医療用チューブ
【課題】側孔内に血栓が付着することを防止して、必要且つ十分な側孔の開口面積を維持し、同時に、カテーテル等がキンクすることを防止することが可能な、医療用チューブを提供する。
【解決手段】側孔40は、カテーテル本体の側面を貫通して形成されているが、側孔40周辺の編組体の素線26a,26bは、樹脂製の保護樹脂部280によって被覆されることにより、側孔40の内周面に露出することは無い。
【解決手段】側孔40は、カテーテル本体の側面を貫通して形成されているが、側孔40周辺の編組体の素線26a,26bは、樹脂製の保護樹脂部280によって被覆されることにより、側孔40の内周面に露出することは無い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側面に孔を有する医療用チューブと、これを用いたカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血管、消化管、尿管等の管状器官や体内組織に挿入され、使用されるカテーテル等の医療用機器には、樹脂からなる内側樹脂層と外側樹脂層の間に金属製の編組体が介在した構成を有する医療用チューブからなるものがある。このような医療用チューブは、例えば、心臓に用いられるガイディングカテーテルに代表されるカテーテルに用いられる。そして、この種の医療用チューブには、手技を行う際に血流を確保する等の理由により、上記医療用チューブの側面に1つ又は複数の孔(以下、側孔と呼ぶ)を有するものがある(例えば、下記特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−328123号公報
【特許文献2】特表2005−531388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような医療用チューブに側孔を設ける場合、側孔内を通過する血液が、血栓として側孔の内周面に付着し、側孔の直径が実質的に小さくなる場合がある。このような状態は、カテーテル等によって手技を行う際に、血流の確保が不十分となる可能性がある。
【0005】
このような可能性を防止するために、側孔の数や孔の直径を大きくする等して開口面積を予め大きめに確保する方法が考えられるが、このような方法は、医療用チューブの構造を弱いものとし、結果的に、これを用いたカテーテル等にキンク(折れ、つぶれ)を発生させる一要因となる可能性がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、側孔に血栓を付着し難くすることにより、側孔の必要且つ十分な開口面積を維持し、同時に、医療用チューブを用いたカテーテル等のキンクを防止することが可能な、医療用チューブを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の発明者は、上記の課題について研究を重ねた結果、医療用チューブを構成する編組体と血栓との関係について着目した。即ち、編組体の素線が側孔の内壁に露出した状態で側孔内に血液が流れた場合、血液が血栓として素線、特に金属製の素線の露出した部分に付着しやすいことをつきとめた。その結果、上記課題は、以下に列挙される手段により解決がなされ得る。
【0008】
<1> 長手方向に延びるルーメンを内部に有する樹脂製の筒状体からなる内側樹脂層と、前記内側樹脂層の外周に配設された少なくとも1本の素線からなる編組体と、前記編組体の外周を被覆する外側樹脂層と、前記外側樹脂層、編組体および前記内側樹脂層を貫通して前記ルーメンに連通する開口部を有し、前記編組体の隣接する前記素線の離間する距離が前記開口部の最大距離より小さいことにより、前記開口部が前記編組体の前記素線の少なくとも一部を切除する少なくとも1つの側孔とを有し、前記側孔の周囲に位置する前記編組体の切除された前記素線の端面は、樹脂製の保護樹脂部によって被覆されていることを特徴とする医療用チューブ。
【0009】
<2> 前記側孔の周囲に位置する前記編組体の切除された前記素線の端面は、前記側孔の内周面から離間していることを特徴とする請求項1に記載の医療用チューブ。
【0010】
<3> 前記保護樹脂部は、前記内側樹脂層側へ延出した前記外側樹脂層により形成されていることを特徴とする請求項1から2のいずれかに記載の医療用チューブ。
【0011】
<4> 請求項1から3のいずれかに記載の医療用チューブを管状のカテーテル本体として用いたカテーテル。
【発明の効果】
【0012】
<1> 本発明の医療用チューブは、保護樹脂部が、切除された編組体の素線の端面を被覆しているため、側孔の内周面には、編組体の素線は、露出しない。このため、側孔内の素線に血栓が付着することが防止されるため、手技中に側孔の開口面積が小さくなることが防止でき、手技中の全体に亘り、安定的に側孔を用いた血液の確保を実現できる。即ち、編組体の側孔が貫通する部分において、隣接する素線が離間する距離が、側孔の開口部の最大距離より小さい場合、即ち、側孔が構造上、不可避的に素線の一部を切り欠いてしまう場合であっても、保護樹脂部によって素線に血栓が付着することが防止できるため、有効な医療用チューブを提供できる。
【0013】
また、側孔に血栓が付着することが防止できるため、側孔の開口面積を血栓の付着分を予め考慮して大きく設定したり、側孔の数を増やしたりする必要は無いため、医療用チューブにおける側孔が形成されている部分が構造的に弱くなることを可及的に防止できる。加えて、編組体上に側孔を形成したとしても、医療用チューブが構造上弱くなることを可及的に防止できるため、側孔を編組体の存在しない部分を選択して形成する等、側孔を形成する上での制限を減少させることができる。
【0014】
更に、保護樹脂部が、側孔周辺の編組体の素線を被覆しているため、医療用チューブが屈曲しても、側孔内から素線が飛び出し、血管内部等を傷つける等の不測の危険も防止できる。
【0015】
<2> 発明の態様2(請求項2の発明)では、編組体の切除された素線の端面を側孔の内周面から離間させることによって、容易に上記態様1の効果を達成できる。この構成は、編組体の素線の一部を電解研磨等によって溶解し、除去することによって容易に形成できる。
【0016】
