医療用材料、その製造方法およびそれを含む医薬組成物
【課題】注射投与がしやすい形態の薬物包接担体あるいは細胞担体となる微粒子を含有する医療用材料およびその製造方法、ならびにその医療用材料を用いた医薬組成物の提供。
【解決手段】低分子ヘパリンとプロタミンとを含む粒子、ならびに、デキストランを含有する医療用材料であり、前記粒子は好適には低分子ヘパリン溶液にプロタミン溶液を滴下することにより得られる。本発明の医薬組成物は前記医療用材料と該医療用材料に担持された薬物とを含む。
【解決手段】低分子ヘパリンとプロタミンとを含む粒子、ならびに、デキストランを含有する医療用材料であり、前記粒子は好適には低分子ヘパリン溶液にプロタミン溶液を滴下することにより得られる。本発明の医薬組成物は前記医療用材料と該医療用材料に担持された薬物とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬物担体などとして有用である医療用材料とその製造方法、ならびに前記医療用材料を用いた医薬組成物に関する。詳細には、本発明は、粒子径の制御及び凍結乾燥品としての製剤化が可能なナノ粒子及びマイクロ粒子の調製及びその医療応用に関し、低分子化ヘパリン(フラグミン)とプロタミンとから構成されるナノ・マイクロ粒子に関し、当該微粒子を担体として用いたヒト多血小板血漿(hPRP platelet-rich-plasma:以下hPRP)及びFGF-2等のヘパリン結合性増殖因子運搬基質として医療における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
相反する電荷を有する高分子間静電反応により生じる多重電解質複合体は、電荷を帯びた生体高分子の生体内挙動の研究のモデルとなる。さらにユニークな組成や構造からなる多重電解質複合体は、可溶性ナノ粒子の形成、複合化マイクロ粒子の形成(コアセルベーション)、非結晶性沈殿物等を形成し、バイオテクノロジーや医学の世界への適用が可能となる。たとえば、たんぱく質と核酸よりなる複合体形成は転写過程に影響を及ぼすと考えられる。また、DNA・キトサン複合体やキトサン・コンドロイチン硫酸複合体がそれぞれ遺伝子運搬基質及び薬剤運搬基質として記述された。
【0003】
近年、盛んに研究されている再生医療としての血管新生療法や難治性皮膚創傷治療法は、外部から血管新生や肉芽形成を促す因子を目的部位へ注入して血管を新たに誘発することを狙う方法である。また、導入細胞自身の生着及び導入細胞が生成する因子を目的部位に注入して生着・増殖させ組織再生を誘発することを狙う細胞導入法も研究されている。例えば、血管新生を促す因子には、血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor : VEGF)の遺伝子や血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cell : EPC)などが用いられており、有効な方法として研究成果は挙がっている。しかし、安全性に対する懸念や費用対効果の問題があり、なかなか実用化には至っていない。
【0004】
ところで、生体に元来存在するヘパリン結合性増殖因子の一つである塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor : FGF-2)は、その組み換え体タンパク質が褥瘡・皮膚潰瘍治療剤(商品名:フィブラスト、科研製薬株式会社)としてスプレー式外用医薬品となっており、安全性に対する懸念が少ない。また、動物実験において血管新生効果も確認されている。しかし、血管新生療法等の内用薬としての適用はなく、ヒトへの静脈内注射投与の適用は難しい。
【0005】
また近年注目を集めているhPRPはFGF-2を含んだ細胞増殖を促進する様々な増殖因子やサイトカイン等有効物質を含有しており、再生医療等多くの分野で様々な応用研究が進められている。これらの血小板に運搬される増殖因子は20を超え、血小板由来増殖因子(PDGFs)、線維芽増殖因子(FGFs)、肝細胞増殖因子(HGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGFs)、血管内皮増殖因子(VEGFs)等があり、これらのすべてはヘパリン結合性増殖因子であることが知られている。形成外科の分野でも、創傷治癒、変形の改善(含皺取り)、育毛等幅広い臨床応用が期待されており、また臨床の場でも適用されている。しかしながらその有効性が認められるものの、貴重な患者本人の血液製剤であるhPRPに含有されているヘパリン結合性増殖因子等活性分子をその活性を維持したまま、より有効に局所に保持し、時間の経過と共に徐放させる安全で有効な薬剤運搬体(ドラッグ・キャリア)の出現が求められていた。
【0006】
本発明者等は、光硬化性キトサンハイドロゲル(特許文献1、非特許文献1)や6−O−位脱硫酸化ヘパリンのハイドロゲル(特許文献2、非特許文献2)が塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-2)などの様々な成長因子の活性を保護し、それを徐放する担体として有効であることを報告してきた。上記ハイドロゲル内で保護され活性を保持したFGF-2が、ハイドロゲルの生分解に伴い周辺部位へ徐放され、生体内での血管新生や肉芽形成の促進に寄与することが実証されている。さらに低分子ヘパリン(フラグミン)とプロタミンとの組み合わせを用いることにより、簡便に平均粒径3μm程度(0.5μm以上5μm未満)の微粒子を作成でき、得られた微粒子が徐放性の薬物包接担体あるいは細胞担体として使用できることを見出してきた(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2003/090765号
【特許文献2】国際公開第2005/025538号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Biomaterials, 24, 3437-3444,2003.
【非特許文献2】J. Biomed. Mater. Res. (A78),364-371, 2006.
【非特許文献3】片桐彰男, 橋谷華世, 中村伸吾, 服部秀美, 岸本聡子, 前原正明, 石原雅之.FGF-2含有フラグミンプロタミンマイクロキャリア(F/PMPs)による虚血改善効果の検討.防衛衛生 56(1), 17-24, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、光硬化性キトサンハイドロゲルや6−O−位脱硫酸化ヘパリンのハイドロゲルは、例えば褥層や皮膚潰瘍などの外傷部位に適用することを意図したものであり、液だれ等を防止するため高い粘性を有するように設計されていた。従って、注射器やカテーテルを通して投与した場合に、目詰まりが発生し、局所注射投与が困難であるという問題を生じることがあった。また、単にキトサン等の濃度を下げて粘度を低下させたのでは、担持させることのできる薬物量が限定され、所望の効果が得られない可能性があった。また、低分子化ヘパリンとプロタミンとの組み合わせにより生成したマイクロ粒子は過度の濃縮や長期保存時融合により大きな粒子(>20μm)となり、最終的にはペースト状になってしまう不安定な物質であることが明らかになった。特に医療用製剤化のため凍結乾燥品を製造すると綿状の不溶性結晶となってしまう。また微粒子として有用性の高いナノ粒子(粒子径100nm程度)の製造はできなかった。
【0010】
上記背景技術に鑑みて、本発明は、注射投与がしやすく、かつ凍結乾燥保存が可能な形態の薬物包接担体あるいは細胞担体となる微粒子(マイクロ・ナノ粒子)を含有する医療用材料およびその製造方法、ならびにその医療用材料を用いた医薬組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意検討した結果、以下のような本発明を完成した。
(1)低分子ヘパリンとプロタミンとを含む粒子、ならびに、デキストランを含有する医療用材料。
(2)上記粒子が、低分子ヘパリン溶液にプロタミン溶液を滴下することにより得たものである(1)の医療用材料。
(3)上記低分子ヘパリン溶液に含まれる低分子ヘパリン1重量部に対して、0.2〜1重量部のプロタミンが添加されるようにプロタミン溶液を滴下する(2)の医療用材料。
(4)低分子ヘパリンの数平均分子量が1000〜10000である(1)〜(3)のいずれかの医療用材料。
(5)電子顕微鏡画像解析で測定される上記粒子の平均粒子径が50nm〜10μmである(1)〜(4)のいずれかの医療用材料。
(6)電子顕微鏡画像解析で測定される上記粒子の平均粒子径が0.5〜5μmである(1)〜(4)のいずれかの医療用材料。
(7)電子顕微鏡画像解析で測定される上記粒子の平均粒子径が50nm〜200nmである(1)〜(4)のいずれかの医療用材料。
(8)低分子ヘパリン溶液にプロタミン溶液を滴下することにより粒子を生成せしめ、該粒子を含む溶液にさらにデキストランを添加する、医療用材料の製造方法。
(9)(1)〜(7)いずれかの医療用材料と前記医療用材料に担持された薬物とを含む医薬組成物。
(10)上記薬物がヒト多血小板血漿(hPRP)、ヒトの脂肪組織由来間葉系細胞から分泌される増殖因子を構成する医薬品、ヘパリン結合性増殖因子及びサイトカインからなる群から選択される、(9)の組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の医療用材料は、例えばhPRPに含まれる多くのヘパリン結合性増殖因子を担持することができ、担持された増殖因子を熱やトリプシン等たんぱく質分解酵素による不活化要因から保護して活性を維持延長することが確認された。これは、ヘパリン結合性増殖因子と結合することによって発揮される天然のヘパリン様分子(ヘパラン硫酸等)が有する特徴的な機能と同等である。
【0013】
本発明の医療用材料を薬物担体として用いた場合、粒子の平均粒径がミクロン単位のマイクロ粒子状或いはナノ単位のナノ粒子状であるため、それを適当な媒体に分散させた安定な組成物は粘性が低く、極細針を装着したシリンジでも容易に取り扱う事が出来、操作性が非常に優れている。また、本発明の薬物包接担体は生体内で生分解されるため、その生分解に伴ってhPRPに含まれるヘパリン結合性増殖因子等の担持薬物を生体内で徐放することができる。
【0014】
