説明

単鎖インシュリン

【課題】インシュリン活性を有し、糖尿病の治療に使用することができる単鎖インシュリンを提供する。
【解決手段】B-およびA-鎖並びに6〜11のアミノ酸の連結ペプチドによって連結される修飾されたB-およびA-鎖を具備している単鎖インシュリンであって、ヒトインシュリンのものと類似する又はそれより低い、生物学的インシュリン活性およびIGF-1レセプター親和性並びに高い物理的安定性を有し、少なくとも1つの塩基性アミノ酸残基を前記連結ペプチド中に含有してもよく、1以上のLys残基においてアシル化されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、インシュリン活性を有し、糖尿病の治療に使用することができる単鎖インシュリン(single-chain insulins)に関する。前記単鎖インシュリンは、高い物理的な安定性およびフィブリル化(fibrillation)に対する低傾向(low tendency)を有し、中性pHで可溶性である。また、本発明は、単鎖インシュリンをコード化しているDNA配列、それらを産生するための方法、および単鎖インシュリンを含有している薬学的組成物に関する。
【0002】
[発明の背景]
インシュリンは、ポリペプチドホルモンであり、膵臓のβ-細胞から分泌され、2つの鎖間ジスルフィドブリッジで連結された2つのポリペプチド鎖(AおよびB)からなる。さらにまた、A-鎖は、1つの鎖内ジスルフィドブリッジを形成する。
【0003】
前記ホルモンは、一本鎖の前駆体プロインシュリン(プレプロインシュリン)として合成され(24アミノ酸のプレペプチドから構成される)、引続いて次の配置で86アミノ酸を含んでいるプロインシュリンになる、その配置とは:プレペプチド-B-Arg Arg-C-Lys Arg-Aであり、ここでCは31アミノ酸の連結ペプチドである。Arg-ArgおよびLys-Argは、連結ペプチドをAおよびB鎖から切断して、2鎖インシュリン分子(two-chain insulin molecule)を形成するための切断部位である。インシュリンは、正常な代謝制御の維持に必須である。
【0004】
インシュリンの2鎖構造によって、複数のコンホメーションが許容される。そして、幾つかの所見は次の事項を指摘する;その事項とは、インシュリンが顕著なコンホメーション変化をする性向(propensity)を有することと、係る変化に対する可能性の制限がリガンドに対するインシュリンレセプターの親和性を顕著に減少させることである。プロインシュリンは、インシュリンレセプターに対して、本来のインシュリンよりも100倍低い親和性を有する。また、インシュリン中のアミノ酸残基A1のブロッキングは、乏しいレセプター結合を生じ、この事項は次の教義(dogma)と矛盾しない。その教義とは、インシュリンのA-鎖のフリーのN末端およびB-鎖のフリーのC末端が、インシュリンレセプターへの結合に重要であることである。
【0005】
インシュリン分子の遺伝性(inherited)の物理的および化学的な安定性は、糖尿病のインシュリン療法に関する基礎的な条件である。これらの基礎的な特性は、インシュリン製剤に関して及び適用可能なインシュリン投与方法に関して、同様に薬学的製剤の貯蔵寿命および保存条件に関して基本的な事項である。インシュリンの投与における溶液の使用は、分子を、温度上昇、気体―液体―固体の界面相(interphases)同様に剪断力などの要素の組合せに暴露させ、これによってフィブリル化などの不可逆的なコンホメーション変化が生じるだろう。これは輸液ポンプ(外部に取付けたもの又は移植されたもの)におけるインシュリン溶液に特に関連し、これによって分子は延長時間の間これらの要素と同様にポンプの動作(movement)での剪断力との組合せに暴露される。結果的に、フィブリル化は、輸液ポンプをインシュリン送達系として用いる場合に特に関係する。そのうえ、インシュリンの溶解度は、複数の要素によって影響され、4.2および6.6のpH範囲で明らかな減少を示す。pH沈殿ゾーン(pH precipitation zone)は、製剤化に制限を課すが、特定のアナログの開発および製剤化に意識的(deliberately)に使用されてきた。
【0006】
従って、インシュリンの安定性および溶解度の特性は、現行のインシュリン療法に関して重要な根底をなす事項である。本発明は、これらの課題に対し、B-およびA-鎖の間にCペプチドを導入して、分子可動性を減少させ且つ同時にフィブリル化の性向および限界を減少させる又はpH沈殿ゾーンを修飾することにより、安定な単鎖インシュリンアナログを提供することによって取組んだ(addressed)。
【0007】
インシュリン活性を有する単鎖インシュリンは、EP 1,193,272に開示されている。これらの単鎖インシュリンは、5〜18アミノ酸の修飾型Cペプチドを有する;また42%までのインシュリン活性を有することが報告された。EP 1,193,272は、以下のB30をA21に連結する修飾型C-ペプチドを開示する:Gly-Gly-Gly-Pro-Gly-Lys-Arg(配列番号1), Arg-Arg-Gly-Pro-Gly-Gly-Gly(配列番号2), Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Lys-Arg(配列番号3), Arg-Arg-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号4), Gly-Gly-Ala-Pro-Gly-Asp-Val-Lys-Arg(配列番号5), Arg-Arg-Ala-Pro-Gly-Asp-Val-Gly-Gly(配列番号6), Gly-Gly-Tyr-Pro-Gly-Asp-Val-Lys-Arg(配列番号7), Arg-Arg-Tyr-Pro-Gly-Asp-Val-Gly-Gly(配列番号8), Gly-Gly-His-Pro-Gly-Asp-Val-Lys-Arg(配列番号9), および Arg-Arg-His-Pro-Gly-Asp-Val-Gly-Gly(配列番号10)。EP 741,188は、10〜14アミノ酸残基を有し、14〜34%のインシュリン活性を有し、次の連結ペプチドGln-Pro-Leu-Ala-Leu-Glu-Gly-Ser-Leu-Gln-Lys-Arg(配列番号11)およびGly-Tyr-Gly-Ser-Ser-Ser-Arg-Arg-Ala-Pro-Gln-Thr(配列番号12)を有する、修飾型Cペプチドを有する単鎖インシュリンを開示している。WO 95/16708は、1〜15アミノ酸残基の連結ペプチドを有し、LysまたはArgを前記連結ペプチド中のC末端のアミノ酸残基として有さない単鎖インシュリンを開示している。WO 95/16708は、次のCペプチド配列 Gly-Tyr-Gly-Ser-Ser-Ser-Arg-Arg-Ala-Pro-Gln-Thr (配列番号13)および Gly-Tyr-Gly-Ser-Ser-Ser-Ala-Ala-Ala-Pro-Gln-Thr(配列番号14)を開示している。これらの単鎖インシュリンは、インシュリン活性を有することのみならず、IGF-1レセプターに対して高親和性であることが報告された。
【0008】
次の単鎖インシュリンを提供することが本発明の課題である;その単鎖インシュリンとは、インシュリン活性、物理的な安定性および溶解度、同様に薬物動態(例えば、遅延性または速効性の作用プロフィール)に関して、既知の化合物に対して改善された特性を有するものである。本発明の更なる課題は、前記単鎖インシュリンおよび係る化合物を含有している薬学的組成物を作出するための方法を提供することである。
【0009】
[発明の概要]
一側面において、本発明は、生物学的インシュリン活性を有している単鎖インシュリンに関し、該単鎖インシュリンは、連結ペプチドによって連結されたヒトインシュリンのB-およびA-鎖又はそのアナログもしくは誘導体を具備する;ここで前記連結ペプチドは、5〜11アミノ酸残基を有し、2つの隣接する塩基性アミノ酸残基(two adjacent basic amino acid residues)を含まない;ここで前記単鎖インシュリン分子がアシル化によって化学的に修飾されない場合、前記単鎖インシュリンは、ヒトインシュリンレセプターに対し、ヒトインシュリンの少なくとも約20%の親和性を有する。
【0010】
別の側面において、本発明は、生物学的インシュリン活性を有している単鎖インシュリンに関し、該単鎖インシュリンは、連結ペプチドによって連結されたヒトインシュリンのB-およびA-鎖又はそのアナログもしくは誘導体を具備する;ここで前記連結ペプチドは、5〜11アミノ酸残基を有する;但し、前記連結ペプチドが2つの隣接する塩基性アミノ酸残基を含む場合、前記Bおよび/またはA鎖中の少なくとも1つの天然のアミノ酸残基は別のコード化可能なアミノ酸残基(codable amino acid residue)で置換されるか、又は前記A-鎖中の、前記B-鎖中の、又は前記連結ペプチド中の少なくとも1つのリジン残基はアシル化によって化学的に修飾されているか、又は前記連結ペプチドは次に記載する配列のうちの1つではない; Gly-Gly-Gly-Pro-Gly-Lys-Arg(配列番号1), Arg-Arg-Gly-Pro-Gly-Gly-Gly(配列番号2), Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Lys-Arg(配列番号3), Arg-Arg-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号4), Gly-Gly-Ala-Pro-Gly-Asp-Val-Lys-Arg(配列番号5), Arg-Arg-Ala-Pro-Gly-Asp-Val-Gly-Gly(配列番号6), Gly-Gly-Tyr-Pro-Gly-Asp-Val-Lys-Arg(配列番号7), Arg-Arg-Tyr-Pro-Gly-Asp-Val-Gly-Gly(配列番号8), Gly-Gly-His-Pro-Gly-Asp-Val-Lys-Arg(配列番号9), または Arg-Arg-His-Pro-Gly-Asp-Val-Gly-Gly(配列番号10)。
【0011】
別の側面において、本発明は、生物学的インシュリン活性を有している単鎖インシュリンに関し、該単鎖インシュリンは、連結ペプチドによって連結されたヒトインシュリンのB-およびA-鎖又はそのアナログもしくは誘導体を具備する;ここで前記連結ペプチドは、5〜11アミノ酸残基を有する;但し、約6.5を超えるpIを有する前記単鎖インシュリンは、ヒトインシュリンA-およびB-鎖と比較して、前記A-および/またはB鎖中に、少なくとも1つのアミノ酸残基の置換(substitution)および/または欠失(deletion)を具備するか、又は前記A-鎖中の、前記B-鎖中の、又は前記連結ペプチド中の少なくとも1つのリジン残基がアシル化によって化学的に修飾されている。
【0012】
別の側面において、本発明は、生物学的インシュリン活性を有している単鎖インシュリンに関し、該単鎖インシュリンは、連結ペプチドによって連結されたヒトインシュリンのB-およびA-鎖又はそのアナログもしくは誘導体を具備する;ここで前記連結ペプチドは、5〜14, 5〜11, 6〜10, 6〜8, 6〜7, 7〜9 または 7〜8のアミノ酸残基を有し、前記A-鎖中の、前記B-鎖中の、又は前記連結ペプチド中の少なくとも1つのリジン残基はアシル化によって化学的に修飾されている。
【0013】
一態様において、前記単鎖インシュリンは、前記単鎖インシュリン分子中の少なくとも1つのリジン基でアシル化されている。別の態様において、B29Lysがアシル化されている。なお更なる態様において、前記単鎖インシュリン分子に挿入されているリジンがアシル化されているか又はB1 N末端アミノ酸残基がアシル化されている。
【0014】
一側面において、前記単鎖インシュリンは、6〜24 C, 6〜20, 6〜18 又は 6〜14 C-原子を有している脂肪酸でアシル化されている。
【0015】
更なる側面において、本発明は、中性pHで可溶性であり、約6.5未満のpIを有している単鎖インシュリンに関する。
【0016】
なお更なる側面において、前記単鎖インシュリンは、約4.5〜約6.5未満のpIを有する。
【0017】
別の側面において、本発明は、少なくとも1つのリジン残基がアシル化によって修飾されている単鎖インシュリンに関する。
【0018】
別の側面において、化学的に無修飾のA-およびB-鎖を有する単鎖インシュリンは、ヒトインシュリンレセプターに対し、ヒトインシュリンの少なくとも約30%の親和性を有する。
【0019】
別の側面において、前記単鎖インシュリンは、少なくとも1つの非塩基性アミノ酸残基によって分けられた2つまでの塩基性アミノ酸残基を、前記連結ペプチドに含む。
【0020】
本発明の更なる側面において、前記単鎖インシュリンは、天然のヒトAおよびB鎖と比較して、前記AまたはB鎖中に少なくとも1つの付加的(additional)な塩基性アミノ酸を含む。好ましくは、前記塩基性アミノ酸残基は、前記B-鎖のC末終端(C-terminal end)における又は前記A-鎖のN末終端における天然のアミノ酸残基の1つを置換することによって導入される。また、本発明の一態様において、ポジションB27の残基は、Argで置換される。
【0021】
本発明の更なる側面において、前記単鎖インシュリンは、前記A鎖のポジションA21に天然のアミノ酸残基Asnとは異なるアミノ酸残基を有する。従って、ポジションA21のAsnは、Cys以外の任意の他のコード化可能なアミノ酸残基で置換されえる。一態様において、ポジションA21でのアミノ酸残基は、Ala, Gln, Glu, Gly, His, Ile, Leu, Met, Ser, Thr, Trp, Tyr または Val, 特に Gly, Ala, Ser, および Thrからなる群から選択されえる。更なる一態様において、A21は、Glyである。
【0022】
本発明の一態様において、前記単鎖インシュリンは、前記連結ペプチドに少なくとも1つの塩基性アミノ酸残基を及びポジションA21にGlyを含む。本発明の更なる態様において、前記単鎖インシュリンは、前記連結ペプチドに2つの塩基性アミノ酸残基を及びポジションA21にGlyを有する。
【0023】
別の態様において、前記単鎖インシュリンは、6〜10, 6〜9, 6〜8, または 6〜7のアミノ酸残基を有する連結ペプチドを有する。
【0024】
別の態様において、前記単鎖インシュリンは、7〜10, 7〜9の, または 7〜8のアミノ酸残基を有する連結ペプチドを有する。
【0025】
別の態様において、前記連結ペプチドは、前記A-鎖の第1アミノ酸残基(A1)に対し、2番目のポジション(penultimate position)における連結ペプチドにGlyを有する。
【0026】
更なる態様において、前記連結ペプチドは、AGRGSGK (配列番号15); AGLGSGK (配列番号33); AGMGSGK (配列番号45); ASWGSGK (配列番号48); TGLGSGQ (配列番号22); TGLGRGK (配列番号23); TGLGSGK (配列番号21); HGLYSGK (配列番号50); KGLGSGQ (配列番号51); VGLMSGK (配列番号56); VGLSSGQ (配列番号27); VGLYSGK (配列番号28), VGLSSGK (配列番号30); VGMSSGK (配列番号65); VWSSSGK (配列番号76), VGSSSGK (配列番号16), および VGMSSGK (配列番号106)からなる群から選択される配列を具備する。
【0027】
別の態様において、前記単鎖インシュリンは、次の式を有する:
B(1-26) - X1 - X2-X3- X4- A(1-21)
式中で
X1は、 Thr, Lys または Arg であり、
X2は、 Pro, Lys または Asp であり、
X3は、 Lys, Pro または Glu であり、
X4は、6〜11のアミノ酸残基のペプチド配列であり、
