説明

医療用ヒドロゲル組織接着剤

ペンダントアルデヒド基を有するアルデヒド官能性ポリサッカリドを、水分散性マルチアームアミンと反応させて生成したヒドロゲル組織接着剤が記載されている。ヒドロゲルは、外傷または手術に起因する、望ましくない組織−組織間癒着の防止といった、より急速な分解が求められる医療用途の組織接着剤または封止剤として有用であり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、共に2009年7月2日に出願された米国仮特許出願第61/222713号明細書および同第61/222720号明細書に基づく米国特許法(35U.S.C.)119条による優先権を主張する。
【0002】
本発明は、医療用接着剤の分野に関する。より詳しくは、本発明はペンダントアルデヒド基を含むアルデヒド官能性ポリサッカリドと水分散性マルチアームアミンとの反応により生成されるヒドロゲル組織接着剤に関する。
【背景技術】
【0003】
組織接着剤は、創口閉鎖、体内外科的処置における縫合糸またはステープルの補助または代替、血液、胆汁、胃腸液および脳脊髄液などの体液の漏洩防止、角膜への合成アンレーまたはインレーの接着、薬剤配送装置、並びに、術後の癒着防止のための抗接着バリアとしてなど、多くの医療用途に可能性を有している。従来の組織接着剤は、一般に、幅広い接着用途には適していない。例えば、シアノアクリレート系接着剤は局所的な創口閉鎖に使用されてきたが、有毒な分解生成物を放出することから、体内用途への使用は制限されている。フィブリン系の接着剤は、遅硬性で、機械的強度に乏しく、かつウィルス感染の危険性がある。加えて、フィブリン系の接着剤は下層組織と共有結合しない。
【0004】
数種類のタイプの異なるヒドロゲル組織接着剤が開発されている。それらは接着性および凝集性が向上しており、かつ毒性もない(例えば、Sehlら、米国特許出願公開第2003/0119985号明細書、およびGoldmann、米国特許出願公開第2005/0002893号明細書を参照)。これらのヒドロゲルは、一般に、求核基を有する成分と、この第1成分の求核基と反応することができる求電子基を有する成分との反応により生成され、共有結合を介した架橋網目構造を形成する。しかしながら、これらのヒドロゲルは、通常、膨潤するか、極めて急速に分解するか、または十分な接着強度もしくは機械的強度に欠けるものであり、そのため外科用接着剤としての有効性が損なわれている。
【0005】
Kodokianら(同時係属中で共願の米国特許出願公開第2006/0078536号明細書)は、酸化ポリサッカリドと水分散性マルチアームポリエーテルアミンとの反応により生成されたポリサッカリドベースのヒドロゲル組織接着剤を記載している。これらの接着剤は、改善された接着性および凝集性を提供するものであり、体温で容易に架橋し、初期には寸法安定性を維持し、急速には分解せず、細胞に対して無毒であり、組織に炎症を起こさせない。しかしながら、外傷または手術によって生じる望ましくない組織−組織間癒着を防止するというようなある種の用途では、より急速に分解するヒドロゲル組織接着剤が必要である。例えば、癒着防止組成物は、治癒プロセスが始まったならば(通常、1〜3週以内)、その部位にあってはならない。
【0006】
したがって、Kodokianらに記載されている酸化ポリサッカリドベースの組織接着剤の望ましい特性(上記参照)を有しながら、より短時間で分解するヒドロゲル組織接着剤が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、良好な接着性および凝集性を有し、体温で容易に架橋し、初期には寸法安定性を維持し、細胞に対して無毒であり、組織に炎症を起こさせず、かつ酸化ポリサッカリドベースのヒドロゲル組織接着剤より急速に分解する、ヒドロゲル組織接着剤を提供することにより、上記の必要性に応えるものである。
【0008】
したがって、一実施形態において本発明は、
a)約1,000〜約1,000,000ダルトンの重量平均分子量および約10%〜約200%のアルデヒド置換率を有する、少なくとも1種の、ペンダントアルデヒド基を有するアルデヒド官能性ポリサッカリド;および
b)少なくとも3本のアームが少なくとも1つの第1アミン基で終端されていて、約450〜約200,000ダルトンの数平均分子量を有する、少なくとも1種の水分散性マルチアームアミン
を含むキットを提供する。
【0009】
他の一実施形態において本発明は、
a)溶媒中で、(i)約1,000〜約1,000,000ダルトンの重量平均分子量および約10%〜約200%のアルデヒド置換率を有する、少なくとも1種の、ペンダントアルデヒド基を有するアルデヒド官能性ポリサッカリドと、(ii)少なくとも3本のアームが少なくとも1つの第1アミン基で終端されていて、約450〜約200,000ダルトンの数平均分子量を有する、少なくとも1種の水分散性マルチアームアミンとを混合して、ヒドロゲルを生成する工程;および
b)前記ヒドロゲルを処理して前記溶媒の少なくとも一部を除去して、乾燥ヒドロゲルを生成する工程
を含む方法により生成される乾燥ヒドロゲルを提供する。
【0010】
他の一実施形態において本発明は、
a)約1,000〜約1,000,000ダルトンの重量平均分子量および約10%〜約200%のアルデヒド置換率を有する、少なくとも1種の、ペンダントアルデヒド基を有するアルデヒド官能性ポリサッカリド、および
b)少なくとも3本のアームが少なくとも1つの第1アミン基で終端されていて、約450〜約200,000ダルトンの数平均分子量を有する、少なくとも1種の水分散性マルチアームアミン
の反応生成物を含む組成物を提供する。
【0011】
他の一実施形態において本発明は、
a)約1,000〜約1,000,000ダルトンの重量平均分子量および約10%〜約200%のアルデヒド置換率を有する、少なくとも1種の、ペンダントアルデヒド基を有するアルデヒド官能性ポリサッカリド;および
b)少なくとも3本のアームが少なくとも1つの第1アミン基で終端されていて、約450〜約200,000ダルトンの数平均分子量を有する、少なくとも1種の水分散性マルチアームアミン
を含み、前記少なくとも1種のアルデヒド官能性ポリサッカリドと前記少なくとも1種の水分散性マルチアームアミンが、ポリサッカリドのペンダントアルデヒド基と水分散性マルチアームアミンの第1アミン基との間に形成された共有結合を介して架橋されている架橋ヒドロゲル組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上で、また本発明の説明全体を通して使用される場合、次の用語は特に明示しない限り、以下のように定義される。
【0013】
用語「アルデヒド官能性ポリサッカリド」は、本明細書中では、化学的に修飾されて分子中にペンダントアルデヒド基が導入されたポリサッカリドをいう。ペンダントアルデヒド基は単一のアルデヒド基であってもジアルデヒドであってもよい。本明細書での定義では、アルデヒド官能性ポリサッカリドには、ポリサッカリド環の開裂により酸化されてアルデヒド基が導入されたポリサッカリドは含まれない。ポリサッカリド環の酸化により、ポリサッカリド環が開環してジアルデヒドが形成される。
【0014】
用語「ペンダントアルデヒド基」は、環の水酸基の1つを介してポリサッカリドの糖に結合したアルデヒド基をいう。
【0015】
用語「アルデヒド置換率」は、糖の繰り返し単位1モル当たりのペンダントアルデヒド基のモルパーセント、すなわち、(ペンダントアルデヒド基のモル数/糖の繰り返し単位のモル数)×100をいう。
【0016】
用語「水分散性マルチアームアミン」は、中心構造体(単一原子、コア分子またはポリマー主鎖であり得る)から広がる、直鎖状であっても分枝鎖状であってもよい、3つ以上のポリマー鎖(「アーム」)を有するポリマーであって、少なくとも3つの分枝(「アーム」)が少なくとも1つの第1アミン基で終端されているポリマーをいう。水分散性マルチアームアミンは、水溶性であるか、または水に分散して、水性溶液または水性分散液中で第2の反応物質と反応し得るコロイド状懸濁液を形成することができる。
【0017】
用語「分散液」は、本明細書中では、水性媒体中で第2の反応物質と反応し得るコロイド状の懸濁液をいう。
【0018】
用語「水分散性マルチアームポリエーテルアミン」は、ポリマーがポリエーテルである水分散性マルチアームアミンをいう。
【0019】
用語「ポリエーテル」は、繰り返し単位[−O−R]−(ここで、Rは2〜5個の炭素原子を有するヒドロカルビレン基である)を有するポリマーをいう。ポリエーテルは、また、異なるR基を有する異なる繰り返し単位を含むランダムまたはブロックコポリマーであってもよい。
【0020】
用語「ヒドロカルビレン基」は、炭化水素の2つの異なる炭素原子から1個ずつ2個の水素原子を引き抜くことにより生成される2価の基をいう。
【0021】
用語「分枝ポリエーテル」は、1個以上の分枝点(「アーム」)を有するポリエーテルをいい、星形、樹枝形、櫛形、高分枝および超分枝ポリエーテルなどが挙げられる。分枝は、1つ以上の、三官能以上の多官能性分枝点から放射状に広がる。
【0022】
用語「樹枝形ポリエーテル」は、それぞれ連続するモノマー世代がコア分子から放射状に広がる形で規則的に繰り返す分枝構造を有する高分枝ポリエーテルをいう。
【0023】
用語「櫛形ポリエーテル」は、直鎖状のポリマー主鎖の三官能性分枝点から線形の側鎖が伸びている分枝ポリエーテルをいう。
【0024】
用語「星形ポリエーテル」は、線形の側鎖が単一原子または対称点を有するコア分子から伸びている分枝ポリエーテルをいう。
【0025】
用語「超分枝ポリエーテル」は、「高分枝」よりさらに高度に、不完全なデンドリマーに近い程度にまで分枝したポリエーテルをいう。
【0026】
用語「高分枝ポリエーテル」は、多くの分枝点を有しており、そのため分枝点の間隔がアームの全長より短くなっている分枝ポリエーテルをいう。
【0027】
用語「第1アミン」は、2個の自由水素を有する中性アミノ基をいう。アミノ基は、第1級、第2級、または第3級の炭素と結合することができる。
【0028】
用語「多官能性アミン」は、少なくとも2つの官能基を含み、そのうちの少なくとも1つが第1アミン基である化学化合物をいう。
【0029】
用語「架橋」は、2つの異なるポリマー鎖の間に結合され、これらを結び付ける原子結合または原子鎖をいう。
【0030】
用語「架橋密度」は、本明細書では、架橋結合サイト間に存在する鎖原子の平均数の逆数と定義する。
【0031】
用語「重量による%」は、本明細書では「重量%」とも称されるが、特に明示しない限り、溶液または分散液の全重量に対する重量パーセントをいう。
【0032】
用語「解剖学的部位」は、ヒトまたは動物の体外または体内の任意の部位をいう。
【0033】
用語「組織」は、ヒトまたは動物における任意の生物学的組織をいい、生きている組織および死んだ組織の両方を含む。
【0034】
用語「ヒドロゲル」は、共有結合架橋により結合された3次元網目構造の巨大分子からなり、多量の水を吸収して弾性ゲルを形成することができる水膨潤性ポリマーマトリックスをいう。
【0035】
用語「乾燥ヒドロゲル」は、含有する溶媒の少なくとも一部を除去するよう処理されたヒドロゲルをいう。ヒドロゲルから全溶媒が実質的に全て除去されていることが好ましい。
【0036】
用語「PEG」は、本明細書中では、ポリ(エチレングリコール)をいう。
【0037】
用語「Mw」は、本明細書中では、重量平均分子量をいう。
【0038】
用語「Mn」は、本明細書中では、数平均分子量をいう。
【0039】
用語「Mz]は、本明細書中では、z−平均分子量をいう。
【0040】
用語「医療用途」は、ヒトおよび動物に関係した医療用途をいう。
【0041】
使用する略語の意味は次の通りである。「min」は分を意味し、「h」は時間を意味し、「sec」は秒を意味し、「d」は日を意味し、「mL」」はミリリットルを意味し、「L」」はリットルを意味し、「μL」はマイクロリットルを意味し、「cm」はセンチメートルを意味し、「mm」はミリメートルを意味し、「μm」はマイクロメートルを意味し、「mol」はモルを意味し、「mmol」はミリモルを意味し、「g」はグラムを意味し、「mg」はミリグラムを意味し、「mol%」はモルパーセントを意味し、「Vol」」は体積を意味し、「w/w」は重量当たりの重量を意味し、「Da」」はダルトンを意味し、「kDa」はキロダルトンを意味し、記号表示「10K」」はポリマー分子が10キロダルトンの数平均分子量を有することを意味し、「M」はモル濃度を意味し、「kPa」はキロパスカルを意味し、「psi」は1平方インチ当たりのポンドを意味し、「rpm」は1分当たりの回転数を意味し、「1H NMR」」はプロトン核磁気共鳴分光法を意味し、「13−C NMR」は炭素13核磁気共鳴分光法を意味し、「ppm」は百万当たりの部を意味し、「cP」はセンチポアーズを意味し、「PBS」はリン酸緩衝生理食塩水を意味し、「MWCO」は分画分子量を意味する。
【0042】
「Aldrich」への言及、または「Sigma」への言及は、前記薬品または成分がSigma−Aldrich、St.Louis、MOから入手したものであることを意味する。
【0043】
本明細書においては、ペンダントアルデヒド基を有するアルデヒド官能性ポリサッカリドと水分散性マルチアームアミンとの反応により生成されたヒドロゲル組織接着剤を開示している。ヒドロゲルは、外傷または手術に起因する、望ましくない組織−組織間癒着の防止(これには限定されない)といった、より急速な分解が要求される医療用途の組織接着剤または封止剤として有用であり得る。
【0044】
アルデヒド官能性ポリサッカリド