<3> 発明の態様3(請求項3の発明)では、外側樹脂層が保護樹脂部を形成するため、本発明の構成を容易に実現できる。
【0017】
<4> 発明の態様4(請求項4の発明)では、上記態様1から3の構成をカテーテルに適用することによって、側孔に血栓が付着することなく、安定的に血流を確保できるカテーテルを提供できる。また、編組体の素線が側孔内に露出することがないため、カテーテルが屈曲した際等に露出した素線によって血管内部等を傷つける等の不測の危険を可及的に防止できる安全なカテーテルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本実施の形態の医療用チューブを用いたカテーテルの全体図である。
【図2】図2は、図1のカテーテルの先端部分の断面図である。
【図3】図3は、編組体を示した図である。
【図4】図4は、側孔を形成する第1のステップを示した図である。
【図5】図5は、側孔を形成する第2のステップを示した図である。
【図6】図6は、完成した側孔を示した図である。
【図7】図7は、本実施の形態の作用を説明するための図である。
【図8】図8は、第2の実施例を示した図である。
【図9】図9は、第3の実施例を示した図である。
【図10】図10は、第4の実施例を示した図である。
【図11】図11は、第5の実施例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施の形態の医療用チューブを、図1〜7に示される心臓用のガイディングカテーテル10に用いた場合を例に説明する。尚、各図において、以下に示される編組体26の素線26a、26bや、側孔40,50等の他の部分に比べて小さな部材は、理解を容易にするために、他の部材との寸法の関係でやや誇張して図示されている。
【0020】
図1に示されるガイディングカテーテル10は管状の医療用機器であり、可撓性を有するカテーテル本体12(医療用チューブ)と、このカテーテル本体12の遠位端に固定されたチップ14と、カテーテル本体12の近位端に固定されたコネクタ16とからなる。
【0021】
カテーテル本体12の遠位部分には、カテーテル10が体内に挿入された際に、カテーテル10の先端部が冠状動脈孔に係合するように屈曲部112が設けられている。
より具体的には、チップ14はカテーテル10の先端開口部14aを構成する円筒の部材であり、ポリウレタンエラストマ等の樹脂からなる。チップ14の軸方向の長さは約3.0mm程度である。
【0022】
カテーテル本体12は、図2に示す様に、外径が約1.5〜3.0mm程度の管状の部材であり、内部にガイドワイヤや他のカテーテルが挿入されるためのルーメン18を構成する内側樹脂層24を有する。この内側樹脂層24の樹脂材料は、特に限定されるものではないが、本実施の形態では、PTFE(ポリテトラフルオロチレン)が用いられる。
内側樹脂層24の表面には編組体26が配設されている。編組体26は、図2,3に示す様に複数の金属素線26a、26bがメッシュ状(網目状)に編み込まれたものである。本実施の形態の場合、8本×8本の合計16本の金属素線26a、26bが交互に編みこまれている。図3に示す様に、各素線26a、26bが内側樹脂層24の表面の1周を巻回する1ピッチは、約3.0mmである。
【0023】
本実施の形態の場合、断面が略長方形の異なる幅の素線26a、26bが用いられている。素線26aの幅は、約0.14mmであり、素線26bの幅は、約0.11mmである。
しかし、編組体26を構成する素線は、このように異なる素線を組み合わせた網目状のものである必要は無く、同じ素線を組み合わせたものでも良い。また、メッシュ状では無い1本の素線からなるコイル状の編組体でも良い。
【0024】
また、素線26a、26bの断面形状についても、略長方形に特に限定されるものでは無く、丸型や正方形型等が用いられる。
【0025】
素線26a、26bの金属材料も、特に限定されるものではないが、例えば、ステンレス鋼(SUS304)、タングステン等が用いられる。本実施の形態では、ステンレス鋼(SUS304)が用いられている。
【0026】
編組体26の表面は外側樹脂層28によって被覆されている。外側樹脂層28は遠位側より順に第1外側樹脂層28a、第2外側樹脂層28b、第3外側樹脂層28c、第4外側樹脂層28dの4つの部分からなり、この順で樹脂の硬度が高くなっている。外側樹脂層28の樹脂材料も、特に限定されるものではなく、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン等が用いられる。本実施の形態では、ポリアミドが用いられている。
【0027】
第1外側樹脂層28a、第2外側樹脂層28bは、軸方向に、それぞれ約10.0mmの長さを有し、第3外側樹脂層28cは、第1外側樹脂層28a、第2外側樹脂層28bより長い所定の長さを有している。そして、外側樹脂層28の残りの部分が、第4外側樹脂層28dとなっている。
【0028】
図1、7に示す様に、第2外側樹脂層28bの部分には、第2外側樹脂層28bの外表面から編組体26、内側樹脂層24を介して、ルーメン18に貫通するように、2つの側孔40,50が設けられている。側孔40、50は、円形の穴であり、その直径(開口部の最大距離)は、約0.7〜1.0mm程度である。カテーテル本体12の外径にもよるが、好ましくは、直径は、0.8〜0.9mm程度に設定されている。
【0029】
尚、側孔の数や直径は、これに限定されるものでは無く、必要に応じて適宜に設定可能である。
【0030】
上述した編組体26のピッチ、及び、各素線26a、26bの幅と、側孔40,50の直径の大きさから明らかなように、図3に示される隣接する素線26a同士、素線26b同士が離間する距離La、Lb(一方の素線の端部から他方の素線の端部までの距離)は、共に側孔40,50の直径(開口部の最大距離)より小さいため、側孔40,50は素線26a、26bを少なくとも一部を切断して穿設されることになる。即ち、側孔40,50は素線26a、26bを完全に切断するか、又は、素線26a、26bの一部を切り欠いて形成される。
【0031】
