説明

半導電ロール

【構成】 芯金に、(A)下記平均組成式(1)で示されるジオルガノポリシロキサン、 RnSiO(4-n)/2 …(1)
(式中、Rは同一又は異種の非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、nは1.98〜2.02の正数である。)
(B)導電性カーボンブラック、(C)表面処理シリカを含有するシリコーンゴム組成物の半導電性硬化物層を形成してなることを特徴とする半導電ロールを提供する。
【効果】 本発明の半導電ロールは、半導電領域での電気抵抗率が温度や湿度によって左右されず、かつばらつきが極めて少なく安定しているものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、低温低湿及び高温高湿においても安定した電気抵抗率を得ることができる半導電ロールに関し、特に事務機分野のロール材料として有用な半導電ロールに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、電気絶縁性を示すゴム状物質に導電性材料を配合した導電性ゴムは種々知られており、例えば導電性材料としてカーボンブラック等を配合し、電気抵抗率を10-1〜102Ω・cmの範囲にした導電性ゴムが広い分野で応用されている。一方、電気絶縁性ゴム状物質の一つであるシリコーンゴムは、耐熱性、耐寒性、耐候性に優れ、電気絶縁性ゴムとして多く利用されているが、他のゴム状物質と同様に導電性材料を添加することで、導電性シリコーンゴムとしても実用化されている。
【0003】この場合、導電性シリコーンゴムに添加する導電性材料としては、例えばカーボンブラックやグラファイト、銀、ニッケル、銅等の各種金属粉、各種非導電性粉体や短繊維表面を銀等の金属で処理したもの、炭素繊維、金属繊維などを混合したものが、シリコーンゴムが持つ特異な特性を損なうことなくその導電性材料の種類及び充填量によりシリコーンゴムの電気抵抗率を1010〜10-3Ω・cm程度まで低下させ得ることから頻繁に使用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、シリコーンゴムにケッチェンブラック、アセチレンブラック等の導電性カーボンブラックを配合した場合、103〜1010Ω・cmという半導電領域では電気抵抗率のばらつきが極めて大きくなり、電気抵抗率を安定化させることは困難であった。これは成型条件によりカーボンの分散が著しく変化することが原因であると考えられる。
【0005】ところが、最近においては、特にOA機器の部品、特に乾式複写機における帯電ロール、転写ロール、現像ロール、紙送りロール、定着ロール、加圧ロール、除電ロール、クリーニングロール、オイル塗布ロール等のゴムロールとして、半導電ロールの必要性が高まり、このため半導電領域での電気抵抗率変動が少なく、特に温度、湿度の環境依存性が小さく、安定した電気抵抗率を示す半導電ロールが求められている。
【0006】本発明は上記事情に鑑みなされたもので、低温低湿及び高温高湿の環境状態においても電気抵抗率変動が極めて低い半導電ロールを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段及び作用】本発明者は上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、下記平均組成式(1)
nSiO(4-n)/2 …(1)
(式中、Rは同一又は異種の非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、nは1.98〜2.02の正数である。)で示されるオルガノポリシロキサンにカーボンブラックを配合したシリコーンゴム組成物に対し、表面シラノール基に線状又は環状の有機珪素化合物等を反応させることにより得られる表面処理シリカを配合し、これを成型、硬化して芯金上に半導電性シリコーンゴム層を形成した場合、該ゴム層は103〜1010Ωの半導電領域において、上記のような表面処理を行わないシリカを配合した場合は、低温低湿(5℃/30%RH)と高温高湿(45℃/80%RH)とで電気抵抗が3桁以上相違するにも拘らず、意外なことに低温低湿(5℃/30%RH)と高温高湿(45℃/80%RH)とで電気抵抗率の変動が2桁以内と小さいことを知見し、本発明をなすに至った。
【0008】以下、本発明を更に詳しく説明すると、本発明の半導電ロールは、芯金に、(A)下記平均組成式(1)で示されるジオルガノポリシロキサン、 RnSiO(4-n)/2 …(1)
(式中、Rは同一又は異種の非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、nは1.98〜2.02の正数である。)