本明細書中での使用に適したアルデヒド官能性ポリサッカリドは、化学的に修飾して分子内にペンダントアルデヒド基を導入したポリサッカリドである。ペンダントアルデヒド基は単一のアルデヒド基であってもジアルデヒドであってもよい。本明細書中で開示するアルデヒド官能性ポリサッカリドのペンダントアルデヒド基は、結合基を介してポリサッカリドに結合している。一実施形態においては、結合基は、炭素、水素および酸素原子を含むが、窒素原子は含有せず、エーテル結合によりポリサッカリドと結合している。後の実施例で示すように、このようなタイプの結合基を有するアルデヒド官能性ポリサッカリドは、酸化ポリサッカリド、あるいは、窒素原子を含有するか、または他の化学結合(例えば、アミドもしくはウレタンなど)によりポリサッカリドに結合するものなどの他のタイプの結合基を有するアルデヒド官能性ポリサッカリドと比べて、水溶液中でより安定である。一実施形態では、結合基はペンダントアルデヒド基のα位に(すなわち、隣接する炭素原子に)結合したアルコキシ基を有する。他の一実施形態では、結合基はペンダントアルデヒド基のβ位に(すなわち、アルデヒド基から2番目の炭素原子に)結合したアルコキシ基を有しない。
【0045】
本明細書においては、アルデヒド官能性ポリサッカリドには、ポリサッカリド環の開裂によって酸化されてアルデヒド基が導入されたポリサッカリドは含まれない。ポリサッカリド環の酸化により、ポリサッカリド環が開環してジアルデヒドが生成される。したがって、ポリサッカリド環の酸化により生成されたジアルデヒド基は、本明細書で定義されているペンダントアルデヒド基ではない。
【0046】
アルデヒド官能性ポリサッカリドは、ペンダントアルデヒド基を導入するようポリサッカリドを化学的に修飾することにより調製することができる。有用なアルデヒド官能性ポリサッカリドとしては、デキストラン、カルボキシメチルデキストラン、デンプン、寒天、セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、プルラン、イヌリン、レバンおよびヒアルロン酸のアルデヒド官能性誘導体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。出発物質のポリサッカリドは、Sigma Chemical Co.(St. Louis、MO)などの供給源から商業的に入手することができる。当該技術分野で知られているように、ポリサッカリドは、一般に、異なる分子量の分布を有する不均質混合物であり、平均分子量、例えば重量平均分子量(Mw)、または数平均分子量(Mn)などにより、その特性が示される。したがって、これらのポリサッカリドから調製されるアルデヒド官能性ポリサッカリドも、また、異なる分子量の分布を有する不均質混合物である。好適なアルデヒド官能性ポリサッカリドは、約1,000〜約1,000,000ダルトン、より具体的には約3,000〜約250,000ダルトン、より具体的には約5,000〜約60,000ダルトン、より具体的には約7,000〜約20,000ダルトンの重量平均分子量を有するものである。一実施形態では、アルデヒド官能性ポリサッカリドは、アルデヒド官能性デキストランである。他の一実施形態では、アルデヒド官能性ポリサッカリドは、アルデヒド官能性イヌリンである。
【0047】
アルデヒド官能性ポリサッカリドは、当該技術分野で知られた方法で調製することができる。アルデヒド官能性ポリサッカリドは、Mehtaら(国際公開第99/07744号パンフレット)に記載されている任意の方法を使用して調製することができる。後述の実施例で詳述しているように、例えば、酸性の水性媒体中で、デキストランをアリルグリシジルエーテルと反応させてアリルオキシデキストランを生成させ、これを、その後、オゾン分解で酸化することにより、二重結合を開裂させ、末端アルデヒド基を導入することができる。さらに、Chen(Biotechnology Techniques 3:131〜134、1989)に記載されているように、塩基性の水性媒体中で、グリシドールをデキストランなどのポリサッカリドと反応させて、アルキル化ポリサッカリドを得ることができる。アルキル化ポリサッカリドを過ヨウ素酸塩により酸化することにより、ペンダントアルデヒド基を有するアルデヒド官能性ポリサッカリドが得られる。アルデヒド官能性ポリサッカリドは、また、Solarekら(米国特許第4,703、116号明細書)に記載されている、塩基の存在下にポリサッカリドを誘導体化アセタール試薬と反応させ、その後、pHを7.0未満に調整してアセタールを加水分解させる方法で調製することができる。
【0048】
ジアルデヒド官能基を有するアルデヒド官能性ポリサッカリドは、まず、末端ジエンを含有するペンダント基、または環状の2基置換のオレフィンを、ポリサッカリド環へ結合させることにより調製することができる。ペンダント基の結合は、種々の方法を使用して行うことができ、ポリサッカリドと、環状オレフィンもしくは末端ジエンを含有するグリシジルエーテルとの反応、または、同様に環状オレフィンまたは末端ジエンを含有するカルボン酸またはその誘導体との反応などの方法が含まれる。オゾン分解法など、当該技術分野で知られた方法を使用して、環状オレフィンまたは末端ジエンで誘導体化したポリサッカリドを酸化することにより、ペンダントジアルデヒドで誘導体化されたポリサッカリドが得られる。
【0049】
アルデヒド置換率は、当該技術分野で知られた方法により測定することができる。例えば、アルデヒド置換率は、ZhaoおよびHeindel(Pharmaceutical Research 8:400、1991)の方法にしたがい、アルデヒド官能性ポリサッカリドを塩酸ヒドロキシルアミンで滴定することにより測定することができる。好適なアルデヒド官能性ポリサッカリドは、約10%〜約200%、より具体的には約30%〜約200%、より具体的には約35%〜約120%、より具体的には約40%〜約120%のアルデヒド置換率を有する。
【0050】
水分散性マルチアームアミン
好適な水分散性マルチアームアミンとしては、水分散性マルチアームポリエーテルアミン、アミノ末端樹枝形ポリアミドアミンおよびマルチアーム分枝末端アミンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明での使用に適したマルチアームアミンは、通常、約450〜約200,000ダルトン、より具体的には約2,000〜約40,000ダルトンの数平均分子量を有する。
【0051】
一実施形態では、水分散性マルチアームアミンは、繰り返し単位[−O−R]−(ここで、Rは2〜5個の炭素原子を有するヒドロカルビレン基である)を有する水分散性ポリエーテルのマルチアームポリエーテルアミンである。好適なマルチアームポリエーテルアミンとしては、アミノ末端星形ポリエチレンオキサイド、アミノ末端樹枝形ポリエチレンオキサイド、アミノ末端櫛形ポリエチレンオキサイド、アミノ末端星形ポリプロピレンオキサイド、アミノ末端樹枝形ポリプロピレンオキサイド、アミノ末端櫛形ポリプロピレンオキサイド、アミノ末端星形ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイドコポリマー、アミノ末端樹枝形ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイドコポリマー、アミノ末端櫛形ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイドコポリマー、およびHuntsman LLC.(Houston、TX)からJeffamine(登録商標)triamineの商品名で販売されているポリオキシアルキレントリアミンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。星形ポリエチレンオキサイドアミンの例としては、各種マルチアームポリエチレングリコールアミン、および第1アミンで終端された3、4、6または8本のアームを有する星形ポリエチレングリコール(本明細書では、それぞれ3、4、6または8アームの星形PEGアミンと称する)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好適なJeffamine(登録商標)トリアミンの例としては、Jeffamine(登録商標)T−403(CAS No.39423−51−3)、Jeffamine(登録商標)T−3000(CAS No.64852−22−8)およびJeffamine(登録商標)T−5000(CAS No.64852−22−8)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。一実施形態では、水分散性マルチアームポリエーテルアミンは、第1アミン基で終端された8本のアームを有し、かつ約10,000ダルトンの数平均分子量を有する8アームポリエチレングリコールである。
【0052】
マルチアームポリエーテルアミンは、上記のように商業的に入手するか、または当該技術分野で知られた方法で調製することができる。例えば、少なくとも3本のアームが第1アミン基で終端されているマルチアームポリエチレングリコールは、Buckmannら(Makromol. Chem.182:1379〜1384、1981)に記載されている方法を使用して、マルチアームポリエチレングリコール(例えば、3、4、6および8アーム星形ポリエチレングリコールは、Nektar Transforming Therapeutics;SunBio,Inc.Anyang City、South Korea;日油(株)、東京、日本;またはJenKem Technology USA、Allen、TXなどの会社から入手可能である)にアミン末端を結合させることにより調製することができる。その方法では、マルチアームポリエチレングリコールを臭化チオニルと反応させて水酸基を臭素に変換し、その後、臭素を100℃でアンモニアと反応させてアミンに変換する。この方法は他のマルチアームポリエーテルアミンの調製にも広く適用することができる。さらに、マルチアームポリエーテルアミンは、Chenault(同時係属中で共願の米国特許出願公開第2007/0249870号明細書)に記載されている方法を使用して、マルチアームポリオールから調製することができる。その方法では、マルチアームポリエーテルを塩化チオニルと反応させて水酸基を塩素基へと変換し、その後、塩素基を水性または無水アンモニアと反応させてアミンに変換する。マルチアームポリエーテルアミンを調製するために使用し得る他の方法は、Merrillらが米国特許第5,830,986号明細書で、またChangらが国際公開第97/30103号パンフレットで記載している。
【0053】
本発明での使用に適した水分散性マルチアームアミンとして、Starburst(登録商標)Dendrimer(Sigma−Aldrich、St Louis、MOから入手可能)の商品名で販売されているアミノ末端樹枝形ポリアミドアミンも挙げることができる。
【0054】
一実施形態では、水分散性マルチアームアミンは、Arthur(同時係属中で共願の国際公開第2008/066787号パンフレット)に記載されているようなマルチアーム分枝末端アミンである。マルチアーム分枝末端アミンは、ポリマーアームのそれぞれの末端に2つまたは3つの第1アミン基を有する分枝ポリマーである。官能基の数が多ければ、所与の鎖の末端における反応の統計的確率が高くなり、ポリマー網へ分枝分子がより効率的に取り込まれるようになる。分枝末端アミンの調製に使用する出発物質は、櫛形または星形ポリエーテルポリオールなど(これらに限定されるものではない)のマルチアームポリエーテルポリオールのような分枝ポリマーとすることができる。分枝末端アミンは、当該技術分野でよく知られた方法を使用して、ポリマーの末端に水酸基との反応により複数のアミン基を結合させることによって調製することができる。例えば、ポリマーアームの各末端に2つのアミン官能基を有する分枝末端アミンは、上で列挙したような出発物質を塩化チオニルとトルエンなどの適当な溶媒中で反応させて塩化物誘導体を得、次いで、これをトリス(2−アミノエチル)アミンと反応させて、ポリマーアームの末端に2つの第1アミン基を有する分枝末端反応物を得ることにより調製することができる。
【0055】
一実施形態では、水分散性マルチアームアミンは、ポリマーアームの末端に2つの第1アミン基を有し、かつ約10,000ダルトンの数平均分子量を有する8アーム分枝末端ポリエチレングリコールアミンである。
【0056】
他の一実施形態では、水分散性マルチアームアミンは、ポリマーアームの末端に2つの第1アミン基を有し、かつ約10,000ダルトンの数平均分子量を有する8アーム分枝末端ポリエチレングリコールアミンと、1つの第1アミン基で終端された8本のアームを有し、かつ約10,000ダルトンの数平均分子量を有する8アームポリエチレングリコールアミンとの混合物である。
【0057】
水分散性マルチアームアミンが、一般に、アームの長さに分布を有し、ある場合には、異なる数のアームを持つ種類に分布を有する、やや不均質な混合物であることは、認識されなければならない。マルチアームアミンが、異なる数のアームを持つ種類に分布を有する場合、分布の平均アーム数に基づいて記載される。例えば、一実施形態では、マルチアームアミンは、マルチアーム星形PEGアミンの混合物であって、あるものは8本未満のアームを有し、あるものは8本を超えるアームを有するが、混合物におけるマルチアーム星形PEGアミンは平均8本のアームを有する混合物を含む、8アームの星形PEGアミンである。したがって、本明細書中でマルチアームアミンに言及する際に使用される用語「8アーム」、「6アーム」、「4アーム」、および「3アーム」は、アーム長さに分布を有し、ある場合には異なる数のアームを持つ種類に分布を有する(この場合は、挙げられたアームの数は、混合物におけるアームの平均数である)、不均質混合物をいうものと理解すべきである。
【0058】
ヒドロゲル組織接着剤の使用方法
