが好ましい。また、バック部材本体21を通常のプラスチックで形成し、鉄箔などの磁性体シート(図示省略)を磁性部としてバック部材20の裏面24に備える構成してもよい。また、バック部材20の裏面24に、磁性体物質を塗布するなどし、磁性部を付与してもよい。
【0028】
上述のように、フロント部材10とバック部材20とは合体し、また脱着可能であるが、通常は合体した状態で遮光状態となり、放射線撮影などが行われる。フロント部材10とバック部材20とが分離・合体するときは、フロント部材10とバック部材20とが相対的に平面同士が離れまた近づくようにして分離しまた合体する。従って、合体したとき、フロント部材10とバック部材20の全面にわたり、近接した状態を再現でき、遮光状態を維持できる。
【0029】
次に、図3を参照してカセッテ1のロック機構について説明する。フロント部材10とバック部材20を合体した状態に保つために、カセッテ1はロック機構を備える。カセッテ1のロック機構として、フロント部材10には、ロック爪用の複数の切り込み(図示省略)が形成され、また、バック部材20には、被係止部としての複数のロック爪を備えた第1の連結部材35と第2の連結部材36とピニオン37とを備える。
【0030】
図3(A)のように、第1の連結部材35は、第1横部材35aと、第1横部材35aの中央やや右側からバック部材20の長手方向内側に向かって突出した第1中部材35bと、第1横部材35aの左端部からバック部材20の長手方向内向きに突出した第1左部材35cと、を有する。
【0031】
また、第2の連結部材36は、第2横部材36aと、第2横部材36aの中央やや左側から第1中部材35bと反対側に突出した第2中部材36bと、第2横部材35aの右端部からバック部材20の長手方向内向きに突出した第2左部材36cと、を有している。
【0032】
第1中部材35bの先端部と第2中部材36bの先端部とは、バック部材20のほぼ中央に備えられているピニオン37を挟んで対向し、それぞれの先端側面に設けられたラック部35B、36Bが、ピニオン37と噛合することにより、第1の連結部材35と第2の連結部材36とがピニオン37を介し連結される。
【0033】
また、第1の連結部材35の第1横部材35aの各端部近傍にバック部材側面部211から突出するように被係止部としてのロック爪30a、30bが備えられている。さらに、第1左部材35cの側面外側向きにスライド部材としてのロック爪32aが備えられている。
【0034】
また、図3(A)のように、一端が第1の連結部材35に固定され、他端がバック部材側面部211の内面側に固定されたコイルばね38aが2本設けられている。このコイルばね38aにより、第1の連結部材35は常に矢印Q1方向に移動しようとする付勢力を受けている。
【0035】
また、第1の連結部材35と挿入孔34が形成されたバック部材側面部211との間にはプッシュラッチ部39が設けられている。プッシュラッチ部39は、図1(B)、図3(A)のようにバック部材側面部211から突き出たスライド板50を有し、また、ばね(図示省略)により常に矢印Q1方向に付勢力を受けている。
【0036】
また、第2の連結部材36における第2横部材36aの端部近傍にバック部材側面部211から突出するように被係止部としての被係止部としてのロック爪30c、30dが備えられている。さらに、第2右部材36cの側面外側向きにスライド部材としてのロック爪32bが備えられている。
【0037】
本実施形態では、第1の連結部材35に設けられたロック爪30a、30b、32aは連動し、一方、第2の連結部材36に設けられたロック爪30c、30d、32bは連動する。さらに、第1の連結部材35と第2の連結部材36とは、それぞれに設けられたラック部35B、36Bと、ピニオン37との動作により連動するので、すべてのロック爪30a、30b、30c、30d、32a、32b、は連動する。
【0038】
本実施形態におけるカセッテ1では、フロント部材10とバック部材20との合体時にフロント部材10の切り欠き部14がバック部材20の挿入孔34に対応する位置関係にあり、切り欠き部14で挿入部材を挿入してスライド板50をスライドさせてプッシュラッチ部39をプッシュする度に、ロック機構の状態(ロックオン状態/ロックオフ状態)が切り替わる方式(プッシュラッチ方式)を採用している。プッシュラッチ方式は、ボールペンの芯をボールペン外装から出し入れする時に用いられる機構としてよく知られている。
