説明

医療用処置用具

【課題】簡単に気腹下処置と腹腔外処置との切り替えができ、気腹下での鉗子操作が行え、癌部位の摘出の際に腹壁の切開創が保護され、創感染の問題がない
医療用処置用具を提供する。
【解決手段】筒状部材の近位端側の開口部には第一の固定部材を付設し、遠位端側の開口部には第二の固定部材を付設した切開創に留置する医療用処置具において、第二の固定部材には両固定部材間の長さを調整する2つ以上の引張りベルトが付設され、第一の固定部材には引張りベルトを気密に係止めする手段を有するベルト抵抗調整部材が付設され、第一の固定部材に気密に固定されるコンバーターからなる医療用処置用具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は切開創を開創する医療処置用具に関する。特に内視鏡下外科手術において、気腹下での処置の後、気腹を解除して体外に臓器を取り出して処置を行ったり、再び臓器を体内に戻して再気腹下の操作で患部の確認や追加処置を行うための医療用処置用具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、低侵襲外科手術の方法として内視鏡外科手術が広く実施されている。内視鏡外科手術は低侵襲であり、入院期間が短く、外傷も小さくて済む等の利点がある。一方で術者には、内視鏡で映し出された映像を画面で見ながら複数の鉗子等の処置具を操作して手術を行う為、操作が難しく時間が長くかかりストレスを多く感じる難点がある。特に胃や大腸の手術は長時間になることが多く、術者は大きなストレスを受ける。このため、内視鏡下の処置後に最終的に大きな標本の摘出が想定される場合、小切開をおくことを前提として、気腹下での処置と小切開部から体表に臓器を引き出して行う処置とを簡単に移行できるように小切開口を簡単に塞ぐことができる医療用処置用具が要求されている。
【0003】
特開平11−160942号公報では、腹壁を挟んで固定する部材と円筒状部材からなる装置で、腹壁を挟む部材の間隔を腹腔内に挿入した固定部材に予め固定した糸等で引っ張り上げて腹腔外の固定部材に留め調節するシンプルな機構で、更に処置具の非挿入時および挿入時の気密性を保つための2種の気密部材により、再気腹時に小切開口部より鉗子類の挿入・操作が可能な医療用処置具を開示している。
この装置を使用することにより、気腹下で摘出臓器周囲の剥離などの処置を十分に行った後、臓器を取出す場所に3〜5cm程度の小切開をおき、その小切開口から対象臓器を体外に取りだして病変部の切離、摘出、縫合を術者が直接見て、手術を行うことができる。しかしながら、「糸で切開部を開創すると切開部の腹壁に糸がめり込み十分な開創が困難である。」「固定部材間隔調整用シートを固定する突起が付設されている他、概シートが開創部の周りに付設されており、臓器を引き出しての処置が困難になる」等の問題点があった。
【0004】
特開平10−108868号公報では使用する鉗子類の種類を選ばず腹腔内から気腹ガスがリークするのを防止することが可能な弁及び弁付トラカール外套管が開示されている。この弁は2枚のリングの間に柔軟な円筒状部材を付設し、2枚のリングを逆方向に捻ることで外径の異なった鉗子や術者の腕を挿入し、体内の処置を行うことが可能であり、この弁を開くことで臓器を体外に取りだして処置を行うことも可能である。しかしながら、この方式では鉗子等が弁によって絞られながら固定されるため、前進後退がしにくい欠点がある。また、腕を挿入した場合は特に前後運動によって腕の太さが変わるため場合により気密が保持しにくくなり、弁の絞りを調節する必要がある。さらに腹壁へのデバイスの固定力が円筒状部材のゴム弾性のみに頼っているため腹壁の厚さに柔軟に対応できず十分な創部の開創が得られない問題点があった。
【0005】
