説明

医療用保持装置

【課題】周囲の環境に影響されることなく、医療用器具を水平方向に伸長させることができる医療用保持装置を提供すること。
【解決手段】医療用器具8を保持する保持部16を上下方向および水平方向に移動可能なアーム14と、保持部16の移動位置に対応した位置に変位する変位部材と、水平方向に移動不能でかつ上下方向に移動可能に設けられ、鉛直下方への力を形成する荷重装置58,60と、変位部材を受けて該変位部材を水平方向に案内する水平ガイド52aと、を備え、変位部材は、水平ガイド52aにより、荷重装置58,60に対して水平方向に移動可能でかつ荷重装置58,60と共に上下方向に移動可能に連結され、水平ガイド52aにおける、保持部16の移動位置に対応した水平方向の位置に移動し、この移動に応じて水平ガイド52aにガイドされる変位部材の回転モーメントを変更し、保持部16で保持した医療用器具8と前記荷重装置58,60との平衡状態を維持すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持した医療用器具を任意の位置に維持することが可能な医療用保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば内視鏡や手術用顕微鏡等の医療用器具をアームの一端に保持し、この医療用器具を任意の位置に滑らかに移動し、その移動した位置に保持する医療用器具の保持装置では、支点を挟むアームの他端側にカウンターウエイトは配置し、このカウンターウエイトにより、医療用器具とのバランスを確保するカウンターバランス方式を採用している。
【0003】
例えば平行四辺形リンクを形成する4つのリンク部材の1つを支柱に回動可能に取付け、この支柱に取り付けたリンク部材の一端側に手術用顕微鏡を保持する支持アームを配置し、支柱を挟む他端側にカウンターウエイトを配置し、支持アームの水平方向および上下方向の動きに連動してカウンターウエイトを水平方向および上下方向に移動し、手術用顕微鏡とカウンターウエイトとの間でバランス調整を行いつつ微細な手術を行うものがある(例えば特許文献1および特許文献2参照)。
【0004】
また、腹腔内の述部を観察する内視鏡を微細かつスムーズに移動し、所要の位置に正確に固定するために、同様な平行四辺形リンクを介して内視鏡とカウンターウエイトとのバランス調整を行うものもある(例えば特許文献3および特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭63−36481号公報
【特許文献2】特開平7−143995号公報
【特許文献3】特開平7−227398号公報
【特許文献4】特開2001−258903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような治療器具の保持装置は、内視鏡あるいは手術用顕微鏡等の医療用器具の動きに応じてカウンターウエイトも連動する。例えば医療用器具が水平方向に伸ばされると、カウンターウエイトは反対側に突出する状態となる。特に、手術室内には、種々の機器が多数設置され、術者以外にも、助手や看護師等の多くの人が狭い空間内で所要の処置を行うことが必要とされているため、カウンターウエイトが医療用器具と反対側に突出すると、他の機器との接触や、看護師等の作業を阻害する虞がある。更に、カウンターウエイトの移動が制限される場合には、術者の視野を確保することも困難な状況ともなる。
【0007】
本発明は、このような事情に基づいてなされたもので、周囲の環境に影響されることなく、医療用器具を水平方向に伸長させることができる医療用保持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の医療用保持装置は、床、天井、医療用トロリー又はベッドに設置される架台部と、医療用器具を保持する保持部を一端側に有し、一端側と他端側との間の中間部が支柱を介して前記架台部に接続され、前記架台部に対して保持部を上下方向および水平方向に移動可能なアームと、このアームの他端側に設けられ、前記保持部の移動位置に対応した位置に変位する変位部材と、前記架台部に対して、水平方向に移動不能でかつ上下方向に移動可能に設けられ、鉛直下方への力を形成する荷重装置と、前記荷重装置と共に上下方向に移動可能でかつ水平方向に移動不能に前記荷重装置に連結され、前記変位部材を受けて該変位部材を水平方向に案内する水平ガイドと、を備え、更に、
