説明

医療用薬剤および新規薬剤探索方法

【課題】標的細胞の機能に特異的に作用することができる医療用薬剤を提供する。
【解決手段】標的細胞に特異的に取り込まれる細胞取込物質に、標的細胞の機能に作用する作用物質を結合させた医療用薬剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラッグデリバリーシステム等に用いられる医療用薬剤および新規薬剤探索方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗癌剤は患者に投与すると血流に乗って全身に行き渡り、細胞増殖の活発な癌組織にダメージを与えるばかりでなく、正常な小腸の粘膜、骨髄や毛根細胞など増殖の活発な正常細胞にもダメージを与えるために副作用が現れることがある。
【0003】
副作用を抑えるために抗癌剤が癌組織に特異的に作用する薬の標的療法、いわゆるドラッグデリバリーシステム(DDS)が考えられている。その一つに抗癌物質等に癌特異的抗体を結合させ、癌組織に特異的に抗癌物質を集める方法がある。しかし、この方法では癌組織の表面に抗癌物質が集まったとしても、抗癌物質は強大な抗体に結合しており、癌細胞内に抗癌物質が取り込まれる可能性は低く、その効果は限定的であった。抗癌剤に限らず、副作用が少なく、目的とする作用効果の高い薬剤の開発が望まれている。
【0004】
一方、横紋筋肉腫は、小児や若年者に発生する横紋筋へ分化する細胞が悪性化した悪性軟部腫瘍であり、胎児性横紋筋肉腫(embryonal rhabdomyosarcoma)、多形型横紋筋肉腫(pleomorphic rhabdomyosarcoma)、胞巣状横紋筋肉腫(alveolar rhabdomyosarcoma)の三種の病理組織型が報告されている。横紋筋肉腫は化学療法が効きにくく、特に胞巣状横紋筋肉腫は悪性度が高く、治療法の確立が望まれている。この横紋筋肉腫は、セロトニンを取り込むことが報告されている(非特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Ohi S., Characterization, anticancer drug susceptibility and atRA-induced growth inhibition of a novel cell line (HUMEMS) established from pleural effusion of alveolar rhabdomyosarcoma of breast tissue., Hum Cell, 2007; 20: page 39-51.
【非特許文献2】Minako SUZUKI et al., Establishment and characterization of the rhabdomyosarcoma cell line designated NUTOS derived from the human tongue sarcoma: Special reference to the susceptibility of anti-cancer drugs, Hum Cell, 2010; 23: page 65-73.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、標的細胞の機能に特異的に作用することができる医療用薬剤および新規薬剤探索方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、標的細胞に特異的に取り込まれる細胞取込物質に、前記標的細胞の機能に作用する作用物質を結合させた医療用薬剤である。
【0008】
また、前記医療用薬剤において、前記標的細胞が横紋筋肉腫由来の細胞であり、前記細胞取込物質がセロトニンであることが好ましい。
【0009】