本明細書中に開示するヒドロゲル組織接着剤は、種々の形態で使用することができる。一実施形態では、ペンダントアルデヒド基を有するアルデヒド官能性ポリサッカリドと水分散性マルチアームアミンは、水溶液もしくは分散液の成分として使用される。アルデヒド官能性ポリサッカリドを含む水溶液もしくは分散液(本明細書では「第1の水溶液もしくは分散液」と称する)の調製には、少なくとも1種のアルデヒド官能性ポリサッカリドを水に加え、溶液または分散液の全重量に対する重量で約5%〜約40%、より具体的には約5%〜約30%、より具体的には約10%〜約30%の濃度とする。さらに、重量平均分子量が異なるか、アルデヒド置換率が異なるか、または重量平均分子量およびアルデヒド置換率が共に異なる、少なくとも2種のアルデヒド官能性ポリサッカリドの混合物を使用することができる。アルデヒド官能性ポリサッカリドの混合物を使用する場合、アルデヒド官能性ポリサッカリドの合計の濃度は、溶液または分散液の全重量に対する重量で約5%〜約40%、より具体的には約5%〜約30%、より具体的には約10%〜約30%である。
【0059】
同様に、水分散性マルチアームアミンを含む水溶液もしくは分散液(本明細書では「第2の水溶液もしくは分散液」と称する)の調製には、少なくとも1種の水分散性マルチアームアミンを水に加え、溶液または分散液の全重量に対する重量で約5%〜約70%、より具体的には約20%〜約50%濃度とする。最適な使用濃度は、意図する用途、および第1の水溶液もしくは分散液で使用するアルデヒド官能性ポリサッカリドの濃度に依存する。さらに、数平均分子量が異なるか、アーム数が異なるか、または数平均分子量およびアーム数が共に異なる、異種の水分散性マルチアームアミンの混合物を使用することができる。水分散性マルチアームアミンの混合物を使用する場合、マルチアームアミンの合計の濃度は、溶液または分散液の全重量に対する重量で約5%〜約70%、より具体的には約20%〜約50%である。
【0060】
生体組織での使用では、第1の水溶液もしくは分散液、および第2の水溶液もしくは分散液は、感染を防止するために殺菌することが好ましい。反応して有効なヒドロゲルを生成する成分の能力に悪影響を及ぼさない方法であれば、当該技術分野で知られている任意の好適な殺菌法を使用することができ、特に限定はされないが、例えば、電子ビーム照射、ガンマ線照射、エチレンオキサイドによる殺菌、または0.2μm孔の膜によるろ過などの方法が挙げられる。
【0061】
第1の水溶液もしくは分散液、および第2の水溶液もしくは分散液は、意図する用途に応じて各種添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤はヒドロゲルの生成に有効なゲル化を阻害しないことが好ましい。添加剤の使用量は特定の用途に依存するものの、当業者であれば通常の実験により容易に決定することができる。例えば、第1の水溶液もしくは分散液および/または第2水溶液もしくは分散液は、pH調整剤、抗菌剤、着色剤、界面活性剤、調合薬および治療薬から選択される少なくとも1つの添加剤を含むことができる。
【0062】
第1の水溶液もしくは分散液および/または第2の水溶液もしくは分散液は、溶液または分散液のpHを調整するために、少なくとも1種のpH調整剤を含んでいてもよい。好適なpH調整剤は当該技術分野ではよく知られている。pH調整剤は酸性化合物であっても塩基性化合物であってもよい。酸性pH調整剤の例としては、カルボン酸、無機酸およびスルホン酸が挙げられるが、これらに限定されるものではない。塩基性pH調整剤としては、水酸化物、アルコキシド、第1および第2アミンを除く窒素含有化合物、並びに塩基性炭酸塩およびリン酸塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
第1の水溶液もしくは分散液および/または第2の水溶液もしくは分散液は、少なくとも1種の抗微生物剤を含んでいてもよい。好適な抗微生物性保存剤は当該技術分野ではよく知られている。好適な抗微生物剤の例として、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベンおよびブチルパラベンなどのアルキルパラベン;トリクロサン;クロルヘキシジン;クレゾール;クロロクレゾール、ヒドロキノン;安息香酸ナトリウム;および安息香酸カリウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
第1の水溶液もしくは分散液および/または第2の水溶液もしくは分散液は、溶液または分散液の視認性を上げるために、少なくとも1種の着色剤を含んでいてもよい。好適な着色剤としては、染料、顔料および天然着色剤が挙げられる。好適な着色剤の例としては、FD&CバイオレットNo.2、FD&CブルーNo.1、D&CグリーンNo.6、D&CグリーンNo.5、D&CバイオレットNo.2などのFD&CおよびD&C着色剤;並びにビートルートレッド、カンタキサンチン、クロロフィル、エオシン、サフランおよびカルミンなどの天然着色剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
第1の水溶液もしくは分散液および/または第2の水溶液もしくは分散液は、少なくとも1種の界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤は、本明細書では、水の表面張力を低下させる化合物をいう。界面活性剤はラウリル硫酸ナトリウムなどのイオン性界面活性剤であっても、ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンエステルおよびポリオキシエチレンソルビタンなどの中性界面活性剤であってもよい。
【0066】
さらに、第1の水溶液もしくは分散液および/または第2の水溶液もしくは分散液は、少なくとも1種の薬剤または治療薬を含んでいてもよい。好適な薬剤または治療薬は当該技術分野ではよく知られている(例えば、米国薬局方(United States Pharmacopeia)(USP)、Physician’s Desk Reference(Thomson Publishing)、The Merck Manual of Diagnosis and Therapy 第18版、Mark H.Beers and Robert Berkow(編)、Merck Publishing Group、2006;または動物の場合、The Merck Veterinary Manual、第9版、Kahn、C.A.(編)、Merck Publishing Group、2005を参照)。例としては、抗炎症薬、例えばプレドニゾン、デキサメタゾン、ブデソニドなどのグルココルチコイド;インドメタシン、サリチル酸アセテート、イブプロフェン、スリンダク、ピロキシカムおよびナプロキセンなどの非ステロイド性抗炎症薬;組織プラスミノーゲン活性化剤およびストレプトキナーゼなどの線維素溶解薬;ヘパリン、ヒルジン、アンクロッド、ジクマロール、シンクマール、イロプロスト、L−アルギニン、ジピラミドールおよび他の血小板機能阻害剤などの抗凝血剤;抗体;核酸;ペプチド;ホルモン;成長因子;サイトカイン;ケモカイン;凝固因子;内因性凝固阻止物質;抗菌剤;抗ウィルス剤;抗真菌薬;抗ガン剤;細胞癒着阻止物質;治癒促進剤;ワクチン;トロンビン、フィブリノーゲン、ホモシステインおよびエストラムスチンなどの血液凝固剤;硫酸バリウムおよび金粒子などの放射線不透過化合物、並びに放射標識が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
さらに、マルチアームアミンを含有する第2の水溶液もしくは分散液は、疎水性または修飾された架橋密度などの他の有益な特性を付与するために、1つ以上の第1アミン基を有する少なくとも1種の他の多官能性アミンを含んでいてもよい。多官能性アミンは、水溶液もしくは分散液中で酸化ポリサッカリドと混合するとゲル化を引き起こすことができる。多官能性アミンは、上記したような第2の水分散性マルチアームアミンであっても、他のタイプの多官能性アミン(ジアミノアルカン、ポリアミノアルカンおよびスペルミンなどの直鎖および分枝ジアミン;ポリエチレンイミンなどの分枝ポリアミン;N,N’−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、5−アミノ−1,3,3−トリメチルシクロヘキサンメチルアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサンおよびp−キシレンジアミンなどの環状ジアミン;3−アミノプロピルトリメトキシシランおよび3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノアルキルトリアルコキシシラン;3−アミノプロピルジエトキシメチルシランなどのアミノアルキルジアルコキシアルキルシラン、アジピン酸ジヒドラジドなどのジヒドラジド;直鎖ポリエチレンイミン、α,ω−アミノ末端ポリエーテル、α,ω−ビス(3−アミノプロピル)ポリブタンンジオール、β,ω−1−アミノ末端ポリエーテル(直鎖 Jeffamine(登録商標))などの直鎖ポリマージアミン;キトサン、ポリアリルアミンおよびポリリシンなどの櫛形ポリアミン、並びにビス(カルボキシヒドラジド)ポリエーテルおよびポリ(カルボキシヒドラジド)星形ポリエーテルなどのジ−およびポリヒドラジドが挙げられるが、これらに限定されるものではない)であってもよい。これらの化合物の多くは、Sigma−AldrichおよびHuntsman LLCなどの会社から商業的に入手することができる。多官能性アミンを含む場合、通常、水溶液もしくは分散液中のマルチアームアミンの重量に対し約5重量%〜約1000重量%の濃度で使用される。
【0068】
第1の水溶液もしくは分散液と第2の水溶液もしくは分散液を混合すると、それらは反応して、ペンダントアルデヒド基を有する少なくとも1種のアルデヒド官能性ポリサッカリドと、少なくとも3本のアームが少なくとも1つの第1アミン基で終端されている少なくとも1種の水分散性マルチアームアミンを含み、そして、少なくとも1種のアルデヒド官能性ポリサッカリドと少なくとも1種の水分散性マルチアームアミンが、アルデヒド官能性ポリサッカリドのペンダントアルデヒド基と水分散性マルチアームアミンの第1アミン基との間に形成された共有結合を介して架橋している、架橋ヒドロゲル組成物を生成する。共有結合は、イミン結合であっても、アミナール結合であっても、ヘミアミナール結合であってもよい。ヒドロゲルの分解時間は、後述する実施例で示すように、第1の水溶液もしくは分散液中のアルデヒド官能性ポリサッカリドと、第2の水溶液もしくは分散液中の水分散性マルチアームアミンの、重量パーセントを単位とした使用量の変更、および/あるいは、水分散性マルチアームアミンのアミン、またはアルデヒド官能性ポリサッカリドアルデヒドのアルデヒドの官能基数の変更により、意図する用途の必要に応じて調整することができる。
【0069】
第1の水溶液もしくは分散液と第2の水溶液もしくは分散液は、生体組織解剖部位にコーティングを施すのに使用してもよい。これらの2種類の水溶液もしくは分散液は、その部位に、いかなる方法で塗布してもよい。両溶液もしくは分散液がある部位上で混合されると、これらは架橋してヒドロゲルを生成し、その部位にコーティングが施される。
【0070】
一実施形態では、2種の水溶液もしくは分散液は、スプレー、綿の棒もしくはブラシによるブラッシング、またはピペットもしくはシリンジを使用した押出しなどの任意の好適な手段で連続的にその部位に塗布されるが、これらの手段に限定されるものではない。溶液または分散液はいかなる順序で塗布してもよい。その後、溶液または分散液は、その部位上で、綿棒、スパチュラ、またはピペットもしくはシリンジの先端などの任意の好適な用具を使用して混合される。
【0071】
他の一実施形態では、2種類の水溶液もしくは分散液は、その部位に塗布する前に手で混合される。その後、得られた混合物を、それが完全に硬化する前に、上記のような好適な塗布用具を使用してその部位に塗布する。
【0072】
他の一実施形態では、第1の水溶液もしくは分散液と第2水溶液もしくは分散液を、その部位に同時に塗布し、そこで混合してヒドロゲルを生成する。例えば、2種類の水溶液もしくは分散液は、ダブルバレルシリンジの別個のバレルにそれぞれ充填することができる。この方法では、2種類の水溶液もしくは分散液は、シリンジにより同時にその部位に塗布される。好適なダブルバレルシリンジ塗布装置は当該技術分野で知られている。例えば、Redlは、米国特許第6,620,125号明細書(特に、第4欄第10行〜第6欄47行で説明されている図1、5および6)に、数種のその発明で使用するのに適した塗布装置を記載している。2種類の水溶液もしくは分散液は、また、Bistec,Inc.(Woburn、MA)から入手できるようなダブルルーメンカテーテルを使用してその部位に塗布することができる。さらに、当該技術分野では、2種類の液体成分を内視鏡的に体内へ同時に導入するための注入装置が知られており、本明細書中に開示する2種類の水溶液もしくは分散液の配送に適合させることも可能である(例えば、Linderら、米国特許第5,322,510号明細書を参照)。
【0073】
他の一実施形態では、第1の水溶液もしくは分散液と第2の水溶液もしくは分散液を、ConProtec,Inc.(Salem、NH)またはMixpac Systems AG(Rotkruez、Switzerland)から入手できるような静的ミキサーを備えるダブルバレルシリンジを使用して予備混合し、その部位へ配送することができる。あるいは、Cruiseらが米国特許第6,458,147号明細書で記載しているようなスプレーヘッドを混合チップに装着してもよい。さらに、2種類の水溶液もしくは分散液の混合物をダブルバレルシリンジからカテーテルまたは内視鏡を使用してその部位へ塗布することができる。2種類の液体成分組織接着剤を混合し、得られた混合物を内視鏡的に配送する装置は当該技術分野で知られており、本明細書中に開示する2種類の水溶液もしくは分散液の混合および配送に適合させることができる(例えば、Nielson、米国特許第6,723,067号明細書、およびRedlら、米国特許第4,631,055号明細書を参照)。
【0074】
他の一実施形態では、2種類の水溶液もしくは分散液は、Fukunagaら(米国特許第5,582,596号明細書)、Delmotteら(米国特許第5,989,215号明細書)またはSawhney(米国特許第6,179,862号明細書)が記載しているようなスプレー装置を使用してその部位に塗布することができる。