本発明で使用するダルテパリン(フラグミン)などの低分子化ヘパリンやプロタミンは医薬品として市販されている材料であり、それらの安全性は確保されている。hPRPは患者本人の末梢血から調製されるもので、すでに臨床応用がされている。hPRPに含まれたヘパリン結合性増殖因子等を担持させた本発明の薬物包接担体は、育毛剤や皺取り等の美容形成や下肢虚血治療などを対象とした血管新生や肉芽形成療法のための、安全で有効な、新しいバイオマテリアルとして有望である。また、低分子化ヘパリンとプロタミンとから構成されるマイクロ粒子及びナノ粒子は、hPRPの増殖因子以外にもヒトの脂肪組織由来間葉系細胞から分泌されるヘパリン結合性増殖因子(PDGFs、FGFs、KGF、TGFs、HGF、VEGFs等)を構成する医薬品(MesoSkin)及び医薬品として市販されているFGF-2製剤(フィブラスト)にも薬剤包接担体として応用できる他、マイクロ或いはナノ粒子形成や安定性に影響するものでなければ、ヘパリンと結合しない分子をも包接できるものと考えられる。即ち、本発明の薬物包接担体に担持させる薬物にヘパリン結合性が必須というわけではない。低分子化ヘパリンとプロタミンとによるマイクロ或いはナノ粒子の形成は、相互の陰性電荷と陽性電荷によるポリイオンコンプレックスによるものであるため、例えば、著しく高分子量の物質でなければ、陰性電荷や陽性電荷を帯びた医薬品なども包接可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(A)は本発明により得られた粒子の電子顕微鏡写真であり、(B)はその粒径分布を示す。
【図2】低分子ヘパリン溶液とプロタミン溶液との容積比に対する濁度のプロットである。
【図3】(A)は低分子ヘパリン溶液とプロタミン溶液を種々希釈したときに得られる粒子の電子顕微鏡写真である。(B)はそれらの粒子径分布を示す。
【図4】本発明の医療用材料(LH/P NPs)によるFGF-2活性の経時変化を示す。各グラフの縦軸はFGF-2感受性細胞(hMVEC)の増殖度を示しており、図の各シンボルはLH/PNPs(●)、フラグミン(△)、デキストラン(□)、コントロール(○)である。
【図5】本発明の医療用材料(LH/P NPs)による熱からFGF-2活性の保護効果を示す図である。各グラフの縦軸はFGF-2感受性細胞(hMVEC)の増殖度を示しており、30分間の各加熱温度でのFGF-2活性の変化を示す。図の各シンボルはLH/PNPs(●)、フラグミン(△)、デキストラン(□)、コントロール(○)である。
【図6】本発明の医療用材料(LH/P NPs)による淡白分解酵素(トリプシン)からFGF-2活性の保護効果を示す図である。各グラフの縦軸はFGF-2感受性細胞(hMVEC)の増殖度を示しており、トリプシン処理によるFGF-2活性の経時変化を示す。図の各シンボルはLH/PNPs(●)、フラグミン(△)、デキストラン(□)、コントロール(○)である。
【図7】hPRP含有LH/P MPsによるヌードマウスの肉芽組織形成の促進を経時的に示す図である。**P < 0.001 、* P < 0.01。
【図8】hPRP含有LH/P MPsによるヌードマウスの上皮組織形成の促進を経時的に示す図である。**P < 0.001 、* P < 0.01。
【図9】hPRP含有LH/P MPsによるヌードマウスの新生血管数の経時的変化を示す図である。**P < 0.001 、* P < 0.01。
【図10】hPRP含有LH/P MPsによるヌードマウスの毛包数の経時的変化を示す図である。*P < 0.01。
【図11】hPRP含有LH/P NPsによるヌードマウスの下肢虚血モデルの効果を示す図である。写真は投与後一週間目での外観写真である。
【図12】自己PRP含有LH/P MPsの頭皮皮下注射による育毛効果を示す写真および単位表面積あたりの毛のクロス−セクション(直径)と毛の数のグラフである。*P>0.01vs PRP alone (n=13), +P>0.005 vs control (n=13)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の医療用材料は、粒子とデキストランとを含む。該粒子は低分子化ヘパリンとプロタミンとを含む。該粒子の平均粒径は、好ましくは50nm〜10μmであり、より好ましい上限値としては、例えば、5μm、300nm、200nm、50nmなどが挙げられ、また、別の好ましい範囲として0.5〜50μmが挙げられる。
【0017】
本発明では、粒子の平均粒径として、以下のように電子顕微鏡観察より得られた画像を解析することで測定される平均粒径Raveの値を用いる。まず、平滑なガラス薄板、樹脂製の薄板、金属薄板等に本発明で得られた溶液、より好ましくは本発明で得られた溶液に透析、限外濾過等による脱塩処理を施した溶液を滴下、乾燥させたのちに金、白金、金−パラジウム合金、オスミウム等の導電性物質にてコーティングを施し、電子顕微鏡観察に供する試料とする。続いて走査型電子顕微鏡により当該試料の二次電子像を観察、撮影し、得られた電子顕微鏡写真について次の画像処理を行うことにより粒径を測定する。粒径を算出するためのアルゴリズムは、まず画像の2値化処理後にエッジ検出を行い、円形のものを1粒子と判別し粒子毎に抽出を行う。抽出したすべての粒子について画素数を測定、この画素数をNiとする。粒径測定のために抽出する粒子数は通常100個以上、好ましくは500個以上、より好ましくは1000個以上とする。粒形を円形と仮定していることから、i番目の粒子の粒径Riは下記の式1で表わされる。
【数1】
ただし、Ri: 粒径(m)、Ni: 粒子のpixel数(pixel)、Sp: 1 pixelあたりの面積(m2/pixel)である。
【0018】
以上で得られたRi値を用い、下記の式2で表現される抽出されたすべての粒径の平均値を算出、平均粒径Raveとする。
【数2】
【0019】
本発明によれば、低分子ヘパリンは一般に天然ヘパリン(分子量15000〜20000Da程度)を解重合して得られる低分子量のヘパリンである。その数平均分子量の上限は、プロタミンと混合することにより微粒子を形成できる程度のものであればよく、一般的には10000、好ましくは9000、より好ましくは8000、さらに好ましくは6000であり、数平均分子量の下限は、通常は1000、好ましくは3000、より好ましくは4000である。なお、数平均分子量において通常(天然)のヘパリンと区別できれば十分であり、例えば、10000以上、あるいは20000以上の分子量を持つ分画を含んでいても、全体として平均分子量が約10000未満であれば本発明における低分子ヘパリンとして使用できる。本発明では、ヘパリンの平均分子量として、分子量が既知の標準物質を用いたゲル浸透クロマトグラフィー法によって測定される数平均分子量を用いる。
【0020】
例えば、ブタの小腸粘膜由来のヘパリンを亜硝酸分解して得られる解重合ヘパリン(ダルテパリン)は、フラグミン(商品名)として市販されており、4000〜6000の平均分子量を有する。同様に、ブタの小腸粘膜由来のヘパリンを亜硝酸分解して得られる解重合ヘパリン(レビパリン)はローモリン(商品名)として市販され、また、ウシ又はブタ腸粘膜由来のヘパリンを過酸化水素と酢酸第二銅により分解して得られる解重合ヘパリン(パルナパリン)はローヘパ(商品名)として市販されており、これらは何れも本発明における低分子ヘパリンとして使用できる。
【0021】
ヘパリンは単独では抗凝固作用を持たず、血漿中のATIIIと結合することによってその作用を発揮し、第IIa因子、第XIIa因子、第XIa因子、第Xa因子、第IXa因子などの凝固系酵素を阻害、不活化する。一方、本発明で使用する低分子ヘパリンは抗第XIIa、抗第Xa因子活性を持つものの、第IIa因子、第XIa因子、第IXa因子に対する阻害活性は軽微であることが医薬品として明らかにされているので、創傷部位に注入しても当該部位における出血傾向を助長することなく使用できる。
【0022】
低分子ヘパリンとしては、上記の市販されているものを使用してもよいし、あるいは、過ヨウ素酸酸化により低分子化したヘパリンや、特異的脱硫酸化ヘパリンなども好適に用いることができる。このような低分子量のヘパリンを使用することにより、プロタミンと混合した際に好適な微粒子を得ることができる。
【0023】
本発明で用いるプロタミンは、動物の精子の核中でDNAと結合して存在する塩基性の高いタンパク質として知られている。一般的には、27〜65残基からなる低分子量タンパク質であり、アミノ酸の40〜70%をアルギニンが占めると言われている。プロタミンも医薬品として市販されており、本発明では市販のプロタミンをそのまま使用することができる。
【0024】
本発明の好適態様では、低分子ヘパリン溶液にプロタミン溶液を滴下して低分子ヘパリンとプロタミンとを含む粒子を生成させる。例えば、ダルテパリン等の低分子ヘパリンの水溶液に、プロタミン水溶液を後述する割合になるよう滴下し、ボルテックスなどでさらに攪拌することによって粒子を得る。低分子ヘパリンおよびプロタミンの濃度は各々設定することができ、好適にはそれぞれ0.01〜30mg/mlである。このとき、低分子ヘパリンおよびプロタミンの濃度を調節することによって、得られる粒子のサイズを制御することができる。例えば、低分子ヘパリンおよびプロタミンの濃度がそれぞれ1〜20mg/ml程度の溶液を用いると、0.5〜10μm程度の平均粒子径をもつ粒子を得ることができ、低分子ヘパリンおよびプロタミンの濃度がそれぞれ0.05〜0.5mg/ml程度の溶液を用いると、50〜200nm程度の平均粒子径をもつ粒子を得ることができる。
【0025】
低分子ヘパリンとプロタミンとの混合重量比については、プロタミンに対する低分子ヘパリンの重量を等量あるいはやや過剰することが、粒子の収率向上の点で好ましく、過剰なプロタミンの存在は不溶性のペースト状沈殿物が生成する懸念がある。したがって、低分子ヘパリンの溶液にプロタミンの溶液を滴下する場合には、滴下後の溶液内における低分子ヘパリン/プロタミンの重量比は、好ましくは1/1〜5/1であり、より好ましくは1/1〜2/1である。すなわち、上記低分子ヘパリン溶液に含まれる低分子ヘパリン1重量部に対して、好ましくは0.2〜1重量部、より好ましくは0.5〜1重量部のプロタミンが添加されるようにプロタミン溶液が滴下される。
【0026】
低分子ヘパリン溶液およびプロタミン溶液における溶媒は、蒸留水、食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、ブドウ糖水溶液、0〜4号輸液、高カロリー輸液などから任意に選択することができる。
【0027】
本発明によれば、凍結乾燥や長期保存した後の分散性を考慮して、医薬材料にはデキストランも含まれる。デキストランが無い場合、上記粒子は凍結乾燥後あるいは長期保存後に凝集し、不溶性の綿状沈殿物となってしまう。デキストランの量は特に限定は無く、上述のように溶液から粒子を生成させる場合には、当該溶液に、好ましくは0.05〜1%の濃度でデキストランを共存させることができる。この溶液中のデキストランの濃度の好適な下限値は、0.05%、0.1%、0.2%が挙げられ、好適な上限値は、1%、0.5%、0.3%が挙げられる。デキストランは、低分子ヘパリンとプロタミンとを含む粒子が生成した後に溶液に添加することが好ましい。添加したデキストランは低分子ヘパリンとプロタミンとを含む粒子に付着ないし結合して、粒子の保存安定化および凍結乾燥後の凝集防止に寄与していると考察される。デキストランの種類は特に限定は無く、数平均分子量は、好ましくは100〜300kDaであり、より好ましくは150〜250kDaであり、さらに好ましくは178〜217kDaであり、医療用のものとして、MRCポリサッカライド株式会社(東京都)、名糖産業株式会社(名古屋市)などから市販されている製品を適宜用いることができる。