B(1-26)は、ヒトインシュリンのB鎖の最初の26アミノ酸残基(前記B鎖のN末終端から計数して)からなるペプチド鎖又はそのアナログもしくは誘導体であり、そして
A(1-21)は、天然のインシュリンA鎖又はそのアナログ若しくはその誘導体であり、
ここでX4は、2つの隣接する塩基性アミノ酸残基を含まず、
ここで前記単鎖インシュリンは、前記単鎖インシュリン分子がアシル化によって化学的に修飾されない場合、ヒトインシュリンレセプターに対し、ヒトインシュリンの少なくとも約20%の親和性を有する。
【0028】
別の態様において、前記単鎖インシュリンは、次の式を有する:
B(1-26) - X1 - X2-X3- X4- A(1-21)
式中で
X1は、 Thr, Lys または Arg であり、
X2は、 Pro, Lys または Asp であり、
X3は、 Lys, Pro または Glu であり、
X4は、6〜11のアミノ酸残基のペプチド配列であり、
B(1-26)は、ヒトインシュリンのB鎖のN末終端から計数して最初の26アミノ酸残基からなるペプチド鎖又はそのアナログもしくは誘導体であり、そして
A(1-21)は、天然のインシュリンA鎖又はそのアナログ若しくはその誘導体であり、
但し、X4が2つの隣接する塩基性アミノ酸残基を含む場合、前記Bおよび/またはA鎖中の少なくとも1つの天然アミノ酸残基は別のコード化可能なアミノ酸残基で置換されるか、又は前記A-鎖中の、前記B-鎖中の、又は前記連結ペプチド中の少なくとも1つのリジン残基はアシル化によって化学的に修飾されているか、又は
X4は次の配列のうちの1つではない Gly-Gly-Gly-Pro-Gly-Lys-Arg(配列番号1), Arg-Arg-Gly-Pro-Gly-Gly-Gly(配列番号2), Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Lys-Arg(配列番号3), Arg-Arg-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号4), Gly-Gly-Ala-Pro-Gly-Asp-Val-Lys-Arg(配列番号5), Arg-Arg-Ala-Pro-Gly-Asp-Val-Gly-Gly(配列番号6), Gly-Gly-Tyr-Pro-Gly-Asp-Val-Lys-Arg(配列番号7), Arg-Arg-Tyr-Pro-Gly-Asp-Val-Gly-Gly(配列番号8), Gly-Gly-His-Pro-Gly-Asp-Val-Lys-Arg(配列番号9), または Arg-Arg-His-Pro-Gly-Asp-Val-Gly-Gly(配列番号10)。
【0029】
別の態様において、前記単鎖インシュリンは、次の式を有する:
B(1-26) - X1 - X2-X3- X4- A(1-21)
式中で
X1は、 Thr, Lys または Arg であり、
X2は、 Pro, Lys または Asp であり、
X3は、 Lys, Pro または Glu であり、
X4は、6〜11のアミノ酸残基のペプチド配列であり、
B(1-26)は、ヒトインシュリンのB鎖のN末終端から計数して最初の26アミノ酸残基からなるペプチド鎖又はそのアナログもしくは誘導体であり、そして
A(1-21)は、天然のインシュリンA鎖又はそのアナログ若しくはその誘導体であり、
但し、約6.5を超えるpIを有する単鎖インシュリンは、ヒトインシュリンA-およびB-鎖と比較して、前記A-および/またはB鎖中に、少なくとも1つのアミノ酸残基の置換および/または欠失を具備するか、又は前記A-鎖中の、前記B-鎖中の、又は前記連結ペプチド中の少なくとも1つのリジン残基はアシル化によって化学的に修飾されている。
【0030】
別の態様において、前記単鎖インシュリンは、次の式を有する:
B(1-26) - X1 - X2-X3- X4- A(1-21)
式中で
X1は、 Thr, Lys または Arg であり、
X2は、 Pro, Lys または Asp であり、
X3は、 Lys, Pro または Glu であり、
X4は、5〜14, 5〜11, 6〜10, 6〜8, 6〜7, 7〜9 または 7〜8のアミノ酸残基のペプチド配列であり、
B(1-26)は、ヒトインシュリンのB鎖のN末終端から計数して最初の26アミノ酸残基からなるペプチド鎖又はそのアナログもしくは誘導体であり、そして
A(1-21)は、天然のインシュリンA鎖又はそのアナログ若しくはその誘導体であり、
ここで前記A-鎖中の、前記B-鎖中の、又は前記連結ペプチド中の少なくとも1つのリジン残基はアシル化によって化学的に修飾されている。
【0031】
1側面において、X1はThrであり、X2はProであり、およびX3はLysである。
【0032】
別の態様において、X4は、次の式 Xa -Xb -Xc-Xd-Xe-Xf-Xg(配列番号129)を有するペプチド配列であり、式中で、
Xaは、 L, R, T, A, H, Q, G, S および Vからなる群から選択され;
Xbは、 W, G, S, A, H, R, および Tからなる群から選択され;
Xcは、 L, Y, M, H, R, T, Q, K, V, S, A, G および Pからなる群から選択され;
Xdは、 R, A, Y, M, S, N, H, および Gからなる群から選択され;
Xeは、 S, R, A, T, K P, N M, H, Q, V, および Gからなる群から選択され;
Xfは、 G および Aからなる群から選択され;および
Xgは、 K, R, P, H, F, T, I, Q, W, および Aからなる群から選択される。
【0033】
更なる態様において、
Xaは、 L, R, T, A, H および Vからなる群から選択され;
Xbは、 W, G, S, A, H, R, および Tからなる群から選択され;
Xcは、 L, Y, M, H, R, T, Q, K, V, S, A, G および Pからなる群から選択され;
Xdは、 R, A, Y, M, S, N, H, および Gからなる群から選択され;
Xeは、 S, R, A, T, K P, および Nからなる群から選択され;
Xfは、Gであり;および
Xgは、 K, R, Q および Pからなる群から選択される。
【0034】
更なる態様において、
Xaは、 T, A V, Kからなる群から選択され;
Xbは、Gであり;
Xcは、 L, Y, M, H, R K, Wからなる群から選択され;
Xdは、Gであり;
Xeは、 S, Kからなる群から選択され;
Xfは、Gであり;および
Xgは、 K, R, Qからなる群から選択される。
【0035】
なお更なる側面において、X4は、配列 X5-G-X6-G-X7-G-X8 (配列番号130)を有する。
【0036】
式中で
X5は、 Val, Leu, Arg, Thr, Ala, His, Gln, Gly または Serからなる群から選択され、
X6は、 Leu, Tyr, Met, His, Arg, Thr, Gln, Lys, Val, Ser, Ala, Gly, Proからなる群から選択され、
X7は、 Ser, Arg, Ala, Thr, Lys, Pro, Asn, Met, His, Gln, Val, Glyからなる群から選択され、および
X8は、LysまたはArgである。
【0037】
なお更なる側面において、X5は、Val, Leu, Arg, Thr, Ala, および Hisからなる群から選択され、
X6は、 Leu, Tyr, Met, および Hisからなる群から選択され、
X7は、 Ser, Arg, Ala, Thr, Lys, Pro および Asnからなる群から選択され、および
X8は、LysまたはArgである。
【0038】
1つの態様において、X4は、配列SGKを具備する。別の態様において、X4は、配列 GSGK (配列番号131)を具備する。別の態様において、X4は、配列 SSSGK (配列番号132)を具備する。
【0039】
一態様において、ポジション B1, B3, B10, B22, B27, B28, B29, A8, A15, A18, および A21における少なくとも1つの天然のアミノ酸残基は、別のアミノ酸残基で置換されている。
【0040】
別の態様において、前記単鎖インシュリンは、 desB1, desB25, desB27, desB28 または desB29 インシュリンアナログである。
【0041】
別の態様において、X4は、配列 TRXXXGR(配列番号112)を具備し、配列中のXは任意のアミノ酸である。
【0042】
さらなる側面において、本発明は、A-およびB-鎖が6〜11のアミノ酸残基を含んでいるペプチド配列と連結された単鎖インシュリンに関する;但し、前記ペプチド配列は、Gly-Gly-Gly-Pro-Gly-Lys-Arg(配列番号1), Arg-Arg-Gly-Pro-Gly-Gly-Gly(配列番号2), Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Lys-Arg(配列番号3), Arg-Arg-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号4), Gly-Gly-Ala-Pro-Gly-Asp-Val-Lys-Arg(配列番号5), Arg-Arg-Ala-Pro-Gly-Asp-Val-Gly-Gly(配列番号6), Gly-Gly-Tyr-Pro-Gly-Asp-Val-Lys-Arg(配列番号7), Arg-Arg-Tyr-Pro-Gly-Asp-Val-Gly-Gly(配列番号8), Gly-Gly-His-Pro-Gly-Asp-Val-Lys-Arg(配列番号9), または Arg-Arg-His-Pro-Gly-Asp-Val-Gly-Gly(配列番号10)ではない。
【0043】
更なる態様において、前記連結ペプチドは、SANNTK(配列番号136)、SPNTTK(配列番号137)、SSNTTK(配列番号138)またはSRNTTK(配列番号139)ではない。
【0044】
また、本発明は、本発明の単鎖インシュリンをコード化する、ポリヌクレオチド配列に関する。更なる側面において、本発明は、係るポリヌクレオチド配列を含んでいるベクターに及び係るポリヌクレオチド配列またはベクターを含んでいる宿主細胞に関する。
【0045】
別の側面において、本発明は前記単鎖インシュリンを宿主細胞中で産生するための方法に関し、該方法は、(i)前記単鎖インシュリンをコード化しているポリヌクレオチド配列を具備している宿主細胞を、該単鎖インシュリンの発現に適切な条件下で培養することと、および(ii)前記単鎖インシュリンを培養培地から単離することとを備える。
【0046】
本発明の一態様において、前記宿主細胞は酵母宿主細胞である;また、更なる態様において、前記酵母宿主細胞はSaccharomyces属から選択される。更なる態様において、前記酵母宿主細胞は、Saccharomyces cerevisiae種から選択される。
【0047】
更なる態様において、本発明は、前記単鎖インシュリン分子中の少なくとも1つのリジン残基がアシル化されている方法に関する。
【0048】
更なる態様において、本発明は、糖尿病の治療のための医薬品(pharmaceutical)としての単鎖インシュリンの使用に関する。
【0049】
なお更なる側面において、本発明は、本発明の単鎖インシュリンおよび適切なアジュバントおよび添加物(例えば、1以上の安定化、保存または等張性に適切な剤、例えば、亜鉛イオン、フェノール、クレゾール、パラベン、塩化ナトリウム、グリセリンまたはマンニトール)を含む薬学的製剤(pharmaceutical preparations)に関する。本製剤の亜鉛含有量は、0および約6亜鉛原子/インシュリン六量体の間でありえる。前記薬学的製剤のpHは、約4および約8.5の間、約4および約5の間、または約6.5および約7.5の間であってもよい。
【0050】
なお更なる側面において、本発明は、単鎖インシュリンおよび少なくとも1つの他の医薬品(例えば、速効性または遅延性のインシュリンアナログ、およびGLP-1、GLP-2およびエキセンディン及びそのアナログおよび誘導体)を含む薬学的製剤に関する。また、本発明による単鎖インシュリンは、速効性または遅延性のインシュリンアナログ、およびGLP-1、GLP-2およびエキセンディン及びそのアナログおよび誘導体或いは経口抗糖尿病薬〔例えば、チアゾリジンジオン(thiazolidindione)、メトホルミンおよび経口投与のための他の2型糖尿病の薬学的製剤〕と併用する併用治療(combination treatment)に使用しえる。
【0051】
更なる側面において、本発明は、哺乳類の血中グルコースレベルを減少させるため(特に、糖尿病の治療のための)の薬学的製剤の調製における単鎖インシュリンの使用に関する。
【0052】
更なる態様において、本発明は、治療的に活性な用量の本発明の単鎖インシュリンを係る治療を必要とする患者に投与することによる、哺乳類の血中グルコースレベルを減少させる方法に関する。
【0053】
[発明の詳細な説明]
本発明の単鎖インシュリンは、生物学的なインシュリン活性を有する。そのうえ、単鎖インシュリン分子がアシル化によって化学的に修飾されない場合、前記単鎖インシュリンはインシュリンレセプターに対し、ヒトインシュリンの少なくとも20%の親和性を有する。さらにまた、それらは、ヒトインシュリンのものと類似する又はヒトインシュリンのものよりも低いIGF-1レセプター親和性を有する。アシル化によって化学的に修飾されない単鎖インシュリンは、インシュリンレセプターに対し、ヒトインシュリンの少なくとも20%の親和性を有する。また、本発明の単鎖インシュリンは、高い物理的な安定性を有していることを特徴とする。
【0054】
ヒトインシュリンと比べて1つの付加的な正電荷および約6.5未満のpIを有する単鎖インシュリンは、中性pHで可溶性で、ヒトインシュリン様の作用プロフィールを有し、改善された物理的な安定性を有する。ヒトインシュリンと比較して付加的な正電荷が前記インシュリン分子に導入された場合、pIは各々の付加された正電荷に対して1上方に移行する。ヒトインシュリンと比較して2つの付加的な正電荷を有することによって、前記単鎖インシュリンは、遅延性プロフィール(a protracted profile)を獲得する。また、前記単鎖インシュリンは、アシル基を1以上のLys残基に又はN末端B1アミノ酸残基に導入することによって遅延性となしえる。アシル化された単鎖インシュリンは、中性のpHで可溶であり、そのうえ速効性の2鎖インシュリン(例えば、NovoRapid)と混合可能(mixable)である。前記単鎖インシュリンは、e.q. B29において選択的にアシル化されていてもよい。或いは、前記B-鎖のC末終端における、前記連結ペプチド配列における、又は前記A-鎖のN末終端における1以上の天然のアミノ酸残基を、Lys残基で置換することができ、これを次に米国特許6500645に開示された周知の様式でアシル化することができる。
【0055】
また、増強した安定性を有している本発明の単鎖インシュリンは、米国特許6500645号および5,750,497号に記載の可溶性で長時間作用性のインシュリンと混合しえる。結果的に生じた組み合わせは、二相性の薬物動力プロフィールを保持している。そのうえ単鎖インシュリンは、ポジションB10および/またはB28にアミノ酸置換を形成でき、これによってインシュリン自己会合が減少する。
【0056】
本発明の単鎖インシュリンにおける連結ペプチドは、14アミノ酸長まであってもよい。しかしながら、典型的には、前記連結ペプチドの長さは、6〜10または7〜10、7〜9または7〜8である。
【0057】
前記連結ペプチドは、一態様において、可動部 VGSSSGX(配列番号122):VGSSSXK(配列番号123); VGSSXGK(配列番号124): VGSXSGK(配列番号125); VGXSSGK(配列番号126); VXSSSGK(配列番号1127) および XGSSSGK(配列番号128)を有してもよく、ここでXは任意のコード化可能なアミノ酸残基である。次の表は、Xの選択された意義(selected meanings)を示す。
【表A】