側孔40、50は、カテーテル本体12の屈曲部112の側面、より詳しくは、屈曲部112が略平面を形成する側面において、カテーテル本体12の長手方向の軸線に直交する方向に穿設されている。側孔40、50が穿設される位置は、カテーテル10の先端から約10.0mm以上近位側に設定されており、カテーテル10の先端から15.0〜30.0mm程度の位置が好ましい。また、この穿設する位置を設定する際には、第2外側樹脂層28bの部分のように、屈曲部112の屈曲が少ない略直線状の部分に設定することが好ましい。これは、カテーテル10が使用された際に、屈曲が大きい位置に側孔40、50が設けられると、その位置が大きく屈伸し、この屈伸による負荷により、カテーテル本体12のキンク(折れ、つぶれ)が生じやすくなることを防止するためである。
【0032】
次に、図4〜図6を用いて側孔40の構成を説明する。各図4〜図6の(A)は、側孔40が形成された部分を外側樹脂層28を除去した状態で見た上面図であり、(B)は、カテーテル本体12における側孔40が形成されている部分の断面図である。側孔50の構成も基本的に側孔40と同じであるため、説明は省略する。
【0033】
側孔40は、図6に示す様に、完成した状態における内径がd3として示されており、外側樹脂層28側の開口部は、円弧状のテーパ部40bを有して広げられている。そして、編組体26の素線26a、26bの各端面260が側孔40の内周面40aに露出しないように外側樹脂層28(第2外側樹脂層28b)の一部である樹脂が保護樹脂部280として端部260を被覆している。
【0034】
次に、このような側孔40の形成方法について、図4〜図6を用いて説明する。
まず、図4に示す様に、外側樹脂層28(第2外側樹脂層28b)側からルーメン18に向けて初期孔41を形成する。初期孔41の内径d1は、最終的な内径d3より若干小さく設定されている。この初期孔41をカテーテル本体12に穿設するには、例えばレーザ加工が用いられる。
【0035】
この初期孔41が形成された状態では、編組体26の素線26a、26bの各端面261は初期孔41の内周面41aに一致し、露出した状態となっている。
次に、図5に示す様に、編組体26の素線26a、26bの各端面261が初期孔41の内周面41aより内側に入り込む位置まで、編組体26の素線26a、26bの各端部を除去する。これによって、素線26a、26bの各端部が除去された分だけ空間41bが形成される。そして、編組体26の各端面261が後退して端面260となる。ここで端面260を結んだ破線で示される円の直径d2と初期孔41の内径d1の比d2/d1は1.35〜1.65程度とされている。
【0036】
このような編組体26の素線26a、26bの端部の除去は、工具を用いた機械的方法によってもなし得るが、電解研磨や化学研磨等の方法により、金属製の素線26a、26bを溶解させることによって容易に達成できる。
最後に、図6に示す様に、除去された編組体26によって形成された空間41bに、外側樹脂層28(第2外側樹脂層28b)を押し込むことによって、編組体26の端面260が孔の内面に露出しないようにする。押し込まれた外側樹脂層28の端部である樹脂は、保護樹脂部280として、編組体26の端面260を被覆すると共に、側孔40の内周面40aの一部を形成する。これによって、直径が最終内径d3となり、外側樹脂層28の開口部には円弧状のテーパ部40bが形成される。上述したように最終内径d3は、外側樹脂層28を空間41b押し込む必要性から、初期孔41の内径d1より若干大きく設定されている。
【0037】
外側樹脂層28を押し込むためには、工具(ポンチ)を所定の温度に熱した工具によって機械的な押圧力を付与することによって達成できる。工具は、最終内径d3を形成するための直径を有する円筒部と、外側樹脂層28の開口部にテーパ部40bを形成するための円弧状部を有する。
以上の構成に基づいて、カテーテル本体(医療用チューブ)12を用いたガイディングカテーテル10を心臓の手技に用いた場合を例として、本実施の形態の作用を説明する。
【0038】
図7は、カテーテル10が手首部の橈骨動脈から挿入され、大動脈80を経て左冠状動脈孔81に係合した状態を例示している。このような状態でカテーテル10のルーメン18内には、図示しないバルーンカテーテル等の治療用カテーテルやガイドワイヤが挿通されて、心臓に対する治療が行われる。この際、カテーテル10の遠位端部は、左冠状動脈孔81に係合しているため、カテーテル10の遠位端部が左冠状動脈孔81を塞いでしまい、大動脈80から左冠状動脈82に流入する血液が不足する状態、所謂、虚血状態となる可能性がある。
【0039】
これを防止するために、カテーテル10の側面に側孔40,50が設けられることによって、図7中の矢印C,Dにて示す様に、大動脈80内の血液は、カテーテル10の側方から側孔40,50を介してルーメン18内に流入し、カテーテル10の遠位端に設けられた開口部14aから流出する。これによって、大動脈80から左冠状動脈82に流入する血液が確保される。
【0040】
側孔40,50は、カテーテル本体12の側面に内部の編組体26を貫通して穿設されているにも係らず、外側樹脂層28の端部である保護樹脂部280が、編組体26の素線26a、26bの端面260を被覆しているため、内周面40aには、編組体26の素線26a、26bは、露出しない。このため、素線26a、26bに側孔40,50に血栓が付着することが防止できるため、手技中に側孔40,50の開口面積が小さくなることが防止でき、手技の間、安定的に大動脈80から左冠状動脈82に流入する血液が確保される。
【0041】
また、側孔40,50に血栓が付着することが防止できるため、血栓の付着分を考慮して、側孔40,50の開口面積を予め大きく設定したり、側孔の数を増やしたりする必要が無い。このため、カテーテル本体12における側孔40,50が形成されている部分に編組体26が不足、欠損し、カテーテル本体12が構造上弱くなることを可及的に防止できる。加えて、編組体26上に側孔40,50が形成されることによる編組体の不足、欠損を可及的に抑制できるため、側孔40,50を編組体26の存在しない部分を選択して側孔の位置を設定したり、編組体の素線間隔を調整する等の側孔を形成する上での制限を減少させることができる。
【0042】