【0039】
カセッテ1は、上述のように、ロックオン状態/ロックオフ状態が1回押す度に切り替わるプッシュラッチ機構によりフロント部材10にバック部材20がロックされた状態と分離可能な状態との切り替えが簡単に可能となる。また、プッシュラッチ機構によりカセッテ1のロック機構をロックオフ状態とし、フロント部材10とバック部材20とを、例えば特許文献1の放射線画像記録読取装置内で分離し、蓄積性蛍光体プレート28が露出され、蓄積性蛍光体プレート28に蓄積され記録された放射線画像情報を読み取ることができる。
【0040】
次に、上述のフロント部材10の構成について図4,図5を参照してさらに説明する。図4は図1(A)、図2(A)のフロント部材10の断面構成を概略的に示す部分断面図である。図5は図1(A)、図2(A)のフロント部材10の炭素繊維フィラメントの配列方向を示す概略斜視図である。
【0041】
図4のようにフロント部材10は、多数本の炭素繊維フィラメントが一方向に配列され並べられた複数の層(炭素繊維層)61,62,63,64,65を重ねて熱硬化性樹脂に含浸されてなる積層体60により構成されている。フロント部材10の前面板13において最表層65が不織布66で覆われている。炭素繊維フィラメントは多数の炭素単繊維から構成される長繊維束である。
【0042】
図4の積層体60は、層61で炭素繊維フィラメント67が縦方向に並べられ、層62で炭素繊維フィラメント68が横方向に並べられるようにして、各層の炭素繊維フィラメント67,68が略直交するように順次積層されてから、すべての層61〜65が熱硬化性樹脂に含浸されて構成されたものである。
【0043】
図5のように、フロント部材10において、図4の最表層65の直下層64の多数本の炭素繊維フィラメント68がフロント部材10の短辺に沿って図5の破線で示すように方向Bに延びるように配置され、最表層65の多数本の炭素繊維フィラメント67がフロント部材10の長辺に沿って図5の実線で示すように方向Aに延びるように配置されている。このように、積層体60の最表層65の炭素繊維フィラメント67の配列方向とカセッテ長辺方向とは略同一となっており、カセッテ1の長辺方向への強度を高めることができる。
【0044】
以上のように、本実施形態のカセッテ1によれば、フロント部材10を、多数本の炭素繊維フィラメント67,68が一方向に配列され並べられた複数の層61〜65を重ねて熱硬化性樹脂に含浸させてなる積層体60から構成することで、高強度部材としてアルミニウムなどの金属や複合材を利用することなく高強度構造を実現でき、重量の増加を抑えながら撮影時等における変形防止が可能である。
【0045】
図2,図3のように、カセッテ1には、フロント部材10とバック部材20との合体・分離の切り替え等のために内部機構を収容する一方、フロント部材10のフレーム部材11に切り欠き等を設けているが、上述のように、フロント部材10において高強度構造を実現できるので、撮影時等においてフロント部材10に患者の体重がかかった場合でも変形防止が可能である。
【0046】
また、フロント部材10を構成する積層体60は複数層61〜65で炭素繊維フィラメント67,68が略直交するように順次積層することで、カセッテ1においてより高強度を得ることができる。
【0047】
前面板13の最表層65を覆う不織布66は、最表層65の長辺方向Aに対して交差する方向に20%以上の交差比率を有し、目付け(単位面積当たりの重さ)10〜150g/m2のリントフリーの不織布を重ねて成形されている。
【0048】
撮影時にカセッテ1のフロント部材10の前面板13が患者に接するが、図4のように、前面板13は不織布66で覆われているので、炭素繊維のささくれ(ほつれやバリ)の影響を排除し患者に不快感を与えないようにできる。なお、不織布66は、マイクロファイバやサーマルボンドであることが好ましい
【0049】
また、フロント部材10は、その外周のフレーム部材11とともに、加熱および加圧により一体に成形される。これにより、フロント部材10をフレーム部材11を含めて炭素繊維フィラメントで強化された積層体60から一体に形成でき、接着・接合層をなくすことができ、より簡単な構造にできるとともに、より簡単に製造することができる。
