説明

単核細胞と血小板の濃縮方法

【課題】赤血球と有核細胞と血小板を含んでなる体液から、簡便な操作で、血液製剤を使用せずに単核細胞と血小板を高濃度に濃縮する方法の提供。
【解決手段】入口と出口を有する容器に細胞捕捉フィルター材を充填した細胞捕捉器11と、回路と、バッグ13とを有するフィルターシステムを用いて、赤血球と有核細胞と血小板を含んでなる体液から単核細胞と血小板を濃縮する方法であって、バッグに貯留された前記体液に赤血球沈降剤を添加し、有核細胞と血小板に偏った層と赤血球に偏った層とに分離して、有核細胞と血小板に偏った層のみを細胞捕捉器に導入して有核細胞と血小板をフィルター材41に捕捉させた後に、細胞捕捉器の0.2容以上1.0容未満の、フィルター材を通過した濾液のみを、気体で押し出してフィルター材に導入して、フィルター材に捕捉されている単核細胞と血小板を選択的に回収する、該方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は赤血球、有核細胞、血小板を含む体液から、簡便な操作にて目的の単核細胞と血小板を効率的に高純度かつ高濃度に濃縮する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療や細胞治療のような細胞を用いた研究や治療が注目され実用化されつつある。このような用途に使用される細胞は骨髄液、臍帯血や末梢血などから採取されることが多いが、これらの中には研究や治療に必要な細胞以外にも多様な細胞が含有されている。例えば骨髄液、臍帯血や末梢血には通常赤血球が多量に含まれているが、赤血球は目的とする細胞の増殖を妨げ、また細胞治療においては細胞の生着能を低下させる。そこで、いかに赤血球の混入を低減して必要とする間葉系幹細胞、脂肪細胞、造血幹細胞、単核球のような単核細胞を選択的に採取するかが課題であった。
【0003】
また治療効果の観点から、必要とする単核細胞の回収率が高く、濃度が高いことが求められている。さらに再生医療において、再生における重要三要素の一つである成長因子を豊富に含有する細胞等が高濃度に共存することで、さらなる高い治療効果が実現できる。
【0004】
従来、このような多量の赤血球を除去して必要な細胞のみを選択的に採取する方法としては、比重遠心法、赤血球凝集法、バフィーコート法、抗体を用いたアフィニティ分離法などが行われてきた。
しかしながら、比重遠心法は、赤血球除去率が高く、容積を小さくできるため細胞濃縮率も高いが、その反面、細胞の回収率は低く、また非常に熟練した技術が要求される煩雑な操作であり、さらに開放系での操作になるため雑菌の混入リスクが高く、安全性の面でも問題がある。
【0005】
また、赤血球凝集法では、ヒドロキシエチルスターチやデキストランと混和して赤血球の連銭形成により赤血球を凝集、沈降させて上層の必要な細胞を回収するが(非特許文献1、2)、赤血球の除去を高めようとすると界面に存在する細胞も除去してしまうために細胞の回収率が低下し、細胞の回収率を高めようとすると赤血球の混入を低減できず、この両方を満足することはできなかった。またこの方法では、液量の減容ができず充分な必要細胞濃度が得られなかった。
【0006】
バフィーコート法では、血液が貯留されたバッグを強遠心して上層の血漿層、中間層の主に白血球と血小板からなるバフィーコート層、下層の赤血球層を形成させ、上層の血漿層と下層の赤血球層をバッグから追い出して中間層のバフィーコート層を回収するが(非特許文献3)、やはり赤血球凝集法と同じ問題がある。
【0007】
抗体を用いたアフィニティ分離法では、特異性は高く減容効果は大きいものの、分離した細胞を回収するためには、結合した抗体分子を酵素処理するため、細胞の損傷、高コスト、操作の煩雑さなどの問題がある。
【0008】
また、赤血球の混入が少量である場合には、赤血球を低浸透圧下で溶血して除去する方法などもある。しかし、このような低浸透圧状態では必要とする細胞までもがダメージを受け、赤血球が除去できる一方で必要な細胞本来の細胞機能が失われる。また、実用化において安全性の観点から、できるだけ他家のものは用いずに全て自己の成分のみで構成され、操作が簡便であることが求められている。
【0009】
フィルター装置を用いて細胞含有液から簡便な操作で不要細胞の混入を低減し、効率的に有核細胞を分離回収する方法として、特許文献1では、細胞含有液を不要細胞に富む層と有核細胞に富んだ層に分離し、先ず不要細胞に富む層からフィルター装置に導入し、次に有核細胞に富んだ層を導入した後、フィルターに捕捉された有核細胞を回収液で回収する方法が開示されている。しかし、この方法では赤血球のような不要細胞に富む層もフィルターに導入するため、赤血球の除去率が十分でなく、また回収時に一定量の回収液を用いるため細胞濃度も低く、再生医療や細胞治療用途に適した赤血球除去と細胞濃縮液は得られなかった。さらに、有核細胞全般を回収し、かつ血小板を不要細胞として除去してしまう為に有益な単核細胞と血小板を選択的に濃縮する効果はない。
【0010】
また、特許文献2では、細胞含有液をフィルターに導入した後、フィルターを通過した濾液を少量残存させることにより、回収時に市販製剤の血清蛋白質を用いずに、細胞を高率に回収できる方法が開示されている。しかしながら、細胞含有液をそのままフィルターに導入することから赤血球のような不要細胞が多量に混入し、さらには細胞の回収率を高めるために一定量の高粘度の回収液を用いることから細胞濃度も低く、さらに遠心等の操作が必要となり操作が煩雑で時間がかかる。また、血小板を濃縮する効果については一切記載されていない。
【0011】
さらに特許文献3では、単核球捕捉フィルターに細胞集団を導入した後に、アルブミンを含むリンス液を導入してフィルター装置内に残存する赤血球を洗い流した後、フィルター装置に回収液を導入してフィルター装置内に捕捉された目的細胞を回収する方法が開示されている。この方法では、リンス液を導入している為に赤血球の混入は減少しているが、赤血球もフィルターに導入するために、これでもなお赤血球除去率が不十分である。さらにリンス液の作用によって血小板はむしろ洗い流される可能性があるためか血小板を濃縮するような記載はない。また、回収液としてヒト血清アルブミンを使用しているため感染のリスクも高い。さらに操作性に関して、リンス液を通液する際にフィルター装置に血液回路中の空気が入り込んで濾過不能(エアブロック)になる、フィルター装置に空気が入らないように濾過前にリンス液でフィルター装置および血液回路をプライミングしておく必要があるなど、非常に煩雑な操作を余儀なくされる上に、一定量の回収液を用いる為に細胞濃度も低く十分でない。
