説明

医療用途のためのハンドヘルドガス分析システム

本開示は、基板と、流体入口及び流体出口を有するとともに基板に取り付けられたガスクロマトグラフとを含む装置について説明する。基板には流体入口及び流体出口を有する検出器配列が取り付けられ、この検出器配列の流体入口がガスクロマトグラフの流体出口に流体結合される。ガスクロマトグラフ及び検出器配列には制御回路が結合されて、制御回路がガスクロマトグラフ及び検出器配列と通信できるようになり、検出器配列及び制御回路には読み出し回路が結合されて、読み出し回路が検出器配列及び制御回路と通信できるようになる。その他の実施形態も開示し、特許請求する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願との相互参照〕
本出願は、特許協力条約(PCT)第8条に基づいて、2008年6月17日に出願された米国特許出願第12/140,822号に対する優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、一般にガス分析システムに関し、特に、排他的な意味ではないが、ポイントオブケア医療用途のためのハンドヘルドガス分析システムに関する。
【背景技術】
【0003】
ガス分析は、ガス内の特定の化学物質の存在及び濃度を検出し、存在する化学物質の特定の組み合わせの有意性を判定するための重要な手段であり得る。ヘルスケアにおいては、例えば、ヒト呼気内に特定の揮発性有機化合物(VOC)が存在することが、肺炎、肺結核(TB)、喘息、肺癌、肝臓病、腎臓病などの特定の疾病に相関付けられる。この相関関係は、特に肺関連疾患の根拠となる。他の用途では、ガス分析を使用して、鉱山でのメタン、一酸化炭素又は二酸化炭素などの、ヒトの存在に適合しない危険物質の存在を判定することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在のガス分析システムは、ガスクロマトグラフィ(GC)及び質量分析法(MS)などの、大型で高価な実験器具に依拠するところが依然として大きい。これらの器具の大半(特に質量分析計)は、その動作特性によりこれらの器具のサイズの大幅な縮小が阻まれ、すなわち現在のガス分析システムは大型で高価な卓上装置である。現在のガス分析装置が高価で扱いにくいことに加え、サイズが大きいことにより、これらの器具を広い範囲で使用することが不可能となっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下の図を参照しながら本発明の非限定的かつ非包括的な実施形態について説明するが、特に指定しない限り様々な図全体を通じて同じ参照数字は同じ部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1A】ガス分析装置の実施形態の側面図である。
【図1B】図1に示すガス分析装置の実施形態の平面図である。
【図2】図1A〜図1Bに示すガス分析装置の実施形態で使用することができるMEMS前濃縮装置の実施形態の断面正面図である。
【図3A】図1A〜図1Bに示すガス分析装置の実施形態で使用することができるMEMSガスクロマトグラフの実施形態の平面図である。
【図3B】実質的に切断線B−Bに沿って切り取った、図3Aに示すMEMSガスクロマトグラフの実施形態の断面正面図である。
【図4A】図1A〜図1Bのガス分析装置の実施形態に使用することができる検出器配列の実施形態の平面図である。
【図4B】実質的に切断線B−Bに沿って切り取った、図4Aに示す検出器配列の実施形態の断面正面図である。
【図5】ガス分析装置の代替の実施形態及びこのガス分析装置の実施形態を使用するシステムの実施形態の概略図である。
【図6】ガス分析装置の別の代替実施形態及びこのガス分析装置の実施形態を使用するシステムの実施形態の概略図である。
【図7】ガス分析装置のさらなる代替の平面概略図である。
【図8】ガス分析装置のさらなる代替の平面概略図である。
【図9】ガス分析装置のさらなる代替の平面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書では、ポイントオブケア医療用途におけるガス分析のための装置、処理及びシステムについて説明する。以下の説明では、本発明の完全な理解を提供するために数多くの具体的な詳細を記載している。しかしながら、当業者であれば、これらの特定の詳細の1又はそれ以上を使用せずに、或いはその他の方法、構成要素及び材料などを使用して本発明を実現できることを認識するであろう。その他の場合、周知の構造、材料、又は動作については詳細に図示又は説明していないが、これらも本発明の範囲に含まれる。
【0008】
本明細書全体を通じて行う「1つの実施形態」又は「ある実施形態」への言及は、これらの実施形態に関して説明する特定の特徴、構造、又は特性が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。従って、本明細書において出現する「1つの実施形態では」及び/又は「ある実施形態」という表現は、必ずしも全てが同じ実施形態について言及しているわけではない。さらに、1又はそれ以上の実施形態の中で特定の特徴、構造、及び/又は特性をあらゆる適当な態様で組み合わせることができる。
【0009】
図1A及び図1Bはともに、(ハンドヘルドなどの)小型ガス分析装置100の実施形態を示している。装置100は、流体操作アセンブリ101を取り付けた基板102と、流体操作アセンブリ101内の個々の要素に結合されたコントローラ126と、検出器配列110及びコントローラ126に結合された読み出し/分析回路128とを含む。図示の実施形態は、基板102上の要素の1つの考えられる配置を示しているが、言うまでもなく他の実施形態では、要素を基板上に異なるように配置することができる。
【0010】
基板102は、装置100の要素にとって必要な物理的支持及び通信接続を提供するいずれの種類の基板であってもよい。1つの実施形態では、基板102を、その表面上に導電性トレースを含む単層種のプリント基板(PCB)とすることができるが、他の実施形態では、基板102を、導電性トレースを回路基板の内部に含む多層種のPCBとすることができる。他の実施形態、例えば装置100を単一のダイ上の単体システムとして構築した実施形態では、基板102を、シリコン又は他の何らかの半導体で作製されたチップ又はウェハとすることができる。さらに他の実施形態では、基板102を、装置100の構成要素間の光通信をサポートするための光導波路を内部に形成できるチップ又はウェハとすることもできる。
【0011】
