説明

医療用チューブ

【課題】
薄肉でありながら、したがってできるだけ広い内径を有すると共に、高い剛性を備え、しかも良好な滑り性すなわち表面摩擦抵抗が低いダイレータを提供することにある。
【解決手段】
本発明は溶融成形によって成形されたふっ素樹脂の筒状体(チューブ)をガラス転移点以上融点以下で延伸した後熱固定(アニール)したことを特徴とするダイレータである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い剛性を有すると共に表面摩擦抵抗が低い薄肉の医療用チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
最近の医療技術の進歩に伴って、生体に大きな負担をかける切開手術などをすることなく生体内に医療用チューブ(カテーテル)を挿入して治療を行う方法が用いられるようになってきた。このような治療に用いられる医療用のチューブとして、例えばダイレータがある。このダイレータには、皮膚などへの挿入性(穿刺性)、血管などへの挿通性(穿通性)が求められると共にダイレータ内へ挿入物を挿入する際、ダイレータの内径はできるだけ広いことが求められている。
【0003】
従来のダイレータは、より良好な挿入性あるいは挿通性を得るために機械的強度などの観点から、比較的硬質の材料を使用したり、肉厚を厚くするという方法があったが、単に硬質、すなわち高い剛性を備えるだけで例えばシースとの滑り性が十分でなかったり、一方肉厚を厚くするという方法では、ダイレータにおいて一定の内径を確保しようとすると外径が大きくなってしまい、滑り性の良い材料を使用したとしても皮膚などへの挿入性、血管などへの挿通性が困難になるなどの課題があった。
【0004】
このようなダイレータについては、特開平7−204279(特許文献1)に記載されており、この特許文献1では、シースとセットで使用されるダイレータとそれに導入すべきカテーテルとの滑り性や、耐キンク性、製造コストなどを解決するために、硬度と剛性率を規定した合成樹脂からなる導入用カテーテルを提案しているが、このものでは、皮膚などへの挿入性、血管などへの挿通性がまだ十分ではなく、しかも滑り性も満足のいくものではない。したがって、皮膚などへ挿入あるいは血管などへ挿通させる際に先導的役割を担う十分な挿入性および挿通性などの特性を備えると共に滑り性が良好なダイレータの出現が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特開平7−204279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決することを目的とする。すなわち本発明の目的は、薄肉でありながら、したがってできるだけ広い内径を有すると共に、高い剛性を備え、しかも良好な滑り性、すなわち表面摩擦抵抗が低いダイレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、本発明の医療用チューブによって達成される。すなわち、本発明は溶融成形によって成形されたふっ素樹脂の筒状体(チューブ)をガラス転移点以上融点以下で延伸した後熱固定(アニール)したことを特徴とするダイレータである。また、本発明は上述したダイレータにおいて、延伸の倍率が3〜10倍であることを特徴とするダイレータである。
【0008】
さらに、本発明は、前記ふっ素樹脂に造影剤を添加物として含有させ、そのふっ素樹脂のガラス転移点以上融点以下で3〜10倍に延伸した後、熱固定することを特徴とするダイレータである。前記添加物が、酸化ビスマス或いは硫酸バリウムまたはこれらの組合せであることを特徴とするダイレータである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のダイレータは、溶融成形によって成形されたふっ素樹脂のチューブを軸方向に延伸したので、十分な挿入性および挿通性を確保できる剛性を備え、例えば血管などに穿刺し穿通するように使用した場合、キンクなどが生じることなく穿通を行うことができる。さらに、本発明のダイレータは、肉厚を厚くすることなく剛性を向上させることができるので、外径を増加させることなく大きな内径を確保することができる。
【0010】
さらに、造影剤を含有せしめ延伸することにより、ダイレータの導入位置が確認できると共に表面摩擦抵抗が低下し、例えばダイレータとセットで使用されるシースとの滑りが良好なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明によるダイレータを、その好ましい実施の形態に基づき図面を参照して説明する。