前記変位部材は、前記水平ガイドにより、前記荷重装置に対して水平方向に移動可能でかつ荷重装置と共に上下方向に移動可能に連結され、かつ前記保持部が移動したときに、前記水平ガイドにおける、前記保持部の移動位置に対応した水平方向の位置に移動し、この移動に応じて前記水平ガイドにガイドされる前記変位部材の前記アームに対する回転モーメントを変更し、前記保持部で保持した医療用器具と前記荷重装置との平衡状態を維持することを特徴とする。
【0009】
前記荷重装置は、カウンターウエイトを有してもよい。
【0010】
また、前記荷重装置は、一端側が前記支柱で支持され、他端側が鉛直方向力を形成する弾性部材を有してもよい。
【0011】
前記アームは、前記支柱に回動可能に取付けられた旋回リンクを含む平行四辺形リンク機構を有し、前記変位部材は、この平行四辺形リンク機構に連結され、この平行四辺形リンク機構の変形、および、前記支柱に対する回動に連動して移動するものであってもよい。
【0012】
前記変位部材は、平行四辺形リンク機構の変形、および、前記支柱に対する回動の双方の動きに連動した一つの部材で形成することもできる。
【0013】
前記変位部材は、平行四辺形リンク機構の変形に連動する変形連動部材と、前記支柱に対する回動に連動する回動連動部材とを有することもできる。
【0014】
前記変位部材は、中心軸の回りを回動自在の円筒状部材を有し、前記荷重装置は、この円筒状部材を転動させて変位部材を水平方向に案内する水平ガイドを有するものであってもよい。
【0015】
前記アームは、保持部を3軸方向に傾動可能な傾動機構を有することが好ましい。
【0016】
前記医療用器具は、顕微鏡と内視鏡と医療用表示器機と医療用処置具の少なくとも一つを含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の医療用保持装置によると、医療用器具を保持する保持部が架台部に対して上下および左右方向に移動したときに、この保持部の反対側に位置する変位部材を、荷重装置に対して水平方向に移動し、医療用器具を保持した保持部と荷重装置との間のアームを介する平衡状態を維持することにより、周囲の環境に影響されることなく、例えば狭い場所でも、医療用器具を水平方向に自由に伸長させまたは収縮することができ、優れた操作性を有する。
【0018】
荷重装置がカウンターウエイトを有する場合には、保持部の配置位置に係わらず、アームを介して一定の荷重を保持部に作用させることができ、安定した操作を行うことができる。
【0019】
また、荷重装置が、弾性部材で形成される場合には、この医療用保持装置の全体が軽量化され、弾性部材とカウンターウエイトとを組合せて形成される場合には、医療用器具の全体を軽量化すると共に医療用器具の滑らかな軽い動きを確保することができる。
【0020】
アームが平行四辺形リンク機構を有する場合には、変位部材が医療用器具を保持した保持部の動きに正確に追従して平衡状態を維持することができる。
【0021】
変位部材が、この平行四辺形リンク機構の変形および支柱に対する回動の双方に連動する一つの部材で形成する場合には、全体の部材点数を少なくすると共に、一つの荷重装置で医療用器具の上下方向および左右方向の変位に対して平衡を保持することができ、全体を軽量化することができる。
【0022】
また、変位部材が、平行四辺形リンク機構の変形に連動する変形連動部材と、前記支柱に対する回動に連動して移動する回動連動部材とを有する場合には、それぞれの部材の動きが単純化され、バランス調整等の各部の調整が容易となる。
【0023】
変位部材が、中心軸の回りを回動自在の円筒状部材を有し、荷重装置が、この円筒状部材を転動させて変位部材を水平方向に案内する水平ガイドを有する場合には、保持部の動きに滑らかに追従することができる。
【0024】
アームが、保持部を3軸方向に傾動可能な傾動機構を有する場合には、保持部に保持した医療用器具の配置位置に加え、その姿勢を様々に調整することができる。
【0025】
医療用器具が、顕微鏡と内視鏡と医療用表示器機と医療用処置具の少なくとも一つである場合には、正確な位置制御を行うことができ、その機能を十分に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の好ましい実施形態による医療用保持装置の全体構造を示す概略図。
【図2】図1の医療用保持装置の変位部材とウエイト連結部との作動を示す説明図。
【図3】図2の変位部材とウエイト連結部とを断面で示す説明図。
【図4】軽量化した他の実施形態による医療用保持装置の概略図。
【図5】図4に示す医療用保持装置のアームの機能を、保持部を水平に移動した状態で示す説明図。
【図6】図4に示す医療用保持装置のアームの機能を、保持部を上下に移動した状態示す説明図。
