説明

医療用抑制具

【課題】主として小児患者の点滴や採血時の抑制や圧迫感なく、確実に動作抑制を行う抑制具を提供する。
【解決手段】この発明は、診察台又は処置台等からなるベッド1上に位置決め固定され、ベッド1上に横たわる患者Mの胴体部に左右両側より着脱自在に巻付装着可能な締着帯8と、一端が該締着帯8の上方位置に固定され他端を患者Mの肩部から胸部側に経由させて締着帯8側に着脱自在に固着して患者の肩部を抑制する肩ベルト12とを備えた医療用抑制具の改良に関するものである。
即ち、上記締着帯8が患者の少なくとも左右いずれかの上腕以下の部分と、胸部を含む胴体部を覆うカバー状のシート材又はネット状部材よりなり、上記締着帯8の端部に、締着帯8を巻付固定した状態で着脱自在に固定する固着具9a,9bを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は主として乳幼児(小児)の点滴・採血等に際し、処置台や診察台等のベッド上での小児の恐怖感や疼痛による激しい抵抗の動作を抑制する医療用抑制具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来小児の点滴や採血、注射等における抵抗動作に際して危険防止や安全確実な治療や処置を行うための抑制具としては、非特許文献1の抑制具が知られている。非特許文献1のものは、処置用又は診察用のベッド上にマット又は固定台を置き、このマットに小児を仰向けに寝かせた状態でクッションカバーを掛けてその上から片腕と胴体部を横方向のベルトで締着するとともに、両肩部に設けた肩パッド又は肩ベルトで両肩をマット側に締着固定するものである。
【非特許文献1】第30回「小児看護」(1999年)P.115〜117「小児の点滴・採血用抑制具の考案」富山医科大学附属病院 荒川麻由美、宮本千史、窪田恭子、高橋久子、北川洋子
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし上記抑制具は仰向けに寝かせた小児の胴部を一定の間隔を介して上下2本のベルトで締着するため、締着が不安定で胴体部の動きが十分に抑制できないほか、ベルトによる締着が部分的であるために小児の身体に部分的に強い締着力が作用する。このためベルト締着部の肌の損傷や痛みを伴う等の欠点がある。
この発明はこれらの問題点を改善する主として小児用として用いられる医療用抑制具を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するための本発明の抑制具は第1に、診察台又は処置台等からなるベッド1上に位置決め固定され、ベッド1上に横たわる患者Mの胴体部に左右両側より着脱自在に巻付装着可能な締着帯8と、一端が該締着帯8の上方位置に固定され他端を患者Mの肩部から胸部側に経由させて締着帯8側に着脱自在に固着して患者の肩部を抑制する肩ベルト12とを備えた医療用抑制具であって、上記締着帯8が患者の少なくとも左右いずれかの上腕以下の部分と、胸部を含む胴体部を覆うカバー状のシート材又はネット状部材よりなり、上記締着帯8の端部に、締着帯8を巻付固定した状態で着脱自在に固定する固着具9a,9bを備えてなることを特徴とするものである。
【0005】
第2に、締着帯8を患者の胸部を覆って装着される胸帯8aと主として腹部を覆って装着される腹帯8bとに分割形成したことを特徴とするものである。
【0006】
第3に、締着帯8の左右端が装着状態で患者の胴体部外周において重なり合い、重なり合い部分に両端を重なり合った状態で固着するベルベットファスナーよりなる固着具9a,9bを設けたことを特徴とするものである。
【0007】
第4に、肩ベルト12の自由端の装着内面と胸帯8a及び腹帯8bの装着時外周面側に、肩ベルト12を装着した状態で着脱可能に固着するベルベットファスナーよりなるベルト固着具14a,14bを設けたことを特徴とするものである。
【0008】
第5に、締着帯8の背面に固着されベッド1側に伸展して固着されるシート状又はネット状部材よりなるベースシート7を設けたことを特徴とするものである。
【0009】
第6に、ベッド1に対して装着固定され、装着表面側にベースシート7を位置決め固定する位置決め固着具4aを設けた固定帯2を設けると共に、ベースシート7の背面側に上記位置決め固着具4aに対応して係脱自在に固定されるベースシート7側の位置決め固着具(4b)を設けたことを特徴とするものである。
【0010】
第7に、ベースシート7側の位置決め固着具4bがベースシート7の左右両端に上下方向に配列して設置され、固定帯2側の上記配列に対応した位置に配置されるとともに、位置決め固着具4a,4bがボタンとボタン孔とで構成されることを特徴とするものである。
【0011】
第8に、ボタン孔4bが各列内で縦方向と横方向の向きに形成されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように構成される本発明の抑制具は、小児等の患者の点滴や採血、注射等の治療や処置に際して使用することで、患者の腕や胴体部の抵抗による動きを安定的に且つ確実に抑制することができ、より安全確実な治療や処置が可能となり、これらに要する時間も大幅に短縮されるという利点がある。