更に、外側樹脂層28の保護樹脂部280が、編組体26の素線26a、26bの端面260を被覆しているため、手技中にカテーテル本体12が屈曲しても、側孔40,50から素線26a、26bが飛び出し、血管内部を傷つける等の不測の危険も防止できる。
【0043】
この時、側孔40,50の各内周面40aは、外側樹脂層28側にテーパ部40bを有しているため、手技中にカテーテル本体12が屈曲した際に、側孔40,50の開口部の角が血管内部に接触することが無く、血管内部を傷つける等の不測の危険を一層防止できる。
【0044】
以上述べた実施の形態では、例えば、電解研磨等の方法で、外側樹脂層28と内側樹脂層24との間に配設された編組体26の素線26a,26bを選択的に除去し、その外側樹脂層28と内側樹脂層24との間の空間に、外側樹脂層28の樹脂を押し込むことで、編組体26の素線26a,26bの側孔40内への露出を防止している。このため、外側樹脂層28を利用して外側樹脂層28と内側樹脂層24との間の空間を埋めるための余分な他の部材を必要とすることが無く、極めて簡単な方法で、編組体26の側孔40内への露出を防止できる。
【0045】
図8は電解研磨を用いた第2の実施例を示している。編組体26の素線126a,126bの内、側孔40の周囲に位置する素線126aは側孔40の内周面から離間するように電解研磨で除去され、側孔40の外周を囲むように除去された部分1260を有している。そして、素線126aが除去されてできた空間に、外側樹脂層の樹脂を押し込むことで保護樹脂部281を形成し、編組体26の素線126aが側孔40内へ露出することを防止できる。
【0046】
これに対して図9に示された第3の実施例は、編組体26の素線226a,226bの内、側孔40の周囲に位置する素線226a,226bを側孔40の内周面から離間するように変形させ、側孔40の周囲以外に位置する編組体26の素線226a,226bとは異なる形状としたものである。側孔40の周囲に位置する素線226a,226bは、側孔40の外周を囲むように、湾曲した部分2260a,2260bをそれぞれ有している。このように素線226a,226bを湾曲させて側孔40の内周面から離間させことによって、湾曲した部分2260a,2260bと側孔40との間に保護樹脂部282を形成し、編組体26の素線226a,226bが側孔40内へ露出することを防止できる。この実施例では、素線226a,226b自体を変形させているため、素線を切り欠いたり、切断したりする必要が無いため、編組体の欠損によって医療用チューブが構造上、弱くなることを可及的に防止できる。
【0047】
図10に示される第4の実施例は、更に他の実施例を示したものである。この実施例では、内側樹脂層24を残して、外側樹脂層28の外側から編組体26の素線26a、26bまでを除去する。そして、この除去した部分に筒状の別の樹脂部材からなる保護樹脂部283を嵌め込むことによって、編組体26が側孔40内への露出することを防止するものである。
【0048】
図11に示される第5の実施例では、予め大きめに初期孔141を形成しておき、この初期孔141内に、筒状の別の樹脂部材からなる保護樹脂部284を嵌め込んで配置したものである。
【0049】
保護樹脂部283、284を形成する樹脂は、外側樹脂層28と同じであっても、異なるものでも良い。別の樹脂を選択した場合は、例えば、コーティングを施した樹脂やPTFE(ポリテトラフルオロチレン)の様に、比較的血栓の付着し難い樹脂を用いることが可能となる他、編組体26の素線26a、26bが露出し難い硬い樹脂等を用いることができる等、有利な点が認められる。
【0050】
以上述べた実施の形態では、側孔40,50の開口部は略円形形状であるが、開口部の形状は特に限定されるものでは無い。楕円形、長円形、四角形、六角形等の多角形等の各種の形状がとり得る。
【0051】
また、以上述べた実施の形態では、外側樹脂層28、内側樹脂層24、編組体26の三層構造のカテーテル本体12を例示したが、編組体26を被覆する別の中間樹脂層を設けた構成としてもよい。この場合は、保護樹脂部は、外側樹脂層だけでなく、中間樹脂層からも形成されることになる。
【0052】
更に、以上述べた実施の形態では、ガイディングカテーテルに本発明の医療用チューブを適用したものであるが、本発明の医療用チューブは、ガイディングカテーテルに限られるものでは無く、造影用カテーテル等の他の種類のカテーテルの他、各種の管状の医療用機器に適用できる。
【符号の説明】
【0053】
12 カテーテル本体(医療用チューブ)
18 ルーメン
24 内側樹脂層
26 編組体
26a,26b,126a,126b,226a,226b 素線
28 外側樹脂層
40,50 側孔
280,281,282,283,284 保護樹脂部
【技術分野】
【0001】
本発明は、側面に孔を有する医療用チューブと、これを用いたカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血管、消化管、尿管等の管状器官や体内組織に挿入され、使用されるカテーテル等の医療用機器には、樹脂からなる内側樹脂層と外側樹脂層の間に金属製の編組体が介在した構成を有する医療用チューブからなるものがある。このような医療用チューブは、例えば、心臓に用いられるガイディングカテーテルに代表されるカテーテルに用いられる。そして、この種の医療用チューブには、手技を行う際に血流を確保する等の理由により、上記医療用チューブの側面に1つ又は複数の孔(以下、側孔と呼ぶ)を有するものがある(例えば、下記特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−328123号公報
【特許文献2】特表2005−531388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような医療用チューブに側孔を設ける場合、側孔内を通過する血液が、血栓として側孔の内周面に付着し、側孔の直径が実質的に小さくなる場合がある。このような状態は、カテーテル等によって手技を行う際に、血流の確保が不十分となる可能性がある。
【0005】