【0075】
他の一実施形態では、2種類の水溶液もしくは分散液は、Sawhney(米国特許第7,347,850号明細書)が記載しているような低侵襲手術用塗布装置を使用してその部位に塗布することができる。
【0076】
他の一実施形態では、本発明のヒドロゲル組織接着剤は、少なくとも2つの解剖学的部位を接着するために使用される。この実施形態では、第1の水溶液もしくは分散液を少なくとも1つの解剖学的部位に塗布し、第2の水溶液もしくは分散液を同じ部位か、または他方の部位のいずれかの少なくとも1つに、上記の方法を使用して塗布する。2つ以上の部位を接触させ、手、または外科用クランプなどの他の手段により、混合物が硬化するのに十分な時間保持する。あるいは、2種類の水溶液もしくは分散液の混合物を、接着すべき解剖学的部位の少なくとも1つに、上記の方法を使用して塗布する。2つ以上の部位を接触させ、手、または外科用クランプなどの他の手段により、混合物が硬化するのに十分な時間保持する。
【0077】
他の一実施形態では、アルデヒド官能性ポリサッカリドと水分散性マルチアームアミンは、細かく粉砕した粉末の形態で使用することができる。粉末は任意の好適な方法を使用して調製することができる。例えば、上記の各水溶液もしくは分散液を、熱、真空、熱と真空の組み合わせにより、または凍結乾燥により乾燥させて、粉末を生成することができる。粉末は、グラインダーによる粉砕、ミルによる粉砕、または乳鉢と乳棒による粉砕など(これらに限定されるものではない)、当該技術分野で知られた方法を用いてより微細な粒子に粉砕してもよい。微細に粉砕された粉末は、上記の方法により殺菌することができる。微細に粉砕された粉末は種々の方法で生体組織の解剖学的部位に塗布することができる。例えば、粉末は、散布またはスプレーすることにより、その部位に任意の順序で個別に塗布することができる。さらに、粉末は予備混合した後、得られた混合物をその部位に散布またはスプレーすることにより塗布することができる。粉末は、水または好適な緩衝液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)などの水溶液を添加することにより、あるいはその部位に存在する生理液により、その部位で水和させることができる。微細に粉砕された粉末はまた、水溶液もしくは分散液について上で記載したように、2つの解剖学的部位を接着するために使用することができる。あるいは、粉末は、使用の前に水または好適な水溶液で水和して、上記の第1および第2の水溶液もしくは分散液を生成することができる。
【0078】
他の一実施形態では、本明細書中に開示するヒドロゲル組織接着剤は、乾燥ヒドロゲルの形態で使用することができる。この実施形態では、乾燥ヒドロゲルは、ある溶媒中で、少なくとも1種のアルデヒド官能性ポリサッカリドと少なくとも1種の水分散性マルチアームアミンとを混合してヒドロゲルを生成させ、このヒドロゲルを処理して少なくとも1部の溶媒を除去して乾燥ヒドロゲルを生成することにより調製される。好適な溶媒としては、水、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ヘキサン、ポリエチレングリコール、およびこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。2種の異なる溶媒を使用する場合、それらの溶媒は互いに混和性を有する。一実施形態では、溶媒は水である。アルデヒド官能性ポリサッカリドと水分散性マルチアームアミンは種々の方法で混合することができる。例えば、アルデヒド官能性ポリサッカリドを含む第1の水溶液もしくは分散液と水分散性マルチアームアミンを含む第2の水溶液もしくは分散液は、上記のように調製し、混合して、ヒドロゲルを生成させることができる。ヒドロゲルを調製するために使用される溶液または分散液は、意図する用途に応じて各種添加剤をさらに含むことができる。上記の任意の添加剤を使用することができる。その後、ヒドロゲルを処理して、それに含まれる少なくとも1部の溶媒を除去し、乾燥ヒドロゲルを生成させる。実質的に全ての溶媒がヒドロゲルから除去されることが好ましい。溶媒は、当該技術分野で知られた方法、例えば、熱、真空、熱と真空の組み合わせの使用、あるいはヒドロゲル上に乾燥空気または窒素などの乾燥不活性ガスの流れを流すなどの方法により、ヒドロゲルから除去することができる。乾燥ヒドロゲルは、上述した方法により殺菌することができる。乾燥ヒドロゲルは、後述するように、多くの方法で解剖学的部位に塗布することができる。乾燥ヒドロゲルは、その部位で、水または緩衝液(例えばリン酸緩衝生理食塩水)などの好適な水溶液を添加することにより、あるいはその部位に存在する生理液により、水和させることができる。
【0079】
一実施形態では、乾燥ヒドロゲルは、フィルムの形態で使用することができる。乾燥ヒドロゲルフィルムは、上記のような溶液または分散液の混合物を適当な基材上にキャスティングし、得られたヒドロゲルを処理して乾燥ヒドロゲルフィルムを形成することにより作製することができる。乾燥ヒドロゲルフィルムは、解剖学的部位に直接貼付することができる。さらに、乾燥ヒドロゲルフィルムは2つの解剖学的部位を接着するために使用することができる。
【0080】
他の一実施形態では、乾燥ヒドロゲルは、微細に粉砕した粒子の形態で使用することができる。乾燥ヒドロゲル粒子は、乾燥ヒドロゲルを、グラインダーによる粉砕、ミルによる粉砕、または乳鉢と乳棒による粉砕など(これらに限定されるものではない)、当該技術分野で知られた方法を用いて粉砕することにより生成することができる。乾燥ヒドロゲル粒子は、散布またはスプレーなどの種々の方法で解剖学的部位に塗布することができ、また、2つの解剖学的部位を接着するために使用することができる。
【0081】
キット
一実施形態では、本発明は、ペンダントアルデヒド基を有する少なくとも1種のアルデヒド官能性ポリサッカリドと、少なくとも3本のアームが少なくとも1つの第1アミン基により終端されている少なくとも1種の水分散性マルチアームアミンとを含むキットを提供する。
【0082】
他の一実施形態では、キットは、ペンダントアルデヒド基を有する少なくとも1種のアルデヒド官能性ポリサッカリドを含む第1の水溶液もしくは分散液と、少なくとも3本のアームが少なくとも1つの第1アミン基により終端されている少なくとも1種の水分散性マルチアームアミンを含む第2の水溶液もしくは分散液とを含む。水溶液もしくは分散液のそれぞれは、バイアルまたはシリンジバレルなどの任意の好適な容器に充填することができる。
【0083】
他の一実施形態では、キットは、上述したように、微細に粉砕された粉末の形態で、ペンダントアルデヒド基を有する少なくとも1種のアルデヒド官能性ポリサッカリドと、少なくとも3本のアームが少なくとも1つの第1アミン基により終端されている少なくとも1種の水分散性マルチアームアミンとを含む。粉末は、個別の容器に充填されてもよく、あるいは予備混合して単一の容器に充填されてもよい。キットはまた、粉末を水和するための水溶液を含んでいてもよい。
【0084】
他の一実施形態では、キットは上述したような乾燥ヒドロゲルを含む。乾燥ヒドロゲルは、フィルムの形態であっても、微細に粉砕された粒子の形態であっても、他の乾燥された形態であってもよい。キットは、乾燥ヒドロゲルを水和するための水溶液をさらに含んでいてもよい。乾燥ヒドロゲル粒子は任意の好適な容器に充填することができる。
【0085】
医療用途
本明細書中に開示するヒドロゲルは、外傷または手術に起因する、望ましくない組織−組織間癒着の防止(これには限定されない)といった、より急速な分解時間が要求される医療用途の組織接着剤または封止剤として有用であり得る。これらの用途では、アルデヒド官能性ポリサッカリドと水分散性マルチアームアミン、または乾燥ヒドロゲルは、上記の方法により、所望の解剖学的部位に塗布することができる。
【実施例】
【0086】
以下の実施例により、本発明をさらに明示する。これらの実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すものの、単に説明のために示されるべきである。上記説明とこれらの実施例から、当業者であれば本発明の基本的特徴を確かめることができ、本発明の精神と範囲から逸脱することなく、本発明に各種の変更と修正を加え、各種の使用および条件に本発明を適合させることができる。
【0087】
試薬の調製
ペンダントアルデヒド基を有するデキストラン(AFD−15−90)の調製:
2段階法により、ペンダントアルデヒド基を有し、かつ約15kDaの重量平均分子量と約90%のアルデヒド置換率を有するデキストランを調製した。第1工程では、約9〜約11kDaの重量平均分子量を有するデキストランをアリルグリシジルエーテルと反応させてオレフィン中間体を生成し、その後、これをオゾンと反応させてペンダントアルデヒド基を有するデキストランを生成した。
【0088】
第1工程では、30gのデキストラン(平均分子量9〜11kDa、Sigma)および30mLの水を3つ口フラスコに加えた。溶液を10℃に冷却し、その後、20重量%NaOH溶液39mLを加えた。得られた溶液を25分間撹拌し、淡い黄色の溶液を得、その後、84.58g(4当量)のアリルグリシジルエーテル(Aldrich)を加えた。得られた混合物を65℃まで5.5時間加熱し、その後、室温まで冷却してから、1NのHClでpHを7.0に調整した。200mLの水を加えて混合物を希釈し、Millipore Pellicon II 限外ろ過システム(Millipore Corp.、Billerica、MA)を使用して、最初の溶液の体積の5倍がろ液として捕集されるまで、純水で連続的にろ液を置換しながら、1kDaのカットオフフィルターを通してろ過することにより精製した。少量のサンプルを採取し、分析用として凍結乾燥させた。残りのろ液を、続くオゾン分解工程でそのまま使用した。置換率を、プロトンNMRにより、4.8〜5.0におけるオレフィンピークとアノマーピークの積分比から測定したところ、1.33であった。
【0089】
第2工程では、工程1で得られた460mLのろ液を、マグネチック撹拌棒およびスパージャーの注入口を備えた2Lの三つ口フラスコに加えた。氷浴中で0〜5℃に溶液を冷却し、オゾン発生機(ClearWater Tech,LLC.、San Luis Obispo、CA;型番CD10)から7%のオゾンを発生する100%パワーでオゾンの噴霧を開始した。発泡が生じ、これを1−ヘプタノールを数滴加えて制御した。6.25および7.75時間にサンプルを採取し、13−C NMRを使用して分析した。118および134ppmで共鳴が消失し、7.75時間後にはオレフィンが消費されていたことを示した。その後、撹拌しながら亜硫酸ナトリウム溶液(138mLの水に23.3g)を滴下した。僅かな発熱が観察され、反応混合物を窒素中で終夜撹拌した。混合物を1Lガラス瓶に移し、1kDaのカットオフフィルターを有するMillipore Pellicon II 限外ろ過システムによりろ過した。水を連続的に加えて捕集したろ液を置換し、残余分はガラス瓶に戻した。最初の反応物体積の5倍超がろ液として捕集されるまでこの工程を継続した。その後、精製した溶液を冷凍し凍結乾燥して、綿毛のような白色固体53.9gを得た。得られた固体生成物のアルデヒド置換率を、ZhaoおよびHeindel(Pharmaceutical Research、8:400、1991)の方法を使用して測定したところ、89%であった。アルデヒド官能性デキストランの重量平均分子量を、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により測定したところ、約15kDaであった。本明細書では、このアルデヒド官能性デキストランをAFD−15−90と称する。
【0090】
同様の方法で、このアルデヒド官能性デキストランの第2の調製を行った。得られた生成物のアルデヒド置換率を、ZhaoおよびHeindelの方法を使用して測定したところ、92%であり、重量平均分子量は、SECにより、16kDaであることがわかった。本明細書では、このアルデヒド官能性デキストランをAFD−16−92と称する。
【0091】
ペンダントアルデヒド基を有するイヌリン(AFI−12−49)の調製:
上記2段階法により、ペンダントアルデヒド基を有し、かつ約12kDaの重量平均分子量と約49%のアルデヒド置換率を有するイヌリンを調製した。
【0092】
第1工程では、20gのイヌリン(平均分子量約4kDa、Sigma)を200mLの水に懸濁させ、70℃まで1時間加熱して溶解し、その後、65℃に冷却した。この溶液に23mLの水酸化ナトリウム溶液(水に20重量%)を加え、続いてシリンジポンプによりアリルグリシジルエーテル(50.7g)を3mL/minの速度で徐々に加えた。添加後、混合物を65℃まで6時間加熱した。その後、反応混合物を室温にまで冷却し、50%HClによりpH7に中和した。1000MWCO膜による限外ろ過により反応混合物を精製した(廃棄物の10倍の体積を捕集)。
1H NMR(D2O):d 5.95ppm(m,積分値1.0,OCH2C()=CH2)、5.31(dd,積分値2.1,OCH2(CH)=C2)、4.37(br.s,積分値0.40)、4.25(br.s,積分値0.76)、4.0〜3.55(br.m,積分値12.9)
【0093】
第2工程では、氷/水浴を使用してろ液を約5℃に冷却した。撹拌されている溶液中にオゾンを6時間噴霧した。1−ヘプタノールを加えて(数滴)発泡を制御した。反応の終点で亜硫酸ナトリウム溶液(100mLの水に16g)を冷却した溶液(氷/水浴中で冷却)に加えた。溶液を室温で終夜撹拌した。生成物を限外ろ過により精製した(MWCO1000、廃棄物の12倍の体積を捕集)。ろ液を凍結乾燥し白色固体を得た。
【0094】
