説明

医療用縫合補強材

【課題】材料の伸度や切断に必要な強力に方向性がない、生体吸収性高分子不織布からなる医療用縫合補強材を提供するものである。
【解決手段】生体吸収性の繊維から作製された編地を、編方向が45度の角度となるように、即ち、編地のウエール方向とコース方向が1ピース毎に45度の角度になるよう、或は、複数枚積層された状態で45度の角度になるよう積層してパンチングすることによって、不織布を作製することによって、伸度や切断に必要な強力に方向性がない医療用縫合補強材を作ることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内視鏡下で施術される、胸部外科手術、消化器外科手術等における組織の補強、空気漏れ防止、及び止血を目的とする医療用縫合補強材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、肺等の呼吸器系生体組織の手術においては、縫合した吻合部に強い力が加わることにより当該組織が損傷するおそれがあり、空気漏れ、出血等の原因となる。また、消化器等の実質臓器の手術においても、脆弱な生体組織について張力をかけて縫合するような場合には前記と同じような問題を生じる。
【0003】
かかる問題を解消する目的において、本出願人は特開昭63−95041号(特許文献1)や、特開平5−76586号公報(特許文献2)において、治癒後には体内に異物として残存しない、また、これによって肉芽、瘢痕、瘻孔の発生しない、生体内分解吸収性素材による縫合補強材を開示している。
【0004】
近年、胸部外科領域、腹部外科領域における手術では、患者への負担が少ない内視鏡手術が施術されることが多くなっている。内視鏡手術では、ポートと呼ばれる管を数本、体内に挿入して専用の術具を用いて手術を行う。従来の開胸手術、開腹手術の場合、術野を見ながら広い視野の下で手術をすることが可能であり、用いられる縫合補強材などの医療用具に方向性があっても特に問題となることはなかった。しかしながら、内視鏡下で手術を行う場合には、視野が内視鏡のモニター画面に限られてしまう。また、非常に狭いスペースでモニターを見ながら医療用具を操作することから、縫合補強材などに方向性があると、非常に操作が困難になってしまう。したがって、縫合補強材のような医療用具については強伸度などに方向性がない均一な材料であることが望ましい。
【0005】
特に縫合補強材は臓器とともに切断するものであるので、刃物によるカットに必要な強力に方向性があることは好ましくなく、また伸度が異なると刃物によって特定の方向にのみ材料が引き伸ばされてしまうことなるので好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−95041号公報
【特許文献2】特開平5−76586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、材料の伸度や切断に必要な強力に方向性がない、生体吸収性高分子不織布からなる医療用縫合補強材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、その構成において、生体内分解吸収性素材にて編成した編地をその編方向、即ち、編地のウエール方向とコース方向を45度の角度になるよう積層し、ニードルパンチによって不織布化したことに特徴を有する医療用補綴材の提供に関する。
【0009】
本発明は、生体内分解吸収性素材にて編成された編地を重ね合せ、これをニードルパンチによって不織布化する医療用補綴材の構成において、編方向が45度の角度をもって重なるように、コース方向生地とウエール方向生地を交互に順次重ね合わせて一体化したもので、これにより方向に関係なく、全体的に厚さ、密度、強度、伸びが均一化し、前記目的に合致した医療用補綴材が得られるものである。即ち、一般的に編成された編地の編方向を表わす場合、形成された編目(ループ)のヨコの筋をコース、タテの筋をウエールと称するが、本発明においては、編成された編地を重ね合わせて一体化するに際し、かかるコース乃至はウエールの方向が一致するように重ね合せるのではなく、方向が45度の角度になるように重ね合わせ、一体化したことに特徴を有するものである。
【0010】
編方向の同じものどうしを重ね合せると伸びに方向性が生じることとなり、このような性質が必要となるような術式に適用することも可能であるが、一般的にはストレス、歪みを生じない均一な伸びを有する本発明構成が望まれる。例えば、肺の縫縮術や、肝臓断端の止血などに適用される際、性質に等方性、特に伸縮性における等方性がないと、肺や肝臓に対して不要なストレスや歪みを生じさせたり、或は、死腔をつくってしまう可能性がある。また、ストレスや歪みは臓器の正常な作用を妨げるし、死腔は感染の巣となる。
【0011】
特に近年、腹部外科手術においては腹腔鏡が、胸部外科手術においても胸腔鏡が用いられるようになり、開腹あるいは開胸することなく内視鏡を用いた内視鏡手術を行うことが多くなってきている。内視鏡手術においては、組織の切除や縫合に自動縫合器が用いられる。このような内視鏡下の手術手技においては、縫合補強材料などに方向性がある場合には、狭い視野でモニターを見ながら材料の方向性を確認することは極めて困難である。したがって、縫合補強材料の切断性や伸度はすべての方向にほぼ等しいことがのぞまれる。
【0012】
この点において、編地をその素材として45度の角度で積層し、ニードルパンチによりその伸びが抑制されるものの伸び率は均一であり、また、織地、成型物等と異なり縫合時、及び、適用時に伸びに対する適度な緩衝作用があり好適である。
【0013】
本発明を構成する生体内分解吸収性素材とは、繊維化されたポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸と乳酸の共重合体、パラジオキサノン、カプロラクトン等の合成高分子、すなわち脂肪族ポリエステルを例示できるが、これらはそれぞれ生体内での分解挙動が異なるため、目的、用途に適したものを適宜選択して用いることができる。しかしながら、特に、強力、加水分解速度の点において、不織布作成後の処理条件によりコントロールが可能であることも含め、ポリグリコール酸、あるいはグリコール酸−乳酸共重合体が好適である。
【0014】
一方、かかる素材の編成は、各種編機を用い、平編、ゴム編、タテ編等任意の組織に編成すればよいが、編成作業、編密度調整の容易性、コスト等の面から筒状に編成される平編地が好適である。尚、このように筒状に編成された編地は、扁平にすればそのまま二重生地となり、積層作業が容易となる。