【0058】
連結ペプチドに関する別の可動部は、TRXXXGR(配列番号112)であり、ここでXは任意のコード化可能なアミノ酸残基である。
【0059】
前記単鎖インシュリンは、アシル基でアシル化されてもよい。該アシル基は、少なくとも2つの炭素原子を有し、飽和または不飽和の直鎖状または分枝状のカルボン酸であってもよい。
【0060】
脂肪酸の例は、カプリン酸, ラウリン酸, テトラデカン酸(ミリスチン酸), ペンタデカン酸, パルチミン酸, ヘプタデカン酸, ステアリン酸, ドデカン酸, トリデカン酸, および テトラデカン酸である。
【0061】
また、アシル基は、CH3(CH2)nCO-(式中のnは、4〜24)からなる群から選択される親油性の置換基であってもよく、例えば、CH3(CH2)6CO-, CH3(CH2)8CO-, CH3(CH2)10CO-, CH3(CH2)12CO-, CH3(CH2)14CO-, CH3(CH2)16CO-, CH3(CH2)18CO-, CH3(CH2)20CO- および CH3(CH2)22CO-である。
【0062】
本発明の一態様において、前記アシル基は、直線鎖(a straight-chain)または分枝状のアルカン α,ω-ジカルボン酸である。本発明の別の態様において、前記アシル基は、式 HOOC(CH2)tCO-(式中のtは、2〜24の整数である)を有する。
【0063】
本発明の別の態様において、前記アシル基は、HOOC(CH2)mCO-(式中のmは、2〜24)からなる群から選択され、例えば、HOOC(CH2)14CO-, HOOC(CH2)16CO-, HOOC(CH2)18CO-, HOOC(CH2)20CO- および HOOC(CH2)22CO-である。
【0064】
前記アシル基は、前記単鎖インシュリンにスペーサー分子(例えば、適切なアミノ酸残基)によって接着されてもよい。前記スペーサーおよび前記アシル基は、式CH3(CH2)nCONH-CH(COOH)-(CH2)pCO-(式中のnは4〜24、10〜24または8〜24の整数であり、pは1〜3の整数である)を有してもよい。別の態様において、前記スペーサーおよび前記アシル基は、式HOOC3(CH2)nCONH-CH(COOH)-(CH2)pCO-(式中のnは4〜24の整数であり、pは1〜3の整数である)を有する。別の態様において、前記スペーサーおよび前記アシル基の組合せは、式CH3(CH2)nCONH-CH(CH2)p(COOH)CO-(式中のnは4〜24の整数であり、pは1〜3の整数である)またはHOOC(CH2)nCONH-CH((CH2)pCOOH)CO-(式中のnは4〜24の整数であり、pは1〜3の整数である)を有する。
【0065】
最後に、前記アシル基は、リトコール酸であってもよく、リトコロイル(lithocholoyl)またはコロイルなどである。
【0066】
単鎖インシュリンがB29以外の別のポジションでアシル化される場合、B29における天然のリジン残基は別のアミノ酸残基(例えば、ArgおよびAla)で置換される。
【0067】
本発明による単鎖インシュリンのアシル化は、米国特許5,750,497号および5,905,140号に開示された方法と似た方法によって作出することができる。
【0068】
前記単鎖インシュリンは、当該単鎖インシュリンをコード化しているDNA配列を適切な宿主細胞中で米国特許6500645号に開示された周知の技術によって発現させることで生産される。前記単鎖インシュリンは、直接的に又はB-鎖にN末端拡張(N-terminal extension)を有する前駆体分子として発現される。このN末端拡張は、直接的に発現された産物の収率(yield)を増加させる機能を有しえる、また15アミノ酸残基長までよりなっていてもよい。N末端拡張は、培養液から単離後にインビトロで切断されることになっており、それゆえB1の隣(next to B1)に切断部位を有する。本発明に適切なタイプのN末端拡張は、米国特許第5,395,922号および欧州特許第765,395A号に開示されている。
【0069】
本発明の単鎖インシュリンをコード化しているポリヌクレオチド配列は、確立された標準方法で合成により調製されてもよく、その方法は、例えばBeaucage et al. (1981) Tetrahedron Letters 22:1859-1869により記載された亜リン酸アミダイト法、またはMatthes et al. (1984) EMBO Journal 3:801-805により記載された方法である。亜リン酸アミダイト法に基づいて、オリゴヌクレオチドを(例えば、自動DNAシンセサイザーにおいて)合成し、精製し、二本鎖化(duplexed)し、ライゲートして合成DNA構築物を形成する。DNA構築物を調製する現行の好適な方法は、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)による方法である。
【0070】
また、前記ポリヌクレオチド配列は、混合的な(mixed)ゲノム、cDNA、および合成に由来するものであってもよい。例えば、リーダーペプチドをコード化しているゲノムまたはcDNA配列が、AおよびB鎖をコード化しているゲノムまたはcDNA配列に連結されてもよく、その後に前記DNA配列は特定の部位で修飾されてもよい。これらの処理は、周知の処理法に基づいて相同的組換えのための所望のアミノ酸配列をコード化している合成オリゴヌクレオチドを挿入することにより、又は好ましくは所望の配列を適切なオリゴヌクレオチドを用いたPCRにより発生させることにより実施し得る。
【0071】
更なる側面において、本発明はベクターに関する。該ベクターは、選択された微生物または宿主細胞中で複製可能であり、また本発明の単鎖インシュリンをコード化しているポリヌクレオチド配列を保持する。組換え型のベクターは、自律的に複製するベクター、即ち、染色体外の実体(extra-chromosomal entity)として存在し、その複製が染色体複製に非依存性であるベクターであり、例えばプラスミド、染色体外因子(an extra-chromosomal element)、ミニ染色体(mini-chromosome)、または人工染色体(an artificial chromosome)である。前記ベクターは、自己複製を保証するための任意の手段を含み得る。或いは、前記ベクターは次のようなベクター、即ち、宿主細胞に導入された際に、ゲノムに統合され、それが統合された染色体(s)と共に複製されるベクターであってもよい。さらにまた、単一のベクターもしくはプラスミドまたは2以上のベクターもしくはプラスミッド(宿主細胞のゲノムに導入されるトータルDNAを共に含有する)、或いはトランスポゾンが、使用されてもよい。前記ベクターは、直鎖状または閉鎖環状のプラスミッドであってもよく、また好ましくは宿主細胞のゲノムへの前記ベクターの安定的な統合を又は前記細胞内で前記ベクターの自律複製(ゲノム非依存的に)を可能とするエレメント(s)を具備している。
【0072】
一態様において、前記組換え型の発現ベクターは、酵母において複製することが可能なものである。酵母において前記ベクターを複製可能にする配列の例は、酵母プラスミド2μm複製遺伝子REP1-3および複製起点である。
【0073】
本発明のベクターは、1以上の選択可能なマーカーを具備してもよく、このマーカーは形質転換した細胞の容易な選択を可能にする。選択可能なマーカーは遺伝子であり、その産物は殺生剤(biocide)またはウイルス抵抗性(viral resistance)、重金属への抵抗性、栄養要求株に対する独立栄養株(prototrophy to auxotrophs)、等を提供する。細菌性の選択可能なマーカーの例は、dal遺伝子(Bacillus subtilisまたはBacillus licheniformisに由来)、または抗生物質耐性(例えばアンピシリン、カナマイシン、クロラムフェニコールもしくはテトラサイクリン耐性)を与えるマーカーである。糸状菌(filamentous fungal)宿主細胞における使用に関する選択可能なマーカーには、amdS(アセトアミダーゼ)、argB(オルニチンカルバミルトランスフェラーゼ)、pyrG(オロチジン-5'-リン酸塩デカルボキシラーゼ)およびtrpC(アントラニル酸シンターゼ)が含まれる。酵母宿主細胞に関して適切なマーカーは、ADE2、HIS3、LEU2、LYS2、MET3、TRP1、およびURA3である。酵母に関する好適な選択可能マーカーは、Schizosaccharomyces pompe TPI遺伝子(Russell (1985) Gene 40:125-130)である。
【0074】
前記ベクターにおいて、前記ポリヌクレオチド配列は、適切なプロモータ配列と動作可能に(operably)連結されている。前記プロモータは、選択された宿主細胞において転写活性を呈する任意の核酸配列であってもよく、変異型(mutant)、短縮型(truncated)、およびハイブリッド型(hybrid)のプロモータを含む。また、前記プロモータは、細胞外または細胞内ポリペプチド(宿主細胞に対して同種性または異種性の何れか)をコード化している遺伝子から取得し得る。
【0075】
細菌性の宿主細胞における転写を制御するための適切なプロモータの例は、大腸菌lacオペロン、Streptomyces coelicolorのアガラーゼ遺伝子(dagA)、Bacillus subtilisのレバンスクラーゼ遺伝子(sacB)、Bacillus licheniformisのアルファ−アミラーゼ遺伝子(amyL)、Bacillus stearothermophilusのマルトジェニックアミラーゼ遺伝子(amyM)、Bacillus amylo-liquefaciensのアルファ−アミラーゼ遺伝子(amyQ)、およびBacillus licheniformisのペニシリナーゼ遺伝子(penP)から取得されたプロモータである。糸状菌の宿主細胞における転写を制御するための適切なプロモータの例は、Aspergillus oryzaeのTAKAアミラーゼ、Rhizomucor mieheiのアスパルティックプロテイナーゼ、Aspergillus nigerの中性アルファ-アミラーゼ、およびAspergillus nigerの酸耐性アルファ-アミラーゼ(acid stable alpha-amylase)に関する遺伝子から取得されたプロモータである。酵母ホストにおける有用なプロモータは、Sacharomyces cerevisiaeのMa1、TPI、ADHまたはPGKプロモータである。
【0076】
また、本発明のポリヌクレオチド構築物は、典型的には適切なターミネーターに動作可能に連結される。酵母における適切なターミネーターは、TPIターミネーター(Alber et al. (1982) J. Mol. Appl. Genet. 1:419-434)である。
【0077】
それぞれ本発明のポリヌクレオチド配列、前記プロモータおよび前記ターミネーターをライゲートすることに使用される並びにそれらを適切なベクター(該ベクターは選択された宿主における複製に必要な情報を具備している)へ挿入することに使用される処理は、当業者に周知である。前記ベクターが、最初に本発明の単鎖インシュリンをコード化している総DNA配列を具備しているDNA構築物を調製すること、引き続いてこの断片を適切な発現ベクターに挿入することにより、或いは個々の因子(例えば、前記シグナル、プロペプチド、連結ペプチド、AおよびB鎖)に関する遺伝情報を具備しているDNA断片を連続的に挿入すること(その後にライゲーション操作が続く)により構築されることが理解されるだろう。
【0078】
また、本発明は組換え型の宿主細胞に関し、該組換え型の宿主細胞は本発明の単鎖インシュリンをコード化しているポリヌクレオチド配列を具備する。係るポリヌクレオチド配列を具備しているベクターは、該ベクターが染色体統合体(a chromosomal integrant)又は自己複製する染色体外ベクター(既に記載したような)として保持されるように宿主細胞に導入される。「宿主細胞(host cell)」の用語は、親細胞の如何なる子孫をも包含する用語であり、この子孫は複製の間に生じる突然変異により前記親細胞と同一ではない。前記宿主細胞は、単細胞の微生物(例えば、原核生物)、または非単細胞の微生物(例えば、真核生物)であってもよい。有用な単細胞(unicellular cells)は、Bacillusの細胞およびStreptomycesの細胞を含むグラム陽性菌、またはE coliおよびPseudomonas sp.などのグラム陰性菌などの細菌細胞であるが、これらに限定されない。真核生物細胞は、哺乳類、昆虫、植物、または真菌の細胞であってもよい。好適な態様において、前記宿主細胞は酵母細胞である。本発明の方法に使用される酵母生物体(yeast organism)は、培養において、大量の本発明の単鎖インシュリンを産生する任意の適切な酵母生物体でありえる。適切な酵母生物体の例は、酵母の種 Saccharomyces cerevisiae, Saccharomyces kluyveri, Schizosaccharomyces pombe, Sacchoromyces uvarum, Kluyveromyces lactis, Hansenula polymorpha, Pichia pastoris, Pichia methanolica, Pichia kluyveri, Yarrowia lipolytica, Candida sp., Candida utilis, Candida cacaoi, Geotrichum sp., および Geotrichum fermentansから選択される株である。
【0079】
酵母細胞の形質転換は、例えば、既知の様式のプロトプラスト形成と続く形質転換とによって達成されてもよい。前記細胞を培養するために使用される培地は、酵母生物体の成長に適切な任意の通常の培地であってもよい。本発明の分泌されたインシュリン前駆体(その多くの比率は、正確にプロセスされた形態で培地に存在するだろう)は、培地から従来の処理により回収され、この処理には酵母細胞を培地から遠心分離により分離すること、前記インシュリン前駆体をイオン交換マトリックスにより若しくは逆相吸着マトリックスにより濾過または捕獲(catching)すること、上清もしくは濾過物のタンパク性成分を塩(例えば、硫酸アンモニウム)で沈殿させること、次に様々なクロマトグラフィー処理(例えば、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー)により精製すること、等が含まれる。
【0080】
薬学的組成物
本発明の単一インシュリンを含有している組成物は、インシュリンに感受性である状態(states)の治療に使用することができる。それらを、1型糖尿病、2型糖尿病、および高血糖(例えば、重篤な傷害を受けた人物および大手術を経験した人物に時々認められるようなもの)の治療に使用することができる。如何なる患者であれ、最適な用量レベルは、使用される特定のインシュリン誘導体の有効性、患者の年齢、体重、身体活動(physical activity)、および食事を含む様々な要素、他の薬物との可能な組み合わせ、並びに治療される状態の重症度に依存する。本発明のインシュリン誘導体の1日投与量(daily dosage)は、既知のインシュリン組成物と類似する様式で、個々の患者ごとに当業者により決定されることが推奨される。
【0081】
通常、本発明の薬学的製剤は、皮下(subcutaneously)に投与される。しかしながら、本発明の単鎖インシュリンは、インシュリンポンプに使用してもよい及び肺投与(pulmunal administration)に製剤化されてもよい。
【0082】
