説明

医薬品の製造のためのカスパーゼの使用

本発明は、カスパーゼ、および細胞機能を調節するためのカスパーゼの細胞外使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カスパーゼおよび細胞機能を調節するためのカスパーゼの細胞外での使用に関する。
【背景技術】
【0002】
敗血症または敗血症性ショックは、限局性または全身性の深刻な感染を意味しており、炎症の全身性の兆候を伴う。細菌による敗血症はしばしば敗血症(speticemia)と呼ばれる。より一般的な用語でいうところの、全身性炎症応答症候群では、いくつかの深刻な症状(例えば感染、膵炎、火傷、外傷)が、急性の炎症反応、すなわち多数の炎症の内因性伝達物質の血流への遊離に関連する全身性症状の誘因となり得るとされている。
【0003】
敗血症が、免疫系の細胞、特にリンパ球の調節されていないアポトーシスと関連していることが報告されてきた(Wasche ら、2005によって概説されている)。胸腺、脾臓および腸管関連リンパ組織(GALT)における、重症の患者/動物の調節されていないリンパ球アポトーシスが免疫抑制を導き、患者/動物をその後の感染に対して無防備にするかまたは現在の敗血症と闘うことを不可能にし、結果として多臓器不全(MOF)を生じるかもしれない。加えて、マクロファージが死にかかっているリンパ球/細胞を適切に除去できないことにより、細胞が二次的な壊死の状態に進行し、限局化したバイスタンダー損傷を組織中に産生するかもしれない。
【0004】
敗血症の1つの実験的モデルは、増加分量の、グラム陰性菌の細胞壁の一成分であるリポ多糖類(LPS)を注射されたマウスである。該モデルは、85%以上の死亡率をもたらす。LPSは、実質的に高レベルのTNF、IL−1、IL−6ならびにKCおよびMIP−2ケモカインを誘導する。グラム陰性菌由来のLPSの投与が、Tリンパ球の活性化および大量のアポトーシスを導くことが報告されている(Castro ら、1998)。
【0005】
敗血症の他のモデルは、盲腸結紮および穿刺(CLP)である。CLP−誘導性腹膜炎に付されたマウスは、初期の亢進性代謝応答ならびに敗血症が進行するにつれて、ハイポダイナミック(hypodynamic)段階および死を示す。
【0006】
Bommhardt ら(2004)は、敗血症における主要な異常が、適応的免疫系の機能的障害であり、リンパ球のアポトーシスを予防するための方法が、敗血症における潜在的に重要な新規の治療を表していることを示唆していることを示している敗血症の動物モデルにおける結果を報告している。報告書の結果は、細胞増殖および細胞生存の有力な制御因子であり、かつ様々な設定で細胞死を予防する構成的に活性なセリン/スレオニンキナーゼ(Akt)を過剰発現しているマウスが、リンパ球においてより少ないアポトーシスを示し、敗血症の誘導後の生存を改善したことを示している。
【0007】
マウスモデルにおける敗血症に関連した臓器損傷および死が、少なくとも部分的には、Fas−FasLシグナル伝達経路(本明細書中では「Fas経路」と言う)の活性化を介したアポトーシスの誘導によって引き起こされることが報告された。最近、抗アポトーシス治療が、敗血症性の予後を改善することが報告された(Wasche-Soldateら、2005)。例えば、FAS経路における下流カスパーゼである、カスパーゼ−8に対して標的化された低分子干渉RNA(siRNA)のマウスへの注射(細胞内のカスパーゼ−8を減少させるため)が、敗血症における死亡症例の発現を軽減することが示された。siRNAによるカスパーゼ−8のサイレンシングが、脾臓および肝臓におけるアポトーシスを抑制し、そして敗血症性マウスの生存を顕著に増加させた。敗血症の本モデルにおいて動物の生存を可能にする治療であるsiRNA治療により標的化される細胞の型は同定されていない。
【0008】
カスパーゼは、アポトーシスにおいて中心的な役割を有する、細胞内システインプロテアーゼとして知られている。カスパーゼは、不活性なプロ−酵素前駆体として合成され、そしてタンパク質分解処理によって活性化される。カスパーゼのタンパク質分解活性は、細胞死実行のために必要である。
【0009】
アポトーシス細胞からの活性化カスパーゼの遊離が、典型的なアポトーシス性死に関連していることを特徴とする病理学的状態において起こることが報告された。この報告は、この遊離の機能的重要性に関してなんの手がかりも提供していない。この機能的重要性に関して報告の中で挙げられた推測は、細胞外カスパーゼが、それら自身なんらかの不利な効果を有するという可能性についてのみであった。例えば、顕著なカスパーゼ開裂活性が、CD95−誘引性劇症肝炎のマウスの血漿中、および外傷性脳損傷(TBI)患者からの脳脊髄液(CSF)中で見い出された(Harterら、2001およびHentzeら、2001)。Harter (2001)は、重度の頭部損傷の患者からのCSFにおける活性カスパーゼ−3の存在を示している。この報告は、活性カスパーゼ−3が、損傷をうけた脳中のアポトーシス性細胞から遊離されることを示している。測定された活性は、TBIの患者から集められたCSF中のカスパーゼ−3のタンパク質分解活性(DEVDase活性)である。
【0010】
Hanze (2001)は、マウスへの静脈内注射後のin vitroおよびin vivoでの、細胞外環境におけるカスパーゼ−3の安定性を評価した。測定された活性は、DEVD人工基質を用いたカスパーゼ−3のタンパク質分解活性である。血漿中のDEVDase活性は急速に減少したが(T1/2=15分)、しかし60分以上後にもまだ検出可能であることが見いだされた。カスパーゼ−3様活性が、アポトーシス性刺激に暴露された細胞株から遊離されたこと、および典型的なアポトーシス性死が主に関与していることを特徴とする病理学的状態においてカスパーゼの遊離がおこることが示された。例えば、DEVDase活性は、アポトーシス性肝臓損傷を有するマウスの肝炎モデルの血漿中で存在する。また、上昇したDEVDase活性が、外傷性脳損傷の患者の体液中に見い出された。カスパーゼ酵素活性が、大量のアポトーシス性臓器損傷のための診断マーカーとして働くかもしれないことが、Hantzeらによって提案されている。Hantzeら(2001)は、損傷の指標であることとは別に、細胞外カスパーゼが実際には、病理学的状態における明確な標的をもつかもしれないことを推測しており、そしてさらにそのような相互作用の解明には、劇症のアポトーシス性臓器損傷を理解するための課題が依然として残されていると述べている。
【発明の開示】
【0011】
一局面において、本発明は、細胞死を引き起こす疾患、障害または症状の治療および/または予防のための医薬品の製造における、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩の使用に関する。
【0012】
本発明の一実施態様において、細胞および/または死細胞の除去に関与する細胞が、細胞外カスパーゼによる調節または他の細胞によって遊離され得るかもしくは細胞外カスパーゼに応答して活性化され得る分子による調節に反応性である。
【0013】
本発明のさらなる実施態様において、細胞外カスパーゼによる調節は、細胞内での一酸化窒素(NO)レベルおよび/または産生および/または分泌の増加によって表される。
【0014】
本発明の他のさらなる実施態様において、細胞は例えばTリンパ球のようなリンパ球および/またはマクロファージである。
【0015】
本発明の他のさらなる実施態様において、カスパーゼは、カスパーゼ−1、カスパーゼ−2、カスパーゼ−3、カスパーゼ−4、カスパーゼ−5、カスパーゼ−6、カスパーゼ−7、カスパーゼ−8、カスパーゼ−9、カスパーゼ−10、カスパーゼ−11、カスパーゼ−12、カスパーゼ−13およびカスパーゼ−14から選択される。
【0016】
本発明のある実施態様において、カスパーゼはカスパーゼ−8である。
【0017】
本発明の他のさらなる実施態様において、疾患、障害または症状は、敗血症性ショック、急性肝炎、移植片対宿主病、AIDS、糖尿病および甲状腺炎から選択される。
【0018】
他の局面において、本発明は、疾患、障害または症状の治療および/または予防のための医薬品の製造における、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩の使用であって、該疾患、障害もしくは症状の病因または経過が、細胞外カスパーゼによる調節に反応性である細胞と関連している使用に関する。
【0019】
本発明の一実施態様において、疾患、障害または症状は、細胞によるNOの産生および/または分泌のレベルにおける変化に関連する。例えば、カスパーゼは、細胞によるNOの産生および/または分泌のレベルを増加させ得る。
【0020】
本発明の他の実施態様において、疾患、障害または症状は、敗血症、肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症から選択される。
【0021】
さらなる局面において、本発明は、疾患、障害または症状の治療および/または予防のための医薬品の製造における、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩の使用であって、該疾患、障害もしくは症状の病因または経過が、NOのレベルの変化と関連するか、または反応性である使用に関する。
【0022】
本発明の一実施態様において、疾患、障害または症状は、敗血症性ショック、肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症から選択される。
【0023】
さらなる局面において、本発明は、例えば細胞によって産生および/または分泌されるNOのレベルの調節などの細胞の機能を細胞外で調節するために作用することが可能であるカスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩に関する。
【0024】
本発明のさらなる実施態様において、調節は、細胞によって産生および/または分泌されるNOのレベルを増加させることによってなされる。
【0025】
本発明のさらなる実施態様において、細胞はマクロファージである。
【0026】
さらなる局面において、本発明は、例えば細胞によって産生および/または分泌されるNOのレベルの調節などの細胞の機能を細胞外で調節するために作用することが可能であるカスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩の、医薬品の製造における使用に関する。
【0027】
本発明の一実施態様において、医薬品は、敗血症性ショック、肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症などの疾患、障害または症状の治療および/または予防のために使用される。
【0028】
本発明の一目的は、敗血症性ショックの治療および/または予防のための医薬品の製造における、カスパーゼ−8、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩の使用を提供することである。
【0029】
本発明の他の目的は、例えば肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症などの疾患、障害または症状の治療および/または予防のための医薬品の製造における、カスパーゼ−8、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩の使用を提供することである。
【0030】
本発明の一局面において、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩および薬学的に許容され得る担体を含む、細胞の死を引き起こす疾患、障害または症状の治療および/または予防のための医薬組成物が提供される。
