説明

半結晶性オリゴマー樹脂を含む固体インク組成物

【課題】耐久性があり、堅牢性の高い固体インク印刷物を与えることが可能な、高度に結晶性のポリマーワックスに由来しない代替的な固体インク組成物。結晶性およびアモルファス性を特定の割合であわせもつ、極性が高く、固体インク中で粘弾性を発揮し、一般的なインク添加剤および着色剤との相溶性が高い樹脂から構成される、代替的な固体インク組成物。生物源に由来する樹脂および要素で構成され、市販の炭化水素ワックスに由来するインクよりも生分解性が高い官能基をインクを提供する。
【解決手段】ポリエステル、オリゴエステル、ポリエステルアミドおよびオリゴエステルアミドからなる群から選択される半結晶性オリゴマー樹脂と、任意要素の着色剤と、インク媒剤とを含み、前記半結晶性オリゴマー樹脂が、ジカルボン酸または無水物またはジエステル、二官能アルカノールモノマー、任意要素の一官能末端保護反応剤の縮合反応から作られる、固体転相インク。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本明細書に開示されている固体インク組成物は、室温では固体であり、高温では溶融し、その状態で溶融インクが基材に塗布されることを特徴とする。この固体インク組成物は、インクの印刷、特に、インクジェットによるインクの印刷に有用である。
【0002】
多くの従来からある固体インク組成物は、高度に結晶化したワックスまたはワックス由来の物質(例えば、ポリエチレンワックス、炭化水素アミドワックスまたは炭化水素エステルワックス)から作られており、非常に堅く、弾性のある材料であり、すばやく溶融し、冷却するとすばやく結晶化(固化)するが、このワックス由来の結晶性固体インクは、特定の物理的な欠点をもつ。例えば、堅い結晶性のワックス由来の物質で構成される固体インクは、かなり脆くもあり、その結果、このインクを用いて作られた印刷物は、機械的な力が加わることによる損傷(例えば、ひっかき傷または紙のしわによる亀裂)を受けやすい場合がある。それに加え、結晶性ワックスに由来する固体インクは、一般的に、非多孔性基材への接着性が悪く、耐引っかき性および画像の堅牢性が悪くなる。また、結晶性ポリエチレンワックスのような炭化水素ワックスは極性が非常に低いという性質があるため、一般的なインク要素および特殊な性能をもつ添加剤(例えば、着色剤、分散剤、共力剤、レオロジー調整剤、酸化防止剤)への溶解性および混和性が制限される場合があり、このようなインクのための特注の添加剤および物質を開発しなければならないことがある。
【0003】
このように、上述の問題がなく、耐久性があり、堅牢性の高い固体インク印刷物を与えることが可能な、高度に結晶性のポリマーワックスに由来しない代替的な固体インク組成物が必要とされている。また、結晶性およびアモルファス性を特定の割合であわせもつ(例えば、半結晶性をもつ)極性が高く、固体インク中で粘弾性を発揮し、一般的なインク添加剤および着色剤との相溶性が高い樹脂から構成される、代替的な固体インク組成物が必要とされている。また、生物源に由来する樹脂および要素で構成され、市販の炭化水素ワックスに由来するインクよりも生分解性が高い官能基をもつと思われる持続可能なインクの需要も高まっている。
【発明の概要】
【0004】
本明細書に示す実施形態によれば、半結晶性オリゴマー樹脂(例えば、オリゴエステルアミド樹脂、オリゴエステル樹脂およびオリゴアミド樹脂)を含む、インクジェット印刷技術に適した新規固体インク組成物が提供される。
【0005】
特に、本発明の実施形態は、ポリエステル、オリゴエステル、ポリエステルアミドおよびオリゴエステルアミドからなる群から選択される半結晶性オリゴマー樹脂と、任意要素の着色剤と、インク媒剤とを含み、半結晶性オリゴマー樹脂が、ジカルボン酸または無水物またはジエステル、二官能アルカノールモノマー、任意要素の一官能末端保護反応剤の縮合反応から作られる、固体転相インクを提供する。
【0006】
さらなる実施形態では、ポリエステル、オリゴエステル、ポリエステルアミドおよびオリゴエステルアミドからなる群から選択される半結晶性オリゴマー樹脂と、着色剤と、インク媒剤とを含み、オリゴマー樹脂が、以下の反応によってあらわされる、ジカルボン酸、二官能アルカノールモノマー、任意要素の一官能末端保護反応剤の縮合反応から作られる、固体転相インクが提供され、
【化1】

式中、X=O、NH、およびこれらの混合物であり、Z基=任意要素の末端保護剤RZH中のOまたはNHである。R、R、Rは、互いに独立しており、置換または非置換であってもよく、ヘテロ原子が存在していても存在していなくてもよく、さらに、Rは、炭素を約1〜約20個含むアルキレン基、炭素を約1〜約20個含むアルキレンオキシ、炭素を約6〜約20個含むアリーレン基、または炭素を約7〜約20個含むアリールアルキレン基であり、Rは、炭素を約1〜約20個含むアルキレン基、炭素を約1〜約20個含むアルキレンオキシ、炭素を約6〜約20個含むアリーレン基、または炭素を約7〜約20個含むアリールアルキレン基であり、Rは、H、炭素を約1〜約50個含むアルキル基、炭素を約6〜約50個含むアリール基、または炭素を約7〜約50個含むアルキルアリール基であり、nは、約1〜約10の数である。
【0007】
さらに他の実施形態では、半結晶性オリゴエステルアミドまたはオリゴエステル樹脂と、着色剤と、インク媒剤とを含み、オリゴエステルアミド樹脂が以下の式を有する、固体転相インクが提供され、
【化2】

式中、R、R、Rは、互いに独立しており、置換または非置換であってもよく、ヘテロ原子が存在していても存在していなくてもよく、さらに、Rは、炭素を約1〜約20個含むアルキレン基、炭素を約1〜約20個含むアルキレンオキシ、炭素を約6〜約20個含むアリーレン基、または炭素を約7〜約20個含むアリールアルキレン基であり、Rは、炭素を約1〜約20個含むアルキレン基、炭素を約1〜約20個含むアルキレンオキシ、炭素を約6〜約20個含むアリーレン基、または炭素を約7〜約20個含むアリールアルキレン基であり、Rは、H、炭素を約1〜約50個含むアルキル基、炭素を約6〜約50個含むアリール基、または炭素を約7〜約50個含むアルキルアリール基であり、nは、約1〜約10の数であり、オリゴエステル樹脂は、以下の式を有し、
【化3】