B30またはB29をA1と連結しているペプチド配列に少なくとも1つの塩基性アミノ酸残基を有している本発明による単鎖インシュリンは、遅延性のインシュリン活性を有することが期待される。付加的な正電荷のために、等電点はヒトインシュリンと比べて増加し、それゆえ薬学的製剤のpHは好ましくは中性pH未満(例えば、約6未満)であろう。係る単鎖インシュリン製剤が注射される場合、それらは中性のpHが存在する注射部位で沈殿し、次に緩徐に溶解し、注射部位から放出されるだろう。注射部位からの緩徐な放出は、特定の適用に関して要求されるであろう遅延性作用を導く。請求される単鎖インシュリンの薬学的製剤は、通常のアジュバントおよび添加物を含み、好ましくは水溶液として製剤化される。水性媒体(aqueous medium)は、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウムまたはグリセリンなどで等張性となされる。さらにまた、水性媒体は、亜鉛イオン、緩衝剤および保存剤を含有してもよい。前記組成物のpH値は、所望の値へと調整され、該pH値は当該単鎖インシュリンの等電点(pI)に依存して、約4〜約8.5の間、好ましくは7および7.5の間であろう。
【0083】
また、本発明は、本発明の単鎖インシュリンと、自由選択で1以上の安定性、保存性または等張性のために適切な剤(例えば、亜鉛イオン、フェノール、クレゾール、パラベン、塩化ナトリウム、グリセリンまたはマンニトール)とを含有している薬学的組成物に関する。本製剤の亜鉛含有量は、0および約6亜鉛原子/インシュリン六量体の間であってもよい。また、前記単鎖インシュリンは、WO 2003027081に開示されたIFDリガンドと共に製剤化されてもよい。
【0084】
本発明による薬学的製剤に使用される緩衝剤は、酢酸ナトリウム, 炭酸ナトリウム, シトレート, グリシルグリシン, ヒスチジン, グリシン, リジン, アルギニン, リン酸二水素ナトリウム, リン酸水素二ナトリウム, リン酸ナトリウム, およびトリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン, ビシン, トリシン, リンゴ酸, スクシナート, マレイン酸, フマル酸, 酒石酸, アスパラギン酸又はその混合物からなる群から選択されえる。これらの特定の緩衝剤の各々は、本発明の代替的な態様を構成する。
【0085】
薬学的に許容される保存剤は、フェノール, o-クレゾール, m-クレゾール, p-クレゾール, メチル p-ヒドロキシルベンゾアート, プロピル p-ヒドロキシルベンゾアート, 2-フェノキシエタノール, ブチル p-ヒドロキシルベンゾアート, 2-フェニルエタノール, ベンジルアルコール, クロロブタノール, およびチメロサール(thiomerosal), ブロノポール, 安息香酸, イミド尿素(imidurea), クロロヘキシジン(chlorohexidine), デヒドロ酢酸ナトリウム, クロロクレゾール, エチル p-ヒドロキシルベンゾアート, 塩化ベンゼトニウム, クロルフェネシン(3p-クロルフェノキシプロパン-1,2-ジオール)又はその混合物からなる群から選択されえる。本発明の更なる態様において、前記保存剤は、0.1 mg/ml〜20 mg/mlの濃度で存在する。本発明の更なる態様において、前記保存剤は、0.1 mg/ml〜5 mg/mlの濃度で存在する。本発明の更なる態様において、前記保存剤は、5 mg/ml〜10 mg/mlの濃度で存在する。本発明の更なる態様において、前記保存剤は、10 mg/ml〜20 mg/mlの濃度で存在する。これらの特定の保存剤の各々は、本発明の代替的な態様を構成する。薬学的組成物における保存剤の使用は、当業者に周知である。便宜のため、文献(Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 19th edition, 1995)を参照されたい。
【0086】
等張性剤(isotonicity agent)は、塩(例えば、塩化ナトリウム), 糖または糖アルコール, アミノ酸(例えば、L-グリシン, L-ヒスチジン, アルギニン, リジン, イソロイシン, アスパラギン酸, トリプトファン, スレオニン), アルジトール(例えば、グリセロール(グリセリン), 1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール), 1,3-プロパンジオール, 1,3-ブタンジオール)ポリエチレングリコール(例えば、PEG400)、又はその混合物からなる群から選択されえる。任意の糖を使用してもよく、これは例えば次のものである;モノ-、ジ-、またはポリサッカライド、または水溶性のグルカン、例えば次のものが含まれる、果糖、グルコース、マンノース、ソルボース、キシロース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、デキストラン、プルラン、デキストリン、シクロデキストリン、可溶性のデンプン、ヒドロキシエチルスターチおよびカルボキシメチルセルロース-Na。一態様において、糖添加物は、スクロースである。糖アルコールは、少なくとも1つの-OH基を有しているC4-C8炭化水素と規定され、これには、例えば、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、ガラクティトール、ズルシトール(dulcitol)、キシリトール、およびアラビトールが含まれる。一態様において、糖アルコールは、マンニトールである。上記の糖または糖アルコールは、個々に(individually)又は組み合わせて使用してもよい。糖または糖アルコールが液体調製中で可溶性で、本発明の方法を用いて達成された安定化効果に不利に影響しないかぎり、使用される量に定められた限度はない。一態様において、糖または糖アルコール濃度は、約 1 mg/mlおよび約 150 mg/mlの間である。本発明の更なる態様において、等張化剤は、1 mg/ml〜50 mg/mlの濃度で存在する。本発明の更なる態様において、等張化剤は、1 mg/ml〜7 mg/mlの濃度で存在する。本発明の更なる態様において、等張化剤は、8 mg/ml〜24 mg/mlの濃度で存在する。本発明の更なる態様において、等張化剤(isotonic agent)は、25 mg/ml〜50 mg/mlの濃度で存在する。これらの特定の等張化剤の各々は、本発明の代替的な態様を構成する。薬学的組成物における等張化剤の使用は、当業者に周知である。便宜のため、文献(Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 19th edition, 1995)を参照されたい。
【0087】
また、本発明の単鎖インシュリンは、遅延性または速効性(protracted or rapid acting)のインシュリン活性を有している他の単鎖インシュリン、ヒトインシュリンまたはヒトインシュリンのアナログまたは誘導体と混合して、速効性及び遅延性のインシュリンの混合物から構成されるインシュリン組成物を調製してもよい。そのようなインシュリンアナログの例は、例えばEP 214826、EP 375437およびEP 383472の公開番号を有する欧州特許出願に記載されている。
【0088】
また、本発明による単鎖インシュリンは、GLP-1、GLP-2およびエキセンディン又はそのアナログもしくは誘導体などの他の薬学的に活性な化合物と混合されてもよい。また、本発明による単鎖インシュリンは、経口抗糖尿病薬〔例えば、チアゾリジンジオン(thiazolidindione)、メトホルミンおよび経口投与のための他の2型糖尿病の薬学的製剤〕と併用する併用治療(combination treatment)に使用しえる。
【0089】
略語および命名法
単鎖インシュリンは、一般構造(general structure)がB-C-Aのポリペプチド配列を意味し、式中のBはヒトBインシュリン鎖又はそのアナログもしくは誘導体であり、AはヒトAインシュリン鎖又はそのアナログもしくは誘導体であり、およびCはB-鎖におけるC末端アミノ酸残基(通常、B30)をA1と連結する5〜11アミノ酸残基のペプチド鎖である。B鎖がdesB30鎖である場合、連結ペプチドはB29をA1と連結する。前記単鎖インシュリンは、Lys残基でアシル化されることによって誘導体化(derivatized)されてもよい。前記単鎖インシュリンは、ヒトインシュリンにおけるように、正確に配置されたジスルフィド架橋(3つ)を有し、これはCysA7およびCysB7の間及びCysA20およびCysB19の間であり、またCysA6およびCysA11の間の内部のジスルフィド架橋である。
【0090】
ヒトインシュリンBおよびA鎖の、BおよびA鎖のアナログは、ヒトインシュリン分子のものと比較して、Aおよび/またはBアミノ酸鎖の1以上の変異(mutations)、置換(substitutions)、欠失(deletions)および/または付加(additions)を有しているBおよびA鎖である。前記インシュリンアナログは、好ましくは1以上の天然のアミノ酸残基のなかの好ましくは1、2、または3つが、別のコード可能(codable)なアミノ酸残基で置換されているものである。一態様において、本発明は、以下に更に詳細に説明される天然ヒトインシュリン分子と比較して、1以上のポジション B1, B3, B10, B22; B27, B28, B29, A8, A15 または A22を有しているアナログ分子を具備する。
【0091】
desB30またはB(1-29)は、B30アミノ酸残基を欠いている天然のインシュリンB鎖又はそのアナログを意味し、B(1-26)はヒトインシュリンのB鎖のN末終端から計数して最初の26アミノ酸残基からなるペプチド鎖又はそのアナログもしくは誘導体であり、A(1-21)は天然のインシュリンA鎖又はそのアナログ若しくは誘導体を意味し、そしてA(1-20)はヒトインシュリンのA鎖の最初の20の天然アミノ酸残基又はそのアナログ若しくは誘導体を意味する。アミノ酸残基は、3文字アミノ酸表記または1文字アミノ酸表記で示される。
【0092】
B1、A1などにより、それぞれインシュリンのB鎖でのポジション1におけるアミノ酸残基(N末終端から計数して)およびインシュリンのA鎖でのポジション1におけるアミノ酸残基(N末終端から計数して)が意味される。
【0093】
本明細書中で使用するインシュリンアナログは、ヒトインシュリンの構造から規則的(formally)に誘導されえる分子構造を有しているポリペプチドを意味する。他の動物からのインシュリンは、ヒトインシュリンのアナログとなる。アナログの構造は、例えば、天然インシュリンにおいて発生している少なくとも1つのアミノ酸残基を欠失させること及び/又は置換することによって、および/または少なくとも1つのアミノ酸残基を付加することによって誘導(derived)されえる。付加および/または置換されたアミノ酸残基は、コード化可能なアミノ酸残基(変異と規定する)、又は他の天然のアミノ酸残基(D-アミノ酸を含む)、又はN-メチルアミノ酸などの純粋に合成のアミノ酸残基(置換と規定する)であってもよい。また、前記構造は、天然のインシュリンから、レトロインベルソ断片(retroinverso fragment)などの非ペプチド成分(non-peptide moiety)の挿入/で置換、又はアザペプチド(azapeptide)結合(NHで置換されるCO)または仮性ペプチド(pseudo-peptide)結合(例えば、CH2で置換されるNH)などの非ペプチド結合の導入によって誘導することができる。
【0094】
Asn残基の変異または置換は、インシュリンの化学的な安定性及びその薬学的な調製を改善する。D-アミノ酸の導入および天然ペプチド結合の非ペプチド結合での交換によって、タンパク分解酵素に対する抵抗性が付与されえる。
【0095】
AspおよびGluの残基が前記配列中に生じる場合、ペプチド鎖はイソペプチド結合を介して連続(continue)してもよい(即ち、それぞれ側鎖のβ-またはγ-連結されたカルボキシル基を介して)。
【0096】
インシュリンアナログの例は、B鎖のポジション28におけるProがAsp, Lys, または Ileで変異されているようなものである。別の態様において、ポジションB29でのLysは、Proに変異される。さらに、B27 Thrは、Lys, Arg または Gluで変異されえる。また、ポジションA21でのAsnは、Ala, Gln, Glu, Gly, His, Ile, Leu, Met, Ser, Thr, Trp, Tyr または Valで、特にGly, Ala, Ser, or Thrで、そして好ましくはGlyで変異されえる。さらに、ポジションB3でのAsnは、Thr, Lys, Gln, Glu または Aspで変異されえる。また、ポジションA18でのAsnは、Glnで変異されえる。インシュリンアナログの更なる例は、欠失アナログdes(B1 Phe)インシュリン;B-鎖がN末端拡張を有するインシュリンアナログおよびA-鎖がC末端拡張(例えば、Lys)を有するインシュリンアナログである。
【0097】
本明細書中に使用されるインシュリン誘導体は、インビトロで化学的に修飾された天然のインシュリンまたはインシュリンアナログを意味し、これは、例えば、前記インシュリンの1以上のポジション中の側鎖に官能基を導入することによって(例えば、チロシン残基にニトロ基、またはチロシン残基にヨウ素)、又はフリーのカルボキシル基をエステル基に又はアミド基(amide group)に変換することによって、又はアミノ基をアシル化でアミドへ変換することによって、又はヒドロキシ基をアシル化でエステルにすることによって、又は一級アミンをアルキル化で二級アミンにすることによってなされる。他の誘導体は、前記インシュリンにおけるアミノ酸残基の側鎖の酸化または還元によって取得される。
【0098】
前記単鎖インシュリンは、以下のルールにしたがって命名される:配列は、B-鎖で開始し、Cペプチドへと続き、そしてA-鎖で終了する。前記アミノ酸残基は、ヒトインシュリンにおける彼等それぞれの対応物の名をとって命名されている。変異およびアシル化は、明示的に記載され、他方でAおよびB鎖における不変のアミノ酸残基は言及されない。例えば、ヒトインシュリンと比較して、次の変異、A21G, B3Q, B29R, desB30およびC末端のB-鎖とN末端のA-鎖とを連結しているCペプチドTGLGKGQ(配列番号19)を有しているインシュリンは、B(1-29)-B3Q-B29R-TGLGKGQ(配列番号19)-A(1-21)-A18Q-A21Gヒトインシュリンと命名される。
【0099】
アシル基は、有機酸からヒドロキシル基の除去によって誘導されるラジカル、即ちR-CO-ラジカルを意味し、式中のRは水素、アルキル基、またはO-アルキル基であってもよい。
【0100】
アシル化は、アミノ基またはヒドロキシ基の水素がアシル基で交換される化学反応と理解される。
【0101】
優先的な又は選択的なアシル化は、所望のポジションに高程度(好ましくは、所望のポジションではないにおけるよりも、少なくとも2または3倍高程度)で発生するアシル化を意味する。本発明の一態様において、前記アシル化は、LysB29におけるεアミノ基で又は別のポジションに挿入されたLys残基で又はN末端B1アミノ酸残基でのみ生じるべきである。
【0102】
活性化された酸はカルボン酸を意味し、ここで活性化された脱離基がアシル炭素に付着し、アミド結合の形成および脱離基の放出下でアミノ基との反応が可能となる。活性化脂肪酸は、脂肪酸の活性化エステル、脂肪酸の活性化アミド、および無水物または塩化物であってもよい。活性化脂肪酸は、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(1-hydroxybenzotriazole)およびN-ヒドロキシスクシンイミド(N-hydroxysuccinimide)とのエステルなどの、その誘導体を含む。
【0103】
脂肪酸またはアシル基は、少なくとも2つの炭素原子を有し、飽和または不飽和である直鎖状または分枝状のカルボン酸を意味する。本発明の一態様において、前記アシル基は、6〜24 C-原子を有している脂肪酸である。
【0104】
インシュリンがアシル化される場合、付着点(the point of attachment)およびアシル基名が与えられる。そして、対応する構造/配列において、目的の残基およびアシル基が拡大(expanded)される。例えば、それは以下のものである:
【化1】

