説明

単分散球状無機蛍光体及びその製造方法、並びに、規則配列体

【課題】発光強度が高く、コロイド結晶を製造可能であり、バイオ医療への応用も可能な単分散球状無機蛍光体及びその製造方法、並びに、このような単分散球状無機蛍光体を用いた規則配列体を提供すること。
【解決手段】平均粒子径が0.1〜1.5μmであり、単分散度(=(粒子径の標準偏差)×100/(粒子径の平均値))が10%以下であり、球状シリカマトリックス中に酸化物蛍光体ナノ粒子が分散している単分散球状無機蛍光体及びその製造方法、並びに、このような単分散球状無機蛍光体を規則配列させた規則配列体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単分散球状無機蛍光体及びその製造方法、並びに、規則配列体に関し、さらに詳しくは、フォトニクスデバイス、フィールドエミッションデバイス、プラズマディスプレイパネル、バイオ医療等への幅広い応用が可能な、化学的安定性に優れる単分散球状無機蛍光体及びその製造方法、並びに、このような単分散球状無機蛍光体を規則配列させることにより得られる規則配列体に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子径のばらつきが小さい(いわゆる、単分散な)コロイド粒子を溶媒に分散させ、溶媒を蒸発させると、コロイド粒子が規則的に配列して規則構造(コロイド結晶)を形成することが知られている。このようなコロイド結晶は、ブラッグ回折により、その格子定数に対応した波長の電磁波を反射することができる。
例えば、コロイド結晶がサブミクロンオーダーの粒子径を持つコロイド粒子からなる場合には、紫外光や可視光から赤外光までの範囲の波長をブラッグ反射することができる。可視光をブラッグ反射する場合、コロイド結晶は、構造色を呈する。このような特徴を利用して、コロイド結晶は、構造色を利用した色材、特定の波長の光を透過しない光フィルター、特定の光を反射するミラー、フォトニック結晶と呼ばれる新規な光機能材料、光スイッチ、光センサ等への応用が考えられている。
【0003】
一方、特定の励起波長により蛍光を発する蛍光体を含む無機材料も知られている。このような無機蛍光体は、フィールドエミッションディスプレイやプラズマディスプレイパネル用の蛍光体粒子として、また、多孔性の蛍光体粒子は、バイオ医療の分野におけるドラッグデリバリー用の粒子としての応用が期待されている。いずれの場合においても、無機蛍光体粒子には、粒子径が小さく、かつ、粒度分布が狭いことが求められている。
さらに、蛍光機能を有する無機材料を単分散コロイド粒子にすることができれば、その粒子からコロイド結晶を作製することができる。このようなコロイド結晶は、構造色と蛍光の両方の特性を示すので、構造色と蛍光のスイッチングが可能と考えられる。
【0004】
このような蛍光機能を有する無機材料からなる微粒子及びその製造方法については、従来から種々の提案がなされている。
例えば、非特許文献1には、
(1) テトラエチルオルトシリケート(TEOS)、水及びアンモニアの混合物を室温で4時間攪拌し、300〜1200nmのSiO2粒子を生成させ、
(2) Y23及びEu23を溶解させた硝酸溶液に、H3BO3、グリセロール及びポリエチレングリコール(PEG)を加えてゾル溶液とし、このゾル溶液にSiO2粒子を加えて3時間攪拌し、
(3) SiO2粒子を遠心分離し、乾燥(100℃×1h)及びアニール(800℃×2h)する、
ことにより得られる単分散でコア−シェル型のSiO2@YBO3:Eu3+球状粒子が開示されている。
同文献には、
(1) ゾル溶液へのSiO2粒子の添加、並びに、乾燥及びアニールを複数回繰り返すと、YBO3:Eu3+シェルの厚さを厚くすることができる点、
(2) SiO2粒子にY0.9Eu0.1BO3シェルを1層コートすると、球状で均一な形態を保つが、4層コートすると、未コートのSiO2粒子に比べて表面の平滑性が低下する点、
が記載されている。
【0005】
また、特許文献1には、シリカゾルと硝酸ユウロピウム水溶液とを含む混合溶液を霧化して液滴とし、キャリアガスを用いて液滴を電気炉内に導入し、所定の温度で加熱することにより得られる非晶質複合酸化物粒子が開示されている。
同文献には、このような方法により得られた複合酸化物粒子の蛍光強度は、Euが20mol%の時に極大値になる点が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、
(1) テトラエトキシシラン、トリスアセチルアセトナトユウロピウムを溶解させた溶液を用いて、複合酸化物ゾル水溶液を作製し、
(2) ゾル水溶液を有機溶媒に添加してエマルジョン溶液とし、
(3) エマルジョン溶液に重合促進剤を添加し、ゾル粒子をゲル化させ、
(4) 得られた粉体を700℃で焼成する
ことにより得られる蛍光性シリカ多孔質球状粒子が開示されている。
同文献には、このような方法により、粒子の全体にわたって蛍光体(ユウロピウム)を均一に散在させることができる点が記載されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、一般式:(R1-x、Erx)23(但し、Rは、Y、La、Gd及びLuのうちの少なくとも1種。0.001≦x0.20)で表されるアップコンバージョン蛍光体微粒子、及び、一般式:(R1-x-y、Erx、Yby)23(但し、Rは、Y、La、Gd、及びLuのうちの少なくとも1種。0.001≦x≦0.20、0<y≦0.20)であるアップコンバージョン蛍光体微粒子が開示されている。
同文献には、このような蛍光体微粒子は、500〜2000nmの波長の光により励起され、アップコンバージョン発光する点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−169014号公報
【特許文献2】特開平11−61113号公報
【特許文献3】特開2004−292599号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】C.Lin et al., Inorganic Chemistry, 2007, 46, 2674-2681
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
蛍光機能を有するコロイド結晶を得るためには、蛍光機能を有する単分散なコロイド粒子が必要となる。また、粒子の発光強度を高めるためには、蛍光物質の濃度を高める必要がある。
例えば、非特許文献1に開示されているコア−シェル型粒子の場合、蛍光体層(シェル)を厚くすれば、粒子の発光強度を高めることができる。しかしながら、蛍光体層を厚くすると、粒子表面が荒れたり、合成の過程で粒子同士が接合するという欠点がある。そのため、この方法で得られた粒子を自己集積させても、規則配列体は得られない。また、この方法では、バイオ医療への応用が可能な多孔性の発光粒子は得られない。
一方、特許文献1、2に開示されている方法の場合、蛍光物質が高濃度、かつ、均一に分散した蛍光体粒子が得られる。しかしながら、噴霧法やエマルジョン法では、コロイド結晶を作製可能な程度の狭い粒度分布を持つ粒子は得られない。
【0011】
また、コロイド結晶を構成するコロイド粒子が発光色素を含む場合、粒子は色素の色を帯びるために、明瞭な構造色を呈さない。従って、構造色と蛍光のスイッチを可能とするには、可視域に吸収を持たない単分散球状蛍光体粒子が求められる。さらに、単分散コロイド粒子の粒子径を制御し、コロイド結晶の内部で発光する蛍光波長とブラッグ反射波長を一致させれば、蛍光をコロイド結晶内部に閉じこめて、発光増強や発光の指向性制御を行うことも可能となる。しかしながら、このような蛍光体粒子が得られた例は、従来にはない。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、発光強度が高く、コロイド結晶を製造可能であり、バイオ医療への応用も可能な単分散球状無機蛍光体及びその製造方法、並びに、このような単分散球状無機蛍光体を用いた規則配列体を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、構造色と蛍光のスイッチ、発光増強、あるいは、発光の指向性制御が可能な単分散球状無機蛍光体及びその製造方法、並びに、このような単分散球状無機蛍光体を用いた規則配列体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明に係る単分散球状無機蛍光体は、
平均粒子径が0.1〜1.5μmであり、
(1)式から求められる単分散度が10%以下であり、
球状シリカマトリックス中に酸化物蛍光体ナノ粒子が分散している
ことを特徴とする。
単分散度=(粒子径の標準偏差)×100/(粒子径の平均値) ・・・(1)