また、前記医療用薬剤において、前記作用物質が横紋筋肉腫用の抗癌物質であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、標的細胞に特異的に取り込まれる細胞取込物質を選定する細胞取込物質選定工程と、前記選定した細胞取込物質に前記標的細胞の機能に作用する作用物質を結合させて細胞取込物質−作用物質結合薬剤を得る細胞取込物質−作用物質結合工程と、を含む新規薬剤探索方法である。
【0011】
また、前記新規薬剤探索方法において、前記細胞取込物質選定工程は、前記標的細胞と少なくとも1つの化学物質を含む培養液とを混合する混合工程と、所定の時間経過後に前記培養液に含まれる少なくとも1つの化学物質のうち量が減少した化学物質を特定する減少化学物質特定工程と、を含み、前記量が減少した化学物質を標的細胞に特異的に取り込まれる細胞取込物質として選定することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、標的細胞に特異的に取り込まれる細胞取込物質に、標的細胞の機能に作用する作用物質を結合させることにより、標的細胞の機能に特異的に作用することが可能な医療用薬剤を提供することができる。
【0013】
また、標的細胞に特異的に取り込まれる細胞取込物質を選定し、選定した細胞取込物質に標的細胞の機能に作用する作用物質を結合させて細胞取込物質−作用物質結合薬剤を得ることにより、簡易な方法で標的細胞の機能に特異的に作用する新規薬剤を探索することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例7、比較例1における、抗癌剤の添加濃度(ng/ml)と15時間後の細胞の生存率(%)との関係を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例8、比較例2における、抗癌剤の添加濃度(ng/ml)と15時間後の細胞の生存率(%)との関係を示すグラフである。
【図3】比較例3における、抗癌剤の添加濃度(ng/ml)と15時間後の細胞の生存率(%)との関係を示すグラフである。
【図4】比較例4における、抗癌剤の添加濃度(ng/ml)と15時間後の細胞の生存率(%)との関係を示すグラフである。
【図5】比較例5における、抗癌剤の添加濃度(ng/ml)と15時間後の細胞の生存率(%)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0016】
<医療用薬剤>
本発明の実施形態に係る医療用薬剤は、標的細胞に特異的に取り込まれる細胞取込物質に、標的細胞の機能に作用する作用物質を結合させた細胞取込物質−作用物質結合薬剤である。
【0017】
例えば、横紋筋肉腫はセロトニンを特異的に取り込むため、セロトニンに抗癌物質あるいは生理活性抑制物質等を結合させて、横紋筋肉腫に特異的に取り込ませるようにすれば、横紋筋肉腫にターゲットを絞ったドラッグデリバリーシステム(DDS)が可能となる。
【0018】
セロトニンに抗癌物質を結合させたセロトニン−抗癌物質結合薬剤等の細胞取込物質−作用物質結合薬剤は、横紋筋肉腫等の標的細胞に特異的に取り込まれるため、標的細胞の機能に特異的に作用することができる。セロトニン−抗癌物質結合薬剤等の細胞取込物質−作用物質結合薬剤は、横紋筋肉腫等の標的細胞に特異的に取り込まれるため、副作用を抑制することができる。また、セロトニン−抗癌物質結合薬剤等の細胞取込物質−作用物質結合薬剤は、抗体に比べて極めて小さくすることができ、標的細胞に取り込まれやすくなる。
【0019】
標的細胞としては、例えば、癌細胞、肉腫細胞、正常細胞等が挙げられ、癌細胞としては胃癌、肺癌、乳癌、腎癌、甲状腺癌、肝癌、膵癌、膀胱癌、神経由来癌細胞、肉腫としては横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、骨肉腫、脂肪肉腫等の肉腫由来の腫瘍細胞、正常細胞としては骨髄、神経細胞、筋細胞、内分泌細胞等が挙げられる。
【0020】