生成物のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析から、以下が得られた:Mw=1.2×104、Mn=7.3×103、Mz=1.5×104、Mw/Mn=1.6。
【0095】
アルデヒド置換率を、ZhaoおよびHeindel(Pharmaceutical Research 8:400、1991)が記載している方法を使用し、イヌリンアルデヒドのヒドロキシルアミン付加物を滴定することにより測定したところ、約49%であった。本明細書では、このアルデヒド官能性イヌリンをAFI−12−49と称する。
【0096】
ペンダントアルデヒド基を有するデキストラン(AFD−7−86)の調製:
2段階法により、ペンダントアルデヒド基を有し、かつ約5〜11kDaの重量平均分子量と86%のアルデヒド置換率を有するデキストランを調製した。第1工程では、約5〜約11kDaの重量平均分子量を有するデキストランをグリシドールと反応させて、アルキル化デキストランを生成した。第2工程では、アルキル化デキストランを過ヨウ素酸ナトリウムにより酸化して、第1工程で付加した末端ジオール基を酸化してペンダントアルデヒド基を有するデキストランを得た。
【0097】
第1工程では、20gのデキストラン(平均分子量5〜11kDa、Sigma)を20mLの水に懸濁させ、55℃に加熱した。この溶液に25mLの水酸化ナトリウム溶液(水に20重量%)を加え、続いてシリンジポンプによりグリシドール(36g、Aldrich)を55℃で、1.0mL/minの速度で徐々に加えた。その後、混合物を55℃まで6時間加熱し、続いて混合物を室温にまで冷却した。生成物を20mLのエーテルで2回洗浄し、過剰の試薬を除去した。得られた黄色の均質混合物を氷上で50%のHClにより中和した(最終pHは7.3であった)。サンプルを約5倍の体積の冷イソプロパノール中(約0℃)で沈殿させた。イソプロパノール層をデカンテーションにより除去し、固体生成物を冷イソプロパノールで洗浄し、溶解とそれに続く沈殿プロセスをさらに2回繰り返した。固体生成物を真空中で48時間乾燥した。
【0098】
第2工程では、第1工程で得られた15gの固体生成物を丸底フラスコ中の150mLの水に溶解させ、その後、得られた溶液を4℃に冷却した。過ヨウ素酸ナトリウム溶液(85mLの水に8.25g)を30分にわたって丸底フラスコに滴下した。反応混合物を4℃で2時間撹拌し、その後、反応混合物に10.4g(9.3mL)のエチレングリコールを加え、続いて10分間撹拌した。生成物を、カットオフ分子量1000の膜を備えたTFF System(Millipore Corp.、Billerica、MA)を使用して精製し、凍結乾燥させて10gの白色粉末を得た。生成物のアルデヒド置換率を、ZhaoおよびHeindel(Pharmaceutical Research、8:400、1991)が記載している方法を使用し、ヒドロキシルアミン付加物を滴定することにより測定したところ、86%であった。
【0099】
生成物のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析から、以下が得られた:Mw=7.4×103、Mn=4.8×103、Mz=1.1×104、Mw/Mn=1.5。本明細書では、このアルデヒド官能性デキストランをAFD−7−86と称する。
【0100】
ペンダントアルデヒド基を有するデキストラン(AFD−9−120)の調製:
2段階法により、ペンダントアルデヒド基を有し、かつ約9kDaの重量平均分子量と120%のアルデヒド置換率を有するデキストランを調製した。第1工程では、約5〜約11kDaの重量平均分子量を有するデキストランをグリシドールと反応させてアルキル化デキストランを生成した。第2工程では、アルキル化デキストランを過ヨウ素酸ナトリウムにより酸化し、第1工程で付加した末端ジオール基を酸化してペンダントアルデヒド基を有するデキストランを得た。
【0101】
第1工程では、3バッチのデキストランをグリシドールと反応させてアルキル化デキストランを生成した。バッチのうち2つでは、AFD−7−86を調製した上記第1工程と同じ方法で、20gのデキストラン(平均分子量5〜11kDa、Sigma)をグリシドール(36g、Aldrich)と反応させた。第3のバッチでは、デキストランに対するグリシドールのモル比を変えた。10mLの水と12.5mLの水酸化ナトリウム溶液(20重量%)とを混合して生成した溶液にデキストラン(10g)を溶解した。シリンジポンプを使用して、デキストラン溶液にグリシドール(44g、Aldrich)を0.7mL/minの速度で加えた。混合物を55℃に加熱し、20mLの水を加えた。反応混合物を55℃まで6時間加熱した。AFD−7−86について上で記載したようにして、生成物を単離した。3バッチを混合し、第2工程用材料のマスターバッチとした。
【0102】
第2工程では、上記マスターバッチからの25gの固体生成物を、丸底フラスコ中の250mLの水に溶解し、その後、得られた溶液を4℃に冷却した。過ヨウ素酸ナトリウム溶液(125mLの水に20.8g)を1時間にわたって丸底フラスコに滴下した。反応混合物を4℃で2時間撹拌し、その後、反応混合物に66gのエチレングリコールを加え、続いて30分間撹拌した。その後、反応混合物をろ過した。ろ液を、カットオフ分子量1000の膜を備えたTFF System(Millipore Corp.、Billerica、MA))を使用して精製し、凍結乾燥させて17gの白色粉末を得た。生成物のアルデヒド置換率を、ZhaoおよびHeindel(Pharmaceutical Research、8:400、1991)が記載している方法を使用し、ヒドロキシルアミン付加物を滴定することにより測定したところ、120%であった。
【0103】
生成物のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析から、以下が得られた:Mw=8.9×103、Mn=6.8×103、Mz=1.2×104、Mw/Mn=1.3。本明細書では、このアルデヒド官能性デキストランをAFD−9−120と称する。
【0104】
ペンダントアルデヒド基を有するデキストラン(AFD−13−64)の調製:
2段階法により、ペンダントアルデヒド基を有し、かつ約13kDaの重量平均分子量と64%のアルデヒド置換率を有するデキストランを調製した。第1工程では、約5〜約11kDaの重量平均分子量を有するデキストランをグリシドールと反応させてアルキル化デキストランを生成した。第2工程では、アルキル化デキストランを過ヨウ素酸ナトリウムにより酸化し、第1工程で付加した末端ジオール基を酸化してペンダントアルデヒド基を有するデキストランを得た。
【0105】
第1工程はAFD−9−120について上で記載したように行った。第2工程では、AFD−9−120について上で記載したアルキル化デキストランのマスターバッチからの固体生成物25gを、丸底フラスコ中の250mLの水に溶解し、その後、得られた溶液を4℃に冷却した。過ヨウ素酸ナトリウム溶液(60mLの水に10.4g)を1時間にわたって丸底フラスコに滴下した。反応混合物を4℃で2時間撹拌し、その後、反応混合物に6gのエチレングリコールを加え、続いて30分間撹拌した。その後、反応混合物をろ過した。ろ液を、カットオフ分子量1000の膜を備えたTFF System(Millipore Corp.、Billerica、MA)を使用して精製し、凍結乾燥させて17gの白色粉末を得た。生成物のアルデヒド置換率を、ZhaoおよびHeindel(Pharmaceutical Research 8:400、1991)が記載している方法を使用し、ヒドロキシルアミン付加物を滴定することにより測定したところ、64%であった。
【0106】
生成物のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析から、以下が得られた:Mw=1.3×104、Mn=9.8×103、Mz=1.8×104、Mw/Mn=1.3。本明細書では、このアルデヒド官能性デキストランをAFD−13−64と称する。
【0107】
ペンダントアルデヒド基を有するデキストラン(AFD−13−46)の調製:
2段階法により、ペンダントアルデヒド基を有し、かつ約13kDaの重量平均分子量と46%のアルデヒド置換率を有するデキストランを調製した。第1工程では、約9〜約11kDaの重量平均分子量を有するデキストランをアリルグリシジルエーテルと反応させてオレフィン中間体を生成し、その後、これをオゾンと反応させてペンダントアルデヒド基を有するデキストランを生成した。
【0108】
第1工程では、30gのデキストラン(平均分子量9〜11kDa、Sigma)および30mLの水を3つ口フラスコに加えた。溶液を10℃に冷却し、その後、20重量%NaOH溶液39mLを加えた。得られた溶液を25分間撹拌し、淡い黄色の溶液を得、その後、42.27g(2当量)のアリルグリシジルエーテル(Aldrich)を加えた。得られた混合物を65℃まで5.5時間加熱し、その後、室温にまで冷却してから、1NのHClでpHを7.0に調整した。200mLの水を加えて混合物を希釈し、1kDaのカットオフフィルターを使用するMillipore Pellicon II 限外ろ過システム(Millipore Corp.、Billerica、MA)により、最初の溶液の体積の5倍がろ液として捕集されるまで、純水で連続的にろ液を置換しながら精製した。少量のろ液サンプルを採取し、分析用として凍結乾燥させた。残りのろ液を、続くオゾン分解工程でそのまま使用した。置換率を、NMRによりアノマー共鳴に対するオレフィンのピークを積分したところ、0.84であることがわかった。
【0109】
第2工程では、工程1で得られた475mLのろ液を、マグネチック撹拌棒およびスパージャー注入口を備えた2Lの3つ口フラスコに加えた。氷浴中で0〜5℃に溶液を冷却し、その後、オゾン発生機(ClearWater Tech,LLC.、San Luis Obispo、CA;型番CD10)から7%のオゾンを発生する100%パワーでオゾンの噴霧を開始した。発泡が生じ、これを1−ヘプタノールを数滴加えて制御した。2および4時間にサンプルを採取し、13−C NMRを使用して分析した。118および134ppmで共鳴が消失し、4時間後にはオレフィンが消費されていたことを示した。その後、撹拌しながら亜硫酸ナトリウム溶液(117mLの水に19.6g)を滴下した。僅かな発熱が観察され、反応混合物を窒素中で終夜撹拌した。混合物を1Lのガラス瓶に移し、1kDaのカットオフフィルターを有するMillipore Pellicon II 限外ろ過システムでろ過した。水を連続的に加えて捕集したろ液を置換し、残余分はガラス瓶に戻した。最初の反応物体積の5倍超がろ液として捕集されるまでこの工程を継続した。その後、精製した溶液を冷凍し凍結乾燥して、綿毛のような白色固体28.6gを得た。得られた固体生成物のアルデヒド置換率を、ZhaoおよびHeindel(Pharmaceutical Research,1991,8:400)の方法を使用して測定したところ、46%であった。アルデヒド官能性デキストランの重量平均分子量を、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して測定したところ、約13kDaであった。本明細書では、このアルデヒド官能性デキストランをAFD−13−46と称する。
【0110】
ペンダントアルデヒド基を有するデキストラン(AFD−19−64)の調製:
上記2段階法により、ペンダントアルデヒド基を有し、かつ約19kDaの重量平均分子量と60%のアルデヒド置換率を有するデキストランを調製した。
【0111】
第1工程では、30gのデキストラン(平均分子量9〜11kDa、Sigma)および30mLの水を3つ口フラスコに加えた。溶液を10℃に冷却し、その後、20重量%NaOH溶液39mLを加えた。得られた溶液を25分間撹拌し、淡い黄色の溶液を得、その後、63.41g(3当量)のアリルグリシジルエーテル(Aldrich)を加えた。得られた混合物を65℃まで5.5時間加熱し、その後室温にまで冷却してから1NのHClでpHを7.0に調整した。200mLの水を加えて混合物を希釈し、Millipore Pellicon II 限外ろ過システムを使用して、最初の溶液の体積の5倍がろ液として捕集されるまで純水で連続的にろ液を置換しながら、1kDaのカットオフフィルターを通してろ過することにより精製した。少量のサンプルを採取し、分析用として凍結乾燥させた。残りのろ液を、続くオゾン分解工程でそのまま使用した。置換率を、NMRにより、4.8〜5.0におけるオレフィンピークとアノマーピークの積分比から測定したところ、0.99であった。
【0112】
第2工程では、第1工程で得られた475mLのろ液を、マグネチック撹拌棒およびスパージャー注入口を備えた2Lの3つ口フラスコに加えた。氷浴中で0〜5℃に溶液を冷却し、その後、オゾン発生機(ClearWater Tech,LLC.、San Luis Obispo、CA;型番CD10)から7%のオゾンを発生する100%パワーでオゾンの噴霧を開始した。発泡が生じ、これを1−ヘプタノールを数滴加えて制御した。4および5.75時間にサンプルを採取し、13−C NMRを使用して分析した。118および134ppmで共鳴が消失し、5.75時間後にはオレフィンが消費されていたことを示した。その後、撹拌しながら亜硫酸ナトリウム溶液(139mLの水に23.3g)を滴下した。僅かな発熱が観察され、反応混合物を窒素中で終夜撹拌した。混合物を1Lのガラス瓶に移し、1kDaのカットオフフィルターを有するMillipore Pellicon II 限外ろ過システムによりろ過した。水を連続的に加えて捕集したろ液を置換し、残余分はガラス瓶に戻した。最初の反応物体積の5倍超がろ液に捕集されるまでこの工程を継続した。その後、精製した溶液を冷凍し凍結乾燥して、綿毛のような白色固体39.1gを得た。得られた固体生成物のアルデヒド置換率を、ZhaoおよびHeindel(Pharmaceutical Research,1991,8:400)の方法を使用して測定したところ、60%であった。アルデヒド官能性デキストランの重量平均分子量を、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により測定したところ、約19kDaであった。本明細書では、このアルデヒド官能性デキストランをAFD−19−64と称する。