流体操作アセンブリ101は、フィルタ/バルブアセンブリ104と、前濃縮装置106と、ガスクロマトグラフ108と、検出器配列110と、ポンプ112とを含む。要素104〜112は直列に流体結合され、すなわちフィルタ/バルブアセンブリ104は流体接続部116により前濃縮装置106に流体結合され、前濃縮装置106は流体接続部118によりガスクロマトグラフ108に流体結合され、ガスクロマトグラフ108は流体接続部120により検出器配列110に流体結合され、検出器配列110は流体接続部122によりポンプ112に流体結合される。以下でさらに説明するように、装置100の1つの実施形態では、要素104〜112を微少電気機械(MEMS)要素又はMEMSベースの要素とすることができ、すなわち個々の装置のいくつかの部分をMEMSにして他の部分をそうでないようにすることができる。装置100の他の実施形態では、要素104〜112の一部又は全てがMEMS又はMEMSベースである必要はないが、代わりにこれらを何らかの非MEMSチップスケール装置とすることができる。
【0012】
図に矢印で示すように、要素104〜112の間の流体接続部は、(1又はそれ以上のガスなどの)流体が、入口114を通じてフィルタ/バルブアセンブリ104に入り込み、要素104〜112を貫流し、出口124を通じてポンプ112から出ることを可能とする。流体操作アセンブリ101はまた、個々の要素104〜112を保護するシュラウド又はカバー112も含む。図示の実施形態では、シュラウド112内に形成された溝により要素間の流体接続部を提供するが、他の実施形態では、管などの他の手段により要素間の流体接続部を提供することができる。さらに他の実施形態では、シュラウド112を省くことができる。
【0013】
フィルタ/バルブアセンブリ104は、入口114と、フィルタ/バルブアセンブリ104から出る流体が前濃縮装置110に流入するように流体接続部116に結合された出口とを含む。フィルタ/バルブアセンブリ104は、入口114を通じて入り込む流体から微粒子を除去するためのフィルタを含む。要素104〜112のうちの1又はそれ以上をMEMS要素とした場合の装置100の実施形態では、前濃縮装置のMEMS要素内の部品が小型であるということは、粒子がMEMS装置に入り込んで装置を破損したり又は装置を動作不能にしたりしないように、入口114を通じて入り込む流体を濾過してこれらの粒子を除去できるということである。MEMS構成要素を含まない装置100の実施形態では、又は入口114に入り込む流体が、例えば装置100の外部で予め濾過されたことにより粒子を含んでいない場合には、フィルタ/バルブアセンブリ104のフィルタ部分を省くことができる。
【0014】
フィルタ/バルブアセンブリ104はバルブも含み、これにより十分な流体が装置を通過したら、入口114を通じて流体操作アセンブリ101内へ至るさらなる流れを阻止できるようになる。入口114を通るさらなる流れを阻止することにより、装置100のその後の動作中に前濃縮装置106から流出する流体の希釈が防がれる(以下の動作の説明を参照)。他の実施形態では、フィルタ/バルブアセンブリ104が、入口114を通じて入り込む流体から水蒸気を除去し、従って装置100の精度及び感度を向上させるための除湿器を含むこともできる。
【0015】
前濃縮装置106は、流体接続部116に結合された入口と、流体接続部118に結合された出口とを含む。前濃縮装置106は、フィルタ/バルブアセンブリ104から流体接続部116を通じて流体を受け取り、流体接続部118を通じてガスクロマトグラフ108へ流体を排出する。流体が前濃縮装置106を貫流すると、前濃縮装置が通過する流体から特定の化学物質を吸収し、従ってこれらの化学物質をその後の分離及び検出のために濃縮する。装置100の1つの実施形態では、前濃縮装置106をMEMS前濃縮装置とすることができるが、他の実施形態では、前濃縮装置106を非MEMSチップスケール装置とすることができる。MEMS前濃縮装置の実施形態のさらなる詳細については図2に関連して後述する。
【0016】
ガスクロマトグラフ108は、流体接続部118に結合された入口と、流体接続部120に結合された出口とを含む。ガスクロマトグラフ108は、前濃縮装置106から流体接続部118を通じて流体を受け取り、流体接続部120を通じて検出器配列110へ流体を排出する。前濃縮装置106から受け取った流体がガスクロマトグラフ108を貫流すると、前濃縮装置から受け取った流体内の個々の化学物質が、互いに時間領域で分離されてから検出器配列110に流入する。装置100の1つの実施形態では、ガスクロマトグラフ108をMEMSガスクロマトグラフとすることができるが、他の実施形態では、ガスクロマトグラフ108を非MEMSチップスケール装置とすることができる。MEMSガスクロマトグラフ108の実施形態のさらなる詳細については図3A〜図3Bに関連して後述する。
【0017】
検出器配列110は、流体接続部120に結合された入口と、流体接続部122に結合された出口とを含む。検出器配列110は、ガスクロマトグラフ108から流体接続部120を通じて流体を受け取り、流体接続部122を通じてポンプ112へ流体を排出する。流体が検出器配列110を貫流すると、ガスクロマトグラフ108により時間領域分離された化学物質が検出器配列に入り込み、検出器配列内のセンサによりこれらの化学物質の存在及び濃度が検知される。装置100の1つの実施形態では、検出器配列110をMEMS検出器配列とすることができるが、他の実施形態では、検出器配列110を非MEMSチップスケール装置とすることができる。検出器配列110の実施形態のさらなる詳細については図4に関連して後述する。
【0018】
ポンプ112は、流体接続部122に結合された入口と、排出部124に結合された出口とを含み、検出器配列110から流体接続部122を通じて流体をくみ上げ、排出部124を通じてこれを雰囲気に戻すようにする。ポンプ112は、装置100のサイズ及び形状因子要件を満たし、所望の流量及び流量制御を提供し、十分な信頼性(すなわち十分な平均故障間隔(MTBF))を有するいずれの種類のポンプであってもよい。1つの実施形態では、ポンプ112をMEMS又はMEMSベースのポンプとすることができるが、他の実施形態では別の種類のポンプとすることができる。使用できるポンプの例として、(ファンなどの)小型軸流ポンプ、ピストンポンプ、及び電気浸透ポンプが挙げられる。
【0019】