標的細胞に特異的に取り込まれる細胞取込物質としては、横紋筋肉腫由来の腫瘍細胞に特異的に取り込まれるセロトニン(5−ヒドロキシトリプタミン)、筋由来の細胞に特異的に取り込まれるステロイド、網膜由来の細胞に特異的に取り込まれるビタミンA等が挙げられる。標的細胞に特異的に取り込まれる細胞取込物質は、後述する新規薬剤探索方法における細胞取込物質選定工程により、選定することができる。
【0021】
標的細胞の機能に作用する作用物質としては、癌細胞に作用する抗癌物質、細胞分化に作用するサイトカイン、ホメオスタンスに作用するホルモン物質等が挙げられる。
【0022】
ここで、標的細胞の「機能に作用する」とは、機能を抑制する作用、機能を促進する作用および機能を維持する作用を含む。
【0023】
抗癌物質としては、例えば、パクリタキセル(PTX、別名タキソール(TXL))、シスプラチン(CDDP、別名ブリプラチン)、カルボプラチン(CBDCA)、アドリアマイシン(ADM)、シクロホスファミド(CPA)等が挙げられる。
【0024】
本明細書において「標的細胞に特異的に取り込まれる」とは、複数(少なくとも2つ)の細胞の中で標的細胞に特異的(選択的)に取り込まれることをいう。
【0025】
本発明の実施形態に係る医療用薬剤の具体例としては、例えば、横紋筋肉腫由来の癌細胞に特異的に取り込まれるセロトニンに、横紋筋肉腫に作用する抗癌物質を結合させたものである。セロトニンは、生体内に存在するホルモンの一種で、毒性がほとんどない物質であり、安全性の高いセロトニン−作用物質結合薬剤が提供される。
【0026】
セロトニン−抗癌物質結合薬剤等のセロトニン−作用物質結合薬剤は、標的細胞として横紋筋肉腫由来の癌細胞に限らず、セロトニンおよびセロトニンの構造の一部を特異的に取り込む細胞に対して適用することができる。
【0027】
標的細胞に特異的に取り込まれる細胞取込物質と、標的細胞の機能に作用する作用物質との結合としては、共有結合、配位結合、イオン結合、水素結合等の化学結合が挙げられるが、特に制限はない。これらのうち、安定性等の点から共有結合が好ましい。
【0028】
標的細胞に特異的に取り込まれる細胞取込物質に、標的細胞の機能に作用する作用物質を結合させる方法としては、有機合成等の一般的な化学合成の手法を用いることができる。例えば、セロトニン等の細胞取込物質と抗癌物質とを中性付近(pH6.0〜8.0)にコントロールした生理食塩水、リン酸緩衝食塩水(PBS)等の水系溶媒中で混合し、反応させて、結合させることができる。反応温度、反応時間等は適宜決めればよい。なお、細胞取込物質と抗癌物質との結合点は1つに限らず、細胞取込物質−作用物質結合薬剤は複数の反応点で結合した物質の混合物であってもよい。例えば、抗癌物質であるアドリアマイシン(ADM)と細胞取込物質としてのセロトニンとは、下記アドリアマイシンの構造式における矢印部分とセロトニンのアミノ基とが反応すると考えられるが、反応点は下記矢印部分に限らない。
【化1】

【0029】
本発明の実施形態に係る医療用薬剤(細胞取込物質−作用物質結合薬剤)は、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の他に例えば、薬物の吸収促進、薬物の長寿命化、薬物の徐放化等に適用することができる。
【0030】
<新規薬剤探索方法>
本発明の実施形態に係る新規薬剤探索方法は、標的細胞に特異的に取り込まれる細胞取込物質を選定する細胞取込物質選定工程と、選定した細胞取込物質に標的細胞の機能に作用する作用物質を結合させて細胞取込物質−作用物質結合薬剤を得る細胞取込物質−作用物質結合工程とを含む。
【0031】
細胞取込物質選定工程は、例えば、標的細胞と少なくとも1つの化学物質を含む培養液とを混合する混合工程と、所定の時間経過後に前記培養液に含まれる少なくとも1つの化学物質のうち量が減少した化学物質を特定する減少化学物質特定工程と、を含み、量が減少した化学物質を標的細胞に特異的に取り込まれる細胞取込物質として選定するものである。
