説明

単一方向に配向された液晶分子の薄膜製造方法ならびに液晶素子及び電子素子

【課題】シリコンなどの基板上に簡単な方法で、広い面積に対して、均一かつ単一方向に整列された液晶分子を包含する薄膜の製造方法、電子素子又は液晶素子のような産業分野において効率的に活用することを目的とする。
【解決手段】液晶分子を疎水性に表面処理された基板上にコーティングする工程と、前記コーティング層を磁場の存在下、前記液晶分子が等方相になるように温度を上げる工程と、前記等方相の液晶分子が液晶相になるように温度を下げて前記液晶分子が円柱型ナノ構造体を形成する工程とを含む単一方向に配向された液晶分子の薄膜製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子素子などの製造に使用される液晶素子の製造方法に関し、より詳細には、シリコンなどの基板上に簡単な方法で、広い面積に対して均一かつ単一方向に整列された液晶分子を包含する液晶薄膜を製造する方法及びこれによって製造される液晶素子及び電子素子などに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶分子、特にディスク型液晶分子は、分子間のπ−π結合によってディスク型の分子が自己組立によって円柱形状の1次元的な構造を形成するが、ディスク型液晶分子は温度を上昇させると、それぞれの分子が自由に動いて構造を形成しない等方相(isotropic phase)となり、温度を下げるに従って分子が結合して円柱形状の構造を形成する円柱状液晶相(columnar liquid crystal phase)を形成することになる。
【0003】
このようなディスク型液晶分子が円柱形状の単一方向に配向されると、整列された方向に良好な電気伝導度を示すため、電界効果トランジスタ(FET)、発光ダイオード(LED)などの電子素子分野において利用することが可能となる。したがって、ディスク型液晶分子円柱を単一の方向に整列する方法は、ディスク型液晶分子を活用するために重要な技術として研究されている。
【0004】
現在、種々のディスク型液晶分子に対する単一方向への整列方法が提案されている。代表的な例として、ディスク型液晶分子溶液をノズルによって動く基板上に散布し、溶媒を蒸発させることによって濃度差が生じるようにして基板の動く方向に整列させる方法が提案されている(例えば、非特許文献1)。また、ディスク型液晶分子を部分的に加熱し、温度差が生じるようにして温度差の生じる方向に整列させる方法(例えば、非特許文献2)、基板上に予め単一方向に整列されたポリマー層上にディスク型液晶分子の溶液を滴下し、溶媒を蒸発させながらポリマー層と同一な方向に整列されるようにする方法(例えば、非特許文献3)などが提案されている。しかし、前記従来の整列方法はいずれも工程が複雑であり、かつ生産性が低いという問題がある。
【0005】
したがって、ディスク型液晶分子を電子素子として活用するためには、素子としての機能と生産性とを向上させることができるように、基板上の広い面積において均一かつ単一方向に整列されたディスク型液晶分子を包含する薄膜を得るためのより簡単な方法が必要となる。
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 1682-1683
【非特許文献2】Chem. Mater. 2000, 12, 2353-2362
【非特許文献3】Adv. Mater. 2003, 15, 495-499
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記のような従来技術の有する問題と当面の必要性を解決するために提案するものであって、その目的は、シリコンなどの基板上に簡単な方法で、広い面積に対して、均一かつ単一方向に整列された液晶分子を包含する薄膜の製造方法を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、シリコンなどの基板上に簡単な方法で、広い面積に対して、均一かつ単一方向に整列された液晶分子を包含する薄膜が形成された液晶素子又はこれを包含する電子素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、液晶分子を疎水性に表面処理された基板上にコーティングする工程と、前記コーティング層を磁場の存在下、前記液晶分子が等方相になるように温度を上げる工程と、前記等方相の液晶分子が液晶相になるように温度を下げて前記液晶分子が円柱型ナノ構造体を形成する工程とを含む単一方向に配向された液晶分子の薄膜製造方法を提供する。
【0009】