【0031】
本発明の一実施態様において、疾患、障害または症状は、敗血症性ショック、急性肝炎、移植片対宿主病、AIDS、糖尿病および甲状腺炎から選択される。
【0032】
他の局面において、本発明は、疾患、障害または症状の治療および/または予防のための、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物であって、該疾患、障害もしくは症状の病因または経過が、細胞外カスパーゼによる調節に反応性である細胞と関連している医薬組成物に関する。
【0033】
一実施態様において、疾患、障害または症状は、敗血症性ショック、肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症から選択される。
【0034】
一局面において、本発明は、細胞機能を調節するために細胞外で作用することが可能であるカスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩、および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物を提供する。
【0035】
本発明の一実施態様において、疾患、障害または症状は、敗血症性ショック、肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症から選択される。
【0036】
本発明のさらなる目的は、カスパーゼ−8、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩、および薬学的に許容され得る担体を含む、敗血症性ショックの治療および/または予防のための医薬組成物を提供することである。
【0037】
本発明のさらなる目的は、カスパーゼ−8、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩、および薬学的に許容され得る担体を含む、例えば肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症などの疾患、障害または症状を治療するための、医薬組成物を提供することである。
【0038】
さらなる局面において、本発明は、皮下投与のための、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物を提供する。
【0039】
他のさらなる局面において、本発明は、全身投与のための、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物を提供する。
【0040】
他のさらなる局面において、本発明は、疾患、障害または症状の治療および/または予防のための、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物であって、該疾患、障害もしくは症状の病因または経過が、NOレベルの変化と関連するか、または反応性である医薬組成物を提供する。
【0041】
本発明の一実施態様において、疾患、障害または症状は、敗血症性ショック、肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症から選択される。
【0042】
本発明のさらなる目的は、カスパーゼ−8、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩および薬学的に許容され得る担体を含む、例えば肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症などの疾患、障害または症状の治療および/または予防のための医薬組成物を提供することである。
【0043】
本発明のさらなる目的は、皮下投与のための、カスパーゼ−8、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物を提供することである。
【0044】
本発明のさらなる目的は、全身投与のための、カスパーゼ−8、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩および薬学的に許容され得る担体を含む、医薬組成物を提供することである。
【0045】
本発明のさらなる局面は、治療的に有効量の、例えばNOの産生および/または分泌レベルの調節などの細胞機能を調節するために細胞外で作用することが可能であるカスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩を、必要とする対象に投与することを含む、疾患の治療および/または予防のための方法に関する。
【0046】
本発明の一実施態様において、疾患、障害または症状は、肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症から選択される。
【0047】
本発明の他の局面は、治療的に有効量のカスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩を、必要とする対象に投与することを含む、例えば敗血症性ショック、急性肝炎、移植片対宿主病、AIDS、糖尿病、および甲状腺炎などの細胞死を引き起こす疾患、障害または症状の治療および/または予防のための方法に関する。
【0048】
本発明の他の局面は、疾患、障害または症状の治療および/または予防のための方法であって、該疾患、障害もしくは症状の病因または経過が、細胞外カスパーゼによる調節に反応性である細胞に関連し、該方法が、治療的に有効量のカスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩を、必要とする対象に投与することを含む方法に関する。
【0049】
本発明の一実施態様において、細胞機能を調節することは、NOの産生および/または分泌レベルの調節を伴う。
【0050】
本発明のさらなる実施態様において、疾患、障害または症状は、肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症から選択される。
【0051】
本発明は、治療的に有効量の、細胞外で作用することが可能であるカスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩を、必要とする対象に投与することを含む、疾患、障害または症状の治療および/または予防のための方法を提供する。
【0052】
さらに、本発明は、カスパーゼ、またはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩の、必要とする対象への皮下投与を含む、疾患、障害または症状の治療および/または予防のための方法を提供する。
【0053】
他の局面において、本発明は、カスパーゼ、またはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩の、必要とする対象への全身投与を含む、疾患、障害または症状の治療および/または予防のための方法を提供する。
【0054】
本発明の一目的は、疾患、障害または症状の治療および/または予防のための方法であって、該疾患、障害もしくは症状の病因または経過が、NOレベルの変化と関連するか、または反応性であり、該方法が、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩の、必要とする対象への投与を含む方法を提供することである。
【0055】
本発明の一実施態様において、疾患、障害または症状は、敗血症、肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症から選択される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
一局面において、本発明は、細胞死を引き起こす疾患、障害または症状の治療および/または予防のための医薬品の製造における、カスパーゼ、またはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体または塩の使用に関する。
【0057】
カスパーゼは、細胞内で作用し、および細胞死(アポトーシス)の実行のために必要であることが知られている。アポトーシスの誘導因子または促進因子としての細胞内カスパーゼの公知の役割、そして大量の細胞死に関与している疾患を緩和するためにカスパーゼをブロックすることを求める報告とは異なり、本発明者らは、本明細書中において、例えばカスパーゼ−8のようなカスパーゼの投与が、動物モデルにおいて、LPSが媒介するリンパ球死および/または死リンパ球の蓄積を軽減するという驚くべき結果を示している。本明細書中で得られたin vivoの結果は、カスパーゼが細胞外で作用するかもしれないこと、およびカスパーゼの細胞外活性は、それらの公知の細胞内活性とは異なるかもしれないことを示唆している。
【0058】
微量のカスパーゼ−8の単回皮下注射(s.c. injection)が、動物モデルにおいて局在的だけでなく全身性の優れた効果を有するということを示している本発明者らの発見から、細胞外カスパーゼ−8がサイトカイン様活性を有し、かつシグナルが、特定の応答性の細胞に存在する特有の受容体へのカスパーゼの結合に際して伝達されるという可能性がある。
【0059】
細胞内で媒介されるカスパーゼのプロ−アポトーシス性の役割は、カスパーゼのタンパク質分解活性を必要とする一方、カスパーゼの細胞外の役割は、そのような活性とは独立している。したがって、タンパク質分解活性を欠くカスパーゼ、もしくはそのムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩、または不活性なプロ−酵素前駆体がまた、本発明の実施において有用で考えられる。
【0060】
カスパーゼを投与した動物モデルにおいて観察される、リンパ球死の停止、または死リンパ球の蓄積の軽減は、注射されたカスパーゼの、死にかかっている細胞および/または死にかかっている細胞を除去するために必要な細胞(例えばマクロファージ)への直接的な効果によって引き起こされている可能性がある。それにも関わらず、カスパーゼの効果は、間接的なものである可能性もまたある。例えば、カスパーゼ−8は、カスパーゼの実際の直接的な標的である、および/または血清、細胞外マトリックスまたは細胞表面タンパク質のいくつかの成分へのカスパーゼの効果の結果として調節因子を生成しうる、他の細胞によるその他の調節因子の遊離を誘導するかもしれない。これらの調節因子は、次には、死にかかっている細胞および/または死にかかっている細胞を除去するために必要な細胞に作用するかもしれない。したがって、カスパーゼ−8の細胞外作用は、リンパ球の死を直接的または間接的に阻害し、および/または死細胞を除去するために必要な細胞の活性を強化するかもしれない。
【0061】
大量の細胞死または調節されていない細胞死を引き起こす/関連する疾患、障害または症状の例は、限定はされないが、敗血症性ショック、急性肝炎、移植片対宿主病、AIDS、糖尿病および甲状腺炎を含む。
【0062】
本発明のカスパーゼの例は、限定はされないが、カスパーゼ−1、カスパーゼ−2、カスパーゼ−3、カスパーゼ−4、カスパーゼ−5、カスパーゼ−6、カスパーゼ−7、カスパーゼ−8、カスパーゼ−9、カスパーゼ−10、カスパーゼ−11、カスパーゼ−12、カスパーゼ−13およびカスパーゼ−14を含む。
【0063】
例えばカスパーゼ−8のようなカスパーゼの投与による、リンパ球アポトーシスまたは死リンパ球の蓄積を予防することは、敗血症性ショックにおける可能性のある重要な新しい治療を示している。
【0064】