【0012】
特許文献4では、細胞集団を細胞分離フィルターで濾過した後に、細胞分離フィルターの下流側から先ず液体を導入し、引き続いて気体を導入することで回収必要細胞を高率かつ細胞にダメージを与えずに分離回収する方法が開示されている。しかしながら、特許文献4の方法では赤血球もフィルターに導入するために赤血球の混入量が多く、また回収必要細胞を高濃度に濃縮することはできず、血小板に関しては濃縮どころか除去してしまうことから回収さえもできなかった。
【0013】
以上より、多様な細胞を含有する細胞含有液から、簡便な操作法で単核細胞や血小板のような必要な細胞を効率的に高純度かつ高濃度に濃縮する細胞調製方法はいまだ確立されていなかった。
【特許文献1】国際公開第2005/035737号パンフレット
【特許文献2】特開2000−325071号公報
【特許文献3】特開2004−121144号公報
【特許文献4】特開2001−78757号公報
【非特許文献1】Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.92,pp10119−10122(1995)
【非特許文献2】Indian J. Med. Res.,Vol.106,pp16−19(1997)
【非特許文献3】Bone Marrow Transplantation,Vol.23,pp505−509(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、赤血球と有核細胞と血小板を含んでなる体液から、簡便な操作で、血液製剤を使用せずに、単核細胞と血小板を高濃度に濃縮する方法であって、赤血球の混入率が低く、単核細胞と血小板の回収率が高い濃縮方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、少なくとも赤血球と有核細胞と血小板を含んでなる体液に赤血球沈降剤を添加して有核細胞と血小板に偏った層と赤血球に偏った層とに分離させた後に、有核細胞と血小板に偏った層のみを細胞捕捉フィルター材に通過させ、細胞捕捉器の0.2容以上1.0容未満のフィルター材を通過した濾液と気体で回収することで、簡便な操作で赤血球を高率除去できかつ単核細胞と血小板を効率的に回収して高濃度に濃縮できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は以下に関する。
(1)入口と出口を有する容器に細胞捕捉フィルター材を充填した細胞捕捉器と、回路と、バッグとを有するフィルターシステムを用いて、赤血球と有核細胞と血小板を含んでなる体液から単核細胞と血小板を濃縮する方法であって、
バッグに貯留された前記体液に赤血球沈降剤を添加し、
有核細胞と血小板に偏った層と赤血球に偏った層とに分離して、
前記有核細胞と血小板に偏った層のみを前記細胞捕捉器に導入して有核細胞と血小板を前記フィルター材に捕捉させた後に、
前記細胞捕捉器の0.2容以上1.0容未満の、前記フィルター材を通過した濾液のみを、気体で押し出して前記フィルター材に導入して、
前記フィルター材に捕捉されている単核細胞と血小板を選択的に回収することを特徴とする赤血球と有核細胞と血小板を含んでなる体液から単核細胞と血小板を濃縮する方法。
(2)前記気体が、空気であることを特徴とする前記(1)に記載の赤血球と有核細胞と血小板を含んでなる体液から単核細胞と血小板を濃縮する方法。
(3)前記細胞捕捉器の0.2容以上1.0容未満の、前記フィルター材を通過した濾液が、前記細胞捕捉器と回路に残存した濾液であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の赤血球と有核細胞と血小板を含んでなる体液から単核細胞と血小板を濃縮する方法。
(4)前記赤血球沈降剤が、ヒドロキシエチルスターチまたはデキストランのいずれかであることを特徴とする前記(1)乃至(3)のいずれかに記載の赤血球と有核細胞と血小板を含んでなる体液から単核細胞と血小板を濃縮する方法。
(5)前記有核細胞と血小板に偏った層と赤血球に偏った層とに分離した後に、前記赤血球に偏った層をバッグから排出して、前記有核細胞と血小板に偏った層のみを前記細胞捕捉器に導入することを特徴とする前記(1)乃至(4)のいずれかに記載の赤血球と有核細胞と血小板を含んでなる体液から単核細胞と血小板を濃縮する方法。
(6)前記赤血球と有核細胞と血小板を含んでなる体液が、末梢血、臍帯血、骨髄液からなる群より選択される一の体液であることを特徴とする前記(1)乃至(5)のいずれかに記載の赤血球と有核細胞と血小板を含んでなる体液から単核細胞と血小板を濃縮する方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る単核細胞と血小板を濃縮する方法によれば、赤血球や有核細胞や血小板を含む細胞含有液から、簡便な操作で、血液製剤を使用せずに、単核細胞と血小板を選択的に高濃度に濃縮することができ、しかも赤血球の混入率は極めて低く、単核細胞と血小板の回収率は高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明でいう赤血球と有核細胞と血小板を含んでなる体液とは、骨髄液、臍帯血、末梢血などであり、これらは採取したままのものであっても、生理食塩液、抗凝固剤液や培養液などで希釈されたものであっても良い。本発明でいう有核細胞とは、核を有する細胞であればいずれの細胞であっても良いが、白血球、単核細胞、顆粒球などが挙げられる。
【0019】
また本発明でいう単核細胞とは、単核の細胞のことをいうが、例えばリンパ球、単球、マクロファージ、樹状細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、骨芽細胞や骨芽細胞前駆細胞、脂肪細胞などが挙げられ、なかでも単核細胞として選択的に採取されるのは、増殖または分化誘導能を有する造血幹細胞、間葉系幹細胞、骨芽細胞や骨芽細胞前駆細胞である。
【0020】
本発明でいう細胞捕捉フィルター材とは、有核細胞を捕捉し赤血球のような不要な細胞は通過する多孔質フィルター材をいう。ここでいう有核細胞を捕捉するとは、細胞含有液から有核細胞の60%以上、より好ましくは70%以上を回収することをいう。また、赤血球のような不要な細胞を通過するとは、細胞含有液から赤血球の90%以上、より好ましくは95%以上をフィルターに捕捉せずに通過させることをいう。
【0021】
