説明

占有帯域幅算出装置

【課題】 処理が簡単であってFPGA等での処理が可能となり、算出される占有帯域幅の信頼性が高い占有帯域幅算出装置を提供する。
【解決手段】 この占有帯域幅算出装置10は、測定対象である無線信号S1の周波数スペクトルを検出する周波数スペクトル検出部11と、この周波数スペクトル検出部11から出力される上記周波数スペクトルに係る信号に微分処理を施すハイパスフィルタ12と、ハイパスフィルタ12から出力される周波数スペクトルに係る信号に平均化処理を施すローパスフィルタ13と、ローパスフィルタ13から出力される周波数スペクトルに係る信号に基づいて占有帯域幅を算出する占有帯域幅算出部14とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は占有帯域幅算出装置に関し、特に、無線通信機あるいは無線信号測定器等で使用され、簡単な処理で周波数帯域の幅を正確に算出し得る占有帯域幅算出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
よく知られた従来の占有帯域幅算出装置の構成例を図6に示す。図6において、観測または測定の対象である無線信号S1は周波数スペクトル検出部101に入力される。周波数スペクトル検出部101は、無線信号S1を受信すると、内蔵される無線周波数スペクトル算出手段での高速フーリエ変換の演算処理等により、無線信号S1が含む周波数スペクトルを算出する。周波数スペクトル検出部101で検出されかつ出力される周波数スペクトルについて、その出力側では3つの信号処理チャンネルで処理が行われる。図6中、上段の信号処理チャンネルでは、上限周波数算出部102が、検出された周波数スペクトルからその上限周波数を取り出す。中段の信号処理チャンネルでは、下限周波数算出部103が、検出された周波数スペクトルからその下限周波数を取り出す。下段の信号処理チャンネルでは、ピーク周波数検出部104が周波数スペクトルからそのピーク値を検出し、さらにその後段の総電力算出部105が検出ピーク値を利用して周波数スペクトルの総電力を算出する。
【0003】
上記の占有帯域幅算出装置において、先ず最初に、周波数スペクトル検出部101で無線信号S1の周波数スペクトルを検出する。その後、ピーク周波数検出部104によって、検出された周波数スペクトラムからピークとなる周波数を検出する。次に、総電力算出部105によって、検出されたピーク周波数で決まる或る帯域を算出し、当該或る帯域の周波数スペクトルの総和を総電力として算出する。総電力算出部105で算出された総電力に関する算出値データは、上限周波数算出部102と下限周波数算出部103のそれぞれに供給される。
【0004】
一方、下限周波数算出部103は、先ず測定帯域の最下位周波数から周波数スペクトルを加算していき、かつ総電力算出部105から与えられる上記総電力のN%(例えば10%)に達する下限周波数を帯域の下限値として算出する。また同様に、上限周波数算出部102は、測定帯域の最上位周波数から周波数スペクトルを加算していき、総電力算出部105から与えられる上記総電力のN%(例えば10%)に達する上限周波数を帯域の上限値として算出する。
【0005】
下限周波数算出部103で算出された下限周波数のデータと、上限周波数算出部102で算出された上限周波数のデータとは、次段の占有帯域幅算出部106に入力される。占有帯域幅算出部106は、入力された下限周波数および上限周波数に基づいて、下限周波数と上限周波数との差を占有帯域幅として算出する。
【0006】
本発明に関連する従来技術の公知文献として、本発明者が先に出願した特許文献1を挙げることができる。さらに関連する技術として本発明者が先に出願した特願2004−80243号も挙げることができる。
【特許文献1】特開2005−33312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の従来の占有帯域幅算出装置によれば、無線信号S1について或る帯域を算出し、この帯域の周波数スペクトルに関して総電力を求めるようにしている。この構成によれば、総電力を求めるための帯域の幅は、入力する無線信号S1に応じて変化させる必要がある。また画一的に算出できない帯域幅を有した無線信号S1の場合にはピーク周波数を定めることができない。よって、帯域幅の算出がより不安定になる。このように総電力を求めるための帯域幅の算出が不安定になると、当該帯域幅を利用して得られる下限周波数および上限周波数の結果についてもばらつきが生じ、信頼性が低いものとなる。その結果、算出された占有帯域幅の信頼性も低くなる。