なお、本発明の別の観点から、水平方向に配向された液晶分子のナノ構造体によってコーティングされた基板を磁場の存在下、前記ナノ構造体が等方相になるべく温度を上昇させる工程と、前記ナノ構造体が液晶相になるべく温度を下げる工程とを含む単一方向に配向された液晶分子を包含する液晶薄膜の製造方法であってもよい。
【0010】
さらに、本発明は疎水性に表面処理された基板と、前記基板に水平方向でかつ単一方向に配向された液晶分子のナノ構造体を含有する液晶薄膜を包含してなる液晶素子を提供する。
【0011】
また、本発明は疎水性に表面処理された基板と、前記基板に水平方向でかつ単一方向に配向された液晶分子のナノ構造体の液晶薄膜を有する液晶素子を包含してなる電子素子を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シリコンなどの基板上に簡単な方法により、広い面積において、均一にして単一の方向に配向・整列された液晶分子を包含する薄膜を作製することができる。このように作製された液晶薄膜を利用する液晶素子又は、電子素子の産業分野において効率的に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明では、磁場効果と表面効果の両効果を利用して液晶分子が単一方向に配向された液晶薄膜を作製する。
【0014】
先ず、表面効果を利用する場合、基板が疎水性を有するように表面処理する。この工程において、基板に疎水性を付与することのできる物質としては、SiO、Alのような絶縁体の表面には、オクタデシルトリクロロシラン(OTS)のようなアルキルトリクロロシラン(CH(CH)n−1SiCl)を使用することができる。また、Au、Ag、Cuのような金属表面にはブタンチオール(n=4)、オクタンチオール(n=8)、ドデシルチオール(n=12)のようなアルカンチオール(CH(CH)n−1SH)などを使用することができる。これらの物質によって表面処理された疎水性を有する基板は、液晶分子と相互作用し、この液晶分子が円柱形状のナノ構造体を形成するとともに、このナノ構造体が、基板の垂直方向ではなく、水平方向のみに配向するようにすることができる。なお、液晶分子は、通常、コアを中心に、コアの外側に1以上の疎水性を有する側鎖(例えば、アルキル基等)が配置した構成をとっており、その形状としては限定されないが、例えば、ディスク型が挙げられ、この外側の疎水性基と基板とが相互作用する。
【0015】
本発明で使用可能な液晶分子の例を挙げると、コバルトオクタ(n‐アルキルチオ)ポルフィラジン、ニッケル(Ni)オクタ(n−アルキルチオ)ポルフィラジン、亜鉛(Zn)オクタ(n−アルキルチオ)ポルフィラジン等を含む金属ポルフィラジン(metalloporphyrazine)の誘導体と、ヘキサ(4‐ドデシルフェニル)ヘキサ‐ぺリ‐ヘキサベンゾコロネン等を含むヘキサ‐ぺリ‐ヘキサベンゾコロネンの誘導体及び2,3,6,7,10,11‐ヘキサ‐アルコキシトリフェニレンを含むトリフェニレン誘導体などが挙げられる。
【0016】
前述のように疎水性に表面処理された基板上に液晶分子をスピンコーターなどを利用して液晶薄膜を形成することができる。このとき、液晶薄膜の形成方法は特に限定されないが、スピンコーティング法が好適に用いられる。スピンコーティング法を利用することにより、回転速度と時間を調節して、基板上に多様な厚さの均一な薄膜を形成することができる。
【0017】
次いで、疎水性に表面処理された基板上の液晶薄膜を所定の強度で磁場を印加しながら、基板上に形成された液晶薄膜を構成する液晶分子が等方相になるべく温度を昇温させた後、さらに前記の等方相になった液晶分子が液晶相になるように温度を降温させる。これによって、ディスク型液晶分子の円柱状ナノ構造体を磁場の方向で垂直方向に配向させることができる。このとき、前記磁場の印加強度は、液晶分子が所定の方向に配向する強度であれば特に限定されることなく、例えば、液晶分子の種類によって適宜変更することができる。具体的には、1T程度以上が挙げられる。
【0018】
一般に、液晶分子は、中心に芳香族成分を有し、例えば、2分子以上が集まって、集合体を形成し、これによってナノ構造体を構成する。なお、液晶分子は、例えばディスク型であり、ナノ構造体は、例えば円柱形状である。この集合体の磁場に対する自由エネルギーは、
【0019】
【数1】

で表される。この場合、芳香族成分の反磁性の性質によってΔχが陰数の値を有する。したがって、自由エネルギーを最少化するための方向である磁場の垂直方向に液晶分子の円柱状ナノ構造体が配向されるようになる。
【0020】