【0014】
また、本発明に係る規則配列体は、本発明に係る単分散球状無機蛍光体を規則配列させたものからなる。
【0015】
さらに、本発明に係る単分散球状無機蛍光体の製造方法は、
シリカ原料とアルキル4級アンモニウム塩とを含む原料を溶媒中で混合し、球状シリカマトリックス中にアルキル4級アンモニウムイオンが導入された前駆体粒子を得る第1工程と、
酸化物蛍光体ナノ粒子を構成する第1の金属イオンを含む溶液中に前記前駆体粒子を加え、前記アルキル4級アンモニウムイオンと前記第1の金属イオンとをイオン交換させる第2工程と、
前記第1の金属イオンでイオン交換された前記前駆体粒子を、500℃以上、球状を維持できる温度以下の温度で熱処理する第3工程と、
を備えていることを特徴とする。
この場合、第2工程の後に、前記酸化物蛍光体ナノ粒子を構成する第2の金属イオンを含む溶液中に前記前駆体粒子を加え、前記第1の金属イオンの一部と前記第2の金属イオンとをイオン交換させる第2'工程をさらに備えていても良い。
【発明の効果】
【0016】
球状シリカマトリックス中にアルキル4級アンモニウムイオンが導入された前駆体粒子を、酸化物蛍光体の母体となる金属イオン及び発光中心となる金属イオン(並びに、必要に応じて添加される、発光中心からの発光を増感する金属イオン)を含む溶液に加えてイオン交換させると、金属イオンを球状シリカマトリックスの細孔内に均一に導入することができる。これを所定温度で熱処理すると、球状シリカマトリックス中に酸化物蛍光体ナノ粒子が分散している無機蛍光体が得られる。得られた無機蛍光体は、単分散球状であるため、コロイド結晶を作製することができる。また、得られた無機蛍光体は、アルキル4級アンモニウムイオンに由来する相対的に大きな細孔を持つので、バイオ医療への応用も可能である。さらに、酸化物蛍光体ナノ粒子が可視域に吸収を持たない場合には、無機蛍光体を規則配列させることによって、構造色と蛍光のスイッチが可能な規則配列体となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1で合成した単分散球状無機蛍光体のSEM写真である。
【図2】実施例1で合成した単分散球状無機蛍光体のX線回折パターンである。
【図3】実施例5で作製した単分散球状無機蛍光体からなる規則配列体の角度依存反射スペクトルから求めた入射角θと反射波長λの関係を示す図である。
【図4】比較例1で作製した無機蛍光体のSEM写真である。
【図5】実施例7で合成した単分散球状無機蛍光体のアップコンバージョン蛍光スペクトルである。
【図6】実施例9で合成した単分散球状無機蛍光体のX線回折パターンである。
【図7】実施例10で作製した規則配列体の光の発光角度と全発光強度に対する赤色発光強度の比の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 単分散球状無機蛍光体]
本発明に係る単分散球状無機蛍光体は、球状シリカマトリックスと、球状シリカマトリックス中に分散している酸化物蛍光体ナノ粒子とを備えている。
【0019】
[1.1 球状シリカマトリックス]
球状シリカマトリックスは、シリカのみからなるものでも良く、あるいは、シリカを主成分とし、シリカ以外の金属元素Mの酸化物を含んでいても良い。金属元素Mは、特に限定されるものではないが、2価以上の金属アルコキシドを製造可能なものが好ましい。金属元素Mが2価以上の金属アルコキシドを製造可能なものである場合、金属元素Mの酸化物を含む球状シリカマトリックスを容易に製造することができる。このような金属元素Mとしては、具体的には、Al、Ti、Mg、Zrなどがある。
球状シリカマトリクス中のシリカの含有量は、50wt%以上が好ましく、さらに好ましくは、80wt%以上である。
【0020】
「球状」とは、同一条件下で製造された複数個(好ましくは、20個以上)の粒子を顕微鏡観察した場合において、各粒子の真球度の平均値が、13%以下であることをいう。また、「真球度」とは、各粒子の外形の真円からのずれの程度を表す指標であって、粒子の表面に接する最小の外接円の半径(r)に対する、外接円と粒子表面の各点との半径方向の距離の最大値(Δrmax)の割合(=Δrmax×100/r(%))で表される値をいう。球状の無機蛍光体を用いて規則配列体を得るためには、球状シリカマトリックスの真球度は、小さいほど良い。後述する方法を用いると、真球度が7%以下、あるいは、3%以下である球状シリカマトリックスが得られる。
【0021】
[1.2 酸化物蛍光体ナノ粒子]
[1.2.1 定義]
酸化物蛍光体ナノ粒子とは、酸化物を母体とし、発光中心となるイオンがドープされたナノメートルサイズの酸化物粒子をいう。酸化物蛍光体ナノ粒子は、発光中心からの発光の増感に寄与する発光中心以外の金属イオン(以下、これを「発光増感イオン」という)がさらにドープされることもある。球状シリカマトリックス中には、いずれか1種の酸化物蛍光体ナノ粒子が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
【0022】
酸化物蛍光体ナノ粒子を発光させるためには、光や電子線などによりエネルギーを供給する必要がある。酸化物蛍光体ナノ粒子がエネルギーを吸収することによって、発光中心イオン中の電子が励起される。励起された電子は、種々の遷移を経て準安定状態に移り、ここから基底状態へ緩和する時に光が発生する。
光を用いて励起する場合、蛍光体は、通常、励起光より波長が長い光を発光する(ダウンコンバージョン発光)。例えば、紫外光(波長:約10〜400nm)で励起し、可視光(波長:約400〜700nm)を発光するケースがこれに該当する。あるいは、相対的に波長の短い可視光で励起し、相対的に波長の長い可視光を発光するケース(例えば、青色光励起で黄色発光するケース)もある。
一方、励起状態に上がった電子が下の準位に緩和する前に、再び光を吸収してエネルギーを獲得した場合、蛍光体は、励起光よりも波長が短い光を発光する(アップコンバージョン発光)。例えば、赤外光(波長:約700nm〜1000μm)で励起し、可視光(波長:約400〜700nm)を発光するケースがこれに該当する。
本発明において、酸化物蛍光体ナノ粒子は、エネルギーを吸収して光を発光するものであれば良く、そのエネルギー吸収過程や発光過程、あるいは母体の組成や発光中心の種類は特に限定されるものではない。すなわち、酸化物蛍光体ナノ粒子には、ダウンコンバージョンタイプだけでなく、アップコンバージョンタイプも含まれる。
【0023】
[1.2.2 母体]
母体となる酸化物としては、例えば、
(1) 一般式:R23(R=Y、La、Gd、Sc及びLuから選ばれるいずれか1種以上)で表される単純酸化物、
(2) 一般式:RO2(R=Ti、Sn、Ce及びZrから選ばれるいずれか1種以上)で表される単純酸化物、
(3) 一般式:R25(R=Ta、Nb及びVから選ばれるいずれか1種以上、)で表される単純酸化物、
(4) 一般式:RSi25(R=Y、Gd及びLuから選ばれるいずれか1種以上)で表されるシリケート系複合酸化物、
(5) 一般式:R2SiO4(R=Zn、Mg、Ca、Sr及びBaから選ばれるいずれか1種以上)で表されるシリケート系複合酸化物、
(6) CaMgSi36(シリケート系複合酸化物)、
(7) 一般式:RAl24(R=Zn、Mg、Ca、Sr及びBaから選ばれるいずれか1種以上)で表されるアルミネート系複合酸化物、
(8) Y3Al512(アルミネート系複合酸化物)、
(9) 一般式:YRO4(R=Ta、Nb及びVから選ばれるいずれか1種以上)で表される複合酸化物、
(10) (1)〜(9)から選ばれる2種以上の酸化物の固溶体(例えば、BaAl24とSrAl24の固溶体であるBa1-xSrxAl24など)、
などがある。
【0024】
[1.2.3 発光中心イオン]
発光中心イオンは、母体中に1種類のみがドープされていても良く、あるいは、2種以上がドープされていても良い。
発光中心イオンとしては、例えば、
(1) Eu3+、Eu2+、Tb3+、Pr3+、Ce3+、Ho3+、Tm3+、Er3+、Nd3+などの希土類イオン、
(2) Mn2+、Cu+、Cr3+などの遷移金属イオン、
(3) Sn2+
などがある。
アップコンバージョン発光は、発光中心イオンが特定の希土類イオンである場合に生じる。アップコンバージョン発光が可能な発光中心イオンとしては、例えば、Er3+、Ho3+、Pr3+、Tm3+などがある。
【0025】
[1.2.4 発光増感イオン]
発光増感イオンは、母体中に1種類のみがドープされていても良く、あるいは、2種以上がドープされていても良い。
発光増感イオンとしては、例えば、Ce3+、Dy3+、Yb3+などの希土類イオンがある。例えば、発光中心イオンがTb3+である場合、Ce3+が共存すると、Tb3+からの発光が増感される。また、例えば、発光中心イオンがEu3+である場合、Dy3+が共存すると、Eu3+からの発光が増感される。