本発明に用いられる細胞捕捉フィルター材は、水不溶性担体であればいかなる材質でも用いることができるが、様々な形状に加工でき、医療材料として滅菌可能でありかつ生体適合性の高いものが挙げられる。例えば、セルロース、デキストラン、キチン、キトサン、デンプン、アガロース、蛋白質、天然ゴムなどの天然ポリマー、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、イソプロピルアクリルアミドポリマー、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸グリコール酸共重合体、ポリメタクリル酸エステル、ポリ塩化ビニル、ポリアミノ酸などの合成ポリマー、ハイドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム、アルミナなどのセラミックス、チタン等が挙げられる。
【0022】
また、細胞捕捉フィルター材の表面に特定の細胞と親和性を持たせるような加工を施しているものも良好に用いられる。例えば、特定の細胞表面抗原に対する抗体、ペプチドやそのポリマー、またフィブロネクチンのような細胞接着分子、コラーゲンのような細胞外基質及びその変性体であるゼラチンなどをフィルター材表面に固定またはコーティングするなどして目的とする細胞をより選択的に捕捉することができる。これらのフィルター表面の加工剤は目的とする細胞に応じて選択され、複数種類を組み合わせて用いることもできる。
【0023】
細胞捕捉フィルター材の形状は、細胞を捕捉するのに十分な表面積を有することが必要であることから、例えば粒状・繊維塊・綿状・布状・糸状・中空糸状・糸束状・織布状・不織布状・スポンジ状等が挙げられるが、体積当りの表面積が大きい点から不織布やスポンジ状がより好ましく用いられる。
【0024】
細胞捕捉フィルター材が不織布の場合、平均繊維径は1.0μm以上30μm以下であり、好ましくは1.0μm以上20μm以下であり、さらにより好ましくは1.5μm以上10μm以下である。1.0μm未満では有核細胞が強固に捕捉されてしまい回収困難となる可能性があるだけでなく、不要細胞の通過、特に凝集させた場合の通過を困難にする。また、30μmを超えると有核細胞が繊維に捕捉されず素通りする可能性が高くなる。いずれの場合も回収率の低下につながるおそれがあるので好ましくない。
【0025】
ここでいう平均繊維径とは、以下の手順に従って求められる値をいう。即ち実質的に均一と認められる細胞捕捉フィルター材の一部をサンプリングし、走査型電子顕微鏡などを用いて、1000倍〜3000倍の倍率で写真に撮る。サンプリングに際しては、細胞捕捉フィルター材の有効濾過断面積部分を、一辺が0.5cm〜1cmの正方形によって区分し、その中から3ヶ所以上、好ましくは5ヶ所以上をランダムサンプリングする。ランダムサンプリングするには、例えば上記各区分に番地を指定した後、乱数表を使うなどの方法で、必要箇所以上の区分を選べばよい。またサンプリングした各区分について、3ヶ所以上、好ましくは5ヶ所以上を写真に撮る。このようにして得た写真について、写っている全ての繊維の直径を測定する。ここで直径とは、繊維軸に対して直角方向の繊維の幅をいう。測定した全ての繊維の直径の和を、繊維の数で割った値を平均繊維径とする。但し、複数の繊維が重なり合っており、他の繊維の陰になってその幅が測定できない場合、また複数の繊維が溶融するなどして、太い繊維になっている場合、更に著しく直径の異なる繊維が混在している場合、等々の場合には、これらのデータは削除する。以上の方法により、500本以上、好ましくは1000本以上のデータにより平均繊維径を求める。
【0026】
また、本発明でいう細胞捕捉器の容器としては特に限定はないが、細胞含有液を導入可能とするような入口と出口を有し、細胞捕捉フィルター材に効率的に細胞を捕捉できるような構造であることが好ましい。例えば、細胞捕捉フィルター材として不織布を用いる場合、細胞捕捉器の容器の形状は、細胞含有液の入口と出口の距離が最長となるように、入口と出口が対角線の両端に位置する平板の正方形であることが好ましい。細胞捕捉フィルター材の有効濾過断面積は、捕捉する細胞数にも因るが、4.0cm〜45cmの範囲にあることが好ましく、細胞捕捉フィルター材に捕捉された細胞が高い線速によって剥離しないよう、より好ましくは9.0cm〜45cmの範囲であり、細胞捕捉フィルター材の全体を均一に有効利用するには、9.0cm〜18cmであることが最も好ましい。
【0027】
細胞捕捉器の容器の材質としては、水不溶性で成形性、密閉性、滅菌性に優れ、生体適合性の高い材質が好ましい。さらに、細胞含有液が細胞捕捉フィルター材を通過する際や、濾液で細胞捕捉フィルター材の単核細胞を回収する際などに、細胞捕捉器内部に負荷される圧力によって実質的に膨張したり漏洩したりしない硬い材質であることが好ましい。これらの観点から好ましい材質としては、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレンなどが挙げられ、硬度の観点からより好ましいのはポリカーボネート、ポリスチレンであり、容器への細胞付着による細胞ロスの観点からするとポリカーボネートが最も好ましく用いられる。
【0028】
本発明でいう赤血球沈降剤とは、多様な細胞を含有する細胞含有液から赤血球のみを連銭形成等により沈降させる成分を含有するものをいい、具体的にはヒドロキシエチルスターチ、デキストランなどが挙げられる。血液に対するヒドロキシエチルスターチ添加量としては、例えばヒドロキシエチルスターチの平均分子量が40万で10%生理食塩水溶液の場合、血液1に対して、1/3量〜1/10量が好ましく、濃度としては、0.9〜2.5%が好ましい。また静置する時間としては10分以上80分以下、好ましくは20分以上50分以下が好ましい。ヒドロキシエチルスターチ添加量が1/10量未満、もしくは静置する時間が10分未満の場合、赤血球の連銭形成が不十分で層分離が不十分となり好ましくない。一方、ヒドロキシエチルスターチ添加量が1/3量より多いか、もしくは静置する時間が80分より長い場合、層分離が急速に進み、細胞も沈降してしまうので好ましくない。また、ヒドロキシエチルスターチの分子量は7万〜40万の範囲にあることが好ましいが、赤血球の沈降速度や沈降性をより高くする観点から20万〜40万の分子量のものがより好ましく用いられる。
【0029】