流体操作アセンブリ101内の個々の要素にはコントローラ126が通信可能に結合され、これによりコントローラが制御信号を送信し、及び/又は個々の要素からフィードバック信号を受信できるようになる。1つの実施形態では、コントローラ126を、この目的用に設計された特定用途向け集積回路(ASIC)とすることができ、例えば、処理回路、揮発性及び/又は不揮発性記憶回路、メモリ回路及び通信回路、並びに様々な回路を制御して流体操作アセンブリ101の要素に外部から通信するための関連論理回路を含むCMOSコントローラとすることができる。しかしながら他の実施形態では、代わりにコントローラ126を、ソフトウェアの形で制御機能を実現した汎用マイクロプロセッサとすることができる。図示の実施形態では、コントローラ126が、基板102の表面上の又はこの内部の導電性トレース130により流体操作アセンブリ101内の個々の要素に電気的に結合されているが、他の実施形態では、コントローラ126を光学手段などのその他の手段により要素に結合することもできる。
【0020】
検出器配列110の出力には読み出し/分析回路128が結合され、これによりこの回路が検出器配列110内の個々のセンサからデータ信号を受信し、これらのデータ信号を処理して分析できるようになる。1つの実施形態では、読み出し/分析回路128を、この目的用に設計された特定用途向け集積回路(ASIC)とすることができ、例えば、処理回路、揮発性及び/又は不揮発性記憶回路、メモリ回路及び通信回路、並びに様々な回路を制御して外部から通信するための関連論理回路を含むCMOSコントローラとすることができる。しかしながら他の実施形態では、代わりに読み出し/分析回路128を、ソフトウェアの形で制御機能を実現した汎用マイクロプロセッサとすることができる。いくつかの実施形態では、読み出し/分析回路128が、検出器配列110から受信したデータ信号の前処理と、読み出し/分析回路128により受信データから生成又は抽出されたデータの後処理の両方を行うための、増幅器、フィルタ、アナログデジタル変換器などの信号調整及び処理要素を含むこともできる。
【0021】
図示の実施形態では、読み出し/分析回路128が、基板102の表面上又はこの内部に位置する導電性トレース132により検出器配列110に電気的に結合されているが、他の実施形態では、コントローラ126を光学手段などのその他の手段により要素に結合することもできる。読み出し/分析回路128はコントローラ126にも結合され、コントローラ126との間で信号を送受信することにより、この2つの要素が連動して装置100の動作を最適化できるようにすることができる。図示の実施形態では、コントローラ126と読み出し/分析回路128を物理的に分離したユニットとして示しているが、他の実施形態では、コントローラと読み出し/分析回路を単一ユニットの形で組み合わせることができる。
【0022】
装置100の動作時には、最初にシステムの電源を入れ、いずれかの必要な論理(すなわちソフトウェア命令)をコントローラ126及び読み出し/分析回路128内にロードして初期化する。初期化後に、フィルタ/バルブユニット104内のバルブを開き、流体操作アセンブリ内の貫流を可能とするようにポンプ112を設定する。次に、流体を一定の流量で及び/又は一定の時間にわたって入口114を通じて流体操作アセンブリ101に注入するが、通常、これに必要な時間は、前濃縮装置106が十分な濃度の特定の化学物質を生成し、これらの存在及び/又は濃度を測定するのに必要な時間により決定される。流体は、入口114を通じてシステムに注入されると、フィルタ/バルブアセンブリ104により濾過され、流体操作アセンブリ101内の要素104〜112を、これらの要素間の流体接続部を通じて貫流する。流体は、要素104〜112を貫流した後、排出部124を通じて流体操作アセンブリから出る。
【0023】
入口114を通じて必要量の流体を注入した後、フィルタ/バルブアセンブリ104内のバルブを閉じて、さらなる流体の注入を防ぐ。バルブを閉じた後、前濃縮装置106内のヒーターが起動して前濃縮装置を加熱する。この加熱により、前濃縮装置によって吸収され濃縮された化学物質が放出される。前濃縮装置106から化学物質が放出されると、ポンプ112が起動して、放出された化学物質をガスクロマトグラフ108及び検出器配列110を通じて引き込み、排出部124を通じて化学物質を排出する。ポンプ112の起動により、流体操作アセンブリ101を通じた逆流も防がれる。
【0024】
前濃縮装置106から放出された化学物質がポンプによりガスクロマトグラフ108を通じて引き込まれると、クロマトグラフが、異なる化学物質を互いに時間領域で分離し、すなわちガスクロマトグラフから異なる化学物質が異なる時間に排出される。異なる化学物質が時間的に分離されてガスクロマトグラフ108から出ると、個々の化学物質はMEMS検出アレイ110に入り込み、ここで検出アレイ内のセンサが個々の化学物質の存在及び/又は濃度を検出する。ガスクロマトグラフ108内で行われる時間領域分離により、数多くの化学物質が同時に検出アレイに入り込むのが防がれ、従ってアレイ内部のセンサ内の交差汚染及び干渉の可能性が防がれるので、MEMS検出アレイの精度及び感度が大幅に向上する。
【0025】
MEMS検出アレイ110内の個々のセンサが、時間領域で分離された浸入する化学物質と相互作用すると、検出アレイがこの相互作用を感知して読み出し/分析回路128へ信号を出力し、その後この回路がこの信号を使用して化学物質の存在及び/又は濃度を判定する。読み出し/分析回路128が、全ての関心化学物質の存在及び/又は濃度を判定すると、この回路は、相関及びパターン照合などの様々な分析技術を使用して、存在する化学物質とこれらの濃度との特定の組み合わせから何らかの有意性を抽出することができる。
【0026】
図2は、装置100内で前濃縮装置106として使用できるMEMS前濃縮装置200の実施形態を示している。前濃縮装置200は、カバープレート204を有する基板202を含み、このカバープレートは、基板202に結合されるとともに基板の周辺部周りをシールしてキャビティ206を形成する。基板202の内部には、片側に入口208が、異なる側に出口210が、及び吸収剤を含む複数のポケット212が形成されている。1つの実施形態では基板202がシリコン基板であるが、言うまでもなく他の実施形態では、基板202を他の材料で作製することができる。基板202のカバープレート204が取り付けられた側と反対の側にはヒーター216が形成される。
【0027】