アップコンバージョン発光は、励起状態にある2種類のイオン間のエネルギー移動により増感される。すなわち、アップコンバージョン発光が可能な発光中心イオンが母体に含まれている場合において、発光中心イオンとのエネルギー移動に有効な他の希土類イオンが共存しているときには、アップコンバージョン発光が増感される。例えば、発光中心イオンがEr3+、Ho3+、又はTm3+である場合において、Yb3+が共存するときには、アップコンバージョン発光が増感され、発光強度が増強される。
【0026】
[1.2.5 酸化物蛍光体ナノ粒子の具体例]
酸化物蛍光体ナノ粒子の組成、すなわち、母体と発光中心イオン、あるいは母体と発光中心イオンと発光増感イオンの組み合わせは、目的に応じて最適なものを選択する。
酸化物蛍光体としては、具体的には、
(1) R23:Ln(R=Y、La、Gd、Sc及びLuから選ばれるいずれか1種以上の元素。Ln=Eu3+、Eu2+、Tb3+、Pr3+、Ce3+、Ho3+、Tm3+及びEr3から選ばれるいずれか1種以上の元素。)
(2) R23:Ln、Yb(R=Y、La、Gd、Sc及びLuから選ばれるいずれか1種以上の元素。Ln=Eu3+、Ho3+及びTm3+から選ばれるいずれか1種以上の元素。)、
(3) R2SiO4:Mn(R=Zn、Mg、Ca、Sr及びBaから選ばれるいずれか1種以上の元素)、
などがある。
母体中の発光中心イオンの含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択する。一般に、発光中心イオンの含有量が多くなるほど、発光強度が高くなる。一方、発光中心イオンの含有量が過剰になると、濃度消光のために発光強度がかえって低下する。
【0027】
[1.2.6 酸化物蛍光体ナノ粒子の含有量]
酸化物蛍光体ナノ粒子の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択する。一般に、酸化物蛍光体ナノ粒子の含有量が多くなるほど、発光強度の高い無機蛍光体が得られる。また、酸化物蛍光体ナノ粒子中の発光中心イオンと異なり、球状シリカマトリックス中の酸化物蛍光体ナノ粒子の含有量が過剰になっても、濃度消光の問題は起きにくい。
【0028】
[1.3 平均粒子径]
本発明において、球状シリカマトリックス(すなわち、単分散球状無機蛍光体)の平均粒子径は、0.1〜1.5μmである。球状シリカマトリックスの平均粒子径は、目的に応じて最適なものを選択する。
例えば、球状シリカマトリックスを規則配列させる場合、球状シリカマトリックスの平均粒径dに応じて、ブラッグ反射させる光の波長λを変化させることができる。
また、例えば、本発明に係る無機蛍光体をフィールドエミッションディスプレイやプラズマディスプレイパネル用の蛍光体粒子として用いる場合、球状シリカマトリックスの平均粒子径は、0.3〜1.5μmが好ましい。
また、例えば、本発明に係る無機蛍光体をドラッグデリバリー用の多孔質蛍光体粒子として用いる場合、平均粒子径は、0.3μm以下が好ましい。
【0029】
[1.4 単分散度]
本発明において、球状シリカマトリックス(すなわち、単分散球状無機蛍光体)の単分散度は、10%以下である。単分散度は、(1)式から求められる。
単分散度=(粒子径の標準偏差)×100/(粒子径の平均値) ・・・(1)
本発明に係る無機蛍光体を用いて規則性の高い配列体を得るためには、球状シリカマトリックスの単分散度は小さいほど良い。後述する方法を用いると、単分散度が10%以下、あるいは、5%以下である球状シリカマトリックスが得られる。
【0030】
[2. 単分散球状無機蛍光体の製造方法(1)]
本発明の第1の実施の形態に係る単分散球状無機蛍光体の製造方法は、第1工程と、第2工程と、第3工程とを備えている。
【0031】
[2.1 第1工程]
第1工程は、シリカ原料とアルキル4級アンモニウム塩とを含む原料を溶媒中で混合し、球状シリカマトリックス中にアルキル4級アンモニウムイオンが導入された前駆体粒子を得る工程である。
【0032】
[2.1.1 シリカ原料]
シリカ原料には、
(1) テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン(シラン化合物)、
(2) トリメトキシシラノール、トリエトキシシラノール、トリメトキシメチルシラン、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリエトキシ−3−グリシドキシプロピルシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン(シラン化合物)、
(3) ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシ−3−グリシドキシプロピルメチルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン等のジアルコキシシラン(シラン化合物)、
(4) メタケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)、オルトケイ酸ナトリウム(Na4SiO4)、二ケイ酸ナトリウム(Na2Si25)、四ケイ酸ナトリウム(Na2Si49)、水ガラス(Na2O・nSiO2、n=2〜4)等のケイ酸ナトリウム、
(5) カネマイト(NaHSi25・3H2O)、二ケイ酸ナトリウム結晶(α、β、γ、δ−Na2Si25)、マカタイト(Na2Si49)、アイアライト(Na2Si817・xH2O)、マガディアイト(Na2Si1417・xH2O)、ケニヤイト(Na2Si2041・xH2O)等の層状シリケート、
(6) Ultrasil(Ultrasil社)、Cab−O−Sil(Cabot社)、HiSil(Pittsburgh Plate Glass社)等の沈降性シリカ、コロイダルシリカ、Aerosil(Degussa−Huls社)等のフュームドシリカ、
などを用いることができる。
【0033】
また、シリカ原料には、ヒドロキシアルコキシシランも用いることができる。ヒドロキシアルコキシシランとは、アルコキシシランのアルコキシ基の炭素原子にヒドロキシ基(−OH)がついたものをいう。ヒドロキシアルコキシシランとしては、ヒドロキシアルコキシ基を4個有するテトラキス(ヒドロキシアルコキシ)シラン、ヒドロキシアルコキシ基を3個有するトリス(ヒドロキシアルコキシ)シランを用いることができる。
ヒドロキシアルコキシ基の種類及びヒドロキシ基の数は特に制限されないが、2−ヒドロキシエトキシ基、3−ヒドロキシプロポキシ基、2−ヒドロキシプロポキシ基、2,3−ジヒドロキシプロキシ基等のように、ヒドロキシアルコキシ基中の炭素原子の数が比較的少ないもの(炭素数が1〜3程度のもの)が反応性の点から有利である。
【0034】
テトラキス(ヒドロキシアルコキシ)シランとしては、テトラキス(2−ヒドロキシエトキシ)シラン、テトラキス(3−ヒドロキシプロポキシ)シラン、テトラキス(2−ヒドロキシプロキシ)シラン、テトラキス(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)シラン、などがある。
トリス(ヒドロキシアルコキシ)シランとしては、メチルトリス(2−ヒドロキシエトキシ)シラン、エチルトリス(2−ヒドロキシエトキシ)シラン、フェニルトリス(2−ヒドロキシエトキシ)シラン、3−メルカプトプロピルトリス(2−ヒドロキシエトキシ)シラン、3−アミノプロピルトリス(2−ヒドロキシエトキシ)シラン、3−クロロプロピルトリス(2−ヒドロキシエトキシ)シラン、などがある。
これらのヒドロキシアルコキシシランは、アルコキシシランとエチレングリコールやグリセリンなどの多価アルコールとを反応させることにより合成することができる(例えば、Doris Brandhuber et al., Chem.Mater. 2005, 17, 4262参照)。
【0035】
これらの中でも、テトラアルコキシシラン及びテトラキス(ヒドロキシアルコキシ)シランは、加水分解により生ずるシラノール結合の数が多くなり、強固な骨格を形成することができるので、シリカ原料として好適である。
なお、これらのシリカ原料は、単独で用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。但し、2種以上のシリカ原料を用いると、前駆体粒子の製造時の反応条件が複雑化する場合がある。このような場合には、シリカ原料は、単独で使用するのが好ましい。
【0036】
また、前駆体粒子がシリカ以外の金属元素Mの酸化物を含む場合には、シリカ原料に加えて金属元素M1を含む原料を用いる。