【0105】
上記の物質は、次の名前が割り当てられる:B(1-29)-B3Q-B29R-TGLGK((eps)ミリストイル)GQ-A(1-21)-A18Q-A21Gヒトインシュリン(配列番号133)。
【0106】
インシュリン活性を有している単鎖インシュリンは、哺乳類における血中グルコースを低下させる能力を有する単鎖インシュリンを意味し、これは静脈内または皮下投与などによる適切な投与後に、適切な動物モデル(ラット、ウサギ、またはブタモデルであってもよい)において測定される。
【0107】
pIは、ペプチドがゼロ実効電荷(a zero net charge)を有するpHである。ペプチドのpIは、次の式で計算することができる:
【数1】

【0108】
式中のNは、出現数(number of occurrence)である。
【0109】
中性pHで可溶性は、0.6mM単鎖インシュリンが中性pHで可溶性であることを意味する。
【0110】
高い物理的な安定性は、フィブリル化(fibrillation)に関して、ヒトインシュリンの50%未満である傾向を意味する。フィブリル化は、フィブリル形成が特定の条件で開始される前の遅延時間(lag time)により記載しえる。
【0111】
フィブリル化は、部分的に未フォールドのインシュリン分子が互いに相互作用して、直鎖状凝集物(linear aggregates)を形成する物理的なプロセスを意味する。
【0112】
インシュリンレセプターおよびIGF-1レセプター親和性を有するポリペプチドは、適切な結合アッセイでインシュリンレセプターおよびヒトIGF-1レセプターと相互作用する能力を有するポリペプチドである。係るレセプターアッセイは、当該技術分野において周知であり、例において更に記載される。本発明の単鎖インシュリンは、IGF-1レセプターと結合しない又は該レセプターに対し、むしろ低親和性を有する。より正確には、本発明の単鎖インシュリンは、例に記載のとおり測定した場合、ヒトインシュリンの親和性と実質的に同じ程度又はそれ以下の、IGF-1レセプターに対する親和性を有する。
【0113】
インシュリンレセプターに対する本発明の単鎖インシュリンの親和性は、例に開示されたとおり測定され、典型的にはヒトインシュリンのものの20および200パーセントの間である。
【0114】
「POT」は、Schizosaccharomyces pombe トリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子であり、「TPI1」はS.cerevisiae トリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子である。
【0115】
「リーダー(leader)」は、プレ-ペプチド(シグナルペプチド)およびプロペプチドからなるアミノ酸配列を意味する。
【0116】
「シグナルペプチド(signal peptide)」の用語は、タンパク質の前駆物質形態のN末端配列として存在するプレ-ペプチドを意味すると理解される。シグナルペプチドの機能は、異種性のタンパク質の小胞体へのトランスロケーションを促進させることである。シグナルペプチドは、このプロセスの過程で通常は切断除去される。シグナルペプチドは、前記タンパク質を産生する酵母生物体に対して異種性(heterologous)または同種性(homologous)のものであってもよい。幾つかのシグナルペプチドを、本発明のDNA構築物と共に使用することが可能であり、これには酵母アスパラギン酸プロテアーゼ3(YAP3)シグナルペプチド又は任意のその機能的なアナログ(Egel-Mitani et al. (1990) YEAST 6:127-137 および US 5,726,038)およびMFα1遺伝子のα-因子シグナル(Thorner (1981) in The Molecular Biology of the Yeast Saccharomyces cerevisiae, Strathern et al., eds., pp 143-180, Cold Spring Harbor Laboratory, NY および US 4,870,00)が含まれる。
【0117】
「プロペプチド(pro-peptide)」の用語は、次のポリペプチド配列を意味している。即ち、該ポリペプチド配列の機能によって、発現されたポリペプチドが小胞体からゴルジ体へと、更に培地への分泌に関連する分泌小胞(secretory vesicle)へと方向付けられることを可能にするポリペプチドである(即ち、ポリペプチドの細胞壁を横切った輸送又は少なくとも細胞膜を介した酵母細胞の細胞膜周辺腔への輸送)。プロペプチドは、酵母α因子のプロペプチドであってもよい(US 4,546,082および4,870,008を参照されたい)。或いは、前記プロペプチドは合成プロペプチドであってもよく、つまり自然界でみつけることができないプロペプチドであってもよい。適切な合成プロペプチドは、US 5,395,922;5,795,746;5,162,498およびWO 98/32867に開示されたものである。前記プロペプチドは、好ましくはエンドペプチダーゼプロセッシング部位をC末端終端に具備し、それは例えば、Lys-Arg配列またはその任意の機能的なアナログである。
【0118】
本発明において、アミノ酸の三文字または一文字の表記は、以下に示したとおり、これらの従来の意味で使用した。明示的に示されない限り、本明細書において言及されるアミノ酸は、Lアミノ酸である。更に、ペプチドのアミノ酸配列の左及び右の端(the left and right ends)は、それぞれ、他に特定されない限り、N-およびC-端(C-termini)である。
【表B】

【0119】
以下の略語は、明細書および例に使用されている:
Bzl=Bn:ベンジル
DIEA:N,N-ジイソプロピルエチルアミン
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
tBu: tert-ブチル
Glu:グルタミン酸
TSTU:O-(N-スクシンイミジル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウム テトラフルオロボラート
THF:テトラヒドロフラン
EtOAc:酢酸エチル
DIPEA:イソプロピルエチルアミン
HOAt:1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール
NMP:N-メチルピロリジン-2-オン
TEA:トリエチルアミン
Su:スクシニミジル=2,5-ジオキソ-ピロリジン-1-イル
TFA:トリフルオロ酢酸
DCM:ジクロロメタン
DMSO:ジメチルスルホキシド
RT:室温
本発明は、以下の例によってさらに説明されるが、これによって請求される発明の範囲は限定されない。引用される全ての文献は、その文献中に記載される全ての事項に関して、参照によって本願明細書中に援用される。
【0120】
[例]
一般的な処置
全てのプラスミドは、C-POTタイプのものであり、EP 171,142に記載されているものと類似し、これらはプラスミドの選択および安定化のための分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)トリオースホスファートイソメラーゼ遺伝子(POT)を含有することにより特徴づけられる。前記プラスミドは、出芽酵母(S.cerevisiae)トリオースホスファートイソメラーゼプロモーターおよびターミネーターをも含む。これらの配列は、プラスミド pKFN1003(WO 90/100075に記載される)中の対応する配列に類似し、リーダーおよびインシュリン産物の融合タンパク質をコード化しているEcoRI-XbaI断片の配列を除いた全ての配列である。異なる融合タンパク質を発現させるために、pKFN1003のEcoRI-XbaI断片は、所望のリーダー ― インシュリン融合体をコード化しているEcoRI-XbaI断片で置換された。係るEcoRI-XbaI断片は、標準的な技術にしたがって合成オリゴヌクレオチドおよびPCRを用いて合成しえる。
【0121】
酵母形質転換体を、宿主株 出芽酵母株MT663(MATa/MATα pep4-3/pep4-3 HIS4/his4 tpi::LEU2/tpi::LEU2 Cir+)の形質転換によって調製した。前記酵母株MT663は、WO 92/11378の出願に関連して、ドイツ微生物細胞培養コレクション(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkul-turen)に寄託され、寄託番号DSM6278が付与された。
【0122】
MT663を、YPGaL (1% Bacto酵母抽出物, 2% Bactoペプトン, 2%ガラクトース, 1%乳酸)で、O.D.600nmが0.6になるまで成長させた。100mlの培養物を、遠心分離で収穫し、10mlの水で洗浄し、再遠心分離し、10mlの溶液(1.2Mソルビトール, 25mM Na2EDTA pH=8.0および6.7mg/mlジチオスレイトールを含有している)中に再懸濁した。前記懸濁液を、30゜Cで15分間インキュベーションし、遠心分離し、そして細胞を、1.2 M ソルビトール, 10 mM Na2EDTA, 0.1 M クエン酸ナトリウム, pH 0 5.8, および2 mg Novozym(登録商標)234を含有している溶液10mlに再懸濁させた。前記懸濁液を30゜Cで30分間インキュベーションし、細胞を遠心分離で収集し、10 mlの1.2 M ソルビトールおよび10 mlのCAS (1.2 M ソルビトール, 10 mM CaCl2, 10 mM Tris HCl(Tris=Tris(ヒドロキシメチル)アミノメタン) pH=7.5)中で洗浄し、そして2 mlのCAS中に再懸濁させた。形質転換に関して、1 mlのCAS-懸濁細胞を約 0.1 mgのプラスミドDNAと混合し、室温で15分間静置した。1 mlの(20%ポリエチレングリコール4000, 10 mM CaCl2, 10 mM Tris HCl, pH=7.5)を、添加し、そして混合物を更に30分間室温で静置した。混合物を遠心分離し、ペレットを0.1 mlのSOS(1.2 Mソルビトール, 33% v/v YPD, 6.7 mM CaCl2)に再懸濁し、30゜Cで2時間インキュベーションした。前記懸濁液を次に遠心分離し、ペレットを0.5 mlの1.2 Mソルビトールに再懸濁した。次に、6 mlのトップアガー (Sherman等( Sherman et al. (1982) Methods in Yeast Genetics, Cold Spring Harbor LaboratoryのSC培地) 1.2 M ソルビトール プラス 2.5%寒天を含有している)を52゜Cで添加し、懸濁物を同じ寒天凝固させたソルビトール含有培地を含んでいるプレートの上部に注いだ。
【0123】
発現プラスミドで形質転換したS. cerevisiae 株MT663を、YPDで72 hの間30゜Cで成長させた。
【0124】
[例1]
幾つかの単鎖インシュリンを、上記のとおり産生し、培養培地から単離し、更なる試験のために精製した。単鎖インシュリンを、以下に記載のとおり、ヒトインシュリンレセプターに対する結合親和性によって測定されるような生物学的インシュリン活性に関してヒトインシュリンのものと比較して試験した。
【0125】
さらにまた、IGF-1に対する親和性を、以下に記載のとおり試験した。結果を表1に示す、ここで「IR」は、ヒトインシュリンのものと比較したヒトインシュリンレセプター結合を意味する。
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【表1−4】