式中、R、R、Rは、互いに独立しており、置換または非置換であってもよく、ヘテロ原子が存在していても存在していなくてもよく、さらに、Rは、炭素を約1〜約20個含むアルキレン基、炭素を約1〜約20個含むアルキレンオキシ、炭素を約6〜約20個含むアリーレン基、または炭素を約7〜約20個含むアリールアルキレン基であり、Rは、炭素を約1〜約20個含むアルキレン基、炭素を約1〜約20個含むアルキレンオキシ、炭素を約6〜約20個含むアリーレン基、または炭素を約7〜約20個含むアリールアルキレン基であり、Rは、H、炭素を約1〜約50個含むアルキル基、炭素を約6〜約50個含むアリール基、または炭素を約7〜約50個含むアルキルアリール基であり、nは、約1〜約10の数である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の実施形態の半結晶性オリゴマー樹脂のレオロジープロフィール(複素粘度対温度)を示すグラフである。
【図2】図2は、本発明の実施形態で用いられるインク媒剤内に存在する転相インク要素である、ジウレタンおよびC11−アルキル化モノオキサゾリンジオールのレオロジープロフィール(複素粘度対温度)を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の実施形態のインク組成物を他の既知の市販転相インクと比べたレオロジープロフィール(複素粘度対温度)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態は、半結晶性オリゴマー樹脂(例えば、オリゴエステルアミドまたはオリゴエステル、およびこれらの混合物)を含み、ダイレクト・トゥ−・ペーパー(DTP)印刷および/または転写固定インクジェット印刷に適した性質をもつ新規固体インク組成物に関する。いくつかの実施形態では、半結晶性オリゴマー樹脂は、直鎖アミノ−アルカノールおよびジカルボン酸から作られ、ワックス由来の材料ではなく、半結晶性の性質をもつオリゴエステルアミド化合物を含む。この半結晶性オリゴマー物質は、約50℃〜約100℃、または約60℃〜約90℃の温度範囲で液体(溶融)状態から固体状態へとすばやく結晶相転移を示し、この性質は、ホットメルト転相インクジェットインクに適している。本開示の半結晶性オリゴマー樹脂は、さらに、アモルファスの特徴をもち、より特定的には、インク組成物に特定の粘弾性を与えるであろうガラス転移(Tg)温度範囲をもち、インクの脆さを減らし、耐引っかき性を高めることができる。いくつかの実施形態では、半結晶性オリゴマー化合物は、約−10℃〜約50℃、または約−5℃〜約40℃のTg開始温度範囲を示した。さらに、本発明の実施形態は、出発物質として生物源に由来するモノマーから調製される半結晶性オリゴマーを含む「環境にやさしい」持続可能なインクを提供する。
【0010】
さらに、ポリ/オリゴエステルおよびポリ/オリゴエステルアミド中に存在するエステル官能基および特定のアミド官能基は、Bettingerら、Amino Alcohol−based Degradable Poly(ester amide) Elastomers、Biomaterials 29(2008)2315〜2325、Montaneら、Comparative Degradation Data of Polyesters and Related Poly(ester amide)s Derived from 1,4−Butanediol,Sebacic Acid,and α−Amino Acids、Journal of Applied Polymer Science 85(2002)1815〜1824、Armelinら、Study on the Degradability of Poly(ester amide)s Derived from the α−Amino Acids Glycine,and L−Alanine Containing a Variable Amide/Ester Ratio、Polymer 42(2001)7923〜7932、およびQianら、Hydrolytic Degradation Study of Biodegradable Polyesteramide Copolymers Based on ε−Caprolactone and 11−Aminoundecanoic Acid、Biomaterials 25(2004)1975〜1981に記載されているように、良好な生分解性プロフィールをもつことが文献によって知られている。そのため、ポリ/オリゴエステルおよびポリ/オリゴエステルアミドは、「環境にやさしい」持続可能な固体インクジェット組成物を提供するために用いることができる。例えば、この物質は、生体活動(特に、酵素作用)によって分解し、物質の化学構造を顕著に変化させ、その結果、ほとんどが水、二酸化炭素、低分子有機物質に分解されるだろう。
【0011】
半結晶性オリゴマー樹脂は、紙および他の非多孔性材料をはじめとする基材に対し良好な接着性を付与することができ、インク組成物中の他の要素(例えば、任意要素の結晶性転相剤、着色剤、任意要素の粘度調整剤、および酸化防止剤のような他の添加剤)と結合し、良好な吐出性能を確実にするバインダー材料としても作用する。本発明の実施形態は、溶融温度が80℃以上、例えば、約80℃〜約130℃、約90℃〜約120℃、インクが結晶化する温度が約50℃〜約100℃、または約60〜約90℃の範囲、約5℃〜約20℃、または約7℃〜約15℃、または約8℃〜約13℃の温度範囲でのみ、インク結晶化(固化)相転移中、大きな粘度変化(10cPより大きい、つまり、約10cPから約10cPまで)といったいくつかの有利な特性を有する固体インクを提供する。したがって、本発明のオリゴマー樹脂は、オリゴエステル化合物またはオリゴエステルアミド化合物またはこれらの混合物であってもよく、固体インクのための半結晶性要素を提供することができ、望ましいレオロジープロフィールをもち、インクジェット印刷の要求を満たす吐出可能な固体インクを提供することができる。
【0012】
半結晶性オリゴマー樹脂(例えば、本発明の実施形態のオリゴエステルおよびオリゴエステルアミド化合物)を調製する一般的な合成スキームを以下に示す。
【化4】

上に示すように、ジカルボン酸を、場合により、R−ZH(Z=Oの場合、モノアルコールR−OH、Z=NHの場合、モノアミンR−NHであってもよい)であらわされる末端保護剤存在下、二官能アルカノールモノマー(例えば、X=Oの場合、アルカンジオール、またはX=NHの場合、アミノ−アルカノール、およびこれらの混合物)と反応させる。
【0013】
いくつかの実施形態では、半結晶性オリゴマー樹脂は、直鎖、分岐または環状であってもよい種々のアルカンジカルボン酸、また、芳香族ジカルボン酸およびヘテロ芳香族ジカルボン酸から作られてもよく、芳香族基は、炭素を6個まで含むさらなるアルキル基置換基または他の官能基置換基、例えば、ハロゲンF、Cl、Br、I、OH、OCH、OCH−−CH、アミノ、COOH、COOR(Rは、炭素が10個までのアルキル基である)、SOHなどを有していてもよい。例示的なジカルボン酸としては、1,12−ドデカン二酸、1,18−オクタデカン二酸、アゼライン酸(1,9−ノナン二酸)、セバシン酸(1,8−オクタン二酸)、アジピン酸(1,6−ヘキサン二酸)、コハク酸(1,4−ブタン二酸)、1,4−シクロヘキサン二酸、1,2−シクロヘキサン二酸、C−36ダイマー酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸および無水コハク酸のような無水物、およびそれ以外の多くのものが挙げられる。
【0014】
いくつかの実施形態では、半結晶性オリゴマー樹脂は、任意の適切な二官能アルカノールモノマー、例えば、アルカンジオールまたはアミノ−アルカノールから作られていてもよく、このモノマーのアルキル部分は、直鎖、分岐または環状であってもよい。アルカノール部分も、炭素が6個までの芳香族基およびヘテロ芳香族基を含んでいてもよく、さらに、ハロゲンF、Cl、Br、I、OH、OCH、OCH−−CH、アミノ、COOH、COOR(Rは、炭素が10個までのアルキル基である)、SOHなどのような基で置換されていてもよい。
【0015】
いくつかの実施形態では、ジカルボン酸と二官能アルカノールモノマーとの比率は、約2:1〜約0.5:1である。
【0016】
本発明の実施形態では、半結晶性オリゴマー樹脂は、以下の構造を有するオリゴエステルアミド化合物であり、
【化5】