基板202をシリコンとした場合の実施形態では、標準的なフォトリソグラフィのパターニング及びエッチングを使用して入口208、出口210及びポケット212を形成することができる。図示の実施形態では7つのポケット212a〜212gを示しているが、必要なポケット数は、吸収及び濃縮される異なる化学物質の数、及び使用する吸収剤の性質によって異なる。個々の吸収剤が1つの化学物質しか吸収しない場合の実施形態では、ポケット212の数は吸収及び濃縮される化学物質の数に正確に対応することができるが、個々の吸収剤が1つ化学物質しか吸収しない場合の他の実施形態では、より多くの数のポケットを使用して吸収面積を増加させることができる。個々の吸収剤が1つの化学物質しか吸収しない場合のさらに他の実施形態では、より少ない数のポケットを使用することができる。
【0028】
個々のポケット212は、その内部に対応する吸収剤214を有しており、すなわちポケット212aは吸着剤214aを有し、ポケット212bは吸着剤214bを有し、その他も同様である。吸収剤214は、図示の実施形態では粒状吸着剤として示しているが、他の実施形態では、ポケット212の壁のコーティングであってもよく、或いは個々のポケット212を部分的に又は完全に満たす連続物質であってもよい。他の実施形態は、粒状物、壁コーティング又は連続充填吸収剤の組み合わせを含むことができる。個々の吸収剤は、1又はそれ以上の特定の化学物質に対する化学親和力を有することができ、すなわち使用する的確な吸収剤は、吸収及び濃縮される化学物質の数及び性質によって決まる。使用できる吸収剤の例として、carbopack B、carbopack Xなどを挙げることができる。
【0029】
装置100内のMEMS前濃縮装置200の動作中には、フィルタ/バルブアセンブリ104からの流体が入口206を通じて入り込み、ポケット212a内の吸収剤214aを通過してキャビティ206に入る。カバープレート204は、流体がキャビティ206の異なるポケット212b〜212g内に入り、吸収剤212b〜214gを通過して、吸収剤214a〜214gにより吸収された化学物質を差し引いた流体が出口210を通じて前濃縮装置から出るまで誘導する役に立つ。十分な流体が前濃縮装置を貫流したら、フィルタ/バルブアセンブリ104内のバルブを閉じて、さらなる流れが入口208を通過するのを防ぐ。次にヒーター216が起動する。ヒーター216は、吸収剤214a〜214fを加熱して、これらが吸収した化学物質を脱ガスなどの処理を通じて放出するようにする。ヒーター216が起動すると同時に、又はこの直後にポンプ112が起動し、放出された化学物質を出口210を通じてガスクロマトグラフ108に引き込む。
【0030】
図3A〜図3Bは、装置100内のガスクロマトグラフ108として使用できるMEMSガスクロマトグラフ300の実施形態を示している。MEMSガスクロマトグラフ300は、片側に入口306を、異なる側に出口308を、及び壁に固定相コーティングを施した分離カラム310を有する基板302を含む。基板302にはカバープレート304が結合されてカラム310をシールする。1つの実施形態では基板302がシリコン基板であるが、言うまでもなく他の実施形態では、基板302を他の材料で作製することができる。基板302をシリコンにした場合の実施形態では、標準的なフォトリソグラフィのパターニング及び深堀り反応性イオンエッチング(DRIE)などのエッチングを使用して入口306、出口308及びカラム310を形成することができる。基板302のカバープレート204が取り付けられた側と反対の側にはヒーター314が形成される。
【0031】
カラム310は、入口306から出口308までの連続流体経路を提供し、カラム310の壁の一部又は全てが、ガスクロマトグラフにより分離された化学物質と相互作用することができる固定相コーティングで被覆される。化学物質が流体からいかに完全に及びいかに速く分離されるかは、固定相コーティング、カラム310の全体の経路長、及び温度によって決まる。ある固定相コーティングでは、カラムが長ければ長いほど化学スペクトル分離が良好になるが、カラムが長いと分離時間も延びる。従ってある用途では、必要な経路長は通常、コーティングとカラム長と温度との相対関係により決定される。図示の実施形態では、カラム310を螺旋カラムとして示しており、カラムの経路長は螺旋内のコイル数に依存する。しかしながら、他の実施形態では、カラム310を異なる形状にすることができる。
【0032】
装置100内のMEMSガスクロマトグラフ300の動作中には、前濃縮装置106からの流体が入口306を通じて入り込み、カラム310を通過する。流体がカラム310を通過すると、流体内の異なる化学物質が固定相コーティング312と異なる速度で相互作用し、すなわち化学物質がカラム内を移動した後には、固定相と強く相互作用する化学物質が最初に分離され、固定相と弱く相互作用する化学物質が最後に分離される状態で化学物質が分離される。換言すれば、固定相と強く相互作用する化学物質は固定相内により長く保持されるのに対し、固定相と弱く相互作用する化学物質は固定相内にそれほど長く保持されない。ガスクロマトグラフ300のいくつかの実施形態では、この時間領域分離が分子量に基づいて発生し得る(例えば、分子量が最も少ない化学物質が最初に分離され、その後より分子量の多いものが続く)が、他の実施形態では、この時間領域分離が他の化学特性又は他の分離メカニズムに基づいて発生し得る。化学物質が時間領域分離されると、ポンプ112が、出口308を通じてこれらをMEMSガスクロマトグラフ300から引き込む。一般的には、化学物質は、これらの分離とは逆の順序で出口308を通じて流出し、すなわち保持時間の短い化学物質が最初に流出するのに対し、保持時間の長い化学物質は後から流出する。化学物質は、出口308から出た後、検出器配列110に入る。
【0033】
図4A〜図4Bは、装置100内で検出器配列110として使用できる検出器配列400の実施形態を示している。検出器配列400は、上部にセンサS1〜S9の配列を形成した基板402を含む。図示の実施形態では、センサS1〜S9が、規則的な形状の3×3のセンサ配列を形成しているが、他の実施形態では、センサ配列がより多くの又はより少ない数のセンサを有することができ、またセンサをいずれの規則的な又は不規則的なパターンで配置することもできる。
【0034】
基板402の周辺部にはカバー404が結合されてキャビティ410を形成し、この中にセンサS1〜S9が配置される。カバー404はまた、流体がガスクロマトグラフ108から入ってくることができる入口408、及び流体がポンプ112へ出て行くことができる出口408も含む。基板402のカバープレート404が取り付けられた側と反対の側にはヒーター412が形成されて、動作中に検出器配列400の、従って検出器配列内のセンサの温度を制御する。図示してはいないが、言うまでもなく検出器配列400は、センサS1〜S9により生成された信号を出力できる出力部を含む。