ある実施態様において、本発明は、敗血症性ショックの治療および/または予防のための医薬品の製造における、カスパーゼ−8、カスパーゼ−8のプロ−酵素前駆体、もしくはそのムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩(本明細書中で、「本発明の物質」とする)の使用を提供する。
【0065】
本出願人の米国特許第6,399,327号および第6,586,571号は、特にカスパーゼ−8タンパク質およびDNA、カスパーゼ−8(または以前にはMACHと呼ばれていた)の細胞内プロテアーゼ活性、カスパーゼ−8のMORT−1タンパク質(またはFADD)への結合、および細胞死誘導におけるカスパーゼ−8の役割を開示している。
【0066】
本発明の技術背景にて記載したように、アポトーシス性細胞からの活性化カスパーゼの遊離が、典型的なアポトーシス死と関連していることを特徴とする病理学的状態にておこることが報告されている。これらの報告は、細胞外カスパーゼが存在する状況においてのみの情報を提供し、カスパーゼ−3の細胞外のタンパク質分解活性の有害な効果についての推測を提起している。
【0067】
本明細書中で得られた結果は、例えばカスパーゼ−8のようなカスパーゼが、細胞死を引き起こす疾患、障害または症状において、細胞死を軽減するおよび/または死細胞の蓄積を減少させるために、細胞外で使用され得ることを初めて示している。
【0068】
本発明者らは、細胞におけるカスパーゼの細胞外活性の直接効果を調べるために、in vitroでの実験を行った。本発明者らは、初代マクロファージとのカスパーゼ−8の培養が、これらの細胞による一酸化窒素(NO)産生の速度を変化させることを発見した。この発見は、細胞外カスパーゼが、マクロファージ細胞において直接的な効果を有することを示している。したがって、本明細書中で得られた結果は、例えばカスパーゼ−8のようなカスパーゼが、細胞機能を調節するために、細胞外で使用され得ることを示している。
【0069】
一実施例において、本発明者らは、腹腔マクロファージの培養培地への組換えカスパーゼ−8の添加が、NOの分泌を誘導したことを示している。マクロファージによるNOの分泌は、培地を変え、そしてカスパーゼ−8を除去した後も続いた。カスパーゼ−8による誘導の48時間後、分泌されたNOのレベルは、カスパーゼ−8による誘導の24時間後のNOのレベルに比べ4倍高かった。分泌されたNOのレベルは、LPSによるマクロファージの活性化によって誘導されるレベルに匹敵した。NO分泌を刺激できないほどの低用量のLPSは、カスパーゼ−8によって媒介されるNO分泌をわずかに増加させた。本発明者らはまた、LPS処置とは異なり、および細胞内カスパーゼ−8とは異なり、細胞外カスパーゼ−8は細胞に対して細胞傷害性ではないことも明らかにした。
【0070】
本明細書中の発見は、細胞外カスパーゼが、応答性細胞におけるNOの分泌および/または産生レベルに影響を与えることによって、いくつかの細胞機能を調節し得ることを示している。したがって本発明の一局面において、カスパーゼ、プロ−酵素、もしくはそのムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩が、細胞外カスパーゼによる調節に反応性の細胞に関連する疾患、障害または症状の治療および/または予防のための医薬品の製造において使用される。本発明の他の局面において、カスパーゼ、プロ−酵素、もしくはそのムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩は、疾患、障害もしくは症状の病因または経過が、NOレベルの変化に関連するか、またはNOレベルにおける変化に反応性である、該疾患、障害または症状の治療および/または予防のための医薬品の製造で使用される。
【0071】
NOは、NOシンターゼ(NOS)によって細胞中で合成される。ヒト(およびマウス)のゲノムは、NOシンターゼをコードする3つの異なる遺伝子を含む(神経で発見されたnNOS、内皮細胞で発見されたeNOS、およびマクロファージで発見されたiNOS)。nNOSおよびeNOSのレベルは比較的安定であり、iNOS遺伝子の発現は、適切な刺激によって調節される。すべての型のNOSが、分子酸素およびNADPHを用いてアルギニンからNOを産生する。以前の報告は、NOが、血管拡張(Palmer RM,1987)、神経伝達(Garthwaite,1991)および免疫学的工程(Nathan 1991)を調節していることを示している。
【0072】
NOは、生理病理学的状況に依存して、有益なまたは有害な効果を与えることができる。したがって、ある場合には、NO産生を抑制することが望ましく、一方、他の場合には、NO産生を供給または増加させることが望ましい。
【0073】
例えば、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩は、NOレベルの減少に関連した疾患、障害または症状、および/またはNOレベルを増加させることによって改善されることが知られている疾患、障害または症状において使用され得る。
【0074】
カスパーゼの細胞外活性の阻害剤は、NOレベルの増加に関連した疾患、障害または症状において、および/またはNOレベルを減少させることによって改善されることが知られている疾患、障害または症状において使用可能され得る。カスパーゼの特定の断片が、カスパーゼの細胞外機能のドミナントネガティブ効果(dominant negative effect)を有するように作製されるかもしれず、そしてNOの産生/分泌レベルを減少するために使用されるかもしれない。
【0075】
疾患、障害もしくは症状の病因または経過が、NOレベルにおける変化に関連する、またはNOレベルに反応性である疾患、障害または症状の例は、限定はされないが、パーキンソン病(Shavaliら、2006、Salerno 2002、Ebadi and Sharma 2003)、統合失調症(Salerno 2002)、アルツハイマー病(Salerno 2002)およびすべての認知症(Salerno 2002)のような慢性神経変性疾患、アテローム性動脈硬化症(Sunら、2005)、脳卒中(Salernoら、2002)、急性虚血性脳卒中(Willmot)、慢性けいれん(Salernoら、2002)、慢性疼痛(Salernoら、2002)、慢性緊張型頭痛(Ashina 2002)、視神経症(Neufeld 2004)、肝臓損傷(Chen 2003)、創傷(Childress, 2002、Park, 2004)、勃起不全(Toda, 2004)、結腸炎(Ballesterら、2005)のような炎症性疾患、心臓炎症(Bradfordら、2001)、および糸球体疾患(Mattana ら、1998)を含む。
【0076】
Neufeld(2004)は、緑内障の患者の視神経頭内の星状細胞および小神経膠細胞にて産生される、過剰なNOが疾患に関連する視神経症に寄与しているかもしれないことを報告し、NO産生の阻害剤が該疾患において使用され得ることを示した。
【0077】
Chenら(2003)は、NOが、肝臓の温虚血/再かん流において、肝臓の酸化損傷を促進し、一方、iNOS発現が、敗血症および肝炎のモデルにおいて見られる肝臓のアポトーシス細胞死から保護することを示した。Chenら(2003)は、NOが保護するかまたは損傷を及ぼすかは、おそらく損傷の型、活性酸素種の存在量、NO産生の供給源および量ならびに肝臓の酸化還元状態によって決定されることを指摘している。
【0078】
一酸化窒素は、再発性の動脈狭窄から血栓症の抑制までの範囲の疾患を治療するための治療ツールとして使用されている。多くの通常使用される医薬品は、一酸化窒素の産生を介する治療作用を有する。したがって、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩は、一酸化窒素レベルを増加させ、そして血栓症を抑制するために使用され得る。
【0079】
NOは、動脈壁の平滑筋を弛緩させる。心収縮毎に、血管の内側に並んでいる内皮細胞は、NOガスを遊離する。これが、基底にある平滑筋細胞内に分散して弛緩を生じさせ、したがって血液の脈動を容易に通過しやすくする。eNOSに関する遺伝子が、「ノックアウト(knocked out)」されたマウスは、高血圧を患う。狭心痛を減少させるためによく処方されるニトログリセリンは、冠状動脈および細動脈の壁を弛緩させる一酸化窒素を産生することによって同様なことを行う。一酸化窒素は、血管の弛緩、内皮の再生、および血液濃度をより薄くする血小板凝集の抑制を導く。したがって、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩は、一酸化窒素を増加させ、そして狭心痛を減少させるために使用され得る。
【0080】
インポテンス、または勃起不全の主要な生理学的原因の1つは、ペニス内の血管が、血流および充血を可能にするのに十分拡張することが不能であることである。勃起不全(ED)は、種々の病理学的因子、特に、NOの正常な機能が損なわれた形成および作用障害によって引き起こされる。したがって、この分子の補充が、EDの患者に対する現段階での有望な治療手段であると期待されている(Todaら、2005)。したがって、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩は、勃起不全の治療のため一酸化窒素レベルを増加させるために使用され得る。
【0081】
酸化されたLDLは、アテローム促進性であり、さらなる内皮損傷に寄与する毒性の過酸化生成物である。NOは、血管緊張を制御し、LDL酸化を阻害し、高コレステロール血症活性を有する(Rekka 2002)。したがって、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩は、一酸化窒素を増加させ、高コレステロール血症を減少させるために使用され得る。
【0082】
創傷治癒におけるNOの有益な役割が、Childress(2002)およびPark(2004)によって概説されている。したがって、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩は、創傷治癒を促進させるため一酸化窒素を増加させるために使用され得る。
【0083】
一酸化窒素は、種々の疾患において、エキソサイトーシス(exocytosis)を調節しうる。調節されたエキソサイトーシスおよび生物活性分子の遊離は、例えば神経伝達、細菌感染に対する免疫応答、創傷治癒、および血液のグルコースレベルの制御などの生理学的工程における必須の事象である。エキソサイトーシスは、伝達物質含有の貯蔵顆粒の、細胞膜との制御された融合を伴う。NOは、NSF(N−エチルマレイミド−感受性因子)のニトロシル化を引き起こす内皮細胞内でのエキソサイトーシスを阻害する。NSFは、膜輸送およびエキソサイトーシスに関与するタンパク質である(Matsushitaら、2003)。NOは、血管炎症、神経伝達、血栓症、および細胞傷害性Tリンパ球細胞殺傷を含む、種々の生理学的工程におけるエキソサイトーシスを調節するかもしれない。一酸化窒素(NO)は、血管炎症を抑制し、そしてこの抗炎症活性に関与する機序は、NO調節エキソサイトーシスであると思われる。Matsushitaら、Cell,2003。したがって、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩は、一酸化窒素を増加させ、血管炎症を減少させるために使用され得る。
【0084】
他の局面において、本発明はまた、タンパク質分解活性を欠き、細胞機能を調節するために細胞外で作用することが可能な、カスパーゼプロ−酵素、またはムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体に関する。