このような可能性を防止するために、側孔の数や孔の直径を大きくする等して開口面積を予め大きめに確保する方法が考えられるが、このような方法は、医療用チューブの構造を弱いものとし、結果的に、これを用いたカテーテル等にキンク(折れ、つぶれ)を発生させる一要因となる可能性がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、側孔に血栓を付着し難くすることにより、側孔の必要且つ十分な開口面積を維持し、同時に、医療用チューブを用いたカテーテル等のキンクを防止することが可能な、医療用チューブを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の発明者は、上記の課題について研究を重ねた結果、医療用チューブを構成する編組体と血栓との関係について着目した。即ち、編組体の素線が側孔の内壁に露出した状態で側孔内に血液が流れた場合、血液が血栓として素線、特に金属製の素線の露出した部分に付着しやすいことをつきとめた。その結果、上記課題は、以下に列挙される手段により解決がなされ得る。
【0008】
<1> 長手方向に延びるルーメンを内部に有する樹脂製の筒状体からなる内側樹脂層と、前記内側樹脂層の外周に配設された少なくとも1本の素線からなる編組体と、前記編組体の外周を被覆する外側樹脂層と、前記外側樹脂層、編組体および前記内側樹脂層を貫通して前記ルーメンに連通する開口部を有し、前記編組体の隣接する前記素線の離間する距離が前記開口部の最大距離より小さいことにより、前記開口部が前記編組体の前記素線の少なくとも一部を切除する少なくとも1つの側孔とを有し、前記側孔の周囲に位置する前記編組体の切除された前記素線の端面は、樹脂製の保護樹脂部によって被覆されていることを特徴とする医療用チューブ。
【0009】
<2> 前記側孔の周囲に位置する前記編組体の切除された前記素線の端面は、前記側孔の内周面から離間していることを特徴とする請求項1に記載の医療用チューブ。
【0010】
<3> 前記保護樹脂部は、前記内側樹脂層側へ延出した前記外側樹脂層により形成されていることを特徴とする請求項1から2のいずれかに記載の医療用チューブ。
【0011】
<4> 請求項1から3のいずれかに記載の医療用チューブを管状のカテーテル本体として用いたカテーテル。
【発明の効果】
【0012】
<1> 本発明の医療用チューブは、保護樹脂部が、切除された編組体の素線の端面を被覆しているため、側孔の内周面には、編組体の素線は、露出しない。このため、側孔内の素線に血栓が付着することが防止されるため、手技中に側孔の開口面積が小さくなることが防止でき、手技中の全体に亘り、安定的に側孔を用いた血液の確保を実現できる。即ち、編組体の側孔が貫通する部分において、隣接する素線が離間する距離が、側孔の開口部の最大距離より小さい場合、即ち、側孔が構造上、不可避的に素線の一部を切り欠いてしまう場合であっても、保護樹脂部によって素線に血栓が付着することが防止できるため、有効な医療用チューブを提供できる。
【0013】
また、側孔に血栓が付着することが防止できるため、側孔の開口面積を血栓の付着分を予め考慮して大きく設定したり、側孔の数を増やしたりする必要は無いため、医療用チューブにおける側孔が形成されている部分が構造的に弱くなることを可及的に防止できる。加えて、編組体上に側孔を形成したとしても、医療用チューブが構造上弱くなることを可及的に防止できるため、側孔を編組体の存在しない部分を選択して形成する等、側孔を形成する上での制限を減少させることができる。
【0014】
更に、保護樹脂部が、側孔周辺の編組体の素線を被覆しているため、医療用チューブが屈曲しても、側孔内から素線が飛び出し、血管内部等を傷つける等の不測の危険も防止できる。
【0015】
<2> 発明の態様2(請求項2の発明)では、編組体の切除された素線の端面を側孔の内周面から離間させることによって、容易に上記態様1の効果を達成できる。この構成は、編組体の素線の一部を電解研磨等によって溶解し、除去することによって容易に形成できる。
【0016】
<3> 発明の態様3(請求項3の発明)では、外側樹脂層が保護樹脂部を形成するため、本発明の構成を容易に実現できる。
【0017】
<4> 発明の態様4(請求項4の発明)では、上記態様1から3の構成をカテーテルに適用することによって、側孔に血栓が付着することなく、安定的に血流を確保できるカテーテルを提供できる。また、編組体の素線が側孔内に露出することがないため、カテーテルが屈曲した際等に露出した素線によって血管内部等を傷つける等の不測の危険を可及的に防止できる安全なカテーテルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本実施の形態の医療用チューブを用いたカテーテルの全体図である。
【図2】図2は、図1のカテーテルの先端部分の断面図である。
【図3】図3は、編組体を示した図である。
【図4】図4は、側孔を形成する第1のステップを示した図である。
【図5】図5は、側孔を形成する第2のステップを示した図である。
【図6】図6は、完成した側孔を示した図である。
【図7】図7は、本実施の形態の作用を説明するための図である。
【図8】図8は、第2の実施例を示した図である。
【図9】図9は、第3の実施例を示した図である。
【図10】図10は、第4の実施例を示した図である。
【図11】図11は、第5の実施例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施の形態の医療用チューブを、図1〜7に示される心臓用のガイディングカテーテル10に用いた場合を例に説明する。尚、各図において、以下に示される編組体26の素線26a、26bや、側孔40,50等の他の部分に比べて小さな部材は、理解を容易にするために、他の部材との寸法の関係でやや誇張して図示されている。
【0020】
図1に示されるガイディングカテーテル10は管状の医療用機器であり、可撓性を有するカテーテル本体12(医療用チューブ)と、このカテーテル本体12の遠位端に固定されたチップ14と、カテーテル本体12の近位端に固定されたコネクタ16とからなる。
【0021】
カテーテル本体12の遠位部分には、カテーテル10が体内に挿入された際に、カテーテル10の先端部が冠状動脈孔に係合するように屈曲部112が設けられている。