このように磁場効果と表面効果とを同時に利用したディスク型液晶分子の配向方法は、基板上の広い面積にかけて極めて均一にして単一方向に整列されたディスク型液晶分子を含む薄膜を簡単に作製することができる。
【0021】
このように配向された液晶分子が含まれたナノ構造体は、全ての部分で同一の方向に整列されているので、液晶分子の電子素材、例えば、電界効果トランジスタ(FET)、発光ダイオード(LED)などの作製において有用に適用される。
【0022】
以下に、本発明のより確実な理解のために、前記製造工程をより具体的に実施例によって詳細に説明する。ただし、これらの実施例は、本発明の内容を理解するために提示するだけであり、本発明の権利範囲が本実施例に限定されるものではない。
【0023】
本実施例において、液晶分子は、例えば、ディスク型のコバルトオクタ(n−アルキルチオ)ポルフィラジン(CoS10)を使用した。この液晶分子の化学構造を図1に図示する。なお、この場合のアルキル基の炭素数は特に限定されず、1〜50程度、2〜20程度、特に、8〜16程度、10〜14程度が例示される。
【0024】
液晶薄膜を製造するために表面を洗浄したシリコン基板を準備する。本実施例においては下記の方法によって準備した。まず、30mm×30mmのサイズに切断した厚さ1mmのシリコン基板をガラス皿に入れて、硫酸と過酸化水素とを2:1で混合した溶液を、皿中のシリコン基板が完全に浸漬する程度入れて、水槽型のソニケーター(Sonicator)で30分間ソニケーションした。
【0025】
次いで、ガラス皿から硫酸と過酸化水素溶液とを注ぎ出した後、さらにアセトンをシリコン基板が浸漬する程度入れて前記と同様の方法でソニケーションした。
【0026】
続いて、ガラス皿からアセトンを注ぎ出した後、エタノールをシリコン基板が浸漬する程度入れて前記と同様の方法でソニケーションした。
【0027】
最後に、ガラス皿からエタノールを注ぎ出した後、脱イオン水(D.I water:deionized water)をシリコン基板が浸漬する程度入れて、同様の方法でソニケーションした。その後、シリコン基板を皿中の脱イオン水を利用して洗浄した。このように処理したシリコン基板を、ガラス皿中の脱イオン水の中にて保管した。
【0028】
次に、シリコン基板の表面処理のために、脱イオン水中に保管されているシリコン基板を圧縮空気を利用して水気を除去した。その後、基板の面が重ならないようにしてガラス皿に入れた。このガラス皿にトルエンとOTSを250:1の割合で混合した溶液をシリコン基板が浸漬する程度注ぎ入れて1時間静置した。その後、ガラス皿中の溶液を注ぎ出してトルエンだけをさらにシリコン基板が浸漬する程度注ぎ入れ、水槽型ソニケーターによって15分間ソニケーションした。最終的に、基板をトルエンで洗浄した後、ガラス皿に窒素気体を取り入れて窒素雰囲気で乾燥させた。
【0029】
続いて、スピンコーティングするために、ディスク型液晶分子CoS10を溶媒と混合してCoS10溶液を作製した。この際、バイアルに10mgのCoS10を入れ、10mg/mlの濃度になるようにクロロホルム1mLを注入し、CoS10溶液とした。
【0030】
また、予め準備したOTSで表面処理されたシリコン基板と前記のCoS10溶液を利用し、スピンコーターによってコーティングした。さらに詳しく説明すると、スピンコーターに、OTSによって表面処理された30mm×30mmサイズのシリコン基板を載置し、その上にCoS10溶液の1mL程度をシリコン基板の表面が全て溶液に浸かるほど滴下した後、4000rpmの速度で30秒間回転させてCoS10の液晶薄膜を得た。このとき、スピンコーティングが終了した後にも、溶媒が全て蒸発するように約3分間待機し、スピンコーターから試料基板を取り出した。
【0031】
以上のようにして、得られたディスク型液晶薄膜の厚さは、85nm程度であることをX線反射率の測定を通じて確認した(図2)。
【0032】
以下に、作製されたディスク型液晶分子を包含する液晶薄膜の試料基板を磁場下において等方相になるように温度を昇温させた後、さらに円柱形状の液晶相になるように温度を下げることによって液晶分子を単一方向に配向させる実施例を説明する。
【0033】
電磁石のN極とS極との間に試料を加熱するためにその中間にブロックを置いた。このブロックを温度調節機により、230℃に加熱した後、準備された試料をブロックの上に載置し、電磁石のN極とS極との間の磁場を約1.07Tに設定した。15分間待機した後、温度調節機の設定温度を80℃に変えて試料を80℃まで自然冷却した。その後、試料をブロックから取り出した。この過程において試料表面の最高温度は220℃ほどであり、これは本実施例に使用されたディスク型液晶分子であるCoS10が円柱形状の液晶相から等方相に変化する温度より高い温度である。