式中、R、R、Rは、互いに独立しており、置換または非置換であってもよく、ヘテロ原子が存在していても存在していなくてもよく、さらに、Rは、炭素を約1〜約20個、または約1〜約10個含むアルキル、例えば、メチル、エチル、ブチルなど、炭素を約1〜約20個、または約1〜約10個含むアルキレンオキシ、例えば、メチレンオキシ、エチレンオキシなど、または、炭素を約4〜約10個含むアリールまたはヘテロアリール、例えば、フェニル、ピリジル、ナフチルなどであり、Rは、上に定義されるとおりのアルキルまたはアリールであり、Rは、上に定義されるとおりのアルキルまたはアリールであり、nは、約1〜約10の数である。さらなる実施形態では、Rは、アルキル、アルキレンオキシまたはアリールであり、Rは、アルキルまたはアリールであり、R3は、アルキルまたはアリールである。本開示のオリゴエステルアミド樹脂の特定の例を以下の表1に示す。
【表1】

【0017】
本発明の実施形態では、半結晶性オリゴマー樹脂は、以下の式を有するオリゴエステルであってもよく、
【化6】

式中、R、R、Rは、互いに独立しており、置換または非置換であってもよく、さらに、Rは、炭素を約1〜約50個含む直鎖、分岐または環状のアルキル、炭素を約1〜約40個含むエチレン系不飽和アルキル基、または炭素を約1〜約20個含むアルキルアリール基であり、Rは、炭素を約1〜約50個含む直鎖、分岐または環状のアルキル、炭素を約1〜約14個含むアリール基、炭素を約1〜約25個含むアルキルアリール基、または炭素を約1〜約50個含むエチレン系不飽和アルキル基であり、Rは、H、炭素を約1〜約50個含む直鎖、分岐、エチレン系不飽和または環状のアルキル基、炭素を約1〜約25個含むアリール基またはアルキルアリール基、または炭素を約1〜約20個含むアルキレンオキシ基である。本発明の実施形態では、非ワックス性であり、生分解性の半結晶性オリゴマー樹脂(例えば、上に示す一般的な合成スキームに示されるように、アミノアルカノールから調製されるオリゴエステルアミド化合物)、およびこの樹脂を含む新規転相インク組成物が提供される。本開示のインク組成物は、ダイレクト・トゥ−・ペーパー(DTP)印刷または転写固定インクジェット印刷プロセスのいずれかで用いることができる。本開示のオリゴエステル樹脂の特定の例を以下の表2に示す。
【表2】

【0018】
いくつかの実施形態では、オリゴエステルアミド樹脂は、半結晶性であり、溶融状態から結晶化させるとき、約10〜15℃の狭い温度範囲ですばやく相転移を示す。製造されるオリゴマー樹脂は、望ましい吐出温度でインクを吐出することが可能であろう十分に低い粘度を有し、別の結晶性低分子量転相剤または粘度調整要素と組み合わせたときにインクのバインダー樹脂としても機能するであろう(インク媒剤として、つまり、インク内容物の50重量%よりも多い)ように、分子量が低い(例えば、約500〜約2,500g/mol、または約600〜約2000g/molの範囲)。この樹脂が半結晶性でもあるため、固有の転相性によって、インクの結晶化が強化される。
【0019】
約100℃〜約150℃、または約110℃〜約140℃の吐出温度で、さらに低い溶融粘度を有する粘度調整媒剤要素と組み合わせることによって、オリゴエステルアミド樹脂を含む転相(固体)インク配合物が開発された。いくつかの実施形態では、粘度調整媒剤要素は、結晶性化合物であり、アルカンウレタン、アルカンジウレタン、アルキルアミド(例えば、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド、ステアリルステアリン酸アミド)、ソルビトール、マンニトールのような単糖類のアルキルエステル、酒石酸、リンゴ酸などのような誘導体、アルキルモノオキサゾリンジオールからなる群から選択されてもよい。このような結晶性転相剤の特定の実施形態およびその特性を以下の表3に示す。
【表3】

表3の化合物1は、米国特許第7,560,587号(引用することでその全体が本明細書に組み込まれる)に開示されている結晶性ジウレタン化合物である。表3の化合物2は、米国特許出願第13/095,221号に開示されている別の結晶性化合物であるC−11アルキル化モノオキサゾリンジオールである。化合物3は、2011年8月2日に出願された、Goredemaらの米国特許出願第13/196,227号(代理人整理番号20101649−US−NP)に開示されている結晶性ジエステルである。
【0020】
図2は、表3の転相インク要素の複素粘度−温度プロフィールを提示しており、(i)ジウレタン(表3の化合物1)の場合、約90℃〜約92℃で、(ii)C11−アルキル化モノオキサゾリンジオール(表3の化合物2)の場合、88℃で結晶化転移を示す。これらの化合物は、実施例1のオリゴエステルアミド樹脂と相溶性であり、容易にブレンドされ、実施例1のオリゴエステルアミドバインダー樹脂の半結晶性転移に近い範囲内で結晶化転移し、開示されているインク組成物のための補完性媒体要素または担持剤要素として適している。
【0021】
いくつかの実施形態では、インク媒剤は、そのほかに他の結晶性要素を含む。これらの要素は、インク媒剤中に、インクの1〜70重量%の量で存在していてもよい。いくつかの実施形態では、媒剤要素が結晶性化合物である場合(媒剤は任意要素であり、特定の組成物では好ましい場合がある)、この要素は、結晶温度が、選択した半結晶性オリゴマー樹脂の結晶化温度の±10℃〜±15℃の範囲内にある。選択される任意要素の結晶性インク媒剤要素は、望ましい吐出温度で、この吐出温度での半結晶性オリゴマー樹脂の粘度よりも粘度が低いのがよい。より好ましくは、任意要素の結晶性インク媒剤要素は、その粘度が、良好な吐出性能に適した粘度を確保するために、最終的なインクジェット組成物の粘度を超えないのがよい。半結晶性オリゴマーバインダー樹脂および任意要素の結晶性インク要素の相対量は、結晶性インクの方が、粘度が低いが、インク媒剤の最終的な粘度が約9〜約14cP、または約9.5cP〜約13cP、または約10cP〜約12cPであり、インクの結晶化温度が約55℃〜約105℃、または約60℃〜約100℃、または約65℃〜約95℃になるような量である。いくつかの実施形態では、これらのインク特性を達成する比率は、インク組成物中、半結晶性オリゴマーバインダー樹脂が約10〜約90重量%、または約10〜約70重量%、または約15〜約60重量%であり、任意要素の結晶性媒剤が約10〜約70重量%、または約20〜約60重量%である。さらに、この実施形態では、インクの稠度は、層分離した晶子の要素または目に見える領域の明らかな密度勾配が存在せず、全体に均一な相を有しているとよい。
【0022】
本発明の実施形態の固体インク組成物のために選択される着色剤は、染料または顔料であってもよく、インク要素と良好な相溶性を有しているとよい。インク中で使用する着色剤の量は、選択する着色剤のスペクトル強度によって変わると思われ、染料または顔料の典型的な範囲は、インク組成物の約1〜約5重量%であってもよい。インク中のさらなる添加剤(例えば、酸化防止剤)は、このような配合物のための典型的な量で使用され、通常は、インク組成物の約1重量%未満の量が加えられる。
【0023】
以下の表4は、本発明の実施形態の数種類のインク配合物を提示している。
【表4】