(B)導電性カーボンブラック、(C)表面処理シリカを含有するシリコーンゴム組成物の半導電性硬化物層を形成したものである。
【0009】ここで、上記シリコーンゴム組成物に用いられるジオルガノポリシロキサンは、下記平均組成式(1)で示されるものである。
nSiO(4-n)/2 …(1)
【0010】上記式において、Rは同一又は異種の非置換もしくは置換の一価炭化水素基を表し、通常炭素数1〜10、好ましくは1〜8のもので、具体的には、メチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基,アリル基,ブテニル基,ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基,トリル基等のアリール基、或いはこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をハロゲン原子、シアノ基等で置換したクロロメチル基、トリフルオロプロピル基、シアノエチル基などが挙げられる。なお、nは1.98〜2.02の正数である。上記式(1)のオルガノポリシロキサンは基本的には直鎖状であることが好ましいが、分子構造の異なる1種又は2種以上の混合物であってもよい。
【0011】なお、上記オルガノポリシロキサンの平均重合度は100以上であることが好ましく、重合度が100未満では硬化物の機械的強度が低下し、成型加工性が劣る場合がある。
【0012】(B)成分の導電性カーボンブラックは特に限定されるものではなく、通常シリコーンゴム組成物に配合されるものを使用することができる。具体的にはアセチレンブラック、コンダクティブファーネスブラック(CF)、スーパーコンダクティブファーネスブラック(SCF)、エクストラコンダクティブファーネスブラック(XCF)、コンダクティブチャンネルブラック(CC)、1500℃程度の高温で熱処理されたファーネスブラックやチャンネルブラック等を挙げることができる。
【0013】アセチレンブラックの具体例として、電化アセチレンブラック(電気化学社製)、シャウニガンアセチレンブラック(シャウニガンケミカル社製)、コンダクティブファーネスブラックの具体例として、コンチネックスCF(コンチネンタルカーボン社製)、バルカンC(キャボット社製)、スーパーコンダクティブファーネスブラックの具体例として、コンチネックスSCF(コンチネンタルカーボン社製)、バルカンSC(キャボット社製)、エクストラコンダクティブファーネスブラックの具体例として、旭HS−500(旭カーボン社製)、バルカンXC−72(キャボット社製)、コンダクティブチャンネルブラックとしては、コウラックスL(デグッサ社製)が例示される。また、ファーネスブラックの1種であるケッチェンブラックEC及びケッチェンブラックEC−600JD(ケッチェンブラックシインターナショナル社製)を用いることもできる。
【0014】なお、これらのうちでは、アセチレンブラックが不純物含有量が少ない上、発達した二次ストラクチャー構造を有することから導電性に優れており、本発明において特に好適に用いられる。また、その卓越した比表面積から低充填量でも優れた導電性を示すケッチェンブラックECやケッチェンブラックEC−600JDなども好ましく使用できる。
【0015】上記導電性カーボンブラックの添加量は上述したオルガノポリシロキサン100部(重量部、以下同じ)に対して3〜30部、特に5〜20部とすることが好ましい。添加量が3部未満では所望の導電性を得ることができない場合があり、30部を越えると得られる部材の電気抵抗が102Ω以下になる可能性があり、目的とする半導電領域とはならないことがある。
【0016】なお、本発明においては、カーボンブラックに加え、導電性亜鉛華、導電性酸化チタンなどを配合して差支えない。
【0017】(C)成分の表面処理シリカは、シリカ表面が疎水化されておらず、シラノール基が存在するシリカの表面を、メチルクロロシラン,ジメチルクロロシラン等のハロシラン、ジメチルジメトキシシララン,メチルトリメトキシシラン,ジメチルジエトキシシラン,メチルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン、1,1,3,3,5,5,7,7−オクタメチルシクロテトラシラザン等のシラザン、1,1,3,3,5,5,7,7−オクタメチルテトラシロキサン等の低分子量シロキサンなど、線状又は環状有機珪素化合物を反応させることによって表面処理したものである。
【0018】なお、処理温度は200〜400℃が好ましく、またシリカ表面へのカーボンの付着量は0.5重量%以上が好ましく、更に好ましくは0.8重量%以上である。
【0019】この表面処理シリカの比表面積は50m2/g以上、特に100〜300m2/gであることが好ましく、比表面積が50m2/gに満たないと硬化物の機械的強度が低くなってしまう場合がある。