より具体的には、チップ14はカテーテル10の先端開口部14aを構成する円筒の部材であり、ポリウレタンエラストマ等の樹脂からなる。チップ14の軸方向の長さは約3.0mm程度である。
【0022】
カテーテル本体12は、図2に示す様に、外径が約1.5〜3.0mm程度の管状の部材であり、内部にガイドワイヤや他のカテーテルが挿入されるためのルーメン18を構成する内側樹脂層24を有する。この内側樹脂層24の樹脂材料は、特に限定されるものではないが、本実施の形態では、PTFE(ポリテトラフルオロチレン)が用いられる。
内側樹脂層24の表面には編組体26が配設されている。編組体26は、図2,3に示す様に複数の金属素線26a、26bがメッシュ状(網目状)に編み込まれたものである。本実施の形態の場合、8本×8本の合計16本の金属素線26a、26bが交互に編みこまれている。図3に示す様に、各素線26a、26bが内側樹脂層24の表面の1周を巻回する1ピッチは、約3.0mmである。
【0023】
本実施の形態の場合、断面が略長方形の異なる幅の素線26a、26bが用いられている。素線26aの幅は、約0.14mmであり、素線26bの幅は、約0.11mmである。
しかし、編組体26を構成する素線は、このように異なる素線を組み合わせた網目状のものである必要は無く、同じ素線を組み合わせたものでも良い。また、メッシュ状では無い1本の素線からなるコイル状の編組体でも良い。
【0024】
また、素線26a、26bの断面形状についても、略長方形に特に限定されるものでは無く、丸型や正方形型等が用いられる。
【0025】
素線26a、26bの金属材料も、特に限定されるものではないが、例えば、ステンレス鋼(SUS304)、タングステン等が用いられる。本実施の形態では、ステンレス鋼(SUS304)が用いられている。
【0026】
編組体26の表面は外側樹脂層28によって被覆されている。外側樹脂層28は遠位側より順に第1外側樹脂層28a、第2外側樹脂層28b、第3外側樹脂層28c、第4外側樹脂層28dの4つの部分からなり、この順で樹脂の硬度が高くなっている。外側樹脂層28の樹脂材料も、特に限定されるものではなく、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン等が用いられる。本実施の形態では、ポリアミドが用いられている。
【0027】
第1外側樹脂層28a、第2外側樹脂層28bは、軸方向に、それぞれ約10.0mmの長さを有し、第3外側樹脂層28cは、第1外側樹脂層28a、第2外側樹脂層28bより長い所定の長さを有している。そして、外側樹脂層28の残りの部分が、第4外側樹脂層28dとなっている。
【0028】
図1、7に示す様に、第2外側樹脂層28bの部分には、第2外側樹脂層28bの外表面から編組体26、内側樹脂層24を介して、ルーメン18に貫通するように、2つの側孔40,50が設けられている。側孔40、50は、円形の穴であり、その直径(開口部の最大距離)は、約0.7〜1.0mm程度である。カテーテル本体12の外径にもよるが、好ましくは、直径は、0.8〜0.9mm程度に設定されている。
【0029】
尚、側孔の数や直径は、これに限定されるものでは無く、必要に応じて適宜に設定可能である。
【0030】
上述した編組体26のピッチ、及び、各素線26a、26bの幅と、側孔40,50の直径の大きさから明らかなように、図3に示される隣接する素線26a同士、素線26b同士が離間する距離La、Lb(一方の素線の端部から他方の素線の端部までの距離)は、共に側孔40,50の直径(開口部の最大距離)より小さいため、側孔40,50は素線26a、26bを少なくとも一部を切断して穿設されることになる。即ち、側孔40,50は素線26a、26bを完全に切断するか、又は、素線26a、26bの一部を切り欠いて形成される。
【0031】
側孔40、50は、カテーテル本体12の屈曲部112の側面、より詳しくは、屈曲部112が略平面を形成する側面において、カテーテル本体12の長手方向の軸線に直交する方向に穿設されている。側孔40、50が穿設される位置は、カテーテル10の先端から約10.0mm以上近位側に設定されており、カテーテル10の先端から15.0〜30.0mm程度の位置が好ましい。また、この穿設する位置を設定する際には、第2外側樹脂層28bの部分のように、屈曲部112の屈曲が少ない略直線状の部分に設定することが好ましい。これは、カテーテル10が使用された際に、屈曲が大きい位置に側孔40、50が設けられると、その位置が大きく屈伸し、この屈伸による負荷により、カテーテル本体12のキンク(折れ、つぶれ)が生じやすくなることを防止するためである。
【0032】
次に、図4〜図6を用いて側孔40の構成を説明する。各図4〜図6の(A)は、側孔40が形成された部分を外側樹脂層28を除去した状態で見た上面図であり、(B)は、カテーテル本体12における側孔40が形成されている部分の断面図である。側孔50の構成も基本的に側孔40と同じであるため、説明は省略する。
【0033】
側孔40は、図6に示す様に、完成した状態における内径がd3として示されており、外側樹脂層28側の開口部は、円弧状のテーパ部40bを有して広げられている。そして、編組体26の素線26a、26bの各端面260が側孔40の内周面40aに露出しないように外側樹脂層28(第2外側樹脂層28b)の一部である樹脂が保護樹脂部280として端部260を被覆している。
【0034】
次に、このような側孔40の形成方法について、図4〜図6を用いて説明する。
まず、図4に示す様に、外側樹脂層28(第2外側樹脂層28b)側からルーメン18に向けて初期孔41を形成する。初期孔41の内径d1は、最終的な内径d3より若干小さく設定されている。この初期孔41をカテーテル本体12に穿設するには、例えばレーザ加工が用いられる。
【0035】
この初期孔41が形成された状態では、編組体26の素線26a、26bの各端面261は初期孔41の内周面41aに一致し、露出した状態となっている。
次に、図5に示す様に、編組体26の素線26a、26bの各端面261が初期孔41の内周面41aより内側に入り込む位置まで、編組体26の素線26a、26bの各端部を除去する。これによって、素線26a、26bの各端部が除去された分だけ空間41bが形成される。そして、編組体26の各端面261が後退して端面260となる。ここで端面260を結んだ破線で示される円の直径d2と初期孔41の内径d1の比d2/d1は1.35〜1.65程度とされている。