デキストランの血液に対する添加量は、例えば分子量が7万で、5%のデキストラン生理食塩液の場合、血液1に対して1.5量〜3.0量が好ましく、濃度としては1.0〜4.5%が好ましい。静置する時間は30分〜75分が好ましく、デキストラン添加量が血液に対して1.5量未満、もしくは静置する時間が30分未満の場合は、赤血球の連銭形成が不十分で層分離の界面が明瞭でなくなるため好ましくない。一方、デキストラン添加量が3.0量よりも多いか、もしくは静置時間が75分よりも長い場合は、層分離が過剰に進み、細胞も沈降してしまうので好ましくない。また、分子量は5万〜20万の範囲にあることが好ましいが、ヒドロキシエチルスターチと同様の理由から7万〜20万の分子量のものが良好に用いられる。
【0030】
本発明でいう赤血球に偏った層とは、層分離する前の赤血球と有核細胞と血小板を含む体液中の赤血球の60%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上が含有される層のことをいう。
【0031】
また、本発明でいう有核細胞と血小板に偏った層とは、層分離する前の赤血球と有核細胞と血小板を含む体液中の有核細胞と血小板の60%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上が含有される層のことをいう。
【0032】
本発明で単核細胞と血小板を選択的に回収するとは、細胞捕捉フィルター材に捕捉された有核細胞と血小板を回収する際に、フィルターを通過した濾液を少量気体で押出すことで、フィルターに捕捉された有核細胞と血小板から、単核細胞と血小板を優先的に回収することをいう。細胞表面の特性から有核細胞のうち粘着性の低い単核細胞が粘着性の高い多核細胞よりも優先的に回収される。
【0033】
本発明の方法では、濾液を回収液として使用するため、回収液を別途調製する必要がない。また、濾液は血漿蛋白等の血漿成分を含有しているため、回収液に細胞安定化剤として通常添加する血液製剤由来の血清アルブミンを補充する必要がなく、感染のリスクもない。回収液として用いる濾液量は、細胞捕捉フィルター材に捕捉された単核細胞と血小板を高い回収率で回収するために、細胞捕捉器の容積に対して0.2容以上である必要がある。回収に使用する濾液量が細胞捕捉器の容積の0.2容未満であると、泡立ち易くなり、細胞の回収率が低下する。また、回収に使用する濾液量を細胞捕捉器の1.0容以上にしても、目的とする単核細胞と血小板の回収率は向上しないから、濾液量を増加した分、目的とする単核細胞や血小板の濃度が減少する。よって、単核細胞と血小板の濃縮液を得るには、回収液に使用する濾液量が細胞捕捉器の0.2容以上1.0容未満であることが必須である。
【0034】
回収に使用する濾液の流速は、剪断力を高め、単核細胞を高率で回収するためにできるだけ高速が好ましいが、内圧上昇による細胞捕捉器と細胞導入管の接続部のはずれや、有核細胞へのダメージを起こさない流速に制御することが好ましい。また、回収に使用する濾液を細胞捕捉器に導入する手段は、シリンジポンプ、ブラッドポンプ、ペリスタポンプ等の装置を用いるものや、簡便法としてシリンジを手で押す方法、貯留したバッグを押しつぶして液流を惹起する方法、落差処理等が挙げられる。更に、有核細胞の回収率をより高めるために、フィルター装置に振動を加えるとか、ストップドフロー等を行ってもよい。回収に使用する濾液をフィルター装置に導入する方向は、体液を導入した方向と同方向または逆方向があるが、一般的に後者の方が細胞回収率が高いので好ましい。
【0035】
本発明で使用する濾液量は細胞捕捉器の0.2容以上1.0容未満と少量であり、濾液だけでは細胞を回収できないので、濾液を細胞捕捉フィルター材に通し回収バッグまで押し出すために、気体を使用する。気体は濾液のpHや細胞の生存率に影響しない無菌状態のものであればどのような気体であっても良いが、窒素ガスや酸素ガス、空気が好ましく、簡便さの点で空気が最も好ましい。
【0036】
図1と図2のシステムを例にとって、赤血球と有核細胞と血小板を含む体液から単核細胞と血小板を濃縮する方法を説明する。まず、赤血球廃棄管1上のクランプ20を閉じて、注入部3または赤血球廃棄管1から体液貯留バッグ14に赤血球と有核細胞と血小板を含む体液を導入する。体液貯留バッグ14の注入部3から赤血球沈降剤を導入し、一定時間静置させて体液を有核細胞と血小板に偏った層と赤血球に偏った層とに層分離する。次に、クランプ20を開けて、赤血球に偏った層を体液貯留バッグ14の赤血球廃棄管1から排出してから、クランプ20を閉じて有核細胞と血小板に偏った層のみを体液貯留バッグ14に残す。赤血球沈降剤によって沈降した赤血球に偏った層の廃棄は、体液貯留バッグ14と細胞導入管4を接続する前に行ってもよいし、接続後に行ってもよい。
【0037】
図2において、フィルターシステム(濃縮システム100)は、細胞捕捉フィルター材を充填した細胞捕捉器11と、バック即ちドレインバッグ12、回収バッグ13、体液貯留バッグ14とを、それぞれ回路即ち赤血球廃棄管1、濾液回収管5、細胞回収管7、細胞導入管4、注入管6及びT字管31、32を介して接続して形成されている。また、注入管6には、注入口33が設けられ、細胞導入管4のクランプ21とT字管31との間には、エアベントフィルター41が設けられ、更にクランプ20〜23が配置されている。濃縮システム100のクランプ21〜23をすべて閉じた状態で、体液貯留バッグ14の細胞導入管接続部2と濃縮システム100の細胞導入管4を接続し、T字管31は体液貯留バッグ14と細胞捕捉器11のみが連通するようにし、T字管32は細胞捕捉器11とドレインバッグ12のみが連通するようにする。濃縮システム100はスタンドなどの固定台に吊り下げて、重力方向上から、体液貯留バッグ14、細胞捕捉器11、ドレインバッグ12の順に配置されるようにする。
【0038】
次に、クランプ21と22を開けて、体液貯留バッグ14に残った有核細胞と血小板に偏った層を細胞捕捉フィルター材を備える細胞捕捉器11に導入する。赤血球に偏った層を細胞捕捉器に導入せずに有核細胞と血小板に偏った層のみを細胞捕捉器11に導入することによって、赤血球の混入が低減することはもとより、細胞捕捉器に捕捉された細胞が、多量の赤血球のずり応力によって細胞捕捉フィルター材の深部に潜り込まず回収されやすい状態で保持される。例えば、層分離せずに体液を細胞捕捉器11に導入した場合、赤血球が混入するだけでなく、単核細胞と血小板の濃縮率も低減するため好ましくない。また、赤血球の層分離効率が悪い場合も同様のことが起こるため、十分な層分離を行った後に赤血球に偏った層を体液貯留バッグから慎重に排出することが好ましい。赤血球廃棄管が接続されている体液貯留バッグ14の接続部分は、出口に向かって傾斜していると赤血球に偏った層が残留しにくいため好ましい。また、有核細胞と血小板に偏った層を細胞捕捉器11に導入する手段については特に限定はないが、落差やポンプ、あるいは体液貯留バッグを押しつぶして導入しても良い。操作時間の観点から、落差やポンプによる導入が好ましく、簡便さの点から落差が最も好ましい。細胞捕捉器11から排出された液はドレインバッグ12に貯留される。体液貯留バッグ14内の有核細胞と血小板に偏った層が全て細胞捕捉器11に導入され、細胞捕捉フィルター材を通過したら、クランプ21と22を閉じる。この時、細胞捕捉器11と注入管6には、細胞捕捉器11の0.2容以上1.0容未満の濾液が残るようにする。