【0028】
最近、ヘパリンと同様にグリコサミノグリカン類の一つであるヒアルロン酸とプロタミンとの組み合わせにインターロイキン11(IL−11)を混合した三成分系で、IL−11徐放性医薬組成物を作製することが提案されている(特開2006−9675号公報)。しかし、この文献で使用されているヒアルロン酸は60000〜2000000の分子量を持つのが好ましいとされ、ヒアルロン酸に代えて使用できるとされているカルボキシメチルデキストランも20000〜80000の分子量を有している。このような高分子量のヒアルロン酸とプロタミンとを組み合わせた場合には、本発明で得られるような安定で凍結乾燥可能な微粒子(μm或いはnmオーダー)を得ることは困難であり、実際に、前記文献では、ヒアルロン酸とプロタミン及びIL-11の混合物を凍結乾燥させて粉末状にし、それを圧縮成型したペレットをラット背部の皮下に埋め込んでいる。一方、静脈注射するための組成物においてはヒアルロン酸(及びIL-11)のみが用いられ、プロタミンは添加されていない。
【0029】
低分子ヘパリンに代えて高分子量ヘパリン、ヒアルロン酸、又はコンドロイチン硫酸を用いた場合には、本発明で得られるような安定で凍結乾燥可能なナノ・マイクロ粒子を得ることはできない。本発明では、すでに医薬品として承認されている低分子ヘパリンとプロタミンという独特の組み合わせを採用することにより、10μm未満、さらには0.5μm以上の平均粒径を有するマイクロ粒子、そして200nm未満、さらに50nm以上の平均粒径を有するナノ粒子を得ることができた。
【0030】
本発明によれば、上述の医療用材料は医療分野において種々利用することができるが、特に、薬物の担体として好適に用いられる。本発明の医療用材料は好ましくは薬物の担体であり、より好ましくは注射用製剤の薬物担体であり、さらに好ましくは凍結乾燥製剤用の薬物担体である。すなわち、上述の医療用材料と前記医療用材料に担持された薬物とを含む医薬組成物もまた本発明の実施態様の1つである。
【0031】
例えば、本発明の医療用材料をヒト多血小板血漿(hPRP)包接担体として用いることができる。このhPRP包接担体(ナノ・マイクロキャリア)は、μm〜nmオーダーの微粒子状という形態的特徴を有するので、特に注射器やカテーテルなどを介して体内に注入する医薬組成物として使用するのに適している。本発明の医療用材料は、hPRPに含まれるヘパリン結合性増殖因子以外にもヒトの脂肪組織由来間葉系細胞から分泌される増殖因子(PDGFs、FGFs、KGF、TGFs、HGF、VEGFs等)を構成する医薬品(MesoSkin)及び医薬品として市販されているFGF-2(フィブラスト)の包接担体としても応用できる。
【0032】
本発明では、薬物は特に限定は無く、好ましくは、上述の医療用材料に担持されやすく、体内における徐放が望まれる薬物である。また、本発明の医療用材料は低分子ヘパリン及びプロタミンを含む粒子を有しているため、薬物は、低分子ヘパリン又はプロタミンとの親和性が高く、例えばヘパリン結合性増殖因子又はサイトカインから選択される活性物質を含有していることが好ましい。特に、hPRPは患者自身から採血した血液から調製できるもので、そこに含まれる増殖因子はほとんどがヘパリン結合性であることが知られており、特に好ましい。本発明の医薬組成物における媒体は特に限定は無く、水性媒体が好ましく使用される。また、本発明の医薬組成物は、好ましくは注射用製剤であり、より好ましくは凍結乾燥製剤である。
【0033】
本発明の医療用材料は、担持された薬物を良好に保護する効果がある。例えば、hPRPにも含まれるFGF-2を担持させた場合には、FGF-2活性の経時的な低下、温度変化や酵素による分解などの外的刺激による活性の低下が防止され、FGF-2活性が長期間維持される。さらに、LH/P MPsやLH/P NPsは生体内で生分解されるため、それに伴って担持されたFGF-2などを徐放することが可能である。従って、従来のキトサンハイドロゲルのような外傷部位のみならず、本発明の医薬組成物を用いることによって体内深部における目的局所部位にFGF-2等の薬物をデリバリーし、当該部位で徐放することができ、血管新生療法を実施することが可能となる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明による実施例を示す。ただし、本発明はこれらの実施例に記載された態様に限定されるわけではない。
【0035】
(実施例1)
低分子化ヘパリン/プロタミン マイクロ粒子(LH/P MPs)の作製
低分子ヘパリンとして、市販のダルテパリンであるフラグミン注射液(商品名)(6.4
mg/ml, 1000 IU/ml, ヘパリンの数平均分子量は約5000、キッセイ薬品工業株式会社)を使用した。この低分子ヘパリン溶液に対して、市販のプロタミン注射液(10 mg/ml; 持田製薬株式会社) をボルテックスで撹拌しながら7:3の容積比になるまで滴下し混合した。得られた微粒子分散物の電子顕微鏡外観を図1(A)に示す。粒子径分布のF/P MPs(図1)は、電子顕微鏡写真から粒子径解析ソフト(LabVIEW (Ver 8.5) with the Vision Development/Module (National Instrument Co., Austin, TX, USA))を使って計測した。その結果、生じたF/P MPsは2.93±1.11μmであった。このF/P MPsは0.5%デキストラン(MW: 178-217 kDa; MRC Polysaccharide Corp., Tokyo, Japan)添加により、長期にわたって融合することなく安定化し、また透析後凍結乾燥しても再懸濁性及び粒子径を維持した。
【0036】
図2は、低分子ヘパリン溶液としてのフラグミン注射液(6.4 mg/ml)にプロタミン注射液(10 mg/ml)を示された容積率になるように滴下した時に生じる白色濁度を測定した結果である。プロタミンの滴下容積比が0.3〜0.4になった時、最も濁度が高くなり、マイクロ粒子の収率も高い。しかしながらプロタミンの容積率が0.45以上になると濁度は急速に減少し、ペースト状の不溶性沈殿物が生成した。また、プロタミン注射液にフラグミン注射液を滴下した場合、直ちにペースト状の不溶性沈殿物が生成し、フラグミンの容積比が0.6以上になってもペースト状の不溶性沈殿物が溶解することはなかった。
【0037】
(実施例2)
低分子化ヘパリン/プロタミン ナノ粒子(LH/P NPs)の作製
低分子ヘパリン溶液(6.4 mg/ml)とプロタミン溶液(10 mg/ml)を、等しく20倍、50倍、100倍に生理食塩水で希釈し、実施例1のマイクロ粒子作製の要領(容積比(7:3))で混合することで、それぞれ平均粒径が112.5±46.1、95.0±27.0、84.6±26.8 nmのナノ粒子を得ることができた(図3)。低分子ヘパリン溶液(6.4 mg/ml)とプロタミン溶液(10 mg/ml)は、実施例1と同じ市販品を用いた。このLH/P NPsには当初、粒径1μm以上のマイクロ粒子は観察されないが、1週間ほどの冷蔵保存で図1のようなマイクロ粒子がナノ粒子の融合により出現する。このLH/P NPs溶液は0.2%デキストラン添加により、長期にわたって融合することなく安定化し、また透析後凍結乾燥しても再溶解性及びナノ粒子径を維持した。
【0038】
(実施例3)
低分子ヘパリン/プロタミン ナノ粒子(LH/P NPs)のFGF-2 活性に及ぼす影響
実施例2で作製したLH/P NPs DMEM培地溶液にヒト多血小板血漿(hPRP)中に含まれることが知られているFGF-2(フィブラスト; 科研製薬株式会社)を加えストック溶液を調製し、下記の実験条件下で安定性試験を行った。本実験で用いたストック溶液は、LH/P NPs ストック溶液:10μg/ml FGF-2, 3.14 mg/ml F/P NPs, 20 mg/ml デキストラン in Medium-199、低分子ヘパリン ストック溶液:10μg/ml FGF-2, 1.6 mg/ml 低分子ヘパリン, 20 mg/ml デキストラン in Medium-199、デキストラン ストック溶液:10μg/ml FGF-2, 20 mg/ml デキストラン in Medium-199、コントロール ストック溶液:10μg/ml FGF-2 in Medium-199の4つである。その後、プレインキュベートしたそれぞれのストック溶液を示された濃度となるように調製してFGF-2感受性細胞(human dermal micro-vascular endothelial cells; hMVEC)の培養系の培地に添加した。添加後3日間の培養(10% FBS/DMEM培地、37℃, 5% CO2 雰囲気下)を行い、hMVECの細胞増殖度を調べることでFGF-2の活性保持について評価を行った。
【0039】
本実験におけるプレインキュベートの条件は、FGF-2活性の経時的安定性試験では、それぞれのストック溶液について、37℃で0,1,3,7日間それぞれプレインキュベートした。図4はこの実験結果である。コントロール群とデキストラン群では、プレインキュベート時間を増やすに従って細胞増殖性が著しく減少し、これらの群ではFGF-2の活性が経時的に低下していくことが分かった。一方、LH/P NPs又は低分子ヘパリン群では、FGF-2の活性は7日間のプレインキュベートを経ても維持した。
【0040】
また、FGF-2 活性の熱からの保護効果を調べる実験では、それぞれのストック溶液に対して37, 44, 51, 58, 65, 72 ℃ でそれぞれ30分間のプレインキュベートを行った。結果を図5に示す。コントロール群では37℃から温度上昇するに従ってFGF-2活性が著しく低下することが分かった。一方、低分子ヘパリン群は、LH/P NPs群とほぼ同様の傾向を示したが、72℃を超えた段階でLH/P NPs群がやや高いFGF-2活性を示した。デキストラン群はコントロール群とLH/P NPs群との中間の保護効果を示した。
【0041】
それぞれのストック溶液にトリプシン溶液(0.05%トリプシン溶液;シグマ社)を添加して10, 20, 30, 45, 60, 90, 120分間それぞれ37℃でプレインキュベートを行った。結果を図6に示す。LH/P NPs群そして低分子ヘパリン群ではFGF-2の活性が2時間のトリプシン処理で70%以上の活性が保持されていた。コントロール群ではFGF-2の活性が20分のトリプシン処理で70%以上のFGF-2活性が低下することが分かった。デキストラン群はコントロール群とLH/P NPs群との中間の保護効果を示した。
なお、低分子ヘパリン及びデキストランは完全可溶性であるため、本発明が意図するFGF-2の担体としては機能しない。したがって、薬物包接担体としては、LH/P NPsのみが、FGF-2を熱やタンパク質分解酵素から保護して活性を維持延長させることができる。LH/P MPsも同様に、強いFGF-2吸着・保持・活性保護効果が認められている。