【0008】
また従来の占有帯域幅算出装置の処理構成によれば処理が複雑になり、そのため、ディジタル信号プロセッサ(DSP)などの高級言語でプログラムが組まれるデバイス上で実現できないという問題も提起される。
【0009】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、処理が簡単であってFPGA等での処理が可能となり、算出される占有帯域幅の信頼性が高い占有帯域幅算出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る占有帯域幅算出装置は、上記の目的を達成するために、次のように構成される。
【0011】
第1の占有帯域幅算出装置(請求項1に対応)は、測定対象である無線信号の周波数スペクトルを検出する周波数スペクトル検出部と、この周波数スペクトル検出部から出力される上記周波数スペクトルに係る信号に微分処理を施すハイパスフィルタと、ハイパスフィルタから出力される周波数スペクトルに係る信号に平均化処理を施すローパスフィルタと、ローパスフィルタから出力される周波数スペクトルに係る信号に基づいて占有帯域幅を算出する占有帯域幅算出部と、から構成される。
【0012】
上記の占有帯域幅算出装置では、周波数スペクトル検出部で周波数スペクトルを検出した後に、ハイパスフィルタおよびローパスフィルタを利用して、周波数軸上のスペクトルデータに対してフィルタ処理を行って占有帯域幅を求めるようにしている。ハイパスフィルタとローパスフィルタを組み合せて占有帯域幅算出の処理を行うため、簡単に占有帯域幅算出装置を実現することが可能となる。
【0013】
第2の占有帯域幅算出装置(請求項2に対応)は、上記の第1の構成において、好ましくは、ローパスフィルタと占有帯域幅算出部との間に、帯域のエッジの明確化を行うハイパスフィルタと、雑音除去を行うローパスフィルタとを設けたことで特徴づけられる。この構成によれば、ハイパスフィルタとローパスフィルタの組みを少なくとも2段で設けることにより、無線信号の周波数帯域のエッジ部分を明確化することができ、簡単な構成でより精度の高い占有帯域幅算出を行うことが可能となる。
【0014】
第3の占有帯域幅算出装置(請求項3に対応)は、測定対象である無線信号の周波数スペクトルを検出する周波数スペクトル検出部と、周波数スペクトル検出部から出力される周波数スペクトルに係る信号に微分処理と平均化処理を施すバンドパスフィルタと、バンドパスフィルタから出力される周波数スペクトルに係る信号に基づいて占有帯域幅を算出する占有帯域幅算出部と、から構成される。この構成によれば、ハイパスフィルタとローパスフィルタによるフィルタ機能を、バンドパスフィルタで代替させ、同様なフィルタ処理機能に基づいて簡単な構成で精度の高い占有幅算出を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、無線電波の周波数スペクトル検出における占有帯域幅算出において、フィルタ処理機能を利用して帯域幅を持った信号(データ)の変化点を求めて占有帯域幅を算出するようにしたため、簡単な構成で精度の高い占有帯域幅を算出することができる。また演算処理が簡単になったため、ICチップ化が容易になり、FPGA(Field Programmable Gate Array)での処理も可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
【0017】
図1〜図3を参照して本発明の実施形態に係る占有帯域幅算出装置を説明する。図1は占有帯域幅算出装置の基本的な回路構成を示し、図2は周波数スペクトル検出部の回路例を示し、図3は、本実施形態に係る占有帯域幅算出装置による無線信号の占有帯域幅算出の工程を示している。
【0018】
図1に示した本実施形態に係る占有帯域幅算出装置10において、11は周波数スペクトル検出部、12はハイパスフィルタ(微分演算部)、13はローパスフィルタ(平均化演算部)、14は占有帯域幅算出部である。占有帯域幅算出装置10は、周波数スペクトル検出部11、ハイパスフィルタ12、ローパスフィルタ13、占有帯域幅算出部14の順序でこれらを直列的に接続して構成されている。占有帯域幅算出装置10では、観測または測定の対象である無線信号S1は、周波数スペクトル検出部11に入力され、その後、ハイパスフィルタ12、ローパスフィルタ13、占有帯域幅算出部14の順序で順次に信号処理される。