【図7】ベッドに設置可能とした更に他の実施形態による医療用保持装置の概略図。
【図8】天井に設置可能とした更に他の実施形態による医療用保持装置の概略図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1から図3は、本発明の好ましい実施形態による医療用保持装置10を示す。本実施形態の医療用保持装置10は、手術室、検査室、処置室等に配置され、顕微鏡、内視鏡、医療用処置具、医療用表示装置等の医療用器具を保持し、周囲環境に係わらず、その位置を三次元空間内で自由に移動可能とすることにより、その医療用器具の機能を十分に発揮させると共に、医師等の術者に与える疲労感を可能な限り低減したものである。
【0028】
図1に示すように、本実施形態の医療用保持装置10は、臨床室の床Fに設置した架台部12でアーム14の中間部位を回動自在に支え、このアーム14の一端側の保持部16に取付けた、例えば内視鏡である医療用器具8を上下方向および水平方向に自由に移動することができる。
【0029】
架台部12は、底面側に配置した複数のキャスター18aで床Fに沿って移動可能なブロック状または板状構造のベース18と、このベース18に対して垂直軸線O1を中心として回動可能に、このベース18の上面側から上方に延びる支柱20とを有する。この架台部12には、キャスター18aの回転を阻止し、または、床に対するベース18の移動を阻止する適宜の制動手段または固定手段を設けることも可能である。
【0030】
支柱20は、ベース18側で、垂直軸線O1に沿って延びる直立部20aと、この直立部20aの上端側で、垂直軸線O1に対して傾斜した傾斜部20bとを有し、この傾斜部20bの先端に、符号O2で示す水平軸線を中心として、アーム14を回動自在に支持する支持部材22が配置されている。この支柱20は、回転力量調節部18bにより、ベース18に対して回転する際の力量を調節することができる。
【0031】
この支柱20の傾斜部20bの先端側で支えられるアーム14は、平行四辺形リンク機構を形成するリンク機構部24を有する。このリンク機構部24は、水平軸線O2に対して直交する面内に配置され、互いに平行に配置された上方ロッド26および下方ロッド28と、それぞれ平行に配置された連結ロッド30および旋回ロッド32とを有し、この旋回ロッド32が支持部材22を介して支柱12に旋回自在に支えられ、縦延長部32aがこの支持部材22を超えて、更にベース18側に延びる。
【0032】
このリンク機構24の上方ロッド26と旋回ロッド32とを回動自在に連結する関節部27の水平軸線O3、上方ロッド26と連結ロッド30とを回動自在に連結する関節部31の水平軸線O4、および、下方ロッド28と連結ロッド30とを回動自在に連結する関節部29の水平軸線O5は、下方ロッド28と旋回ロッド32とを回動自在に連結する関節部を兼ねた支持部材22の水平軸線O2と平行に、それぞれ図1の紙面に垂直に延びる。
【0033】
このリンク機構部24の上方ロッド26は、旋回ロッド32との関節部27を超えて垂直軸線O1側に一体的に延びる横延長部26aを有し、この横延長部26aの先端部に配置した回転力量調節部34を介して、保持部16が取付けられる。本実施形態の保持部16は、クランク状に屈曲した腕部36の先端部に力量調節部38を介して円筒状の先端保持部材40が取付けられ、この先端保持部材40の内孔内に内視鏡等の医療用器具8を固定することができる。先端保持部材40は、医療用器具8と共に、上方ロッド26と一体に形成された横延長部26aおよび回転力量調節部34の中心軸線O7と、回転力量調節部38の中心軸線O8とを中心として回動することができ、この回動に要する力量が回転力量調節部34,38で調節される。
【0034】
これらの中心軸線O7,O8は、先端保持部材40の内孔の中心軸線O9上の共通の一点を通り、これらの3つの中心軸線O7,O8,O9が互いに直交するように配置することが好ましい。また、先端保持部材40はこの内孔内で医療用器具8を軸線O9に沿って移動し、軸線O9を中心として回動し、所要の軸方向位置および回動位置で確実に固定可能であることが好ましい。
【0035】
このようにアーム14に、保持部16の先端保持部材40を3軸方向に傾動可能な傾動機構が設けられることにより、保持部16に保持した医療用器具8の配置位置に加え、その姿勢を様々に調整することができる。特に、医療用器具8が、顕微鏡と内視鏡と医療用表示器機と医療用処置具との少なくとも一つである場合には、正確な位置および姿勢制御を行うことができ、その機能を十分に活用することができる。
【0036】