【0013】
また胴体部全体を確実に締着固定することにより、部分的な締着による身体や肌の損傷や痛みも防止することができる。
【0014】
さらに上下2つの締着体により胴体部の固定が確実になり、肩ベルトにより締着体に対する肩部の固定も確実に行われ、締着体内に残された片腕は勿論、フリーな他方の腕も無理な動きを抑制しながら一定の自由度を保つことができる。
【0015】
そして締着帯及び肩ベルト共にベルベットファスナーで締着固定するので、一定範囲でサイズもフリーサイズ化できるほか、患者の胴回り等に応じて適度な締着を行うことができる。
【0016】
その他ベッドに対する固定に固定帯やベースシートを用いることにより、通常の診察台や処置台に対し特別な固定手段を設置することなく対応でき、これらを締着帯とセットにすることにより持ち運びや保管も容易にできるほか、ボタン孔の各列に縦横方向のボタン孔を配設することにより、ベッド上面に対するベースシート、即ち締着帯の縦方向のずれを効果的に防止でき、着脱も簡単にできる。特にベースシートの左右いずれかの列のボタンを外すことにより、患者を横向きに寝かせることができ、小児が号泣することによる嘔吐反射で生ずる誤嚥(食物残渣等の嘔吐物が誤って喉に詰まる)を防止することが迅速にできる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下図示する本発明の実施形態につき詳述すると、図1(A)〜(C)はこの発明の抑制具の構成と主な備品を示す展開図で、同図(A)は通常の処置台や診察台からなるベッド1に対して横断方向に巻付装着して固定するやや硬質の生地(布地)からなる長方形の固定帯2の展開図である。
図2,図3はそれぞれベッド1上に取付けられた抑制具本体の展開図、患者を抑制するための装着状態を示す平面図である。
【0018】
固定帯2はその長手方向両端がベッド1に巻付けた状態で重なり合う長さになっており、その重なり合う裏面と表面にはベルベットファスナーからなる固着具3a,3bが取付けられており、この固着具3a,3bを位置調整された巻付状態で重ね合わせることにより、固定帯2はベッド1を覆って装着固定される。
【0019】
そして固定帯表面にはベッド1の側辺に沿うような近接位置に、それぞれ適宜間隔でボタンからなる位置決め固着具4aが配列して設けられている。
【0020】
上記位置決め固着具4aは、後述する抑制具本体6のベースシート7の両端に同間隔で配設した複数(各列4個)のボタン孔からなる位置決め固着具(部)4bと対応しており、両固着具4a,4bを係止することにより、ベースシート7(即ち抑制具本体6)が伸展状態でベッド1上の定位置に着脱自在に装着固定される。
【0021】
図1(B)は上記抑制具本体6を伸展させた展開図で、ベッド1と略同一の左右幅を有する長方形又は正方形のベースシート7が設けられ、このベースシート7を介して上述のように抑制具本体6がベッド1上に装着固定される(図2,図3参照)。
【0022】
ベースシート7は布製又はメッシュ状のシート若しくは伸縮性のないネット状であり、その上面には左右両端が自由端となるように左右方向の締着帯8が縫着又は接着等によって固着されている。11は該固着のための縫目である。
【0023】
上記締着帯8は図3に示すように、その上面に患者(小児)Mを上下方向に且つ仰向けに寝かせた状態で、その自由端を患者Mの点滴や採血等を行わない一方の腕(図面では右腕)を添えた状態で胴体部の略全体に巻付けて装着することによって装着固定(抑制)するものである。この例では締着帯8は患者の胸部に装着する上部位置の胸帯8aと、腹部に装着する腹帯8bとに分割形成されており、この分割形成により両部分がより確実に且つ無理なく締着される。
【0024】
両締着帯8の自由端の表裏面における装着時の重ね合わせ面には、締着帯8を締着状態で着脱可能に固定するためのベルベットファスナーよりなる固着具9a,9bがそれぞれ設けられており、これにより締着帯8は胴回りの寸法に応じて無段階調節しながら上下部分ともに程よく胴体部回りに装着固定される。
【0025】
また上記締着帯8の患者を載せる位置の上方には、患者の肩上に掛る間隔で2本の肩ベルト12がその下端を縫目13によりベースシート7に固着して設けられている。この肩ベルト12は締着帯8の上端に固着されてもよい。
【0026】
各肩ベルト12の上端の装着内面にはベルベットファスナーよりなるベルト固着具14aが設けられている。これに対応して胸帯8a及び腹帯8bの装着表面側にもベルベットファスナーよりなるベルト固着具14bがそれぞれ設けられ、この肩ベルト12を患者の両肩に回してその自由端を固着具14a,14bにより締着帯8(胸帯8a,腹帯8b)に締着固定され、これにより患者の両肩部が抑制される。この時左右の肩ベルト12は胸部上面でクロスさせた状態でも固着でき、肩部の固定は一層確実になる。