【0020】(C)成分の表面シリカの添加量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100部に対して5〜50部、特に20〜40部とすることが好ましく、添加量が5部未満では補強効果が得られない場合があり、50部を超えると加工性が悪くなって、得られるゴム材料の機械的強度が低下してしまう場合がある。
【0021】また、電気抵抗を安定化する方法として、粒子径が0.1〜100μmの球状シリコーンエラストマー粒子を(A)成分のオルガノポリシロキサン100部に対して10〜200部の範囲で添加することができる。
【0022】本発明に係るシリコーンゴム組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じ増量剤として粉砕石英、炭酸カルシウムなどの充填剤を配合することができる。また、本発明のシリコーンゴム組成物に無機又は有機発泡剤を添加することにより、スポンジ状のシリコーンゴムを得ることができる。このような発泡剤としては、アゾビスブチロニトリル、ジニトロペンタメチレンテトラミン、ベンゼンスルフォンヒドラジドなどが例示され、その添加量はシリコーンゴムコンパウンド100部に対して3〜10部の範囲が好適である。
【0023】更に、本発明組成物には必要に応じて着色剤、耐熱性向上剤などの各種添加剤や反応制御剤、離型剤、充填剤用分散剤などを本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。充填剤用分散剤としてはジフェニルシランジオール、各種アルコキシシラン、カーボンファンクショナルシラン、シラノール基含有低分子量シロキサンなどが挙げられる。また、シリコーンゴム組成物に難燃性、耐火性を付与にするための添加剤としては、白金含有材料、白金化合物と二酸化チタン、白金と炭酸マンガン、白金とγーFe2O3、フェライト、マイカ、ガラス繊維、ガラスフレークなどを挙げることができる。
【0024】本発明に係るシリコーンゴム組成物は、上記した成分を2本ロール、バンバリーミキサー、ドウミキサー(ニーダー)などのゴム混練り機を用いて均一に混合して、必要に応じ加熱処理を施すことにより得ることができる。
【0025】本発明における硬化剤としては、シリコーンゴム組成物の架橋反応の機構に応じた従来公知のものを用いることができる。
【0026】この場合、(A)成分のオルガノポリシロキサンの分子鎖末端が加水分解性のない基で封鎖されており、架橋反応が炭化水素同士で行われる場合は有機過酸化物を用いて加硫させる方法を採用する。有機過酸化物としてはベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、p−メチルベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−ビス(2,5−t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルベンゾエートなどが好適に使用される。この有機過酸化物の添加量は(A)成分のオルガノポリシロキサン100部に対して0.5〜5部、あるいはシリコーンゴム組成物全体の0.1〜1重量%とすることが好ましい。
【0027】また、(A)成分のオルガノポリシロキサンがけい素原子に直結したアルケニル基を有するものであるときには、1分子中に2個以上のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを硬化剤として使用し、これらの付加反応(ヒドロシリル化反応)によって架橋を行わせることによりシリコーンゴム組成物を硬化させることができる。
【0028】このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよいが、重合度が300以下のものが好ましい。具体的にはジメチルハイドロジェンシリル基で末端が封鎖されたジオルガノポリシロキサン、ジメチルシロキサン単位とメチルハイドロジェンシロキサン単位及び末端トリメチルシロキシ単位との共重合体、ジメチルハイドロジェンシロキサン単位(H(CH32SiO0.5単位)とSiO2単位とからなる低粘度流体、1,3,5,7−テトラハイドロジェン−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1−プロピル−3,5,7−トリハイドロジェン−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,5−ジハイドロジェン−3,7−ジヘキシル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンなどが挙げられる。