【0039】
次に、T字管32は注入口33と細胞捕捉器のみが連通するようにし、T字管31は細胞捕捉器11と回収液バッグ13のみが連通するようにし、クランプ23を開けて注入口33から空気を細胞捕捉器11に導入し、回収バッグ13に単核細胞と血小板を回収する。注入する空気の量は、濾液がすべて回収バッグ13に回収できれば良い。回収バッグ13に濾液がすべて回収されたら、クランプ23を閉じる。
【0040】
あるいは、細胞捕捉器11と注入管6に濾液を残さずに、エアベントフィルター41からシリンジ等を用いて空気を導入し、細胞捕捉器11と濾液回収管5に残留した濾液を押し出してドレインバッグ12に回収しても良い。この場合は、ドレインバッグ12からシリンジ等を用いて細胞捕捉器11の0.2容以上1.0容未満の濾液を回収して、注入口33から導入し、導入した濾液を空気で押し出して回収液バッグ13に回収しても良い。この方法は、濾液の導入量を正確に設定できるという利点がある。

【実施例】
【0041】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
(1)細胞捕捉器の作製
上容器と下容器からなり、組み立てた後の内寸が縦43mm 、横43mm 、高さ2.9mm ( 有効濾過断面積18.5cm2 、内容積7mL) で、液体流入口と液体流出口を最長対角線上にもつポリカーボネート製容器に有核細胞捕捉材として、容器の入口側から平均繊維径約12μmのポリエステル不織布0 .14gと、平均繊維径1.7μm のポリエステル不織布1.28g と、平均繊維径1.1μmのポリエステル不織布0.19gからなる有核細胞捕捉フィルター材を充填した。尚、充填密度はそれぞれ入口側から0.20g/cm3、 0.24g/cm3および0.20g/cm3であった。
(2) 赤血球層排出操作
CPD加ヒト末梢血液58mLが貯留された体液貯留バッグ14に、6%ヒドロキシエチルスターチ(ニプロファーマ「HES40(赤血球沈降剤)」を12mL添加して、10分間混和した。そして、30分間静置して赤血球を沈降させた後、体液貯留バッグ14の下方に沈降した赤血球に偏った層を赤血球廃棄管1を通じで体液貯留バッグ14の外に排出した。この時、下層の赤血球に偏った層と上層の有核細胞と血小板に偏った層との界面を乱さないように注意し、かつ上層を排出しないようにゆっくりと排出した。なお、この時濃縮システムにおいて事前にクランプ21 、23を閉じてある。この時のCPD加ヒト末梢血液中の赤血球数と上層の有核細胞と血小板に偏った層の赤血球数を多項目自動血球分析装置(シスメックス社SF3000)を用いて測定した結果、それぞれ1.3×1011個、9.0×10個であった。
(3) 細胞濃縮操作
赤血球に偏った層を排出した後の有核細胞と血小板に偏った層が貯留された体液貯留バッグ14と細胞導入管4を接続し、クランプ21を開けて体液貯留バッグ14に貯留された上層の有核細胞と血小板に偏った層44mLを落差により細胞捕捉器11に導入して濾過を開始した。この時、有核細胞と血小板に偏った層が細胞捕捉器11に流れ、濾過された細胞浮遊液はドレインバッグ12 に貯留した。体液貯留バッグ14の全ての有核細胞と血小板に偏った層が細胞捕捉器11 に導入され、細胞捕捉器11の入口側空間の容器内は空気で満たされ、細胞捕捉器11の出口側空間の容器内にはフィルター材を通過した濾液が残留している状態で濾過が終了した。次に、クランプ21 、22を閉じた。続いてシリンジに空気38mLを充填し、クランプ23 を開けて注入口33 から手動で空気38mLを押出し、細胞捕捉器11内の出口側空間に残留している濾液でフィルターに捕捉された細胞を回収し、回収バッグ13 に細胞濃縮液を回収した。この時の回収された細胞濃縮液量は5.4mL(細胞捕捉器11の0.77容)であった。
(4)分析
本細胞濃縮操作により得られた細胞濃縮液の赤血球除去率、単核細胞回収率、単核細胞濃縮倍率、単核細胞含有率、血小板濃縮倍率、をそれぞれ以下の計算式にて算出した。
また、赤血球数、単核細胞数、単核細胞濃度、全細胞数、血小板濃度のカウントは多項目自動血球分析装置(シスメックス社SF3000)を用いて測定した。
・赤血球除去率(%)={(CPD加血液中の赤血球数−細胞濃縮液中の赤血球数)/CPD加血液中の赤血球数}×100
・単核細胞回収率(%)=(細胞濃縮液中の単核細胞数/CPD加血液中の単核細胞数)×100
・単核細胞濃縮倍率=(細胞濃縮液中の単核細胞濃度/CPD加血液中の単核細胞濃度)
・単核細胞含有率(%)=(細胞濃縮液中の単核細胞数/細胞濃縮液中の全細胞数)×100
・血小板濃縮倍率=(細胞濃縮液中の血小板濃度/CPD加血液中の血小板濃度)
(5)結果
本細胞濃縮操作により、細胞濃縮液の赤血球数は7.8×10個、赤血球除去率は99.4%、単核細胞回収率は74.6%、単核細胞濃度は6.9×10個/mL、単核細胞濃縮倍率は8.1倍、単核細胞含有率は50.2%、血小板濃縮倍率は2.9倍であった。
【0043】
[実施例2]
(1)細胞捕捉器の作製
実施例1と同様のものを使用した。
(2)赤血球層排出操作
実施例1と同様の操作を行った。この時のCPD加ヒト末梢血液中の赤血球数と上層の有核細胞と血小板に偏った層の赤血球数を多項目自動血球分析装置(シスメックス社SF3000)を用いて測定した結果、それぞれ1.4×1011個、8.9×10個であった。
(3)細胞濃縮操作
赤血球に偏った層を排出した後の有核細胞と血小板に偏った層(細胞浮遊液)が貯留された体液貯留バッグ14と細胞導入管4を接続し、クランプ21を開けて体液貯留バッグ14に貯留された上層の有核細胞と血小板に偏った層44mLを落差により細胞捕捉器11に導入して濾過を開始した。この時、有核細胞と血小板に偏った層は細胞捕捉器11に流れ、濾液はドレインバッグ12に貯留した。体液貯留バッグ14内の全ての有核細胞と血小板に偏った層が細胞捕捉器11に導入され、細胞捕捉器11の入口側空間は空気で満たされ、細胞捕捉器11の出口側空間にはフィルター材を通過した濾液が残留している状態で濾過が終了した。次に、クランプ21を閉じてクランプ23を開けてエアベントフィルター41にシリンジを用いて空気3.5mLを導入して細胞捕捉器11内の出口側空間に残留している濾液を押出し、ドレインバッグ12へ貯留した。この時、細胞捕捉器11内の出口側空間や注入管6には、少量の濾液が残存していた。以後の操作は実施例1と全く同じ操作を行った。この時に回収された細胞濃縮液量は1.8mL(細胞捕捉器11の0.26容)であった。