【0085】
本発明の一目的は、タンパク質分解活性を欠き、細胞機能を調節するために細胞外で作用することが可能な、カスパーゼプロ−酵素、もしくはムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体、および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物を提供することである。
【0086】
本明細書中で使用される用語「ムテイン」は、本来のタンパク質と比較して、得られた生成物の活性を大幅に変更することなしに、1または複数の、タンパク質の天然に存在する成分のアミノ酸残基が、異なるアミノ酸残基によって置換され、または欠損されている、または1または複数のアミノ酸残基が、タンパク質の本来の配列に加えられている、タンパク質の類似体を意味する。これらのムテインは、公知の合成によって、および/または部位特異的突然変異導入技術によって、または適切な他の公知の技術によって製造される。
【0087】
本発明のムテインには、ストリンジェントな条件下で、本発明にしたがって、タンパク質をコードしているDNAまたはRNAにハイブリダイズする、例えばDNAまたはRNAのような核酸によってコードされたタンパク質が含まれる。用語「ストリンジェントな条件(stringent conditions)」とは、当業者が従来「ストリンジェントな」と呼んでいる、ハイブリッド形成とその後の洗浄条件を意味する。Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology、上記、Interscience,N.Y.,§§6.3および6.4(1987、1999)およびSambrookら(Sambrook, J.C., Fritsch, E.F., and Maniatis ,T.(1989) Molecular Cloning:A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY)を参照のこと。
【0088】
非限定的なストリンジェントな条件の例は、研究対象のハイブリッドの計算されたTmより12〜20℃低温である洗浄条件を含み、それは例えば、2×SSCおよび0.5%SDS中で5分間、2×SSCおよび0.1% SDS中で15分間;0.1×SSCおよび0.5% SDS中で、37℃で30〜60分間、そしてその後、0.1×SSCおよび0.5%SDS中で、68℃で、30〜60分間である。当業者は、ストリンジェントな条件がまた、DNA配列、(例えば10〜40塩基)オリゴヌクレオチドプローブ、または混合オリゴヌクレオチドプローブの長さにも依存することを理解する。混合プローブを用いる場合、SSCの代わりに塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)を使用することが好ましい。上記のAusbel、を参照のこと。
【0089】
そのようなムテインは、好ましくは、実質的に同様の、またはより良好な細胞外活性を有するような、カスパーゼのアミノ酸配列と十分に重複したアミノ酸配列を有する。例えば、カスパーゼのある細胞外活性は、細胞の機能における効果を引き起こす能力である。例えば、マクロファージをカスパーゼとともに培養することで、これらの細胞内でのNO産生が誘導される。培地へのNO分泌を測定するためのアッセイが、以下の実施例で記載されている。カスパーゼの他の活性は、以下の実施例の動物モデルにおいて記載されるように、LPS媒介リンパ球死または死細胞の蓄積を軽減することである。ムテインが、例えばマクロファージ内でのNO産生の誘導、および/または大量のまたは調節されていないリンパ球の死を引き起こす疾患のための動物モデルにおける死リンパ球蓄積の軽減などの実質的な活性を有することができる限り、カスパーゼと実質的に類似の活性を有すると考えることができる。したがって、以下の実施例で、カスパーゼ−8に関して示したような、通常の実験の方法によって、任意のムテインが、本発明のカスパーゼと少なくとも実質的に同様の活性を有するかどうかを決定することができる。
【0090】
好ましい実施態様において、そのようなムテインは、カスパーゼのアミノ酸配列と、少なくとも40%の同一性または相同性を有する。より好ましくは、カスパーゼのアミノ酸配列に対して、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または最も好ましくは、少なくとも90%の同一性または相同性を有する。
【0091】
同一性は、配列を比較することによって決定される、2つもしくはそれ以上のポリペプチド配列、または2つもしくはそれ以上のポリヌクレオチド配列の間の関係を反映している。一般的に、同一性は、比較される配列の長さ上の、2つのポリヌクレオチドまたは2つのポリペプチド配列の、正確なヌクレオチド対ヌクレオチドまたはアミノ酸対アミノ酸の一致を意味する。
【0092】
正確な一致が存在しない配列に関しては、「パーセント同一性」を決定してもよい。一般的に、配列間で最大の相関が得られるように比較される2つの配列が揃えられる。これには、アライメントの程度を促進するために、いずれか1つまたは両方の配列に「ギャップ」を挿入することが含まれてよい。パーセント同一性は、特に同じかまたは非常に類似した長さの配列に適切であるが、比較されているそれぞれの配列の全長に対して決定されてもよく(いわゆるグローバルアライメント)、または、不揃いの長さである配列により適切である、より短い、定義された長さに対して(いわゆるローカルアライメント)決定されてもよい。
【0093】
2つまたはそれ以上の配列の同一性および相同性を比較するための方法は、当該技術分野ではよく知られている。したがって例えば、Wisconsin Sequence Analysis Package、バージョン9.1(Devereux Jら、1984,Nucleic Acids Res.1984 Jan 11;12(1 Pt 1):387-95)にて入手可能なプログラム、例えばプログラムBESTFITおよびGAPが、2つのポリヌクレオチド間の%同一性および2つのポリペプチド配列間の%同一性と%相同性を決定するために使用されるかもしれない。BESTFITは、Smith and Waterman(J Theor Biol.1981 Jul 21;91(2):379-80およびJ Mol Biol.1981 Mar 25;147(1):195-7.1981)の「ローカル相同性」アルゴリズムを使用し、2つの配列間の類似性がもっともよい単一領域を見つける。配列間の同一性および/または類似性を決定するための他のプログラム、例えばBLASTプログラムファミリー(Altschul S Fら、1990 J Mol Biol.1990 Oct 5;215(3):403-10、Proc Natl Acad Sci USA.1990 Jul;87(14):5509-13,Altschul S Fら、Nucleic Acids Res.1997 Sep 1;25(17):3389-402、www.ncbi.nlm.nih.govにてNCBIのホームページよりアクセス可能)およびFASTA(Pearson W R,Methods Enzymol.1990;183:63-98、Pearson J Mol Biol.1998 Feb 13;276(1):71-84)がまた、当該技術分野で公知である。
【0094】
本発明により使用可能なカスパーゼのムテインには、本明細書中で示された教示およびガイダンスに基づいて、過度の実験なしに、当該技術分野における当業者によって日常的に得られうる置換ペプチドまたはポリヌクレオチドとして、実質的に相当する有限な組の配列が含まれる。
【0095】
本発明によるムテインにおける好ましい変化は、「保存的な(conservative)」置換として知られているものである。カスパーゼの保存的なアミノ酸置換には、群のメンバー間での置換が分子の生物学的機能が保存するような十分に類似の生理化学的特徴を有する群内の同義的アミノ酸が含まれてもよい(Grantham Science.1974 Sep 6;185(4154):862-4)。アミノ酸の挿入および欠損もまた、それらの機能を変化させることなしに、特に挿入または欠損が、少数のアミノ酸、例えば30以下、好ましくは10以下のアミノ酸のみに関与し、機能的配列に重要であるアミノ酸、例えばシステイン残基を除去または置き換えないのであれば、上記で定義された配列内で実施されてもよいことは明らかである。そのような欠損および/または挿入によって産生されたタンパク質およびムテインは、本発明の範囲内に含まれる。
【0096】
本発明での使用のための、カスパーゼのムテインを得るために使用され得るタンパク質中のアミノ酸置換の作製の例は、Markらに付与された米国特許第4,959,314号、第4,588,585号および第4,737,462号、Kothsらに付与された第5,116,943号、Namenらに付与された第4,965,195号、Chong らに付与された第4,879,111号、およびLeeらに付与された第5,017,691号にて示されたような、いかなる公知の方法段階をも含み、および米国特許第4,904,584号(Shawら)中で示されたリシン置換タンパク質を含む。
【0097】
本明細書中で使用される「機能的誘導体(functional derivatives)」とは、当該技術分野で公知の方法によって、残基上の側鎖に存在しているかまたはN−もしくはC−末端基へ添加される官能基から製造されてもよく、それらが薬学的に許容され得る限り、すなわちそれらがカスパーゼの活性と実質的に類似しているタンパク質の活性を破壊しない限り、本発明に含まれる。
【0098】
「機能的誘導体」はまた、従来の方法によってその変化がカスパーゼを構成しているアミノ酸の配列中に導入されているカスパーゼから構成されるマルチマーを含む。これらの変化は、カスパーゼ分子の延長もしくは切断、またはカスパーゼの1もしくは複数のアミノ酸の欠損または置換を含んでもよい。上記の変化のいずれもが、カスパーゼの特性に影響を与えないことが理解される。
【0099】
これらの誘導体には例えば、抗原性部位を覆い隠し、そして体液中のカスパーゼの滞留を延長しうる、ポリエチレングリコール側鎖が含まれてもよい。他の誘導体には、カルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニアまたは一級もしくは二級アミンとの反応によるカルボキシル基のアミド、アシル部位とともに形成されたアミノ酸残基の遊離アミノ基のN−アシル誘導体(例えばアルカノイルまたはカルボキシルアロイル基)、またはアシル部位とともに形成された遊離ヒドロキシル基(例えばセリルまたはスレオニル残基のもの)のO−アシル誘導体が含まれる。
【0100】
機能的誘導体が、例えばマクロファージ中でのNO産生の誘導、および/または動物モデルにおける死リンパ球の蓄積の軽減などの実質的な活性または特徴を有することが可能である限り、カスパーゼに対して実質的に同様な活性、またはカスパーゼに対して同様な特徴を有すると考えることができる。
【0101】
本発明による「活性画分」とは、例えばカスパーゼの断片であってよい。断片という用語は、分子の部分集合、すなわち、カスパーゼの望ましい生物学的活性を維持するより短いペプチドを意味する。断片は、カスパーゼのいずれかの末端からアミノ酸を除去すること、およびそのマクロファージ内および/または限局的炎症のモデル内で、得られた断片を活性について試験することによって、簡単に製造されうる。ポリペプチドのN−末端またはC−末端のいずれかから、一度に1つのアミノ酸を除去するプロテアーゼは公知であるので、望ましい生物学的活性を維持している断片を決定することには通常の実験のみが含まれる。