【0113】
ペンダントジアルデヒド基を有するデキストラン(DAFD−10−16)の調製:
3段階法により、ペンダントジアルデヒド基がデキストラン主鎖にエーテル結合で結合しているジアルデヒド官能性デキストランを調製した。
【0114】
工程1:
マグネチック撹拌棒および窒素導入口を備えた300mLの2口フラスコに、40重量%の水酸化ナトリウム溶液73.4mLと臭化テトラブチルアンモニウム0.94g(2.91mmol)を加えた。溶液を5〜10℃に冷却し、5.0g(59.44mmol)の3−シクロペンテン−1−オールで処理し、続いて、20分にわたって22.0g(237.76mmol)のエピクロロヒドリンを滴下した。反応混合物を室温で終夜撹拌した。その後、反応混合物を約50mLの氷/水に注ぎ、撹拌して溶液を得、これを50mLのジエチルエーテルで3回抽出した。結合した有機層をリトマスで中性になるまで塩水溶液で洗浄し、MgSO4上で乾燥させた。ロータリーエバポレーターで溶媒を除去して茶色の液体を得た。粗生成物を蒸留により精製した。生成物を118℃、25mmHg(3.3kPa)で捕集した。
CDCl31H NMRのδppm(2.42,m,2H;2.5,m,1H;2.6,m,2H、2.78、m、1H;3.15、m、1H;3.4、m、1H;3.65〜3.68,m,1H;4.26,m,1H;5.68s,2H)
【0115】
工程2:
0.58mLの水、続いて約9〜約11kDaの重量平均分子量を有するデキストラン0.5778g(3.567mmol)を、マグネチック撹拌棒および還流冷却器を備えた、10mLの窒素導入口付2口フラスコに入れた。溶液を撹拌して懸濁液とした。20重量%NaOH溶液0.75mLをフラスコに加えた。30分間、撹拌した後、1.0g(7.134mmol)のグリシジル3−シクロペンテニルエーテルを加えた。溶液を油浴中で65℃で5.5時間加熱した。その後、反応混合物を室温にまで冷却し、0.5MのHClによりpHを7.0に調整した。得られた溶液を水で約400mLにまで希釈し、その後、カットオフ分子量が1000のカセットを有するMillipore Pellicon II 限外ろ過システムを使用して精製した。少量のアリコットを分析用に凍結乾燥させた。
2O中で1H NMRを得た。δppm(2.2,d;2.4,d;3.31〜3.7,m;4.1,s;4.77,s;4.9,s(b);5.55,s)
【0116】
溶液の残りをオゾンで処理して官能性デキストランを得た。置換率を、NMRから5.0〜5.2ppmのアノマーピーク対オレフィンピークの積分により測定した。置換率は0.52であることがわかった。
【0117】
工程3:
400mLの官能性デキストラン水溶液(前工程から)を含有する、1Lの3つ口フラスコ(約8℃)に、オゾンを5.5時間噴霧した。オゾンの流れを停止し、3mLの水に0.45gの亜硫酸ナトリウムを溶解した溶液を8℃でフラスコに加えた。溶液を終夜撹拌し、1000MWCOのカセットを使用したMillipore Pellicon II 限外ろ過システムによる限外ろ過により精製した。最終溶液を冷凍し凍結乾燥させて0.68gの泡状の固体を得た。
2O中で1H NMRを得た。δppm(1.318,m;1.523,m;1.8,m;2.1,m;2.3〜2.48,m;3.3〜3.9,m;4.9,s;5.1,s(b);5.5,s)
【0118】
アルデヒド置換率を、ZhaoおよびHeindel(Pharmaceutical Research 8:400、1991)が記載している方法を使用し、ジアルデヒド官能性デキストランのヒドロキシルアミン付加物を滴定することにより測定したところ、約16%であった。本明細書では、このジアルデヒド官能性デキストランをDAFD−10−16と称する。
【0119】
ペンダントジアルデヒド基を有するデキストラン(DAFD−エステル結合)の調製:
2段階法により、ペンダントジアルデヒド基がデキストラン主鎖にエステル結合で結合しているジアルデヒド官能性デキストランを調製した。
【0120】
工程1:
22mLのジメチルアセトアミド(DMAC)、続いて約9〜約11kDaの重量平均分子量を有するデキストラン1.817g(11.217mmol)および塩化リチウム1.09g(25.71mmol)を、マグネチック撹拌棒および還流冷却器を備えた50mLの3つ口フラスコへ入れた。懸濁液を生成し、これを、透明な溶液が得られるまで、90℃まで1時間加熱した。溶液を室温にまで冷却し、0.91mL(11.217mmol)のピリジンを加え、次いで、2.18g(11.217mmol)の3−シクロペンテンカルボニルクロリドを滴下した。4−ジメチルアミノピリジン(DMAP、Aldrich)(30mg)を加え、混合物を終夜、すなわち約20時間、60℃で加熱した。冷却後、撹拌しながら、得られた茶色の溶液を200mLの冷水に滴下し、黄色の溶液を得た。0.25NのNaOH溶液を使用して、pHを2.15から6.0へ調整した。粗生成物を、カットオフ分子量が1000のカセットを使用したMillipore Pellicon II 限外ろ過システムで精製した。少量のアリコットを冷凍し凍結乾燥させて分析試料を得た。
1H NMR。δppm(2.59〜2.66,m);(2.85,s);(3.0,s);(3.24(b),s);(3.46〜3.51,m);(3.52〜3.71,m);(3.84,d);(3.93,d);(4.91,s);(4.97,s);(5.12、t);(5.68、s)
【0121】
工程2:
前工程で得られた350mLの溶液を含有する、マグネチック撹拌棒を備えた1Lの3つ口フラスコ(約8℃)に、オゾン流を5時間噴霧した。オゾン噴霧を停止後、8.4mLの水に1.41gの亜硫酸ナトリウムを溶解した溶液を加えた。得られた混合物を室温で終夜撹拌し、その後、カットオフ分子量が1000のカセットフィルターを使用したMillipore Pellicon II 限外ろ過システムを用いて精製した。溶液を冷凍し凍結乾燥させて1.92gの白色固体を得た。
2O中の1H NMRが提示された。δppm(3.49〜3.79,m);(3.89〜3.97,m);(4.97 d,(ブロード));5.16(s,(b))
【0122】
本明細書では、このジアルデヒド官能性デキストランをDAFD−エステル結合と称する。
【0123】
酸化デキストラン(D10−50)の調製
水溶液中、デキストランをメタ過ヨウ素酸ナトリウムで酸化することにより、デキストランアルデヒドを生成する。Cohen(同時係属中で共願の国際公開第08/133847号パンフレット)らが記載している方法により、8,500〜11,500ダルトンの重量%平均分子量を有するデキストラン(Sigma)から、約10,000Daの平均分子量および約50%の酸化転化率(すなわち、デキストランポリマー中の約半分のグルコース環が酸化されジアルデヒドになる)を有する酸化デキストランを調製する。典型的な手順をここに記載する。
【0124】
機械式撹拌機、添加用ロート、内部温度プローブおよび窒素パージを備えた20Lの反応器に、1000gのデキストランおよび9.00Lの脱イオン水を入れる。混合物を室温で撹拌してデキストランを溶解し、その後、10〜15℃に冷却する。冷却したデキストラン溶液に、9.00Lの脱イオン水に1000gの過ヨード酸ナトリウムを溶解した溶液を、反応温度を25℃未満に維持しながら1時間にわたって添加する。全ての過ヨード酸ナトリウムを加えたところで、混合物を20〜25℃でさらに4時間撹拌する。その後、反応混合物を0℃に冷却し、ろ過して透明にする。塩化カルシウム(500g)をろ液に加え、混合物を室温で30分撹拌し、その後、ろ過する。ヨウ化カリウム(400g)をろ液に加え、この混合物を室温で30分間撹拌する。得られた赤色溶液の一部3Lを、10〜15分かけて9.0Lのアセトンに加えるが、その間は機械式撹拌機により激しく撹拌する。さらに数分撹拌した後、凝集生成物を上澄み液から分離する。第2のろ液にヨウ化カリウムを加えることにより得られた残りの赤色溶液を、上と同様に処理する。凝集生成物を一緒にしたものを破砕し、大きなステンレス鋼製のブレンダー内で2Lのメタノールと混合し、固体が顆粒になるまでブレンドする。顆粒状固体をろ過により回収し、窒素パージしながら真空下で乾燥させる。その後、顆粒状固体をハンマーミルで微粉末に粉砕する。20Lの反応器に10.8Lの脱イオン水および7.2Lのメタノールを入れ、この混合物を0℃に冷却する。前工程で生成した顆粒状固体を反応器に加え、スラリーを1時間激しく撹拌する。撹拌を停止し、固体を反応器の底に沈殿させる。上澄み液に真空によるデカンテーションを行い、15Lのメタノールを反応器に加え、スラリーを0℃に冷却しながら30〜45分間撹拌する。スラリーを部分に分けてろ過し、回収した固体をメタノールで洗浄し、混合し、窒素パージをしながら真空下で乾燥させて約600gの酸化デキストランを得た。これを、本明細書では、D10−50と称する。
【0125】
生成物の酸化率は、プロトンNMRによる測定で、約50%(アルデヒド基1つ当たりの当量=146)である。NMR法では、2つのピーク領域、より詳しくは、約百万分の6.2部(ppm)〜約4.15ppmの−O2CHx−(HODのピークを減算)および約4.15ppm〜約2.8ppmの−OCHx−(メタノールのピークが存在するならば全て減算)の積分値を求める。酸化度の計算は、これらの面積の計算比(R)、詳しくはR=(OCH)/(O2CH)に基づく。
【0126】
8アームPEG10Kオクタアミン(P8−10−1)の調製:
同時係属中で共願の米国特許出願公開第2007/0249870号明細書でChenaultが記載している2段階法により、8アームのPEG10Kオクタアミン(Mn=10kDa)を合成する。第1工程では、塩化チオニルと8アームPEG10Kオクタアルコールを反応させて、8アームPEG10Kクロリドを生成する。第2工程では、8アームPEG10Kクロリドをアンモニア水と反応させて8アームPEG10Kオクタアミンを得る。典型的手順をここに記載する。
【0127】
8アームPEG10Kオクタアルコール(Mn=10000;NOF SunBright HGEO−10000)(500mL丸底フラスコ中に100g)を真空下(0.06mm水銀柱(8.0Pa))、85℃で撹拌しながら4時間加熱するか、または減圧下(2kPa)、ポット温度60℃で50gのトルエンと共沸蒸留して乾燥させる。8アームPEG10Kオクタアルコールを室温にまで冷却し、還流冷却器を備えたフラスコに塩化チオニル(35mL、0.48mol)を加え、混合物を窒素で覆い、撹拌しながら85℃まで24時間加熱する。過剰の塩化チオニルをロータリーエバポレーターにより蒸発除去する(浴温40℃)。1回当たり50mLのトルエンを続けて2回加え、減圧下(2kPa、浴温60℃)で蒸発させ、塩化チオニルを完全に除去する。1つの合成から得られたプロトンNMRの結果は次の通りである:
1H NMR(500MHz、DMSO−d6)δ 3.71〜3.69(m,16H)、3.67〜3.65(m,16H)、3.5(s,約800H)
【0128】
8アームPEG10Kオクタクロリド(100g)を640mLの濃縮アンモニア水(28重量%)に溶解し、圧力容器中、60℃で48時間加熱する。溶液に乾燥窒素を1〜2時間噴霧し50〜70gのアンモニアを放出させる。その後、水酸化物形態の強塩基性アニオン交換樹脂(Purolite(登録商標)A−860、The Purolite Co.、Bala−Cynwyd、PA)のカラム(ベッド体積500mL)に溶液を通す。溶離液を捕集し、1回当たり250mLの脱イオン水をカラムに3回通して、これも捕集する。水溶液を混合して減圧下(2kPa、浴温60℃)で約200gに濃縮し、小分けにして冷凍し、凍結乾燥させて、無色のワックス様固体として、本明細書ではP8−10−1と称する、8アームPEG10Kオクタアミンを得る。
【0129】
8アームPEG10Kヘキサデカアミン(P8−10−2)の調製:
Arthurが国際公開第08/066787号パンフレットで記載しているような、8アームPEG10Kを、ジクロロメタン中、トリエチルアミンの存在下に塩化メタンスルホニルと反応させて8アームPEG10Kメシレートを生成し、次いで、これをトリス(2−アミノエチル)アミンと反応させて、8アームPEG10Kヘキサデカアミンを得るという2段階法により、アームの末端に2つの第1アミン基を有する、本明細書「p8−10−2」と称する8アームPEG10Kヘキサデカアミンを調製した。典型的合成法をここに記載する。
【0130】
窒素雰囲気下で撹拌され、0℃に冷却されている、50mLのジクロロメタンに10gの8アームPEG10K(Mn=10,000、日油(株)、東京、日本)を溶解させた溶液に、2.2mLのトリエチルアミン、続いて1.2mLの塩化メタンスルホニルを加える。混合物を室温に暖め、終夜撹拌する。反応混合物を分液ロートに移し、15mLの1Mリン酸二水素カリウムで3回、次いで15mLの1M炭酸カリウム、そして15mLの水で穏やかに洗浄する。ジクロロメタン層を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過し、ロータリーエバポレーターにより濃縮し、11.17gの8アームPEG10Kメシラートを得る。
【0131】
45mLの水に溶解させた、10gの8アームPEG10Kメシラートと45mLのトリス(2−アミノエチル)アミンとの混合物を、室温で24時間撹拌する。反応混合物を5%(w/w)重炭酸ナトリウム水45mLで希釈し、合計500mLを3分割したジクロロメタンで抽出する。ジクロロメタン溶液を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、ロータリーエバポレーターで20〜25gに濃縮する。濃縮ジクロロメタン溶液にエーテル(100mL)を激しく撹拌しながら加え、混合物を0℃に冷却して、ワックス状固体を溶液から分離させる。溶媒をデカンテーションによりワックス状固体から除去し、ワックス状固体を真空下で乾燥させて8アームPEG10Kヘキサデカアミン(P8−10−2)を得る。
