説明

印判

【解決手段】印判は、両側に軸部11を設け、表面に印字体2を有したロール体1と、前記軸部11を支持枠体3の軸受け部31に回転可能に軸支させた印判であって、前記軸受け部31に、復帰バネ5を介してスライダー4を摺動自在かつ回り止め状態に配設し、前記軸部11の周縁に斜板カム12を設け、前記スライダー4のうち、前記復帰バネ5が当接する面とは反対の位置に、前記斜板カム12と摺接する摺接部43を設けた。また、前記斜板カム12の頂部12aを凸状に下部12bを凹状に形成した。
【効果】ロール体を印字面の始点以外の場所で止めた場合でも、印字面を被捺印面から離すと、自動的に印字面の始点の位置に復帰させること(自動的に印字面の頭出し)ができる。さらに、自動的に印字面の始点の位置に復帰させることに加え、ロール体の回転回数にも制限がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動で頭出しをなし得る構成を具備する新規なロール式の印判に関する。
本発明において、「上方」、「上端」とは支持枠体側を指し、「下方」、「下端」とは印字面側を指す。
【背景技術】
【0002】
浸透印式ロール体を回転可能に軸支して、転写面上を転動することにより、ロール体表面の文字,図形,数字,記号等の図柄を転写するロール式の印判は既に開発されて知られている。
従前公知のロール式の印判の中には、印面の頭出しの位置(印面の始点)を定めるために、ロール体と支持枠体との間に係脱機構を有するものや(特許文献1)、ロール体を印字開始位置に付勢する付勢手段として渦巻きばねを用いたものが知られている(特許文献2)。
【特許文献1】実用新案登録第2525132号公報
【特許文献2】特開平9−323468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1のロール式の印判は、確かに、係合位置に戻るとロール印判の一回転が終わったことを知ることができると同時に、頭出しの位置(印面の始点)で停止するものであるが、この作業は使用者が行うものであって、自動的に印面の始点で停止するものではない。つまり、印面の途中で、捺印を止めた場合、印面はその途中で停止してしまい、印面の始点に自動的に移動することはない。そうすると、次に捺印をする際、印面の途中から捺印が開始されるため、印面の始点から捺印したい使用者は、まず頭出し作業を行って(試し捺印して)から捺印する必要があるため、使用に際して不便さが残っていた。
特許文献2のロール式の印判は、ロール体を印字開始位置に付勢する付勢手段を有するため、確かに自動で頭出しできるものであるが、付勢手段としての渦巻きばねは、ロール体と支持筒との間に保持されているため、ロール体の回転回数に制限がある。特許文献2のロール式の印判は、ロール体の回動範囲が規制されており、現に、1回転分しか捺印できない。そうすると、数回転分捺印したい使用者は、一回毎捺印面から印面を離して、所望の回数捺印をしなければならないため、不便さが残っていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題を解決するために完成された第1の発明の印判は、両側に軸部を設け、表面に印字体を有したロール体と、前記軸部を支持枠体の軸受け部に回転可能に軸支させた印判であって、前記軸受け部に、復帰バネを介してスライダーを摺動自在かつ回り止め状態に配設し、前記軸部の周縁に斜板カムを設け、前記スライダーのうち、前記復帰バネが当接する面とは反対の位置に、前記斜板カムと摺接する摺接部を設けたことを特徴とする。
また、第2の発明は、前記斜板カムの頂部を凸状に下部を凹状に形成したことを特徴とする第1の発明の印判である。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、ロール体を印字面の始点以外の場所で止めた場合でも、印字面を被捺印面から離すと、自動的に印字面の始点の位置に復帰させること(自動的に印字面の頭出し)ができる。さらに、自動的に印字面の始点の位置に復帰させることに加え、ロール体の回転回数にも制限がない。
また、斜板カムの下部を凹状に形成したため、印字面の始点の位置を明確にすることができる。また、斜板カムの頂部を凸状に形成したため、摺接部がより素早く円滑に斜板カム上を摺動することができ、印字面の始点の位置への復帰が迅速に行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の第1の実施形態を、図1〜図6に基づいて詳細に説明する。
ロール体1は、表面に印字体2を有する略円筒体で、内周面に設けた梁体14を介して軸部11を設ける。軸部11は、前記円筒体の中心軸上にあり、前記梁体14の両面から突設させる。これにより、軸部11は、ロール体1の両側に設けられることになる。