【0102】
カスパーゼ、そのムテインおよびそれらの融合タンパク質の活性画分として、該画分が実質的にカスパーゼと同様の活性を有するならば、本発明はさらに、タンパク質分子のみまたは関連する分子もしくはそれに結合した残基、例えば糖またはリン酸残基など、またはタンパク質分子の凝集物またはそれら自身の糖残基のポリペプチド鎖の断片または前駆体を対象とする。
【0103】
活性画分または断片が、例えばマクロファージ中でのNO産生の誘導、および/または動物モデル中の死リンパ球の蓄積の軽減などの、実質的な活性を有することが可能である限り、カスパーゼと実質的に同様な活性またはカスパーゼと同様の特性を有していると考えられる。
【0104】
用語「融合タンパク質」とは、例えば体液中での延長された滞留時間を有する他のタンパク質と融合した、カスパーゼまたはそのムテインもしくは断片を含むポリペプチドを意味する。カスパーゼはしたがって、例えば免疫グロブリンまたはその断片に融合されるかもしれない。
【0105】
カスパーゼの「アイソフォーム」は、選択的スプライシングによって産生され得る、カスパーゼ活性を有することが可能なタンパク質またはその断片である。
【0106】
本明細書中で使用する用語「円順列変異体(circularly permuted derivatives)」は、環状分子を製造するために、直接的またはリンカーを介してのいずれかで、末端がともに結合し、そしてその後環状分子が、元の分子中の末端とは異なる末端を有する新規の直線分子を製造するために、他の位置で開裂される、直線分子を意味する。円順列変異には、その構造が、環状化され、そしてその後開裂された分子に等価である分子が含まれる。したがって、円順列変異分子は、直線分子としてde novoで合成されてもよく、そして環状化および開裂段階を介ないかもしれない。円順列変異体の製造は、国際公開第95/27732号パンフレットにて記載されている。
【0107】
本明細書中での用語「塩」は、カスパーゼのカルボキシル基の塩、およびアミノ基の酸添加塩の両方を意味する。カルボキシル基の塩は、当該技術分野において公知の方法によって作製されるかもしれず、かつ、例えばナトリウム、カルシウム、アンモニウム、第2鉄または亜鉛の塩などの無機塩、ならびに、例えばトリエタノールアミン、アルギニンまたはリジン、ピペリジン、プロカインなどのアミンとから作られるような有機塩基との塩を含む。酸付加塩は、例えば、例えば塩酸または硫酸などの無機酸との塩、および、例えば酢酸またはシュウ酸などの有機酸との塩を含む。もちろん、このような塩は何であっても、カスパーゼの生物学的活性を維持していなければならない。
【0108】
カスパーゼアイソフォーム、もしくは円順列変異体またはそれらの塩が、例えばマクロファージ内でのNO産生の誘導、および/または動物モデル中の死リンパ球の蓄積の軽減などの、実質的な活性を有することが可能である限り、カスパーゼと実質的に同様の活性、またはカスパーゼと同様の特性を有すると考えることができる。
【0109】
本明細書中で使用する用語「治療すること/改善すること」とは、疾患、障害もしくは症状の1または複数の症候または原因を予防すること、抑制すること、軽減すること、改善すること、または回復に向かわせることとして理解されるべきである。「治療すること/改善すること」が行われる場合、本発明の物質は、疾患、障害または症状の兆候が見られた後に与えられ、「予防」は、疾患、障害または症状のいかなる徴候をも患者が感知できる以前に基質を投与することを意味する。
【0110】
予防的な投与は、罹患するリスクが非常に高い患者または病気、または疾患、障害または症状で苦しんでいる患者において特に有用である。
【0111】
必要としている被験個体に、任意には薬学的に許容され得る担体とともに、一用量のカスパーゼ−8、そのムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩を投与することを含む、敗血症の治療および/または予防のための方法を提供することが、本発明のさらなる目的である。
【0112】
本発明のさらなる目的は、本発明の物質、および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物を提供することである。本発明の医薬組成物は、その意図した目的を達成するために充分な量のカスパーゼ−8を含む。さらに、医薬組成物は、当業者によく知られているような、薬学的に使用されることができ、必要としている対象への投与のための製剤を安定化できる、活性化合物の製剤内への処理を促進する賦形剤および補助剤を含む、適切な薬学的に許容な担体が含まれうる。
【0113】
基質は、種々の方法にて、それらを必要としている被験個体に投与され得る。投与の経路には、肝臓内、皮内、経皮(例えば除放製剤)、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、経口、硬膜外、局所、および鼻腔内経路が含まれる。さらに、基質は、例えば薬学的に許容され得る界面活性剤、賦形剤(excipients)、担体、希釈液および賦形剤(vehicles)などの、生物学的に活性な薬剤の他の成分と一緒に投与され得る。
【0114】
非経口(例えば静脈内、皮下、筋肉内)投与のために、カスパーゼ−8は、薬学的に許容され得る非経口賦形剤(例えば水、生理食塩水、デキストロース溶液)および等張性(例えばマンニトール)または化学安定性(例えば防腐剤および緩衝液)を維持するための添加物とともに、溶液、懸濁液、乳濁液または凍結乾燥粉末として製剤化され得る。製剤は、通常用いられる技術によって滅菌される。
【0115】
本発明者らは、本明細書中で、カスパーゼ−8の皮下注射が、全身性治療のために適切であることを示している。したがって、本発明の一実施態様において、カスパーゼ−8は、好ましくは全身性治療のために、皮下投与される。
【0116】
個体への、単一または複数回用量として投与される用量は、基質の薬物動態学的特性、投与の経路、被験個体の症状および特徴(性別、年齢、体重、健康、大きさ)、症候の程度、併用治療、治療の頻度および所望の効果を含む、種々の因子に非常に依存して変わるであろう。従来の用量範囲の調整および制御は、明らかに当業者の能力の範囲内である。
【0117】
「薬学的に許容され得る」という定義は、活性成分の生物学的活性の効果を妨げず、投与された宿主に対して毒性ではない、かつそれが投与される宿主にとって有毒でないような、いかなる担体をも含むことを意図している。例えば、非経口の投与では、本発明の物質は、生理食塩水、デキストロース溶液、血清アルブミンおよびリンガー溶液などの媒体中に、注射薬として単位投薬形態として製剤化されるかもしれない。
【0118】
いかなる特定の患者にとっても特異的な投薬量のレベルは、使用される特異的化合物の活性、年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食事、投与の時間、投与方法、排出速度、薬物の組み合わせおよび治療を受けている特定の疾患の深刻さを含む、様々なファクターに依存していることは理解されるであろう。理想的な投与量のレベルおよび投薬の頻度は臨床試験によって決定されるであろう。
【0119】
本発明と関係のある化合物は、それらの薬物動態学的特性と一致した経路による投与のために調製されるかもしれない。
【0120】
経口的に投与可能な組成物は、タブレット、カプセル、粉末、顆粒、舐剤、および経口、局所的、または滅菌の非経口溶液もしくは懸濁液などの液体またはゲルの形で調製されてもよい。経口投与のための錠剤およびカプセルは、単位用量を表す剤形であるかもしれず、かつ、例えば、シロップ、アカシア、ゼラチン、ソルビトール、トラガカント、またはポリビニル−ピロリドンなどの結合剤;例えば、ラクトース、砂糖、とうもろこしでんぷん、リン酸カルシウム、ソルビトールまたはグリシンなどの充填剤;例えばステアリン酸塩マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコールまたはシリカなどの錠剤潤滑剤;例えばジャガイモでんぷんなどの錠剤分解物質、または硫酸ラウリルナトリウムなどの許容可能な湿潤剤などの従来からの賦形剤を含んでいてもよい。錠剤は、通常の薬務でよく知られているような方法にしたがって、コートされてもよい。経口用液体製剤は、例えば水性または油性の懸濁液、溶液、乳濁液、シロップまたはエリキシル剤などの形であるかもしれず、使用前に水またはその他の適切な媒体で再生されるような乾燥した製品として提供されるかもしれない。そのような液体製剤は、例えばソルビトール、シロップ、メチルセルロース、グルコースシロップ、食用のゼラチン硬化油脂のような懸濁化剤;例えばレシチン、オレイン酸塩ソルビタン、またはアカシアなどの乳化剤;などの従来の添加剤を含んでいてもよい。
【0121】
例えば、アーモンドオイル、分画されたココナッツオイル、グリセリン、プロピレングリコール、またはエチルアルコールなどの油脂エステルなどの非水性媒体(食用の尾油脂を含んでいてもよい);例えば、メチルまたはプロピル パラヒドロキシベンゾエートまたはソルビン酸などの防腐剤、およびもし望ましいのであれば従来の香料または着色剤などの従来の添加剤を含んでいてもよい。
【0122】
皮膚への局所的塗布のためには、薬剤は、クリーム、ローションまたは軟膏に調合されるかもしれない。薬剤として使用されるかもしれないクリームまたは軟膏の製剤は、例えば薬剤学の標準的な教科書である英国薬局方に記載されているように、当該技術分野においてはよく知られている、従来の製剤である。
【0123】
目への局在的塗布のためには、薬剤は、適切な滅菌の水性または非水性媒体中の溶液または懸濁液に調合されるかもしれない。添加剤、例えばナトリウムメタ重亜硫酸塩またはエチレンジアミン4酢酸2ナトリウム塩などの緩衝剤;例えばフェニルマーキュリック酢酸塩または硝酸塩、ベンズアルコニウムクロライドまたはクロルヘキシジンなどの殺バクテリア剤および殺真菌剤を含む防腐剤、ならびにアッシュプロメローセル(ashypromellose)などの増粘剤もまた含まれるかもしれない。
【0124】
活性化成分はまた、滅菌の溶媒中で非経口で投与されるかもしれない。使用される媒体および濃度に依存して、薬剤は媒体に懸濁または溶解され得る。有利には、局所麻酔薬、防腐剤および緩衝剤などの補助剤が媒体に溶解され得る。
【0125】
用語「投薬量」は、用量の頻度および投与数の決定および制御に関する。
【0126】
ここで本発明を十分に記述しており、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、かつ過度の実験なしに、広範囲の同様のパラメーター、濃度および条件内で、同様のことが実施可能であることが、当業者によって理解されよう。
【0127】
機関紙の論文または要約、刊行されたまたは未刊行である米国または外国の特許出願、交付済み米国または外国の特許または他のすべての参考文献を含む、本明細書中で引用されたすべての引用文献は、本明細書中に参考文献として完全に組み入れられる。
【0128】
公知の方法段階、従来の方法段階、公知の方法または従来の方法に対する参照は、いかにしても関連技術分野で、本発明のいかなる局面、記載または実施態様が、関連技術として開示され、教示されまたは示唆されているという是認ではない。
【0129】
本発明は、より詳細に以下の非限定的な実施例および付属の図に記載されるであろう。
【実施例】
【0130】
LPS媒介性の炎症の発達における、カスパーゼ−8の皮下(s.c.)投与の効果を、動物モデルにて試験した。
【0131】
カスパーゼ−8の細胞外効果を、初代腹腔マクロファージの培養物を用いて、in vitroにて評価した。
【0132】
材料および方法:
マウスへのLPSおよび/またはカスパーゼ−8の投与。すべての実験を、Weizmann Institute of Science Guidelines on Laboratory Animalsにしたがって実施し、Weizmann Institute of Science Committee on Animal Use and Careによって承認された。6〜7週齢のBALB/C OLAオスマウス(約16〜21グラム)の毛を、その背面右および左側で剃った。実験群において、16ngの組換えヒトカスパーゼ−8(160ngカスパーゼ−8/mlエンドトキシンフリーのPBSストック溶液の100μl)および50μlのPBS中に溶解した5μgの大腸菌(E.coli)リポ多糖類(LPS)を、マウスの背面右側に皮下(s.c.)で注射した。同一用量のLPSを、ただしカスパーゼ−8なしで、同一マウスの背面の左側に皮下注射した。24時間後、500μlのPBS中に溶解した50μgのLPSを、総容量500μlのPBS中で腹腔内(i.p.)注射した。i.p.注射の17〜20時間後、または最初のs.c.注射の41〜44時間後、マウスをCO2によって安楽死させた。対照群においては、マウスを、LPSのみのs.c.注射および1回のi.p.注射両方で処置した。
【0133】
大腸菌(セロノ(Serono)内で産生された組換えおよび精製活性ヒトカスパーゼ−8を注射のために使用した。使用の前に、カスパーゼ−8を、4℃で15分間、ポリミキシンB−アガロース(シグマ(Sigma))で前処理し、存在しうる痕跡量のLPSを除去し、そしてその後0.2umのメッシュフィルターを通すろ過によって滅菌した。
【0134】
実験に使用した、大腸菌0111−B4からのLPS、およびエンドトキシンフリーのPBSは、シグマより購入した。
【0135】
実験を2回実施した。
【0136】
最初の実験において、実験群には、10匹のマウスが含まれ、対照群は5匹のマウスであった。2回目の実験においては、実験および対照群両方ともに5匹のマウスを含んだ。
【0137】
注射の部位における皮膚を、炎症の徴候に関して、肉眼でおよび顕微鏡的に調べた。皮下組織中、限局的な好中球浸潤が存在した。同様の組成物の浸潤が、真皮にても存在したが、多病巣性かつ軽度である。多くの浸潤性好中球が、変性しており、壊死/アポトーシス性である。何匹かのマウスにおいて、浸潤領域は浮腫、鬱血、多病巣性急性出血である。組織学的診断:限局的に甚大な急性の好中球性および出血性のセルライトおよび皮膚炎。類似の画像が、両方の群のマウスで観察された。局部的な鼠径部リンパ節を、組織化学解析によって調べた。鼠径部リンパ節を、両眼のもとで脂肪組織から分離し、10%リン酸緩衝ホルマリン中で室温にて一晩固定した。固定組織のパラフィン切片を、ヘマトキシリンおよびエオシン(Routine Mater’sヘマトキシリンおよびエオシン染色、Manual of Histologic Staining Methods of the Armed Forces Institute of Pathology(Third Edition)、American Registry of Pathology(Luna, Lee G.,HT(ASCP)(エディター))、McGraw Hill Publishers, New York 1960で染色した。
【0138】
初代腹腔マクロファージの培養物の調製。12〜14週齢のC57/Blackオスに、2mlの3%チオグリコレート(ディフコ(Difco))を腹腔内に注射した。4日後、マウスを安楽死させ、腹腔マクロファージで濃縮された細胞を、10mlの氷冷PBSでの2回の洗浄によって回収した。回収した細胞内に残存する赤血球を、ACK緩衝液(ACK緩衝液:4.13g塩化アンモニウム(NH4Cl)、0.5g KHCO3、18.5mg Na4EDTA、2回蒸留した蒸留水で500mlにメスアップした)上の溶解によって除去した。
【0139】
残りの細胞を、5%FCS、1mMピルビン酸ナトリウム、1mM HEPES、および50uM b−メルカプトエタノールを含むDMEM中に播種した。3.2×106/ml細胞を含むストック溶液を調製し、96ウェルプレートのウェル毎に100μの試料を播種した。播種2時間後、非接着細胞を洗浄して除き、初代腹腔マクロファージの培養物を表している結合細胞に培地を追加した。
【0140】
LPSまたはカスパーゼ−8との腹腔マクロファージの培養物の処置。96−ウェルプレート中の腹腔マクロファージの初代培養物を、異なる濃度のLPS(0、0.01、0.1および1μg/ml)および/またはカスパーゼ−8(0、0.8、1.6および3.2μg/ml)を追加した培地で、3つに複製して、21〜24時間培養した。次に、培地を、NO分泌の評価のために回収し、さらなる時間、LPSまたはカスパーゼ−8を欠く新鮮な培地で再びウェルを満たした。その後培地を再びNO評価のために回収した。細胞に適用する前に、カスパーゼ−8をPBS中に希釈した。
【0141】
細胞の生存。LPSまたはカスパーゼ−8処理下の細胞の生存を、ニュートラルレッドでの染色によって、調べた。
【0142】
NOの評価。マクロファージによって分泌されたNOの量を、Flemingら(Fleming SD,Campbell PA.Macrophages have cell surface IL10 that regulates macrophage bactericidal activity. J. Immunol, 1996, v. 156:1143-1150)によって以前に記載されているように、Greiss手順を用いて測定した。簡単には、50μlの細胞を含まない上清を、50μlのGreiss試薬(シグマ)に加え、ピペッティングによって混合した。OD550を、ELISAリーダーによって読んだ。
【0143】
実施例1
LPSによって誘導された限局的炎症の動物モデルにおける、カスパーゼ−8の皮下投与の保護効果(Scwarzmann反応)
LPS投与が、注射したマウス由来のリンパ節において、大量のリンパ球アポトーシスを媒介することが報告された(Castroら、1998)。LPS媒介のリンパ球の死における、カスパーゼ−8投与の効果を、in vivoで評価した。実験群においては、各マウスに、2回、(1)LPS(5μg)+カスパーゼ−8(16ng)および(2)LPS(5μg)のみを、s.c.にてそれぞれ背面の右および左側に注射し、24時間後、LPS(50μg)をi.p.にて注射した。最初のs.c.注射の41〜44時間後、マウスを安楽死させた。対照群においては、マウスを、LPSのみのs.c.およびi.p.注射で処置した(詳細は材料および方法の項目を参照のこと)。注射の部位の近くに位置する鼠径部リンパ節の切片からなる試料を調べた。リンパ節は、皮質および髄質の領域からなる。皮質は、T細胞が主に存在する、副皮質(PC)領域と大部分がB−系のリンパ球を含む小胞領域とからなる。試料をヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、光学顕微鏡によって、異なる倍率で分析した。LPSのみを注射したマウスから得た試料を、LPS+組換えカスパーゼ−8を注射したマウスから得た試料と比較した。カスパーゼ−8も共に注射したマウスからの試料とは対照的に、LPSのみを注射したマウスから得た試料においては、副皮質が、死リンパ球に対応する多数の黒色点を含んでいた。細胞残屑が、髄洞内に存在し、カスパーゼ8で処理された群よりも大量であった。LPSのみを注射したマウス由来の試料の副皮質領域のより高い倍率(X100)下で、黒色点が、壊死/アポトーシス細胞残屑から構成されていることが見出された。LPS+カスパーゼ−8を注射したマウスにおいては、黒色点はより小さく、非常に低い頻度で見出された。髄洞が、壊死細胞残屑の塊を有することが発見された。LPSを注射したマウス、またはLPS+カスパーゼ−8を注射したマウスの髄洞からの壊死性の塊は、細胞質内性であり、最も確からしくはマクロファージ内である。
【0144】
LPSを背面の左および右側にそれぞれ注射した、5匹のマウスから得た左および右リンパ節の試料を、図1のように染色、分析し、比較した(図2)。死リンパ球に対応する多数の黒色点が、すべての試料で検出された。図2にまとめられた結果は、同一のマウスの背面の右および左側における、s.c.LPS注射が、局部的な鼠径部リンパ節の副皮質中で、細胞死を引き起こすことを示している。
【0145】
LPSを背面の左および右側にそれぞれ注射し、カスパーゼ−8を右側に一緒に注射した、5匹のマウスから得た左および右側リンパ節の試料を、図1のように染色、分析し、比較した(図3)。黒色点は、動物の右および左側の、すなわちそれぞれカスパーゼ−8注射から近いおよび遠い、リンパ節からの試料中ではほとんど見られなかった。カスパーゼ−8の保護効果が、カスパーゼ−8注射に近接するリンパ節に制限されなかったので、この効果は全身性である。
【0146】
これらの結果は、微量のカスパーゼ−8が、鼠径部リンパ節における死Tリンパ球の蓄積を抑制したことを示す。この結果は、カスパーゼ−8のs.c.投与が全身性効果を持ち、かつそのようなカスパーゼ−8のs.c.投与が、大量のリンパ球死から、生体全体を保護できることを示している。
【0147】
アポトーシスの細胞内誘導因子または促進因子としてのカスパーゼ−8の役割について、および細胞の大量死に関与している疾患を緩和するためにカスパーゼ−8を阻害する必要性についての報告された文献とは対照的に、本発明者らは本明細書中で、カスパーゼ−8を注射することが、動物モデルにおいて、LPS媒介のリンパ球死または死細胞の蓄積を軽減することを示している。in vivoで得られたこれらの結果は、カスパーゼ−8が細胞外でも作用し得ること、およびカスパーゼ−8の細胞外活性が、カスパーゼの公知の細胞内活性とは異なりうることを示唆している。
【0148】
実施例2
カスパーゼ−8の細胞外投与が、腹腔マクロファージの細胞培養物中への一酸化窒素(NO)分泌を誘導する。
実施例1にて開示されたin vivoの結果は、カスパーゼ−8が細胞外で作用することを示唆している。以下の実験を、カスパーゼ−8が細胞外で作用し、そして細胞において代謝効果を誘導することを示すために、in vitroで実施した。この目的のために、初代マクロファージを使用した。LPSによって活性化されたマクロファージは、一酸化窒素(NO)を産生することが知られている。初代マクロファージを、異なる濃度の組換えカスパーゼ−8(0、0.8、1.6、および3.2μg/ml)またはLPS(0、0.01、0.1および1μg/ml)とともに、約24時間培養し、細胞によって培地に分泌された一酸化窒素のレベルを観測した(初代マクロファージの調製および/またはNO検出の詳細に関しては、材料および方法の項目を参照のこと)。本発明者らは、組換えカスパーゼ−8とのマクロファージの培養物が、そのような細胞中で、用量依存的に、NO分泌を誘導することを発見した。(図4)。驚くべきことに、この効果は、微量のタンパク質分解活性のみを有する、PBS中のカスパーゼ−8で観察された。マクロファージからのNOの分泌は、カスパーゼ−8の除去後も継続し、カスパーゼ−8の作用によって媒介された、培地に分泌されたNOのレベルは、LPSの作用によって媒介された、培地に分泌されたNOのレベルに匹敵した(図5)。本発明者らは、カスパーゼ−8での処理後の、マクロファージの48時間の培養物が、カスパーゼ−8との24時間の培養物よりも、4倍高いNOを誘導することを見出した(図5および図4、3.2μg/mlカスパーゼ−8)。カスパーゼ−8で処理したマクロファージによって分泌されたNOのレベルは、単独での投与では、NO分泌を刺激しないLPSの用量である(図4)、0.01μg/ml LPSの添加によりわずかに増加した(図6)。マクロファージ中でNO分泌を誘導する(図4)、0.1μg/ml LPSの効果は、カスパーゼ−8の添加によっては変化しなかった(図7)。同一の結果が、1μg/ml LPSで得られた(データは示していない)。