【0132】
実施例1〜15
豚子宮角のメス切開シール部のインビトロ開裂試験
これらの実施例の目的は、豚の子宮角切開に対してなされた各種ヒドロゲルによるシールの開裂強度を明示することであった。
【0133】
豚の子宮角の一部の切開に対するシールの開裂強度の測定に、シリンジポンプシステムを使用した。シリンジポンプ(型番22、Harvard Apparatus、Holliston、MA)を改造し、「Y形」継手により互いに連結されている2本の30mLシリンジを装着した。1本のTygon(登録商標)R−36チューブ(直径0.6cm)と圧力計(PDG 5000L型、Omega Engineering、Stamford、CT)を通して、ポンプで水を送った。地元の食肉処理場から入手した清浄な豚子宮角の約12.5cm部分の一端に、シリンジポンプからの水を供給するための供給ライン継ぎ手を備えた金属プラグを装着し、他端に機械ネジでシール可能なネジ穴を有する金属プラグを装着した。プラグは腸管の外周の適当な位置にナイロン紐で保持した。切開は、#15の外科用メスの刃を装着したBard Parker(商標)の外科用メスハンドル5(BD Surgical Products、Franklin Lakes、NJから入手)で穿刺することにより、子宮角の壁から内部に向けて行われた。子宮角の外側の切開部はメスの刃より広く(通常、4〜5mm)、一方、内壁を通る孔は約3mm(刃にほぼ等しい)であった。このサイズの切開は、腸管を切断した後に縫合する場合の、断続縫合の間隔を模したものである。子宮角にシリンジポンプにより紫色染料を含有する水を、その水が末端プラグの開いた孔から、また子宮角壁のメスの穿刺部からも漏れ始めるまで、充填した。その後、ポンプの電源を切り、末端プラグを機械ネジでシールした。メス切開部をペーパータオルで拭き乾燥させた。
【0134】
アルデヒド官能性ポリサッカリドとマルチアームPEGアミンの溶液を、表1に示すように、水中で、37℃、175rpmで終夜振盪して調製した。2つの溶液を、16または12段の静的ミキサー(Mixpac Systems AG)を備えたダブルバレルシリンジ(Mixpac Systems AG(Rotkreuz、Switzerland)を使用して、切開部に塗布した。塗布後、接着剤は室温で2分以内に硬化した。シールした腸にシリンジポンプから11mL/minの流量で水を送り、生体接着シールから漏洩が始まるまで加圧して(この時点の圧力を記録した)、開裂圧力試験(本明細書では、漏洩圧力試験とも称する)を行った。ヒドロゲルと組織表面の間のシールの下から水漏れがあった場合、接着不良が原因であると考えられた。水が浸透しヒドロゲル自身から漏れた場合は、凝集不良が原因であると考えられた。開裂試験の結果を表1に要約する。
【0135】
表1
開裂圧力試験結果

【0136】
表1に示した結果は、単一のペンダントアルデヒド基を有するアルデヒド官能性ポリサッカリドを、ポリマーアームの末端に2つの第1アミン基を有する8アーム分枝末端ポリエチレングリコールアミン(すなわちP8−10−2)とポリマーアームの末端に1つの第1アミン基を有する8アームポリエチレングリコールアミン(P8−10−1)との混合物と反応させて生成したヒドロゲルは、生物学的組織に良好に接着し、かつこれをシールすることを明示している。
【0137】
実施例16〜26
インビトロ生体適合性試験−細胞毒性
これらの実施例の目的は、アルデヒド官能性ポリサッカリドとマルチアームPEGアミンとの反応から得られるヒドロゲルの安全性をインビトロ試験で明示することにある。
【0138】
試験は、ISO10993−5:1999にしたがって、NIH3T3ヒト線維芽細胞培養物を使用して実施した。NIH3T3ヒト線維芽細胞はAmerican Type Culture Collection(ATCC;Manassas、VA)から入手し、10%の牛胎児血清を加えたダルベッコ変法必須培地(DMEM)で培養した。
【0139】
表2に示すように、等体積の、アルデヒド官能性ポリサッカリドの水溶液とマルチアームPEGアミンの水溶液を混合して調製したヒドロゲルを、NIH3T3ヒト線維芽細胞培養体に与えた。実施例1〜15に記載したように、水溶液を調製し、混合して、ヒドロゲルを生成した。各ヒドロゲルを、ポリスチレン培養プレートのウエルの底に、ウエルの底の約1/4が覆われるように置いた。その後、UV光でウエルを殺菌し、50,000〜100,000個のNIH3T3細胞を播種した。
【0140】
細胞は、通常、集密的に成長し、ウエルの底を被覆し、ヒドロゲルの辺縁にまで増殖した。しかしながら、それらはヒドロゲルを越えて増殖することはなかった。これらの結果を表2に要約するが、ヒドロゲルに細胞毒性がなく、また細胞培養体がヒドロゲルに対し接着性を有していないことを明示している。
【0141】
表2
細胞毒性の結果

【0142】
実施例27〜37
ヒドロゲルの体外分解
これらの実施例の目的は、アルデヒド官能性ポリサッカリドとマルチアームPEGアミンとの反応で生成したヒドロゲルがインビトロ試験で容易に加水分解することを明示することにあった。
【0143】
表3に示すように、等体積の、アルデヒド官能性ポリサッカリドの水溶液とマルチアームPEGアミンの水溶液を混合して、ヒドロゲル試料を調製した。実施例1〜15に記載したように、水溶液を調製し、混合して、ヒドロゲルを生成した。ヒドロゲルを硬化させた後、試料を秤量し、pH7.4のPBS(リン酸緩衝生理食塩水)の入った瓶の中に入れた。この瓶を、80rpm、37℃にセットした温度制御振盪機内に置いた。様々な時間に瓶から試料を取り出し、過剰の溶液を拭き取って除去し、秤量した。その後、試料を容器に戻した。
【0144】
結果を表3に要約する。表中に記載したパーセント増加は、本実験の経過期間中に測定したヒドロゲルの重量をヒドロゲルの初期重量で除し、100を乗じたものである。
【0145】
表3
ヒドロゲルの体外分解

【0146】
(表3続き)

【0147】
表3の結果は、アルデヒド官能性ポリサッカリドとマルチアームPEGアミンとの反応で生成したヒドロゲルは、インビトロ試験で容易に加水分解することを明示している。重量%を単位とした成分の使用量の変更、および/または、PEGアミンのアミンもしくはアルデヒド官能性ポリサッカリドのアルデヒドの官能基数の変更により、分解時間を数時間から長い日数まで調整することができる。加水分解の結果は、本明細書中に開示されたヒドロゲルが体内で容易に分解するであろうことを示唆している。
【0148】
実施例38および39
ジアルデヒド官能性デキストランを使用して生成したヒドロゲルの体外分解
これらの実施例の目的は、ジアルデヒド官能性デキストランとマルチアームPEGアミンとの反応で生成したヒドロゲルの体外分解を調べることにあった。
【0149】
実施例1〜15に記載したように、ジアルデヒド官能性デキストランDAFD−10−16(実施例38)またはDAFD−10−エステル結合(実施例39)を20重量%の濃度で含有する水溶液を、マルチアームPEGアミンP8−10−1(25重量%)を含有する水溶液と混合し、ヒドロゲルを生成した。ヒドロゲルの分解は、実施例27〜37に記載した方法により求めた。結果を表4に要約する。
【0150】
表4
ヒドロゲルの体外分解

【0151】
これらの結果は、ジアルデヒド官能性デキストランがマルチアームPEGアミンP−8−10−1とともにヒドロゲルのゲルを生成すること、および、水性環境中では広範な分解速度を有するヒドロゲルが得られることを明示している。より詳しくは、デキストラン主鎖への結合が、エーテル結合したジアルデヒド官能性デキストランのように化学的に安定なペンダントジアルデヒド基を有するアルデヒド官能性デキストランを使用することにより、長寿命のヒドロゲルを生成することができる(実施例38)。また、エステル結合のように、加水分解に対して潜在的に不安定なペンダントジアルデヒド基を有するアルデヒド官能性デキストランを使用することにより、極めて迅速に分解するヒドロゲル調製することができる(実施例39)。
【0152】
実施例40〜44
水溶液中のアルデヒド官能性デキストランの安定性−粘度測定
これらの実施例の目的は、アルデヒド官能性デキストランの水溶液中における安定性が、酸化デキストランD10−50と比べて高いことを、粘度の測定によって明示することにあった。
【0153】
表5に示すように、酸化デキストランの水溶液(25重量%)と各種のアルデヒド官能性デキストランの水溶液(25重量%)を12日間45℃で加熱した。水溶液の30℃における粘度を、様々な時点で測定した。結果を表5に要約する。
【0154】
表5
酸化デキストランおよびアルデヒド官能性デキストラン水溶液の粘度

【0155】
表5の結果は、ペンダントアルデヒド基を有するアルデヒド官能性デキストランを含有する水溶液は、12日後に0%〜11%の範囲で粘度が低下したのに対し、酸化デキストランを含有する水溶液の粘度は同じ時間で22%減少したことを示している。これらの結果は、ペンダントアルデヒド基を有するアルデヒド官能性デキストランは、水溶液中で酸化デキストランより安定であることを示唆している。
【0156】
実施例45〜48
水溶液中のアルデヒド官能性デキストランの安定性−レオメトリ測定
これらの実施例の目的は、水溶液中のアルデヒド官能性デキストランの安定性を明示することにあった。アルデヒド官能性デキストラン溶液の安定性の尺度として、アルデヒド官能性デキストランとマルチアームポリエーテルアミンとの反応で得られたヒドロゲルの振動ディスクレオメトリを使用した。
【0157】
表6に示すように、一方のバレルに各種アルデヒド官能性ポリサッカリドの水溶液を、他方のバレルにマルチアームPEGアミンの水溶液を充填したダブルバルブシリンジを2通り用意した。他の2つのダブルバレルシリンジには、一方のバレルに酸化デキストランD10−50の水溶液を、他方のバレルにP8−10−1の水溶液(20重量%)を満たした。ダブルバレルシリンジに充填した水溶液を、静的混合チップを通してAPA2000型レオメータ(Alpha Technologies、Akron、OH)の試料台に送り、混合物の貯蔵弾性率(G’)を測定し、0日目の値とした。60秒におけるG’の値をゲル化速度の尺度とした。
【0158】
一方のグループのシリンジを25℃で様々な時間貯蔵し、第2のグループのシリンジは、熱的にエージングしたアルデヒド官能性ポリサッカリドの水溶液を提供するために、(表6に示すように)様々な時間40℃に加熱した。混合溶液の貯蔵弾性率を、様々な時間に、上記のように測定した。結果を、0日目のG’に対するパーセントで表し、表6に示す。
【0159】
表6
ヒドロゲル生成物のレオメトリ測定結果

【0160】
表6の結果は、アルデヒド官能性ポリサッカリドは水溶液中で酸化デキストランより安定であることを示唆している。
【0161】
実施例49
レオメトリ測定法を用いたAFD−13−64の水溶液中における熱安定性
この実施例の目的は、振動ディスクレオメトリ測定法により、アルデヒド官能性デキストランAFD−13−64の水溶液中における熱安定性を明示することにあった。
【0162】
それぞれ、一方のバレルにAFD−13−64の水溶液(20重量%)を、他方のバレルにP8−10−1の水溶液(20重量%)を充填した2つのダブルバレルシリンジを用意した。一方のシリンジは40℃で19日間加熱し、他方のシリンジは同期間4℃で保管した。その後、各シリンジから得られた混合物の貯蔵弾性率を、APA2000型レオメータ(Alpha Technologies、Akron、OH)を用いて測定した。40℃で19日間貯蔵したシリンジから得られた混合物について得られた貯蔵弾性率は、同期間4℃で貯蔵したシリンジから得られた混合物について得られた貯蔵弾性率と実質的に同一であり、アルデヒド官能性デキストランAFD−13−64が良好な熱安定性を有することを示唆するものであった。
【0163】
実施例50、比較例
アミド結合により結合したペンダントアルデヒド基を有するアルデヒド官能性カルボキシメチルデキストラン
この実施例の目的は、アミド結合でポリサッカリドと結合したペンダントアルデヒド基を有するアルデヒド官能性ポリサッカリドが、エーテル結合でポリサッカリドと結合したペンダントアルデヒド基を有するアルデヒド官能性ポリサッカリドほど、水溶液中で安定でないことを明示することにあった。
【0164】
カルボキシメチル化率が1.1の11kDaカルボキシメチルデキストランの調製(CMDX−11−1.1)の調製:
8.5〜11kDaの平均分子量を有するデキストラン(Sigma)を、123.75mLの6NのNaOHに0℃で溶解した。この冷溶液に、30.75gのクロロ酢酸(Aldrich)を加えた。この反応混合物を60℃まで20分間加熱し、その後、冷却して、濃塩酸でpH7.0に中和した。中和した溶液に1.0Lのメタノールを滴下して生成物を沈殿させた。固体をろ過により捕集し、メタノールから再沈殿させた。その後、全手順を3回繰り返し、置換率を所望のレベルにまで高めた。最後の繰り返しの後、限外ろ過により生成物をさらに精製した。溶液をMillipore Pellicon II TFFシステムを使用して透析ろ過した。一定の残余分体積を維持するために連続的に水を加えながら、合計で6倍の体積の浸透液を捕集した。その後、残余分を捕集し、凍結乾燥させて、14.25gの綿毛のような白色固体を得た。カルボキシメチル化率をHoら(Anal.Chem.52:916、1980)の方法により測定したところ、1.1であった。本明細書では、このカルボキシメチルデキストラン生成物をCMDX−11−1.1と称する。
1H NMR δ4.9〜5.2mult.(1H),3.4〜4.4mult(9.5H).