このように形成されたアーム14は、保持部16を垂直軸線O1に沿う上下方向に移動し、リンク機構24を支持部材22の水平軸線O2を中心として回動すると、リンク機構24の関節部29がこれに追従して上下方向に移動する。また、保持部16を垂直軸線O1に垂直な方向(中心軸線O7と平行な方向)に移動し、リンク機構24を変形すると、縦延長部32aの先端部がこれに追従して水平方向に移動する。そして、保持部16が上下方向および水平方向に移動すると、それぞれの上下方向成分および水平方向成分に応じた距離だけ、関節部29と縦延長部32aの先端部とが移動する。
【0037】
保持部16の動きにこのように連動して変位する関節部29と縦延長部32aの先端部とに、変位部材としてそれぞれ回転連結部材46,48を設けてある。関節部29に設けられた回転連結部材46は、水平軸線O5を中心として自在に回動する円筒状部材47を有し、水平軸線O2を中心としてリンク機構24が支柱20に対して回動したときに、連動して移動する回動連動部材を形成する。また、縦延長部32aの先端部に設けられた回転連結部材48は、上述の水平軸線O2と平行な水平軸線O6を中心として自在に回動することができる円筒状部材68(後述する)を有し、リンク機構24の変形に連動する変形連動部材として形成される。これらの回転連結部材46,48は、保持部16の移動に伴い、上下方向にのみ移動するウエイト連結部50,52(後述する)に係合しつつ、リンク機構24により、保持部16の移動位置に対応した位置に変位する変位部材として機能する。
【0038】
これらの回転連結部材46,48の変位位置すなわち直前の静止位置からの移動量は、保持部16の移動距離に対して、支点となる支持部材22の水平軸線O2からのそれぞれの距離であるアーム長に比例する。すなわち、先端保持部材40の上下方向移動量に対する関節部29したがって回動連結部材46の移動量は、軸線O7上における軸線O3,O8間の距離に対する軸線O2,O5間の距離の比で定まり、水平方向移動に対する縦延長部32aの先端部すなわち回動連結部材48の移動量は、軸線O2,O3間の距離に対する軸線O2,O6間の距離の比で定まる。
【0039】
一方、このアーム14を支える支柱20の直立部20aには、垂直軸線O1に沿ってレール状のガイド54,56を側方に間隔をおいて延設してある。このガイド54,56には、それぞれ水平方向に移動不能でかつ上下方向にのみ摺動可能な連結スライド58a,60aを介して、カウンターウエイト58,60が設けられている。これらのカウンターウエイト58,60は、それぞれL字状シャフト62,64を介して、ウエイト連結部50,52に一体的に結合され、これらのウエイト連結部50,52と共に荷重装置を形成する。これらのカウンターウエイト58,60は水平方向に突出することがなく、また、医療用保持装置10を小型化するために、支柱20の傾斜部20bと同じ側に配置することが好ましい。
【0040】
図2に示すように、ガイド56は鳩尾状の断面形状を有するレール状に形成され、連結スライド60aはこのガイド56に嵌合する断面鳩尾状の嵌合孔を有し、ガタ付を生じることなく、上下方向に沿ってのみ摺動し、水平方向移動および回動が阻止されている。この連結スライド60aは、短い接続軸60bを介してカウンターウエイト60に一体的に結合されている。なお、カウンターウエイト60を省略し、この連結スライド60aをカウンターウエイトにすることも可能である。
【0041】
図2および図3に示すように、このカウンターウエイト60に、L字状シャフト64を介して連結されるウエイト連結部52は、回転連結部材48と係合する断面円形状の水平ガイド52aと、この水平ガイドの両端に一対の腕部を連結されてその中央部がL字状シャフト64の上端部に一体的に結合されるフレーム部52bとを有する。このウエイト連結部52は、L字状シャフト64、カウンターウエイト60、接続軸60bおよび連結スライド60aを介して、水平ガイド52aが回転連結部材48の水平軸線O6および垂直軸線O1に対して垂直に保持されている。そして、水平ガイド52aとフレーム部52bとで囲まれた略矩形状の開口部52c内に回転連結部材48が挿入され、水平ガイド52aに係止または係合し、リンク機構24とカウンターウエイト60とを連結する。
【0042】
本実施形態の回転連結部材48は、旋回ロッド32の縦延長部32aの先端部から、上述の水平軸線O6と同軸状に突出する突軸66の先端側外周部に、2つの転がり軸受68a,68aを介して、水平軸線O6を中心として回転自在に装着された円筒状部材68を有する。この円筒状部材68が、ウエイト連結部52の開口部52c内で水平ガイド52aに直接係合する。