USP5480410号では柔軟で内面と開口端があるエンクロージャーで、開口端には腹壁固定及び気密を守るための展開手段を持ち、エンクロージャーの内部にアクセスするための少なくとも一つのアクセスオープニングがあり、腹腔内あるいはエンクロージャーの内部で外科手術を行うことが可能である装置が開示されている。この装置は従来、腹腔鏡、胸腔鏡手術に使用されているような硬性のトラカールではなく、柔軟なシート材で構成されており、腹壁の切開口にあった形状に変形可能な展開手段を切開口から挿入して腹腔内で展開させ、気腹用の炭酸ガスが腹腔内からエンクロージャー内部へ流入してエンクロージャーが膨脹し、展開手段は腹壁との気密を守る。更にエンクロージャー外周表面にアクセスオープニングを複数取り付ければ複数の鉗子が挿入でき、創部直下の観察も可能であり、創縁も保護される。しかしながら、エンクロージャーは基本的に球状であり、外周表面に取り付けられた各々のアクセスオープニングまでの距離は、設定時に決定され固定されてしまうため、複数の処置具を挿入している際、1本の処置具を大きく動かすと他の処置具も引きずられて動いてしまったり、また、腹壁の切開口が鉗子などの処置具に対して大きく操作時の腹壁での支点がないため鉗子操作が煩雑になる他、創部の開創がシートの伸張力にのみ頼っているため、腹壁の厚さによっては十分な開創が得られない問題点があった。
【0006】
USP5640977号では、アウタースリーブと2つのシール手段を持つ構造で、小切開口を通して腹腔内に入り、2つのシール手段を使ってアウタースリーブ内に気密な空間を構成する装置が開示されている。この装置は装置内を通して体内に術者の手及び腕を挿入した際、気腹をした状態で体内臓器の処置を行うことができ、また、第三のシール手段を使えば、腕を抜いた状態でもスリーブ及び体内の気密を保つことができる。しかしながら、この装置は術者が体内の臓器を体外に引き出して処置したい際、スリーブ部分を患者の体表に被せてあるドレープに接着する構造であり、接着部より上側を分離できる状態になっていないため、ドレープを切り取り装置全体を一旦取り出すか、スリーブ部分を切り取らないと体外に臓器を取り出して処置することができない。装置を取り出せば腹壁に癌組織等が付着する恐れがあり、また、スリーブ部分を切り取れば、体外での処置が終わった後で再度気腹を行い腹腔内で観察、処置することができない。
【0007】
USP5813409号では、スリーブと腹壁固定部を分離し、スリーブの遠位端のリングと、腹壁固定部のリングをスナップして固定する装置等が開示されている。この装置はスリーブと腹壁固定部を分離できるため、スリーブ部分を取り外して、腹壁固定部を腹壁に残したまま体内の臓器を体外に引き出して処置でき、切開口に癌組織が付着することもなく、処置が終わった後、臓器を体内に戻して再度スリーブを固定して気腹下で観察、処置を行うことができる。しかし、スリーブと腹壁固定具のリングをスナップで全周にわたってはめ合わせることは難しく、はめ合わせの不十分な箇所があった場合は、気密を保持できなくなる。また、もし、スリーブを通して処置具を操作すると、この装置も腹壁の切開口が鉗子などの処置具に対して大きく、操作時の腹壁での支点がないため鉗子操作が煩雑になるという欠点があった。
【0008】
USP5366478号や特表2000−501978では体内外にわたって一繋がりのドーナツ型のバルーンを膨脹させることで内腔を閉じて手や鉗子挿入時および抜去時の腹腔内の気密を保つ装置が開示されている。この装置は構造が単純で組み立ても簡単であるので手術時間を短縮できる。しかしながら、USP5366478号の装置では気腹を解除して体外に臓器を取り出して処置を行いたい場合、バルーンを収縮させなければならず、同時に創部が閉じてしまうために新たに開創器具を用いなければならないという欠点があった。また、両者共にバルーンが円周方向に膨張する為、デバイスの体表からの高さが高くなり、臓器を十分体外に引き出しにくい他、処置する部位に鉗子等を位置させにくくなる問題点があった。
【0009】
特開平11−99156号公報では、スリーブを腹壁の上下からリング状部材で固定し、通常のシール弁と弾性薄膜でつくったスリット状の開口を有する弁の2つの弁を有することで、手の挿入時および非挿入時の気密性を高めた装置が開示されている。この装置は手および鉗子の非挿入時にスリット状の弁が腹腔圧によって折り返し部分からなる接触面が互いに押し付けられるように膨脹することにより気密を保持するため、手の挿入時に弁を開いてしまえば弾性薄膜の弾性力以上の力は発生しないため、腕を締め付ける力は非常に小さくて済み、長時間の使用において術者のストレスが軽減される。しかし、この装置では気腹を解除して体外に臓器を取り出して処置を行いたい場合や創部から直視下で処置を行いたい場合に、特にスリット状の弁がじゃまになってしまう欠点があり、また、スリーブを通して処置具を操作するとこの装置も腹壁の切開口が鉗子などの処置具に対して大きく、また、操作時の腹壁での支点がないため鉗子操作が煩雑になるという欠点があった。
