説明

印刷によるIDドキュメントおよびそのようなドキュメントを印刷するためのプロセス

本発明は、IDドキュメントの個人化グラフィクスに関する。IDドキュメントは、主表面の少なくとも一方がアートワーク(14A、14B)および/または個人化情報(24A/24B)が印刷される印刷面を形成しており、上記印刷面が、強化型保護フィルム(31A、31B)で覆われる本体を備える。さらにIDドキュメントが、インクリボンにて印刷面へと転写された保護用重ね層(25A、25B)を備えており、この保護用重ね層が、上記印刷面へと転写されたインクへの上記強化型保護フィルム(31A、31B)の付着を可能にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IDドキュメント(identification documents)の個人化グラフィックス(personalisation graphics)に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、IDドキュメントの印刷の分野に包含され、特にはそのようなドキュメントの表面に印刷されたID情報のセキュリティの向上を目的とする。
【0003】
さらに詳しくは、本発明は、例えばIDカード、アクセス許可カード、運転免許証、ヘルスカード、クレジットカード、パスポート、など、セキュリティの用途に結びつけられたIDドキュメントに用途を見いだすことができる。これらのドキュメントは、どのような使用に合わせて設計されるかに応じ、接触その他を必要とするICモジュールを備えても、備えなくてもよい。個人化情報として、写真、名前、誕生日、社会保障番号、生体情報(例えば、指紋など)などといったカードの所有者の個人データや、有効期限、当該ドキュメントに割り当てられた識別番号、などが挙げられる。
【0004】
個人化情報は、通常は、製造者、その顧客、または他の者によって、背景の上へと印刷される。個人化グラフィックスの導入は、カードまたはIDドキュメントのそれぞれの所有者についての個人情報を印刷することからなる段階が、そのようなカードの製造プロセスの最終段階であるため、ポスト個人化(post−personalisation)とも称される。ポスト個人化グラフィックスの導入は、通常は、頭文字D2T2(染料拡散熱転写(Dye Diffusion Thermal Transfer))によってより広く知られている直接熱転写または熱昇華によって達成される。これら2つの印刷技法は、パネルへと分割された感熱性のインクリボンを使用する。印刷時、パネルが印刷対象のドキュメントの全体を通過し、したがって、インクパネルを1回しか使用することができない。カラー印刷のために、4色のリボンが通常は使用される。
【0005】
例えば、YMCK−K方式の周知のリボンを使用することができる。ここで、YMCKは、印刷対象のドキュメントの片面のイエロー、マゼンタ、シアン、および黒のパネルをそれぞれ指し、最後のKは、印刷対象のドキュメントの第2の面の黒パネルを指す。当該ドキュメントがカードである場合、両面の印刷を可能にするリボンを使用することが、実に好都合である。当然ながら、片面のみの印刷のためのリボンも存在する。
【0006】
また、YMCKT−KT方式(YMCKO−KOとも呼ばれる)のリボンも存在しており、ここでTおよびOは、厚さ2μmの保護用重ね層であるトップコートを表わしている。保護用重ね層は、熱転写によって、カードが印刷されるときに適用される。
【0007】
多層プラスチックカードの分野において、保護用重ね層を備えるYMCKT−KTまたはYMCKO−KO方式のリボンは、短い寿命(典型的には、1年または2年)の用途に向けて設計されたカードを印刷するために使用される。保護用重ね層が、機械的または物理−化学的な種類の環境攻撃のために、時間とともに痛んでくる。
【0008】
IDカード、ヘルスカード、または運転免許証など、より長い寿命の用途を目的とするカードのポスト個人化は、YMCK−K方式のリボンの使用、および印刷済みの全表面を覆うラミネーションパッチ(lamination patch)の適用を必要とする。このラミネーションパッチは、強化型保護フィルムとも呼ばれるが、10〜25μmの厚さであり、通常はPET(ポリエチレンテレフタレート)で製作され、接着剤が塗布されている。強化型保護フィルムは、数年にわたって外部からの攻撃に耐えるために充分に丈夫である。
【0009】