【0035】
個々のセンサS1〜S9は、上部にコーティングを施した表面を含む。使用する個々のコーティングは、検出した1又はそれ以上の特定の化学物質に対する親和力を有し、これによりコーティングがその対応する化学物質を吸収し又はこれと化学的に相互作用するようになる。さらに、コーティングと化学物質との間の相互作用により、共振周波数、静電容量又は電気抵抗などの、センサの物理的特性が変化し、この変化したセンサの物理的特性をトランスデューサ又はその他の測定装置を使用して測定することができる。センサS1〜S9のために選択される特定のコーティングは、センサ配列110を使用して検出する化学物質によって異なる。コーティングの化学親和力は温度によっても大きく変化するため、コーティングを選択する際には動作温度範囲を考慮すべきである。センサ配列110を使用して、ヒト呼気内の、ベンゼン、トルエン、n‐オクタン、エチルベンゼン、m、p‐キシレン、α‐ピネン、d‐リモネン、ノナナール、及びベンツアルデヒド、2‐メチルヘキサン、4‐メチルオクタンなどの揮発性有機化合物を検出する実施形態では、様々な用途で使用できるコーティングとして、2,2‐ビストリフルオロメチル‐4,5‐ジフルオロ‐1,3‐ジオキソール(PDD)とトリフルオロエチレン(TFE)とのアモルファスコポリマー、PtCl2(オレフィン)、C8‐MPNなどが挙げられる。
【0036】
図示の実施形態は9つのセンサを有しているが、必要なセンサの数は、検出する異なる化学物質の数、及び使用するセンサ上のコーティングの性質によって異なる。個々のコーティングが1つの化学物質しか吸収せず、又は1つの化学物質としか化学的に相互作用しない場合の実施形態では、センサの数は検出する化学物質の数に正確に対応することができるが、他の実施形態では、冗長性を目的として2以上のセンサに所定のコーティングを施すことが望ましい場合がある。しかしながら、ほとんどの場合、化学物質とコーティングとの間に1対1の相関関係は存在せず、換言すれば、個々のコーティングは2以上の異なる化学物質と反応し、異なる化学物質と所定のコーティングとの間の反応は、性質及び強度が異なるものになる。従って、異なるガスの場合には検出器配列の応答が異なるパターンとなり得るので、異なるコーティングを施したセンサを有する検出器配列が有用である。
【0037】
センサ配列400の1つの実施形態では、センサS1〜S9が、基板402の表面上に配置されたMEMSセンサであり、すなわち表面マイクロマシンセンサである。しかしながら、MEMSセンサを使用する他の実施形態では、センサS1〜S9をバルクマイクロマシンセンサとすることができ、すなわちMEMSセンサの少なくとも一部が基板402の表面上ではなくその内部に形成される。MEMSセンサを使用するセンサ配列110のさらに他の実施形態は、表面マイクロマシンセンサとバルクマイクロマシンセンサとの組み合わせを含むことができる。用途及び必要な感度に応じて、様々な種類のMEMSセンサを使用することができる。使用できるMEMSセンサの例としては、ケミレジスタ、バルク音響波(BAW)センサなどを挙げることができる。検出器配列400の他の実施形態では、センサS1〜S9の1又はそれ以上を非MEMSセンサとすることができる。検出器配列400に使用できる非MEMSセンサの例としては、水晶又はガリウムヒ素(GaAs)基板を含むSAW(表面音響波)センサが挙げられる。
【0038】
装置100内のMEMS検出器配列400の動作中には、ガスクロマトグラフ108からの流体が入口406を通じて入り込み、キャビティ410へ移行する。キャビティ410に入る流体は、時間領域分離された化学物質を保持する。個々の化学物質は、キャビティ410に入ると、これらの化学物質に対する親和力のあるコーティングを施した1又はそれ以上のセンサと相互作用する。化学物質のセンサとの相互作用が検知されて測定され、特定の化学物質の存在及び濃度を抽出することができる。キャビティ410にさらなる流体が流入すると、第1の化学物質が出口408を通じてキャビティ410から押し出され、次の時間領域分離された化学物質がキャビティ410に入り、センサ配列と相互作用して測定される。この処理は、ガスクロマトグラフ108からの全ての時間領域分離された化学物質が検出器配列110を貫流し終わるまで継続する。これらの化学物質に対するコーティングの親和力が強くない場合の実施形態では、検出器配列110を再利用することができ、すなわち全ての時間領域分離された化学物質が検知された後に、ヒーター412を起動してセンサを加熱し、コーティングが相互作用したそれぞれの化学物質を放出するようにして、相互作用を可逆的にすることができる。これらの化学物質に対する個々のコーティングの親和力が強い可能性のある実施形態では、センサ配列を加熱することにより、部分的に吸収されたガスをコーティング材料から放出するのに役立てることができる。
【0039】
図5は、MEMSベースのガス分析装置502の代替の実施形態を使用するシステム500の実施形態を示している。装置502は、あらゆる点で装置100に類似している。装置502と装置100の主な違いは、装置502内に基板102に取り付けられた無線トランシーバ回路504及びアンテナ506が存在する点である。無線トランシーバ回路504は、データの送信(Tx)及びデータの受信(Rx)の両方を行うことができ、読み出し/分析回路128及びアンテナ506に結合される。
【0040】
システム500の1つの実施形態では、トランシーバ504を使用して、読み出し/分析回路128からの生データをルーター508及びコンピュータ510の一方又は両方へ無線送信することができる。ルーター508へ送信した場合、分析のためにデータを別の宛先へ再送信することができる。例えば、装置502を健康関連の化学分析に使用する用途では、ルーター508に送られたデータを、分析及び判読のために、診療所、病院、政府保健所、又はその他の施設のうちの1又はそれ以上へ再送信することができる。分析の終了後、又はデータに問題がある場合、診療所、病院又は保健所は、結果を示すための、データを修正又は改善しようと試みるための、又は検査を再度行わなければならないことを示すための命令を、ルーター508、アンテナ506及びトランシーバ504を通じて装置502へ送信することができる。
【0041】