【0149】
以下の実験が、マクロファージのカスパーゼ−8への長期の暴露が細胞傷害性であるかどうかを見出すために計画された。初代マクロファージを、異なる濃度のLPSまたはカスパーゼ−8とともに46/47時間、LPSおよびカスパーゼ−8を欠く培地への変更ありまたはなしでその後16/17時間培養し、そして細胞の生存を測定した。培地の変更なしで、1μg/mlのLPSとの46時間のマクロファージの培養は、マクロファージの大量死を誘導した(図8)。対照的に、培地の変化のないまま47時間用いられたカスパーゼ−8濃度のいずれもが、マクロファージに対して細胞傷害性ではなかった(図9)。
【0150】
得られた結果は、カスパーゼ−8の細胞外適用が、マクロファージ細胞の機能に影響を与えること、および細胞内カスパーゼ−8とは異なり、細胞外カスパーゼ−8は細胞死を引き起こさないことを示している。
【0151】





【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】図1A〜1Hは、リポ多糖類(LPS)によって媒介された限局的炎症のモデルにおいて、微少量のカスパーゼ−8の皮下(s.c.)注射が、死リンパ球の蓄積を予防したことを示している。s.c.カスパーゼ−8投与の、LPSのs.c.および腹腔内(i.p.)注射によって媒介される限局的炎症の発達における効果を評価した。実験群において、それぞれのマウスに、それぞれ背面左側および右側にて、LPS(5μg)のみ、およびLPS(5μg)+カスパーゼ−8(16ng)をs.c.にて注射し、24時間後にLPS(50μg)をi.p.にて注射し、最初のs.c.注射41〜44時間後に安楽死させた。対照群において、マウスを、LPSのみのs.c.およびi.p.注射で処理した。図は、注射部位近くに局在する右鼠径リンパ節からの試料の縦方向切片を示している。対照および実験マウスのリンパ節を、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、光学顕微鏡によって異なる倍率で解析した。A、C、EおよびGが、LPSのみを注射したマウスから得た試料を示しており、B、D、FおよびHが、LPSおよび組換えカスパーゼ−8を注射したマウスから得た試料を示している。皮質は副皮質(T細胞領域)およびいくつかの一次小胞(B細胞領域)からなる。AおよびBは、リンパ節の皮質と髄質の領域を示している(X4倍率)(髄質領域は、Aにて明示されない)。A中の副皮質にて検出可能であるが、B中では検出可能ではない、死リンパ球に対応する多数の黒色点(そのいくつかを矢印で印をつけた)。CおよびDは、より高い倍率(X20)の、それぞれAおよびBにて四角で示している、副皮質および髄洞を含む領域を示している。Cにおいて、死リンパ球の黒色点を矢印で印をつけたが、Dではそのような病巣は明示されていない。CおよびD両方で、細胞残屑が、髄質洞内で存在している(矢頭)。EおよびFは、より高い倍率(X100)での副皮質領域を示している。Eにおいて丸で囲まれた2つの黒色点は、壊死/アポトーシス細胞残屑からなる。より小さな黒色点が、まれにFで検出された。GおよびHは、より高い倍率(X100)の髄洞(MS)を示している。壊死細胞残屑のクラスターを矢頭で印をつけている。Hにおける壊死クラスター、およびGにおける右の壊死クラスターは、細胞質内、もっとも確からしくはマクロファージ内である。
【図2】図2は、同一のマウスの背の右側および左側での、s.c.LPS注射が、局部的な鼠径部リンパ節の副皮質における細胞死を引き起こすことを示している。それぞれ、LPSを背の左側および右側に注射した、5匹のマウスから得た左および右リンパ節の試料を染色し、図1のように(倍率X20)分析して、比較した。各列、左および右が、それぞれ同一のマウスからの左および右リンパ節の試料を示している。死リンパ球に対応する多数の黒色点が、すべての試料で検出された。
【図3】図3は、LPSによって媒介された限局的炎症のモデルにおける、カスパーゼ−8の保護効果が全身性であることを示している。図は、それぞれLPSで背の左側および右側にて注射をし、カスパーゼ−8を右側に一緒に注射し、染色し、図11のように分析し(倍率X20)、比較した、マウスから得た左および右側リンパ節の試料を示している。それぞれの列、左および右が、それぞれ、同一のマウスの左および右リンパ節の試料を示している。この実験は、15匹で実施し、本図は、5匹の代表的なマウスを示している。黒色点は、各動物の右および左側の、すなわちそれぞれカスパーゼ−8の注射から近いおよび遠い、リンパ節からの試料中ではほとんど見られなかった。カスパーゼ−8の保護効果は、カスパーゼ−8注射に隣接したリンパ節に限定されず、本効果は全身性である。
【図4】図4は、組換え体カスパーゼ−8での初代マクロファージの培養が、細胞による一酸化窒素(NO)分泌によって表される代謝効果を誘導することを示している。腹腔マクロファージの培養物を、約24時間、示された濃度のカスパーゼ−8(c8)またはLPSとともに培養し、培地に分泌されたNOのレベルを計測した。濃度1μg/mlにて得たカスパーゼ−8の効果は、濃度0.1μg/mlでのLPSのものと同程度である。
【図5】図5は、細胞外カスパーゼ−8とともに培養された初代マクロファージが、カスパーゼ−8を取り除いた後も、NOを分泌し続けることを示している。図4のように、約24時間、カスパーゼ−8またはLPSと培養した腹腔マクロファージの培地を回収し、細胞をカスパーゼ−8またはLPSを含まない新鮮な培地とともに、さらに24時間培養した。この期間後、培地をNO検出のために回収した。
【図6】図6は、カスパーゼ−8とともに培養した初代マクロファージが、NOを分泌すること、および低用量(0.01μg/ml)のLPS(それ自身ではNO分泌を刺激することが不可能な用量)の添加によってわずかに影響を受けることを示している。
【図7】図7は、高用量(0.1μg/ml)のLPSが、初代マクロファージ中でのNO分泌を誘導すること、および分泌されたNOのレベルが、カスパーゼ−8の添加によってほとんど影響を受けないことを示している。
【図8】図8は、LPSとの初代マクロファージの長期培養が、大量の細胞死を引き起こすことを示している。初代マクロファージを、19時間、示した濃度のLPSとともに培養した。この培養後、細胞を同一の培地中、培地の変更なしでさらに27時間維持するか、または培地をLPSなしの新鮮な培地に変更して、細胞をさらに27時間培養した。得られた結果は、培地を46時間変更しなかった場合に、LPSが、大量の細胞死を引き起こしたことを示している。
【図9】図9は、カスパーゼ−8との初代マクロファージの長期培養が、細胞の生存に影響を与えないことを示している。初代マクロファージを、18時間、示した濃度のカスパーゼ−8とともに培養した。この培養の後、細胞を同一の培地中、培地の変更なしに、さらに29時間維持するか、または培地をカスパーゼ−8なしの新鮮な培地に変更し、細胞をさらに29時間培養した。この結果は、47時間培地を変更しなかった場合に、カスパーゼ−8がマクロファージに対して細胞傷害性ではなかったことを示している。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】

【図1E】

【図1F】

【図1G】

【図1H】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図2E】

【図3A】

【図3B】

【図3C】

【図3D】

【図3E】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞死を引き起こす疾患、障害または症状の治療および/または予防のための医薬品の製造における、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩の使用。
【請求項2】
前記細胞および/または死細胞の除去に関与する細胞が、細胞外カスパーゼによる調節または他の細胞によって遊離され得るかもしくは細胞外カスパーゼに応答して活性化され得る分子による調節に反応性である請求項1記載の使用。
【請求項3】
細胞外カスパーゼによる調節が、細胞内の一酸化窒素(NO)レベルおよび/または産生および/または分泌の増加によって表される請求項2記載の使用。
【請求項4】
細胞がリンパ球および/またはマクロファージである請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
細胞がリンパ球である請求項4記載の使用。
【請求項6】
細胞がTリンパ球である請求項5記載の使用。
【請求項7】
細胞がマクロファージである請求項4記載の使用。
【請求項8】
カスパーゼが、カスパーゼ−1、カスパーゼ−2、カスパーゼ−3、カスパーゼ−4、カスパーゼ−5、カスパーゼ−6、カスパーゼ−7、カスパーゼ−8、カスパーゼ−9、カスパーゼ−10、カスパーゼ−11、カスパーゼ−12、カスパーゼ−13およびカスパーゼ−14から選択される請求項1〜7のいずれかに記載の使用。
【請求項9】
カスパーゼがカスパーゼ−8である請求項8記載の使用。
【請求項10】
疾患、障害または症状が、敗血症性ショック、急性肝炎、移植片対宿主病、AIDS、糖尿病および甲状腺炎から選択される請求項1〜9のいずれかに記載の使用。
【請求項11】
疾患が敗血症性ショックである請求項10記載の使用。
【請求項12】
疾患、障害または症状の治療および/または予防のための医薬品の製造における、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩の使用であって、該疾患、障害もしくは症状の病因または経過が、細胞外カスパーゼによる調節に反応性である細胞と関連している使用。
【請求項13】
疾患、障害または症状が、細胞によるNOの産生および/または分泌のレベルにおける変化に関連する請求項12記載の使用。
【請求項14】
カスパーゼが、細胞によるNOの産生および/または分泌のレベルを増加させる請求項12または13記載の使用。
【請求項15】
細胞がリンパ球および/またはマクロファージである請求項12〜14のいずれかに記載の使用。
【請求項16】
細胞がマクロファージである請求項15記載の使用。
【請求項17】
カスパーゼが、カスパーゼ−1、カスパーゼ−2、カスパーゼ−3、カスパーゼ−4、カスパーゼ−5、カスパーゼ−6、カスパーゼ−7、カスパーゼ−8、カスパーゼ−9、カスパーゼ−10、カスパーゼ−11、カスパーゼ−12、カスパーゼ−13およびカスパーゼ−14から選択される請求項12〜16のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
カスパーゼがカスパーゼ−8である請求項17記載の使用。
【請求項19】
疾患、障害または症状が、敗血症性ショック、肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症から選択される請求項12〜18のいずれかに記載の使用。
【請求項20】
疾患、障害または症状の治療および/または予防のための医薬品の製造における、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩の使用であって、該疾患、障害もしくは症状の病因または経過が、NOのレベルの変化と関連するか、または反応性である使用。
【請求項21】
疾患、障害または症状が、敗血症性ショック、肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症から選択される請求項20記載の使用。
【請求項22】