金属元素Mを含む原料には、
(1) アルミニウムブトキシド(Al(OC49)3)、アルミニウムエトキシド(Al(OC25)3)、アルミニウムイソプロポキシド(Al(OC37)3)等のAlを含むアルコキシド類、及び、アルミン酸ナトリウム、塩化アルミニウム等の塩類、
(2) チタンイソプロポキシド(Ti(Oi−C37)4)、チタンブトキシド(Ti(OC49)4)、チタンエトキシド(Ti(OC25)4)等のTiを含むアルコキシド、
(3) マグネシウムメトキシド(Mg(OCH3)2)、マグネシウムエトキシド(Mg(OC25)2)等のMgを含むアルコキシド、
(4) ジルコニウムイソプロポキシド(Zr(Oi−C37)4)、ジルコニウムブトキシド(Zr(OC49)4)、ジルコニウムエトキシド(Zr(OC25)4)等のZrを含むアルコキシド、
などを用いることができる。
【0037】
[2.1.2 アルキル4級アンモニウム塩]
アルキル4級アンモニウム塩とは、次の(a)式で表されるものをいう。
CH3−(CH2)n−N+(R1)(R2)(R3)X- ・・・(a)
(a)式中、R1、R2、R3は、それぞれ、炭素数が1〜3のアルキル基を表す。R1、R2、及び、R3は、互いに同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。アルキル4級アンモニウム塩同士の凝集(ミセルの形成)を容易化するためには、R1、R2、及び、R3は、すべて同一であることが好ましい。さらに、R1、R2、及び、R3の少なくとも1つは、メチル基が好ましく、すべてがメチル基であることが好ましい。
(a)式中、Xはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子の種類は特に限定されないが、入手の容易さからXは、Cl又はBrが好ましい。
(a)式中、nは7〜21の整数を表す。一般に、nが小さくなるほど、メソ孔の中心細孔径が小さい球状シリカマトリックスが得られる。一方、nが大きくなるほど、中心細孔径は大きくなるが、nが大きくなりすぎると、アルキル4級アンモニウム塩の疎水性相互作用が過剰となる。その結果、層状の化合物が生成し、球状の多孔体が得られない。nは、好ましくは、9〜17、さらに好ましくは、13〜17である。
【0038】
(a)式で表されるものの中でも、アルキルトリメチルアンモニウムハライドが好ましい。アルキルトリメチルアンモニウムハライドとしては、例えば、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムハライド、ノニルトリメチルアンモニウムハライド、デシルトリメチルアンモニウムハライド、ウンデシルトリメチルアンモニウムハライド、ドデシルトリメチルアンモニウムハライド等がある。
これらの中でも、特に、アルキルトリメチルアンモニウムブロミド又はアルキルトリメチルアンモニウムクロリドが好ましい。
【0039】
球状シリカマトリックスを合成する場合において、1種類のアルキル4級アンモニウム塩を用いても良く、あるいは、2種以上を用いても良い。しかしながら、アルキル4級アンモニウム塩は、球状シリカマトリックス中にメソ孔を形成するためのテンプレートとなるので、その種類は、メソ孔の形状に大きな影響を与える。より均一なメソ孔を有する球状シリカマトリックスを合成するためには、1種類のアルキル4級アンモニウム塩を用いるのが好ましい。
【0040】
[2.1.3 溶媒]
溶媒には、水とアルコールの混合溶媒を用いる。アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール等の1価のアルコール、エチレングリコール等の2価のアルコール、グリセリン等の3価のアルコールのいずれでも良い。
混合溶媒中のアルコール含有量は、粒径及び粒度分布に影響を与える。一般に、アルコール含有量が少ないほど、粒径の小さい球状シリカマトリックスが得られる。しかしながら、アルコール含有量が少なすぎると、粒径及び粒度分布の制御が困難となる。従って、アルコール含有量は、30vol%以上が好ましい。アルコール含有量は、さらに好ましくは、40vol%以上である。
一方、アルコール含有量が多くなるほど、粒径の大きい球状シリカマトリックスが得られる。しかしながら、アルコール含有量が過剰になると、粒径及び粒度分布の制御が困難となる。従って、アルコール含有量は、80vol%以下が好ましい。アルコール含有量は、さらに好ましくは、70vol%以下である。
【0041】
[2.1.4 塩基性物質]
上述した原料を含む溶液には、溶液を塩基性とし、シリカ原料(及び、必要に応じて添加される金属元素M1を含む原料)を加水分解させるために、塩基性物質を加えるのが好ましい。塩基性物質としては、具体的には、水酸化ナトリウム、アンモニア水等がある。
シリカ原料は、一般に、塩基性条件下及び酸性条件下のいずれにおいても加水分解・重縮合を生じるが、シリカ原料の濃度が低いときには、酸性条件下では反応がほとんど進行しない。また、塩基性条件下でシリカ原料を反応させると、酸性条件下で反応させた場合に比べて、ケイ素原子の反応点が増加し、耐湿性や耐熱性に優れた球状シリカマトリックスが得られる。従って、シリカ原料は、塩基性条件下で反応させるのが好ましい。
【0042】
[2.1.5 配合比]
一般に、シリカ原料及び必要に応じて添加される金属元素M1を含む原料(以下、「マトリックス源」という)の濃度が低すぎると、球状シリカマトリックスを高収率で得ることができない。また、粒径及び粒度分布の制御が困難となり、粒径の均一性が低下する。従って、マトリックス源の濃度は、0.005mol/L以上が好ましい。マトリックス源の濃度は、さらに好ましくは、0.008mol/L以上である。
一方、マトリックス源の濃度が高すぎると、メソ孔を形成するためのテンプレートとして機能するアルキル4級アンモニウム塩が相対的に不足し、良好な多孔体が得られない。また、粒径及び粒度分布の制御が困難となり、粒径の均一性が低下する。従って、マトリックス源の濃度は、0.03mol/L以下が好ましい。マトリックス源の濃度は、さらに好ましくは、0.015mol/L以下である。
【0043】
一般に、アルキル4級アンモニウム塩の濃度が低すぎると、メソ孔を形成するためのテンプレートが不足し、良好な多孔体が得られない。また、粒径及び粒度分布の制御が困難となり、粒径の均一性も低下する。従って、アルキル4級アンモニウム塩の濃度は、0.003mol/L以上が好ましい。アルキル4級アンモニウム塩の濃度は、さらに好ましくは、0.01mol/L以上である。
一方、アルキル4級アンモニウム塩の濃度が高すぎると、球状シリカマトリックスを高収率で得ることができない。また、粒径及び粒度分布の制御が困難となり、粒径の均一性が低下する。従って、アルキル4級アンモニウム塩の濃度は、0.03mol/L以下が好ましい。アルキル4級アンモニウム塩の濃度は、さらに好ましくは、0.02mol/L以下である。
【0044】
一般に、塩基性物質の添加量が少なすぎると、球状シリカマトリックスの収率が極端に低下する。従って、塩基性物質の添加量(塩基性物質のアルカリ当量を原料中のケイ素原子(及び、必要に応じて添加される金属元素M1)のモル数で除した値。以下、同じ。)は、0.1以上が好ましい。塩基性物質の添加量は、さらに好ましくは、0.15以上である。
一方、塩基性物質の添加量が過剰になると、多孔体の形成が困難となる場合がある。従って、塩基性物質の添加量は、0.9以下が好ましい。塩基性物質の添加量は、さらに好ましくは、0.4以下である。
【0045】
[2.1.6 反応条件]
シリカ原料として、アルコキシシラン、ヒドロキシアルコキシシラン等のシラン化合物を用いる場合には、これをそのまま出発原料として用いる。
一方、シリカ原料としてシラン化合物以外の化合物を用いる場合には、予め、水(又は、必要に応じてアルコールが添加されたアルコール水溶液)にシリカ原料を加えて、水酸化ナトリウム等の塩基性物質を加える。塩基性物質の添加量は、シリカ原料中のケイ素原子と等モル程度の量とするのが好ましい。シラン化合物以外のシリカ原料を含む溶液に塩基性物質を加えると、シリカ原料中に既に形成されているSi−(O−Si)4結合の一部が切断され、均一な溶液が得られる。溶液中に含まれる塩基性物質の量は、球状シリカマトリックスの収量や気孔率に影響を及ぼすので、均一な溶液が得られた後、溶液に希薄酸溶液を加え、溶液中に存在する過剰の塩基性物質を中和させる。希薄酸溶液の添加量は、シリカ原料中のケイ素原子に対して1/2〜3/4倍モルに相当する量が好ましい。
【0046】
必要に応じて予備処理が行われたシリカ原料に対し、所定量のアルキル4級アンモニウム塩、溶媒、及び、塩基性物質、並びに、必要に応じて金属元素M1を含む原料を加えて、塩基性条件下で加水分解及び重縮合を行う。これにより、アルキル4級アンモニウムイオンがテンプレートとして機能し、球状シリカマトリックス中にアルキル4級アンモニウムイオンが導入された前駆体粒子が得られる。