【0019】
周波数スペクトル検出部11の基本的な回路構成の一例を図2に示す。この周波数スペクトル検出部は、従来のよく知られた回路構成例であり、無線電波の周波数スペクトラムを検出する。観測または測定の対象の無線信号(無線電波)S1を受信すると、当該無線信号S1は、混合器21で、局部発振器22から供給されるローカル信号(基準信号)S2(周波数F0)と混合検波され、差の周波数の中間周波数信号を出力する。混合器21は、無線信号S1を、ローカル信号S2によってより低い周波数の中間周波数の信号S3に変換する。混合器21は周波数変換器として機能する。中間周波数の信号S3は、ローパスフィルタ23によりさらに高い周波数成分が除去される。ローパスフィルタ23から出力されるアナログ形式の中間周波数信号はA−D変換器24でディジタル形式の中間周波数信号に変換される。ディジタル形式の中間周波数信号は高速フーリエ変換部(FFT)25でフーリエ変換の演算処理が施される。これにより、高速フーリエ変換部25の出力部から無線信号S1の周波数スペクトルに係る演算結果が出力される。得られた周波数スペクトルに係る演算結果は、無線信号測定器の表示部に周波数スペクトル分布として表示される。なお上記A−D変換器24における前段でのサンプリング周波数は、例えば無線LAN等では100MHzとした。
【0020】
以上に基づき、周波数スペクトル検出部11の高速フーリエ変換部25からは、例えば図3の符号31で示されるような周波数スペクトラムが出力される。
【0021】
周波数スペクトラム検出部11の最終段には雑音除去部26が設けられている。雑音除去部26は、高速フーリエ変換部25から出力される周波数スペクトル31に対して移動平均処理を施して、図3に示す周波数スペクトル32を算出して出力する。雑音除去部26によって周波数スペクトル31におけるデータ列の高周波成分が除去される。
【0022】
周波数スペクトル検出部11から出力される周波数スペクトル32は、次段のハイパスフィルタ12に入力される。ハイパスフィルタ12は、周波数スペクトルのデータ列の高周波成分を通過させかつデータ列の低周波成分を阻止する。ハイパスフィルタ12は、変化の激しい周波数成分のみを抽出することから、結果的に微分演算処理の機能を実現している。ハイパスフィルタ12によって、周波数スペクトル31に対して微分処理が施された周波数スペクトル33が出力される。ハイパスフィルタ12の出力は、次のローパスフィルタ13に供給される。
【0023】
ローパスフィルタ13は、実質的に移動平均処理を施して、雑音除去する。その結果、ローパスフィルタ13は周波数スペクトル34を出力する。ローパスフィルタ34から出力される周波数スペクトル34は、占有帯域幅算出部14に入力される。
【0024】
占有帯域幅算出部14では、入力した周波数スペクトル34に関して正の値を示す信号をスペクトル立ち上がり点すなわち下限周波数とし、負の値を示す信号を立ち下がり点すなわち上限周波数とする。占有帯域幅算出部14において、このように得られた下限値および上限値に基づいてその差として占有帯域幅を決定し、もって占有帯域幅を算出することになる。
【0025】
以上のごとく本実施形態に係る占有帯域幅算出装置10によれば、周波数スペクトル検出部11によって検出された無線信号S1の周波数スペクトル32に対して、ハイパスフィルタ12とローパスフィルタ13を通過させるだけで、占有帯域幅算出部14で周波数下限値および周波数上限値を得ることができ、比較的に簡単な演算処理で無線信号S1の占有帯域幅を正確に算出することができる。さらに、本実施形態に係る占有帯域幅算出装置10によれば、演算処理の工程が簡単であるため、ICチップ化が非常に容易であるという利点を有している。
【0026】
次に、図4を参照して本実施形態に係る占有帯域幅算出装置10の変形例を説明する。図4は、変形例に係る占有帯域幅算出装置40の回路構成を示す。図4において、上記の実施形態で説明した要素と実質的に同一の要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。この実施形態の説明では、特徴的な相違点を説明する。