【0043】
この回転連結部材48は、突軸66が縦延長部32aの長手方向に沿って平行移動し、水平軸線O2,O6間の距離を調整できるようにしてある。例えば、突軸66の水平軸線O6に対して垂直なネジ孔67を基部66aに形成し、縦延長部32aに装着したねじ付シャフト70等の連結位置調整部材を操作することで、突軸66を移動するようにしてもよい。この場合には、シャフト70のヘッド部70aに刻み目を形成し、このヘッド部70aを介して外部から容易に回転連結部材48の位置を調整できるようにすることが好ましい。このような連結位置調整機構は、図示以外の方法でも、その機能を満たすことができるものであれば適宜の機構を用いることができる。いずれの場合も、突軸66は、その水平軸線O6が、縦延長部32aを支柱20の保持する支持部材22の水平軸線O2と平行な状態に保持する。
【0044】
同様に、リンク機構24の関節部29に設けた回転連結部材46も図示しない転がり軸受を介して水平軸線O5の回りを回転自在の円筒状部材47を有し、この円筒状部材47が水平ガイド50aとフレーム部50bで区画されるウエイト連結部50の開口内に配置され、水平ガイド50aと係合される。また、このウエイト連結部50のフレーム部50bにL字状シャフト62を介して連結されるカウンターウエイト58、連結スライド58aおよびガイド54も、ウエイト連結部52にL字状シャフト64を介して連結されるカウンターウエイト60、連結スライド60aおよびガイド56と同様に形成することができる。
【0045】
なお、カウンターウエイト58,60は、ウエイト連結部50,52のフレーム部50b,52bに一体的に形成することも可能であり、また、ガイド54,56は、連結スライド58a,60a、カウンターウエイト58,60およびウエイト連結部50,52が互いに干渉することなく移動できるものであればよい。
【0046】
このように形成された医療用保持装置10は、先端保持部材40に医療用器具8を取付けた状態では、回転力量調節部34,38で設定された力量で保持され、軸線O7,O8を中心として自由に回転し、所要位置に保持することができる。この保持部16の全体は、アーム14を介して、カウンターウエイト58,60でバランスされ、具体的には、中心軸O2を中心として、図1の時計方向に作用する保持部16の力と、反時計方向に作用するカウンターウエイト58,60の力とがアーム14のリンク機構24を介してバランスされる。
【0047】
例えば図1に示す平衡状態では、旋回ロッド32および縦延長部32aが、垂直軸線O1と平行な垂直に配置され、回転連結部材48は水平軸線O2の垂直方向下方の中立位置に配置される。カウンターウエイト60の荷重は、回転連結部材48およびウエイト連結部52を介して下方に作用し、時計方向または反時計方向のいずれの方向にも力を発生しない。
【0048】
横延長部26aを介して保持部16を固定した上方ロッド26と下方ロッド28とは、床F面に対して平行に配置され、下方ロッド28と連結ロッド30との関節部29に、回転連結部材46、ウエイト連結部50およびL字状シャフト62を介してカウンターウエイト58の荷重が作用する。このカウンターウエイト58の重量と、水平軸線O2,O5間の水平距離(力学におけるモーメントアーム)との積で形成される反時計方向の回転モーメントが、保持部16で形成される時計方向の回転モーメントに対してバランスをとっている。
【0049】
そして、旋回アーム32および縦延長部32aを旋回することなく、保持部16を上下動すると、リンク機構24が水平軸線O2を中心として回動される。水平軸線O2,O5間の水平距離すなわちカウンターウエイト58の荷重が作用する回転連結部材46が、円筒状部材47を水平ガイド50aに沿って転動させ、水平軸線O2と保持部16の医療用器具8の配置される中心軸線O8との間の水平距離に対応した位置に変位する。水平軸線O2からの水平距離の比が変化しないため、保持部16とカウンターウエイト58とがバランスを保った平衡状態を維持する。
【0050】
一方、平衡状態にある図1の静止位置から、保持部16を床Fに対して水平方向に移動し、リンク機構24を変形すると、この保持部16が固定された横延長部36aおよび上方ロッド26が下方ロッド28に対して平行移動する。旋回ロッド32および縦延長部32aは、リンク機構24を支える支持部材22の水平軸線O2を中心として旋回する。下方ロッド28は移動せず、したがって、回転連結部材46、ウエイト連結部50、L字状シャフト62、カウンターウエイト58および連結スライド58aも移動しない。