【0010】
USP5741298号では、腹壁の切開口周辺部の外側と内側からしっかり挟んで固定されるポートと、そのポートに取り付ける蓋により内腔を閉じて手や鉗子挿入時および抜去時の腹腔内の気密を保つ装置が開示されている。この装置は構造が単純で組み立ても簡単であるので手術時間を短縮できる。しかし、この装置では切開口の大きさや腹壁の厚さに柔軟に対応できず、十分な創部の開創を得られないという欠点があった。
【0011】
USP5653705号ではネジ山の付いたテーパー形状の環状部材を腹壁にねじ込んで固定し、着脱可能な可とう性のエンベロープを取り付け、手や鉗子挿入時および抜去時の腹腔内の気密を保つ装置が開示されている。この装置は環状部材を創部にねじ込むだけで容易に腹腔内へのアクセスポートを設置でき、環状部材が鉗子の支点となりうるため鉗子操作が容易に行える。しかしながら、環状部材を創部にねじ込んで用いるために創部を痛める恐れがある他、ねじ込みやすい角度をつける為には、環状部材が嵩高くなってしまう問題点や、腹壁の厚さと切開口の大きさに対して柔軟に対応できないという欠点があった。
【特許文献1】特開平11−160942号公報
【特許文献2】特開平10−108868号公報
【特許文献3】USP5480410号
【特許文献4】USP5640977号
【特許文献5】USP5813409号
【特許文献6】USP5366478号
【特許文献7】特表2000−501978
【特許文献8】特開平11−99156号公報
【特許文献9】USP5741298号
【特許文献10】USP5653705号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来の内視鏡下手術における処置のこのような欠点を解決するもので、その目的とするところは、様々な腹壁の厚さや切開創の大きさに柔軟に対応した設置が可能で、切開創周りでの処置が簡便となるように、設置後の二次的な開創操作が可能で、設置時の器具の体表から高さが低く、簡単に気腹下処置と腹腔外処置との切り替えができ、気腹下での処置を行う場合には鉗子操作が行える医療用処置用具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち本発明は、
(1)筒状部材の近位端側の開口部には第一の固定部材を付設し、遠位端側の開口部には第二の固定部材を付設した切開創に留置する医療用処置具において、第二の固定部材には両固定部材間の長さを調整する2つ以上の引張りベルトが付設され、第一の固定部材には引張りベルトを気密に係止めする手段を有するベルト抵抗調整部材が付設され、第一の固定部材に気密に固定されるコンバーターを有する医療用処置用具、
(2)引張りベルトを気密に係止めする手段が、ベルト抵抗調整部材のスリット付近に設置した凹凸と引張りベルトに付設した凹凸である(1)記載の医療用処置用具、
(3)凹凸がノコギリ歯形状である(2)記載の医療用処置用具、
(4)気密に係止めする手段がベルト抵抗調整部材の凹凸部分を動作させ、引張りベルトとの係止めを解除する手段を有している(1)〜(3)いずれか記載の医療用処置用具、
(5)係止めを解除する手段が引張りベルトに付設した凹凸とベルト抵抗調整部材に付設した凹凸の間に挿入される薄板である(4)記載の医療用処置用具、
(6)係止めを解除する手段がベルト抵抗調整部材に付設され、凹凸部分を解除方向に動かすことのできる突出部を持つ(4)記載の医療用処置用具、
(7)ベルト抵抗調整部材、引張りベルトの両方又は片方の少なくとも一部分が、縦弾性率0.05〜10kg/mm2の材料で構成される(1)〜(6)いずれか記載の医療用処置用具、
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の医療用処置用具は、コンバーター(6)の取り外しのみで簡単に気腹下での処置と腹腔外処置との切り替えができる。コンバーター(6)には気密部材(7)が付設されているために気腹下での処置を行う場合には本発明品からもトロッカーを挿入しての鉗子操作が行える。筒状部材(5)により癌部位の摘出の際に腹壁の切開創が保護され、癌細胞の創感染の問題がない。引張りベルト(3)のラチェット機構により切開創に十分な張力を与えた状態で固定でき、開創の程度が小さくなることはない。また、解除が必要な場合は、係止めを解除する手段を使用して引張りベルトを解除することもできる。
