説明

半硬質磁性材料の製造方法

【課題】 熱処理時の被熱処理材料間の加熱むらおよび冷却むらを少なくし、半硬質磁性特性のばらつきを抑えた半硬質磁性材料の製造方法を提供する。
【解決手段】 入口側搬送路12と、加熱層13と、冷却層14と、出口側搬送路15と、入口側搬送路12から出口側搬送路15までをつなぐ搬送ベルト16とを備える連続炉11の、搬送ベルト16上に被熱処理材料を相互に重なり合うことないように配置し、被熱処理材料が加熱層13および冷却層14を通過する間に熱処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半硬質磁性材料の製造方法、特に、リール台、トルクリミッタ、電磁弁等に使用する半硬質磁性材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オーディオ・ビデオ機器のリール台、複写装置の給紙分離装置のトルクリミッタ、電磁弁等に使用される半硬質磁性材料として、マルテンサイト系ステンレス鋼の焼入材が特開平7−21626号公報(特許文献1)に記載されている。
【0003】
同公報によると、マルテンサイト系ステンレス鋼は、入手容易であり、安価、軽量で、加工しやすい点で半硬質磁性材料に適している。また、マルテンサイト系ステンレス鋼は、熱処理をすることによって半硬質磁性材料に適した保磁力等(以下、「半硬質磁性特性」という)を持つことが知られており、従来の熱処理方法としては、図1に示すようなバッチ式炉1が使用されている。
【0004】
図1に示すバッチ式炉1は、箱型であり、床面2に配置されたロッドヒータ6と、天井
5および左右の両壁面3,4に配置されたクロスヒータ7とによって、炉内の温度を制御する。
【0005】
図2は、バッチ式炉1の図解的断面図である。図2に示すように、バッチ式炉1は4層構造となっており、各層には被熱処理材料を入れる収納箱8が最上層に8箇所、下3層にそれぞれ7箇所設置されている。
【0006】
図3は、収納箱8に被熱処理材料9としてのマルテンサイト系ステンレス鋼を入れた状態を示す図である。収納箱8には、図3に示すように、2000個程度の材料が不規則に納められている。
【0007】
上記のバッチ式炉1を用いて、マルテンサイト系ステンレス鋼を所定条件下で熱処理することにより、半硬質磁性特性を持たせることができる。また、一般には、上記熱処理により生じた、被熱処理材料内部の残留応力を除去するために焼戻しを行う。
【特許文献1】特開平7−21626号公報(段落番号0015等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のバッチ式炉1は、炉内の中央と端部で温度のむらが生じる他、収納箱8内で多数の被熱処理材料9が相互に重なり合っていることにより、各被熱処理材料9間の加熱むらおよび冷却むらが避けられない。さらには、炉内への被熱処理材料9の投入数量によって、熱処理条件を変更する必要が生じる。この各被熱処理材料9の熱処理のむらは、半硬質磁性特性に大きな影響を及ぼす。
【0009】
図4は、バッチ式炉1の最上層の8箇所に収納箱8が配置された図解的平面図であり、8箇所それぞれの収納箱8に収納された被熱処理材料9の熱処理後の半硬質磁性特性のばらつきを図5に示す。
【0010】
図5に示すように、収納箱8の炉内配置により、熱処理後の被熱処理材料9の半硬質磁性特性は大きく異なる。また、炉内各所での半硬質磁性特性は一定の値となるものではなく、熱処理を行う度に異なる値となる。
【0011】
本発明の目的は、熱処理時の被熱処理材料間の加熱むらおよび冷却むらを少なくし、半硬質磁性特性のばらつきを抑えた半硬質磁性材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係る半硬質磁性材料の製造方法は、出発材料に対して連続炉で熱処理を行うことによって、出発材料に半硬質磁性特性を持たせることを特徴とする。
【0013】
上記方法とすることにより、材料間の加熱むらおよび冷却むらが少なくなるので、半硬質磁性特性のばらつきの少ない半硬質磁性材料を製造することが可能となる。
【0014】
また、連続炉による熱処理に関して決められた処理条件に対して、単位時間当たりに熱処理を行う出発材料の数は一定であることを特徴とする。
【0015】
さらには、連続炉へ投入する出発材料の単位時間当たりの投入数量の変化に拘わらず、熱処理条件を一定にすることを特徴とする。なお、熱処理条件とは、熱処理温度、熱処理時間、炉内の雰囲気等を含むものとする。
【0016】
これにより、投入数量の増減に伴う熱処理条件の設定変更が不要となり、作業負荷を軽減することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
連続炉で熱処理を行うことによって、熱処理時の被熱処理材料間の加熱むらおよび冷却むらが少なくなり、半硬質磁性特性のばらつきの少ない半硬質磁性材料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図6を参照して、本発明の一実施形態に係る半硬質磁性材料の製造方法を説明する。
【0019】
本発明で使用する連続炉11は、図6(a)に示すように、入口側搬送路12と、加熱層13と、冷却層14と、出口側搬送路15と、入口側搬送路12から出口側搬送路15までをつなぐ搬送ベルト16とを備える。また、入口搬送路12bから冷却層14までは、不活性ガスを充満させた領域とする。
【0020】
入口側搬送路12aには、被熱処理材料を投入する投入口が設けられており、入口側搬送路12bでは、隣接する加熱層13からの熱を利用して被熱処理材料の予熱を行う。
【0021】
加熱層13は、さらに4層13a〜13dに分けられており、図6(b)に示すように、加熱層13aは、炉内温度をTに設定し、加熱層13b〜13dはTに設定する。