【0051】
縦延長部32aの先端部に設けられた回転連結部材48は、円筒状部材68を水平ガイド52aに対して転動させつつ水平軸線O2を中心として円弧状に移動し、ウエイト連結部50と共に変位する。このときの回転連結部材48の移動量は、保持部16の移動量に対応し、移動方向は、逆となる。
【0052】
例えば図1の平衡状態から、保持部16が右方に平行移動すると、その移動分だけ時計方向の回転モーメントが増大する。このとき、回転連結部材48は水平軸線O2の垂直方向下方の中立位置から左方に移動し、水平軸線O2,O6間の水平距離とカウンターウエイト60との積で形成される反時計方向の回転モーメントが、回転連結部材46に作用するカウンターウエイト58による反時計方向の回転モーメントに加わる。保持部16が左方に平行移動した場合は、回転連結部材48が右方に移動し、時計方向の回転モーメントが発生する。このカウンターウエイト60による時計方向の回転モーメントは、カウンターウエイト58の反時計方向の回転モーメントを減じるように作用し、保持部16の回転モーメントとバランスを保った平衡状態を維持する。
【0053】
このような平衡状態は、保持部16を上下方向および左右方向に同時に移動し、リンク機構24を変形しつつ回動した場合であっても、維持され、更に、支柱20が垂直軸線O1を中心として回動した場合でも、カウンターウエイト58,60が傾斜部20bの下側に配置された状態で、この支柱20と共に回動し、維持することができる。いずれの状況下でも、カウンターウエイト58,60がアーム14よりも水平方向外方に突出することはない。
【0054】
なお、簡略化するために、図1に示すように旋回ロッド32を垂直に配置した平衡状態を例にとって説明したが、リンク機構24がどのような状態に回動および変形した状態であっても、同様に、保持部16の移動に回転連結部材46,48およびウエイト連結部50,52が滑らかに追従する。そして、カウンターウエイト58,60もこれに伴って移動することができることは明らかである。
【0055】
したがって、上述の医療用保持装置10によれば、医療用器具8を保持する保持部16が架台部12の支柱20に対して上下および左右方向に移動したときに、この保持部16の反対側に位置する変位部材である回転連結部材46,48を、上下方向にのみ移動する荷重装置としてのカウンターウエイト58,60およびウエイト連結部50,52に対して水平方向に移動する。医療用器具8を保持した保持部16とカウンターウエイト58,60とが、アーム14を介して平衡状態を維持され、周囲の環境に影響されることなく、例えば狭い場所でも、医療用器具8を水平方向に自由に伸長させまたは収縮することができ、優れた操作性を有する。
【0056】
特に、カウンターウエイト58,60は、ガイド54,56に沿って上下方向にのみ移動し、保持部16を上下および左右に同時に移動した場合であっても、その配置位置に係わらず、アーム14を介して一定の荷重を保持部16に作用させることができ、安定した操作を行うことができる。このアーム14が平行四辺形リンク機構を形成するリンク機構24を有することにより、回転連結部材46,48は、医療用器具8を保持した保持部16の動きに正確に追従して平衡状態を維持することができる。
【0057】
なお、変位部材が、リンク機構24の変形に連動する変形連動部材としての回転連結部材48と、水平軸線O2を中心とした支柱20に対するリンク機構24の回動に連動して移動する回動連動部材としての回転連結46で形成されることにより、回転連結部材46,48のそれぞれの動きが単純化され、例えばねじ付シャフト70によるバランス調整、カウンターウエイト58,60の重さ又は形状の調整等の等の各部の調整を容易に行うことができる。
【0058】
図4から図6は、他の実施形態による医療用保持装置10を示す。なお、以下に説明する種々の実施形態あるいは変形例は、基本的には上述の実施形態と同様であり、したがって、同様な部位には同様な符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0059】
この実施形態では、荷重装置として1つのカウンターウエイト58のみが設けられており、上述のカウンターウエイト60を省略してある。
【0060】
このアーム14は、リンク機構の旋回ロッド32の中間部位が支持部材22を介して支柱20に支えられ、水平軸線O2を中心として回動自在に保持される。また、リンク機構24は、旋回ロッド32と下方ロッド28とが水平軸線O6を中心として回動自在の関節部33で連結される。
【0061】