【0042】
(実施例4)
hPRP含有LH/P MPsの生体内での肉芽形成、表皮形成、毛包形成、及び血管新生効果についてヌードマウスを用いて検討した。hPRPはボランティアから2%クエン酸が4ml含まれている採血管を用いて、40mlの採血を行った。その採血管はテーブルトップ冷蔵円心分離機(テーブルトップ冷蔵円心分離機2800、ローター:RS−240、クボタ(株)、東京)で15分間、1700rpmにて遠心分離した。血小板に富んだ中間層を分離し、さらに血小板を濃縮するため5分間、3000rpmで遠心した。得られたhPRP(約4.5ml)に2%塩化カルシウム溶液(0.8ml)を添加し、約35mgのLH/P MPsの凍結乾燥物(デキストラン含有)を再懸濁化させた。最終的に約5mlのhPRP含有LH/P MPs注射液が40mlの抹消血から得られた。
【0043】
上記調製したhPRP含有LH/P MPs、hPRP単独、LH/P MPs単独、コントロール(生理食塩水)をヌードマウス(8週齢、雄、BALB/c Slc-nu/nu;日本SLC株式会社)の背部皮下組織へ27-G針付きシリンジ(ニプロ社)により注入(200μl)した。注入後1, 3, 5, 7, 14, 30日目に剖検を行い注射部位の組織を分離、そのHE 染色標本を作製して光学顕微鏡観察及び写真撮影を行った。結果について、形成された肉芽組織の厚さ(図7)、形成された上皮化組織の厚さ(図8)、視野あたりの毛細血管数(図9)、視野あたりの毛包の数(図10)について計測を行った。
【0044】
注入したhPRP含有LH/P MPs或いはLH/P MPsは、およそ1週間で分解され、肉眼的所見では消失していた。hPRP含有LH/P MPs注入を実施した部位の周囲では、肉芽及び上皮形成の促進がLH/P MPs単独注入群或いはhPRP単独注入群より強いことを観察することができた。また、顕微鏡観察一視野あたりの毛細血管数や毛包数を調べたところ、hPRP含有LH/P MPs注入群は、他のコントロール群と比べて血管数、毛包数とも有意に増加しており、その作用は約1ヶ月に渡って継続された。以上のことから、hPRP含有LH/P MPsを使用することにより、肉芽形成や血管新生を有効に誘導することが可能であることが明らかになった。
【0045】
(実施例5)
hPRPはボランティアから上記実施例4に準じて調製した。得られたhPRP(約4.5 ml)に2%塩化カルシウム溶液(0.8 ml)を添加し、約35 mgのLH/P NPsの凍結乾燥パウダーを溶解させた。最終的に約5 mlのhPRP含有LH/P NPs注射液が40 mlの抹消血から得られた。
ヌードマウス(8週齢、雄、BALB/c Slc-nu/nu;日本SLC株式会社)の下肢大動脈・静脈を同時閉塞すると1-2週間で黒く変色し脱落する。このモデルに上記調製したhPRP含有LH/P NPs、hPRP単独、LH/P NPs単独、コントロール(生理食塩水)をヌードマウスの閉塞部付近、太腿や脛部の計10箇所へ27-G針付きシリンジによりそれぞれ30μl注入した(計300μl)。注射後2週間で、hPRP含有LH/P NPs注射液群は8例中5例が健康な血流を保った下肢を維持した。変色2例で脱落肢は1例にとどまった。この血流改善は少なくとも4週間以上維持された。他方、LH/P NPs単独群、コントロール群は全例脱落した。2週間目でコントロール群は脱落か黒変色が起っている。hPRP単独群は、変色2例で脱落肢は6例であり、健康肢のまま維持したのは0であった(図11)。
【0046】
(実施例6)
インフォームドコンセントを得た薄毛に悩むボランティア13名(男9名、女4名)について、それぞれの採血によりautologous PRP含有LH/P MPsを直接頭皮に皮下注射を行い、増毛・育毛効果について検討した。治療は0, 2, 4, 7, 10週目にautologous PRP含有LH/P MPsを皮下注し、それぞれの週及び12週目にDermoscopic Degital Camera(Derma Medical, Kanagawa, Japan)を用いて写真撮影を行い、単位表面積あたりの毛のクロス−セクション(直径)と毛の数を測定した。なお、本実施例は防衛医科大学校病院倫理委員会において承認・実施されている。その結果、毛の数の増加即ち発毛数の有意な増加は見られなかったが、13例すべてにおいて毛のクロス−セクション即ち育毛促進効果が観察された。この育毛促進効果はPRP単独投与でもコントロールと比して有意に促進したが、PRP+F/P MPs投与部位の育毛促進効果はPRP単独投与部位よりも4, 7, 10週において有意に高かった(図12)。さらにすべてのボランティアは洗髪における抜け毛の減少をPRP+F/P MPs 投与部位及びPRP投与部位において認識した。特に女3名を含む8名はその効果が顕著であり(毛のクロス‐セクションの増加75%以上)であり、副作用の訴えは全くなく、満足度は非常に高いものがあった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の医療用材料は、安全性が確認されている低分子ヘパリンとプロタミンとを含む粒子を含有しており、経時的に融合して粗大粒子や不溶性綿状沈殿物になってしまうという問題が生じにくく、再溶解可能な凍結乾燥製剤の作成が可能となった。従って、LH/P MPsやLH/P NPsは注射器やカテーテルなどを介して投与する医療用途へ安定的に供給することができる。例えば、hPRPに含まれるヘパリン結合性増殖因子等の活性分子を安定に担持し、目的部位で担持した活性分子を徐放できるドラッグデリバリー用薬物包接担体として使用できる。これを適用することで、美容形成外科領域の育毛剤、皺取り等美容形成治療法への適用に加え、血管新生促進製剤、皮膚等の難治性創傷治癒促進剤としての医療応用が可能となった。
【技術分野】
【0001】
本発明は薬物担体などとして有用である医療用材料とその製造方法、ならびに前記医療用材料を用いた医薬組成物に関する。詳細には、本発明は、粒子径の制御及び凍結乾燥品としての製剤化が可能なナノ粒子及びマイクロ粒子の調製及びその医療応用に関し、低分子化ヘパリン(フラグミン)とプロタミンとから構成されるナノ・マイクロ粒子に関し、当該微粒子を担体として用いたヒト多血小板血漿(hPRP platelet-rich-plasma:以下hPRP)及びFGF-2等のヘパリン結合性増殖因子運搬基質として医療における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
相反する電荷を有する高分子間静電反応により生じる多重電解質複合体は、電荷を帯びた生体高分子の生体内挙動の研究のモデルとなる。さらにユニークな組成や構造からなる多重電解質複合体は、可溶性ナノ粒子の形成、複合化マイクロ粒子の形成(コアセルベーション)、非結晶性沈殿物等を形成し、バイオテクノロジーや医学の世界への適用が可能となる。たとえば、たんぱく質と核酸よりなる複合体形成は転写過程に影響を及ぼすと考えられる。また、DNA・キトサン複合体やキトサン・コンドロイチン硫酸複合体がそれぞれ遺伝子運搬基質及び薬剤運搬基質として記述された。
【0003】
近年、盛んに研究されている再生医療としての血管新生療法や難治性皮膚創傷治療法は、外部から血管新生や肉芽形成を促す因子を目的部位へ注入して血管を新たに誘発することを狙う方法である。また、導入細胞自身の生着及び導入細胞が生成する因子を目的部位に注入して生着・増殖させ組織再生を誘発することを狙う細胞導入法も研究されている。例えば、血管新生を促す因子には、血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor : VEGF)の遺伝子や血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cell : EPC)などが用いられており、有効な方法として研究成果は挙がっている。しかし、安全性に対する懸念や費用対効果の問題があり、なかなか実用化には至っていない。
【0004】
ところで、生体に元来存在するヘパリン結合性増殖因子の一つである塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor : FGF-2)は、その組み換え体タンパク質が褥瘡・皮膚潰瘍治療剤(商品名:フィブラスト、科研製薬株式会社)としてスプレー式外用医薬品となっており、安全性に対する懸念が少ない。また、動物実験において血管新生効果も確認されている。しかし、血管新生療法等の内用薬としての適用はなく、ヒトへの静脈内注射投与の適用は難しい。
【0005】
また近年注目を集めているhPRPはFGF-2を含んだ細胞増殖を促進する様々な増殖因子やサイトカイン等有効物質を含有しており、再生医療等多くの分野で様々な応用研究が進められている。これらの血小板に運搬される増殖因子は20を超え、血小板由来増殖因子(PDGFs)、線維芽増殖因子(FGFs)、肝細胞増殖因子(HGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGFs)、血管内皮増殖因子(VEGFs)等があり、これらのすべてはヘパリン結合性増殖因子であることが知られている。形成外科の分野でも、創傷治癒、変形の改善(含皺取り)、育毛等幅広い臨床応用が期待されており、また臨床の場でも適用されている。しかしながらその有効性が認められるものの、貴重な患者本人の血液製剤であるhPRPに含有されているヘパリン結合性増殖因子等活性分子をその活性を維持したまま、より有効に局所に保持し、時間の経過と共に徐放させる安全で有効な薬剤運搬体(ドラッグ・キャリア)の出現が求められていた。
【0006】
本発明者等は、光硬化性キトサンハイドロゲル(特許文献1、非特許文献1)や6−O−位脱硫酸化ヘパリンのハイドロゲル(特許文献2、非特許文献2)が塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-2)などの様々な成長因子の活性を保護し、それを徐放する担体として有効であることを報告してきた。上記ハイドロゲル内で保護され活性を保持したFGF-2が、ハイドロゲルの生分解に伴い周辺部位へ徐放され、生体内での血管新生や肉芽形成の促進に寄与することが実証されている。さらに低分子ヘパリン(フラグミン)とプロタミンとの組み合わせを用いることにより、簡便に平均粒径3μm程度(0.5μm以上5μm未満)の微粒子を作成でき、得られた微粒子が徐放性の薬物包接担体あるいは細胞担体として使用できることを見出してきた(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2003/090765号
【特許文献2】国際公開第2005/025538号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Biomaterials, 24, 3437-3444,2003.