一例として、インク実施例1は、本発明の実施形態の2種類の特定のオリゴエステルアミド樹脂(つまり、実施例1の樹脂および実施例2の樹脂)をインク組成物の16.0重量%および12.3重量%含む転相固体インクである。選択した低粘度媒剤要素は、結晶性転相化合物であり、炭素が11個のアルキル置換−モノオキサゾリンジオールであり、米国特許出願第13/095,221号に開示されており、引用することでその全体が本明細書に組み込まれている。このモノオキサゾリン化合物を、インクに約64重量%になるように加えた。粘度調整剤S−180(商業的にKemamideまたはステアリルステアリン酸アミドとしても知られている)を、130℃で適切な吐出粘度を与えるようにレオロジー調整剤として約4.5重量%になるように加えた。選択される市販の着色剤は、Ciba Geigy製のOrasol(商標)Blue GN(銅フタロシアニン染料)であり、インクの3重量%になるように加えた。最後に、市販の酸化防止剤Naugard(商標)445を、インクに0.2重量%の少量になるように加えた。インク要素を上に示した順序で一緒に加え、130℃で少なくとも1時間溶融混合した後、型に注ぎ、冷却して固体インクを作成した。最終的なインクの粘度は、130℃で12.5cPであり、82℃で結晶化が開始し(周波数=1Hzでのレオロジーによって決定)、約85℃から約75℃にわたる(範囲が約10℃の)狭い液体−固体相転移を示した。
【0024】
図3は、すばやい相転移を起こすインク実施例1の複素粘度−温度プロフィール(1Hzの一定周波数で温度に対する複素粘度)を示し、Xerox Corp.製のものを含む既知の市販固体インクと比較している。図3は、半結晶性オリゴマー樹脂を含む本発明の実施形態のインクは、市販の固体インク1(Xerox Corp.製)および市販の固体インク2(Xerox Corp.製ではないが、Xerox製インクとある程度近い)と示される2種類の市販インクの間の満足のいく熱特性およびレオロジー特性を有していることを示している。
【0025】
実施形態のインクは、従来の添加剤と関連する既知の機能性を利用するために、従来の添加剤をさらに含んでいてもよい。このような添加剤としては、例えば、少なくとも1つのイソシアネートから誘導される機能性材料、酸化防止剤、消泡剤、すべり剤およびレベリング剤、清澄剤、粘度調整剤、接着剤、可塑剤、分散剤、共力剤などが挙げられる。
【0026】
また、インク媒剤または担持剤は、少なくとも1つのイソシアネートから誘導される材料を含んでいてもよい。イソシアネートから誘導される材料は、2当量のアルコール(例えば、ヒドロアビエチルアルコール)と、1当量以上のイソシアネートまたはジイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)とを反応させることによって得られるウレタン化合物であってもよい。イソシアネートから誘導される材料の別の例は、米国特許第7,560,587号(引用することでその全体が本明細書に組み込まれる)に開示されるある種の結晶性ジウレタン化合物の例である実施例6のウレタン化合物である。他の適切なイソシアネートから誘導される材料としては、米国特許第6,309,453号(引用することでその全体が本明細書に全体的に組み込まれる)の実施例4に記載されるように調製した、3当量のステアリルイソシアネートと、三官能アルコール(例えば、グリセロール)との生成物であるウレタン化合物が挙げられる。イソシアネートから誘導される材料は、インク担持剤中に、インク組成物の少なくとも約2重量%、例えば、約2〜約70重量%、約5〜約65重量%、約8〜約60重量%、約10〜約60重量%の量で存在していてもよい。インクは、場合により、画像を空気または光による酸化から保護するために酸化防止剤を含んでいてもよく、また、インク容器中で、溶融状態で存在しつつ、インク要素が酸化しないように保護してもよい。酸化防止剤が存在する場合、酸化防止剤は、任意の望ましい量または有効な量、例えば、約0.25重量%〜約10重量%、または約0.5重量%〜約5重量%の量で存在していてもよい。
【0027】
インクは、そのほかに任意要素の粘着付与剤(例えば、ロジンゴムまたはトール油樹脂から誘導されるロジン酸の市販の誘導体)を含んでいてもよい。粘着付与剤は、インク中に、任意の有効な量で、例えば、インクの約0.01重量%〜約30重量%、約0.1重量%〜約25重量%、約1重量%〜約20重量%の量で存在していてもよい。
【0028】
可塑剤は、インクの約0.01〜約30重量%、約0.1〜約25重量%、約1〜約20重量%の量で存在していてもよい。
【0029】
任意要素の添加剤が存在する場合、それぞれ単独で、または組み合わせた状態で、インク中に、任意の望ましい量または有効な量で、例えば、インクの約0.1〜約15重量%、または約0.5〜約12重量%の量で存在していてもよい。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の転相インク組成物は、着色剤も含んでいる。任意の望ましい着色剤または有効な着色剤が、染料、顔料、これらの混合物などを含む転相インク組成物中で使用されてもよいが、但し、着色剤は、インク担持剤中に溶解させることができるか、または分散させることができるものに限る。任意の染料または顔料が選択されてもよいが、但し、インク媒体に分散または溶解させることができ、他のインク要素と相溶性であるものに限る。いくつかの実施形態では、溶媒染料が使用される。顔料も、転相インクの適切な着色剤である。
【0030】
また、インクは、インク組成物の顔料塗れ特性を制御するといった既知の特性のために、1種類以上の分散剤および/または1種類以上の界面活性剤を含んでいてもよい。
【0031】
着色剤は、望ましい色または色相を得るために転相インク中に任意の望ましい量または有効な量で、例えば、インク組成物の約0.5重量%〜約20重量%、または約1重量%〜約15重量%、または約2重量%〜約10重量%の量で存在していてもよい。いくつかの実施形態では、転相インクのためのインク媒剤は、示差走査熱量測定法(DSC)によって決定される場合、例えば、目で見た観察および顕微鏡の加熱ステージで測定することによって、融点が約50℃〜約140℃、例えば、約60℃〜約120℃、約65℃〜約110℃であってもよい。さらに、転相インクは、約100℃〜約140℃のインク融点で、吐出粘度が約9cP〜約14cP、例えば、約10cP〜約13cP、約10.5cP〜約12cPである。
【0032】
インク組成物は、任意の望ましい方法または適切な方法によって調製することができる。例えば、インク担持剤の各要素を一緒に混合した後、混合物を少なくとも融点まで、例えば、約60℃〜約150℃、80℃〜約120℃、85℃〜約110℃まで加熱してもよい。インク成分を加熱する前、または、インク成分を加熱した後に着色剤を加えてもよい。顔料が選択された着色剤である場合、インク担持剤に顔料を分散させるために、溶融混合物をアトライタまたはボールミル装置で粉砕してもよい。次いで、加熱した混合物を約5秒〜約10分間またはそれ以上撹拌し、実質的に均質で均一な溶融物を得た後、インクを周囲温度(典型的には約20℃〜約25℃)まで冷却する。このインクは、周囲温度で固体である。特定の実施形態では、作成プロセス中、溶融状態のインクを型に注ぎ、次いで、冷却し、固化させてインクスティックを作成する。
【0033】
このインクを、紙に直接インクジェット印刷するプロセス、または中間転写体に間接的にインクジェット印刷するプロセス(例えば、オフセット印刷)のためのインクで使用してもよい。本明細書に開示されている転相インクを、ホットメルトインクジェット印刷プロセス以外のプロセス、例えば、ホットメルトリソグラフ印刷プロセス、フレキソ印刷プロセス、関連するオフセットインク印刷プロセスで使用することもできる。
【0034】
普通紙、例えば、XEROX 4200紙、XEROX Image Series紙、Courtland 4024 DP紙、罫線付きノート紙、ボンド紙、シリカコーティングされた紙、例えば、Sharp Companyシリカコーティングされた紙、JuJo紙、HAMMERMILL LASERPRINT紙、コーティング紙ストックおよび厚紙ストック、例えば、XEROX Digital Color Elite Gloss紙、透明材料、布地、繊維製品、プラスチック、可とう性ポリマー膜、無機基材、例えば、金属またはケイ素ウエハ、木材などを含む任意の適切な基材または記録シートを使用してもよい。本明細書に記載のインクを、以下の実施例でさらに説明する。全部数および割合は、他の意味であると示されていない限り、重量基準である。
実施例
【0035】
(実施例1)
(オリゴエステルアミド樹脂(表1の樹脂1)の調製)
本実施例のオリゴエステルアミド樹脂は、モノマーとして1,12−ドデカン二酸および6−アミノヘキサノールと、末端保護剤としてドデカノール(ラウリルアルコール)とから出発した樹脂の代表例であり、以下のように調製した。
【化7】