【0022】
冷却層14は、さらに3層14a〜14cに分けられており、冷却層14aはT、冷却層14b,14cはTにそれぞれ設定する。なお、冷却層14は、冷却手段として、水冷ジャケットを備えている。
【0023】
また、被熱処理材料の熱処理時間は、搬送ベルト16の搬送速度を変更することにより調節可能である。
【0024】
連続炉11は、入口側搬送路12aの投入口に被熱処理材料を投入して、加熱層13および冷却層14で加熱工程と冷却工程を一連の処理として連続的に行う。
【0025】
具体的には、入口側搬送路12aの投入口から連続炉11内に投入された、例えば、円盤状の被熱処理材料は、入口側搬送路12bでは、図6(c)に示すように、予熱により温度が上昇する。さらに、加熱層13aではTまで温度が上昇し、加熱層13b〜13dでTに達する。加熱層13から冷却層14に搬送された被熱処理材料は、水冷ジャケットによって一気に常温まで冷却される。
【0026】
上記方法とすることによって、被熱処理材料を乗せた搬送ベルト16が連続炉11内を通過する間に熱処理が行われるため、炉内の温度むらによる被熱処理材料間の加熱むらが極めて少ない。
【0027】
また、連続炉11内の被熱処理材料9は、図7に示すように、搬送ベルト16上に相互に重なり合うことなく配置されている。これにより、各被熱処理材料間の加熱むらおよび冷却むらを少なくすることができる。
【0028】
したがって、連続炉11により熱処理を行うことによって、半硬質磁性特性のばらつきの少ない半硬質磁性材料を得ることができる。
【0029】
また、搬送ベルト16には一定の載置密度で被熱処理材料9を載置することが好ましい。搬送ベルト16の搬送速度は、同一の熱処理条件下では常に一定であるので、被熱処理材料9の載置密度を一定とすることにより、半硬質磁性材料を安定的に製造することが可能となる。
【0030】
さらに、連続炉11は、被熱処理材料の投入数量が熱処理に及ぼす影響が少ないことから、被熱処理材料の投入数量を変更しても、熱処理条件を変更する必要がない。これにより、投入数量の増減に伴う熱処理条件の設定変更が不要となり、作業負荷を軽減することが可能となる。
【0031】
上記の処理により、被熱処理材料は半硬質磁性特性を持つこととなる。ただし、高温状態から急冷したことにより、被熱処理材料は内部に残留応力を有している。
【0032】
そこで、図8に示すように、例えば、Tの温度下で焼戻しを行うことにより、残留応力を除去する。焼戻しは、半硬質磁性特性に及ぼす影響が極めて少ないことから、図6(a)に示す連続炉11を用いて行ってもよいが、図1に示すようなバッチ式炉1を用いて行うことも可能である。
【0033】
上記方法により熱処理を行うのに適したマルテンサイト系ステンレス鋼として、SUS420J2やSUS440Aが考えられるが、その他の材料についても適用することができる。
【0034】
上記の実施形態では、冷却層14は水冷ジャケットを備えるものであったが、これに限ることなく、他の冷却手段を備えるものであってもよい。
【0035】
上記の実施形態で示した、炉内の設定温度はマルテンサイト系ステンレス鋼に半硬質磁性特性を持たせるための一例であり、被熱処理材料の種類および要求される半硬質磁性特性によって熱処理条件を変更する必要がある。
【0036】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
この発明は、半硬質磁性材料の製造方法として利用される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】バッチ式炉の斜視図である。
【図2】バッチ式炉の内部の状態を示す図解的断面図である。
【図3】収納箱に被熱処理材料を収納した状態を示すイメージ図である。
【図4】バッチ式炉の最上層の8箇所に収納箱を配置した状態を示す図解的平面図である。
【図5】図4に示す各収納箱に収納した被熱処理材料の熱処理後の半硬質磁性特性のばらつきを示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る半硬質磁性材料の製造方法に使用する連続炉の概略断面図、ならびに、炉内の設定温度および被熱処理材料の温度変化を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る半硬質磁性材料の製造方法に使用する連続炉に被熱処理材料を投入する状態を示すイメージ図である。
【図8】焼戻しを行う際の被熱処理材料の温度変化を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 バッチ式炉、2 床面、3,4 壁面、5 天井、6 ロッドヒータ、7 クロスヒータ、8 収納箱、9 被熱処理材料、11 連続炉、12 入口側搬送路、13 加熱層、14 冷却層、15 出口側搬送路、16 搬送ベルト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出発材料に対して連続炉で熱処理を行うことによって、前記出発材料に半硬質磁性特性を持たせることを特徴とする、半硬質磁性材料の製造方法。
【請求項2】
前記連続炉による熱処理に関して決められた処理条件に対して、単位時間当たりに熱処理を行う前記出発材料の数は一定であることを特徴とする、請求項1に記載の半硬質磁性材料の製造方法。
【請求項3】
前記連続炉へ投入する前記出発材料の単位時間当たりの投入数量の変化に拘わらず、熱処理条件を一定にする、請求項1または2に記載の半硬質磁性材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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