【非特許文献2】J. Biomed. Mater. Res. (A78),364-371, 2006.
【非特許文献3】片桐彰男, 橋谷華世, 中村伸吾, 服部秀美, 岸本聡子, 前原正明, 石原雅之.FGF-2含有フラグミンプロタミンマイクロキャリア(F/PMPs)による虚血改善効果の検討.防衛衛生 56(1), 17-24, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、光硬化性キトサンハイドロゲルや6−O−位脱硫酸化ヘパリンのハイドロゲルは、例えば褥層や皮膚潰瘍などの外傷部位に適用することを意図したものであり、液だれ等を防止するため高い粘性を有するように設計されていた。従って、注射器やカテーテルを通して投与した場合に、目詰まりが発生し、局所注射投与が困難であるという問題を生じることがあった。また、単にキトサン等の濃度を下げて粘度を低下させたのでは、担持させることのできる薬物量が限定され、所望の効果が得られない可能性があった。また、低分子化ヘパリンとプロタミンとの組み合わせにより生成したマイクロ粒子は過度の濃縮や長期保存時融合により大きな粒子(>20μm)となり、最終的にはペースト状になってしまう不安定な物質であることが明らかになった。特に医療用製剤化のため凍結乾燥品を製造すると綿状の不溶性結晶となってしまう。また微粒子として有用性の高いナノ粒子(粒子径100nm程度)の製造はできなかった。
【0010】
上記背景技術に鑑みて、本発明は、注射投与がしやすく、かつ凍結乾燥保存が可能な形態の薬物包接担体あるいは細胞担体となる微粒子(マイクロ・ナノ粒子)を含有する医療用材料およびその製造方法、ならびにその医療用材料を用いた医薬組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意検討した結果、以下のような本発明を完成した。
(1)低分子ヘパリンとプロタミンとを含む粒子、ならびに、デキストランを含有する医療用材料。
(2)上記粒子が、低分子ヘパリン溶液にプロタミン溶液を滴下することにより得たものである(1)の医療用材料。
(3)上記低分子ヘパリン溶液に含まれる低分子ヘパリン1重量部に対して、0.2〜1重量部のプロタミンが添加されるようにプロタミン溶液を滴下する(2)の医療用材料。
(4)低分子ヘパリンの数平均分子量が1000〜10000である(1)〜(3)のいずれかの医療用材料。
(5)電子顕微鏡画像解析で測定される上記粒子の平均粒子径が50nm〜10μmである(1)〜(4)のいずれかの医療用材料。
(6)電子顕微鏡画像解析で測定される上記粒子の平均粒子径が0.5〜5μmである(1)〜(4)のいずれかの医療用材料。
(7)電子顕微鏡画像解析で測定される上記粒子の平均粒子径が50nm〜200nmである(1)〜(4)のいずれかの医療用材料。
(8)低分子ヘパリン溶液にプロタミン溶液を滴下することにより粒子を生成せしめ、該粒子を含む溶液にさらにデキストランを添加する、医療用材料の製造方法。
(9)(1)〜(7)いずれかの医療用材料と前記医療用材料に担持された薬物とを含む医薬組成物。
(10)上記薬物がヒト多血小板血漿(hPRP)、ヒトの脂肪組織由来間葉系細胞から分泌される増殖因子を構成する医薬品、ヘパリン結合性増殖因子及びサイトカインからなる群から選択される、(9)の組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の医療用材料は、例えばhPRPに含まれる多くのヘパリン結合性増殖因子を担持することができ、担持された増殖因子を熱やトリプシン等たんぱく質分解酵素による不活化要因から保護して活性を維持延長することが確認された。これは、ヘパリン結合性増殖因子と結合することによって発揮される天然のヘパリン様分子(ヘパラン硫酸等)が有する特徴的な機能と同等である。
【0013】
本発明の医療用材料を薬物担体として用いた場合、粒子の平均粒径がミクロン単位のマイクロ粒子状或いはナノ単位のナノ粒子状であるため、それを適当な媒体に分散させた安定な組成物は粘性が低く、極細針を装着したシリンジでも容易に取り扱う事が出来、操作性が非常に優れている。また、本発明の薬物包接担体は生体内で生分解されるため、その生分解に伴ってhPRPに含まれるヘパリン結合性増殖因子等の担持薬物を生体内で徐放することができる。
【0014】
本発明で使用するダルテパリン(フラグミン)などの低分子化ヘパリンやプロタミンは医薬品として市販されている材料であり、それらの安全性は確保されている。hPRPは患者本人の末梢血から調製されるもので、すでに臨床応用がされている。hPRPに含まれたヘパリン結合性増殖因子等を担持させた本発明の薬物包接担体は、育毛剤や皺取り等の美容形成や下肢虚血治療などを対象とした血管新生や肉芽形成療法のための、安全で有効な、新しいバイオマテリアルとして有望である。また、低分子化ヘパリンとプロタミンとから構成されるマイクロ粒子及びナノ粒子は、hPRPの増殖因子以外にもヒトの脂肪組織由来間葉系細胞から分泌されるヘパリン結合性増殖因子(PDGFs、FGFs、KGF、TGFs、HGF、VEGFs等)を構成する医薬品(MesoSkin)及び医薬品として市販されているFGF-2製剤(フィブラスト)にも薬剤包接担体として応用できる他、マイクロ或いはナノ粒子形成や安定性に影響するものでなければ、ヘパリンと結合しない分子をも包接できるものと考えられる。即ち、本発明の薬物包接担体に担持させる薬物にヘパリン結合性が必須というわけではない。低分子化ヘパリンとプロタミンとによるマイクロ或いはナノ粒子の形成は、相互の陰性電荷と陽性電荷によるポリイオンコンプレックスによるものであるため、例えば、著しく高分子量の物質でなければ、陰性電荷や陽性電荷を帯びた医薬品なども包接可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(A)は本発明により得られた粒子の電子顕微鏡写真であり、(B)はその粒径分布を示す。
【図2】低分子ヘパリン溶液とプロタミン溶液との容積比に対する濁度のプロットである。
【図3】(A)は低分子ヘパリン溶液とプロタミン溶液を種々希釈したときに得られる粒子の電子顕微鏡写真である。(B)はそれらの粒子径分布を示す。
【図4】本発明の医療用材料(LH/P NPs)によるFGF-2活性の経時変化を示す。各グラフの縦軸はFGF-2感受性細胞(hMVEC)の増殖度を示しており、図の各シンボルはLH/PNPs(●)、フラグミン(△)、デキストラン(□)、コントロール(○)である。
【図5】本発明の医療用材料(LH/P NPs)による熱からFGF-2活性の保護効果を示す図である。各グラフの縦軸はFGF-2感受性細胞(hMVEC)の増殖度を示しており、30分間の各加熱温度でのFGF-2活性の変化を示す。図の各シンボルはLH/PNPs(●)、フラグミン(△)、デキストラン(□)、コントロール(○)である。
【図6】本発明の医療用材料(LH/P NPs)による淡白分解酵素(トリプシン)からFGF-2活性の保護効果を示す図である。各グラフの縦軸はFGF-2感受性細胞(hMVEC)の増殖度を示しており、トリプシン処理によるFGF-2活性の経時変化を示す。図の各シンボルはLH/PNPs(●)、フラグミン(△)、デキストラン(□)、コントロール(○)である。
【図7】hPRP含有LH/P MPsによるヌードマウスの肉芽組織形成の促進を経時的に示す図である。**P < 0.001 、* P < 0.01。
【図8】hPRP含有LH/P MPsによるヌードマウスの上皮組織形成の促進を経時的に示す図である。**P < 0.001 、* P < 0.01。
【図9】hPRP含有LH/P MPsによるヌードマウスの新生血管数の経時的変化を示す図である。**P < 0.001 、* P < 0.01。
【図10】hPRP含有LH/P MPsによるヌードマウスの毛包数の経時的変化を示す図である。*P < 0.01。
【図11】hPRP含有LH/P NPsによるヌードマウスの下肢虚血モデルの効果を示す図である。写真は投与後一週間目での外観写真である。
【図12】自己PRP含有LH/P MPsの頭皮皮下注射による育毛効果を示す写真および単位表面積あたりの毛のクロス−セクション(直径)と毛の数のグラフである。*P>0.01vs PRP alone (n=13), +P>0.005 vs control (n=13)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の医療用材料は、粒子とデキストランとを含む。該粒子は低分子化ヘパリンとプロタミンとを含む。該粒子の平均粒径は、好ましくは50nm〜10μmであり、より好ましい上限値としては、例えば、5μm、300nm、200nm、50nmなどが挙げられ、また、別の好ましい範囲として0.5〜50μmが挙げられる。
【0017】
本発明では、粒子の平均粒径として、以下のように電子顕微鏡観察より得られた画像を解析することで測定される平均粒径Raveの値を用いる。まず、平滑なガラス薄板、樹脂製の薄板、金属薄板等に本発明で得られた溶液、より好ましくは本発明で得られた溶液に透析、限外濾過等による脱塩処理を施した溶液を滴下、乾燥させたのちに金、白金、金−パラジウム合金、オスミウム等の導電性物質にてコーティングを施し、電子顕微鏡観察に供する試料とする。続いて走査型電子顕微鏡により当該試料の二次電子像を観察、撮影し、得られた電子顕微鏡写真について次の画像処理を行うことにより粒径を測定する。粒径を算出するためのアルゴリズムは、まず画像の2値化処理後にエッジ検出を行い、円形のものを1粒子と判別し粒子毎に抽出を行う。抽出したすべての粒子について画素数を測定、この画素数をNiとする。粒径測定のために抽出する粒子数は通常100個以上、好ましくは500個以上、より好ましくは1000個以上とする。粒形を円形と仮定していることから、i番目の粒子の粒径Riは下記の式1で表わされる。