【0050】
次に、上述のフロント部材10を炭素繊維フィラメントを用いて製造する射出成形方法について説明する。本実施形態では、成形型の下型に敷設した繊維強化材(炭素繊維フィラメント)上に、上型を、シール材を介して重ねて型締めし、上型と下型との間のキャビティ内を、排気口を通じて排気した後または排気しながら、キャビティ内に樹脂を注入する方法であるRTM(Resin Transfer Molding)成形法を用いている。したがって、通常のRTM成形法において用いられる方法、手段、条件、装置等をそのまま用いることができる。
【0051】
成形型の種類としては、樹脂型、電鋳型、アルミ合金やステンレス等の金属を使用したいわゆる金型等がある。また、シール材としては、Oリング、パッキン、シーラント等があるが、好ましいのはOリングである。
【0052】
樹脂を注入するに際しては、成形型のキャビティ内を排気口から排気した後、成形型の一端側に形成された樹脂注入口からキャビティ内に樹脂を注入するか、あるいは、樹脂注入口からキャビティ内に樹脂を注入するとともに、成形型の他端側に形成された排気口から排気する。その際、樹脂注入時のキャビティ内の真空度が−0.10〜−0.08MPaであり、樹脂を硬化させる時の真空度が−0.08〜−0.02MPaであるのが好ましい。また、樹脂注入時の樹脂の粘度が0.01〜1Pa・sであるのが好ましい。
【0053】
本実施形態においては、減圧下の成形型に、樹脂を注入するに際し、先ず、成形型の締付けを緩めキャビティの容積を増加させた後、あるいはキャビティの容積を増加させつつ、所定量の樹脂を注入し、次いで、排気口を閉じ、成形型を元通り締付けた後、キャビティ内の樹脂を加熱硬化させるというところに最大の特徴がある。成形型の締付けを、樹脂注入の妨げとならない程度まで緩めながらも、その際、真空・減圧が漏れないように、また樹脂が型から漏れないように工夫を行うのである。樹脂の注入に際しては、樹脂ランナ等を用いて、成形型のキャビティ内に樹脂が均一に注入されるように、キャビティ周辺部に沿ってフィルムゲートを配置してもよい。
【0054】
成形型の締付けを緩めキャビティの容積を増加させる方法及び程度、また、所定量の樹脂を注入し、排気口を閉じ、成形型を元通り締付ける方法及び程度について説明する。例えば、シール材としてOリングを用いる場合には、密閉機能上最低限約8%の圧縮(つぶししろ)が必要とされており、応力亀裂が生じたりゴム材料の圧縮永久ひずみの限界とされるのが約30%の圧縮であるとされているので、かかる8〜30%の圧縮の範囲で、キャビティ内の容積を増減させるために、成形型の締付けを緩めたり元通りに締付けたりすればよい。
【0055】
また、例えば、パッキンやシーラントを用いる場合には、型締めを隙間換算で0.1〜5mmの範囲で、成形型の締付けを緩めたり元通りに締付けたりすればよい。
【0056】
本実施形態においては、成形型の締付けを緩めキャビティの容積を増加させる程度として、繊維体積含有率(Vf)を基準とした場合、所定量の樹脂の注入時のVfが、目標とする成形品のVfよりも10〜50%低い範囲に調節するのが好ましい。
【0057】
他の態様としては、樹脂の注入に際し、成形型の締付けを緩めキャビティの容積を増加させた後、あるいはキャビティの容積を増加させつつ、所定量の樹脂を注入し、次いで、排気口を閉じ、成形型を元通り締付けた後、キャビティ内の樹脂を加熱硬化させる繊維強化複合材の製造方法において、所定量の樹脂を注入し、成形型を元通り締付けた後、更に樹脂を加圧注入して、キャビティ内の樹脂を加熱硬化させる方法がある。かかる方法によると、加圧により樹脂中の気泡(ボイド)が小さくなり、強度等がより向上した繊維強化複合材が得られる。加圧注入する樹脂量は、特に限定されるものではないが、所定の圧力下で成形型キャビティ内に樹脂混合液が満たされるまで注入するのがよい。
【0058】
本実施形態において用いられる炭素繊維フィラメントは繊維径4〜8μmのモノフィラメント(単繊維)を一束あたり500〜24,000本としたものが好ましい。
【0059】