【0007】
印字体2としては、原料ゴム、加硫剤、充填剤、軟化剤、着色剤、老化防止剤、その他の添加剤などから構成されるゴム印や、インキを吸蔵できる様にスポンジゴム等の無数の連続気孔を有した多孔性印材を用いることができる。印字体2の表面には、印字面21を設ける。印字面21を作製するには、ゴムを加硫する際に、印面を彫刻した金型で加圧・加熱して作製する方法や、シート状に成形したゴムシートを、彫刻機やレーザ加工機などで彫刻して作製する方法を用いることができる。
また、印字体2は、連続気泡を有する熱可塑性樹脂多孔質体である印材に、赤外線を吸収して発熱する物質により文字・図形等を描出した原稿を当接させ、前記原稿側から赤外線を照射することによって作製した印面や、熱可塑性樹脂の多孔質印材に発熱材微粉末を混在させ、原稿シートを使用し赤外線照射を行い作製した印面を用いることができる。この場合、赤外線による発熱によって、前記多孔質体の孔が溶融して塞がれることで、印字面21を作製することができる。
前記ロール体1には、前記印字体2を固定するものであるが、シート状の印字体2の端面同士を予め貼り合せて筒状にしてからロール体1に嵌め込む方法や、シート状の印字体2をロール体に巻き付けてから端面同士を貼り合わせたり、固定したりする方法が考えられる。
また、印字体2をその印字面21のみが上端開口より露呈した状態に嵌装保持した枠部13を、ロール体1の両周端面に設けてもよい。
【0008】
印字体2には、インキを含浸するものであるが、インキを含浸する時期は、印字体2をロール体1に固定する前でも後でもよいものである。
ただ、ロール体1に固定した後にインキを含浸する方が、インキで他を汚染することが少なく、有用である。
ここで、含浸するインキとしては、水性、油性、染料系、顔料系、を適宜採用することができる。
【0009】
支持枠体3は、左右一対で構成され、前記ロール体1を左右から挟持した状態で、互いに嵌着する。支持枠体3には、各々の内面に軸受け部31を内方に向かって突設し、この軸受け部31に前記軸部11を軸受けすることで、前記ロール体1は、前記支持枠体に対して回転可能に軸支される。
支持枠体3の下端面からは、印字面21が露呈される。図示しないが、支持枠体3の下端面に印字面21を保護するために、キャップ体を被嵌してもよい。
【0010】
前記軸受け部31のどちらか一方にスライダー4を摺動自在に配設する。スライダー4は略筒体で、内周面には、軸線に平行に切り溝41を設け、外周面には、全周にわたってフランジ42を設ける。前記軸受け部31の外周面には、前記切り溝41に摺接する突片32を突設する。前記切り溝41と前記突片32により、スライダー4は軸受け部31に対して、摺動自在かつ回り止め状態に配設される。
ここで、実施例では、切り溝をスライダー4に、突片を軸受け部31に設けたが、スライダーが軸受け部に対して摺動自在かつ回り止め状態に配設されればよいため、その関係は逆でもよい。
【0011】
スライダー4のフランジ42と支持枠体3の間に復帰バネ5を介在させる。復帰バネ5により、スライダー4は、常にロール体1の方向に付勢される。
【0012】
前記復帰バネ5が当接するフランジ42の面と反対側の位置に、摺接部43を設ける。摺接部43は、口ばし状に突設した形状で、その先端を、斜板カム12に当接させる。摺接部43の形状は、先端が尖っていればよいため、特に前記のような口ばし状に限定されるものではなく、棒状のものも採用可能である。
また、図示しないが、摺接部43の先端を回転体にしてもよい。回転体としては、球体や円筒体を回転可能に配設することができる。摺接部43の先端を回転体にすると、斜板カム12との摩擦が低減し、摺接部43が斜板カム12上を摺接し易くなる。
【0013】
前記斜板カム12は、軸部11の付け根から、ロール体1の中心軸に対して傾けて設けた傾斜面である。傾斜面は、円板を傾けた状態とし、側面からみると、頂部12aと下部12bとを有する。
スライダー4は、常にロール体1の方向に付勢されているため、何ら外圧がない状態では、前記摺接部43は、斜板カム12のうち、下部12bに当接することになる。
【0014】
本発明の第1の実施形態は以上のような構成であり、次にその作用を図6に基づいて詳細に説明する。
図6Aは、何ら外圧がかかっていない状態のロール式の印判の状態であり、図6Bは、ロール体を途中で止めた状態を示すものである。図6Aの状態で、印字面21を紙等の被捺印面へ押圧して転動すると、ロール体1は、軸部11を中心に回転し、印字面21が被捺印面に押圧され転写される。