【0036】
上に示したように、末端保護剤であるドデカノールまたはラウリルアルコールとともに、6−アミノヘキサノールを1,12−ドデカン二酸と反応させ、オリゴエステルアミドを製造する。100mLの3ッ口丸底フラスコにアルゴン注入口、デジタル温度制御器に接続した熱プローブ、磁気撹拌棒、短路蒸留ヘッドを取り付け、これに1.172g(10.0mmol)の6−アミノヘキサノール(mp=55℃)、3.455g(15mmol)の1,12−ドデカン二酸(mp=128℃)を入れ、最後に1.863g(10mmol)のドデカノール(ラウリルアルコール)を入れた。この反応混合物を400rpmで撹拌しつつ、溶融するまで加熱した(約100℃)。この温度で、4.2mg(0.002当量、20.1μmol)のFASCAT 4100(n−BuSnOH、Arkemaから市販)をフラスコに入れ、反応混合物を165℃まで徐々に加熱し、2時間加熱を続けた。水蒸気の放出が約135℃で記載され、この温度で、試薬はすべて溶融していた。2時間後、さらに1時間かけて温度を80℃まで上げた。
【0037】
反応の転化率を30、45、60、90、120、180分の間隔でH−NMR分析および13C−NMR分析で追った。H−NMR分析から、6−アミノヘキサノールが180分ですべて反応したことがわかった。次いで、高減圧状態(<0.1mmHg)に5分間おき、溶融樹脂の内部に捕捉されている過剰なHO副生成物を除去した。重量を測ったビーカーに溶融樹脂を希釈せずに注ぎ、不透明のベージュ色樹脂4.4gを得た。この生成物の化学構造の組成をH−NMR分光法によって確認した。
【0038】
スキャン速度10℃/分で加熱冷却サイクルを2回連続するDSCによる樹脂生成物の熱分析から、この樹脂材料は、熱プロフィールが48℃、64℃、90℃に3つの別個の融点転移(ピーク値)を示し、ガラス転移(Tg)が26℃で開始するため、結晶性およびアモルファス性をあわせもつことが示された。
【0039】
Rheometrics RFS3装置(振動周波数1Hz、25mmの平行板形状、200%の歪みを加える)を用い、50℃〜130℃の温度範囲でレオロジー分析を行った。複素粘度−対−温度をプロットしたグラフを図1に示し、この材料が半結晶性であり、約76℃ですばやい結晶化相転移が起こり、130℃での溶融粘度が約50cPであることがわかった。
【0040】
(実施例2)
(オリゴエステルアミド樹脂(表2の樹脂2)の調製)
この実施例のオリゴエステルアミド樹脂を、実施例1の樹脂と同様の手順および同じスケールで調製したが、但し、末端保護剤としてドデカノールの代わりにp−メトキシベンジルアルコール(1.38g、10.0mmol)を使用した。反応の転化率を3時間までH−NMR分析および13C−NMR分析で追い、3時間後に、H−NMR分析から、6−アミノヘキサノールがすべて反応したことがわかった。高減圧状態(<0.1mmHg)に約5分間おき、混合物内に捕捉されている過剰なHO副生成物を除去し、次いで、容器に注ぎ、不透明のベージュ色樹脂5.23gを得た。この生成物の化学構造の組成をH−NMR分光法によって確認した。Rheometrics RFS3装置(振動周波数1Hz、25mmの平行板形状、200%の歪みを加える)を用い、50℃〜130℃の温度範囲でレオロジー分析を行った。複素粘度−対−温度をプロットしたグラフを図1に示し、この材料が半結晶性であり、約75℃ですばやい結晶化相転移が起こり、130℃での溶融粘度が約74.5cPであることがわかった。
【0041】
(実施例3)
(オリゴエステルアミド樹脂(表1の樹脂3)の調製)
この実施例のオリゴエステルアミド樹脂は、C36−Dimer Acidモノマーから出発する樹脂の代表例であり、以下のように調製した。
【化8】