また、本実施形態では樹脂として熱硬化性樹脂を用いるが、熱可塑性樹脂を混合したものを用いてもよい。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、マレイミド樹脂、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、マレイミド樹脂とシアン酸エステル樹脂を予備重合した樹脂等があり、これらの熱硬化性樹脂を適宜量配合したものでもよい。これらの樹脂のうち、耐熱性、弾性率、耐薬品性に優れたエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂が好ましい。これらの熱硬化性樹脂には、硬化剤、硬化促進剤等が含まれていてもよい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を詳述する。Oリングを配した上下分割型の金型内に、不織布を1層及び炭素繊維基材を3層(東邦テナックス社製、W-7U61/W-3161/W-7U61基材からなる3層)配置し、金型の内表面に沿わせた後、型締めを行った(この時点で上下型のクリアランスは1mmとなる:製品厚みに相当)。その後、上型と下型との間のキャビティ内を、排気口を通じて、真空値が5mmHg程度になるまで排気した。キャビティ内を排気した後、金型の締付けを緩め、上下型のクリアランスが2mmとなるように設定して、キャビティの容積を増加させた。そして、ビニルエステル樹脂を主成分とする主剤を100重量部、熱分解型過酸化物を2.0重量部、反応促進剤(イミダゾール系化合物)を0.5重量部混合した樹脂混合液を、25℃の雰囲気下、樹脂注入用ホースからキャビティ内に注入し、樹脂を炭素繊維の積層物に含浸させた。この時点で、樹脂の注入時のVfが、目標とする成形品のVfよりも約30%低い範囲であった。所定量の樹脂を注入し、次いで、樹脂が金型の排出側に出た時点で排気口を閉じ、金型を元通り締付けた後、キャビティ内の樹脂を90℃で25分間、加熱硬化させた。本実施例では樹脂が出口側に出てきた時点で、経路を閉じるため樹脂に無駄がなくなる。また、型が閉め込まれただけ、注入された樹脂は排出、もしくは含浸されていない部分に浸透する。脱型後得られた積層板は、Vfが約55%でボイド等のない厚みが均一なものであった。
【0061】
上述のようにして得られる積層板について実施例1〜5及び比較例1,2として表面の不織布の交差比率を変えて破砕時のささくれを評価した。すなわち、下記の表1のように、不織布をサーマルボンドまたはマイクロファイバーとし、交差比率を0,10%(比較例1,2)及び20,40,50%(実施例1〜5)とした積層板を作製し、両端を支持し、中央に荷重を加えることで積層板の破壊試験を行い、その破砕の際の不織布表面のささくれを評価した。
【0062】
【表1】

【0063】
表1に示すように、交差比率が0,10%である比較例1,2では、ささくれが目立ったのに対し、交差比率が20%であると、実施例1のように不織布がサーマルボンドでもささくれがさほど目立たず、良好な結果であり、実施例2のように不織布がマイクロファイバーであると、ささくれが目立たず、極めて良好な結果であった。交差比率が40%以上であると、実施例3〜5のように不織布がサーマルボンドでもマイクロファイバーででも、ささくれが目立たず、極めて良好な結果であった。
【0064】
以上のように本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、カセッテのフロント部材とバック部材との合体・分離構造は、本実施形態での構造は一例であり、他の合体・分離構造であってもよいことはもちろんである。また、カセッテは、輝尽性蛍光体を利用した画像記録媒体を収容するものに限定されず、感光フィルムによる画像記録媒体を収容するものであってもよい。
【0065】
また、本実施形態のカセッテは、フロント部材とバック部材とが分離し合体する構造であるが、本発明はこれに限定されず、フロント部材とバック部材とが一体化された構造であってもよく、上述のような積層体構造とすることでカセッテ全体の軽量化・高強度化を図ることができる。また、フロント部材とバック部材とが分離し合体する構造の場合、バック部材も上述の積層体構造としてよい。
【0066】