両面に印刷が施された従来のカード本体の断面図が、図1に示されている。そのようなカード本体は、通常は、複数の層を互いに積層して製作できるプラスチック製の芯10を備えている。芯を製作するために使用されるプラスチックは、例えばポリ塩化ビニル(PVC)またはポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリカーボネート(PC)であってもよい。また、芯を、PET/PVCなど、複数の異なる種類のプラスチックで製作してもよい。カードが、少なくとも非接触の用途における使用に合わせて設計される場合、芯が、少なくともICモジュールおよび/または非接触モジュールなどの電子部品、および/またはアンテナまたは他の部品を備えることができる。次いで、芯10の主表面11、12の少なくとも一方に対し、背景14A、14B(より一般的には、アートワークとして知られる)を適用すべく印刷が行われる。アートワークは、通常はオフセット印刷またはスクリーン印刷の助けを借りて得られる。次いで、このように印刷された芯10の両方の主面が、保護用のプラスチックコート21、22(より一般的には、重ね層として知られる)で覆われる。これらの重ね層は、通常は、PVCまたはPETまたはPCで作られる。重ね層21、22が、印刷済みのカードの本体へと積層される。次いで、個人化情報24A、24Bが、すでに印刷済みのアートワーク14A、14Bの上方の少なくとも一方の重ね層21、22の表面へと印刷される。ポスト個人化は、YMCK−K方式のリボンを使用する熱転写プロセスによって実行される。次いで、表面に接着剤が塗布されてなる強化型保護フィルム31A、31Bが、ポスト個人化の上へと配置される。この強化型保護フィルムは、通常は、ポリエチレンテレフタレートで製作され、約10〜25μmの厚さである。
【0010】
しかしながら、重ね層21、22の厚さによって、アートワーク14A、14Bと個人化情報24A、24Bとの間に約50〜100μmの隔たりが生じている。結果として、アートワークに達するまでに大きな余裕(通常は、50〜100μm)が存在するため、詐欺師らが、カード上のアートワークを傷めることなく容易にポスト個人化のデータを取り除くことができる。ポスト個人化のデータを、研磨によって取り除くことができ、または例えばアルコールなどの溶媒によって取り除くことができる。
【0011】
このようにして、ポスト個人化の情報が取り除かれると、偽造者が、カード本体を再使用し、別の個人化情報を印刷することができる。また、カードのアートワークをスキャンし、完全に偽造されたカードを複製することができる。
【0012】
この詐欺の問題を解決するために、図2に示されるような1つの解決策は、アートワークと個人化情報とを少なくとも一方の重ね層21、22の同じ表面に印刷し、次いで強化型保護フィルム31A、31Bで覆うことにある。このやり方で、ポスト個人グラフィックスがアートワークのインクに付着し、アートワークと個人化情報との間に重ね層の層が存在しないため、もはや詐欺師らが、アートワークを傷めることなく個人化情報を取り除くことが不可能となる。
【0013】
残念なことに、このポスト個人化のセキュリティの改善は、そのようなカードの寿命に関して、別の問題を引き起こす。強化型保護フィルムが、もはや重ね層のプラスチック21、22に接触せず、カードの本体の表面11、12に直接接触することもなく、アートワークのインクおよびポスト個人化にのみ接触する。したがって、フィルムの結合が、全くなくならないにせよ、大幅に弱くなる。この問題は、長い寿命を有する必要があるそのようなカードのセキュリティの用途に矛盾する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このようなわけで、本発明の技術的課題は、主表面の少なくとも一方がアートワークおよび/または個人化情報が印刷される印刷面を形成しており、この印刷面が強化型保護フィルムで覆われる本体を備え、長寿命であり、かつ印刷が詐欺に対して安全であるIDドキュメントを得るために、強化型保護フィルムを印刷面に印刷されたインクに効果的に結合させることができるIDドキュメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この技術的課題が、本発明によれば、IDドキュメントがインクリボンによって印刷面へと転写された保護用重ね層をさらに含んでおり、この保護用重ね層によって印刷面のインクの上方に強化型保護フィルムを固定することができるということによって、解決される。
【0016】
このように、全く驚くべきこととして、通常は短寿命のカードの印刷に使用されるインクリボンの保護用重ね層が、強化型保護フィルムが印刷面へと適用されたインクの上方に確実に付着するように保証する接着剤としても機能できることが、明らかになった。結果として、これまでは短寿命の媒体の印刷に使用されていたインクリボンの重ね層を、今や長寿命の媒体への安全な印刷のためにも使用することができる。
【0017】
さらに本発明は、主表面の少なくとも一方がアートワークおよび/または個人化情報が印刷される印刷面を形成する本体を備えるIDドキュメントの印刷プロセスも包含する。このプロセスは、少なくとも1つの印刷段階が保護用重ね層を有するインクリボンを使用して熱転写によって実行されること、さらに強化型保護フィルムを上記印刷面へと、印刷面へと転写されたインクへの上記強化型保護フィルムの付着がインクリボンの保護用重ね層によって可能にされるように追加することから、特筆すべきである。