図1は本発明による好ましい実施の形態のダイレータを示す斜視図、、図2〜図4は図1に示すダイレータを製造する際の各工程における説明図、図5は図1に示すダイレータの剛性を測定する装置を示す図、図6は図1に示すダイレータの表面摩擦抵抗を測定する装置を示す図である。
【0012】
図1は、本発明によるダイレータ10を示しており、このダイレータ10は、溶融成形によって得られたチューブを矢印の方向、すなわち軸方向にガラス転移点以上融点以下の温度で延伸した後、アニールすることによって得られる筒状体である。ダイレータ10は中空部20および壁肉部30を備えており、このダイレータ10には、耐熱性、生体適合性、低い表面摩擦抵抗などを備える素材(熱可塑性ふっ素樹脂)として、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、パーフルオロアルコキシアルカン共重合体(PFA)、ふっ化ビニリデン(PVdF)などの中から単独、或いはこれらの組合せで選択して使用することができ、特にこれらのふっ素樹脂の中でもPVdFやETFEが好ましい。
【0013】
また、ダイレータ10の内径、外径、及び壁肉部の厚さなどの寸法は、延伸後のダイレータ10を所望の寸法に製造するために、延伸後の寸法、アニール後の寸法などを考慮して予め設計によって延伸前およびアニール前のチューブ寸法を決定しておけばよい。
【0014】
次に、本発明のダイレータ10の製造方法について、図2〜図4を参照して説明する。上述したダイレータ10の製造方法を以下に述べると、この製造方法は、チューブ成形工程、チューブ延伸工程、チューブアニール工程を備え、図2〜図4はこれらの各工程におけるチューブをそれぞれ示す図である。
【0015】
まず始めに、図2に示すチューブ成形工程では、ふっ素樹脂を用いて通常の押出し成形方法などにより、略直線状に延びるチューブを成形し、その後所定の長さに切断して、原管チューブ(原管)40を作製する。
【0016】
次に、図3に示すチューブ延伸工程では、図2に示す原管チューブ40を、ふっ素樹脂のガラス転移点以上融点以下で、図3に示すように、軸方向すなわちX方向に延伸させ、延伸されたチューブ50を得る。その際、延伸倍率は、3〜10倍が好ましく、より好ましくは3〜8倍である。延伸倍率が3倍以下ではダイレータの剛性の向上が低く挿入性および挿通性などの点で寄与が期待できず、10倍以上では(白化、クラックなどが生じ)外圧などの潰れに対する機械的特性が低下してしまう。
【0017】
さらに、図4に示すチューブアニール工程では、延伸されたチューブ50をふっ素樹脂のガラス転移点以上融点以下でY方向に収縮させ、その後、図1に示す本発明のダイレータ10を得る。このアニール処理は、延伸工程で原管チューブ40を延伸した後、延伸されたチューブ50の形状安定性を向上させるのに有効である。
【0018】
このように製造した本発明のダイレータは、溶融押出しによって賦形された熱可塑性ふっ素樹脂チューブを軸方向に延伸しているので、延伸前チューブに比べて格段に剛性が向上しており、従来の熱可塑性ふっ素樹脂製ダイレータに比べて挿入性および挿通性などの特性において優れている。すなわち、本発明のダイレータによれば、従来のダイレータに比べ生体へ穿刺し穿通するときにキンクが生じることなく穿通を行うことができる。
【0019】
さらに、本発明のダイレータに使用する熱可塑性ふっ素樹脂に造影剤のような添加剤を含有せしめて延伸することで、剛性が向上すると共に表面摩擦抵抗を低下せしめることができる。すなわち、造影剤を含有した原管チューブを延伸することにより表面摩擦抵抗の低下がさらに見られる。ここで、造影剤として、酸化ビスマス、次炭酸ビスマス、硫酸バリウム、タングステンなどを用いることができる。
【実施例】
【0020】
以下に本発明の実施例および比較例を示し本発明を述べる。
表1に示すような条件にて実施例、比較例のダイレータを作製した。
【0021】
【表1】

【0022】