同じヘルスケアの例を続けると、システム500と同じ又は別の実施形態では、無線トランシーバ504を使用してコンピュータ510へ生データを送信することができる。コンピュータ510は、ルーターが行ったように生データを医師、病院などへ転送するか、或いはコンピュータにインストールされたソフトウェアでデータを分析して1又はそれ以上の考えられる医学的診断などのデータから情報を抽出し、この抽出した情報を装置502のユーザに提供するかのいずれかを行うことができる。コンピュータ510が分析及び医療診断を行う場合、コンピュータ510は、診断を単独で、又は分析データ及び生データとともに医師、病院などへ転送することもできる。ルーターと同様に、診療所、病院又は保健所は、データを修正又は改善しようと試みるための、検査を再度行わなければならないことを示すための、及びその他のための命令を、コンピュータ510、アンテナ506及びトランシーバ504を通じて装置502へ送信することができる。
【0042】
再び同じヘルスケアの例を続けると、システム500のさらに別の実施形態では、読み出し/分析回路128により、生データを処理し、このデータから考えられる診断などの情報を抽出することができる。その後、読み出し/分析回路128により判定された考えられる診断をコンピュータ510へ送信してこれをユーザが再検討及び/又は転送することができ、或いは単独で又は根拠となる生データとともに診療所などへ即座に転送することができる。
【0043】
図6は、MEMSベースのガス分析装置602の代替の実施形態を使用するシステム600の実施形態を示している。装置602は、あらゆる点で装置502に類似している。装置502と装置602の主な違いは、無線トランシーバ回路504及びアンテナ506を、読み出し/分析回路128に結合されたハードウェアデータインターフェイス604に置き換えている点である。1つの実施形態では、ハードウェアデータインターフェイス604をネットワークインターフェイスカードとすることができるが、他の実施形態では、ハードウェアデータインターフェイスをイーサネットカード、単純なケーブルプラグなどとすることができる。装置602には、ケーブルなどの従来の手段を通じて外部装置を接続することができる。装置602及びシステム600は、異なる通信インターフェイスを有してはいるものの、装置502及びシステム500と全く同じ機能を有する。システム500と同様に、システム600では、MEMSベースのガス分析装置602が、コンピュータ608及び携帯電話又は携帯情報端末(PDA)などの無線装置606の一方又は両方との間でデータを送受信することができる。データを無線装置606へ送信した場合、このデータを診療所、病院、又は政府保健所へ転送することができ、さらにこのデータの受信者が、無線装置を介してデータ又は命令をガス分析装置602へ返送することができる。システム500の場合と同じように、データをコンピュータ608へ送信した場合には、このデータを転送するか、或いはコンピュータにより分析して結果をユーザに表示し及び/又は転送することができ、またコンピュータ608を介して装置602へ命令を送信することができる。同様に、読み出し/分析回路128により、ガス分析装置602からのデータを分析することができる。回路128による分析後、(1又はそれ以上の診断などの)抽出した情報及び/又は生データを、ハードウェアデータインターフェイス604を介して転送することができる。
【0044】
図7は、MEMSベースのガス分析装置700の代替の実施形態を示している。装置700は、あらゆる点で装置100に類似している。システム700と装置100の主な違いは、装置700が、読み出し/分析回路128が行った分析の結果をユーザに伝えるためのオンボードディスプレイ702を含む点である。
【0045】
図示の実施形態では、ユーザにテキスト情報を伝えることができる、例えばLCD画面などのオンボードテキストディスプレイ702を使用する。例えば、ヘルスケアの例では、ディスプレイ702を使用して、患者の状態を示すアナログ数字の検査結果を表示することができる。ディスプレイ702は、肯定的な診断又は否定的な診断を表示することができ、所定の診断の確率を表示することができ、或いは検出器配列からの生データを表示することができる。別のヘルスケアの実施形態では、どのライトが点灯するかによって肯定的な、否定的な、又はこれらの中間の結果を示す3つのライトを有するようなより単純な表示を使用することができる。
【0046】
図8は、MEMSベースのガス分析装置800の代替の実施形態を示している。装置800は、あらゆる点で装置100に類似している。装置800と装置100の主な違いは、装置800では流体操作アセンブリ101の1又はそれ以上の要素を交換できる点である。図示の実施形態では、ソケットを使用して要素を基板102上に取り付けることによりこれらが交換可能となり、すなわちフィルタ/バルブアセンブリ104はソケット804により基板102に取り付けられ、前濃縮装置106はソケット804により基板102に取り付けられ、ガスクロマトグラフ108はソケット808により基板102に取り付けられ、検出器配列110はソケット810により基板102に取り付けられ、ポンプ112はソケット812により基板102に取り付けられる。1つの実施形態では、ソケット804〜812は、ユーザが容易に交換できるゼロ挿入力(ZIF)ソケットなどのソケットであるが、他の実施形態ではその他の種類のソケットを使用することができる。図示の実施形態では、流体操作アセンブリ101の全ての構成要素を交換可能として示しているが、他の実施形態では、ポンプ112及び検出器配列110などの一部の構成要素のみを交換可能とすることができる。
【0047】
図9は、MEMSベースのガス分析装置900の代替の実施形態を示している。ガス分析装置900は、あらゆる点で装置100に類似している。装置900と装置100の主な違いは、装置900が、外部前濃縮装置902(すなわち基板102上に取り付けられていない前濃縮装置)のための準備を含む点である。図示の実施形態では、前濃縮装置106とガスクロマトグラフ108との間にバルブ904を設置し、このバルブに前濃縮装置902を取り付けるための準備を行っている。バルブ904は、ユーザがオンボードの前濃縮装置106の代わりに、或いはこれに加えて外部前濃縮装置902を使用できるようにする。1つの実施形態では、外部前濃縮装置902を呼気収集バッグとすることができるが、他の実施形態では何らかの異なるものとすることができる。装置900の代替の実施形態(図示せず)では、前濃縮装置106を恒久的に取り外して外部前濃縮装置902と置き換えることができる。外部前濃縮装置902が前濃縮装置106に取って代わる場合の別の実施形態では、前濃縮装置106とガスクロマトグラフ108との間にバルブを挿入する代わりに、フィルタ/バルブアセンブリ104の上流に外部前濃縮装置902を結合することができる。