【0027】
図3は実際の治療や処置に当り患者を抑制した状態の図を示し、この例では締着帯8と患者の胴体部との間に図1(C)に示すタオル等の緩衝材を巻装して装着しており、この状態で左手は左肩を確実に固定されながらも略フリー状態であるが、針を刺す上肢のみを軽く固定するのみで点滴等ができる。そして右手は肩より下が胴体部と共にベッド1側に確実にしかも圧迫感なく締着固定して動きが抑制されている。
この状態で左手を1人の看護士等の人手によって抑え、他の1人が点滴、採血、注射等の処置を行うことができる。
【0028】
この時固定帯2側のボタン4aに対し、ベースシート7側のボタン孔4bが左右各列共に横方向と縦方向を向いている孔が配置されているため左右、上下方向のベースシート7、即ち抑制具本体6自体の上下左右方向の動きが最小限に抑えられる。
【0029】
またこのボタンによる着脱は迅速に行われ、例えば小児患者が処置のために号泣することにより嘔吐を生じて気管に嘔吐物が誤って詰まる危険がある場合は、片側の列のボタンを外して速やかに横向きの側臥位姿勢にさせて誤嚥を防止することができる。
【0030】
上記説明では特に触れなかったが、小児患者を対象とする場合は抑制具自体の色や模様等の面で、小児患者の恐怖感や圧迫感を和らげるためにキャラクターを用いる等の工夫がなされることが望ましく、可能な範囲で各部品の形状等のデザインもそのために工夫することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(A),(B),(C)はそれぞれ本発明の抑制具を構成し又は使用に供される備品の展開図である。
【図2】本発明の抑制具本体をベッド上に取付けた状態の展開平面図である。
【図3】本発明による抑制具の使用状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ベッド
2 固定帯
3a,3b,4a,4b,9a,9b,14a,14b 固着具
7 ベースシート
8 締着具
11,13 縫目
12 肩ベルト
16 タオル
17 衣類

【特許請求の範囲】
【請求項1】
診察台又は処置台等からなるベッド(1)上に位置決め固定され、ベッド(1)上に横たわる患者(M)の胴体部に左右両側より着脱自在に巻付装着可能な締着帯(8)と、一端が該締着帯(8)の上方位置に固定され他端を患者(M)の肩部から胸部側に経由させて締着帯(8)側に着脱自在に固着して患者の肩部を抑制する肩ベルト(12)とを備えた医療用抑制具であって、上記締着帯(8)が患者の少なくとも左右いずれかの上腕以下の部分と、胸部を含む胴体部を覆うカバー状のシート材又はネット状部材よりなり、上記締着帯(8)の端部に、締着帯(8)を巻付固定した状態で着脱自在に固定する固着具(9a),(9b)を備えてなる医療用抑制具。
【請求項2】
締着帯(8)を患者の胸部を覆って装着される胸帯(8a)と主として腹部を覆って装着される腹帯(8b)とに分割形成した請求項1の医療用抑制具。
【請求項3】
締着帯(8)の左右端が装着状態で患者の胴体部外周において重なり合い、重なり合い部分に両端を重なり合った状態で固着するベルベットファスナーよりなる固着具(9a),(9b)を設けた請求項1又は2の医療用抑制具。
【請求項4】
肩ベルト(12)の自由端の装着内面と胸帯(8a)及び腹帯(8b)の装着時外周面側に、肩ベルト(12)を装着した状態で着脱可能に固着するベルベットファスナーよりなるベルト固着具(14a),(14b)を設けた請求項2又は3の医療用抑制具。
【請求項5】
締着帯(8)の背面に固着されベッド(1)側に伸展して固着されるシート状又はネット状部材よりなるベースシート(7)を設けた請求項1,2,3又は4の医療用抑制具。
【請求項6】
ベッド(1)に対して装着固定され、装着表面側にベースシート(7)を位置決め固定する位置決め固着具(4a)を設けた固定帯(2)を設けると共に、ベースシート(7)の背面側に上記位置決め固着具(4a)に対応して係脱自在に固定されるベースシート(7)側の位置決め固着具(4b)を設けた請求項5の医療用抑制具。
【請求項7】
ベースシート(7)側の位置決め固着具(4b)がベースシート(7)の左右両端に上下方向に配列して設置され、固定帯(2)側の上記配列に対応した位置に配置されるとともに、位置決め固着具(4a),(4b)がボタンとボタン孔とで構成される請求項6の医療用抑制具。
【請求項8】
ボタン孔(4b)が各列内で縦方向と横方向の向きに形成される請求項7の医療用抑制具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−60988(P2009−60988A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229594(P2007−229594)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(507297499)
【出願人】(507297503)
【Fターム(参考)】