【0034】
このように、ディスク型液晶分子を含む薄膜を等方相に作製した後、液晶相に冷却する過程においてCoS10分子が円柱形状の構造をなし、この構造体が磁場で反応して動くようにした。なお、この試料が冷却された温度80℃は、等方相から円柱形状の液晶相に変化する温度より低い温度である。
このようにして、ディスク型液晶分子を含む薄膜を磁場の作用によって配向させた状態で固定させることができた。
【0035】
CoS10の相変化温度は、示差走査熱量測定法を通じて得られた(図3)。
【0036】
作製されたディスク型液晶薄膜の配向は、視射角入射X線小角散乱(grazing incidence small angle X-ray scattering:GISAXS)法を利用して確認することができた。
【0037】
本発明における方法に従って磁場を印加した場合、図4に示すように、ディスク型液晶分子10の円柱状ナノ構造体11がシリコン基板12と水平方向となるとともに、磁場の方向と垂直方向に配向されて、入射ビームを所定の方向に出射させることが可能となる。
一方、磁場の印加なしに温度を昇温、降温する場合、図5に示すように、表面効果によってディスク型液晶分子の円柱状ナノ構造体がシリコン基板と水平方向にはなるが、単一方向には配向されないので、所定方向からX線を入射しても、いかなる方向にも又は所望の方向にX線を出射させることができない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のディスク型液晶分子の化学構造を示す図面である。
【図2】本発明によるディスク型液晶薄膜のX線反射率の測定結果を示すグラフである。
【図3】本発明によるディスク型液晶分子の示差走査熱量測定法(DSC)によって測定した結果のグラフである。
【図4】磁場を印加して単一方向に配向されたディスク型液晶分子の薄膜を視射角入射X線小角散乱法(GISAXS)によって測定した結果図である。
【図5】磁場の印加なしに作製した薄膜の視射角入射X線小角散乱法(GISAXS)によって測定した結果図である。
【符号の説明】
【0039】
10 液晶分子
11 ナノ構造体
12 シリコン基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶分子を疎水性に表面処理された基板上にコーティングする工程と、前記コーティング層を磁場の存在下、前記液晶分子が等方相になるように温度を上げる工程と、前記等方相の液晶分子が液晶相になるように温度を下げて前記液晶分子が円柱型ナノ構造体を形成する工程とを含む単一方向に配向された液晶分子の薄膜製造方法。
【請求項2】
前記液晶分子はディスク型である請求項1に記載の単一方向に配向された液晶分子の薄膜製造方法。
【請求項3】
前記液晶分子はコバルトオクタ(n−アルキルチオ)ポルフィラジンである請求項1または2に記載の単一方向に配向された液晶分子の薄膜製造方法。
【請求項4】
前記磁場を1T以上にして薄膜上に加える請求項1に記載の単一方向に配向された液晶分子の薄膜製造方法。
【請求項5】
疎水性に表面処理された基板と、前記基板に水平方向でかつ単一方向に配向された液晶分子のナノ構造体を含有する液晶薄膜を包む液晶素子。
【請求項6】
前記液晶分子はディスク型である請求項5に記載の液晶素子。
【請求項7】
前記ナノ構造体は円柱形状である請求項5に記載の液晶素子。
【請求項8】
前記液晶分子はコバルトオクタ(n−アルキルチオ)ポルフィラジンである請求項5または6に記載の液晶素子。
【請求項9】
疎水性に表面処理された基板と、前記基板に水平方向でかつ単一方向に配向された液晶分子のナノ構造体薄膜を有する液晶素子を含む電子素子。
【請求項10】
前記液晶分子はディスク型である請求項9に記載の電子素子。
【請求項11】
前記ナノ構造体は円柱形状である請求項9に記載の電子素子。
【請求項12】
前記液晶分子はコバルトオクタ(n−アルキルチオ)ポルフィラジンである請求項9または10に記載の電子素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−116937(P2008−116937A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268727(P2007−268727)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(592127149)韓国科学技術院 (129)
【Fターム(参考)】