【0042】
上に示したように、PRIPOL 1006(CRODA Inc.から市販されているC−36ダイマー二酸)を、末端保護基として6−アミノヘキサノールおよびUNILIN 350(xが約21の炭素単位であり、Baker−Petroliteから市販されている)を用い、オリゴエステルアミドを製造する。いくつかの実施形態では、n=2、xが約21炭素単位であるオリゴエステルアミド樹脂構造をNMRによって確認した。
【0043】
100mlの反応ケトルに撹拌棒、デジタル温度制御器に接続した熱電対が取り付けられる4ッ口の蓋、アルゴン注入口、短路蒸留ヘッドを取り付け、これに18.44g(32mmol)のCRODA Inc.から入手可能なC−36ダイマー二酸であるPripol 1006、2.52g(22mmol)のSigma Aldrichから入手可能な6−アミノヘキサノール、0.02g(0.096mmol)のFASCAT 4100(n−BuSnOH、Arkemaから市販)を入れた。反応混合物を撹拌しつつ180℃まで徐々に加熱し、加熱を4時間続け、130℃で縮合を最初に観察した。加熱を止め、反応混合物を100℃まで冷却し、8.91g(24mmol)のBaker Petroliteから入手可能なモノカルボン酸であるUnilin 350を加えた。反応混合物を撹拌しつつ、180℃まで徐々に加熱し、180℃で3時間撹拌し、その間にもっと多くの水が集まった。加熱を止め、生成物を120℃まで冷却し、重量を測ったアルミニウムトレーに取り出し、ベージュ色固体19.5gを得た。H−NMR分析から、n=2の構造であることが確認された。
【0044】
(実施例4)
(オリゴエステルアミド樹脂(表1の樹脂4)の調製)
この実施例のオリゴエステルアミド樹脂を、実施例1の樹脂と同様の手順および同じスケールで調製したが、但し、末端保護剤としてドデカノールの代わりにヘキサデカン−1−オールを使用した。この生成物の化学構造の組成をH−NMR分光法によって確認した。Rheometrics RFS3装置(振動周波数1Hz、25mmの平行板形状、200%の歪みを加える)を用い、50℃〜130℃の温度範囲で行ったレオロジー分析から、この材料が半結晶性であり、約70℃ですばやく結晶化相転移が起こり、130℃での溶融粘度が約26.5cPであることがわかった。
【0045】
(実施例5)
(オリゴエステルアミド樹脂(表1の樹脂5)の調製)
この実施例のオリゴエステルアミド樹脂を、実施例1の樹脂と同様の手順および同じスケールで調製したが、但し、1,12−デカン酸の代わりにテレフタル酸を用い、末端保護剤としてドデカノールの代わりに4−(メトキシフェニル)メタノールを使用した。この生成物の化学構造の組成をH−NMR分光法によって確認した。Rheometrics RFS3装置(振動周波数1Hz、25mmの平行板形状、200%の歪みを加える)を用い、50℃〜130℃の温度範囲で行ったレオロジー分析から、この材料が半結晶性であり、約76℃ですばやく結晶化相転移が起こり、130℃での溶融粘度が約50cPであることがわかった。
【0046】
(実施例6)
(オリゴエステルアミド樹脂(表1の樹脂6)の調製)
この実施例のオリゴエステルアミド樹脂を、実施例1の樹脂と同様の手順および同じスケールで調製したが、但し、100mol%の1,12−デカン酸の代わりに10mol%の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸および90mol%の1,12−デカン酸を使用し、末端保護剤としてドデカノールの代わりにヘキサデカン−1−オールを使用した。この生成物の化学構造の組成をH−NMR分光法によって確認した。Rheometrics RFS3装置(振動周波数1Hz、25mmの平行板形状、200%の歪みを加える)を用い、50℃〜130℃の温度範囲で行ったレオロジー分析から、この材料が半結晶性であり、約76℃ですばやく結晶化相転移が起こり、130℃での溶融粘度が約50cPであることがわかった。
【0047】
(実施例7)
(オリゴエステルアミド樹脂(表1の樹脂7)の調製)
この実施例のオリゴエステルアミド樹脂を、実施例1と同様の試薬を用い、反応手順を以下のように変えて調製した。反応混合物を160℃まで徐々に加熱し、加熱を1時間続けた。温度を180℃まで上げ、この温度で3時間維持した。温度を160℃まで下げ、次いで、高減圧状態(<0.1mmHg)に約10分間おき、溶融樹脂の内部に捕捉されている過剰なHO副生成物を除去した。重量を測ったビーカーに溶融樹脂を希釈せずに注いだ。この生成物の化学構造の組成をH−NMR分光法によって確認した。
【0048】
スキャン速度10℃/分で加熱冷却サイクルを2回連続するDSCによる樹脂生成物の熱分析から、この樹脂材料は、熱プロフィールが44℃、59℃、78℃、91℃に3つの別個の融点転移(ピーク値)を示し、ガラス転移(Tg)が29℃で開始するため、結晶性およびアモルファス性をあわせもつことが示された。
【0049】
Rheometrics RFS3装置(振動周波数1Hz、25mmの平行板形状、200%の歪みを加える)を用い、50℃〜130℃の温度範囲でレオロジー分析を行った。このレオロジープロフィールから、この材料が半結晶性であり、約71℃ですばやい結晶化相転移が起こり、130℃での溶融粘度が約31cPであることがわかった。
【0050】
(実施例8)
(オリゴエステルアミド樹脂(表1の樹脂8)の調製)
この実施例のオリゴエステルアミドを、実施例7の樹脂と同様の手順および同じスケールで調製したが、但し、ドデカノールの代わりに2−フェニルエタノールを使用した。この生成物の化学構造の組成をH−NMR分光法によって確認した。Rheometrics RFS3装置(振動周波数1Hz、25mmの平行板形状、200%の歪みを加える)を用い、50℃〜130℃の温度範囲でレオロジー分析を行った。このレオロジープロフィールから、この材料が半結晶性であり、約73℃ですばやい結晶化相転移が起こり、130℃での溶融粘度が約41cPであることがわかった。
【0051】
(実施例9)
(転相成分(表3の化合物2)の調製)
C−11アルキル化モノオキサゾリンジオールは、オリゴエステルアミド半結晶性インクの適切な転相成分の代表例であり、以下のように調製した。
【0052】
1リットルのParr反応器に二重タービンアジテーター、蒸留装置を取り付け、これに200グラムのラウリン酸、92グラムのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(別名トリスアミノ)および0.45グラムのスズ酸(Fascat 4100、Arkema Incから入手可能)を入れた。内容物を2時間かけて165℃まで加熱した後、温度を2時間かけて205℃まで上げ、水を蒸留受け器に集めた。次いで、反応器の圧力を1時間で約1〜2mm−Hgまで下げた後、内容物を金属皿に取り出した。次いで、酢酸エチル(2.5部)およびヘキサン(10部)の混合物中で加熱することによって生成物を溶解させ、室温まで冷却し、濾過した後、純水な生成物を白色結晶性粉末として得た。M.Pt.(DSCによる):99℃(ピーク)。
【0053】
(実施例10)
(転相成分(表3の化合物1)の調製)
3ッ口200mL丸底フラスコに還流コンデンサ、圧力を均等にした滴下漏斗を取り付け、これに1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(1.32g、6.8mmol、Aldrich Chemical Ltd.、(Milwaukee、USA)から入手可能)と、溶媒として無水ヘキサン(30mL)とを入れた。混合物を磁気によって撹拌し、均質な溶液を得て、これを「溶液A」と呼んだ。別の容器に、ステアリルアルコール(3.68g、13.6mmol、オクタデカノール、Aldrich Chemical Ltd.から入手可能)を、無水ヘキサンと無水テトラヒドロフラン(THF)溶媒の1:1混合物60mLに透明溶液が得られるまで溶解させた(「溶液B」と呼んだ)。この溶液Bに、ジブチルスズ(IV)ジラウレートを触媒として加え(86mg)、この溶液を滴下漏斗に移した。室温で撹拌しつつ、溶液Bを溶液Aにゆっくりと加えた。加え終わったら、丸底フラスコ内の混合物全部を内温が約50℃になるまで徐々に加熱し、この温度で約90分間加熱を続けた。この時間経過後、反応は終了しており(H−NMRモニタリングによって確認)、生成物の沈殿が溶媒混合物の懸濁物として観察された。この混合物に約10mLのメタノールを加え、残ったイソシアネート試薬を完全にクエンチした。減圧下で溶媒を除去し、沈殿を濾過し、冷ヘキサンですすぎ、純粋な白色粉末生成物を4.78g(収率95.7%)得た。この生成物の組成をH−NMR分光法および元素分析(C,H,N)によって確認した。
【0054】
(実施例11)
(オリゴエステル樹脂(表2の樹脂1)の調製)
この実施例のオリゴエステル樹脂を以下のように調製した。
【化9】