【0032】
混合工程において、培養液としては、一般的な細胞培養に用いられる細胞培養液に任意の化学物質を少なくとも1つ混合したものを用いればよい。培養条件も一般的な細胞培養に用いられる培養条件を用いればよい。
【0033】
減少化学物質特定工程において、量が減少した化学物質を特定する方法としては、例えば、高速液体クロマトグラフ(HPLC)法、ガスクロマトグラフ(GC)法、質量分析(MASSスペクトル)法等、およびそれらの組み合わせを用いることができる。
【0034】
細胞取込物質−作用物質結合工程において形成する、選定した細胞取込物質と標的細胞の機能に作用する作用物質との結合としては、上記の通り、共有結合、配位結合、イオン結合、水素結合等の化学結合が挙げられるが、特に制限はない。
【0035】
細胞取込物質−作用物質結合工程において、選定した細胞取込物質と標的細胞の機能に作用する作用物質とを結合させる方法としては、上記の通り、有機合成等の一般的な化学合成の手法を用いることができる。
【0036】
このような新規薬剤探索方法により、特定の標的細胞にターゲットを絞ったドラッグデリバリーシステム(DDS)、薬物の吸収促進、薬物の長寿命化、薬物の徐放化等に用いることができる、標的細胞の機能に特異的に作用する新規な薬剤候補を簡易な方法で探索することが可能となる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
17才の日本人女性の舌に発生した胞巣状横紋筋肉腫から、横紋筋肉腫の細胞株(NUTOS)を確立した。これまで、舌に発生した横紋筋肉腫の報告はない。NUTOS細胞は、横紋筋肉腫の治療を検討するのに非常に有用な細胞株である。
【0039】
<実施例1>
[セロトニンのNUTOS細胞への取込]
このNUTOS細胞を含む培養液に、セロトニンを含むウシ胎児血清を添加したところ、培養液中のセロトニン量が減少した。また、免疫染色で抗セロトニン抗体により細胞が発光する、抗セロトニン抗体で培養液中の血清をブロックすると細胞が発光しない、などのことから、培養液に添加したウシ胎児血清中のセロトニンがNUTOS細胞に特異的に取り込まれていることがわかった。この取り込みの機構の詳細は不明であり、また内部に取り込まれたセロトニンの役割は不明である。
【0040】
[セロトニン−抗癌物質結合薬剤の合成]
<実施例2>
(セロトニン−パクリタキセル(PTX)結合薬剤の合成)
セロトニンと抗癌物質であるパクリタキセル(PTX)とを中性付近(pH6.0〜8.0)にコントロールしたリン酸緩衝食塩水(PBS)中で混合し、反応させて、セロトニン−パクリタキセル(PTX)結合薬剤(以下、「s−PTX」と呼ぶ)を合成した。
【0041】
<実施例3>
(セロトニン−シスプラチン(CDDP)結合薬剤の合成)
実施例2と同様の方法で、セロトニン−シスプラチン(CDDP)結合薬剤(以下、「s−CDDP」と呼ぶ)を合成した。
【0042】
<実施例4>
(セロトニン−カルボプラチン(CBDCA)結合薬剤の合成)
実施例2と同様の方法で、セロトニン−カルボプラチン(CBDCA)結合薬剤(以下、「s−CBDCA」と呼ぶ)を合成した。
【0043】
<実施例5>
(セロトニン−アドリアマイシン(ADM)結合薬剤の合成)
実施例2と同様の方法で、セロトニン−アドリアマイシン(ADM)結合薬剤(以下、「s−ADM」と呼ぶ)を合成した。
【0044】
<実施例6>
(セロトニン−シクロホスファミド(CPA)結合薬剤の合成)
実施例2と同様の方法で、セロトニン−シクロホスファミド(CPA)結合薬剤(以下、「s−CPA」と呼ぶ)を合成した。
【0045】
<実施例7>