【0029】この硬化剤としてのオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、(A)成分のオルガノポリシロキサンのアルケニル基に対してSiH基の水素原子が50〜500モル%となる量割合で使用することが好ましい。
【0030】なお、この付加反応には公知の白金系触媒を添加することが好ましく、具体的には白金単体、白金化合物、白金複合体、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール化合物、アルデヒド化合物、エーテル化合物、各種オレフィン類との錯体などか例示される。白金系触媒の添加量は、(A)成分のオルガノポリシロキサンに対して白金原子として1〜2000ppmの範囲とすることが好ましい。
【0031】このようにして得られたシリコーンゴム組成物は、金型加圧成型、押し出し成型などの種々の成型法によって必要とされる用途に成型することができるが、これらの成型物は必要に応じて100〜250℃で30分〜24時間ポストキュアーすることにより特性が安定する。
【0032】本発明の半導電性シリコーンゴムロールは、アルミニウム、スチール等の芯金表面に上記シリコーンゴム組成物の層を所望の厚さ(通常0.5〜20mm、更に好ましくは2〜10mm)に形成し、次いでその硬化剤の種類(有機珪素化合物又はオルガノハイドロジェンポリシロキサン)に応じた通常の硬化条件で硬化させることにより得ることができる。
【0033】この場合、得られた半導電性シリコーンゴム硬化層は、103〜1010Ω・cmの半導電領域において、その体積抵抗の環境依存性が小さく、具体的には5℃,30%RHの抵抗値と45℃,80%RHの抵抗値の差が2桁以内、特に1桁以内のものである。
【0034】
【発明の効果】本発明の半導電ロールは、半導電領域での電気抵抗率が温度や湿度によって左右されず、かつばらつきが極めて少なく安定しているものである。
【0035】
【実施例】以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0036】[実施例1,2、比較例]ジメチルシロキサン単位99.825モル%、メチルビニルシロキサン単位0.15モル%及びジメチルビニルシロキサン単位0.025モル%からなり、平均重合度が約8,000のメチルビニルポリシロキサン(生ゴム)100部に、表1に示す表面処理シリカ25部を配合し、150℃で2時間熱処理してベースコンパウンドを作製した。
【0037】また、比較のために比表面積が130m2/gのヒュームドシリカ(アエロジル130、日本アエロジル社製)を表面処理シリカのかわりに添加し、上記と同様にしてベースコンパウンドを作製した。
【0038】得られたコンパウンドそれぞれににアセチレンブラックを13部、硬化剤として2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン1.3部を添加し、混練りして得られたコンパウンドを用いて直径20mmのロールを成型した。成型温度は165℃/15分、成型圧力は30kg/cm2であった。
【0039】次に、得られたロールの電気特性を図1に示す装置を用いて測定した。測定は5℃/30%RHと45℃/80%RHの環境下で行い、幅7mmの電極3にロール1を接触させ、電極3と芯金2とのあいだの電気抵抗を測定した。測定電圧は100V、測定機4は(株)アドバステストデジタル超抵抗計R8340を用いた。
【0040】
【表1】


【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の半導電ロールの電気特性を測定するために用いられた装置の概略図である。
【符号の説明】
1 ロール
2 芯金
3 電極
4 測定機器

【特許請求の範囲】
【請求項1】 芯金に、(A)下記平均組成式(1)で示されるジオルガノポリシロキサン、 RnSiO(4-n)/2 …(1)
(式中、Rは同一又は異種の非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、nは1.98〜2.02の正数である。)
(B)導電性カーボンブラック、(C)表面処理シリカを含有するシリコーンゴム組成物の半導電性硬化物層を形成してなることを特徴とする半導電ロール。

【図1】
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【公開番号】特開平6−321382
【公開日】平成6年(1994)11月22日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−134055
【出願日】平成5年(1993)5月12日
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)