【0055】
上に示したように、ヘキサン−1,6−ジオールを、末端保護基であるドデカノールまたはラウリルアルコールとともに1,12−ドデカン二酸と反応させ、オリゴエステルを製造する。100mLの3ッ口丸底フラスコにアルゴン注入口、デジタル温度制御器に接続した熱プローブ、磁気撹拌棒、短路蒸留ヘッドを取り付け、これに3.55g(30.0mmol)のヘキサン−1,6−ジオール、10.36g(45mmol)の1,12−ドデカン二酸を入れ、最後に5.59g(30mmol)のドデカノール(ラウリルアルコール)を入れた。この反応混合物を400rpmで撹拌しつつ、溶融するまで加熱した(約100℃)。この温度で、0.013mg(0.06mmol)のFASCAT 4100(n−BuSnOH、Arkemaから市販)をフラスコに入れ、反応混合物を160℃まで徐々に加熱し、1時間加熱を続けた。水蒸気の放出が約135℃で記載され、この温度で、試薬はすべて溶融していた。1時間後、さらに3.5時間かけて温度を185℃まで上げた。
【0056】
溶融樹脂を160℃まで冷却し、重量を測ったビーカーに希釈せずに注ぎ、不透明のベージュ色樹脂14.5gを得た。この生成物の化学構造の組成をH−NMR分光法によって確認した。
【0057】
Ares−G2装置(振動周波数1Hz、25mmの平行板形状、200%の歪みを加える)を用い、50℃〜140℃の温度範囲でレオロジー分析を行った。このレオロジープロフィールから、この材料が半結晶性であり、約51℃ですばやい結晶化相転移が起こり、140℃での溶融粘度が約11.3cPであることがわかった。
【0058】
(実施例12)
(オリゴエステル樹脂(表2の樹脂2)の調製)
【0059】
以下に示すように、ヘキサン−1,6−ジオールを1,12−ドデカン二酸と反応させる。
【化10】