【0018】
本発明の他の目的は、熱転写インクリボンの保護用重ね層を、印刷面へと転写されたインクリボンからのインクとこの印刷面へと適用される強化型保護フィルムとの間の接着手段を形成するために使用することにある。
【0019】
このようなやり方で、インクリボンの保護用重ね層の第1の用途が、インクに外部の攻撃からの保護を提供することにある一方で、全く驚くべき第2の用途が発見された。この第2の用途によれば、保護用重ね層が、強化型保護フィルムを印刷面へと適用されたインクへと固定するための接着手段として使用される。
【0020】
本発明の他の詳細および利点は、添付の図面を参照して説明のための、本発明を限定するものではない例として提示される以下の説明において、さらに明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】両面に印刷が施された従来技術によるカードを構成する各層の断面図である。
【図2】両面に印刷が施された従来技術の別の実施形態による別のカードを構成する各層の断面図である。
【図3】両面に印刷が施された本発明によるカードの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図3が、両面に印刷が施された、ICモジュールを備えていても備えていなくてもよい、IDカード形式のカードの図である。カードは、種々の公知のプロセス(成型または複数の層の積層など)によって得られる本体10と、本体10の主表面11、12へと積層された2つの保護用重ね層21、22とを備えている。本体を、PVC、PET、PC、ABS、などといった種々の材料で製作することができる。重ね層は、通常は透明であって、PVC、PET、またはPCで製作される。重ね層は、50〜100μmの厚さであり、その役割は、カード本体の表面に外部の環境攻撃に対する保護を提供することにある。
【0023】
次いで、アートワーク14A、14Bが、少なくとも一方の重ね層21、22の表面に印刷される。このアートワークは、例えばオフセット印刷またはスクリーン印刷など、従来の印刷プロセスで印刷される。
【0024】
次いで、個人化情報24A、24Bを印刷することからなるポスト個人化が、アートワーク上へと直接実行され、またはアートワークが片面にのみ印刷され、ポスト個人化が両面に実行される場合には、重ね層の表面へと直接実行される。ポスト個人化は、インクリボンでの直接の熱転写または昇華によって達成される。両面への印刷のために、例えば多色多パネルインクリボンを使用することができる。このやり方で、YMCKO−KOとも称されるYMCKT−KTリボンを、片面を(例えばカラー写真を転写し、例えば所有者についての情報を黒インクで転写することによって)4色で印刷し、第2の面を(例えば通し番号またはバーコードを黒色で転写することによって)単色印刷で印刷するために使用することができる。
【0025】
どのプロセスであっても、リボンは、トップコートとも称され、文字TまたはOによって指し示される保護用重ね層25A、25Bを備えていなければならない。この保護用重ね層が、常用の使用においてインクを引っ掻きなどの機械的攻撃から保護するように意図された透明な仕上げコートを構成する。重ね層は、約2μmの厚さである。
【0026】
重ね層25A、25Bの存在は、実際のところ、その後の印刷済みの表面のインクへの強化型保護フィルム31A、31Bの付着のために、欠くことができない。驚くべきことに、保護用重ね層を、強化型保護フィルムをインク上に固定するための接着手段としても使用できることが、明らかになった。強化型保護フィルム31A、31Bは、10〜25μmの厚さであり、印刷済み表面の外部の環境攻撃からの保護の向上を提供し、長寿命のカードの作成を可能にする。強化型保護フィルム31A、31Bは、通常は低温ラミネーションプロセスによって転写される。
【0027】
このように、全く予想外なことであるが、従来は寿命の短い製造品の印刷に使用されていたインクリボンを、保護用重ね層がインク上に強化型保護フィルムを固定するための接着手段として使用される場合に、寿命の長い製造品を印刷するために使用できることが、明らかになった。
【0028】
このように、インクリボンの保護用重ね層が、インクへの強化型保護フィルムの接合の向上という利益を提供すると同時に、印刷のセキュリティを向上させる。
【0029】
強化型保護フィルムが、両面において異なる厚さを有してもよいことも、本発明の文脈に包含される。強化型保護フィルムは、完全に透明であっても、ホログラムなどのセキュリティの特徴や組みひも飾りの模様などを有してもよい。
【0030】
本発明は、例えばカード、バッジ、パスポート、または査証などといったあらゆるドキュメントに、製造プロセスにかかわらず適用される。したがって、本発明は、シートにて製造され、または1枚ごとのやり方で製造される積層カードならびに成型カードに適用される。
【0031】