【0047】
反応条件は、シリカ原料の種類、前駆体粒子の粒径等に応じて、最適な条件を選択する。一般に、反応温度は、−20〜100℃が好ましい。反応温度は、さらに好ましくは、0〜80℃、さらに好ましくは、10〜40℃である。
塩基性物質を含む混合液中にシリカ原料を添加すると、通常、数秒〜数十分で白色粉末が析出する。白色粉末が析出した後、0〜80℃(好ましくは、10〜40℃)で1時間〜10日間、溶液をさらに攪拌し、シリカ原料の反応を進行させる。攪拌終了後、必要に応じて室温で一晩放置し、系を安定化させる。得られた白色粉末は、必要に応じて、ろ過及び洗浄が行われる。
【0048】
[2.2 第2工程]
第2工程は、酸化物蛍光体ナノ粒子を構成する第1の金属イオンを含む溶液中に前駆体粒子を加え、アルキル4級アンモニウムイオンと第1の金属イオンとをイオン交換させる工程である。
【0049】
[2.2.1 金属イオン源]
「酸化物蛍光体ナノ粒子を構成する第1の金属イオン」とは、酸化物蛍光体ナノ粒子を形成するために必要な金属イオンをいう。第1の金属イオンには、酸化物蛍光体の母体となる酸化物を構成する金属イオン、発光中心イオン、発光増感イオンなどが含まれる。第1の実施の形態において、第1の金属イオンには、酸化物蛍光体ナノ粒子を形成するために必要なすべての金属イオンが含まれる。但し、金属イオンと球状シリカマトリックスとが反応することにより酸化物蛍光体ナノ粒子が形成される場合、球状シリカマトリックスから供給される金属イオンは、必ずしも添加する必要はない。
金属イオン源は、酸化物蛍光体の組成に応じて最適なものを選択する。
例えば、酸化物蛍光体がY23:Eu3+の場合、Y源には、酢酸イットリウム四水和物、塩化イットリウム六水和物、硝酸イットリウム六水和物、シュウ酸イットリウム四水和物硫酸イットリウム八水和物などを用いることができる。また、Eu源には、酢酸ユーロピウム四水和物、塩化ユーロピウム六水和物、硝酸ユーロピウム六水和物、シュウ酸ユーロピウム四水和物、硫酸ユーロピウム八水和物などを用いることができる。
これらの中でも、酢酸塩は、イオン交換効率が高いので、金属イオン源として好適である。また、水和水の量は、特に限定されないが、溶媒(アルコール)への溶解性を高めるためには、無水塩より含水塩が好ましい。
【0050】
[2.2.2 溶媒]
溶媒には、金属イオン源及びアルキル4級アンモニウム塩の双方を溶解可能なものを用いる。このような溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどがある。これらの中でも、メタノールは、イオン交換効率が高いので、溶媒として好適である。
【0051】
[2.2.3 反応条件]
イオン交換溶液中の金属イオン濃度は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な濃度を選択する。一般に、溶液中の金属イオン濃度が高くなるほど、イオン交換効率が高くなり、球状シリカマトリックス中に導入される金属イオン量も増大する。溶液中の金属イオンのモル数が球状シリカマトリックス中のアルキル4級アンモニウムイオンのモル数より多い場合、効率よくイオン交換することができる。
【0052】
反応温度及び反応時間は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な条件を選択する。効率よくイオン交換させるためには、反応温度は、40℃以上溶媒の沸点以下が好ましい。また、反応時間は、反応温度にもよるが、3時間以上が好ましい。
【0053】
[2.3 第3工程]
第3工程は、第1の金属イオンでイオン交換された前駆体粒子を、500℃以上、球状を維持できる温度以下の温度で熱処理する工程である。
熱処理は、酸化雰囲気下で行う。
一般に、熱処理温度が低すぎると、発光強度は低下する。高い発光強度を得るためには、熱処理温度は、500℃以上が好ましい。
一方、熱処理温度が高くなるほど、発光強度は強くなるが、多孔性が失われやすくなる。また、熱処理温度が高くなるほど、粒子同士が融合し、単分散する粒子が得られなくなる。単分散粒子を得るためには、熱処理温度は、球状を維持できる温度以下の温度が好ましい。球状を維持できる温度は、球状シリカマトリックスの組成、母体の組成、発光中心イオンの種類などにより異なる。
特に、蛍光と多孔性とを併せ持つ粒子を合成するためには、熱処理温度は、500〜800℃が好ましく、さらに好ましくは、500〜600℃である。また、発光強度を重視する場合には、熱処理温度は、800〜1100℃が好ましい。
【0054】
[3. 単分散球状無機蛍光体の製造方法(2)]
本発明の第2の実施の形態に係る単分散球状無機蛍光体の製造方法は、第1工程と、第2工程と、第2'工程と、第3工程とを備えている。
【0055】
[3.1. 第1工程]
第1工程は、シリカ原料とアルキル4級アンモニウム塩とを含む原料を溶媒中で混合し、球状シリカマトリックス中にアルキル4級アンモニウムイオンが導入された前駆体粒子を得る工程である。第1工程の詳細は、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0056】
[3.2. 第2工程]
第2工程は、酸化物蛍光体ナノ粒子を構成する第1の金属イオンを含む溶液中に前駆体粒子を加え、アルキル4級アンモニウムイオンと第1の金属イオンとをイオン交換させる工程である。
第2の実施の形態において、第1の金属イオンは、酸化物蛍光体ナノ粒子を形成するために必要な金属イオンの一部である。この点が、第1の実施の形態と異なる。第2工程に関するその他の点は、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0057】
[3.3. 第2'工程]
第2'工程は、酸化物蛍光体ナノ粒子を構成する第2の金属イオンを含む溶液中に前駆体粒子を加え、第1の金属イオンの一部と第2の金属イオンとをイオン交換させる工程である。
「酸化物蛍光体ナノ粒子を構成する第2の金属イオン」とは、酸化物蛍光体を形成するために必要な金属イオン(例えば、酸化物蛍光体の母体となる酸化物を構成する金属イオン、発光中心イオン、発光増感イオンなど)の内、第1の金属イオン以外のイオンをいう。
酸化物蛍光体ナノ粒子の組成によっては、酸化物蛍光体ナノ粒子を形成するために必要なすべての金属イオンとアルキル4級アンモニウムイオンとを同時にイオン交換するのが困難な場合がある。そのような場合には、第2工程において、まず、アルキル4級アンモニウムイオンと金属イオンの一部(第1の金属イオン)とをイオン交換し、次いで、第2'工程において、第1の金属イオンの一部と残りの金属イオン(第2の金属イオン)とをイオン交換するのが好ましい。
【0058】
例えば、球状シリカマトリックス中にZn2+イオンとMn2+イオンを導入し、所定の条件下で熱処理すると、導入された金属イオンがマトリックスと反応し、球状シリカマトリックス中にZn2SiO4:Mnからなる酸化物蛍光体ナノ粒子が形成される。しかしながら、アルキル4級アンモニウムイオンと、Zn2+イオン及びMn2+イオンとを同時にイオン交換するのは困難である。そこでこのような場合には、まず、アルキル4級アンモニウムイオンとZn2+イオン(第1の金属イオン)とをイオン交換し、次いで、Zn2+イオンの一部とMn2+イオン(第2の金属イオン)とをイオン交換するのが好ましい。
第2'工程に関するその他の点については、第2工程と同様であるので、説明を省略する。
【0059】
[3.4. 第3工程]
第3工程は、第1の金属イオン及び第2の金属イオンでイオン交換された前駆体粒子を、500℃以上、球状を維持できる温度以下の温度で熱処理する工程である。
第3工程の詳細は、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0060】
[4. 規則配列体]
本発明に係る規則配列体は、本発明に係る単分散球状無機蛍光体を規則配列させたものからなる。規則配列体は、単分散球状無機蛍光体が規則配列していれば良く、その配列は、必ずしも最密充填である必要はない。規則配列体は、格子定数に応じて波長λの光をブラッグ反射する。規則配列体が最密充填の場合、λは次の(2)式で表される。
λ=2(2/3)1/2d(n2−sin2θ)1/2 ・・・(2)
但し、d:粒子径、n:配列体の屈折率、θ:入射角。
【0061】
(2)式で示されるように、理論的にはブラッグ反射波長は、ある特定の1波長の光として定義される。しかしながら、実際の規則配列体中には、ひずみや欠陥も存在するために、そのブラッグ反射に基づく反射波長帯域(ストップバンド)は、1本の線ではなく、所定の幅を持つ。同様に、酸化物蛍光体ナノ粒子の発光スペクトルは、数十nm程度の幅を持つ場合がある。