また、フロント部材は、炭素繊維フィラメントに熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグシートを予め作製し、低温で保存しておき、プリプレグシートを所定層だけ積層して樹脂による加熱成形を行うことで作製するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本実施形態による医療用カセッテのフロント部材(A)及びバック部材(B)が分離した状態を示す斜視図である。
【図2】図1のフロント部材の概略的な断面図(A)、輝尽性蛍光体プレート及びトレー部材の概略的な断面図(B)及びバック部材の概略的な断面図(C)である。
【図3】図1の医療用カセッテのロック機構を説明するためのバック部材の内面図(A)及び要部断面を示す側断面図(B)である。
【図4】図1(A)、図2(A)のフロント部材10の断面構成を概略的に示す部分断面図である。
【図5】図1(A)、図2(A)のフロント部材10の炭素繊維フィラメントの配列方向を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0068】
1 カセッテ
10 フロント部材
11 フレーム部材
13 前面板
20 バック部材
28 蓄積性蛍光体プレート(画像記録媒体)
60 積層体
61〜65 層
66 不織布
67,68 炭素繊維フィラメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロント部材と前記フロント部材と対向するバック部材とから構成され内部に画像記録媒体を収容する医療用カセッテであって、
前記フロント部材は、多数本の炭素繊維フィラメントが一方向に配列され並べられた層を少なくとも2層以上重ねて熱硬化性樹脂に含浸させてなる積層体から構成されたことを特徴とする医療用カセッテ。
【請求項2】
前記積層体は前記炭素繊維フィラメントが略直交するように順次積層したものである請求項1に記載の医療用カセッテ。
【請求項3】
前記フロント部材は、その外周にフレーム部材を有し、前記フレーム部材を含んで加熱および加圧により一体に成形された請求項1または2に記載の医療用カセッテ。
【請求項4】
前記積層体の最表層の前記炭素繊維フィラメントの配列方向とカセッテ長辺方向とが略同一である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の医療用カセッテ。
【請求項5】
前記積層体における層数が4層〜12層である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の医療用カセッテ。
【請求項6】
前記積層体の最表層表面が不織布で覆われている請求項1乃至5のいずれか1項に記載の医療用カセッテ。
【請求項7】
撮影時に被写体側に配置されるフロント部材と前記フロント部材と対向するバック部材とから構成され内部に画像記録媒体を収容する医療用カセッテであって、
前記フロント部材は、多数本の炭素繊維フィラメントが一方向に配列され並べられた層を熱硬化性樹脂に含浸させてなる最表層を少なくとも有し、前記最表層表面が不織布で覆われていることを特徴とする医療用カセッテ。
【請求項8】
前記不織布がリントフリーの不織布である請求項7に記載の医療用カセッテ。
【請求項9】
前記不織布の交差比率が20%以上である請求項7または8に記載の医療用カセッテ。
【請求項10】
前記不織布は目付が5〜150g/m2の範囲内にある請求項7乃至9のいずれか1項に記載の医療用カセッテ。
【請求項11】
前記不織布がマイクロファイバである請求項7乃至10のいずれか1項に記載の医療用カセッテ。
【請求項12】
前記不織布がサーマルボンドである請求項8乃至10のいずれか1項に記載の医療用カセッテ。
【請求項13】
前記フロント部材と前記バック部材とが一体化された請求項1乃至12のいずれか1項に記載の医療用カセッテ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−174953(P2011−174953A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155494(P2008−155494)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】