(4)分析
実施例1と同様の計算式にて算出した。
(5)結果
この時の細胞濃縮液の赤血球数は1.0×10個、赤血球除去率は99.3%、単核細胞回収率は65.1%、単核細胞濃度は1.9×10個/mL、単核細胞濃縮倍率は21.7倍、単核細胞含有率は49.8%、血小板濃縮倍率は5.5倍であった。
【0044】
[実施例3]
(1)細胞捕捉器の作製
実施例1と同じものを使用した。
(2)赤血球層排出操作
実施例1と同じ操作を行った。この時のCPD加ヒト末梢血液中の赤血球数と上層の有核細胞と血小板に偏った層の赤血球数を多項目自動血球分析装置(シスメックス社SF3000)を用いて測定した結果、それぞれ1.3×1011個、1.0×1010個であった。
(3)細胞濃縮操作
実施例1と同様に、有核細胞と血小板に偏った層を落差により細胞捕捉器11に導入して濾過が終了した後、クランプ21 、22を閉じた。次に、ドレインバッグ12に流入したフィルター材を通過した濾液1.0mLを、濾液採取ポート8にシリンジを接続して採取し、さらに空気を37mL充填し、クランプ23を開けて注入口33から手動でシリンジ中の濾液と空気を押出し、細胞捕捉器11内のフィルター材を通過した濾液でフィルターに捕捉された細胞を回収し、回収バッグ13 に細胞濃縮液を回収した。この時の回収された細胞濃縮液量は6.7mL(細胞捕捉器11の0.96容)であった。
(4)分析
実施例1と同様の計算式にて算出した。
(5)結果
この時の細胞濃縮液の赤血球数は7.1×10個、赤血球除去率は99.5%、単核細胞回収率は72.5%、単核細胞濃度は5.4×10個/mL、単核細胞濃縮倍率は6.3倍、単核細胞含有率は49.4%、血小板濃縮倍率は2.3倍であった。
【0045】
[実施例4]
(1)細胞捕捉器の作製
実施例1と同じものを使用した。
(2)赤血球層排出操作
実施例1と同様の操作を行った。この時のCPD加ヒト末梢血液中の赤血球数と上層の有核細胞と血小板に偏った層の赤血球数を多項目自動血球分析装置(シスメックス社SF3000)を用いて測定した結果、それぞれ1.3×1011個、9.0×10個であった。
(3)細胞濃縮操作
赤血球に偏った層を排出した後の有核細胞と血小板に偏った層が貯留された体液貯留バッグ14と細胞導入管4を接続し、クランプ21を開けて体液貯留バッグ14に貯留された上層の有核細胞と血小板に偏った層44mLを落差により細胞捕捉器11に導入して濾過を開始した。濾液はドレインバッグ12に貯留した。体液貯留バッグ14内の全ての有核細胞と血小板に偏った層が細胞捕捉器11に導入され、細胞捕捉器の入口側空間は空気で満たされ、細胞捕捉器の出口側空間にはフィルター材を通過した濾液が残留している状態で濾過が終了した。次に、クランプ21を閉じてエアベントフィルター41にシリンジを用いて空気30mLを導入して細胞捕捉器11内に残留している濾液を完全に押出し、ドレインバッグ12へ貯留した。続いて、ドレインバッグ12に貯留された濾液6.0mLを、濾液液採取ポート8にシリンジを接続して採取し、さらに空気を32mL充填し、クランプ23を開けて注入口33から手動でシリンジ中の濾液と空気を押出し、濾液でフィルターに捕捉された細胞を回収し、回収バッグ13 に細胞濃縮液を回収した。この時の回収された細胞濃縮液量は6.1mL(細胞捕捉器11の0.87容)であった。
(4)分析
実施例1と同様の計算式にて算出した。
(5)結果
この時の細胞濃縮液の赤血球数は8.1×10個、赤血球除去率は99.4%、単核細胞回収率は68.5%、単核細胞濃度は5.6×10個/mL、単核細胞濃縮倍率は6.5倍、単核細胞含有率は49.1%、血小板濃縮倍率は2.4倍であった。
【0046】
[実施例5]
(1)細胞捕捉器の作製
実施例1と同じものを使用した。
(2)赤血球層排出操作
CPD加ヒト末梢血液58mLが貯留された体液貯留バッグ14に、5%デキストラン(和光純薬「Dextran200,000」)を溶解した生理食塩液30mLを添加して、10分間混和した。そして、30分間静置して赤血球を沈降させた後、体液貯留バッグ14の下方に沈降した赤血球に偏った層を赤血球廃棄管1を通じで体液貯留バッグ14の外に排出した。この時、下層の赤血球に偏った層と上層の有核細胞と血小板に偏った層との界面を乱さないように注意し、かつ上層を排出しないようにゆっくりと排出した。この時のCPD加ヒト末梢血液中の赤血球数と上層の有核細胞と血小板に偏った層の赤血球数を多項目自動血球分析装置(シスメックス社SF3000)を用いて測定した結果、それぞれ1.3×1011個、9.1×10個であった。
(3)細胞濃縮操作
実施例1と同様の操作を行った。この時に回収された細胞濃縮液量は5.0mL(細胞捕捉器11の0.71容)であった。
(4)分析
実施例1と同様の計算式にて算出した。
(5)結果
この時の細胞濃縮液の赤血球数は7.3×10個、赤血球除去率は99.4%、単核細胞回収率は71.3%、単核細胞濃度は7.1×10個/mL、単核細胞濃縮倍率は8.3倍、単核細胞含有率は51.2%、血小板濃縮倍率は2.7倍であった。
【0047】
[比較例1]
(1)細胞捕捉器の作製
実施例1と同様のものを使用した。
(2)赤血球層排出操作
赤血球排出操作は行わず、CPD加ヒト末梢血液58mLが貯留された体液貯留バッグ14をそのまま用いた。この時のCPD加ヒト末梢血液中の赤血球数を多項目自動血球分析装置(シスメックス社SF3000)を用いて測定した結果、1.3×1011個であった。
(3)細胞濃縮操作
CPD加ヒト末梢血液58mLが貯留された体液貯留バッグ14と細胞導入管4を接続し、クランプ21を開けて体液貯留バッグ14に貯留されたCPD加ヒト末梢血液を落差により細胞捕捉器11に導入して濾過を開始した。濾液はドレインバッグ12に貯留した。体液貯留バッグ14内の全てのCPD加ヒト末梢血液が細胞捕捉器11に導入され、細胞捕捉器の入口側空間は空気で満たされ、細胞捕捉器の出口側空間には濾液が残留している状態で濾過が終了した。次に、クランプ21、22を閉じた。次に、10%デキストラン生理食塩水溶液(小林製薬「デキストラン40注」)にヒト血清アルブミンを最終濃度3%になるように添加した液体23mLと空気15mLをシリンジに充填し、クランプ23 を開けて注入口33から手動でシリンジ中の液体と空気を押出し、フィルターに捕捉された細胞を回収バッグ13 に回収して細胞濃縮液を得た。この時回収された細胞濃縮液量は25.1mL(細胞捕捉器11の3.59容)であった。