この発光スペクトルの内、規則配列体のストップバンドと重なる部分の光は、規則配列体内に閉じこめられる。そのため、酸化物蛍光体ナノ粒子の少なくとも1つの発光スペクトルと規則配列体のストップバンドとが重なりを持つ場合において、その重なりが大きくなるほど、ストップバンドと蛍光とが干渉し、発光強度の増大、発光の指向性制御などの効果が得られる。
【0062】
例えば、アップコンバージョン発光では、遷移によって様々な波長の光を発光する(例えば、Er3+の場合、緑色と赤色)。そのため、アップコンバージョン発光する酸化物蛍光体ナノ粒子を含む単分散球状無機蛍光体を用いて規則配列体を作製し、配列体の周期構造に起因するストップバンド波長を発光波長の少なくとも1つに一致させると、その発光強度比を変えることができる。これは、ストップバンドと一致する発光の遷移が抑制され、励起準位の電子は別の遷移で(すなわち、別の波長で)発光するためと考えられる。
【0063】
[5. 規則配列体の製造方法]
単分散球状無機蛍光体を規則配列させる方法には、以下のような方法がある。
【0064】
[5.1 第1の方法]
第1の方法は、電気泳動を利用した配列方法であって、単分散球状無機蛍光体を分散させた分散液に電極を浸漬し、電極間に直流電界を印加する方法である。このような方法により、単分散球状無機蛍光体とは反対電荷を有する電極表面に、単分散球状無機蛍光体の規則配列体を析出させることができる。
単分散球状無機蛍光体を分散させる分散媒には、通常、水を用いるが、アセトニトリルなどの他の極性溶媒を用いても良い。分散液中の単分散球状無機蛍光体の濃度は、特に限定されるものではなく、配列体に要求される規則性の程度、作業効率等に応じて、最適な濃度を選択する。一般に、希薄な分散液を用いるほど、規則性の高い配列体が得やすいが、濃度が低すぎると、作業効率が低下する。通常、分散液には、濃度1〜10wt%程度のものを用いる。
【0065】
単分散球状無機蛍光体を分散させた溶液に電極を浸漬し、電極間に直流電界を印加すると、一方の電極表面に単分散球状無機蛍光体の規則配列体が析出する。例えば、シリカを主成分とする単分散球状無機蛍光体は、一般に、水溶液中においてマイナスの電荷を帯びる。従って、この場合には、規則配列体は、正極上に析出する。
電極間距離及び印加電圧は、配列体に要求される規則性の程度、作業効率等に応じて、最適な条件を選択する。一般に、電極間に発生する電界が大きくなるほど、析出速度が増すので高い作業効率が得られるが、電界が大きくなりすぎると、配列体の規則性が低下する場合がある。
【0066】
無機蛍光体の分散液に電極を浸漬し、電極間に直流電界を印加すると、一方の電極表面に無機蛍光体の規則配列体が析出する。析出後、電極を取り出して乾燥させると、所定の厚さを有する規則配列体が得られる。なお、得られた配列体は、電極から剥離させて使用しても良く、あるいは、電極から剥離させることなくそのままの状態で使用しても良い。
【0067】
[5.2 第2の方法]
単分散球状無機蛍光体の規則配列体を得る第2の方法は、単分散球状無機蛍光体をコロイド結晶化させる方法であって、一定の間隔を有する基板間に単分散球状無機蛍光体を分散させた分散液を注入する方法である。このような方法により、単分散球状無機蛍光体が規則配列した状態で自己集積する。
単分散球状無機蛍光体を分散させる分散媒には、通常、水を用いるが、必要に応じて有機溶媒を用いることもできる。分散液中の単分散球状無機蛍光体の濃度は、特に限定されるものではなく、配列体に要求される規則性の程度、作業効率等に応じて、最適な濃度を選択する。一般に、希薄な分散液を用いるほど、規則性の高い配列体が得やすいが、濃度が低すぎると、作業効率が低下する。通常、分散液には、濃度0.05〜15wt%程度のものを用いる。濃度は、さらに好ましくは、1〜10wt%である。
【0068】
基板には、表面が親水性であるものを用いる。このような基板としては、具体的には、オゾンプラズマ処理又は濃硫酸若しくは濃硝酸処理を行ったガラス又は石英基板などがある。
基板の間隔は、無機蛍光体が自己集積可能な間隔であればよい。一般に、基板の間隔が狭くなりすぎると、基板間に無機蛍光体が入り込めない。一方、基板の間隔が広くなりすぎると、無機蛍光体を自己集積させるのが困難となる。通常、基板の間隔は、無機蛍光体の平均粒径の10〜200倍とする。
【0069】
一定の間隔を有する基板間に分散液を注入し、基板を直立させ、あるいは、適当な角度で傾けると、無機蛍光体が沈降する。この時、無機蛍光体は、その表面電荷によって互いに反発し合いながら沈降するので、規則配列した状態で自己集積する。この状態で放置すると、分散媒がほぼ完全に揮発する。あるいは、一定の間隔(例えば、数十μm程度)を有する2枚の基板を水平に置き、上の基板に穴を開けて穴に管(例えば、直径数mm程度)を固定し、管から分散液を注入しても良い。このような方法によっても無機蛍光体の規則配列体を得ることができる。
分散媒を完全に揮発させると、所定の厚さを有する規則配列体が得られる。なお、得られた配列体は、基板から剥離させた状態で使用しても良く、あるいは、一方又は双方の基板を剥離させることなくそのままの状態で使用しても良い。
【0070】
[5.3 その他の方法]
単分散球状無機蛍光体の規則配列体を得るその他の方法としては、単分散球状無機蛍光体を分散させた分散液を基板表面にディップコート、スピンコート等を用いて塗布する方法などがある。
また、あらかじめ無機蛍光体粒子分散液中に高分子モノマー(例えば、アクリルアミド)、架橋剤(例えば、メチレンビスアクリルアミド)、及び、光重合開始剤(例えば、カンファーキノン)を添加しておき、光照射することによりゲル化させることもできる。この場合は、無機蛍光体粒子が最密充填していないコロイド結晶ゲルが得られる。
【0071】
[6. 単分散球状蛍光体及びその製造方法、並びに、規則配列体の作用]
単分散球状のシリカメソ多孔体は、一般に、界面活性剤を鋳型として球状の前駆体粒子を作製し、界面活性剤を燃焼や抽出によって除去することにより得られる。酸化物蛍光体ナノ粒子を構成する金属イオンを含む溶液にこのようなシリカメソ多孔体を添加し、熱処理すると、シリカメソ多孔体のメソ孔内だけでなく外表面にも蛍光体が析出し、単分散する粒子が得られない。
【0072】
これに対し、 球状シリカマトリックス中にアルキル4級アンモニウムイオンが導入された前駆体粒子を、酸化物蛍光体の母体となる金属イオン及び発光中心となる金属イオン(並びに、必要に応じて添加される発光増感イオン)を含む溶液に加えてイオン交換させると、金属イオンを球状シリカマトリックスの細孔内に均一に導入することができる。これを所定温度で熱処理すると、球状シリカマトリックス中に酸化物蛍光体ナノ粒子が分散している無機蛍光体が得られる。
【0073】
得られた単分散球状無機蛍光体は、球状であり、かつ、粒子径が小さい。しかも、発光強度が高く、化学的、機械的安定性にも優れている。そのため、これを例えばフィールドエミッションディスプレイやプラズマディスプレイパネル用の蛍光体として用いれば、均質で緻密な蛍光膜を容易に、かつ、薄く形成することができ、ばらつきの小さい発光が得られる。
【0074】
また、本発明に係る単分散球状無機蛍光体は、粒度分布が極めて狭いため、粒子を自己集積させ、規則配列体を作製できる。規則配列体(コロイド結晶)は、その周期(すなわち、構成する粒子の粒子径)に応じて、特定の波長の光をブラッグ反射し、構造色を呈する。また、本発明に係る規則配列体は、粒子径に応じた構造色を示すのに加え、蛍光体の発光をも示す。そのため、酸化物無機蛍光体ナノ粒子が可視域に吸収を持たない場合には、構造色と蛍光のスイッチが可能となる。
さらに、規則配列体の内部で発光する蛍光波長とブラッグ反射波長を一致させると、蛍光を規則配列体内部に閉じこめ、発光増強や発光の指向性制御を行うことも可能となる。
【0075】
さらに、本発明の無機蛍光体は、多孔性の球状シリカ粒子から合成するため、熱処理温度を制御することにより、蛍光と多孔性とを併せ持つ粒子を合成することができる。しかも、粒子の主成分であるシリカは、生体親和性が高い。そのため、粒子径300nm以下で、多孔性と蛍光とを併せ持つ粒子は、ドラッグデリバリー等のバイオ医療分野への応用が可能となる。また、アップコンバージョン発光を示す蛍光体は、赤外光で励起させて可視光を発光させることも可能となる。そのため、これを特にバイオ医療に応用した場合には、生体高分子などの被分析物に対して損傷を与える問題がないという利点を有する。
【実施例】
【0076】
(実施例1)
[1. 試料の合成]