【0027】
図4において、周波数スペクトル検出部11、ハイパスフィルタ12、ローパスフィルタ13、占有帯域幅算出部14の構成・機能は前述の実施形態で説明した通りである。構成の上で特徴的な点は、ローパスフィルタ13と占有帯域幅算出部14との間に、ハイパスフィルタ41とローパスフィルタ42の組みをさらに1段分追加した点である。
【0028】
上記の占有帯域幅算出装置40によれば、ハイパスフィルタ41とローパスフィルタ42を追加することにより、周波数スペクトルのデータ列の立ち上がりと立ち下がりがより明確になり、より高い精度で占有帯域幅を算出することができる。
【0029】
上記の実施形態の説明では1組のハイパスフィルタ41とローパスフィルタ42が追加されたが、追加される組みの数は1組に限定されず、さらに他の組みを追加することができる。
【0030】
図5は、図1で説明した占有帯域幅算出装置10の他の変形例を示している。占有帯域幅算出装置10では、ハイパスフィルタ12とローパスフィルタ13を設けるようにしたが、この変形例に係る占有帯域幅算出装置60では、ハイパスフィルタ12とローパスフィルタ13の代わりに、バンドパスフィルタ61を設けて構成している。バンドパスフィルタ61は、微分演算処理と平均化演算処理を同時に行う機能を有しており、ハイパスフィルタ12およびローパスフィルタ13と実質的に同一の機能を実現するものである。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、無線電波の周波数スペクトル解析における占有帯域幅算出に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態に係る占有帯域幅算出装置の基本的な回路構成を示すブロック構成図である。
【図2】本実施形態に係る占有帯域幅算出装置内の周波数スペクトル検出部の回路例を示すブロック構成図である。
【図3】本実施形態に係る占有帯域幅算出装置による無線信号の占有帯域幅算出工程を示す工程図である。
【図4】本実施形態に係る占有帯域幅算出装置の変形例を示すブロック構成図である。
【図5】本実施形態に係る占有帯域幅算出装置の他の変形例を示すブロック構成図である。
【図6】従来の占有帯域幅算出装置の一例を示すブロック構成図である。
【符号の説明】
【0033】
11 周波数スペクトル検出部
12 ハイパスフィルタ
13 ローパスフィルタ
14 占有帯域幅算出部
41 ハイパスフィルタ
42 ローパスフィルタ
61 バンドパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象である無線信号の周波数スペクトルを検出する周波数スペクトル検出手段と、
前記周波数スペクトル検出手段から出力される前記周波数スペクトルに係る信号に微分処理を施すハイパスフィルタと、
前記ハイパスフィルタから出力される周波数スペクトルに係る信号に平均化処理を施すローパスフィルタと、
前記ローパスフィルタから出力される周波数スペクトルに係る信号に基づいて占有帯域幅を算出する占有帯域幅算出手段と、
から成ることを特徴とする占有帯域幅算出装置。
【請求項2】
前記ローパスフィルタと前記占有帯域幅算出手段との間に、帯域のエッジの明確化を行うハイパスフィルタと、雑音除去を行うローパスフィルタとを設けたことを特徴とする請求項1記載の占有帯域幅算出装置。
【請求項3】
測定対象である無線信号の周波数スペクトルを検出する周波数スペクトル検出手段と、
前記周波数スペクトル検出手段から出力される前記周波数スペクトルに係る信号に微分処理と平均化処理を施すバンドパスフィルタと、
前記バンドパスフィルタから出力される周波数スペクトルに係る信号に基づいて占有帯域幅を算出する占有帯域幅算出手段と、
から成ることを特徴とする占有帯域幅算出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−345372(P2006−345372A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170832(P2005−170832)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(302047798)テクノロジーシードインキュベーション株式会社 (8)
【Fターム(参考)】