【0036】
このような編組体26の素線26a、26bの端部の除去は、工具を用いた機械的方法によってもなし得るが、電解研磨や化学研磨等の方法により、金属製の素線26a、26bを溶解させることによって容易に達成できる。
最後に、図6に示す様に、除去された編組体26によって形成された空間41bに、外側樹脂層28(第2外側樹脂層28b)を押し込むことによって、編組体26の端面260が孔の内面に露出しないようにする。押し込まれた外側樹脂層28の端部である樹脂は、保護樹脂部280として、編組体26の端面260を被覆すると共に、側孔40の内周面40aの一部を形成する。これによって、直径が最終内径d3となり、外側樹脂層28の開口部には円弧状のテーパ部40bが形成される。上述したように最終内径d3は、外側樹脂層28を空間41b押し込む必要性から、初期孔41の内径d1より若干大きく設定されている。
【0037】
外側樹脂層28を押し込むためには、工具(ポンチ)を所定の温度に熱した工具によって機械的な押圧力を付与することによって達成できる。工具は、最終内径d3を形成するための直径を有する円筒部と、外側樹脂層28の開口部にテーパ部40bを形成するための円弧状部を有する。
以上の構成に基づいて、カテーテル本体(医療用チューブ)12を用いたガイディングカテーテル10を心臓の手技に用いた場合を例として、本実施の形態の作用を説明する。
【0038】
図7は、カテーテル10が手首部の橈骨動脈から挿入され、大動脈80を経て左冠状動脈孔81に係合した状態を例示している。このような状態でカテーテル10のルーメン18内には、図示しないバルーンカテーテル等の治療用カテーテルやガイドワイヤが挿通されて、心臓に対する治療が行われる。この際、カテーテル10の遠位端部は、左冠状動脈孔81に係合しているため、カテーテル10の遠位端部が左冠状動脈孔81を塞いでしまい、大動脈80から左冠状動脈82に流入する血液が不足する状態、所謂、虚血状態となる可能性がある。
【0039】
これを防止するために、カテーテル10の側面に側孔40,50が設けられることによって、図7中の矢印C,Dにて示す様に、大動脈80内の血液は、カテーテル10の側方から側孔40,50を介してルーメン18内に流入し、カテーテル10の遠位端に設けられた開口部14aから流出する。これによって、大動脈80から左冠状動脈82に流入する血液が確保される。
【0040】
側孔40,50は、カテーテル本体12の側面に内部の編組体26を貫通して穿設されているにも係らず、外側樹脂層28の端部である保護樹脂部280が、編組体26の素線26a、26bの端面260を被覆しているため、内周面40aには、編組体26の素線26a、26bは、露出しない。このため、素線26a、26bに側孔40,50に血栓が付着することが防止できるため、手技中に側孔40,50の開口面積が小さくなることが防止でき、手技の間、安定的に大動脈80から左冠状動脈82に流入する血液が確保される。
【0041】
また、側孔40,50に血栓が付着することが防止できるため、血栓の付着分を考慮して、側孔40,50の開口面積を予め大きく設定したり、側孔の数を増やしたりする必要が無い。このため、カテーテル本体12における側孔40,50が形成されている部分に編組体26が不足、欠損し、カテーテル本体12が構造上弱くなることを可及的に防止できる。加えて、編組体26上に側孔40,50が形成されることによる編組体の不足、欠損を可及的に抑制できるため、側孔40,50を編組体26の存在しない部分を選択して側孔の位置を設定したり、編組体の素線間隔を調整する等の側孔を形成する上での制限を減少させることができる。
【0042】
更に、外側樹脂層28の保護樹脂部280が、編組体26の素線26a、26bの端面260を被覆しているため、手技中にカテーテル本体12が屈曲しても、側孔40,50から素線26a、26bが飛び出し、血管内部を傷つける等の不測の危険も防止できる。
【0043】
この時、側孔40,50の各内周面40aは、外側樹脂層28側にテーパ部40bを有しているため、手技中にカテーテル本体12が屈曲した際に、側孔40,50の開口部の角が血管内部に接触することが無く、血管内部を傷つける等の不測の危険を一層防止できる。
【0044】
以上述べた実施の形態では、例えば、電解研磨等の方法で、外側樹脂層28と内側樹脂層24との間に配設された編組体26の素線26a,26bを選択的に除去し、その外側樹脂層28と内側樹脂層24との間の空間に、外側樹脂層28の樹脂を押し込むことで、編組体26の素線26a,26bの側孔40内への露出を防止している。このため、外側樹脂層28を利用して外側樹脂層28と内側樹脂層24との間の空間を埋めるための余分な他の部材を必要とすることが無く、極めて簡単な方法で、編組体26の側孔40内への露出を防止できる。
【0045】
図8は電解研磨を用いた第2の実施例を示している。編組体26の素線126a,126bの内、側孔40の周囲に位置する素線126aは側孔40の内周面から離間するように電解研磨で除去され、側孔40の外周を囲むように除去された部分1260を有している。そして、素線126aが除去されてできた空間に、外側樹脂層の樹脂を押し込むことで保護樹脂部281を形成し、編組体26の素線126aが側孔40内へ露出することを防止できる。
【0046】
これに対して図9に示された第3の実施例は、編組体26の素線226a,226bの内、側孔40の周囲に位置する素線226a,226bを側孔40の内周面から離間するように変形させ、側孔40の周囲以外に位置する編組体26の素線226a,226bとは異なる形状としたものである。側孔40の周囲に位置する素線226a,226bは、側孔40の外周を囲むように、湾曲した部分2260a,2260bをそれぞれ有している。このように素線226a,226bを湾曲させて側孔40の内周面から離間させことによって、湾曲した部分2260a,2260bと側孔40との間に保護樹脂部282を形成し、編組体26の素線226a,226bが側孔40内へ露出することを防止できる。この実施例では、素線226a,226b自体を変形させているため、素線を切り欠いたり、切断したりする必要が無いため、編組体の欠損によって医療用チューブが構造上、弱くなることを可及的に防止できる。