【0048】
装置の用途
ヒト呼気分析に関する前臨床試験により、ヒト呼気の特定の揮発性有機化合物(VOCs)が、肺炎、肺結核(TB)、喘息、肺癌、肝臓病、腎臓病などの特定の疾病に相関付けられることが判明した。この相関関係は、特に肺に関連した疾患の根拠となる。現在の分析システムは、ガスクロマトグラフィ(GC)及び質量分析法(MS)などの、大型で高価な実験器具に依然として依拠している。特に質量分析器は小型化が不可能であり、このことがこれらの診断用器具の広い範囲での使用を不可能としている。
【0049】
上述したMEMSベースのガス分析センサの実施形態は、この問題に対する解決法を提供するものであり、特に、喘息、肺癌、肺関連疾病などの様々な疾病、並びに腎臓及び肝臓疾患などの非肺疾患を診断してモニタするためにこれらの実施形態を有利に使用することができる。
【0050】
喘息
喘息は慢性疾患であり、従って患者の状態を定期的にモニタすることは、医師にとって患者の治癒経過を追跡することにおいて有用である。従って、ハンドヘルド診断法という新たな概念により、自宅又はあらゆる場所で呼気分析を行えるようになる。現在の診断法では、基本測定値はピークフロー値であり、これに従う診断基準が英国胸部疾患学会により使用されているが、ピークフロー値は物理的定量測定値である。呼気分析は、患者の呼気からのVOCを測定することにより気管支収縮の特定の根本的原因を提供する。MEMSベースのガス分析システムの実施形態を使用して、投薬の効果をモニタすることができる。さらに、この自宅ベースの装置を使用するこの能動的なモニタリングを通じて、投薬治療を個々の患者に合わせることができる。
【0051】
結核
現在の世界人口の3分の1はTBに感染したことがある。しかも症例の75%は肺TBである。発展途上国における感染率は、先進国よりもかなり高い。従って、発展途上国のために安価な診断装置を早急に開発する必要がある。MEMSベースのガス分析システムの実施形態は、費用効率の高い解決法を提供する。結核は、マイコバクテリウムによって引き起こされる。成長の遅いマイコバクテリウムを培養するには約6週間かかるので、現在の診断には時間がかかり困難である。従って、より正確な評価を得るために、胸部X線撮影、結核放射線、ツベルクリン反応、微生物塗沫培養を含む完全な医学的評価が使用される。従って、迅速な診断が非常に重要であり、本発明者らの呼気分析方法はこのようなニーズを達成することができる。
【0052】
肺癌
肺癌の5年生存率は、早期発見及び早期治療により劇的に向上する。胸部X線撮影及びCT(コンピュータ断層撮影)スキャンなどの現在の診断法では、初期段階の肺癌を発見することが困難である。MEMSベースのガス分析システムの実施形態を使用する呼気分析は、初期段階の肺癌を診断することができる。
【0053】
症状が類似した肺関連疾病の分類
呼気VOCに関する呼気分析は、症状が類似した患者の肺関連疾病を識別するために実行可能な方法である。例えば、MEMSベースのガス分析システムの実施形態は、患者が風邪、肺癌、又は肺炎のうちのいずれの疾病にかかっているかを分類するための試験データを医師に提供することができる。呼気分析は、その簡易性に起因して、より面倒な診断測定を試みる前の最初のスクリーニング試験となる。
【0054】
要約書に記載した内容を含む、例示した本発明の実施形態についての上記説明は、包括的であること、又は開示した詳細な形態に本発明を限定することを意図するものではない。本明細書では、本発明の特定の実施形態及び具体例について例示目的で説明したが、当業者であれば認識するように、本発明の範囲内で様々な同等の修正を行うことができる。上記の詳細な説明に照らして、本発明にこれらの修正を行うことができる。
【0055】
以下の特許請求の範囲で使用する用語は、本発明を本明細書及び特許請求の範囲で開示する特定の実施形態に限定するものであると解釈すべきではない。むしろ、本発明の範囲は以下の特許請求の範囲により完全に定められるべきであり、特許請求の範囲の解釈の確立された原則に基づいて解釈すべきである。
【符号の説明】
【0056】
200 前濃縮装置
202 基板
204 カバープレート
206 キャビティ
208 入口
210 出口
212a〜g ポケット
214a、f 吸着剤
216 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
流体入口及び流体出口を有し、前記基板に取り付けられたガスクロマトグラフと、
流体入口及び流体出口を有し、前記基板に取り付けられ、前記流体入口が前記ガスクロマトグラフの前記流体出口に流体結合された検出器配列と、
前記ガスクロマトグラフ及び前記検出器配列に結合され、前記ガスクロマトグラフ及び前記検出器配列と通信できる制御回路と、
前記検出器配列及び前記制御回路に結合され、前記ガスクロマトグラフ及び前記検出器配列と通信できる読み出し回路と、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項2】
流体入口及び流体出口を有する前濃縮装置をさらに備え、該前濃縮装置が前記基板に取り付けられるとともに前記制御回路に結合され、前記前濃縮装置の前記流体出口が前記ガスクロマトグラフの前記流体入口に結合される、
ことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
流体入口及び流体出口を有するフィルタ/バルブユニットをさらに備え、該フィルタ/バルブユニットが前記基板に取り付けられるとともに前記制御回路に結合され、前記フィルタ/バルブユニットの前記流体出口が前記前濃縮装置の前記流体入口に結合される、
ことを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項4】
流体入口及び流体出口を有するポンプをさらに備え、該ポンプが前記基板に取り付けられるとともに前記制御回路に結合され、前記ポンプの前記流体入口が前記検出器配列の前記流体出口に結合される、
ことを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記フィルタ/バルブユニットと、前記前濃縮装置と、前記ガスクロマトグラフと、前記検出器配列と、前記ポンプとを覆うシュラウドをさらに備える、
ことを特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記シュラウドが、前記フィルタ/バルブユニットと、前記前濃縮装置と、前記ガスクロマトグラフと、前記検出器配列と、前記ポンプとの間の流体接続を提供する、