【数1】
ただし、Ri: 粒径(m)、Ni: 粒子のpixel数(pixel)、Sp: 1 pixelあたりの面積(m2/pixel)である。
【0018】
以上で得られたRi値を用い、下記の式2で表現される抽出されたすべての粒径の平均値を算出、平均粒径Raveとする。
【数2】
【0019】
本発明によれば、低分子ヘパリンは一般に天然ヘパリン(分子量15000〜20000Da程度)を解重合して得られる低分子量のヘパリンである。その数平均分子量の上限は、プロタミンと混合することにより微粒子を形成できる程度のものであればよく、一般的には10000、好ましくは9000、より好ましくは8000、さらに好ましくは6000であり、数平均分子量の下限は、通常は1000、好ましくは3000、より好ましくは4000である。なお、数平均分子量において通常(天然)のヘパリンと区別できれば十分であり、例えば、10000以上、あるいは20000以上の分子量を持つ分画を含んでいても、全体として平均分子量が約10000未満であれば本発明における低分子ヘパリンとして使用できる。本発明では、ヘパリンの平均分子量として、分子量が既知の標準物質を用いたゲル浸透クロマトグラフィー法によって測定される数平均分子量を用いる。
【0020】
例えば、ブタの小腸粘膜由来のヘパリンを亜硝酸分解して得られる解重合ヘパリン(ダルテパリン)は、フラグミン(商品名)として市販されており、4000〜6000の平均分子量を有する。同様に、ブタの小腸粘膜由来のヘパリンを亜硝酸分解して得られる解重合ヘパリン(レビパリン)はローモリン(商品名)として市販され、また、ウシ又はブタ腸粘膜由来のヘパリンを過酸化水素と酢酸第二銅により分解して得られる解重合ヘパリン(パルナパリン)はローヘパ(商品名)として市販されており、これらは何れも本発明における低分子ヘパリンとして使用できる。
【0021】
ヘパリンは単独では抗凝固作用を持たず、血漿中のATIIIと結合することによってその作用を発揮し、第IIa因子、第XIIa因子、第XIa因子、第Xa因子、第IXa因子などの凝固系酵素を阻害、不活化する。一方、本発明で使用する低分子ヘパリンは抗第XIIa、抗第Xa因子活性を持つものの、第IIa因子、第XIa因子、第IXa因子に対する阻害活性は軽微であることが医薬品として明らかにされているので、創傷部位に注入しても当該部位における出血傾向を助長することなく使用できる。
【0022】
低分子ヘパリンとしては、上記の市販されているものを使用してもよいし、あるいは、過ヨウ素酸酸化により低分子化したヘパリンや、特異的脱硫酸化ヘパリンなども好適に用いることができる。このような低分子量のヘパリンを使用することにより、プロタミンと混合した際に好適な微粒子を得ることができる。
【0023】
本発明で用いるプロタミンは、動物の精子の核中でDNAと結合して存在する塩基性の高いタンパク質として知られている。一般的には、27〜65残基からなる低分子量タンパク質であり、アミノ酸の40〜70%をアルギニンが占めると言われている。プロタミンも医薬品として市販されており、本発明では市販のプロタミンをそのまま使用することができる。
【0024】
本発明の好適態様では、低分子ヘパリン溶液にプロタミン溶液を滴下して低分子ヘパリンとプロタミンとを含む粒子を生成させる。例えば、ダルテパリン等の低分子ヘパリンの水溶液に、プロタミン水溶液を後述する割合になるよう滴下し、ボルテックスなどでさらに攪拌することによって粒子を得る。低分子ヘパリンおよびプロタミンの濃度は各々設定することができ、好適にはそれぞれ0.01〜30mg/mlである。このとき、低分子ヘパリンおよびプロタミンの濃度を調節することによって、得られる粒子のサイズを制御することができる。例えば、低分子ヘパリンおよびプロタミンの濃度がそれぞれ1〜20mg/ml程度の溶液を用いると、0.5〜10μm程度の平均粒子径をもつ粒子を得ることができ、低分子ヘパリンおよびプロタミンの濃度がそれぞれ0.05〜0.5mg/ml程度の溶液を用いると、50〜200nm程度の平均粒子径をもつ粒子を得ることができる。
【0025】
低分子ヘパリンとプロタミンとの混合重量比については、プロタミンに対する低分子ヘパリンの重量を等量あるいはやや過剰することが、粒子の収率向上の点で好ましく、過剰なプロタミンの存在は不溶性のペースト状沈殿物が生成する懸念がある。したがって、低分子ヘパリンの溶液にプロタミンの溶液を滴下する場合には、滴下後の溶液内における低分子ヘパリン/プロタミンの重量比は、好ましくは1/1〜5/1であり、より好ましくは1/1〜2/1である。すなわち、上記低分子ヘパリン溶液に含まれる低分子ヘパリン1重量部に対して、好ましくは0.2〜1重量部、より好ましくは0.5〜1重量部のプロタミンが添加されるようにプロタミン溶液が滴下される。
【0026】
低分子ヘパリン溶液およびプロタミン溶液における溶媒は、蒸留水、食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、ブドウ糖水溶液、0〜4号輸液、高カロリー輸液などから任意に選択することができる。
【0027】
本発明によれば、凍結乾燥や長期保存した後の分散性を考慮して、医薬材料にはデキストランも含まれる。デキストランが無い場合、上記粒子は凍結乾燥後あるいは長期保存後に凝集し、不溶性の綿状沈殿物となってしまう。デキストランの量は特に限定は無く、上述のように溶液から粒子を生成させる場合には、当該溶液に、好ましくは0.05〜1%の濃度でデキストランを共存させることができる。この溶液中のデキストランの濃度の好適な下限値は、0.05%、0.1%、0.2%が挙げられ、好適な上限値は、1%、0.5%、0.3%が挙げられる。デキストランは、低分子ヘパリンとプロタミンとを含む粒子が生成した後に溶液に添加することが好ましい。添加したデキストランは低分子ヘパリンとプロタミンとを含む粒子に付着ないし結合して、粒子の保存安定化および凍結乾燥後の凝集防止に寄与していると考察される。デキストランの種類は特に限定は無く、数平均分子量は、好ましくは100〜300kDaであり、より好ましくは150〜250kDaであり、さらに好ましくは178〜217kDaであり、医療用のものとして、MRCポリサッカライド株式会社(東京都)、名糖産業株式会社(名古屋市)などから市販されている製品を適宜用いることができる。
【0028】
最近、ヘパリンと同様にグリコサミノグリカン類の一つであるヒアルロン酸とプロタミンとの組み合わせにインターロイキン11(IL−11)を混合した三成分系で、IL−11徐放性医薬組成物を作製することが提案されている(特開2006−9675号公報)。しかし、この文献で使用されているヒアルロン酸は60000〜2000000の分子量を持つのが好ましいとされ、ヒアルロン酸に代えて使用できるとされているカルボキシメチルデキストランも20000〜80000の分子量を有している。このような高分子量のヒアルロン酸とプロタミンとを組み合わせた場合には、本発明で得られるような安定で凍結乾燥可能な微粒子(μm或いはnmオーダー)を得ることは困難であり、実際に、前記文献では、ヒアルロン酸とプロタミン及びIL-11の混合物を凍結乾燥させて粉末状にし、それを圧縮成型したペレットをラット背部の皮下に埋め込んでいる。一方、静脈注射するための組成物においてはヒアルロン酸(及びIL-11)のみが用いられ、プロタミンは添加されていない。
【0029】
低分子ヘパリンに代えて高分子量ヘパリン、ヒアルロン酸、又はコンドロイチン硫酸を用いた場合には、本発明で得られるような安定で凍結乾燥可能なナノ・マイクロ粒子を得ることはできない。本発明では、すでに医薬品として承認されている低分子ヘパリンとプロタミンという独特の組み合わせを採用することにより、10μm未満、さらには0.5μm以上の平均粒径を有するマイクロ粒子、そして200nm未満、さらに50nm以上の平均粒径を有するナノ粒子を得ることができた。
【0030】
本発明によれば、上述の医療用材料は医療分野において種々利用することができるが、特に、薬物の担体として好適に用いられる。本発明の医療用材料は好ましくは薬物の担体であり、より好ましくは注射用製剤の薬物担体であり、さらに好ましくは凍結乾燥製剤用の薬物担体である。すなわち、上述の医療用材料と前記医療用材料に担持された薬物とを含む医薬組成物もまた本発明の実施態様の1つである。
【0031】
例えば、本発明の医療用材料をヒト多血小板血漿(hPRP)包接担体として用いることができる。このhPRP包接担体(ナノ・マイクロキャリア)は、μm〜nmオーダーの微粒子状という形態的特徴を有するので、特に注射器やカテーテルなどを介して体内に注入する医薬組成物として使用するのに適している。本発明の医療用材料は、hPRPに含まれるヘパリン結合性増殖因子以外にもヒトの脂肪組織由来間葉系細胞から分泌される増殖因子(PDGFs、FGFs、KGF、TGFs、HGF、VEGFs等)を構成する医薬品(MesoSkin)及び医薬品として市販されているFGF-2(フィブラスト)の包接担体としても応用できる。
【0032】
本発明では、薬物は特に限定は無く、好ましくは、上述の医療用材料に担持されやすく、体内における徐放が望まれる薬物である。また、本発明の医療用材料は低分子ヘパリン及びプロタミンを含む粒子を有しているため、薬物は、低分子ヘパリン又はプロタミンとの親和性が高く、例えばヘパリン結合性増殖因子又はサイトカインから選択される活性物質を含有していることが好ましい。特に、hPRPは患者自身から採血した血液から調製できるもので、そこに含まれる増殖因子はほとんどがヘパリン結合性であることが知られており、特に好ましい。本発明の医薬組成物における媒体は特に限定は無く、水性媒体が好ましく使用される。また、本発明の医薬組成物は、好ましくは注射用製剤であり、より好ましくは凍結乾燥製剤である。