例えば旋回ロッド32および連結ロッド30が、図4に示すように垂直軸線O1と平行に配置された平衡状態から、図5に実線で示すように、保持部16を右方に移動し、または、点線で示すように、左方に移動すると、関節部29に設けた回転連結部材46がウエイト連結部50に対して左右に変位し、カウンターウエイト58と共に、保持部16による回転モーメントに対してバランスを保った平衡状態を維持する。
【0062】
同様に、図6に実線で示すように、保持部16を上方に移動し、または、点線で示すように、下方に移動すると、回転連結部材46がウエイト連結部50と共に上下動し、カウンターウエイト58と共に、保持部16による回転モーメントに対してバランスを保った平衡状態を維持する。回転連結部材46が左右および上下に移動する際、円筒状部材47がウエイト連結部50の水平ガイド50aに対して転動するため、摩擦抵抗を生じることなく、滑らかに変位することができる。
【0063】
変位部材が、このリンク機構24の変形および支柱20に対する回動の双方に連動する一つの回転連結部材46で形成されることにより、医療用保持装置10全体の部材点数を少なく、更に、一つのカウンターウエイト58で形成した荷重装置で、医療用器具8の上下方向および左右方向の変位に対してバランスを保持することができ、全体を軽量化することができる。
【0064】
図7は、更に他の実施形態による医療用保持装置10を示す。
【0065】
この医療用保持装置10は、更に軽量化したもので、荷重装置をウエイト連結部50に鉛直方向下方の力を形成する弾性部材72で形成してある。図示の実施形態では、弾性部材72は、圧縮コイルバネで形成してあり、圧縮方向の力に抗する反発力で、保持部16とのバランスを保持するものである。このコイルバネで形成した弾性部材72は、一端が支柱20に固定され、他端側がL字状シャフト62に固定され、このL字状シャフト62を介してウエイト連結部50に下向きの力を作用する。水平方向の力の成分が連結スライド58aで支えられる。
【0066】
この弾性部材72は、図示のように垂直軸線O1対して傾斜配置することに代え、垂直軸線O1と平行に配置してもよく、この場合には、連結スライド58aに作用する抵抗を小さくすることができる。
【0067】
このように、荷重装置を弾性部材72で形成することにより、医療用保持装置10が極めて軽量化される。本実施形態の医療用保持装置10は、ベース18に連結部材19aとこの連結部材19aをロックする固定ノブ19bとを設けてある。これにより、患者Pを収容したベッドBのサイドレールRに連結部材19aを取付け、固定ノブ19bを介してこの連結部材19aをサイドレールRに固定することができる。特に、弾性部材72は、支柱20がベッドBに対して傾斜した場合でも、確実に垂直軸線O1に沿う力を発生し、保持部16を滑らかに移動させることができる。
【0068】
なお、このような弾性部材72のみで荷重装置を形成することも可能であるが、上述の実施形態におけるカウンターウエイトと共に用いることも可能である。この場合にも、カウンターウエイト自体の重量を軽減することが可能である。
【0069】
図8は、更に他の実施形態による医療用保持装置10を示す。
【0070】
この医療用保持装置10は、ベース18を臨床室の天井Cに固定され、このベース18から垂下した支柱20の先端部に、支持部材22を介してアーム14が回動自在に支えられる。アーム14の保持部16には、医療用器具8として手術用顕微鏡が取り付けられている。この保持部16により形成される支持部材22を中心とする時計方向の回転モーメントは、弾性部材72によりウエイト連結部74および回転連結部材46を介して形成される反時計方向の回転モーメントでバランスされる。
【0071】
これにより、上述の実施形態と同様に、周囲の環境に影響されることなく、狭い場所であっても、顕微鏡等の医療用器具8を水平方向に自由に伸長させまたは収縮することができ、滑らかでかつ動きの軽い優れた操作性を有する。
【0072】
本実施形態のウエイト連結部74は、回転連結部74を上方に位置するベース18側から下方に付勢するため、上述の実施形態におけるフレーム部50b,52bは必要なく、水平ガイドのみで形成することができ、更に軽量化を図ることができる。
【0073】
なお、上述の実施形態における各部材は、適宜に組合せることも可能であり、いずれかの単独の形態に限定されるものではない。
【0074】