ここで、表1で示したダイ温度とは通常の押出し方法によって溶融され、チューブ状に賦形され、チューブが出てくるところの金型温度であり、延伸倍率とは、チューブ状に賦形されたチューブを引取る一対の引取りローラ間で引取り速度を変え、延伸用加熱炉によって加熱されたチューブが軸方向に何倍伸ばされているかの長さの倍率であり、アニール温度及びアニール時間とは、延伸されたチューブを熱固定するために要した温度及び時間である。なお、表1の材質において、ETFEは旭硝子社製フルオン(登録商標)C−88AX、FEPは三井・デュポンフロロケミカル社製テフロン(登録商標)100J、PFAは旭硝子社製フルオン(登録商標)P−66XP、PVdFはアトフィナ社製KYNAR(登録商標)740を使用した。また、酸化ビスマスは住友金属鉱山社製の酸化ビスマス微粉砕品を使用した。
【0023】
表1に示す実施例、比較例のダイレータの剛性を測定した結果を表2に示し、表面摩擦抵抗(滑り性)を測定した結果を表3に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【0026】
なお、上記測定は、剛性を測定するために図5に示す剛性試験機60を使用した。測定手順を説明すると、剛性試験機60は、任意の長さCに切断した本発明のダイレータ10を基準位置70に設置し、片端を固定し(図5において、向かって左側を固定し)片持ち状態とする。その状態から固定した片端とは反対の端部に質量1.6gのおもり80を吊るし、ダイレータ10の片持ちされた固定位置から任意の長さBの位置において、基準位置70からダイレータ10の撓んだ幅Aを直尺90によって測定するものである。本発明の実施においては、Cを100mm、Bを50mmとして測定を行った。
【0027】
また、表面摩擦抵抗はJIS K7125(プラスチックフィルム及びシートの摩擦係数試験方法)に準拠して図6に示す装置を使用して測定した。測定手順を説明すると、本発明の複数本のダイレータ10を図示しない試験テーブルに配置し、ダイレータ10上に質量200gのおもり100を乗せ、このおもり100に吊り糸110を繋げ、滑車120を介して図示しないロードセルに連結し、D方向に毎分100mmの一定の速度で引張り、おもり100をダイレータ10上で滑らせて、その摩擦抵抗(荷重)を図示しないレコーダに記録するものである。
【0028】
これらの表2および表3から分かるように、実施例1〜12の撓み値すなわち剛性値は、対応する比較例のそれよりも小さく、すなわち剛性値は大きく、また、実施例4〜6および10〜12のおもりを引張る際の荷重は、対応する比較例のそれよりも小さいので実施例4〜6および10〜12の表面摩擦抵抗が小さいことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による好ましい実施の形態のダイレータを示す斜視図である。
【図2】図1に示すダイレータを製造する際のチューブ成形工程における説明図である。
【図3】図1に示すダイレータを製造する際のチューブ延伸工程における説明図である。
【図4】図1に示すダイレータを製造する際のチューブアニール工程における説明図である。
【図5】図1に示すダイレータの剛性を測定する装置を示す図である。
【図6】図1に示すダイレータの表面摩擦抵抗を測定する装置を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
10…ダイレータ 20…中空部 30…壁肉部 40…原管チューブ 50…チューブ 60…剛性試験機 70…基準位置 80…おもり 90…直尺 100…おもり 110…吊り糸 120…滑車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ふっ素樹脂からなる筒状体を該ふっ素樹脂のガラス転移点以上融点以下で延伸した後、熱固定したことを特徴とする医療用チューブ。
【請求項2】
前記延伸の倍率が3倍〜10倍であることを特徴とする請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項3】
前記ふっ素樹脂は造影剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項4】
前記造影剤は酸化ビスマス或いは硫酸バリウムまたはこれらの組合せであることを特徴とする請求項1に記載の医療用チューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−34894(P2006−34894A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−223524(P2004−223524)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000145530)株式会社潤工社 (71)
【Fターム(参考)】