水480mL、メタノール100mL、エタノール300mLの混合溶媒に対して、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(アルキル4級アンモニウム塩)3.52g(0.0125mol/L)、及び、1規定水酸化ナトリウム水溶液1.14mLを添加した。これに、室温でテトラキス(3−ヒドロキシプロポキシ)シラン(シリカ原料)2.4mLを添加した。テトラキス(3−ヒドロキシプロポキシ)シランは速やかに溶解し、約130秒後に白色粉末が析出した。さらに、8時間攪拌して一晩放置した後、ろ過と脱イオン水による洗浄を3回繰り返し、前駆体粒子を得た。
【0077】
メタノールに酢酸イットリウム四水和物(0.025mol/L)と、酢酸ユーロピウム四水和物(0.005mol/L)を溶解させた。この溶液100mLに前駆体粒子0.5gを分散させ、60℃で3h攪拌した。ろ過とメタノールによる洗浄を2回繰り返し、イットリウムイオンとユーロピウムイオンが導入された球状シリカ多孔体粉末を得た。
この粉末を大気中、1000℃で3h焼成することにより、球状シリカマトリックス中にY23:Euナノ粒子が分散した無機蛍光体粒子を得た。
【0078】
[2. 評価]
図1に、得られた無機蛍光体粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。SEMにより観察された粒子は球状であり、平均粒径は333nmであった。任意の100個の粒子の粒径から計算した単分散度は、3.0%であった。粒子中の元素比Si/Y/Euは、84.0/14.5/1.5であった。
図2に、この粉末のXRDパターンを示す。Y23の回折パターンの位置にブロードなピークが観測されており、ナノ粒子が生成していることがわかる。
この粒子に254nmの紫外線を照射したところ、615nmにEuの6072遷移に相当する赤色の蛍光を示した。
【0079】
(実施例2)
[1. 試料の合成]
水480mL、メタノール50mL、エタノール350mLの混合溶媒を用いたこと、及び、酢酸ユーロピウム四水和物に代えて酢酸テルビウム四水和物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、球状シリカマトリックス中にY23:Tbナノ粒子が分散した無機蛍光体粒子を得た。
【0080】
[2. 評価]
SEMにより観察された粒子は球状であり、平均粒径は260nmであった。任意の100個の粒子の粒径から計算した単分散度は、4.8%であった。粒子中の元素比Si/Y/Tbは、82.6/15.3/2.1であった。
この粒子に254nmの紫外線を照射したところ、545nmにTbの6476遷移に相当する緑色の蛍光を示した。
【0081】
(実施例3)
[1. 試料の合成]
水1040mL、エタノール700mLの混合溶媒を用いたこと、シリカ源としてテトラキス(2−ヒドロキシエトキシ)シランを用いたこと、及び、1規定水酸化ナトリウム水溶液添加量を1.71mLとしたこと以外は実施例2と同様にして、球状シリカマトリックス中にY23:Tbナノ粒子が分散した無機蛍光体粒子を得た。
【0082】
[2. 評価]
SEMにより観察された粒子は球状であり、平均粒径は153nmであった。任意の100個の粒子の粒径から計算した単分散度は、9.0%であった。粒子中の元素比Si/Y/Tbは、83.2/14.5/2.3であった。
この粒子に254nmの紫外線を照射したところ、545nmにTbの6476遷移に相当する緑色の蛍光を示した。
【0083】
(実施例4)
[1. 試料の合成]
焼成温度を550℃、焼成時間を6hとした以外は、実施例3と同様にして、球状シリカマトリックス中にY23:Tbナノ粒子が分散した無機蛍光体粒子を得た。
【0084】
[2. 評価]
SEMにより観察された粒子は球状であり、平均粒径は191nmであった。任意の100個の粒子の粒径から計算した単分散度は、8.8%であった。得られた粒子のXRDパターンにY23に対応するブロードなピークは観られず、Y23:Tbはアモルファスであることがわかった。
この粒子のN2吸着特性を評価したところ、IV型の吸着特性を示し、粒子が多孔質であることが明らかとなった。吸着等温線から求めた比表面積、細孔径、及び、細孔容量は、それぞれ、812m2/g、1.92nm、及び、0.46cm3/gであった。
この粒子に254nmの紫外線を照射したところ、545nmにTbの6476遷移に相当する緑色の蛍光を示し、その蛍光強度は実施例3の約60%であった。
【0085】
(実施例5)
[1. 配列体の作製]
実施例2で得られた無機蛍光体粒子を水に分散させ(2wt%)、超音波を照射することにより無機蛍光体粒子分散液を調製した。この分散液を用いて、文献(M.Ishii et al., Langmuir 2005, 21, 5367)に開示されている方法により、無機蛍光体粒子からなる配列体を作製した。
【0086】
[2. 評価]
入射角θを変化させながら配列体の反射スペクトルを測定したところ、反射波長λはθに依存して変化した。ブラッグの式((2)式)との対応を調べるために、λ2とsin2θとの関係をプロットした。図3に、その結果を示す。ブラッグの式から予測されるように、λ2とsin2θとの間には直線関係があり、その傾きから計算したdの値は255nmであった。この値は、実測した平均粒子径260nmにほぼ一致した。
【0087】
次に、作製した規則配列体に266nmの紫外光を照射し、蛍光強度の角度依存性を評価した。Tbの6476遷移に相当する545nmの蛍光強度は、反射波長λが545nmと一致する角度(25°)で極小になった。この結果は、指向性を有する蛍光デバイスへの応用が可能であることを示している。
【0088】
(実施例6)
[1. 試料の合成]
水480mL、メタノール50mL、エタノール350mLの混合溶媒を用いたこと以外は実施例1と同様にして、球状シリカマトリックス中にY23:Euナノ粒子が分散した無機蛍光体粒子を得た。
[2. 評価]
SEMにより観察された粒子は球状であり、平均粒径は260nmであった。任意の100個の粒子の粒径から計算した単分散度は、4.6%であった。
この粒子を水に分散させ、実施例5と同様の方法で無機蛍光体粒子からなる配列体を作製した。得られた配列体は、ブラッグ反射に基づく青緑色の構造色を示した。この配列体に254nmの紫外線を照射したところ、Y23:Euナノ粒子からの蛍光により、配列体が赤色を呈した。紫外線の照射を止めると、配列体は再び青緑色の構造色を示した。この結果は、構造色と蛍光色のスイッチが可能であることを示している。
【0089】
(比較例1)
[1. 試料の合成]
水873mL、メタノール810mL、エチレングリコール72mLの混合溶媒に対して、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド7.04g(0.0125mol/L)、及び、1規定水酸化ナトリウム水溶液6.8mLを添加した。これに、室温でテトラメトキシシラン5.2mLを添加した。攪拌を続けたところ、テトラメトキシシランは完全に溶解し、白色粉末が析出した。
室温でさらに8時間攪拌し、一晩放置した後、ろ過と脱イオン水による洗浄を3回繰り返して、白色粉末を得た。この白色粉末を熱風乾燥機で3日間乾燥した後、550℃で6時間焼成することにより界面活性剤を含む有機成分を除去し、単分散球状メソポーラスシリカを得た。
【0090】
この粒子0.5gをメタノールに分散させ、Si/Y/Tbが83.5/15/1.5となるように、硝酸イットリウム六水和物及び硝酸テルビウム六水和物を加えた。ロータリーエバポレータを用いて、この溶液からメタノールをゆっくりと蒸発させ、硝酸イットリウム及び硝酸テルビウムを含浸させた球状メソポーラスシリカ粉末を得た。この粉末を1000℃で3時間焼成した。
【0091】
[2. 評価]
得られた粉末に254nmの紫外線を照射したところ、545nmにTbの6476遷移に相当する緑色の蛍光を示し、その強度は実施例3と同等であった。図4に、得られた粒子のSEM写真を示す。図4より、粒子と粒子の間に異物が存在し、球状シリカ粒子の外に蛍光体が生成していることがわかる。
この粒子を水に分散させ、実施例5と同様な方法で配列体作製を試みたが、ブラッグ反射を示す配列体は得られなかった。
【0092】
(比較例2)
[1. 試料の合成]
酢酸イットリウム四水和物(0.025mol/L)と酢酸テルビウム四水和物(0.005mol/L)を溶解させた水溶液に、比較例1で得られた単分散球状メソポーラスシリカを分散させ、室温で3h攪拌した。ろ過と水洗を2回繰り返した後、得られた粉末を1000℃で3h焼成した。
【0093】
[2. 評価]
得られた粉末をSEMにより観察したところ、粒子と粒子の間に異物はなかった。しかしながら、粒子に含まれるTb量は、検出限界以下であった。
【0094】
(実施例7)
[1. 試料の合成]