(4)分析
実施例1と同様の計算式にて算出した。
(5)結果
この時の細胞濃縮液の赤血球数は1.6×1010個、赤血球除去率は87.7%、単核細胞回収率は77.9%、単核細胞濃度は1.3×10個/mL、単核細胞濃縮倍率は1.8倍、単核細胞含有率は39.0%、血小板濃縮倍率は0.5倍であり、赤血球の混入が多く単核細胞の濃度や血小板濃縮倍率も低かった。
【0048】
[比較例2]
(1)細胞捕捉器の作製
実施例1と同じものを使用した。
(2)赤血球層排出操作
実施例1と同じ操作を行った。この時のCPD加ヒト末梢血液中の赤血球数と上層の有核細胞と血小板に偏った層の赤血球数を多項目自動血球分析装置(シスメックス社SF3000)を用いて測定した結果、それぞれ1.3×1011個、6.3×10個であった。
(3)細胞濃縮操作
濾過終了後にエアベントフィルター41にシリンジを用いて空気4.5mLを導入して細胞捕捉器内に残留している濾液を押出し、ドレインバッグ12へ貯留した以外は、実施例2と同様の操作を行った。この時の回収された細胞濃縮液量は1.1mL(細胞捕捉器11の0.16容)であった。
(4)分析
実施例1と同様の計算式にて算出した。
(5)結果
この時の細胞濃縮液の赤血球数は1.6×10個、赤血球除去率は98.8%、単核細胞回収率は44.1%、単核細胞濃度は2.1×10個/mL、単核細胞濃縮倍率は24.5倍、単核細胞含有率は48.1%、血小板濃縮倍率は5.3倍であり、単核細胞の回収率が低く、細胞のロスが多かった。
【0049】
[比較例3]
(1)細胞捕捉器の作製
実施例1と同じものを使用した。
(2)赤血球層排出操作
実施例1と同じ操作を行った。この時のCPD加ヒト末梢血液中の赤血球数と上層の有核細胞と血小板に偏った層の赤血球数を多項目自動血球分析装置(シスメックス社SF3000)を用いて測定した結果、それぞれ1.2×1011個、5.7×10個であった。
(3)細胞濃縮操作
回収時に、ドレインバッグ12に流入しフィルター材を通過した濾液5.5mLを、濾液採取ポート8にシリンジを接続して採取し、さらに空気を32.5mL充填し、クランプ23を開けて注入口33 から手動でシリンジ中の濾液と空気を押出す以外は実施例3と同じ操作を行った。この時の回収された細胞濃縮液量は12.1mL(細胞捕捉器11の1.73容)であった。
(4)分析
実施例1と同様の計算式にて算出した。
(5)結果
この時の細胞濃縮液の赤血球数は1.9×10個、赤血球除去率は98.4%、単核細胞回収率は75.0%、単核細胞濃度は3.1×10個/mL、単核細胞濃縮倍率は3.6倍、単核細胞含有率は39.5%、血小板濃縮倍率は1.4倍であり、単核細胞濃度や濃縮倍率が低く、また単核細胞含有率も低値であり効率的な単核細胞の濃縮ができなかった。
【0050】
[比較例4]
(1)細胞捕捉器の作製
実施例1と同じものを使用した。
(2)赤血球層排出操作
赤血球排出操作は行わず、CPD加ヒト末梢血液58mLが貯留された体液貯留バッグ14をそのまま用いた。この時のCPD加ヒト末梢血液中の赤血球数を多項目自動血球分析装置(シスメックス社SF3000)を用いて測定した結果、1.6×1011個であった。
(3)細胞濃縮操作
CPD加ヒト末梢血液58mLが貯留された体液貯留バッグ14と細胞導入管4を接続し、クランプ21を開けて体液貯留バッグ14に貯留されたCPD加ヒト末梢血液を落差により細胞捕捉器11に導入して濾過を開始した。濾液はドレインバッグ12に貯留した。体液貯留バッグ14内の全てのCPD加ヒト末梢血液が細胞捕捉器11に導入され、細胞捕捉器の入口側空間は空気で満たされ、細胞捕捉器の出口側空間にはフィルター材を通過した濾液が残留している状態で濾過が終了した。次に、クランプ21、22を閉じた。続いてシリンジに空気38mLを充填し、クランプ23を開けて注入口33から手動でシリンジ中の空気を押出し、細胞捕捉器内のフィルター材を通過した濾液でフィルターに捕捉された細胞を回収し、回収バッグ13 に細胞濃縮液を回収した。この時の回収された細胞濃縮液量は3.1mL(細胞捕捉器11の0.44容)であった。
(4)分析
実施例1と同様の計算式にて算出した。
(5)結果
この時の細胞濃縮液の赤血球数は9.1×10個、赤血球除去率は94.2%、単核細胞回収率は50.6%、単核細胞濃度は7.1×10個/mL、単核細胞濃縮倍率は9.6倍、単核細胞含有率は47.4%、血小板濃縮倍率は2.4倍であり、赤血球の混入が多くまた単核細胞の回収率も低値であった。
【0051】
[比較例5]
(1)細胞捕捉器の作製
実施例1と同じものを使用した。
(2)赤血球層排出操作
赤血球層排出操作は行わず、CPD加ヒト末梢血液58mLが貯留された体液貯留バッグ14に6%ヒドロキシエチルスターチ(ニプロファーマ「HES40(赤血球沈降剤)」)を12mL添加して、10分間混和した。この時のCPD加ヒト末梢血液中の赤血球数を多項目自動血球分析装置(シスメックス社SF3000)を用いて測定した結果、1.7×1011個であった。
(3)細胞濃縮操作
CPD加ヒト末梢血液と6%ヒドロキシエチルスターチが貯留された体液貯留バッグ14を10分間混和した後に細胞導入管4と接続した状態で30分間静置して赤血球を沈降させた。次に、クランプ21を開き、体液貯留バッグ14の下層の赤血球に偏った層を細胞捕捉器11に導入し、続いて上層の有核細胞と血小板に偏った層を同様に細胞捕捉器11に導入して濾過を開始した。濾液はドレインバッグ12に貯留した。体液貯留バッグ14内の全ての赤血球に偏った層と有核細胞と血小板に偏った層が細胞捕捉器11に導入され、細胞捕捉器11の入口側空間は空気で満たされ、細胞捕捉器の出口側空間にはフィルター材を通過した濾液が残留している状態で濾過が終了した。次に、10%デキストラン生理食塩水溶液(小林製薬「デキストラン40注」)にヒト血清アルブミンを最終濃度3%になるように添加した液体23mLと空気15mLをシリンジに充填し、クランプ23を開けて注入口33から手動でシリンジ中の液体と空気を押出し、フィルターに捕捉された細胞を回収バッグ13に回収して細胞濃縮液を得た。この時回収された細胞濃縮液量は25.8mL(細胞捕捉器11の3.69容)であった。
(3)分析
実施例1と同様の計算式にて算出した。
(4)結果