ことを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記読み出し回路が、前記検出器配列から受信した出力信号を分析するための分析回路及び関連する論理回路を上部に含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記分析回路の出力部に結合された、前記分析の結果をユーザに表示するためのインジケータをさらに備える、
ことを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記基板がプリント基板である、
ことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項10】
流体入口及び流体出口を有し、前記基板に取り付けられたガスクロマトグラフと、
流体入口及び流体出口を有し、前記基板に取り付けられ、前記流体入口が前記ガスクロマトグラフの前記流体出口に流体結合された検出器配列と、
前記ガスクロマトグラフ及び前記検出器配列に結合され、前記ガスクロマトグラフ及び前記検出器配列と通信できる制御回路と、
前記検出器配列及び前記制御回路に結合され、前記ガスクロマトグラフ及び前記検出器配列と通信できる読み出し回路と、
を備えたガス分析装置と、
前記読み出し回路に結合された通信インターフェイスと、
を備えることを特徴とするシステム。
【請求項11】
流体入口及び流体出口を有する前濃縮装置をさらに備え、前記前濃縮装置が前記基板に取り付けられるとともに前記制御回路に結合され、前記前濃縮装置の前記流体出口が前記ガスクロマトグラフの前記流体入口に結合される、
ことを特徴とする請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
流体入口及び流体出口を有するフィルタ/バルブユニットをさらに備え、前記フィルタ/バルブユニットが前記基板に取り付けられるとともに前記制御回路に結合され、前記フィルタ/バルブユニットの前記流体出口が前記前濃縮装置の前記流体入口に結合される、
ことを特徴とする請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
流体入口及び流体出口を有するポンプをさらに備え、前記ポンプが前記基板に取り付けられるとともに前記制御回路に結合され、前記ポンプの前記流体入口が前記検出器配列の前記流体出口に結合される、
ことを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記通信インターフェイスが、前記基板に取り付けられた無線トランシーバと、前記基板に取り付けられて前記無線トランシーバに結合されたアンテナとを備える、
ことを特徴とする請求項10に記載のシステム。
【請求項15】
ルーター及びコンピュータの一方又は両方をさらに備え、前記ガス分析装置が、前記無線トランシーバ及び前記アンテナを通じて前記ルーター及びコンピュータの一方又は両方と通信することができる、
ことを特徴とする請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記通信インターフェイスが、ハードウェアデータインターフェイスを備える、
ことを特徴とする請求項10に記載のシステム。
【請求項17】
無線装置及びコンピュータの一方又は両方をさらに備え、前記ガス分析システムが、ハードウェアデータを通じて前記無線装置及びコンピュータの一方又は両方と通信することができる、
ことを特徴とする請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記読み出し回路が、前記検出器配列から受信した出力信号を分析するための分析回路及び関連する論理回路を含む、
ことを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項19】
前記ガス分析装置に通信可能に結合された無線装置、ルーター及びコンピュータのうちの1又はそれ以上をさらに備える、
ことを特徴とする請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
ガスクロマトグラフを使用して複数の化学物質を流体から時間領域分離するステップと、
検出器配列内の1又はそれ以上のセンサを使用して、前記複数の時間領域分離された化学物質の各々を検出するステップと、
前記検出器配列内の個々のセンサからの信号を処理して個々の化学物質の存在及び濃度を判定するステップと、
を含むことを特徴とする処理。
【請求項21】
時間領域分離の前に、前記複数の化学物質を前濃縮装置内で前濃縮するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項20に記載の処理。
【請求項22】
前記化学物質を前濃縮するステップの前に、前記流体を濾過するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項21に記載の処理。
【請求項23】
前記センサ配列内の個々のセンサからの前記信号を処理するステップが、前記信号を分析して個々の化学物質の存在及び濃度を判定するステップを含む、
ことを特徴とする請求項20に記載の処理。
【請求項24】
前記信号を処理するステップが、個々の化学物質の存在及び濃度を分析して有意性を判定するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項23に記載の処理。
【請求項25】
個々の化学物質の存在及び濃度を通信するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項23に記載の処理。
【請求項26】
前記有意性を通信するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項24に記載の処理。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−524536(P2011−524536A)
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−514674(P2011−514674)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【国際出願番号】PCT/US2009/045872
【国際公開番号】WO2009/155125
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.イーサネット
【出願人】(510333771)トライコーンテック コーポレイション (1)