細胞機能を調節するために細胞外で作用することが可能であるカスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩。
【請求項23】
細胞機能を調節することが、産生および/または分泌されるNOのレベルの調節をともなう請求項22記載のカスパーゼ。
【請求項24】
前記調節が、産生および/または分泌されるNOのレベルの増加である請求項23記載のカスパーゼ。
【請求項25】
細胞がマクロファージである請求項22〜24のいずれかに記載のカスパーゼ。
【請求項26】
カスパーゼが、カスパーゼ−1、カスパーゼ−2、カスパーゼ−3、カスパーゼ−4、カスパーゼ−5、カスパーゼ−6、カスパーゼ−7、カスパーゼ−8、カスパーゼ−9、カスパーゼ−10、カスパーゼ−11、カスパーゼ−12、カスパーゼ−13およびカスパーゼ−14から選択される請求項22〜25のいずれかに記載のカスパーゼ。
【請求項27】
カスパーゼがカスパーゼ−8である請求項26記載のカスパーゼ。
【請求項28】
医薬品の製造における請求項22〜27のいずれかに記載のカスパーゼの使用。
【請求項29】
敗血症性ショック、肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症から選択される疾患、障害または症状の治療および/または予防のための請求項28記載の使用。
【請求項30】
敗血症性ショックの治療および/または予防のための医薬品の製造における、カスパーゼ−8、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩の使用。
【請求項31】
肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症から選択される疾患、障害または症状の治療および/または予防のための医薬品の製造における、カスパーゼ−8、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩の使用。
【請求項32】
カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩および薬学的に許容され得る担体を含む、細胞の死を引き起こす疾患、障害または症状の治療および/または予防のための医薬組成物。
【請求項33】
敗血症性ショック、急性肝炎、移植片対宿主病、AIDS、糖尿病および甲状腺炎から選択される疾患、障害または症状の治療のための請求項32記載の医薬組成物。
【請求項34】
疾患、障害または症状の治療および/または予防のための、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物であって、該疾患、障害もしくは症状の病因または経過が、細胞外カスパーゼによる調節に反応性である細胞と関連している医薬組成物。
【請求項35】
疾患、障害または症状が、細胞によるNOの産生および/または分泌のレベルにおける変化に関連する請求項34記載の医薬組成物。
【請求項36】
カスパーゼが、細胞によるNOの産生および/または分泌のレベルを増加させる請求項34または35記載の医薬組成物。
【請求項37】
細胞がリンパ球および/またはマクロファージである請求項34〜36のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項38】
細胞がマクロファージである請求項37記載の医薬組成物。
【請求項39】
カスパーゼが、カスパーゼ−1、カスパーゼ−2、カスパーゼ−3、カスパーゼ−4、カスパーゼ−5、カスパーゼ−6、カスパーゼ−7、カスパーゼ−8、カスパーゼ−9、カスパーゼ−10、カスパーゼ−11、カスパーゼ−12、カスパーゼ−13およびカスパーゼ−14から選択される請求項34〜38のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項40】
カスパーゼがカスパーゼ−8である請求項39記載の医薬組成物。
【請求項41】
敗血症性ショック、肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症から選択される疾患、障害または症状の治療および/または予防のための、請求項34〜40のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項42】
細胞機能を調節するために細胞外で作用することが可能であるカスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩、および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物。
【請求項43】
細胞機能を調節することが、NOの産生および/または分泌レベルの調節をともなう請求項42記載の医薬組成物。
【請求項44】
敗血症性ショック、肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症から選択される疾患、障害または症状の治療および/または予防のための請求項43記載の医薬組成物。
【請求項45】
カスパーゼ−8、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩および薬学的に許容され得る担体を含む、敗血症性ショックの治療および/または予防のための医薬組成物。
【請求項46】
カスパーゼ−8、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩および薬学的に許容され得る担体を含む、肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症から選択される疾患、障害または症状の治療のための医薬組成物。
【請求項47】
皮下投与のための、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物。
【請求項48】
全身投与のための、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物。
【請求項49】
疾患、障害または症状の治療および/または予防のための、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物であって、該疾患、障害もしくは症状の病因または経過が、NOレベルの変化と関連するか、または反応性である医薬組成物。
【請求項50】
疾患、障害または症状が、敗血症性ショック、肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症から選択される請求項49記載の医薬組成物。
【請求項51】
カスパーゼ−8、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩および薬学的に許容され得る担体を含む、肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症から選択される疾患、障害または症状の治療および/または予防のための医薬組成物。
【請求項52】
皮下投与のための、カスパーゼ−8、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物。
【請求項53】
全身投与のための、カスパーゼ−8、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩および薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物。
【請求項54】
治療的に有効量の、細胞機能を調節するために細胞外で作用することが可能であるカスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩を、必要とする対象に投与することを含む、疾患の治療および/または予防のための方法。
【請求項55】
細胞機能を調節することが、NOの産生および/または分泌レベルの調節をともなう請求項54記載の方法。
【請求項56】
疾患、障害または症状が、肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症から選択される請求項55記載の方法。
【請求項57】
治療的に有効量のカスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩を、必要とする対象に投与することを含む、細胞死を引き起こす疾患、障害または症状の治療および/または予防のための方法。
【請求項58】
疾患、障害または症状が、敗血症性ショック、急性肝炎、移植片対宿主病、AIDS、糖尿病および甲状腺炎から選択される請求項57記載の方法。
【請求項59】
疾患、障害または症状の治療および/または予防のための方法であって、該疾患、障害もしくは症状の病因または経過が、細胞外カスパーゼによる調節に反応性である細胞に関連し、該方法が、治療的に有効量のカスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩を、必要とする対象に投与することを含む方法。
【請求項60】
細胞機能を調節することが、NOの産生および/または分泌レベルの調節をともなう請求項59記載の方法。
【請求項61】
疾患、障害または症状が、肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症から選択される請求項60記載の方法。
【請求項62】
治療的に有効量の、細胞外で作用することが可能であるカスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩を、必要とする対象に投与することを含む、疾患、障害または症状の治療および/または予防のための方法。
【請求項63】
カスパーゼ、またはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩の、必要とする対象への皮下投与を含む、疾患、障害または症状の治療および/または予防のための方法。
【請求項64】
カスパーゼ、またはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩の、必要とする対象への全身投与を含む、疾患、障害または症状の治療および/または予防のための方法。
【請求項65】
疾患、障害または症状の治療および/または予防のための方法であって、該疾患、障害もしくは症状の病因または経過が、NOレベルの変化と関連するか、または反応性であり、該方法が、カスパーゼ、もしくはその前駆体、ムテイン、融合タンパク質、機能的誘導体、活性画分、円順列変異体またはそれらの塩の、必要とする対象への投与を含む方法。
【請求項66】
疾患、障害または症状が、敗血症性ショック、肝炎、血栓症、狭心痛、勃起不全、高コレステロール血症、創傷および血管炎症から選択される請求項65記載の方法。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−531027(P2009−531027A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558978(P2008−558978)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【国際出願番号】PCT/IL2007/000278
【国際公開番号】WO2007/105199
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(500018608)イエダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド (35)
【Fターム(参考)】