この時の細胞濃縮液の赤血球数は1.2×1010個、赤血球除去率は92.8%、単核細胞回収率は65.1%、単核細胞濃度は1.3×10個/mL、単核細胞濃縮倍率は1.5倍、単核細胞含有率は40.2%、血小板濃縮倍率は0.5倍であり、赤血球の混入が多くかつ単核細胞濃度も低値であった。
【0052】
[比較例6]
(1)細胞捕捉器の作製
実施例1と同じものを使用した。
(2)赤血球層排出操作
実施例1と同様の操作を行った。この時のCPD加ヒト末梢血液中の赤血球数と上層の有核細胞と血小板に偏った層の赤血球数を多項目自動血球分析装置(シスメックス社SF3000)を用いて測定した結果、それぞれ1.4×1011個、8.9×10個であった。
(3)細胞濃縮操作
赤血球に偏った層を排出した後の有核細胞と血小板に偏った層が貯留された体液貯留バッグ14と細胞導入管4を接続し、クランプ21を開けて体液貯留バッグ14に貯留された上層の有核細胞と血小板に偏った層44mLを落差により細胞捕捉器11に導入して濾過を開始した。濾液はドレインバッグ12に貯留した。体液貯留バッグ14内の全ての有核細胞と血小板に偏った層が細胞捕捉器11 に導入され、細胞捕捉器11の入口側空間は空気で満たされ、細胞捕捉器11の出口側空間にはフィルター材を通過した濾液が残留している状態で濾過が終了した。次に、10%デキストラン生理食塩水溶液(小林製薬「デキストラン40注」)にヒト血清アルブミンを最終濃度3%になるように添加した液体23mLと空気15mLをシリンジに充填し、クランプ23を開けて注入口33から手動でシリンジ中の液体と空気を押出し、フィルターに捕捉された細胞を回収バッグ13 に回収して細胞濃縮液を得た。この時回収された細胞濃縮液量は25.8mL(細胞捕捉器11の3.69容)であった。
(4)分析
実施例1と同様の計算式にて算出した。
(5)結果
この時の細胞濃縮液の赤血球数は2.6×10個、赤血球除去率は98.1%、単核細胞回収率は72.5%、単核細胞濃度は1.4×10個/mL、単核細胞濃縮倍率は1.6倍、単核細胞含有率は40.1%、血小板濃縮倍率は0.6倍であり、赤血球の混入もあり単核細胞濃度も低く単核細胞含有率も低値であり効率的に単核細胞を濃縮できなかった。

【0053】
【表1】



【0054】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明による単核細胞と血小板の濃縮方法は、簡便に高濃度の単核細胞と血小板の混合溶液が調製可能であり、かつ完全自己成分のみで構成されるため感染等のリスクもないので、再生医療や細胞治療において有用である。本発明による濃縮方法は効率的なので、体液量が少量の場合、特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の赤血球沈降剤を添加し、有核細胞と血小板に偏った層と赤血球に偏った層とに分離するためのシステムの一例を示す模式図である。
【図2】本発明の単核細胞と血小板の濃縮を行うための濃縮システムの一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0057】
1・・・赤血球廃棄管
2・・・細胞導入管接続部
3・・・注入部
4・・・細胞導入管
5・・・濾液回収管
6・・・注入管
7・・・細胞回収管
8・・・濾液採取ポート
11・・・細胞捕捉器
12・・・ドレインバッグ
13・・・回収バッグ
14・・・体液貯留バッグ
21、22、23・・・クランプ
31、32・・・T字管
33・・・注入口
41・・・エアベントフィルター
100・・・濃縮システム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口と出口を有する容器に細胞捕捉フィルター材を充填した細胞捕捉器と、回路と、バッグとを有するフィルターシステムを用いて、赤血球と有核細胞と血小板を含んでなる体液から単核細胞と血小板を濃縮する方法であって、
バッグに貯留された前記体液に赤血球沈降剤を添加し、
有核細胞と血小板に偏った層と赤血球に偏った層とに分離して、
前記有核細胞と血小板に偏った層のみを前記細胞捕捉器に導入して有核細胞と血小板を前記フィルター材に捕捉させた後に、
前記細胞捕捉器の0.2容以上1.0容未満の、前記フィルター材を通過した濾液のみを、気体で押し出して前記フィルター材に導入して、
前記フィルター材に捕捉されている単核細胞と血小板を選択的に回収することを特徴とする赤血球と有核細胞と血小板を含んでなる体液から単核細胞と血小板を濃縮する方法。
【請求項2】
前記気体が、空気であることを特徴とする請求項1に記載の赤血球と有核細胞と血小板を含んでなる体液から単核細胞と血小板を濃縮する方法。
【請求項3】
前記細胞捕捉器の0.2容以上1.0容未満の、前記フィルター材を通過した濾液が、前記細胞捕捉器と回路に残存した濾液であることを特徴とする請求項1または2に記載の赤血球と有核細胞と血小板を含んでなる体液から単核細胞と血小板を濃縮する方法。
【請求項4】
前記赤血球沈降剤が、ヒドロキシエチルスターチまたはデキストランのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の赤血球と有核細胞と血小板を含んでなる体液から単核細胞と血小板を濃縮する方法。
【請求項5】
前記有核細胞と血小板に偏った層と赤血球に偏った層とに分離した後に、前記赤血球に偏った層をバッグから排出して、前記有核細胞と血小板に偏った層のみを前記細胞捕捉器に導入することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の赤血球と有核細胞と血小板を含んでなる体液から単核細胞と血小板を濃縮する方法。
【請求項6】
前記赤血球と有核細胞と血小板を含んでなる体液が、末梢血、臍帯血、骨髄液からなる群より選択される一の体液であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の赤血球と有核細胞と血小板を含んでなる体液から単核細胞と血小板を濃縮する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−284860(P2009−284860A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142803(P2008−142803)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000116806)旭化成クラレメディカル株式会社 (133)
【Fターム(参考)】