【0047】
図10に示される第4の実施例は、更に他の実施例を示したものである。この実施例では、内側樹脂層24を残して、外側樹脂層28の外側から編組体26の素線26a、26bまでを除去する。そして、この除去した部分に筒状の別の樹脂部材からなる保護樹脂部283を嵌め込むことによって、編組体26が側孔40内への露出することを防止するものである。
【0048】
図11に示される第5の実施例では、予め大きめに初期孔141を形成しておき、この初期孔141内に、筒状の別の樹脂部材からなる保護樹脂部284を嵌め込んで配置したものである。
【0049】
保護樹脂部283、284を形成する樹脂は、外側樹脂層28と同じであっても、異なるものでも良い。別の樹脂を選択した場合は、例えば、コーティングを施した樹脂やPTFE(ポリテトラフルオロチレン)の様に、比較的血栓の付着し難い樹脂を用いることが可能となる他、編組体26の素線26a、26bが露出し難い硬い樹脂等を用いることができる等、有利な点が認められる。
【0050】
以上述べた実施の形態では、側孔40,50の開口部は略円形形状であるが、開口部の形状は特に限定されるものでは無い。楕円形、長円形、四角形、六角形等の多角形等の各種の形状がとり得る。
【0051】
また、以上述べた実施の形態では、外側樹脂層28、内側樹脂層24、編組体26の三層構造のカテーテル本体12を例示したが、編組体26を被覆する別の中間樹脂層を設けた構成としてもよい。この場合は、保護樹脂部は、外側樹脂層だけでなく、中間樹脂層からも形成されることになる。
【0052】
更に、以上述べた実施の形態では、ガイディングカテーテルに本発明の医療用チューブを適用したものであるが、本発明の医療用チューブは、ガイディングカテーテルに限られるものでは無く、造影用カテーテル等の他の種類のカテーテルの他、各種の管状の医療用機器に適用できる。
【符号の説明】
【0053】
12 カテーテル本体(医療用チューブ)
18 ルーメン
24 内側樹脂層
26 編組体
26a,26b,126a,126b,226a,226b 素線
28 外側樹脂層
40,50 側孔
280,281,282,283,284 保護樹脂部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一開口部を有した樹脂からなる内層と、
前記内層の外周に設けられ、第二開口部を有した複数の素線からなる編組体と、
前記編組体の外周に設けられ、第三開口部を有した樹脂からなる外層と、を有しており、
前記第一開口部と、前記第二開口部と、前記第三開口部は互いに重なっていて、
前記第一開口部の大きさと前記第三開口部の大きさは、前記複数の素線のうち隣接する素線間の距離よりも大きく、かつ、前記第二開口部の大きさよりも小さいことを特徴とした医療用チューブ。
【請求項2】
前記第二開口部を形成する前記編組体の側面が、保護樹脂部と接していることを特徴とした請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項3】
前記保護樹脂部は、前記外層であることを特徴とした請求項2に記載の医療用チューブ。
【請求項4】
前記第二開口部において、前記保護樹脂部が前記内層と接していることを特徴とした請求項2又は請求項3に記載の医療用チューブ。
【請求項5】
前記第三開口部には、前記内層から前記外層に向かって開口が大きくなるようにテーパ部が形成されていることを特徴とした請求項1乃至請求項4に記載の医療用チューブ。
【請求項1】
第一開口部を有した樹脂からなる内層と、
前記内層の外周に設けられ、第二開口部を有した複数の素線からなる編組体と、
前記編組体の外周に設けられ、第三開口部を有した樹脂からなる外層と、を有しており、
前記第一開口部と、前記第二開口部と、前記第三開口部は互いに重なっていて、
前記第一開口部の大きさと前記第三開口部の大きさは、前記複数の素線のうち隣接する素線間の距離よりも大きく、かつ、前記第二開口部の大きさよりも小さいことを特徴とした医療用チューブ。
【請求項2】
前記第二開口部を形成する前記編組体の側面が、保護樹脂部と接していることを特徴とした請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項3】
前記保護樹脂部は、前記外層であることを特徴とした請求項2に記載の医療用チューブ。
【請求項4】
前記第二開口部において、前記保護樹脂部が前記内層と接していることを特徴とした請求項2又は請求項3に記載の医療用チューブ。
【請求項5】
前記第三開口部には、前記内層から前記外層に向かって開口が大きくなるようにテーパ部が形成されていることを特徴とした請求項1乃至請求項4に記載の医療用チューブ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−196498(P2012−196498A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−135149(P2012−135149)
【出願日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【分割の表示】特願2009−249422(P2009−249422)の分割
【原出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(390030731)朝日インテック株式会社 (140)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【分割の表示】特願2009−249422(P2009−249422)の分割
【原出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(390030731)朝日インテック株式会社 (140)
【Fターム(参考)】
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