例えば、荷重装置を形成する弾性部材72として、図7の実施形態ではコイルバネを用い、図8の実施形態ではガススプリングを用いているが、これに限らず、空気等のガス圧または油等の液圧を圧力発生媒体として用いた適宜の流体圧式のものを用いることも可能である。これらの弾性部材72を複数個組み合わせることも可能であり、更に、弾性部材72とカウンターウエイトと組み合わせて荷重装置を形成することも可能である。また、カウンターウエイトを設ける場合は、このカウンターウエイトの一部または全部を、カウンター連結部50,52のフレーム部50b,52bに一体化することも可能である。
【符号の説明】
【0075】
8…医療用器具、10…医療用保持装置、12…架台部、14…アーム、16…保持部、46,48…回転連結部材(変位部材)、50,52…ウエイト連結部、52a…水平ガイド、58,60…カウンターウエイト(荷重装置)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床、天井、医療用トロリー又はベッドに設置される架台部と、
医療用器具を保持する保持部を一端側に有し、一端側と他端側との間の中間部が支柱を介して前記架台部に接続され、前記架台部に対して保持部を上下方向および水平方向に移動可能なアームと、
このアームの他端側に設けられ、前記保持部の移動位置に対応した位置に変位する変位部材と、
前記架台部に対して、水平方向に移動不能でかつ上下方向に移動可能に設けられ、鉛直下方への力を形成する荷重装置と、
前記荷重装置と共に上下方向に移動可能でかつ水平方向に移動不能に前記荷重装置に連結され、前記変位部材を受けて該変位部材を水平方向に案内する水平ガイドと、
を備え、更に、
前記変位部材は、前記水平ガイドにより、前記荷重装置に対して水平方向に移動可能でかつ荷重装置と共に上下方向に移動可能に連結され、かつ前記保持部が移動したときに、前記水平ガイドにおける、前記保持部の移動位置に対応した水平方向の位置に移動し、この移動に応じて前記水平ガイドにガイドされる前記変位部材の前記アームに対する回転モーメントを変更し、前記保持部で保持した医療用器具と前記荷重装置との平衡状態を維持することを特徴とする医療用保持装置。
【請求項2】
前記荷重装置は、カウンターウエイトを有することを特徴とする請求項1に記載の医療用保持装置。
【請求項3】
前記荷重装置は、一端側が前記支柱で支持され、他端側が鉛直下方の力を形成する弾性部材を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の医療用保持装置。
【請求項4】
前記アームは、前記支柱に回動可能に取付けられた旋回ロッドを含む平行四辺形リンク機構を有し、前記変位部材は、この平行四辺形リンク機構に連結され、この平行四辺形リンク機構の変形、および、前記支柱に対する回動に連動して移動することを特徴とする請求項1から3のいずれか一つの請求項に記載の医療用保持装置。
【請求項5】
前記変位部材は、平行四辺形リンク機構の変形、および、前記支柱に対する回動の双方の動きに連動した一つの部材で形成されることを特徴とする請求項4に記載の医療用保持装置。
【請求項6】
前記変位部材は、平行四辺形リンク機構の変形に連動する変形連動部材と、前記支柱に対する回動に連動する回動連動部材とを有することを特徴とする請求項4に記載の医療用保持装置。
【請求項7】
前記変位部材は、中心軸の回りを回動自在の円筒状部材を有し、前記荷重装置は、この円筒状部材を転動させて変位部材を水平方向に案内する水平ガイドを有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一つの請求項に記載の医療用保持装置。
【請求項8】
前記アームは、保持部を3軸方向に傾動可能な傾動機構を有することを特徴とする請求項1から7のいずれか一つの請求項に記載の医療用保持装置。
【請求項9】
前記医療用器具は、顕微鏡と内視鏡と医療用表示器機と医療用処置具の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1から8のいずれか一つの請求項に記載の医療用保持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−99599(P2013−99599A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−24862(P2013−24862)
【出願日】平成25年2月12日(2013.2.12)
【分割の表示】特願2008−128680(P2008−128680)の分割
【原出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(304050923)オリンパスメディカルシステムズ株式会社 (1,905)
【Fターム(参考)】