腹腔鏡下手術の術中には、簡単に気腹下処置と腹腔外処置との切り替えができ、直視下における創部直下の処置が容易である為、術者のストレスが軽減され、手術時間のスピードアップが図られ、更には、開腹手術より手術創が小さく患者への負担が軽いために、患者の術後入院期間も短くなり、患者、病院にとって大きなメリットがある。更に、術後の切開跡は目立たない程小さく、美容上有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の医療用処置用具を図で説明する。図1に全体の外観を示す。本発明の医療用処置用具は次の部品で構成されている。それは第一の固定部材(1)、第二の固定部材(2)、引張りベルト(3)、ベルト抵抗調整部材(4)、筒状部材(5)、コンバーター(6)及び気密部材(7)である。
【0016】
(医療用処置具の構造)
構造を簡単に説明すると第二の固定部材(2)は臓器取り出し用の開口部(12)を持ち、筒状部材(5)の開口部(12)に沿って固定される。筒状部材(5)のもう一端は第一の固定部材(1)に接続される。第二の固定部材(2)には任意の数の引張りベルト(3)を付設する。引張りベルト(3)はベルト抵抗調整部材(4)のスリット(18)を通し配置する。ベルト抵抗調整部材(4)は、第一の固定部材(1)に配置される。第一の固定部材(1)には、気腹ガスの漏れを防ぐコンバーター(6)が付設される。コンバーター(6)には気密部材(7)がほぼ中央に付設される。筒状部材(5)と引張りベルト(3)は腹壁の厚さよりも長く、任意の腹壁の厚さにも設置することが可能であり、引張りベルト(3)に張力を与えることで切開創の開創が可能である。コンバーター(6)は第一の固定部材(1)に簡便に取り付けることが可能であるため、気腹操作と臓器を取り出しての操作の移行が簡便である。コンバーター(6)には気密部材(7)が付設されているため、トロッカー等を設置することができ、鉗子等を用いた処置が可能である。
【0017】
(第一の固定部材)
第一の固定部材(1)は筒状部材(5)の開口部(12)に沿って付設される。通常、射出成形、圧縮成形によって作製される。筒状部材(5)表面に密着して熱溶着または接着固定されるか、Oリング等を使用して物理的な締め付けにより固定される。形状は円形や多角形等で中央に臓器取り出し用の開口部(12)を持つ形状で特には限定しないが、開口部(12)に術者の握りこぶしが挿入可能で、腹上に設置した場合に嵩張らない程度の大きさが望ましく、外寸が直径50〜300mmの大きさ、内寸が直径30〜280mmのリング形状がよい。第一の固定部材(1)の高さはできるだけ低い方が、第一の固定部材(1)の開口部(12)から臓器を体表に引き出し易くなる他、開口部(12)を支点として柄の長い処置具を体内に挿入する場合に処置範囲が広くなり好ましく、5〜50mmであることが好ましい。
【0018】
第一の固定部材(1)にはベルト抵抗調整部材(4)を配置する。ベルト抵抗調整部材(4)は第一の固定部材(1)の体表接地面(13)もしくはその反対側から掘り下げた溝に配置しても良いが、図1(C)に示すように第一の固定部材(1)の体表接地面(13)に対して垂直な側面に空隙を設置し、この空隙にベルト調整部材(4)を配置する方が、コンバーター(6)の設置面を一つの部材で継ぎ目なくすることができ、気密性を確保することが容易となり望ましい。
また、ベルト抵抗調整部材(4)を固定する部位にリブを設置する方が気密性が向上し望ましい。
【0019】
引張りベルト(3)が臓器を引き出しての処置に支障がないように、第一の固定部材(1)には引張りベルト(3)を水平方向に引張るような構造となるようにベルト抵抗調整部材(4)を付設することが望ましい。第一の固定部材(1)にはコンバーター(6)が嵌合される。コンバーター(6)が嵌合しやすいように、第一の固定部材(1)の外縁はコンバーター(6)の爪が引っかかる形状とすることが望ましい。第一の固定部材(1)の上部は引き出した臓器が直接接触するため、傷つけぬよう平坦であることが望ましい。第一の固定部材(1)の材質は塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂、SEBS樹脂、シリコーンゴム等や、ステンレス鋼等の金属が使用される。
【0020】
(第二の固定部材)