【0033】
本発明の医療用材料は、担持された薬物を良好に保護する効果がある。例えば、hPRPにも含まれるFGF-2を担持させた場合には、FGF-2活性の経時的な低下、温度変化や酵素による分解などの外的刺激による活性の低下が防止され、FGF-2活性が長期間維持される。さらに、LH/P MPsやLH/P NPsは生体内で生分解されるため、それに伴って担持されたFGF-2などを徐放することが可能である。従って、従来のキトサンハイドロゲルのような外傷部位のみならず、本発明の医薬組成物を用いることによって体内深部における目的局所部位にFGF-2等の薬物をデリバリーし、当該部位で徐放することができ、血管新生療法を実施することが可能となる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明による実施例を示す。ただし、本発明はこれらの実施例に記載された態様に限定されるわけではない。
【0035】
(実施例1)
低分子化ヘパリン/プロタミン マイクロ粒子(LH/P MPs)の作製
低分子ヘパリンとして、市販のダルテパリンであるフラグミン注射液(商品名)(6.4
mg/ml, 1000 IU/ml, ヘパリンの数平均分子量は約5000、キッセイ薬品工業株式会社)を使用した。この低分子ヘパリン溶液に対して、市販のプロタミン注射液(10 mg/ml; 持田製薬株式会社) をボルテックスで撹拌しながら7:3の容積比になるまで滴下し混合した。得られた微粒子分散物の電子顕微鏡外観を図1(A)に示す。粒子径分布のF/P MPs(図1)は、電子顕微鏡写真から粒子径解析ソフト(LabVIEW (Ver 8.5) with the Vision Development/Module (National Instrument Co., Austin, TX, USA))を使って計測した。その結果、生じたF/P MPsは2.93±1.11μmであった。このF/P MPsは0.5%デキストラン(MW: 178-217 kDa; MRC Polysaccharide Corp., Tokyo, Japan)添加により、長期にわたって融合することなく安定化し、また透析後凍結乾燥しても再懸濁性及び粒子径を維持した。
【0036】
図2は、低分子ヘパリン溶液としてのフラグミン注射液(6.4 mg/ml)にプロタミン注射液(10 mg/ml)を示された容積率になるように滴下した時に生じる白色濁度を測定した結果である。プロタミンの滴下容積比が0.3〜0.4になった時、最も濁度が高くなり、マイクロ粒子の収率も高い。しかしながらプロタミンの容積率が0.45以上になると濁度は急速に減少し、ペースト状の不溶性沈殿物が生成した。また、プロタミン注射液にフラグミン注射液を滴下した場合、直ちにペースト状の不溶性沈殿物が生成し、フラグミンの容積比が0.6以上になってもペースト状の不溶性沈殿物が溶解することはなかった。
【0037】
(実施例2)
低分子化ヘパリン/プロタミン ナノ粒子(LH/P NPs)の作製
低分子ヘパリン溶液(6.4 mg/ml)とプロタミン溶液(10 mg/ml)を、等しく20倍、50倍、100倍に生理食塩水で希釈し、実施例1のマイクロ粒子作製の要領(容積比(7:3))で混合することで、それぞれ平均粒径が112.5±46.1、95.0±27.0、84.6±26.8 nmのナノ粒子を得ることができた(図3)。低分子ヘパリン溶液(6.4 mg/ml)とプロタミン溶液(10 mg/ml)は、実施例1と同じ市販品を用いた。このLH/P NPsには当初、粒径1μm以上のマイクロ粒子は観察されないが、1週間ほどの冷蔵保存で図1のようなマイクロ粒子がナノ粒子の融合により出現する。このLH/P NPs溶液は0.2%デキストラン添加により、長期にわたって融合することなく安定化し、また透析後凍結乾燥しても再溶解性及びナノ粒子径を維持した。
【0038】
(実施例3)
低分子ヘパリン/プロタミン ナノ粒子(LH/P NPs)のFGF-2 活性に及ぼす影響
実施例2で作製したLH/P NPs DMEM培地溶液にヒト多血小板血漿(hPRP)中に含まれることが知られているFGF-2(フィブラスト; 科研製薬株式会社)を加えストック溶液を調製し、下記の実験条件下で安定性試験を行った。本実験で用いたストック溶液は、LH/P NPs ストック溶液:10μg/ml FGF-2, 3.14 mg/ml F/P NPs, 20 mg/ml デキストラン in Medium-199、低分子ヘパリン ストック溶液:10μg/ml FGF-2, 1.6 mg/ml 低分子ヘパリン, 20 mg/ml デキストラン in Medium-199、デキストラン ストック溶液:10μg/ml FGF-2, 20 mg/ml デキストラン in Medium-199、コントロール ストック溶液:10μg/ml FGF-2 in Medium-199の4つである。その後、プレインキュベートしたそれぞれのストック溶液を示された濃度となるように調製してFGF-2感受性細胞(human dermal micro-vascular endothelial cells; hMVEC)の培養系の培地に添加した。添加後3日間の培養(10% FBS/DMEM培地、37℃, 5% CO2 雰囲気下)を行い、hMVECの細胞増殖度を調べることでFGF-2の活性保持について評価を行った。
【0039】
本実験におけるプレインキュベートの条件は、FGF-2活性の経時的安定性試験では、それぞれのストック溶液について、37℃で0,1,3,7日間それぞれプレインキュベートした。図4はこの実験結果である。コントロール群とデキストラン群では、プレインキュベート時間を増やすに従って細胞増殖性が著しく減少し、これらの群ではFGF-2の活性が経時的に低下していくことが分かった。一方、LH/P NPs又は低分子ヘパリン群では、FGF-2の活性は7日間のプレインキュベートを経ても維持した。
【0040】
また、FGF-2 活性の熱からの保護効果を調べる実験では、それぞれのストック溶液に対して37, 44, 51, 58, 65, 72 ℃ でそれぞれ30分間のプレインキュベートを行った。結果を図5に示す。コントロール群では37℃から温度上昇するに従ってFGF-2活性が著しく低下することが分かった。一方、低分子ヘパリン群は、LH/P NPs群とほぼ同様の傾向を示したが、72℃を超えた段階でLH/P NPs群がやや高いFGF-2活性を示した。デキストラン群はコントロール群とLH/P NPs群との中間の保護効果を示した。
【0041】
それぞれのストック溶液にトリプシン溶液(0.05%トリプシン溶液;シグマ社)を添加して10, 20, 30, 45, 60, 90, 120分間それぞれ37℃でプレインキュベートを行った。結果を図6に示す。LH/P NPs群そして低分子ヘパリン群ではFGF-2の活性が2時間のトリプシン処理で70%以上の活性が保持されていた。コントロール群ではFGF-2の活性が20分のトリプシン処理で70%以上のFGF-2活性が低下することが分かった。デキストラン群はコントロール群とLH/P NPs群との中間の保護効果を示した。
なお、低分子ヘパリン及びデキストランは完全可溶性であるため、本発明が意図するFGF-2の担体としては機能しない。したがって、薬物包接担体としては、LH/P NPsのみが、FGF-2を熱やタンパク質分解酵素から保護して活性を維持延長させることができる。LH/P MPsも同様に、強いFGF-2吸着・保持・活性保護効果が認められている。
【0042】
(実施例4)
hPRP含有LH/P MPsの生体内での肉芽形成、表皮形成、毛包形成、及び血管新生効果についてヌードマウスを用いて検討した。hPRPはボランティアから2%クエン酸が4ml含まれている採血管を用いて、40mlの採血を行った。その採血管はテーブルトップ冷蔵円心分離機(テーブルトップ冷蔵円心分離機2800、ローター:RS−240、クボタ(株)、東京)で15分間、1700rpmにて遠心分離した。血小板に富んだ中間層を分離し、さらに血小板を濃縮するため5分間、3000rpmで遠心した。得られたhPRP(約4.5ml)に2%塩化カルシウム溶液(0.8ml)を添加し、約35mgのLH/P MPsの凍結乾燥物(デキストラン含有)を再懸濁化させた。最終的に約5mlのhPRP含有LH/P MPs注射液が40mlの抹消血から得られた。
【0043】
上記調製したhPRP含有LH/P MPs、hPRP単独、LH/P MPs単独、コントロール(生理食塩水)をヌードマウス(8週齢、雄、BALB/c Slc-nu/nu;日本SLC株式会社)の背部皮下組織へ27-G針付きシリンジ(ニプロ社)により注入(200μl)した。注入後1, 3, 5, 7, 14, 30日目に剖検を行い注射部位の組織を分離、そのHE 染色標本を作製して光学顕微鏡観察及び写真撮影を行った。結果について、形成された肉芽組織の厚さ(図7)、形成された上皮化組織の厚さ(図8)、視野あたりの毛細血管数(図9)、視野あたりの毛包の数(図10)について計測を行った。
【0044】
注入したhPRP含有LH/P MPs或いはLH/P MPsは、およそ1週間で分解され、肉眼的所見では消失していた。hPRP含有LH/P MPs注入を実施した部位の周囲では、肉芽及び上皮形成の促進がLH/P MPs単独注入群或いはhPRP単独注入群より強いことを観察することができた。また、顕微鏡観察一視野あたりの毛細血管数や毛包数を調べたところ、hPRP含有LH/P MPs注入群は、他のコントロール群と比べて血管数、毛包数とも有意に増加しており、その作用は約1ヶ月に渡って継続された。以上のことから、hPRP含有LH/P MPsを使用することにより、肉芽形成や血管新生を有効に誘導することが可能であることが明らかになった。