【表1−5】

【表1−6】

【表1−7】

【表1−8】

【表1−9】

【表1−10】

【0126】
TRXXXGR (配列番号112)の連結ペプチドの可動部(motive)を有する単鎖インシュリンのインシュリンレセプター結合を、ヒトインシュリンのもののパーセントで示す。
【表2】

【0127】
[例2]
B(1-29)-B3Q-B29R-TGLGK((eps)ミリストイル)GQ-A(1-21)-A18Q-A21Gヒトインシュリン(配列番号133)(PAK1820)
【化2】

【0128】
B(1-29)-B3Q-B29R-TGLGKGQ-A(1-21)-A18Q-A21G ヒトインシュリン(配列番号133)(150 mg, 24 μmol)は、水性の炭酸ナトリウム(100 mM, 2.8 mL)中に溶解され、N-メチルピロリジン-2-オン(0.5 mL)中のミリスチン酸 N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(7.7 mg, 24 μmol, B. Faroux-Corlay et al., J. Med. Chem. 2001, 44, 2188-2203にしたがって調製しえる)の溶液が添加された。生じた混合物に、pH 10〜11まで、さらにN-メチルピロリジン-2-オン(3 mL)および水性の炭酸ナトリウム(100 mM, 0.8 mL)を添加した。生じた混合物を、室温で50分間撹拌した。pHを、1N塩酸で5.5に調節した。固体に形成されたもの(The solid formed)を、遠心分離およびデカンテーションによって単離した。残留物(residue)を、調製的HPLCをJones Kromasil RP18 5μm, 15x225 mm カラム上で、以下に記すグラジエントで8 mL/minの流速で2回実施することによって精製した:
0.00 - 5.00 min:10% CH3CN + 0.1% TFA,
5.00 - 35.0 min:10% - 50% CH3CN + 0.1% TFA,
35.0 - 45.0 min:50% - 90% CH3CN + 0.1% TFA。
【0129】
純粋な画分(Pure fractions)を、プールし、凍結乾燥し、12 mgの表題化合物(title compound)を産生した。
【0130】
NanoflowエレクトロスプレーMS:m/z=6541(M+1)。
【0131】
HPLC:Rt=15.44min。
【0132】
カラム:C4, 5μ, 150x4 60mm "phenomenex, Jupiter"。
【0133】
インジェクション 20μl。
【0134】
流速:1,5ml/min
溶媒:
A:80% 0,0125 M Tris, 0,0187 M (NH4)2SO4 pH = 7, 20% CH3CN。
【0135】
B:80% CH3CN, 20%水。
【0136】
グラジエント:
0.00 - 20.00 min:5% - 55% B,
20.0 - 22.0 min:55% - 80% B,
22.0 - 24.0 min:80% B,
24.0 - 25.0 min:80% - 5% B,
25.0 - 32.0 min:5% B。
【0137】
[例3]
B(1-29)-B3Q-B29R-TGLGK((eps)オクタデカンジオイル)GQ-A(1-21)-A18Q-A21Gヒトインシュリン(配列番号133)(PAK1820)
【化3】

【0138】
B(1-29)-B3Q-B29R-TGLGKGQ-A(1-21)-A18Q-A21Gヒトインシュリン(配列番号133)(150 mg, 24 μmol)は、水性の炭酸ナトリウム(100 mM, 2.8 mL)中に溶解され、アセトニトリル(2mL)中のスクシニミジル tert-ブチル オクタデカンジオアート(11 mg, 24 μmol)の溶液が添加された。生じた混合物は、さらにアセトニトリル(2mL)を添加された。前記混合物のpHは、10〜11であった。生じた混合物を、室温で1時間撹拌した。pHを、1N塩酸で5.86に調節した。固体に形成されたもの(The solid formed)を、遠心分離およびデカンテーションによって単離した。残留物(residue)を、調製的HPLCをJones Kromasil RP18 5μm, 15x225 mm カラム上で、以下に記すグラジエントで8 mL/minの流速で2回実施することによって精製した:
0.00 - 5.00 min:10% CH3CN,
5.00 - 35.0 min:10% - 50% CH3CN,
35.0 - 45.0 min:50% - 90% CH3CN。
【0139】
純粋な画分を、プールし、凍結乾燥し、48 mgの中間的(intermediary)なB(1-29)-B3Q-B29R-TGLGK((eps)tert-ブチル オクタデカンジオイル)GQ-A(1-21)-A18Q-A21Gヒトインシュリン(配列番号133)を産生した。
【0140】
上記のB(1-29)-B3Q-B29R-TGLGK((eps)tert-ブチル オクタデカンジオイル)GQ-A(1-21)-A18Q-A21Gヒトインシュリン(配列番号133)(48 mg)は、トリフルオロ酢酸(1.8ml)を添加された。そして、前記混合物を室温で35分間穏かに撹拌した。前記混合物を、減圧下(in vacuo)で濃縮し、ジクロロメタンで2度取り除いた(stripped)。残留物(residue)を、調製的HPLCをMacherey-Nagel SP 250/21 Nucleosil 300-7 C4カラム上で、以下に記すグラジエントで8 mL/minの流速で2回実施することによって精製した:
0.00 - 5.00 min:10% CH3CN,
5.00 - 30.0 min:10% - 50% CH3CN,
30.0 - 35.0 min:50% - 90% CH3CN.
35.0 - 40.0 min:100% CH3CN.
これによって、19 mg B(1-29)-B3Q-B29R-TGLGK((eps)オクタデカンジオイル)GQ-A(1-21)-A18Q-A21Gヒトインシュリン(配列番号133)が産生された。
【0141】
NanoflowエレクトロスプレーMS: m/z=6626(calculated:6626)
HPLC:Rt=12.62min。
【0142】
カラム:C4, 5μ, 150x4 60mm "phenomenex, Jupiter"。
【0143】
流速:1,5ml/min
溶媒:
A:80% 0,0125 M Tris, 0,0187 M (NH4)2SO4 pH = 7, 20% CH3CN。
【0144】
B:80% CH3CN, 20%水。
【0145】
グラジエント:
0.00 - 20.00 min:5% - 55% B,
20.0 - 22.0 min:55% - 80% B,
22.0 - 24.0 min:80% B,
24.0 - 25.0 min:80% - 5% B,
25.0 - 32.0 min:5% B。
【0146】
[例4]
B(1-29)-B3Q-B29R-TGLGK((eps)ヘキサデカンジオイル-γ-L-Glu)GQ-A(1-21)-A18Q-A21Gヒトインシュリン(配列番号133)(PAK1820)
【化4】

【0147】
この化合物は、例2の記載と類似して、B(1-29)-B3Q-B29R-TGLGKGQ-A(1-21)-A18Q-A21Gヒトインシュリン(配列番号133)のtert-ブチル ヘキサデカンジオイル-γ-L-Glu(OSu)-OtBuでのアシル化に続いて、TFA媒介性のtBuエステルの脱保護から調製された。
【0148】
表題化合物に関するデータ:
MALDI-TOF: m/z=6727(calculated:6727)
HPLC: Rt=10.15min。
【0149】
カラム:C4, 5μ, 150x4 60mm "phenomenex, Jupiter"。
【0150】
流速:1,5ml/min
溶媒:
A:80% 0,0125 M Tris, 0,0187 M (NH4)2SO4 pH = 7, 20% CH3CN。
【0151】
B:80% CH3CN, 20%水。
【0152】
グラジエント:
0.00 - 20.00 min:5% - 55% B,
20.0 - 22.0 min:55% - 80% B,
22.0 - 24.0 min:80% B,
24.0 - 25.0 min:80% - 5% B,
25.0 - 32.0 min:5% B。
【0153】
tert-ブチル ヘキサデカンジオイル-γ-L-Glu(OSu)-OtBuの調製
ヘキサデカ 二酸(Hexadecadioic acid)(40.0 g, 140 mmol)を、トルエン(250 ml)に懸濁し、混合物を熱して還流させた(heated to reflux)。N,N-ジメチルホルムアミド di-tert-ブチル アセタール(76.3 g, 375 mmol)を、4時間にわたって滴下して添加した。前記混合物を、一晩還流させた。溶媒を減圧下50゜Cで除去し、粗製物(crude material)をDCM/AcOEt (500 ml, 1:1)に懸濁し、15mins撹拌した。固体を、濾過で収集し、DCM(200ml)で粉砕した。濾過したものを、減圧下で蒸発させて、モノ-tert-ブチル ヘキサデカンジオアート(mono-tert-butyl hexadecandioate)30グラムを得た。この物質をDCM (50 ml)に懸濁し、10 mins氷で冷やし、濾過した。溶媒を減圧下で蒸発させて、25 グラムの粗製のモノ-tert-ブチル ヘキサデカンジオアートを分離した。この物質を、ヘプタン (200 ml)から再結晶化して、モノ-tert-ブチル ヘキサデカンジオアート 15.9 g (33 %)を得た。再結晶の代わりに、モノ―エステルを、シリカゲルクロマトグラフィーでAcOEt/ヘプタンで溶出することによって精製することができる。
【0154】
1H-NMR (CDCl3) δ:2.35 (t, 2H), 2.20 (t, 2H), 1.65-1.55 (m, 4H), 1.44 (s, 9H), 1.34-1.20 (m, 20 H)。
【0155】
モノ tert-ブチル エステル (2 g, 5.8 mmol)をTHF (20 ml)に溶解し、TSTU(2.1 g, 7.0 mmol)およびDIEA(1.2 ml, 7.0 mmol)で処理し、一晩撹拌した。前記混合物を濾過し、濾過物を減圧下で蒸発(evaporated)させた。残留物をAcOEtに溶解し、冷たい 0.1 M HClおよび水で2回洗浄した。MgSO4に対して乾燥させ、減圧下で蒸発させて、スクシニミジル tert-ブチル ヘキサデカンジオアート 2.02 g (79%)を得た。
【0156】
1H-NMR (CDCl3) δ:2.84 (s, 4H), 2.60 (t, 2H), 2.20 (t, 2H), 1.74 (p, 2H), 1.56 (m, 2H), 1.44 (s, 9H), 1.40 (m, 2H), 1.30-1.20 (m, 18H)。
【0157】
スクシニミジル tert-ブチル ヘキサデカンジオアート(1 g, 2.27 mmol)をDMF(15 ml)に溶解し、L-Glu-OtBu(0.51 g, 2.5 mmol)およびDIEA(0.58 ml, 3.41 mmol)で処理し、混合物を一晩撹拌した。溶媒を減圧下で蒸発させ、粗製品(crude product)をAcOEtに溶解し、2回にわたり0.2M HClで、水および鹹水(brine)で洗浄した。MgSO4に対して乾燥させ、減圧下で蒸発させて、tert-ブチル ヘキサデカンジオイル-γ-L-Glu-OtBu(tert-ブチル ヘキサデカンジオイル-γ-L-Glu-OtBu) 1.2 g (100%)を得た。
【0158】
1H-NMR (CDCl3) δ:6.25 (d, 1H), 4.53 (m, 1H), 2.42 (m, 2H), 2.21 (m, 4H), 1.92 (m, 1H), 1.58 (m, 4H), 1.47 (s, 9H), 1.43 (s, 9H), 1.43-1.22 (m, 18H)。
【0159】
Tert-ブチル ヘキサデカンジオイル-γ-L-Glu-OtBu (1.2 g, 2.27 mmol)をTHF (15 ml)に溶解し、TSTU (0.82 g, 2.72 mmol)およびDIEA (0.47 ml, 2.72 mmol)で処理し、一晩撹拌した。前記混合物を濾過し、濾過物を減圧下で蒸発(evaporated)させた。残留物をAcOEtに溶解し、冷たい 0.1 M HClおよび水で2回洗浄した。MgSO4に対して乾燥させ、減圧下で蒸発させて、tert-ブチル ヘキサデカンジオイル-γ-L-Glu(OSu)-OtBu 1.30 g (92%)を得た。
【0160】
1H-NMR (CDCl3) δ: 6.17 (d, 1H), 4.60 (m, 1H), 2.84 (s, 4H), 2.72 (m, 1H), 2.64 (m, 1H), 2.32 (m, 1H), 2.20 (m, 4H), 2.08 (m, 1H), 1.6 (m, 4H), 1.47 (s, 9H), 1.43 (s, 9H), 1.33-1.21 (m, 20 H)。
【0161】
[例5]
B(1-29)-B27E-B29A-TGLGK((eps)ミリストイル)GQ-A(1-21)-A18Q ヒトインシュリン(配列番号134)(PAK1845)
【化5】