第二の固定部材(2)は筒状部材(5)の開口部に沿って付設される。通常、射出成形、圧縮成形または押出成形チューブの加工によって作製される。筒状部材(5)に包まれ、密着して熱溶着または接着固定されるか、第二の固定部材(2)表面に密着して熱溶着または接着固定される。或いはOリング等を使用して物理的な締め付けにより固定されてもよい。腹腔鏡補助下大腸切除術を行う場合、約20〜80mmの小切開に対して内径約30〜120mm、外径約40〜200mmに設定することが好ましい。厚さは腹腔内で嵩張らないことが要求されるため、0.5〜10mm程度が好ましい。切開創から腹腔内に第二の固定部材(2)を折り曲げて挿入するため、素材はある程度の弾力を備えている方が好ましい。第二の固定部材(2)の材質は塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂、SEBS樹脂、シリコーンゴム等や、ステンレス鋼等の金属が使用される。
【0021】
(引張りベルト)
引張りベルト(3)は第二の固定部材(2)に接続され、ベルト抵抗調整部材(4)のスリット(18)を通すように配置する。引張りベルト(3)の幅は、図2に示すがごとく切開創を大きく(なるべく円形に)開創するために10mm以上であることが望ましいが、過度に幅広いと切開創へ挿入し難くなるため、10〜60mmの範囲であることが好ましい。厚さは体表での用具の高さを低く抑えるために0.1〜5mmのシート状であることが好ましい。引張りベルト(3)の長さは種々な腹壁に対応するために長い方が良いが、長すぎると開創した際に体表に露出し、トロッカー等の穿刺部位を制限するため、実用的な長さとして30〜200mmとすることが好ましい。
【0022】
切開創を開創した場合に開創した大きさが収縮しない様に引張りベルト(3)には図3に示すようなノコギリ歯状のラチェット溝(17)が付設されることが望ましい。ラチェット溝(17)の深さは厚みを薄く保つために、0.5〜2.5mm程度に設計することが好ましい。ラチェット溝(17)は図3(B)、(C)に示すように一部に付設しても良い。図4に示すようにラチェット溝(17)の角度Aを鋭角的な形状とすると開創時の抵抗を減少し好ましい。引張りベルト(3)に付設するラチェット溝(17)は側面に付設しても良いが、図1に示すように開口部(12)と反対側に作製した方が臓器を引き出す際にベルトのラチェット溝(17)に接触しないため、臓器を傷つける恐れがなく好ましい。
【0023】
材質は適度な柔軟性があり、滑りがよい材料がよい。円滑な操作を行うには引張りベルト(3)は全体又は凹凸などその一部を変形するように適度な硬さ(ショア硬度A40〜D60程度の材料)が好ましい。不織布、もしくは織物のシート材料あるいは、押出成形、射出成形、圧縮成形等により作製されるが、特には限定されない。ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂等が使用できる。樹脂又は金属メッシュの入りのシートも変形が少なく好ましい。
【0024】
(ベルト抵抗調整部材)
ベルト抵抗調整部材(4)は第一の固定部材(1)に付設される。ベルト抵抗調整部材(4)は引張りベルト(3)を通すスリット(18)が付設されている。スリット(18)は気密性を確保する為に、引張りベルトの断面とほぼ同じ形状とした方が好ましい。このスリットの周辺には引張りベルト(3)の凹凸と対応する凹凸(19)が付設され、引張りベルト(3)に係り止めし、開創状態が収縮することを抑制する。ベルト抵抗調整部材(4)は、第一の固定部材(1)に配置するときに気密を保つようにリブ(14)または凹部を付設することが望ましい。一例を図5に示す。
【0025】
ベルト抵抗調整部材(4)は、開創状態と収縮状態を臨機応変に切り替えられるように、引張りベルト(3)の係止め状態を解除できる手段を備えている方が望ましい。例えば図6示すように、薄板(20)を引張りベルト(3)とベルト抵抗調整部材(4)の凹凸(19)の間に挿入することで凹凸(19)の係止めを解除することができる。薄板(20)は別の部材として備えても良いし、薄板(20)を第一の固定部材(1)にスライド可能に固定しても良い。
【0026】