【0165】
アミド結合により結合したペンダントアルデヒド基を有するアルデヒド官能性カルボキシメチルデキストランの調製:
3リットルの3つ口フラスコに、13.7gのCMDX−60−1.7、並びにテトラメチルエチレンジアミン緩衝液およびジメチルホルムアミド(DMF)の1:1溶液916.6mLを加えた。pH4.94の透明な溶液が生成した。1.0MのHClを加えてpHを4.7に調整した。この溶液に、47.74gの1−エチル−3(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(Sigma)、続いて28.87gのn−ヒドロキシスクシンイミド(Aldrich)を加えた。溶液のpHを4.7に再調整し、2時間撹拌した。その後、pHが4.7を越えて上昇しないように、4−アミノブチルアルデヒドジエチルアセタール(53.88g)を小分けにして3.5時間にわたって加えた。反応の終点に向けてpHを6.25に上昇させ、その後、反応混合物を終夜撹拌した。反応混合物をガラス瓶に移し、水で希釈し、1kDaのカットオフフィルターを備えたMillipore Pellicon II 限外ろ過システムでろ過した。連続的にリサイクルし、浸透液を置換するために連続的に新鮮な水を加えて、浸透液として合計で5倍の体積を捕集した。ろ過した溶液を凍結乾燥させ、白色固体生成物を得た。その後、ペンダントアセタール基の結合を増加させるために、白色固体生成物を出発材料として上記手順を繰り返した。最終の収率は20.3gであった。
【0166】
固体を400mLの水に溶解し、pH2.5で1.0MのHClにより終夜処理することにより、アセタール基を除去した。NaOHで中和後、前述したように、溶液をMillipore Pellicon II 限外ろ過システムでろ過し、凍結乾燥させて16.45gの白色固体を得た。分子量を、サイズ排除クロマトグラフィーにより測定したところ、49kDaであった。環1個当たりのアルデヒド置換率を、加水分解した試料のNMRにより測定したところ、0.37であった。NMR法では、2つのピーク領域、具体的には、百万分の約6.2(ppm)〜約4.15ppmの−O2CHx−(HODのピークは減算)および約4.15ppm〜約2.8ppmの−OCHx−(メタノールのピークが存在するならば全て減算)の積分値を測定する。酸化度の計算は、これらの面積について計算した比(R)、具体的には、R=(OCH)/(O2CH)に基づく。
【0167】
アルデヒド官能性カルボキシメチルデキストランの水溶液中における不安定性
上記のようにして得た固体生成物5.1gを、15.3gのオートクレーブ水に溶解することにより、アミド結合で結合したペンダントアルデヒド基を有するアルデヒド官能性カルボキシメチルデキストランの水溶液を調製した。この混合物をインキュベータ中、37℃、190rpmで1時間振盪した。得られた溶液を5.0μm膜に通してろ過し、5mLの溶液試料を2つ、55℃のインキュベータに入れた。19時間後、両試料は流動性を示さない琥珀色のゲルを生成した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)約1,000〜約1,000,000ダルトンの重量平均分子量および約10%〜約200%のアルデヒド置換率を有する、少なくとも1種の、ペンダントアルデヒド基を有するアルデヒド官能性ポリサッカリド;および
b)少なくとも3本のアームが少なくとも1つの第1アミン基で終端されていて、約450〜約200,000ダルトンの数平均分子量を有する、少なくとも1種の水分散性マルチアームアミン
を含むキット。
【請求項2】
前記アルデヒド官能性ポリサッカリドが第1の水溶液もしくは分散液の成分であり、かつ前記水分散性マルチアームアミンが第2の水溶液または分散液の成分である請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記第1の水溶液もしくは分散液が、前記アルデヒド官能性ポリサッカリドを、前記溶液または分散液の全重量に対して約5重量%〜約40重量%の濃度で含む請求項2に記載のキット。
【請求項4】
前記第2の水溶液もしくは分散液が、前記水分散性マルチアームアミンを、前記溶液または分散液の全重量に対して約5重量%〜約70重量%の濃度で含む請求項2に記載のキット。
【請求項5】
前記アルデヒド官能性ポリサッカリドが、デキストラン、カルボキシメチルデキストラン、デンプン、寒天、セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、プルラン、イヌリン、レバンおよびヒアルロン酸のアルデヒド官能性誘導体からなる群より選択される請求項1に記載のキット。
【請求項6】
前記アルデヒド官能性ポリサッカリドが、アルデヒド官能性デキストランまたはアルデヒド官能性イヌリンである請求項5に記載のキット。
【請求項7】
前記水分散性マルチアームアミンが、水分散性マルチアームポリエーテルアミン、アミノ末端樹枝形ポリアミドアミンおよびマルチアーム分枝末端アミンからなる群より選択される請求項1に記載のキット。
【請求項8】
前記水分散性マルチアームアミンが、水分散性マルチアームポリエーテルアミンである請求項7に記載のキット。
【請求項9】
前記水分散性マルチアームポリエーテルアミンが、アミノ末端星形ポリエチレンオキサイド、アミノ末端樹枝形ポリエチレンオキサイド、アミノ末端櫛形ポリエチレンオキサイド、アミノ末端星形ポリプロピレンオキサイド、アミノ末端樹枝形ポリプロピレンオキサイド、アミノ末端櫛形ポリプロピレンオキサイド、アミノ末端星形ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイドコポリマー、アミノ末端樹枝形ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイドコポリマー、アミノ末端櫛形ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイドコポリマー、およびポリオキシアルキレントリアミンからなる群より選択される請求項8に記載のキット。
【請求項10】
a)溶媒中で、(i)約1,000〜約1,000,000ダルトンの重量平均分子量および約10%〜約200%のアルデヒド置換率を有する、少なくとも1種の、ペンダントアルデヒド基を有するアルデヒド官能性ポリサッカリドと、(ii)少なくとも3本のアームが少なくとも1つの第1アミン基で終端されていて、約450〜約200,000ダルトンの数平均分子量を有する、少なくとも1種の水分散性マルチアームアミンとを混合して、ヒドロゲルを生成する工程;および
b)前記ヒドロゲルを処理して前記溶媒の少なくとも一部を除去して、乾燥ヒドロゲルを生成する工程
を含む方法により生成される乾燥ヒドロゲル。
【請求項11】
前記乾燥ヒドロゲルが、フィルムの形態である請求項10に記載の乾燥ヒドロゲル。
【請求項12】
a)約1,000〜約1,000,000ダルトンの重量平均分子量および約10%〜約200%のアルデヒド置換率を有する、少なくとも1種の、ペンダントアルデヒド基を有するアルデヒド官能性ポリサッカリド、および
b)少なくとも3本のアームが少なくとも1つの第1アミン基で終端されていて、約450〜約200,000ダルトンの数平均分子量を有する、少なくとも1種の水分散性マルチアームアミン
の反応生成物を含む組成物。
【請求項13】
a)約1,000〜約1,000,000ダルトンの重量平均分子量および約10%〜約200%のアルデヒド置換率を有する、少なくとも1種の、ペンダントアルデヒド基を有するアルデヒド官能性ポリサッカリド;および
b)少なくとも3本のアームが少なくとも1つの第1アミン基で終端されていて、約450〜約200,000ダルトンの数平均分子量を有する、少なくとも1種の水分散性マルチアームアミン
を含み、前記少なくとも1種のアルデヒド官能性ポリサッカリドと前記少なくとも1種の水分散性マルチアームアミンが、前記ポリサッカリドの前記ペンダントアルデヒド基と前記水分散性マルチアームアミンの前記第1アミン基との間に形成された共有結合を介して架橋されている架橋ヒドロゲル組成物。
【請求項14】
前記アルデヒド官能性ポリサッカリドが、デキストラン、カルボキシメチルデキストラン、デンプン、寒天、セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、プルラン、イヌリン、レバンおよびヒアルロン酸のアルデヒド官能性誘導体からなる群より選択される請求項13に記載の架橋ヒドロゲル組成物。
【請求項15】
前記水分散性マルチアームアミンが、水分散性マルチアームポリエーテルアミン、アミノ末端樹枝形ポリアミドアミンおよびマルチアーム分枝末端アミンからなる群より選択される請求項13に記載の架橋ヒドロゲル組成物。
【請求項16】
生体組織解剖部位にコーティングを施す方法であって、
前記部位に、a)約1,000〜約1,000,000ダルトンの重量平均分子量および約10%〜約200%のアルデヒド置換率を有する、少なくとも1種の、ペンダントアルデヒド基を有するアルデヒド官能性ポリサッカリド;次いで、b)少なくとも3本のアームが少なくとも1つの第1アミン基で終端され、約450〜約200,000ダルトンの数平均分子量を有する、少なくとも1種の水分散性マルチアームアミンを塗布するか、または(b)に次いで(a)を塗布する工程、あるいは(a)と(b)とを予備混合する工程、および前記得られた混合物を前記部位に、前記得られた混合物が完全に硬化する前に塗布する工程
を含む方法。
【請求項17】
前記アルデヒド官能性ポリサッカリドが、デキストラン、カルボキシメチルデキストラン、デンプン、寒天、セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、プルラン、イヌリン、レバンおよびヒアルロン酸のアルデヒド官能性誘導体からなる群より選択される請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記水分散性マルチアームアミンが、水分散性マルチアームポリエーテルアミン、アミノ末端樹枝形ポリアミドアミンおよびマルチアーム分枝末端アミンからなる群より選択される請求項16に記載の方法。

【公表番号】特表2012−531954(P2012−531954A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−517893(P2012−517893)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【国際出願番号】PCT/US2010/040606
【国際公開番号】WO2011/002888
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(511094299)アクタマックス サージカル マテリアルズ リミテッド ライアビリティ カンパニー (6)
【Fターム(参考)】