【0015】
また、これのニードルパンチによる不織布化は、編方向が45度の角度となるように、即ち、編地のウエール方向とコース方向が1ピース毎に45度の角度になるよう、或は、複数枚積層された状態で45度の角度になるよう積層してパンチングし、或は、予めパンチングされた単数、或は複数の編地を前記のように積層して再度パンチングして行う。かかるニードルパンチ方式は、従来より公知の不織布製造のための手段であり、これによって積層生地は一体化され、密度、厚さ、強度、伸びの均一化がはかられる。尚、かかる積層枚数は、使用される素材、糸の太さ、編密度によって異なるが適用用途に応じて任意に選択するものである。通常、本発明の目的とする用途においては、その密度、厚さ、引張り強力、引張り破断伸度がそれぞれ、90〜300g/mm2 ,0.25〜0.60mm,300〜1200gf,20〜50%の範囲にあることが望ましく、かかる構成とするために、例えば、30〜35デニールの12フィラメント糸をその目付が35〜50g/m2 となるよう平編組織に筒状に編成し、これを編方向が異なるように2〜4枚重ね、特に、適用時、適用箇所への刺激を避けるためソフト性を重視してニードルパンチして構成する。
【0016】
不織布化に際しては、予め最終の使用サイズを想定した編地を準備し、或は、一体化された不織布を適当なサイズに切断し、必要なら、これに針を通すための貫通孔を設け、本発明補綴材の一例を構成する。
【0017】
また、かかる縫合の為の補綴に対しては、縫合時における縫合針、縫合糸の通過性を良くするため、各種の処理剤、例えば、ワックス、シリコン、ミツロウ、ポリオキシエチレンブロックとポリオキシプロピレンブロックとを包含する潤滑性共重合体、或は、脂肪酸が、ステリン酸、パルミチン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸であり、エステルがモノエステル、ジエステル、ポリエステルであるショ糖脂肪酸エステルを単独で、或は、混合して浸漬、コーティング等任意の方法によって付着させ、前記の機能を付与することができる。尚、かかる、処理は、糸の段階、編地の段階、不織布の段階等任意の段階で行えば良い。
【発明の効果】
【0018】
以上により構成された本発明補綴材は、外科手術における体組織の断裂を防止するため縫合補強用の当布として、また、体組織補強用補綴材として、或は、体組織の間に介在させて使用する、例えば、癒着防止膜のような当て布として、好適に用いることができるものである。以下、その構成について例を挙げて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】測定用サンプルの切り出し方法(直行カット)
【図2】測定用サンプルの切り出し方法(斜めカット)
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施例)
フエノール10に対し、トリクロロフェノール7の割合で混合した溶媒中にて溶解し、これを190℃で3分間加熱した後、30℃まで冷却して測定した時の粘度(ηsp/c)が1.5であるポリグリコール酸チップを245℃で溶融紡糸し、1.8倍に延伸して12フィラメント、33デニールのポリグリコール酸糸を得た。これを18ゲージの丸編機を用い、45g/mの目付で編成して筒状の丸編地を得た。かかる丸編地に対し、ウエール方向に軽くニードルパンチを施した後、22×22cmの大きさにカットした。このような構成の不織布を複数枚準備し、まず、その編方向が45度の角度になるよう、各1枚ずつ積み重ね、ニードルパンチして4PLYの一体化した不織布を得た。得られた不織布に対し、更に100℃,180kg/cm2 の条件下で10分間熱プレスし、本発明の補綴材とした。
【0021】
(比較例)
実施例と同じ方法によりポリグリコール酸糸からなる丸編地を得た。前記丸編地に対し、ウエール方向に軽くニードルパンチを施した後、22×22cmの大きさにカットした。このような構成の不織布を複数枚準備し、まず、その編方向が異なるよう、即ち、ウエール方向のものとコース方向のものを各1枚ずつ積み重ね、ニードルパンチして4PLYの一体化した不織布を得た。得られた不織布に対し、更に100℃,180kg/cm2 の条件下で10分間熱プレスし、比較例とした。
【0022】
(評価)
実施例および比較例で作成した不織布を、それぞれ図1および図2に示すように4×50mmの大きさに切り出し、それぞれ測定用サンプルとした。ここで図1を直行カット、図2を斜めカットとして表記する。
引張り強力は、前記の測定用サンプルをインストロン型引張り試験機にて、チャック間距離20mm,引張り速度100mm/分にて測定したときのものである。
【0023】
(結果)
引張の最大応力の測定結果を表1に示す。
【表1】

【0024】
比較例では、測定用サンプルの切り出し方法によって引張強力が約40%も異なったのに対して、実施例では約5%しか差がなかった。したがって、その編方向が45度の角度になるように重ね合わせてニードルパンチすることによって、本発明の目的である強力の方向性が少ない不織布を作り出すことができた。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、引張る方向性によって強力に差がない、医療用の生体内分解吸収性不織布を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内分解吸収性高分子にて編成した編地を、そのウエール方向とコース方向が45度の角度となるよう積層し、これをニードルパンチして不織布化したことを特徴とする医療用補綴材。
【請求項2】
生体内分解吸収性高分子が脂肪族ポリエステルである請求項1に記載の医療用補綴材。
【請求項3】
生体内分解吸収性高分子がポリグリコール酸、又はポリグリコール酸−乳酸共重合体である請求項1に記載の医療用補綴材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−206096(P2011−206096A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74020(P2010−74020)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】