また、図7、図8のように、ベルト抵抗調整部材(4)の凹凸を係止め状態から解除できる方向に移動できるように、凹凸(19)から延長した突起部(21)を付設し、これを操作して凹凸(19)を移動させても良い。図7に示すように、ベルト抵抗調整部材(4)は、凹凸(19)を確実に移動させることができるように、凹凸(19)の両端の近くに切り欠き部(22)を付設することが望ましい。図8は二部品からなり、凹凸(19)を含む部品の突起部(21)を引張ると残りの部品に付設されたガイドに従って、下側に移動する構造となっている。下側に凹凸(19)を含む部品が移動することにより、係止め状態が解除される。
【0027】
図9に示すようにベルト抵抗調整部材(4)を二部品(4A、4B)に分割し、凹凸(19)を含む部品(4B)の下側にバネを付設し、凹凸(19)を上下に移動可能としても良い。また、図10に示すように、ベルト抵抗調整部材(4)を二部品(4A、4B)とし、凹凸(19)を水平方向に引き抜ける構造としても良い。図11に示すようにベルト抵抗調整部材(4)を三つの部品に分割し、凹凸操作部分(24)により凹凸(19)を開いて移動させてもよい。またベルト抵抗調整部材(4)の内部を空洞にして圧力を減少させて係止めを解除しても良い。
【0028】
引張りベルト(3)には切開層の開創程度の縮小を抑制するように凹凸(19)が付設されている為、開創操作時には抵抗が生じる。円滑な操作を行うにはベルト抵抗調整部材(4)は全体又は凹凸(19)などその一部を変形するように適度な硬さ(ショア硬度A40〜D60程度の材料)が望ましい。材質としては塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂、SEBS樹脂、シリコーンゴム、が使用される。
【0029】
(筒状部材)
筒状部材(5)は肉厚0.05〜3mmの平面またはテーパーのかかった筒状であり、通常、押出成形またはインフレーション成形等により作製されるが特に限定されない。筒状部材(5)の大きさは処置を行う部位、目的によって異なるが、腹腔鏡補助下大腸切除術に使用される場合、外径が30〜300mmが望ましい。使用時には内視鏡や鉗子等の処置具が頻繁に出入りするため、嵩張らず、適度に柔軟で、更に、処置具等が当たっても切れたり裂けたりし難い材質を選ぶのが良く、例えば、軟質塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、SEBS樹脂、シリコーンゴム、天然ゴム等の材質が好ましい。
【0030】
(コンバーター)
コンバーター(6)は第一の固定部材(1)上に設置し、気腹時に腹腔内の気密を確保するためのものである。着脱を行う場合、第一の固定部材(1)との凹凸やネジによって固定しても良いが、コンバーター(6)の端にツメ(11)を付設し、第一の固定部材(1)の側面に嵌合する様式をとった方が簡便で好ましい。通常射出成形、圧縮成形などで成形される。コンバーター(6)は図1(B)、図12のように開口部のない気密部材(7)を取り付け、これを刺入して用いるタイプや図13のように第一の気密部材(8)と第二の気密部材(9)を付設したタイプ、図14のように第一の気密部材(8)と第二の気密部材(9)を一体成形したタイプが考えられる。コンバーター(6)には気密部材(7)が付設され、その中央に窓(10)を形成する。窓(10)の大きさは挿入する処置具等の大きさによって決められ直径1〜250mm、好ましくは直径1〜150mmに設定することが適当である。高さは処置の際に邪魔にならないように1〜40mmが適当である。その材質は塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリサルフォン樹脂等の硬質樹脂かシリコーンゴム、天然ゴム、NBR等の合成ゴムが使用される。
【0031】
(気密部材)
気密部材(7)は図12のようにトロッカーや鉗子挿入時に気密を保つために配置される。開口部のない隔膜である。厚さは0.1〜3mmが好ましい。これは、0.1mm未満では炭酸ガスの圧力により弁が変形され易くなり、3mmを超えると鉗子等の処置具を挿入する際の摩擦抵抗が大きくなり、挿入が困難となるためである。内径は処置具等の外径に合わせ、0.5mm〜80mmが好ましい。トロッカー等の処置具を挿入した際に気密が保てるように、気密部材の材質は引き裂き強度が5〜100N/mmであることが好ましい。更に、可とう性を有するものがより好ましく例えば天然ゴム、シリコーンゴム、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、SEBS樹脂等が好適である。
【0032】