水873mL、メタノール810mL、エチレングリコール72mLの混合溶媒に対して、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド7.04g(0.0125mol/L)及び1規定水酸化ナトリウム水溶液6.84mLを添加した。これに室温でテトラメトキシシラン5.2mLを添加したところ、テトラメトキシシランは速やかに溶解し、約80秒後に白色粉末が析出してきた。さらに8時間攪拌して一晩放置した後、ろ過と脱イオン水による洗浄を3回繰り返して、前駆体粒子(球状シリカ多孔体中にヘキサデシルトリメチルアンモニウムイオンが導入された粒子)を得た。
【0095】
メタノールに酢酸イットリウム四水和物(0.025mol/L)、酢酸エルビウム四水和物(0.0025mol/L)、及び酢酸イッテルビウム四水和物(0.0025mol/L)を溶解した。この溶液100mLに前駆体粒子0.5gを分散し、60℃で3h攪拌した。ろ過とメタノールによる洗浄を2回繰り返して、イットリウムイオン、エルビウムイオン、及びイッテルビウムイオンが導入された球状シリカ多孔体粉末を得た。
この粉末を大気中、1100℃で3h焼成することにより、球状シリカマトリックス中にY23:Er、Ybナノ粒子が分散した無機蛍光体粒子を得た。
【0096】
[2. 評価]
SEMにより観察された粒子は球状であり、平均粒径は340nmであった。任意の100個の粒子の粒径から計算した単分散度は3.5%であった。粒子中の元素比Si/Y/Er/Ybは、83.5/12.3/1.3/2.8であった。この粉末のX線回折パターンには、Y23の回折パターンの位置にブロードなピークが観測された。
図5に、この粒子に波長980nmのレーザー光を照射したときの発光スペクトルを示す。525nm付近及び550nm付近に、それぞれ、Er3+211/2415/2、及び、43/2415/2遷移に相当する緑色発光が観測された。また、660nm付近に、Er3+49/2415/2遷移に相当する赤色発光が観測された。図5より、この粒子がアップコンバージョン発光することがわかる。
【0097】
(実施例8)
[1. 試料の合成]
酢酸イッテルビウム四水和物を加えなかった以外は実施例7と同様にして、球状シリカマトリックス中にY23:Erナノ粒子が分散した無機蛍光体粒子を得た。
[2. 評価]
粒子中の元素比Si/Y/Erは、83.1/15.2/1.7であった。この粒子に波長980nmのレーザー光を照射したところ、525nm付近及び550nm付近に、それぞれ、Er3+211/2415/2、及び、43/2415/2遷移に相当する緑色発光が観測された。また、660nm付近に、Er3+49/2415/2遷移に相当する赤色発光が観測された。実施例7と比較して蛍光強度は弱かったが、赤色発光に対する緑色発光の相対強度は大きかった。
【0098】
(実施例9)
[1. 試料の合成]
メタノールに酢酸亜鉛二水和物(0.05mol/L)を溶解した。この溶液100mLに、実施例7で合成した前駆体粒子1.0gを分散し、60℃で3h攪拌した。ろ過とメタノールによる洗浄を2回繰り返して、亜鉛イオンが導入された球状シリカ多孔体粉末を得た。
この粉末0.20gを20mLの酢酸マンガン四水和物のメタノール溶液(0.001mol/L)に分散し、室温で3h攪拌した。ろ過とメタノールによる洗浄を2回繰り返して、亜鉛イオンとマンガンイオンが導入された球状シリカ多孔体粉末を得た。
この粉末を大気中、900℃で3h焼成することにより、球状シリカマトリックス中にZn2SiO4:Mnナノ粒子が分散した無機蛍光体粒子を得た。
【0099】
[2. 評価]
SEMにより観察された粒子は球状であり、平均粒径は380nmであった。任意の100個の粒子の粒径から計算した単分散度は、3.2%であった。粒子中の元素比Si/Zn/Mnは、75.9/23.2/0.9であった。
図6に、得られた粉末のX線回折パターンを示す。20度付近のアモルファスシリカのブロードなピークに加えて、Zn2SiO4(JCPDS 14−653)と一致するピークが観測されており、導入したZnイオンが熱処理により球状シリカの一部と反応したことがわかる。この粒子に248nmの紫外光を照射したところ、550nmの黄緑色の発光を示した。
【0100】
(実施例10)
[1. 試料の合成]
水857mL、メタノール932mLの混合溶媒を用いたこと、大気中熱処理を1000℃で行ったこと以外は、実施例7と同様にして、球状シリカマトリックスにY23:Er、Ybナノ粒子が分散した無機蛍光体粒子を得た。SEMにより観察された粒子は球状であり、平均粒径は320nmであった。任意の100個の粒子の粒径から計算した単分散度は3.3%であった。さらに、実施例5と同様にして、この粒子からなる規則配列体を作製した。
【0101】
[2. 評価]
この規則配列体に波長980nmのレーザー光を照射し、アップコンバージョン発光の方向依存性を調べた。この規則配列体のストップバンドは、25°で660nm付近の赤色発光に一致した。全発光強度(緑色+赤色発光)に対する赤色発光の割合を角度に対してプロットした結果を図7に示す。図7より、ストップバンドが赤色発光と一致する25°で、赤色発光の割合は極小となることがわかる。これは、ストップバンドと一致する発光が抑制され、励起準位の電子は別の遷移で(すなわち、別の波長で)発光して、発光強度比が変わるためと考えられる。
【0102】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明に係る単分散球状無機蛍光体は、フィールドエミッションデバイスやプラズマディスプレイパネル用の蛍光体、ドラッグデリバリー用の粒子などに用いることができる。
また、本発明に係る規則配列体は、構造色を利用した色材、光フィルター、反射ミラー、フォトニック結晶、光スイッチ、光センサなどに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.1〜1.5μmであり、
(1)式から求められる単分散度が10%以下であり、
球状シリカマトリックス中に酸化物蛍光体ナノ粒子が分散している
単分散球状無機蛍光体。
単分散度=(粒子径の標準偏差)×100/(粒子径の平均値) ・・・(1)
【請求項2】
前記酸化物蛍光体ナノ粒子は、励起光より波長の長い光を発光するものである請求項1に記載の単分散球状無機蛍光体。
【請求項3】
前記酸化物蛍光体ナノ粒子は、紫外光又は可視光で励起し、可視光を発光するものである請求項2に記載の単分散球状無機蛍光体。
【請求項4】
前記酸化物蛍光体ナノ粒子は、励起光より波長の短い光を発光するものである請求項1に記載の単分散球状無機蛍光体。
【請求項5】
前記酸化物蛍光体ナノ粒子は、赤外光で励起し、可視光を発光するものである請求項4に記載の単分散球状無機蛍光体。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれかに記載の単分散球状無機蛍光体を規則配列させた規則配列体。
【請求項7】
前記規則配列体のストップバンド波長と、前記酸化物蛍光体ナノ粒子の少なくとも1つの発光波長とが重なりを持つ請求項6に記載の規則配列体。
【請求項8】
シリカ原料とアルキル4級アンモニウム塩とを含む原料を溶媒中で混合し、球状シリカマトリックス中にアルキル4級アンモニウムイオンが導入された前駆体粒子を得る第1工程と、
酸化物蛍光体ナノ粒子を構成する第1の金属イオンを含む溶液中に前記前駆体粒子を加え、前記アルキル4級アンモニウムイオンと前記第1の金属イオンとをイオン交換させる第2工程と、
前記第1の金属イオンでイオン交換された前記前駆体粒子を、500℃以上、球状を維持できる温度以下の温度で熱処理する第3工程と、
を備えた単分散球状無機蛍光体の製造方法。
【請求項9】
シリカ原料とアルキル4級アンモニウム塩とを含む原料を溶媒中で混合し、球状シリカマトリックス中にアルキル4級アンモニウムイオンが導入された前駆体粒子を得る第1工程と、
酸化物蛍光体ナノ粒子を構成する第1の金属イオンを含む溶液中に前記前駆体粒子を加え、前記アルキル4級アンモニウムイオンと前記第1の金属イオンとをイオン交換させる第2工程と、
前記酸化物蛍光体ナノ粒子を構成する第2の金属イオンを含む溶液中に前記前駆体粒子を加え、前記第1の金属イオンの一部と前記第2の金属イオンとをイオン交換させる第2'工程と、
前記第1の金属イオン及び前記第2の金属イオンでイオン交換された前記前駆体粒子を、500℃以上、球状を維持できる温度以下の温度で熱処理する第3工程と、
を備えた単分散球状無機蛍光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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