17才の日本人女性の舌に発生した胞巣状横紋筋肉腫から確立した横紋筋肉腫の細胞株(NUTOS)を用いた。以下の手順で、コンフルエントの細胞(NUTOS)に抗癌剤として実施例2〜6で合成したs−PTX、s−CDDP、s−CBDCA、s−ADM、s−CPAをそれぞれ添加して、15時間後に色素の取込の割合をカウントした。結果を図1(a)〜(e)に示す。図1において、横軸は抗癌剤の添加濃度(ng/ml)、縦軸は15時間後の細胞の生存率(%)を示す(n=5)。
【0046】
(実験手順)
1.シャーレに細胞を播種し、15%ウシ胎児血清を添加したDMEM/F12培養液を用いて、コンフルエントになるまで培養する。
2.培養液を除去し、抗癌剤を所定の量で添加した無血清のDMEM/F12培養液に入れ替え、15時間培養する。
3.培養液を除去し、Hanks’液で洗い、トリプシンを用いて細胞をはがし、チューブに移し、遠心処理する。
4.上清を除去し、一定量の培養液に細胞を懸濁する。
5.細胞懸濁液を一部取り、同量のトリパンブルーを添加し、血球計算板を用いて細胞をカウントする。
【0047】
<比較例1>
抗癌剤としてs−PTX、s−CDDP、s−CBDCA、s−ADM、s−CPAの代わりに、パクリタキセル(PTX)、シスプラチン(CDDP)、カルボプラチン(CBDCA)、アドリアマイシン(ADM)、シクロホスファミド(CPA)をそれぞれ用いた以外は実施例7と同様にして、コンフルエントの細胞(NUTOS)に抗癌剤を添加して、15時間後に色素の取込の割合をカウントした。結果を図1に示す。
【0048】
PTX(図1(a))とCDDP(図1(b))は単独でそれぞれ抗癌効果が見られるが、セロトニンに結合している(s−PTX、s−CDDP)とより強い抗癌効果が見られた。同様に、CBDCA(図1(e))も単独で抗癌効果が見られるが、セロトニンに結合している(s−CBDCA)とより強い抗癌効果が見られた。ADM(図1(d))は単独では抗癌効果がわずかしか見られないが、セロトニンと結合している(s−ADM)と劇的に強い効果が見られた。CPA(図1(c))は単独では抗癌効果がわずかしか見られないが、セロトニンと結合している(s−CPA)と効果がやや強くなった。
【0049】
<実施例8、比較例2>
細胞として、NUTOSの代わりに、乳腺から得た胞巣状横紋筋肉腫から確立した横紋筋肉腫の細胞株(HUMENS)を用いた以外は、実施例7および比較例1と同様にして、コンフルエントの細胞(HUMENS)に抗癌剤(s−PTX、s−CDDP、s−CBDCA、s−ADM、s−CPA(以上、実施例8)、PTX、CDDP、CBDCA、ADM、CPA(以上、比較例2))を添加して、15時間後に色素の取込の割合をカウントした。結果を図2に示す。
【0050】
PTX(図2(a))とCDDP(図2(b))は単独でそれぞれ抗癌効果が見られるが、セロトニンに結合している(s−PTX、s−CDDP)とより強い抗癌効果が見られた。同様に、CBDCA(図2(e))も単独で抗癌効果が見られるが、セロトニンに結合している(s−CBDCA)とより強い抗癌効果が見られた。ADM(図2(d))は単独では抗癌効果がわずかしか見られないが、セロトニンと結合している(s−ADM)と劇的に強い効果が見られた。CPA(図2(c))は単独で抗癌効果が見られるが、セロトニンと結合している(s−CPA)と効果が劇的に強くなった。
【0051】
<比較例3>
細胞として、NUTOSの代わりに、子宮内膜癌の細胞を用いた以外は、実施例7および比較例1と同様にして、コンフルエントの細胞(子宮内膜癌細胞)に抗癌剤(s−PTX、s−CDDP、s−CBDCA、s−ADM、s−CPA、PTX、CDDP、CBDCA、ADM、CPA)を添加して、15時間後に色素の取込の割合をカウントした。結果を図3に示す。
【0052】
<比較例4>
細胞として、NUTOSの代わりに、卵巣癌の細胞を用いた以外は、実施例7および比較例1と同様にして、コンフルエントの細胞(卵巣癌細胞)に抗癌剤(s−PTX、s−CDDP、s−CBDCA、s−ADM、s−CPA、PTX、CDDP、CBDCA、ADM、CPA)を添加して、15時間後に色素の取込の割合をカウントした。結果を図4に示す。