【0162】
B(1-29)-B27E-B29A-TGLGKGQ-A(1-21)-A18Q ヒトインシュリン(配列番号134) (117 mg, 20 μmol)は、水性の炭酸ナトリウム(100 mM, 2.5 mL)中に溶解され、アセトニトリル(1.8 mL)中のミリスチン酸 N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(9 mg, 24 μmol, B. Faroux-Corlay et al., J. Med. Chem. 2001, 44, 2188-2203にしたがって調製しえる)の溶液が添加された。生じた混合物を、室温で65分間撹拌した。pHを、1N塩酸で5.5に調節した。固体に形成されたもの(The solid formed)を、遠心分離およびデカンテーションによって単離した。残留物を、調製的HPLCをMacherey-Nagel SP 250/21 Nucleusil 300-7 C4カラム上で、以下に記すグラジエントで10mL/minの流速で実施することによって精製した:
0 - 10 min: 20% CH3CN + 0.1% TFA,
10 - 80 min: 20% - 90% CH3CN + 0.1% TFA,
35.0 - 45.0 min: 50% - 90% CH3CN + 0.1% TFA。
【0163】
純粋な画分(Pure fractions)を、プールし、凍結乾燥し、20 mgの表題化合物(title compound)を産生した。
【0164】
MALDI-TOF MS: m/z=6509. Calculated: 6518
HPLC: Rt = 11.64 min. カラム: "Phenomenex, Jupiter", C4 5μ, 150x4_60mm, インジェクション: 20 μl。溶媒:A: 80 % 0.0125 M Tris, 0,0187 M (NH4)2SO4 pH=7, 20% CH3CN; B: 80 % CH3CN, 20% 水, 流速1.5 ml/minで以下に記すグラジエントで:
0 - 20 min: 5 - 55% B,
20 - 22 min: 55 - 80% B,
22 - 24 min: 80% B,
24 - 25 min: 80 - 5% B,
25 - 32 min: 5% B。
【0165】
HPLC: Rt = 12.95 min. カラム: "Phenomenex, Jupiter", C4 5μ, 150x4_60mm, インジェクション: 20 μl。溶媒:A: 0.1% TFA, 10%CH3CN, 89.9 % 水; B : 0.1% TFA, 80 % CH3CN, 19.9% 水, 流速: 1.5 ml/minで以下に記すグラジエントで:
0 - 17 min: 20 - 90% B,
17 - 21 min: 90% B,
21 - 23 min: 90 - 20% B,
23 - 30 min: 20% B。
【0166】
[例6]
B(1-29)-B29A-TGLGK((eps)ミリストイル)GQ-A(1-21)-A18Q ヒトインシュリン(配列番号135)(PAK1837)
【化6】

【0167】
B(1-29)-B29A-TGLGKGQ-A(1-21)-A18Q ヒトインシュリン(配列番号135)(151 mg, 24 μmol)は、水性の炭酸ナトリウム(100 mM, 5 mL)中に溶解され、N-メチルピロリジン-2-オン(2.5 mL mL)中のミリスチン酸 N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(8 mg, B. Faroux-Corlay et al., J. Med. Chem. 2001, 44, 2188-2203にしたがって調製しえる)の溶液が添加される。生じた混合物を、室温で45分間撹拌した。pHを、1N塩酸で5.6に調節した。固体に形成されたもの(The solid formed)を、遠心分離およびデカンテーションによって単離した。残留物を、調製的HPLCをMacherey-Nagel SP 250/21 Nucleusil 300-7 C4カラム上で、以下に記すグラジエントで8mL/minの流速で実施することによって精製した:
0 - 5 min: 10% CH3CN + 0.1% TFA,
5 - 35 min: 10% - 90% CH3CN + 0.1% TFA,
35 - 40 min: 90% CH3CN + 0.1% TFA,
40 - 45 min: 100% CH3CN。
【0168】
純粋な画分(Pure fractions)を、プールし、凍結乾燥し、24 mgの表題化合物(title compound)を産生した。
【0169】
MALDI-TOF MS: m/z=6489. Calculated: 6498
HPLC: Rt = 10.97 min. カラム: VYDAC タンパク質, C4 25 cm, cat # 214TP54, インジェクション: 5 μl。溶媒:A: 80 % 0.01 M Tris, 0.015 M (NH4)2SO4 pH=7.3, 20% CH3CN; B: 80 % CH3CN, 20% 水, 流速1.5 ml/minで以下に記すグラジエントで:
0 - 20 min: 10 - 80% B,
20 - 20.1 min: 80 - 90% B,
20.1 - 21 min: 90 - 10% B,
21 - 25 min: 10% B。
【0170】
HPLC: Rt=13.09 min. カラム: "Phenomenex, Jupiter", C4 5μ, 150x4_60mm, インジェクション: 25 μl。溶媒:A: 0.1% TFA, 10%CH3CN, 89.9 % 水; B : 0.1% TFA, 80 % CH3CN, 19.9% 水, 流速: 1.5 ml/minで以下に記すグラジエントで:
0 - 17 min: 20 - 90% B,
17 - 21 min: 90% B,
21 - 23 min: 90 - 20% B,
23 - 30 min: 20% B。
【表C】