【0045】
(実施例5)
hPRPはボランティアから上記実施例4に準じて調製した。得られたhPRP(約4.5 ml)に2%塩化カルシウム溶液(0.8 ml)を添加し、約35 mgのLH/P NPsの凍結乾燥パウダーを溶解させた。最終的に約5 mlのhPRP含有LH/P NPs注射液が40 mlの抹消血から得られた。
ヌードマウス(8週齢、雄、BALB/c Slc-nu/nu;日本SLC株式会社)の下肢大動脈・静脈を同時閉塞すると1-2週間で黒く変色し脱落する。このモデルに上記調製したhPRP含有LH/P NPs、hPRP単独、LH/P NPs単独、コントロール(生理食塩水)をヌードマウスの閉塞部付近、太腿や脛部の計10箇所へ27-G針付きシリンジによりそれぞれ30μl注入した(計300μl)。注射後2週間で、hPRP含有LH/P NPs注射液群は8例中5例が健康な血流を保った下肢を維持した。変色2例で脱落肢は1例にとどまった。この血流改善は少なくとも4週間以上維持された。他方、LH/P NPs単独群、コントロール群は全例脱落した。2週間目でコントロール群は脱落か黒変色が起っている。hPRP単独群は、変色2例で脱落肢は6例であり、健康肢のまま維持したのは0であった(図11)。
【0046】
(実施例6)
インフォームドコンセントを得た薄毛に悩むボランティア13名(男9名、女4名)について、それぞれの採血によりautologous PRP含有LH/P MPsを直接頭皮に皮下注射を行い、増毛・育毛効果について検討した。治療は0, 2, 4, 7, 10週目にautologous PRP含有LH/P MPsを皮下注し、それぞれの週及び12週目にDermoscopic Degital Camera(Derma Medical, Kanagawa, Japan)を用いて写真撮影を行い、単位表面積あたりの毛のクロス−セクション(直径)と毛の数を測定した。なお、本実施例は防衛医科大学校病院倫理委員会において承認・実施されている。その結果、毛の数の増加即ち発毛数の有意な増加は見られなかったが、13例すべてにおいて毛のクロス−セクション即ち育毛促進効果が観察された。この育毛促進効果はPRP単独投与でもコントロールと比して有意に促進したが、PRP+F/P MPs投与部位の育毛促進効果はPRP単独投与部位よりも4, 7, 10週において有意に高かった(図12)。さらにすべてのボランティアは洗髪における抜け毛の減少をPRP+F/P MPs 投与部位及びPRP投与部位において認識した。特に女3名を含む8名はその効果が顕著であり(毛のクロス‐セクションの増加75%以上)であり、副作用の訴えは全くなく、満足度は非常に高いものがあった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の医療用材料は、安全性が確認されている低分子ヘパリンとプロタミンとを含む粒子を含有しており、経時的に融合して粗大粒子や不溶性綿状沈殿物になってしまうという問題が生じにくく、再溶解可能な凍結乾燥製剤の作成が可能となった。従って、LH/P MPsやLH/P NPsは注射器やカテーテルなどを介して投与する医療用途へ安定的に供給することができる。例えば、hPRPに含まれるヘパリン結合性増殖因子等の活性分子を安定に担持し、目的部位で担持した活性分子を徐放できるドラッグデリバリー用薬物包接担体として使用できる。これを適用することで、美容形成外科領域の育毛剤、皺取り等美容形成治療法への適用に加え、血管新生促進製剤、皮膚等の難治性創傷治癒促進剤としての医療応用が可能となった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低分子ヘパリンとプロタミンとを含む粒子、ならびに、デキストランを含有する医療用材料。
【請求項2】
上記粒子が、低分子ヘパリン溶液にプロタミン溶液を滴下することにより得たものである請求項1記載の医療用材料。
【請求項3】
上記低分子ヘパリン溶液に含まれる低分子ヘパリン1重量部に対して、0.2〜1重量部のプロタミンが添加されるようにプロタミン溶液を滴下する請求項2記載の医療用材料。
【請求項4】
低分子ヘパリンの数平均分子量が1000〜10000である請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療用材料。
【請求項5】
電子顕微鏡画像解析で測定される上記粒子の平均粒子径が50nm〜10μmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療用材料。
【請求項6】
電子顕微鏡画像解析で測定される上記粒子の平均粒子径が0.5〜5μmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療用材料。
【請求項7】
電子顕微鏡画像解析で測定される上記粒子の平均粒子径が50nm〜200nmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療用材料。
【請求項8】
低分子ヘパリン溶液にプロタミン溶液を滴下することにより粒子を生成せしめ、該粒子を含む溶液にさらにデキストランを添加する、医療用材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の医療用材料と前記医療用材料に担持された薬物とを含む医薬組成物。
【請求項10】
上記薬物がヒト多血小板血漿(hPRP)、ヒトの脂肪組織由来間葉系細胞から分泌される増殖因子を構成する医薬品、ヘパリン結合性増殖因子及びサイトカインからなる群から選択される、請求項9に記載の組成物。
【請求項1】
低分子ヘパリンとプロタミンとを含む粒子、ならびに、デキストランを含有する医療用材料。
【請求項2】
上記粒子が、低分子ヘパリン溶液にプロタミン溶液を滴下することにより得たものである請求項1記載の医療用材料。
【請求項3】
上記低分子ヘパリン溶液に含まれる低分子ヘパリン1重量部に対して、0.2〜1重量部のプロタミンが添加されるようにプロタミン溶液を滴下する請求項2記載の医療用材料。
【請求項4】
低分子ヘパリンの数平均分子量が1000〜10000である請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療用材料。
【請求項5】
電子顕微鏡画像解析で測定される上記粒子の平均粒子径が50nm〜10μmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療用材料。
【請求項6】
電子顕微鏡画像解析で測定される上記粒子の平均粒子径が0.5〜5μmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療用材料。
【請求項7】
電子顕微鏡画像解析で測定される上記粒子の平均粒子径が50nm〜200nmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療用材料。
【請求項8】
低分子ヘパリン溶液にプロタミン溶液を滴下することにより粒子を生成せしめ、該粒子を含む溶液にさらにデキストランを添加する、医療用材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の医療用材料と前記医療用材料に担持された薬物とを含む医薬組成物。
【請求項10】
上記薬物がヒト多血小板血漿(hPRP)、ヒトの脂肪組織由来間葉系細胞から分泌される増殖因子を構成する医薬品、ヘパリン結合性増殖因子及びサイトカインからなる群から選択される、請求項9に記載の組成物。
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図1】
【図3】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図4】
【図5】
【図6】
【図1】
【図3】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−219428(P2011−219428A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91953(P2010−91953)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月10日に、(i)http://www.dovepress.com/preparation−and−characterization−of−low−molecular−weight−heparinprotam−peer−reviewed−article−IJN、および、(ii)http://www.dovepress.com/getfile.php?fileID=5893のアドレスにおいて電気通信回線を通じて発表
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月10日に、(i)http://www.dovepress.com/preparation−and−characterization−of−low−molecular−weight−heparinprotam−peer−reviewed−article−IJN、および、(ii)http://www.dovepress.com/getfile.php?fileID=5893のアドレスにおいて電気通信回線を通じて発表
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】
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