【0053】
<比較例5>
細胞として、NUTOSの代わりに、胃癌の細胞を用いた以外は、実施例7および比較例1と同様にして、コンフルエントの細胞(胃癌細胞)に抗癌剤(s−PTX、s−CDDP、s−CBDCA、s−ADM、s−CPA、PTX、CDDP、CBDCA、ADM、CPA)を添加して、15時間後に色素の取込の割合をカウントした。結果を図5に示す。
【0054】
図1,2と、図3,4,5との比較から明らかなように、実施例2〜6で合成したセロトニン−抗癌物質結合薬剤(s−PTX、s−CDDP、s−CBDCA、s−ADM、s−CPA)は、舌から得た胞巣状横紋筋肉腫、乳腺から得た胞巣状横紋筋肉腫に対して、特異的に抗癌効果を示した。これは、セロトニン−抗癌物質結合薬剤が横紋筋肉腫に特異的に取り込まれるためと考えられる。一方、子宮内膜癌、卵巣癌、胃癌はセロトニン−抗癌物質結合薬剤をほとんど取り込まないため、実施例2〜6で合成したセロトニン−抗癌物質結合薬剤(s−PTX、s−CDDP、s−CBDCA、s−ADM、s−CPA)は、子宮内膜癌、卵巣癌、胃癌に対して抗癌効果を示さなかった。
【0055】
このように、標的細胞(横紋筋肉腫)に特異的に取り込まれる細胞取込物質(セロトニン)に、標的細胞(横紋筋肉腫)の機能に作用する作用物質(抗癌物質)を結合させることにより、標的細胞(横紋筋肉腫)の機能に特異的に作用することができる医療用薬剤が得られた。この医療用薬剤は、ドラッグデリバリーシステム(DDS)等への適用が可能である。
【0056】
また、標的細胞(横紋筋肉腫)に特異的に取り込まれる細胞取込物質としてセロトニンを選定し、選定した細胞取込物質(セロトニン)に標的細胞(横紋筋肉腫)の機能に作用する作用物質(抗癌物質)を結合させて細胞取込物質−作用物質結合薬剤を得ることにより、簡易な方法で標的細胞(横紋筋肉腫)の機能に特異的に作用する新規薬剤を探索することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的細胞に特異的に取り込まれる細胞取込物質に、前記標的細胞の機能に作用する作用物質を結合させたことを特徴とする医療用薬剤。
【請求項2】
請求項1に記載の医療用薬剤であって、
前記標的細胞が横紋筋肉腫由来の細胞であり、前記細胞取込物質がセロトニンであることを特徴とする医療用薬剤。
【請求項3】
請求項2に記載の医療用薬剤であって、
前記作用物質が横紋筋肉腫用の抗癌物質であることを特徴とする医療用薬剤。
【請求項4】
標的細胞に特異的に取り込まれる細胞取込物質を選定する細胞取込物質選定工程と、
前記選定した細胞取込物質に前記標的細胞の機能に作用する作用物質を結合させて細胞取込物質−作用物質結合薬剤を得る細胞取込物質−作用物質結合工程と、
を含むことを特徴とする新規薬剤探索方法。
【請求項5】
請求項4に記載の新規薬剤探索方法であって、
前記細胞取込物質選定工程は、
前記標的細胞と少なくとも1つの化学物質を含む培養液とを混合する混合工程と、
所定の時間経過後に前記培養液に含まれる少なくとも1つの化学物質のうち量が減少した化学物質を特定する減少化学物質特定工程と、
を含み、
前記量が減少した化学物質を標的細胞に特異的に取り込まれる細胞取込物質として選定することを特徴とする新規薬剤探索方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−40109(P2013−40109A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176303(P2011−176303)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(502397369)学校法人 日本歯科大学 (20)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】