【0171】
薬理学的な方法
アッセイ(I)
本発明の単鎖インシュリンのインシュリンレセプター結合。
【0172】
本発明の単鎖インシュリンの、ヒトインシュリンレセプターに対する親和性を、SPAアッセイ(Scintillation Proximity Assay;シンチレーション近接アッセイ) マイクロタイタープレート抗体捕獲アッセイで決定した。SPA-PVT抗体結合ビーズ、抗-マウス試薬(Amersham Biosciences, Cat No. PRNQ0017)を、25 mlの結合緩衝剤(100 mM HEPES pH 7.8; 100 mM 塩化ナトリウム, 10 mM MgSO4, 0.025% Tween-20)と混合した。単回(a single)のPackard Op-tiplate (Packard No. 6005190)に対する試薬混合物は、2.4 μlの1:5000希釈した精製組換え型ヒトインシュリンレセプター ― エキソン11、100μl試薬混合物あたり5000 cpmに相当するA14 Tyr[125I]-ヒトインシュリンのストック溶液の特定量(an amount)、12 μlの1:1000希釈したF12抗体、3 mlのSPA-ビーズおよび結合緩衝剤をトータルで12 mlまで、から構成される。トータルで100 μlが次に添加され、希釈系列を適切なサンプルから作成した。次に、前記希釈系列に対して、100 μlの試薬混合物が添加され、サンプルを16時間穏やかに撹拌してインキュベーションした。相(phases)を、次に1min遠心分離で分離し、プレートをTopcounterでカウントした。結合データを、GraphPadプリズム2.01(GraphPad Software, San Diego, CA)での非線形回帰アルゴリズムを用いてフィットさせた。
【0173】
モノクローン性 mIR抗体の調製
特異的な抗体(F12)を、モノクローン技術で産生した:RBFマウスが、50 μgの精製mIR(FCA中)を皮下に注射し、引き続き20 μgの精製mIR(FIA中)を2回注射することによって免疫された。高い応答を示したマウスを25 μgのmIRで静脈内にブーストし、脾臓を3日後に収穫した。脾臓細胞を、骨髄腫Fox細胞株(Kohler, G & Milstein C. (1976), European J. Immunology, 6:511-19; Taggart RT et al (1983), Science 219:1228-30)と融合させた。上清を、抗体産生に関してmIR特異的ELISAで選抜した。陽性ウェルを、クローン化し、ウエスタンブロット法で試験した。
【0174】
アッセイ(II)
代替的に、インシュリンレセプター結合を、以下の通り、hIRBHKメンブランアッセイで試験した:
[125I]-ヒトインシュリンの、膜結合型組換え型ヒトインシュリンレセプターアイソフォームA(hIR-A)への結合
試薬:
125I-インシュリン:Novo Nordisk A/S, モノ 125I-(Tyr A14) ヒトインシュリン
ヒトインシュリン:Novo Nordisk A/S,
ヒト血清アルブミン:Dade Behring, ORHA 194 C30, ロット 455077
プラスチック容器(Plastic ware):Packard OptiPlateTM-96, #6,005,290
シンチラント(Scintillant):Amersham Biosciences, WGAコートされたPVTミクロスフェア, # RPNQ0001
細胞: 組換え型のヒトインシュリンレセプターアイソフォームA(hIR12-14)を発現しているBHK tk- ts13細胞。
【0175】
膜結合型インシュリンレセプターの抽出:10層細胞産生体(a ten-layer cell factory)からBHK細胞を、収穫し、25 mlの氷冷緩衝剤(25 mM HEPES pH 7.4, 2.5 mM CaCl2, 1 mM MgCl2, 250 mg/l バシトラシン, 0.1 mM Pefablock)中でホモジナイズした。ホモジネートを、41%スクロースクッション上に慎重に層状に重ね、超遠心機で95,000 x g、75分間、ベックマンSW28ローター中4゜Cで遠心分離した。形質膜を、前記スクロースクッションの上部から収集し、緩衝剤で1:4に希釈し、40,000 x g、45minでベックマンSW28ローター中で遠心分離した。ペレットを、緩衝剤(25 mM HEPES pH 7.4, 2.5 mM CaCl2, 1 mM MgCl2, 250 mg/l バシトラシン, 0.1 mM Pefablock)中に懸濁させた。
【0176】
膜結合型インシュリンレセプターへの放射リガンド結合を、96-ウェルのOptiPlates中で繰返し行った。膜タンパク質を、総容積200mlの緩衝液(50 mM HEPES, 150 mM NaCl, 5 mM MgSO4, 0.01% トリトン X-100, 0.1% HSA, CompleteTM EDTA-フリー プロテアーゼインヒビター) および増加濃度のヒトインシュリンまたはインシュリンアナログ(典型的には0.01および300nMの間)中で、50 pM [125I-TyrA14]-ヒトインシュリンと、150分間、25゜Cでインキュベーションした。前記アッセイを、WGAコートしたPVTミクロスフェア(20mg/ml)の50 μlの懸濁物を添加することによって停止させた。5分間の軽微な撹拌に引続いて、前記プレートを1500 RPMで6分間遠心分離し、結合した放射活性を60分間の遅延後にPackard TopCount NXTで計数することによって定量した。
【0177】
結果を、IC50相対値をヒトインシュリンと比較して%で示す。
【0178】
アッセイ(III)
本発明の単鎖インシュリン誘導体の、ヒトインシュリンと比較した強度(Potency)。
【0179】
ウィスターラット(Wistar rats)を、SCI af I.V 大量瞬時投与(SCI af I.V bolus administration)の血中グルコース低有効性を試験するために使用した。SCIまたはヒトインシュリンの投与に引続いて、血中グルコースの濃度をモニターした。
【0180】
アッセイ(IV)
ブタにおける、本発明の単鎖インシュリンのT50%の決定。
【0181】
T50%は、試験されるインシュリンのA14 Tyr[125I]標識誘導体の注射量の50%が、外部のγカウンターで測定される際に注射部位から消失する時間である。
【0182】
実験動物保護の原則を遵守し、薬物動態学的および薬力学的な研究に関して、特定病原体未感染のLYYD、非糖尿病性の雌ブタ、デンマークのランドレース、ヨークシャー、およびデュロックの交雑種を使用した(Holmenlund, Haarloev, Denmark)。前記ブタは、意識があり(conscious)、4〜5月齢で70〜95kgの体重であった。前記動物は、実験前に一晩18hの間を絶食させた。
【0183】
TyrA14を125Iで標識したインシュリン誘導体の製剤化された調製物を、以前記載のとおり〔Ribel, U., Jorgensen, K, Brange, J, and Henriksen, U. The pig as a model for subcutaneous insulin absorption in man. Serrano-Rios, M and Lefeb-vre, P. J. 891-896. 1985. Amsterdam; New York; Oxford, Elsevier Science Publishers. 1985 (Conference Proceeding)〕、ブタにsc.で注射した。
【0184】
実験の初めに、60 nmolの用量の本発明によるインシュリン誘導体(試験化合物)および60 nmolの用量のインシュリン(双方は、Tyr A14に125I標識される)を、各ブタの首の2つの別の部位に注射した。
【0185】
sc.の部位からの放射性標識の消失。注射を、外部γ-カウンター法〔Ribel, U. Subcuta-neous absorption of insulin analogues. Berger, M. and Gries, F. A. 70-77 (1993). Stuttgart; New York, Georg Thime Verlag (Conference Proceeding)〕の変法を用いてモニターした。この変法を用いることで、皮下貯留物(a subcutaneous depot)からの放射活性の消失を、コードレスで携帯型の装置(Scancys Laboratorieteknik, Vaerlose, DK-3500, デンマーク)を用いて数日間連続的に測定することが可能である。測定は1-minインターバルで実施され、計数された値は、バックグランド活性に対して補正される。
【0186】
IGF-1レセプター結合
単鎖インシュリンのIGF-1レセプター結合を、SPAアッセイ(シンチレーション近接アッセイ) マイクロタイタープレート抗体捕獲アッセイを用いて決定した。該アッセイは、本発明のインシュリン誘導体のインシュリンレセプター結合を決定するために使用されたものと、IGF1レセプターがインシュリンレセプターの代わりに使用され、[125I]-ヒトIGF-1が[125I]-ヒトインシュリンの代わりに使用され、IGF-1レセプターに特異性を有する抗体が使用されたことを除いて類似している。
【図面の簡単な説明】
【0187】
【図1】図1は、本発明の単鎖インシュリンによる、正常なウィスターラットにおける血中グルコース減少を、ヒトインシュリンと比較して示している。HIはヒトインシュリンであり、SCIは単鎖インシュリンである。
【図2】図2は、ブタへのs.c.投与後の単鎖インシュリンの消失を示している。
【図3】図3は、ブタへのs.c.投与後の別の単鎖インシュリンの消失を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的インシュリン活性を有している単鎖インシュリンであって、連結ペプチドによって連結されたヒトインシュリンのB-およびA-鎖又はそのアナログもしくは誘導体を具備し、前記連結ペプチドは5〜11アミノ酸残基を有し且つ2つの隣接する塩基性アミノ酸残基を含まなく、前記単鎖インシュリン分子がアシル化によって化学的に修飾されない場合、前記単鎖インシュリンは、ヒトインシュリンレセプターに対し、ヒトインシュリンの少なくとも約20%の親和性を有する単鎖インシュリン。
【請求項2】
生物学的インシュリン活性を有している単鎖インシュリンであって、連結ペプチドによって連結されたヒトインシュリンのB-およびA-鎖又はそのアナログもしくは誘導体を具備し、前記連結ペプチドは5〜11アミノ酸残基を有する単鎖インシュリン;但し、前記連結ペプチドが2つの隣接する塩基性アミノ酸残基を含む場合、前記Bおよび/またはA鎖中の少なくとも1つの天然のアミノ酸残基は別のコード化可能なアミノ酸残基で置換されるか、又は前記A-鎖中の、前記B-鎖中の、又は前記連結ペプチド中の少なくとも1つのリジン残基はアシル化によって化学的に修飾されているか、又は前記連結ペプチドは次に記載する配列のうちの1つではない; Gly-Gly-Gly-Pro-Gly-Lys-Arg(配列番号1), Arg-Arg-Gly-Pro-Gly-Gly-Gly(配列番号2), Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Lys-Arg(配列番号3), Arg-Arg-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号4), Gly-Gly-Ala-Pro-Gly-Asp-Val-Lys-Arg(配列番号5), Arg-Arg-Ala-Pro-Gly-Asp-Val-Gly-Gly(配列番号6), Gly-Gly-Tyr-Pro-Gly-Asp-Val-Lys-Arg(配列番号7), Arg-Arg-Tyr-Pro-Gly-Asp-Val-Gly-Gly(配列番号8), Gly-Gly-His-Pro-Gly-Asp-Val-Lys-Arg(配列番号9), または Arg-Arg-His-Pro-Gly-Asp-Val-Gly-Gly(配列番号10)。
【請求項3】
生物学的インシュリン活性を有している単鎖インシュリンであって、連結ペプチドによって連結されたヒトインシュリンのB-およびA-鎖又はそのアナログもしくは誘導体を具備し、前記連結ペプチドは5〜11アミノ酸残基を有する単鎖インシュリン;但し、約6.5を超えるpIを有する前記単鎖インシュリンは、ヒトインシュリンA-およびB-鎖と比較して、前記A-および/またはB鎖中に少なくとも1つのアミノ酸残基の置換および/または欠失を具備するか、又は前記A-鎖中の、前記B-鎖中の、又は前記連結ペプチド中の少なくとも1つのリジン残基がアシル化によって化学的に修飾されている。
【請求項4】
生物学的インシュリン活性を有している単鎖インシュリンであって、連結ペプチドによって連結されたヒトインシュリンのB-およびA-鎖又はそのアナログもしくは誘導体を具備し、前記連結ペプチドは5〜14, 5〜11, 6〜10, 6〜8, 6〜7, 7〜9 または 7〜8のアミノ酸残基を有し、前記A-鎖中の、前記B-鎖中の、又は前記連結ペプチド中の少なくとも1つのリジン残基はアシル化によって化学的に修飾されている単鎖インシュリン。
【請求項5】
前記単鎖インシュリン分子中の少なくとも1つのリジン基においてアシル化されている、請求項1〜3の何れか1項に記載の単鎖インシュリン。
【請求項6】
B29においてアシル化されている、請求項5に記載の単鎖インシュリン。
【請求項7】
6〜24, 6〜20, 6〜18 又は 6〜14 C-原子を有している脂肪酸でアシル化されている、請求項6に記載の単鎖インシュリン。
【請求項8】
中性pHで可溶性で、約6.5未満のpIを有している、請求項1に記載の単鎖インシュリン。
【請求項9】
約4.5〜約6.5未満のpIを有している、請求項8に記載の単鎖インシュリン。
【請求項10】
ヒトインシュリンレセプターに対し、ヒトインシュリンの少なくとも30%の親和性を有する、請求項1に記載の単鎖インシュリン。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載の単鎖インシュリンであって、前記連結ペプチドは7〜10, 7〜9の, または 7〜8のアミノ酸残基を有する単鎖インシュリン。
【請求項12】
請求項1〜10の何れか1項に記載の単鎖インシュリンであって、前記連結ペプチドは、AGRGSGK (配列番号15); AGLGSGK (配列番号33); AGMGSGK (配列番号45); ASWGSGK (配列番号48); TGLGSGQ (配列番号22); TGLGRGK (配列番号23); TGLGSGK (配列番号21); HGLYSGK (配列番号50); KGLGSGQ (配列番号51); VGLMSGK (配列番号56); VGLSSGQ (配列番号27); VGLYSGK (配列番号28), VGLSSGK (配列番号30); VGMSSGK (配列番号65); VWSSSGK (配列番号76), VGSSSGK (配列番号16), および VGMSSGK (配列番号106)からなる群から選択される配列を具備する単鎖インシュリン。
【請求項13】
以下の式を有している、請求項1に記載の単鎖インシュリン:
B(1-26) - X1 - X2-X3- X4- A(1-21)
式中で
X1はThr, Lys または Argであり、X2はPro, Lys または Aspであり、X3はLys, Pro または Gluであり、X4は6〜11アミノ酸残基のペプチド配列であり、B(1-26)はヒトインシュリンのB鎖のN末終端から計数して最初の26アミノ酸残基からなるペプチド鎖又はそのアナログもしくは誘導体であり、A(1-21)は天然のインシュリンA鎖又はそのアナログ若しくはその誘導体であり、式中のX4は2つの隣接する塩基性アミノ酸残基を含まず、前記単鎖インシュリンは、前記単鎖インシュリン分子がアシル化によって化学的に修飾されない場合、ヒトインシュリンレセプターに対し、ヒトインシュリンの少なくとも約20%の親和性を有する。
【請求項14】
以下の式を有している、請求項2に記載の単鎖インシュリン:
B(1-26) - X1 - X2-X3- X4- A(1-21)
式中で
X1はThr, Lys または Arg であり、X2はPro, Lys または Asp であり、X3はLys, Pro または Glu であり、X4は6〜11のアミノ酸残基のペプチド配列であり、B(1-26)はヒトインシュリンのB鎖のN末終端から計数して最初の26アミノ酸残基からなるペプチド鎖又はそのアナログもしくは誘導体であり、A(1-21)は天然のインシュリンA鎖又はそのアナログ若しくはその誘導体である、但し、X4が2つの隣接する塩基性アミノ酸残基を含む場合、前記Bおよび/またはA鎖中の少なくとも1つの天然アミノ酸残基は別のコード化可能なアミノ酸残基で置換されるか、又は前記A-鎖中の、前記B-鎖中の、又は前記連結ペプチド中の少なくとも1つのリジン残基はアシル化によって化学的に修飾されているか、又はX4は次の配列のうちの1つではない Gly-Gly-Gly-Pro-Gly-Lys-Arg(配列番号1), Arg-Arg-Gly-Pro-Gly-Gly-Gly(配列番号2), Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Lys-Arg(配列番号3), Arg-Arg-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号4), Gly-Gly-Ala-Pro-Gly-Asp-Val-Lys-Arg(配列番号5), Arg-Arg-Ala-Pro-Gly-Asp-Val-Gly-Gly(配列番号6), Gly-Gly-Tyr-Pro-Gly-Asp-Val-Lys-Arg(配列番号7), Arg-Arg-Tyr-Pro-Gly-Asp-Val-Gly-Gly(配列番号8), Gly-Gly-His-Pro-Gly-Asp-Val-Lys-Arg(配列番号9), または Arg-Arg-His-Pro-Gly-Asp-Val-Gly-Gly(配列番号10)。
【請求項15】
以下の式を有している、請求項3に記載の単鎖インシュリン:
B(1-26) - X1 - X2-X3- X4- A(1-21)
式中で
X1はThr, Lys または Arg であり、X2はPro, Lys または Asp であり、X3はLys, Pro または Glu であり、X4は6〜11のアミノ酸残基のペプチド配列であり、B(1-26)はヒトインシュリンのB鎖のN末終端から計数して最初の26アミノ酸残基からなるペプチド鎖又はそのアナログもしくは誘導体であり、A(1-21)は天然のインシュリンA鎖又はそのアナログ若しくはその誘導体である、但し、約6.5を超えるpIを有する単鎖インシュリンは、ヒトインシュリンA-およびB-鎖と比較して、前記A-および/またはB鎖中に、少なくとも1つのアミノ酸残基の置換および/または欠失を具備するか、又は前記A-鎖中の、前記B-鎖中の、又は前記連結ペプチド中の少なくとも1つのリジン残基はアシル化によって化学的に修飾されている。
【請求項16】
以下の式を有している、請求項4に記載の単鎖インシュリン:
B(1-26) - X1 - X2-X3- X4- A(1-21)
式中で
X1はThr, Lys または Arg であり、X2はPro, Lys または Asp であり、X3はLys, Pro または Glu であり、X4は5〜14, 5〜11, 6〜10, 6〜8, 6〜7, 7〜9 または 7〜8のアミノ酸残基のペプチド配列であり、B(1-26)はヒトインシュリンのB鎖のN末終端から計数して最初の26アミノ酸残基からなるペプチド鎖又はそのアナログもしくは誘導体であり、A(1-21)は天然のインシュリンA鎖又はそのアナログ若しくはその誘導体であり、前記A-鎖中の、前記B-鎖中の、又は前記連結ペプチド中の少なくとも1つのリジン残基はアシル化によって化学的に修飾されている。
【請求項17】
請求項1〜16の何れか1項に記載の単鎖インシュリンであって、ポジションA21のアミノ酸残基が、Cys以外の別のアミノ酸残基で置換されている単鎖インシュリン。
【請求項18】
請求項13〜16の何れか1項に記載の単鎖インシュリンであって、X4は、次の式 Xa -Xb -Xc-Xd-Xe-Xf-Xg(配列番号129)を有するペプチド配列であり、式中で、
Xaは、 L, R, T, A, H, Q, G, S および Vからなる群から選択され;
Xbは、 W, G, S, A, H, R, および Tからなる群から選択され;
Xcは、 L, Y, M, H, R, T, Q, K, V, S, A, G および Pからなる群から選択され;
Xdは、 R, A, Y, M, S, N, H, および Gからなる群から選択され;
Xeは、 S, R, A, T, K P, N M, H, Q, V, および Gからなる群から選択され;
Xfは、 G および Aからなる群から選択され;および
Xgは、 K, R, P, H, F, T, I, Q, W, および Aからなる群から選択される単鎖インシュリン。
【請求項19】
請求項13〜18の何れか1項に記載の単鎖インシュリンであって、式中のX4は配列SGKを含む単鎖インシュリン。
【請求項20】
請求項13〜18の何れか1項に記載の単鎖インシュリンであって、式中のX4は配列GSGK(配列番号131)を含む単鎖インシュリン。
【請求項21】
請求項13〜18の何れか1項に記載の単鎖インシュリンであって、式中のX4は配列SSSGK(配列番号132)を含む単鎖インシュリン。
【請求項22】
請求項1〜21の何れか1項に記載の単鎖インシュリンであって、ポジション B1, B3, B10, B22, B28, B29, A8, A15, A18 および A21における少なくとも1つの天然のアミノ酸残基は、別のアミノ酸残基で置換されている単鎖インシュリン。
【請求項23】
des B1, desB27, desB28 または desB29 インシュリンアナログである、請求項1〜21の何れか1項に記載の単鎖インシュリン。
【請求項24】
請求項1〜23の何れか1項に記載の単鎖インシュリンをコード化しているポリヌクレオチド配列。
【請求項25】
請求項24に記載のポリヌクレオチド配列を具備する発現ベクター。
【請求項26】
請求項25に記載の発現ベクターを具備する形質転換された宿主細胞。
【請求項27】
請求項1〜23の何れか1項に記載の単鎖インシュリンの生物学的に活性な量を含む薬学的製剤。
【請求項28】
請求項1〜23の何れか1項に記載の単鎖インシュリンおよび更なる生物学的に活性な化合物(biologically active compound)の生物学的に活性な量を含む薬学的製剤。
【請求項29】
請求項28記載の薬学的製剤であって、前記の更なる生物学的に活性な化合物が、速効性インシュリンアナログ、遅延性インシュリンアナログ、GLP-1、GLP-2およびエキセンディン又はそのアナログもしくは誘導体からなる群から選択される薬学的製剤。
【請求項30】
4および10.5の間のpHを有している、請求項29記載の薬学的製剤。
【請求項31】
4および8.5の間のpHを有している、請求項30記載の薬学的製剤。
【請求項32】
治療的に活性な用量の請求項27〜31の何れか1項に記載の薬学的製剤を、係る治療を必要とする患者に投与することによる、哺乳類の血中グルコースレベルを減少させる方法。
【請求項33】
請求項1〜23の何れか1項に記載の単鎖インシュリンの、医薬品としての使用。
【請求項34】
請求項1〜23の何れか1項に記載の単鎖インシュリンの、糖尿病治療のための薬学的製剤の製造における使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−254086(P2012−254086A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−173151(P2012−173151)
【出願日】平成24年8月3日(2012.8.3)
【分割の表示】特願2006−541803(P2006−541803)の分割
【原出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(509091848)ノヴォ ノルディスク アー/エス (42)
【Fターム(参考)】