(第一の気密部材)
第一の気密部材(8)は鉗子等を挿入していない時に気密を保つために設置するものであり、近位端の先端をキャップ等で閉じたり、図13のように、内部にフラップタイプの弁やダックビルタイプの弁等の弁部材を付設しても良い。また、単にシートにスリット加えた図14のようなタイプでも良い。スリットの長さは挿入するトロッカー、処置具、又は腕のサイズにあわせて設定すればよく、1〜250mm、特に1〜150mmが好ましい。図14のように一体成形をする場合はスリットが裂けた場合でも第二の気密部材まで引き裂けないように肉厚部を設置したりすることが望ましい。キャップ等で閉じる場合は近位端入口に嵌合部材を取り付け、それとの凹凸で嵌合させたり、ネジによって固定しても良い。キャップは通常射出成形などで成形され、その材質は塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリサルフォン樹脂など若干硬質の樹脂かシリコーンゴム、天然ゴム、NBR等の合成ゴムなどが使用される。フラップタイプの弁は通常、腹腔鏡外科手術等で使用されるトロッカーに内蔵されているような硬質の成型品とバネ部材を組み合わせた物でも、シリコーンゴムのような弾性部材をフラップ形状に成形、加工して使用しても良い。フラップタイプの弁は体外側に開くことはなく、体内側にのみに動くので、処置具等が挿入されていない時は体内側の陽圧によりフラップが体外方向に押されて閉じる構造である。フラップタイプの弁は射出成形や圧縮成形などで成形され、その材質は塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリサルフォン樹脂、シリコーンゴム等が使用される。ダックビルタイプの弁も同様に射出成形や圧縮成形で成形され、主としてシリコーンゴム等の弾性材料で作製される。
【0033】
(第二の気密部材)
第二の気密部材(9)は鉗子等を挿入している際に気密を保つために配置され、円形の穴の開いたシール弁等を付設しても良い。シール弁は射出成形、圧縮成形、シート加工等により作製され、近位端入口やコンバーター(6)に熱溶着または接着される。シール弁の厚さは0.1〜3mm程度が好ましい。これは、0.1mm未満では炭酸ガスの圧力により弁が変形され易くなり、3mmを超えると鉗子等の処置具を挿入する際の摩擦抵抗が大きくなり、挿入が困難となるためである。内径は処置具等の外径に合わせ、0.5mm〜30mmが適当である。シール弁の材質は、可とう性を有するものが好ましく例えば天然ゴム、シリコーンゴム、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、SEBS樹脂等が好適である。
【0034】
(使用方法)
次に本発明による医療用処置用具の実際の使用方法について説明する。腹腔鏡補助下大腸切除術を行う場合、まず、複数本のトロッカーを腹部に挿入し、臓器摘出予想部位に約3〜5cm程度の小切開を置く。その小切開に第二の固定部材(2)を挿入する。引張りベルト(3)を引張り切開創を図2のように開創する。
次にコンバーター(6)を第一の固定部材(1)に気密に固定する。コンバーター(6)の気密部材(7)よりトロッカー等を刺入し、そこから腹腔鏡、処置具を挿入して大腸の剥離、リンパ節の郭清、血管の処理などの処置を腹腔鏡下で行い、十分な受動ができた後、コンバーター(6)を取り外して大腸を体外へ取り出し、直視下で患部付近の大腸の切離・縫合等を行った後、体内へ大腸を戻す。
再度、コンバーター(6)を第一の固定部材(1)に取り付け、再気腹を行い、腹腔内を十分に観察する。再度、処置が必要な場合は気腹下で処置を行うか、気腹を落とし、コンバーター(6)を取り外して処置を行う。処置中に引張りベルトの解除が必要になった場合には解除手段を使用して解除する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施例の医療用処置用具を示し、(A)はその外観図を示す斜視図、(B)はコンバーターおよび気密部材の断面図、および(C)は筒状部材の断面図である。
【図2】本発明による医療用処置用具を創部に留置した状態の一例を示す概略図。
【図3】本発明による医療用処置用具の引張りベルトの実施例を示し、(A)はその一実施例、(B)は他の実施例の斜視図、および(C)はさらに他の実施例の斜視図である。