【0060】
100mLの3ッ口丸底フラスコにアルゴン注入口、デジタル温度制御器に接続した熱プローブ、磁気撹拌棒、短路蒸留ヘッドを取り付け、これに4.0g(33.8mmol)のヘキサン−1,6−ジオール、15.59g(67.7mmol)の1,12−ドデカン二酸を入れた。この反応混合物を400rpmで撹拌しつつ、溶融するまで加熱した(約140℃)。この温度で、0.014mg(0.068mmol)のFASCAT 4100(n−BuSnOH、Arkemaから市販)をフラスコに入れ、反応混合物を160℃まで徐々に加熱し、加熱を1時間続けた。1時間後、さらに4.5時間かけて温度を185℃まで上げた。
【0061】
溶融樹脂を160℃まで冷却し、重量を測ったビーカーに希釈せずに注ぎ、不透明のベージュ色樹脂16.9gを得た。この生成物の化学構造の組成をH−NMR分光法によって確認した。
【0062】
スキャン速度10℃/分で加熱冷却サイクルを2回連続するDSCによる樹脂生成物の熱分析から、この樹脂材料は、熱プロフィールが78℃および106℃に3つの別個の融点転移(ピーク値)を示し、ガラス転移(Tg)が42℃で開始するため、結晶性およびアモルファス性をあわせもつことが示された。
【0063】
Ares−G2装置(振動周波数1Hz、25mmの平行板形状、200%の歪みを加える)を用い、50℃〜140℃の温度範囲でレオロジー分析を行った。このレオロジープロフィールから、この材料が半結晶性であり、約83℃ですばやい結晶化相転移が起こり、140℃での溶融粘度が約16.5cPであることがわかった。
【0064】
(実施例13)
(固体インク組成物(表4のインク実施例1)の調製)
代表例として、半結晶性オリゴエステルアミド樹脂(表1の実施例1および2の樹脂)および結晶性転相要素(表3の実施例2、転相要素)で構成される固体インクを以下の様式で調製した。
【0065】
60mLの褐色ガラスビーカーに、以下の要素を以下の順序で加えた。(1)実施例1の樹脂であるオリゴエステルアミド樹脂(1.61g、つまりインクの16重量%)、(2)実施例2の樹脂であるオリゴエステルアミド樹脂(1.23g、つまりインクの12.3重量%)、表3の実施例2の再結晶化されたC11−アルキル化モノオキサゾリンジオール(6.40g、つまりインクの64.0重量%)、(3)粘度調整剤S−180(0.44g、つまりインクの4.4重量%、Kemamideまたはステアリルステアリン酸アミドとして市販)、(4)Orasol Blue GN染料(0.3g、つまりインクの3重量%、Ciba Geigyから入手可能)、(5)Naugard 445酸化防止剤(0.02g、つまりインクの0.2重量%)。このインク要素を350rpmでマグネチックスターラーを用いつつ130℃で溶融しつつ、少なくとも1時間一緒に混合した後、型に注ぎ、冷却して固体インクにした。
【0066】
このインクは、サンプル全体にわたって均一な青色の外観をしており、130℃での粘度は、RFS3歪み制御型レオメーター(周波数=1Hz、25mmの平行板形状を用いる)で決定した場合、12.5cPであり、結晶化開始温度が82℃であり(レオロジーによって決定)、約85℃〜約75℃にわたる(範囲が約10℃の)狭い液体−固体相転移を示した。
【0067】
(実施例14)
(固体インク組成物(表4のインク実施例2)を調製)
半結晶性オリゴエステルアミド樹脂と、表4に示されている結晶性転相要素とで構成される固体インクをインク実施例1に関する実施例9で用いたのと同じ方法にしたがって調製した。
【0068】
(実施例15)
(固体インク組成物(表4のインク実施例3)の調製)
半結晶性オリゴエステルアミド樹脂と、表4に示されている結晶性転相要素とで構成される固体インクをインク実施例1に関する実施例9で用いたのと同じ方法にしたがって調製した。
【0069】
(実施例16)
(固体インク組成物(表4のインク実施例4)の調製)
半結晶性オリゴエステルアミド樹脂と、表4に示されている粘度調整剤とで構成される固体インクをインク実施例1に関する実施例9で用いたのと同じ方法にしたがって調製した。
【0070】
(実施例17)
(固体インク組成物(表4のインク実施例5)の調製)
半結晶性オリゴエステルアミド樹脂と、表4に示されている結晶性転相要素とで構成される固体インクをインク実施例1に関する実施例9で用いたのと同じ方法にしたがって調製した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル、オリゴエステル、ポリエステルアミドおよびオリゴエステルアミドからなる群から選択される半結晶性オリゴマー樹脂と、
任意要素の着色剤と、
インク媒剤とを含み、前記半結晶性オリゴマー樹脂が、ジカルボン酸または無水物またはジエステル、二官能アルカノールモノマー、任意要素の一官能末端保護反応剤の縮合反応から作られる、固体転相インク。
【請求項2】
前記オリゴマー樹脂が、オリゴエステルであり、以下の式を有し、
【化1】

式中、R、R、Rは、互いに独立しており、置換または非置換であってもよく、ヘテロ原子が存在していても存在していなくてもよく、さらに、Rは、炭素を約1〜約20個含むアルキレン基、炭素を約1〜約20個含むアルキレンオキシ、炭素を約6〜約20個含むアリーレン基、または炭素を約7〜約20個含むアリールアルキレン基であり、Rは、炭素を約1〜約20個含むアルキレン基、炭素を約1〜約20個含むアルキレンオキシ、炭素を約6〜約20個含むアリーレン基、または炭素を約7〜約20個含むアリールアルキレン基であり、Rは、H、炭素を約1〜約50個含むアルキル基、炭素を約6〜約50個含むアリール基、または炭素を約7〜約50個含むアルキルアリール基であり、nは、約1〜約10の数である、請求項1に記載の固体転相インク。
【請求項3】
前記オリゴマー樹脂が、オリゴエステルアミドであり、以下の式を有し、
【化2】

式中、R、R、Rは、互いに独立しており、置換または非置換であってもよく、ヘテロ原子が存在していても存在していなくてもよく、さらに、Rは、炭素を約1〜約20個含むアルキレン基、炭素を約1〜約20個含むアルキレンオキシ、炭素を約6〜約20個含むアリーレン基、または炭素を約7〜約20個含むアリールアルキレン基であり、Rは、炭素を約1〜約20個含むアルキレン基、炭素を約1〜約20個含むアルキレンオキシ、炭素を約6〜約20個含むアリーレン基、または炭素を約7〜約20個含むアリールアルキレン基であり、Rは、H、炭素を約1〜約50個含むアルキル基、炭素を約6〜約50個含むアリール基、または炭素を約7〜約50個含むアルキルアリール基であり、nは、約1〜約10の数である、請求項1に記載の固体転相インク。
【請求項4】
前記インク媒剤が、結晶性化合物を含む、請求項1に記載の固体転相インク。
【請求項5】
前記インク媒剤は、結晶化温度が前記オリゴマー樹脂の結晶化温度の±15℃の範囲内にある、請求項4に記載の固体転相インク。
【請求項6】
前記インクは、溶融温度が80℃以上である、請求項1に記載の固体転相インク。
【請求項7】
前記インクは、結晶化温度が約50〜約110℃である、請求項1に記載の固体転相インク。
【請求項8】
前記インクは、約20℃〜約60℃の温度範囲で粘度が1×10cPよりも大きい、請求項1に記載の固体転相インク。
【請求項9】
前記半結晶性オリゴマー樹脂は、分子量が約500〜約2,500g/molである、請求項1に記載の固体転相インク。
【請求項10】
ポリエステル、オリゴエステル、ポリエステルアミドおよびオリゴエステルアミドからなる群から選択される半結晶性オリゴマー樹脂と、
着色剤と、
インク媒剤とを含み、前記オリゴマー樹脂が、以下の反応によってあらわされる、ジカルボン酸、二官能アルカノールモノマー、任意要素の一官能末端保護反応剤の縮合反応から作られ、
【化3】

式中、X=O、NH、およびこれらの混合物であり、Z基=任意要素の末端保護剤RZH中のOまたはNHであり、R、R、Rは、互いに独立しており、置換または非置換であってもよく、ヘテロ原子が存在していても存在していなくてもよく、さらに、Rは、炭素を約1〜約20個含むアルキレン基、炭素を約1〜約20個含むアルキレンオキシ、炭素を約6〜約20個含むアリーレン基、または炭素を約7〜約20個含むアリールアルキレン基であり、Rは、炭素を約1〜約20個含むアルキレン基、炭素を約1〜約20個含むアルキレンオキシ、炭素を約6〜約20個含むアリーレン基、または炭素を約7〜約20個含むアリールアルキレン基であり、Rは、H、炭素を約1〜約50個含むアルキル基、炭素を約6〜約50個含むアリール基、または炭素を約7〜約50個含むアルキルアリール基であり、nは、約1〜約10の数である、固体転相インク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−251146(P2012−251146A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−115117(P2012−115117)
【出願日】平成24年5月18日(2012.5.18)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】