ロール体1が回転するとき、ロール体1と同様に回転する斜板カム12に当接する前記摺接部43は、斜板カム12上を摺動する。ロール体1を回転させると、摺接部43は、斜板カムの下部12bを始点として摺動を開始し、180°進むと頂部12aに到達し、さらに回転を進めると、360°進んだところで、下部12bの始点に戻る。これで、ロール体1は1回転する。ロール体1を多数回回転させる場合は、この作業を繰り返せばよい。この際、摺接部43を有するスライダー4は、前記復帰バネの付勢力に抗いながら、支持枠体3に向かって直線的に摺動し、傾斜カムを有するロール体1は回転する。また、本スタンプは、ロール式の印判であるため、当然、印字面の始点22は、同時に印字面の終点でもある。
摺接部43が斜板カムの下部12bに位置するとき、被捺印面に押圧される印字面21は、印字面の始点22となるように設計する。印字面の始点22とは、例えば印字面が「取扱注意」等の鏡像文字の場合、「取」の鏡像文字の右端がその始点となる。
こうすると、何ら外圧がかかっていない状態のとき、図6Aに示す通り、摺接部43が斜板カムの下部12bに位置し、被捺印面に押圧される印字面21は、印字面の始点22に位置することになる。
【0015】
さてここで、例えば、ロール体1を印字面の始点22以外の場所(図6B)で止めたとする。このような状況は、通常使用する際に、当然生じることであり、例えば、被捺印面が思ったより狭かった場合等が考えられる。
このような場合に、印字面21の被捺印面への押圧を解くと、印字面は、印字面の始点22に自動的に復帰する。
図6Bの位置は、前記摺接部43が、斜板カムの下部12b以外の位置で当接している状態を示している。この位置で、被捺印面への押圧を解くと、摺接部43は、復帰バネの付勢力によって斜板カムの方向に常時付勢されているため、摺接部43は、斜板カムの傾斜面に沿って、斜板カムの下部12bまで摺動する。そして、印字面は、印字面の始点22に復帰することになる。
この作用は、直線往復運動を回転運動に変換するカムの原理を応用したものである。ロール体1が、被捺印面へ押圧されながら回転運動するときは、前記スライダー4が直線往復運動を繰り返す。そして、一度押圧が解除されると、復帰バネ5の付勢力により、スライダー4は直線往復運動の起点(斜板カムの下部12b)に自動的に移動し、その際、この起点への直線運動が、摺接部43から斜板カムを介して、ロール体1への回転運動に変換される。
【0016】
次に、本発明の第2の実施形態を、図7、図8に基づいて詳細に説明する。ここでは、前記した実施形態と異なる点のみを説明する。
前記斜板カム12の頂部12aを凸状に下部12bを凹状に形成する。
このように構成した、第2の実施例の場合、印字面の始点22への復帰がより容易に行われる。
まず、下部12bを凹状に形成すると、その位置が明確になり、摺接部43が下部12bに収まり易くなるため、当然に印字面の始点22の位置もより正確になる。
また、頂部12aを凸状に形成すると、頂部12a近辺で、摺接部43が止まった状態で被捺印面への押圧が解除された場合、より素早く円滑に、摺接部43が斜板カム上を摺動し、下部12bまで復帰する。
【0017】
以上、本発明を前記実施形態により説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す正面図
【図2】本発明の第1の実施形態を分解した状態を右前方から見た斜視図
【図3】本発明の第1の実施形態を分解した状態を左後方から見た斜視図
【図4】図1のA−A断面図
【図5】図1のB−B断面図
【図6】本発明の自動復帰を説明する図
【図7】本発明の第2の実施形態を示す断面図
【図8】本発明の第2の実施形態のロール体を示す斜視図
【符号の説明】
【0019】
1 ロール体
11 軸部
12 斜板カム
12a頂部
12b下部
13 枠部
14 梁体
2 印字体
21 印字面
22 印字面の始点
3 支持枠体
31 軸受け部
32 突片
4 スライダー
41 切り溝
42 フランジ
43 摺接部
5 復帰バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側に軸部を設け、表面に印字体を有したロール体と、
前記軸部を支持枠体の軸受け部に回転可能に軸支させた印判であって、
前記軸受け部に、復帰バネを介してスライダーを摺動自在かつ回り止め状態に配設し、
前記軸部の周縁に斜板カムを設け、
前記スライダーのうち、前記復帰バネが当接する面とは反対の位置に、前記斜板カムと摺接する摺接部を設けたことを特徴とする印判。
【請求項2】
前記斜板カムの頂部を凸状に下部を凹状に形成したことを特徴とする請求項1に記載の印判。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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