ポスト個人化および強化型保護フィルムの付着は、同じプリンタで同時に実行することができ、または2つの連続する段階にて行うことができる。
【0032】
さらに、強化型保護フィルムは、カードが面接触モジュールを備える場合に、モジュールの接続要素の外周を囲むように開口を備えることができる。
【0033】
さらに、アートワークを、ポスト個人化の段階を妨げることがない保護用ワニスでコートしてもよい。そのようなワニスを、熱転写による印刷時にアートワークからインクリボンへのインクの移動を防止するバリアを形成するために使用することができる。ワニスは上質であり、後のポスト個人化のインクの密な結合を可能にするように選択される。例えば、ワニスは、ポリウレタン、ポリアミド、またはポリエステルなどで製作される種々の接触面による結合を可能にする化学的特性を有している感熱ワニスから選択されるワニスであってもよい。
【0034】
最後に、インクリボンの保護用重ね層は、必ずしもカードの印刷面の全体へと転写する必要はない。なぜならば、保護用重ね層を、インクへの強化型保護フィルムの効果的な固定を可能にするように巧妙に選択されるいくつかの領域にのみ転写すればよいからである。例えば、インクリボンの保護用重ね層を、個人化情報によって覆われる領域を除いて、印刷面の全領域へと転写することができる。この方法の1つの利点は、色パネルが2つに分割されるため、製造コストの低減にあると考えられる。リボンが、標準的なサイズの半分の長さのイエロー、マゼンタ、およびシアンの各パネルにて供給される一方で、黒パネルのサイズは不変のままである。この実施形態の態様においては、保護用重ね層のパネルのサイズもまた、標準的なサイズの半分の長さである。その場合、プリンタは、パネルの半分のみを印刷するように設定される。
【0035】
片面にポスト個人化が存在しない場合、強化型保護フィルムを、依然としてアートワークへと固定することができる。その場合、インクリボンの保護用重ね層だけが、強化型保護フィルムによって覆われる前に印刷済みの表面へと転写される。
【0036】
上述した実施形態は、印刷面がカードの本体の主表面11、12に積層された保護用重ね層21、22で構成されるカードに関係している。しかしながら、本発明は、そのような保護用重ね層を有しておらず、印刷面がカードの本体の主表面11、12によって直接構成されるカードにも当てはまる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主表面の少なくとも一方が、アートワーク(14A、14B)および/または個人化情報(24A、24B)が印刷される印刷面を形成し、前記印刷面が強化型保護フィルム(31A、31B)で覆われる本体を備えるIDドキュメントであって、
インクリボンによって印刷面へと転写される保護用重ね層(25A、25B)をさらに備えており、前記保護用重ね層(25A、25B)が、前記印刷面へと転写されたインクへの前記強化型保護フィルム(31A、31B)の付着を可能にできることを特徴とする、IDドキュメント。
【請求項2】
保護用重ね層(25A、25B)が、印刷面の少なくとも一部分を覆うことを特徴とする、請求項1に記載のIDドキュメント。
【請求項3】
アートワーク(14A、14B)と個人化情報(24A、24B)との間の保護用ワニスをさらに備えていることを特徴とする、請求項1または2に記載のIDドキュメント。
【請求項4】
主表面の少なくとも一方がアートワーク(14A、14B)および/または個人化情報(24A、24B)が印刷される印刷面を形成する本体を備えるIDドキュメントを印刷するためのプロセスであって、
少なくとも1つの印刷ステップが、保護用重ね層(25A、25B)を含むインクリボンを使用して熱転写によって達成され、
さらに、強化型保護フィルム(31A、31B)を前記印刷面へと、前記印刷面へと転写されたインクへの前記強化型保護フィルム(31A、31B)の付着がインクリボンの保護用重ね層(25A、25B)によって可能になるように追加することからなることを特徴とする、プロセス。
【請求項5】
印刷面へと転写されたインクリボンのインクと前記印刷面を覆う強化型保護フィルム(31A、31B)との間の接着手段を形成するための熱転写インクリボンの保護用重ね層(25A、25B)の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−519070(P2010−519070A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−549860(P2009−549860)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【国際出願番号】PCT/IB2008/000231
【国際公開番号】WO2008/102222
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(508361405)
【Fターム(参考)】