【図4】図3に示す引張りベルトにおけるラチェット溝を示し、(A)はその一実施例の断面図、および(B)はその他の実施例の断面図である。
【図5】ベルト抵抗調整部材の一実施例を示し、(A)はその斜視図、および(B)は切断面図である。
【図6】ベルト抵抗調整部材における薄板を使用した係り止め状態の解除を示し、(A)は第一の固定部材との関係を示す斜視図、(B)はベルト抵抗調整部材への挿入前の状態を示す断面図、および(C)は挿入した状態の断面図である。
【図7】ベルト抵抗調整部材の他の実施例を示し、(A)はその斜視図、(B)は引張りベルトを挿入した状態の断面図、および(C)は引張りベルトの離脱状態を示す断面図である。
【図8】ベルト抵抗調整部材のさらに他の実施例を示す斜視図である。
【図9】ベルト抵抗調整部材のもう一つの他の実施例を示し、(A)は引張りベルトが係合状態における断面図、(B)は(A)の図面直角方向の断面図、(C)は引張りベルトの離脱状態の断面図、および(D)は(C)の図面直角方向の断面図である。
【図10】二部品からなるベルト抵抗調整部材のさらにもう一つの他の一実施例を示し、(A)は一体にされた状態を示す斜視図、および(B)は分離された状態を示す斜視図である。
【図11】三つの部品からなるベルト抵抗調整部材のその上のさらにもう一つの他の実施例を示し、(A)はその斜視図、(B)は係合状態を示すその平面図、および(C)は離脱状態を示すその平面図である。
【図12】コンバーターの一実施例を示す断面図である。
【図13】コンバーターの他の実施例を示す断面図である。
【図14】コンバーターのさらに他の実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 第一の固定部材
2 第二の固定部材
3 引張りベルト
4 ベルト抵抗調整部材
5 筒状部材
6 コンバーター
7 気密部材
8 第一の気密部材
9 第二の気密部材
10 窓
11 ツメ
12 開口部
13 体表設置面
14 リブ
15 腹腔内
16 体表面
17 ラチェット溝
18 スリット
19 凹凸
20 薄板
21 突起部
22 切り欠き部
23 バネ
24 凹凸操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状部材の近位端側の開口部には第一の固定部材を付設し、遠位端側の開口部には第二の固定部材を付設した切開創に留置する医療用処置具において、第二の固定部材には両固定部材間の長さを調整する2つ以上の引張りベルトが付設され、第一の固定部材には引張りベルトを気密に係止めする手段を有するベルト抵抗調整部材が付設され、第一の固定部材に気密に固定されるコンバーターを有することを特徴とする医療用処置用具。
【請求項2】
引張りベルトを気密に係止めする手段が、ベルト抵抗調整部材のスリット付近に設置した凹凸と引張りベルトに付設した凹凸である請求項1の医療用処置用具。
【請求項3】
凹凸がノコギリ歯形状である請求項2記載の医療用処置用具。
【請求項4】
気密に係止めする手段がベルト抵抗調整部材の凹凸部分を動作させ、引張りベルトとの係止めを解除する手段を有している請求項1〜3いずれか記載の医療用処置用具。
【請求項5】
係止めを解除する手段が引張りベルトに付設した凹凸とベルト抵抗調整部材に付設した凹凸の間に挿入される薄板である請求項4記載の医療用処置用具。
【請求項6】
係止めを解除する手段がベルト抵抗調整部材に付設され、凹凸部分を解除方向に動かすことのできる突出部を持つ請求項4記載の医療用処置用具。
【請求項7】
ベルト抵抗調整部材、引張りベルトの両方又は片方の少なくとも一部分が、縦弾性率0.05〜10kg/mm2の材料で構成される請求項1〜6いずれか記載の医療用処置用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−12328(P2008−12328A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232357(P2007−232357)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【分割の表示】特願2002−211976(P2002−211976)の分割
【原出願日】平成14年7月22日(2002.7.22)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】